(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025034679
(43)【公開日】2025-03-13
(54)【発明の名称】繊維状チーズおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 19/068 20060101AFI20250306BHJP
A01J 25/12 20060101ALI20250306BHJP
G01N 3/02 20060101ALI20250306BHJP
G01N 3/34 20060101ALI20250306BHJP
G01N 33/04 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
A23C19/068
A01J25/12
G01N3/02 Z
G01N3/34 M
G01N33/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023141198
(22)【出願日】2023-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 沙良
(72)【発明者】
【氏名】山田 未央
(72)【発明者】
【氏名】川端 史郎
【テーマコード(参考)】
2G061
4B001
【Fターム(参考)】
2G061AA02
2G061AB04
2G061BA20
2G061CA20
2G061CB03
2G061DA16
2G061EA01
2G061EA10
2G061EC02
4B001AC26
4B001AC31
4B001AC46
4B001BC14
4B001BC99
4B001CC01
4B001DC01
4B001EC99
(57)【要約】
【課題】適切な柔らかさを有し、手や爪に付着する汚れが抑制され、口中でほぐれやすく優れた食感を有し、咀嚼しやすい繊維状チーズを提供する。
【解決手段】繊維状チーズであって、咀嚼用容器中に咀嚼疑似歯を備えた咀嚼模擬装置を用い、特定の条件で咀嚼模擬試験を行ったときに、力積値が30N・s以上646N・s以下であり、かつ咀嚼後の切片の体積の最大値が1310mm
3以下である、繊維状チーズ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状チーズであって、咀嚼用容器中に咀嚼疑似歯を備えた咀嚼模擬装置を用い、下記条件(1)~(9)で咀嚼模擬試験を行ったときに、力積値が30N・s以上646N・s以下であり、かつ咀嚼模擬試験後の切片の体積の最大値が1310mm3以下である、繊維状チーズ。
(1)前記繊維状チーズのサンプル形状:円柱状である。
(2)前記円柱状のサンプルのサイズ:繊維長手方向に対して直交方向に切断して得られた切断面の断面積が177mm2であり、かつ繊維長手方向の長さが15mmである。
(3)咀嚼疑似歯:咀嚼用容器中に上治具および下治具を設け、前記上治具は、長さ59mmであり頂点の角度が120°である三角柱状の主歯形および長さ59mmであり頂点の角度が60°である三角柱状の副歯形を同じ高さで十字形に交差させた構造を有し、前記主歯形は、前記円柱状のサンプルと接触する箇所に一辺6mmおよび高さ1mmの立方体形状の凸部を1mmの間隔で敷き詰めた構造を有し、前記副歯形は、前記凸部を有さず、前記上治具および前記下治具は雄型および雌型の関係にあり、前記主歯形の頂部および前記主歯形の頂部とかみ合う前記下治具の雌型の底部は、曲率半径3mmの円弧状を呈する。
(4)咬合力:前記上治具および前記下治具間に形成された咬合部に前記円柱状のサンプルを設置し、前記円柱状のサンプルに対して噛みちぎり方向およびすり潰し方向で最大200Nである。
(5)咀嚼速度:前記上治具に対する前記下治具の往復運動を1回として60回/minである。
(6)咀嚼方向・回数:前記上治具に対する前記下治具の往復運動を1回として、前記噛みちぎり方向に10回、前記すり潰し方向に10回の合計20回である。
(7)咀嚼時間:20秒間
(8)唾液添加流量:人工唾液として0.02質量%キサンタンガム水溶液を用い、前記人工唾液の前記上治具および前記下治具間への添加流量として4ml/minである。なお、咀嚼模擬試験前に前記人工唾液を前記下治具上に1ml添加しておく。
(9)咀嚼模擬試験環境温度:32~34℃である。
【請求項2】
断面積が50mm2以上400mm2以下であり、かつ繊維長手方向の長さが5mm以上30mm以下である、請求項1に記載の繊維状チーズ。
【請求項3】
質量が50g未満である、請求項1に記載の繊維状チーズ。
【請求項4】
前記質量が0.5g以上40g以下である、請求項3に記載の繊維状チーズ。
【請求項5】
真空包装方法、ガス置換包装方法、脱酸素剤を含める包装方法のいずれかの包装方法で包装されている、請求項1から4のいずれか1項に記載の繊維状チーズ。
【請求項6】
チーズカードの熟度を4%以上9%以下に調整する、および/または、前記チーズカードのFDMを55%以上75%以下に調整する調整工程を少なくとも有する、繊維状チーズの製造方法。
【請求項7】
前記調整工程後に得られたチーズカードを加熱混練した後、所望の形状に成形する工程および切断する工程を有する、請求項6に記載の繊維状チーズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維状チーズおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の市場において、ナチュラルチーズが定着しつつある。ナチュラルチーズには、熟成の程度により、乳成分の熟成の風味を楽しめる、いわゆる熟成型ナチュラルチーズ、および新鮮な乳風味を味わえる、いわゆる非熟成型ナチュラルチーズに分類することができる。また、ナチュラルチーズは、その硬さから、特別硬質ナチュラルチーズ、硬質ナチュラルチーズ、半硬質ナチュラルチーズ、軟質ナチュラルチーズに分類することができる。このように、ナチュラルチーズには、熟成の程度や物性(食感)の違いなどにより、多くの種類が存在する。
【0003】
