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特開2025-34920アルミニウム合金ディスク材、アルミニウム合金原料の製造方法、アルミニウム合金鋳塊の製造方法、アルミニウム合金板の製造方法、めっき用アルミニウム合金基板の製造方法、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法及び磁気ディスク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025034920
(43)【公開日】2025-03-13
(54)【発明の名称】アルミニウム合金ディスク材、アルミニウム合金原料の製造方法、アルミニウム合金鋳塊の製造方法、アルミニウム合金板の製造方法、めっき用アルミニウム合金基板の製造方法、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法及び磁気ディスク
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/73 20060101AFI20250306BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20250306BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20250306BHJP
   C22F 1/047 20060101ALI20250306BHJP
   C23C 18/36 20060101ALI20250306BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20250306BHJP
   B22D 21/04 20060101ALI20250306BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20250306BHJP
   C23C 18/18 20060101ALI20250306BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20250306BHJP
   C22C 19/03 20060101ALN20250306BHJP
   C22C 21/06 20060101ALN20250306BHJP
   B22D 11/049 20060101ALN20250306BHJP
【FI】
G11B5/73
G11B5/82
G11B5/84 A
C22F1/047
C23C18/36
C22B7/00 A
B22D21/04 A
B22D11/00 E
C23C18/18
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 661D
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22C19/03 G
C22C21/06
B22D11/049
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023141601
(22)【出願日】2023-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】北脇 高太郎
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 航
(72)【発明者】
【氏名】国分 勇磨
(72)【発明者】
【氏名】坂本 遼
【テーマコード(参考)】
4E004
4K001
4K022
5D112
【Fターム(参考)】
4E004NC08
4K001BA22
4K001CA02
4K001DA05
4K001GA19
4K022AA02
4K022BA14
4K022CA02
4K022CA17
4K022DA01
4K022DA03
4K022DB02
5D112AA02
5D112BA06
5D112EE01
5D112GA09
5D112GA14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】リサイクル性に優れた、アルミニウム合金ディスク材、アルミニウム合金原料の製造方法、アルミニウム合金鋳塊の製造方法、アルミニウム合金板の製造方法、めっき用アルミニウム合金基板の製造方法、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法及び磁気ディスクを提供する。
【解決手段】アルミニウム合金ディスク1と、Niを含む下地層と、を備える中間材及び完成品の少なくともいずれかのリサイクル材から前記下地層が剥離された剥離面を有するアルミニウム合金ディスク材であって、前記剥離面の表面に酸化皮膜10を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金ディスクと、Niを含む下地層と、を備える中間材及び完成品の少なくともいずれかのリサイクル材から前記下地層が剥離された剥離面を有するアルミニウム合金ディスク材であって、前記剥離面の表面に酸化皮膜を有することを特徴とする、前記アルミニウム合金ディスク材。
【請求項2】
前記酸化皮膜はS及びPの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のアルミニウム合金ディスク材。
【請求項3】
前記下地層はNi-Pめっき層を含む、請求項1又は2に記載のアルミニウム合金ディスク材。
【請求項4】
アルミニウム合金ディスクと、Niを含む下地層と、を備える中間材及び完成品の少なくともいずれかをリサイクル材としてアルミニウム合金素材の少なくとも一部に再利用して、前記リサイクル材を含むアルミニウム合金素材の加熱又湿式処理により前記アルミニウム合金ディスクと前記下地層を分離する分離工程を含むアルミニウム合金原料の製造方法であって、前記下地層が剥離されて得られたアルミニウム合金ディスク材の剥離面に酸化皮膜が形成されていることを特徴とするアルミニウム合金原料の製造方法。
【請求項5】
グロー放電発光分光分析法により前記酸化皮膜の表面から深さ方向の定量元素分析を行ったときに、酸素(O)の発光強度のピークが半分になる時間が0.1秒以上である、請求項4に記載のアルミニウム合金原料の製造方法。
【請求項6】
前記酸化皮膜はS及びPの少なくとも1つを含む、請求項4又は5に記載のアルミニウム合金原料の製造方法。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の製造方法で得られたアルミニウム合金原料の少なくとも一部を使用してアルミニウム合金の溶湯を調整する溶湯調整工程と、調整した溶湯を加熱保持する溶湯加熱保持工程と、加熱保持した溶湯を鋳造する鋳造工程とを含むことを特徴とするアルミニウム合金鋳塊の製造方法。
【請求項8】
