(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025033779
(43)【公開日】2025-03-13
(54)【発明の名称】球状シリカ複合粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 77/04 20060101AFI20250306BHJP
C08L 101/00 20060101ALN20250306BHJP
C08K 7/16 20060101ALN20250306BHJP
【FI】
C08G77/04
C08L101/00
C08K7/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023139743
(22)【出願日】2023-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 郁恵
(72)【発明者】
【氏名】新井 敏弘
【テーマコード(参考)】
4J002
4J246
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002AA021
4J002BE061
4J002BG041
4J002BG051
4J002CC031
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4J246AA03
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4J246GB32
4J246GC53
4J246HA56
(57)【要約】
【課題】比誘電率が低く、樹脂への充填性に優れており、積層板等を低誘電率化させるシリカ粒子フィラーに適した、球状シリカ複合粒子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】炭素含有量が1.0~50.0質量%であり、真球度が0.95超である、球状シリカ複合粒子、及び、所定の3官能アルコキシシランを、水性媒体中で加水分解及び重縮合させて、前記球状シリカ複合粒子を得る、球状シリカ複合粒子の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素含有量が1.0~50.0質量%であり、真球度が0.95超である、球状シリカ複合粒子。
【請求項2】
BET比表面積が理論比表面積の5.0倍以下である、請求項1に記載の球状シリカ複合粒子。
【請求項3】
積算体積10%粒子径D10、積算体積50%粒子径D50及び積算体積90%粒子径D90が、下記式(I)の関係を満たす、請求項1又は2に記載の球状シリカ複合粒子。
(D90-D10)/D50≦0.50 (I)
【請求項4】
積算体積50%粒子径D50が50μm以下である、請求項1又は2に記載の球状シリカ複合粒子。
【請求項5】
粒子内部に炭素原子を有する、請求項1又は2に記載の球状シリカ複合粒子。
【請求項6】
湿式シリカである、請求項1又は2に記載の球状シリカ複合粒子。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の球状シリカ複合粒子の製造方法であって、
下記式(1)で表される3官能アルコキシシランを、水性媒体中で加水分解及び重縮合させて、前記球状シリカ複合粒子を得る、球状シリカ複合粒子の製造方法。
R1Si(OR2)3 (1)
(式(1)中、R1は炭素原子数1~4のアルキル基である。3個のOR2は、それぞれ独立に、加水分解性基である。)
【請求項8】
前記水性媒体が水である、請求項7に記載の球状シリカ複合粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子配線板等の用途に好適な球状シリカ複合粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子配線板に用いられる封止材や銅張積層板等(以下、積層板等と言う。)には、放熱性の向上や低熱膨張化等のため、シリカ粒子フィラーを樹脂材料に配合して用いることが知られている。
近年、電子素子パッケージの高機能化、小型化等に伴い、積層板等にも、絶縁性の向上や一層の低熱膨張化が求められており、樹脂材料のみならず、シリカ粒子フィラーの改良が種々検討されている。
【0003】
フィラーとして用いられるシリカ粒子としては、一般に、以下のようなものが知られている。
