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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025033344
(43)【公開日】2025-03-13
(54)【発明の名称】ポリアセタール樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/00 20060101AFI20250306BHJP
   C08K 5/19 20060101ALI20250306BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20250306BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20250306BHJP
   C08K 5/50 20060101ALI20250306BHJP
   C08K 5/56 20060101ALI20250306BHJP
   C08K 5/55 20060101ALI20250306BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
C08L59/00
C08K5/19
C08K5/3492
C08K7/14
C08K5/50
C08K5/56
C08K5/55
C08L75/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023139009
(22)【出願日】2023-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】原科 初彦
(72)【発明者】
【氏名】勝地 広和
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CB001
4J002CK022
4J002DK007
4J002DL006
4J002EG047
4J002EN137
4J002EU158
4J002EU188
4J002EW177
4J002EZ007
4J002EZ017
4J002FD016
4J002FD040
4J002FD050
4J002FD070
4J002FD090
4J002FD100
4J002FD160
4J002FD200
4J002FD207
4J002FD208
4J002FD310
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】異形断面ガラス繊維を用いつつ、機械強度等の物性、耐熱水性、耐クリープ性及び低反り性の更なる向上が実現可能なポリアセタール樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、(B)異形断面ガラス繊維1~100質量部と、(C)多官能イソシアネート化合物0.1~10質量部と、(D)Sn、Zn及びPbからなる群より選ばれる金属元素を含有する有機金属化合物、ホウ酸化合物及び第四級オニウム塩化合物からなる群より選ばれる1種以上の結合剤0.001~3質量部と、(E)含窒素官能基を有するトリアジン誘導体0.002~10質量部と、を含有する、ポリアセタール樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、
(B)異形断面ガラス繊維1~100質量部と、
(C)多官能イソシアネート化合物0.1~10質量部と、
(D)Sn、Zn及びPbからなる群より選ばれる金属元素を含有する有機金属化合物、ホウ酸化合物及び第四級オニウム塩化合物からなる群より選ばれる1種以上の結合剤0.001~3質量部と、
(E)含窒素官能基を有するトリアジン誘導体0.002~10質量部と、を含有する、ポリアセタール樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)異形断面ガラス繊維が、断面の短径に対する断面の長径の比(異形比)が1.2以上である扁平な断面形状を有するガラス繊維である、請求項1記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C)多官能イソシアネート化合物が、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート及び2,6-トリレンジイソシアネート、並びにそれらのブロックイソシアネート化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1又は2に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)多官能イソシアネート化合物が、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートの多量体、イソホロンジイソシアネートの多量体、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートの多量体、2,4-トリレンジイソシアネートの多量体及び2,6-トリレンジイソシアネートの多量体、並びにそれらのブロックイソシアネート化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1又は2に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項5】
前記(D)結合剤が、脂肪酸亜鉛、ホウ酸、ハロゲン化第四級ホスホニウム塩、ハロゲン化第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウムのカルボン酸塩及び第四級アンモニウムのカルボン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1又は2記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項6】
