(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025031613
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】イチョウ葉抽出液の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 36/16 20060101AFI20250228BHJP
A61P 27/16 20060101ALI20250228BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20250228BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20250228BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20250228BHJP
A61K 127/00 20060101ALN20250228BHJP
【FI】
A61K36/16
A61P27/16
A61P25/28
A61P25/22
A61P25/00
A61K127:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024134816
(22)【出願日】2024-08-13
(31)【優先権主張番号】P 2023134777
(32)【優先日】2023-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野村 凜
(72)【発明者】
【氏名】柏木 丈拡
(72)【発明者】
【氏名】島村 智子
(72)【発明者】
【氏名】富 裕孝
【テーマコード(参考)】
4C088
【Fターム(参考)】
4C088AB02
4C088AC05
4C088BA09
4C088BA37
4C088CA23
4C088NA06
4C088NA07
4C088ZA08
4C088ZA15
4C088ZA34
(57)【要約】
【課題】イチョウ葉抽出液中のギンコール酸含有量を低減した、新規なイチョウ葉抽出液の製造方法を提供する。
【解決手段】(a)イチョウ葉抽出液をアルカリ化することにより、イチョウ葉抽出液中のギンコール酸を沈殿させる工程、及び(b)ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液を分離する工程を含む、ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)イチョウ葉抽出液をアルカリ化することにより、イチョウ葉抽出液中のギンコール酸を沈殿させる工程、及び
(b)ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液を分離する工程
を含む、ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液の製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)のイチョウ葉抽出液をアルカリ化することが、イチョウ葉抽出液をpH8~12に調整することである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程(a)でpHが2~6であるイチョウ葉抽出液をアルカリ化する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液のギンコール酸濃度が15ppm以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液のフラボノイド濃度が30ppm以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液のテルペノイド濃度が0.5ppm以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
(c)0~90℃の温度でイチョウ葉から溶媒抽出によりイチョウ葉抽出液を得る工程をさらに含み、
前記工程(c)、前記工程(a)及び前記工程(b)をこの順に含む、
請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒抽出が、水を含む液体による抽出である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
(d)イチョウ葉抽出液を冷却することにより、イチョウ葉抽出液中のギンコール酸を沈殿させる工程
をさらに含み、前記工程(d)は:
前記工程(c)と前記工程(a)との間に行われ;
前記工程(a)と前記工程(b)との間に行われ;又は
前記工程(a)と同時に行われる、
請求項7に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の方法で製造される、イチョウ葉抽出液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イチョウ葉抽出液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イチョウは、1科1属1種の落葉高木で、アジア、欧州、北米で栽培されている雌雄異株の植物である。その葉の抽出物は、めまい、耳鳴り、頭痛、記憶力減退、不安感等に対して改善効果があると報告されており、これらの生理活性の関与成分としてはフラボノイド、テルペノイド等が挙げられる。一方、ギンコール酸はアレルゲンであることから、イチョウ葉エキス食品中の含量は5 ppm以下と規格化されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、イチョウ葉抽出液中のギンコール酸含有量を低減した、新規なイチョウ葉抽出液の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、イチョウ葉抽出液をアルカリ化することにより、イチョウ葉抽出液中のギンコール酸が沈殿することを見出した。本発明はかかる知見に基づいてさらに検討を加えることにより完成したものであり、以下の態様を含む。
【0005】
項1.
(a)イチョウ葉抽出液をアルカリ化することにより、イチョウ葉抽出液中のギンコール酸を沈殿させる工程、及び
(b)ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液を分離する工程
を含む、ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液の製造方法。
項2.
前記工程(a)のイチョウ葉抽出液をアルカリ化することが、イチョウ葉抽出液をpH8~12に調整することである、項1に記載の製造方法。
項3.
前記工程(a)でpHが2~6であるイチョウ葉抽出液をアルカリ化する、項1又は2に記載の製造方法。
項4.
前記ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液のギンコール酸濃度が15ppm以下である、項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
項5.
前記ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液のフラボノイド濃度が30ppm以上である、項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
項6.
