IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧 ▶ 国立大学法人電気通信大学の特許一覧

<>
  • 特開-血清アルブミンの検出剤 図1
  • 特開-血清アルブミンの検出剤 図2
  • 特開-血清アルブミンの検出剤 図3
  • 特開-血清アルブミンの検出剤 図4
  • 特開-血清アルブミンの検出剤 図5
  • 特開-血清アルブミンの検出剤 図6
  • 特開-血清アルブミンの検出剤 図7
  • 特開-血清アルブミンの検出剤 図8
  • 特開-血清アルブミンの検出剤 図9
  • 特開-血清アルブミンの検出剤 図10
  • 特開-血清アルブミンの検出剤 図11
  • 特開-血清アルブミンの検出剤 図12
  • 特開-血清アルブミンの検出剤 図13
  • 特開-血清アルブミンの検出剤 図14
  • 特開-血清アルブミンの検出剤 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003343
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】血清アルブミンの検出剤
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/52 20060101AFI20241226BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20241226BHJP
   C07D 487/04 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
G01N33/52 C
G01N33/68
C07D487/04 144
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024085862
(22)【出願日】2024-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2023102863
(32)【優先日】2023-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その1) ウェブサイトの掲載日 2023年6月29日 ウェブサイトのアドレス https://www.mdpi.com/1424-8220/23/13/6020 (その2) 発行日 2023年7月10日 刊行物 日本分析化学会第72年会速報版プログラム (その3) ウェブサイトの掲載日 2023年8月16日 ウェブサイトのアドレス https://confit.atlas.jp/guide/event/jsac72nenkai/proceedings/list (その4) 開催日 2023年9月13日から2023年9月15日 集会名、開催場所 日本分析化学会第72年会 熊本城ホール(熊本県熊本市中央区桜町3番40号)
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金 誠培
(72)【発明者】
【氏名】牧 昌次郎
(72)【発明者】
【氏名】北田 昇雄
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB03
2G045CB04
2G045CB12
2G045DA38
2G045FB13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】新規の血清アルブミン検出剤の提供。
【解決手段】一般式(1)で表される化合物又はその塩を含む血清アルブミンの検出剤:

[式中、Rは置換基を有していてもよいアリール基又は不飽和複素環基、-R-は-S-、-CH-、-CH=CH-又は-C≡C-、Rは置換基を有していてもよいアリール基、Rは置換基を有するアリール基を示す。lは0又は1を示す。mは0又は1を示す。ただし、-R-が-CH-である場合、mは1を示す。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される化合物又はその塩を含む、血清アルブミンの検出剤:
【化1】
[式中、Rは置換基を有していてもよいアリール基又は不飽和複素環基を示す。-R-は-S-、-CH-、-CH=CH-又は-C≡C-を示す。Rは置換基を有していてもよいアリール基を示す。Rは置換基を有するアリール基を示す。lは0又は1を示す。mは0又は1を示す。ただし、-R-が-CH-である場合、mは1を示す。]
【請求項2】
で示されるアリール基又は不飽和複素環基が置換基を有する場合、当該置換基が水酸基、チオール基、ヒドロキシアルキル基及びメルカプトアルキル基からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の血清アルブミン検出剤。
【請求項3】
で示されるアリール基が置換基を有する場合、当該置換基がハロゲン、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基及びアルキルアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の血清アルブミン検出剤。
【請求項4】
で示されるアリール基が有する置換基が水酸基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基及びアルキルアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の血清アルブミン検出剤。
【請求項5】
一般式(1)で表される化合物又はその塩が下記一般式(2)で表される化合物又はその塩である、請求項1に記載の血清アルブミン検出剤:
【化2】
[式中、-R-は-S-、-CH-、-CH=CH-又は-C≡C-を示す。Rは水酸基、チオール基、ヒドロキシアルキル基又はメルカプトアルキル基である。Rが複数存在する場合、当該Rは同一でも異なってもよい。Rはハロゲン、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基又はアルキルアミノ基である。Rが複数存在する場合、当該Rは同一でも異なってもよい。Rは水酸基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基又はアルキルアミノ基である。Rが複数存在する場合、当該Rは同一でも異なってもよい。lは0又は1を示す。mは0又は1を示す。nは0~2の整数を示す。pは0~2の整数を示す。qは1~2の整数を示す。ただし、-R-が-CH-である場合、mは1を示す。]
【請求項6】
一般式(1’)
【化3】
[式中、Rは置換基を有していてもよいアリール基又は不飽和複素環基を示す。Rは置換基を有していてもよいアリール基を示す。Rは置換基を有するアリール基を示す。lは0又は1を示す。]
で表される化合物又はその塩。
【請求項7】
対象となる試料に請求項1~5のいずれか一項に記載の血清アルブミン検出剤又は請求項6に記載の化合物又はその塩を添加する工程を含む、試料中の血清アルブミンの検出方法。
【請求項8】
試料中のアルブミンの含有量及びアルブミンの由来の一方又は両方を測定するための、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血清アルブミンの検出剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アルブミンは血液の中で最も豊富な蛋白質であり、その割合は全タンパク質の約6割を占める。アルブミンは、ビタミン、酵素、ホルモンなどを体内に輸送する役割を担っている。したがって、血液中のアルブミン数値の異常は、生命を脅かす病気の指標である。例えば、低アルブミン血症は、心不全、肝臓病、栄養失調、炎症性腸疾患、感染症、腎臓病などの疾患の兆候である(非特許文献1、2)。
アルブミン分析は法医学の分野でもとりわけ重要である。たとえば、多くの医学法的調査では死後時間の推定が必要である。血中のアルブミン濃度は死後72時間まで一定速度で減少するため、死後経過時間をアルブミンアッセイにより推定できる(非特許文献3)。
【0003】
他にも、血便は大腸癌や大腸炎の指標となっており、健康状態の重要な指標となっている。大腸癌に至らなくても溶血性尿毒症症候群や脳症などの合併症を引き起こすことも知られている。従来、この確認のためには、大腸内視鏡検査、便培養検査などを行っている。定期検診でも欠かせない検査項目になっている(非特許文献11)。またアルブミン尿の検査も糖尿病による腎臓不振の指標である。この検査は糖尿病の早期発見の役割を果たすものである(非特許文献16)。しかし前述従来法は、患者に多大な苦痛を与えるものであり、多くの検査費用と時間を要するものであった。従って関連する病気の早期診断のために、簡便かつ高感度のアルブミン検査ができれば、この診断分野における利点は大きい。
【0004】
従来、アルブミン濃度は、イムノアッセイ、比色アッセイ、発光アッセイなどの方法により測定されてきた。典型的なイムノアッセイシステムは、抗ヒト血清アルブミン(HSA)抗体、蛍光団または発光団標識の二次抗体、およびその特異的検出器による測定に依存してきた(非特許文献4)。それ以外の測定方法としては、遷移金属を使用した比色アッセイ(非特許文献5、6)、流体マイクロチャネルデバイス内の金ナノ粒子(AuNP)を用いた方法(非特許文献7)、ポイントオブケア検査用としての紙ベースのレシオメトリック発光分析システム(非特許文献8)等の報告がある。しかし、依然として、これらの方法の不便さ・コスト・長時間測定・患者への苦痛などを考慮すると、血清アルブミンの新規検出方法が熱望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2021/187531 パンフレット
【特許文献2】特開2011-219392
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Mendez, C. M.; McClain, C. J.; Marsano, L. S., Albumin therapy in clinical practice. Nutr Clin Pract 2005, 20(3), 314-320.
【非特許文献2】Infusino, I.; Panteghini, M., Serum albumin: accuracy and clinical use. Clin Chim Acta 2013, 419, 15-18.
【非特許文献3】Ankita K. Parmar, S. K. M., Estimation of postmortem interval through albumin in CSF by simple dye binding method. Science & Justice 2015, 55(6), 388-393.
【非特許文献4】Choi, S.; Choi, E. Y.; Kim, D. J.; Kim, J. H.; Kim, T. S.; Oh, S. W., A rapid, simple measurement of human albumin in whole blood using a fluorescence immunoassay (I). Clin Chim Acta 2004, 339(1-2), 147-156.
【非特許文献5】Bar-Or, D.; Lau, E.; Winkler, J. V., A novel assay for cobalt-albumin binding and its potential as a marker for myocardial ischemia-a preliminary report. J Emerg Med 2000, 19(4), 311-315.
【非特許文献6】Sadler, P. J.; Tucker, A.; Viles, J. H., Involvement of a lysine residue in the N-terminal Ni2+ and Cu2+ binding site of serum albumins. Comparison with Co2+, Cd2+ and Al3+. Eur J Biochem 1994, 220(1), 193-200.
【非特許文献7】Zhou, J.; Ren, K.; Zhao, Y.; Dai, W.; Wu, H., Convenient formation of nanoparticle aggregates on microfluidic chips for highly sensitive SERS detection of biomolecules. Anal Bioanal Chem 2012, 402(4), 1601-1609.
【非特許文献8】Luo, Z.; Lv, T.; Zhu, K.; Li, Y.; Wang, L.; Gooding, J. J.; Liu, G.; Liu, B., Paper-Based Ratiometric Fluorescence Analytical Devices towards Point-of-Care Testing of Human Serum Albumin. Angew Chem Int Ed Engl 2020, 59(8), 3131-3136.
【非特許文献9】Nishihara, R.; Niwa, K.; Tomita, T.; Kurita, R., Coelenterazine Analogue with Human Serum Albumin-Specific Bioluminescence. Bioconjugate Chem. 2020, 31(12), 2679-2684.
【非特許文献10】Genta K.; Nobuo K. ; Shojiro M. ; Sung Bae K. Multiplex quadruple bioluminescent assay system. Scientifc Reports 2022, 12:17485
【非特許文献11】大腸癌検診マニュアル2021
【非特許文献12】Kamiya, G.; Kitada, N.; Maki, S.; Kim, S. B., Multiplex quadruple bioluminescent assay system. Scientific Reports 2022, 12(1), 17485.
【非特許文献13】Kamiya, G.; Kitada, N.; Furuta, T.; Hirano, T.; Maki, S. A.; Kim, S. B., S-Series Coelenterazine-Driven Combinatorial Bioluminescence Imaging Systems for Mammalian Cells. Int J Mol Sci 2023, 24(2), 1420.
【非特許文献14】Shimomura, O., Cause of Spectral Variation in the Luminescence of Semisynthetic Aequorins. Biochem J 1995, 306, 537-543.