前記(D)結合剤が、ステアリン酸亜鉛、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛、オルトホウ酸、臭化エチルトリフェニルホスホニウム、臭化テトラフェニルホスホニウム、酢酸コリン及び塩化コリンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1又は2に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項7】
前記(E)含窒素官能基を有するトリアジン誘導体が、メラミン、メラミンホルムアルデヒド付加物及びベンゾグアナミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1又は2に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のポリアセタール樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール樹脂組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、機械的性質、耐薬品性、摺動性等のバランスに優れ、かつ、その加工が容易であることにより、エンジニアリングプラスチックとして、電気・電子部品、自動車用部品その他の各種機械部品を中心として広く利用されている。ポリアセタール樹脂には、機械的性質を更に向上させるため各種充填材が添加されるのが一般的である。そのような充填剤としては、例えば、ガラス繊維が挙げられる。ガラス繊維は、ポリアセタール樹脂に限らず、各種エンジニアリングプラスチックに対して機械的強度を向上させるため広く利用されている。ガラス繊維は、断面形状が円形のものが使用されるのが一般的である。しかし、断面形状が円形の一般的なガラス繊維を用いた際には、充填量の増加の伴い機械的物性や収縮率を向上することができるが、異方性の増大に起因し、得られる樹脂成形品の反りが大きくなる傾向にある。そこで、近年、断面が円形ではない異形断面ガラス繊維が用いることが提案されている(特許文献1参照)。そのような異形断面ガラス繊維を用いることで、樹脂成形品の反りの低減を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-316079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の通り、異形断面のガラス繊維を樹脂組成物に添加することで、その樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品の反りの低減が可能である。また、特許文献1においては、異形断面ガラス繊維とポリアセタール樹脂との界面における密着性を付与するため、多官能シアン酸エステル化合物を結合剤として用いている。しかし、そのような結合剤を用いても、異形断面のガラス繊維とポリアセタール樹脂との界面密着性が十分とは言えず、機械強度や耐クリープ性においては不十分であり、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、異形断面ガラス繊維を用いつつ、機械強度等の物性、耐熱水性、耐クリープ性及び低反り性の更なる向上が実現可能なポリアセタール樹脂組成物及び成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、
(B)異形断面ガラス繊維1~100質量部と、
(C)多官能イソシアネート化合物0.1~10質量部と、
(D)Sn、Zn及びPbからなる群より選ばれる金属元素を含有する有機金属化合物、ホウ酸化合物及び第四級オニウム塩化合物からなる群より選ばれる1種以上の結合剤0.001~3質量部と、
(E)含窒素官能基を有するトリアジン誘導体0.002~10質量部と、を含有する、ポリアセタール樹脂組成物。
【0007】
(2)前記(B)異形断面ガラス繊維が、断面の短径に対する断面の長径の比(異形比)が1.2以上である扁平な断面形状を有するガラス繊維である、前記(1)に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【0008】
(3)前記(C)多官能イソシアネート化合物が、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート及び2,6-トリレンジイソシアネート、並びにそれらのブロックイソシアネート化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、前記(1)又は(2)に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【0009】
(4)前記(C)多官能イソシアネート化合物が、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートの多量体、イソホロンジイソシアネートの多量体、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートの多量体、2,4-トリレンジイソシアネートの多量体及び2,6-トリレンジイソシアネートの多量体、並びにそれらのブロックイソシアネート化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、前記(1)~(3)のいずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物。
【0010】
