(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025031256
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】化学強化ガラスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 21/00 20060101AFI20250228BHJP
C03C 3/083 20060101ALI20250228BHJP
C03C 3/087 20060101ALI20250228BHJP
C03C 3/085 20060101ALI20250228BHJP
C03C 3/097 20060101ALI20250228BHJP
C03C 3/095 20060101ALI20250228BHJP
【FI】
C03C21/00 101
C03C3/083
C03C3/087
C03C3/085
C03C3/097
C03C3/095
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023137365
(22)【出願日】2023-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】藤原 祐輔
【テーマコード(参考)】
4G059
4G062
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AB02
4G059AB09
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4G062MM12
4G062NN33
4G062NN34
(57)【要約】
【課題】優れた飛び石耐性および安全性を示す化学強化ガラスおよびその製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】板厚が2mm超であり、圧縮応力層深さDOCが500~1500μm、引張応力の最大値CTmaxが20~59MPaである、化学強化ガラス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚が2mm超であり、圧縮応力層深さDOCが500~1500μm、引張応力の最大値CTmaxが20~59MPaである、化学強化ガラス。
【請求項2】
前記板厚を単位mmでtとしたとき、前記引張応力の最大値CTmaxが、以下の式(1)で算出されるCTA以下である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
CTA=-36.2ln(t)+97.7…(1)
【請求項3】
表面圧縮応力値CS0が1400MPa以下である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項4】
表面からの深さ10μmにおける圧縮応力値CS10が200MPa以下である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項5】
圧縮応力値が50MPaであるときの深さDOL50が200~600μmである、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項6】
表面からの深さ400μmにおける圧縮応力値CS400が30~100MPaである、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項7】
表面からの深さ500μmにおける圧縮応力値CS500が15~80MPaである、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項8】
表面からの深さ600μmにおける圧縮応力値CS600が0~50MPaである、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項9】
表面からの深さ400μmにおける圧縮応力値CS400と表面からの深さ10μmにおける圧縮応力値CS10との比CS400/CS10が0.30~0.80である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項10】
表面からの深さ600μmにおける圧縮応力値CS600と表面からの深さ10μmにおける圧縮応力値CS10との比CS600/CS10が0.04~0.50である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項11】
深層傾きが-0.25~-0.01である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項12】
前記板厚を単位mmでtとしたとき、前記圧縮応力層深さDOCと1000tとの比率DOC/1000tが0.15~0.30である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項13】
深さ400μmの位置から圧縮応力値がゼロである深さ位置までの圧縮応力値の板厚方向の積分値ICS400が3,000~60,000MPa・μmである、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項14】
深さ400μmの位置から圧縮応力値がゼロである深さ位置までの圧縮応力値の板厚方向の積分値ICS400と、表面から圧縮応力値がゼロである深さ位置までの圧縮応力値の板厚方向の積分値ICSとの比ICS400/ICSが0.13~0.90である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項15】
リチウム含有アルミノシリケートガラスである、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項16】
酸化物基準のモル%表示で、SiO2を52~75%、Al2O3を1~20%、Na2Oを1~20%、Li2Oを1~20%、含有する、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項17】
ISO 20567-1 Test Method Aの強度試験方法に準じて評価した割れ発生率が20%以下である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項18】
SAE J400の強度試験方法に準じて評価した割れ発生率が20%以下である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項19】
車載センサの保護部材として用いられる、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項に記載の化学強化ガラスを製造する方法であって、
板厚2mm超の化学強化用ガラスに、リチウム含有無機塩の含有量が0.1質量%以上である無機塩組成物を接触させる、化学強化ガラスの製造方法。
【請求項21】
前記化学強化用ガラスに前記無機塩組成物を接触させる時間が25時間以上である、請求項20に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項22】
前記化学強化用ガラスに前記無機塩組成物を接触させる前に、前記化学強化用ガラスを予熱する、請求項20に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項23】
前記無機塩組成物において、硝酸リチウムの含有量が1質量%以上であり、硝酸ナトリウムの含有量が80質量%以上である、請求項20に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学強化ガラスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車や電車、ドローンなどの移動機器、また屋外センサ、監視カメラなどの防犯装置には、多様な機能を有する複数のセンサが搭載されている。
センサを保護する保護部材の素材としては、可視光を通す高透過性を有し、優れた強度を有するものを選択することが望ましい。
センサを保護する保護部材としてガラスを用いたセンサモジュールが知られおり、例えば、特許文献1には、保護部材として化学強化ガラスを用いたセンサモジュールが開示されている。
【0003】
化学強化ガラスは、ガラスを硝酸ナトリウムや硝酸カリウムなどの無機塩組成物に接触させる化学強化処理(イオン交換処理)により、ガラスの表面部分に圧縮応力層を形成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
