(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025034650
(43)【公開日】2025-03-13
(54)【発明の名称】眼科検査装置及び眼科検査方法
(51)【国際特許分類】
A61B 3/08 20060101AFI20250306BHJP
A61B 3/103 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
A61B3/08
A61B3/103
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023141156
(22)【出願日】2023-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】不二門 尚
(72)【発明者】
【氏名】多々良 陽子
(72)【発明者】
【氏名】行森 隆史
(72)【発明者】
【氏名】雜賀 誠
(72)【発明者】
【氏名】今 綾香
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA03
4C316AA13
4C316AA16
4C316AA24
4C316AA30
4C316FA01
4C316FA02
4C316FA04
4C316FY05
4C316FZ01
4C316FZ03
(57)【要約】
【課題】被検眼が輻湊と調節の不一致が起きる立体視に適応しやすいかどうかの評価ができる眼科検査装置及び眼科検査方法を提供すること。
【解決手段】眼科検査装置100は、視標投影系4と、他覚測定光学系6,7と、制御部140と、を備える。ディスプレイ41は、左右の被検眼EL,ERから一定の検査距離Lidだけ離れた視標位置に、同じアスタリスク82(図柄)を有する左眼投影視標8Lと右眼投影視標8Rを提示する。視標投影系4は、左右の被検眼EL,ERから左眼投影視標8Lと右眼投影視標8Rに向かうプリズム角を変えることで、左右の被検眼EL,ERの位置から2本の視線が交わる輻湊位置Rまでの輻湊距離Lが変化する状態を処方する。制御部140は、輻湊距離Lの変化に対し左右の被検眼EL,ERにより融像を試みたとき、左右の被検眼EL,ERの眼特性を他覚測定光学系により測定し、他覚測定情報として他覚屈折値を取得する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の被検眼に固視標を提示する視標提示部を有する視標投影系と、
前記左右の被検眼の眼特性を他覚的に測定する他覚測定光学系と、
装置の各部を制御する制御部と、を備え、
前記固視標は、前記左右の被検眼のそれぞれに投影し、同じ図柄を有する左眼投影視標と右眼投影視標であり、
前記視標提示部は、前記左右の被検眼から一定の検査距離だけ離れた視標位置に前記左眼投影視標と前記右眼投影視標を提示し、
前記視標投影系は、前記左右の被検眼から前記左眼投影視標と前記右眼投影視標に向かう視線角度を変えることで、前記左右の被検眼の位置から2本の視線が交わる輻湊位置までの輻湊距離が変化する状態を処方し、
前記制御部は、前記輻湊距離の変化に対し前記左右の被検眼により融像を試みたとき、前記左右の被検眼の前記眼特性を前記他覚測定光学系により測定し、他覚測定情報として他覚屈折値を取得する
ことを特徴とする眼科検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載された眼科検査装置において、
前記眼科検査装置は、自覚検査機能付きの他覚測定機であり、
前記制御部は、前記左右の被検眼による適応能力を評価する適応評価検査部を有し、前記適応評価検査部は、自覚検査処理部と他覚測定部を含み、
前記自覚検査処理部は、前記左右の被検眼から一定の検査距離だけ離れた視標位置に前記左眼投影視標と前記右眼投影視標を提示し、前記左右の被検眼から前記左眼投影視標と前記右眼投影視標に向かう視線角度を変える制御により、前記左右の被検眼の位置から2本の視線が交わる輻湊位置までの輻湊距離が変化する状態を処方し、
前記他覚測定部は、前記自覚検査処理部での処理と並列に実行され、前記輻湊距離の変化に対し前記左右の被検眼により融像を試みたとき、前記左右の被検眼の前記眼特性を前記他覚測定光学系により測定し、他覚測定情報として他覚屈折値を取得する
ことを特徴とする眼科検査装置。
【請求項3】
請求項2に記載された眼科検査装置において、
前記眼科検査装置は、左被検眼に対応して前記左眼投影視標及び左測定光学系を内蔵する左測定ヘッド部と、右被検眼に対応して前記右眼投影視標及び右測定光学系を内蔵する右測定ヘッド部と、を有し、
前記自覚検査処理部は、前記視線角度を変える制御を、前記左測定ヘッド部と前記右測定ヘッド部を互いに逆方向に回旋させる回旋角度を変える制御とする
ことを特徴とする眼科検査装置。
【請求項4】
請求項2に記載された眼科検査装置において、
前記自覚検査処理部は、前記輻湊距離の変化に対し前記左右の被検眼により融像を試みたとき、被検者から自覚回答を取得し、
前記適応評価検査部は、前記自覚検査処理部と前記他覚測定部に加え、前記自覚検査処理部にて取得した被検者からの自覚回答、及び、前記他覚測定部にて取得した前記他覚屈折値に基づいて、前記左右の被検眼の立体視への適応能力を判定する判定部を有する
ことを特徴とする眼科検査装置。
【請求項5】
請求項4に記載された眼科検査装置において、
前記判定部は、前記輻湊距離の変化に対し、両眼視による融像に対し肯定的な自覚回答が得られ、かつ、前記他覚屈折値の変化幅が所定範囲に抑えられていると、前記左右の被検眼が立体視へ適応しやすいと判定する
ことを特徴とする眼科検査装置。
【請求項6】
請求項4に記載された眼科検査装置において、
前記判定部は、前記輻湊距離の変化に対し、両眼視による融像に対し否定的な自覚回答が得られ、かつ、前記他覚屈折値の変化幅が所定範囲を超えると、前記左右の被検眼が立体視へ適応しにくいと判定する
ことを特徴とする眼科検査装置。
【請求項7】
請求項2に記載された眼科検査装置において、
前記適応評価検査部は、前記自覚検査処理部と前記他覚測定部に加え、前記他覚測定部にて取得した前記他覚屈折値に基づいて、前記左右の被検眼の立体視への適応能力を判定する判定部を有し、
前記判定部は、前記他覚測定部にて取得した前記他覚屈折値の時間軸による屈折値特性の変動幅である振幅を計測し、前記屈折値特性の変動周波数が低周波数帯のとき、前記振幅が判定閾値以上であると、前記左右の被検眼が疲労群に属すると判定する
ことを特徴とする眼科検査装置。
【請求項8】
請求項2から7までの何れか一項に記載された眼科検査装置において、
前記自覚検査処理部は、前記左右の被検眼から前記左眼投影視標と前記右眼投影視標に向かう視線角度を段階的に変える制御により、前記検査距離より遠い位置から前記検査距離より近い位置までの距離範囲で前記輻湊距離が段階的に変化する状態を処方し、
前記他覚測定部は、前記輻湊距離の各段階で前記左右の被検眼の前記眼特性を所定回数測定し、他覚測定情報として、各段階で得られた所定回数の他覚屈折値を平均した他覚屈折平均値を取得する
ことを特徴とする眼科検査装置。
【請求項9】
請求項2から7までの何れか一項に記載された眼科検査装置において、
前記自覚検査処理部は、前記左右の被検眼から前記左眼投影視標と前記右眼投影視標に向かう視線角度を無段階に変える制御により、前記検査距離より遠い位置から前記検査距離より近い位置までの距離範囲で前記輻湊距離が無段階に変化する状態を処方し、
前記他覚測定部は、前記輻湊距離が無段階に変化する状態で前記左右の被検眼の前記眼特性を測定し、他覚測定情報として、時系列で得られた他覚屈折値を取得する
ことを特徴とする眼科検査装置。
【請求項10】
左右の被検眼に固視標を提示する視標提示部を有する視標投影系と、
前記左右の被検眼の眼特性を他覚的に測定する他覚測定光学系と、
装置の各部を制御する制御部と、を備える眼科検査方法であって、
前記制御部は、
前記左右の被検眼を、自覚検査での完全矯正値が処方された状態とする完全矯正処方ステップと、
前記完全矯正値の処方に続き、前記視標提示部に同じ図柄を有する左眼投影視標と右眼投影視標を、前記左右の被検眼から一定の検査距離だけ離れた視標位置に提示する視標提示ステップと、
前記左右の被検眼から前記左眼投影視標と前記右眼投影視標に向かう視線角度を変える制御を行うことで、前記左右の被検眼の位置から2本の視線が交わる輻湊位置までの輻湊距離が変化する状態を処方する輻湊距離制御ステップと、
前記輻湊距離の制御と並列に実行され、前記輻湊距離の変化に対し前記左右の被検眼により融像を試みたとき、前記左右の被検眼の前記眼特性を前記他覚測定光学系により測定し、他覚測定情報として他覚屈折値を取得する調節反応量測定ステップと、
前記他覚屈折値に基づいて、前記左右の被検眼の立体視への適応能力を判定する判定ステップと、を有する
ことを特徴する眼科検査方法。
【請求項11】
請求項10に記載された眼科検査方法において、
前記眼科検査方法は、前記輻湊距離の変化に対し前記左右の被検眼により融像を試みたとき、前記融像に関する自覚回答を被検者から取得する自覚回答取得ステップを有し、
前記判定ステップは、前記自覚回答と前記他覚屈折値に基づいて、前記左右の被検眼の立体視への適応能力を判定する
ことを特徴する眼科検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科検査装置及び眼科検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科検査技術としては、例えば、特許文献1~特許文献5に記載されている技術が提案されている。特許文献1には、斜位を有する被検者の矯正レンズの処方をより適切に行うための検眼情報を提供する技術が記載されている。特許文献2には、被検眼が自然視に近く適切に融像した状態で測定できる眼科測定装置を提供する技術が記載されている。特許文献3には、被検眼の視線の位置を容易に確認し、適切な検眼を行うことができる検眼システムを提供する技術が記載されている。特許文献4には、眼位に関する状態の他覚的な検査を適切に行うことが可能な眼科装置を提供する技術が記載されている。特許文献5には、眼位に関する状態の他覚的な検査を適切に行うことが可能な眼科装置を提供する技術が記載されている。特許文献6には、両眼開放状態での検査を行う際に容易に融像状態を確認することができ、精度よく測定を行う技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-038942号公報
【特許文献2】特開2021-019957号公報