(5)前記(D)結合剤が、脂肪酸亜鉛、ホウ酸、ハロゲン化第四級ホスホニウム塩、ハロゲン化第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウムのカルボン酸塩及び第四級アンモニウムのカルボン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、前記(1)~(4)のいずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物。
【0011】
(6)前記(D)結合剤が、ステアリン酸亜鉛、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛、オルトホウ酸、臭化エチルトリフェニルホスホニウム、臭化テトラフェニルホスホニウム、酢酸コリン及び塩化コリンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、前記(1)~(5)のいずれかに項記載のポリアセタール樹脂組成物。
【0012】
(7)前記(E)含窒素官能基を有するトリアジン誘導体が、メラミン、メラミンホルムアルデヒド付加物及びベンゾグアナミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、前記(1)~(6)のいずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物。
【0013】
(8)前記(1)~(7)のいずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、異形断面ガラス繊維を用いつつ、機械強度等の物性、耐熱水性、耐クリープ性及び低反り性の更なる向上が実現可能なポリアセタール樹脂組成物及び成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<ポリアセタール樹脂組成物>
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、(B)異形断面ガラス繊維1~100質量部と、(C)多官能イソシアネート化合物0.1~10質量部と、(D)Sn、Zn及びPbからなる群より選ばれる金属元素を含有する有機金属化合物、ホウ酸化合物及び第四級オニウム塩化合物からなる群より選ばれる1種以上の結合剤0.001~3質量部と、(E)含窒素官能基を有するトリアジン誘導体0.002~10質量部とを含有する。
【0016】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物においては、(B)異形断面ガラス繊維とともに、(C)多官能イソシアネート化合物、(D)特定の結合剤及び(E)含窒素官能基を有するトリアジン誘導体をそれぞれ所定量含有する。そのような(C)~(E)成分を含有することで、(A)ポリアセタール樹脂と(B)異形断面ガラス繊維との界面密着性が改善され、機械強度等の物性、耐熱水性、耐クリープ性の向上を図ることができる。
以下、本実施形態のポリアセタール樹脂組成物の各成分について詳述する。
【0017】
[(A)ポリアセタール樹脂]
本実施形態において、(A)ポリアセタール樹脂は、オキシメチレン基(-CHO-)を主たる構成単位とする高分子化合物で、オキシメチレン基のみが構成単位であるポリオキシメチレンホモポリマー、又はオキシメチレン基を主たる構成単位とし、これ以外に他の構成単位、例えばエチレンオキサイド、1,3-ジオキソラン、1,4-ブタンジオールホルマール等のコモノマーに由来する構成単位を少量含有するコポリマー、ターポリマー、ブロックポリマーのいずれにてもよい。
【0018】
また、ポリアセタール樹脂は、分子が線状のみならずグリシジルエーテル構造を有するコモノマー等を共重合させた分岐、架橋構造を有するものであってもよく、他の有機基を導入した公知の変性ポリオキシメチレンであってもよく、また線状樹脂と分岐、架橋構造を有する樹脂との混合物であってもよい。
【0019】
ポリアセタール樹脂は、その重合度に関しても特に制限はなく、溶融成形加工性を有するもの(例えば、ISO1133に準拠して、190℃、2160g荷重下でのメルトフロー値(MFR)が1.0g/10分以上100g/10分以下)であればよい。
【0020】
[(B)異形断面ガラス繊維]
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、(B)異形断面ガラス繊維1~100質量部含有する。(B)異形断面ガラス繊維を含有することで、(C)多官能イソシアネート化合物、(D)結合剤及び(E)含窒素官能基を有するトリアジン誘導体と相まって、機械強度等の物性、耐クリープ性、低反り性の向上を実現することができる。
【0021】
本実施形態において、異形断面ガラス繊維とは、ガラス繊維の長手方向に対する垂直な断面が、例えば、長円形、繭形、楕円形等の細長い扁平な形状等のいわゆる略真円形状ではない形状を有するガラス繊維を意味する。
尚、異形断面ガラス繊維として、特公平4-32775号広報、特許第33369674号広報、特許第5505597号広報、特許第7075017号広報、国際公開WO2020/04033号広報に記載の製造方法によって得られる異形断面ガラス繊維を使用できる。
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物に用いる異形断面ガラス繊維の組成は、溶融ガラスよりガラス繊維化が可能な組成であればよく、Eガラス組成、Aガラス組成、Cガラス組成、Dガラス組成、Hガラス組成、Rガラス組成、Sガラス組成、Tガラス組成、ARガラス組成、NEガラス組成、ECRガラス組成(ボロンフリー及び/又はフッ素フリーガラス組成)等が挙げられる。
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物に用いる異形断面ガラス繊維は、シランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。さらに、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、酸重合物等の被膜形成能を有する集束剤により表面処理されていてもよい。