【非特許文献15】Chem. Commun., 2015, 51, 391「Bioluminescent coelenterazine derivatives with imidazopyrazinone C-6 extended substitution」
【非特許文献16】糖尿病性腎症の早期診断における尿検査」臨牀と研究 93(8): 1093-1097,2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、これまで血清アルブミンを検出できることが知られていなかった化合物を用いた、新規の血清アルブミン検出剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる状況の下、本発明者らは鋭意研究した結果、イミダゾ[1,2-a]ピラジン-3(7H)-オンに炭素炭素二重結合、炭素炭素三重結合又は硫黄原子を介してアリール基が結合した構造、より具体的には、イミダゾ[1,2-a]ピラジン-3(7H)-オンの8位に炭素炭素二重結合、炭素炭素三重結合又は硫黄原子を介してアリール基が結合した構造又はイミダゾ[1,2-a]ピラジン-3(7H)-オンの6位に炭素炭素二重結合を介してアリール基が結合した構造を有する化合物と血清アルブミンとが反応して発光を発生し、これにより各種動物由来の血清アルブミンをそれぞれ特異的に検出できることを見出した。本発明は上記新規の知見に基づくものである。従って、本発明は以下の項を提供する。
【0009】
項1.一般式(1)で表される化合物又はその塩を含む、血清アルブミンの検出剤:
【0010】
【化1】
【0011】
[式中、Rは置換基を有していてもよいアリール基又は不飽和複素環基を示す。-R-は-S-、-CH-、-CH=CH-又は-C≡C-を示す。Rは置換基を有していてもよいアリール基を示す。Rは置換基を有するアリール基を示す。lは0又は1を示す。mは0又は1を示す。ただし、-R-が-CH-である場合、mは1を示す。]
【0012】
項2.Rで示されるアリール基又は不飽和複素環基が置換基を有する場合、当該置換基が水酸基、チオール基、ヒドロキシアルキル基、及びメルカプトアルキル基からなる群より選択される少なくとも一種である、項1に記載の血清アルブミン検出剤。
【0013】
項3.Rで示されるアリール基が置換基を有する場合、当該置換基がハロゲン、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基及びアルキルアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種である、項1に記載の血清アルブミン検出剤。
【0014】
項4.Rで示されるアリール基が有する置換基が水酸基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、及びアルキルアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種である、項1に記載の血清アルブミン検出剤。
【0015】
項5.一般式(1)で表される化合物又はその塩が下記一般式(2)で表される化合物又はその塩である、項1に記載の血清アルブミン検出剤:
【0016】
【化2】
【0017】
[式中、-R-は-S-、-CH-、-CH=CH-又は-C≡C-を示す。Rは水酸基、チオール基、ヒドロキシアルキル基又はメルカプトアルキル基である。Rが複数存在する場合、当該Rは同一でも異なってもよい。Rはハロゲン、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基又はアルキルアミノ基である。Rが複数存在する場合、当該Rは同一でも異なってもよい。Rは水酸基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基又はアルキルアミノ基である。Rが複数存在する場合、当該Rは同一でも異なってもよい。lは0又は1を示す。mは0又は1を示す。nは0~2の整数を示す。pは0~2の整数を示す。qは1~2の整数を示す。ただし、-R-が-CH-である場合、mは1を示す。]
【0018】
項6.一般式(1’)
【化3】
[式中、Rは置換基を有していてもよいアリール基又は不飽和複素環基を示す。Rは置換基を有していてもよいアリール基を示す。Rは置換基を有するアリール基を示す。lは0又は1を示す。]
で表される化合物又はその塩。
【0019】
項7.対象となる試料に項1~5のいずれか一項に記載の血清アルブミン検出剤又は項6に記載の化合物又はその塩を添加する工程を含む、試料中の血清アルブミンの検出方法。
【0020】
項8.試料中のアルブミンの含有量及びアルブミンの由来の一方又は両方を測定するための、項7に記載の方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、これまで血清アルブミンを検出できることが知られていなかった化合物を用いた、新規の血清アルブミン検出試薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】さまざまな血清タンパク質との反応におけるCTZインジケーターの絶対発光強度。矢印は、それぞれの血清タンパク質に対するCTZインジケーターの特異性を示す発光強度を示す。p値(スチューデントt-検定) は **** ≦ 0.0001である。挿入図 a は、血清アルブミンに応答した CTZ インジケーターの相対強度を強調している。バー上のアスタリスク * および ** は、それぞれ S6 および S6h の HSA および BSA 特異性を示す。挿入図bは、対応する発光画像を示している。 略語: HSA、ヒト血清アルブミン。BSA、ウシ血清アルブミン。 OVA、オボアルブミン。HIgG、ヒト免疫グロブリン。BIGG、ウシ免疫グロブリン。HγG、ヒトγグロブリン。BγG、ウシγグロブリン。HTF、ヒトトランスフェリン。HFG、ヒトフィブリノーゲン。STI、大豆トリプシン阻害剤。HFN、ヒトフィブロネクチン。PBS、リン酸緩衝生理食塩水。
図2】CTZインジケーターのアルブミン以外の血清蛋白質への選択性の検証。K6は大豆トリプシンインヒビター(STI)に特異的に発光し、S5hはヒトフィブロネクチン(HFN)に選択的に発光した。挿入図aは、この実験で用いた血清蛋白質の内訳を表す。挿入図bはK6とS5hの化学構造を示している。
図3】HSAまたは BSAを含むCTZインジケーターの発光スペクトルとその混合物の特性。 (A) HSA(左)または BSA(右)を使用した CTZインジケーターの発光スペクトル。 数字はスペクトルのピーク波長を示す。(B)異なる比率の HSA と BSA 混合物に応答したS6hの正規化された発光スペクトル。数字はスペクトルのピーク波長を示す。挿入図 a は、混合比に応じた 430 nm および 600 nmでの正規化スペクトルの発光強度の変化を示している。パーセンテージは、HSAと BSAの混合比を変更することによるS6hの最大強度分散を示す。挿入図b は、HSAおよびBSAを使用したCTZインジケーターの発光スペクトルの最大値をまとめている。
図4】HSAおよびBSAを使用したCTZインジケーターの速度定数の決定。(A)さまざまな濃度のHSAに応答したCTZインジケーターの初期発光強度。(B)さまざまな濃度のBSAに応答したCTZインジケーターの初期発光強度。(C)CTZインジケーターとの反応におけるHSAおよびBSAの酵素特性を示す速度定数の概要。
図5】さまざまな濃度の血清アルブミンにおける、選択されたCTZインジケーターの広範囲の用量反応特性。(A) HSA、BSA、OVAのさまざまな濃度に応じた、選択したCTZインジケーターの広範囲の用量反応曲線。矢印は、CTZインジケーター間の強度のギャップを強調表示す。K6、S6、およびS6hは、0~1 mg/mL の適用濃度範囲で一般に HSAと反応した。対照的に、S6hは、BSAを使用した場合、他のCTZ指標よりも比較的優れた発光強度を示した(B)血清アルブミンの濃度を変化させた場合のS6および S6hの要約された用量反応曲線。(C) さまざまな濃度の血清アルブミンとの反応におけるS6およびS6hの対応する光学画像。*と**の矢印はそれぞれ検出限界とピーク点を示す。挿入図 a は、S6とS6hの化学構造を示している。黄色の影は、S6hとは異なるS6の特徴的な官能基を強調している。
図6】阻害剤: イブプロフェンとワルファリン、および BSAの薬物結合部位 II に対する CTZインジケーターの競合。(A) BSAの特定の相互作用部位に対する CTZインジケーターと阻害剤の間の競合。パーセンテージは、阻害剤であるイブプロフェンおよびワルファリンの非存在下と比較した、100μM阻害剤の存在下でのCTZインジケーターの残存最終強度比を示す。挿入図 a は、対応する発光画像を示している。(B) HSAの特定の相互作用部位に対するCTZインジケーターと阻害剤の間の競合。パーセンテージは、阻害剤の非存在下での強度と比較した、阻害剤 100μMの阻害後に残った強度を示す。挿入図 b は、対応する発光画像を示す。(C) S6hとBSAの反応に対するイブプロフェンの阻害効果を示すラインウィーバー・バーク阻害プロット。r2という用語は、線形回帰における決定係数を意味する。
図7】実際のFBSに応答したS6およびS6hの用量応答性発光強度。p値(スチューデントt-検定)は ** ≦ 0.01である。バーグラーフ上の数字は、S6に対する S6hの発光の折り畳み強度を示す。挿入図 a は、対応する発光画像を示している。矢印は、CTZインジケーターのおおよその検出限界を強調表示する。
図8】CTZインジケーターのnCTZ, K6, 11, 12, 13を用いたアルブミン(HSAやBSA)の発光測定。PBSはリン酸緩衝生理食塩水を指しており、ネガコンとして使われた。
図9】CTZインジケーター、11、12、13、K6のBSAやHSAに対する発光反応スペクトル。
図10】CTZインジケーター類(K6, S5, S5h, S6)が持つアルブミンとの特異的な発光反応性の測定結果
図11】CTZインジケーター類が持つアルブミンとの特異的な発光反応性の測定結果
図12図11の拡大図
図13】CTZインジケーター類(P1, P2, TS1, TS2)が持つアルブミンとの特異的な発光反応性の測定結果
図14】CTZインジケーター類(P1, P2, TS1, TS2)が持つアルブミンとの特異的な発光反応性の用量反応曲線(ドーズリスポンスカーブ)の測定結果
図15】HSAまたはMSAを使用した CTZインジケーターの発光スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0023】
血清アルブミンの検出剤
一実施形態において、本発明は、一般式(1)で表される化合物又はその塩を含む、血清アルブミンの検出剤:
【0024】
【化4】
【0025】
[式中、Rは置換基を有していてもよいアリール基又は不飽和複素環基を示す。-R-は-S-、-CH-、-CH=CH-又は-C≡C-を示す。Rは置換基を有していてもよいアリール基を示す。Rは置換基を有するアリール基を示す。lは0又は1を示す。mは0又は1を示す。ただし、-R-が-CH-である場合、mは1を示す。]
本明細書において、一般式(1)で表される化合物を単に化合物(1)と示すこともある。同様に、一般式(2)で表される化合物を化合物(2)と示すこともある。また、本発明において、血清アルブミンと反応させることにより発光を発するセレンテラジン(CTZ)誘導体を、CTZインジケーターと示すこともある。
本発明の有効成分である化合物(1)又はその塩を血清アルブミンと反応させることにより発光を生じる。当該発光を検出することにより試料中の血清アルブミンを検出することができる。従って、本発明における血清アルブミンの検出剤は、血清アルブミンの発光検出剤と示すこともできる。
【0026】
本発明においてアルキル基とは、直鎖又は分枝鎖状の一価の炭化水素を示す。アルキル基の炭素数としては、例えば、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1がさらに好ましい。かかるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル等が挙げられる。本発明において、アルキル基は炭素-炭素二重結合を(例えば、1~2個)有してもよいし(ビニル基、プロペニル基等)、炭素-炭素二重結合を有さない飽和炭化水素であってもよい。
【0027】
本発明において、ヒドロキシアルキル基としては、1個又は複数の水酸基を有する前記アルキル基を挙げることができる。従って、ヒドロキシアルキル基の炭素数としては、例えば、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1がさらに好ましい。水酸基の数としては、例えば、1~3個、好ましくは1~2個、より好ましくは1個等が挙げられる。かかるヒドロキシアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル、1-ヒドロキシエチル、2-ヒドロキシエチル、1-ヒドロキシプロピル、3-ヒドロキシプロピル、2,3-ジヒドロキシプロピル、1,2,3-トリヒドロキシプロピル、4-ヒドロキシブチル、4-ヒドロキシブタン-2-イル、5-ヒドロキシペンチル、6-ヒドロキシヘキシル等が挙げられる。
【0028】
本発明において、メルカプトアルキル基としては、1個又は複数のチオール基を有する前記アルキル基を挙げることができる。従って、メルカプトアルキル基の炭素数としては、例えば、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1がさらに好ましい。チオール基の数としては、例えば、1~3個、好ましくは1~2個、より好ましくは1個等が挙げられる。かかるメルカプトアルキル基としては、例えば、メルカプトメチル、1-メルカプトエチル、2-メルカプトエチル、1-メルカプトプロピル、3-メルカプトプロピル、2,3-ジメルカプトプロピル、1,2,3-トリメルカプトプロピル、4-メルカプトブチル、4-メルカプトブタン-2-イル、5-メルカプトペンチル、6-メルカプトヘキシル等が挙げられる。
【0029】
本発明において、アルコキシ基としては、アルキル部分が前述したアルキル基であるもの等が挙げられる。従って、アルコキシ基の炭素数としては、例えば、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1がさらに好ましい。かかるアルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、i-プロポキシ、n-ブトキシ、i-ブトキシ、t-ブトキシ、n-ペンチルオキシ、n-ヘキシルオキシ等が挙げられる。
【0030】