センサを保護するガラスに望まれる強度は大きく分けて三種ある。
第一に飛び石耐性である。センサを移動機器に搭載する場合、走行中に飛び石等の異物がセンサモジュールに衝突する場合がある。飛び石等の衝突により外部から瞬間的な衝撃が加わると、衝突時の応力が緩和されずに集中応力が発生し、保護部材であるガラスおよびセンサが破損するおそれがある。そのため、センサを保護するガラスには、優れた飛び石耐性が求められる。
【0006】
第二に落球衝撃強度(以下、落球強度とも略す)である。センサを保護するガラスに物が衝突した際またはガラスを落とした際などに簡単に破壊しない強度が必要である。
【0007】
第三に、飛び石に対する耐傷性(以下、耐傷性とも略す)である。飛び石等の衝突によりガラス表面に生じる傷、ならびに、傷により生じる割れおよび外観の悪化が問題となるため、傷の面積および深さを低減する耐傷性が求められる。
【0008】
飛び石耐性を高めるためには、板厚に対し、一定以上の割合の深さまで圧縮応力層を形成することが有効である。
しかしながら、板厚が2mm超の化学強化用ガラスに対し十分な深さまで圧縮応力層を形成するために長時間の化学強化処理を行うと、ガラス表面の圧縮応力の総量が高くなり、対応してCTも高くなりCTリミットを超えてしまい、破壊時に破砕片が非常に細かくなり、広範囲に飛散してしまうという安全性の問題がある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされ、優れた飛び石耐性および安全性を示す化学強化ガラスおよびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を検討したところ、板厚が2mm超の化学強化用ガラスに対して、特定の溶融塩組成物を用いて化学強化処理を実施することで、特定の応力プロファイルを有する化学強化ガラスが得られ、飛び石耐性および安全性が向上できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明の一形態は以下の通りである。
[1]板厚が2mm超であり、圧縮応力層深さDOCが500~1500μm、引張応力の最大値CTmaxが20~59MPaである、化学強化ガラス。
[2]上記板厚を単位mmでtとしたとき、上記引張応力の最大値CTmaxが、以下の式(1)で算出されるCTA以下である、上記[1]に記載の化学強化ガラス。
CTA=-36.2ln(t)+97.7…(1)
[3]表面圧縮応力値CS0が1400MPa以下である、上記[1]または[2]に記載の化学強化ガラス。
[4]表面からの深さ10μmにおける圧縮応力値CS10が200MPa以下である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の化学強化ガラス。
[5]圧縮応力値が50MPaであるときの深さDOL50が200~600μmである、上記[1]~[4]のいずれかに記載の化学強化ガラス。
[6]表面からの深さ400μmにおける圧縮応力値CS400が30~100MPaである、上記[1]~[5]のいずれかに記載の化学強化ガラス。
[7]表面からの深さ500μmにおける圧縮応力値CS500が15~80MPaである、上記[1]~[6]のいずれかに記載の化学強化ガラス。
[8]表面からの深さ600μmにおける圧縮応力値CS600が0~50MPaである、上記[1]~[7]のいずれかに記載の化学強化ガラス。
[9]表面からの深さ400μmにおける圧縮応力値CS400と表面からの深さ10μmにおける圧縮応力値CS10との比CS400/CS10が0.30~0.80である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の化学強化ガラス。
[10]表面からの深さ600μmにおける圧縮応力値CS600と表面からの深さ10μmにおける圧縮応力値CS10との比CS600/CS10が0.04~0.50である、上記[1]~[9]のいずれかに記載の化学強化ガラス。
[11]深層傾きが-0.25~-0.01である、上記[1]~[10]のいずれかに記載の化学強化ガラス。
[12]上記板厚を単位mmでtとしたとき、上記圧縮応力層深さDOCと1000tとの比率DOC/1000tが0.15~0.30である、上記[1]~[11]のいずれかに記載の化学強化ガラス。
[13]深さ400μmの位置から圧縮応力値がゼロである深さ位置までの圧縮応力値の板厚方向の積分値ICS400が3,000~60,000MPa・μmである、上記[1]~[12]のいずれかに記載の化学強化ガラス。
[14]深さ400μmの位置から圧縮応力値がゼロである深さ位置までの圧縮応力値の板厚方向の積分値ICS400と、表面から圧縮応力値がゼロである深さ位置までの圧縮応力値の板厚方向の積分値ICSとの比ICS400/ICSが0.13~0.90である、上記[1]~[13]のいずれかに記載の化学強化ガラス。
[15]リチウム含有アルミノシリケートガラスである、上記[1]~[14]のいずれかに記載の化学強化ガラス。
[16]酸化物基準のモル%表示で、SiO2を52~75%、Al2O3を1~20%、Na2Oを1~20%、Li2Oを1~20%、含有する、上記[1]~[15]のいずれかに記載の化学強化ガラス。
[17]ISO 20567-1 Test Method Aの強度試験方法に準じて評価した割れ発生率が20%以下である、上記[1]~[16]のいずれかに記載の化学強化ガラス。
[18]SAE J400の強度試験方法に準じて評価した割れ発生率が20%以下である、上記[1]~[17]のいずれかに記載の化学強化ガラス。
[19]車載センサの保護部材として用いられる、上記[1]~[18]のいずれかに記載の化学強化ガラス。
[20]上記[1]~[19]のいずれかに記載の化学強化ガラスを製造する方法であって、板厚2mm超の化学強化用ガラスに、リチウム含有無機塩の含有量が0.1質量%以上である無機塩組成物を接触させる、化学強化ガラスの製造方法。
[21]上記化学強化用ガラスに上記無機塩組成物を接触させる時間が25時間以上である、上記[20]に記載の化学強化ガラスの製造方法。
[22]上記化学強化用ガラスに上記無機塩組成物を接触させる前に、上記化学強化用ガラスを予熱する、上記[20]または[21]に記載の化学強化ガラスの製造方法。
[23]上記無機塩組成物において、硝酸リチウムの含有量が1質量%以上であり、硝酸ナトリウムの含有量が80質量%以上である、上記[20]~[22]のいずれかに記載の化学強化ガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた飛び石耐性および安全性を示す化学強化ガラスおよびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)および(b)は、化学強化ガラスを保護部材として用いた構成例を示す斜視図である。
【
図2】割れ挙動の評価方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。
【0015】
本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含む意味で使用する。
【0016】
本明細書において、ガラスの組成(各成分の含有量)について、特に断らない限り、酸化物基準のモル百分率表示し、モル百分率を単に「%」と表記する。
【0017】
本明細書において「実質的に含有しない」とは、原材料等に含まれる不純物レベル以下である、つまり意図的に加えたものではないことをいう。具体的には、たとえば0.1%未満である。
【0018】
以下において、「化学強化ガラス」は、化学強化処理を施した後のガラスを指し、「化学強化用ガラス」は、化学強化処理を施す前のガラスを指す。
【0019】
本明細書において「応力プロファイル」はガラス表面からの深さを変数として圧縮応力値を表したものをいう。応力プロファイルにおいて、引張応力は負の圧縮応力の絶対値として正の値で表される。
【0020】
本明細書において「圧縮応力層深さ(DOC)」は、ガラス表面から圧縮応力値がゼロである位置までの深さ(表面からの距離)である。
以下では、表面圧縮応力値をCS0、表面からの深さ10μmにおける圧縮応力値をCS10、表面からの深さ50μmにおける圧縮応力値をCS50、表面からの深さ400μmにおける圧縮応力値をCS400、表面からの深さ500μmにおける圧縮応力値をCS500、表面からの深さ600μmにおける圧縮応力値をCS600、と記すことがある。
圧縮応力値が50MPaであるときの深さをDOL50と表記する。
また、「引張応力(CT)」は、板厚tの1/2の深さにおける引張応力値をいう。
