(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025030921
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】熱コンダクタンス計測方法及び熱コンダクタンス計測システム
(51)【国際特許分類】
G01N 25/18 20060101AFI20250228BHJP
【FI】
G01N25/18 E
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023136623
(22)【出願日】2023-08-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム 実用化開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】523323723
【氏名又は名称】株式会社アルテックス
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(71)【出願人】
【識別番号】515336009
【氏名又は名称】学校法人加計学園 岡山理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 康治
(72)【発明者】
【氏名】飯田 努
(72)【発明者】
【氏名】黒川 裕之
(72)【発明者】
【氏名】麻原 寛之
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AA09
2G040AB09
2G040BA14
2G040BA25
2G040CA01
2G040DA03
2G040DA14
2G040DA15
2G040EA08
2G040EB01
2G040EC04
2G040HA16
2G040ZA08
(57)【要約】
【課題】熱源の熱コンダクタンスを把握し、未利用の熱エネルギーの有効利用に貢献する。
【解決手段】一端に冷却源を有する熱伝導路の他端を計測対象の熱源に接続し(S10)、変動する加熱エネルギーを与えることで発熱量が変動するように制御可能な発熱体を熱伝導路中に設置し、熱伝導路中の温度を計測して、発熱体による発熱の影響を受けているときの第1温度と受けていないときの第2温度とを取得し(S30、S50)、第1温度と第2温度との差分(S60)と、第1温度を計測したときの加熱エネルギーとに基づいて、熱源の熱コンダクタンスを算出する(S80)。これにより、熱源の比熱や質量などを把握する必要なく、熱源の熱コンダクタンスを算出することができるため、熱源が有する未利用の熱エネルギーの有効利用に貢献することが可能となる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源の熱コンダクタンスを計測する方法であって、
一端に冷却源を有する熱伝導路の他端を前記熱源に接続し、
変動する加熱エネルギーを与えることで発熱量が変動するように制御可能な発熱体を前記熱伝導路中に設置し、
前記熱伝導路中の温度を計測して、前記発熱体による発熱の影響を受けているときの第1温度と受けていないときの第2温度とを取得し、
前記第1温度と前記第2温度との差分と、前記第1温度を計測したときの前記加熱エネルギーとに基づいて、前記熱源の熱コンダクタンスを算出することを特徴とする熱コンダクタンス計測方法。
【請求項2】
前記発熱体としてペルチェ素子を利用し、
前記加熱エネルギーとして、前記熱源からの熱流の変動周波数と異なる所定周波数の交流電力を与え、
前記第1温度と前記第2温度との差分の算出結果から、前記所定周波数の周波数成分のデータを抽出し、該抽出結果に基づいて前記熱源の熱コンダクタンスを算出することを特徴とする請求項1記載の熱コンダクタンス計測方法。
【請求項3】
前記熱源の熱コンダクタンスを算出する際に、更に、前記第1温度と前記第2温度との差分と、前記第1温度を計測したときの前記加熱エネルギーとに基づいて、前記熱源から前記熱伝導路までの総合熱抵抗を算出し、該総合熱抵抗に基づいて前記熱源の内部の熱抵抗を算出することを特徴とする請求項1又は2記載の熱コンダクタンス計測方法。
【請求項4】
熱源の熱コンダクタンスを計測するシステムであって、
発熱量が変動するように制御可能な発熱体が、熱伝導率が既知の材料で形成された2つの熱伝導媒体で挟持された構成を有し、前記2つの熱伝導媒体のうち一方の熱伝導媒体に対して前記熱源から熱が伝導されるように設置される熱伝導変調部と、
前記熱源よりも低い温度を有し、前記2つの熱伝導媒体のうち他方の熱伝導媒体から熱が伝導されるように設置される冷却源と、
前記発熱体に変動する加熱エネルギーを与えることで、前記発熱体の制御を行う発熱体制御部と、
前記2つの熱伝導媒体の双方或いは何れか一方の所定位置に設定された温度計測点の温度を計測する温度計測部と、
算出処理を行う算出処理部と、を含み、
該算出処理部は、
前記温度計測部の計測結果から、前記発熱体による発熱の影響を受けているときの第1温度と受けていないときの第2温度との差分を算出し、
該差分と前記第1温度が計測されたときの前記加熱エネルギーとに基づいて、前記熱源の熱コンダクタンスを算出することを特徴とする熱コンダクタンス計測システム。
【請求項5】
前記発熱体がペルチェ素子であり、
前記発熱体制御部は、前記加熱エネルギーとして、前記熱源からの熱流の変動周波数と異なる所定周波数の交流電力を与え、
前記算出処理部は、前記第1温度と前記第2温度との差分の算出結果から、前記所定周波数の周波数成分のデータを抽出し、該抽出結果に基づいて前記熱源の熱コンダクタンスを算出することを特徴とする請求項4記載の熱コンダクタンス計測システム。
【請求項6】
前記一方の熱伝導媒体は、前記熱源からの熱の伝導方向に沿って間隔を空けて少なくとも3つの前記温度計測点が設定されており、
前記算出処理部は、前記温度計測部により前記少なくとも3つの温度計測点で計測された温度と、前記少なくとも3つの温度計測点間の間隔とを利用して、前記熱源からの熱流が定常状態であるか否かを判定し、定常状態であると判定した場合に前記熱源の熱コンダクタンスを算出することを特徴とする請求項4記載の熱コンダクタンス計測システム。
【請求項7】
前記一方の熱伝導媒体は、少なくとも1つの前記温度計測点が設定されると共に、前記他方の熱伝導媒体は、少なくとも1つの前記温度計測点が設定されており、
前記算出処理部は、前記温度計測部により前記一方の熱伝導媒体の前記温度計測点で計測された温度と、前記他方の熱伝導媒体の前記温度計測点で計測された温度との大小関係から、前記熱伝導変調部を通過する熱量が正常であるか否かを判定し、正常であると判定した場合に前記熱源の熱コンダクタンスを算出することを特徴とする請求項4記載の熱コンダクタンス計測システム。
【請求項8】
前記算出処理部は、前記熱源の熱コンダクタンスを算出する際に、更に、前記第1温度と前記第2温度との差分と、前記第1温度が計測されたときの前記加熱エネルギーとに基づいて、前記熱源から前記熱伝導路までの総合熱抵抗を算出し、該総合熱抵抗に基づいて前記熱源の内部の熱抵抗を算出することを特徴とする請求項4から7のいずれか1項記載の熱コンダクタンス計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱源の熱コンダクタンスを計測する熱コンダクタンス計測方法及び熱コンダクタンス計測システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、熱エネルギーを扱う工業プラント、熱源を用いた各種装置、燃焼装置、内燃機関、焼却炉、温泉水が流れる流路、排気ダクト、煙突、及び蒸気配管などには、排熱として捨てられている熱エネルギーが存在する。このような未利用の熱エネルギーを有効利用する研究は従来から行われている(例えば、特許文献1、2参照)が、大量の熱エネルギーが未だに大気中へと放出され、それが地球温暖化などの一因になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5299324号公報
