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特開2025-35645多孔体材料、組成物、断熱材料、吸音材料、合わせガラス中間膜及び多孔体材料の製造方法
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  • 特開-多孔体材料、組成物、断熱材料、吸音材料、合わせガラス中間膜及び多孔体材料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025035645
(43)【公開日】2025-03-14
(54)【発明の名称】多孔体材料、組成物、断熱材料、吸音材料、合わせガラス中間膜及び多孔体材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20250307BHJP
   F16L 59/00 20060101ALI20250307BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20250307BHJP
   C08L 5/08 20060101ALI20250307BHJP
   C08B 37/08 20060101ALI20250307BHJP
   C03C 27/12 20060101ALI20250307BHJP
【FI】
C08J9/28 101
C08J9/28 CEP
F16L59/00
C08L101/00
C08L5/08
C08B37/08 A
C03C27/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023142827
(22)【出願日】2023-09-04
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ムーンショット型研究開発事業委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128107
【弁理士】
【氏名又は名称】深石 賢治
(72)【発明者】
【氏名】加来 悠人
(72)【発明者】
【氏名】磯部 紀之
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 秀次
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 継之
【テーマコード(参考)】
3H036
4C090
4F074
4G061
4J002
【Fターム(参考)】
3H036AB18
4C090AA05
4C090AA08
4C090BA46
4C090BA47
4C090BB53
4C090BB62
4C090BB65
4C090BB71
4C090BB98
4C090BD14
4C090BD25
4C090BD36
4C090CA35
4C090DA10
4C090DA32
4F074AA01
4F074CB33
4F074CB42
4F074CC05Y
4F074CC27Y
4F074CC28Y
4F074CC29Y
4F074DA02
4F074DA03
4F074DA07
4F074DA08
4F074DA13
4F074DA24
4F074DA32
4F074DA54
4F074DA57
4G061AA09
4G061AA11
4G061BA01
4G061CD18
4J002AB05X
4J002CC02W
4J002CC18W
4J002CD00W
4J002CF00W
4J002CM02W
(57)【要約】
【課題】力学特性及び透明性に優れる新規な多孔体材料を提供すること。
【解決手段】本開示の多孔体材料は、キチン系化合物を含む無色透明なエアロゲルである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キチン系化合物を含む無色透明なエアロゲルである、多孔体材料。
【請求項2】
前記キチン系化合物の含有量が、前記多孔体材料の全量を基準として、10質量%以上である、請求項1に記載の多孔体材料。
【請求項3】
波長600nmにおける厚さ1mmあたりのヘイズ値が、20%以下である、請求項1に記載の多孔体材料。
【請求項4】
波長600nmにおける厚さ1mmあたりの全光線透過率が、80%以上である、請求項1に記載の多孔体材料。
【請求項5】
前記キチン系化合物のN-アセチル化度が、80%以上である、請求項1に記載の多孔体材料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の多孔体材料を含む、組成物。
【請求項7】
板状である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の多孔体材料を含む、断熱材料。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載の多孔体材料を含む、吸音材料。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか一項に記載の多孔体材料を含む、合わせガラス中間膜。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか一項に記載の多孔体材料の製造方法であって、