【0022】
(B)異形断面ガラス繊維は、機械強度等の物性、耐クリープ性及び低反り性の向上の観点から、断面の短径に対する断面の長径の比(異形比)は1.2以上である扁平な断面形状を有することが好ましい。当該異形比は、1.5~10がより好ましく、1.8~8がさらに好ましい。
異形断面ガラス繊維としては、繊維状の形状のガラスであれば特に問題なく使用することができる。具体的には、チョップドストランドガラス繊維、ミルドガラス繊維、ガラス繊維ロービング等が挙げられる。これらの中では、特に、チョップドストランドガラス繊維、ミルドガラス繊維が、生産性の観点より好ましい。さらに、チョップドストランドガラス繊維が樹脂成形品の耐クリープ性を向上するためにより好ましい。これらの異形断面ガラス繊維は、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0023】
断面形状が長円形の異形断面ガラス繊維としては、例えば、日東紡績(株)製、チョップドストランド、長円形FF、日本電気硝子(株)製、チョップドストランド、長円形FGF、セントラルグラスファイバー(株)製、チョップドストランド、扁平CS等が挙げられる。また、断面形状が繭形の異形断面ガラス繊維としては、例えば、日東紡績(株)製、チョップドストランド、繭形HIS等が挙げられる。
【0024】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、(B)異形断面ガラス繊維を1~100質量部含有するが、(B)異形断面ガラス繊維が1質量部未満では、機械強度等の物性、耐熱水性、耐クリープ性及び低反り性が不十分となり、100質量部を超えると、溶融流動性が大幅な低下となる。当該(B)異形断面ガラス繊維の含有量は、3~80質量部が好ましく、5~60質量部がより好ましい。
【0025】
[(C)多官能イソシアネート化合物]
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、(C)多官能イソシアネート化合物0.1~10質量部含有する。上述した通り、(C)多官能イソシアネート化合物は、(A)ポリアセタール樹脂と(B)異形断面ガラス繊維との界面密着性の改善のために用いられる。
【0026】
(C)多官能イソシアネート化合物は、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であり、芳香族多官能イソシアネート、脂環式多官能イソシアネート、脂肪族多官能イソシアネートが挙げられる。
【0027】
(C)多官能イソシアネート化合物としては、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、トリフェニルメタン-4,4’,4”-トリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、並びにそれらのブロックイソシアネート化合物等が挙げられる。また、(C)多官能イソシアネート化合物は、多量体であってもよい。多量体としては、二量体、三量体、五量体、七量体、九量体、十一量体又はそれらの混合物が挙げられる。
中でも、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート及び2,6-トリレンジイソシアネート及びそれらのブロックイソシアネート化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましい。あるいは、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートの多量体、イソホロンジイソシアネートの多量体、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートの多量体、2,4-トリレンジイソシアネートの多量体及び2,6-トリレンジイソシアネートの多量体、並びにそれらのブロックイソシアネート化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましい。
【0028】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、(C)多官能イソシアネート化合物0.1~10質量部含有するが、0.1質量部未満では、(A)ポリアセタール樹脂と(B)異形断面ガラス繊維との界面密着性の改善が不十分となり、10質量部を超えると、変色、異物が生成することとなる。当該(C)多官能イソシアネート化合物の含有量は、0.2~7質量部が好ましく、0.3~5質量部がより好ましい。
【0029】
[(D)結合剤]
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、(D)Sn、Zn及びPbからなる群より選ばれる金属元素を含有する有機金属化合物、ホウ酸化合物及び第四級オニウム塩化合物からなる群より選ばれる1種以上の結合剤0.001~3質量部含有する。上述した通り、(D)結合剤は、(A)ポリアセタール樹脂と(B)異形断面ガラス繊維との界面密着性の改善のために用いられる。
【0030】
(D)結合剤としての、Sn、Zn及びPbより選ばれる金属元素を含有する有機金属化合物としては、飽和又は不飽和の脂肪酸スズ、脂肪酸亜鉛、脂肪酸鉛、高分子カルボン酸の金属塩(ポリ(メタ)アクリル酸亜鉛、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の亜鉛塩等)、1,3-ジケトンの金属塩(アセチルアセトンスズ、アセチルアセトン亜鉛等)、デヒドロ酢酸の金属塩(デヒドロ酢酸亜鉛等)等が挙げられる。ここで、脂肪酸としては、酢酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、エイコサペンタン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等、炭素原子数1~30の脂肪酸が好ましい。また、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸とでは、熱安定性の観点から飽和脂肪酸が好ましい。当該有機金属化合物の中では、脂肪酸亜鉛が好ましい。具体的には、ステアリン酸亜鉛、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛等が挙げられる。
