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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025032723
(43)【公開日】2025-03-12
(54)【発明の名称】熱電池用電解液、熱電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 14/00 20060101AFI20250305BHJP
【FI】
H01M14/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023138174
(22)【出願日】2023-08-28
(71)【出願人】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】柴田 恭幸
(72)【発明者】
【氏名】大貫 等
(72)【発明者】
【氏名】石澤 朋哉
(72)【発明者】
【氏名】守友 浩
【テーマコード(参考)】
5H032
【Fターム(参考)】
5H032AA08
5H032AS05
5H032CC16
5H032CC17
(57)【要約】
【課題】温度係数の絶対値がより大きい熱電池用電解液、およびそれを備える熱電池を提供する。
【解決手段】リチウム塩またはマグネシウム塩と、溶媒と、を含む、熱電池用電解液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム塩またはマグネシウム塩と、溶媒と、を含む、熱電池用電解液。
【請求項2】
第1の電極と第2の電極が電解質を介して対向してなる熱電池であって、
前記電解質は、請求項1に記載の熱電池用電解液である、熱電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電池用電解液および熱電池に関する。
【背景技術】
【0002】
熱発電技術において、温度変化を利用して、連続的に電気エネルギーを取り出す熱電池(三次電池)が開発されている。三次電池は、正極と負極に酸化還元電位の温度係数α(=dV/dT)の異なる2種類の電池電極材料を用い、これらの正極と負極を電解液中に配置した構成となっている。三次電池は、温度変化を与えることで、正極と負極の間に起電力差が生じ、熱起電力を得ることができる。
【0003】
三次電池としては、例えば、第1の電極と第2の電極が、単一の電解質を介して対向してなる熱発電素子であって、第1の電極および第2の電極は、同一の金属イオンが可逆的に出入りする材料を含むものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、電解質として、塩化ナトリウム水溶液が好ましいと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-073596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
三次電池が発生する熱起電力は、電極材料の温度係数の絶対値に比例する。従って、より大きな熱起電力を得るためには、温度係数の絶対値がより大きい電極材料が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、温度係数の絶対値がより大きい熱電池用電解液、およびそれを備える熱電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]リチウム塩またはマグネシウム塩と、溶媒と、を含む、熱電池用電解液。
[2]第1の電極と第2の電極が電解質を介して対向してなる熱電池であって、
前記電解質は、[1]に記載の熱電池用電解液である、熱電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、温度係数の絶対値がより大きい熱電池用電解液、およびそれを備える熱電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態における熱電池の断面図である。
図2】実験例1において、硝酸リチウム飽和水溶液を用いた三極セルにより、充放電曲線を測定した結果を示す図である。
図3】実験例2において各電解液における温度係数の測定方法を示す図である。
図4】実験例2において、脱挿入するイオンがリチウムイオンの場合において、温度係数の測定を行ったときの電位と温度の関係を示す図である。
図5】実験例2において、硝酸リチウム飽和水溶液における温度係数を測定した結果を示す図である。
図6】実験例3において、硝酸ナトリウム飽和水溶液における温度係数を測定した結果を示す図である。
図7】実験例4において、硝酸カリウム飽和水溶液における温度係数を測定した結果を示す図である。
図8】実験例2の硝酸リチウム飽和水溶液における温度係数を測定した結果、実験例3の硝酸ナトリウム飽和水溶液における温度係数を測定した結果、および実験例4の硝酸カリウム飽和水溶液における温度係数を測定した結果をまとめて示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱電池用電解液、および熱電池の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0011】
[熱電池用電解液]
本発明の一実施形態に係る熱電池用電解液は、リチウム塩またはマグネシウム塩と、溶媒と、を含む。
【0012】
リチウム(Li)およびマグネシウム(Mg)は、イオンサイズがナトリウム(Na)よりも小さい。なお、Naのイオン半径は0.102nm、リチウムのイオン半径は0.076nm、マグネシウムのイオン半径は0.072nmである。すなわち、リチウム塩およびマグネシウム塩は、イオンサイズがナトリウム(Na)よりも小さい金属イオンを含む。
【0013】