(A)前記キチン系化合物を含む湿潤ゲルを準備する工程と、
(B)前記湿潤ゲルを乾燥して多孔体材料を得る工程と、
を備える、多孔体材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多孔体材料、組成物、断熱材料、吸音材料、合わせガラス中間膜及び多孔体材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅における熱損失の大部分(60~70%)は、窓などの開口部が占める。持続可能な社会の実現に向けて、開口部からの熱損失を抑制することで、環境負荷を低減することが求められる。窓の機能として必要な採光性を維持しつつ熱損失を防ぐ方法として、透明な断熱材の活用が挙げられる。透明な断熱材の代表例として、エアロゲルが挙げられる。
【0003】
エアロゲルは、微細な骨格を有する多孔質の構造体であり、密度が低い。そのため、エアロゲルは、大きな比表面積、高い断熱性及び高い透明性を有する。最も一般的なエアロゲルとして、シリカ(二酸化ケイ素)を骨格とするシリカエアロゲルが挙げられる。
【0004】
しかし、シリカエアロゲルは微小な変形によって破壊されてしまうほど脆い。この低い力学特性がシリカエアロゲルの実用化を妨げる一因となっている。
【0005】
シリカ以外のエアロゲルの材料として、セルロースやキチンを含む多糖が挙げられる。例えば、下記の非特許文献1には、キチンを材料としたエアロゲルが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jintian, Wang. Preparation of a novel double crosslinked chitin aerogel via etherification with high strength, Carbohydrate Polymers, 2021年, Vol.265, article. 118014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
キチン系化合物を材料としてエアロゲルは、高い靱性を有する。しかし、このようなキチン系化合物を材料としたエアロゲルは、透明性がなく、透明性の点で改善の余地がある。
【0008】
本開示は、力学特性及び透明性に優れる新規な多孔体材料を提供する。また、本開示は、当該多孔体材料を含む組成物、断熱材料、吸音材料及び合わせガラス中間膜を提供する。また、本開示は、当該多孔体材料の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示は、以下の多孔体材料、組成物、断熱材料、吸音材料及び多孔体材料の製造方法を提供する。
[1] キチン系化合物を含む無色透明なエアロゲルである、多孔体材料。
[2] 上記キチン系化合物の含有量が、上記多孔体材料の全量を基準として、10質量%以上である、[1]に記載の多孔体材料。
[3] 波長600nmにおける厚さ1mmあたりのヘイズ値が、20%以下である、[1]又は[2]に記載の多孔体材料。
[4] 波長600nmにおける厚さ1mmあたりの全光線透過率が、80%以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の多孔体材料。
[5] 上記キチン系化合物のN-アセチル化度が、80%以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の多孔体材料。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の多孔体材料を含む、組成物。
[7] 板状である、[6]に記載の組成物。
[8] [1]~[5]のいずれかに記載の多孔体材料を含む、断熱材料。
[9] [1]~[5]のいずれかに記載の多孔体材料を含む、吸音材料。
[10] [1]~[5]のいずれか一項に記載の多孔体材料を含む、合わせガラス中間膜。
[11] [1]~[5]のいずれかに記載の多孔体材料の製造方法であって、
(A)上記キチン系化合物を含む湿潤ゲルを準備する工程と、
(B)上記湿潤ゲルを乾燥して多孔体材料を得る工程と、
を備える、多孔体材料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、力学特性及び透明性に優れる新規な多孔体材料が提供される。また、本開示によれば、当該多孔体材料を含む組成物、断熱材料、吸音材料及び合わせガラス中間膜が提供される。また、本開示によれば、当該多孔体材料の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(a)は、実施例4の全光線透過率の測定結果を示すグラフである。図1(b)は、実施例4のヘイズ値の測定結果を示すグラフである。図1(c)は、実施例4のエアロゲルについて、細孔径の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。本開示は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0013】
[多孔体材料]