【特許文献3】特開2020-069201号公報
【特許文献4】特開2019-069049号公報
【特許文献5】特開2019-063238号公報
【特許文献6】特開2018-047050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、通常の3D映像を見ているときは、両眼で2つの像を単一視する融像のときの眼球運動である輻湊と、両眼で像にピントを合わせるときの調節機能である調節と、に不一致が起きる。つまり、輻湊と調節の間には、両眼で2つの視標を融像するとき、調節が一定で融像できる輻湊の幅(相対輻湊)と、輻湊が一定で融像できる調節の幅(相対調節)と、がある。このため、相対輻湊あるいは相対調節の範囲を超えると、調節反応に協働する輻湊運動(調節性輻湊)あるいは輻湊に誘発される調節作用(輻湊性調節)が起きることが知られている。ここで、「輻湊」とは、観察者から異なる距離(奥行き)にある対象物に視線を移動させたときに両眼が違う方向に動く眼球運動のうち、両眼が寄る方向の眼球運動のことをいう。
【0005】
これに対し、先行技術は、特許文献1~特許文献5の何れの文献をみても、被検眼から一定距離の位置に2つの視標を配置し、両眼で2つの視標を融像するとき、輻湊刺激を与えて輻湊と調節に不一致が起きる状態を再現する構成が記載されていない。このため、先行技術は、左右の被検眼が、輻湊と調節の不一致が起きる立体視に適応しやすいかどうかを評価できない。
【0006】
本発明は、上記課題に着目してなされたもので、左右の被検眼が、輻湊と調節の不一致が起きる立体視に適応しやすいかどうかを評価できる眼科検査装置及び眼科検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の眼科検査装置は、左右の被検眼に固視標を提示する視標提示部を有する視標投影系と、前記左右の被検眼の眼特性を他覚的に測定する他覚測定光学系と、装置の各部を制御する制御部と、を備える。前記固視標は、前記左右の被検眼のそれぞれに投影し、同じ図柄を有する左眼投影視標と右眼投影視標である。前記視標提示部は、前記左右の被検眼から一定の検査距離だけ離れた視標位置に前記左眼投影視標と前記右眼投影視標を提示する。前記視標投影系は、前記左右の被検眼から前記左眼投影視標と前記右眼投影視標に向かう視線角度を変えることで、前記左右の被検眼の位置から2本の視線が交わる輻湊位置までの輻湊距離が変化する状態を処方する。前記制御部は、前記輻湊距離の変化に対し前記左右の被検眼により融像を試みたとき、前記左右の被検眼の前記眼特性を前記他覚測定光学系により測定し、他覚測定情報として他覚屈折値を取得する。
【0008】
本発明の眼科検査方法は、完全矯正処方ステップと、視標提示ステップと、輻湊距離制御ステップと、調節反応量測定ステップと、判定ステップと、を有する。前記完全矯正処方ステップは、前記左右の被検眼を、自覚検査での完全矯正値が処方された状態とする。前記視標提示ステップは、前記完全矯正値の処方に続き、前記視標提示部に同じ図柄を有する左眼投影視標と右眼投影視標を、前記左右の被検眼から一定の検査距離だけ離れた視標位置に提示する。前記輻湊距離制御ステップは、前記左右の被検眼から前記左眼投影視標と前記右眼投影視標に向かう視線角度を変える制御を行うことで、前記左右の被検眼の位置から2本の視線が交わる輻湊位置までの輻湊距離が変化する状態を処方する。前記調節反応量測定ステップは、前記輻湊距離の制御と並列に実行され、前記輻湊距離の変化に対し前記左右の被検眼により融像を試みたとき、前記左右の被検眼の前記眼特性を前記他覚測定光学系により測定し、他覚測定情報として他覚屈折値を取得する。前記判定ステップは、前記他覚屈折値に基づいて、前記左右の被検眼の立体視への適応能力を判定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る眼科検査装置及び眼科検査方法は、左右の被検眼が、輻湊と調節の不一致が起きる立体視に適応しやすいかどうかを評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1の眼科検査装置における外観斜視図を示す。
【
図2】実施例1の眼科検査装置における左測定光学系の概略構成例を示す。
【
図3】実施例1の眼科検査装置における制御ブロック構成を示す。
【
図4】実施例1の眼科検査方法の処理手順をあらわすフローチャートを示す。
【
図6】2本の視線が交わる輻湊位置までの輻湊距離説明図を示す。
【
図7A】輻湊位置までの輻湊距離が検査距離と一致している例を示す。
【
図7B】輻湊位置までの輻湊距離が検査距離より近い例を示す。
【
図7C】輻湊位置までの輻湊距離が検査距離より遠い例を示す。
【
図8A】輻湊と調節の測定でのプリズム角タイムチャートを示す。
【
図8B】健常眼例による輻湊と屈折度(調節)の測定結果例を示す。
【
図8C】疲労群による輻湊と屈折度(調節)の測定結果例1を示す。
【
図8D】疲労群による輻湊と屈折度(調節)の測定結果例2を示す。
【
図8E】健常群と疲労群による屈折時間変化周波数の解析結果例を示す。
【
図9】複数の被検眼が測定対象のプリズム角と他覚屈折値の関係特性を示す。
【
図10】実施例2の眼科検査方法の処理手順をあらわすフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の眼科検査装置及び眼科検査方法を実施するための形態は、図面に示す実施例1及び実施例2に基づいて以下のように説明される。
【0012】
実施例1及び実施例2に適用される眼科検査装置は、被検者が左右の被検眼を開放した状態で、眼特性を両眼同時に測定可能な両眼開放タイプの装置である。この眼科検査装置は、片眼を遮蔽したり、固視標を消灯したりすることで、眼特性を片眼ずつ測定することも可能である。また、眼科検査装置は、視標提示機能、フォロプター機能、オートレフ・ケラト測定機能を備える自覚検査機能付きの他覚測定機である。つまり、検者は、眼科検査装置を用いて、任意の他覚検査及び自覚検査を行い、被検眼の眼特性を他覚的及び自覚的に測定可能である。
【0013】
眼科検査装置によって実施可能な他覚検査は、被検眼の眼特性を取得するための測定と、被検眼の画像を取得するための撮影とを含む。他覚検査は、屈折力測定(レフラクト測定)、角膜形状測定(ケラト測定)、眼圧測定、眼底撮影、光コヒーレンストモグラフィ(以下、OCT:「Optical Coherence Tomographyの略」という。)を用いた断層像撮影(OCT撮影)、OCTを用いた計測などがある。また、自覚検査では、被検者に視標などが提示され、提示された視標などに対する被検者の応答に基づいて被検眼に関する情報(眼特性)が測定される。自覚検査には、遠用検査、中間距離用検査、近用検査、コントラスト検査、グレア検査などの自覚屈折測定や、視野検査などがある。
【実施例0014】
[装置の全体構成(
図1)]
眼科検査装置100の全体構成は、
図1を参照して以下のように説明される。眼科検査装置100は、
図1に示したように、支持基台110と、測定ユニット120と、検者用コントローラ130と、制御部140と、を備える。図面及び説明で用いる各軸は、被検者から見たとき、左右方向の軸(水平軸)がX軸であり、上下方向の軸(鉛直軸)がY軸であり、X軸及びY軸と直交する奥行き方向の軸(前後軸)がZ軸である。
【0015】
支持基台110は、床面から起立した支柱111と、支柱111によって支持された検眼用テーブル112と、を有する。検眼用テーブル112は、検者用コントローラ130などの検眼に用いる装置や用具を置いたり、被検者の姿勢を支えたりする台である。検眼用テーブル112は、Y軸方向の位置(高さ位置)が固定であってもよいし、Y軸方向の位置(高さ位置)を調節可能に支柱111に支持してもよい。
【0016】
測定ユニット120は、アーム121と、測定ヘッド122と、額当部123と、を有する。アーム121は、一端が支柱111の先端部に支持され、他端がZ方向に沿って支柱111から手前側(被検者側)へと延び、先端部に測定ヘッド122が取り付けられている。これにより、測定ヘッド122は、検眼用テーブル112の上方でアーム121を介して支柱111に吊下げられる。また、アーム121は、支柱111に対してY軸方向に移動可能である。なお、アーム121は、支柱111に対してX軸方向やZ軸方向にも移動可能としてもよい。
【0017】
測定ヘッド122は、被検眼の眼特性を測定する。測定ヘッド122は、駆動部122aと、駆動部122aの下側に設けられた左右一対の左測定ヘッド部122L及び右測定ヘッド部122Rと、額当部123と、を有する。ここで、左測定ヘッド部122L及び右測定ヘッド部122Rは、被検者の左右の被検眼に個別に対応している。
【0018】
駆動部122aは、左測定ヘッド部122L及び右測定ヘッド部122Rを、それぞれ個別に水平方向(X軸方向)の移動駆動、鉛直方向(Y軸方向)の移動駆動、X軸を中心とする回旋駆動、Y軸を中心とする回旋駆動させる機構である。
【0019】
左測定ヘッド部122Lは、左測定光学系125Lを内蔵している。左測定光学系125Lは、被検者の左側の被検眼(以下、「左被検眼」)に視標を提示すると共に、任意の球面度数(矯正度数)に設定した状態で左被検眼の眼特性を測定する。右測定ヘッド部122Rは、右測定光学系125Rを内蔵している。右測定光学系125Rは、被検者の右側の被検眼(以下、「右被検眼」)に視標を提示すると共に、任意の球面度数(矯正度数)に設定した状態で右被検眼の眼特性を測定する。左測定光学系125L及び右測定光学系125Rによる測定結果は、以下、他覚測定情報という。なお、左測定光学系125L及び右測定光学系125Rの詳しい構成は、後述の「光学系の構成」において説明する。
【0020】
額当部123は、測定ユニット120に設けられ、左測定ヘッド部122L及び右測定ヘッド部122Rの間に配置されている。額当部123は、眼特性の測定中に被検者の顔の一部(額)を接触させることで被検者の顔を支持する。すなわち、検眼用テーブル112に正対する被検者は、額当部123に被検者自身の額を押し当て、顔の向きや位置が動かないように安定させる。額当部123の高さ方向の位置調整は、アーム121を支柱111に対してY軸方向に移動することで行われる。
【0021】
検者用コントローラ130は、検者による入力操作を受け付け、制御部140に制御信号を出力する情報処理装置である。検者用コントローラ130は、例えば、タブレット端末やスマートフォンなどであり、測定ユニット120から分離し、検者によって携帯可能になっている。なお、検者用コントローラ130は、ノート型パーソナルコンピュータやデスクトップ型パーソナルコンピュータなどであってもよいし、眼科検査装置100に設けられた専用のコントローラであってもよい。検者用コントローラ130は、無線通信やネットワーク通信を介して制御部140と情報をやりとりする。
