(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003424
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】尿素化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 273/18 20060101AFI20241226BHJP
C07C 275/06 20060101ALI20241226BHJP
C07C 275/24 20060101ALI20241226BHJP
C07C 275/22 20060101ALI20241226BHJP
C07C 275/10 20060101ALI20241226BHJP
C07C 275/28 20060101ALI20241226BHJP
C07C 275/26 20060101ALI20241226BHJP
B01J 27/16 20060101ALI20241226BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241226BHJP
【FI】
C07C273/18
C07C275/06
C07C275/24
C07C275/22
C07C275/10
C07C275/28
C07C275/26
B01J27/16 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024100809
(22)【出願日】2024-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2023103549
(32)【優先日】2023-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】森内 敏之
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169AA09
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BD01B
4G169BD02A
4G169BD02B
4G169BD04B
4G169BD07A
4G169BD07B
4G169BD15B
4G169BE29A
4G169BE29B
4G169BE34B
4G169BE37B
4G169CB25
4G169DA02
4H006AA02
4H006AC57
4H006BA53
4H006BB15
4H006BB20
4H006BB23
4H006BB24
4H006BB42
4H006BC10
4H006BC11
4H006BC34
4H006BE41
4H039CA71
(57)【要約】
【課題】有機触媒を用いた二酸化炭素活性化に基づく効率的な尿素化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】有機触媒の存在下で、アミン化合物と二酸化炭素とを反応させる、尿素化合物の製造方法であり、前記有機触媒が、リンのオキソ酸のエステルおよびホスフィンオキシドからなる群から選ばれる少なくとも1種のリン有機触媒を含み、前記アミン化合物のアミノ基100モルに対する前記有機触媒の割合が、0モル超100モル未満である、尿素化合物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機触媒の存在下で、アミン化合物と二酸化炭素とを反応させる、尿素化合物の製造方法であり、
前記有機触媒が、リンのオキソ酸のエステルおよびホスフィンオキシドからなる群から選ばれる少なくとも1種のリン有機触媒を含み、
前記アミン化合物のアミノ基100モルに対する前記有機触媒の割合が、0モル超100モル未満である、尿素化合物の製造方法。
【請求項2】
前記アミン化合物が、1級アミン、2級アミン、ジシリルアミンおよびモノシリルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の尿素化合物の製造方法。
【請求項3】
前記アミン化合物が、下記式(1)で表される化合物および下記式(2)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の尿素化合物の製造方法。
R1-NH-R2 ・・・(1)
R3-NR4-SiR5R6R7 ・・・(2)
ただし、R1は置換若しくは無置換の1価炭化水素基を示し、R2は水素原子、または置換若しくは無置換の1価炭化水素基を示し、
R3は置換若しくは無置換の1価炭化水素基を示し、R4はSiR5R6R7、または置換若しくは無置換の1価炭化水素基を示し、R5、R6およびR7はそれぞれ独立にアルキル基を示す。
【請求項4】
前記アミノ基100モルに対する前記有機触媒の割合が、10~30モルである請求項1に記載の尿素化合物の製造方法。
【請求項5】
前記アミン化合物と前記二酸化炭素とを反応させる際の圧力が常圧である請求項1に記載の尿素化合物の製造方法。
【請求項6】
前記アミン化合物と前記二酸化炭素とを反応させる際の温度が80~140℃である請求項1に記載の尿素化合物の製造方法。
【請求項7】
前記有機触媒および添加剤の存在下で前記アミン化合物と前記二酸化炭素とを反応させる請求項1に記載の尿素化合物の製造方法。
【請求項8】
前記有機触媒および極性溶媒の存在下で前記アミン化合物と前記二酸化炭素とを反応させる請求項1に記載の尿素化合物の製造方法。
【請求項9】
前記アミン化合物と前記有機触媒と前記極性溶媒とを含む混合液を調製し、前記混合液と二酸化炭素含有ガスとを気液接触させることで、前記アミン化合物と前記二酸化炭素とを反応させる請求項8に記載の尿素化合物の製造方法。
【請求項10】
前記混合液が添加剤をさらに含む請求項9に記載の尿素化合物の製造方法。
【請求項11】
前記添加剤が、炭酸カリウム、シリル化剤、ヒドロシランおよびフェノール化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項7または10に記載の尿素化合物の製造方法。
【請求項12】
前記アミン化合物が、ジシリルアミンおよびモノシリルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記添加剤が、フェノール化合物を含む、請求項7または10に記載の尿素化合物の製造方法。
【請求項13】
前記アミン化合物が、1級アミンおよび2級アミンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記添加剤が、炭酸カリウム、シリル化剤およびヒドロシランからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項7または10に記載の尿素化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温室効果ガスの1つとして知られている二酸化炭素は、地球上に豊富に存在し、安価でかつ毒性が低く、不燃性であることから利用価値の高い資源である。さらに、二酸化炭素を炭素源として活用することができれば、石油資源の浪費の低減に有効であると期待されている。そのため、二酸化炭素を再生可能な炭素源として利用し、高付加価値な有機化合物を合成する手法の開発が近年注目されている。
