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特開2025-31772ガラス部材の製造方法およびガラス部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025031772
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】ガラス部材の製造方法およびガラス部材
(51)【国際特許分類】
   C03C 23/00 20060101AFI20250228BHJP
   C03C 17/22 20060101ALI20250228BHJP
【FI】
C03C23/00 Z
C03C17/22 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024221441
(22)【出願日】2024-12-18
(62)【分割の表示】P 2021025627の分割
【原出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(72)【発明者】
【氏名】小野 良貴
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】林 泰夫
(57)【要約】
【課題】従来に比べてより良好な耐擦傷性を有するガラス部材の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ガラス部材の製造方法であって、500℃~900℃の温度において、被処理ガラスの表面にフッ化物を接触させた状態で、前記被処理ガラスを水蒸気を含む雰囲気に暴露することを含む、製造方法。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス部材の製造方法であって、
500℃~900℃の温度において、被処理ガラスの表面にフッ化物を接触させた状態で、前記被処理ガラスを水蒸気を含む雰囲気に暴露することを含む、製造方法。
【請求項2】
前記雰囲気における水蒸気分圧は、0.5vol%~100vol%の範囲である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記フッ化物は、アルカリ金属フッ化物およびアルカリ土類フッ化物の少なくとも一つを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記フッ化物は、前記被処理ガラスにフッ化水素ガスを供給することにより、前記表面にフッ化物層として設置される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
さらに、フッ化物を除去することを含む、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
さらに、前記被処理ガラスを水蒸気を含む雰囲気に暴露した後、前記被処理ガラスを塩酸で処理することを含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
表面を有するガラス部材であって、
前記表面における赤外線反射分光法により、法線に対して10゜の角度で得られた反射特性プロファイルを、波数920cm-1~980cm-1の範囲にピークを有する第1のピーク領域と、波数1040cm-1~1120cm-1の範囲における第2のピーク領域とにピーク分離し、前記第1のピーク領域の面積をSとし、前記第2のピーク領域の面積をSとしたとき、
比S/Sは、0.8以上である、ガラス部材。
【請求項8】
当該ガラス部材は、表面層を有し、
前記表面は、前記表面層の表面に相当する、請求項7に記載のガラス部材。
【請求項9】
前記表面層は、フッ素濃度が10原子%未満であり、
原子濃度表記において、前記表面層におけるアルカリ土類金属の濃度をCesとし、当該ガラス部材のバルクにおけるアルカリ土類金属の濃度をCebとしたとき、
比Ces/Cebは、1.4以上である、請求項8に記載のガラス部材。
【請求項10】
原子濃度表記において、前記表面層におけるアルカリ土類金属の濃度とアルカリ金属の濃度の総和をCとし、当該ガラス部材のバルクにおけるアルカリ土類金属の濃度とアルカリ金属の濃度の総和をCとしたとき、
比C/Cは、1.4以上である、請求項9に記載のガラス部材。
【請求項11】
前記表面層は、ケイ素および酸素を含み、
原子濃度表記において、前記ケイ素と前記酸素の合計は、98%以上であり、
原子濃度表記において、ケイ素および酸素の比O/Siは、2.2以上である、請求項8に記載のガラス部材。
【請求項12】
前記表面層の表面は、少なくとも一部がナノ粒子の集合体で構成されている、請求項11に記載のガラス部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス部材の製造方法およびガラス部材に関する。
【背景技術】
【0002】
カバーガラスのような一部のガラス部材には、しばしば、表面に耐擦傷性が要求される場合がある。
【0003】
そのような耐擦傷性を得るための最も簡便な方法は、ガラス部材の表面に、樹脂フィルムのような保護フィルムを貼付することである。
【0004】