ナチュラルチーズのうち、モッツァレラチーズなどでは、原料乳を凝乳させ、チーズカードとホエイを分離し、ホエイを排出してから、チーズカードを温水中や水蒸気中で加熱しながら混練することにより得られる。さらに、かかる混練したチーズを押出成形や延伸し、その後冷却・固化することにより、押出方向に沿って糸状の繊維が形成された柱状の繊維状チーズが得られる。これは、加熱・混練された、弾力性のある柔らかなチーズカードが押出成形や延伸により一定方向に引き延ばされると、チーズ中のカゼインミセルを形成するサブミセル同士が付かず離れずの状態で押出方向に変形したり、延伸することにより、押出方向あるいは延伸方向に沿ってたんぱく質マトリクスが方向性を持って引き伸ばされた糸状の繊維状のタンパク質構造が形成されるためである。
【0004】
このように繊維状チーズは、押出方向や延伸方向に沿って一定の繊維性を有する。そのため、繊維方向に沿って手で引裂くことができる。なお、繊維状チーズの従来技術としては、例えば下記特許文献1~4に開示された技術が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-183032号公報
【特許文献2】特開2016-67319号公報
【特許文献3】国際公開第2004/095936号
【特許文献4】特開昭57-138342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の繊維状チーズは、(1)硬い、(2)ボリュームや形状が大きすぎる、等の課題があり、改善が求められている。一般的に繊維状チーズは、手で細かく裂きながら食されるため、前記(1)硬いことにより指や爪が汚れ易くなるとともに、口中でほぐれにくく、食感が悪化し、また咀嚼力の弱い飲食者にとって咀嚼が困難となる場合がある。また、前記(2)ボリュームや形状が大きすぎると、特に子供や高齢者などの小食者は一回で全て食べられず、その結果残存した繊維状チーズの水分が蒸発して固くなったり、指により汚染され、残存した繊維状チーズは不衛生であるため、結局廃棄され、フードロスが発生するという問題もある。
【0007】
したがって本発明の目的は、適切な柔らかさを有し、手や爪に付着する汚れが抑制され、口中でほぐれやすく優れた食感を有し、咀嚼しやすい繊維状チーズおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記問題点を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、繊維状チーズの特定の咀嚼条件により測定された力積値および咀嚼後の切片の体積の最大値を特定範囲に定めることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は以下の構成からなる。
1.繊維状チーズであって、咀嚼用容器中に咀嚼疑似歯を備えた咀嚼模擬装置を用い、下記条件(1)~(9)で咀嚼模擬試験を行ったときに、力積値が30N・s以上646N・s以下であり、かつ咀嚼模擬試験後の切片の体積の最大値が1310mm3以下である、繊維状チーズ。
(1)前記繊維状チーズのサンプル形状:円柱状である。
(2)前記円柱状のサンプルのサイズ:繊維長手方向に対して直交方向に切断して得られた切断面の断面積が177mm2であり、かつ繊維長手方向の長さが15mmである。
(3)咀嚼疑似歯:咀嚼用容器中に上治具および下治具を設け、前記上治具は、長さ59mmであり頂点の角度が120°である三角柱状の主歯形および長さ59mmであり頂点の角度が60°である三角柱状の副歯形を同じ高さで十字形に交差させた構造を有し、前記主歯形は、前記円柱状のサンプルと接触する箇所に一辺6mmおよび高さ1mmの立方体形状の凸部を1mmの間隔で敷き詰めた構造を有し、前記副歯形は、前記凸部を有さず、前記上治具および前記下治具は雄型および雌型の関係にあり、前記主歯形の頂部および前記主歯形の頂部とかみ合う前記下治具の雌型の底部は、曲率半径3mmの円弧状を呈する。
(4)咬合力:前記上治具および前記下治具間に形成された咬合部に前記円柱状のサンプルを設置し、前記円柱状のサンプルに対して噛みちぎり方向およびすり潰し方向で最大200Nである。
(5)咀嚼速度:前記上治具に対する前記下治具の往復運動を1回として60回/minである。
(6)咀嚼方向・回数:前記上治具に対する前記下治具の往復運動を1回として、前記噛みちぎり方向に10回、前記すり潰し方向に10回の合計20回である。
(7)咀嚼時間:20秒間
(8)唾液添加流量:人工唾液として0.02質量%キサンタンガム水溶液を用い、前記人工唾液の前記上治具および前記下治具間への添加流量として4ml/minである。なお、咀嚼模擬試験前に前記人工唾液を前記下治具上に1ml添加しておく。
(9)咀嚼模擬試験環境温度:32~34℃である。
2.断面積が50mm2以上400mm2以下であり、かつ繊維長手方向の長さが5mm以上30mm以下である、上記1に記載の繊維状チーズ。
3.質量が50g未満である、上記1に記載の繊維状チーズ。
4.前記質量が0.5g以上40g以下である、上記3に記載の繊維状チーズ。
5.真空包装方法、ガス置換包装方法、脱酸素剤を含める包装方法のいずれかの包装方法で包装されている、上記1から4のいずれか1に記載の繊維状チーズ。
6.チーズカードの熟度を4%以上9%以下に調整する、および/または、前記チーズカードのFDMを55%以上75%以下に調整する調整工程を少なくとも有する、繊維状チーズの製造方法。
7.前記調整工程後に得られたチーズカードを加熱混練した後、所望の形状に成形する工程および切断する工程を有する、上記6に記載の繊維状チーズの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態の繊維状チーズは、前記力積値が30N・s以上646N・s以下であり、かつ咀嚼後の切片の体積の最大値が1310mm3以下であるので、適切な柔らかさを有し、手や爪に付着する汚れが抑制され、口中でほぐれやすく優れた食感を有し、咀嚼しやすい繊維状チーズを提供することができる。
【0011】