【0003】
尿素化合物は、除草剤、農薬、薬剤、樹脂の原料などに広く利用されている有用な化合物である。これまでの工業的な尿素化合物の合成法では、反応剤としてホスゲンや一酸化炭素、または縮合剤としてカルボニルジイミダゾールなどの試薬が用いられていた(Scheme 1(a))。しかし、ホスゲンや一酸化炭素は毒性が高く、カルボニルジイミダゾールなどの縮合剤は高価な試薬であることから、これらに替わる炭素源が求められてきた。
そこで、アミンと二酸化炭素を原料として用いた尿素化合物の合成法が注目されている(Scheme 1(b))。この手法は、炭素源として有毒な試薬や高価な試薬を用いない尿素化合物の合成として期待されており、これまでに様々な金属触媒の設計が行われてきた。しかし、この手法は、反応に高温高圧を要するという課題がある。また、触媒として使用されてきた金属の多くは、希少かつ高価であることに加え、酸素や水に不安定であり空気中での取り扱いが難しいという課題がある。
【0004】
【0005】
環境問題が危惧されている今日では「グリーンケミストリー」の観点を踏まえた触媒が求められており、環境への負荷や取り扱いに注意を要する金属触媒を代替する触媒の開発が検討されている。有機触媒は、環境調和・元素戦略などの観点から期待されている触媒の一つである。有機触媒による二酸化炭素活性化に基づく尿素化合物の合成も検討されている。しかし、有機触媒は一般に、長い反応時間を要する、高用量を要する、といった欠点がある。
【0006】
非特許文献1には、ジアザビシクロウンデセン(DBU)と三酸化硫黄-トリメチルアミン錯体を用いて、二酸化炭素とアニリンとを反応させることでジフェニル尿素を合成したことが報告されている(Scheme 2)。しかし、この反応は、強力な塩基である化学量論量のDBUと化学量論量以上の三酸化硫黄-トリメチルアミン錯体を使用している。つまり基質のアミノ基100モルに対してDBUを100モル以上の割合、基質のアミノ基100モルに対して三酸化硫黄-トリメチルアミン錯体を500モル以上の割合で使用している。また、反応は、基質適応範囲が狭い、という問題もある。
【0007】
【0008】
非特許文献2には、亜リン酸ジフェニル(HP(=O)(OPh)2)を用いて、常圧の二酸化炭素とアニリンとをピリジン溶媒中で反応させることで、1,3-ジフェニルウレアを85%の収率で合成したことが報告されている(Scheme 3)。しかし、この方法は、化学量論量の亜リン酸ジフェニルを使用している。また、基質適応範囲が狭いという問題がある。
【0009】
【0010】
非特許文献3には、トリフェニルホスフィン(PPh3)、四塩化炭素(CCl4)、トリエチルアミン(Et3N)の存在下、シクロヘキシルアミン(Cy-NH2)と二酸化炭素をジクロロメタン中で反応させ、高収率で、対応する尿素化合物を合成したことが報告されている(Scheme 4)。しかし、この方法は、化学量論量のトリフェニルホスフィンを使用している。また、活性化剤として用いられている四塩化炭素に毒性がある、基質適応範囲が狭い、という問題がある。
【0011】
【0012】
非特許文献4には、光延反応を利用して尿素化合物を合成したことが報告されている(Scheme 5)。この手法は、温和な反応条件で反応が進行することに加えて、基質適応範囲が広く、高収率で目的の尿素化合物が生成するという利点がある。しかし、化学量論量のトリフェニルホスフィンを使用している。
【0013】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Synth. Commun., 1995, 25, 2467-2474.
【非特許文献2】Tetrahedron Lett., 1974, 13, 1191-1194.
【非特許文献3】Tetrahedron Lett., 2004, 45, 5027-5029.
【非特許文献4】Monatsh. Chem., 2008, 139, 267-270.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上の如く、有機触媒を用いた二酸化炭素活性化に基づく効率的な尿素化合物の合成は達成されていない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、有機触媒を用いた二酸化炭素活性化に基づく効率的な尿素化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]有機触媒の存在下で、アミン化合物と二酸化炭素とを反応させる、尿素化合物の製造方法であり、
前記有機触媒が、リンのオキソ酸のエステルおよびホスフィンオキシドからなる群から選ばれる少なくとも1種のリン有機触媒を含み、
前記アミン化合物のアミノ基100モルに対する前記有機触媒の割合が、0モル超100モル未満である、尿素化合物の製造方法。
[2]前記アミン化合物が、1級アミン、2級アミン、ジシリルアミンおよびモノシリルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である[1]に記載の尿素化合物の製造方法。
[3]前記アミン化合物が、下記式(1)で表される化合物および下記式(2)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である[1]または[2]に記載の尿素化合物の製造方法。
R1-NH-R2 ・・・(1)
R3-NR4-SiR5R6R7 ・・・(2)
ただし、R1は置換若しくは無置換の1価炭化水素基を示し、R2は水素原子、または置換若しくは無置換の1価炭化水素基を示し、
R3は置換若しくは無置換の1価炭化水素基を示し、R4はSiR5R6R7、または置換若しくは無置換の1価炭化水素基を示し、R5、R6およびR7はそれぞれ独立にアルキル基を示す。
[4]前記アミノ基100モルに対する前記有機触媒の割合が、10~30モルである[1]~[3]のいずれかに記載の尿素化合物の製造方法。
[5]前記アミン化合物と前記二酸化炭素とを反応させる際の圧力が常圧である[1]~[4]のいずれかに記載の尿素化合物の製造方法。
[6]前記アミン化合物と前記二酸化炭素とを反応させる際の温度が80~140℃である[1]~[5]のいずれかに記載の尿素化合物の製造方法。
[7]前記有機触媒および添加剤の存在下で前記アミン化合物と前記二酸化炭素とを反応させる[1]~[6]のいずれかに記載の尿素化合物の製造方法。