【0022】
検者用コントローラ130は、
図1に示すように、表示部131と、図示しない操作側制御部と、を備えている。表示部131は、検者用コントローラ130の表面に設けられたタッチパネルディスプレイからなり、入力ボタン132(
図3を参照)などが画面表示により設定される。操作側制御部は、検者用コントローラ130に内蔵されたマイクロコンピュータからなる。操作側制御部は、制御部140から送信された測定結果や検知結果に基づいて表示部131に表示する画像を制御する。また、操作側制御部は、表示された入力ボタン132などに対する操作に応じた制御信号を制御部140に出力する。
【0023】
[光学系の構成(
図2)]
左測定光学系125L及び右測定光学系125Rの詳しい構成は、
図2を参照して以下のように説明される。なお、左測定光学系125Lと右測定光学系125Rは、同一の構成である。このため、本書は、右被検眼ERに対応する右測定光学系125Rの図示及び説明を省略し、左被検眼ELに対応する左測定光学系125Lについてのみ説明する。
【0024】
左測定光学系125Lは、左被検眼ELに視標を提示して検査を行う光学系である。左測定光学系125Lは、
図2に示すように、Zアライメント系1と、XYアライメント系2と、ケラト測定系3と、視標投影系4と、前眼部観察系5と、レフ測定投射系6と、レフ測定受光系7と、を備える。なお、以下の説明で用いる「眼底共役位置P」は、アライメントが完了した状態での左被検眼ELの眼底ELfと光学的に略共役な位置であり、左被検眼ELの眼底ELfと光学的に共役な位置又はその近傍を意味するものとする。「瞳孔共役位置Q」は、アライメントが完了した状態での左被検眼ELの瞳孔と光学的に略共役な位置であり、左被検眼ELの瞳孔と光学的に共役な位置又はその近傍を意味するものとする。
【0025】
Zアライメント系1は、前眼部観察系5の光軸方向(前後方向=Z軸方向)におけるアライメントを行う光(赤外光)を左被検眼ELに投射する。Zアライメント光源11から出力した光は、投影レンズ12で平行光束にし、ケラト板31に形成したアライメント用孔を通して左被検眼ELの角膜に投射する。制御部140又は検者は、角膜に投射した輝点に基づいて、撮像素子59上のZアライメント光源11による二個の点像の間隔と、ケラトリング像の直径と、の比が所定範囲内に収まるように駆動部122aを制御し、左測定光学系125LをZ軸方向に移動する。
【0026】
XYアライメント系2は、前眼部観察系5の光軸(Z軸)に直交するX軸方向とY軸方向のアライメントを行う光(赤外光)を左被検眼ELに照射する。XYアライメント系2は、ハーフミラー54により前眼部観察系5から分岐した光路に設けられたXYアライメント光源21と、投影レンズ22と、を含む。XYアライメント光源21から出力する光は、投影レンズ22を透過し、ハーフミラー54により反射し、前眼部観察系5を通じて左被検眼ELに投射する。左被検眼ELの角膜による反射光は、前眼部観察系5を通じて撮像素子59に導く。なお、XYZの各方向のアライメント方法は、Zアライメント系1やXYアライメント系2を用いる方法に限らない。例えば、眼科装置100に設置したステレオカメラを用いる等して被検眼Eの位置計測が行える方法であれば良い。
【0027】
ここで、角膜による反射光に基づく像(輝点像)は、前眼部像に含まれる。制御部140は、輝点像を含む前眼部像と、アライメントマークと、を表示部131に表示する制御を行う。手動でXYアライメントを行う場合、検者は、検者用コントローラ130を用いて、アライメントマーク内に輝点像を誘導するように駆動部122aを制御し、左測定光学系125LのX軸方向及びY軸方向の移動操作を行う。自動でXYアライメントを行う場合、制御部140は、アライメントマークに対する輝点像の変位をキャンセルするように駆動部122aを制御し、左測定光学系125LをX軸方向及びY軸方向に移動する。
【0028】
ケラト測定系3は、左被検眼ELの角膜の形状を測定するリング状光束(赤外光)を角膜に投射する。ケラト板31は、対物レンズ52と左被検眼ELの間の位置に配置され、背面側(対物レンズ52側)にケラトリング光源32が設けられる。ケラトリング光源32は、背面からの光でケラト板31を照明することにより、左被検眼ELの角膜にリング状光束を投射する。左被検眼ELの角膜からの反射光(ケラトリング像)は、撮像素子59により前眼部像と共に検出する。制御部140は、ケラトリング像を基に公知の演算を行うことで、角膜の形状を表す角膜形状パラメータを算出する。
【0029】
視標投影系4は、固視標や自覚検査用視標などの各種視標を左被検眼ELに提示する。視標投影系4は、ディスプレイ41と、ハーフミラー42と、リレーレンズ43と、反射ミラー44と、合焦レンズ45と、リレーレンズ46と、フィールドレンズ47と、バリアブルクロスシリンダレンズ(VCC)48と、反射ミラー49と、を有する。視標投影系4は、ダイクロイックミラー68をレフ測定投射系6と共用する。視標投影系4は、ダイクロイックミラー53及び対物レンズ52を前眼部観察系5と共用する。さらに、視標投影系4は、左眼投影視標を表示するディスプレイ41などに至る光路とは別の光路で光軸を取り巻く位置に、左被検眼ELにグレア光を照射する少なくとも2つのグレア光源41aを有する。
【0030】
ディスプレイ41から出力した光は、ハーフミラー42により反射し、リレーレンズ43を透過し、反射ミラー44により反射し、合焦レンズ45を透過する。合焦レンズ45を透過した光は、リレーレンズ46を透過し、フィールドレンズ47によって進行方向が揃えられてからVCC48を透過し、反射ミラー49で反射し、ダイクロイックミラー68を透過し、ダイクロイックミラー53により反射する。ダイクロイックミラーにより反射した光は、対物レンズ52を通過して眼底ELfに投射する。
【0031】
ディスプレイ41は、他覚検査を行う際や左被検眼ELに雲霧をかけるときなどに視線を固定する視標としての固視標や点状視標、あるいは、左被検眼ELの眼特性(視力値、遠用度数、近用度数など)を自覚的に検査する自覚検査視標、などを表示する。ディスプレイ41は、液晶ディスプレイを用いている。なお、ディスプレイ41としては、有機ELディスプレイなどを用いることもできる。そして、左被検眼ELと右被検眼ERに投影する視標は、静止像や動画像の視標として任意に作成することができ、作成した視標をチャートページに選択可能なチャートアイコンとして登録できる。ディスプレイ41は、作成された静止像による視標又は作成された動画像による視標を、チャートページから選択して表示することができる。ディスプレイ41は、視標投影系4の光路上において、眼底共役位置Pに設けられる。
【0032】
合焦レンズ45は、制御部140によって制御される図外の駆動モータにより、光軸方向に進退駆動する。制御部140は、合焦レンズ45を左被検眼ELに近づく方向へ移動する制御を行うと、左被検眼ELの球面度数をマイナスディオプター側(-D側)に変える。また、制御部140は、合焦レンズ45を左被検眼ELから離反する方向へ移動する制御を行うと、左被検眼ELの球面度数をプラスディオプター側(+D側)に変える。さらに、制御部140は、合焦レンズ45の進退駆動を制御することにより、左被検眼ELから視標提示位置までの検査距離を変更する。ここで、合焦レンズ45とレフ測定光源61と合焦レンズ74は、連動して移動する構成としている。
【0033】
自覚検査を行う場合、制御部140は、他覚測定の結果に基づき合焦レンズ45を光軸方向に移動し、検査距離や左被検眼ELの球面度数を制御する。そして、制御部140は、検者又は制御部140によって選択された所定の視標をディスプレイ41に表示する。これにより、当該視標が、所定の球面度数に調整された左被検眼ELに対し、所定の検査距離で被検者に提示される。また、被検者が視標に対する自覚回答を行うと、回答内容の入力を受ける。例えば、制御部140は、視力測定の場合、ランドルト環などに対する被検者からの自覚回答に基づいて、検者は次の視標を選択して提示し、これを繰り返し行うことで視力値を決定する。
【0034】
前眼部観察系5は、左被検眼ELの前眼部の観察及び前眼部の撮影をする。前眼部照明光源51は、左被検眼ELの前眼部に照明光(例えば、赤外光)を照射する。左被検眼ELの前眼部により反射した光は、対物レンズ52を通過し、ダイクロイックミラー53を透過し、ハーフミラー54を透過し、リレーレンズ55及びリレーレンズ56を通過し、ダイクロイックミラー57を透過する。ダイクロイックミラー57を透過した光は、結像レンズ58により撮像素子59の撮像面にて結像する。撮像素子59は、所定のレートで撮像及び信号出力を行う。撮像素子59の出力(映像信号)は、制御部140に入力される。制御部140は、撮像素子59の出力である映像信号に基づく前眼部像(動画像)を、検者用コントローラ130の表示部131に表示する。前眼部観察系5の光学系における撮像素子59の撮像面は、瞳孔共役位置Qに配置されている。
【0035】
レフ測定投射系6及びレフ測定受光系7は、左被検眼ELの眼特性として、他覚屈折値を測定する他覚屈折測定(レフ測定)に用いる他覚測定光学系である。以下、レフ測定投射系6及びレフ測定受光系7は、他覚測定光学系6,7という。レフ測定投射系6は、レフ測定光源61からの他覚測定用のリング状光束(赤外光)を眼底ELfに投射する。レフ測定受光系7は、このリング状光束の左被検眼ELからの戻り光を受光する。
【0036】
レフ測定光源61は、発光径が所定のサイズ以下の高輝度光源であるSLD(Super luminescent Diode)光源であってよい。レフ測定光源61は、合焦レンズ45及び合焦レンズ74と連動して光軸方向に移動可能であり、眼底共役位置Pに配置される。リング絞り65(具体的には、透光部)は、瞳孔共役位置Qに配置されている。合焦レンズ74は、レフ測定光源61及び合焦レンズ45と連動して光軸方向に移動可能である。合焦レンズ74は、制御部140からの制御を受け、焦点位置を変更可能な公知の焦点可変レンズであってもよい。レフ測定受光系7の光学系における撮像素子59の撮像面は、眼底共役位置Pに配置されている。
【0037】