前記溶湯加熱保持工程において、前記アルミニウム合金の溶湯表面に存在する酸化皮膜を除去する、請求項7に記載のアルミニウム合金鋳塊の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の製造方法で得られたアルミニウム合金鋳塊を任意に加熱処理する均質化処理工程と、任意に均質化処理したアルミニウム合金鋳塊を熱間圧延する熱間圧延工程と、熱間圧延した熱間圧延板を冷間圧延する冷間圧延工程とを含むことを特徴とするアルミニウム合金板の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法で得られたアルミニウム合金板を円環状ディスクブランクに加工する加工工程と、円環状ディスクブランクを加圧平坦化する加圧焼鈍工程と、加圧平坦化した円環状ディスクブランクに切削加工と研削加工を施す切削・研削加工工程とを含むことを特徴とするめっき用アルミニウム合金基板の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の製造方法で得られためっき用アルミニウム合金基板に、脱脂、エッチング及びジンケート処理を施すめっき前処理工程と、めっき前処理を施したアルミニウム合金基板の表面に無電解でのNi-Pめっき処理を施し、めっき処理した表面を研磨する下地めっき処理工程とを含むことを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の製造方法で得られた磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面に、磁性体を付着させて磁性体層を形成する磁気付与工程を含むことを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の製造方法によって得られた磁気ディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクル性に優れた、アルミニウム合金ディスク材、アルミニウム合金原料の製造方法、アルミニウム合金鋳塊の製造方法、アルミニウム合金板の製造方法、めっき用アルミニウム合金基板の製造方法、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法、及びその製造方法で得られた磁気ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータの記憶装置に用いられるアルミニウム合金製磁気ディスクは、良好なめっき性を有するとともに機械的特性や加工性に優れたJIS5086系アルミニウム合金をベースにしたアルミニウム合金基板から製造されている。
【0003】
さらに、アルミニウム合金製磁気ディスクは、めっき前処理工程における金属間化合物の抜け落ちによるピット不具合の改善を目的に、JIS5086系アルミニウム合金中の不純物であるFe、Si、Mn等の含有量を制限し、マトリックス中の金属間化合物のサイズを小さくしたアルミニウム合金基板、或いは、めっき性の改善を目的にJIS5086系アルミニウム合金中のCuやZnを意識的に添加したアルミニウム合金基板等から製造されている。
【0004】
一般的なアルミニウム合金製磁気ディスクの製造において、まず、アルミニウム合金板を作製した後、円環状アルミニウム合金ディスクブランクを作製し、切削加工、研削加工を行った後に加圧焼鈍を施してアルミニウム合金基板を作製する。次いで、このアルミニウム合金基板にめっきを施し、さらにアルミニウム合金基板の表面に磁性体を付着させることによりアルミニウム合金製磁気ディスクが製造される。
【0005】
例えば、JIS5086系アルミニウム合金を用いたアルミニウム合金製磁気ディスクは、以下の製造工程により製造される。まず、所望の合金組成を有するアルミニウム合金を鋳造し、その鋳塊を熱間圧延し、次いで冷間圧延を施し、磁気ディスクとして必要な厚さを有する圧延材を作製する。この圧延材には、必要に応じて冷間圧延の途中等に焼鈍が施される。次に、この圧延材を円環状に打抜き、さらに製造過程により生じた歪み等を除去するため、円環状のアルミニウム合金板を積層し、両面から加圧しつつ焼鈍を施して平坦化する加圧焼鈍を行う。このような工程を経てディスクブランクが作製される。
【0006】
このようにして作製されたディスクブランクに、前処理として切削加工、研削加工を施した後、加工工程により生じた歪み等を除去するために、ディスクブランクを加熱処理すすることでアルミニウム合金基板が作製される。次に、めっき前処理として脱脂、エッチング、ジンケート処理(Zn置換処理)を施し、さらに下地処理として硬質非磁性金属であるNi-Pめっきを施し、表面にポリッシングを施すことで、磁気ディスク用アルミニウム合金基板が作製される。最後に、磁性体等をスパッタリングしてアルミニウム合金製の磁気ディスクが製造される。
【0007】
ところで、近年になって、磁気ディスクには、マルチメディア等のニーズから大容量化及び高密度化が求められている。さらなる大容量化のため、記憶装置に搭載される磁気ディスクの枚数が増加しており、それに伴い磁気ディスクの薄肉化も求められている。しかしながら、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を薄肉化すると剛性が低下してしまうため、アルミニウム合金基板には高剛性化が求められ、近年では、Ni等を添加した高剛性材料の検討が行われている。
【0008】
一方、磁気ディスクの搭載枚数の増加に伴い、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の原料であるAl等の必要量が増加している。しかしながら、これらの資源には限りがあるため、めっきや磁性体等が付着したアルミニウム合金基板や磁気ディスクもアルミニウム合金素材の原料の一部として再利用することが求められている。リサイクルの対象は、アルミニウム合金基板であれば欠陥が発生し製品として不適なものが用いられ、磁気ディスクでは欠陥品や使用済みHDDから抽出したものなどが用いられる。
【0009】
このような実情から、近年ではリサイクル性に優れたアルミニウム合金鋳塊の製造方法、この鋳塊を用いたアルミニウム合金板の製造方法、このアルミニウム合金板を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法、ならびに、このアルミニウム合金基板を用いた磁気ディスクの製造が強く望まれており、検討がなされている。例えば、特許文献1には、磁気ディスク用アルミニウム合金としてNiを含有させることで、当該アルミニウム合金基板を原料として再利用できることが提案されている。
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法では、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を原料として多量に使用した場合、例えば、重量比で原料の50%以上の磁気ディスク用アルミニウム合金基板を使用した場合、アルミニウム合金原料にはNiが3.0質量%以上含まれる可能性があった。そのため、Niを多く含むことが許容できないアルミニウム合金原料を作製する場合には、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を少量しか使用することができず、リサイクル性に欠けることが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002-275568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、リサイクル性に優れた、アルミニウム合金ディスク材、アルミニウム合金原料の製造方法、アルミニウム合金鋳塊の製造方法、アルミニウム合金板の製造方法、めっき用アルミニウム合金基板の製造方法、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法、及び磁気ディスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、リサイクルの対象である中間材又は完成品からアルミニウム合金ディスクと下地層を分離させる際、下地層を分離して得られるアルミニウム合金ディスク材の表面に酸化皮膜の形成を促進させることによって、リサイクル性に優れたアルミニウム合金ディスク材及びアルミニウム合金原料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明の実施態様に係るアルミニウム合金ディスク材は、アルミニウム合金ディスクと、Niを含む下地層と、を備える中間材及び完成品の少なくともいずれかのリサイクル材から前記下地層が剥離された剥離面を有するアルミニウム合金ディスク材であって、前記剥離面の表面に酸化皮膜を有している。