前記ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液のテルペノイド濃度が0.5ppm以上である、項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
項7.
(c)0~90℃の温度でイチョウ葉から溶媒抽出によりイチョウ葉抽出液を得る工程をさらに含み、
前記工程(c)、前記工程(a)及び前記工程(b)をこの順に含む、
項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
項8.
前記溶媒抽出が、水を含む液体による抽出である、項7に記載の製造方法。
項9.
(d)イチョウ葉抽出液を冷却することにより、イチョウ葉抽出液中のギンコール酸を沈殿させる工程
をさらに含み、前記工程(d)は:
前記工程(c)と前記工程(a)との間に行われ;
前記工程(a)と前記工程(b)との間に行われ;又は
前記工程(a)と同時に行われる、
項7又は8に記載の製造方法。
項10.
項1~9のいずれか一項に記載の方法で製造される、イチョウ葉抽出液。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、イチョウ葉抽出液中のギンコール酸含有量を低減した、新規なイチョウ葉抽出液の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】イチョウ葉抽出液をアルカリ化(pH4、pH5、pH6、pH7、pH8又はpH9に調整)後に遠心分離した場合の、上清及び沈殿におけるギンコール酸濃度を測定した結果を示す図である。図中の「元」の項目は、アルカリ化前のイチョウ葉抽出液のギンコール酸濃度を示す。
【
図2】イチョウ葉抽出液をアルカリ化(pH5、pH7、pH8、pH9又はpH11に調整)後に遠心分離した場合の、上清におけるギンコール酸濃度を測定した結果を示す図である。図中の「元」の項目は、アルカリ化前のイチョウ葉抽出液のギンコール酸濃度を示す。
【
図3】イチョウ葉抽出液をアルカリ化(pH4、pH5、pH6、pH7、pH8又はpH9に調整)後に遠心分離した場合の、上清及び沈殿におけるフラボノイド濃度及びテルペノイド濃度を測定した結果を示す図である。図中の「元」の項目は、アルカリ化前のイチョウ葉抽出液のフラボノイド濃度又はテルペノイド濃度を示す。
【
図4】イチョウ葉抽出液をアルカリ化(pH9に調整)後、ろ過又は遠心分離により上清を分離した場合の、上清におけるギンコール酸濃度を測定した結果を示す図である。図中の「元」の項目は、アルカリ化前のイチョウ葉抽出液のギンコール酸濃度を示す。
【
図5】イチョウ葉に水を加え、室温で24時間(水抽出24h)、90℃で10分間(湯煎10min)、又は100℃で1時間(直火1h)の条件下で抽出を行い、得られたイチョウ葉抽出液におけるギンコール酸、フラボノイド及びテルペノイドの各成分の濃度を測定した結果を示す図である。
【
図6】イチョウ葉抽出液を2℃で撹拌、室温で撹拌又は60℃で静置した後、ろ過又は遠心分離した場合の、上清におけるギンコール酸濃度を測定した結果を示す図である。(A)粉砕されたイチョウ葉を用いて、90℃で10分間の抽出条件下で得られたイチョウ葉抽出液を用いた場合、(B)粉砕されたイチョウ葉を用いて、90~95℃で1時間の抽出条件下で得られたイチョウ葉抽出液を用いた場合、(C)未粉砕のイチョウ葉を用いて、90℃で10分間の抽出条件下で得られたイチョウ葉抽出液を用いた場合。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.本発明のイチョウ葉抽出液の製造方法
本発明のイチョウ葉抽出液の製造方法は、
(a)イチョウ葉抽出液をアルカリ化することにより、イチョウ葉抽出液中のギンコール酸を沈殿させる工程、及び
(b)ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液を分離する工程
を含む、ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液の製造方法である。