例えば、ケイ素粉末を酸素と反応させる爆燃法による球状シリカ粒子(特許文献1参照)や、炭酸カルシウムをシリカでコーティングした後、該炭酸カルシウムを溶出させて得られる中空シリカ粒子(特許文献2参照)が挙げられる。
また、アルカリ金属ケイ酸塩溶液から水性シリカゾルを形成してコロイダルシリカを生成させる方法(特許文献3参照)や、テトラアルコキシシランを加水分解及び重縮合する方法等を用いたゾルゲル法による湿式シリカが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4958404号公報
【特許文献2】特開2014-125400号公報
【特許文献3】特許第5920976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、爆燃法による球状シリカ粒子は、安価であるものの、アモルファス粒子であり、粒径制御が難しく、フィラーとして、積層板等を低誘電率化させるのには適しているとは言い難いものであった。
また、中空シリカ粒子は、均質な中空粒子を得ることが難しく、フィラーとしての充填性にばらつきが生じ、また、中空であるため積層板等の機械的強度等の物性の均一化を図ることが難しかった。
また、従来の湿式シリカは、爆燃法よりも小さく、かつ均一な粒径の粒子として得られやすく、フィラーとして高充填化させることができるものの、積層板等を低誘電率化させるのに十分であるとは言えなかった。
【0006】
このような状況の下、積層板等を低誘電率化させるのに好適なシリカ粒子フィラーが求められている。
【0007】
本発明は、比誘電率が低く、樹脂への充填性に優れており、積層板等を低誘電率化させるシリカ粒子フィラーに適した、球状シリカ複合粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ゾルゲル法で得られた炭素を含有する所定の球状シリカ複合粒子が、積層板等を低誘電率化させるのに好適であることを見出したことに基づく。
【0009】
本発明は、以下の手段を提供するものである。
[1]炭素含有量が1.0~50.0質量%であり、真球度が0.95超である、球状シリカ複合粒子。
[2]BET比表面積が理論比表面積の5.0倍以下である、[1]の球状シリカ複合粒子。
[3]積算体積10%粒子径D10、積算体積50%粒子径D50及び積算体積90%粒子径D90が、下記式(I)の関係を満たす、[1]又は[2]の球状シリカ複合粒子。
(D90-D10)/D50≦0.50 (I)
[4]積算体積50%粒子径D50が50μm以下である、[1]~[3]のいずれかの球状シリカ複合粒子。
[5]粒子内部に炭素原子を有する、[1]~[4]のいずれかの球状シリカ複合粒子。
[6]湿式シリカである、[1]~[5]のいずれかの球状シリカ複合粒子。
【0010】
[7][1]~[6]のいずれかの球状シリカ複合粒子の製造方法であって、下記式(1)で表される3官能アルコキシシランを、水性媒体中で加水分解及び重縮合させて、前記球状シリカ複合粒子を得る、球状シリカ複合粒子の製造方法。
R1Si(OR2)3 (1)
(式(1)中、R1は炭素原子数1~4のアルキル基である。3個のOR2は、それぞれ独立に、加水分解性基である。)
[8]前記水性媒体が水である、[7]の球状シリカ複合粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、比誘電率が低く、樹脂への充填性に優れた球状シリカ複合粒子及びその製造方法が提供される。
本発明の球状シリカ複合粒子は、積層板等を低誘電率化させるシリカ粒子フィラーとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書における用語及び表記の定義及び意義を以下に示す。
シリカ複合粒子とは、シロキサン結合を主骨格とした、炭素原子を含む粒子を意味する。
好ましい数値範囲は、好ましい下限値及び上限値のそれぞれを任意に組み合わせることができる。
炭素含有量は、燃焼赤外線吸収法により測定される値であり、具体的には、実施例に記載の方法により測定される。
真球度は、走査型電子顕微鏡(SEM)での観察画像(倍率5000倍)における500個の粒子についての最大径と最小径の差を2で割って算出した数値である。具体的には、実施例に記載の方法により求められる。
BET比表面積は、窒素30体積%及びへリウム70体積%の混合ガスを吸着ガスとして使用した流動法(1点法)で測定された値である。具体的には、実施例に記載の方法により求められる。