しかしながら、樹脂フィルムは、耐熱性の観点から問題がある。また、樹脂フィルムをガラス部材に貼付すると、その後、ガラス部材を切断することが難しくなる場合がある。このため、ガラス部材を切断する際には、一旦、樹脂フィルムをガラス部材から除去する作業が必要となる。
【0005】
本願発明者らにより出願された特許文献1では、上記問題に対処するため、ガラス部材の表面にフッ素含有層を形成することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-194145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のガラス部材では、フッ素含有層により、ある程度の耐擦傷性を表面に付与することができる。しかしながら、近年、耐擦傷性に対するニーズは益々高まる傾向にあり、ガラス部材に対してさらなる耐擦傷性が求められるようになってきた。
【0008】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、従来に比べてより良好な耐擦傷性を有するガラス部材の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明では、従来に比べてより良好な耐擦傷性を有するガラス部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、ガラス部材の製造方法であって、
500℃~900℃の温度において、被処理ガラスの表面にフッ化物を接触させた状態で、前記被処理ガラスを水蒸気を含む雰囲気に暴露することを含む、製造方法が提供される。
【0010】
また、本発明では、表面を有するガラス部材であって、
前記表面における赤外線反射分光法により、法線に対して10゜の角度で得られた反射特性プロファイルを、波数920cm-1~980cm-1の範囲にピークを有する第1のピーク領域と、波数1040cm-1~1120cm-1の範囲における第2のピーク領域とにピーク分離し、前記第1のピーク領域の面積をSとし、前記第2のピーク領域の面積をSとしたとき、
比S/Sは、0.8以上である、ガラス部材が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、従来に比べてより良好な耐擦傷性を有するガラス部材の製造方法を提供することができる。また、本発明では、従来に比べてより良好な耐擦傷性を有するガラス部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】赤外線反射分光法により得られた反射スペクトルをピーク分離する際の模式図である。
図2】本発明の一実施形態によるガラス部材の構成例を模式的に示した断面図である。
図3】走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影された、平滑型表面層の表面の一例を示した写真である。
図4】原子間力顕微鏡(AFM)により撮影された、凹凸型表面層の表面の一例を示した写真である。
図5】赤外線反射分光法により得られた凹凸型表面層の反射スペクトルの一例を模式的に示した図である。
図6】本発明の一実施形態によるガラス部材の製造方法のフローを模式的に示した図である。
図7】本発明の一実施形態によるガラス部材の製造方法の一工程を模式的に示した図である。
図8】本発明の一実施形態によるガラス部材の製造方法の一工程を模式的に示した図である。
図9】本発明の別の実施形態によるガラス部材の製造方法のフローを模式的に示した図である。
図10】赤外線反射分光法により得られたサンプル1の反射スペクトルの一例を示した図である。
図11】赤外線反射分光法により得られたサンプル11の反射スペクトルの一例を示した図である。
図12】赤外線反射分光法により得られたサンプル21の反射スペクトルの一例を示した図である。
図13】赤外線反射分光法により得られたサンプル24の反射スペクトルの一例を示した図である。
図14】サンプル1において得られた、表面層の深さ方向における各元素の濃度プロファイルを示した図である。
図15】サンプル11において得られた、表面層の深さ方向における各元素の濃度プロファイルを示した図である。
図16】各サンプルにおける耐擦傷性試験後の表面の顕微鏡写真をまとめて示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0014】
本発明の一実施形態では、
ガラス部材の製造方法であって、
500℃~900℃の温度において、被処理ガラスの表面にフッ化物を接触させた状態で、前記被処理ガラスを水蒸気を含む雰囲気に暴露することを含む、製造方法が提供される。
【0015】
本発明の一実施形態では、表面に表面層を有するガラス部材が製造される。この表面層は、被処理ガラスの反応層として形成される。従って、本発明の一実施形態では、ガラス基板の表面に樹脂フィルムを貼付した場合とは異なり、表面層を含有したまま、ガラス部材を切断することができる。
【0016】
また、この表面層は、従来のフッ素含有層に比べて、良好な耐擦傷性を有する。このため、本発明の一実施形態による製造方法では、従来に比べてより良好な耐擦傷性を有するガラス部材を提供することができる。
