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特開2025-3178残油性の評価方法、容器又は配管の残油性の評価方法、容器又は配管の製造方法
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  • 特開-残油性の評価方法、容器又は配管の残油性の評価方法、容器又は配管の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003178
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】残油性の評価方法、容器又は配管の残油性の評価方法、容器又は配管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 13/00 20060101AFI20241226BHJP
【FI】
G01N13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103705
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】目時 潤也
(72)【発明者】
【氏名】村野 賢博
(72)【発明者】
【氏名】栗本 崇志
(72)【発明者】
【氏名】早川 徹彦
(72)【発明者】
【氏名】大坪 友樹
(57)【要約】
【課題】
残油性の評価方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
残油性の評価方法であって、
鉛直方向に対して45~85°の傾きのサンプル表面で油滴を移動させ、
移動する油滴の後端を観察することを特徴とする、残油性の評価方法。前記油滴の後端の観察が、サンプル表面を移動する油滴の後端の一定時間における移動距離、サンプル表面を移動する油滴の後端の一定距離における移動時間、一定時間後のスタート位置付近の油滴の後端部の面積から選ばれるパラメータを測定することが好ましい。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
残油性の評価方法であって、
鉛直方向に対して45~85°の傾きのサンプル表面で油滴を移動させ、
移動する油滴の後端を観察することを特徴とする、残油性の評価方法。
【請求項2】
前記油滴の後端の観察が、サンプル表面を移動する油滴の後端の一定時間における移動距離、サンプル表面を移動する油滴の後端の一定距離における移動時間、一定時間後のスタート位置付近の油滴の後端部の面積から選ばれるパラメータを測定することである、請求項1に記載の残油性の評価方法。
【請求項3】
サンプル表面が平面である、請求項1に記載の残油性の評価方法。
【請求項4】
前記油滴の量は10~50mgである、請求項1に記載の残油性の評価方法。
【請求項5】
前記一定時間が1秒以上、又は前記一定距離が2mm以上である、請求項2に記載の残油性の評価方法。
【請求項6】
前記油滴が、着色料で着色されたものである、請求項1に記載の残油性の評価方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかの残油性の評価方法を用いて評価する、容器又は配管の残油性の評価方法。
【請求項8】
容器又は配管の製造方法であって、
請求項1~6のいずれかの残油性の評価方法を用いて、容器又は配管の表面を評価する品質管理工程を有する、容器又は配管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残油性の評価方法、特に容器又は配管の残油性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷を抑える観点から使用済み容器のリサイクル、再利用等が行われている。一方、油脂は親水性に劣り、洗浄が容易ではないため、油脂を内容物とする容器において、できるだけ油脂を除去できるような容器の開発が行われている。これらの容器の開発、あるいは製造した容器の残油性を評価する品質管理工程において、適切に評価できる残油性の評価方法が求められている。
【0003】