【0021】
<応力プロファイルの測定方法>
本明細書においては、散乱光光弾性応力計(SLP)およびガラス表面応力計(FSM)により測定された応力プロファイルを用いる。
本明細書中では、特に断らない場合、圧縮応力CS、引張応力CT、圧縮応力層深さDOCなどの値は、SLP応力プロファイルにおける値を意味する。
化学強化処理を2段階以上実施し、かつ、2段階目の化学強化処理において、カリウム含有無機塩(カリウムイオン)を含む無機塩組成物を用いた場合、その場合に得られる化学強化ガラスの最表面の圧縮応力値は、FSMで測定された値を用いる。
【0022】
散乱光光弾性応力計(SLP)を用いる応力プロファイルの測定方法としては、国際公開第2018/056121号に記載の方法が挙げられる。
散乱光光弾性応力計(SLP)としては、折原製作所社製のSLP-2000を用いる。
その他の測定条件(使用するソフトウェアなど)は、後述する。
【0023】
ガラス表面応力計(FSM)を用いる応力プロファイルの測定方法としては、国際公開第2018/056121号、国際公開第2017/115811号に記載の方法が挙げられる。
ガラス表面応力計(FSM)としては、折原製作所社製のFSM6000-UVを用いる。
【0024】
以下、各実施形態について説明する。
【0025】
<化学強化用ガラス>
<<第1実施形態>>
第1実施形態の化学強化用ガラスは、リチウム含有アルミノシリケートガラスであることが好ましい。
リチウム含有アルミノシリケートガラスの好ましい組成としては、酸化物基準のモル%表示で、SiO2を52~75%、Al2O3を1~20%、Na2Oを1~20%、Li2Oを1~20%、含有することが好ましい。
【0026】
より好ましくは、化学強化用ガラスは、酸化物基準のモル%表示で、
SiO2を52~75%、
Al2O3を1~20%、
Li2Oを1~20%、
Na2Oを1~20%、
K2Oを0~5%、
MgOを0~20%、
CaOを0~20%、
SrOを0~20%、
BaOを0~20%、
ZnOを0~20%
TiO2を0~1%
ZrO2を0~8%、
Y2O3を0~5%を含有する。
【0027】
<<第2実施形態>>
第2実施形態の化学強化用ガラスは、結晶質を含むガラスであることが好ましい。結晶質を含むガラスの好ましい組成としては、酸化物基準のモル%表示で、SiO2を40~70%、Li2Oを10~35%、Al2O3を1~15%、含有する組成が好ましい。
【0028】
より好ましくは、化学強化用ガラスは、酸化物基準のモル%表示で、
SiO2を40~70%、
Li2Oを10~35%、
Al2O3を1~15%、
P2O5を0.5~5%、
ZrO2を0.5~5%、
B2O3を0~10%、
Na2Oを0~10%、
K2Oを0~5%、
SnO2を0~4%、含有する。
【0029】
<<ガラス組成>>
以下、好ましいガラス組成について説明する。
【0030】
<<<SiO2>>>
第1実施形態における化学強化用ガラスにおいて、SiO2はガラスのネットワーク構造を形成する成分である。また、化学的耐久性を上げる成分である。SiO2の含有量は52%以上が好ましく、より好ましくは56%以上、さらに好ましくは60%以上、特に好ましくは64%以上である。
一方、溶融性を良くするためにSiO2の含有量は75%以下が好ましく、より好ましくは73%以下、さらに好ましくは71%以下、特に好ましくは69%以下である。
【0031】
第2実施形態における化学強化用ガラスにおいて、SiO2の含有量は40%以上が好ましい。SiO2の含有量は、より好ましくは45%以上、さらに好ましくは48%以上、よりさらに好ましくは50%以上、特に好ましくは52%以上、最も好ましくは54%以上である。
一方、溶融性を良くするためにSiO2の含有量は70%以下が好ましく、より好ましくは68%以下、さらに好ましくは66%以下、特に好ましくは64%以下である。
【0032】
<<<Al2O3>>>
第1実施形態における化学強化用ガラスにおいて、Al2O3は化学強化による表面圧縮応力を大きくする成分であり、必須である。Al2O3の含有量は好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは4%以上、特に好ましくは6%以上である。
一方、Al2O3の含有量は、ガラスの失透温度が高くなりすぎないために20%以下が好ましく、18%以下がより好ましく、以下順に17%以下、16%以下がさらに好ましく、15%以下が特に好ましい。
【0033】
第2実施形態における化学強化用ガラスにおいて、Al2O3の含有量は好ましくは1%以上であり、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは以下順に3%以上、5%以上、5.5%以上、6%以上、特に好ましくは6.5%以上、最も好ましくは7%以上である。
一方、Al2O3の含有量は、ガラスの失透温度が高くなりすぎないために15%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、9%以下が特に好ましく、8%以下が最も好ましい。
【0034】
<<<Na2O>>>
第1実施形態における化学強化用ガラスにおいて、Na2Oは、ガラスの溶融性を向上させ、イオン交換により表面圧縮応力を形成させる成分である。Na2Oの含有量は好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上であり、さらに好ましくは4%以上である。
Na2Oは多すぎると化学強化特性が低下するため、Na2Oの含有量は20%以下が好ましく、18%以下がより好ましく、16%以下がさらに好ましく、14%以下が特に好ましい。
【0035】
第2実施形態における化学強化用ガラスにおいて、Na2Oは必須ではないが、含有する場合は好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは2%以上である。
Na2Oは多すぎると主結晶であるLi3PO4などの結晶が析出しにくくなり、または化学強化特性が低下するため、Na2Oの含有量は10%以下が好ましく、9%以下がより好ましく、8%以下がさらに好ましく、7%以下が特に好ましく、3%以下が最も好ましい。
【0036】
<<<K2O>>>
第1実施形態における化学強化用ガラスにおいて、K2Oは、Na2Oと同じくガラスの溶融温度を下げるとともに、イオン交換により表面圧縮応力を形成させる成分である。
K2Oを含有する場合、その含有量は、好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.3%以上、さらに好ましくは0.4%以上、特に好ましくは0.5%以上である。
K2Oは多すぎると化学強化特性が低下する、または化学的耐久性が低下するため、好ましくは5%以下、より好ましくは4.8%以下、さらに好ましくは4.5%以下、特に好ましくは4.2%以下、最も好ましくは4.0%以下である。
【0037】
第2実施形態における化学強化用ガラスにおいて、K2Oを含有する場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上である。
K2Oは多すぎると化学強化特性が低下する、または化学的耐久性が低下するため、好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下である。
【0038】
<<<Na2O+K2O>>>
第1実施形態における化学強化用ガラスにおいて、Na2OおよびK2Oの合計の含有量Na2O+K2Oはガラス原料の溶融性を向上し、イオン交換により表面圧縮応力を形成させる観点から、1%以上が好ましく、2%以上がより好ましい。
【0039】
第2実施形態における化学強化用ガラスにおいて、Na2OおよびK2Oの合計の含有量Na2O+K2Oはガラス原料の溶融性を向上するために1%以上が好ましく、2%以上がより好ましい。
【0040】
<<<Li2O>>>
第1実施形態における化学強化用ガラスにおいて、Li2Oは、イオン交換により表面圧縮応力を形成させる成分である。Li2Oを含有する場合、その含有量は、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは4%以上、特に好ましくは5%以上である。
一方、ガラスを安定にするためにLi2Oの含有量は、20%以下が好ましく、より好ましくは17%以下、さらに好ましくは16%以下、特に好ましくは15%以下である。
【0041】
第2実施形態における化学強化用ガラスにおいて、Li2Oの含有量は、好ましくは10%以上、より好ましくは14%以上、さらに好ましくは15%以上、よりさらに好ましくは18%以上、特に好ましくは20%以上、最も好ましくは22%以上である。