【0015】
本発明の実施態様に係るアルミニウム合金原料の製造方法は、アルミニウム合金ディスクと、Niを含む下地層と、を備える中間材及び完成品の少なくともいずれかをリサイクル材としてアルミニウム合金素材の少なくとも一部に再利用して、前記リサイクル材を含むアルミニウム合金素材の加熱又湿式処理により前記アルミニウム合金ディスクと前記下地層を分離する分離工程を含むアルミニウム合金原料の製造方法であって、前記下地層が剥離されて得られたアルミニウム合金ディスク材の剥離面に酸化皮膜が形成されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、リサイクル性に優れた、アルミニウム合金ディスク材、アルミニウム合金原料の製造方法、アルミニウム合金鋳塊の製造方法、アルミニウム合金板の製造方法、めっき用アルミニウム合金基板の製造方法、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法、及び磁気ディスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るアルミニウム合金ディスク材の概略図を示す。
図2】本発明に係るアルミニウム合金原料の製造工程から磁気ディスクの製造工程までを示すフロー図である。
図3A】実施例1で作製したアルミニウム合金ディスク材におけるGDSによる定量元素分析の結果を示す。
図3B図3Aにおいて、スパッタ時間が短い範囲を拡大した定量元素分析の結果を示す。
図4A】実施例5で作製したアルミニウム合金ディスク材におけるGDSによる定量元素分析の結果を示す。
図4B図4Aにおいて、スパッタ時間が短い範囲を拡大した定量元素分析の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
1.アルミニウム合金ディスク材
図1に示されるように、本発明におけるアルミニウム合金ディスク材1は、アルミニウム合金ディスクと、Niを含む下地層と、を備える中間材及び完成品の少なくともいずれかのリサイクル材から下地層が剥離された剥離面を有しており、その剥離面の表面に酸化皮膜10を有している。アルミニウム合金ディスク材1の表面に酸化皮膜10が形成されていることにより、アルミニウム合金ディスク材1を再利用してアルミニウム合金原料を作製し、それを用いて新たにアルミニウム合金鋳塊を製造する際に、後述する溶湯加熱保持工程において酸化皮膜10を有する剥離面がさらに溶解されると共に、アルミニウム合金ディスク材1から酸化皮膜10が部分的に又は全体で剥離され、溶湯の表面に浮上する。溶湯の表面に浮上した酸化皮膜10を除去することにより、アルミニウム合金ディスク材1の表面(剥離面)に残存するめっきの低減を図ることができ、リサイクル性に優れたアルミニウム合金ディスク材を得ることができる。酸化皮膜10の形成は、例えば、グロー放電発光分光分析法(以下、「GDS」という)を用いることにより確認することができ、酸素(O)の発光強度のピークが観察された場合に酸化皮膜10が形成されていると判断できる。
【0020】
ここで、本発明において用いられるリサイクル材とは、Ni-Pめっき層等の下地層が存在するアルミニウム合金ディスクであり、中間材としては、磁気ディスク用アルミニウム合金基板が相当し、完成品としては、磁気ディスクが相当する。これらのリサイクル材は、不良品や規格外のもの、また、磁気ディスクであれば使用済みのもの等である。
【0021】
2.リサイクル材
まず、アルミニウム合金原料(以下、「アルミニウム合金原料」又は単に「合金原料」とも称する)の製造において、アルミニウム合金素材の少なくとも一部として使用する、リサイクル材としての磁気ディスク用アルミニウム合金基板と磁気ディスクについて説明する。また、少なくとも一部とは、アルミニウム合金素材の全てをこれらリサイクル材としてもよく、或いは、アルミニウム合金素材の一部をこれらリサイクル材としてもよいことを意味する。
【0022】
2-1.磁気ディスク用アルミニウム合金基板:(中間材)
磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面には、Ni-Pめっき層等のNiを含む下地層が形成されているため、Niを多く含まないアルミニウム合金素材の少なくとも一部に加えるには、下地層の大部分を分離させることが重要である。磁気ディスク用アルミニウム合金基板に使用されるNiを含む下地層中のNiの含有量は、例えば、80質量%以上95質量%以下である。また、Niを含む下地層がNi-Pめっき層である場合、Ni-Pめっき層中に含まれるPの含有量は、例えば、5質量%以上20質量%以下である。また、Niを含む下地層の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、3μm以上25μm以下であり、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の厚さは、例えば、0.3mm以上2.0mm以下である。
【0023】
2-2.磁気ディスク:(完成品)
磁気ディスクにおいては、上述した磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面にCoCrPt系の磁性体層や炭素系材料等の保護膜が形成されているが、これら磁性体層や保護膜は下地層の上に形成されているため下地層を除去することでこれらの大部分を除去することができる。そのため、下地層を分離した磁気ディスクも、NiやPを多く含まないアルミニウム合金素材の少なくとも一部に使用することができる。なお、磁気ディスク用アルミニウム合金基板と同様に磁気ディスクをアルミニウム合金素材として使用する場合も、下地層を多く除去することが重要である。
【0024】
2-3.アルミニウム合金素材
アルミニウム合金素材は、所定の合金組成となるように調整された、アルミニウム合金鋳塊の製造の原料として使用される一般的な材料である。本発明において製造されるアルミニウム合金原料は、このようなアルミニウム合金素材とリサイクル材から分離したアルミニウム合金ディスク材とを含む態様と、アルミニウム合金素材を含まず、リサイクル材から分離したアルミニウム合金ディスク材そのものである態様が含まれる。
【0025】
2-4.酸化皮膜
アルミニウム合金ディスク材の表面に形成されている酸化皮膜は、S(硫黄)及びP(リン)の少なくとも1つを含んでいる。これらの元素のうち、Sは、後述するように分離工程に湿式処理を行う場合に使用される硫酸に起因して酸化皮膜に含まれる。一方、Pはめっき層に起因して、酸化皮膜に含まれるため、アルミニウム合金ディスク材の表面(剥離面)には、これらのS(硫黄)及びP(リン)の少なくとも1つを含む酸化物(ノロ)が存在する。この酸化物は、後述するアルミニウム合金ディスクと下地層を分離する分離工程により、アルミニウム合金ディスク材の剥離面に酸化皮膜として形成される。酸化皮膜の厚さは、特に限定されるものではないが、0.01μm以上10μm以下であることが好ましく、0.02μm以上5μm以下であることがより好ましい。
【0026】
次に、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金原料の製造方法、このアルミニウム合金原料を用いたアルミニウム合金鋳塊の製造方法、このアルミニウム合金鋳塊を用いたアルミニウム合金板の製造方法、このアルミニウム合金板を用いためっき用アルミニウム合金基板の製造方法、このめっき用アルミニウム合金基板を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法、この磁気ディスク用アルミニウム合金基板を用いた磁気ディスク、並びにその製造方法で得られた磁気ディスクについて詳細に説明する。
