(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003135
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】センサ装置
(51)【国際特許分類】
G01L 3/14 20060101AFI20241226BHJP
【FI】
G01L3/14 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103637
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 修
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 由久
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 純一
(72)【発明者】
【氏名】山下 侑
(57)【要約】
【課題】設置部位に対する制約が少なく、検出対象物に作用する荷重またはトルクに関わる情報を精度よく検出できるセンサ装置を提供する。
【解決手段】センサ装置100は、検出対象物に作用する荷重またはトルクに関わる情報を検出する。センサ装置100は、検出対象物に取り付けられ並列接続される複数のセンサ部材102と、複数のセンサ部材102の検出値に基づいて検出対象物に作用する荷重またはトルクに関わる情報を推定する推定部104と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象物に作用する荷重またはトルクに関わる情報を検出するセンサ装置であって、
前記検出対象物に取り付けられ並列接続される複数のセンサ部材と、
前記複数のセンサ部材の検出値に基づいて前記検出対象物に作用する荷重またはトルクに関わる情報を推定する推定部と、
を備えるセンサ装置。
【請求項2】
前記検出対象物は、当該検出対象物が組み込まれる装置の運転中に、応力分布が均一でない請求項1に記載のセンサ装置。
【請求項3】
前記推定部は、前記複数のセンサ部材の検出値と荷重またはトルクとの関係を学習した識別器を有し、当該識別器により荷重またはトルクを推定する請求項1に記載のセンサ装置。
【請求項4】
前記識別器は、検出対象物に対して相対回転する回転部材の回転位相と、前記複数のセンサ部材の検出値と、荷重またはトルクと、の関係を学習した識別器である請求項3に記載のセンサ装置。
【請求項5】
前記推定部は、複数のセンサ部材が検出対象物に取り付けられた後に当該検出対象物が組み込まれる装置を運転し前記識別器の学習を行う学習モードを有する請求項3または4に記載のセンサ装置。
【請求項6】
前記推定部は、前記複数のセンサ部材の検出値に対し所定の三角関数をフィッティングし、フィッティングした三角関数の振幅に基づいて荷重またはトルクを推定する請求項1に記載のセンサ装置。
【請求項7】
前記推定部は、前記荷重またはトルクに関わる情報を推定した部位の位相および温度の少なくとも一方を推定する請求項1に記載のセンサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、円形体に掛かるトルクを検出するセンサ装置を開示する。このセンサ装置は、フレクスギアなどの円形体の周方向の全周にわたって設けられる抵抗線パターンを有し、複数のセンサ部材が直列に接続された構成を有する。これにより、円形体に掛かるトルクを精度よく検出(推定)できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のセンサ装置は、減速機の出力部材に設置されてトルクを検出するのに適しているが、出力部材は回転するため、配線等の制約から対応が難しい運転パターン(例えば、360度を超える回転や連続回転)があった。また、特許文献1のセンサ装置は、固定部に設置すると感度が落ちてしまう問題があった。
【0005】
本発明はこうした状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、設置部位に対する制約が少なく、検出対象物に作用する荷重またはトルクに関わる情報を精度よく推定できるセンサ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のセンサ装置は、検出対象物に作用する荷重またはトルクに関わる情報を検出するセンサ装置であって、検出対象物に取り付けられ並列接続される複数のセンサ部材と、複数のセンサ部材の検出値に基づいて検出対象物に作用する荷重またはトルクに関わる情報を推定する推定部と、を備える。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、設置部位に対する制約が少なく、検出対象物に作用する荷重またはトルクに関わる情報を精度よく検出できるセンサ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態に係るセンサ装置が適用された歯車装置の断面図である。