以下、本実施形態に係る多孔体材料について説明する。本実施形態に係る多孔体材料は、キチン系化合物を含む無色透明なエアロゲルである。
【0014】
(エアロゲル)
以下、本実施形態に係るエアロゲル(以下、単に「エアロゲル」ともいう)について説明する。本明細書中、「エアロゲル」とは、超臨界乾燥法によって湿潤ゲルを乾燥することで得られた乾燥ゲルを意味する。エアロゲルは、網目状の微細構造を有する。エアロゲルは、キチン系化合物の繊維が結合したクラスター構造を有する。このクラスターにより形成される骨格間には、100nmに満たない細孔がある。これにより、エアロゲルは、三次元的に微細な多孔性の構造を有している。
【0015】
エアロゲルは、無色である。本明細書中、「無色」であるとは、厚さ1mmあたりの多孔体材料の全光線透過率を測定して得られる、縦軸を全光線透過率とし、横軸を波長としたグラフにおいて、可視光領域(400~800nm)に局所的な吸収ピークを有しないことを意味する。
【0016】
全光線透過率は、入射光量及び全透過光量を測定し、全光線透過率=(全透過光量)/(入射光量)×100として算出される値を意味する。入射光量及び全透過光量は、紫外可視近赤外分光法により測定される値を意味する。
【0017】
エアロゲルは、透明である。本明細書中、「透明」であるとは、厚さ1mmあたりの多孔体材料の可視光領域(400~800nm)におけるヘイズ値の最大値が30%以下であることを意味する。ヘイズ値は、紫外可視近赤外分光法を用いて測定される。
【0018】
エアロゲルの波長600nmにおける厚さ1mmあたりのヘイズ値は、20%以下であってよい。ヘイズ値は、温度23℃、相対湿度50%の条件で測定される。
【0019】
エアロゲルの波長600nmにおける厚さ1mmあたりの全光線透過率は、80%以上、又は90%以上であってよい。全光線透過率は、温度23℃、相対湿度50%の条件で測定される。
【0020】
エアロゲルの細孔径の平均値は、エアロゲルの力学強度を確保する観点から、200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることが更に好ましい。細孔径は、比表面積/細孔分布測定装置を使用し、窒素吸着等温線の吸着側から、BJH法を用いて解析することにより測定される。
【0021】
エアロゲルの細孔径の標準偏差は、エアロゲルの透明性及び強度が一層向上することから、30以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、10以下であることが更に好ましい。
【0022】
エアロゲルの温度23℃、相対湿度50%におけるかさ密度は、力学強度が一層高いものとなるから、50mg/cm以上であることが好ましく、100mg/cm以上であることがより好ましく、150mg/cm以上であることが更に好ましい。エアロゲルのかさ密度は、例えば、300mg/cm以下であってよい。かさ密度は、かさ密度測定装置により測定される。
【0023】
エアロゲルの温度23℃、相対湿度50%における空隙率は、80~99%であってよい。空隙率は、かさ密度および真密度を測定し、空隙率=(1―(かさ密度)/(真密度))×100として算出される値を意味する。
【0024】
エアロゲルの比表面積は、300m/g以上、400m/g以上、又は500m/g以上であってよい。エアロゲルの比表面積は、BET比表面積測定法で測定することで算出できる。
【0025】
エアロゲルの熱伝導率は、例えば、50mW/(m・K)以下、40mW/(m・K)以下、又は30mW/(m・K)以下であってよい。エアロゲルの熱伝導率は、温度23℃、相対湿度50%において熱拡散率測定装置又は熱伝導率測定装置を用いることにより測定される。
【0026】
エアロゲルの圧縮弾性率は、例えば、0.5MPa以上、1.0MPa以上、又は2.0MPa以上であってよい。圧縮弾性率は、温度23℃、相対湿度50%における力学試験機を用いた圧縮試験により算出される応力ひずみ曲線の弾性領域の傾きとして測定される値を意味する。
【0027】
エアロゲルの70%ひずみにおける単位体積当たりのエネルギー吸収量は、100kJ/m以上、200kJ/m以上、300kJ/m以上、400kJ/m以上、500kJ/m以上、600kJ/m以上、又は700kJ/m以上であってよい。当該エネルギー吸収量は、温度23℃、相対湿度50%において力学試験機を用いた圧縮試験において、算出された応力ひずみ曲線の0~70%ひずみ領域の面積として測定される値を意味する。
【0028】
エアロゲルはキチン系化合物を含む。キチン系化合物としては、例えば、キチン及びキトサンが挙げられる。キチン系化合物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。本明細書中、「キチン」は、β-1,4-ポリ-D-グルコサミンのうちアミノ基の60%以上がアセチル化されているものをいう。本明細書中、「キトサン」は、β-1,4-ポリ-D-グルコサミンのうちアミノ基の60%未満がアセチル化されているものをいう。
【0029】
キチン系化合物の市販品としては、例えば、富士フイルム和光純薬株式会社製の「キトサン10」及び「キトサン100」が挙げられる。
【0030】