【0027】
3.アルミニウム合金原料の製造方法
本発明におけるアルミニウム合金原料の製造方法は、アルミニウム合金ディスクと、Niを含む下地層と、を備える中間材及び完成品の少なくともいずれかをリサイクル材としてアルミニウム合金素材の少なくとも一部に再利用して、リサイクル材を含むアルミニウム合金素材の加熱又湿式処理によりアルミニウム合金ディスクと下地層を分離する分離工程を含んでいる。このような分離工程により、下地層が剥離されて得られたアルミニウム合金ディスク材の剥離面に酸化皮膜が形成され、その後の溶湯加熱保持工程において、アルミニウム合金ディスク材の剥離面に残存する下地層を更に分離することができ、リサイクル性に優れたアルミニウム合金原料を得ることができる。
【0028】
図2は、アルミニウム合金原料の製造方法から出発して、磁気ディスクを作製するまでの各工程を示すフローチャートである。図2に示されるように、アルミニウム合金原料は、下地層の分離(ステップS101)の工程を経て製造される。下地層の分離方法として、下地層を物理的に分離する機械的処理や、加熱などの乾式処理、化学的溶解などの湿式処理などが従来から知られている。ここでは、加熱による分離と化学的溶解による分離について説明する。
【0029】
ステップS101では、リサイクル材として、中間材(磁気ディスク用アルミニウム合金基板)又は完成品(磁気ディスク)をアルミニウム合金素材の少なくとも一部に用いて、加熱又湿式処理によって、リサイクル材からアルミニウム合金ディスクと下地層とを分離する(ステップS101)。
【0030】
このような分離工程において、リサイクル材からアルミニウム合金ディスクと下地層とを加熱によって分離する場合、ステップS101では、リサイクル材を含むアルミニウム合金素材を480℃以上570℃以下で1時間を超えて加熱保持することが好ましい。加熱により下地層に含まれるNi-Pめっきとアルミニウム合金ディスク中のアルミニウムが反応し、脆弱なAl、Ni及びPを含む中間層が下地層とアルミニウム合金ディスクの間に形成される。その結果、加熱後の冷却時の熱応力でAl、Ni及びPを含む中間層を起点にクラックが発生し、下地層を分離することができる。分離工程において、加熱温度が480℃未満、及び/又は保持時間が1時間以下では、上記の分離効果を得ることができない。また、酸化皮膜の形成の観点でも不十分である。一方、加熱温度が570℃を超えると、アルミニウム合金ディスクの一部が溶融し、下地層の剥離が困難となる。
【0031】
また、分離性の観点から、加熱温度は520℃以上570℃以下であることがより好ましく、保持時間は2時間以上であることがより好ましい。このような加熱保持によって、アルミニウム合金ディスクと下地層の分離を促進することができ、表面の酸化皮膜をより厚くすることができる。なお、保持時間の上限は特に限定されるものではないが、経済的な観点から、30時間であることが好ましい。
【0032】
分離工程において、加熱後に室温までリサイクル材を含むアルミニウム合金素材を冷却する冷却工程を複数回行うことが好ましい。複数回の冷却を行うことで分離性を高めることができ、アルミニウムディスク材の表面に酸化皮膜をより厚く形成することができる。冷却工程の回数は2回以上であることが好ましく、3回以上であることがより好ましい。また、冷却工程において、400~450℃の温度領域を30℃/h以上の冷却速度で冷却することが好ましい。上述の通り、下地層に含まれるNi-Pめっきは、冷却時に熱応力が発生することで、Al、Ni及びPを含む中間層を起点にクラックが発生し分離するが、上述の温度領域における冷却速度が遅いと熱応力が小さく、分離が不十分となるおそれがある。そのため、加熱後に室温まで冷却する際に400~450℃の温度領域における冷却速度は30℃/h以上であることが好ましく、50℃/h以上であることがより好ましく、80℃/h以上であることがさらに好ましい。なお、室温とは、-10~50℃の範囲を意味する。
【0033】
冷却工程において、リサイクル材を含むアルミニウム合金素材にさらに物理的な衝撃を与えることが好ましい。リサイクル材に衝撃を加えることで、Al、Ni及びPを含む中間層のクラックが進展しやすくなり、下地層が剥離しやすくなる。衝撃を与える方法としては、対象物であるリサイクル材を落下させる方法、機械的に対象物を動かして他の物体と接触させる方法などが挙げられるが、これらの方法に限定されず、任意の方法でリサイクル材を含むアルミニウム合金素材に衝撃を与えることができる。
【0034】
また、分離工程において、所定の温度まで加熱する際の昇温速度は特に限定されるものではないが、30℃/h以上であることが好ましく、50℃/h以上であることがより好ましく、80℃/h以上であることがさらに好ましい。なお、予め所定の温度に加熱した炉に、リサイクル材を含むアルミニウム合金素材を直接投入してもよい。
【0035】
次に、湿式処理による分離について説明する。リサイクル材からアルミニウム合金ディスクと下地層とを化学的溶解、例えば硫酸電解によって分離する場合、ステップS101では、リサイクル材を含むアルミニウム合金素材を硫酸電解することが好ましい。硫酸電解に使用する電解液中の硫酸の濃度は10g/L以上200g/L以下(水1Lに対して98%硫酸が10g以上200g以下)であることが好ましく、50g/L以上150g/L以下であることがより好ましい。硫酸の濃度が10g/L未満であると、下地層の溶解が進行しにくく、一方で、硫酸の濃度が200g/Lを超えると、電解液の粘性が上がり溶解速度が下がるため、非効率である。また、電解液の温度は5℃以上50℃以下であることが好ましい。温度が5℃未満では、電流効率が低く効率が低下し、温度が50℃を超えると、電解時の水素発生が激しくなり、安全上好ましくない。また、硫酸電解の処理時間は30秒以上1200秒以下であることが好ましい。処理時間が30秒未満では、酸化皮膜の形成が不十分であり、1200秒を超えると、生産性上好ましくない。また、硫酸電解において印加する電圧は0.1V以上30V以下であることが好ましい。電圧が0.1V未満では、溶解速度が遅くなり、30Vを超えると、電解時の水素発生が激しくなり、安全上好ましくない。
【0036】
また、分離工程後に得られたアルミニウム合金ディスク材について、グロー放電発光分光分析法(GD-OES:Glow Discharge Optical Emission Spectroscopy)により酸化皮膜の表面から深さ方向の定量元素分析を行ったときに、酸素(O)の発光強度のピークが半分になる時間が0.1秒以上であることが好ましい。上述した分離方法により、アルミニウム合金ディスク材からある程度の下地層を除去できるものの、アルミニウム合金ディスク材の表面に下地層が一部残存してしまう。この下地層を更に除去するため、アルミニウム合金ディスク材の表面(剥離面)に形成される上述の酸化皮膜を厚くすることが好ましい。酸化皮膜を厚くすることで、残存する下地層がアルミニウム合金ディスク材の剥離面から酸化皮膜と共に分離しやすくなる。具体的には、後述する溶湯保持工程において剥離面に存在する酸化皮膜が完全に分離し、溶湯の表面に浮上するため、それを除去することで下地層をより一層除去することができる。酸素(O)の発光強度のピークが半分になる時間が0.1秒以上であることにより、厚い酸化皮膜が形成されているため、残存する下地層がアルミニウム合金ディスク材の剥離面から酸化皮膜と共に分離しやすくなる。また、この酸化皮膜は一部ポーラスであるため溶湯の表面に浮上しやすいが、密度をより低くし浮上しやすくするため、酸化皮膜にはAlよりも密度が低いS及びPの少なくとも1つが含まれていることが好ましい。
【0037】
以上の工程によって、磁気ディスク用アルミニウム合金原料が製造される。
【0038】
4.アルミニウム合金鋳塊の製造方法