[8]前記有機触媒および極性溶媒の存在下で前記アミン化合物と前記二酸化炭素とを反応させる[1]~[7]のいずれかに記載の尿素化合物の製造方法。
[9]前記アミン化合物と前記有機触媒と前記極性溶媒とを含む混合液を調製し、前記混合液と二酸化炭素含有ガスとを気液接触させることで、前記アミン化合物と前記二酸化炭素とを反応させる[8]に記載の尿素化合物の製造方法。
[10]前記混合液が添加剤をさらに含む[9]に記載の尿素化合物の製造方法。
[11]前記添加剤が、炭酸カリウム、シリル化剤、ヒドロシランおよびフェノール化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む[7]または[10]に記載の尿素化合物の製造方法。
[12]前記アミン化合物が、ジシリルアミンおよびモノシリルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記添加剤が、フェノール化合物を含む、[7]、[10]、[11]のいずれかに記載の尿素化合物の製造方法。
[13]前記アミン化合物が、1級アミンおよび2級アミンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記添加剤が、炭酸カリウム、シリル化剤およびヒドロシランからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、[7]、[10]~[12]のいずれかに記載の尿素化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、有機触媒を用いた二酸化炭素活性化に基づく効率的な尿素化合物の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。ただし、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。本実施の形態は、本発明の要旨を変更しない限り、種々の変形が可能である。
なお、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0019】
本発明の尿素化合物の製造方法は、有機触媒の存在下で、アミン化合物と二酸化炭素とを反応させる。これにより、アミン化合物に対応する尿素化合物が生成する。
有機触媒および添加剤の存在下でアミン化合物と二酸化炭素とを反応させてもよい。
有機触媒および溶媒の存在下でアミン化合物と二酸化炭素とを反応させてもよい。
有機触媒、添加剤および溶媒の存在下でアミン化合物と二酸化炭素とを反応させてもよい。
【0020】
(有機触媒)
有機触媒は、リンのオキソ酸のエステルおよびホスフィンオキシドからなる群から選ばれる少なくとも1種のリン有機触媒(以下、「リン有機触媒A」とも記す。)を含む。
リンのオキソ酸としては、例えばリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸が挙げられる。ホスフィン酸のリン原子に結合した水素原子の1つがフェニル基等の置換基で置換されていてもよい。これらのオキソ酸のエステルとしては、例えばアリールエステル、アルキルエステル、フルオロアルキルエステルが挙げられる。アリールエステルにおけるアリール基としては、例えばフェニル基(以下、「Ph」とも記す。)が挙げられる。アルキルエステルにおけるアルキル基は直鎖状でもよく分岐状でもよいが、リン原子近傍の立体的な混み合いが比較的小さい点で、直鎖状が好ましい。アルキル基の炭素数は例えば1~4である。フルオロアルキルエステルにおけるフルオロアルキル基は、アルキル基の水素原子の全てがフッ素原子に置換されたものでもよくアルキル基の水素原子の一部がフッ素原子に置換されたものでもよい。フルオロアルキル基は直鎖状でもよく分岐状でもよいが、リン原子近傍の立体的な混み合いが比較的小さい点で、直鎖状が好ましい。フルオロアルキル基の炭素数は例えば1~2である。ホスフィン酸のリン原子に結合した水素原子の1つが置換基で置換されている場合、エステルを形成する有機基(アリール基、アルキル基、フルオロアルキル基等)と置換基とが相互に結合し、それらが結合したリン原子及び酸素原子とともに環を形成していてもよい。
【0021】
リン有機触媒Aの具体例としては、HP(=O)(O(CH2)3CH3)2、HP(=O)(OCH2CF3)2、HP(=O)(OCH2CH3)2等のホスホン酸ジアルキル、HP(=O)(OPh)2等のホスホン酸ジアリール、PhP(=O)(OPh)2等のアリールホスホン酸ジアリール等のホスホン酸エステル;P(OPh)3、P(OiPr)3等の亜リン酸エステル;9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン10-オキシド(DOPO)等のホスフィン酸エステル;HP(=O)Ph2、P(=O)Ph3等のホスフィンオキシドが挙げられる。iPrはイソプロピル基を示す。
【0022】
リン有機触媒Aとしては、触媒活性に優れる点から、リンのオキソ酸のエステルが好ましく、ホスホン酸ジエステル、亜リン酸トリエステル、ホスフィン酸エステルがより好ましく、HP(=O)(OR)2、P(OR)3、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン10-オキシドがより好ましい。Rはアリール基、アルキル基またはフルオロアルキル基を示す。アリール基、アルキル基、フルオロアルキル基はそれぞれ、前記したアリールエステルにおけるアリール基、アルキルエステルにおけるアルキル基、フルオロアルキルエステルにおけるフルオロアルキル基と同様である。HP(=O)(OR)2中の2つのR、P(OR)3中の3つのRはそれぞれ同一でもよく異なっていてもよい。Rとしては、触媒活性に優れる点から、アリール基が好ましく、Phが特に好ましい。
【0023】
リン有機触媒Aは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
有機触媒は、リン有機触媒A以外の有機触媒をさらに含んでいてもよい。
有機触媒中のリン有機触媒Aの含有量は、有機触媒100モル%に対し、30モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、100モル%が特に好ましい。
【0024】
有機触媒の使用量は、アミン化合物のアミノ基100モルに対する有機触媒の割合として、0モル超100モル未満であり、10~30モルが好ましく、25~30モルがさらに好ましい。前記範囲の上限値以下であれば、コストの削減、廃棄物の削減などにより効率的な尿素化合物の製造が可能となる。一方、有機触媒の使用量が前記範囲内で高いほど、反応が進行しやすく、尿素化合物の収率が優れる傾向がある。
【0025】