容器の残油性は、油が充填された容器から油を取り出し、重量を測定することで簡易的に評価することができる。例えば、特許文献1では油の入った容器を傾けてからの時間を横軸、容器内残油量を縦軸とし、評価している例が開示されている。しかしながら、同方法では、容器を傾斜していく過程で油が注がれ、より正確な比較を行うための条件設定が難しい問題がある。一方、残油性は容器(内)表面の物性に影響されると考えられる。特許文献2には、撥水・撥油性と同時に、水の滑落性に優れるコーティング用樹脂組成物の発明が記載され、「油滑り性」の評価として、食用菜種油を、塗膜に付着させ、9.5°に傾斜させた面の液滴の移動距離を計測している例がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-128116号公報
【特許文献2】特開2014-31418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、油脂の液滴は、水と異なり表面張力が低く、広く広がる傾向にある。そのため、傾斜させた面を移動する場合、面に接触している進行方向の先端に比べて後端の移動速度が遅く、また先端が後端より先に動き出すものである。特許文献2に記載の「油滑り性」の評価は、同文献の「水滑落角」「滑落水量」等の評価と「滑落」を用いない表現となっており、実施例1等と比較例4等と「油滑り性」の値も差異がないことを考慮すると、液滴の先端の移動距離を見て評価していると考えられ、残油性を評価できるものではなかった。
【0006】
したがって本発明は、残油性の評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明は、以下の通りである。
[1] 残油性の評価方法であって、
鉛直方向に対して45~85°の傾きのサンプル表面で油滴を移動させ、
移動する油滴の後端を観察することを特徴とする、残油性の評価方法。
[2] 前記油滴の後端の観察が、サンプル表面を移動する油滴の後端の一定時間における移動距離、サンプル表面を移動する油滴の後端の一定距離における移動時間、一定時間後のスタート位置付近の油滴の後端部の面積から選ばれるパラメータを測定することである、[1]の残油性の評価方法。
[3] サンプル表面が平面である、[1]の残油性の評価方法。
[4] 前記油滴の量は10~50mgである、[1]の残油性の評価方法。
[5] 前記一定時間が1秒以上、又は前記一定距離が2mm以上である、[2]の残油性の評価方法。
[6] 前記油滴が、着色料で着色されたものである、[1]の残油性の評価方法。
[7] [1]~[6]のいずれかの残油性の評価方法を用いて評価する、容器又は配管の残油性の評価方法。
[8] 容器の製造方法であって、[1]~[6]のいずれかの残油性の評価方法を用いて、容器又は配管の表面を評価する品質管理工程を有する、容器又は配管の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、残油性を評価することができる。油脂の移動において先端を観察すると、後端の残りが評価できないが、後端を観察することで、油脂の残存性が評価できるようになり、容器の残油性が正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】サンプル表面における、液滴の移動方向とその鉛直方向との角度を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る残油性の評価方法は、鉛直方向に対して45~85°の傾きのサンプル表面で油滴を移動させ、移動する油滴の後端を観察することを特徴とする。
【0011】
(サンプル表面)
本発明において、「サンプル表面」は、残油性を測定するサンプルの表面である。サンプル表面は、特に制限するものではないが、容器、配管等の油に接触する表面そのもの、又はそれらと同様の表面状態を有する評価サンプル等であることが好ましく、油を入れる容器の表面をサンプル表面とすることがより好ましく、油を入れる容器の内表面であることがさらに最も好ましい。サンプルは、プラスチック、金属、紙、陶土、ガラス等を主成分とすることが好ましく、表面を撥油性の被膜でおおわれていることが更に好ましい。
【0012】
本発明において、サンプル表面上を油滴が移動して、油滴の後端を観察する。この時、サンプル表面は、鉛直方向に対して45~85°の傾きでサンプル表面を油滴が移動するようにサンプル表面を設置され、この傾きに沿ってサンプル表面を油滴が移動する。液滴の移動する角度が鉛直方向に対して45~85°の範囲であると、油滴の移動速度が測定容易な範囲となる。鉛直方向に対して85°を超えて緩やかな傾きになると、後端が移動し辛くなる。鉛直方向に対して60~85°の傾きでサンプル表面を油滴が移動するようにサンプル表面を設置することが好ましく、鉛直方向に対して65~75°の傾きでサンプル表面を油滴が移動するようにサンプル表面を設置することがより好ましい。