【0009】
本発明のイチョウ葉抽出液の製造方法において、工程(a)のイチョウ葉抽出液をアルカリ化することは、好ましくはイチョウ葉抽出液をpH8~12に調整することであり、より好ましくはイチョウ葉抽出液をpH8~11に調整することであり、さらに好ましくはイチョウ葉抽出液をpH8~pH10に調整することである。
【0010】
イチョウ葉抽出液をアルカリ化する方法は、特に制限されず、例えば、pH調整剤を用いることができる。pH調整剤としては、各種のアルカリ化合物を用いることができ、アルカリ化合物としては、例えば、アルカリ金属化合物等が挙げられる。アルカリ金属化合物としては、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)等が挙げられる。
【0011】
イチョウ葉抽出液におけるギンコール酸含有量を低減させる観点から、工程(a)において、pH2~6であるイチョウ葉抽出液をアルカリ化することが好ましく、pH2~5であるイチョウ葉抽出液をアルカリ化することがより好ましく、pH2~4であるイチョウ葉抽出液をアルカリ化することがさらに好ましい。
【0012】
工程(a)において、アルカリ化する対象であるイチョウ葉抽出液は、ギンコール酸を一定量以上含むことが好ましい。具体的には、アルカリ化する対象であるイチョウ葉抽出液のギンコール酸濃度は、例えば、5ppm以上であることが好ましく、10ppm以上であることがより好ましく、20ppm以上であることがさらに好ましい。
【0013】
工程(a)において、アルカリ化する対象であるイチョウ葉抽出液は、ヘゴ及び/又はヒューマス(腐食泥)を含まないことが好ましい。
【0014】
工程(b)において、ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液を分離する方法としては、特に制限されず、例えば、ろ過、遠心分離等が挙げられる。中でも、イチョウ葉抽出液におけるギンコール酸含有量の低減効率を向上させる観点から、ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液を分離する方法は遠心分離であることが好ましい。一方、イチョウ葉抽出液におけるギンコール酸含有量の低減操作の簡便性の観点からは、ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液を分離する方法はろ過であることが好ましい。
【0015】
工程(b)において、ろ過により、ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液を分離する場合、ろ過装置には、綿、ろ紙、メンブレンフィルター等を用いることができる。中でも、イチョウ葉抽出液におけるギンコール酸含有量の低減効率を向上させる観点から、5μmより小さい孔径のろ紙又はメンブレンフィルターを用いることが好ましい。
【0016】
本発明のイチョウ葉抽出液の製造方法において、ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液のギンコール酸濃度は、15ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、5ppm以下であることがさらに好ましい。
【0017】
本発明のイチョウ葉抽出液の製造方法において、ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液のフラボノイド濃度は、30ppm以上であることが好ましく、35ppm以上であることがより好ましく、40ppm以上であることがさらに好ましい。
【0018】
本発明のイチョウ葉抽出液の製造方法において、ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液のテルペノイド濃度は、0.5ppm以上であることが好ましく、1ppm以上であることがより好ましく、1.5ppm以上であることがさらに好ましい。
【0019】
本発明のイチョウ葉抽出液の製造方法は、