従来、有機触媒の存在下でアミン化合物と二酸化炭素とを反応させて尿素化合物を製造する場合、有機触媒を化学量論量以上、つまりアミン化合物のアミノ基100モルに対して100モル以上の割合で使用する必要があると考えられていた。これは、触媒が再生しないという理由からである。また、高圧も必要であった。
本発明者の検討によれば、リン有機触媒Aは二酸化炭素活性化効果に優れており、化学量論量よりも少ない量で、また、高圧にしなくても、反応が進行し、充分な収率で尿素化合物を得ることができる。
【0026】
(アミン化合物)
アミン化合物としては、例えば、1級アミン、2級アミン、ジシリルアミン、モノシリルアミンが挙げられる。これらのアミン化合物は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0027】
1級アミンまたは2級アミンとしては、例えば、下記式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」とも記す。)が挙げられる。
R1-NH-R2 ・・・(1)
ただし、R1は置換若しくは無置換の1価炭化水素基を示し、R2は水素原子、または置換若しくは無置換の1価炭化水素基を示す。
アミン化合物が化合物(1)である場合、R1-N(R2)-C(=O)-N(R2)-R1で表される尿素化合物が得られる。2種以上の化合物(1)を併用することで、式中の2つのR1、2つのR2がそれぞれ異なる尿素化合物を得ることもできる。
【0028】
R1における1価炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基等が挙げられる。
アルキル基は直鎖状でもよく分岐状でもよい。アルキル基の炭素数は例えば1~12、さらには6~12である。置換のアルキル基における置換基としては、アリール基、複素環式基、シクロアルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。置換のアルキル基が2つ以上の置換基を有する場合、各置換基は同一でもよく異なっていてもよい。
シクロアルキル基は単環式でもよく多環式でもよい。シクロアルキル基の炭素数は例えば5~6である。置換のシクロアルキル基における置換基としては、アルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。置換のシクロアルキル基が2つ以上の置換基を有する場合、各置換基は同一でもよく異なっていてもよい。
アリール基としては、Ph等が挙げられる。置換のアリール基における置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。置換のアリール基が2つ以上の置換基を有する場合、各置換基は同一でもよく異なっていてもよい。
置換基としてのアリール基、シクロアルキル基、アルキル基は上記と同様のものが挙げられる。置換基としての複素環式基としては、例えば、チエニル基が挙げられる。置換基としてのアルコキシ基は直鎖状でもよく分岐状でもよい。アルコキシ基の炭素数は、例えば1~2である。置換基としてのハロゲン原子としては、例えば、臭素原子が挙げられる。
R2における1価炭化水素基としては、R1における1価炭化水素基と同様のものが挙げられる。R2が1価炭化水素基である場合、R1とR2は同一でもよく異なっていてもよい。1級アミンおよび2級アミンのなかでは1級アミンが好ましく、R2としては水素原子が好ましい。
化合物(1)の具体例としては、2-フェニルエチルアミン、2-(4-メチルフェニル)エチルアミン、2-(4-メトキシフェニル)エチルアミン、3-フェニルプロピルアミン、2-フェニルプロピルアミン、3,3-ジフェニルプロピルアミン、デシルアミン、シクロペンチルアミン、3-エトキシプロピルアミン、テトラヒドロフルフリルアミン、アダマンチルアミン、4-(トリフルオロメチル)ベンジルアミン、2-(4-ブロモフェニル)エチルアミン、ベンジルアミン、へキシルアミン、シクロへキシルアミンが挙げられる。
【0029】
ジシリルアミンまたはモノシリルアミンとしては、例えば、下記式(2)で表される化合物(以下、「化合物(2)」とも記す。)が挙げられる。
R3-NR4-SiR5R6R7 ・・・(2)
ただし、R3は置換若しくは無置換の1価炭化水素基を示し、R4はSiR5R6R7、または置換若しくは無置換の1価炭化水素基を示し、R5、R6およびR7はそれぞれ独立にアルキル基を示す。
アミン化合物が化合物(2)である場合、R3-N(R8)-C(=O)-N(R8)-R3で表される尿素化合物が得られる。R8は、R4がSiR5R6R7の場合は水素原子であり、R4が置換若しくは無置換の1価炭化水素基の場合は、R4と同じである。2種以上の化合物(2)を併用することで、式中の2つのR3、2つのR8がそれぞれ異なる尿素化合物を得ることもできる。
【0030】
式(2)中、R3およびR4における1価炭化水素基としては、R1における1価炭化水素基と同様のものが挙げられる。R4が1価炭化水素基である場合、R3とR4は同一でもよく異なっていてもよい。ジシリルアミンおよびモノシリルアミンのなかではジシリルアミンが好ましく、R4としてはSiR5R6R7が好ましい。
R5、R6およびR7におけるアルキル基は直鎖状でもよく分岐状でもよい。アルキル基の炭素数は例えば1~4である。
化合物(2)の具体例としては、N,N-ビス(トリメチルシリル)-N-(2-フェニルエチル)アミン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-N-(3-フェニルプロピル)アミン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-N-(2-(4-ブロモフェニル)エチル)アミン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-N-(2-(4-メチルフェニル)エチル)アミン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-N-ベンジルアミン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-N-ヘキシルアミン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-N-シクロヘキシルアミン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-N-(2-チエニルメチル)アミン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-N-(2-フェニルプロピル)アミン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-N-[(1R)-1-フェニルエチル]アミン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-N-デシルアミンが挙げられる。
