(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025034956
(43)【公開日】2025-03-13
(54)【発明の名称】SiC単結晶ブール、SiC単結晶ブールの製造方法及びSiC基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20250306BHJP
【FI】
C30B29/36 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023141660
(22)【出願日】2023-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】田島 充稀
(72)【発明者】
【氏名】周防 裕政
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB09
4G077BE08
4G077DA02
4G077DA03
4G077FG13
(57)【要約】
【課題】効率的に多くのSiC基板を取得することができるSiC単結晶ブールを提供することを目的とする。
【解決手段】本実施形態にかかるSiC単結晶ブールは、結晶成長方向と直交する切断面において、前記切断面が内包する最大の内接円の中心を通り前記切断面の第1外周点と第2外周点とを繋ぐ線分の長さが211mm以上221mm以下である部分を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶成長方向と直交する切断面において、前記切断面が内包する最大の内接円の中心を通り前記切断面の第1外周点と第2外周点とを繋ぐ線分の長さが211mm以上221mm以下である部分を含む、SiC単結晶ブール。
【請求項2】
前記線分の長さが214mm以上218mm以下である、請求項1に記載のSiC単結晶ブール。
【請求項3】
結晶成長方向と直交する切断面において、前記切断面が内包する最大の内接円の中心を通り前記切断面の第1外周点と第2外周点とを繋ぐ線分の長さが236mm以上248mm以下である部分を含む、SiC単結晶ブール。
【請求項4】
前記線分の長さが240mm以上244mm以下である、請求項3に記載のSiC単結晶ブール。
【請求項5】
結晶成長方向と直交する切断面において、前記切断面が内包する最大の内接円の中心を通り前記切断面の第1外周点と第2外周点とを繋ぐ線分の長さが319mm以上329mm以下である部分を含む、SiC単結晶ブール。
【請求項6】
前記線分の長さが322mm以上326mm以下である、請求項5に記載のSiC単結晶ブール。
【請求項7】
結晶成長方向と直交する切断面において、前記切断面が内包する最大の内接円の中心を通り前記切断面の第1外周点と第2外周点とを繋ぐ線分の長さが357mm以上368mm以下である部分を含む、SiC単結晶ブール。
【請求項8】
前記線分の長さが361mm以上365mm以下である、請求項7に記載のSiC単結晶ブール。
【請求項9】
昇華法を用いて種結晶の第1面にSiC単結晶を結晶成長させる結晶成長工程を有し、
前記結晶成長工程において、前記種結晶を回転させながら、前記種結晶の前記第1面と対向する第2面にレーザーを照射し、
前記レーザーの照射位置の温度を、前記種結晶の径方向の中心の温度に対して±5℃以内となるように制御する、SiC単結晶ブールの製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載のSiC単結晶ブールの中心に開口を形成する工程と、
前記開口から径方向の外側に向かって前記SiC単結晶ブールを切断し、前記SiC単結晶ブールを複数のパーツに分割する工程と、
前記複数のパーツのそれぞれをSiCインゴットに加工し、前記SiCインゴットをスライスする工程と、を有する、SiC基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC単結晶ブール、SiC単結晶ブールの製造方法及びSiC基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。そのため炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。このため、近年、上記のような半導体デバイスにSiCエピタキシャルウェハが用いられるようになっている。