【
図2】
図1の第1噛合歯車とその周辺を軸方向に見た図である。
【
図4】センサ装置が適用されたハンドル装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、工程には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0011】
実施の形態では、センサ装置について、歯車装置の或る構成部品を第1噛合歯車とし、第1噛合歯車に作用するトルクに関わる情報を検出する場合を例に説明する。センサ装置の検出対象物は、第1噛合歯車に限定されず、また検出対象物が組み込まれる装置も、歯車装置に限定されない。
【0012】
まず、実施の形態に係るセンサ装置が適用される歯車装置を説明する。
【0013】
図1を参照する。撓み噛合い式歯車装置10(以下、単に歯車装置10ともいう)は、被駆動機械の一部として被駆動機械に組み込まれる。被駆動機械は、例えば、産業機械(工作機械、建設機械等)、ロボット(産業用ロボット、サービスロボット等)、輸送機器(コンベア、車両等)等の各種機械である。
【0014】
本実施の形態では筒型の撓み噛合い式歯車装置10を説明する。歯車装置10は、起振体30と、起振体30により撓み変形する撓み歯車26と、撓み歯車26と噛み合う噛合歯車28A、28Bと、起振体30と撓み歯車26との間に配置される起振体軸受32と、を備える。この他に、歯車装置10は、起振体30を有する起振体軸20と、起振体軸20を支持する軸受24A、24Bと、軸受24A、24Bを支持する軸受ハウジング22A、22Bと、ケーシング18と、を備える。以下、起振体30の回転中心線C20に沿った方向を単に軸方向といい、その回転中心線C20を円中心とする半径方向および円周方向を単に径方向および周方向ともいう。また、説明の便宜から、軸方向一側(
図1の紙面右側)を入力側といい、軸方向他側を反入力側という。
【0015】
歯車装置10は、外部の駆動源から回転が入力される入力部材と、外部の被駆動部材に回転を出力する出力部材と、外部の被固定部材に固定される固定部材とを備える。ここでは起振体軸20(起振体30)が入力部材、第2軸受ハウジング22B(後述する)が出力部材、ケーシング18が固定部材である例を説明する。駆動源は、例えば、モータであるが、この他にもギヤモータ、エンジン等でもよい。被駆動部材および被固定部材は、例えば、被駆動機械の一部となる。
【0016】
起振体30は、自身の回転により撓み歯車26を撓み変形させることができる程度の剛性を持つ。撓み歯車26と径方向に対向する起振体30の対向周部(ここでは外周部)の断面形状は楕円状をなす。ここでの断面形状は、起振体30の軸方向に直交する断面での形状をいう。ここでの「楕円」とは、幾何学的に厳密な楕円に限定されず、略楕円も含まれる。
【0017】
撓み歯車26は、可撓性を有する筒状部材である。撓み歯車26は、起振体30の形状に合わせた楕円状をなすように撓み変形し、長軸方向の2個所で噛合歯車28A、28Bと噛み合う。
【0018】
噛合歯車28A、28Bは、起振体30の回転に追従して撓み変形しない程度の剛性を持つ。噛合歯車28A、28Bは、撓み歯車26の入力側部分の歯と噛み合う第1噛合歯車28Aと、撓み歯車26の反入力側部分の歯(内歯)と噛み合う第2噛合歯車28Bとを含む。第1噛合歯車28Aは、撓み歯車26の歯数(例えば、100)とは異なる歯数(例えば、102)を持ち、第2噛合歯車28Bは、撓み歯車26の歯数と同数の歯数を持つ。
【0019】
撓み歯車26および噛合歯車28A、28Bの一方は外歯歯車となり、他方は内歯歯車となる。ここでは撓み歯車26が外歯歯車であり、噛合歯車28A、28Bが内歯歯車となる例を説明する。
【0020】