リチウム塩としては、硝酸リチウム(LiNO)、塩化リチウム(LiCl)、過塩素酸リチウム(LiCLO)、硫酸リチウム(LiSO)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)等が挙げられる。
マグネシウム塩としては、硝酸マグネシウム(Mg(NO)、塩化マグネシウム(Mg(Cl))、硫酸リマグネシウム(MgSO)、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Mg(TFSI))等が挙げられる。
【0014】
溶媒としては、例えば、水、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)等が挙げられる。
【0015】
本実施形態の熱電池用電解液の濃度は、0.1mol/L以上が好ましく、熱電池用電解液が飽和溶液となる濃度が好ましい。熱電池用電解液の濃度が前記下限値以上であると、熱電池用電解液の抵抗が大きくなり過ぎることがなく、熱電池用電解液を熱電池に用いた場合に悪影響を及ぼすことがない。
【0016】
本実施形態の熱電池用電解液は、イオンサイズがナトリウムよりも小さいリチウムを含む塩(リチウム塩)、またはイオンサイズがナトリウムよりも小さいマグネシウムを含む塩(マグネシウム塩)を含むため、ナトリウム塩を含む電解液よりも温度係数の絶対値が大きくなる。従って、本実施形態の熱電池用電解液を熱電池の電解液として用いた場合、ナトリウム塩を含む電解液を用いた熱電池よりも大きな熱起電力が得られる。
【0017】
[熱電池用電解液の製造方法]
本実施形態に係る熱電池用電解液は、溶媒に、上記リチウム塩または上記マグネシウム塩を溶解することによって得られる。
溶媒に上記リチウム塩または上記マグネシウム塩を溶解する方法は、特に限定されず、例えば、撹拌翼やマグネチックスターラーで、溶媒と上記リチウム塩または上記マグネシウム塩の混合物を撹拌する方法が挙げられる。
【0018】
[熱電池]
以下、本実施形態の熱電池について、図面を用いて説明する。
図1は、本実施形態の熱電池の断面図である。
本実施形態の熱電池1は、図1に示すように、第1の電極2と、第2の電極3と、電解質4とを有するユニット5を備える。
熱電池1において、第1の電極2は集電極6の一方の面6aに設けられ、第2の電極3は集電極6の他方の面6bに設けられており、第1の電極2と第2の電極3は、集電極6を介して対向して配置されている。また、第1の電極2と第2の電極3は、セパレータ7を介して対向して配置されている。また、第1の電極2と第2の電極3は、セパレータ7に含浸させた単一の電解質4を介して、所定の間隔を置いて対向して配置されている。また、第1の電極2、第2の電極3および電解質4を有するユニット5が、一方のユニット5の第1の電極2と、他方のユニット5の第2の電極3とが集電極6を介して隣り合うように複数積層されている。また、第1の電極2と第2の電極3は、リード線8を介して電気的に接続されている。また、リード線8の途中には、熱電池1で発生した電流を取り出すための回路(図示略)や装置(図示略)が設けられていてもよい。さらに、これらの構成要素は、ラミネートフィルム9で封止されている。
【0019】
第1の電極2および第2の電極3は、同一の金属イオンが可逆的に出入りする材料を含む。また、第1の電極2および第2の電極3は、同一の金属イオンが析出または合金化する材料を含んでいてもよい。
【0020】
第1の電極2は、上記の電極材料以外に、バインダー樹脂(結着剤)や導電助剤を含んでいてもよい。
バインダー樹脂として、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、フッ素ゴム等が挙げられる。
導電助剤としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック(AB)、ファーネスブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0021】
電解質4としては、上述の実施形態の熱電池用電解液が用いられる。
【0022】
また、図1には、熱電池1において、第1の電極2、第2の電極3および電解質4を有するユニット5が、一方のユニット5の第1の電極2と、他方のユニット5の第2の電極3とが隣り合うように複数積層されている場合を例示したが、本実施形態はこれに限定されない。本実施形態の熱電池1が、第1の電極2、第2の電極3および電解質4を有する1つのユニット5から構成されていてもよい。
【0023】
本実施形態の熱電池1によれば、電解質4として、上述の実施形態の熱電池用電解液を用いるため、ナトリウム塩を含む電解液を用いた場合よりも大きな熱起電力が得られ、電池全体の温度変化を利用して、熱エネルギーを電気エネルギーへ変換することが可能である。
【実施例0024】
以下、実験例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0025】
[実験例1]
(電極の作製)
Na[Fe(CN)]を10mmol/L含み、NiClを10mmol/L含み、NaClを4mol/L含む水溶液を混合することでニッケルプルシャンブルー類似体を沈殿させ、その沈殿物を濾過し、蒸留水で良く洗浄し、乾燥させることで粉末を得た。
得られたニッケルプルシャンブルー類似体(Ni-PBA)をエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDXS)で組成分析したところ、Na1.76Ni[Fe(CN)0.94であることが分かった。SEM-EDXS装置としては、日本電子社製の走査型電子顕微鏡JSM-IT200を用いた。
上記のように得られたNi-PBA粉末と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンPVdF)樹脂を7:2:1の比で混合し、N,Nジメチルホルムアミド溶剤中で分散させたスラリーを酸化インジウムスズ(ITO)電極上に塗布し、一晩65℃で真空乾燥させることでNi-PBA電極を得た。