【0003】
SiCエピタキシャルウェハは、SiC基板の表面にSiCエピタキシャル層を積層することで得られる。以下、SiCエピタキシャル層を積層前の基板をSiC基板と称し、SiCエピタキシャル層を積層後の基板をSiCエピタキシャルウェハと称する。パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等のSiCデバイスは、SiCエピタキシャルウェハのSiCエピタキシャル層にデバイスを形成後に、SiCエピタキシャルウェハをチップ化して得られる。
【0004】
SiC基板は、SiCインゴットをスライスして得られる。SiCインゴットは、円筒状に加工された単結晶であり、SiC単結晶ブールを加工して得られる。生産効率を高めるためには、一つのSiC単結晶ブールから多くのSiC基板を取得することが求められている。
【0005】
例えば、特許文献1には、大口径のシリコン単結晶インゴットを作製し、このシリコン単結晶インゴットを分割することで、一度に多くのSiウェハを作製する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
SiC単結晶は、SiとCの元素が結合しており、Si元素のみからなるSi単結晶より、製造が難しい。特許文献1に記載のように、大口径の単結晶を径方向に分割する方法は有用ではあるが、SiCの場合、大口径のSiC単結晶ブールを作製することがそもそも極めて難しい。大口径のSiC単結晶ブールを作製しようとすると、SiC単結晶ブール内に生じる応力が大きくなり、SiC単結晶ブールが割れてしまう。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、効率的に多くのSiC基板を取得することができるSiC単結晶ブールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、大口径のSiC単結晶ブールを作製する方法を見出し、同一面内から複数枚のSiC基板を取得するのに適したSiC単結晶ブールの大きさを求めた。
【0010】
(1)第1の態様にかかるSiC単結晶ブールは、結晶成長方向と直交する切断面において、前記切断面が内包する最大の内接円の中心を通り前記切断面の第1外周点と第2外周点とを繋ぐ線分の長さが211mm以上221mm以下である部分を含む。
【0011】
(2)上記態様にかかるSiC単結晶ブールにおいて、前記線分の長さが214mm以上218mm以下でもよい。
【0012】
(3)第2の態様にかかるSiC単結晶ブールは、結晶成長方向と直交する切断面において、前記切断面が内包する最大の内接円の中心を通り前記切断面の第1外周点と第2外周点とを繋ぐ線分の長さが236mm以上248mm以下である部分を含む。
【0013】
(4)上記態様にかかるSiC単結晶ブールにおいて、前記線分の長さが240mm以上244mm以下でもよい。
【0014】
(5)第3の態様にかかるSiC単結晶ブールは、結晶成長方向と直交する切断面において、前記切断面が内包する最大の内接円の中心を通り前記切断面の第1外周点と第2外周点とを繋ぐ線分の長さが319mm以上329mm以下である部分を含む。
【0015】
(6)上記態様にかかるSiC単結晶ブールにおいて、前記線分の長さが322mm以上326mm以下でもよい。
【0016】
(7)第4の態様にかかるSiC単結晶ブールは、結晶成長方向と直交する切断面において、前記切断面が内包する最大の内接円の中心を通り前記切断面の第1外周点と第2外周点とを繋ぐ線分の長さが357mm以上368mm以下である部分を含む。
【0017】
(8)上記態様にかかるSiC単結晶ブールにおいて、前記線分の長さが361mm以上365mm以下でもよい。
【0018】
(9)第5の態様にかかるSiC単結晶ブールの製造方法は、昇華法を用いて種結晶の第1面にSiC単結晶を結晶成長させる結晶成長工程を有し、前記結晶成長工程において、前記種結晶を回転させながら、前記種結晶の前記第1面と対向する第2面にレーザーを照射し、前記レーザーの照射位置の温度を、前記種結晶の径方向の中心の温度に対して±5℃以内となるように制御する。