理論比表面積とは、後述する積算体積50%粒子径D50を球状粒子の粒子径d[μm]とみなし、これと乾式密度ρ[g/cm3]の値を用いて、6/(ρ×d)の式により算出された値[m2/g]である。乾式密度は、ヘリウムガスを用いた体積測定に基づく密度であり、具体的には、実施例に記載の装置で測定される。
積算体積10%粒子径D10、積算体積50%粒子径D50及び積算体積90%粒子径D90は、SEMでの観察画像(倍率5000倍)における500個の粒子についての体積粒度分布から求めた値である。具体的には、実施例に記載の方法により求められる。
【0013】
[球状シリカ複合粒子]
本発明の実施形態(以下、本実施形態とも言う。)に係る球状シリカ複合粒子(以下、単に、粒子とも言う。)は、炭素含有量が1.0~50.0質量%であり、真球度が0.95超である。
このように、所定量の炭素成分を含有し、真球度が高い球状シリカ複合粒子は、比誘電率が低く、樹脂への充填性に優れており、積層板等の低誘電率化を図るためのシリカ粒子フィラーとして好適に用いることができる。
【0014】
球状シリカ複合粒子の炭素含有量は、1.0~50.0質量%であり、好ましくは5.0~45.0質量%、さらに好ましくは15.0~40.0質量%である。
球状シリカ複合粒子は、炭素含有量が1.0質量%以上であれば、十分に低い比誘電率を有し、また、50.0質量%以下であれば、積層板等が十分に低い熱膨張係数を有するためのフィラーとして機能し得る。
【0015】
球状シリカ複合粒子は、比誘電率が低く、均質であることが好ましく、また、表面処理を行わなくても樹脂への充填性を良好にする観点から、炭素成分は粒子中に均一に存在していることが好ましい。このため、球状シリカ複合粒子は、粒子内部に炭素原子を有していることが好ましい。炭素原子が、粒子外表面に存在していてもよいが、粒子内部にも存在していることが好ましい。
【0016】
球状シリカ複合粒子の真球度は、0.95超であり、好ましくは0.96以上である。
真球度は、1に近いほど真球に近い形状であることを意味し、本発明では、真球に近いほど、すなわち、真球度が1に近く大きいことが好ましい。真球度が0.95超であることにより、該球状シリカ複合粒子は、樹脂への充填性に優れ、かつ、比誘電率が低くなりやすい。
【0017】
球状シリカ複合粒子は、樹脂に対する適度な相溶性により、良好な充填性を有するものとする観点から、BET比表面積が理論比表面積の5.0倍以下であることが好ましく、より好ましくは2.1~4.8倍、さらに好ましくは2.5~4.5倍である。
【0018】
球状シリカ複合粒子は、積算体積10%粒子径D10、積算体積50%粒子径D50及び積算体積90%粒子径D90が、下記式(I)の関係を満たすことが好ましい。
(D90-D10)/D50≦0.50 (I)
【0019】
式(I)の左辺は、球状シリカ複合粒子の粒度分布の指標であり、値が小さいほど、粒度分布幅が狭いことを意味する。左辺の値が0.50以下、すなわち、式(I)の関係を満たす場合、該粒子は、粒度分布幅が適度に狭く、比較的揃った粒径であり、樹脂への充填性が良好となりやすい。左辺の値は、より好ましくは0.10~0.50、さらに好ましくは0.20~0.49である。
【0020】
D50は、該粒子の樹脂への良好な充填性の観点から、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは0.1~5μmである。
D10及びD90は、式(I)の関係を満たす上で、特に限定されない。
【0021】
球状シリカ複合粒子は、湿式シリカであることが好ましい。例えば、ゾルゲル法等で得られる湿式シリカであれば、上記のような物性を備えた球状シリカ複合粒子が得られやすい。
湿式シリカとしての具体的な製造方法は、特に限定されないが、後述する本実施形態の製造方法によれば、好適に製造することができる。
【0022】
本実施形態の球状シリカ複合粒子は、電子配線板に用いられる積層板等において、樹脂に配合されるシリカ粒子フィラーとして好適に用いることができる。
球状シリカ複合粒子を配合する樹脂は、特に限定されるものではなく、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、又は、これらの複合樹脂であってもよい。耐熱性の観点からは、熱硬化性樹脂が好ましい。
【0023】