【0017】
また、本発明の一実施形態では、
表面を有するガラス部材であって、
前記表面における赤外線反射分光法により、法線に対して10゜の角度で得られた反射特性プロファイルを、波数920cm-1~980cm-1の範囲にピークを有する第1のピーク領域と、波数1040cm-1~1120cm-1の範囲における第2のピーク領域とにピーク分離し、前記第1のピーク領域の面積をSとし、前記第2のピーク領域の面積をSとしたとき、
比S/Sは、0.8以上である、ガラス部材が提供される。
【0018】
本発明の一実施形態によるガラス部材は、表面の非架橋酸素数が相対的に多いという特徴を有する。そのため、前述の比S/Sは、0.8以上と比較的高い値を示す。
【0019】
このようなガラス部材では、表面の耐擦傷性を有意に高めることができる。
【0020】
例えば、本発明の一実施形態によるガラス部材では、前述の特許文献1に記載のガラス部材に比べて、少なくとも3倍以上の耐擦傷性を得ることができる。
【0021】
ここで、図1を参照して、本願において利用されるピーク分離の手法について説明する。
【0022】
前述のように、本願では、赤外線反射分光法により、被測定対象の表面での反射スペクトルが測定される。測定は、被測定対象の表面の法線に対して10゜の角度で実施される。
【0023】
図1には、測定された反射スペクトルの一例を模式的に示す。
【0024】
次に、この反射スペクトル10が2つのピーク領域20、30に分離される。
【0025】
具体的には、反射スペクトル10において、波数920cm-1~980cm-1の間で、第1のピークが定められ、波数1040cm-1~1120cm-1の間で、第2のピークが定められる。次に、カーブフィッティング法により、実際の反射スペクトル10と、計算スペクトルの差の2乗の和が最小となるようにして、第1のピーク領域20および第2のピーク領域30が定められる。
【0026】
このような操作は、市販のピーク分離ソフトウェア(例えば、Orijinソフトウェア)を使用することにより、容易に実施できる。
【0027】
なお、前述のSおよびSは、それぞれ、第1のピーク領域20および第2のピーク領域30の面積積分値である。
【0028】
ガラスの場合、第1のピークは、非架橋酸素に由来し、第2のピークは、架橋酸素に由来する。また、一般的なガラス基板の場合、表面は、架橋酸素が優先的となる。従って、一般的なガラス基板の場合、図1とは異なり、第2のピーク領域30の面積の方が、第1のピーク領域20の面積よりも大きくなる傾向が得られる(例えば、比S/Sは、0.5程度)。
【0029】
これに対して、本発明の一実施形態によるガラス部材では、表面における非架橋酸素が相対的に高くなっており、従って、第1のピーク領域20の面積の方が、第2のピーク領域30の面積よりも大きくなる。
【0030】
なお、本発明の一実施形態によるガラス部材では、図1に示した例とは異なり、測定された反射スペクトル10の段階で、第1のピークと第2のピークが明確に認められる場合も存在する。
【0031】
(本発明の一実施形態によるガラス部材)
以下、図2を参照して、本発明の一実施形態によるガラス部材について、より詳しく説明する。
【0032】
図2には、本発明の一実施形態によるガラス部材(以下、「第1のガラス部材」と称する)の断面を模式的に示す。
【0033】
図2に示すように、第1のガラス部材100は、第1の表面102および第2の表面104を有する。また、第1のガラス部材100は、ガラス基板110と、該ガラス基板110の上に設置された表面層130とを有する。
【0034】
ガラス基板110は、第1の表面112および第2の表面114を有し、表面層130は、ガラス基板110の第1の表面112に設置される。ただし、本発明の別の実施形態では、ガラス基板110の第1の表面112に加えて、第2の表面114にも、表面層が設置されてもよい。
【0035】
第1のガラス部材100の第1の表面102は、表面層130の表面に対応する。
【0036】
ここで、第1のガラス部材100では、表面層130がガラスで構成され、表面層130は、架橋酸素よりも非架橋酸素が支配的であるという特徴を有する。
【0037】
具体的には、表面層130は、赤外線反射分光法により、法線に対して10゜の角度で得られた反射スペクトルを、波数920cm-1~980cm-1の範囲にピークを有する第1のピーク領域と、波数1040cm-1~1120cm-1の範囲にピークを有する第2のピーク領域とにピーク分離し、前記第1のピーク領域の面積(積分値)をS1とし、前記第2のピーク領域の面積(積分値)をSとしたとき、比S/Sが0.8以上であるという特徴を有する。
【0038】
比S/Sは、0.9以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましく、1.1以上であることがさらに好ましい。
【0039】
第1のガラス部材100は、このような表面層130を有するため、良好な耐擦傷性を示す。
【0040】
例えば、第1のガラス部材100の表面層130の耐擦傷性は、後述するように、特許文献1に記載のガラス部材に対して、少なくとも3倍以上の耐擦傷性を有してもよい。
【0041】