【0013】
なお、油滴は、鉛直に対して45~85°の傾斜した試料表面に滴下してもよいが、水平に設置した試料表面に滴下し、その後、鉛直に対して45~85°に傾斜させて測定してもよい。測定対象の試料は、そのまま測定してもよく、平滑な一部を切り取り、平板又は略平板上の試料として測定することもできる。試料を鉛直に対して45~85°の傾斜させる方法は、公知の方法を利用できるが、例えば、アズワン株式会社製「ステージAG85 (角度傾斜)」等を利用してもよい。
【0014】
本発明において、サンプル表面は凹凸があってもよいが、鉛直方向に対して45~85°の傾きでサンプル表面を油滴が移動するようになっていることが好ましい。例えば、表面に谷状の凹があり、表面の谷にそって、油滴が移動し、油滴の移動経路が鉛直方向に45~85°の傾きあればよい。測定時に油滴が移動するサンプル表面の部分(移動経路)が直線であることが好ましく、サンプル表面が平面であることがより好ましい。例えば、サンプル表面は、油脂を内容物とする容器の平面部分を用いることができ、容器の平面部分を必要に応じて切断して、用いることができる。また、サンプル表面の大きさは、移動する油滴の後端を観察するのに十分な大きさであればよい。油滴の移動方向の長さは、観察する油滴の移動距離以上であればよく、例えば、1cm以上、2cm以上、4cm以上、1~100cm、2~50cm、2~20cm、4~10cm等の長さがあればよい。また、油滴の移動方向と直行する方向の長さ(サンプル表面の幅)は、油滴が横に広がる以上の幅があればよく、例えば、0.5cm以上、1cm以上、4cm以上、5cm以上、0.5~20cm、3~10cm、4~6cm等の幅があればよい。
【0015】
(油滴)
本発明において、サンプル表面に油滴を付着させ、油滴を移動させるが、用いる油滴は、鉱物油、動植物油、合成油、これらの加工油脂や混合油であってもよい。測定したい表面が通常接触する油脂を用いることが好ましいが、同様の性質をもつ油脂であれば限定されない。例えば、食用油の容器であれば、動植物油又はその加工油脂を用いることができ、大豆油、菜種油、コーン油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、亜麻仁油、紅花油等の液状植物油がより好ましい。
【0016】
なお、付着させる油滴は、測定時の視認性を向上させるために、油滴を色素・染料等で着色して行うことができる。例えば、無色又は薄色の食用油等を用いる場合、食用油に溶解するカロテン等で着色することができる。着色成分は添加量が少なく、残油性に影響するものではないため、特に限定するものではないが、油滴の5質量%以下が好ましく、油滴の1質量%以下であることが更に好ましい。
【0017】
油滴の量は、特に限定するものではないが、10~50mgであることが好ましく、10~40mgであることがより好ましく、15~40mgであることが更に好ましく、15~30mgであることが特に好ましい。サンプルへの付着は、スポイトやピペット等を用いて行うことができる。
【0018】
(観察・評価)
本発明において、移動する油滴の後端を観察する。油滴の後端の観察は、サンプル表面を移動する油滴の後端の一定時間における移動距離、サンプル表面を移動する油滴の後端の一定距離における移動時間、一定時間後のスタート位置付近の油滴の後端部の面積変化から選ばれるパラメータを測定することであることが好ましい。
【0019】
測定する移動距離、移動時間は特に限定するものでないが、移動時間が長い程、また移動距離が長い程、効果の比較が容易となることから、移動時間は1秒以上になることが好ましく、5秒以上がより好ましく、10秒以上がさらに好ましい。また、移動距離は2mm以上であることが好ましく、3mm以上がより好ましく、5mm以上がさらに好ましい。
なお、迅速に観測することが好ましいこともあるので、移動時間は、1~3600秒が好ましく、5~1200秒がより好ましく、10~600秒がさらに好ましい。また、迅速に観測する点から、移動距離は2~200mmが好ましく、3~20mmがより好ましく、4~10mmがさらに好ましい。
なお、前述の一定時間、一定距離は、上記範囲から適宜選択することができる。
【0020】