【0019】
(10)第6の態様にかかるSiC基板の製造方法は、上記態様にかかるSiC単結晶ブールの中心に開口を形成する工程と、前記開口から径方向の外側に向かって前記SiC単結晶ブールを切断し、前記SiC単結晶ブールを複数のパーツに分割する工程と、前記複数のパーツのそれぞれをSiCインゴットに加工し、前記SiCインゴットをスライスする工程と、を有する。
【発明の効果】
【0020】
上記態様にかかるSiC単結晶ブールは、効率的に多くのSiC基板を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1実施形態に係るSiC単結晶ブールの断面図である。
【
図2】第1実施形態に係るSiC単結晶ブールをZ方向と直交するXY面で切断した断面図である。
【
図3】第1実施形態に係るSiC単結晶ブールから複数のSiCインゴットを取得する場合の第1例のXY切断面である。
【
図4】第1実施形態に係るSiC単結晶ブールから複数のSiCインゴットを取得する場合の第2例のXY切断面である。
【
図5】第1実施形態に係るSiC単結晶ブールの製造方法を説明するための図である。
【
図6】第1実施形態に係るSiC基板の製造方法を説明するための図である。
【
図7】第1実施形態に係るSiC基板の製造方法を説明するための図である。
【
図8】第1実施形態に係るSiC基板の製造方法を説明するための図である。
【
図9】第1実施形態に係るSiC基板の製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本実施形態にかかるSiC単結晶ブール及びSiC基板について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本実施形態の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0023】
まず方向について、定義する。SiC単結晶ブールの結晶成長の主方向をZ方向と称する。種結晶の厚み方向は、Z方向の一例である。またSiC単結晶ブールの径方向の一方向をX方向と称する。またSiC単結晶ブールの径方向の一方向で、X方向と直交する方向をY方向と称する。X方向及びY方向は、Z方向と直交する。
【0024】
図1は、本実施形態に係るSiC単結晶ブール10の断面図である。SiC単結晶ブール10は、種結晶1と結晶成長部2とを備える。種結晶1は、SiC単結晶ブール10の結晶成長の起点となるSiC単結晶である。結晶成長部2は、種結晶1上に結晶成長したSiC単結晶である。
【0025】
SiC単結晶ブール10は、p型半導体でも、n型半導体でも、真性半導体でもよい。SiC単結晶ブール10は、半絶縁性でもよい。SiC単結晶ブール10のポリタイプは、特に問わず、4H、6H、3C、15Rのいずれでもよく、複数のポリタイプを有してもよい。SiC単結晶ブール10のオフセット角は、例えば、0度以上8度以下である。SiC単結晶ブール10を構成する種結晶1及び結晶成長部2の導電型、ポリタイプ、オフセット角は同様である。
【0026】
SiC単結晶ブール10のZ方向の厚みTbは、3mm以上である。SiC単結晶ブール10のZ方向の厚みTbは、15mm以上であることが好ましい。SiC単結晶ブール10のZ方向の厚みTbが15mm以上であると、オフセット角が4度の場合に、ファセット近傍の転位を基板取得領域外に掃き出すことができる。種結晶1のZ方向の厚みT1は、例えば、1mm以下である。
【0027】
図2は、本実施形態に係るSiC単結晶ブール10をZ方向と直交するXY面で切断した断面図である。SiC単結晶ブール10をXY面で切断した切断面は、略円形である。SiC単結晶ブール10をXY面で切断した切断面が真円であることはほとんどなく、その直径はある程度のばらつきを有する。例えば、切断面の中心Cを通る線分L1、L2、L3、L4のそれぞれは、異なっている場合が多い。線分L1は、切断面の中心Cを通り第1外周点p1と第2外周点p2とを繋ぐ。線分L2は、中心Cを基準に線分L1を45度回転させた位置にあり、切断面の中心Cを通り第3外周点p3と第4外周点p4とを繋ぐ。線分L3は、中心Cを基準に線分L1を90度回転させた位置にあり、切断面の中心Cを通り第5外周点p5と第6外周点p6とを繋ぐ。線分L4は、中心Cを基準に線分L1を135度回転させた位置にあり、切断面の中心Cを通り第7外周点p7と第8外周点p8とを繋ぐ。線分L1、L2、L3、L4のそれぞれの長さは、線分L1、L2、L3、L4の平均に対して±1.0%以内にある。