レフ測定光源61から出力された光は、リレーレンズ62を通過し、円錐プリズム63の円錐面に対し入射する。円錐面に入射した光は偏向し、円錐プリズム63の底面から出射する。円錐プリズム63の底面から出射した光は、フィールドレンズ64を通過し、リング絞り65にリング状に形成された透光部を通過する。リング絞り65の透光部を通過した光(リング状光束)は、孔開きプリズム66の反射面により反射し、ロータリープリズム67を通過し、ダイクロイックミラー68により反射する。ダイクロイックミラー68により反射した光は、ダイクロイックミラー53により反射し、対物レンズ52を通過し、左被検眼ELに投射する。
【0038】
円錐プリズム63は、瞳孔共役位置Qに可能な限り近い位置に配置されることが望ましい。円錐プリズム63は、例えば、フィールドレンズ64に臨む底面にリング絞り65が貼り付けられていてもよい。この場合、例えば、円錐プリズム63の底面には、リング状の透光部が形成されるように遮光膜が蒸着される。また、リング絞り65が円錐プリズム63の円錐面の側にあってもよい。
【0039】
フィールドレンズ64は、例えば、左被検眼ELの側のレンズ面にリング絞り65が貼り付けられていてもよい。この場合、例えば、フィールドレンズ64のレンズ面には、リング状の透光部を形成するように遮光膜が蒸着される。なお、レフ測定投射系6は、フィールドレンズ64を省略した構成であってもよい。リング絞り65は、所定の測定パターンに対応した形状を有する透光部が形成した絞りであってよく、この絞りに、レフ測定投射系6の光軸に対して偏心した位置に透光部を形成してもよい。また、絞りには、2以上の透光部が形成されていてもよい。ロータリープリズム67は、眼底ELfの血管や疾患部位に対するリング状光束の光量分布の平均化や光源に起因するスペックルノイズの低減のために用いられる。
【0040】
眼底ELfに投射したリング状光束の戻り光は、対物レンズ52を通過し、ダイクロイックミラー53及びダイクロイックミラー68により反射する。ダイクロイックミラー68により反射した戻り光は、ロータリープリズム67を通過し、孔開きプリズム66の孔部を通過し、リレーレンズ71を通過し、反射ミラー72により反射し、リレーレンズ73及び合焦レンズ74を通過する。合焦レンズ74を通過した光は、反射ミラー75により反射し、ダイクロイックミラー57により反射し、結像レンズ58により撮像素子59の撮像面にて結像する。
【0041】
制御部140は、撮像素子59からの出力を基に公知の演算を行うことで眼屈折力のパラメータを算出する。なお、眼屈折力のパラメータは、左右の被検眼EL,ERの屈折値(屈折度数)や球面度数、乱視度数及び乱視軸角度を含む。制御部140は、検者用コントローラ130から送信された制御信号に基づいて、レフ測定投射系6及びレフ測定受光系7や視標投影系4などを有する左測定光学系125L及び右測定光学系125Rや、駆動部122aを含む測定ユニット120の各部を統括的に制御する。また、制御部140は、測定ヘッド122で測定した左被検眼EL及び右被検眼ERの眼特性の測定結果を検者用コントローラ130に送信する。
【0042】
[制御部の構成(
図3)]
制御部140の構成は、
図3を参照して以下のように説明される。制御部140は、
図3に示すように、主制御部141と、記憶部142と、適応評価検査部143と、を備える。
【0043】
主制御部141は、Zアライメント系1のZアライメント光源11、XYアライメント系2のXYアライメント光源21、ケラト測定系3のケラトリング光源32の光量変更制御や点灯/非点灯の切り替え制御を行う。主制御部141は、視標投影系4のディスプレイ41に表示される視標のオン・オフ制御や視標の切り替え制御を行う。主制御部141は、前眼部観察系5の前眼部照明光源51の光量変更制御や点灯/非点灯の切り替え制御を行う。主制御部141は、前眼部観察系5の撮像素子59の露光時間変更制御や検出感度変更制御を行う。主制御部141は、レフ測定投影系6のレフ測定光源61の光量変更制御や点灯/非点灯の切り替え制御を行う。主制御部141は、レフ測定投影系6のロータリープリズム67の回転速度変更制御及び回転動作のオン・オフ切り替え制御を行う。また、主制御部141は、視標投影系4の合焦レンズ45と、レフ測定投影系6のレフ測定光源61と、レフ測定受光系7の合焦レンズ74を、連動して光軸方向へ移動させる移動制御を行う。なお、主制御部141は、記憶部142にデータを書き込む処理や記憶部142からデータを読み出す処理を行う。
【0044】
記憶部142は、各種データを記憶する。記憶部142への記憶データとしては、ケラト測定系3により得られた測定情報、他覚測定光学系6,7により得られた測定情報、撮像素子59により取得された画像データ、被検眼情報などがある。被検眼情報は、患者IDや氏名などの被検者に関する情報や、左眼/右眼の識別情報などの左右の被検眼EL,ERに関する情報を含む。ケラト測定系3により得られた測定情報は、左右の被検眼EL,ERのケラト測定が行われたときに記憶部142に保存される。他覚測定光学系6,7により得られた測定情報は、左右の被検眼EL,ERのレフラクト測定が行われたときに記憶部142に保存される。記憶部142は、左右の被検眼EL,ERの角膜形状パラメータの算出処理や屈折値の算出処理の作業メモリとして用いてもよい。また、記憶部142には、眼科検査装置100を動作させる各種プログラムやデータが記憶されている。
【0045】
適応評価検査部143は、左右の被検眼EL,ERによる立体視への適応能力を評価する検査を行う。適応評価検査部143は、自覚検査処理部144と、他覚測定部145と、判定部146と、を含む。
【0046】
自覚検査処理部144は、左右の被検眼EL,ERを、自覚検査での完全矯正値が処方された状態とし、左右の被検眼EL,ERから一定の検査距離(例えば、1m)だけ離れた視標位置に左眼投影視標と右眼投影視標をそれぞれ提示する。左眼投影視標と右眼投影視標は、視標投影系4に有する左右の被検眼EL,ERに固視標を提示するディスプレイ41(視標提示部)に設定されている。左眼投影視標と右眼投影視標は、左右の被検眼EL,ERのそれぞれに投影する。左被検眼ELに投影する左眼投影視標と右被検眼ERに投影する右眼投影視標は、視標フレームの中心位置に同じ図柄を有する。
【0047】
自覚検査処理部144は、左右の被検眼EL,ERから左眼投影視標と右眼投影視標に向かう視線角度を変える制御により、左右の被検眼EL,ERの位置から2本の視線が交わる輻湊位置までの輻湊距離が変化する状態を処方する。眼科検査装置100は、左被検眼ELに対応して左眼投影視標及び左測定光学系125Lを内蔵する左測定ヘッド部122Lと、右被検眼ERに対応して右眼投影視標及び右測定光学系125Rを内蔵する右測定ヘッド部122Rと、を有する(
図1を参照)。よって、自覚検査処理部144は、視線角度を変える制御を、左右の被検眼EL,ERを通る2本の回旋軸(Y軸方向)を中心とし、左測定ヘッド部122Lと右測定ヘッド部122Rを、互いに逆方向に回旋させるときの回旋角度を変える制御(回旋角度制御)により実現する。回旋角度制御は、自覚検査処理部144からの指令を基に駆動部122aにより行われる。
【0048】
左測定ヘッド部122Lと右測定ヘッド部122Rは、回旋角度制御を行うと、左右の被検眼EL,ERから視標を表示するディスプレイ41に向かう視標投影系4の光軸の角度が変えられる。すなわち、回旋角度制御は、視標投影系4の光軸上の何れかの位置にプリズムレンズを加え、プリズムレンズにより偏角を変える制御を行う構成と等価になる。このため、視線角度は、以下、プリズムレンズのプリズム度数をあらわす「プリズム角」という。ちなみに、プリズムレンズは、レンズを通過した光が1m先の垂直スクリーン上で1cmずれるとき、このプリズム度数を1Δ(1プリズムディオプター)といい、このときの偏角は0.57度になる。ここでは、輻湊距離が被検眼に近くなる(眼を内向きに回旋させる)方向のプリズム度数をプラス、輻湊距離が被検眼から遠くなる(眼を外向きに回旋させる)方向のプリズム度数をマイナスとして以下の説明を行う。
【0049】
自覚検査処理部144は、左右の被検眼EL,ERから左眼投影視標と右眼投影視標に向かうプリズム角を段階的に変える制御により、検査距離より遠い位置から検査距離より近い位置までの距離範囲で輻湊距離が段階的に変化する状態を処方する。自覚検査処理部144は、輻湊距離の段階的な変化に対し左右の被検眼EL,ERにより融像を試みたとき、被検者から自覚回答を取得する。
【0050】
他覚測定部145は、自覚検査処理部144での処理と並列に実行される。他覚測定部145は、輻湊距離の変化に対し左右の被検眼EL,ERにより融像を試みたとき、左右の被検眼EL,ERの眼特性を他覚測定光学系6,7により測定し、他覚測定情報として他覚屈折値を取得する。ここで、自覚検査処理部144での処理は、輻湊距離が段階的に変化する状態を処方する処理である。このため、他覚測定部145は、変化する輻湊距離の各段階で左右の被検眼EL,ERの眼特性を所定回数測定し、他覚測定情報として、各段階で得られた所定回数の他覚屈折値を平均した他覚屈折平均値を取得する。
【0051】
判定部146は、自覚検査処理部144にて取得した被検者からの自覚回答、及び、他覚測定部145にて取得した他覚屈折値(レフ値)に基づいて、左右の被検眼EL,ERの立体視への適応能力を判定する。判定部146は、輻湊距離の変化にかかわらず両眼視による融像に対し肯定的な自覚回答が得られ、かつ、輻湊距離の変化にかかわらず他覚屈折値の変化幅が所定範囲に抑えられていると、左右の被検眼EL,ERが立体視へ適応しやすいと判定する。判定部146は、輻湊距離が変化したときに両眼視による融像に対し否定的な自覚回答が得られ、かつ、輻湊距離が変化したときに他覚屈折値の変化幅が所定範囲を超えると、左右の被検眼EL,ERが立体視へ適応しにくいと判定する。
【0052】
[立体視への適応能力を評価する処理の構成及び作用の流れ(
図4)]
適応評価検査部143において実行される立体視への適応能力を評価する処理の構成及び作用の流れは、
図4に示すフローチャートを参照しながら以下のように説明される。
図4は、適応評価検査部143での動作一例を示す。
【0053】
ステップS1は、主制御部141が、リング像の撮像画像などに基づいて、左右の被検眼EL,ERの屈折値を含む眼特性を取得する予備測定ステップである。なお、予備測定は、二回以上実行させ、繰り返すたびに測定条件が収束するように、各回の予備測定により、同一種別の測定条件を決定してもよいし、異なる種別の測定条件を決定してもよい。各回の予備測定は、得られたリング像に基づいて、例えば、レフ測定光源61からの光量、撮像素子59の露光時間、撮像素子59の検出感度、及び合焦レンズ74に対する制御内容のうち少なくとも一つが決定される。