アルミニウム合金鋳塊の製造方法は、上述の製造方法で得られたアルミニウム合金原料の少なくとも一部を使用して、アルミニウム合金の溶湯を調整する溶湯調整工程と、調整した溶湯を加熱保持する溶湯加熱保持工程と、加熱保持した溶湯を鋳造する鋳造工程とを含んでいる。具体的には、アルミニウム合金鋳塊は、図2に示されるような、アルミニウム合金成分の調整、アルミニウム合金の溶湯の調整・加熱保持(ステップS102)、さらにアルミニウム合金の鋳造(ステップS103)の各工程を経て製造される。
【0039】
4-1.アルミニウム合金成分の調整・溶湯加熱保持(ステップS102)
ステップS102では、ステップS101でリサイクル材から分離したアルミニウム合金ディスク材を含むアルミニウム合金原料を用いて、所定の合金組成を有するアルミニウム合金の溶湯を、常法に従って加熱・溶融することによって調整する。
【0040】
・Ni(ニッケル)含有量
溶湯加熱保持工程において、アルミニウム合金の溶湯中のNi含有量は、0質量%以上2.5質量%以下であることが好ましい。Niは、アルミニウム(Al)等と結合してAl-Ni系化合物を生成し、めっき表面に大きな欠陥を発生させるため、Ni含有量を低減させる必要がある。溶湯中のNi含有量は、2.5質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。Ni含有量の調整は、原料を加熱・溶融するアルミニウム合金成分の調整工程において実施する。例えば、溶湯中の原料が溶融しきった後に溶湯の成分を分析し、Ni含有量が多い場合はアルミニウム地金等を添加して所望の含有量になるように調整する。
【0041】
・P(リン)含有量
溶湯加熱保持工程において、アルミニウム合金の溶湯中のP含有量は、0質量%以上0.05質量%以下であることが好ましい。Pは、リサイクル材に一部残存しためっき成分として、或いは、アルミニウム合金地金に含有されるものであるが、溶湯原料のアルミニウム合金に一般的に含まれるMg(マグネシウム)と結合してMg-P系酸化物を生成し、めっき処理時にその部分だけ反応が不均一となり、めっき表面に大きな欠陥を発生させることがある。その結果、めっき表面の平滑性が低下する。なお、Mg-P系酸化物の一部は、溶湯を加熱保持することにより溶湯の表面に浮上して除去可能ではあるが、Mgと結合するPそのものの含有量が低いことが好ましい。溶湯中のP含有量は、0.05質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましい。溶湯中のP含有量は、Ni含有量に比べて非常に少ないため、アルミニウム地金等を添加して所望の含有量になるように調整することは一般に必要ない。しかしながら、調整が必要な場合には、Niと同じくアルミニウム地金等を添加して所望の含有量になるように調整する。
【0042】
・Mg(マグネシウム)含有量
溶湯加熱保持工程において、アルミニウム合金の溶湯中のMg含有量は、0質量%以上6.5質量%以下であることが好ましい。上述のように、Mgは、溶湯中のPと結合してMg-P系酸化物を生成するため、Pと同様にその含有量が低いことが好ましい。溶湯中のMg含有量は、6.5質量%以下であることが好ましく、4.5質量%以下であることがより好ましい。Mg含有量が多い場合は、Niと同様にアルミニウム地金等を添加して所望の含有量になるように調整する。
【0043】
・アルミニウム合金の溶湯における金属成分
アルミニウム合金の溶湯に含まれる金属成分については、リサイクル材である磁気ディスク用アルミニウム合金基板及び磁気ディスクに含まれる無電解Ni-Pめっき成分由来のP成分を有効に除去又は低減させるために、上述のように、Pそのものの含有量、並びに、Pとの間で金属間化合物を形成するCu、Mgなどの元素を調整することが好ましい。
【0044】
一方、Ni、P、Cu及びMg以外の元素とその含有量については、特に限定されるものではない。アルミニウム合金の溶湯に含まれる合金組成としては、例えば以下のようなものが挙げられる。アルミニウム合金は、必須元素であるFe(鉄)と、任意にMn(マンガン)を含有し、これらFe及びMnの含有量の合計が0.005質量%以上7.00質量%の範囲であり、さらに、Mgを0.5質量%以上6.5質量%含有し、任意に、0質量%以上1.0質量%以下のSi(ケイ素)、0質量%以上0.7質量%以下のZn(亜鉛)、0質量%以上0.30質量%以下のCr(クロム)、及び0質量以上0.20質量%以下のZr(ジルコニア)からなる群から選択される1種又は2種以上の金属を含有し、残部がAl及び不可避的不純物やその他の微量成分からなる。
【0045】
不可避的不純物はアルミニウム合金に含まれるTi(チタン)、Ga(ガリウム)などが挙げられ、その他の微量成分としては、リサイクル材から完全に分離できなかっためっきや磁性体などに含まれる成分であるCo(コバルト)、Pt(白金)などが挙げられる。これら不可避不純物とその他の微量成分の含有量は、各元素について0.10質量%以下、合計で0.30質量%以下であれば、本発明の作用効果を損なわない。
【0046】
4-2.アルミニウム合金の溶湯加熱保持
次に、アルミニウム合金の溶湯を加熱保持する溶湯加熱保持工程について説明する。この工程では、アルミニウム合金の溶湯を後述の条件にて保持炉によって加熱保持する。この際に、溶湯の表面に浮上する酸化皮膜を炉外に除去することが好ましい。アルミニウム合金の鋳造前にこの浮上した酸化皮膜等をすくい上げ等の方法で除去することで、溶湯中のNiやPの含有量を低減することができる。ここで、この酸化皮膜中には除去すべき下地層が一部存在しているため、酸化皮膜を溶湯の表面に長時間放置すると、再度溶湯中に下地層に含まれる成分が混入する可能性がある。そのため、できるだけ速やかに炉外に酸化皮膜を除去することが好ましい。
【0047】
4-3.アルミニウム合金の鋳造(ステップS103)
次に、アルミニウム合金の鋳造工程について説明する。加熱保持されたアルミニウム合金の溶湯は、必要に応じて後述のインライン脱ガス処理やインライン濾過処理の後に、半連続鋳造法(DC鋳造法)、金型鋳造法、連続鋳造法(CC法)等によりアルミニウム合金鋳塊に鋳造される(ステップS103)。DC鋳造法においては、スパウトを通して注がれた溶湯が、ボトムブロックと、水冷されたモールドの壁、並びにインゴット(鋳塊)の外周部に直接吐出される冷却水で熱を奪われ、凝固し、鋳塊として下方に引き出される。金型鋳造法においては、鋳鉄等で作製された中空の金型に注がれた溶湯が、金型の壁に熱を奪われ、凝固し、鋳塊が作製される。CC鋳造法では、一対のロール(又は、ベルトキャスタ、ブロックキャスタ)の間に鋳造ノズルを通して溶湯を供給し、ロールからの抜熱で薄板を直接鋳造する。
【0048】
溶湯加熱保持工程で加熱保持された溶湯は、鋳造工程にかけられる前に常法に従ってインライン脱ガス処理やインライン濾過処理を行うことが好ましい。インライン脱ガス処理装置としては、SNIFやALPURなどの商標で市販されている脱ガス装置が使用できる。これらのインライン脱ガス処理装置は、アルゴンガス又はアルゴンと窒素等の混合ガスを溶湯に吹き込みながら、羽根付き回転体を高速で回転させてガスを微細な気泡として溶湯中に供給する。これにより、脱水素ガス及び介在物の除去がインラインで短時間に行える。インライン濾過処理としては、セラミックチューブフィルター、セラミックフォームフィルター、アルミナボールフィルター等が用いられ、ケーク濾過機構、濾材濾過機構等により介在物が除去される。
【0049】
以上の工程によって、アルミニウム合金鋳塊が製造される。
【0050】
5.アルミニウム合金板の製造方法