熱硬化性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂(シリコーンゴムも含む)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂には、硬化剤や硬化促進剤等が添加されてもよい。これらのうち、良好な柔軟密着性の観点からは、シリコーン樹脂が好ましい。また、耐熱性や接着性、絶縁性等の観点からは、エポキシ樹脂が好ましい。
【0024】
シリコーン樹脂としては、例えば、付加反応硬化型シリコーン樹脂、縮合反応硬化型シリコーン樹脂、有機過酸化物硬化型シリコーン樹脂等が挙げられる。積層板等において、優れた柔軟密着性の観点からは、副生成物等に起因する気泡等を生じ難い、付加反応硬化型液状シリコーン樹脂が好ましい。
【0025】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、水添ビスフェノールA型、ビフェニル型等の2官能グルシジルエーテル型エポキシ樹脂;ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグルシジルエステル型エポキシ樹脂;エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の線状脂肪族エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート等の複素環型エポキシ樹脂、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-1,3-ベンゼンジ(メタンアミン)、4-(グリシジロキシ)-N,N-ジグリシジルアニリン、3-(グリシジロキシ)-N,N-ジグリシジルアニリン等のグルシジルアミン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂;クレゾールノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂;ナフタレンアラルキル型エポキシ樹脂;4官能ナフタレン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂等の3官能以上の多官能グリシジルエーテル型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0026】
樹脂に対する球状シリカ複合粒子の配合量は、積層板等に求められる比誘電率や耐熱性に応じて、適宜調整することができる。
本実施形態の球状シリカ複合粒子は、良好な充填性を有するものであり、樹脂に対して同量以上配合された場合であっても、一体の形状を有する成形品を得ることができ、積層板等を良好に低比誘電率化させることが可能である。
【0027】
[球状シリカ複合粒子の製造方法]
本実施形態の球状シリカ複合粒子の製造方法は、下記式(1)で表される3官能アルコキシシランを、水性媒体中で加水分解及び重縮合させて、前記球状シリカ複合粒子を得るものである。
R1Si(OR2)3 (1)
(式(1)中、R1は炭素原子数1~4のアルキル基である。3個のOR2は、それぞれ独立に、加水分解性基である。)
【0028】
従来のゾルゲル法によるシリカ粒子の製造に用いられる原料アルコキシシランは、例えば、テトラエトキシシラン等の4個のアルコキシ基を有する4官能のものが一般的である。これに対して、本実施形態の製造方法では、式(1)に示すように3官能アルコキシシランを原料として用いる。このため、原料アルコキシシランの加水分解及び重縮合により、ケイ素原子に結合するR1は、ケイ素原子と結合したまま、合成されたシリカ粒子中に残存し、R1由来の炭素原子を含む球状シリカ複合粒子が得られる。
このようなゾルゲル法による湿式シリカにおいて、R1由来の炭素原子は、球状シリカ複合粒子中、粒子外表面にも粒子内部にも均一に存在するものと推測される。
なお、原料アルコキシシランが2官能の場合は、所望の形状、すなわち、真球度が高い、所定の粒径等の物性を有する本実施形態の球状シリカ複合粒子が得られ難い。ただし、式(1)で表される3官能アルコキシシランの加水分解及び重縮合の際に、ジメチルジエトキシシラン等の2官能アルコキシシラン等、他のシラン化合物を共重合させてもよい。
【0029】
式(1)中、R1は、適度な炭素含有量の球状シリカ複合粒子を得るため、炭素原子数1~4のアルキル基であり、好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基である。
炭素原子数が4以下であることにより、合成されたシリカ複合粒子同士が融着しにくく、球状粒子が得られやすい。
【0030】