【0054】
ステップS2は、主制御部141が、最後に実行された予備測定により決定された測定条件の下で、目的とする左右の被検眼EL,ERの他覚屈折値を測定する本測定ステップである。なお、左右の被検眼EL,ERの他覚屈折値の測定は、以下の手順で行われる。すなわち、主制御部141は、レフ測定投射系6によって左右の被検眼EL,ERの眼底ELf,ERfに他覚測定用のリング状光束(赤外光)を投影する。そして、主制御部141は、レフ測定受光系7によって、眼底ELf,ERfからのリング状光束の戻り光を検出(受像)し、撮像素子59からの画像信号に基づき、左右の被検眼EL,ERの他覚屈折値を周知の手法により取得する。
【0055】
ステップS3は、主制御部141が、左右の被検眼EL,ERのそれぞれに対して自覚検査の開始設定を行う自覚検査の開始設定ステップである。ここで、「自覚検査の開始設定」とは、本測定において得られた左右の被検眼EL,ERの屈折値に基づいて、左右の被検眼EL,ERの球面度数を、検査距離が遠見の位置で完全矯正状態となるように、視標投影系4における合焦レンズ45の位置を調整することをいう。
【0056】
ステップS4は、主制御部141が、RGチャートを用いるRG検査を実施するRG検査ステップである。ここで、「RG検査」とは、RGチャートを用い、色収差と呼ばれる光の特性を使って左右の被検眼EL,ERのそれぞれの矯正状態が完全矯正状態(適正)であるか(過矯正又は低矯正になっていないか)を自覚的にチェックする検査をいう。また、「RGチャート」とは、例えば、大きさが異なる数字と大きさが異なる◎印及び〇印とを視標とする赤色アイコンと、赤色アイコンと同じ形状の視標による緑色アイコンを左右に並べたものである。RG検査は、眼の透光体の特性上、波長の短い光ほど、屈折面でのパワーが大きいため、緑の波長の光は赤の波長の光に比べると入射側方向にずれた位置に結像する。このため、左右の被検眼EL,ERが低矯正の状態では、赤い視標の方がはっきり見え、左右の被検眼EL,ERが過矯正の状態では、緑の視標の方がはっきり見える。よって、被検者が、RGチャートの緑と赤の視標が均等に見えるまでステップS4及びステップS5を繰り返し、合焦レンズ45の位置を変更して左右の被検眼EL,ERの球面度数(矯正度数)を調整する操作を行う。この結果、左右の被検眼EL,ERは、RG検査での仮決定値により完全矯正値が処方された状態になる。
【0057】
なお、ステップS1~ステップS4は、左右の被検眼EL,ERを、自覚検査での完全矯正値が処方された状態とする完全矯正処方ステップに相当する。但し、左右の被検眼EL,ERの完全矯正値は、実施例1でのRG検査での仮決定値ではなく、例えば、別途測定した値、現在の眼鏡での処方値、自覚検眼を一通り行って決定した値、などのうち何れかの値であってもよい。また、このとき斜位、斜視検査を行って被検眼EL,ERの眼位を矯正してもよい。
【0058】
ステップS5は、自覚検査処理部144が、初期プリズム角と検査距離を設定し、左眼投影視標と右眼投影視標を融像させたときの輻湊位置までの輻湊距離と、左右の被検眼EL,ERから視標位置までの検査距離と、を一致させる視標提示ステップである。ステップS5は、初期プリズム角を、例えば、輻湊距離と検査距離を一致(0Δ)させるように回旋角度制御を行い、左右の被検眼EL,ERからの検査距離を、例えば、1mの位置に設定する合焦レンズ制御を行う。このステップS5は、完全矯正値の処方に続き、ディスプレイ41(視標提示部)に有する視標フレームの中心位置に同じ図柄を有する左眼投影視標と右眼投影視標を、左右の被検眼EL,ERから一定の検査距離だけ離れた視標位置に提示する視標提示ステップに相当する。
【0059】
ステップS6は、自覚検査処理部144が、左眼投影視標と右眼投影視標の融像に関する自覚回答を被検者から取得する自覚回答ステップである。自覚回答としては、例えば、左眼投影視標と右眼投影視標の融像により視標が1個に見えているかどうかの回答を取得する。ここで、1個に見えていない場合は、被検眼が適切に検査を行えているか確認のうえ、行えていなければ適切な状態になるように設定をし直し、行えているようであれば検査を中止、もしくは1個に見えるように眼位を矯正して検査を継続してもよい。
【0060】
ステップS7は、自覚検査処理部144が、検査距離(例えば、1m)を維持したままで、0Δ、又は、前回のプリズム角から、次のプリズム角に段階的に変化させる駆動部122aの回旋角度制御を行うプリズム角変更処理ステップである。プリズム角は、例えば、0Δ、±1Δ、±2Δ、±4Δ、±6Δ、±10Δの11段階にて変更される。例えば、初期プリズム角が0Δのときは、+1Δ→+2Δ→+4Δ→+6Δ→+10Δ→-1Δ→-2Δ→-4Δ→-6Δ→-10Δまでの11段階にて切り替え変更される。なお、この例では、検査距離と輻湊距離が一致している位置から被検眼に近づく方向に検査を行い、所定の距離まで変更した後に検査距離と輻湊距離が一致している位置に戻し、そこから遠ざかる方向に検査を行っている。しかし、これに限らず、遠ざかる方向の検査を先に行ってから近づく方向の検査を行ってもよい。また、自覚検査処理部144は、近づく方向と遠ざかる方向が切り替わる際、検査距離と輻湊距離が一致している位置に戻したときに再度検査を行った上で検査を継続してもよい。
【0061】
ステップS8は、自覚検査処理部144が、輻湊距離の段階的な変化に対し、左右の被検眼EL,ERにより融像を試みたとき、左眼投影視標と右眼投影視標の融像に関する自覚回答を被検者から取得するする自覚回答ステップである。自覚回答としては、例えば、融像により視標が1個に見えているかどうかの回答を取得する。
【0062】
ステップS9は、自覚検査処理部144が、プリズム角を最終のプリズム角(例えば、-10Δ)まで変化させたか否かを判定する最終プリズム角判定ステップである。ステップS9にてNOと判定されている間は、ステップS7へ戻り、ステップS9にてYESと判定されるとステップS13へ進む。
【0063】
ステップS7、S9は、左右の被検眼EL,ERから左眼投影視標と右眼投影視標に向かうプリズム角を変える制御を行うことで、左右の被検眼EL,ERの位置から2本の視線が交わる輻湊位置までの輻湊距離が変化する状態を処方する輻湊距離制御ステップに相当する。ステップS6、S8は、輻湊距離の変化に対し左右の被検眼EL,ERにより融像を試みたとき、融像に関する自覚回答を被検者から取得する自覚回答取得ステップに相当する。
【0064】
ステップS10は、他覚測定部145が、輻湊距離の変化に対する左右の被検眼EL,ERの眼特性を他覚測定光学系により測定し、他覚測定情報として他覚屈折値を取得するレフ測定ステップである。ステップS11は、他覚測定部145が、プリズム角が変化するタイミングで取得した複数個の他覚屈折値(レフ値)を表示するレフ値表示ステップである。ステップS12は、他覚測定部145が、プリズム角が変化するタイミングで取得した複数個のレフ値を比較し、平均値を算出するレフ平均値算出ステップである。このステップS10~ステップS12は、輻湊距離の制御と並列に実行され、輻湊距離の変化に対し左右の被検眼EL,ERにより融像を試みたとき、左右の被検眼EL,ERの眼特性を他覚測定光学系により測定し、他覚測定情報として他覚屈折値を取得する調節反応量測定ステップに相当する。
【0065】
ステップS13は、判定部146が、自覚検査処理部144からの自覚回答と他覚測定部145からの他覚屈折値(レフ平均値)に基づいて、左右の被検眼EL,ERの立体視への適応能力を判定するステップである。ステップS13は、立体視の適応能力の判定が完了すると、エンドへ進む。このステップS13は、自覚回答と他覚屈折値に基づいて、左右の被検眼EL,ERの立体視への適応能力を判定する判定ステップに相当する。
【0066】
各ステップの作用の流れは、下記のように説明される。
図4の処理は、被検者が眼科検査装置100と対峙して顔を所定位置にセットし、左右の被検眼EL,ERと装置の位置関係を適正に調整するアライメントが完了すると開始され、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4へと進む。主制御部141は、スタート後、予備測定(ステップS1)、本測定(ステップS2)、自覚検査の開始設定(ステップS3)を行う。主制御部141は、ステップS4において、自覚検査の開始設定の後、RGチャートを用いるRG検査を行うことにより、左右の被検眼EL,ERが、RG検査での仮決定値により完全矯正値が処方された状態とする。
【0067】
図4の処理は、ステップS4において左右の被検眼EL,ERに対して完全矯正値が処方された状態とした後、ステップS5→ステップS6へと進む。自覚検査処理部144は、ステップS5において、プリズム角を初期プリズム角とする駆動部122aの回旋角度制御と、検査距離を一定距離にする合焦レンズ45の移動制御と、を行う。自覚検査処理部144は、ステップS6において、輻湊距離と検査距離を一致させたときの融像に関する自覚回答を被検者から取得する。
【0068】
図4の処理は、初期設定での融像に関する自覚回答が被検者から取得された後、ステップS7→ステップS8→ステップS9へと進む。自覚検査処理部144は、ステップS7において、プリズム角を、初期プリズム角(例えば、0Δ)から輻湊距離が所定の輻湊距離になるようなプリズム角に切り替える駆動部122aの回旋角度制御を行う。自覚検査処理部144は、ステップS8において、所定の輻湊距離になるようなプリズム角に切り替えられたときの融像に関する自覚回答を被検者から取得する。自覚検査処理部144は、ステップS9において、プリズム角を、輻湊距離が全ての所定のプリズム角分変化させたか否かが判定される。
【0069】
図4の処理は、ステップS9においてプリズム角を最終のプリズム角(例えば、-10Δ)まで変化させていないと判定されている間、ステップS7→ステップS8→ステップS9へと進む流れが繰り返される。自覚検査処理部144は、ステップS7において、プリズム角を、現在のプリズム角から次の段階のプリズム角に切り替える駆動部122aの回旋角度制御を行う。プリズム角の切り替えは、0Δ→+1Δ、+1Δ→+2Δ、+2Δ→+4Δ、+4Δ→+6Δ、+6Δ→+10Δ、+10Δ→-1Δ、-1Δ→-2Δ、-2Δ→-4Δ、-4Δ→-6Δ、-6Δ→-10Δ、というように段階的に行われる。自覚検査処理部144は、ステップS8において、切り替えられたプリズム角の各段階における融像に関する自覚回答を被検者から取得する。
【0070】