(c)0~90℃の温度でイチョウ葉から溶媒抽出によりイチョウ葉抽出液を得る工程をさらに含むことが好ましく、当該工程(c)を含む場合、工程(c)、工程(a)及び工程(b)をこの順に含むことが好ましい。
【0020】
工程(c)は、イチョウ葉を含まないイチョウ葉抽出液を分離することを含んでいてもよく、工程(c)は、イチョウ葉を含まないイチョウ葉抽出液を分離することを含むことが好ましい。ここで、イチョウ葉を含まないイチョウ葉抽出液とは、イチョウ葉を実質的に含まないイチョウ葉抽出液を意味し、イチョウ葉を実質的に含まないとはイチョウ葉が不可避的に含まれることを許容する趣旨である。
【0021】
工程(c)における抽出温度は、イチョウ葉抽出液におけるギンコール酸含有量の低減効率を向上させる観点から、0℃以上90℃以下であることが好ましく、15℃以上90℃未満であることがより好ましく、30℃以上85℃以下であることがさらに好ましい。
【0022】
工程(c)における溶媒抽出としては、イチョウ葉に含まれるフラボノイド及びテルペノイド等の有効成分を抽出し得る溶媒を用いた抽出であれば特に制限されないが、例えば、水を含む液体による抽出が挙げられる。当該液体全体に対する水の含有割合は、特に制限されないが、90容量%以上であることが好ましく、93容量%以上であることがより好ましく、95容量%以上であることがさらに好ましい。水は、特に制限されず、天然水、水道水、蒸留水、滅菌水、イオン交換水等を用いることができる。
【0023】
工程(c)における抽出pHは、イチョウ葉抽出液におけるギンコール酸含有量の低減効率を向上させる観点から、pH2~6であることが好ましく、pH2~5であることがより好ましく、pH2~4であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明のイチョウ葉抽出液の製造方法は、
(d)イチョウ葉抽出液を冷却することにより、イチョウ葉抽出液中のギンコール酸を沈殿させる工程
をさらに含むことが好ましく、当該工程(d)を含む場合、当該工程(d)は:工程(c)と工程(a)との間に行われ;工程(a)と工程(b)との間に行われ;又は工程(a)と同時に行われることが好ましい。
【0025】
本発明のイチョウ葉抽出液の製造方法において、工程(d)が工程(c)と工程(a)との間に行われる場合、工程(d)と工程(a)との間に、(e)ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液を分離する工程をさらに含んでいてもよい。
【0026】
本発明のイチョウ葉抽出液の製造方法において、工程(d)が工程(a)と工程(b)との間に行われる場合、工程(a)と工程(d)との間に、(e)ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液を分離する工程をさらに含んでいてもよい。
【0027】
工程(e)において、ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液を分離する方法としては、特に制限されず、例えば、ろ過、遠心分離等が挙げられる。中でも、イチョウ葉抽出液におけるギンコール酸含有量の低減効率を向上させる観点から、ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液を分離する方法は遠心分離であることが好ましい。一方、イチョウ葉抽出液におけるギンコール酸含有量の低減操作の簡便性の観点からは、ギンコール酸含有量が低減したイチョウ葉抽出液を分離する方法はろ過であることが好ましい。
【0028】
工程(d)において、イチョウ葉抽出液の冷却温度は、イチョウ葉抽出液におけるギンコール酸含有量の低減効率を向上させる観点から、0~70℃であることが好ましく、0~65℃であることがより好ましく、0~60℃であることがさらに好ましい。
【0029】
工程(d)において、イチョウ葉抽出液の冷却は、撹拌又は静置下のいずれの方法をも用いることができる。中でも、冷却効率を高める観点から、イチョウ葉抽出液の冷却は撹拌によることが好ましい。
【0030】
本発明のイチョウ葉抽出液の製造方法は、上述する工程以外に、他の工程を含んでいてもよい。他の工程としては、例えば、イチョウ葉抽出液の濃縮工程等が挙げられる。