本実施の形態のケーシング18は、第1噛合歯車28Aを兼ねる第1ケーシング部材18Aと、第2噛合歯車28Bの径方向外側に配置される第2ケーシング部材18Bと、第1ケーシング部材18Aを挟んで第2ケーシング部材18Bとは反対側に配置される第3ケーシング部材18Cと、を備える。各ケーシング部材18A、18B、18Cはボルト等の連結部材Bにより連結される。ケーシング18は、歯車装置10の外部の被固定部材に固定される。ケーシング18の第2噛合歯車28Bとの間には主軸受36が配置される。
【0021】
軸受24A、24Bは、入力側に配置される第1軸受24Aと、反入力側に配置される第2軸受24Bとを備える。軸受24A、24Bは玉軸受を例に示すが、その具体例は特に限定されず、ローラ軸受等の各種軸受でもよい。
【0022】
軸受ハウジング22A、22Bは、第1軸受24Aを支持する第1軸受ハウジング22Aと、第2軸受24Bを支持する第2軸受ハウジング22Bとを含む。第1軸受ハウジング22Aは、撓み歯車26に対して軸方向入力側に配置される。第1軸受ハウジング22Aは、ボルト、圧入等により第3ケーシング18Cと連結される。第2軸受ハウジング22Bは、撓み歯車26に対して軸方向反入力側に配置される。第2軸受ハウジング22Bは、ボルト、圧入等により第2噛合歯車28Bと連結される。
【0023】
図2は、
図1の第1噛合歯車とその周辺を軸方向に見た図である。
図3は、
図2のA-A線断面図である。
【0024】
第1噛合歯車28A(第1ケーシング部材18A)は、内歯リング部40と、内歯リング部40の径方向外側に設けられる外側リング部42と、内歯リング部40と外側リング部42との間に設けられる変形容易部44と、を備える。
【0025】
内歯リング部40は、リング状をなし、その内周に撓み歯車26と噛み合う内歯46が設けられる。
【0026】
外側リング部42は、リング状をなし、歯車装置10の外部の被固定部材に固定される。本実施の形態の外側リング部42は、ケーシング18を構成する他のケーシング部材18B、18CにボルトBを用いて連結され、そのケーシング部材18B、18Cを介して被固定部材に固定される(
図1参照)。この他にも、外側リング部42は、被固定部材に直接的に固定されてもよいし、他部材(例えば、第1軸受ハウジング22A)を介して被固定部材に固定されてもよい。本実施の形態の外側リング部42には、ケーシング部材18B、18Cに連結する連結部材Bを通すための貫通穴48が周方向に間隔を空けて形成される。
【0027】
変形容易部44は、内歯リング部40の外周に繋がるとともに外側リング部42の内周に繋がる。変形容易部44は、被固定部材に外側リング部42が固定された状態において、撓み歯車26との噛み合いに起因して内歯リング部40にトルクが付与された場合に、内歯リング部40よりも変形しやすい構成とされている。変形容易部44は、このような場合に、内歯リング部40よりも変形量が大きくなるともいえる。本実施の形態の変形容易部44は、外側リング部42に対して軸方向厚みを小さくしているが、外側リング部42の軸方向厚み以上の軸方向厚みであってもよい。この他にも、本実施の形態の変形容易部44は、内歯リング部40に対して軸方向厚みを小さくしているが、内歯リング部40の軸方向厚み以上の軸方向厚みであってもよい。本実施の形態の変形容易部44は、リング状をなす。本実施の形態の変形容易部44は、周方向の全周に亘り連続するリング状をなす。本実施の形態の変形容易部44は、軸方向に貫通する穴部を有していない。
【0028】
以上の歯車装置10の動作を説明する。撓み歯車26は、起振体軸20の起振体30の形状に合わせた楕円状をなすように撓み変形し、長軸方向の2個所で噛合歯車28A、28Bと噛み合っている。起振体軸20が回転すると、撓み歯車26と噛合歯車28A、28Bとの噛み合い位置が起振体30の回転方向に移動する。このとき、異なる歯数を持つ撓み歯車26と第1噛合歯車28Aとの噛み合い位置が一周するごとに、これらの噛み合う歯が周方向にずれていく。この結果、これらのうちの一方(本実施形態では撓み歯車26)が自転し、その自転成分が出力回転として出力部材により取り出される。本実施の形態において、撓み歯車26と第2噛合歯車28Bは、互いに同じ歯数を持つため同期し、撓み歯車26の自転成分は、撓み歯車26と同期する第2噛合歯車28Bを通して、出力部材としての第2軸受ハウジング26Bにより取り出される。このとき、起振体30に入力された入力回転に対して、撓み歯車26と第1噛合歯車28Aの歯数差に応じた変速比で変速(ここでは減速)された出力回転が出力部材により取り出される。
【0029】
続いて、実施の形態に係るセンサ装置を説明する。
【0030】