図4の処理は、ステップS5において自覚検査処理部144で輻湊距離と検査距離を一致させる制御が行われると、自覚検査処理と並行して他覚測定部145による他覚測定が開始される。他覚測定は、自覚検査処理中、ステップS10→ステップS11→ステップS12へ進む流れが繰り返され、自覚検査処理が終了(ステップS9でYES)すると、自覚検査処理の終了に合わせて終了する。他覚測定部145は、ステップS10において、レフ測定により他覚測定情報として他覚屈折値(レフ値)を取得する。他覚測定部145は、ステップS11において、プリズム角が変化するタイミングで取得した複数個の他覚屈折値(レフ値)を表示する。他覚測定部145は、ステップS12において、プリズム角が変化するタイミングで取得した複数個のレフ値を比較し、平均値を算出する。
【0071】
図4の処理は、ステップS9においてプリズム角を最終のプリズム角(例えば、-10Δ)まで変化させたと判定されると、ステップS9→ステップS13へと進む。判定部146は、ステップS13において、自覚検査処理部144からの自覚回答と他覚測定部145からの他覚屈折値(レフ平均値)に基づいて、左右の被検眼EL,ERの立体視への適応能力を判定する。
【0072】
このように、立体視への適応能力を評価する処理作用の流れは、自覚検査処理と他覚測定を並行に実行し、自覚検査処理が終了すると、ステップS13にて他覚測定と合流する流れになる。ステップS13は、例えば、輻湊距離の段階的な変化にかかわらず、両眼視による融像ができているという自覚回答が得られ、かつ、レフ平均値の変化が所定範囲に抑えられていると、左右の被検眼EL,ERが立体視へ適応しやすいと判定する。ステップS13は、例えば、輻湊距離が段階的に変化したことで、視標が2つ見えるという自覚回答が得られて両眼視による融像ができていない、もしくは、レフ平均値の変化が所定範囲を超えると、左右の被検眼EL,ERが立体視へ適応しにくいと判定する。
【0073】
[左眼投影視標と右眼投影視標について(
図5)]
ディスプレイ41(視標提示部)に設定されている左眼投影視標8Lと右眼投影視標8Rは、
図5を参照しながら以下のように説明される。
【0074】
左眼投影視標8Lは、適応評価検査部143により立体視の適応能力の評価検査を行うとき、左被検眼ELに投影される視標である。この左眼投影視標8Lは、
図5Aに示すように、液晶枠などのよる方形状の視標フレーム81の中心位置に、アスタリスク82(図柄)を有する。
【0075】
右眼投影視標8Rは、適応評価検査部143により立体視の適応能力の評価検査を行うとき、右被検眼ERに投影される視標である。この右眼投影視標8Rは、
図5Bに示すように、液晶枠などのよる方形状の視標フレーム81の中心位置に、アスタリスク82(図柄)を有する。
【0076】
左眼投影視標8Lと右眼投影視標8Rは、
図5Aと
図5Bの対比から明らかなように、視標フレーム81の中心位置に、同じ図柄、同じ大きさ、同じ線分幅によるアスタリスク82を有する。このアスタリスク82は、両眼視したときに網膜に映った像を一つにまとめて単一視する融像のとき、左右の被検眼EL,ERに対する融像刺激を適切に与えるように、図柄や大きさや線分幅を決めている。
【0077】
なお、視標フレーム81は、液晶枠であると融像刺激が弱いので、線幅を太くした黒枠を用いて融像刺激を高くすることができる。さらに、視標フレーム81は、黒枠の線幅を可変にすることで、融像刺激の強さを可変にすることもできる。また、アスタリスク82は、その大きさや放射状の線分幅を変更することにより、融像刺激の強さを可変にすることができる。さらに、アスタリスク82は、視標図柄を他の図柄に変更することにより、融像刺激の強さを可変にすることもできる。
【0078】
[検査距離と輻湊距離の関係について(
図6)]
自覚検査処理部144は、左右の被検眼EL,ERから左眼投影視標8Lと右眼投影視標8Rに向かうプリズム角を変える制御により、左右の被検眼EL,ERの位置から2本の視線が交わる輻湊位置までの輻湊距離が変化する状態を処方している。輻湊距離と検査距離の関係は、
図6を参照して以下のように説明される。
【0079】
「検査距離Lid」とは、
図6に示すように、左右の被検眼EL,ERから視標が提示される位置までのZ軸方向に沿った距離をいう。この検査距離Lidは、ディスプレイ41に視標を提示する視標投影系4によって実現される。また、検査距離Lidは、左右の被検眼EL,ERにより視標に焦点を合わせたときのピント調節距離ということができる。検査距離Lidは、ここでは左右の被検眼EL,ERをつないだ直線から視標の距離としているが、これに限らず、被検眼EL,ERそれぞれから視標の距離としてもよい。
【0080】
輻湊距離とは、左右の被検眼EL,ERの位置から2本の視線が交わる輻湊位置までのZ軸方向に沿った距離をいう。輻湊距離L2(=検査距離Lid)は、
図6に示すように、左右の被検眼EL,ERの位置から2本の視線SL2,SL2が交わる輻湊位置R2までのZ軸方向に沿った距離である。また、輻湊距離L1は、
図6に示すように、左右の被検眼EL,ERの位置から2本の視線SL1,SL1が交わる輻湊位置R1までのZ軸方向に沿った距離である。
【0081】
ここで、検査距離は、検査距離Lidに保ったままとし、輻湊距離を、矢印Aに示すように、輻湊距離L2から輻湊距離L1に変更したとする。このとき、輻湊角度は、輻湊距離を輻湊距離L2から輻湊距離L1への変更に伴い、視線SL2,SL2が交わる輻湊角度θ2から、視線SL1,SL1が交わる輻湊角度θ1(>θ2)へと変化する。したがって、左右の被検眼EL,ERは、輻湊角度が、輻湊角度θ2から輻湊角度θ1に変化することに伴い左右の被検眼EL,ERが寄る方向の眼球運動を生じ、この眼球運動が、輻湊刺激になる。
【0082】
一方、検査距離は、検査距離Lidに保ったままであるため、左右の被検眼EL,ERによるピント調節距離も一定である。したがって、左右の被検眼EL,ERは、ピント調節距離が一定に維持されることで、輻湊距離を輻湊距離L2から輻湊距離L1へ変更されても検査距離Lidの変更による調節機能は働かず、左右の被検眼EL,ERを他覚測定したとき、原則として、他覚屈折値は変わらないはずである。しかし、左右の被検眼EL,ERは、輻湊刺激に誘発されて水晶体の曲率を変化させる調節機能が働くと、左右の被検眼EL,ERを他覚測定したときに他覚屈折値が変わる。
【0083】
上記のように、検査距離が一定で輻湊距離が変化する関係は、左右の被検眼EL,ERに対し輻湊刺激のみを与える関係になる。よって、実施例1の適応評価検査部143は、左右の被検眼EL,ERから一定距離の位置に2つの視標を配置し、両眼で2つの視標を融像するとき、プリズム角の変化により輻湊刺激を与え、輻湊と調節に不一致が起きる状態を再現する構成になる。このため、適応評価検査部143は、左右の被検眼EL,ERが、輻湊と調節の不一致が起きる立体視に適応しやすいかどうかを評価できる。
【0084】
[輻湊距離の段階的変化作用(
図7)]
自覚検査処理部144は、プリズム角を段階的に変える制御により、検査距離Lidより遠い位置から検査距離Lidより近い位置までの距離範囲で輻湊位置R(±nΔ)及び輻湊距離L(±nΔ)が段階的に変化する状態を処方している。輻湊距離L(±nΔ)の変化作用は、
図7を参照して以下のように説明される。
【0085】
図7Aは、左眼投影視標8Lと右眼投影視標8Rを融像させたときの輻湊位置R(0Δ)までの輻湊距離L(0Δ)と、左右の被検眼EL,ERから視標位置までの検査距離Lidと、を一致させた状態を示す(ステップS5)。
図7Bは、左眼投影視標8Lと右眼投影視標8Rを融像させたときの輻湊位置R(+kΔ)までの輻湊距離L(+kΔ)が、左右の被検眼EL,ERから視標位置までの検査距離Lidよりも近い状態を示す。なお、(+kΔ)は、(+2Δ)~(+10Δ)の何れかである。
図7Cは、左眼投影視標8Lと右眼投影視標8Rを融像させたときの輻湊位置R(-kΔ)までの輻湊距離L(-kΔ)が、左右の被検眼EL,ERから視標位置までの検査距離Lidよりも遠い状態を示す。なお、(-kΔ)は、(-2Δ)~(-10Δ)の何れかである。
【0086】
図4のステップS5は、自覚検査処理部144が、検査距離Lidを1mに設定する制御を行うと共に、プリズム角を初期プリズム角(0Δ)にする制御を行う。よって、左右の被検眼EL,ERにより2つの視標を融像させたときの輻湊位置R(0Δ)までの輻湊距離L(0Δ)は、
図7Aに示すように、左右の被検眼EL,ERから視標位置までの検査距離Lidと一致する状態になる。
【0087】
図4のステップS7は、自覚検査処理部144が、検査距離Lid(例えば、1m)を維持したままで、プリズム角を、0Δ、±1Δ、±2Δ、±4Δ、±6Δ、±10Δの11段階にて変更する制御を行う。よって、プリズム角を-kΔとしたときは、左右の被検眼EL,ERにより2つの視標を融像させたときの輻湊位置R(-kΔ)までの輻湊距離L(-kΔ)は、
図7Cに示すように、左右の被検眼EL,ERから視標位置までの検査距離Lidより遠い状態になる。一方、プリズム角を+kΔにしたときは、左右の被検眼EL,ERにより2つの視標を融像させたときの輻湊位置R(+kΔ)までの輻湊距離L(+kΔ)は、
図7Bに示すように、左右の被検眼EL,ERから視標位置までの検査距離Lidより近い状態になる。
【0088】
このように、自覚検査処理部144が、プリズム角を11段階に変更する制御を行うと、輻湊距離L(-kΔ)が検査距離Lidに近づく状態(
図7C)から、輻湊距離L(-kΔ)が検査距離Lidから遠ざかる状態(
図7B)を段階的に変える。したがって、自覚検査処理部144は、輻湊距離L(±nΔ)を検査距離Lidより遠い状態から検査距離Lidより近い状態まで段階的に変えることで、ステップ的に変化する輻湊刺激を、左右の被検眼EL,ERに対して与えることができる。
【0089】
[立体映像観察時の調節・輻湊の時間変化の測定(
図8)]
本発明者は、調節、輻湊の時間変化を、健常群の被検眼と立体映像疲労群の被検眼に分けて測定した。以下、調節・輻湊の時間変化の測定は、
図8A~
図8Eを参照して以下のように説明される。
【0090】
視標は、検査距離が60cm、視差距離が4cm(6.7Δ、このときの飛び出し量が24cm)となる位置までプリズム角を変化させる。測定条件は、
図8Aに示すように、視差0度を1~2秒まで維持し、プリズム角を0Δから6.7Δへ2秒間をかけて変化させ、その後、プリズム角6.7Δを固定する。
【0091】
健常眼例による測定結果は、