アルミニウム合金板の製造方法は、上述の製造方法で得られたアルミニウム合金鋳塊を任意に加熱処理する均質化処理工程と、任意に均質化処理したアルミニウム合金鋳塊を熱間圧延する熱間圧延工程と、熱間圧延した熱間圧延板を冷間圧延する冷間圧延工程とを含んでいる。具体的には、アルミニウム合金板は、図2に示されるような、アルミニウム合金鋳塊の均質化処理(ステップS104)、熱間圧延(ステップS105)、冷間圧延(ステップ106)の各工程を経て製造される。
【0051】
5-1.均質化処理(ステップS104)
鋳造されたアルミニウム合金鋳塊に、必要に応じて均質化処理が施される(ステップS104)。均質化処理が実施される場合は、好ましくは480℃以上560℃以下の加熱温度で1時間以上、より好ましくは500℃以上550℃以下の加熱温度で2時間以上の条件でアルミニウム合金鋳塊が加熱される。加熱温度が480℃未満の場合や、加熱時間が1時間未満の場合には、十分な均質化効果が得られない場合がある。また、560℃を超える加熱温度では、アルミニウム合金鋳塊が溶解するおそれがある。また、加熱時間の上限は特に限定されるものではないが、48時間を超えても均質化効果が飽和して生産性の低下を招くおそれがある。
【0052】
5-2.熱間圧延(ステップS105)
次に、鋳造したアルミニウム合金鋳塊、或いは、均質化処理を施した場合には均質化処理したアルミニウム合金鋳塊を、熱間圧延によって熱間圧延板を作製する(ステップS105)。熱間圧延の条件は特に限定されるものではないが、熱間圧延開始温度が300℃以上500℃以下であることが好ましく、320℃以上480℃以下であることがより好ましい。また、熱間圧延終了温度が260℃以上400℃以下であることが好ましく、280℃以上380℃以下であることがより好ましい。熱間圧延開始温度が300℃未満では熱間圧延による加工性が確保できず、500℃を超えると結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下する場合がある。また、熱間圧延終了温度が260℃未満では熱間圧延による加工性が確保できず、400℃を超えると結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下する場合がある。尚、熱間圧延では、通常、鋳塊を熱間圧延開始温度で0.5時間以上10.0時間以下の範囲で加熱保持後に熱間圧延を行う。均質化処理を行う場合には、この加熱保持を均質化処理で代替してもよい。
【0053】
5-3.冷間圧延(ステップS106)
次に、得られた熱間圧延板を冷間圧延して好ましくは0.4mm以上2.0mm以下、より好ましくは0.6mm以上2.0mm以下の冷間圧延板を作製する(ステップS106)。すなわち、熱間圧延終了後は、冷間圧延によって所要の製品板厚に仕上げる。冷間圧延の条件は特に限定されるものではないが、必要な製品の板強度や板厚に応じて定めればよく、圧延率は20%以上90%以下であることが好ましく、20%以上80%以下であることがより好ましい。この圧延率が20%未満では、後述するディスクブランクの加圧平坦化焼鈍において結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下する場合がある。一方、この圧延率が90%を超えると、製造時間が長くなり生産性の低下を招くおそれがある。
【0054】
良好な冷間圧延加工性を確保するために、冷間圧延の前又は冷間圧延の途中において、任意に焼鈍処理を実施してもよい。焼鈍処理を実施する場合には、例えばバッチ式の焼鈍では、300℃以上450℃以下の焼鈍温度で0.1時間以上10時間以下の条件で行うことが好ましく、300℃以上380℃以下の焼鈍温度で1時間以上5時間以下の条件で行うことがより好ましい。焼鈍温度が300℃未満、及び/又は焼鈍時間が0.1時間未満では、十分な焼鈍効果が得られない場合がある。また、焼鈍温度が450℃を超えると、結晶粒が粗大化してめっきの密着性が低下する場合があり、焼鈍時間が10時間を超えると、製造時間が長くなり生産性の低下を招くおそれがある。
【0055】
一方、連続式の焼鈍では、400℃以上500℃以下の焼鈍温度で0~60秒間の保持時間の条件で行うことが好ましく、450℃以上500℃以下の焼鈍温度で0~30秒間の保持の条件で行うことがより好ましい。焼鈍温度が400℃未満では、十分な焼鈍効果が得られない場合があり、焼鈍温度が500℃を超えると、結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下する場合がある。また、保持時間が60秒を超えると、結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下する場合がある。保持時間が0秒とは、所望の焼鈍温度に達した後、直ちに冷却することを意味する。
【0056】
以上の各工程によって、アルミニウム合金板が作製される。
【0057】
6.めっき用アルミニウム合金基板の製造方法
めっき用アルミニウム合金基板の製造方法は、上述の製造方法で得られたアルミニウム合金板を円環状ディスクブランクに加工する加工工程と、円環状ディスクブランクを加圧平坦化する加圧焼鈍工程と、加圧平坦化した円環状ディスクブランクに切削加工と研削加工を施す切削・研削加工工程とを含んでいる。具体的には、めっき用アルミニウム合金基板は、図2に示されるような、アルミニウム合金板を円環状のディスクブランク(以下、「ディスクブランク」と記載する場合がある)に打ち抜く加工(ステップS107)、このディスクブランクの加圧平坦化焼鈍(ステップS108)と、それに続く切削加工と研削加工(ステップ109:「切削・研削加工工程」)、さらに、必要に応じた歪取り加熱処理(ステップS110)の各工程を経て製造される。
【0058】
6-1.円環状ディスクブランクの作製(ステップS107)
上記のようにして得られたアルミニウム合金板をアルミニウム合金基板として加工するには、まず、アルミニウム合金板を円環状に打ち抜いて円環状ディスクブランクを作製する(ステップS107)。
【0059】
6-2.加圧焼鈍(ステップ108)
次に、ディスクブランクに大気中で300℃以上450℃以下の温度で30分以上、好ましくは300℃以上380℃以下の温度で60分以上の加圧焼鈍を施し、平坦化したディスクブランクを作製する(ステップS108)。加圧焼鈍の処理温度が300℃未満及び/又は処理時間が30分未満では、平坦化の効果が十分に得られない場合がある。また、処理温度が450℃を超えると、結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下する場合がある。処理時間の上限は特に限定されるものではないが、24時間を超えると製造時間が長くなり生産性の低下を招くおそれがある。尚、加圧焼鈍における圧力は、通常0.1MPa以上3.0MPa以下である。
【0060】
6-3.切削加工・研削加工加工(ステップS109)、歪取り加熱処理(ステップS110)
次に、切削・研削加工工程において平坦化したディスクブランクを切削加工及び研削加工する(ステップS109)。その後、任意に、200℃以上290℃以下の温度で0.1時間以上10.0時間以下の条件で、ディスクブランクの歪取りのための歪取り熱処理を行う(ステップS110)。
【0061】
以上の各工程によって、めっき用アルミニウム合金基板が作製される。
【0062】
7.磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法
磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法は、上述の製造方法で得られためっき用アルミニウム合金基板に、脱脂、エッチング及びジンケート処理を施すめっき前処理工程と、めっき前処理を施したアルミニウム合金基板の表面に無電解でのNi-Pめっき処理を施し、めっき処理した表面を研磨する下地めっき処理工程とを含んでいる。このような磁気ディスク用アルミニウム合金基板は、図2に示されるように、めっき用アルミニウム合金基板のめっき前処理(ステップS111)、及び下地(Ni-P)めっき処理(研磨付き)(ステップS112)の各工程を経て製造される。