【特許文献2】特開2014-174027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、熱源からの未利用の熱エネルギーを有効利用するためには、熱交換器などを取り付ける高温側熱源の受熱面積や単位面積当たりの受熱量、冷熱源側の放熱、排熱システムの情報などといった基本情報に基づいて、シミュレーションを行うアプローチが有効である。このようなシミュレーションで最も重要なファクターは、熱交換器などを通して流入する受熱量を予め計測して想定するために必要な、熱源の熱抵抗を表す受熱点での熱コンダクタンスである。しかしながら、未利用の熱エネルギーの有効利用において、熱コンダクタンスが重要であることは見逃されてきた。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、熱源の熱コンダクタンスを把握し、未利用の熱エネルギーの有効利用に貢献することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではない。そのため、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0006】
(1)熱源の熱コンダクタンスを計測する方法であって、一端に冷却源を有する熱伝導路の他端を前記熱源に接続し、変動する加熱エネルギーを与えることで発熱量が変動するように制御可能な発熱体を前記熱伝導路中に設置し、前記熱伝導路中の温度を計測して、前記発熱体による発熱の影響を受けているときの第1温度と受けていないときの第2温度とを取得し、前記第1温度と前記第2温度との差分と、前記第1温度を計測したときの前記加熱エネルギーとに基づいて、前記熱源の熱コンダクタンスを算出する熱コンダクタンス計測方法。
【0007】
本項に記載の熱コンダクタンス計測方法は、排熱されている未利用の熱エネルギーを有する熱源の熱コンダクタンスを計測するものであって、具体的には、一端に冷却源を有する熱伝導路の他端を熱源に接続することで、熱源から冷却源に向かって流れるように熱を分流する。このときに使用する熱伝導路は、熱伝導率などの特性が予め把握されている材料で形成するものとする。また、発熱体を熱伝導路中、すなわち冷却源が設置された熱伝導路の一端と熱源に接続される熱伝導路の他端との間に設置する。設置する発熱体には、変動する加熱エネルギーを与えると、発熱量が変動するように制御可能なものを用いる。ここで、発熱体が予め設置された熱伝導路を、熱源に接続するようにしてもよい。
【0008】
更に、上記のような構成の熱伝導路中の温度を計測して、発熱体による発熱の影響を受けているときの第1温度と、発熱体による発熱の影響を受けていないときの第2温度とを取得する。このとき、第1温度は、発熱量が変動するような制御を発熱体が受けているときに、熱伝導路中の温度を計測したものであればよい。これに対し、第2温度は、状況に応じて、第1温度の計測結果から、発熱体による発熱の影響が排除されるように算出したものであってもよく、発熱体が発熱していないときの熱伝導路中の温度を計測したものであってもよい。続いて、上記のように取得した第1温度と第2温度との差分を算出することで、発熱体の変動する発熱の影響によって変化した温度変化データを抽出する。そして、抽出した温度変化データと、第1温度を計測したときに発熱体に与えた加熱エネルギーとに基づいて、熱源の熱コンダクタンスを算出する。
【0009】
ここで、熱量と温度との関係について言及すると、相変化がなく微小な温度変化域内では、熱量が質量及び比熱を定数として温度に比例する。このため、加熱エネルギーが加わったことで質量及び比熱に変化は無く温度が温度変化データ分だけ上昇したことを考慮すると、「質量と比熱の積」は、「加熱エネルギーを受けない状態の熱量」を「加熱エネルギーを受けない状態の温度(第2温度)」で割った値や、「加熱エネルギーを受けた状態の熱量」を「加熱エネルギーを受けた状態の温度(第1温度)」で割った値で表すことができる。更に、「質量と比熱の積」は、輻射や誤差を生む熱伝導が無視できるほど微小であれば、加熱エネルギーを温度変化データで割った値でも表すことができる。
【0010】
また、熱抵抗は、2点間の温度差を2点間を流れる熱流量(単位時間に流れる熱量)で割った値となることから、上記のような関係において、温度変化データを加熱エネルギーで割った値で表すことができる。そして、この熱抵抗が熱源から熱伝導路までの全ての熱抵抗を含むこと、熱コンダクタンスが熱抵抗の逆数として表現できること、熱伝導路の受熱面積などを考慮すれば、温度変化データ及び加熱エネルギーから単位面積当たりの熱コンダクタンスを算出できることが分かる。これにより、熱源の比熱や質量などを把握する必要なく、発熱体の影響によって変化した温度変化データと、そのときに発熱体に与えた加熱エネルギーとに基づいて、熱源の熱コンダクタンスが算出されるものとなる。このようにして熱コンダクタンスが把握されるため、熱源が有する未利用の熱エネルギーの有効利用に貢献するものとなる。しかも、熱源の比熱や圧力、物性の密度などといった熱源内部の情報が不明な場合や、時間的に圧力や密度が変動する熱源であっても、熱コンダクタンスが把握されるものである。
【0011】
(2)上記(1)項において、前記発熱体としてペルチェ素子を利用し、前記加熱エネルギーとして、前記熱源からの熱流の変動周波数と異なる所定周波数の交流電力を与え、前記第1温度と前記第2温度との差分の算出結果から、前記所定周波数の周波数成分のデータを抽出し、該抽出結果に基づいて前記熱源の熱コンダクタンスを算出する熱コンダクタンス計測方法。
本項に記載の熱コンダクタンス計測方法は、熱伝導路中に設置する発熱体としてペルチェ素子を利用するものである。また、ペルチェ素子に与える加熱エネルギーとして、所定周波数の交流電力を与えることで、ペルチェ素子からの発熱量を交流的に変動させる。このときの交流電力の所定周波数には、熱源から熱伝導路へ流れる熱流が有している変動周波数とは異なる周波数を設定する。
【0012】
そして、発熱体による発熱の影響を受けているときの第1温度と、発熱体による発熱の影響を受けていないときの第2温度との差分を算出したら、その算出結果から、上述した所定周波数の周波数成分のデータを抽出する。このようにして抽出した温度の差分データと、ペルチェ素子に与えた交流電力とに基づいて、熱源の熱コンダクタンスを算出する。すなわち、ペルチェ素子に熱源からの熱流の変動周波数と異なる周波数の変調電力を与え、その変調周波数の周波数成分のデータを抽出して利用することで、熱流の変動成分などを排除して熱コンダクタンスを算出するものである。これにより、熱コンダクタンスがより精度よく算出されるものとなる。
【0013】
(3)上記(1)又は(2)項において、前記熱源の熱コンダクタンスを算出する際に、更に、前記第1温度と前記第2温度との差分と、前記第1温度を計測したときの前記加熱エネルギーとに基づいて、前記熱源から前記熱伝導路までの総合熱抵抗を算出し、該総合熱抵抗に基づいて前記熱源の内部の熱抵抗を算出する熱コンダクタンス計測方法。
本項に記載の熱コンダクタンス計測方法は、熱源の熱コンダクタンスに加えて、更に熱源の内部の熱抵抗を計測するものである。上記(1)項で言及したように、温度変化データ(第1温度と第2温度との差分)と、加熱エネルギー(第1温度を計測したときの加熱エネルギー)とから求められる熱抵抗は、熱源から熱伝導路までの全ての熱抵抗を含む総合熱抵抗である。すなわち、この総合熱抵抗には、比熱や圧力、物性の密度などといった情報が不明な熱源内部の熱抵抗と、熱伝導率などの特性が既知の材料で形成された熱伝導路の受熱部分の熱抵抗と、同じく熱伝導路の熱伝導部分の熱抵抗とが含まれている。このため、熱源の内部の熱抵抗は、上記のような総合熱抵抗と、熱伝導率などが既知の材料で形成されていることで把握される熱伝導路の熱抵抗とに基づいて算出されるものである。これにより、熱源の内部の情報が不明であっても、算出される総合熱抵抗及び既知の熱抵抗情報から、熱源の内部の情報として熱抵抗が把握されるものである。
【0014】
(4)熱源の熱コンダクタンスを計測するシステムであって、発熱量が変動するように制御可能な発熱体が、熱伝導率が既知の材料で形成された2つの熱伝導媒体で挟持された構成を有し、前記2つの熱伝導媒体のうち一方の熱伝導媒体に対して前記熱源から熱が伝導されるように設置される熱伝導変調部と、前記熱源よりも低い温度を有し、前記2つの熱伝導媒体のうち他方の熱伝導媒体から熱が伝導されるように設置される冷却源と、前記発熱体に変動する加熱エネルギーを与えることで、前記発熱体の制御を行う発熱体制御部と、前記2つの熱伝導媒体の双方或いは何れか一方の所定位置に設定された温度計測点の温度を計測する温度計測部と、算出処理を行う算出処理部と、を含み、該算出処理部は、前記温度計測部の計測結果から、前記発熱体による発熱の影響を受けているときの第1温度と受けていないときの第2温度との差分を算出し、該差分と前記第1温度が計測されたときの前記加熱エネルギーとに基づいて、前記熱源の熱コンダクタンスを算出する熱コンダクタンス計測システム。