図8Bに示す通りである。輻湊(MA)は、プリズム角を0Δから6.7Δへ2秒間をかけて変化させると、プリズム角の変化に追従して値が低下する。輻湊(MA)は、プリズム角6.7Δに固定すると、値が多少の変動するものの低下した後の飛び出し位置による値が維持される。なお、「MA(Meter Angleの略)」は、輻湊力の単位である。屈折度(D)は、プリズム角を0Δから6.7Δへ2秒間をかけて変化させると、この飛び出し位置へのピント調節機能が働いて値が低下する。しかし、屈折度(D)は、プリズム角6.7Δに固定すると、低下した値が応答良く元の値に戻り、その後、元の値が維持される。なお、「D(ディオプター)」は、屈折力を数字に置き換えた屈折度の単位である。
【0092】
立体映像疲労群による測定結果は、
図8D及び
図8Eに示す通りである。
図8Dの輻湊(MA)及び屈折度(D)の測定結果は、IMAX映画(「IMAX」は登録商標)を15分程度視聴した時点で頭痛と眼の疲れを感じ、視聴の中止を経験した例である。ここで、「IMAX映画」とは、特別規格(1コマに使うフィルムの面積を通常の35mmから70mmに広げた規格)の動画フィルムを用い、特別の映写システムにより上映される高精細度の映像による映画をいう。輻湊(MA)及び屈折度(D)は、プリズム角の変化や維持にかかわらず、大きな値の変動や途中での値の中断を含むというように、何れも乱れた特性を示している。
【0093】
図8Eの輻湊(MA)及び屈折度(D)の測定結果は、3D映画を30分程度視聴したときに強い眠気と眼の疲れを感じ、視聴の中止を経験した例である。ここで、「3D映画」とは、専用のメガネなどをかけて、スクリーンに投影された映像を立体的に見せるしくみの映画をいう。輻湊(MA)は、プリズム角を0Δから6.7Δへ2秒間をかけて変化させると、変化開始時の値が健常眼例の場合よりも低いが、プリズム角の変化に追従して値が低下する。輻湊(MA)は、プリズム角6.7Δに固定すると、飛び出し位置による値を維持しようとするが、途中で値が中断するというように乱れた特性を示している。屈折度(D)は、プリズム角を0Δから6.7Δへ2秒間をかけて変化させると、この飛び出し位置へのピント調節機能が働いて値が低下する。屈折度(D)は、プリズム角6.7Δに固定すると、低下した値を元の値に戻そうとする値の変動や途中での値中断により乱れた特性を示している。
【0094】
健常群と疲労群による屈折度(D)の時間変化周波数の解析結果例は、
図8Eに示す通りである。健常群と疲労群は、振幅の大きさを比較すると、周波数帯が0.5~1.5Hz、1.5~2.5Hz、2.5~3.5Hz、3.5~4.5Hzの何れの周波数帯においても健常群よりも疲労群で振幅(変動幅)が大きくなっている。よって、
図8Eに示す解析結果例は、被検眼の屈折度(D)の時間変化周波数の振幅(変動幅)を計測したとき、変動幅の大きさで被検眼が疲労群に属することを確認するデータに使用することが可能である。特に低周波数帯において、振幅の大きさで被検眼が疲労群に属することを確認するデータに使用することが可能である。
【0095】
例えば、周波数帯が0.5~1.5Hzの低周波数帯において、
図8Eに示すように、被検眼が疲労群に属するとの判定閾値を、振幅0.2~0.3程度に設定しているとする。この場合、所定の被検眼に対して立体視の適応評価検査を行い、時間軸に沿った時系列で他覚屈折値データを取得すると、データによる他覚屈折値特性の0.5~1.5Hzの低周波数帯における振幅を計測する。そして、計測した低周波数帯の振幅が、予め設定している判定閾値以上であると、被検眼が疲労群に属すると判定できる。なお、ここでは内部視標でプリズム角を変更することで検査を行ったが、それに限らず、例えば裸眼式立体ディスプレイを設置して左右それぞれの眼に視線角度を変更した画像を提示して同様の検査を行うこともできる。
【0096】
[立体視への適用能力判定作用(
図9)]
他覚測定部145は、輻湊距離L(±nΔ)の各段階で左右の被検眼EL,ERの眼特性を所定回数測定し、他覚測定情報として、各段階で得られた所定回数の他覚屈折値を平均した他覚屈折平均値を取得する。立体視への適用能力判定作用は、
図9を参照して下記のように説明される。
【0097】
図9は、複数の被検者を対象とし、輻湊距離L(±nΔ)の各段階で他覚屈折平均値を取得したときのプリズム角と他覚屈折値の関係特性を示す。縦軸は、他覚屈折値であり、各数値の単位はディオプター(D)である。横軸は、プリズム角であり、各数値の単位はプリズム(Δ)であるが、ディオプター(D)や輻湊距離の逆数で表される輻湊角(MA)に換算してもよい。
【0098】
図9の関係特性のうち第1グループG1は、プリズム角を、-1Δ→0Δ→+1Δ→+2Δ→+4Δ→+6Δ→+10Δまでの7段階にて切り替えたとき、他覚屈折値の数値がプリズム角の切り替えに反応して上昇傾向の特性を示している。つまり、第1グループG1は、プリズム角が+2Δ→+4Δ→+6Δ→+10Δになると、これに伴って、他覚屈折値の数値がD=3.0程度まで上昇する特性になっている。
【0099】
このため、第1グループG1に属する被検者は、輻湊距離の変化によって輻湊刺激が与えられるのに対し、左右の被検眼EL,ERのピント調節反応が誘発されていると推定される。よって、第1グループG1に属する被検者は、輻湊により屈折値と視標位置の不一致が生じて左右の被検眼EL,ERが立体視へ適応しにくいと判定できる。
【0100】
一方、
図9の関係特性のうち第2グループG2は、プリズム角を、-1Δ→+0Δ→+1Δ→+2Δ→+4Δ→+6Δ→+10Δまでの7段階にて切り替えたとき、他覚屈折値の数値が横這い状態で推移する特性を示している。つまり、第2グループG2は、プリズム角が+2Δ→+4Δ→+6Δ→+10Δになっても、他覚屈折値の数値がD<1.0程度以下に小さく抑えられた特性になっている。
【0101】
このため、第2グループG2に属する被検者は、輻湊距離の変化によって輻湊刺激が与えられているにもかかわらず、左右の被検眼EL,ERのピント調節反応を誘発していないと推定される。よって、第2グループG2に属する被検者は、輻湊により屈折値と視標位置の不一致が生じないため、左右の被検眼EL,ERが立体視への適応能力が高いと判定できる。
【0102】
[眼科検査装置及び眼科検査方法の効果]
(1)眼科検査装置100は、左右の被検眼EL,ERに固視標を提示する視標提示部(ディスプレイ41)を有する視標投影系4と、左右の被検眼EL,ERの眼特性を他覚的に測定する他覚測定光学系6,7と、装置の各部を制御する制御部140と、を備える。固視標は、左右の被検眼EL,ERのそれぞれに投影し、同じ図柄(アスタリスク82)を有する左眼投影視標8Lと右眼投影視標8Rである。視標提示部は、左右の被検眼EL,ERから一定の検査距離Lidだけ離れた視標位置に左眼投影視標8Lと右眼投影視標8Rを提示する。視標投影系4は、左右の被検眼EL,ERから左眼投影視標8Lと右眼投影視標8Rに向かう視線角度(プリズム角)を変えることで、左右の被検眼EL,ERの位置から2本の視線が交わる輻湊位置R(±nΔ)までの輻湊距離L(±nΔ)が変化する状態を処方する。制御部140は、輻湊距離L(±nΔ)の変化に対し左右の被検眼EL,ERにより融像を試みたとき、左右の被検眼EL,ERの眼特性を他覚測定光学系により測定し、他覚測定情報として他覚屈折値を取得する。このため、眼科検査装置100は、左右の被検眼EL,ERが、輻湊と調節の不一致が起きる立体視に適応しやすいかどうかを評価できる。
【0103】
(2)眼科検査装置100は、自覚検査機能付きの他覚測定機である。制御部140は、左右の被検眼EL,ERによる適応能力を評価する適応評価検査部143を有し、適応評価検査部143は、自覚検査処理部144と他覚測定部145を含む。自覚検査処理部144は、左右の被検眼EL,ERから一定の検査距離Lidだけ離れた視標位置に左眼投影視標8Lと右眼投影視標8Rを提示する。左右の被検眼EL,ERから左眼投影視標8Lと右眼投影視標8Rに向かう視線角度(プリズム角)を変える制御により、左右の被検眼EL,ERの位置から2本の視線が交わる輻湊位置R(±nΔ)までの輻湊距離L(±nΔ)が変化する状態を処方する。他覚測定部145は、自覚検査処理部144での処理と並列に実行され、輻湊距離L(±nΔ)の変化に対し左右の被検眼EL,ERにより融像を試みたとき、左右の被検眼EL,ERの眼特性を他覚測定光学系6,7により測定し、他覚測定情報として他覚屈折値を取得する。このため、眼科検査装置100は、自覚検査処理をマニュアル操作により行う場合に比べ、自覚検査に要する手間や時間を省くことができる。加えて、眼科検査装置100は、自覚検査処理と他覚測定とを、同時進行による並行処理により実行することで、左右の被検眼EL,ERが立体視に適応しやすいかどうかを精度よく評価できる。
【0104】
(3)眼科検査装置100は、左被検眼ELに対応して左眼投影視標8L及び左測定光学系125Lを内蔵する左測定ヘッド部122Lと、右被検眼ERに対応して右眼投影視標8R及び右測定光学系125Rを内蔵する右測定ヘッド部122Rと、を有する。自覚検査処理部144は、視線角度(プリズム角)を変える制御を、左測定ヘッド部122Lと右測定ヘッド部122Rを互いに逆方向に回旋させる回旋角度を変える制御とする。このため、自覚検査処理部144は、左測定ヘッド部122Lと右測定ヘッド部122Rの回旋制御により輻湊距離L(±nΔ)を変化させるとき、左右の被検眼EL,ERからの視軸と、左測定光学系125Lと右測定光学系125Rにおける光軸と、を一致させた状態を保つことができる。また、眼科検査装置100は、視軸と光軸とが一致することで、前眼部像から左右の被検眼EL,ERにより他覚的に両眼視できているか否かを確認するための眼位や視線方向を測定できる。
【0105】
(4)自覚検査処理部144は、輻湊距離の変化に対し左右の被検眼EL,ERにより融像を試みたとき、被検者から自覚回答を取得する。適応評価検査部143は、自覚検査処理部144と他覚測定部145に加え、自覚検査処理部144にて取得した被検者からの自覚回答、及び、他覚測定部145にて取得した他覚屈折値に基づいて、左右の被検眼EL,ERの立体視への適応能力を判定する判定部146を有する。このため、判定部146は、左右の被検眼EL,ERの立体視への適応能力を判定する際、自覚的に融像できているかどうかを確認することができる。
【0106】
(5)判定部146は、輻湊距離L(±nΔ)の変化に対し、両眼視による融像に対し肯定的な自覚回答が得られ、かつ、他覚屈折値の変化幅が所定範囲に抑えられていると、左右の被検眼EL,ERが立体視へ適応しやすいと判定する。このため、判定部146は、輻湊距離L(±nΔ)の変化によって輻湊刺激が与えられるのに対し、自覚的に融像ができ、かつ、左右の被検眼EL,ERのピント調節反応が鈍いと、左右の被検眼EL,ERが立体視へ適応しやすいと判定できる。