3個のOR2は、それぞれ独立に、加水分解性基である。3個のOR2は、同一であっても、異なっていてもよい。OR2は、加水分解により脱離するため、合成される球状シリカ複合粒子中に残存せず、該粒子の含有成分に影響しない。このため、R2は、特に限定されるものではないが、加水分解の反応速度や副生物等に鑑みて、炭素鎖が短い方が好ましく、好ましくは、炭素原子数1~3のアルキル基、より好ましくは炭素原子数1又は2のアルキル基である。すなわち、OR2は、メトキシ基又はエトキシ基がより好ましい。
【0031】
式(1)で表される3官能アルコキシシランの好ましい具体例としては、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらの化合物は、市販品を用いることができる。
【0032】
3官能アルコキシシランの加水分解及び重縮合は、水性媒体中で行う。
水性媒体とは、水、及び水と相溶しやすい有機溶媒である。水性媒体は、1種単独でも、2種以上の混合物であってもよい。混合物である場合は、加水分解反応の促進の観点から、有機溶媒及び水の混合物が好ましい。
有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールが挙げられる。有機溶媒は、3官能アルコキシシランの加水分解後の脱離基から生成するアルコールと同種のアルコールが好ましい。
有機溶媒及び水の混合物を水性媒体として用いる場合、合成される球状シリカ複合粒子のR1由来の部位同士の融着を抑制し、真球度が高い粒子を得るためには、有機溶媒の水に対するモル比が小さい方が好ましく、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.1以下である。真球度が高い粒子の製造容易性及び製造コスト等の観点から、水性媒体は水のみであることがより好ましい。
【0033】
反応媒体の水性媒体の量は、効率的な反応進行の観点から、原料の3官能アルコキシシランに量に対して、好ましくは5~200質量倍、より好ましくは10~150質量倍、さらに好ましくは15~100質量倍である。
【0034】
3官能アルコキシシランの加水分解及び重縮合は、アルカリ触媒存在下で行うことが好ましい。触媒としては、例えば、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられ、これらのうち、アンモニアが好ましい。
本実施形態の製造方法における加水分解及び重縮合は、従来のテトラアルコキシシランを原料とした加水分解及び重縮合と同様の反応条件下で行うことができる。例えば、アンモニア触媒存在下で、水を含む水性媒体中に、原料の3官能アルコキシシランを滴下し、生成したゾルを反応させてゲル化させた後、乾燥させて、球状シリカ複合粒子を製造することができる。より具体的には、実施例に記載の方法により製造できる。
【0035】
反応温度は、使用する水性媒体にもよるが、反応の促進及び水性媒体の揮発抑制の観点から、好ましくは15~80℃、より好ましくは20~75℃、さらに好ましくは25~70℃である。
反応時間は、反応の十分な進行及び粒子の製造効率の観点から、好ましくは1~48時間、より好ましくは2~42時間、さらに好ましくは3~36時間である。
【0036】
反応生成物をアルコール等の有機溶媒で洗浄した後、乾燥させることにより、粉末状の球状シリカ複合粒子を得ることができる。乾燥は、有機溶媒が十分に揮発除去されればよく、乾燥効率の観点から加熱してもよいが、粒子同士の融着を抑制する観点から、常温で風乾してもよい。
【実施例0037】
以下、本発明の実施形態を実施例に基づいて説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0038】
[シリカ複合粒子試料の製造]
(実施例1)
1Lビーカーに0.5モル/Lのアンモニア水500mLを入れて、撹拌機(2枚羽根、300rpm)で撹拌しながら、50℃に加温し、メチルトリエトキシシラン(式(1)におけるR1がメチル基(炭素原子数1))32.4gを0.5mL/minで滴下した。滴下終了後、50℃に保持したまま、24時間撹拌して反応させた後、自然放冷した。ビーカー内容物を、遠心分離(4000rpmで5分間;以下、同様。)した後、固形物を回収してエタノールに分散させて、再度、遠心分離を行い、この工程を計5回繰り返して、エタノール分散スラリーを得た。得られたスラリーをアルミトレイに流し入れ、常温(25℃)で24時間以上風乾させて、シリカ複合粒子試料を得た。
【0039】
(実施例2)