また、第1のガラス部材100では、耐擦傷性は、樹脂フィルムではなく、ガラス製の表面層130により提供される。従って、第1のガラス部材100では、ガラス基板110の表面に樹脂フィルムを貼付した場合とは異なり、表面層130を含有したまま、ガラス部材を切断することができる。
【0042】
(表面層130について)
以下、第1のガラス部材100に含まれる表面層130のその他の特徴について、より詳しく説明する。
【0043】
上記のような特徴を有する表面層130の構成は、大きく分けて、表面が平滑な第1のタイプ(以下、「平滑型表面層130A」と称する)と、表面に凹凸を有する第2のタイプ(以下、「凹凸型表面層130B」と称する)の2つのタイプに分類できる。
【0044】
以下、それぞれのタイプの表面層130について説明する。
【0045】
(平滑型表面層130A)
平滑型表面層130Aは、平滑な表面を有する。表面粗さ(算術平均粗さRa)は、例えば、0.2nm~2.0nmの範囲である。
【0046】
図3には、走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影された、平滑型表面層130Aの表面の一例を示す。この図3からも、平滑型表面層130Aの表面は、比較的平滑であることがわかる。
【0047】
平滑型表面層130Aは、通常の場合、ガラス基板110の組成に比べて、アルカリ土類金属の濃度が高いという特徴を有する。例えば、原子濃度表記において、バルクのガラス基板110に含まれるアルカリ土類金属の総和をCebとし、表面層130に含まれるアルカリ土類金属の濃度の総和をCesとしたとき、平滑型表面層130Aの場合、比Ces/Cebは、1.4以上である。比Ces/Cebは、1.6以上であることが好ましい。
【0048】
なお、本願において、「表面層に含まれるアルカリ土類金属の濃度」は、表面層の厚さ方向における測定によって得られたアルカリ土類金属の濃度の平均値を表す。
【0049】
また、本願では、原子濃度表記において、バルクのガラス基板110に含まれるアルカリ金属の総和をCabとし、表面層130に含まれるアルカリ土類金属の濃度の総和をCasとする。ここで、「表面層に含まれるアルカリ金属の濃度」は、表面層の厚さ方向における測定によって得られたアルカリ金属の濃度の平均値を表す。
【0050】
また、原子濃度表記において、ガラス基板110に含まれるアルカリ金属とアルカリ土類金属の総和をC(=Ceb+Cab)とし、表面層130に含まれるアルカリ金属とアルカリ土類金属の総和をC(=Ces+Cas)とする。この場合、平滑型表面層130Aでは、比C/Cは、1.4以上である。比C/Cは、1.6以上であることが好ましい。
【0051】
通常、平滑型表面層130Aにおけるフッ素の含有量は、10原子%以下である。フッ素の含有量は、5原子%以下であることが好ましく、例えば3原子%以下であり、あるいは実質的にゼロであってもよい。
【0052】
平滑型表面層130Aの厚さは、特に限られない。平滑型表面層130Aの厚さは、例えば、50nm~1000nmの範囲である。平滑型表面層130Aの厚さは、100nm~500nmの範囲であることが好ましい。
【0053】
前述の図1には、平滑型表面層130Aを有する第1のガラス部材100において認められる、典型的な赤外線反射スペクトルの一例を模式的に示す。
【0054】
図1に示すように、平滑型表面層130Aを有する第1のガラス部材100では、測定される赤外線反射スペクトル10をピーク分離した際に、第1のピーク領域20は、第2のピーク領域30よりも大きくなる。前述のように、両領域20、30の面積比S/Sは、0.8以上である。
【0055】
(凹凸型表面層130B)
次に、凹凸型表面層130Bについて説明する。
【0056】
凹凸型表面層130Bは、平滑型表面層130Aとは異なり、微細な凹凸を有する表面を有する。これは、凹凸型表面層130Bの表面は、少なくとも一部が「ナノ粒子」の集合体を有し、あるいは凹凸型表面層130Bの表面は、少なくとも一部が「ナノ粒子」の集合体で構成されるためである。
【0057】
ここで、「ナノ粒子」とは、平均粒子径が8nm~15nmの微細粒子を意味する。
【0058】
図4には、原子間力顕微鏡(AFM)により撮影された、凹凸型表面層130Bの表面の一例を示す。図4において、像の縦横寸法は、100nm×100nmである。
【0059】
この図4から、凹凸型表面層130Bの表面は、多数のナノ粒子が凝集した形態となっており、多くの凹凸が存在することがわかる。各ナノ粒子は、約10nmの直径を有する。
【0060】
凹凸型表面層130Bは、主としてケイ素および酸素を含む。
【0061】
原子濃度表記において、凹凸型表面層130Bに含まれるケイ素と前記酸素の合計は、98%以上であり、99%以上であることが好ましい。特に、凹凸型表面層130Bは、ケイ素と酸素で構成されることが好ましい。
【0062】
また、原子濃度表記において、凹凸型表面層130Bにおけるケイ素および酸素の比O/Siは、2.2以上である。通常の二酸化ケイ素における比O/Siは、2.0であることから、凹凸型表面層130Bにおけるこの比の値は、特徴的である。
【0063】