【0063】
7-1.めっき前処理(ステップ111)
上記のようにして作製しためっき用アルミニウム合金基板に、めっき前処理として脱脂、エッチング、ジンケート処理(Zn置換処理)が施される(ステップS111)。脱脂は、例えば市販のAD-68F(上村工業社製)脱脂液等を用い、40℃以上70℃以下の脱脂温度、3分以上10分以下の脱脂時間、200mL/L以上800mL/L以下の脱脂液の濃度の条件で行うことが好ましく、45℃以上65℃以下の脱脂温度、4分以上8分以下の脱脂時間、300mL/L以上700mL/L以下の脱脂液の濃度の条件で行うことがより好ましい。脱脂温度が40℃未満、脱脂時間が3分未満、及び/又は脱脂液の濃度が200mL/L未満では、十分な脱脂効果が得られない場合がある。また、脱脂温度が70℃を超える、脱脂時間が10分を超える、及び/又は脱脂液の濃度が800mL/Lを超えると、アルミニウム合金基板の表面の平滑性が低下し、めっき処理後にピットが発生し平滑性が低下する場合がある。
【0064】
エッチングは、例えば市販のAD-107F(上村工業社製)エッチング液等を用い、50℃以上75℃以下のエッチング温度、0.5分以上5分以下のエッチング時間、20mL/L以上100mL/L以下のエッチング液の濃度の条件で行うことが好ましく、55℃以上70℃以下のエッチング温度、0.5分以上3分以下のエッチング時間、40mL/L以上100mL/L以下のエッチング液の濃度の条件で行うことがより好ましい。エッチング温度が50℃未満、エッチング時間が0.5分未満、及び/又はエッチング液の濃度が20mL/L未満では、十分なエッチング効果が得られない場合がある。また、エッチング温度が75℃を超える、エッチング時間が5分を超える、及び/又はエッチング液の濃度が100mL/Lを超えると、アルミニウム合金基板の表面の平滑性が低下し、めっき処理後にピットが発生し平滑性が低下する場合がある。なお、エッチング処理と後述するジンケート処理の間に、通常のデスマット処理が行なわれていてもよい。
【0065】
ジンケート処理は、例えば市販のAD-301F-3X(上村工業社製)ジンケート処理液等を用い、10℃以上35℃以下のジンケート処理温度、0.1分以上5分以下のジンケート処理時間、100mL/L以上500mL/L以下のジンケート処理液の濃度の条件で行うことが好ましく、15℃以上30℃以下のジンケート処理温度、0.1分以上2分以下のジンケート処理時間、200mL/L以上400mL/L以下のジンケート処理液の濃度の条件で行うことがより好ましい。ジンケート処理温度が10℃未満、ジンケート処理時間が0.1分未満、及び/又はジンケート処理液の濃度が100mL/L未満では、ジンケート皮膜が不均一となり、めっき処理後にピットが発生し平滑性が低下する場合がある。また、ジンケート処理温度が35℃を超える、ジンケート処理時間が5分を超える、及び/又はジンケート処理液の濃度が500mL/Lを超えると、ジンケート皮膜が不均一となり、めっき処理後にピットが発生し平滑性が低下する場合がある。
【0066】
7-2.下地(Ni-P)めっき処理(研磨付き)(ステップ112)
次に、ジンケート処理しためっき用アルミニウム合金基板の表面に下地処理として無電解でのNi-Pめっき処理が施され、次いでその表面の研磨が実施される(ステップS112)。無電解でのNi-Pめっき処理は、例えば市販のニムデンHDX(上村工業社製)めっき液等を用い、80℃以上95℃以下のめっき処理温度、30分以上180分以下のめっき処理時間、3g/L以上10g/L以下のめっき液中のNi濃度の条件で行うことが好ましく、85℃以上95℃以下のめっき処理温度、60分以上120分以下のめっき処理時間、4g/L以上9g/L以下のめっき液中のNi濃度の条件で行うことがより好ましい。めっき処理温度が80℃未満、及び/又はめっき液中のNi濃度が3g/L未満では、めっきの成長速度が遅く、生産性の低下を招くおそれがある。また、めっき処理時間が30分未満では、めっき表面に欠陥が多数発生し、めっき表面の平滑性が低下する場合がある。一方、めっき処理温度が95℃を超える、及び/又はめっき液中のNi濃度が10g/Lを超えると、めっきが不均一に成長するため、めっきの平滑性が低下する場合がある。また、めっき処理時間が180分を超えると、製造時間が長くなり生産性の低下を招くおそれがある。さらに、下地(Ni-P)めっき処理面には研磨処理が施される。
【0067】
これらのめっき前処理、及び下地(Ni-P)めっき処理(研磨付き)によって、磁気ディスク用アルミニウム合金基板が作製される。
【0068】
8.磁気ディスクの製造方法
磁気ディスクの製造方法は、上述の製造方法で得られた磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面に、磁性体を付着させて磁性体層を形成する磁気付与工程を含んでいる。このような磁気ディスクは、図2に示されるように、下地処理した磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面に磁性体を付着させることで作成される(ステップS113)。
【0069】
研磨処理も含めた無電解Ni-Pめっき処理の後、Ni-Pめっき層上に、スパッタリングによって磁性体を付着させて磁性体層を形成する(ステップS113)。磁性体層は、単一の層であってもよく、又は、互いに異なる組成を有する複数の層から形成されていてもよい。スパッタリングを行った後、必要に応じて、CVDによって磁性体層上に炭素系材料からなる保護層を形成してもよく、保護層上に潤滑油を塗布して潤滑層が形成されていてもよい。
【0070】
以上の工程によって、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面に、Ni-Pめっき層と、当該Ni-Pめっき処理層の上に形成された磁性体層とを有する磁気ディスクを作製することができる。このような磁気ディスクの製造方法で得られた磁気ディスクは、上述のリサイクル材を利用して作製されるため、環境負荷低減に優れる磁気ディスクとして有益である。
【0071】
以上の実施態様に基づき、本発明は以下の[1]~[14]に関するものである。
[1]
アルミニウム合金ディスクと、Niを含む下地層と、を備える中間材及び完成品の少なくともいずれかのリサイクル材から前記下地層が剥離された剥離面を有するアルミニウム合金ディスク材であって、前記剥離面の表面に酸化皮膜を有することを特徴とする、前記アルミニウム合金ディスク材。
[2]
前記酸化皮膜はS及びPの少なくとも1つを含む、上記[1]に記載のアルミニウム合金ディスク材。
[3]
前記下地層はNi-Pめっき層を含む、上記[1]又は[2]に記載のアルミニウム合金ディスク材。
[4]
アルミニウム合金ディスクと、Niを含む下地層と、を備える中間材及び完成品の少なくともいずれかをリサイクル材としてアルミニウム合金素材の少なくとも一部に再利用して、前記リサイクル材を含むアルミニウム合金素材の加熱又湿式処理により前記アルミニウム合金ディスクと前記下地層を分離する分離工程を含むアルミニウム合金原料の製造方法であって、前記下地層が剥離されて得られたアルミニウム合金ディスク材の剥離面に酸化皮膜が形成されていることを特徴とするアルミニウム合金原料の製造方法。
[5]
グロー放電発光分光分析法により前記酸化皮膜の表面から深さ方向の定量元素分析を行ったときに、酸素(O)の発光強度のピークが半分になる時間が0.1秒以上である、上記[4]に記載のアルミニウム合金原料の製造方法。
[6]
前記酸化皮膜はS及びPの少なくとも1つを含む、上記[4]又は[5]に記載のアルミニウム合金原料の製造方法。
[7]