図1~3を参照する。センサ装置100は、検出対象物である第1噛合歯車28Aに取り付けられる複数のセンサ部材102と、複数のセンサ部材102の検出値に基づいて第1噛合歯車28Aに作用するトルクに関わる情報を推定する推定部104と、を備える。
【0031】
複数のセンサ部材102は、変形容易部44の歪み量(本実施の形態においては、周方向の歪みと径方向の歪みが合成された歪み量)を検出するためのセンサである。本実施の形態のセンサ部材102は、歪みゲージである。この他にもセンサ部材102は、例えば、ピエゾ素子であってもよい。複数のセンサ部材102は、上述のように変形容易部44が周方向に変形することで変形容易部44が歪んだときに、その歪み量を検出可能である。複数のセンサ部材102は、検出値、すなわち歪み量を示す検出信号を出力する。
【0032】
複数のセンサ部材102は、好ましくは、同様に構成される。つまり、複数のセンサ部材102は、構造、特性、および性能が同一になるように構成される。
【0033】
複数のセンサ部材102は、第1噛合歯車28Aを兼ねる第1ケーシング部材18Aに取り付けられる。つまり、複数のセンサ部材102は、歯車装置10の外部の被固定部材に固定される固定部材に取り付けられる。これにより、センサ部材102の給電やセンサ出力の配策問題が生じるのを避けられる。また、センサ部材102は、剛性を有する第1噛合歯車28Aに取り付けられる。例えばセンサ部材102が可撓性を有する部材であって比較的大きく変形する部材に取り付けられる場合、センサ部材102の配線に大きな負荷がかかり、配線が切れるおそれがあるが、センサ部材102が剛性を有する第1噛合歯車28Aに取り付けられることにより、そのような問題を回避できる。
【0034】
複数のセンサ部材102は、第1噛合歯車28Aの変形容易部44の入力側の側面44aに取り付けられる。なお、複数のセンサ部材102は、変形容易部44の出力側の側面44aに取り付けられてもよい。複数のセンサ部材102は、周方向に一列に配置され、好ましくは、周方向に等間隔に配置される。
【0035】
複数のセンサ部材102は、並列に配線されて推定部104に接続される。すなわち、複数のセンサ部材102は、並列接続される。詳しくは、複数のセンサ部材102は、それぞれ推定部104に接続され、それぞれの位置における変形容易部44の歪み量を検出し、それぞれ検出値を推定部104に出力する。なお、
図3では、図面が煩雑になることを避けるため、1つのセンサ部材102を除いて、センサ部材102と推定部104との間の接続線の表記は省略している。
【0036】
第1噛合歯車28Aは撓み歯車26と2個所で噛み合う(すなわち接触する)ため、第1噛合歯車28Aには、歯車装置10の運転中において、応力すなわち歪みが、その噛み合い個所を中心に局所的に発生する。つまり、第1噛合歯車28Aに作用する応力すなわち歪みの分布は、均一でない。第1噛合歯車28Aに作用するトルクをより正確に推定するには、応力すなわち歪みの分布を精度よく把握する必要があり、そのためには、複数のセンサ部材102は周方向に隙間なく配置されることが好ましい。つまり、複数のセンサ部材102は、変形容易部44の全周をカバーするように配置されることが好ましい。
【0037】
推定部104は、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)、マイコンなどのプロセッサ(ハードウェア)と、プロセッサ(ハードウェア)が実行するソフトウェアプログラムの組み合わせで実装することができる。推定部104は、複数のプロセッサの組み合わせであってもよい。あるいは推定部1040はハードウェアのみで構成してもよい。
【0038】
推定部104は、歯車装置10の内部に設けられてもよいし、歯車装置10の外部に設けられてもよい。
【0039】
推定部104は、以下のいずれかの推定方法により、複数のセンサ部材102の検出値に基づいて、検出対象部である第1噛合歯車28Aに作用するトルクを推定する。
【0040】
(合計値による推定)
第1噛合歯車28Aに作用するトルクが大きいほど、変形容易部44は大きく変形するため、変形容易部44の歪み量は大きくなる。この推定方法においては、複数(n個)のセンサ部材102のそれぞれが検出する歪み量の合計値と、第1噛合歯車28Aに作用するトルクとの間には、比例関係が成立するとみなす。この場合、推定部104は、以下の式(1)により、第1噛合歯車28Aに作用するトルク(T)を検出してもよい。
T=k1×(ε1+ε2+…+εn) ・・・(1)