【0015】
本項に記載の熱コンダクタンス計測システムは、未利用の熱エネルギーを有する熱源から採取可能な、単位面積当たりの受熱面での熱コンダクタンスを計測するものであり、熱伝導変調部、冷却源、発熱体制御部、温度計測部、及び算出処理部を含んでいる。熱伝導変調部は、発熱体が2つの熱伝導媒体によって挟持された構成を有しており、発熱体はその発熱量が変動するように制御可能なもので、2つの熱伝導媒体は熱伝導率が既知の材料で形成されている。このような構成の熱伝導変調部は、2つの熱伝導媒体のうちの一方の熱伝導媒体に対して、計測対象の熱源から熱が伝導されるように設置される。冷却源は、計測対象の熱源よりも低い温度を有しており、2つの熱伝導媒体のうちの他方の熱伝導媒体から熱が伝導されるように設置される。すなわち、熱伝導変調部及び冷却源は、熱源から冷却源へ向かって熱が流れるように、熱源から熱を分流させる熱伝導路の一部として設置される。
【0016】
発熱体制御部は、熱伝導変調部が有する発熱体を制御するものであって、発熱体に変動する加熱エネルギーを与えることで、発熱体からの発熱量が変動するように発熱体を制御する。温度計測部は、温度計測点の温度を計測するものであって、その温度計測点は、熱伝導変調部が有する2つの熱伝導媒体の双方或いは何れか一方の所定位置に設定されている。算出処理部は、本システムにおける様々な算出処理を行うものであって、その一部として以下のような演算を行う。すなわち、算出処理部は、温度計測部による温度計測点の計測結果から、発熱体による発熱の影響を受けているときの第1温度と、発熱体による発熱の影響を受けていないときの第2温度とを、上記(1)項に記載したようにして取得する。そして、それらの差分を算出することで、発熱体の変動する発熱の影響によって変化した温度変化データを抽出する。
【0017】
更に、算出処理部は、抽出した温度変化データと、温度計測部により第1温度を計測したときに、発熱体制御部から発熱体に与えた加熱エネルギーとに基づいて、上記(1)項に記載したようにして計測対象の熱源の熱コンダクタンスを算出する。これにより、熱源の比熱や質量などを把握する必要なく、熱源から採取可能な受熱面での熱コンダクタンスが算出されるものである。しかも、熱伝導変調部や冷却源を含む熱伝導路を介して計測対象の熱源から熱を分流させ、熱伝導路中の熱伝導変調部において温度を計測する構造であるため、腐食性ガスや媒体密度変動を伴う気体・液体混合物などが流れる熱源をはじめとして、様々な環境の熱源の計測に対応するものである。更に、腐食などの耐久性を考慮する必要はなく、耐久性や信頼性が大幅に向上されるものとなる。
【0018】
(5)上記(4)項において、前記発熱体がペルチェ素子であり、前記発熱体制御部は、前記加熱エネルギーとして、前記熱源からの熱流の変動周波数と異なる所定周波数の交流電力を与え、前記算出処理部は、前記第1温度と前記第2温度との差分の算出結果から、前記所定周波数の周波数成分のデータを抽出し、該抽出結果に基づいて前記熱源の熱コンダクタンスを算出する熱コンダクタンス計測システム。
本項に記載の熱コンダクタンス計測システムは、熱伝導変調部が有する発熱体がペルチェ素子であり、このペルチェ素子に発熱体制御部から与える加熱エネルギーが、所定周波数の交流電力になっていることで、ペルチェ素子からの発熱量が交流的に変動される。このときの交流電力の所定周波数には、熱源から熱伝導変調部などに流れる熱流が有している変動周波数とは異なる周波数が設定されている。
【0019】
そして、算出処理部は、発熱体による発熱の影響を受けているときの第1温度と、発熱体による発熱の影響を受けていないときの第2温度との差分を算出したら、その算出結果から、上述した所定周波数の周波数成分のデータを抽出する。更に、算出処理部は、このようにして抽出した温度の差分データと、発熱体制御部からペルチェ素子に与えた交流電力とに基づいて、熱源の熱コンダクタンスを算出する。すなわち、上記(2)項でも言及したように、ペルチェ素子に熱源からの熱流の変動周波数と異なる周波数の変調電力を与え、その変調周波数の周波数成分のデータを抽出して利用することで、熱流の変動成分などを排除して熱コンダクタンスを算出するものである。これにより、熱コンダクタンスが、より精度よく算出されるものとなる。
【0020】
(6)上記(4)項において、前記一方の熱伝導媒体は、前記熱源からの熱の伝導方向に沿って間隔を空けて少なくとも3つの前記温度計測点が設定されており、前記算出処理部は、前記温度計測部により前記少なくとも3つの温度計測点で計測された温度と、前記少なくとも3つの温度計測点間の間隔とを利用して、前記熱源からの熱流が定常状態であるか否かを判定し、定常状態であると判定した場合に前記熱源の熱コンダクタンスを算出する熱コンダクタンス計測システム。
本項に記載の熱コンダクタンス計測システムは、熱伝導変調部の2つの熱伝導媒体のうち、熱源側に配置されることとなる一方の熱伝導媒体に、少なくとも3つの温度計測点が設定されている。これら少なくとも3つの温度計測点は、一方の熱伝導媒体において、熱源から流れる熱の伝導方向に沿って間隔を空けて設定されている。
【0021】
そして、算出処理部は、それら少なくとも3つの温度計測点で温度計測部により計測された温度と、それら少なくとも3つの温度計測点間の間隔とを利用して、熱源からの熱流が定常状態であるか否かを判定する。すなわち、何れも一方の熱伝導媒体に設定された少なくとも3つの温度計測点で計測される温度は、熱源からの熱流が過渡状態ではなく定常状態であれば、温度計測点間の間隔に応じて、熱源側の方から線形的に小さくなると考えられる。例えば、温度計測点が3つであってそれらが等間隔で設定されている場合は、熱源からの熱流が定常状態であれば、熱源側の温度計測点と中央の温度計測点との温度の差分と、中央の温度計測点と冷却源側の温度計測点との温度の差分とが、略等しくなると考えられる。このため、算出処理部は、このような関係を利用して、熱源からの熱流が定常状態であるか否かを判定し、定常状態であると判定した場合に熱コンダクタンスを算出する。これにより、熱源からの熱流が過渡状態であるにも関わらず熱コンダクタンスが計測されてしまうことが防止され、熱流が定常状態であるタイミングでのみ熱コンダクタンスが計測されるため、熱コンダクタンスの計測の信頼性が向上するものである。
【0022】
(7)上記(4)項において、前記一方の熱伝導媒体は、少なくとも1つの前記温度計測点が設定されると共に、前記他方の熱伝導媒体は、少なくとも1つの前記温度計測点が設定されており、前記算出処理部は、前記温度計測部により前記一方の熱伝導媒体の前記温度計測点で計測された温度と、前記他方の熱伝導媒体の前記温度計測点で計測された温度との大小関係から、前記熱伝導変調部を通過する熱量が正常であるか否かを判定し、正常であると判定した場合に前記熱源の熱コンダクタンスを算出する熱コンダクタンス計測システム。
本項に記載の熱コンダクタンス計測システムは、熱伝導変調部の2つの熱伝導媒体のうち、熱源側に配置されることとなる一方の熱伝導媒体に少なくとも1つの温度計測点が設定されると共に、冷却源側に配置されることとなる他方の熱伝導媒体に少なくとも1つの温度計測点が設定されている。そして、算出処理部は、温度計測部により一方の熱伝導媒体の温度計測点で計測された温度と、他方の熱伝導媒体の温度計測点で計測された温度との大小関係から、熱伝導変調部を通過する熱量が正常であるか否かを判定する。
【0023】
すなわち、熱伝導変調部を通過する熱量が正常であれば、熱源側の一方の熱伝導媒体の温度計測点で計測される温度の方が、冷却源側の他方の熱伝導媒体の温度計測点で計測される温度よりも大きくなる。これに対し、熱源から流れてくる通過熱量が十分でない場合や、発熱体による影響が過渡である場合などは、熱源側の一方の熱伝導媒体の温度計測点で計測される温度よりも、冷却源側の他方の熱伝導媒体の温度計測点で計測される温度の方が大きくなることが想定される。このような温度の大小関係は、一方の熱伝導媒体や他方の熱伝導媒体の各々に複数の温度計測点が設定される場合における、熱源に近い温度計測点と冷却源に近い温度計測点との間にも適用される。このため、算出処理部は、このような関係を利用して、熱伝導変調部を通過する熱量が正常であるか否かを判定し、正常であると判定した場合に熱コンダクタンスを算出する。これにより、熱伝導変調部を通過する熱量が異常であるにも関わらず熱コンダクタンスが計測されてしまうことが防止され、通過する熱量が正常であるタイミングでのみ熱コンダクタンスが計測されるため、熱コンダクタンスの計測の信頼性が向上するものである。