【0031】
(添加剤)
添加剤は、反応効率の向上、脱水効果等の目的で任意に用いられる。基質が1級アミンおよび2級アミンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む場合は、主に塩基の効果、二酸化炭素の濃度向上、基質あるいは触媒の活性化の観点から、添加剤を用いることが好ましい。基質がジシリルアミンおよびモノシリルアミンから選ばれる少なくとも1種を含む場合は、主に基質あるいは触媒の活性化の観点から、添加剤を用いることが好ましい。
添加剤としては、例えば、フェノール、4-ニトロフェノール、4-トリフルオロメチルフェノール、4-メトキシフェノール等のフェノール化合物;2-フェニルエチルアルコール等のアルコール化合物;N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド(BSA)、1-トリメチルシリル-1H-イミダゾール(TMSI)、1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン(HMDS)等のシリル化剤;ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ピリジン等の有機塩基;炭酸カリウム、リン酸カリウム等の無機塩基;硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、モレキュラーシーブ(MS)3A等の無機脱水剤;トリエトキシシラン、トリフェニルシラン等のヒドロシランが挙げられる。シリル化剤は有機脱水剤としても機能する。
これらの添加剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0032】
反応効率の向上の観点では、添加剤は、炭酸カリウム、シリル化剤、ヒドロシランおよびフェノール化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。特に、アミン化合物が1級アミンおよび2級アミンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む場合には、炭酸カリウム、シリル化剤およびヒドロシランからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。アミン化合物がジシリルアミンおよびモノシリルアミンから選ばれる少なくとも1種を含む場合には、フェノール化合物を含むことが好ましい。炭酸カリウムを用いることで、塩基の効果と二酸化炭素の濃度向上が期待できる。シリル化剤やヒドロシランを用いることで、基質あるいは触媒の活性化が期待できる。フェノール化合物を用いることで、基質あるいは触媒の活性化が期待できる。
炭酸カリウム、シリル化剤、ヒドロシランおよびフェノール化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種と、これら以外の他の添加剤とを併用してもよい。
【0033】
添加剤の使用量は、添加剤の目的に応じて適宜設定できる。
例えば炭酸カリウムの使用量は、アミン化合物のアミノ基100モルに対する炭酸カリウムの割合として、200~2000モルが好ましく、200~250モルがより好ましい。
シリル化剤の使用量は、アミン化合物のアミノ基100モルに対するシリル化剤の割合として、100モル以上が好ましく、150~250モルがより好ましく、200モルがさらに好ましい。
ヒドロシランの使用量は、アミン化合物のアミノ基100モルに対するヒドロシランの割合として、100モル以上が好ましい。
フェノール化合物の使用量は、アミン化合物のアミノ基100モルに対するフェノール化合物の割合として、50~200モルが好ましく、100~150モルがより好ましい。
【0034】
(溶媒)
溶媒としては、例えば、極性溶媒、無極性溶媒が挙げられる。
溶媒としては、極性溶媒が好ましい。極性溶媒は、アミン化合物を溶解可能である。極性溶媒を用いることで、尿素化合物の収率をより高めることができる。
極性溶媒としては、例えば、ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジオキサンが挙げられる。これらの中でも、尿素化合物の収率がより優れる点で、DMA、DMF、DMSO、ジオキサンが好ましい。
これらの極性溶媒は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0035】
溶媒の使用量は、アミン化合物0.3ミリモルに対し、0~1mLが好ましく、0.1~0.5mLがより好ましく、0.3mLが最も好ましい。溶媒の使用量が前記範囲内であれば、尿素化合物の収率がより優れる。
【0036】
(アミン化合物と二酸化炭素との反応)
有機触媒の存在下でアミン化合物と二酸化炭素とを反応させる方法は、有機触媒がリン有機触媒Aを含むことと、有機触媒の使用量を所定の範囲内とすること以外は、公知の方法を用いることができる。
【0037】
例えば、アミン化合物と有機触媒と極性溶媒とを含む混合液を調製し、得られた混合液と二酸化炭素含有ガスとを気液接触させることで、アミン化合物と二酸化炭素とを反応させることができる。混合液は、添加剤をさらに含んでいてもよい。
二酸化炭素含有ガスは、二酸化炭素ガスであってもよく、二酸化炭素ガスと他のガスとの混合ガスであってもよい。他のガスとしては、例えば窒素ガス、酸素ガスが挙げられる。二酸化炭素含有ガスは、空気や排気ガスであってもよい。
混合液と二酸化炭素含有ガスとを気液接触させる方法としては、例えば、混合液および二酸化炭素含有ガスを容器に収容し、混合液を攪拌しながら所定の温度に加熱する方法が挙げられる。
【0038】
アミン化合物と二酸化炭素とを反応させる際の温度(反応温度)は、例えば80~140℃であり、100~120℃が好ましい。反応温度が前記範囲の下限値以上であれば、反応が進行しやすい。反応温度が前記範囲の上限値以下であれば、エネルギーコストを削減でき、工業的に有利である。
【0039】
アミン化合物と二酸化炭素とを反応させる際の圧力(反応圧力)は、常圧(0.10MPa)が好ましい。圧力は、絶対圧である。反応圧力が常圧であれば、大掛かりな設備が不要であり、工業的に有利である。
【実施例0040】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。「mоl%」は、特に説明がなければ、アミン化合物のアミノ基のモル量を100mоl%とした値を示す。「Ph」はフェニル基、「Me」はメチル基、「Et」はエチル基、「i-Pr」はイソプロピル基、「n-Bu」はn-ブチル基を示す。
【0041】
<試験例1>
本試験例では、1級アミンと常圧の二酸化炭素を原料とする尿素化合物の合成におけるリン有機触媒に関する検討を行った。