ここで、
k1:係数
ε1~εn:複数のセンサ部材102のそれぞれが検出する歪み量
である。
【0041】
係数k1は、例えば、第1噛合歯車28Aに既知のトルクを作用させたときに複数のセンサ部材102が検出する歪み量を用いて決定すればよい。
【0042】
(標準偏差による推定)
上述したように、第1噛合歯車28Aに作用するトルクが大きいほど、変形容易部44の歪み量は大きくなる。この推定方法においては、複数のセンサ部材102が検出する歪み量の標準偏差と、第1噛合歯車28Aに作用するトルクとの間には、比例関係が成立するとみなす。この場合、推定部104は、以下の式(2)により、第1噛合歯車28Aに作用するトルク(T)を検出してもよい。
【数1】
ここで、
k
2:係数
バー付きのε:複数のセンサ部材102が検出した歪み量の平均値
である。
【0043】
係数k2は、例えば、第1噛合歯車28Aに既知のトルクを作用させたときに複数のセンサ部材102が検出する歪み量を用いて決定すればよい。
【0044】
(最大値および最小値による推定)
上述したように、第1噛合歯車28Aに作用するトルクが大きいほど、変形容易部44の歪み量は大きくなる。この推定方法においては、複数のセンサ部材102のそれぞれが検出する歪み量の最大値と最小値との差(すなわち歪み量のレンジ)と、第1噛合歯車28Aに作用するトルクとの間には、比例関係が成立するとみなす。この場合、推定部104は、以下の式(3)により、第1噛合歯車28Aに作用するトルク(T)を検出してもよい。
T=k3×{max(ε1,ε2,…,εn)-min(ε1,ε2,…,εn)} ・・・(3)
ここで、
k3:係数
max():()内の最大値を選択する関数
min():()内の最小値を選択する関数
である。
【0045】
係数k3は、例えば、第1噛合歯車28Aに既知のトルクを作用させたときに複数のセンサ部材102が検出する歪み量を用いて決定すればよい。
【0046】
(機械学習による推定)
推定部104は、複数のセンサ部材102の検出値と、第1噛合歯車28Aに作用するトルクと、の相関関係を学習した識別器を有してもよい。識別器の機械学習には、学習データとして、第1噛合歯車28Aに作用するトルクと、そのトルクを第1噛合歯車28Aに作用させたときの複数のセンサ部材102による検出値と、の組み合わせが使用されてもよい。この場合、推定部104は、識別器を用いて第1噛合歯車28Aに作用するトルクを推定してもよい。つまり、推定部104は、複数のセンサ部材102から検出値を取得して識別器に入力し、識別器からの出力、すなわち第1噛合歯車28Aに作用するトルクの推定値を得ればよい。
【0047】
あるいは推定部104は、第1噛合歯車28Aに対して相対回転する起振体軸20の回転位相と、複数のセンサ部材102の検出値と、第1噛合歯車28Aに作用するトルクと、の相関関係を学習した識別器を有してもよい。識別器の機械学習には、学習データとして、起振体軸20の回転位相と、第1噛合歯車28Aに作用するトルクと、そのトルクを第1噛合歯車28Aに作用させたときの複数のセンサ部材102による検出値と、の組み合わせが使用されてもよい。この場合、推定部104は、起振体軸20の回転位相と、識別器を用いて第1噛合歯車28Aに作用するトルクと、を推定してもよい。つまり、推定部104は、複数のセンサ部材102から検出値を取得して識別器に入力し、識別器からの出力、すなわち起振体軸20の回転位相および第1噛合歯車28Aに作用するトルクの推定値を得ればよい。
【0048】
いずれの場合も識別器は、公知の、あるいは将来利用可能な機械学習方法を用いて構成されればよい。識別器は、例えばDNN(ディープラーニングネットワーク)、CNN(畳み込みニューラルネットワーク)、RNN(回帰型ニューラルネットワーク)を用いて構成されてもよい。
【0049】
識別器には、既存の識別器を流用してもよいが、既存の識別器は別の歯車装置に最適化されたものでありうる。この場合、流用する識別器の追加の学習、すなわちチューニングが必要である。そのため、推定部104は、識別器の追加の学習を実行する学習モードを実行可能であってもよい。例えば、推定部104は、複数のセンサ部材102が第1噛合歯車28Aに取り付けられた後に、駆動源を制御して既知のトルクを第1噛合歯車28Aに作用させ、そのときの複数のセンサ部材102の検出値を用いて識別器を追加学習してもよい。
【0050】
(フィッティングによる推定)