【0028】
ここで、「切断面の中心」は、切断面をマクロな視点で見た際の中心である。切断面が不定形の場合は、切断面が内包する最大の内接円の中心が「切断面の中心」である。切断面の形状は、SiC単結晶ブール10の外径を、ノギスを用いて複数箇所測定することで求めることができる。例えば、ノギスで外径を測定する箇所は、<1-100>方向及び<11-20>方向を含む。また切断面の形状は、3次元測定器を用いて単結晶ブールの全体形状を計測し、その結果から求めることもできる。
【0029】
線分L1の長さは、例えば、211mm以上221mm以下であり、好ましく214mm以上218mm以下である。線分L1は、中心Cを通る任意の線分を設定でき、第1外周点p1及び第2外周点p2の位置は任意である。つまり、線分L1が211mm以上221mm以下であるということは、SiC単結晶ブール10の切断面が線分L1の長さが211mm以上221mm以下である部分を含むと言い換えることができる。線分L2、L3、L4の長さは、線分L1と異なっていてもよく、211mm未満又は221mm超でもよい。線分L2、L3、L4の長さは、211mm以上であることが好ましい。
【0030】
また線分L1の長さは、236mm以上248mm以下でもよく、好ましくは240mm以上244mm以下でもよい。SiC単結晶ブール10の切断面は、線分L1の長さが236mm以上244mm以下である部分、好ましくは線分L1の長さが240mm以上244mm以下である部分を含んでもよい。この場合の線分L2、L3、L4の長さは、線分L1と異なっていてもよく、236mm未満又は248mm超でもよい。線分L2、L3、L4の長さは、236mm以上であることが好ましい。
【0031】
また線分L1の長さは、319mm以上329mm以下でもよく、好ましく322mm以上326mm以下でもよい。SiC単結晶ブール10の切断面は、線分L1の長さが319mm以上329mm以下である部分、好ましくは線分L1の長さが322mm以上326mm以下である部分を含んでもよい。この場合の線分L2、L3、L4の長さは、線分L1と異なっていてもよく、319mm未満又は329mm超でもよい。線分L2、L3、L4の長さは、319mm以上であることが好ましい。
【0032】
また線分L1の長さは、357mm以上368mm以下でもよく、好ましくは361mm以上365mm以下でもよい。SiC単結晶ブール10の切断面は、線分L1の長さが357mm以上368mm以下である部分、好ましくは線分L1の長さが361mm以上365mm以下である部分を含んでもよい。この場合の線分L2、L3、L4の長さは、線分L1と異なっていてもよく、357mm未満又は368mm超でもよい。線分L2、L3、L4の長さは、357mm以上であることが好ましい。
【0033】
切断面は、例えば、SiC単結晶ブール10の最上端、最下端、最大径を有する面、最小径を有する面のいずれかである。線分L1の方向は、例えば、<11-20>方向又は<1-100>方向であることが好ましい。
【0034】
SiC単結晶ブール10が所定の長さの線分L1を有する場合は、一つのXY面内から複数のSiCインゴットを効率的に取得できる。
【0035】
図3は、SiC単結晶ブール10から複数のSiCインゴット20を取得する場合の一例のXY切断面である。
図3は、SiC単結晶ブール10が必要とする直径D
bを規定するための規定方法の第1例である。
図3に示す第1例は、SiC単結晶ブール10から3つのSiCインゴット20を取得する場合に、SiC単結晶ブール10に求められる直径D
bを規定する。第1例では、以下の式(1)に基づいて、SiC単結晶ブール10に求められる直径D
bを規定する。
【0036】
【0037】