また本発明の一実施形態の繊維状チーズの製造方法は、原料乳から調製したチーズカードの熟度を4%以上9%以下に調整する、および/または、前記チーズカードのFDMを55%以上75%以下に調整する調整工程を少なくとも有するものであるので、適切な柔らかさを有し、手や爪に付着する汚れが抑制され、口中でほぐれやすく優れた食感を有し、咀嚼しやすい繊維状チーズを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は本発明の繊維状チーズの一実施形態の斜視図である。
【
図2】
図2は、実施例および比較例で使用した繊維状チーズの形状を説明するための図である。
【
図3】
図3は、力積値の測定結果および硬さに関する官能評価結果の関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、咀嚼後の切片の体積の最大値の測定結果およびほぐれやすさに関する官能評価結果の関係を示すグラフである。
【
図5】
図5(a)は、咀嚼疑似歯における上治具を説明するための斜視図である。
図5(b)は、咀嚼疑似歯における下治具を説明するための斜視図である。
【
図6】
図6(a)は主歯形24および副歯形26の長手方向の概略断面図である。
図6(b)は主歯形の平面図である。
図6(c)は主歯形24の頂部および下治具の雌型の底部を説明するための図である。
【
図7】
図7(a)は噛みちぎり方向を説明するための図である。
図7(b)はすり潰し方向を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0014】
本発明の実施形態における繊維状チーズとは、別名パスタフィラータチーズともいい、一定の弾力性を有し、糸状に裂ける繊維状の組織を有するものをいう。繊維状チーズが上記のような特性を有するのは、製造過程において加熱混練された、弾力性のある柔らかなチーズカードが押出成形により一定方向に引き延ばされると、チーズカード中のカゼインミセルを形成するサブミセル同士が付かず離れずの状態で押出方向に変形することにより、押出方向に沿って長い糸状の繊維状のタンパク質構造が形成されるためである。
【0015】
本発明の実施形態における繊維状チーズは、咀嚼用容器中に咀嚼疑似歯を備えた咀嚼模擬装置を用い、下記条件(1)~(9)で咀嚼模擬試験を行ったときに、力積値が30N・s以上646N・s以下であり、かつ咀嚼後の切片の体積の最大値が1310mm3以下であることを特徴とする。力積値の下限値は、50N・s以上であることが好ましい。
【0016】
(1)前記繊維状チーズのサンプル形状:円柱状である。
(2)前記円柱状のサンプルのサイズ:繊維長手方向に対して直交方向に切断して得られた切断面の断面積が177mm2であり、かつ繊維長手方向の長さが15mmである。
(3)咀嚼疑似歯:咀嚼用容器中に上治具および下治具を設け、前記上治具は、長さ59mmであり頂点の角度が120°である三角柱状の主歯形および長さ59mmであり頂点の角度が60°である三角柱状の副歯形を同じ高さで十字形に交差させた構造を有し、前記主歯形は、前記円柱状のサンプルと接触する箇所に一辺6mmおよび高さ1mmの立方体形状の凸部を1mmの間隔で敷き詰めた構造を有し、前記副歯形は、前記凸部を有さず、前記上治具および前記下治具は雄型および雌型の関係にあり、前記主歯形の頂部および前記主歯形の頂部とかみ合う前記下治具の雌型の底部は、曲率半径3mmの円弧状を呈する。
(4)咬合力:前記上治具および前記下治具間に形成された咬合部に前記円柱状のサンプルを設置し、前記円柱状のサンプルに対して噛みちぎり方向およびすり潰し方向で最大200Nである。
(5)咀嚼速度:前記上治具に対する前記下治具の往復運動を1回として60回/minである。
(6)咀嚼方向・回数:前記上治具に対する前記下治具の往復運動を1回として、前記噛みちぎり方向に10回、前記すり潰し方向に10回の合計20回である。
(7)咀嚼時間:20秒間
(8)唾液添加流量:人工唾液として0.02質量%キサンタンガム水溶液を用い、前記人工唾液の前記上治具および前記下治具間への添加流量として4ml/minである。なお、咀嚼模擬試験前に前記人工唾液を前記下治具上に1ml添加しておく。
(9)咀嚼模擬試験環境温度:32~34℃である。
【0017】
まず、前記咀嚼模擬試験に用いる前記繊維状チーズのサンプルについて説明する。
前記繊維状チーズのサンプルは、
図2に示すように円柱状である。ここでいう円柱状とは、略円柱状である場合も含む。
前記円柱状のサンプルのサイズは、
図2に示すように繊維長手方向に対して直交方向に切断して得られた切断面の断面積が177mm
2であり、かつ繊維長手方向の長さが15mmとする。サンプルサイズの調整方法は、本発明の効果を妨げないのであれば特に制限されず、例えば、カットする、丸めてまとめる、並列させる等の方法を一つ以上実施することによることができる。
【0018】
つづいて、前記咀嚼模擬装置について図面を用いて説明する。
咀嚼模擬装置は咀嚼用容器(図示せず)中に咀嚼疑似歯を備える。
図5(a)は、前記咀嚼疑似歯における上治具を説明するための斜視図である。
図5(a)の実施形態において前記上治具12は、円筒形状の台座22に、長さ59mmであり頂点の角度が120°である三角柱状の主歯形24、および長さ59mmであり頂点の角度が60°である三角柱状の副歯形26を、それぞれが同じ高さとなるように十字形に交差させた構造を有している。主歯形24および副歯形26の長さとは、主歯形24および副歯形26の長手方向の長さ(三角柱状の頂点の長さ)を意味する。
また、
図5(b)は、前記咀嚼疑似歯における下治具を説明するための斜視図である。前記下治具14は、前記上治具12の雄型に対して雌型を形成しており、前記上治具12の主歯形24および副歯形26とかみ合う構造を有する。
【0019】
図6(a)は主歯形24および副歯形26の長手方向の概略断面図である。
図6(a)に示すように、主歯形24は頂部の角度が120°である三角柱からなり、副歯形26は頂部の角度が60°である三角柱からなる。また
図6(b)の平面図に示すように、前記主歯形24は、前記円柱状のサンプルと接触する箇所に立方体形状の凸部28が1mmの間隔で敷き詰められている。この立方体形状の凸部28は、一辺6mmおよび高さ1mmの構造を有している。すなわち隣接する凸部28間には幅1mmの溝が形成されている。一方、前記副歯形26は、前記立方体形状の凸部28を有しない。なお前述のように、三角柱状の主歯形24および副歯形の長手方向の長さLは59mmである。