一方、ガラスを安定にするためにLi2Oの含有量は、35%以下が好ましく、より好ましくは32%以下、さらに好ましくは30%以下、特に好ましくは28%以下、最も好ましくは26%以下である。
【0042】
<<<K2O/R2O>>>
第1実施形態における化学強化用ガラスにおいて、Li2O、Na2OおよびK2Oの含有量の合計(以下、R2O)に対するK2O含有量の比K2O/R2Oは0.2以下であると、化学強化特性を高くし、化学的耐久性を高くできるので好ましい。
K2O/R2Oは0.15以下がより好ましく、0.10以下がさらに好ましい。なお、R2Oは10%以上が好ましく、12%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましい。また、R2Oは20%以下が好ましく、18%以下がより好ましい。
【0043】
第2実施形態における化学強化用ガラスにおいて、Li2O、Na2OおよびK2Oの含有量の合計(以下、R2O)に対するK2O含有量の比K2O/R2Oは0.2以下であると、化学強化特性を高くし、化学的耐久性を高くできるので好ましい。
K2O/R2Oは0.15以下がより好ましく、0.10以下がさらに好ましい。なお、R2Oは10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましい。また、R2Oは29%以下が好ましく、26%以下がより好ましい。
【0044】
<<<MgO>>>
MgOは、ガラスを安定化させる成分であり、機械的強度と耐薬品性を高める成分でもあるため、Al2O3含有量が比較的少ない等の場合には、含有することが好ましい。MgOを含有させる場合の含有量は、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上、特に好ましくは4%以上である。
一方、MgOを添加し過ぎるとガラスの粘性が下がり失透または分相が起こりやすくなる。MgOの含有量は、20%以下が好ましく、より好ましくは19%以下、さらに好ましくは18%以下、特に好ましくは17%以下である。
【0045】
CaO、SrO、BaOおよびZnOは、いずれもガラスの溶融性を向上する成分であり含有してもよい。
【0046】
<<<CaO>>>
CaOは、ガラスの溶融性を向上する成分であり、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。CaOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。
一方、CaOの含有量が多すぎるとイオン交換性能が著しく低下するため20%以下が好ましい。CaOの含有量は、より好ましくは14%以下であり、さらに好ましくは、以下、段階的に、10%以下、8%以下、6%以下、3%以下、1%以下である。
【0047】
<<<SrO>>>
SrOは、ガラスの溶融性を向上する成分であり、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。SrOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。
一方、SrOの含有量が多すぎるとイオン交換性能が著しく低下するため20%以下が好ましい。SrOの含有量は、より好ましくは14%以下であり、さらに好ましくは、以下、段階的に、10%以下、8%以下、6%以下、3%以下、1%以下である。
【0048】
<<<BaO>>>
BaOは、ガラスの溶融性を向上する成分であり、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。BaOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。
一方、BaOの含有量が多すぎるとイオン交換性能が著しく低下するため20%以下が好ましい。BaOの含有量は15%以下がより好ましく、さらに好ましくは、以下、段階的に、10%以下、8%以下、6%以下、3%以下、1%以下である。
【0049】
<<<ZnO>>>
ZnOはガラスの溶融性を向上させる成分であり、含有させてもよい。ZnOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.25%以上であり、より好ましくは0.5%以上である。
一方、ZnOの含有量が多すぎるとガラスの耐候性が著しく低下するため20%以下が好ましい。ZnOの含有量はより好ましくは14%以下であり、さらに好ましくは、以下、段階的に、10%以下、8%以下、6%以下、3%以下、1%以下である。
【0050】
<<<ZrO2>>>
ZrO2は、機械的強度と化学的耐久性を高める成分であり、CSを著しく向上させるため、含有することが好ましい。ZrO2を含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは0.7%以上、さらに好ましくは1.0%以上、特に好ましくは1.2%以上であり、最も好ましくは1.5%以上である。
一方、溶融時の失透を抑制するために、ZrO2は8%以下が好ましく、7.5%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましく、6%以下が特に好ましい。
ZrO2の含有量が多すぎると失透温度の上昇により粘性が低下する。かかる粘性の低下により成形性が悪化するのを抑制するため、成形粘性が低い場合は、ZrO2の含有量は5%以下が好ましく、4.5%以下がより好ましく、3.5%以下がさらに好ましい。
【0051】
<<<ZrO2/R2O>>>
ZrO2/R2Oは、化学的耐久性を高くするためには、0.02以上が好ましく、0.04以上がより好ましく、0.06以上がさらに好ましく、0.08以上が特に好ましく、0.1以上が最も好ましい。
ZrO2/R2Oは、0.2以下が好ましく、0.18以下がより好ましく、0.16以下がさらに好ましく、0.14以下が特に好ましい。
【0052】
<<<TiO2>>>
TiO2は必須ではないが、含有する場合は、好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.1%以上である。
一方、溶融時の失透を抑制するために、TiO2の含有量は1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.3%以下がさらに好ましい。
【0053】
<<<SnO2>>>
SnO2は必須ではないが、含有する場合、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上である。
一方、溶融時の失透を抑制するために、SnO2の含有量は4%以下が好ましく、3.5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましく、2.5%以下が特に好ましい。
【0054】
<<<Y2O3>>>
Y2O3は化学強化ガラスが破壊した時に破片が飛散しにくくする効果のある成分であり、含有させてよい。Y2O3を含有させる場合の含有量は、好ましくは0.3%以上、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは0.7%以上、特に好ましくは1.0%以上である。
一方、溶融時の失透を抑制するために、Y2O3の含有量は5%以下が好ましく、4%以下がより好ましい。
【0055】
<<<B2O3>>>
B2O3は、化学強化用ガラスまたは化学強化ガラスのチッピング耐性を向上させ、また溶融性を向上させる成分であり、含有してもよい。B2O3を含有する場合の含有量は、溶融性を向上するために、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。
一方、B2O3の含有量が多すぎると溶融時に脈理が発生したり、分相しやすくなったりして化学強化用ガラスの品質が低下しやすいため10%以下が好ましい。B2O3の含有量は、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下であり、特に好ましくは4%以下である。
【0056】
<<<La2O3+Nb2O5+Ta2O5>>>
La2O3、Nb2O5およびTa2O5は、いずれも化学強化ガラスが破壊した時に破片が飛散しにくくする成分であり、屈折率を高くするために、含有させてもよい。
これらを含有する場合、La2O3、Nb2O5およびTa2O5の含有量の合計(以下、La2O3+Nb2O5+Ta2O5)は好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上であり、特に好ましくは2%以上である。