【0026】
(電極の調整)
上記で得たNi-PBA電極を、飽和硝酸リチウム水溶液中で充放電反応させることにより、電極中に含まれるナトリウムイオンをリチウムイオンに置換することでリチウム塩を含む水溶液で使用する電極を得た。
同様の方法で、飽和硝酸カリウム水溶液中で充放電反応させることで、電極中に含まれるナトリウムイオンをカリウムイオンに置換し、カリウム塩を含む水溶液で使用する電極を得た。
電極の調整で得られたNi-PBA電極を作用極、白金を対極、Ag/AgCl標準電極を参照極とし、電解液として、硝酸リチウム(LiNO)の濃度が6mol/Lの飽和水溶液、硝酸ナトリウム(NaNO)の濃度が5mol/Lの飽和水溶液、または硝酸カリウム(KNO)の濃度が3mol/Lの飽和水溶液を用いて、三極セルを作製した。
得られた三極セルを用い、充放電曲線を測定した。結果を図2に示す。
放電曲線の測定方法は次の通りである。充放電装置(型式名:HJ10001SD8、北斗電工社製)で一定電流を流しながら、電極間の電位を測定した。
【0027】
[実験例2]
(リチウム電解液を用いた温度係数の測定)
リチウム電解液を用いた温度係数の測定方法は次の通りである。図3に示すように、第1のビーカ11と第2のビーカ12のそれぞれに、実験例1で得たNi-PBA電極を保持するとともに、硝酸リチウム飽和水溶液を入れて、第1のビーカ11と第2のビーカ12を塩橋13で結ぶことで通電できる状態にした。第1のビーカ11と第2のビーカ12の間に温度差(ΔT)を印加し、電極間に生じる起電力(V)を電圧計14で測定した。このとき、第1のビーカ1の温度を室温(23℃)で一定に保持し、第2のビーカ12を恒温槽内に配置し、第2のビーカ12の温度を室温(23℃)~40℃の間で4℃~5℃ずつ変化させ、それぞれの温度で15分~20分間保持した。脱挿入するイオンがリチウムイオンの場合において、温度係数の測定を行ったときの電位と温度の関係を図4に示す。
図4から温度変化と電位変化の相関をプロットしたグラフを図5に示す。図5における直線は、原点を通り、最小二乗法で描かれたものであり、この傾きが温度係数αとなり、昇温と降温の平均から-0.71mV/Kであった。
【0028】
[実験例3]
(ナトリウム電解液を用いた温度係数の測定)
第1のビーカ11と第2のビーカ12のそれぞれに、硝酸リチウム飽和水溶液の代わりに、硝酸ナトリウム飽和水溶液を入れたこと以外は実験例2と同様にして、脱挿入するイオンがナトリウムの場合の解析を行った。脱挿入するイオンがナトリウムイオンの場合の温度変化と電位変化の相関をプロットしたグラフを図6に示す。
【0029】
[実験例4]
(カリウム電解液を用いた温度係数の測定)
第1のビーカ11と第2のビーカ12のそれぞれに、硝酸リチウム飽和水溶液の代わりに、硝酸カリウム飽和水溶液を入れたこと以外は実験例2と同様にして、脱挿入するイオンがカリウムの場合の解析を行った。脱挿入するイオンがカリウムイオンの場合の温度変化と電位変化の相関をプロットしたグラフを図7に示す。
【0030】
また、実験例2の硝酸リチウム飽和水溶液における温度係数を測定した結果、実験例3の硝酸ナトリウム飽和水溶液における温度係数を測定した結果、および実験例4の硝酸カリウム飽和水溶液における温度係数を測定した結果をまとめて図8に示す。さらに、脱挿入するイオンがリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンの場合の温度係数αをまとめて表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1に示すように、硝酸リチウム飽和水溶液における温度係数の絶対値は、硝酸ナトリウム飽和水溶液や硝酸カリウム飽和水溶液における温度係数の絶対値よりも大きいことが分かった。従って、硝酸リチウム飽和水溶液を電解液として用いた熱電池は、硝酸ナトリウム飽和水溶液や硝酸カリウム飽和水溶液を電解液として用いた熱電池よりも熱起電力が大きいことが予想される。
【0033】
[実験例3]
(マグネシウム電解液を用いた温度係数の測定)
実験例1で得られたNi-PBA電極を作用極、白金を対極、Ag/AgCl標準電極を参照極とし、電解液として、硝酸マグネシウム(Mg(NO)の濃度が1mol/Lの水溶液を用いて、三極セルを作製した。
得られた三極セルを用い、放電曲線を測定した。
放電曲線の測定方法は、実験例2と同様に行った。
温度係数の測定方法は、実験例2と同様に行った。
マグネシウム電解液を用いて温度係数αを求めた結果、1mol/L硝酸マグネシウム水溶液の温度係数αは1.02であった。すなわち、硝酸マグネシウム水溶液における温度係数の絶対値は、硝酸ナトリウム飽和水溶液や硝酸カリウム飽和水溶液における温度係数の絶対値よりも大きいことが分かった。従って、硝酸マグネシウム水溶液を電解液として用いた熱電池は、硝酸ナトリウム飽和水溶液や硝酸カリウム飽和水溶液を電解液として用いた熱電池よりも熱起電力が大きいことが予想される。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の熱電池用電解液を備える熱電池は、産業排熱、太陽熱、人体熱等を電気エネルギーに変換する熱発電素子、熱発電システム等に利用可能である。具体的には、本発明の熱電池は、設置型熱発電機、モバイル発電機、ハイブリッド太陽エネルギー発電機等として利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 熱電池
2 第1の電極
3 第2の電極
4 電解質
5 ユニット
6 集電極
7 セパレータ
8 リード線
9 ラミネートフィルム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8