また
図6(c)に示すように、前記主歯形24の頂部122および前記下治具の雌型の底部144は、曲率半径3mmの円弧状を呈する。
【0020】
また前記条件(4)咬合力において、噛みちぎり方向とは、
図7(a)に示すように、前記下治具14の雌型の底部144が前記上治具12の主歯形24に向かって鉛直方向に移動する方向である(副歯形26も同様)。一方、すり潰し方向とは、
図7(b)に示すように、前記下治具14の雌型の斜面が前記上治具12の主歯形24に向かって鉛直方向に移動した後、前記上治具12の主歯形24の雄型の斜面に沿って移動する方向である(副歯形26も同様)。いずれの方向においても、円柱状のサンプルSに対して噛みちぎり方向およびすり潰し方向で最大200Nの力が付与される。ここで最大200Nとは、円柱状のサンプルSが固形を保っている場合は200Nの力が付与されているが、円柱状のサンプルが流動性を持つようになると200N未満の力が付与され得ることを意味している。
前記上治具12および下治具14は、例えばアクリル樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合)樹脂、あるいはポリビニリデンフルオライド等のフッ素含有樹脂等により形成することができる。
【0021】
また、前記条件(5)咀嚼速度において、前記上治具に対する前記下治具の往復運動を1回として60回/minである。ここで往復運動とは、噛みちぎり方向への駆動、および、すり潰し方向への駆動の両方を意味する。
【0022】
また、前記条件(6)咀嚼方向・回数において、前記上治具に対する前記下治具の往復運動を1回として、前記噛みちぎり方向に10回、前記すり潰し方向に10回の合計20回である。ここで前記咀嚼は、噛みちぎり方向に10回往復運動した後に、すり潰し方向に10回往復運動を行うものとする。
この場合、噛みちぎり方向の10回の往復運動においては、1回の鉛直方向の往復運動が終了するごとに、鉛直方向を回転軸として90°回転した後に、次の鉛直方向の往復運動を開始することによって、主歯形24による咀嚼と副歯形26による咀嚼とが交互に入れ替わるようにして行われる。
また、すり潰し方向の10回の往復運動においても、1回の鉛直方向の往復運動終了ごとに、鉛直方向を回転軸として90°回転した後に、次の鉛直方向の往復運動を開始することによって、主歯形24による咀嚼と副歯形26による咀嚼とが交互に入れ替わるようにして行われる。
このように、咀嚼模擬試験における噛みちぎり方向への駆動、および、すり潰し方向への駆動は、鉛直方向の往復運動と、鉛直方向を回転軸とする回転運動とを繰り返して行われる。
【0023】
また、前記条件(7)咀嚼時間において、20秒間とは、前記上治具に対する前記下治具の往復運動を1回として前記噛みちぎり方向に10回、前記すり潰し方向に10回の合計20回にかかる時間を意味する。
【0024】
また前記条件(8)の唾液添加流量において、人工唾液は連続的に、かつ下治具14上に4箇所にわたり円周方向に均等分配された人工唾液流入部材(例えばチューブ)から流入させるのが好ましい。また、試験前には上治具12および下治具14に対し1回咀嚼動作(上治具および下治具を噛み合わせる動作)を行っておくことが好ましい。
【0025】
また、前記条件(9)咀嚼模擬試験環境温度は32~34℃であり、任意の方法で調節される。
【0026】
本発明において力積値とは、前記咀嚼模擬試験を行うことで計測される力のデータから時間で積分した値を意味する。すなわち、例えば、咀嚼模擬装置において、上治具又は下治具に組み込まれ又は埋設されたセンサにより、上治具又は下治具に印加される物理量を計測する。そして、上治具に対する下治具の上記鉛直方向の往復運動及び鉛直方向を回転軸とする回転運動を制御する計測制御部が、上記センサの出力から上治具または下治具に印加される物理量を計測する。計測制御部では、上記計測された力のデータから時間で積分して力積のデータを得ることができる。本発明において力積値は、646N・s以下であり、この数値が小さくなればなるほど、繊維状チーズが柔らかく、咀嚼に必要な力が小さいということであり、本発明の効果が向上する。例えば、600N・s以下であることが好ましく、552N・s以下であることがより好ましく、545N・s以下であることがさらに好ましく、540N・s以下であることが特に好ましい。また、力積値の下限値は、50N・s以上であることが好ましい。
【0027】
また、前記咀嚼後の切片の体積の最大値は前記の通り1310mm3以下であり、この数値が小さくなればなるほど、繊維状チーズがほぐれ易くなる。例えば、1200mm3以下であることが好ましく、1000mm3以下であることが好ましく、831mm3以下であることがより好ましく、700mm3以下であることがさらに好ましく、600mm3以下であることが特に好ましい。
【0028】
前記咀嚼後の切片の体積の最大値は前記力積値を測定した後のサンプルの切片に対し、ワンショット3D形状測定機VR-5200(KEYENCE社製)を用いることにより測定することができる。
【0029】
また本発明の繊維状チーズは、断面積が50mm2以上400mm2以下であり、かつ繊維長手方向の長さが5mm以上30mm以下であることが好ましい。この形状を有する繊維状チーズは、口中でほぐれやすく優れた食感を有し、咀嚼しやすいという本発明の効果をさらに高めることができる。
【0030】
図1は、本発明の繊維状チーズの一実施形態の斜視図である。
図1においては、説明の便宜上、繊維状チーズを円柱状の外形としているが、本発明の実施形態における繊維状チーズの外形状はこれに限定されない。例えば、断面が楕円形、三角形あるいはそれ以上の多角形を有する角柱状のものや星形のものであることもできる。円すい形状、長方形のものであることもできる。
【0031】
図1の繊維状チーズ10は、例えば円柱状の外形を有し、そのサイズは前記好適な実施形態で示したように断面積が50mm
2以上400mm