【0031】
(D)結合剤としてのホウ酸化合物としては、例えばホウ酸、ホウ酸の脱水縮合物が挙げられる。具体的には、オルトホウ酸(HBO)、メタホウ酸、四ホウ酸等のホウ酸等が挙げられる。中でもオルトホウ酸が好ましい。
【0032】
(D)結合剤としての第四級オニウム塩化合物としては、第四級ホスホニウム塩、第四級アンモニウム塩等が挙げられる。それぞれ、ハロゲン化第四級ホスホニウム塩、ハロゲン化第四級アンモニウム塩が好ましく、具体的には、臭化エチルトリフェニルホスホニウム、臭化テトラフェニルホスホニウム、塩化コリンが好ましい。
また、第四級ホスホニウムのカルボン酸塩、第四級アンモニウムのカルボン酸塩が好ましく、具体的には、酢酸コリンが好ましい。
【0033】
また、これらの(D)結合剤は2種以上を併用することも可能であり、特に、ホウ酸化合物と第四級オニウム塩とを併用することが好ましい。
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物においては、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して(D)結合剤を0.001~3質量部含有するが、0.001質量部未満では、(A)ポリアセタール樹脂と(B)異形断面ガラス繊維との界面密着性の改善が不十分となり、3質量部を超えると、溶融混練時にストランドの発泡やホルムアルデヒド臭気の発生がしたり、成形品の色相が悪化したりする。(D)結合剤の含有量は、0.002~2質量部であることが好ましく、0.003~1質量部であることがより好ましい。
【0034】
[(E)含窒素官能基を有するトリアジン誘導体]
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、(E)含窒素官能基を有するトリアジン誘導体0.002~10質量部を含有する。(E)含窒素官能基を有するトリアジン誘導体を含有することで、耐熱水性、耐クリープ性の大幅な向上を図ることができる。
【0035】
本実施形態において、(E)含窒素官能基を有するトリアジン誘導体としては、メラミン、メラミンホルムアルデヒド付加物及びベンゾグアナミンから選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましい。
【0036】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物において、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対する(E)含窒素官能基を有するトリアジン誘導体は0.002~10質量部含有するが、0.002質量部未満では、耐熱水性、耐クリープ性の向上を図ることができず、10質量部を超えると、成形品表面にトリアジン誘導体の染み出しが起こる。当該含有量は 0.005~1質量部であることが好ましく、0.01~0.5質量部であることがより好ましい。
【0037】
[他の安定剤及び添加剤]
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、公知の各種安定剤をさらに添加して安定性を補強することができる。また、目的とする用途に応じてその物性を改善するために、公知の各種の添加剤をさらに配合し得る。
【0038】
添加剤として、各種の安定剤(酸化防止剤、抗酸剤など)、紫外線吸収剤、光安定剤、ホルムアルデヒド捕捉剤、着色剤(カーボンブラックなど)、離型剤、核剤、帯電防止剤、摺動剤、その他の界面活性剤、異種ポリマー等が挙げられる。また、本実施形態の目的とする組成物の性能を大幅に低下させない範囲内であれば、円形断面ガラス繊維、無機・有機・金属等の繊維状、粉粒状、板状の充填剤を1種又は2種混合使用することもできる。
【0039】
[ポリアセタール樹脂組成物の調製]
本実施形態に係るポリアセタール樹脂組成物の調製は、従来の樹脂組成物調製法として一般に用いられる公知の方法により容易に調製される。例えば、(1)組成物を構成する全成分を混合し、これを押出機に供給して溶融混練し、ペレット状の組成物を得る方法、(2)組成物を構成する成分の一部を押出機の主フィード口から、残余成分をサイドフィード口から供給して溶融混練し、ペレット状の組成物を得る方法、(3)押出し等により一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを混合して所定の組成に調整する方法等を採用できる。
【0040】
<成形品>
本実施形態の成形品は、ポリアセタール樹脂組成物を成形してなる。本実施形態のポリアセタール樹脂組成物を用いて成形品を作製する方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、本実施形態のポリアセタール樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【0041】
本実施形態の成形品としては、自動車用部品として、ドアロック、ドアハンドル、ウインドウレギュレータ(キャリアプレート)、パワーウインドスイッチハウジング部品等のドア廻り部品;シートベルト用スリップリング、プレスボタン等のシートベルト周辺部品;プーリー、ワイパー装置部品;サンルーフ装置部品;コンビニスイッチ部品:クリップ類等の部品;フューエルポンプモジュール、バルブ類、ガソリンタンクフランジ等の燃料廻り部品、オフィスオートメーション用部品として、プリンター及び複写機用部品、パソコン用部品としてキーボード部品(プランジャー部品)、通信機器用部品として、携帯電話及びファクシミリの部品、電気機器用部品、電子機器用部品等が挙げられる。