また、溶融時にガラスが失透しにくくなるために、La2O3+Nb2O5+Ta2O5は4%以下が好ましく、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下であり、特に好ましくは1%以下である。
【0057】
<<<CeO2>>>
また、CeO2を含有してもよい。CeO2はガラスを酸化することで着色を抑える場合がある。CeO2を含有する場合の含有量は0.03%以上が好ましく、0.05%以上がより好ましく、0.07%以上がさらに好ましい。
CeO2の含有量は、透明性を高くするために1.5%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましい。
【0058】
<<<着色成分>>>
化学強化ガラスを着色して使用する際は、所望の化学強化特性の達成を阻害しない範囲において着色成分を添加してもよい。着色成分としては、例えば、Co3O4、MnO2、Fe2O3、NiO、CuO、Cr2O3、V2O5、Bi2O3、SeO2、Er2O3、Nd2O3が挙げられる。
着色成分の含有量は、合計で1%以下の範囲が好ましい。ガラスの可視光透過率をより高くしたい場合は、これらの成分は実質的に含有しないことが好ましい。
【0059】
<<<HfO2、Nb2O5およびTi2O3>>>
紫外光の照射に対する耐候性を高めるために、HfO2、Nb2O5、Ti2O3を添加してもよい。紫外光照射に対する耐候性を高める目的で添加する場合には、他の特性に影響を抑えるために、HfO2、Nb2O5およびTi2O3の含有量の合計は1%以下が好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、0.1%以下がより好ましい。
【0060】
<<<清澄剤>>>
また、ガラスの溶融の際の清澄剤として、SO3、塩化物、フッ化物を適宜含有してもよい。清澄剤として機能する成分の含有量の合計は、添加しすぎると強化特性に影響をおよぼすため、酸化物基準の質量%表示で、2%以下が好ましく、より好ましくは1%以下であり、さらに好ましくは0.5%以下である。
下限は特に制限されないが、典型的には、酸化物基準の質量%表示で、合計で0.05%以上が好ましい。
【0061】
清澄剤としてSO3を用いる場合のSO3の含有量は、少なすぎると効果が見られないため、酸化物基準の質量%表示で、0.01%以上が好ましく、より好ましくは0.05%以上であり、さらに好ましくは0.1%以上である。
また、清澄剤としてSO3を用いる場合のSO3の含有量は、酸化物基準の質量%表示で、1%以下が好ましく、より好ましくは0.8%以下であり、さらに好ましくは0.6%以下である。
【0062】
清澄剤としてClを用いる場合のClの含有量は、添加しすぎると強化特性などの物性に影響をおよぼすため、酸化物基準の質量%表示で、1%以下が好ましく、0.8%以下がより好ましく、0.6%以下がさらに好ましい。
また、清澄剤としてClを用いる場合のClの含有量は、少なすぎると効果が見られないため、酸化物基準の質量%表示で、0.05%以上が好ましく、より好ましくは0.1%以上であり、さらに好ましくは0.2%以上である。
【0063】
清澄剤としてSnO2を用いる場合のSnO2の含有量は、酸化物基準の質量%表示で、1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.3%以下がさらに好ましい。
また、清澄剤としてSnO2を用いる場合のSnO2の含有量は、少なすぎると効果が見られないため、酸化物基準の質量%表示で、0.02%以上が好ましく、より好ましくは0.05%以上であり、さらに好ましくは0.1%以上である。
【0064】
<<<P2O5>>>
第1実施形態における化学強化用ガラスにおいて、P2O5は含有しないことが好ましい。P2O5を含有する場合は、2.0%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0065】
第2実施形態における化学強化用ガラスにおいて、P2O5は、Li3PO4結晶の構成成分であり、必須である。P2O5の含有量は、結晶化を促進するために、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上、最も好ましくは2.5%以上である。
一方、P2O5含有量が多すぎると、溶融時に分相しやすくなり、また耐酸性が著しく低下するので、P2O5の含有量は、好ましくは5%以下、より好ましくは4.8%以下、さらに好ましくは4.5%以下、特に好ましくは4.2%以下である。
【0066】
<<<As2O3およびSb2O3>>>
As2O3は含有しないことが好ましい。
Sb2O3を含有する場合は、0.3%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0067】
<<ガラス組成(各成分の含有量)の測定方法>>
化学強化用ガラスおよび後述する化学強化ガラスのガラス組成(各成分の含有量)は、電子プローブマイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)を用いた分析により求める。
より詳細には、EPMAとして、JXA-8500F(JEOL社製)を用いて、下記条件にて分析する。
・分光結晶:Na、Si、Al、P、Sr、Zn、Sn成分に対してはTAP結晶、Caに対してはPETJ結晶、Mgに対してはTAPH結晶、K、Zr、Y、Ti、Baに対してはPETH結晶
・電子線加速電圧:15kV
・照射電子線電流:10nA
・照射取り込み時間:ピーク位置10s、バックグラウンド位置5s
・使用解析ソフト:装置付帯JEOL社製ソフト
【0068】
<<結晶化ガラス>>
化学強化用ガラスは、結晶化ガラスであってもよい。
結晶化ガラスである場合には、ケイ酸リチウム結晶、リチウムアルミノシリケート結晶、ジルコニウム含有結晶、マグネシウム含有結晶およびリン酸リチウム結晶からなる群から選ばれる1以上の結晶を含有する結晶化ガラスが好ましい。
ケイ酸リチウム結晶としては、メタケイ酸リチウム結晶、ジケイ酸リチウム結晶等が好ましい。
リン酸リチウム結晶としては、オルトリン酸リチウム結晶等が好ましい。
リチウムアルミノシリケート結晶としては、β石英固溶体、β-スポジュメン結晶、ペタライト結晶等が好ましい。
ジルコニウム含有結晶としては、ジルコニア、ジルコニア固溶体等が好ましい。ジルコニア固溶体には、Y、Sn等が固溶していてもよい。
マグネシウム含有結晶としては、ケイ酸マグネシウム等が好ましい。
【0069】
結晶化ガラスの結晶化率は、機械的強度を高くするために、10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましく、25%以上が特に好ましい。
また、透明性を高くするために、70%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、50%以下が特に好ましい。結晶化率が小さいことは、加熱して曲げ成形等しやすい点でも優れている。
結晶化率は、X線回折強度からリートベルト法で算出できる。
リートベルト法については、日本結晶学会「結晶解析ハンドブック」編集委員会編、「結晶解析ハンドブック」(協立出版 1999年刊、p492~499)に記載されている。
【0070】
<<化学強化用ガラスの製造方法>>
化学強化用ガラスの製造方法としては、所望の組成のガラスが得られるように、ガラス原料を適宜調合し、ガラス溶融窯で加熱溶融した後、バブリング、撹拌、清澄剤の添加等によりガラスを均質化し、所定の厚さのガラス板に成形し、徐冷する。またはブロック状に成形して徐冷した後に切断する方法で板状に成形してもよい。
【0071】
板状に成形する方法としては、例えば、フロート法、プレス法、フュージョン法およびダウンドロー法が挙げられる。特に、大型のガラス板を製造する場合は、フロート法が好ましい。また、フロート法以外の連続成形法、例えば、フュージョン法およびダウンドロー法が挙げられる。上記のようなガラス成形方法によって平板形状に成形するために、本実施の形態に係る化学強化用ガラスは130dPa・s以上の液相粘度を有することが好ましい。
【0072】
本実施形態に係る化学強化用ガラスは、通常、板形状をしているが、平板でも曲げ加工を施したガラス板でもよい。
【0073】
<化学強化ガラス>
<<ガラス組成>>
本実施形態において、化学強化ガラスのガラス組成は、化学強化ガラスの圧縮応力層深さより深い部分のガラス組成であり、極端なイオン交換処理がされた場合を除いて、化学強化用ガラスの組成と同じである。