式(1)において、DbはSiC単結晶ブール10に求められる直径であり、DwはSiC基板の直径であり、lは加工ロス幅である。加工ロス幅は、SiC単結晶ブール10からSiCインゴット20を取得する際の加工で生じるロスを考慮したマージンである。加工ロス幅は、少ない場合で0.1mm、多い場合で0.6mm程度である。またSiC基板は、SiCインゴット20をスライスして得られるため、SiC基板の直径は、SiCインゴット20の直径と略一致する。
【0038】
例えば、SiC単結晶ブール10の同一面内から4インチのSiC基板を3枚取得する場合を考慮する。4インチの基板の直径Dwは、多少のばらつきがある場合がある。4インチの基板の直径Dwとして許容できる直径Dwは、98.0mm以上102.0mm以下である。
【0039】
【0040】
表1は、直径Dwと加工ロスlの大きさを変えて、SiC単結晶ブール10に必要とされる直径Dbを求めた結果である。SiC単結晶ブール10の同一面内から4インチの基板を3枚取得する場合、SiC単結晶ブール10に必要とされる直径Dbは、211mm以上221mm以下である。そのため、SiC単結晶ブール10が、線分L1の長さが211mm以上221mm以下である部分を含むと、一つのSiC単結晶ブール10から3つのSiCインゴット20を取得できる。また4インチ基板の直径Dwとして許容できる範囲を99.5mm以上100.6mm以下とすると、SiC単結晶ブール10に必要とされる直径Dbは、214mm以上218mm以下である。この場合、SiC単結晶ブール10が、線分L1の長さが214mm以上218mm以下である部分を含むと、一つのSiC単結晶ブール10から3つのSiCインゴット20を取得できる。
【0041】
同様に、SiC単結晶ブール10の同一面内から6インチの基板を3枚取得する場合を考慮する。6インチの基板の直径Dwは、多少のばらつきがある場合がある。6インチの基板の直径Dwとして許容できる直径Dwは、148.0mm以上152.0mm以下である。
【0042】
【0043】
表2は、直径Dwと加工ロスlの大きさを変えて、SiC単結晶ブール10に必要とされる直径Dbを求めた結果である。SiC単結晶ブール10の同一面内から6インチの基板を3枚取得する場合、SiC単結晶ブール10に必要とされる直径Dbは、319mm以上329mm以下である。そのため、SiC単結晶ブール10が、線分L1の長さが319mm以上329mm以下である部分を含むと、一つのSiC単結晶ブール10から3つのSiCインゴット20を取得できる。また6インチ基板の直径Dwとして許容できる範囲を149.5mm以上150.6mm以下とすると、SiC単結晶ブール10の必要な直径Dbは、322mm以上326mm以下である。この場合、SiC単結晶ブール10が、線分L1の長さが322mm以上326mm以下である部分を含むと、一つのSiC単結晶ブール10から3つのSiCインゴット20を取得できる。
【0044】
図4は、SiC単結晶ブール10から複数のSiCインゴット20を取得する場合の一例のXY切断面である。
図4は、SiC単結晶ブール10が必要とする直径D
bを規定する規定方法の第2例である。
図4に示す第2例では、SiC単結晶ブール10から4つのSiCインゴット20を取得できるように、SiC単結晶ブール10の直径D
bを規定する。第2例では、以下の式(2)に基づいて、SiC単結晶ブール10の直径D
bを規定する。
【0045】
【0046】
式(2)において、DbはSiC単結晶ブール10に求められる直径であり、DwはSiC基板の直径であり、lは加工ロス幅である。加工ロス幅は、少ない場合で0.1mm、多い場合で0.6mm程度である。SiC基板の直径は、SiCインゴット20の直径と略一致する。
【0047】
例えば、SiC単結晶ブール10の同一面内から4インチのSiC基板を4枚取得する場合を考慮する。
【0048】
【0049】