【0042】
(尿素化合物の合成)
高純度窒素ガスを充填したグローブボックス内で、24径の二口試験管に、1級アミンとして2-フェニルエチルアミン(PhCH2CH2-NH2)(0.30mmol)、表1に示すリン有機触媒(P cat.)(0.075mmоl、25mоl%)、ジメチルアセトアミド(DMA)(1.0mL)を加え、一方の口を平栓で、もう一方の口をガラス製スリ付き三方コックで封をした。反応管をグローブボックスから取り出した後、液体窒素を用いて反応液を凍結させ、卓上ポンプで反応管内部の窒素を吸引し、そこに二酸化炭素を充填させたバルーンを取り付けることによって二酸化炭素置換を行った。反応液が室温に戻るまで静置した後、有機合成装置ChemiStation(EYELAパーソナル有機合成装置、PPS-5511型)を用いて120℃、2000rpmで撹拌した。24時間後、二酸化炭素の供給を停止し、有機合成装置ChemiStationから反応管を取り出した。反応液に1M希塩酸(10mL)を加え5分静置した後、ジクロロメタン(30mL)を入れた状態の分液漏斗に溶液を移し、分液操作を行った。有機層のみを瓶に取り出し、分液漏斗に残っている水層について、ジクロロメタン(30mL)を用いて2回抽出処理を行った。最後にジクロロメタン(20mL)を用いて分液漏斗内を洗浄した。一連の分液操作で回収した有機層を、無水硫酸ナトリウムを用いて脱水した後、濾過により硫酸ナトリウム水和物を除去した。続いて、減圧下で溶媒を留去し真空乾燥を行った。内部標準として1,3,5-トリメトキシベンゼン、重溶媒としてCDCl3を用い、1H NMR測定によって生成物である尿素化合物の収率を算出した。目的生成物である尿素化合物は薄層クロマトグラフィーによる精製を行い単離した。
1H NMRの測定条件は以下の通りである。
装置:JEOL JNM-AL400
溶媒:重クロロホルム(CDCl3)
温度:20℃
【0043】
(結果)
表1に各例における尿素化合物の収率を示す。
容易に入手可能な5価のリン化合物であるジフェニルホスフィンオキシド{HP(=O)Ph2}を触媒に用いた例1-1では、8%の収率で目的の尿素化合物が得られた。
反応効率の向上を目指して、ジフェニルホスフィンオキシドよりもリン原子近傍の立体的な混み合いが小さいHP(=O)(OR)2を触媒に用いた例1-2~1-4では、例1-1よりも高い収率(32~58%)で目的の尿素化合物が得られた。この結果から、HP(=O)(OR)2が良好な触媒活性を示すことが確認された。
P(OPh)3を触媒に用いた例1-5でも、例1-1よりも高い収率(45%)で目的の尿素化合物が得られた。
【0044】
【0045】
<試験例2>
本試験例では、HP(=O)(OR)2を触媒に用い、1級アミンと常圧の二酸化炭素を原料とする尿素化合物の合成における添加剤に関する検討を行った。
【0046】
(尿素化合物の合成)
24径の二口試験管に、1級アミン、リン有機触媒およびDMAとともに、表2に示す添加剤(例2-1~2-5については100mоl%(0.30mmоl)、例2-6については200mоl%(0.60mmоl))を加えた以外は、試験例1の例1-4と同様の操作を行った。ただし、例2-1~2-4については反応時間を15時間とした。
【0047】
(結果)
表2に各例における尿素化合物の収率を示す。例1-4の結果を併記した。
フェノールまたは2-フェニルエチルアルコールを添加した例2-1、2-2では、反応時間15時間の時点では、添加剤を加えなかった例1-4よりも収率が低く、反応効率の向上は確認されなかったものの、充分な収率で尿素化合物を合成できた。
ヒドロシラン体であるHSi(OEt)3を添加した例2-3でも同様の結果であった。
同じくヒドロシランであるHSiPh3を添加した例2-4では、反応時間15時間の時点で若干の反応効率の向上が確認された。
シリル化剤であるN,O-ビストリメチルシリルアミドを添加した例2-5では、反応効率の向上は確認されなかったものの、充分な収率で尿素化合物を合成できた。
無機脱水剤であるK2CO3を添加した例2-6では、68%と高収率で目的の尿素化合物が得られた。
以上の検討から、フェノール化合物、シリル化剤、ヒドロシランおよびK2CO3、なかでもK2CO3が最適な添加剤であることが明らかとなった。
【0048】
【0049】
<試験例3>
本試験例では、HP(=O)(OR)2を触媒に用い、1級アミンと常圧の二酸化炭素を原料とする尿素化合物の合成における触媒量に関する検討を行った。
【0050】
(尿素化合物の合成)
24径の二口試験管に加えるリン有機触媒の量を、表3に示す値(mоl%)に変更した以外は、試験例2の例2-6と同様の操作を行った。
【0051】
(結果)
表3に各例における尿素化合物の収率を示す。例2-6の結果を併記した。
リン有機触媒の量を25mol%から20mol%に減らした例3-1では、反応効率が低下し、収率が56%となった。
リン有機触媒の量を25mol%から30mol%に増やした例3-2では、反応効率が向上し、収率が83%となった。
【0052】
【0053】
<試験例4>
本試験例では、HP(=O)(OR)2を触媒に用い、1級アミンと常圧の二酸化炭素を原料とする尿素化合物の合成における基質(1級アミン)の適応範囲に関する検討を行った。
【0054】
(尿素化合物の合成)
1級アミンとして、表4に示す尿素化合物に対応するもの(2-(4-メチルフェニル)エチルアミン、2-(4-メトキシフェニル)エチルアミン、3-フェニルプロピルアミン、2-フェニルプロピルアミン、3,3-ジフェニルプロピルアミン、デシルアミン、シクロペンチルアミン、または3-エトキシプロピルアミン)を用いた以外は、試験例3の例3-2と同様の操作を行った。
【0055】
(結果)
表4に各例における尿素化合物の収率を示す。
上記8種の1級アミンのいずれを用いた場合でも、目的の尿素化合物が得られた。また、ほとんどの場合で効率良く目的の反応が進行した。
【0056】
【0057】
<試験例5>
本試験例では、ジシリルアミンと常圧の二酸化炭素を原料とする尿素化合物の合成におけるリン有機触媒に関する検討を行った。
【0058】
(尿素化合物の合成)