【0024】
(8)上記(4)から(7)項において、前記算出処理部は、前記熱源の熱コンダクタンスを算出する際に、更に、前記第1温度と前記第2温度との差分と、前記第1温度が計測されたときの前記加熱エネルギーとに基づいて、前記熱源から前記熱伝導路までの総合熱抵抗を算出し、該総合熱抵抗に基づいて前記熱源の内部の熱抵抗を算出する熱コンダクタンス計測システム。
本項に記載の熱コンダクタンス計測システムは、算出処理部により、熱源の熱コンダクタンスに加えて、更に熱源の内部の熱抵抗を算出するものである。すなわち、上記(1)項及び(3)項で言及したように、温度変化データと加熱エネルギーとから求められる総合熱抵抗には、熱源内部の熱抵抗、熱伝導路の受熱部分の熱抵抗、及び熱伝導路の熱伝導部分の熱抵抗が含まれている。このため、これを利用して、算出処理部は、上記のような総合熱抵抗と、熱伝導率などが既知の材料で形成されていることで把握される熱伝導路の熱抵抗とに基づいて、熱源の内部の熱抵抗を算出するものである。これにより、熱源の内部の情報が不明であっても、熱源の内部の熱抵抗が把握されるものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明はこのように構成したので、熱源の熱コンダクタンスを把握して、未利用の熱エネルギーの有効利用に貢献することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施の形態に係る熱コンダクタンス計測システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る熱コンダクタンス計測システムで用いる熱伝導路の設置例を、熱源から熱伝導路までの熱抵抗のモデルと共に示すイメージ図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る熱コンダクタンス計測システムで用いる熱伝導変調部の構造の一例を示しており、(a)が上面図、(b)が側面図、(c)が底面図、(d)が(b)におけるA-A矢視での断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る熱コンダクタンス計測方法の手順の一例を示すフロー図である。
【
図5】(a)は熱量と温度との関係を示す模式図、(b)は(a)の模式図における熱コンダクタンスを示す抜粋図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。ここで、図面の全体にわたって、同一部分又は対応する部分は、同一符号で示している。また、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略する。
図1は、計測対象の熱源50(
図2参照)から採取可能な受熱面での熱コンダクタンスを計測すると共に、熱源50の内部の熱抵抗を計測するための、本発明の実施の形態に係る熱コンダクタンス計測システム10の構成の一例を示している。図示のように、熱コンダクタンス計測システム10は、熱伝導変調部12、冷却源36、発熱体制御部40、温度計測部44、及び算出処理部48を含んでいる。また、熱伝導変調部12は、発熱体14と2つの熱伝導媒体16とを含んでおり、
図3には、熱伝導変調部12の詳細構造の一例を示している。
【0028】
図3に示すように、熱伝導変調部12は、発熱体14が2つの熱伝導媒体16により挟持された構成を有しており、本実施形態では、円柱状をなす2つの熱伝導媒体16が4本のボルト24によって接続され、その間に発熱体14が配置されている。発熱体14は、変動する加熱エネルギーを受けて発熱量が変動するようになっており、本実施形態ではペルチェ素子14Aによって形成され、ペルチェ素子14Aに加熱エネルギーとしての電力を供給するための制御線32が接続されている。また、
図3(d)で確認できるように、ペルチェ素子14Aと2つの熱伝導媒体16との間には、放熱シート28が設置されており、これによって熱の伝導性が高められている。2つの熱伝導媒体16の互いに向き合う面には、放熱シート28やペルチェ素子14Aの一部を配置するための窪みが設けられている。
【0029】
2つの熱伝導媒体16は、これに限定されるものではないが、例えばアルミニウムや銅などといった、熱伝導率が既知の材料で形成されている。また、2つの熱伝導媒体16のうち、一方の熱伝導媒体16Aには、3つの計測穴20が穿設されている。これら3つの計測穴20は、本実施形態では、
図3(b)及び(d)における上下方向に互いに等しい間隔を開けた位置で、
図3(a)のような平面視で円形をなす熱伝導媒体16Aの中心に向かって延びている。そして、3つの計測穴20には、平面視円形の熱伝導媒体16Aの中心近傍の位置に、温度計測点MP1~MP3が設定されている。このため、3つの温度計測点MP1~MP3間の
図3(d)における上下方向の間隔は等しくなっている。
【0030】
これに対し、2つの熱伝導媒体16のうち、他方の熱伝導媒体16Bには、1つの計測穴20が穿設されており、この1つの計測穴20が、
図3(c)のような底面視で円形をなす熱伝導媒体16Bの中心に向かって延びている。そして、この熱伝導媒体16Bの計測穴20にも、底面視円形の熱伝導媒体16Bの中心近傍の位置に、温度計測点MP4が設定されている。すなわち、温度計測点MP1~MP4は、発熱体14を挟む位置関係で、発熱体14の近傍に設定されている。上記のような計測穴20や温度計測点MPの数量に起因して、一方の熱伝導媒体16Aの方が他方の熱伝導媒体16Bよりも、
図3(b)及び(d)における上下方向の幅が大きくなっている。
【0031】
上記のような構成の熱伝導変調部12は、
図2に示すように、計測対象の熱源50から熱が分流されるように設置される熱伝導路54の一部として利用される。
図2の実施形態では、熱源50からの熱取出し口を介して熱交換器が設置され、更にそこへ熱接合部材を介して熱伝導変調部12が設置されている。このとき、熱伝導変調部12は、一方の熱伝導媒体16Aに対して熱源50からの熱が伝導されるように、換言すれば
図2における上側に一方の熱伝導媒体16Aが配置されるように設置される。このため、熱伝導変調部12では、
図3(b)及び(d)における上側から下側へ向かって熱が伝導する。そして、
図2の下側に配置されることとなる熱伝導変調部12の他方の熱伝導媒体16Bには、熱接合部材を介して、
図1にも示した冷却源36が接続される。
【0032】
冷却源36は、計測対象の熱源50よりも低い温度を有しており、これによって、熱源50から分流された熱が冷却源36の方へと流れる熱流が発生する。このため、
図2の右側には、熱の流れを電気の流れに見立てた、V熱源から複数のR抵抗を介してGNDまで至るモデル評価回路が図示されている。この回路からも分かるように、熱が流れる熱伝導路54を構成する各部材は熱抵抗を有しており、熱源50を除いた各部材を構成する材料の熱伝導率などが既知であることで、それらの熱抵抗が把握される。
ここで、
図2に示されるような計測対象の熱源50は、未利用の熱エネルギーを包含するものであれば任意のものであってよい。このような熱源50としては、これらに限定されるものではないが、例えば、熱エネルギーを扱う工業プラントの設備、熱源を用いた各種装置、燃焼装置、内燃機関、焼却炉、温泉水などが流れる流路、排気ダクト、煙突、蒸気配管などが挙げられる。
【0033】
図1に戻り、発熱体制御部40は、熱伝導変調部12の発熱体14に対して変動する加熱エネルギーを与えることで、発熱体14の制御を行うものである。本実施形態では、
図3に示したような制御線32を介して、加熱エネルギーとして所定周波数の交流電力(変調電力)をペルチェ素子14Aに供給する。この際の交流電力の所定周波数には、予め把握する熱源50からの熱流が有している変動周波数と異なる周波数に設定する。温度計測部44は、熱伝導変調部12の熱伝導媒体16に上述したように設定された温度計測点MPの温度を計測するものである。本実施形態の温度計測部44は、これに限定されるものではないが、例えば測温抵抗体としての白金Pt100や熱電対を介して温度計測点MPの温度を取得し、それを広範囲な温度域で高速に計測するような構成になっている。算出処理部48は、熱コンダクタンス計測システム10における様々な演算処理を行うものである。そのような算出処理部48によって行う一部の算出処理の詳細については後述する。