【0031】
2.本発明のイチョウ葉抽出液
本発明のイチョウ葉抽出液は、上述するイチョウ葉抽出液の製造方法で製造されるイチョウ葉抽出液である。
【0032】
本発明のイチョウ葉抽出液のギンコール酸濃度は、15ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、5ppm以下であることがさらに好ましい。
【0033】
本発明のイチョウ葉抽出液のフラボノイド濃度は、30ppm以上であることが好ましく、35ppm以上であることがより好ましく、40ppm以上であることがさらに好ましい。
【0034】
本発明のイチョウ葉抽出液のテルペノイド濃度は、0.5ppm以上であることが好ましく、1ppm以上であることがより好ましく、1.5ppm以上であることがさらに好ましい。
【0035】
本発明のイチョウ葉抽出液は、アレルゲンであるギンコール酸含有量が低減されているため、食品に広く用いることができ、例えば、イチョウ茶の製造に好ましく用いることができる。
【実施例0036】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
<実施例1.イチョウ葉抽出液の製造におけるイチョウ葉抽出液のアルカリ化>
粉砕したイチョウ葉5 gに水100 mlを加え、90℃で10分間静置して、ろ紙(ADVANTEC(登録商標)定性濾紙 No.2、アドバンテック東洋株式会社製)を用いたろ過によりイチョウ葉を除去し、イチョウ葉抽出液を得た。得られたイチョウ葉抽出液(pH3.8)10 mlに1M NaOHを添加し、イチョウ葉抽出液のpHを4、5、6、7、8又は9に調整した。pH調整後のイチョウ葉抽出液を2000 rpmで4℃で10分間遠心分離し、上清と沈殿に分離した(アルカリ化実験1)。
【0038】
上清及び沈殿におけるギンコール酸濃度を測定した。結果を
図1に示す。
図1及び以降の図において、ギンコール酸濃度は、イチョウ葉抽出液中の化学構造式の異なる5種類のギンコール酸(ギンコール酸13:0、ギンコール酸15:1、ギンコール酸17:2、ギンコール酸15:0、及びギンコール酸17:1)の合計含有量から算出した値を示す。pH8及び9に調整したイチョウ葉抽出液の沈殿中に検出されるギンコール酸濃度は、pH4、5、6及び7に調整したイチョウ葉抽出液の沈殿中に検出されるギンコール酸濃度に比べて増加した。この結果から、イチョウ葉抽出液をpH8~9に調整することで、ギンコール酸の沈殿量が増加することが示された。
【0039】
より強アルカリ側でも同様の傾向がみられるか否かを検証するために、未粉砕のイチョウ葉を用いて上記と同様の方法で得られたイチョウ葉抽出液を、上記と同様の方法でpH5、7、8、9又は11に調整後、上記と同様の方法で遠心分離して、上清のギンコール酸濃度を測定した(アルカリ化実験2)。結果を
図2に示す。pH11に調整したイチョウ葉抽出液の上清のギンコール酸濃度は、pH8及び9に調整したイチョウ葉抽出液の上清のギンコール酸濃度と同程度であり、pH5及び7に調整したイチョウ葉抽出液の上清のギンコール酸濃度と比べて減少した。この結果から、より強アルカリ側においてもギンコール酸の沈殿量の増加傾向が維持されることが示された。
【0040】
以上の結果から、イチョウ葉抽出液をアルカリ性に調整(アルカリ化)することで、イチョウ葉抽出液中のギンコール酸の沈殿量が増加することが示された。
【0041】
また、アルカリ化実験1のpH調整後のイチョウ葉抽出液(pH4、5、6、7、8又は9)の上清及び沈殿におけるフラボノイド濃度及びテルペノイド濃度を測定した。結果を
図3に示す。
図3において、フラボノイド濃度は、イチョウ葉抽出液中のケルセチン(Quercetin)、ケンフェロール(Kaempferol)及びイソラムネチン(isorhamnetin)の合計含有量から算出した値を示す。テルペノイド濃度は、ビロバライド(bilobalide)、ギンコライドC(Ginkgolide C)、ギンコライドA(Ginkgolide A)及びギンコライドB(Ginkgolide B)の合計含有量から算出した値を示す。pH4、5、6、7、8及び9の全ての場合で沈殿にフラボノイド及びテルペノイドは検出されなかった。この結果から、イチョウ葉抽出液のアルカリ化によって、フラボノイド及びテルペノイドは沈殿しないことが示された。