すなわち、第1実施形態における化学強化ガラスにおいて、化学強化ガラスの母組成が、酸化物基準のモル%表示で、SiO2を52~75%、Al2O3を1~20%、Na2Oを1~20%、Li2Oを1~20%、含有することが好ましい。
第2実施形態における化学強化ガラスにおいて、化学強化ガラスの母組成が、酸化物基準のモル%表示で、SiO2を40~70%、Li2Oを10~35%、Al2O3を1~15%、含有する組成が好ましい。
【0074】
<<板厚>>
本実施形態の化学強化ガラスは、板厚が2mm超であり、好ましくは2.5mm以上、より好ましくは3mm以上、さらに好ましくは4mm以上、特に好ましくは5mm以上である。板厚が2mm超であることにより、強度を高め、優れた飛び石耐性を示す。
また、軽量化を図る観点から、板厚は好ましくは7mm以下、より好ましくは6.6mm以下、さらに好ましくは6.2mm以下、特に好ましくは5.8mm以下である。
【0075】
<<化学強化ガラスの製造方法>>
<<<工程A>>>
本実施形態の化学強化ガラスの製造方法は、板厚2mm超の化学強化用ガラスに、リチウム含有無機塩の含有量が0.1質量%以上である無機塩組成物を接触させる工程(以下、工程Aとも略す)を備える。
【0076】
工程Aでは、化学強化処理(イオン交換処理)を実施する。
化学強化処理は、ガラスを無機塩組成物に接触させて、ガラス中の金属イオンと、無機塩組成物中にある、ガラス中の金属イオンよりイオン半径の大きい金属イオンと、を置換することにより、ガラスの表層に圧縮応力層を形成する処理である。
【0077】
無機塩組成物にガラスを接触させる方法としては、ペースト状の無機塩組成物をガラスに塗布する方法、無機塩組成物の水溶液をガラスに噴射する方法、融点以上に加熱して溶融させた無機塩組成物(「溶融塩」ともいう)にガラスを浸漬させる方法などが挙げられる。これらの中では、生産性を向上させる観点から、溶融させた無機塩組成物(溶融塩)にガラスを浸漬させる方法が好ましい。
【0078】
本明細書において、「無機塩組成物」とは、無機塩を含有する組成物をさす。
無機塩組成物に含まれる無機塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、塩化物などが挙げられる。
硝酸塩としては、例えば、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム、硝酸ルビジウム、硝酸銀などが挙げられる。
硫酸塩としては、例えば、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸セシウム、硫酸ルビジウム、硫酸銀などが挙げられる。
炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸ルビジウム、炭酸銀などが挙げられる。
塩化物としては、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化ルビジウム、塩化銀などが挙げられる。
これらは単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
無機塩組成物の主成分は、硝酸塩が好ましく、より好ましくは硝酸ナトリウムまたは硝酸カリウムである。ここで「主成分」とは、無機塩組成物における含有量が80質量%以上である成分を指す。
【0080】
リチウム含有無機塩は、例えば、硝酸リチウム、硫酸リチウム、炭酸リチウム、塩化リチウムであり、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
これらのうち、リチウム含有無機塩としては、硝酸リチウムが好ましい。
【0081】
リチウム含有無機塩の含有量は、無機塩組成物の全重量に対する、リチウム含有無機塩の質量の割合を指す。
無機塩組成物におけるリチウム含有無機塩の含有量は、0.1質量%以上であり、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、特に好ましくは4質量%以上、最も好ましくは6質量%以上である。
【0082】
一方、無機塩組成物におけるリチウム含有無機塩の含有量は、20質量%以下が好ましく、18質量%以下がより好ましく、16質量%以下がさらに好ましく、14質量%以下が特に好ましく、12質量%以下が最も好ましい。
【0083】
工程Aにおける無機塩組成物は、リチウム含有無機塩に加えて、他の無機塩を含有してもよい。他の無機塩としては、例えば、炭酸カリウム、硫酸カリウム、塩化カリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウムが挙げられ、これらの中でも硝酸ナトリウムが好ましい。
【0084】
上述した無機塩組成物を用いる工程Aにおいては、例えば、ガラス中のリチウムイオンと無機塩組成物中のナトリウムイオンとが交換され、同時に、ガラス中のナトリウムイオンと無機塩組成物のカリウムイオンとが交換される。
【0085】
工程Aにおける無機塩組成物には、pH低下剤として、ケイ酸を添加してもよい。
硝酸塩を含む無機塩組成物を高温で長時間加熱すると、硝酸塩が分解することにより、溶融した無機塩組成物(溶融塩)のpHが上昇し、溶融塩中のOH-によるガラスネットワーク切断反応によりガラス表面の外観不良を引き起こすことがある。ケイ酸を添加すると、中和効果によりpHの上昇を抑制できる。ケイ酸としては特にシリカゲルまたはメタケイ酸が好ましい。
【0086】
工程Aにおいて、化学強化用ガラスと接触させる無機塩組成物の温度は、360℃以上が好ましく、より好ましくは370℃以上、さらに好ましくは380℃以上、特に好ましくは390℃以上である。
また、無機塩組成物の温度は、イオン交換後の外観品質を良好に維持した状態で、飛び石耐性、落球強度および耐傷性を高める観点から、500℃以下が好ましく、より好ましくは480℃以下、さらに好ましくは465℃以下、特に好ましくは455℃以下である。
【0087】
工程Aにおいて、無機塩組成物に化学強化用ガラスを接触させる時間(接触時間)は、例えば24時間以上であり、表面圧縮応力値を高める観点から、25時間以上が好ましく、より好ましくは36時間以上、さらに好ましくは48時間以上、特に好ましくは60時間以上である。
また、飛び石耐性、および安全性を向上させる観点から、接触時間は、200時間以下が好ましく、より好ましくは150時間以下、さらに好ましくは120時間以下、特に好ましくは100時間以下である。
【0088】
工程Aにおける化学強化処理(イオン交換処理)は、1段階の処理であってもよいし、異なる条件で実施する2段階以上の処理(多段強化処理)としてもよい。
多段強化処理を実施する場合、1段目または2段目以降のいずれかのイオン交換処理において、リチウム含有無機塩の含有量が0.1質量%以上である無機塩組成物を用いればよい。
【0089】
工程Aにおいて多段強化処理を実施する場合、本実施形態の化学強化ガラスの製造方法は、工程Aの後に、化学強化用ガラスを加熱する工程(以下、工程Bとも略す)を含んでもよい。
【0090】
<<<工程B>>>
工程Bは、化学強化用ガラスを無機塩組成物と接触させずに100℃以上の加熱温度まで加熱する工程である。
加熱温度は、200℃以上がより好ましく、300℃以上がさらに好ましい。
作業効率および化学強化用ガラスの変形等を防ぐため、加熱温度は500℃以下が好ましい。
工程Bの加熱時間は0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、2時間以上がさらに好ましい。
作業効率の観点から、工程Bの加熱時間は、12時間以下が好ましい。
【0091】
<<<予熱工程>>>
本実施形態の化学強化ガラスの製造方法は、工程Aを実施する前に化学強化用ガラスを加熱する、予熱工程を備えていてもよい。
予熱工程は、化学強化用ガラスを、無機塩組成物と接触させずに、100℃以上の予熱温度まで加熱する工程である。予熱温度は、150℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、300℃以上がさらに好ましい。
一方、化学強化用ガラスの変形等を防ぐため、予熱温度は、500℃以下が好ましい。
十分に安定して加熱を行う観点から、予熱工程の加熱時間は、10分以上が好ましく、30分以上がより好ましく、1時間以上がさらに好ましい。
作業効率の観点から、予熱工程の加熱時間は、5時間以下が好ましい。
【0092】
<<応力プロファイル>>
<<<DOC>>>
本実施形態において、化学強化ガラスは、優れた飛び石耐性を示すという理由から、圧縮応力層深さDOCが500μm以上であり、好ましくは550μm以上、より好ましくは600μm以上、特に好ましくは650μm以上である。