【0034】
ここで、本発明の実施の形態に係る熱コンダクタンス計測システム10は、
図1~
図3に示すような構成に限定されるものでなく、
図1~
図3に示された構成部位の一部が削除又は置換されたものであってもよく、新たな構成部位が追加されたものであってもよい。更に、
図1の各構成部位は、熱コンダクタンス計測システム10の構成を機能的に分けて示したものであり、熱コンダクタンス計測システム10を構成する各機器をそのまま示すものではなく、様々なハードウェア、ソフトウェア、或いはそれらの組み合わせで構成される。例えば、発熱体14は、発熱量が変動するように制御可能なものであれば、ペルチェ素子14A以外のもので構成されてもよい。また、熱伝導路54は、熱伝導変調部12及び冷却源36を含むものであれば、
図2の構成と異なっていてもよい。更に、熱伝導変調部12は、各部材の形状や数量が
図3の実施形態と異なっていてもよく、温度計測点MPの数量や位置も任意に設定してよい。
【0035】
続いて、
図4を参照して、上述した熱コンダクタンス計測システム10を利用して実行される、本発明の実施の形態に係る熱コンダクタンス計測方法について説明する。熱コンダクタンス計測システム10の構成については、適宜、
図1~
図3を参照されたい。なお、
図4に示すフロー図は、熱コンダクタンス計測方法の手順の流れの一例を示したものであって、熱コンダクタンス計測方法の手順がこのフロー図に限定されるものではない。このため、
図4に示された一部のステップが変更、削除、順序入れ換えされてもよく、新たなステップが追加されてもよいものである。
【0036】
S10(熱伝導路接続):例えば
図2に示すように、計測対象の熱源50に対して、一端に冷却源36を有すると共に中途部分に熱伝導変調部12を有する熱伝導路54の他端を接続する。また、これと同じタイミングで、熱コンダクタンス計測システム10のその他の構成部材の設置や接続を行う。例えば、温度計測部44の熱取得部分を、熱伝導変調部12の熱伝導媒体16に設定した温度計測点MPに設置する。
S20(発熱体制御):発熱体制御部40により、熱伝導変調部12の発熱体14の制御を開始する。すなわち、本実施形態では、ペルチェ素子14Aに対して、熱源50からの熱流の変動周波数と異なる所定周波数(変調周波数)を有する交流電力を、例えば電流波形が正弦波になるようにして供給する。
【0037】
S30(温度計測):温度計測部44により、熱伝導媒体16に設定された温度計測点MPの温度を計測する。具体的には、熱伝導変調部12の一方の熱伝導媒体16Aに設定された温度計測点MP1~MP3と、他方の熱伝導媒体16Bに設定された温度計測点MP4との温度を計測する。この際、発熱体制御部40からペルチェ素子14Aへ供給している交流電力の変調周波数の、2倍以上のサンプリング間隔で計測を行うものとする。更に、後続の処理のために、算出処理部48或いは別途備えたA/D変換器により、計測したアナログ温度データをデジタル温度データへと変換する。このときのA/D変換は、可能な限り高分解能で行うことが好ましい。なお、本ステップで計測された温度は、発熱体14による発熱の影響を受けているとき(変調されているとき)の第1温度(
図5(a)の符号TW参照)に相当する。
【0038】
S40(状態判定):算出処理部48により、熱源50から流れてくる熱流が定常状態であるか否か、及び、熱伝導変調部12を通過する熱量が正常であるか否かを判定する。まず、熱流の判定について説明すると、算出処理部48は、一方の熱伝導媒体16Aの3つの温度計測点MP1~MP3で計測された温度と、それら3つの温度計測点MP1~MP3間の間隔とを利用して、熱流の判定を行う。具体的には、熱源50からの熱流が定常状態であれば、熱源50側から冷却源36側へ流れる熱流は線形的に小さくなると想定される。このため、3つの温度計測点MP1~MP3が等間隔で設定されている本実施形態では、熱伝導媒体16Aにおける熱源50側の温度計測点MP1と中央の温度計測点MP2との温度差と、熱伝導媒体16Aにおける中央の温度計測点MP2と冷却源36側の温度計測点MP3との温度差とが、略等しくなると考えられる。これに対し、熱源50からの熱流が過渡状態であると、上記の関係が崩れ、温度計測点MP1とMP3との温度差を2で割った値と、温度計測点MP1とMP2との温度差や温度計測点MP2とMP3との温度差とが、等しくならないような事象が発生する。これらを利用して、算出処理部48により、熱源50から流れてくる熱流が定常状態であるか否かを判定する。なお、一方の熱伝導媒体16Aに温度計測点MPが4つ以上設定されている場合であっても、上記のような関係を利用して熱流の判定を行えばよい。
【0039】
次に、熱量の判定について説明すると、算出処理部48は、一方の熱伝導媒体16Aの3つの温度計測点MP1~MP3で計測された温度と、他方の熱伝導媒体16Bの温度計測点MP4で計測された温度との大小関係を利用して、熱量の判定を行う。具体的には、熱伝導変調部12を通過する熱量が正常であれば、熱源50側から冷却源36側へ向けて温度が徐々に小さくなると想定される。このため、本実施形態では、熱源50側から冷却源36側への温度伝達方向に沿って並ぶ、温度計測点MP1、MP2、MP3、MP4での計測温度が、この記載順序で大きい順になると考えられる。
【0040】
これに対し、発熱体14(ペルチェ素子14A)による変調が過剰などの理由で熱量が異常であると、上記の関係が崩れ、例えば温度計測点MP1~MP3での温度が略等しくなったり、それらの温度が温度計測点MP4での温度より小さくなったりする事象が発生する。これらを利用して、算出処理部48により、熱伝導変調部12を通過する熱量が正常であるか否かを判定する。なお、一方の熱伝導媒体16Aに温度計測点MPが2つ以下或いは4つ以上設定されている場合や、他方の熱伝導媒体16Bに温度計測点MPが2つ以上設定されている場合であっても、上記のような関係を利用して熱量の判定を行えばよい。
そして、本ステップS40において、熱源50からの熱流が定常状態であり、且つ、熱伝導変調部12を通過する熱量が正常であると判定した場合に、次ステップへ移行するものとする。なお、熱流の過渡状態や熱量の異常が検出された場合は、熱伝導路54の構成、計測タイミング、ペルチェ素子14Aへ供給する交流電力などの見直しを行う。
【0041】
S50(平均温度算出):算出処理部48により、上記S30で計測した温度の平均温度を算出する。すなわち、本実施形態では、ペルチェ素子14Aに交流電力を与えて発熱量を変動させているため、ペルチェ素子14Aによる温度変動の影響(変調)は、交流的に上下に振れるような温度変化を与えている。従って、例えば移動平均などにより平均温度を算出することで、ペルチェ素子14Aによる温度変動の影響を排除した温度データを抽出する。このとき、変調によって変動している成分も変動させないようなフィルター特性に設定したローパスフィルターなどを用いて処理を行う。このような平均温度の算出を、温度計測点MP毎に行い、或いは特定の温度計測点MPについてのみ行い、以降の処理は本ステップで平均温度を算出した温度計測点MPでのデータを用いて行うものとする。なお、本ステップで算出された温度は、発熱体14による発熱の影響を受けていないとき(無変調状態)の第2温度(
図5(a)の符号T0参照)に相当する。
【0042】
S60(差分算出):算出処理部48により、上記S30で計測した温度(第1温度)と、上記S50で算出した平均温度(第2温度)との差分を算出する。これによって、ペルチェ素子14Aによる温度変動の影響(変調)によって変化した温度変化データ(
図5(a)の符号ΔT参照)を抽出する。
S70(周波数成分抽出):算出処理部48により、上記S60で算出した温度変化データから、ペルチェ素子14Aに与えている交流電力の周波数(変調周波数)の周波数成分のデータを抽出する。これによって、熱源50からの熱流が有している変動成分などのノイズを排除する。なお、ここでの抽出方法には、例えば、ローパスフィルターを用いて変調周波数の近傍のみを切り出す方法、変調周波数を中心としたバンドパスフィルターで切り出す方法、同期検波(ベースバンド検波)を行う方法、ベースバンド検波やPSN変調器を多段に用いる2段シフト検波を行う方法などが挙げられるが、ここでの詳しい説明は省略する。