推定部104は、複数のセンサ部材102の検出値に対して、三角関数をフィッティングし、フィッティングにより得られる三角関数の振幅に基づいてトルクを推定してもよい。推定部104は、例えば、以下の式(4)を、複数のセンサ部材102の検出値にフィッティングしてもよい。推定部104は、フィッティングには、最小二乗法などの公知の手法を用いればよい。式(4)の形は、既知のトルクを第1噛合歯車28Aに作用させたときの複数のセンサ部材102の検出値をプロットしたグラフから決定したものであってもよい。式(4)によれば、振幅aが第1噛合歯車28Aに作用するトルク、位相bが起振体軸20の回転位相、cは第1噛合歯車28Aの温度、として推定される。推定部104は、トルクと、回転位相および温度のいずれか一方とを推定してもよい。
y=a(sin(θ+b))2+c ・・・(4)
【0051】
上述の説明では、推定部104が、検出対象物である第1噛合歯車28Aに作用するトルクを推定する場合について説明したが、これには限定されず、検出対象物である第1噛合歯車28Aに関わる部材、例えば検出対象物である第1噛合歯車28Aと相対回転する起振体軸20に作用するトルクを推定してもよい。つまり、推定部104は、検出対象物である第1噛合歯車28Aの変形容易部44の歪み量に基づいて、第1噛合歯車28Aに関わる部材である起振体軸20に作用するトルクを推定してもよい。
【0052】
推定部104が推定したトルクに基づいてどのような制御を行うかは特に限定されない。例えば、推定されたトルクに基づいて、障害物(例えば、人)の接触を検知し、駆動源を停止させる制御を行ってもよい。
【0053】
続いて、実施の形態が奏する効果について説明する。本実施の形態によれば、センサ装置100の複数のセンサ部材102は、検出対象物である第1噛合歯車28Aに取り付けられ、並列接続される。直列接続されずに並列接続されるため、複数のセンサ部材102の検出値は平均化されずに推定部104に出力される。したがって、例えば、噛み合い位置に対応する検出値、すなわちピーク値を取得できる。そのため、検出対象物に作用するトルクに関わる情報を、より精度よく推定することが可能となる。
【0054】
また、本実施の形態によれば、推定部104は、センサ部材の検出値とトルクとの関係を学習した識別器を有し、この識別器によりトルクを推定してもよい。識別器の性能にもよるが、識別器によれば、精度よく検出対象物に関わるトルクを推定できる。また、識別器によれば、検出対象物に対して相対回転する回転部材の回転位相も推定できる。
【0055】
また、本実施の形態によれば、推定部104は、センサ部材の検出値に対して三角関数をフィッティングし、フィッティングした三角関数の振幅に基づいてトルクを推定してもよい。この場合、フィッティングさせる三角関数の形にもよるが、少ない計算量で、精度よく検出対象物に関わるトルクを推定できる。また、検出対象物に対して相対回転する回転部材の回転位相も推定できる。
【0056】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0057】
(変形例1)
センサ部材102の検出値が温度の影響を受ける場合がある。例えばセンサ部材102が歪みゲージである場合、環境温度があがると検出値も上がる。推定部104は、温度補償を行ってもよい。
【0058】
或るタイミングにおける複数のセンサ部材120の検出値において、最も高い検出値は、起振体30の長軸側に位置するセンサ部材102の検出値であって噛み合い位置に対応するセンサ部材102の検出値であると考えられ、最も低い検出値は、起振体30の短軸側に位置するセンサ部材102の検出値であって非噛み合い位置に対応するセンサ部材102の検出値であると考えられる。ここで、複数のセンサ部材120のそれぞれの検出値には、歪み量に応じた値と、そのときの環境温度による変動値と、が含まれうるが、起振体30の短軸側では歪みがほとんど生じていないはずであるから、起振体30の短軸側のセンサ部材102による検出値と考えられる最も低い検出値には、そのときの環境温度による変動値のみが含まれるとみなすことができる。したがって、推定部104は、以下の式(5)に示すように、センサ部材102の検出値として、最も低い検出値を差し引いた値を用いてもよい。この場合、環境温度の影響を低減できる。
εi=εi-min(ε1,ε2,…,εn) ・・・(5)
【0059】
(変形例2)