本発明において、アルコキシアルキル基としては、置換基として前記アルコキシ基1を1個有するアルキル基であって、当該アルキル部分が前述したアルキル基であるもの等が挙げられる。従って、アルコキシアルキル基の炭素数としては、例えば、2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2がさらに好ましい。かかるアルコキシ基としては、例えば、メトキシメチル、2-メトキシエチル、3-メトキシプロピル、2-メトキシプロピル、エトキシメチル、2-n-プロポキシエチル、i-プロポキシメチル、n-ブトキシメチル、i-ブトキシメチル、t-ブトキシメチル、n-ペンチルオキシメチル、n-ヘキシルオキシメチル等が挙げられる。
【0031】
本発明において、アルキルアミノとしては、アミノ基が有する2つの水素のうち1つ又は2つが前述したアルキル基で置換されてなる基等が挙げられる。従って、アルキルアミノ基の炭素数としては、例えば、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1がさらに好ましい。かかるアルキル基としては、例えば、N-メチルアミノ、N-エチルアミノ、N-n-プロピルアミノ、N-i-プロピルアミノ、N-n-ブチルアミノ、N-i-ブチルアミノ、N-t-ブチルアミノ、N-n-ペンチルアミノ、N-n-ヘキシルアミノ等のN-モノアルキルアミノ;N,N-ジメチルアミノ、N,N-エチルアミノ、N-メチル-N-ジエチルアミノ、N,N-ジ-n-プロピルアミノ、N,N-ジ-i-プロピルアミノ、N,N-ジ-n-ブチルアミノ、N,N-ジ-n-ペンチルアミノ、N-n-ヘキシルアミノのN,N-ジアルキルアミノ等が挙げられる。
【0032】
本発明においてアリール基としては、特に制限はなく、例えば、単環アリール基(フェニル基)及び多環アリール基のいずれも採用し得るが、単環アリール基が好ましい。このようなアリール基の炭素数としては、6~12が好ましく、6~11がより好ましく、6~10がさらに好ましい。このようなアリール基としては、具体的には、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられ、好ましくはフェニル基等が挙げられる。
【0033】
本発明において、不飽和複素環基としては、例えば、ヘテロ原子として、酸素、窒素及び硫黄からなる群より選択される少なくとも一種(好ましくは酸素)を含む、5~10員環(好ましくは5~6員環、より好ましくは5員環)の不飽和複素環基が挙げられる。ヘテロ原子の数は限定されないが、例えば、1~4個、好ましくは1~2個、より好ましくは1個が挙げられる。不飽和複素環基は単環式及び多環式のいずれでもよいが、単環式が好ましい。このような不飽和複素環としては、具体的には、フラニル基、チエニル基、チアゾリル基、ピリジニル基、イミダゾリル基、インドリル基、ピリミジニル基、オキサゾリル基、インドリジニル基、ベンゾフラニル基、キノリニル基、イソキノリニル基等が挙げられ、フラニル基等が好ましい。
【0034】
本発明においてハロゲンとしては、臭素、塩素、フッ素、ヨウ素等が挙げられ、そうでないことが明記されていない限り、好ましくはフッ素等が挙げられる。
【0035】
で示されるアリール基又は不飽和複素環基が置換基を有する場合、当該置換基としては、水酸基、チオール基、ヒドロキシアルキル、メルカプトアルキル等が好ましく、水酸基、ヒドロキシアルキル等がより好ましく、水酸基がさらに好ましい。Rで示されるアリール基又は不飽和複素環基が置換基を有する場合、置換基の数は限定されないが、例えば、1~5、好ましくは1~4、より好ましくは1~3、さらに好ましくは1~2、なおさらに好ましくは1個が挙げられる。Rで示されるアリール基又は不飽和複素環基が複数の置換基を有する場合、それらの複数の置換基は同一でも異なってもよい。Rで示されるアリール基が置換基を有する場合、その位置は限定されず、オルト位、メタ位置、パラ位のいずれでもよいが、パラ位が好ましい。従って、Rで示されるアリール基が複数の置換基を有する場合も、少なくとも1個の置換基がパラ位に位置することが好ましい。また、Rで示される不飽和複素環基が置換基を有する場合も、その位置は限定されない。
また、本発明の好ましい実施形態において、化合物(1)又はその塩がヒト血清アルブミンと反応して生じる発光と、化合物(1)又はその塩がウシ血清アルブミンと反応して生じる発光とは、生じる傾向の波長域が異なる。具体的には、典型的実施形態において、化合物(1)又はその塩がヒト血清アルブミンに対して生じる発光は490~500nmにピークを有し得、化合物(1)又はその塩がウシ血清アルブミンに対して生じる発光は480~535nmにピークを有し得る。従って、当該実施形態は、化合物(1)又はその塩を用いることにより、ヒト血清アルブミンとウシ血清アルブミンとを同時に測定することができる点で好ましい。
また、Rで示されるアリール基又は不飽和複素環基(好ましくはアリール基)が置換基を有する場合、化合物(1)又はその塩は、血清アルブミンのうち特にヒトアルブミンを高い感度で検出することができる。従って、本発明の好ましい実施形態において、化合物(1)又はその塩として、前記一般式(1)においてRで示されるアリール基又は不飽和複素環基(好ましくはアリール基)が置換基を有する化合物又はその塩を含む、ヒト血清アルブミンの検出剤を提供する。また、mが1である場合(好ましくはmが1であり、かつ-R-が-CH-又は-S-の場合)も、化合物(1)又はその塩は、血清アルブミンのうち特にヒトアルブミンを高い感度で検出することができる。従って、本発明の好ましい実施形態において、化合物(1)又はその塩として、前記一般式(1)においてmが1である(好ましくはmが1であり、かつ-R-が-CH-又は-S-である)化合物又はその塩を含む、ヒト血清アルブミンの検出剤を提供する。また、Rで示されるアリール基又は不飽和複素環基(好ましくはアリール基)が置換基を有さない場合、化合物(1)又はその塩は、血清アルブミンのうち特にウシアルブミンを高い感度で検出することができる。従って、本発明の好ましい実施形態において、化合物(1)又はその塩として、前記一般式(1)においてRが無置換のアリール基又は不飽和複素環基(好ましくはアリール基)である化合物又はその塩を含む、ウシ血清アルブミンの検出剤を提供する。また、mが1である場合(好ましくはmが1であり、かつ-R-が-S-の場合)も、化合物(1)又はその塩は、マウスアルブミンも高い感度で検出することができる。従って、本発明の好ましい実施形態において、化合物(1)又はその塩として、前記一般式(1)においてmが1である(好ましくはmが1であり、かつ-R-が-S-である)化合物又はその塩を含む、マウス血清アルブミンの検出剤を提供する。上記のようにヒトとウシアルブミンが選択的に可視化できたこと、マウスアルブミンも検出できることからも分かるように、一般式(1)の範囲においてウシ、ヒト、マウス由来のアルブミンだけでなく、タマゴやウサギ、イヌ、サル、ニワトリ、ネコなど由来のアルブミンの選択的な可視化も期待できる。
【0036】
で示されるアリール基が置換基を有する場合、当該置換基としては、ハロゲン、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルキルアミノ基が好ましく、ハロゲン等がより好ましい。Rで示されるアリール基が置換基を有する場合、置換基の数は限定されないが、例えば、1~5、好ましくは1~4、より好ましくは1~3、さらに好ましくは1~2、なおさらに好ましくは1個が挙げられる。Rで示されるアリール基が複数の置換基を有する場合、それらの複数の置換基は同一でも異なってもよい。Rで示されるアリール基が置換基を有する場合、その位置は限定されず、オルト位、メタ位置、パラ位のいずれでもよいが、パラ位及び/又はメタ位(が好ましい。従って、Rで示されるアリール基が複数の置換基を有する場合も、少なくとも1個の置換基がパラ位及び/又はメタ位に位置することが好ましい。
で示されるアリール基が置換基を有する場合、当該置換基としては、水酸基、ヒドロキシアルキル、アルコキシ、アルキルアミノ等が好ましく、水酸基、ヒドロキシアルキル等がより好ましく、水酸基等がさらに好ましい。Rで示されるアリール基が置換基を有する場合、置換基の数は限定されないが、例えば、1~5、好ましくは1~4、より好ましくは1~3、さらに好ましくは1~2、なおさらに好ましくは1個が挙げられる。Rで示されるアリール基が複数の置換基を有する場合、それらの複数の置換基は同一でも異なってもよい。Rで示されるアリール基が置換基を有する場合、その位置は限定されず、オルト位、メタ位、パラ位のいずれでもよいが、パラ位が好ましい。従って、Rで示されるアリール基が複数の置換基を有する場合も、少なくとも1個の置換基がパラ位に位置することが好ましい。また、Rで示されるアリール基が置換基を有する場合、その位置は限定されないが、当該置換基はメタ位には存在しないことが好ましい。
【0037】
次に、一般式(1)における置換基の種類、数等の好ましい例を以下に示す。一般式(1)中、lは0又は1を示し、好ましくは1である。mは0又は1を示し、好ましくは1である。
【0038】
前述したように、一般式(1)においてアリール基としては、フェニル基が好ましい。従って、好ましい実施形態において、本発明は、一般式(2)で表される化合物又はその塩を含む、血清アルブミンの検出剤を提供する:
【0039】
【化5】
【0040】
[式中、-R-は-S-、-CH-、-CH=CH-又は-C≡C-を示す。Rは水酸基、チオール基、ヒドロキシアルキル基又はメルカプトアルキル基である。Rが複数存在する場合、当該Rは同一でも異なってもよい。Rはハロゲン、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基又はアルキルアミノ基である。Rが複数存在する場合、当該Rは同一でも異なってもよい。Rは水酸基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基又はアルキルアミノ基である。Rが複数存在する場合、当該Rは同一でも異なってもよい。lは0又は1を示す。mは0又は1を示す。nは0~2の整数を示す。pは0~2の整数を示す。qは1~2の整数を示す。ただし、-R-が-CH-である場合、mは1を示す。]
、R及びRで示される基(フェニル基の置換基)の好ましい態様(種類、位置等)等は、一般式(1)の説明におけるRで示されるアリール基又は不飽和複素環基の置換基、Rで示されるアリール基の置換基、Rで示されるアリール基の置換基と同様である。
【0041】
一般式(2)において、nは0~2の整数を示し、0~1が好ましい。pは0~2の整数を示し、0~1が好ましい。mは0又は1を示し、好ましくは1である。qは1~2の整数を示し、1が好ましい。
一般式(2)において、pが1又は2の場合、基Rはフェニル基のパラ位及び/又はメタ位に位置することが好ましい。また、一般式(2)において、基Rのうち少なくとも1個はフェニル基のパラ位に位置することが好ましい。また、一般式(2)において、基Rはフェニル基のメタ位に存在しないことが好ましい。
【0042】
本発明の有効成分である化合物(1)は塩の形態で用いてもよい。化合物(1)の塩は、酸付加塩と塩基との塩を包含する。酸付加塩の具体例として、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩等の有機酸塩、及びグルタミン酸塩、アスパラギン酸塩等の酸性アミノ酸塩が挙げられる。塩基との塩の具体例としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩又はカルシウム塩のようなアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、ピリジン塩、トリエチルアミン塩のような有機塩基との塩等が挙げられる。
【0043】
本発明においては、本発明の有効成分である化合物(1)又はその塩そのものを血清アルブミンの検出剤として用いても、薬学的に許容される各種担体(例えば、等張化剤、キレート剤、安定化剤、pH調節剤、防腐剤、抗酸化剤、溶解補助剤、粘稠化剤等)と組み合わせた検出剤組成物として用いてもよい。
【0044】
等張化剤としては、例えば、グルコース、トレハロース、ラクトース、フルクトース、マンニトール、キシリトール、ソルビトール等の糖類、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等の無機塩類等が挙げられる。これらの等張化剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
キレート剤としては、例えば、エデト酸二ナトリウム、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、エデト酸カルシウム等のエデト酸塩類、エチレンジアミン四酢酸塩、ニトリロ三酢酸又はその塩、ヘキサメタリン酸ソーダ、クエン酸等が挙げられる。これらのキレート剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
安定化剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0047】
pH調節剤としては、例えば、塩酸、炭酸、酢酸、クエン酸等の酸が挙げられ、さらに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩又は炭酸水素塩、酢酸ナトリウム等のアルカリ金属酢酸塩、クエン酸ナトリウム等のアルカリ金属クエン酸塩、トロメタモール等の塩基等が挙げられる。これらのpH調節剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
防腐剤としては、例えば、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等のパラオキシ安息香酸エステル、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等の第4級アンモニウム塩、アルキルポリアミノエチルグリシン、クロロブタノール、ポリクォード、ポリヘキサメチレンビグアニド、クロルヘキシジン等が挙げられる。これらの防腐剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、乾燥亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、濃縮混合トコフェロール等が挙げられる。これらの抗酸化剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
溶解補助剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、グリセリン、D-ソルビトール、ブドウ糖、プロピレングリコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、D-マンニトール等が挙げられる。これらの溶解補助剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