【実施例0042】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
[実施例1~15、比較例1~10]
各実施例・比較例において、ポリアセタール樹脂100質量部に、(B)ガラス繊維、(C)多官能イソシアネート化合物、(D)結合剤及び(E)含窒素官能基を有するトリアジン誘導体を表1~3に示す量(質量部)で配合し、シリンダー温度200℃ の押出機で溶融混練し、実施例及び比較例に係るペレット状のポリアセタール樹脂組成物を調製した。
【0044】
表1~3において、使用した各材料は以下の通りである。組成における単位は、質量部である。
(A)ポリアセタール樹脂
(A-1)ポリアセタール樹脂(トリオキサン96.7質量%と、1,3-ジオキソラン3.3質量%を共重合させてなるポリアセタール共重合体(POM、メルトフロー値(ISO133に準拠して、190℃、荷重2160gで測定):45g/10min)
(A-2)ポリアセタール樹脂(トリオキサン96.7質量%と、1,3-ジオキソラン3.3質量%を共重合させてなるポリアセタール共重合体(POM、メルトフロー値(ISO113に準拠して、190℃,荷重2160gで測定):9g/10min)
【0045】
(B)異形断面ガラス繊維
(B-1)扁平ガラス繊維(日東紡績(株)製、チョップドストランド、CSG3PA830 、長径/ 短径の比:4 )
(B-2)扁平ガラス繊維(日東紡績(株)製、チョップドストランド、長径/ 短径の比: 6 )
(B-3)長円形ガラス繊維(日本電気硝子(株)製、チョップドストランド、ECST03T-187―FGF、長径/ 短径の比:4)
(B-4)繭形ガラス繊維(日東紡績(株)製、チョップドストランド、CSH3PA850 、長径/ 短径の比:2 )
(B-5)繭形ガラス繊維(日東紡績(株)製、チョップドストランド、CSH3PA860S、長径/ 短径の比:2 )
(B’―1)円形ガラス繊維(オーウエンスコーニング社製、チョップドストランド、ECS03T-668、長径/短径の比:1、繊維直径=13μm)
【0046】
(C)多官能イソシアネート化合物
(C―1)イソホロンジイソシアネート三量体(IPDI三量体、エボニック社製、VESTANAT T1890/100)
(C―2)1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート三量体(HDI三量体、旭化成ケミカルズ(株)製、デュラネートTPA―100)
(C―3)4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)
【0047】
(D)結合剤
(D-1)ステアリン酸亜鉛
(D-2)12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛
(D-3)オルトホウ酸
(D-4)臭化エチルトリフェニルホスホニウム
(D-5)酢酸コリン
(D-6)塩化コリン
【0048】
(E)含窒素官能基を有するトリアジン誘導体
(E-1)メラミン
(E-2)メラミンホルムアルデヒド付加物(日本カーバイド工業(株)製、ニカレヂン S-260)
(E-3)ベンゾグアナミン
【0049】
<物性評価>
各実施例及び比較例において調製したペレット状の組成物を用い、射出成形機によりISO3167に準拠した試験片を成形した。そして、ISO527-1,2に準拠した引張強度、ISO178に準拠した曲げ強度、ISO179・1eAに準拠したシャルピー衝撃強度(ノッチ付、23℃)の測定を実施した。測定雰囲気は、23℃ 、50%RHである。評価結果を表1~3に示す。
【0050】
《耐熱水性評価》
上述の引張試験片を用い、ISO3167に準拠した引張試験片を用い、120℃ の熱水の入ったオートクレーブに1日浸漬させた後取り出し、物性評価と同じ測定条件で引張強度(熱水処理後の引張強度 、単位はMPa) を測定した。評価結果を表1~3に示す。
【0051】
《耐クリープ性評価》
ISO1367に準拠した引張試験片を用い、クリープ試験機で高温高荷重条件として大気中80℃ 、40MPaの荷重を掛け、試験片が破断するまでの時間を測定した。評価結果を表1~3に示す。
【0052】
《平面度評価》
120mm角の平板状試験片(厚さ2mm)を成形し、試験片をフラットな定盤の上に載置して試験片の変形部のうちの最大部(定盤と試験片との隙間が最大の所)を変形量として測定した。評価結果を表1~3に示す。
【0053】
《成形収縮率評価》
120mm角の平板状試験片(厚さ2mm)を成形したのちに樹脂流動方向及び樹脂流動方向に対して直角方向(表中には直角方向と記載)の成形収縮率(%)を測定した。評価結果を表1~3に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
表1~3より、実施例1~15においては、いずれの評価も良好な結果が得られたことが分かる。特に、ホウ酸(ホウ酸化合物)と第四級アンモニウム塩(第四級オニウム塩化合物)を併用した実施例15は優れた評価結果を示している。それに対して、円形断面のガラス繊維を用いたこと以外は、それぞれ、実施例2、8と同じである比較例2、比較例9はいずれの評価結果も対応する実施例よりも劣っていた。また、(C)多官能イソシアネート化合物を用いなかったこと以外は、それぞれ、実施例2、11、10、5と同じである比較例5、6、7、8もいずれの評価結果も対応する実施例2より劣っていた。さらに、(D)結合剤を用いなかったこと以外は実施例2と同じである比較例4はいずれの評価結果も実施例2よりも劣っていた。