実施例1において、メチルトリエトキシシランをn-プロピルトリメトキシシラン(式(1)におけるR1がn-プロピル基(炭素原子数3))に変更し、それ以外は実施例1と同様にして、シリカ複合粒子試料を得た。
【0040】
(実施例3)
実施例1において、0.5モル/Lのアンモニア水を、アンモニア濃度が0.5mL/Lのエタノール及び水の混合溶液(エタノール/水のモル比0.5)に変更し、それ以外は実施例1と同様にして、シリカ複合粒子試料を得た。
【0041】
(比較例1)
実施例1において、メチルトリエトキシシランをn-へキシルトリメトキシシラン(式(1)におけるR1がn-へキシル基(炭素原子数6))に変更し、それ以外は実施例1と同様にして、合成を試みたが、粒子状の試料が得られなかった。
【0042】
(比較例2)
実施例1において、0.5モル/Lのアンモニア水を、アンモニア濃度が0.5mL/Lのエタノール及び水の混合溶液(エタノール/水のモル比1.5)に変更し、それ以外は実施例1と同様にして、シリカ複合粒子試料を得た。
なお、得られた粒子は、不定形であり、相互に融着していた。真球度は、測定可能な粒子を抽出して測定した。
【0043】
[粒子試料の測定評価]
上記実施例及び比較例で得られた各試料について、以下の各種測定評価を行った。これらの測定評価結果を表1に示す。なお、比較参照のため、市販品のシリカ粒子(「アドマファイン(登録商標) SO-25R」、株式会社アドマテックス製;製法:爆燃法)についての測定評価結果を比較例3として、表1に示す。
【0044】
(炭素含有量)
管状電気炉方式での非分散赤外吸収法による炭素・硫黄分析装置(「EMIA-821FAW」、株式会社堀場製作所製)にて測定した。
【0045】
(真球度)
SEMでの観察画像(倍率5000倍)における500個の粒子について、画像処理ソフト(「WinROOF」、三谷商事株式会社製)を用いて、最大径と最小径の差を2で割って算出した数値を真球度とした。
【0046】
(BET比表面積)
全自動比表面積測定装置(「Macsorb(登録商標) HM model-1210」、株式会社マウンテック製)にて、BET流動法(1点法、使用ガス:窒素30体積%及びへリウム70体積%の混合ガス)で測定した。
【0047】
(乾式密度)
乾式自動密度計(「アキュピックII 1340」、株式会社島津製作所製)にて測定した。
【0048】
(積算体積10%粒子径(D10)、積算体積50%粒子径(D50)及び積算体積90%粒子径(D90))
真球度の測定と同様に、SEMでの観察画像の画像処理により、粒子を球とみなして換算した体積粒度分布から、D10、D50及びD90を求めた。これらの値から、(D90-D10)/D50の値を算出した。
【0049】
(理論比表面積)
上記で求めたD50を球状粒子の粒子径d[μm]とみなし、これと上記で測定した乾式密度ρ[g/cm3]の値を用いて、6/(ρ×d)の式により算出した(単位:m2/g)。また、上記で測定したBET比表面積(S1)の理論比表面積(S0)に対する比(S1/S0)を算出した。
【0050】
(充填性)
シリコーン樹脂(「KE-1935-A/B」、信越化学工業株式会社製)と粒子試料とを質量比1/1で、自転・公転ミキサー(「あわとり練太郎(登録商標) ARE-310P」、株式会社シンキー製)にて、2000rpmで90秒間、減圧撹拌混合する操作を5回繰り返し、樹脂組成物を調製した。
得られた樹脂組成物をPETフィルムで挟み、圧延ロールで0.5mm厚に成形した。
表1においては、シート状に成形できた場合、充填性の評価をAとした。樹脂組成物が一体にまとまらず、シート状に成形できなかった場合、充填性の評価をBとした。
【0051】
(比誘電率)
上記の充填性の評価において作製したシート状の成形品を、150℃で1時間加熱して、硬化物を得た。
得られた硬化物について、誘電率測定装置(SPDR誘電体共振器、アジレント・テクノロジー株式会社製)にて、比誘電率を測定した。また、シリコーン樹脂のみの硬化物の比誘電率を測定し、これらの測定値から、Maxwell-Garnettモデルにて、粒子試料の比誘電率を算出した。
【0052】
【0053】
表1に示した結果から分かるように、所定の範囲内の炭素含有量であり、かつ、真球度が高い本実施形態の球状シリカ複合粒子(実施例)は、樹脂への充填性が良好であり、かつ、十分に低い比誘電率を有することが確認された。
このことから、本実施形態の球状シリカ複合粒子は、積層板等を低誘電率化させるシリカ粒子フィラーとして好適に適用できると言える。