粘稠化剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルメロースナトリウム、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらの粘稠化剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
検出剤組成物の実施形態において、組成物中の化合物(1)又はその塩の含有量は特に限定されず、例えば、99質量%以上、95質量%以上、90質量%以上、70質量%以上、50質量%以上、30質量%以上、10質量%以上、5質量%以上、1質量%以上等の条件から適宜設定できる。
【0053】
本発明によれば、有効成分である化合物(1)又はその塩を血清アルブミンと反応させることにより発光を生じさせることができる。化合物(1)又はその塩が血清アルブミンと反応させることにより発光を生じることはこれまで報告がなく、新規の知見である。ここで、非特許文献9には、下記構造を有するHuLumino 1がヒト血清アルブミンと反応して発光を生じたと記載されている:
【0054】
【化6】
【0055】
しかし、非特許文献9には、イミダゾピラノジン骨格の8位にベンジル基を有するDeepBlueC 又はBlue2.3とヒト血清アルブミンとにより生じる発光はHuLumino 1と比較して非常に弱くなったことが記載されている(非特許文献9、Figure 1. (f))。これに対し、後述する本願実施例に示すように化合物(1)はイミダゾピラノジン骨格のC-8位置に置換基を有するが、血清アルブミンを反応して発光を発することができる。従って、本発明の効果は、先行技術から予想し得ないものである。また、HuLumino 1は、イミダゾピラノジン骨格の8位に置換基を有さないという構造上の特徴に起因して、化学的に不安定になり自ら自家発光(分解)してしまう(非特許文献10)。これに対し、本発明の有効成分である化合物(1)はイミダゾピラノジン骨格の8位に置換基を有するため、化学的安定性に優れるという利点も有する。本発明において、化合物(1)は、イミダゾピラノジン骨格の8位に置換基を有することから化学的安定性に優れる一方で、反応性は十分に有しており、血清アルブミンを検出するのに十分な発光を生じさせる。かかる安定性と発光との両立ができることは従来技術から予想し得ないものである。
【0056】
さらに、前述したように、化合物(1)又はその塩は、ウシアルブミンに対し発光を示し、なかでも一般式(1)においてmが0であり、Rで示されるアリール基又は不飽和複素環基(好ましくはアリール基)が置換基を有さない場合、化合物(1)又はその塩は、血清アルブミンのうち特にウシアルブミンを高い感度で検出することができる。これに対し、非特許文献9には、HuLumino 1をウシアルブミンに添加しても発光を発しなかったと記載されている(非特許文献9、2683頁、左欄、13~18行目)。従って、化合物(1)又はその塩を用いる本発明の効果は上記の点からも予想しないものであり、さらに一般式(1)においてRで示されるアリール基又は不飽和複素環基(好ましくはアリール基)が置換基を有さない化合物又はその塩を用いる実施形態により得られる効果は、特に予想し得ないものである。
【0057】
化合物又はその塩
本発明の血清アルブミンの検出剤の有効成分である化合物(1)又はその塩のうち、下記一般式(1’)で表される化合物又はその塩は、新規化合物である。従って、一実施形態において、本発明は、一般式(1’)
【化7】
[式中、Rは置換基を有していてもよいアリール基又は不飽和複素環基を示す。Rは置換基を有していてもよいアリール基を示す。Rは置換基を有するアリール基を示す。lは0又は1を示す。]
で表される化合物又はその塩を提供する。本明細書において、一般式(1’)で表される化合物を単に化合物(1’)と示すこともある。同様に、一般式(2’)で表される化合物を化合物(2’)と示すこともある。
一般式(1’)における各置換基の好ましい種類、数等は前述と同様である。また、本発明において、化合物(1’)又はその塩のうち、化合物(2’)又はその塩が好ましい:
【化8】
[式中、Rは水酸基、チオール基、ヒドロキシアルキル基又はメルカプトアルキル基である。Rが複数存在する場合、当該Rは同一でも異なってもよい。Rはハロゲン、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基又はアルキルアミノ基である。Rが複数存在する場合、当該Rは同一でも異なってもよい。Rは水酸基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基又はアルキルアミノ基である。Rが複数存在する場合、当該Rは同一でも異なってもよい。mは0又は1を示す。nは0~2の整数を示す。pは0~2の整数を示す。qは1~2の整数を示す。]
一般式(2’)において、Rは水酸基又はヒドロキシアルキル基が好ましく、水酸基がより好ましい。Rは水酸基又はヒドロキシアルキル基が好ましく、水酸基がより好ましい。Rは水酸基又はヒドロキシアルキル基が好ましく、水酸基がより好ましい。nは0又は1が好ましい。pは0又は1が好ましく、0がより好ましい。qは1が好ましい。
【0058】
化合物(1’)は、種々の方法により製造され得るが、例えば下記反応式で示される方法により製造される。:
【0059】
反応式-1
【化9】
【0060】
[式中、R、R、R、及びlは前述の通り。R’は、置換基を有してもよいアリール基であって、アリール基が置換基を有する場合、当該置換基の一部(例えば、1又は2個)又は全てが保護基で保護されてなる基を示す。Xはハロゲンを示す。]
上記反応式において、R’で示されるアリール基が置換基を有する場合、当該置換基としては、水酸基、ヒドロキシアルキル、アルコキシ、アルキルアミノ、アシルオキシ基等が挙げられる。保護基としては、アルキル基(メチル基等)、アシル基(アセチル基等)等が挙げられる。Xで示されるハロゲンとしては、臭素、塩素、フッ素、ヨウ素等が挙げられ、好ましくは臭素等が挙げられる
【0061】
反応式-1においては、まず、化合物1’と化合物2’とを反応させることにより、化合物3’を得ることができる。化合物1’と化合物2’との使用割合は特に限定されないが、例えば、前者1モルに対し後者も約1モルで使用することができる。当該反応は、鈴木・宮浦クロスカップリング(SMC)反応を利用して行うことで約8割の収率ができる。次に、化合物3’におけるR’で示されるアリール基が保護基で保護されてなる基を有する場合、脱保護をすることにより、化合物4’を得ることができる。当該反応は、三臭化ホウ素、塩酸、テトラブチルアンモニウムフルオリド、炭酸カリウム、水酸化カリウム等の存在下で行うことができる。そして、化合物4’と化合物5’とを反応させることにより、化合物(1’)を得ることができる。化合物4’と化合物5’との使用割合は特に限定されないが、例えば、前者1モルに対し後者も約1モルで使用することができる。当該反応は、塩酸等の触媒の存在下で行うことができる。
【0062】
上記反応式の各反応は、通常、反応に悪影響を及ぼさない慣用の溶媒、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、トリフルオロエタノール、エチレングリコール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、トリエチルアミン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテルジグライム、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、これらの混合溶媒等の中で行われる。また、各反応の反応温度は特に限定されず、通常、室温、冷却又は加熱下で反応が行われる。好ましくは、-78~150℃等が挙げられる。各反応の反応時間も特に限定されないが、例えば、1~30時間反応させることができる。
【0063】
また、各反応式において示された原料及び目的化合物に溶媒和物(例えば、水和物、エタノレート等)が付加された形態の化合物も、各々の一般式に含まれる。好ましい溶媒和物としては水和物が挙げられる。
【0064】
上記各反応式で得られる各々の目的化合物は、反応混合物を、例えば、冷却した後、濾過、濃縮、抽出等の単離操作によって粗反応生成物を分離し、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の通常の精製操作によって、反応混合物から単離精製することができる。化合物(1)のうち、上記化合物(1’)以外の構造を有するものについては、公知の化合物であるか、上記方法若しくは公知の方法に準じて製造することができる。
【0065】
検出方法
一実施形態において、本発明は、対象となる試料に一般式(1)で表される化合物又はその塩を添加する工程を含む、試料中の血清アルブミンの検出方法を提供する:
【0066】
【化10】
【0067】
[式中、Rは置換基を有していてもよいアリール基又は不飽和複素環基を示す。-R-は-S-、-CH-、-CH=CH-又は-C≡C-を示す。Rは置換基を有していてもよいアリール基を示す。Rは置換基を有するアリール基を示す。lは0又は1を示す。mは0又は1を示す。ただし、-R-が-CH-である場合、mは1を示す。]
一般式(1)中、R、R、R、l、mの好ましい態様(アリール基、不飽和複素環基等の種類、置換基の種類、位置等)等は、「血清アルブミンの検出剤」の項で説明したものと同様である。一般式(1)中、-R-の好ましい態様等も「血清アルブミンの検出剤」の項で説明したものと同様である。
【0068】
対象となる試料としては、血液(全血、血漿、血清等)、尿、汗、糞便等が挙げられる。また、試料としては脊椎動物に由来するものが挙げられ、例えば、哺乳動物(ヒト、ウシ、マウス、ラット、サル、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ウマ、ヒト等が挙げられ、ヒト、ウシ、マウス等が好ましく、ヒト、ウシ等がより好ましい)及び非哺乳動物(例えば、魚類、鳥類、両生類、爬虫類等)に由来するものが挙げられる。これらの対象となる試料は、上記試料に対し、希釈、遠心分離、ろ過、透析、pH調整等により前処理をしたものであってもよい。
【0069】
化合物(1)又はその塩の添加量は、最終濃度として、フリーの化合物(1)換算で、例えば、2~500 μM、好ましくは2~100 μM、より好ましくは20~50 μMとなるように試料に添加することができる。上記工程における温度は特に限定されず、通常、室温、冷却又は加熱下で行われる。好ましくは、20~37℃等が挙げられる。
【0070】
本実施形態において本発明の方法は、さらに発光を掲出する工程を含んでもよい。当該工程には、自体公知の発光検出器を適宜使用することができる。本実施形態において本発明の方法は、試料に化合物(1)又はその塩を添加した後、上記発光測定の前に、試料と化合物(1)又はその塩との混合物を放置する工程を行ってもよいが、最小限に留めた方が好ましい。当該実施形態において、放置する時間も特に限定されないが、例えば、即時(0分)~1分の範囲で適宜設定できる。また、前述したように、本発明によれば、発光のピーク波長の違いを利用して、アルブミンの由来(ヒト由来、ウシ由来等)も測定することができる。また、本発明によれば、試料中のアルブミンの含有量を定量的に測定することもできる。そして、アルブミンは時間の経過とともに生体試料中で沈降していくため、アルブミンの濃度測定をすることにより、当該アルブミンが作られてからどのくらいの時間が経過したかを推定もし得る。
【0071】
以下に実施例を用いて本発明の特定の実施形態をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【実施例0072】
実施例1
1. 試薬および試料
以下の血清タンパク質は、和光純薬株式会社(大阪、日本)から入手した。ヒト血清アルブミン(HSA)。ウシ血清アルブミン(BSA); ヒト免疫グロブリン (HIgG); ヒトγ-グロブリン(HγG); ヒトトランスフェリン(HTF); ヒトフィブリノーゲン(HFG); 大豆トリプシン阻害剤(STI)。以下の血清タンパク質は、Jackson Immuno Research社(米国ペンシルバニア州ウェストグローブ)から購入した:ウシ免疫グロブリン(BIgG)およびウシγ-グロブリン(BγG)。一方、オボアルブミン(OVA)とヒトフィブロネクチン(HFN)は、それぞれMP Biomedicals 社(米国カリフォルニア州サンタアナ) と CORNING (米国ニューヨーク州コーニング)から入手した。天然セレンテラジン(nCTZ)はNanoLights社 (米国アリゾナ州パイントップ)から購入した。CTZ類似体であるK6、S5、および S6は、非特許文献12、13の記載に基づき合成した。
【0073】
【化11】
【0074】
2. 血清アルブミンの選択的イメージングのための新しいCTZインジケーターS5hおよびS6hの合成
CTZインジケーター、S5hおよびS6hは、非特許文献12、13を参照して、次のスキームに従って合成された。
【0075】
【化12】
【0076】
化合物2は、市販の2-アミノ-5-ブロモアミノピラジン1と市販のフェニルボロン酸およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)との鈴木・宮浦クロスカップリング反応によって合成した。さらに、化合物2と市販のN-ブロモスクシンイミドを用いて臭素化を行い、化合物3を合成した。ベンゼンチオールまたは水素化ナトリウムとの4-フルオロベンゼンチオール置換反応を使用して、化合物3から化合物4および5を合成した。次いで、化合物4および5を三臭化ホウ素で脱メチル化し、化合物6および7を得た。最後に、化合物6および7とケトアセタール誘導体12を塩酸条件下で縮合および環化した。合成されたCTZインジケーターをS5hおよびS6hと名付けた。各工程の反応条件は以下の通り:
a:テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、1,4-ジオキサン、2 M Na2CO3水溶液、110 ℃。b: N-ブロモスクシンイミド、クロロホルム、室温 c: 水素化ナトリウム、N,N-ジメチルホルムアミド、0 ~ 110 ℃。 d: 三臭化ホウ素、クロロホルム、-80 ℃~室温 e: 12 M HCl水溶液、イータ、60℃。 f: 塩化チオニル、ジクロロメタン、0℃。 g: 1) Mg、1,2-ジブロモエタン、ジエトキシ酢酸エチル、テトラヒドロフラン、室温。 0 ~ -80 ℃まで還流する。 2)パラジウム活性炭、メタノール、水素、室温 h: ジエトキシ酢酸エチル、テトラヒドロフラン、-80℃。
【0077】
3. 当該CTZインジケーターを用いた血清タンパク質の特異的な発光可視化