2以下であり、かつ繊維長手方向の長さが5mm以上30mm以下であるのがよい(以下特定形状と呼ぶことがある)。ここで言う断面積とは繊維長手方向に直交する方向で繊維状チーズ10を切断したときの切断面の面積である。このような形状を有することにより、本発明の前記効果が高まることは前記の通りであり、カットし易い(噛みちぎり易い)という利点を有する。
なお、
図1に示す繊維長手方向は、繊維状チーズ10を押出成形により製造する際の押出方向と凡そ一致し、製造される繊維状チーズが柱状である場合は、その高さ方向となる。
【0032】
本発明の繊維状チーズの前記断面積は、100mm2以上300mm2以下がより好ましく、150mm2以上250mm2以下がさらに好ましい。また、本発明の繊維状チーズの前記繊維長手方向の長さは、10mm以上25mm以下がより好ましく、15mm以上20mm以下がさらに好ましい。
【0033】
また本発明の繊維状チーズは、質量が50g未満であることが好ましい。このような質量を有することにより、さらに優れた口中でのほぐれやすさを提供でき、またボリュームも適切となり、特に子供や高齢者などの小食者でも一回で全て食べ切ることが容易となり、指や環境下での汚染や廃棄の恐れが低減する。
本発明の繊維状チーズの質量は、0.5g以上40g以下がさらに好ましく、1g以上25g以下がより好ましく、1g以上5g以下が特に好ましい。
【0034】
本発明の繊維状チーズは、FDMが40%以上75%以下であるのが好ましく、50%以上70%以下であるのがより好ましく、55%以上65%以下であるのがさらに好ましい。本発明の繊維状チーズのFDMが上記範囲であることで、繊維の間に脂肪球が入り込み柔らかく、ほぐれやすい物性を達成できる。
また、本発明の繊維状チーズは、FDMが55%以上75%以下である場合は、水分値は30~45%が好ましく、30~38%がより好ましい。また、FDMが40%以上55%未満である場合は、水分値は40~55%が好ましく、45~50%がより好ましい。30%以上55%以下であるのが好ましく、35%以上55%以下であるのがより好ましく、40%以上50%以下であるのがさらに好ましい。本発明の繊維状チーズの水分値が上記範囲であることで、適切な柔らかさを実現できる。
【0035】
本発明の繊維状チーズは、酸素の減少した状態となるように密封して包装されたものとすることができる。当該包装の方法としては、例えば、真空包装方法、ガス置換包装方法、脱酸素剤の含める包装方法、脱酸素包材による包装などが挙げられる。なかでも、本発明の繊維状チーズは、真空包装方法、ガス置換包装方法、脱酸素剤の含める包装方法のいずれかの包装方法で包装されているものが好ましい。
真空包装方法では内圧が3kPa以上15kPa以下の範囲内になるように包装してよい。ガス置換包装方法では、繊維状チーズが入れられた包装材の内部を不活性ガスで置換すればよい。不活性ガスとしては炭酸ガス、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどが挙げられる。繊維状チーズを上述のいずれかの方法で個包装することで食する直前まで、カビなどの微生物の繁殖をより抑制することができる。
【0036】
次の本発明の繊維状チーズの製造方法について説明する。
本発明の繊維状チーズの製造方法の一例としては、まず原料乳に乳酸菌及び凝乳酵素(レンネット)を添加して凝乳させ、カッティング、ホエイ排除をしてチーズカードを得る(第1工程:チーズカード調製工程)。つづいて、得られたチーズカードを加熱混練し、所望の形状に成形し、冷却固化する(第2工程:繊維状チーズ調製工程)。これにより、繊維状チーズが得られる。
特に、本発明の繊維状チーズの製造方法では、上記第1工程のチーズカード調製工程において、原料乳から調製したチーズカードの熟度を4%以上9%以下に調整する、および/または、チーズカードのFDMを55%以上75%以下に調整する調整工程を少なくとも有することを特徴とする。本発明の繊維状チーズは、チーズカードの熟度を4%以上9%以下という特定範囲に調整し、および/またはチーズカードのFDMを55%以上75%以下という特定範囲に調整することにより、柔らかく、かつほぐれやすい性質が付与される。
【0037】
チーズカードの調製方法は特に制限されず、常法に従うことができる。例えば、牛乳、山羊乳、水牛のような原料乳に、酸や凝乳酵素(レンネット)を添加し、凝集物(チーズカード)と乳清(ホエイ)に分離する方法等が挙げられる。市販の冷凍チーズカードを使用してもよい。また、殺菌工程を有してもよい。
【0038】
上記第1工程のチーズカード調製工程において、調製されたチーズカードの熟度を4%以上9%以下に調整するには、2種類の異なる熟度を有するチーズカード同士を混ぜ合わせるのが好ましい。すなわち、熟度が低く新しいチーズカードと、熟度が高く古いチーズカードとを混ぜ合わせることで得られるチーズカードの熟度を調整することにより、柔らかく、かつほぐれやすい性質を付与できる。例えば熟度の異なる2つ以上のチーズカードを適切な比率で混合する等の方法がある。
【0039】
具体的には、熟度0.1~5%のチーズカード(熟度の低い第1のチーズカード)と熟度5~20%のチーズカード(熟度の高い第2のチーズカード)とを混練してもよい。
また、熟度の低い第1のチーズカードと熟度の高い第2のチーズカードとの混練比率は、特に制限されず、最終的に得られる調製されたチーズカードが所望の熟度を有するように、適宜調整される。熟度の低い第1のチーズカードと熟度の高い第2のチーズカードとの混練比率は、例えば、質量基準で10:1~1:10であってよく、1:1、2:3、1:9などが混合比の例として挙げられる。
【0040】
より具体的には、例えば、熟度3.2%のチーズカードと熟度14.6%のチーズカードとを質量基準で、5:1~1:5で混練してもよい。
【0041】
ここで本発明でいう熟度とは、チーズカードの全量中、水溶性窒素(水溶性N)と全窒素(全N)の質量比(水溶性N/全N(%))を意味する。なお、水溶性窒素とは、熟成中にタンパク質が酵素によって分解されて生成する、分子量が5,000Da以下のペプチドまたはアミノ酸に含まれる窒素のことである。これらの含有量は、原料チーズ中で、熟成の進行とともに増大する。
【0042】
前記水溶性窒素(水溶性N)と全窒素(全N)の質量比は、以下の計算方法で算出できる。