上記[4]乃至[6]に記載の製造方法で得られたアルミニウム合金原料の少なくとも一部を使用してアルミニウム合金の溶湯を調整する溶湯調整工程と、調整した溶湯を加熱保持する溶湯加熱保持工程と、加熱保持した溶湯を鋳造する鋳造工程とを含むことを特徴とするアルミニウム合金鋳塊の製造方法。
[8]
前記溶湯加熱保持工程において、前記アルミニウム合金の溶湯表面に存在する酸化物を除去する、上記[7]に記載のアルミニウム合金鋳塊の製造方法。
[9]
上記[7]又は[8]に記載の製造方法で得られたアルミニウム合金鋳塊を任意に加熱処理する均質化処理工程と、任意に均質化処理したアルミニウム合金鋳塊を熱間圧延する熱間圧延工程と、熱間圧延した熱間圧延板を冷間圧延する冷間圧延工程とを含むことを特徴とするアルミニウム合金板の製造方法。
[10]
上記[9]に記載の製造方法で得られたアルミニウム合金板を円環状ディスクブランクに加工する加工工程と、円環状ディスクブランクを加圧平坦化する加圧焼鈍工程と、加圧平坦化した円環状ディスクブランクに切削加工と研削加工を施す切削・研削加工工程とを含むことを特徴とするめっき用アルミニウム合金基板の製造方法。
[11]
上記[10]に記載の製造方法で得られためっき用アルミニウム合金基板に、脱脂、エッチング及びジンケート処理を施すめっき前処理工程と、めっき前処理を施したアルミニウム合金基板の表面に無電解でのNi-Pめっき処理を施し、めっき処理した表面を研磨する下地めっき処理工程とを含むことを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
[12]
上記[11]に記載の製造方法で得られた磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面に、磁性体を付着させて磁性体層を形成する磁気付与工程を含むことを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
[13]
上記[12]に記載の製造方法によって得られた磁気ディスク。
【0072】
以上、本実施形態に係るアルミニウム合金ディスク材、アルミニウム合金原料の製造方法、アルミニウム合金鋳塊の製造方法、アルミニウム合金板の製造方法、めっき用アルミニウム合金基板の製造方法、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法及び磁気ディスクについて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づき、各種の変形及び変更が可能である。
【実施例0073】
以下に、本発明を実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0074】
リサイクル材として磁気ディスク用アルミニウム合金基板(以下、「アルミニウム合金基板」という)を用い、これを表1に示す条件で加熱及び冷却或いは硫酸電解を行い、下地層を分離してアルミニウム合金原料(アルミニウム合金ディスク材)をそれぞれ製造した。硫酸電解は、濃度100g/Lの硫酸を用いて、温度25℃、処理時間4分、印加電圧2Vの条件で実施した。
【0075】
リサイクル材として用いたアルミニウム合金基板に付着していたNi-Pめっき層中のP含有量は、アルミニウム合金基板の全質量に対して約12質量%であった。また、アルミニウム合金基板に用いたアルミニウム合金の合金組成は、FeとMnの含有量の合計が0.015質量%以上0.030質量%以下の範囲を有し、3.8質量%以上4.5質量%以下のMgを含有し、0.005質量%以下のNiを含有し、Si:0.03質量%以下、Zn:0.30質量%以上0.40質量%以下、Cr:0.04質量%以上0.06質量%以下及びCu:0.005質量%以上0.025質量%以下からなる群から選択される1種又は2種以上の金属を更に含有し、残部がAl、不可避的不純物及び微量成分からなるものであった。
【0076】
分離性の評価として、加熱又は湿式処理により分離した後のアルミニウム合金ディスク材を溶解して鋳造した後の塊のNi量(Na)[質量%]を測定し、下地層を分離する前のアルミニウム合金ディスク材全体としてのNi量(Nd)[質量%]から、分離割合(Ns=(1-Na/Nd)×100)を算出した。なお、Ni量(Nd)は、代表値として3.9質量%を使用する。
【0077】
加熱又は湿式処理により分離した後のアルミニウム合金ディスク材の剥離面に酸化皮膜が形成されているか否を、GDSにより判断した。剥離面の表面から深さ方向にGDSによる定量元素分析を行い、酸素(O)の発光強度のピークが観察された場合、酸化皮膜が形成されていると判断した。酸化皮膜が形成されている場合、Oの発光強度のピークが半分になる時間、および酸化皮膜におけるP、Sの含有の有無について、GDS(「JY5000RF」、HORIBA製)の設定をガス圧力400Pa、出力30Wとし、スパッタ時間15秒でO、P、およびSの発光強度を測定した。測定後のデータより、以下の計算式により、Oの発光強度のピークが半分になる時間を算出し、また、酸化皮膜におけるP、Sの含有の有無を判断した。その結果の例として図3A-B、図4A-Bに示す。
【0078】
<Oの発光強度のピークの有無>
(スパッタ時間1.0秒未満までのOの発光強度の平均値)/(スパッタ時間7.0秒以上8.0s秒未満までのOの発光強度の平均値)が1以上の場合、酸化皮膜が形成されていると判定した。
【0079】
<Oの発光強度のピークが半分になる時間>
(各スパッタ時間のOの発光強度)-(スパッタ時間7-10秒のOの発光強度の平均値)-((Oの発光強度の最大値)-(スパッタ時間7-10秒のOの発光強度の平均値))/2を算出し、その値がマイナスになる1つ前のスパッタ時間をOの発光強度のピークが半分になる時間とみなした。尚、酸化皮膜が厚く、スパッタ時間15sで足りない場合は、スパッタ時間を増やし、その場合には、(スパッタ7-10秒のOの発光強度の平均値)は7-10秒のスパッタ時間ではなく、(新たなスパッタ時間/15)の値を掛けたスパッタ時間での平均値として算出した。
【0080】
<Pの含有の有無>
(スパッタ時間0.1秒未満までのPの発光強度の平均値)/(スパッタ時間0.3秒以上0.5秒未満までのPの発光強度の平均値)が2以上の場合、酸化皮膜にPが含まれていると判定した。
【0081】
<Sの含有の有無>
(スパッタ時間0.1秒未満までのSの発光強度の平均値)/(スパッタ時間0.3秒以上0.5秒未満までのSの発光強度の平均値)が3以上の場合、酸化皮膜にPが含まれていると判定した。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示すように、実施例1~5では、分離割合が98%以上であり、リサイクル性に優れる結果が得られた。特に、Oの発光強度のピークが半分になる時間が長い実施例2~4や、酸化皮膜にPとSがいずれも含まれる実施例1では、分離割合が高く、リサイクル性がより優れていた。
【0084】
一方、比較例1では、アルミニウム合金ディスクの一部が溶融し、下地層の剥離が困難であったため、GDSによる分析が困難となり、酸化皮膜を確認することができず、また、剥離割合が60%未満であり、リサイクル性にも劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明により、リサイクル性に優れた、アルミニウム合金ディスク材、アルミニウム合金原料の製造方法、アルミニウム合金鋳塊の製造方法、アルミニウム合金板の製造方法、めっき用アルミニウム合金基板の製造方法、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法、及び磁気ディスクを提供することができる。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B