【0043】
S80(熱コンダクタンス算出):算出処理部48により、計測対象の熱源50の熱コンダクタンスを算出する。ここで、
図5(a)には、熱源50の質量を符号m、熱源50の比熱を符号c、変調状態の温度(第1温度)を符号TW、無変調状態の温度(第2温度)を符号T0、熱源50の元々の熱量を符号Q0、発熱体14による発熱が加味された熱量を符号QWとして、熱量(単位はJ)と温度(単位はK)との関係が模式的に示されている。すなわち、相変化がなく微小な温度変化域内では、熱量が質量m及び比熱cを定数として温度に比例するため、
図5(a)のような関係となり、以下の式で表現される。
Q0(J)=m・c・T0(K)
QW(J)=m・c・TW(K)
また、
図5(a)には、変調時にペルチェ素子14Aに与えた加熱エネルギーを符号W(単位はJ)、変調状態の温度TWと無変調状態の温度T0との差分を符号ΔTとして、下記式の関係、及び加熱エネルギーWが加算されて温度がΔT増加したことが示されている。
QW(J)=Q0(J)+W(J)
【0044】
上記のような関係から、以下の式が成り立つ。
m・c=Q0(J)/T0(K)
=QW(J)/TW(K)
更に、加熱エネルギーWに対する応答により生じた温度変化ΔTについても、以下の式が成り立つ。
m・c=W(J)/ΔT(K)
これらの式から、以下のような関係が成り立つ。
Q0(J)/T0(K)=W(J)/ΔT(K)
Q0(J)=T0(K)/ΔT(K)・W(J)
但し、この式には、
図2に示した熱伝導路54内の各熱抵抗比が含まれていないため、変調効率を加味する必要がある。更に、変調時にペルチェ素子14Aに与えた加熱エネルギーWは、実際には変調電力(交流電力)であるため、その符号をP(単位はW)とし、加熱エネルギーW(J)と変調電力P(W)との間の変換も考慮して、変調効率を符号ηで表すと以下のような式になる。
Q0(J)=T0(K)/ΔT(K)・P(W)・η(%)
この式は、変調によって変化する温度情報のみで熱源50が有する熱量を推定できることを示し、変調電力P及び変調効率ηが熱コンダクタンス計測システム10に固有の値であれば、熱源50の熱抵抗だけが未知数であることから、この式を元に熱源50の熱コンダクタンスを推定できることを示す。
【0045】
ここで、熱抵抗は、2点間の温度差を2点間を流れる熱流量(単位時間当たりの熱量)で割った値となるため、
図5(a)の「m・c」で表されるグラフの傾き(
図5(b)の符号θ参照)として示される。よって、熱抵抗を符号Rthとすると、以下の式で計算できる。
Rth(℃/W)=ΔT(K)/W(J)
この熱抵抗Rthは、
図2の右側に示される熱伝導路54内の全ての熱抵抗を含んでいるため、熱源50の未知の熱抵抗を符号Rrs、計測系に存在する熱抵抗を符号Rseとすると、熱源50の熱抵抗Rrsは以下のように求まる。
Rrs(℃/W)=Rth(℃/W)-Rse(℃/W)
【0046】
更に、汎用的な単位として熱源50に対する熱伝導路54の受熱面積を排除した熱コンダクタンスは、熱抵抗の逆数として表現される。すなわち、
図5(b)における「tanθ」がこの熱源50に接した受熱面での熱コンダクタンスに相当する。算出処理部48は、このようにして熱源50の熱コンダクタンスを算出する。このとき、変調効率ηも含んだ熱量値を扱うことが重要であり、ここで示される変調電力P(W)は、計測系固有の値であることに注意する。そして熱量は、単位時間当たりの熱量と定義しているので、変調電力Pを調整して1(J)に換算できれば、ΔTの値をそのまま利用することができる。従って、変調電力Pとの比をうまく調整することで、計算式はより簡易化され、算出処理部48を構成するマイクロコンピュータなどの負荷がより低減される。
【0047】
S80(熱抵抗算出):算出処理部48により、計測対象の熱源50の内部の熱抵抗を算出する。上記S80で言及したように、
図2の右側に示される熱伝導路54内の全ての熱抵抗を含む熱抵抗Rth(℃/W)は、以下の式に対応した合成抵抗値として求められる。
Rth(℃/W)=
(R熱源+R接合材+Rデバイス)×(Rデバイス+R接合材+R冷却源)÷
((R熱源+R接合材+Rデバイス)+(Rデバイス+R接合材+R冷却源))
これは、温度計測点MP点から求めた熱抵抗となり、熱抵抗は、電気回路網で使われるキルヒホッフの第一法則、第二法則(オームの法則)が適用できる。このRthは、熱源側の熱抵抗が直列接続された値すなわち、R熱源+熱源側のR接合材の熱抵抗値+熱源側Rデバイスの合計値とR冷熱源+冷熱源側のR接合材+冷熱源側Rデバイスの合計値の直列値の並列接続となる。電気回路R1とR2の並列抵抗計算式である。
R=(R1×R2)/(R1+R2)で計算できる様にRthは、計算できる。しかし変調デバイスの熱抵抗値Rデバイスは、熱源側、冷熱源側双方に加わっていてその割合は、デバイス固有の値を取るが、ここでは、共通の値として示した為である。
そして、上記のような熱抵抗Rthを構成している熱抵抗のうち、R熱源以外は全て、各々を構成する材料の熱伝導率などが既知であることで、熱抵抗が把握される。このため、算出処理部48は、それらを利用して熱源50の内部の熱抵抗(R熱源)を算出する。
【0048】
このとき、熱源50に接続する熱交換器や、そこから熱を伝導する熱接合部材の熱伝導率や形状寸法を予め計測した上で、熱流を分流させて
図2の様な熱流回路を構成した場合は、未知なる熱抵抗は、熱源50内部の熱抵抗のみとなる。すなわち、熱源50の例として挙げた工業プラント設備などの上述した装置内で熱エネルギーを媒体する材質の、質量、比熱、密度、圧力などの熱エネルギーを計算する場合に必要な物性値を求めることなく、熱源50内部の熱抵抗値が計算される。また、冷却源36の熱抵抗値であるR冷却源は、サーキュレータなどの冷却側温度を一定に保つ機能を使用した場合は、限りなくゼロとして扱うことができるため、計算式がより簡略化される。更に、熱源50側の熱交換器に接続する熱接合部材と、冷却源36に接続する熱接合部材との形状を同一にし、それぞれの熱抵抗値(R接合材)が同じ値となるように熱伝導路54を構成すると、計算がより一層簡略化される。
【0049】
また、既知の値を取る熱抵抗を把握する際に、温度関数を有する熱交換器や熱伝導変調部12の特性を考慮し、温度計測点MPで計測された温度情報を元にV熱源の温度を推定する必要がある。すなわち、V熱源となる熱交換機を取付けた熱取出し口の温度は、一般的に計測されていないため、上記温度特性を有する既知の材料の熱抵抗は、温度計測点MPの温度情報から推定する作業が加わる。この推定作業では、
図2の右側に示された等価のモデル評価回路としての電気回路を使用して、例えば熱伝導変調部12の温度計測点MP1~MP4で観測される温度情報を、電気回路シミュレーターに実装する。そして、V熱源が0ボルトから既定の電圧へと変動する過渡現象を模擬するシミュレーションを行い、観測された温度計測点MP1~MP4での変化と、温度係数を有する熱交換器及び熱伝導変調部12の温度関数とをパラメトリック解析する。続いて、温度計測点MPで観測した温度変動と、回路シミュレーターで行ったV熱源を回路電源電圧としてシミュレーションした結果とを整合させる手法から、適切な温度関数に乗った熱抵抗値テーブルなどを採用する。これにより、熱交換器の熱取出し口の温度が計測されない場合でも、温度計測点MP1~MP4での温度変化を使用して、熱源50の温度に関係なく熱源50の内部の熱抵抗が計算される。
【0050】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係る熱コンダクタンス計測方法は、例えば
図1~
図3に示されるようなシステム10を利用して、排熱されている未利用の熱エネルギーを有する熱源50の熱コンダクタンスを計測するものである。具体的には、一端に冷却源36を有する熱伝導路54の他端を熱源50に接続することで、熱源50から冷却源36に向かって流れるように熱を分流する(
図4のS10参照)。このときに使用する熱伝導路54は、熱伝導率などの特性が予め把握されている材料で形成するものとする。また、発熱体14を熱伝導路54中、すなわち冷却源36が設置された熱伝導路54の一端と熱源50に接続される熱伝導路54の他端との間に設置する。設置する発熱体14には、変動する加熱エネルギーWを与えると、発熱量が変動するように制御可能なものを用いる。
【0051】