熟度(%)=水溶性N/全N(%)=水溶性窒素含有量/全窒素含有量×100
【0043】
また、全窒素含有量および水溶性窒素含有量は、以下の方法で測定することができる。
[全窒素含有量]
ケルダール法にて測定する。
[水溶性窒素含有量]
(1)試料(チーズカード)の5gに、約50℃に加温した0.05Mのクエン酸ナトリウム・二水和物溶液を60mlで加え、回転式ホモゲナイザーを用いて8000rpm、約3分間で、ホモジナイズする。
(2)ホモゲナイザーを蒸留水で洗いこみながら100gとする。
(3)スターラーで攪拌しながら、6規定の塩酸溶液でpHを4.40±0.05に調整する。
(4)東洋ろ紙No.5Aで、ろ過し、ろ液の2mlを取り、ケルダール法により窒素を定量する。この得られた値がチーズカードの1gあたりの水溶性窒素含有量である。
【0044】
前記調製されたチーズカードの熟度は、5%以上9%以下がさらに好ましい。
【0045】
また、調製されたチーズカードのFDMを55%以上75%以下に調整するには、例えばFDMの異なるチーズカードを適切な比率で混合する等の方法がある。例えば、FDM15%以上75%以下に調整された、FDMの異なる2つ以上のチーズカードを、FDM55%以上75%以下に調整するように比率を組み合わせればよい。
具体的には、混練比率は特に制限されず、最終的に得られる調製されたチーズカードが所望の熟度を有するように、適宜調整される。FDMが30~55%のカード(FDMの低い第1のカード)とFDMが55~80%のカード(FDMの高い第2のカード)を混練してもよい。例えば、FDM40%のチーズカードとFDM70%のチーズカードとを一定比率(質量基準)で混練してもよい。また、FDM40%のチーズカードとFDM70%のチーズカードとを質量基準で、1:1~100で混練してもよい。
【0046】
また、調製されたチーズカードのFDMを55%以上75%以下に調整する方法としては、原料乳に、クリーム、バター、等を所定量添加すること等も挙げられる。
【0047】
ここで本発明で言うFDMとは、脂肪含量を固形分含量で除した割合(百分率)である。FDMに用いる固形分とはタンパク質含量と脂肪含量の合計である。日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアルの「第1章 一般成分及び関連成分」に記載のタンパク質含量は、記載の「マクロ改良ケルダール法」(P12-P16)に従って測定した。また、脂肪含量は、同章に記載の「酸・アンモニア分解法」(P24-P25)に従って測定した。
【0048】
前記調製されたチーズカードのFDMは、60%以上70%以下がより好ましく、60%以上65%以下がさらに好ましい。
【0049】
前記チーズカードの熟度を調整する工程と、前記チーズカードのFDMを調整する工程は、そのうちの一方のみを行ってもよく、両方行ってもよい。なかでも、チーズカードの熟度を調整する工程と、チーズカードのFDMを調整する工程の両方を行うのが好ましい。さらには、2種類の異なる熟度を有するチーズカード同士を混ぜ合わせることでチーズカードの熟度を4%以上9%以下に調整する工程と、チーズカードのFDMを55%以上75%以下に調整する工程の両方を行うのが特に好ましい。
【0050】
また、得られる繊維状チーズの水分値が30~55%となるように調製する工程をさらに含むのが好ましい。得られる繊維状チーズの水分値を上記範囲とするには、例えばクリーム、バター、水分の添加量を調整する等の方法が挙げられる。
高FDMによって柔らかくほぐれやすい物性を達成する場合、すなわち、FDMが55%以上75%以下である場合は、得られる繊維状チーズの水分値は30~45%がより好ましく、30~38%がさらに好ましい。一方、熟度を調整することによって柔らかくほぐれやすい物性を達成する場合は、FDMは高くなくてもよい。すなわち、FDMが40%以上55%未満である場合は、得られる繊維状チーズの水分値は、40~55%がより好ましく、45~50%がさらに好ましい。
【0051】
前記調整工程後に得られたチーズカードについて、加熱混練する工程、所望の形状に成形する工程、切断する工程、及び冷却固化する工程を有することができる。
【0052】
前記チーズカードの加熱混練は、公知の方法に基づけばよく、特に制限されない。加熱方法としては、例えば、熱水中で加熱する方法等が挙げられる。また、混練方法としては、例えば、ケンミックスミキサー(愛工舎製作所製)等の種々のミキサーを使用できる。
【0053】
前記所望の形状に成形する工程および切断する工程は、特に制限されず、常法に従い行うことができる。例えば、チーズを延伸し、延伸したチーズをカッターなどの刃物を用いて適切な長さに切断し、繊維状チーズとする方法が挙げられる。この際、繊維状チーズの断面積、長さおよび質量に好適な範囲が存在することは、上述の通りである。
また、冷却固化する工程も、特に制限されず、常法に従い行うことができる。
【0054】
本発明の繊維状チーズの製造方法は、前記成形された繊維状チーズを、酸素の減少した状態となるように密封包装する工程をさらに有することができる。
例えば、上述したとおり、真空包装方法、ガス置換包装方法、脱酸素剤を含める包装方法、脱酸素包材による包装などが挙げられる。真空包装方法では内圧が3kPa以上15kPa以下の範囲内になるように包装してよい。ガス置換包装方法では、繊維状チーズが入れられた包装材の内部を不活性ガスで置換すればよい。不活性ガスとしては炭酸ガス、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどが挙げられる。繊維状チーズを上述のいずれかの方法で個包装することで食する直前まで、カビなどの微生物の繁殖をより抑制することができる。
【実施例0055】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0056】
[実施例1]