同様の理由から、DOCは1500μm以下であり、好ましくは1400μm以下、より好ましくは1300μm以下、さらに好ましくは1200μm以下、特に好ましくは1100μm以下である。
【0093】
<<<DOC/1000t>>>
本実施形態において、化学強化ガラスの板厚をt(単位:mm)としたとき、圧縮応力層深さDOCと1000t(単位をmmからμmに変換した板厚)との比率(DOC/1000t)は、飛び石耐性がより優れるという理由から、0.15以上が好ましく、より好ましくは0.16以上、さらに好ましくは0.18以上、特に好ましくは0.20以上である。
同様の理由から、DOCと1000tとの比率(DOC/1000t)は、0.30以下が好ましく、より好ましくは0.27以下、さらに好ましくは0.25以下、特に好ましくは0.24以下、最も好ましくは0.23以下である。
【0094】
<<<DOL50>>>
本実施形態の化学強化ガラスにおいて、圧縮応力値が50MPaであるときの深さDOL50は、200μm以上が好ましく、280μm以上がより好ましく、350μm以上がさらに好ましい。
一方、DOL50は、600μm以下が好ましく、550μm以下がより好ましく、500μm以下がさらに好ましい。
【0095】
<<<CTmax>>>
本実施形態において、化学強化ガラスは、飛び石耐性が優れ、落球強度および耐傷性も優れるという理由から、引張応力の最大値CTmaxが20MPa以上であり、好ましくは25MPa以上、より好ましくは30MPa以上である。
安全性に優れるという理由から、CTmaxは59MPa以下であり、好ましくは55以下、より好ましくは50MPa以下である。
【0096】
(CTA)
引張応力の最大値CTmaxは、下記式(1)で示されるCTA(単位:MPa)以下である。
下記式(1)において、tは化学強化ガラスの板厚(単位:mm)を表し、ln(t)はeを底とする自然対数を表す。
CTmaxがCTA以下であることにより、CTリミットの超過を回避し安全性を保ちながら、DOCを最大化し得る。
CTリミットをより回避する観点から、CTA値からCTmax値を減じた値は、1MPa以上であることが好ましく、より好ましくは3MPa以上、さらに好ましくは5MPa以上である。
CTA=-36.2ln(t)+97.7…(1)
【0097】
<<<CTave>>>
本実施形態の化学強化ガラスにおいて、引張応力の平均値CTaveは、10MPa以上が好ましく、15MPa以上がより好ましく、20MPa以上がさらに好ましい。
一方、CTaveは、60MPa以下が好ましく、55以下がより好ましく、50MPa以下がさらに好ましい。
引張応力の平均値CTaveは、圧縮応力層深さDOCより深い領域の引張応力の平均値である。
【0098】
<<<CS0>>>
<<<<CS0(SLP)>>>>
本実施形態において、SLPで測定される、化学強化ガラスの表面圧縮応力値CS0(SLP)は、圧縮応力と引張応力とのバランスを図る観点から、200MPa以下が好ましく、より好ましくは170MPa以下、さらに好ましくは150Pa以下、特に好ましくは120MPa以下である。
一方、CS0(SLP)は、曲げ強度を向上する観点から、50MPa以上が好ましく、より好ましくは70MPa以上であり、さらに好ましくは90MPa以上である。
【0099】
<<<<CS0(FSM)>>>>
本実施形態において、2段階以上の化学強化処理を実施した化学強化ガラスにおける、FSMで測定される、化学強化ガラスのKイオン由来の表面圧縮応力値CS0(FSM)は、1400MPa以下が好ましく、より好ましくは1200MPa以下、さらに好ましくは1000Pa以下、特に好ましくは800MPa以下である。
一方、CS0(FSM)は、曲げ強度を向上する観点から、50MPa以上が好ましく、より好ましくは70MPa以上であり、さらに好ましくは90MPa以上である。
【0100】
<<<CS10>>>
本実施形態において、化学強化ガラスの表面からの深さ10μmにおける圧縮応力値CS10は、200MPa以下が好ましく、より好ましくは180MPa以下、さらに好ましくは150MPa以下である。
一方、CS10は、曲げ強度を向上する観点から、50MPa以上が好ましく、より好ましくは70MPa以上であり、さらに好ましくは90MPa以上である。
【0101】
<<<CS400>>>
本実施形態の化学強化ガラスにおいて、表面からの深さ400μmにおける圧縮応力値CS400は、30MPa以上が好ましく、35MPa以上がより好ましく、40MPa以上がさらに好ましい。
一方、圧縮応力値CS400は、100MPa以下が好ましく、85MPa以下が好ましく、70MPa以下が好ましい。
【0102】
<<<CS500>>>
本実施形態の化学強化ガラスにおいて、表面からの深さ500μmにおける圧縮応力値CS500は、15MPa以上が好ましく、25MPa以上がより好ましく、35MPa以上がさらに好ましい。
圧縮応力値CS500は、80MPa以下が好ましく、70MPa以下がより好ましく、60MPa以下がさらに好ましい。
【0103】
<<<CS600>>>
本実施形態の化学強化ガラスにおいて、表面からの深さ600μmにおける圧縮応力値CS600は、0MPa以上が好ましく、10MPa以上がより好ましく、20MPa以上がさらに好ましい。
一方、圧縮応力値CS600は、50MPa以下が好ましく、45MPa以下がより好ましく、40MPa以下がさらに好ましい。
【0104】
<<<CS400/CS10>>>
本実施形態の化学強化ガラスにおいて、圧縮応力値CS400と圧縮応力値CS10との比(CS400/CS10)は、0.30以上が好ましく、0.40以上がより好ましく、0.50以上がさらに好ましい。
一方、比(CS400/CS10)は、0.80以下が好ましく、0.75以下がより好ましく、0.70以下がさらに好ましい。
【0105】
<<<CS600/CS10>>>
本実施形態の化学強化ガラスにおいて、圧縮応力値CS600と圧縮応力値CS10との比(CS600/CS10)は、0.04以上が好ましく、0.10以上がより好ましく、0.18以上がさらに好ましい。
一方、比(CS600/CS10)は、0.50以下が好ましく、0.45以下がより好ましく、0.40以下がさらに好ましい。
【0106】
<<<ICS>>>
本実施形態の化学強化ガラスにおいて、表面から圧縮応力値がゼロである深さ位置までの圧縮応力値の板厚方向の積分値ICSは、圧縮応力と引張応力とのバランスを図る観点から、25,000MPa・μm以上が好ましく、30,000MPa・μm以上がより好ましく、34,000MPa・μm以上がさらに好ましい。
一方、安全性に優れるという理由から、ICSは、47,000MPa・μm以下が好ましく、46,000MPa・μm以下がより好ましく、45,000MPa・μm以下がさらに好ましい。
【0107】
<<<ICS400>>>
本実施形態の化学強化ガラスにおいて、深さ400μmの位置から圧縮応力値がゼロである深さ位置までの圧縮応力値の板厚方向の積分値ICS400は、3,000MPa・μm以上が好ましく、5,000MPa・μm以上がより好ましく、7,000MPa・μm以上がさらに好ましい。
一方、ICS400は、60,000MPa・μm以下が好ましく、55,000MPa・μm以下がより好ましく、50,000MPa・μm以下がさらに好ましい。
【0108】
<<<ICS400/ICS>>>
本実施形態の化学強化ガラスにおいて、ICS400と、表面から圧縮応力値がゼロである深さ位置までの圧縮応力値の板厚方向の積分値ICSとの比(ICS400/ICS)は、0.13以上が好ましく、0.20以上がより好ましく、0.28以上がさらに好ましい。
一方、比(ICS400/ICS)は、0.90以下が好ましく、0.85以下がより好ましく、0.80以下がさらに好ましい。
【0109】
<<<深層傾き>>>
本実施形態の化学強化ガラスにおいて、深層傾きは、-0.01以下が好ましく、-0.05以下がより好ましく、-0.10以下がさらに好ましい。
一方、深層傾きは、-0.25以上が好ましく、-0.22以上がより好ましく、-0.20以上がさらに好ましい。
【0110】
化学強化ガラスの深層傾きは、SLPを用いて求めるCS50とDOCから50を差し引いた値(DOC-50)との比率(CS50/(DOC-50))である。
【0111】
<<<表層傾き>>>
本実施形態の化学強化ガラスにおいて、表層傾きは、400以下が好ましく、350以下がより好ましく、300以下がさらに好ましい。
一方、深層傾きは、100以上が好ましく、150以上がより好ましく、200以上がさらに好ましい。
【0112】
化学強化ガラスの表層傾きは、FSMを用いて求めるCS0とDOLとの比率(CS0/DOL)である。