更に、上記のような構成の熱伝導路54中の温度を計測して、発熱体14による発熱の影響を受けているときの第1温度TWと、発熱体14による発熱の影響を受けていないときの第2温度T0とを取得する(
図4のS30、S50及び
図5(a)参照)。続いて、取得した第1温度TWと第2温度T0との差分ΔTを算出することで、発熱体14の変動する発熱の影響によって変化した温度変化データΔTを抽出する(
図4のS60及び
図5(a)参照)。そして、抽出した温度変化データΔTと、第1温度TWを計測したときに発熱体14に与えた加熱エネルギーWとに基づいて、熱源50の熱コンダクタンスを算出する。
【0052】
すなわち、
図5(a)に示されるような関係から、「質量と比熱の積」m・cは、「加熱エネルギーを受けない状態の熱量」Q0を「加熱エネルギーを受けない状態の温度(第2温度)」T0で割った値や、「加熱エネルギーを受けた状態の熱量」QWを「加熱エネルギーを受けた状態の温度(第1温度)」TWで割った値で表すことができる。更に、「質量と比熱の積」m・cは、輻射や誤差を生む熱伝導が無視できるほど微小であれば、加熱エネルギーWを温度変化データΔTで割った値でも表すことができる。
【0053】
また、熱抵抗は、2点間の温度差を2点間を流れる熱流量(単位時間に流れる熱量)で割った値となることから、上記のような関係において、温度変化データΔTを加熱エネルギーWで割った値で表すことができる。そして、この熱抵抗が熱源50から熱伝導路54までの全ての熱抵抗を含むこと、熱コンダクタンスが熱抵抗の逆数として表現できること、熱伝導路54の受熱面積などを考慮すれば、温度変化データΔT及び加熱エネルギーWから単位面積当たりの熱コンダクタンスを算出できることが分かる(
図4のS80参照)。これにより、熱源50の比熱cや質量mなどを把握する必要なく、発熱体14の影響によって変化した温度変化データΔTと、そのときに発熱体14に与えた加熱エネルギーWとに基づいて、熱源50の熱コンダクタンスを算出することができる。このようにして熱コンダクタンスを把握することができるため、熱源50が有する未利用の熱エネルギーの有効利用に貢献することが可能となる。しかも、熱源50の比熱cや圧力、物性の密度などといった熱源50内部の情報が不明な場合や、時間的に圧力や密度が変動する熱源50であっても、熱コンダクタンスを把握することができる。
【0054】
また、本発明の実施の形態に係る熱コンダクタンス計測方法は、熱伝導路54中に設置する発熱体14としてペルチェ素子14Aを利用するものである。また、ペルチェ素子14Aに与える加熱エネルギーWとして、所定周波数の交流電力(変調電力)Pを与えることで、ペルチェ素子14Aからの発熱量を交流的に変動させる。このときの交流電力Pの所定周波数には、熱源50から熱伝導路54へ流れる熱流が有している変動周波数とは異なる周波数を設定する。そして、発熱体14による発熱の影響を受けているときの第1温度TWと、発熱体14による発熱の影響を受けていないときの第2温度T0との差分ΔTを算出したら、その算出結果から、上述した所定周波数の周波数成分のデータを抽出する(
図4のS70参照)。このようにして抽出した温度の差分データと、ペルチェ素子14Aに与えた交流電力Pとに基づいて、熱源50の熱コンダクタンスを算出する。すなわち、ペルチェ素子14Aに熱源50からの熱流の変動周波数と異なる周波数の変調電力Pを与え、その変調周波数の周波数成分のデータを抽出して利用することで、熱流の変動成分などを排除して熱コンダクタンスを算出することができる。これにより、熱コンダクタンスをより精度よく算出することが可能となる。
【0055】
加えて、本発明の実施の形態に係る熱コンダクタンス計測方法は、熱源50の熱コンダクタンスに加えて、更に熱源50の内部の熱抵抗を計測するものである。上述したように、温度変化データΔT(第1温度TWと第2温度T0との差分)と、加熱エネルギーW(第1温度TWを計測したときの加熱エネルギー)とから求められる熱抵抗は、熱源50から熱伝導路54までの全ての熱抵抗を含む総合熱抵抗である。すなわち、この総合熱抵抗には、比熱や圧力、物性の密度などといった情報が不明な熱源50内部の熱抵抗と、熱伝導率などの特性が既知の材料で形成された熱伝導路54の受熱部分の熱抵抗と、同じく熱伝導路54の熱伝導部分の熱抵抗とが含まれている。このため、熱源50の内部の熱抵抗を、上記のような総合熱抵抗と、熱伝導率などが既知の材料で形成されていることで把握できる熱伝導路54の熱抵抗とに基づいて算出することができる。これにより、熱源50の内部の情報が不明であっても、算出される総合熱抵抗及び既知の熱抵抗情報から、熱源50の内部の情報として熱抵抗を把握することが可能となる。
【0056】
一方、本発明の実施の形態に係る熱コンダクタンス計測システム10は、未利用の熱エネルギーを有する熱源50から採取可能な、単位面積当たりの受熱面での熱コンダクタンスを計測するものであり、
図1に示すように、熱伝導変調部12、冷却源36、発熱体制御部40、温度計測部44、及び算出処理部48を含んでいる。熱伝導変調部12は、
図3にも示すように、発熱体14が2つの熱伝導媒体16によって挟持された構成を有しており、発熱体14はその発熱量が変動するように制御可能なもので、2つの熱伝導媒体16は熱伝導率が既知の材料で形成されている。このような構成の熱伝導変調部12は、2つの熱伝導媒体16のうちの一方の熱伝導媒体16Aに対して、計測対象の熱源50から熱が伝導されるように設置される。冷却源36は、計測対象の熱源50よりも低い温度を有しており、2つの熱伝導媒体16のうちの他方の熱伝導媒体16Bから熱が伝導されるように設置される。すなわち、熱伝導変調部12及び冷却源36は、
図2に示すように、熱源50から冷却源36へ向かって熱が流れるように、熱源50から熱を分流させる熱伝導路54の一部として設置される。
【0057】
発熱体制御部40は、熱伝導変調部12が有する発熱体14を制御するものであって、発熱体14に変動する加熱エネルギーWを与えることで、発熱体14からの発熱量が変動するように発熱体14を制御する。温度計測部44は、温度計測点MPの温度を計測するものであって、その温度計測点MPは、
図3(d)に示すように、熱伝導変調部12が有する2つの熱伝導媒体16A、16Bの双方或いは何れか一方の所定位置に設定されている。算出処理部48は、本システム10における様々な算出処理を行うものであって、その一部として以下のような演算を行う。すなわち、算出処理部48は、温度計測部44による温度計測点MPの計測結果から、発熱体14による発熱の影響を受けているときの第1温度TWと、発熱体14による発熱の影響を受けていないときの第2温度T0とを、熱コンダクタンス計測方法において言及したようにして取得する。そして、それらの差分ΔTを算出することで、発熱体14の変動する発熱の影響によって変化した温度変化データΔTを抽出する。
【0058】
更に、算出処理部48は、抽出した温度変化データΔTと、温度計測部44により第1温度TWを計測したときに、発熱体制御部40から発熱体14に与えた加熱エネルギーWとに基づいて、熱コンダクタンス計測方法において言及したように計測対象の熱源50の熱コンダクタンスを算出する。これにより、熱源50の比熱cや質量mなどを把握する必要なく、熱源50から採取可能な受熱面での熱コンダクタンスを算出することができる。しかも、熱伝導変調部12や冷却源36を含む熱伝導路54を介して計測対象の熱源50から熱を分流させ、熱伝導路54中の熱伝導変調部12において温度を計測する構造であるため、腐食性ガスや媒体密度変動を伴う気体・液体混合物などが流れる熱源50をはじめとして、様々な環境の熱源50の計測に対応することができる。更に、腐食などの耐久性を考慮する必要はなく、耐久性や信頼性を大幅に向上することが可能となる。
【0059】
また、本発明の実施の形態に係る熱コンダクタンス計測システム10は、熱伝導変調部12が有する発熱体14がペルチェ素子14Aであり、このペルチェ素子14Aに発熱体制御部40から与える加熱エネルギーWが、所定周波数の交流電力Pになっていることで、ペルチェ素子14Aからの発熱量が交流的に変動される。このときの交流電力Pの所定周波数には、熱源50から熱伝導変調部12などに流れる熱流が有している変動周波数とは異なる周波数が設定されている。そして、算出処理部48は、発熱体14による発熱の影響を受けているときの第1温度TWと、発熱体14による発熱の影響を受けていないときの第2温度T0との差分ΔTを算出したら、その算出結果から、上述した所定周波数の周波数成分のデータを抽出する。