生乳およびクリームを利用して標準化を行った後、殺菌(75℃15秒間)し、32℃に冷却し、仕込み乳を調製した。この仕込み乳の質量に対し、乳酸菌スターターを1.5質量%、塩化カルシウムを0.03質量%の割合で添加し混合しながら、インキュベーターで33℃30分間静置した。さらに、0.0075質量%の割合でレンネットを添加し、30分間保持して凝固させ、1cm角にカッティングして緩やかに攪拌しながらホエイを排出し、32℃から30分間強く攪拌し、39℃まで到達させた。カードとホエイを分離し、30℃恒温室でミリングした後、食塩1質量%を添加し、油圧ポンプで圧縮し、FDM64%のチーズカードを得た。
得られたチーズカードを熱水中で60℃に加熱した後、ケンミックスミキサー(愛工舎製作所製)で混練し、吐出後、直径1.5cm、繊維長手方向の長さを2.25cmに延伸(1.5倍の延伸)し、冷却しながら、
図2に示すような円柱状にして実施例1の繊維状チーズを得た。得られた繊維状チーズの組成は、水分39質量%、脂肪39質量%、タンパク質18質量%であった。FDMは68%であった。熟度は4.3%であった。
【0057】
[実施例2]
実施例1において、チーズカードのFDMを48%に調整した。このチーズカードの半量を10℃で2ヵ月間保管した。
また、前記保管を行っていない半量のチーズカード(未熟チーズカード)の水溶性窒素は1mg/g、全窒素含有量は94.5mg/gであり、熟度は1.1%であった。また、10℃で2ヵ月間保管したチーズカード(熟成チーズカード)の水溶性窒素は5.2mg/g、全窒素含有量は94.5mg/gであり、熟度は5.5%であった。上記未熟チーズカードと熟成チーズカードとを1:1の質量比で混合し、熱水中で60℃に加熱した後、ケンミックスミキサー(愛工舎製作所製)で混練し、吐出後、直径1.5cm、繊維長手方向の長さを2.25cmに延伸(1.5倍の延伸)し、冷却しながら、
図2に示すような円柱状にカットして実施例2の繊維状チーズを得た。得られた繊維状チーズの組成は、水分48質量%、脂肪16質量%、タンパク質23質量%であった。FDMは41%であった。熟度は3.3%であった。
【0058】
[比較例1]
市販の繊維状チーズAを用意し、比較例1の繊維状チーズとした。この繊維状チーズAの組成は水分45質量%、脂肪22質量%、タンパク質28質量%であった。
比較例1の繊維状チーズの熟度は5.4%、FDMは40%であった。
【0059】
[比較例2]
株式会社明治製ストリングチーズを用意し、比較例2の繊維状チーズとした。この繊維状チーズの組成は水分51質量%、脂肪21質量%、タンパク質22質量%であった。
比較例2の繊維状チーズの熟度は6.0%、FDMは43%であった。
【0060】
[比較例3]
市販の繊維状チーズBを用意し、比較例3の繊維状チーズとした。この繊維状チーズの組成は水分50質量%、脂肪21質量%、タンパク質22質量%であった。
比較例3の繊維状チーズの熟度は4.3%、FDMは42%であった。
【0061】
[比較例4]
実施例1において、FDMを47%に調整した未熟チーズカード(熟度3.9%)と、FDMを47%に調整した熟成チーズカード(熟度13.1%)とを混合せずに熱水中で60℃に加熱した後、ケンミックスミキサー(愛工舎製作所製)で混練し、吐出後、直径1.5cm、繊維長手方向の長さを2.25cmに延伸(1.5倍の延伸)し、冷却しながら、
図2に示すような円柱状にカットしたことを除いては、実施例1と同様の方法で、比較例4の繊維状チーズを得た。この繊維状チーズの組成は、水分42質量%、脂肪23質量%、タンパク質32質量%であった。FDMは42%であった。熟度は3.9%であった。
【0062】
[実施例3]
実施例1において、FDMを46.6%に調整したチーズカードを、熱水中で60℃に加熱した後、ケンミックスミキサー(愛工舎製作所製)で混練し、吐出後、直径1.5cm、繊維長手方向の長さを2.25cmに延伸(1.5倍の延伸)し、冷却しながら
図2に示すような円柱状にカットしたことを除いては、実施例1と同様の方法で、実施例3の繊維状チーズを得た。この繊維状チーズの組成は、水分47質量%、脂肪21質量%、タンパク質29質量%であった。FDMは42%であった。熟度は7.8%であった。
【0063】
[実施例4]
実施例1において、FDMを46.1%に調整したチーズカードを、熱水中で60℃に加熱した後、ケンミックスミキサー(愛工舎製作所製)で混練し、吐出後、直径1.5cm、繊維長手方向の長さを2.25cmに延伸(1.5倍の延伸)し、冷却しながら、
図2に示すような円柱状にカットしたことを除いては、実施例1と同様の方法で、実施例4の繊維状チーズを得た。この繊維状チーズの組成は、水分48質量%、脂肪20質量%、タンパク質28質量%であった。FDMは41%であった。熟度は4.4%であった。
【0064】
[実施例5]
実施例1において、FDMが46.2%のチーズカードに対し、バターを添加して脂肪分を調整して得たFDM65%のチーズカードを、熱水中で60℃に加熱した後、ケンミックスミキサー(愛工舎製作所製)で混練し、吐出後、直径1.5cm、繊維長手方向の長さを2.25cmに延伸(1.5倍の延伸)し、冷却しながら、
図2に示すような円柱状にカットしたことを除いては、実施例1と同様の方法で、実施例5の繊維状チーズを得た。この繊維状チーズの組成は、水分35質量%、脂肪39質量%、タンパク質22質量%であった。FDMは64%であった。熟度は3.9%であった。
【0065】
[実施例6]
実施例1において、FDMが46.2%のチーズカードに対し、バターを添加して脂肪分を調整して得たFDM59%のチーズカードを、熱水中で60℃に加熱した後、ケンミックスミキサー(愛工舎製作所製)で混練し、吐出後、直径1.5cm、繊維長手方向の長さを2.25cmに延伸(1.5倍の延伸)し、冷却しながら、
図2に示すような円柱状にカットしたことを除いては、実施例1と同様の方法で、実施例6の繊維状チーズを得た。この繊維状チーズの組成は、水分39質量%、脂肪33質量%、タンパク質24質量%であった。FDMは58%であった。熟度は3.9%であった。
【0066】
[実施例7]
実施例1において、FDMが46.2%のチーズカードに対し、バターを添加して脂肪分を調整して得たFDM55%のチーズカードを、熱水中で60℃に加熱した後、ケンミックスミキサー(愛工舎製作所製)で混練し、吐出後、直径1.5cm、繊維長手方向の長さを2.25cmに延伸(1.5倍の延伸)し、冷却しながら、