ここで、DOLは、FSMを用いて求めるカリウムイオン由来の圧縮応力層深さ(単位:μm)である。
【0113】
<<割れ発生率>>
本実施形態の化学強化ガラスは、ISO 20567-1 Test Method Aの強度試験方法に準じて評価した割れ発生率が20%以下であることが好ましく、より好ましくは18%以下、さらに好ましくは15%以下、特に好ましくは13%以下である。割れ発生率が20%以下であることにより、飛び石耐性をより効果的に高め得る。割れ発生率を求める場合のnは3以上とする。
【0114】
本実施形態の化学強化ガラスは、SAE J400の強度試験方法に準じて評価した割れ発生率が40%以下であることが好ましく、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下、特に好ましくは13%以下である。割れ発生率が40%以下であることにより、飛び石耐性をより効果的に高め得る。割れ発生率を求める場合のnは3以上とする。
【0115】
<<用途>>
本実施形態の化学強化ガラスの用途としては、例えば、センサの保護部材が挙げられる。センサとしては、例えば、車、ドローンなどの移動機器に搭載されたセンサ;屋外センサ;監視カメラなどに搭載されたセンサ;等が挙げられる。
本実施形態の化学強化ガラスは、優れた飛び石耐性を示すことから、これらの中でも、好ましくは移動機器に搭載されたセンサの保護部材、より好ましくは車載センサの保護部材として用いることが好ましい。
【0116】
図1(a)および
図1(b)は、化学強化ガラスを保護部材として用いた構成例を示す斜視図である。
【0117】
図1(a)では、実装部5に実装されたセンサ20(カメラ30を含む)を収容する円筒型の保護部材1の蓋部10として、化学強化ガラスが用いられている。
保護部材1のうち、蓋部10を支持する支持部2にも化学強化ガラスが用いられてもよいが、ステンレスやアルマイトなど金属を用いてもよい。
【0118】
図1の(b)では、実装部5に実装されたセンサ20を収容する半球型の保護部材1として、化学強化ガラスが用いられている。
【0119】
保護部材1の形状としては、円筒型および半球型に限定されず、そのほかに、円柱型、角柱型、半球状の多面体型などが挙げられる。
【0120】
保護部材1は、複数の化学強化ガラスを貼り合わせて形成してもよい。
例えば、
図1(a)において、蓋部10だけでなく、支持部2としても化学強化ガラスを用いる場合は、蓋部10と支持部2との間に接着層を形成して、両者を接着できる。
【実施例0121】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれに限定されない。
以下、例1~5が実施例であり、例6~12は比較例であり、例13は参考例である。
【0122】
<化学強化用ガラスの作製>
酸化物基準のモル%表示で示すガラス組成が下記組成となるように、ガラス原料を調合し、ガラスとして400gになるように秤量した。
次いで、混合した原料を白金るつぼに入れ、1500~1700℃の電気炉に投入して3時間程度溶融し、脱泡し、均質化した。こうして、溶融ガラスを得た。
得られた溶融ガラスを型に流し込み、ガラス転移点(714℃)付近の温度に約1時間保持した後、100℃/分の速度で室温まで冷却してガラスブロックを得た。
得られたガラスブロックから、下記表1に示す板厚(単位:mm)×50mm×50mmのガラス板(化学強化用ガラスAまたはB)を作製した。
【0123】
<<化学強化用ガラスA>>
SiO2:66.2%、Al2O3:11.2%、MgO:3.1%、CaO:0.2%、ZrO2:1.3%、Y2O3:0.5%、Li2O:10.4%、Na2O:5.6%、K2O:1.5%
【0124】
<<化学強化用ガラスB>>
SiO2:64.2%、Al2O3:8.0%、MgO:10.5%、CaO:0.1%、SrO:0.1%、BaO:0.1%、ZrO2:0.5%、Na2O:12.5%、K2O:4.0%
【0125】
得られたガラス板(化学強化用ガラスAおよびB)について、上述した方法により、ガラス組成を求めたところ、上記組成と一致していた。なお、各成分の含有量の合計を100%から差し引いた値を、Li(Li2O)の含有量とした。
【0126】
<化学強化ガラスの作製>
上記で得られたガラス板を用いて、下記表1に示す条件で溶融塩組成物に浸漬させる化学強化処理を実施し(工程A)た。
なお、例3では、2段階の化学強化処理を実施した。
いずれの例においても、化学強化処理を実施する前に、ガラス板を、350℃の予熱温度で15分間加熱した(予熱工程)。
例13では、化学強化用ガラスAを、化学強化処理を実施せずに、そのまま用いた。
【0127】
<化学強化ガラスの評価>
得られた化学強化ガラスについて各種評価を行なった。下記表1において、「-」は未評価であることを示し、測定できないものは0として記載した。
【0128】
<<応力プロファイルの測定>>
散乱光光弾性応力計(折原製作所社製のSLP-2000)を用いて、国際公開第2018/056121号に記載の方法により化学強化ガラスの応力を測定した。また、散乱光光弾性応力計の付属ソフト[SlpV+Ver.2021.07.13.001]を用いて、応力プロファイルを算出した。
ただし、2段階の化学強化処理を実施した例3では、ガラス表面応力計(折原製作所社製のFSM6000-UV)を用いて、国際公開第2018/056121号に記載の方法により化学強化ガラスの応力を測定した。
【0129】
応力プロファイルを得るために使用した関数はσ(x)=[a1×erfc(a2×x)+a3×erfc(a4×x)+a5]である。ai(i=1~5)はフィッティングパラメータであり、erfcは相補誤差関数である。相補誤差関数は下記式によって定義される。
【0130】
【0131】
本明細書における評価では、得られた生データと上記の関数の残差二乗和を最小化することで、フィッティングパラメータを最適化した。測定処理条件は単発とし、測定領域処理調整項目は表面でエッジ法を、内部表面端は6.0μmを、内部左右端は自動を、内部深部端は自動(サンプル膜厚中央)を、そして位相曲線のサンプル厚さ中央迄延長はフィッティング曲線を、それぞれ指定選択した。
【0132】
得られた応力プロファイルから、圧縮応力層深さDOC、引張応力の最大値CTmaxなどの各種のパラメータを求めた。結果を下記表1に示す。
【0133】
<<飛び石耐性>>
<<<割れ発生率(ISO)>>>
ISO 20567-1 Test Method Aの強度試験方法に準じて、下記条件にて飛び石試験を行い、割れ発生率を算出した(n=10)。結果を下記表1に示す。
・飛び石:チルドアイアングリット
・石サイズ:3.55~5mm
・射出量:500g
・射出圧力:100kPa
・サンプル設置角度:54°
・射出時間:8~12s
・射出回数:2
・サンプル衝突面積:40mm×40mm
【0134】
<<<割れ発生率(SAE)>>>
SAE J400の強度試験方法に準じて、下記条件にて飛び石試験を行い、割れ発生率を算出した(n=5)。結果を下記表1に示す。
・飛び石:川砂利
・石サイズ:5~13mm
・射出量:0.473L
・射出圧力:0.483MPa
・サンプル設置角度:90℃
・射出時間:10s
・射出回数:1
・サンプル衝突面積:40mm×40mm
【0135】
割れ発生率(単位:%)は以下のように算出した。
・割れ発生率:100×(飛び石試験で割れたサンプル数/全評価サンプル数)
・サンプル割れの判定:飛び石試験後のサンプル表面の個々の傷の範囲を超えて広がる亀裂が存在すること。
【0136】
<<安全性(割れ挙動)>>
化学強化ガラスの割れ挙動は、TRUSCO社製の超硬自動ポンチを使用し、次のように評価した。
【0137】
図2は、割れ挙動の評価方法を説明するための概略図である。
図2に示すように、試験台400の上に配置された50mm×50mmの化学強化ガラス200の表面210の中央部に、超硬自動ポンチ410を設置し、化学強化ガラス200が割れるまで静的荷重条件下で垂直方向に押し込んだ。
【0138】
化学強化ガラスが破砕しなければ、1kgf間隔で荷重を上げながら、割れるまで上記操作を繰り返した。化学強化ガラスが割れた際の破砕数が2~9個であった場合は「◎」を、10~19個であった場合は「○」を、20個以上であった場合は「×」を下記表1に記載した。
破砕数が少ないほど、安全性に優れると評価できる。
【0139】
【0140】
<評価結果まとめ>
上記表1に示すように、例1~5は、例8~13と比較して、優れた飛び石耐性を示した。また、例1~5は、例6~8および例11~12と比較して、優れた割れ挙動(すなわち、優れた安全性)を示した。