凹凸型表面層130Bの厚さは、特に限られない。凹凸型表面層130Bの厚さは、例えば、50nm~1000nmの範囲である。凹凸型表面層130Bの厚さは、100nm~500nmの範囲であることが好ましい。
【0064】
図5には、凹凸型表面層130Bを有する第1のガラス部材100において認められる、典型的な赤外線反射スペクトルの一例を模式的に示す。
【0065】
図5に示すように、凹凸型表面層130Bを有する第1のガラス部材100では、図1と比べて、第1のピーク領域20および第2のピーク領域30に対応する2つのピークがより明確に出現していることがわかる。
【0066】
ただし、この場合も、面積比S/Sは、0.8以上である。
【0067】
(本発明の一実施形態によるガラス部材の製造方法)
次に、図6を参照して、本発明の一実施形態によるガラス部材の製造方法について説明する。
【0068】
図6には、本発明の一実施形態によるガラス部材の製造方法(以下、「第1の方法」と称する)のフローを模式的に示す。
【0069】
図6に示すように、第1の方法は、
(1)高温下、被処理ガラスの表面にフッ化物を接触させた状態で、被処理ガラスを水蒸気含有雰囲気に暴露する工程(工程S110)と、(2)フッ化物を除去する工程(工程S120)と、
を有する。
【0070】
第1の方法では、例えば、前述の平滑型表面層130Aを有するガラス部材を製造することができる。
【0071】
以下、各工程について説明する。なお、ここでは、一例として、前述の第1のガラス部材100を例にその製造方法について説明する。従って、各部分を表す際には、図2に使用した参照符号を使用する。
【0072】
(工程S110)
まず、被処理ガラスが準備される。被処理ガラスは、ガラス基板110であってもよい。
【0073】
ガラス基板110は、ガラスで構成される限り、その組成は、特に限られない。ガラス基板110は、例えば、ソーダライムガラスであってもよい。
【0074】
ガラス基板110の形態は、特に限られない。ガラス基板110は、例えば、板状、円板状、またはブロック状であってもよい。
【0075】
次に、ガラス基板110の被処理表面(第1の表面112とする)に、フッ化物が設置される。
【0076】
フッ化物の種類は、固体である限り、特に限られない。フッ化物は、例えば、アルカリ金属フッ化物およびアルカリ土類フッ化物の少なくとも一つを含んでもよい。
【0077】
フッ化物の設置態様は、特に限られず、フッ化物は、例えば、粒子として、または層として、ガラス基板110の第1の表面112に設置されてもよい。
【0078】
以下、フッ化物が層として提供される場合を例に説明する。
【0079】
フッ化物が層の場合、フッ化物層は、いかなる方法でガラス基板110の第1の表面112に設置されてもよい。フッ化物層は、例えば、蒸着法、PVD法、CVD法、またはスパッタリング法などの方法により、ガラス基板110の第1の表面112に設置されてもよい。
【0080】
あるいは、フッ化物層は、ガラス基板110にフッ化水素(HF)ガスを供給することにより、ガラスとの反応生成物として、第1の表面112に形成されてもよい。この場合、HFガスの濃度は、1vol%~20vol%の範囲であることが好ましい。また、処理温度は、200℃~650℃の範囲であることが好ましい。
【0081】
なお、HFガスを用いてガラス基板110にフッ化物層を形成する方法は、前述の特許文献1に詳細に記載されている。
【0082】
図7には、ガラス基板110の第1の表面112にフッ化物層120が設置された状態を模式的に示した。
【0083】
次に、高温下で、ガラス基板110が水蒸気含有雰囲気に暴露される。
【0084】
このため、例えば、ガラス基板110が処理チャンバ内に配置されてもよい。また、処理チャンバ内が加熱され、処理チャンバ内に水蒸気を含むガスが供給されてもよい。
【0085】
水蒸気を含むガスは、キャリアガスと混合した状態で供給されてもよい。キャリアガスとしては、例えば、アルゴンおよび/または窒素などが使用される。
【0086】
雰囲気内の水蒸気分圧は、例えば、0.5vol%~100vol%の範囲である。水蒸気分圧は、1vol%~20vol%の範囲であることが好ましい。
【0087】
処理温度は、500℃以上であり、ガラス基板110の溶融温度未満である。例えば、処理温度は、500℃~900℃の範囲である。処理温度は、600℃~800℃の範囲であることが好ましい。
【0088】
処理時間は、処理温度および水蒸気分圧によっても変化するが、例えば、1分~24時間の範囲であってもよい。
【0089】
図8には、高温の処理チャンバ内で、フッ化物層120を有するガラス基板110が処理された後の状態を模式的に示す。
【0090】
係る処理(以下、「水蒸気処理」と称する)により、ガラス基板110の第1の表面112において、フッ化物層120の直下に、反応層129が形成される。
【0091】
反応層129の厚さは、例えば、50nm~1000nmの範囲である。
【0092】
(工程S120)
次に、ガラス基板110の第1の表面112からフッ化物層120が除去され、反応層129が露出される。
【0093】