図2に示すような円柱状にカットしたことを除いては、実施例1と同様の方法で、実施例7の繊維状チーズを得た。この繊維状チーズの組成は、水分41質量%、脂肪30質量%、タンパク質25質量%であった。FDMは55%であった。熟度は3.9%であった。
【0067】
[実施例8]
実施例1において、FDMを46.4%に調整した未熟チーズカード(熟度3.9%)と、FDMを46.4%に調整した熟成チーズカード(熟度7.8%)とを混合して熱水中で60℃に加熱した後、ケンミックスミキサー(愛工舎製作所製)で混練し、吐出後、直径1.5cm、繊維長手方向の長さを2.25cmに延伸(1.5倍の延伸)し、冷却しながら、
図2に示すような円柱状にカットしたことを除いては、実施例1と同様の方法で、実施例8の繊維状チーズを得た。この繊維状チーズの組成は、水分48質量%、脂肪20質量%、タンパク質28質量%であった。FDMは42%であった。熟度は5.8%であった。
【0068】
[実施例9]
実施例1において、FDMを46.6%に調整した未熟チーズカード(熟度3.9%)と、FDMを46.6%に調整した熟成チーズカード(熟度13.1%)とを混合して熱水中で60℃に加熱した後、ケンミックスミキサー(愛工舎製作所製)で混練し、吐出後、直径1.5cm、繊維長手方向の長さを2.25cmに延伸(1.5倍の延伸)し、冷却しながら、
図2に示すような円柱状にカットしたことを除いては、実施例1と同様の方法で、実施例9の繊維状チーズを得た。この繊維状チーズの組成は、水分46質量%、脂肪22質量%、タンパク質29質量%であった。FDMは43%であった。熟度は8.5%であった。
【0069】
<評価方法>
力積値の測定
以下の条件(1)~(9)の下、咀嚼模擬装置を用いて咀嚼模擬試験を行い、計測制御部により得られた力のデータから時間で積分して力積値のデータを得た。試験は3回行い、その平均値を求めた。
(1)前記繊維状チーズのサンプル形状:円柱状とした。
(2)前記円柱状のサンプルのサイズ:繊維長手方向に対して直交方向に切断して得られた切断面の断面積が177mm2であり、かつ繊維長手方向の長さが15mmとした。なお、サンプルサイズの調整は、各実施例および比較例の繊維状チーズをカットすることにより行った。
(3)咀嚼疑似歯:咀嚼用容器中に上治具および下治具を設け、前記上治具は、長さ59mmであり頂点の角度が120°である三角柱状の主歯形および長さ59mmであり頂点の角度が60°である三角柱状の副歯形を同じ高さで十字形に交差させた構造を有し、前記主歯形は、前記円柱状のサンプルと接触する箇所に一辺6mmおよび高さ1mmの立方体形状の凸部を1mmの間隔で敷き詰めた構造を有し、前記副歯形は、前記凸部を有さず、前記上治具および前記下治具は雄型および雌型の関係にあり、前記主歯形の頂部および前記主歯形の頂部とかみ合う前記下治具の雌型の底部は、曲率半径3mmの円弧状を呈するものとした。
(4)咬合力:前記上治具および前記下治具間に形成された咬合部に前記円柱状のサンプルを設置し、前記円柱状のサンプルに対して噛みちぎり方向およびすり潰し方向で最大200Nとした。
(5)咀嚼速度:前記上治具に対する前記下治具の往復運動を1回として60回/minとした。
(6)咀嚼方向・回数:前記上治具に対する前記下治具の往復運動を1回として、前記噛みちぎり方向に10回、前記すり潰し方向に10回の合計20回とした。
(7)咀嚼時間:20秒間とした。
(8)唾液添加流量:人工唾液として0.02質量%キサンタンガム水溶液を用い、前記人工唾液の前記上治具および前記下治具間への添加流量として4ml/minとした。なお、咀嚼模擬試験前に前記人工唾液を前記下治具上に1ml添加しておいた。
(9)咀嚼模擬試験環境温度:32~34℃とした。
なお、上記(6)の噛みちぎり方向の10回の往復運動、及びすり潰し方向の10回の往復運動においては、1回の鉛直方向の往復運動が終了するごとに、鉛直方向を回転軸として90°回転した後に、次の鉛直方向の往復運動を開始することによって、主歯形による咀嚼と副歯形による咀嚼とが交互に入れ替わるようにして行った。
【0070】
咀嚼後の切片の体積の最大値の測定
前記力積値測定後のサンプルの切片に対し、ワンショット3D形状測定機VR-5200(KEYENCE社製)を用い、咀嚼後の切片の体積の最大値を測定した。測定は3回行い、その平均値を求めた。
【0071】
官能評価
10名のパネラーにより、下記「食感」を5段階で評価し平均点を算出した。
・硬さ(1点:非常に硬い、2点:硬い、3点:やや柔らかい、4点:柔らかい、5点:非常に柔らかい)
・ほぐれやすさ(1点:非常にほぐれにくい、2点:ほぐれにくい、3点:ややほぐれやすい、4点:ほぐれやすい、5点:非常にほぐれやすい)
硬さ、および、ほぐれやすさ、のいずれの場合も、10名のパネラーの平均点が2点を超えた場合を合格とした。
【0072】
力積値の測定結果および硬さに関する官能評価結果の関係を、下記表1および
図3に示す。
【0073】
【0074】
表1および
図3の結果から、力積値と硬さの官能評価の間には高い相関が見られた(R
2=0.88)。力積値と官能評価の相関関数により、前記官能評価に対応する力積値646(N・s)以下であると「やわらかい」といえ、実施例はこれを満たす。
【0075】
次に咀嚼後の切片の体積の最大値の測定結果およびほぐれやすさに関する官能評価結果の関係を、下記表2および
図4に示す。
【0076】
【0077】
表2および
図4の結果から、咀嚼後の切片の体積の最大値と官能評価との間には高い相関が見られた(R
2=0.8452)。咀嚼後の切片の体積の最大値と官能評価との相関関数により、前記官能評価に対応する咀嚼後の切片の体積の最大値1310(mm
3)以下であると「ほぐれやすい」といえ、実施例はこれを満たす。
【0078】
以上の結果から、実施例1~9の繊維状チーズは、力積値が30N・s以上646N・s以下であり、やわらかく、かつ、咀嚼後の切片の体積の最大値が1310mm3以下であり、ほぐれやすい結果となった。
一方、比較例1の繊維状チーズは、力積値が646N・sを超えており、硬い結果となった。また、比較例2~4の繊維状チーズは、嚼後の切片の体積の最大値が1310mm3を超えており、ほぐれにくい結果となった。