表3は、直径Dwと加工ロスlの大きさを変えて、SiC単結晶ブール10が必要とする直径Dbを求めた結果である。SiC単結晶ブール10の同一面内から4インチの基板を4枚取得する場合、SiC単結晶ブール10が必要とする直径Dbは、236mm以上248mm以下である。そのため、SiC単結晶ブール10が、線分L1の長さが236mm以上248mm以下である部分を含むと、一つのSiC単結晶ブール10から4つのSiCインゴット20を取得できる。また4インチ基板の直径Dwとして許容できる範囲を99.5mm以上100.6mm以下とすると、SiC単結晶ブール10の必要な直径Dbは、240mm以上244mm以下である。この場合、SiC単結晶ブール10が、線分L1の長さが240mm以上244mm以下である部分を含むと、一つのSiC単結晶ブール10から4つのSiCインゴット20を取得できる。
【0050】
同様に、SiC単結晶ブール10の同一面内から6インチの基板を4枚取得する場合を考慮する。
【0051】
【0052】
表4は、直径Dwと加工ロスlの大きさを変えて、SiC単結晶ブール10が必要とする直径Dbを求めた結果である。SiC単結晶ブール10の同一面内から6インチの基板を4枚取得する場合、SiC単結晶ブール10が必要とする直径Dbは、357mm以上368mm以下である。そのため、SiC単結晶ブール10が、線分L1の長さが357mm以上368mm以下である部分を含むと、一つのSiC単結晶ブール10から4つのSiCインゴット20を取得できる。また6インチ基板の直径Dwとして許容できる範囲を149.5mm以上150.6mm以下とすると、SiC単結晶ブール10の必要な直径Dbは、361mm以上365mm以下である。この場合、SiC単結晶ブール10が、線分L1の長さが361mm以上365mm以下である部分を含むと、一つのSiC単結晶ブール10から4つのSiCインゴット20を取得できる。
【0053】
本実施形態にかかるSiC単結晶ブール10は、大口径であり、複数のSiCインゴット20を取得できる。またSiC単結晶ブール10の中心Cを通る線分L1の長さを規定することで、複数のSiCインゴット20を取得する際のロスを少なくできる。またSiCインゴット20のそれぞれからは複数のSiC基板を取得できるため、本実施形態にかかるSiC単結晶ブール10は、効率的に多くのSiC基板を取得することができる。
【0054】
次いで、本実施形態にかかるSiC単結晶ブール10の製造方法について説明する。本実施形態にかかるSiC単結晶ブール10の製造方法は、昇華法を用いて種結晶の第1面にSiC単結晶を結晶成長させる結晶成長工程を有する。
【0055】
図5は、本実施形態にかかるSiC単結晶ブール10の製造方法を説明するための図である。SiC単結晶ブール10を製造する装置は、坩堝50と、コイル51と、加熱用レーザー52と、を備える。坩堝50には、測温用の開口H1,H2と、レーザー加熱用の開口H3,H4と、が設けられている。
【0056】
原料粉末53は、坩堝50内に充填される。原料粉末は、SiCからなる。種結晶1は、坩堝50内の原料粉末53と対向する位置に設置される。坩堝50の周囲を囲むコイル51に電流を流すと、坩堝50内の原料粉末53が加熱される。原料粉末53から昇華したガスは、種結晶1の第1面1aで再結晶化し、第1面1aにSiC単結晶からなる結晶成長部2が結晶成長する。
【0057】
結晶成長工程において、種結晶1の第2面1bには、レーザーが照射される。第2面1bは、種結晶1の第1面1aと対向する面である。レーザーは、加熱用レーザー52から開口H3,H4を介して照射される。加熱用レーザー52は、例えば、波長10600nmのCO2レーザーである。加熱用レーザー52は、例えば、種結晶1の中心を挟んで対称な位置の2か所を加熱する。加熱用レーザー52の出力は、例えば、数十Wである。
【0058】
結晶成長工程において、種結晶1は、坩堝50とともに回転する。種結晶1が回転することで、加熱用レーザー52は、種結晶1を周方向に均一に加熱する。種結晶1の回転速度は、例えば、6rpmである。
【0059】
加熱用レーザー52は、種結晶1の径方向において、レーザーの照射位置を変更することができる。レーザーによる種結晶1の加熱位置は、径方向に変化可能である。種結晶1の加熱位置を変えることで、結晶成長部2の結晶成長面の温度分布を制御することができる。
【0060】
結晶成長工程において、レーザーの照射位置の温度は、種結晶1の径方向の中心の温度に対して±5℃以内となるように制御する。測温は、例えば、株式会社チノー社製の研究用ハイエンドサーモグラフィー FLIR A6000シリーズ/X6000シリーズを用いて行うことができる。この温度制御は、例えば、加熱用レーザー52の出力及び加熱位置を随時調整することで行う。