各血清蛋白質溶液は、原液ストックをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で1 mg/mLまでに希釈することによって事前に調製した。次に、各血清蛋白質溶液を20μLずつ96ウェル ブラックフレーム マイクロプレート(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA、USA)の各ウェルに分注した。蛋白質溶液ごとに計4つのウェルを使った(n=4)。
【0078】
別途、nCTZおよびその類似体(CTZインジケーター)を最初にメタノールで溶解し、さらにPBSで100μMまでに希釈し、一連のCTZインジケーター溶液を調整した。マルチチャンネルマイクロピペット(Gilson、米国ウィスコンシン州ミドルトン)を使用して、40μLのCTZインジケーター溶液をマイクロプレートの各ウェルに同時に注入した。マイクロプレートからの発光強度は、IVIS Spectrumイメージングシステム(PerkinElmer、MA、USA)で直ちに測定され(図 1)、Living Image バージョン4.7ソフトウェアより分析した。
4. 一部のCTZインジケーターは、特定のアルブミンに対して特異的な発光強度を示す
CTZインジケーターを用いて、主要血清タンパク質との発光反応性を測定した (図 1)。まず、CTZインジケーターの蛋白質特異性を明らかにするために、血清中の存在量を基準に次のテスト候補となる血清タンパク質を選択した:(i)血清中に最も豊富なタンパク質(35,000~52,000 mg/L)としてヒト、ウシ、および卵のアルブミン(HAS、BSA、およびOVA) ;(ii) 血清タンパク質の中で2番目に多い存在量(7,000~16,000 mg/L) を示すものとしてHIgG および BIgG;(iii)血清タンパク質の中で3番目に豊富な蛋白質であるHTF(2,000~3,600 mg/mL)。更に、(iv) 本テストでHγGおよびBγGが選択された理由は、IgA、IgM、および IgY に分類されるγグロブリンが血清タンパク質の中で4番目に豊富であるからである(たとえば、IgAの場合は700~4,000 mg/mL);(v) HFGは血清中で6番目に豊富なタンパク質であるため、これも選んだ。一方、(vi) STIとHFNを選んだ理由は、これらがそれぞれ血清中に19番目と26番目に豊富であるものの、それぞれ成長遅延、消化器疾患、代謝疾患やヒトの感染症の重要な指標であるからである。
【0079】
図1の結果によると、nCTZで試験した場合、すべての血清タンパク質と反応性を示さなかった。 しかし、その他のCTZインジケーター、即ちK6、S5、S5h、S6、およびS6hは、興味深いことに、HSAとBSAの両方に対してかなりの強度の発光を発することが分かった。このうち、S6hはとりわけBSAと特異的に反応し、HSA(約12%)よりBSAに対して8.3 倍強い発光強度を示した。この「S6h-BSAの組み合わせ」の絶対強度は、他の組み合わせよりも少なくとも8倍優れていた。一方、S6はとりわけHSAと選択的に反応し、その程度はBSA(約17%)よりもHSAに対して5.9倍強い発光強度を示した。同様に、S5hはHSAに比べてBSAとの反応性が高かったのに対し、S5はBSAよりもHSAに対して選択的に発光した。一方、テストされたすべてのCTZインジケーターは、OVAおよび他の血清タンパク質とは強い反応性を示さなかった。前述した各CTZインジケーターの特異性プロファイルを検討すると、「S5およびS6」と「S5hおよびS6h」とは選択性に大きく変わることが分かった。この2つのグループの唯一の違いは「ヒドロキシ(OH)基」であることを考慮すると、CTZインジケーターのC-2位のヒドロキシ基(OH)が血清アルブミンに対する特異性の決定要素であることを表す。また、S5hとS6hの構造を比較すると、S5hとS6hの唯一の違いはC-8位置のフルオロ(F)残基の有無であることがわかる。これは、C-8位のフルオロ(F)基が特異性を強めていることを表す。
【0080】
5. CTZインジケーターのK6とS5hは、血清蛋白質のSTIとHFNに対して特異的な発光を示す
CTZインジケーターのアルブミン以外の血清蛋白質への選択性を調べた(図2)。
【0081】
この実験のために、図1で示した手順と同じ方法で血清蛋白質とCTZインジケーターを希釈し用意した。また、図1で示した手順と同じ方法で血清蛋白質とCTZインジケーターを反応させ、その結果となる発光イメージをIVIS Spectrumイメージングシステム(PerkinElmer、MA、USA)で直ちに測定し、Living Image バージョン4.7ソフトウェアより分析した。
【0082】
その結果、nCTZは試した蛋白質の何れにも発光反応を示さなかった。一方、K6は大豆トリプシンインヒビター(STI)に特異的に発光した。その輝度は絶対値で5.1 x 104 p/s/cm2/srであった。K6は他の血清蛋白質に対しては、バックグラウンドレベルの発光輝度しか示さなかった。継続してS5とS5hを用いて測定を行ったところ、S5は何れの血清蛋白質と反応しなかったが、S5hはヒトフィブロネクチン(HFN)に選択的に発光した。その輝度は絶対値で4.0 x 104 p/s/cm2/srであった。
【0083】
これらの結果は、K6とS5hインジケーターがそれぞれSTIとHFNの特異的な発光試薬として用いられることを意味する。STIとHFNの血清中の蛋白質としての割合は、それぞれ19番目と26番目にであるが、それぞれ成長遅延、消化器疾患、代謝疾患やヒトの感染症の重要な指標であることから、これらの血清蛋白質のアッセイができるのは、前述病気の診断に本手法が用いられることを意味する。
【0084】
6. 血清アルブミンに応じたCTZインジケーターの発光スペクトルの変動
CTZインジケーターの発光スペクトルを、血清アルブミンの共存下で測定した (図3)。HSAおよびBSA溶液は、まず、PBSで10 mg/mLまで溶解して調製した。その後、50μLの溶液を200μL容量のPCRチューブに分注した。別途、各CTZインジケーターをメタノールでまず溶解し、さらにPBSより100μMになるように希釈した。
【0085】
測定では、50μLのCTZインジケーター溶液を各PCRチューブに注入し、直ちに「可視領域と近赤外領域のすべての波長を同時に測定する精密分光光度計 (AB-1850、ATTO、東京、日本)」で直ちに発光スペクトルを測定した。積算時間は5分であった。
【0086】
図3(A)では、S6hが血清アルブミンの種類(HSAかBSAか)に応じて2つの異なる色を示したので、HSAとBSAの混合比を変えながら各スペクトルを測定した(図3(B))。
【0087】
HSAおよびBSAをPBSでそれぞれ5mg/mLおよび0.2 mg/mLになるように希釈した。これらの初期HSA溶液と初期BSA溶液をそれぞれ次の割合で混合した溶液を作った: 100:0、80:20、60:40、40:60、20:80、および 0:100。各アルブミン混合物50μLを200μL容量のPCRチューブに入れた。また別途、S6hインジケーターを最初にメタノールで溶解し、さらにPBSで100μMになるように希釈した。このインジケーター溶液を50μLずつPCRチューブに分注し、それぞれの発光スペクトルを精密分光光度計で測定した。積分時間は5分であった。
【0088】
7. CTZインジケーターはBSAかHSAかによって異なる発光色のスペクトルを示した
CTZインジケーターの発光スペクトルは、BSAかHSAかによって絶対輝度とピークの高さがそれぞれ異なっていた(図2)。最も高いピーク高さは「S6h-HSAの組み合わせ」で得られ、次に「S6h-BSAの組み合わせ」で得られました(図3(A))。S6hの色は、HSAでは480 nm位置にピークを持つ青色、BSAに対しては 535 nmにピークを有する黄緑色であった。ピーク間のギャップは約55 nmであった。
【0089】
一方、S6インジケーターは、HSAおよびBSAと発光反応を起こした場合、顕著な色の変化は示さなかった。HSAとBSAの色は通常の緑色であり、それぞれ約490 nmと510 nmにそれぞれピークを示した。また、S5hインジケーター共存下でHSAとBSAのスペクトルのピーク間には30 nmのギャップがあり、この数値は測定した中で2番目に大きなギャップであった。すべてのSシリーズCTZインジケーターは一般に、HSAとBSAでそれぞれ短波長と長波長のピークを示した。ただし、この特徴は K6と一致し、HSAではより長い波長(535 nm)、BSAではより短い波長でピーク(515 nm)の発光スペクトルを示した。
【0090】
HSAおよびBSAによるS6hの劇的な色の変化にヒントを得て、S6hのスペクトルピークがHSA溶液とBSA溶液の混合比に従って変化するかどうかを調べた(図3(B))。
【0091】
結果は、BSAの比率が増加することにより、当初480 nmでのS6hのピーク(100% HASのこと)が徐々に長波長側(最大シフト位置:535 nm)にシフトすることが確認された。最も赤波長のピークは100% BSA溶液で得られ、スペクトル内の600 nmより長い赤色部分の割合は総面積の21%であった。430 nmと600 nmの位置で切片をとった場合、430 nm切片位置の切片の高さ(輝度)は混合溶液中のBSAの割合を増やすことで徐々に減少し、最終的には初期強度の42%を失う結果になった。一方、600 nm切片位置での強度は、混合溶液中のBSA部分が増えることにより最大26%まで増加した(図3(B) 挿入図a)。
【0092】
この青から赤側へのピークシフトは、BSAとの反応時のS6h中間体のエネルギーレベルの違いにより説明できる。nCTZは、発光反応中、CTZ基質は中性種、アミドアニオン、フェノラートアニオン、ピラジンアニオンの4つの異なるエネルギーレベルの中間体を生成し、青から緑(400~535 nm)までの幅広い発光ピークを示すことが知られている(非特許文献14)。S6hの場合、nCTZと比較して、C-8位置に硫黄(S)エルボがあるため、より長いπ共役を有する。この特徴は基本的に中間体の赤方偏移した発光に寄与したはずである。さらに、HSA-BSA比に応じたS6hの発光スペクトルの青から赤へのシフトは、HSAとBSAによって生成される主要な中間体が基本的に異なることを意味する。つまり、それぞれアミドアニオンとフェノラートアニオンであるか、またはそれぞれフェノラートアニオンとピラジンアニオンである。HSAとBSAの活性部位内の酵素特性の違いにより、S6hは2つの異なる主要な中間体を生成するものと解析される。
【0093】
8. 血清アルブミンに応じたCTZインジケーターの速度定数の決定
前述のアルブミン特異的CTZインジケーターの代表的な速度定数を決定するために、HSAまたは BSAの存在下で発光実験を行った(図4)。
【0094】
まず、CTZ基質(即ち、nCTZ、K6、S5、S5h、S6、およびS6h)を最初にメタノールで溶解し、さらに PBSより0、2、5、10、20、30、50、および100μMになるように希釈した。40μLの基質溶液を、96ウェルブラックフレームマイクロプレート(Thermo Fisher Scientific)の各ウェルに配置した。次いで、マイクロプレートをマイクロプレートリーダー(TriStar2 S LB 942、Berthold、Germany)にロードした。
【0095】
別途、HSAおよびBSAをPBSでそれぞれ1.0 mg/mLになるように希釈した。このアルブミン溶液をマイクロプレートリーダーのインジェクターにプライムした。測定時に、マイクロプレートの各ウェルにアルブミン溶液を40μLずつプログラムより自動注入した後、対応する発光強度を0.1秒の積分および20ポイント取得モードで直ちに測定した。速度定数は、Prismバージョン9 (GraphPad、ボストン、マサチューセッツ州、米国)を使用して計算した。
【0096】
9. S6がHSAに特異的であり、BSAがS6hに最も明るい理由を動力学実験により説明できた。
【0097】
CTZインジケーターの酵素性能を、速度定数の観点から検証した(図4)。ミカエリス・メンテン定数(Km)の最低値は「S6-HSAの組み合わせ」の場合22.1 μM であり、次に「S5h-HSA の組み合わせ」の場合には 23.7 μMであった。これらの値は、S6およびS5h基質が他の基質と比べてHSAと最も強い結合親和性を持つことを示す。代謝回転率(Kcat)と最大速度(Vmax)は、「K6とHSAの組み合わせ」が最大であり、それぞれ7.64 s-1と2.8 x 1015 s-1 であった。対照的に、「K6とHSAの組み合わせ」のKm値は、テストした中で最も低かった。また「K6とHASの 組み合わせ」の触媒効率は1.2 x 10-2 μM-1s-1であり、「S6とHASの 組み合わせ」の触媒効率 3.5 x 10-2 μM-1s-1よりも低かった。「S6とHSAの組み合わせ」と 「S6とBSA の組み合わせ」を比較すると、「S6-HSAの組み合わせ」の触媒効率(3.5 x 10-2 μM-1s-1)は、「S6-BSAの組み合わせ」の場合(2.3 x 10-3 μM-1s-1)より15倍以上大きい。触媒効率におけるこの大きな違いは、主にKcat値の違い、つまり0.78 s-1対0.11 s-1によって引き起こされるものであった。この比較は、S6がBSAよりもHASに非常に特異的な反応を裏付けるものである。図1に示すように、「S6h-BSAの組み合わせ」は最も高い輝度を示した。その理由は、「S6h-BSAの組み合わせ」の最大Kcat値1.66 x s-1がそれを説明している。これは、「S6-BSAの組み合わせ」の約15倍である。またこの高い代謝回転率(Kcat)の高さは、BSAが他の基質に比べてS6h基質を急速に消費することを意味する。興味深いことに、HSAは1秒あたりのS6h消費量がBSAよりも少なく、0.65 s-1であった。この比較は、十分な量のS6hが供給された場合、「S6h-BSAペア」が他のペアよりも明るいことを説明する。
【0098】
10.有望なCTZインジケーターにおける血清アルブミンに対する広範囲の検量線の決定
有望なCTZインジケーターの広範囲の血清アルブミンの濃度に対する検量線を測定した(図5)。
【0099】
HSA、BSA、およびOVA溶液を最初にPBSより10 mg/mLになるように溶解した。このストック溶液をさらに次の濃度になるようにPBSより連続的に希釈した: 0、0.01、0.02、0.05、0.1、0.2、0.5、1 mg/mL。各濃度の希釈液40 μLを、9ウェル ブラックフレーム マイクロプレート(Thermo Fisher Scientific)の各ウェルに順番に配置した。別途、nCTZに加え、他のCTZインジケーターであるK6、S6、およびS6hをそれぞれメタノールで溶解し、さらにPBSで20μMになるように希釈した。各ウェルあたり40 μLのCTZインジケーター溶液をそれぞれのマイクロプレートのウェルに12チャンネル マイクロピペットを使用して同時に注入した。マイクロプレートからの発光強度を、IVIS Spectrumイメージングシステムより直ちに測定し、Living Imageバージョン 4.7ソフトウェアで分析した。