フッ化物層120を除去する方法は、特に限られない。フッ化物層120は、機械的に除去されてもよい。フッ化物層120は、例えば、ガラス基板110の表面を、ブラシのような器具または研磨材を用いて研磨することにより、除去されてもよい。
【0094】
これにより、前述の図1に示したような、表面層130(反応層129)を有するガラス部材を製造することができる。前述のように、第1の方法では、表面層130として、平滑型表面層130Aが形成される。
【0095】
(本発明の別の実施形態によるガラス部材の製造方法)
次に、図9を参照して、本発明の別の実施形態によるガラス部材の製造方法について説明する。
【0096】
図9には、本発明の別の実施形態によるガラス部材の製造方法(以下、「第2の方法」と称する)のフローを模式的に示す。
【0097】
図9に示すように、第2の方法は、
(1)高温下、被処理ガラスの表面にフッ化物を接触させた状態で、被処理ガラスを水蒸気含有雰囲気に暴露する工程(工程S210)と、(2)フッ化物を除去する工程(工程S220)と、(3)被処理ガラスを塩酸で処理する工程(工程S230)と、
を有する。
【0098】
第2の方法において、工程S210~工程S220は、前述の第1の方法における工程S110~工程S120と同様である。そこで、ここでは、工程S230について説明する。
【0099】
なお、第2の方法では、工程S220は、必ずしも実施する必要はない。工程S230における処理条件次第では、塩酸の処理により、フッ化物が溶解除去できるためである。
【0100】
(工程S230)
水蒸気処理(工程S210)後、またはフッ化物の除去処理(工程S220)後、ガラス基板110は、塩酸で処理される(以下、「塩酸処理」と称する)。
【0101】
表面にフッ化物が残存している場合、塩酸処理により、フッ化物を溶解除去できる。また、塩酸処理により、反応層129が改質され、改質層が形成される。
【0102】
塩酸処理の条件は、特に限られない。例えば、塩酸処理は、反応層129を有するガラス基板110を、所定の時間、塩酸浴に浸漬することにより実施されてもよい。
【0103】
塩酸濃度は、例えば、1wt%~17.5wt%の範囲である。塩酸処理は、室温で実施されても、加熱した状態で実施されてもよい。
【0104】
第2の方法では、例えば、前述の凹凸型表面層130Bを有するガラス部材を製造することができる。
【0105】
以上、第1の方法および第2の方法を例に、本発明の一実施形態によるガラス部材を製造する方法について説明した。
【0106】
しかしながら、上記記載は、単なる一例であって、本発明の一実施形態によるガラス部材は、別の工程を有してもよい。例えば、上記第1の方法では、フッ化物層120は、機械的な研磨により除去される。しかしながら、フッ化物層120は、化学的な処理、または機械的かつ化学的な処理(例えば、化学機械研磨(CMP)処理)により、除去されてもよい。
【0107】
この他にも各種変更が可能である。
【実施例0108】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、以下の記載において、例1~例4、ならびに例11~例13は、実施例である。一方、例21~例26は、比較例である。
【0109】
(例1)
以下の手順でガラス部材を作製した。
【0110】
まず、縦50mm、横50mm、厚さ0.7mmのガラス基板の第1の表面上に、フッ化物層を形成した。ガラス基板には、Dragontrail(登録商標;AGC株式会社)を使用した。
【0111】
フッ化物層は、処理チャンバ内にガラス基板を設置し、処理チャンバ内にHFガスを供給することにより形成した。HFガスの濃度は、10vol%とし、600℃で4秒間供給した。
【0112】
フッ化物層の厚さは、500nmを目標とした。
【0113】
次に、フッ化物層が形成されたガラス基板を、600℃で水蒸気処理した。
【0114】
水蒸気は、所定の温度に維持された水タンクに窒素ガスをバブリングし、水蒸気含有窒素ガスとして、処理チャンバ内に供給した。水蒸気の濃度は、3.6vol%とし、処理時間は、30分間とした。
【0115】
その後、ガラス基板の表面を研磨することにより、フッ化物層を除去した。
【0116】
具体的には、ガラス基板を220rpmで回転させた状態で、水および炭酸カルシウムを含むスラリーを塗布しながら、ウレタン製ブラシを用いて表面を10秒間ほど研磨した。
【0117】
これにより、厚さ700nmの表面層を有するガラス部材(以下、「サンプル1」と称する)が得られた。
【0118】
(例2~例4)
例1と同様の方法により、ガラス部材を作製した。ただし、これらの例2~例4では、例1の場合とは、ガラス基板の種類、および/または水蒸気処理条件等を変更した。
【0119】
例2~例4により、ガラス部材(以下、それぞれ、「サンプル2」~「サンプル4」と称する)が得られた。
【0120】
(例11)
例1と同様の方法により、ガラス部材を作製した。ただし、例11では、水蒸気処理後にフッ化物層を除去せず、塩酸処理を実施した。
【0121】
塩酸処理は、室温の塩酸溶液中にガラス基板を浸漬させることにより実施した。溶液中の塩酸濃度は10wt%であり、処理時間は10分とした。
【0122】
これにより、ガラス部材(以下、「サンプル11」と称する)が得られた。