【0060】
更に、算出処理部48は、このようにして抽出した温度の差分データΔTと、発熱体制御部40からペルチェ素子14Aに与えた交流電力Pとに基づいて、熱源50の熱コンダクタンスを算出する。すなわち、熱コンダクタンス計測方法でも言及したように、ペルチェ素子14Aに熱源50からの熱流の変動周波数と異なる周波数の変調電力Pを与え、その変調周波数の周波数成分のデータを抽出して利用することで、熱流の変動成分などを排除して熱コンダクタンスを算出することができる。これにより、熱コンダクタンスを、より精度よく算出することが可能となる。
【0061】
加えて、本発明の実施の形態に係る熱コンダクタンス計測システム10は、
図3に示すように、熱伝導変調部12の2つの熱伝導媒体16のうち、熱源50側に配置されることとなる一方の熱伝導媒体16Aに、3つの温度計測点MP1~MP3が設定されている。これら3つの温度計測点MP1~MP3は、一方の熱伝導媒体16Aにおいて、熱源50から流れる熱の伝導方向(
図3(d)における上下方向)に沿って間隔を空けて設定されている。そして、算出処理部48は、それら3つの温度計測点MP1~MP3で温度計測部44により計測された温度と、それら3つの温度計測点MP1~MP3間の間隔とを利用して、熱源50からの熱流が定常状態であるか否かを判定する(
図4のS40参照)。すなわち、何れも一方の熱伝導媒体16Aに設定された3つの温度計測点MP1~MP3で計測される温度は、熱源50からの熱流が過渡状態ではなく定常状態であれば、温度計測点MP1~MP3間の間隔に応じて、熱源50側の方から線形的に小さくなると考えられる。
【0062】
例えば
図3の実施形態のように、3つの温度計測点MP1~MP3が等間隔で設定されている場合は、熱源50からの熱流が定常状態であれば、熱源50側の温度計測点MP1と中央の温度計測点MP2との温度の差分と、中央の温度計測点MP2と冷却源36側の温度計測点MP3との温度の差分とが、略等しくなると考えられる。このため、算出処理部48は、このような関係を利用して、熱源50からの熱流が定常状態であるか否かを判定し、定常状態であると判定した場合に熱コンダクタンスを算出する。これにより、熱源50からの熱流が過渡状態であるにも関わらず熱コンダクタンスを計測してしまうことを防止することができ、熱流が定常状態であるタイミングでのみ熱コンダクタンスを計測することができるため、熱コンダクタンスの計測の信頼性を向上させることが可能となる。
【0063】
更に、本発明の実施の形態に係る熱コンダクタンス計測システム10は、熱伝導変調部12の2つの熱伝導媒体16のうち、冷却源36側に配置されることとなる他方の熱伝導媒体16Bに1つの温度計測点MP4が設定されている。そして、算出処理部48は、温度計測部44により一方の熱伝導媒体16Aの温度計測点MP1~MP3で計測された温度と、他方の熱伝導媒体16Bの温度計測点MP4で計測された温度との大小関係から、熱伝導変調部12を通過する熱量が正常であるか否かを判定する(
図4のS40参照)。すなわち、熱伝導変調部12を通過する熱量が正常であれば、熱源50側の一方の熱伝導媒体16Aの温度計測点MP1~MP3で計測される温度の方が、冷却源36側の他方の熱伝導媒体16Bの温度計測点MP4で計測される温度よりも大きくなる。
【0064】
これに対し、熱源50から流れてくる通過熱量が十分でない場合や、発熱体14による影響が過渡である場合などは、熱源50側の一方の熱伝導媒体16Aの温度計測点MP1~MP3で計測される温度よりも、冷却源36側の他方の熱伝導媒体16Bの温度計測点MP4で計測される温度の方が大きくなることが想定される。このような温度の大小関係は、一方の熱伝導媒体16Aに設定された3つの温度計測点MP1~MP3においても適用される。このため、算出処理部48は、このような関係を利用して、熱伝導変調部12を通過する熱量が正常であるか否かを判定し、正常であると判定した場合に熱コンダクタンスを算出する。これにより、熱伝導変調部12を通過する熱量が異常であるにも関わらず熱コンダクタンスを計測してしまうことを防止することができ、通過する熱量が正常であるタイミングでのみ熱コンダクタンスを計測することができるため、熱コンダクタンスの計測の信頼性を向上させることが可能となる。
【0065】
また、本発明の実施の形態に係る熱コンダクタンス計測システム10は、算出処理部48により、熱源50の熱コンダクタンスに加えて、更に熱源50の内部の熱抵抗を算出するものである。すなわち、本発明の実施の形態に係る熱コンダクタンス計測方法において言及したように、温度変化データΔTと加熱エネルギーWとから求められる総合熱抵抗には、熱源50内部の熱抵抗、熱伝導路54の受熱部分の熱抵抗、及び熱伝導路54の熱伝導部分の熱抵抗が含まれている。このため、これを利用して、算出処理部48は、上記のような総合熱抵抗と、熱伝導率などが既知の材料で形成されていることで把握される熱伝導路54の熱抵抗とに基づいて、熱源50の内部の熱抵抗を算出することができる。これにより、熱源50の内部の情報が不明であっても、熱源50の内部の熱抵抗を把握することが可能となる。
【0066】
より具体的に、上記の総合熱抵抗を示す
図2のような熱伝導回路を熱回路網に見立て、更に熱回路網を電気回路網に見立てて表現することが一般的に行われている。例えば、熱抵抗を電気抵抗に置き換えてキルヒホッフの第一法則や第二法則に当てはめてモデルを作成し、各接点が有する熱量のつり合いをキルヒホッフの第一法則に置き換えて計算することが知られている。この計算方法を使用すると、受熱部分の熱抵抗や熱伝導部分の熱抵抗、更には熱電動変調部12の熱抵抗、冷熱源36側の熱抵抗を事前に把握することができ、これによって未知な熱抵抗は、受熱部分から見た熱源50内部の熱抵抗だけに絞られる。そこで、キルヒホッフの定理や最近進化が著しい電子回路シミュレーター及びその逆解析ツールなどを駆使すると、未知な部分の特定すなわち熱源50内部の熱抵抗を計算することが可能となる。
【0067】
更に踏み込むと、上記の熱抵抗は、熱コンダクタンス計測システム10から見たそのときの瞬時値としてとらえることが可能な、熱源50固有のスカラー量とみなすことができる。この熱源50内のスカラー量を正確に計測できることは、この熱コンダクタンス計測システム10を同一の熱源50の経路に複数設置すると、位置情報の異なる計測点での熱源50内部の熱抵抗値を正確に計測できることを示している。このため、キルヒホッフの法則を更に拡張することで、この複数計測点を例えばある程度の距離を隔てた2点間に設定し、それぞれで熱源50内の熱抵抗値を把握する。すると、互いの熱流路として、電気回路のホイートストンブリッジと等価な熱流回路を構成することができ、電気回路でのホイートストンブリッジにおける2点間をつなぐ未知の熱抵抗を求めることもできる。この未知の熱抵抗は、熱流路上の2点間をつなぐ内部熱抵抗を示すことになるため、応用範囲が広がり、設置した熱流路間の熱媒体熱抵抗値を計測することが可能となる。
【0068】
更に、スカラー量だけでなくベクトル量として内部熱抵抗値を求めることとし、熱変動周波数が2点間を伝搬するときに生じる周波数変動を相手方で捉えることで、この2点間の熱流束を生み出す媒体の移動速度も把握することができる。これは、2点間の熱流変動の時間差が生まれることを互いの温度変動とみなし、前述の第2の温度変化を周波数の変化とみなし、位相の変化を捉えることでこの2点間の熱媒体移動速度を間接的に計測したとみなせることで、熱源50内の熱媒体移動速度を計算することが可能となる。
【0069】
また、熱源50内部の熱抵抗値が正確に計測できることは、熱源50の余剰熱を再利用する場合の可採熱量としての把握が可能なことを示している。すなわち、熱源50が有する熱ポテンシャルを実測可能であることから、利用可能な温度範囲を設定することで、計測している熱源50から再利用可能な、いわば可採熱量を計測するシステムを構築することもできる。
【符号の説明】
【0070】
10:熱コンダクタンス計測システム、12:熱伝導変調部、14:発熱体、14A:ペルチェ素子、16(16A、16B):熱伝導媒体、MP(MP1~MP4):温度計測点、36:冷却源、40:発熱体制御部、44:温度計測部、48:算出処理部、50:熱源、54:熱伝導路、W:加熱エネルギー、P:交流電力(変調電力)、TW:第1温度(変調状態の温度)、T0:第2温度(無変調状態の温度)、ΔT:第1温度と第2温度との差分(温度変化データ)