11. 前述の広範囲検量線曲線は、アルブミン特異性とアルブミンレベルに応じたCTZインジケーターの発光強度を表した。
選ばれたCTZインジケーターの広範囲の検量線曲線を得るために、血清アルブミンの濃度を変えながら発光測定を行った(図5)。HSA濃度を増しても、nCTZは発光強度の有意な上昇を示さなかった(図5(A))。しかし、K6、S6、および S6hは、アルブミン濃度依存的に発光強度を急速に増強させた。K6、S6、および S6h は一般にHSAレベルを増すことにより発光強度の上昇を齎したが、S6hはとりわけHSAの低濃度範囲(0~0.2 mg/mL)で最も急激な発光増強を齎した。BSAレベルを増すことにより、S6hはなにより強い発光強度を放した。例えば、このS6hの輝度は、2番目に明るかった「K6-BSAの組み合わせ」と比べても、0.2 mg/mLのBSAポイントで21倍明るい発光であった。発光強度は、BSA濃度が0.5~1.0 mg/mLの範囲で低下する。これらの発光強度の低下は、図4(C)に示したように、S6h存在下でBSAの急速なターンオーバー速度によるものと説明できる。「S6h-BSAペア」の最も速いKcat値を考慮すると、高濃度範囲での発光強度の低下は、BSAがS6hインジケーター(基質)をすべて消費してしまい、測定時にはすでに暗くなったせいだと解析される。OVA濃度を増加させた場合、そのテストされた濃度範囲(0~1.0 mg/mL)において、どのCTZインジケーターとも発光強度を示さなかった。
【0100】
S6およびS6hの血清アルブミン特異性を図5(B)にまとめた。「S6h-BSAペア」は、血清アルブミン濃度0.2 mg/mLの地点において、「S6h-HSAペア」よりも5.3倍強い発光強度を示した。CTZインジケーターのこれらのアルブミン特異性は、図 4(C)で視覚的イメージからでも確認できた。
【0101】
12. HSAとBSAの酵素活性部位に対するCTZインジケーターと阻害剤との間の競合反応に関する検討
HSAおよびBSAの酵素活性部位を特定するために、CTZインジケーターと特定阻害剤との競合反応に関する検討を行った(図6)。
【0102】
まず、脂肪酸を含まないHSAおよびBSA溶液を、PBSで1.0 mg/mLになるように希釈し調製した。次に、アルブミンのDBS Iをブロックするために、40μLのHSAおよびBSA溶液を、0、1、5、10、20、40、80、または100μMのワルファリンと事前に混合した。またはアルブミンのDBS IIをブロックするために同じ濃度スケールのイブプロフェン20μLと事前混合した。次に、プレ混合物を96ウェル ブラックフレーム マイクロプレート(Thermo Fisher Scientific)の各ウェルに順番に事前に入れておいた後、12チャンネルマイクロピペットを使用して50μMのS6またはS6h溶液を各ウェルに40μLずつ同時に院ジェクトし、その結果となる発光画像をIVIS Spectrumイメージング システムより測定し、Living Image バージョン4.7 ソフトウェアで分析した。
【0103】
更に、基質S6hによるイブプロフェンの競合阻害を調べるために Lineweaver-Burk分析により前述発光反応の詳細を調べた(図6(C))。S6hインジケーターを最初にメタノールに溶解し、PBSで20、40、50、80、および100μMになるように希釈した。次に40μLの各S6h溶液を20μLの0、10、または50μMのイブプロフェン溶液と事前に混合した。この混合物を96ウェル ブラックフレーム マイクロプレートに順番にセットした。別途、BSAをPBSで100μg/mLになるように溶解した。次に、12チャンネルマイクロピペットを用いて、1ウェルあたり40μLのBSA溶液をマイクロプレートの各ウェルに同時に注入した。発光画像はIVIS Spectrum イメージング システムより測定し、Living Image バージョン4.7ソフトウェアで分析した。
13. HSAおよびBSAに対して、CTZインジケーターと阻害剤は競合反応を示す
血清アルブミンには複数の薬物結合部位があることが知られている。この研究では、これら結合部位に対するCTZインジケーターの阻害剤との競合反応を調べた(図 6)。
【0104】
阻害剤のワルファリンとイブプロフェンはそれぞれ血清アルブミンのDBS IとIIをブロックすることが知られているため、一定量のHSAまたは BSAに対して0~100μMの範囲のさまざまな量の阻害剤で前処理した。次に、この混合物にCTZインジケーターを同時に注入し、そこから出る発光強度を測定した。
【0105】
図6(A)での競合反応では、「S6h-BSAペア」によって発する発光強度がイブプロフェンによって最大71%まで阻害されるのに対し、他のペアの発光強度はイブプロフェンやワルファリンによって有意に阻害されないことが分かった。これらの結果は、BSAのDBS IIがS6hの発光反応部位であると解釈される。一方、「S6h-HSAペア」はイブプロフェンによって最大28%まで部分的に阻害されたが、同じペアはワルファリンによっては影響を受けなかった(図6(B))。この結果は、HSAのDBS IIが部分的なS6hの発光反応部位であるが、DBS Iは S6hの結合に関係していないことを意味する。一方、「S6-HSAペア」は、イブプロフェンとワルファリンの両方によって、それぞれ最大31%と最大47%阻害された。これらの結果は、HSAのDBS IおよびIIの両方がS6と相互作用するが、DBS Iの方がS6に結合する割合が高いことを示す。S6h-BSA間の相互作用に対するイブプロフェンの効果的な阻害効果に着目し、このS6h-BSA間の相互作用に対するイブプロフェンの阻害効果をLineweaver-Burk解析によりさらに確認した(図6(C))。
【0106】
その結果、イブプロフェン濃度が高くなると、1/[S6h]のプロットの傾きが上昇することが分かった。それらの相関係数は約0.912~0.975範囲であることが分かった。Lineweaver-Burkプロットにおける、3つのフィッティング ラインがX軸上の異なる負の値(-1/Kmを意味する)で交差していることも分かった。次に、イブプロフェンの量を増やすことによって、Yセクションの点(1/Vmax値を意味する)が上昇した。この結果は、BSA部位に対するS6hとイブプロフェンの間の競合モードが「混合阻害」であることを裏付けている。これは、BSAの結合部位がS6hおよびイブプロフェンの両方と同時に相互作用できることを示す。最初のリガンドに結合したBSAが2番目のリガンドとも反応性を有することを示唆する。S6hとイブプロフェンの競合に関するこの結果は、西原らによる最近の研究で示されたような「CTZインジケーターであるHuLumino1がHSAのDBS IIに対してイブプロフェンと「競合阻害」する」という結論とは若干違いがある(非特許文献9)。
【0107】
これらの結果と参考文献を組み合わせると、次のように結論に至る;(i) BSAのリガンド結合反応は予想より複雑であり、これは単に「競合阻害」と解釈されるべきではなく、「非競合的」または「半混合阻害」モードである可能性もある。また(ii) BSAの最初のリガンド結合は、BSAの2番目のリガンド結合に何らかの影響を与える可能性があることにも注意する必要がある。これは、リガンドとBSAの前処理の順序によっても異なる結果が生じる可能性を示唆する。
【0108】
14. S6hインジケーターによる実のウシ胎児血清の定量測定
S6hインジケーターのBSA特異性を利用して、実のウシ胎児血清(FBS)の定量測定に応用した(図7)。最初に、FBS原液をPBSで次の割合に希釈した: 0、0.005、0.01、0.05、0.1、0.5、1、5、および 10%。次に96ウェル ブラックフレーム マイクロプレート(Thermo Fisher Scientific)に、1ウェルあたり40μLの前述希釈溶液を予め分注した。別途、S6およびS6h溶液をPBSで100μMになるように希釈した。次いで、12チャンネルマイクロピペットを使用して、ウェル当たり40μLの基質溶液をマイクロプレートに同時に注入し、その結果となる発光画像を IVIS Spectrumイメージングシステムで取得し、Living Imageバージョン4.7 ソフトウェアで分析した。
【0109】
15. 実のウシ胎児血清中のアルブミンは、CTZンジケーターで測定できる
最後に、CTZインジケーターの有用性を検証するために、実際のFBSを定量イメージングした(図7)。その結果、S6hはFBSの0.1%ポイント地点から発光強度を有意に上昇させたが、S6はFBSの約1%ポイントから有意義な上昇を開始した。次に、S6hは0.5~10% FBSの範囲で発光強度を急速に上昇させ、その最大発光強度は5% FBS付近で観察された。FBSの5%ポイント位置におけるS6hの発光強度は、S6よりも16倍大きかった。この大きなS/B比は、S6hがBSAを識別するための実用的かつ効率的な発光インジケーターであることを証明している。これらの結果は、血清の主要なタンパク質がアルブミンであることを考慮すると、法医学分野における血液中のアルブミンの起源と濃度測定に、このインジケーターが用いられることを示唆する。即ち、多くの法医学的調査において非常に重要な問題である死後時間の推定に適用できる。この死後時間の推定が可能な理由は、人の死亡後の血中のアルブミン濃度が2時間から72時間まで直線的に減少するためである(非特許文献3])。アルブミンアッセイは、血中アルブミンの濃度が肝臓病、心不全、栄養失調、ビタミン欠乏症、炎症性腸疾患、腎臓病など、多くのアルブミン関連疾患の指標となるため重要である。
【0110】
16. 新たなCTZインジケーターの11、12、13を用いたBSAとHSAの発光定量可視化について
更に、下記化合物11、12、13を用いたHSAやBSAの発光測定を実施した(図8)。
【0111】
【化13】
【0112】
まず、BSAとHSA溶液を調製するために、原液ストックをPBSで1 mg/mLまでに希釈した。次に、各血清蛋白質溶液を20μLずつ96ウェル ブラックフレーム マイクロプレートの各ウェルに分注した。蛋白質溶液ごとに計4つのウェルを使った(n=4)。
【0113】
別途、CTZインジケーターのnCTZ、K6、11、12、13を最初にメタノールで溶解し、さらにPBSで100μMまでに希釈する形で、一連のCTZインジケーター溶液を調整した。マルチチャンネルマイクロピペット(Gilson、米国ウィスコンシン州ミドルトン)を使用して、40μLのCTZインジケーター溶液をマイクロプレートの各ウェルに同時に注入した。マイクロプレートからの発光強度は、IVIS Spectrumイメージングシステム(PerkinElmer、MA、USA)で直ちに測定され(図 1)、Living Image バージョン4.7ソフトウェアより分析した。
【0114】
その結果、何れのCTZインジケーターもネガコンのPBSに対しては発光輝度を示さなかった。一方、CTZインジケーターの11、12、13は、HSAに選択的に発光しており、とりわけCTZインジケーターの13は最も高いシグナル対バックグラウンド比(S/B比)と輝度を示した。そのS/B比の例として、ネガコンのPBSに比べて、1 mg/mL HSAに対して41倍のS/B比を示した。同様にCTZインジケーターの12は、同じ条件で255倍のS/B比を示した。また、アルブミン同士間の選択性においてもCTZインジケーターの11、12、13は優れたHSA選択性を示した。例えば、CTZインジケーターの11、12、13は1 mg/mLのBSAと比べて、同じ濃度のHSAに対してそれぞれ3倍、6倍、9倍のS/B比を示した。一方、その対象群となる、従来CTZインジケーターのnCTZやK6は、それぞれ0.3と1.8倍のS/B比しか示さなかった。
【0115】
これらの実験結果は、CTZインジケーターの11、12、13がHSAに選択的に反応するものであり、その発光輝度も十分強いことを示している結果であった。
【0116】
16. 新たなCTZインジケーター、11, 12, 13、による発光スペクトル
CTZインジケーター、11、12、13、K6がBSAやHSAと反応する際の発光スペクトルを測定した(図9)。この実験のために、まずHSAおよびBSA溶液は、PBSより10 mg/mLになるように溶解して調製した。その後、50μLの溶液を200μL容量のPCRチューブに分注した。別途、各CTZインジケーターの11、12、13、K6をメタノールに溶解し、さらにPBSより100μMになるように希釈した。
【0117】
測定時には、50μLのCTZインジケーター溶液を前述のPCRチューブに入れてから、直ちに「全波長を同時に測定する精密分光光度計 (AB-1850、ATTO、東京、日本)」で直ちに発光スペクトルを測定した。積算時間は4分であった。
【0118】
その結果、CTZインジケーターの12が最も短波長の発光色(青色、455 nmピーク)を示した。一方、CTZインジケーターの13は最も長波長シフトした発光色(黄色、560 nmピーク)を示した。ところが、面白いことにCTZインジケーターの11は、前述した2つの発光色(青色と黄色)を同時に発していることを発見した。参考として測定したCTZインジケーターのK6の場合、540 nm当たりの黄緑色の発光を放った。
これらの発光スペクトルはいずれもHSAに特異的に光る発光であった。同時に測定したBSAと反応した場合における発光スペクトルは観測できなかった。この結果は、CTZインジケーターの11、12、13がHSAに選択的であることを裏付ける結果である。
【0119】
また、本発明で開発したCTZインジケーター類(K6, S5, S5h, S6)が持つアルブミンとの特異的な発光反応性を更に測定した(図10)。
この実施例のために、前の実施例で用いたアルブミン類(HSA、BSA、OVA)に加え、マウスの血清アルブミン(mouse serum albumin; MSA)も入れた4種類のアルブミンに対して、本発明で開発したCTZインジケーター類(K6, S5, S5h, S6)の反応性を検証した。
この実験を行うために、まず各アルブミンを純水に溶かし10 mg/mL溶液を調製した。このアルブミン溶液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)より10倍希釈して、それぞれ最終濃度が1 mg/mLであるアルブミン溶液を調製した。一方、本発明のCTZインジケーターのK6, S5, S5h, S6は、最初にメタノールで溶解し、さらに最終濃度100 μMになるようにPBSより希釈した。
次に96穴ブラックフレーム マイクロプレートに、予め調整しておいたアルブミン溶液を各ウェルに30 μLずつ分注した。一方、予め調整しておいたCTZインジケーター溶液は、それぞれ別のマイクロプレートの各ウェルに準備しておいた。