【0061】
例えば、結晶成長の初期は、種結晶1の外周近傍の温度が中央の温度と比較して低い場合が多い。そのため、結晶成長初期は、種結晶1の外周近傍に高出力のレーザーを照射する。レーザーの照射により種結晶1及び結晶成長部2の外周部が加熱されるため、結晶成長の中期及び終盤は、種結晶1における外周近傍と中央の温度差は小さくなる。この場合、レーザーの出力を結晶成長が進むに従って弱くすることで、結晶成長部2の結晶成長面の温度分布が小さくなる。また同時に、レーザーによる加熱位置を、結晶成長が進むに従って、外周近傍から中央に向かって移動させる。例えば、レーザーの加熱位置を、0.25mm/hで移動する。例えば、成長初期から成長終了までに、レーザーの加熱位置を種結晶1の中央に向かって35mm移動させる。
【0062】
上記の手順に従って、SiC単結晶ブール10を作製することで、大口径のSiC単結晶ブール10を作製できる。SiC単結晶ブール10の結晶成長面の温度分布を制御することで、SiC単結晶ブール10内に生じる応力を低減でき、大口径であってもSiC単結晶ブールが割れないものと考えられる。
【0063】
次いで、作製したSiC単結晶ブール10からSiC基板を作製する方法について説明する。本実施形態にかかるSiC基板の製造方法は、開口形成工程と、分割工程と、インゴット加工工程と、スライス工程と、を有する。
図6~
図9は、第1実施形態に係るSiC基板の製造方法を説明するための図である。
【0064】
図6は、開口形成工程の模式図である。開口形成工程では、上述の手順で作製した大口径のSiC単結晶ブール10の中心に開口を形成する。開口は、例えば、窒化ホウ素(BN)またはダイアモンドコートされたドリル54を用いて行う。開口の直径は、7mm以下であり、例えば2mmである。ドリル54は、例えば、UNION TOOL社製のUDCMXである。
【0065】
図7は、分割工程の模式図である。分割工程では、開口から径方向の外側に向かってSiC単結晶ブール10を切断し、SiC単結晶ブール10を複数のパーツ11に分割する。分割工程では、開口にワイヤー55を通り、内側から外側に向かって、SiC単結晶ブール10を切断する。SiC単結晶ブール10を内側から外側に向かって切断することで、SiC単結晶ブール10を外側から内側に向かって切断する場合よりクラックの発生を抑制できる。
【0066】
分割は、例えば、遊離砥粒式の切断機を用いて行うことが好ましい。遊離砥粒式の切断機は、固定砥粒式の切断機より切断時のロスを少なくできる。スラリーは、市販のものを用いることができる。またワイヤー55の径は、例えば、0.15mmである。ワイヤー55の径を小さくすることで、切断時のロスを少なくできる。
【0067】
図8は、インゴット加工工程の模式図である。インゴット加工工程では、分割工程で切断した複数のパーツ11のそれぞれをSiCインゴット20に加工する。SiCインゴット20への加工は、円筒研削機で行うことができる。
【0068】
図9は、スライス工程の模式図である。スライス工程では、SiCインゴット20のそれぞれをスライスする。スライスは、レーザーで行ってもよいし、ワイヤーソー等を用いて行ってもよい。SiCインゴット20のそれぞれからは、複数のSiC基板30が得られる。SiC基板30は、両面を研磨してもよい。
【0069】
本実施形態にかかるSiC基板の作製方法は、SiC単結晶ブール10を内側から外側に向かって分割する。SiC単結晶ブール10を外側から切断するとクラックが入るリスクが高くなるが、SiC単結晶ブール10を内側から外側に向かって分割することで、クラックのリスクを低くなる。
【0070】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0071】
1…種結晶、1a…第1面、1b…第2面、2…結晶成長部、10…SiC単結晶ブール、20…SiCインゴット、30…SiC基板、50…坩堝、51…コイル、52…加熱用レーザー、53…原料粉末、54…ドリル、55…ワイヤー、H1,H2,H3,H4…開口