【0107】
(6)判定部146は、輻湊距離L(±nΔ)の変化に対し、両眼視による融像に対し否定的な自覚回答が得られ、かつ、他覚屈折値の変化幅が所定範囲を超えると、左右の被検眼EL,ERが立体視へ適応しにくいと判定する。このため、判定部146は、輻湊距離L(±nΔ)の変化によって輻湊刺激が与えられるのに対し、自覚的に融像が困難で、かつ、左右の被検眼EL,ERのピント調節反応が生じると、左右の被検眼EL,ERが立体視へ適応しにくいと判定できる。
【0108】
(7)適応評価検査部143は、自覚検査処理部144と他覚測定部145に加え、他覚測定部145にて取得した他覚屈折値に基づいて、左右の被検眼EL,ERの立体視への適応能力を判定する判定部146を有する。判定部146は、他覚測定部145にて取得した他覚屈折値の時間軸による屈折値特性の変動幅である振幅を計測し、屈折値特性の変動周波数が低周波数帯のとき、振幅が判定閾値以上であると、左右の被検眼EL,ERが疲労群に属すると判定する。このため、判定部146は、取得した他覚屈折値の時間軸による屈折値特性に基づいて、左右の被検眼EL,ERが立体視へ適応しにくい疲労群に属すると判定できる。
【0109】
(8)自覚検査処理部144は、左右の被検眼EL,ERから左眼投影視標8Lと右眼投影視標8Rに向かう視線角度(プリズム角)を段階的に変える制御により、検査距離Lidより遠い位置から検査距離Lidより近い位置までの距離範囲で輻湊距離L(±nΔ)が段階的に変化する状態を処方する。他覚測定部145は、輻湊距離L(±nΔ)の各段階で左右の被検眼EL,ERの眼特性を所定回数測定し、他覚測定情報として、各段階で得られた所定回数の他覚屈折値を平均した他覚屈折平均値を取得する。このため、自覚検査処理部144は、ステップ的に変化する輻湊刺激を、左右の被検眼EL,ERに対して与えることができる。加えて、他覚測定部145は、ステップ的に変化する輻湊刺激に対する左右の被検眼EL,ERの調節反応量を表す情報を、他覚測定情報である他覚屈折平均値により取得することができる。
【0110】
(9)眼科検査方法は、完全矯正処方ステップ(ステップS1~S4)と、視標提示ステップ(ステップS5)と、輻湊距離制御ステップ(ステップS7、ステップS9)と、調節反応量測定ステップ(ステップS10~S12)と、判定ステップ(ステップS13)と、を有する。完全矯正処方ステップは、左右の被検眼EL,ERを、自覚検査での完全矯正値が処方された状態とする。視標提示ステップは、完全矯正値の処方に続き、視標提示部(ディスプレイ41)に同じ図柄(アスタリスク82)を有する左眼投影視標8Lと右眼投影視標8Rを、左右の被検眼EL,ERから一定の検査距離Lidだけ離れた視標位置に提示する。輻湊距離制御ステップは、左右の被検眼EL,ERから左眼投影視標8Lと右眼投影視標8Rに向かう視線角度(プリズム角)を変える制御を行うことで、左右の被検眼EL,ERの位置から2本の視線が交わる輻湊位置R(0Δ)までの輻湊距離L(0Δ)が変化する状態を処方する。調節反応量測定ステップは、輻湊距離L(±nΔ)の制御と並列に実行され、輻湊距離L(±nΔ)の変化に対し左右の被検眼EL,ERにより融像を試みたとき、左右の被検眼EL,ERの眼特性を他覚測定光学系6,7により測定し、他覚測定情報として他覚屈折値を取得する。判定ステップは、他覚屈折値に基づいて、左右の被検眼EL,ERの立体視への適応能力を判定する。このため、眼科検査方法(
図4)は、左右の被検眼EL,ERが、輻湊と調節の不一致が起きる立体視に適応しやすいかどうかを評価できる。また、眼科検査方法(
図4)は、輻湊距離制御ステップを活用し、輻湊距離L(±nΔ)をずらしたものを左右の被検眼EL,ERに繰り返し観察させて慣れてもらうことで、立体視への適応能力を向上させるトレーニングを行うこともできる。
【0111】
(10)眼科検査方法は、輻湊距離の変化に対し左右の被検眼EL,ERにより融像を試みたとき、融像に関する自覚回答を被検者から取得する自覚回答取得ステップ(ステップS6、ステップS8)を有する。判定ステップは、自覚回答と他覚屈折値に基づいて、左右の被検眼EL,ERの立体視への適応能力を判定する。このため、眼科検査方法(
図4)は、左右の被検眼EL,ERの立体視への適応能力を判定する際、自覚的に融像できているかどうかを確認することができる。
ステップS27は、自覚検査処理部144が、検査距離(例えば、1m)を維持したままで、初期プリズム角(例えば、0Δ)、又は、前回のプリズム角からプリズム角を無段階に変化させる駆動部122aの回旋角度制御を行うプリズム角変更処理ステップである。プリズム角は、例えば、0Δから+10Δまで無段階にて変更された後、さらに0Δから-10Δまで無段階にて変更される。例えば、初期プリズム角が0Δのときは、-10Δまで無段階に変更される。
ステップS28は、自覚検査処理部144が、輻湊距離の無段階変化に対し、左右の被検眼EL,ERにより融像を試みたとき、左眼投影視標と右眼投影視標の融像に関する自覚回答を被検者から取得するする自覚回答ステップである。自覚回答としては、例えば、輻湊距離が無段階に変化しているとき、所定の時間間隔にて融像により視標が1個に見えているかどうかの回答を取得する。自覚回答を促すときは、プリズム角の変更を一時止めてもよい。
ステップS29は、自覚検査処理部144が、プリズム角が最終のプリズム角(例えば、±10Δ)に到達したか否かを判定する最終プリズム角判定ステップである。ステップS29にてNOと判定されている間は、ステップS27へ戻り、ステップS29にてYESと判定されるとステップS33へ進む。なお、ステップS29は、プリズム角が無段階変化速度により最終のプリズム角に到達するのに要する時間を設定しておき、設定時間を経過したか否かを判定するようにしてもよい。
ステップS27、S29は、左右の被検眼EL,ERから左眼投影視標と右眼投影視標に向かうプリズム角を変える制御を行うことで、左右の被検眼EL,ERの位置から2本の視線が交わる輻湊位置までの輻湊距離が変化する状態を処方する輻湊距離制御ステップに相当する。ステップS26、S28は、輻湊距離の変化に対し左右の被検眼EL,ERにより融像を試みたとき、融像に関する自覚回答を被検者から取得する自覚回答取得ステップに相当する。
ステップS30は、他覚測定部145が、輻湊距離の変化に対する左右の被検眼EL,ERの眼特性を他覚測定光学系により測定し、他覚測定情報として他覚屈折値を時系列により取得するレフ測定ステップである。ステップS31は、他覚測定部145が、プリズム角に無段階変化する間に取得した時系列の他覚屈折値(レフ値)を表示するレフ値表示ステップである。ステップS32は、他覚測定部145が、プリズム角が無段階変化する間に取得した時系列のレフ値を比較する時系列レフ値比較ステップである。このステップS30~ステップS32は、輻湊距離の制御と並列に実行され、輻湊距離の変化に対し左右の被検眼EL,ERにより融像を試みたとき、左右の被検眼EL,ERの眼特性を他覚測定光学系により測定し、他覚測定情報として他覚屈折値を取得する調節反応量測定ステップに相当する。
ステップS33は、判定部146が、自覚検査処理部144からの自覚回答と他覚測定部145からの他覚屈折値(時系列レフ値)に基づいて、左右の被検眼EL,ERの立体視への適応能力を判定するステップである。ステップS33は、立体視の適応能力の判定が完了すると、エンドへ進む。このステップS33は、自覚回答と他覚屈折値に基づいて、左右の被検眼EL,ERの立体視への適応能力を判定する判定ステップに相当する。
このように、立体視への適応能力を評価する処理作用の流れは、自覚検査処理と他覚測定を並行に実行し、自覚検査処理が終了すると、ステップS33にて他覚測定と合流する流れになる。ステップS33は、例えば、輻湊距離の無段階変化にかかわらず、両眼視による融像ができているという自覚回答が得られ、かつ、時系列の他覚屈折値の変化が所定範囲に抑えられていると、左右の被検眼EL,ERが立体視へ適応しやすいと判定する。ステップS33は、例えば、輻湊距離が無段階変化したことで、視標が2つに見えるという自覚回答が得られて両眼視による融像ができていない、もしくは、時系列の他覚屈折値の変化が所定範囲を超えると、左右の被検眼EL,ERが立体視へ適応しにくいと判定する。さらに、輻湊刺激に対して時系列の他覚屈折値が得られることで、他覚屈折値の揺らぎも測定できる。例えば、周波数解析を行い、特定の周波数帯での変動幅が大きいときに立体視へ適応しにくいと判定できる。
実施例1,2の眼科検査装置100は、視標提示機能、フォロプター機能、オートレフ・ケラト測定機能を一体に備える内部視標による自覚検査機能付きの他覚測定機による例を示した。しかし、眼科検査装置は、実施例1,2の装置構成例に限定されない。眼科検査装置は、例えば、実視標を提示すると共に輻湊距離が変化する状態を処方する視標投影装置と、フォロプター機能及びオートレフ測定機能を有する装置との複合装置とにより構成する例としてもよい。
実施例1,2の眼科検査装置100は、視線角度(プリズム角)を変える制御を、左測定ヘッド部122Lと右測定ヘッド部122Rを互いに逆方向に回旋させる回旋角度を変える制御により行う例を示した。眼科検査装置は、実施例1,2の視線角度制御の例に限定されない。眼科検査装置は、例えば、視標投影系の左右の被検眼から視標提示部までの光軸上の位置にプリズムレンズを入れて視線角度(プリズム角)を変える制御を行う例としてもよい。
実施例1,2の判定部146は、自覚検査処理部144にて取得した被検者からの自覚回答、及び、他覚測定部145にて取得した他覚屈折値に基づいて、左右の被検眼EL,ERの立体視への適応能力を判定する例を示した。しかし、判定部は、実施例1,2の判定部の例に限定されない。判定部は、例えば、他覚屈折値のみに基づいて、左右の被検眼の立体視への適応能力を判定する例としてもよい。
実施例1の自覚検査処理部144は、視線角度(プリズム角)を段階的に変える制御を行い、各段階で得られた所定回数の他覚屈折値を平均した他覚屈折平均値を取得する例を示した。実施例2の自覚検査処理部144は、視線角度(プリズム角)を無段階に変える制御を行い、時系列で得られた他覚屈折値を取得する例を示した。しかし、自覚検査処理部は、実施例1,2に限定されない。自覚検査処理部は、視線角度(プリズム角)を段階的に変える制御を行い、段階制御にもかかわらず、時系列で得られた他覚屈折値を取得する例としてもよい。