発光測定時に、前述のアルブミンの入った96穴ブラックフレーム マイクロプレートの各ウェルごとに、12チャンネルマイクロピペットを用いて、CTZインジケーター溶液を30 μLずつ同時にインジェクトした。その後、マイクロプレートからの発光強度は、IVIS Spectrumイメージングシステム(PerkinElmer、MA、USA)で直ちに測定され(図 1)、Living Image バージョン4.7ソフトウェアより分析した。
【0120】
その結果、HSAに対しては、K6>S6>S5>S5hの順番で発光強度が強かった。一方、BSAに対しては、K6とS6hが強く発光した(図10(A))。OVAに対しては、S6が僅かに光を出した。最後にMSAに対してはK6が最も明るく光り、S6がその次に明るく光った。しかしS5hはMSAに対して僅かに光を出した。これらの結果を定量値として示したのが図10(B)である。これらの結果は、今回調べたCTZインジケーターがそれぞれアルブミンに対して選択性を持つものであり、MSAのようなマウス由来の血清アルブミンやヒト・ウシ由来のアルブミンに対しても独特な選択性を持って光ることを再確認できた。
【0121】
実施例1まとめ
昨今の科学研究によると、多くの生命を脅かす疾患の予後評価における血清中のアルブミン測定の重要性が浮き彫りになっている(非特許文献1、2)。本発明は、HSAおよびBSAにより引き起こされる発光信号を高い特異性かつ比色多様性により定量的に測定する手段として「合成CTZインジケーターの開発と実証」に関するものである。その発明を完成するために、CTZインジケーターの官能基が、HSAまたはBSAと特異的に発光するように化学的な修飾を施した。CTZインジケーターがそれぞれHSAとBSAに「スウィッチ・オン」タイプの発光信号を即時に発することを証明した。血清アルブミンの起源の違いに応じて、発光色が青から黄緑に劇的に変化した。発光ピークの高さは定量的であり、HSA-BSAの混合比に比例していた。HSAおよびBSAの反応速度実験および阻害実験により、血清アルブミンがCTZインジケーターを触媒するルシフェラーゼ類事態の役割を発揮していることが確認された。最後に、CTZインジケーターの有用性が実際のFBSの定量イメージングより実証された。また、実施例の図1図5図7などの発光写真で、バックグラウンド発光がないことから明らかなように、化合物(1)又はその塩は化学的安定性も有している。
【0122】
実施例2
【0123】
1. 前述実施例1を基にした新規発光基質(CTZ誘導体)の合成
前述実施例1の結果から、発光基質のS5、S5h、S6、S6hなどがアルブミン可視化に特別な性能を示すことに着目し、これらの発光基質を基に一連の新規発光基質類を合成した。
【化14】
これらの新規発光基質類は、化学構造の類似性から1-6、P1-P6、M1-M6、O1-O6と名付けた。ここでいうP、M、Oはそれぞれパラ、メタ、オルトの頭文字を意味する。また、1と2はそれぞれ、前述実施例でS5とS5hのことであるが、後述の実施例では便宜上化合物名を1と2に変える。同様にP1とP2はそれぞれ、前述実施例ではS6とS6hのことであり、後述の実施例では便宜上化合物名をP1とP2に変えて説明する。一方、上記T1とT2は、本発明者らの以前の論文(”Luciferase-Specific Coelenterazine Analogues for Optical Contamination-Free Bioassays” Scientific Reports volume 7, Article number: 908 (2017))ではそれぞれ6piOH-CTZと6piOH-2H-CTZと名つけられた、既知の化合物である。しかし、ここでは便宜上それぞれT1とT2に再命名する。さらにTS1とTS2は、本発明で開発した新しい発光基質である。具体的には、TS1とTS2は以下の方法で合成した:
これらのCTZ類似体である「1-6、P1-P6、M1-M6、O1-O6」は、非特許文献12、13の記載に基づき合成した。また、T1、T2,TS1、TS2の合成においては、以下の手順に基づいて合成を行った。
【化15】
4a; (E)-2-(4-methoxystyryl)-4,4,5,5-tetramethyl-1,3,2-dioxaborolane
アルゴン雰囲気と0℃温度の反応条件で、2M Lithium diisopropylamide tetrahydrofuran/hexane/ethylbenzene 溶液 (3.0 mmol, 1.5 mL) を、 tetrahydrofuran (15 mL)に溶かしたbis([pinacolato]boryl)methane (3.0 mmol, 803 mg)溶液と混合して5分間撹拌した。その後、反応溶液を-78 ℃まで冷却し, tetrahydrofuran (4 mL)に溶かしたp-anisaldehyde (2.0 mmol, 243 μL)をゆっくり加え、30分間-78 ℃で撹拌した。この反応が終わった後、30 mLの純水を加えた後、その反応物をethyl acetate (3 × 100 mL)より抽出した。その有機溶媒層をanhydrous sodium sulfate条件下で揮発させた。その結果物をflash chromatography (hexane/ethyl acetate = 10/1)で分離すると無色オイル形状の4a (494 mg, 1.89 mmol, 94%)が得られた。
1H-NMR (500 MHz, Acetone-d6) δ 7.51 (td, J = 6.0, 3.4 Hz, 2H), 7.30 (d, J = 18.9 Hz, 1H), 6.94 (td, J = 5.9, 3.6 Hz, 2H), 5.98 (d, J = 18.3 Hz, 1H), 3.82 (s, 3H), 1.27 (s, 12H)
13C-NMR (126 MHz, Acetone-d6) δ 161.4, 149.7, 131.1, 129.2, 114.8, 83.7, 55.6, 25.1
HR-MALDI-MS m/z: [M+H]+ calcd for C15H22BO3, 261.16357; found, 261.16565.
【化16】
7a; (E)-3-benzyl-5-(4-methoxystyryl)pyrazin-2-amine
化合物 5a (100 mg, 0.38 mmol)と化合物4a (148 mg, 0.57 mmol) を、室温で1,4-dioxane (4 mL) に溶かした。更にこの溶液にTetrakis(triphenylphosphine)palladium(0) (21 mg, 0.02 mmol)と2M Na2CO3aq (4 mL)を加えてアルゴン雰囲気・100℃条件下で2 hours反応させた。この反応が終わった後、純水10 mLを加え、合成結果物をethyl acetate (3 × 30 mL)より抽出した。この有機溶層をanhydrous sodium sulfateより揮発させた。 その残留物をcolumn chromatography (hexane/ethyl acetate = 3/1)より分離することで黄色クリスタル形状の7a (100 mg, 0.32 mmol, 84%)を得た。
1H-NMR (500 MHz, Acetone-d6) δ 7.96 (s, 1H), 7.52 (dd, J = 11.5, 2.9 Hz, 2H), 7.43 (d, J = 16.0 Hz, 1H), 7.35 (d, J = 7.4 Hz, 2H), 7.30 (t, J = 7.4 Hz, 2H), 7.22 (t, J = 7.2 Hz, 1H), 7.04 (d, J = 16.0 Hz, 1H), 6.94 (dd, J = 12.0, 2.9 Hz, 2H), 5.53 (s, 2H), 4.15 (s, 2H), 3.82 (s, 3H)
13C-NMR (126 MHz, Acetone-d6) δ 160.4, 153.3, 141.5, 141.1, 140.2, 138.8, 131.1, 129.7, 129.3, 128.7, 128.6, 127.3, 123.9, 115.0, 55.6, 40.6
HR-MALDI-MS m/z: [M+H]+ calcd for C20H20N3O, 318.15964; found, 318.16009.
【化17】
8a; (E)-5-(4-methoxystyryl)-3-(phenylthio)pyrazin-2-amine
化合物6a (1.4 g, 4.98 mmol)と化合物4a (1.9 g, 7.47 mmol)を1,4-dioxane (40 mL)に室温で溶かした。 その溶液にTetrakis(triphenylphosphine)palladium(0) (287 mg, 0.25 mmol)と2M Na2CO3 aq (40 mL) を加え、アルゴン雰囲気・100 ℃条件下で2時間反応させた。この反応が終わった後、純水60 mLを加え、その反応物をethyl acetate (3 × 200 mL)を用いて抽出した。その有機溶媒層をanhydrous sodium sulfateより揮発させた。その残留物はcolumn chromatography (hexane/ethyl acetate = 2/1 to 1/1) より分離することで、黄色クリスタル形状の化合物8a (1.34 g, 3.99 mmol, 80%)を得た。
1H-NMR (500 MHz, Acetone-d6) δ 7.89 (s, 1H), 7.56 (dt, J = 6.5, 1.7 Hz, 2H), 7.49-7.44 (m, 3H), 7.42 (dd, J = 6.9, 1.7 Hz, 2H), 7.14 (d, J = 16.0 Hz, 1H), 6.94 (d, J = 16.0 Hz, 1H), 6.91 (dd, J = 6.6, 2.0 Hz, 2H), 5.88 (s, 1H), 3.81 (s, 3H)
13C-NMR (126 MHz, Acetone-d6) δ 160.5, 152.9, 141.8, 139.7, 138.8, 134.2, 131.6, 130.8, 130.0, 129.5, 129.1, 128.7, 122.7, 115.0, 55.6
HR-MALDI-MS m/z: [M+H]+ calcd for C19H18N3OS, 336.11611; found, 336.11651.
【化18】
9a; (E)-4-(2-(5-amino-6-benzylpyrazin-2-yl)vinyl)phenol
化合物7a (95 mg, 0.29 mmol) をdehydrated dichloromethane (7 mL) に溶かし、アルゴン雰囲気・-80 °C条件下で撹拌した。この溶液にBoron tribromide (17% in dichloromethane, 1 moL/L) (2.0 mL, 2.03 mmol) -80 °C条件で加えた。この溶液はアルゴン雰囲気・室温条件下でオバーナイト撹拌した。この反応が終わった後、10 mLのNaHCO3 aqを0 °Cで加え、その化合物をchloroform (3 × 20 mL) and ethyl acetate (3 × 20 mL)より抽出した。この有機溶媒層はanhydrous sodium sulfateより揮発させた。その残留物はcolumn chromatography (chloroform/methanol = 10/1)より分離することで、黄色の固体化合物9a (85 mg, 0.28 mmol, 96%)を得た。
1H-NMR (500 MHz, Acetone-d6) δ 7.95 (s, 1H), 7.47-7.43 (m, 2H), 7.41 (d, J = 16.6 Hz, 1H), 7.35 (d, J = 6.9 Hz, 2H), 7.32-7.28 (m, 2H), 7.22 (t, J = 7.2 Hz, 1H), 6.99 (d, J = 15.5 Hz, 1H), 6.85 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 5.50 (s, 2H), 4.14 (s, 2H)
13C-NMR (126 MHz, Acetone-d6) δ 158.1, 153.2, 141.4, 141.2, 140.1, 138.8, 130.1, 129.7, 129.3, 129.0, 128.8, 127.3, 123.1, 116.4, 40.6
HR-MALDI-MS m/z: [M+H]+ calcd for C19H18N3O, 304.14427; found, 304.14444.
【化19】
10a; (E)-4-(2-(5-amino-6-(phenylthio)pyrazin-2-yl)vinyl)phenol
化合物8a (500 mg, 1.49 mmol)をアルゴン雰囲気・-80 °C条件下でdehydrated dichloromethane (35 mL)を加えて撹拌しながら溶かした。この溶液に-80 °C のBoron tribromide (17% in dichloromethane, 1 moL/L) (3.7 mL, 3.73 mmol)を加えた。この溶解物をアルゴン雰囲気・室温条件でオバーナイト撹拌した。この反応が終わった後、0 °C・30 mLのNaHCO3 aqを加え、この結果物をethyl acetate (3 × 20 mL)より抽出した。この有機溶媒層はanhydrous sodium sulfateを用いて揮発させた。その残留物はcolumn chromatography (chloroform/methanol= 1/1)より分離することで黄色固形物の10a (325 mg, 0.28 mmol, 68%)を得た。
1H-NMR (500 MHz, Acetone-d6) δ 7.88 (s, 1H), 7.56-7.54 (m, 2H), 7.49-7.44 (m, 3H), 7.34 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.12 (d, J = 15.9 Hz, 1H), 6.89 (d, J = 15.9 Hz, 1H), 6.82 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 5.86 (s, 2H)
13C-NMR (126 MHz, Acetone-d6) δ 206.3, 206.2, 206.0, 158.3, 152.7, 141.9, 139.5, 138.6, 134.2, 131.6, 130.0, 129.8, 129.8, 129.1, 128.8, 122.0, 116.4
HR-MALDI-MS m/z: [M+H]+ calcd for C18H16N3OS, 322.10054; found, 322.10086.