【0042】
さらに、アルカリ化実験1のpH調整後のイチョウ葉抽出液(pH9)から、上述の遠心分離に代えてろ紙(ADVANTEC(登録商標)定性濾紙 No.2、アドバンテック東洋株式会社製)を用いたろ過により上清を分離し、当該上清のギンコール酸濃度を測定した。結果を
図4に示す。ろ過により上清を分離した場合の上清のギンコール酸濃度は、遠心分離により上清を分離した場合の上清のギンコール酸濃度より高かったものの、アルカリ化前のイチョウ葉抽出液のギンコール酸濃度(以下、本明細書及び図面において、「元のギンコール酸濃度」と表現することがある)に比べて低かった。この結果から、ギンコール酸含有量が低減されたイチョウ葉抽出液の分離には、遠心分離とろ過のいずれの方法をも用いることができることが示された。
【0043】
<実施例2.イチョウ葉抽出液の製造における抽出条件の調整>
未粉砕のイチョウ葉5 gに水100 mlを加え、(1)室温で24時間、(2)90℃で10分間、又は(3)100℃で1時間の3種類の条件下で抽出を行った。以下、本明細書及び図面において、上記(1)~(3)の条件をそれぞれ「水抽出24h」、「湯煎10min」及び「直火1h」と表現することがある。抽出後、ろ紙を用いたろ過により、各サンプルからイチョウ葉を除去し、イチョウ葉抽出液を得た。
【0044】
得られたイチョウ葉抽出液におけるギンコール酸、フラボノイド及びテルペノイドの各成分の濃度を測定した。結果を
図5に示す。
【0045】
得られたイチョウ葉抽出液において、ギンコール酸濃度は、(1)室温で24時間及び(2)90℃で10分間の条件下では著しく低かったのに対し、(3)100℃で1時間の条件下では著しく高かった(約50 ppm)。(1)室温で24時間及び(2)90℃で10分間の条件下で得られたイチョウ葉抽出液のギンコール酸濃度は、一般的な製造方法(抽出条件:90~95℃で1時間)で得られたイチョウ葉抽出液のギンコール酸濃度と比較して、著しく低下した。また、(3)100℃で1時間の条件下で得られたイチョウ葉抽出液のギンコール酸濃度は、(1)室温で24時間の条件下で得られたイチョウ葉抽出液のギンコール酸濃度の約470倍であった。この結果から、過酷な抽出条件(90℃以上で1時間)下で得られたイチョウ葉抽出液にはギンコール酸が多く含まれることが示された。
【0046】
また、(1)室温で24時間及び(2)90℃で10分間の条件下で得られたイチョウ葉抽出液のフラボノイド濃度は、一般的な製造方法(抽出条件:90~95℃で1時間)で得られたイチョウ葉抽出液のフラボノイド濃度と同程度であった。一方で、(3)100℃で1時間の条件下で得られたイチョウ葉抽出液のフラボノイド濃度は、(1)室温で24時間の条件下で得られたイチョウ葉抽出液のフラボノイド濃度の約2.4倍であった。この結果から、抽出温度及び抽出時間といった抽出条件によって、イチョウ葉抽出液中のフラボノイド濃度は、イチョウ葉抽出液中のギンコール酸濃度に比べるとそれほど影響を受けないことが示された。
【0047】
さらに、(1)室温で24時間、(2)90℃で10分間、(3)100℃で1時間の条件下、及び一般的な製造方法(抽出条件:90~95℃で1時間)で得られたイチョウ葉抽出液のテルペノイド濃度は、同程度であった。(3)100℃で1時間の条件下で得られたイチョウ葉抽出液のテルペノイド濃度は、(1)室温で24時間の条件下で得られたイチョウ葉抽出液のテルペノイド濃度の約1.3倍であった。この結果から、抽出温度及び抽出時間といった抽出条件によって、イチョウ葉抽出液中のテルペノイド濃度はほとんど影響を受けないことが示された。
【0048】
<実施例3.イチョウ葉抽出液の製造におけるイチョウ葉抽出液の冷却>