本発明において、残油性は油滴の後端を観察するが、残油性の高い表面は、油滴の先端と後端の両者が動きにくいものだけでなく、油滴の先端は早く移動するが、油滴の後端は遅く移動するものも多く存在する。そのため、スタート位置付近の油滴の後端部の面積を比べて評価することができる。スタート位置付近とは、例えば、油滴を付着させた際の油滴の面積が含まれる範囲や、測定する移動距離のスタート位置から50%以下の範囲で適宜設定することができる。油滴の後端部とは、油滴の先端と後端の間より後端部側であればよい。
【0021】
本発明において、サンプル表面を移動する油滴の後端の一定時間における移動距離が長い程、残油性が少ないと判断できる。また、サンプル表面を移動する油滴の後端の一定距離における移動時間が短い程、残油性が少ないと判断できる。また、一定時間後のスタート位置付近の油滴の後端部の面積が少ない程、残油性が少ないと判断できる。
例えば、試料を鉛直方向に対して70°の傾きに設定したステージ(「ステージ(角度傾斜)」アズワン株式会社製)に設置し、油滴の後端(傾斜する試料表面において、当該試料表面と油滴との接点のうち、最も上方に位置する接点)が、試料表面を6mm移動する時間を測定し、時間が短い程、油の滑落性がよく、残油性が少ないと評価できる。たとえば、移動時間が60秒超~300秒、20秒超~60秒、10秒超~20秒、10秒以内の順に良好な油の滑落性を有し、残油性が少ないと判断できる。
【0022】
(その他の条件)
本発明において、測定温度は、油滴がサンプル表面上を移動できる条件であればよく、油滴が液状であれば、室温(例えば、0~30℃)で行うことができる。また、油滴の融点が室温より高い場合は、融点以上の温度で行うことができる。
【0023】
本発明において、油滴の後端は、目視で観察してもよく、あるいはビデオ撮影を行い、画像解析等で分析してもよい。
【0024】
(容器又は配管の製造方法)
本発明において、前記残油性の評価方法を、容器又は配管の残油性の評価方法として利用することが好ましい。また、容器又は配管の表面を評価する品質管理工程に用いることができる。容器又は配管の製造方法に、前記品質管理工程を有することで、残油性が制御された容器又は配管を安定的に製造することが可能となり、好ましい。
【0025】
以下、実施例を参照して、本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は、以下の実施例に限定されない。
【0026】
(滑落性1)
PET容器(無被膜サンプル)又は酸化ケイ素蒸着膜で被膜したPET容器(被膜サンプル1~5)から、平面部分(2cm×2cm)を切り出し、サンプルを得た。
鉛直方向に対して70°の傾きに設定したステージ(「ステージ(角度傾斜)」アズワン株式会社製)に、同サンプルを設置し、カロテン(「β-Carotene 30% FS」DMS社製 0.1%)で着色した精製菜種油(「日清キャノーラ油」日清オイリオグループ株式会社製 99.9%)を、同サンプル表面に、スポイトで1滴(約24.36mg)垂らし、油滴の先端(油滴とサンプル表面が最も下方に位置する接点)と油滴の後端(油滴とサンプル表面が最も上方に位置する接点)が、サンプル表面を6mm移動する時間(秒)を測定し、表1に示した。なお、測定時の温度は室温(23℃)であった。
移動時間が短い程、残油性が低いことがわかり、以下のA~Eの基準に基づいて評価を行い、A~Dであれば、残油性が低いと判定できる。

A評価:後端の移動時間が10秒以内
B評価:後端の移動時間が10秒超~20秒
C評価:後端の移動時間が20秒超~60秒
D評価:後端の移動時間が60秒超~300秒
E評価:後端の移動時間が300秒超
【0027】
【表1】
【0028】
表1に示されるように、先端は速く移動するが、後端は遅いため、先端だけで評価することは難しいことがわかる。一方、後端の移動時間等を評価することで、残油性の判断が容易になる。
【0029】
(滑落性2)
酸化ケイ素蒸着膜で被膜したPET容器(被膜サンプル1、4、5)から、滑落性1と同様に切り出したサンプルを用い、滑落性1の傾きを、鉛直方向に対して80°と変更し、それ以外は滑落性1と同様に測定した。結果を表2に示した。
【0030】
【表2】
【0031】
表2に示されるように、先端は速く移動するが、後端は遅いため、先端だけで評価することは難しいことがわかる。一方、後端の移動時間等を評価することで、残油性の判断が容易になる。
図1