【化20】
T1; (E)-8-benzyl-2-(4-hydroxybenzyl)-6-(4-hydroxystyryl)imidazo[1,2-a]pyrazin-3(7H)-one
化合物9a (30 mg, 0.098 mmol)と化合物2a (1,1-diethoxy-3-(4-hydroxyphenyl)propan-2-one, 35 mg, 0.148 mmol)を室温でethanol (2 mL)より溶かした。この溶液に12M HCl aq (100 μL)を加えアルゴン雰囲気下で12時間・60℃で反応させた。この溶液を揮発させた。その残留物はautomated flash chromatography (Smart Flash EPCLC AI-580S, Universal Columns, chloroform /methanol = 99/1 to 15/85)より分離することでCTZアナログのT1 (11.1 mg, 0.048 mmol, 25 %, reddish-brown solid)を得た。
1H-NMR (500 MHz, Methanol-d4) δ 7.79 (s, 1H), 7.41 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.37 (d, J = 6.9 Hz, 2H), 7.32-7.29 (m, 3H), 7.26-7.23 (m, 1H), 7.13 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 6.86 (d, J = 16.6 Hz, 1H), 6.79 (d, J = 8.6 Hz, 3H), 6.71 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 4.45 (s, 2H), 4.09 (s, 2H)
HR-MALDI-MS m/z: [M+H]+ calcd for C28H24N3O2, 450.18028; found, 450.18122.
【化21】
T2; (E)-2,8-dibenzyl-6-(4-hydroxystyryl)imidazo[1,2-a]pyrazin-3(7H)-one
化合物9a (30 mg, 0.098 mmol)と化合物3a (1,1-diethoxy-3-phenylpropan-2-one 33 mg, 0.148 mmol)を室温でethanol (2 mL)より溶かした。この溶液にアルゴン雰囲気・60 ℃条件下で12M HCl aq (100 μL)を加えて12時間撹拌・反応させた。この溶解液を揮発させた。この残留物をautomated flash chromatography (Smart Flash EPCLC AI-580S, Universal Columns, chloroform /methanol = 99/1 to 15/85)より分離することで、化合物T2 (15.7 mg, mmol, 37 %, reddish-brown solid)を得た。
1H-NMR (500 MHz, Methanol-d4) δ 7.55 (s, 1H), 7.39-7.16 (m, 13H), 6.77 (t, J = 8.9 Hz, 3H), 4.40 (s, 2H), 4.15 (s, 2H)
HR-MALDI-MS m/z: [M+H]+ calcd for C28H24N3O2, 434.18574; found, 434.18630.
【化22】
TS1; (E)-2-(4-hydroxybenzyl)-6-(4-hydroxystyryl)-8-(phenylthio)imidazo[1,2-a]pyrazin-3(7H)-one
化合物10a (30 mg, 0.093 mmol) と化合物2a (33 mg, 0.14 mmol)を室温でethanol (2 mL)より溶かした。この溶液に12M HCl aq (100 μL)を加えアルゴン雰囲気・60℃条件下で12時間反応させた。この溶液を揮発させた残留物はautomated flash chromatography (Smart Flash EPCLC AI-580S, Universal Columns, chloroform /methanol = 99/1 to 15/85)より分離することでTS1 (17.3 mg, 0.048 mmol, 39 %, reddish-brown solid)を得た。
1H-NMR (500 MHz, Methanol-d4) δ 7.77 (s, 1H), 7.68 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 7.54 (d, J = 6.9 Hz, 4H), 7.21 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.10 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 6.99 (d, J = 15.5 Hz, 1H), 6.81 (d, J = 15.5 Hz, 1H), 6.73 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 6.71 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 4.02 (s, 2H)
HR-MALDI-MS m/z: [M+H]+ calcd for C27H22N3O3S, 468.13811; found, 468.13764.
【化23】
TS2; (E)-2-benzyl-6-(4-hydroxystyryl)-8-(phenylthio)imidazo[1,2-a]pyrazin-3(7H)-one
化合物10a (30 mg, 0.093 mmol) と化合物3a (31 mg, 0.14 mmol)を室温でethanol (2 mL)より溶かした。この溶液に12M HCl aq (100 μL)を加え、アルゴン雰囲気・60℃条件下で12時間反応させた。 この溶液を揮発させ、その残留物をautomated flash chromatography (Smart Flash EPCLC AI-580S, Universal Columns, chloroform /methanol = 99/1 to 15/85)より分離することでTS2 (10.9 mg, 0.048 mmol, 26 %, reddish-brown solid)を得た。
1H-NMR (500 MHz, Methanol-d4) δ 7.72 (s, 1H), 7.68 (dd, J = 7.7, 2.0 Hz, 2H), 7.54-7.50 (m, 3H), 7.30-7.24 (m, 4H), 7.21 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.15 (t, J = 7.2 Hz, 1H), 6.98 (d, J = 15.5 Hz, 1H), 6.79 (d, J = 15.5 Hz, 1H), 6.73 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 4.11 (s, 2H)
HR-MALDI-MS m/z: [M+H]+ calcd for C27H22N3O3S, 452.14127; found, 452.14272.
【0124】
2. 新規発光基質類のアルブミン可視化能の測定
前記で示した発光基質類と従来の発光基質類のアルブミン可視化能の測定を行った(図11)。この測定に用いたアルブミンは、人間由来の血清アルブミン(HSA)、マウス間由来の血清アルブミン(MSA)、ウシ由来の血清アルブミン(BSA)、鳥タマゴ由来の血清アルブミン(OVA)である。その絶対値結果を図11に示した。図11の拡大図を図12に示す。
結果は以下のように考察できる。まず、各グループの1-6、P1-P6、M1-M6、O1-O6は各アルブミンに対して周期的な選択性特性を示す。発光基質の1、P1、M1、O1は何れもHSAに選択的な共通点があり、前述したように化学構造的にも相互間に類似性を持つ。同様に3、P3、M3、O3は何れもHASに選択的に発光した。更に5、P5、M5、O5もHSAに選択的に発光する特徴を示した。
一方、発光基質の2、P2、M2、O2はHSAとBSAに共通の発光応答性を持つ特徴を示した。同様に4、P4、M4、O4も輝度は弱いものの、HSAとBSAに共通の発光応答性を持つ特徴を示した。同じく6、P6、M6、O6もHSAとBSAに共通の発光応答性を示した。
纏めると、奇数の発光基質(名前に1,3,5が付く基質類)はHSAのみに選択的であるが、偶数の発光基質(名前に2,4,6が付く基質類)はHSAとBSAの何れにも発光する特徴を示した。これらの発光基質類(1グループ、Pグループ、Mグループ、Oグループ)は、HSAやBSAには多かれ少なかれ発光活性を示したものの、MSAやOVAに対しては顕著な発光輝度を示さなかった。同じグループの中では、2が付く発光基質類(即ち、2、P2、M2など)が相対的に高い発光輝度を示した。M2 > P2 > 2の順で高い輝度を示した。
Tグループは、他のグループに比べてHSA、BSA、MSAの何れにも一定の発光輝度を示す特徴があった。例えば、T1とT2は、それぞれ前述した偶数と奇数の発光基質に類似した選択性を示すが、MSAにもそこそこ強い発光輝度を示すことが特徴的である。また、TS1とTS2は、今回試した全ての発光基質の中で最も高輝度発光を示した。とりわけ、HSAに8x106 p/s/cm2/srあたりの強い発光応答を示した。またTS2はMSAにも比較的に強い発光輝度を示したため、マウス血清アルブミンの発光測定にも十分用いられることが証明された。
しかしながら、並行して測定した従来の発光基質類(nCTZ、CTZh)は何れも試した血清アルブミン類に発光応答を示さなかった。
【0125】
3. 選定した新規発光基質類におけるアルブミン可視化能の測定
前述実施例より各発光基質の血清アルブミン可視化能が確認できたことから、nCTZ、P1、P2、TS1、TS2を選んでそれぞれの血清アルブミン可視化能をハイライトした(図13)。
その結果、nCTZは何れの血清アルブミンに対しても目立った発光応答を示さなかったが、P1とTS1はHSAに特異的に発光した。一方、P2はBSAに特異的に発光し約3x106 p/s/cm2/sr程度の発光輝度を示した。
このハイライト実験でTS2は、他の発光基質とは異なる独特な血清アルブミン選択性を示した。TS2はHSAに最も明るく発光するが、他の発光基質と比べるとMSAにも強く発光し約1x106 p/s/cm2/sr程度の発光輝度を示した。このレベルの発光輝度は、様々なバイオアッセイや動物個体での発光イメージングなどに十分使用可能な強さである。
【0126】
4. 選定した新規発光基質類と血清アルブミン間の用量反応曲線の測定
前述した実施例よりP1、P2、TS1、TS2がそれぞれの血清アルブミンに特異的に発光応答することが確認できたことから、更にその用量反応曲線(ドーズリスポンスカーブ)を測定した(図14)。
この実験のための各種血清アルブミンの濃度は、0、0.01、0.025、0.05、0.075、0.1、0.15、0.2 mg/mLになるように調製した。一方、各発光基質は100 μMになるように調製した。その後、それぞれ調製したアルブミン溶液と発光基質をいずれも40 μLずつ分注し、96穴マイクロプレート上の各ウェルの中で反応させ、IVIS Spectrum systemを用いて発光測定を行った。
その結果、P1、TS1、TS2は僅か0.01 mg/mLのHSAまたはBSAに応答して発光することが分かった。全体のグラフからも凡そ0.01 mg/mLのHSAまたはBSAが検出限界であることが示された。一方、P2は比較的に血清アルブミンに対する検出限界が低い濃度範囲までは至らないように見えるが、それでも0.025 mg/mLのBSAには発光応答することが、結果グラフから分かった。
また、選択性の観点からみると、P1、TS1、TS2はHSAに選択性が強く、P2はBSAに強い選択性を示し、何れも測定した全濃度区間でほぼ直線性反応グラフを示した。P1とP2を比べた場合、全測定区間において血清アルブミンの濃度に関係なく、P1はHSAに、P2はBSAに選択的であることが確認できた。TS1の場合、HSAに強く発光応答を示す反面、その他の血清アルブミンには強い発光応答を示さなかった。一方、TS2は同様にHSAに強く発光応答を示し、更にMSAやBSAにも相当の発光応答を示していることが分かった。これらの結果は、この実施例で選別したP1、P2、TS1、TS2などが何れも非常に低い検出限界と独特な血清アルブミン選択性を併せ持つ発光インジケーターであることを示したものである。
【0127】
5. 選定した発光基質の発光スペクトルの測定
前述実施例結果から、選別した発光基質類が、それぞれの血清アルブミンに対して強い選択性と低い検出限界を示すことが分かった。そこで、本実施例では各々の発光基質と血清アルブミンの組み合わせにおいて、その発光スペクトルを測定した(図15)。
この実施例を行うために、まず各発光基質は100 μMになるように調製した。一方、血清アルブミンはPBS希釈により0.5-10 mg/mLになるように調製した。それぞれの溶液を100 μMずつ分注しPCRチューブに入れてから、精密発光分光光度計(AB-1850、ATTO、東京、日本)を用いて1分積算条件で各スペクトルを測定した。
その結果、HSAがTS1やTS2と発光反応する場合、499-502 nmあたりで発光ピーク(青禄色)を示すスペクトルが測定された。一方、BSAがM2やP2と発光反応する場合は、547-558 nm(イエローグリーン色)あたりの発光ピークを持つスペクトルが観測できた。更に、MSAをTS1やTS2と発光反応させた場合、500-495 nmあたりのピーク(緑色)を持つ発光スペクトルが測定された。
これらの結果は、まずBSAとM2やP2との組合せが最も長波長シフトした発光スペクトルを示すため、動物イメージングモデルに適用する場合に発光の組織透過性が良く、動物イメージングに最も有利は組み合わせであることが確認できた。
【0128】
この発明は、各種生体液サンプル中の血清タンパク質やオボアルブミンを高い特異性と発光色で効率的に分析する発光インジケーターのツールボックスの拡張に貢献する。CTZインジケーター類が高い特異性で定量的な発光信号を即時に放つことを考慮すると、この発光インジケーターは血清アルブミンのポイントオブケアアッセイにおける従来の技術的ハードルを乗り越える解決策となり得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15