【0123】
(例12~例13)
例11と同様の方法により、ガラス部材を作製した。ただし、これらの例12~例13では、例11の場合とは異なるガラス基板を使用した。
【0124】
例12~例13により、ガラス部材(以下、それぞれ、「サンプル12」~「サンプル13」と称する)が得られた。
【0125】
(例21~例23)
例21~例23では、未処理のガラス基板をそのままサンプル(以下、それぞれ、「サンプル21」~「サンプル23」と称する)として使用した。
【0126】
(例24)
例24では、例1と同様の方法により、ガラス部材を作製した。ただし、この例24では、フッ化物層を形成した後、水蒸気処理以降の工程は実施しなかった。
【0127】
これにより、ガラス部材(以下、「サンプル24」と称する)が得られた。
【0128】
(例25~例26)
例25~例26では、例24と同様の方法により、ガラス部材を作製した。ただし、これら例25~例26では、ガラス基板として、例24とは異なるガラス基板を使用した。
【0129】
例25~例26により、ガラス部材(以下、それぞれ、「サンプル25」~「サンプル26」と称する)が得られた。
【0130】
以下の表1には、各サンプルの作製条件をまとめて示した。なお、表1において、「ガラス基板」の欄の「A」は、Dragontrail基板を表し、「B」は、ソーダライムガラス基板を表し、「C」は、Dragontrail X(登録商標;AGC株式会社)基板を表す。
【0131】
【表1】
(評価)
各サンプルを用いて、以下の評価を実施した。
【0132】
(赤外線反射分光測定)
赤外線反射分光装置(Nicolet 6700;Thermo Fisher Scientific社)を用いて、各サンプルにおける赤外線反射スペクトルを測定した。赤外線は、サンプルの表面層の側(表面層がない場合は、ガラス基板の第1の表面の側)から入射した。入射角度は、サンプルの厚さ方向に垂直な表面における法線に対して10゜とした。
【0133】
得られたスペクトルから、前述の方法でピーク分離を行い、第1のピーク領域および第2のピーク領域を求め、比S(第1のピーク領域の面積)/S(第2のピーク領域の面積)を算定した。
【0134】
図10には、サンプル1において得られた反射スペクトルの一例を示す。また、図10には、ピーク分離により求められた第1および第2のピーク領域を示す。2つのピーク領域は、実際に得られたスペクトルとよく対応していることがわかる。
【0135】
図11には、サンプル11において得られた反射スペクトルの一例を示す。この場合も、第1および第2のピーク領域は、実際に得られたスペクトルとよく対応していることがわかる。サンプル11では、実測された反射スペクトルにおいて、既に2つのピーク領域が認められた。
【0136】
なお、図10および図11から、サンプル1およびサンプル11では、第1のピーク領域の方が第2のピーク領域に比べて大きくなっていることがわかる。
【0137】
図12図13には、それぞれ、サンプル21およびサンプル24において得られた反射スペクトルの一例を示す。これらの結果から、サンプル21およびサンプル24では、第2のピーク領域の方が第1のピーク領域に比べて大きくなっていることがわかる。
【0138】
以下の表2には、各サンプルにおいて得られた比S/Sをまとめて示した。
【0139】
【表2】
表2から、サンプル1~サンプル4、ならびにサンプル11~サンプル13では、比S/Sが約1以上であることがわかった。これに対して、サンプル21~サンプル26では、比S/Sは、最大でも0.6程度であることがわかった。
【0140】
(表面層の分析)
X線光電子分光分析(XPS)装置(QuanteraII;アルバック・ファイ社製)を用いて、いくつかのサンプルの表面層の評価を行った。測定角度は、表面層の表面の法線に対して45゜とし、スパッタには、C60イオン銃を使用した。
【0141】
図14および図15には、それぞれ、サンプル1およびサンプル11において得られた、表面層の深さ方向における濃度分析結果を示す。
【0142】
図14および図15において、表面層とガラス基板との界面は、深さ約700nmの位置である。
【0143】
図14から、サンプル1では、表面層は、ガラス基板に比べてMgおよびNaの濃度が上昇していることがわかる。
【0144】
一方、図15から、サンプル11の場合、表面層には、ほぼSiおよびOしか含まれていないことがわかる。Si濃度とO濃度の和は、約98at%であった。
【0145】
各サンプルにおいて得られた結果から、表面層における比Ces/Ceb、比C/C、および比O/Siを評価した。前述のように、Cesは、表面層に含まれるアルカリ土類金属の濃度の総和を表し、Cebは、ガラス基板に含まれるアルカリ土類金属の総和を表す。また、Cは、表面層に含まれるアルカリ金属とアルカリ土類金属の総和を表し、Cは、ガラス基板に含まれるアルカリ金属とアルカリ土類金属の総和を表す。
【0146】
以下の表3には、各サンプルにおいて得られたCes/Ceb、C/C、およびO/Siをまとめて示した。
【0147】
【表3】
水蒸気処理のみを実施したサンプル1、サンプル4、サンプル5では、いずれも比Ces/Cebが1.95以上の高い値を示した。また比C/Cは、いずれも1.4以上であった。