高純度窒素ガスを充填したグローブボックス内で、24径の二口試験管に、2-フェニルエチルジシリルアミン[(PhCH2CH2N(SiMe3)2](0.30mmol,90μL)、表5に示すリン有機触媒(P cat.)(0.075mmоl、25mоl%)、ジメチルアセトアミド(DMA)(1.0mL)を加え、一方の口を平栓で、もう一方の口をガラス製スリ付き三方コックで封をした。反応管をグローブボックスから取り出した後、液体窒素を用いて反応液を凍結させ、卓上ポンプで反応管内部の窒素を吸引し、そこに二酸化炭素を充填させたバルーンを取り付けることによって二酸化炭素置換を行った。反応液が室温に戻るまで静置した後、有機合成装置ChemiStation(EYELAパーソナル有機合成装置、PPS-5511型)を用いて120℃、1500rpmで撹拌した。24時間後、二酸化炭素の供給を停止し、有機合成装置ChemiStationから反応管を取り出した。反応液に1M希塩酸(10mL)を加え5分静置した後、ジクロロメタン(20mL)を入れた状態の分液漏斗に溶液を移し、分液操作を行った。有機層のみを瓶に取り出し、分液漏斗に残っている水層について、ジクロロメタン(20mL)を用いて2回抽出処理を行った。最後にジクロロメタン(20mL)を用いて分液漏斗内を洗浄した。一連の分液操作で回収した有機層を、無水硫酸ナトリウムを用いて脱水した後、濾過により硫酸ナトリウム水和物を除去した。続いて、減圧下で溶媒を留去し真空乾燥を行った。内部標準として1,3,5-トリメトキシベンゼン、重溶媒としてCDCl3を用い、1H NMR測定によって生成物である尿素化合物の収率を算出した。目的生成物である尿素化合物は薄層クロマトグラフィーによる精製を行い単離した。
1H NMRの測定条件は以下の通りである。
装置:JEOL JNM-AL400
溶媒:重クロロホルム(CDCl3)
温度:20℃
【0059】
(結果)
表5に各例における尿素化合物の収率を示す。
容易に入手可能な5価のリン化合物であるジフェニルホスフィンオキシド{HP(=O)Ph2}を触媒に用いた例5-1では、目的の尿素化合物は得られなかった。
1級アミンを用いた場合に良好な収率を示していたHP(=O)(OR)2を触媒に用いた例5-2~5-5では、目的の尿素化合物が得られた。この結果から、HP(=O)(OR)2が良好な触媒活性を示すことが確認された。
P(OPh)3を触媒に用いた例5-6でも、良好な収率で目的の尿素化合物が得られた。
HP(=O)(OR)2およびP(OPh)3以外のリン有機触媒Aを用いた例5-7~5-11でも、目的の尿素化合物が得られた。
【0060】
【0061】
<試験例6>
本試験例では、P(OPh)3を触媒に用い、ジシリルアミンと常圧の二酸化炭素を原料とする尿素化合物の合成における触媒量に関する検討を行った。
【0062】
(尿素化合物の合成)
24径の二口試験管に加えるリン有機触媒の量を、表6に示す値(mоl%)に変更した以外は、試験例5の例5-6と同様の操作を行った。
【0063】
(結果)
表6に各例における尿素化合物の収率を示す。例5-6の結果を併記した。
リン有機触媒の量を25mol%から10~20mol%に減らした例6-1~6-3やリン有機触媒の量を25mol%から30mol%に増やした例6-4では、いずれも反応効率が低下した。
【0064】
【0065】
<試験例7>
本試験例では、P(OPh)3を触媒に用い、ジシリルアミンと常圧の二酸化炭素を原料とする尿素化合物の合成における溶媒に関する検討を行った。
【0066】
(尿素化合物の合成)
DMAの代わりに表7に示す溶媒(Solv.)を用いた以外は、試験例5の例5-6と同様の操作を行った。
【0067】
(結果)
表7に各例における尿素化合物の収率を示す。例5-6の結果を併記した。
DMAと同様に一般的に用いられている極性溶媒であるDMF、NMP、DMSOを用いて反応を行った例7-1~7-3では、例5-6と同様に、目的の尿素化合物が得られた。
高沸点の無極性溶媒を用いた例7-4、7-5では、目的の尿素化合物が微量に検出された。
【0068】
【0069】
<試験例8>
本試験例では、P(OPh)3を触媒に用い、ジシリルアミンと常圧の二酸化炭素を原料とする尿素化合物の合成における溶媒量に関する検討を行った。
【0070】
(尿素化合物の合成)
24径の二口試験管に加えるDMAの量を、表8に示す値(XmL)に変更した以外は、試験例6の例6-3と同様の操作を行った。
【0071】
(結果)
表8に各例における尿素化合物の収率を示す。例6-3の結果を併記した。
溶媒量を1.0mLから0.1~0.5mLに減らした例8-1~8-3では、例6-3よりも高い収率で目的の尿素化合物が得られた。
無溶媒で反応を行った例8-4では、収率が20%に低下した。
【0072】
【0073】
<試験例9>
本試験例では、P(OPh)3を触媒に用い、ジシリルアミンと常圧の二酸化炭素を原料とする尿素化合物の合成における添加剤に関する検討を行った。
【0074】
(尿素化合物の合成)
24径の二口試験管に、ジシリルアミン、リン有機触媒およびDMAとともに、表9に示す添加剤(0.30mmоl、100mоl%)を加えた以外は、試験例8の例8-1と同様の操作を行った。
【0075】
(結果)
表9に各例における尿素化合物の収率を示す。例8-1の結果を併記した。
無機塩基であるK2CO3を用いた例9-1、有機塩基であるDBUまたはピリジンを用いた例9-2、9-3では、目的の尿素化合物が得られたが、収率は例8-1よりも低かった。
フェノール化合物を用いた例9-4~9-7では、例8-1よりも高い収率で目的の尿素化合物が得られた。
【0076】
【0077】
<試験例10>
本試験例では、P(OPh)3を触媒に用い、ジシリルアミンと常圧の二酸化炭素を原料とする尿素化合物の合成における添加剤に関する検討を行った。
【0078】
(尿素化合物の合成)
24径の二口試験管に、ジシリルアミン、リン有機触媒およびDMAとともに、表10に示す添加剤(0.30mmоl、100mоl%)を加え、リン有機触媒の量を15mоl%とした以外は、試験例8の例8-1と同様の操作を行った。
【0079】
(結果)
表10に各例における尿素化合物の収率を示す。
フェノール化合物を用いた例10-1~10-4では、例8-1よりも高い収率で目的の尿素化合物が得られた。
【0080】
【0081】
<試験例11>
本試験例では、P(OPh)3を触媒に用い、フェノールを添加剤とするジシリルアミンと常圧の二酸化炭素を原料とする尿素化合物の合成における溶媒に関する検討を行った。
【0082】
(尿素化合物の合成)
DMA0.5mLの代わりに表11に示す溶媒(Solv.)0.3mLを用い、反応温度を100℃とした以外は、試験例10の例10-4と同様の操作を行った。
【0083】
(結果)
表11に各例における尿素化合物の収率を示す。
DMAと同様に一般的に用いられている極性溶媒であるDMF、NMP、1,4-ジオキサン、DMSOを用いて反応を行った例11-2~11-5では、例10-4と同様に、目的の尿素化合物が得られた。
高沸点の無極性溶媒を用いた例11-6では、目的の尿素化合物が少量得られた。
【0084】
【0085】
<試験例12>
本試験例では、P(OPh)3を触媒に用い、ジシリルアミンと常圧の二酸化炭素を原料とする尿素化合物の合成における添加剤量に関する検討を行った。
【0086】
(尿素化合物の合成)
24径の二口試験管に加える添加剤(フェノール)の量を、表12に示す値(mоl%)に変更した以外は、試験例11の例11-4と同様の操作を行った。