実施例2のイチョウ葉抽出液の製造方法において、原料である未粉砕のイチョウ葉を粉砕されたイチョウ葉に変更したことを除き、同様の方法により、 (2)90℃で10分間の条件下で得られたイチョウ葉抽出液を(i)2℃で撹拌、(ii)室温で撹拌、又は(iii)60℃で静置した後、ろ紙を用いてろ過し、イチョウ葉抽出液を得た。以下、本明細書及び図面において、上記(i)~(iii)の冷却処理条件をそれぞれ「2℃撹拌」、「室温撹拌」及び「60℃静置」と表現することがある。
【0049】
得られたイチョウ葉抽出液におけるギンコール酸濃度を測定した。結果を
図6Aに示す。(i)2℃で撹拌、(ii)室温で撹拌、及び(iii)60℃で静置後に得られたイチョウ葉抽出液におけるギンコール酸量は、上記(i)~(iii)の冷却及びその後のろ過処理を行わないイチョウ葉抽出液におけるギンコール酸濃度(以下、本明細書及び図面において、「冷却ろ過処理なし」と表現することがある)に比べて、それぞれ73%、58%、及び45%減少した。この結果から、イチョウ葉抽出液の温度が低いほど、ギンコール酸が多く沈殿することが示された。
【0050】
次に、一般的な製造方法(抽出条件:90~95℃で1時間)で得られたイチョウ葉抽出液においても同様の傾向がみられるかを検証した。結果を
図6Bに示す。一般的な製造方法(抽出条件:90~95℃で1時間)で得られたイチョウ葉抽出液を(i)2℃で撹拌、(ii)室温で撹拌、又は(iii)60℃で静置後、ろ紙を用いたろ過によりイチョウ葉抽出液を得た。得られたイチョウ葉抽出液におけるギンコール酸濃度は、上記(i)~(iii)の処理を行わずにろ紙を用いたろ過又は遠心分離により得られたイチョウ葉抽出液におけるギンコール酸濃度に比べて、減少しなかった。この結果から、一般的な製造方法(抽出条件:90~95℃で1時間)で得られたイチョウ葉抽出液では、イチョウ葉抽出液の温度を低下させてもギンコール酸が沈殿しないことが分かった。これは、一般的な製造方法(抽出条件:90~95℃で1時間)で得られたイチョウ葉抽出液が、例えば長時間の加熱によるイチョウ葉抽出液中のタンパク質の変性等により、イチョウ葉抽出液中のギンコール酸が結晶化できない状態にあることに起因すると考えられる。
【0051】
さらに、未粉砕のイチョウ葉を用いた場合、上記(i)2℃で撹拌後ろ紙を用いたろ過を行っても、イチョウ葉抽出液におけるギンコール酸量は、減少しなかった(
図6C)。この結果から、未粉砕のイチョウ葉を用いた場合、イチョウ葉抽出液の温度の低下によるギンコール酸の沈殿現象が起こりにくい可能性が示唆された。粉砕されたイチョウ葉を用いた場合、未粉砕のイチョウ葉を用いた場合に比べて、イチョウ葉抽出液中のギンコール酸量が多くなることが一般的に知られていることを考慮すると、イチョウ葉抽出液の温度の低下によるギンコール酸の沈殿現象は、イチョウ葉抽出液中に含まれるギンコール酸量に依存する、すなわち、イチョウ葉抽出液中に含まれるギンコール酸量が多いほどイチョウ葉抽出液の温度の低下によるギンコール酸の沈殿現象が起こりやすいと考えられる。
【0052】
<実施例4.イチョウ葉抽出液におけるギンコール酸濃度の測定>
粉砕したイチョウ葉5 gに水100 mlを加え、(2)90℃で10分間の条件下で抽出を行い、ろ紙を用いたろ過によりイチョウ葉を除去した。得られたイチョウ葉抽出液(pH3.8)10 mlに1M NaOHを添加し、イチョウ葉抽出液のpHを5、7、8、9又は11に調整した。pH調整後のイチョウ葉抽出液を2000 rpmで4℃で10分間遠心分離し、イチョウ葉抽出液を得た。pH調整前のイチョウ葉抽出液及び、pH調整及び遠心分離後に得られたイチョウ葉抽出液において、ギンコール酸濃度を測定した。結果を以下の表1に示す。
【0053】
【0054】
以上の結果をまとめると、イチョウ葉抽出液の製造において、イチョウ葉抽出液のアルカリ化は、イチョウ葉抽出液中のギンコール酸含有量を低減するのに有効な方法である。また、イチョウ葉抽出液の製造において、抽出条件の調整及び/又はイチョウ葉抽出液の冷却により、イチョウ葉抽出液中のギンコール酸含有量を低減することができる。さらに、これらの方法を上記イチョウ葉抽出液のアルカリ化と組み合せて用いることにより、イチョウ葉抽出液中のギンコール酸含有量を低減する効果をより高めることができる。