【0148】
これに対して、塩酸処理まで実施したサンプル11~サンプル13では、比Ces/Cebは、最大でも0.11であり、比C/Cは、最大でも0.21であった。
【0149】
また、サンプル11~サンプル13では、比O/Siは、いずれも2.2以上であった。
【0150】
サンプル1の表面層の表面は、比較的平滑であり、前述の図3に示したような表面形態であった。一方、サンプル11の表面層の表面は、クレータ状であり、前述の図4に示したような表面形態であった。
【0151】
(耐擦傷性試験)
耐擦傷性試験装置(TYPE:3822;新東科学社製トライボギア)を用いて、各サンプルの耐擦傷性を評価した。
【0152】
具体的には、各サンプルの表面層(表面層が存在しない場合は、ガラス基板の第1の表面)上で、100gの荷重下でSi製の針(直径50μm)を20mm/分の速度で直線的に進行(走査)させ、サンプルの表面に傷を発生させた。針の移動距離は、30mmとした。
【0153】
観察を容易にするため、試験後に、サンプルの表面を1wt%のフッ酸溶液でエッチングした。
【0154】
エッチング後に、針が走査した軌跡の略中央の位置において、1.4mm幅の領域に存在する弓形の傷の数を数え、傷密度(個/mm)を算定した。
【0155】
同様の測定を異なる位置で2回実施し、傷密度の平均値を「平均傷密度Aave」として評価した。
【0156】
図16には、各サンプルにおける試験後の表面の顕微鏡写真をまとめて示した。また、以下の表4には、各サンプルにおいて得られた平均傷密度Aaveをまとめ示した。
【0157】
【表4】
表4から、サンプル21~サンプル26では、平均傷密度Aaveは、最小でも31個/mm以上となっており、大きな値を示すことがわかった。これに対して、サンプル1~サンプル4、ならびにサンプル11~サンプル13では、平均傷密度Aaveは、最大でも15.0個/mm以下となっており、小さな値を示すことがわかった。
【0158】
例えば、同じガラス基板を有するサンプル11と、未処理のサンプル21における結果の比較から、サンプル11は、サンプル21に比べて、平均傷密度Aaveが約1/45に低減していることがわかった。また、同じガラス基板を有するサンプル11とサンプル24(HFガス処理のみ実施)における結果の比較から、サンプル11は、サンプル24に比べて、平均傷密度Aaveが約1/15に低減していることがわかった。
【0159】
このように、サンプル1~サンプル4、ならびにサンプル11~サンプル13では、表面の耐擦傷性が有意に向上していることが確認された。
【0160】
なお、同じガラス基板を有するサンプル(例えば、サンプル1とサンプル11、サンプル4とサンプル12、サンプル5とサンプル13)の比較から、塩酸処理を実施しない方が、塩酸処理まで実施した場合に比べて、より良好な耐擦傷性が得られることがわかった。
【符号の説明】
【0161】
10 反射スペクトル
20 第1のピーク領域
30 第2のピーク領域
100 第1のガラス部材
102 第1のガラス部材の第1の表面
104 第1のガラス部材の第2の表面
110 ガラス基板
112 ガラス基板の第1の表面
114 ガラス基板の第2の表面
120 フッ化物層
129 反応層
130 表面層
130A 平滑型表面層
130B 凹凸型表面層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【手続補正書】
【提出日】2024-12-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス部材の製造方法であって、
(1)500℃~900℃の温度において、フッ化水素ガスの供給、蒸着法、PVD法、CVD法、またはスパッタリング法からなる群から選択される方法により、被処理ガラスの表面にフッ化物を設置することでフッ化物を有する被処理ガラスを形成する工程と、
(2)前記フッ化物を有する被処理ガラスを、500℃~900℃の温度において、フッ化水素を含有せず水蒸気を含む雰囲気に暴露する工程と、
を含む、製造方法。
【請求項2】
前記雰囲気における水蒸気分圧は、0.5vol%~100vol%の範囲である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記フッ化物は、アルカリ金属フッ化物およびアルカリ土類フッ化物の少なくとも一つを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記フッ化物は、前記被処理ガラスにフッ化水素ガスを供給することにより、前記表面にフッ化物層として設置される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
さらに、フッ化物を除去することを含む、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
さらに、前記被処理ガラスを水蒸気を含む雰囲気に暴露した後、前記被処理ガラスを塩酸で処理することを含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の製造方法。