【0087】
(結果)
表12に各例における尿素化合物の収率を示す。例11-4の結果を併記した。
【0088】
【0089】
<試験例13>
本試験例では、P(OPh)3を触媒に用い、ジシリルアミンと常圧の二酸化炭素を原料とする尿素化合物の合成における基質(1級アミン)の適応範囲に関する検討を行った。
【0090】
(尿素化合物の合成)
1級アミンとして、表13に示す尿素化合物に対応するもの(N,N-ビス(トリメチルシリル)-N-(2-フェニルエチル)アミン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-N-(2-(4-メチルフェニル)エチル)アミン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-N-(2-(4-ブロモフェニル)エチル)アミン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-N-(3-フェニルプロピル)アミン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-N-ベンジルアミン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-N-ヘキシルアミン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-N-(3-エトキシプロピル)アミン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-N-シクロヘキシルアミン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-N-(2-チエニルメチル)アミン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-N-[(1R)-1-フェニルエチル]アミン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-N-デシルアミン)を用いた以外は、試験例11の例11-4と同様の操作を行った。
【0091】
(結果)
表13に各例における尿素化合物の収率を示す。例11-4の結果を併記した。
上記11種のジシリルアミンのいずれを用いた場合でも、目的の尿素化合物が得られた。また、ほとんどの場合で効率良く目的の反応が進行した。
【0092】
【0093】
<試験例14>
本試験例では、HP(=O)(OR)2を触媒に用い、ジシリルアミンと常圧の二酸化炭素を原料とする尿素化合物の合成における添加剤に関する検討を行った。
【0094】
(尿素化合物の合成)
24径の二口試験管に、ジシリルアミン、リン有機触媒およびDMAとともに、表14に示す添加剤(0.60mmоl、200mоl%)を加えた以外は、試験例5の例5-4と同様の操作を行った。
【0095】
(結果)
表14に各例における尿素化合物の収率を示す。
K3PO4を添加した例14-1では、添加剤を加えなかった例5-4よりも収率が低かった。
DBU、ピリジン、K2CO3または4-ニトロフェノールを添加した例14-2~14-5では、例5-4よりも高収率で目的の尿素化合物が得られた。
【0096】
【0097】
<試験例15>
本試験例では、HP(=O)(OR)2を触媒に用い、ジシリルアミンと常圧の二酸化炭素を原料とする尿素化合物の合成における触媒量に関する検討を行った。
【0098】
(尿素化合物の合成)
24径の二口試験管に加えるリン有機触媒の量を、表15に示す値(mоl%)に変更した以外は、試験例14の例14-4と同様の操作を行った。
また、24径の二口試験管に加えるリン有機触媒の量を、表16に示す値(mоl%)に変更した以外は、試験例14の例14-5と同様の操作を行った。
【0099】
(結果)
表15~16に各例における尿素化合物の収率を示す。例14-4、14-5の結果を併記した。
表15に示すとおり、添加剤としてK2CO3を用いた系において、リン有機触媒の量を25mol%から30mol%に増やした場合、例14-4よりも反応効率が低下した。リン有機触媒の量を25mol%から20mol%に減らした場合、反応効率が例14-4とほぼ同等となった。リン有機触媒の量を25mol%から15mol%に減らした場合、例14-4よりも反応効率が低下した。
表16に示すとおり、添加剤として4-ニトロフェノールを用いた系において、リン有機触媒の量を25mol%から減らした場合、例14-5よりも反応効率が低下した。
【0100】
【0101】
【0102】
<試験例16>
本試験例では、HP(=O)(OR)2を触媒に用い、ジシリルアミンと常圧の二酸化炭素を原料とする尿素化合物の合成における添加剤量に関する検討を行った。
【0103】
(尿素化合物の合成)
24径の二口試験管に加える添加剤(4-ニトロフェノール)の量を、表17に示す値(mоl%)に変更した以外は、試験例14の例14-5と同様の操作を行った。
【0104】
(結果)
表17に各例における尿素化合物の収率を示す。例14-5の結果を併記した。
表17に示すとおり、添加剤量を25~100mol%に減らした場合でも、高い収率で目的の尿素化合物が得られた。
【0105】
【0106】
<試験例17>
本試験例では、HP(=O)(OR)2を触媒に用い、ジシリルアミンと常圧の二酸化炭素を原料とする尿素化合物の合成における複数の添加剤の併用に関する検討を行った。
【0107】
(尿素化合物の合成)
リン有機触媒の量を表18に示す量とし、添加剤としてK2CO3および4-ニトロフェノールを表18に示す量で用いた以外は、試験例14と同様の操作を行った。
【0108】
(結果)
表18に各例における尿素化合物の収率を示す。
表18に示すとおり、複数の添加剤を併用した場合でも、高い収率で目的の尿素化合物が得られた。
【0109】
【0110】
<試験例18>
本試験例では、添加剤として1-トリメチルシリル-1H-イミダゾール(TMSI)を用い、1級アミンと常圧の二酸化炭素を原料とする尿素化合物の合成におけるリン有機触媒に関する検討を行った。
【0111】
(尿素化合物の合成)
添加剤をフェノールからTMSIに変更し、表19に示す有機リン触媒を用いた以外は、試験例11の例11-4と同様の操作を行った。
【0112】
(結果)
表19に各例における尿素化合物の収率を示す。
【0113】
【0114】
<試験例19>
本試験例では、1級アミンと常圧の二酸化炭素を原料とする尿素化合物の合成における添加剤としてのシリル化剤に関する検討を行った。
【0115】
(尿素化合物の合成)
添加剤をTMSIから表20に示すシリル化剤に変更した以外は、試験例18の例18-4と同様の操作を行った。
【0116】
(結果)
表20に各例における尿素化合物の収率を示す。例18-4の結果を併記した。
【0117】