実施の形態および上述の変形例では、センサ装置100を筒型の撓み噛合い式歯車装置に適用したが、撓み噛み合い型歯車装置の具体例は特に限定されず、例えば、カップ型、シルクハット型でもよい。また、撓み噛み合い型歯車装置の場合、内歯歯車28A、28Bが撓み歯車となってもよい。センサ装置100は、撓み噛み合い型歯車装置の他にも、偏心揺動型歯車装置、単純遊星歯車装置などに適用されてもよい。また、偏心揺動型歯車装置の場合、揺動歯車と噛み合う噛合歯車の軸心上にクランク軸が配置されるセンタークランクタイプの他に、噛合歯車の軸心からオフセットした位置にクランク軸が配置される振り分けタイプでもよい。また、各種の歯車装置において、複数のセンサ部材102が取り付けられる部材(すなわち検出対象物)は特に限定されない。つまり、センサ装置100は、各種の歯車装置に適用でき、その構成部品を検出対象物とすることができる。
【0060】
(変形例3)
実施の形態および上述の変形例では、センサ装置100が歯車装置に適用される場合について説明したが、センサ装置100は歯車装置以外の各種機械装置に適用できる。この機械装置は、回転動作を伴う装置であってもよい。例えば、機械装置は、モータ、ボールねじ装置などであってもよい。複数のセンサ部材102が配置される検出対象物は、回転動作を行う部材の周囲の部材であってもよい。
【0061】
(変形例4)
実施の形態および上述の変形例では、センサ装置100が検出対象物に作用するトルクを推定する場合について説明したが、これには限定されず、検出対象物に作用するトルクに関わる情報に代えて、検出対象物に作用する荷重に関わる情報を推定してもよい。検出対象物に作用する荷重は、トルクと同様に、検出対象物に取り付けられた複数のセンサ部102であって、並列に配線されて推定部104に接続される複数のセンサ部102の検出値に基づいて推定すればよい。
【0062】
図4を参照する。この例では、ハンドル装置50にセンサ装置100が適用される。ハンドル装置50は、円板状のハンドル部52と、ハンドル部52に垂直に固定され回転軸54と、を備える。ハンドル装置50は、回転軸54の回転中心線C54を中心として回転可能である。ハンドル装置50には、回転軸54の回転中心線C54に沿った方向である軸方向、および、回転中心線C54を円中心とする半径方向に荷重が作用しうる。
【0063】
センサ装置100の複数のセンサ部材102は、検出対象物であるハンドル部52の円板面52aに、周方向に一列に配置されている。複数のセンサ部材102は、並列に配線されて推定部104に接続される。複数のセンサ部材102は、ハンドル部52に回転軸54まわりのトルクが作用したり、ハンドル部52に軸方向または半径方向に荷重が作用したりしてハンドル部52が歪んだときに、その歪み量を検出可能である。
【0064】
推定部104は、複数のセンサ部材102の検出値に基づいて、検出対象部であるハンドル部52に作用するトルクおよび荷重を推定する。例えば、推定部104は、複数のセンサ部102の検出値と、ハンドル部52に作用するトルクおよび荷重と、の関係を学習した識別器を有してもよい。識別器の学習には、学習データとして、ハンドル部52に作用するトルクおよび荷重と、そのトルクおよび荷重をハンドル部52に作用させたときの複数のセンサ部材102による検出値と、の組み合わせが使用されてもよい。推定部104は、複数のセンサ部材102から検出値を取得して識別器に入力し、識別器からの出力、すなわちハンドル部52に作用するトルクおよび荷重の推定値を得ればよい。
【0065】
以上の実施の形態および変形例は例示である。これらを抽象化した技術的思想は、実施の形態および変形例の内容に限定的に解釈されるべきではない。実施の形態および変形例の内容は、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。上述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施の形態」との表記を付して強調している。しかしながら、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。実施の形態および変形例において言及している構造には、製造誤差等を考慮すると同一とみなすことができるものも当然に含まれる。
【0066】
以上の構成要素の任意の組み合わせも有効である。例えば、変形例に対して実施の形態および他の変形例の任意の説明事項を組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0067】
10 歯車装置、 100 センサ装置、 102 センサ部材、 104 推定部。