キチン系化合物におけるN-アセチル化度は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましい。N-アセチル化度が上記数値範囲であると、エアロゲルは無色でありつつ透明性が一層優れたものとなる。キチン系化合物におけるN-アセチル化度は、70%以下であってよい。
【0031】
キチン系化合物におけるキチンの割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましい。キチン系化合物におけるキチンの割合が上記数値範囲であると、エアロゲルは無色でありつつ透明性が一層優れたものとなる。キチン系化合物におけるキチンの割合は、20質量%以下であってよい。
【0032】
キチン系化合物におけるキトサンの割合は、1質量%以上10質量%以下であってよい。
【0033】
エアロゲルにおけるキチン系化合物の含有量は、10質量%以上であってよく、透明性及び強度の観点から、エアロゲルの全量を基準として、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることが更に好ましい。エアロゲルにおけるキチン系化合物の含有量は、100質量%であってもよい。
【0034】
キチン系化合物の重量平均分子量は、特に制限されないが、例えば、1000~1500000である。本明細書において、重量平均分子量は、GPC法標準ポリスチレン換算により求められる重量平均分子量を意味する。
【0035】
エアロゲルは、キチン系化合物以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、セルロース系化合物及び層状無機添加剤が挙げられる。
【0036】
エアロゲルは、例えば、梱包材料、包装材料、航空宇宙材料、家電材料、産業機器材料、自動車材料及び建材の用途に好適に用いることができる。
【0037】
以上、本実施形態に係るエアロゲルについて説明したが、本開示の多孔体材料は、上記実施形態に限定されない。多孔体材料は、例えば、蒸発乾燥によって湿潤ゲルを乾燥することで得られたキセロゲルであってもよい。多孔体材料は、例えば、凍結乾燥によって湿潤ゲルを乾燥することで得られたクライオゲルであってもよい。
【0038】
[多孔体材料の製造方法]
以下、本実施形態に係る多孔体材料の製造方法について説明する。多孔体材料の製造方法は、以下の工程を備える。
(A)キチン系化合物を含む湿潤ゲルを準備する工程
(C)湿潤ゲルの溶媒を置換する工程
(B)湿潤ゲルを乾燥する工程
【0039】
(工程(A))
工程(A)は、キチン系化合物を含む湿潤ゲルを準備する工程である。湿潤ゲルは、キチン系化合物を含む溶液を用いて得られる。キチン系化合物を含む溶液は、溶媒にキチン系化合物を溶解させることによって得られたものであってよい。溶媒としては、例えば、水、酢酸及びメタノールが挙げられる。
【0040】
キチン系化合物を含む溶液は、例えば、冷却した状態でゲル化剤を加え容器内に収容し、室温で放置することでゲル化されてよい。これにより湿潤ゲルが得られる。溶液を冷却してゲル化剤を加え室温で放置することで、キチン系化合物の繊維間の距離が揃う。これにより得られる多孔体材料の細孔径の平均値及び標準偏差が小さいものとなる。その結果、得られる多孔体材料は、高い透明性を有しつつ高い強度を有するものとなる。
【0041】
ゲル化剤は、例えば、無水酢酸が挙げられる。ゲル化剤の配合量は、キチン系化合物100質量部に対して、80~1000質量部であってよい。
【0042】
冷却温度は、例えば、-15~-10℃であってよい。溶液を冷却した後に放置する温度は、例えば、10~30℃であってよい。
【0043】
(工程(C))
工程(C)は、湿潤ゲルの溶媒を置換する工程である。このような置換に用いられる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール及びイソプロパノール等のアルコール、ベンゼン及びトルエン等の芳香族化合物、ヘキサン等の炭化水素溶媒、アミド溶媒、ケトン溶媒並びにエステル溶媒が挙げられる。
【0044】
本実施形態に係る多孔体材料の製造方法は、工程(C)を備えるが、本開示の多孔体材料の製造方法は、工程(C)を備えていなくてもよい。
【0045】
(工程(B))
工程(B)は、工程(C)で溶媒の置換をした湿潤ゲルを乾燥する工程である。これにより多孔体材料が得られる。
【0046】
多孔体材料がエアロゲルである場合、湿潤ゲルを超臨界乾燥法によって乾燥する。超臨界乾燥法による乾燥の条件は特に限定されず、公知の乾燥方法を採用することができる。例えば、公知の超臨界二酸化炭素を使用した乾燥法を採用することができる。
【0047】
湿潤ゲルの乾燥法は、超臨界乾燥法以外の方法であってよい。このような乾燥法としては、例えば、蒸発乾燥及び凍結乾燥が挙げられる。
【0048】
多孔体材料がキセロゲルである場合、湿潤ゲルに含まれる溶媒の臨界点未満の温度にて湿潤ゲルを乾燥する。工程(B)において溶媒の置換を行った場合には、置換に用いられた溶媒の臨界点未満の温度にて湿潤ゲルを乾燥する。乾燥温度は、例えば、10~70℃であってよい。乾燥する圧力は、例えば、大気圧であってよい。
【0049】
[組成物]
以下、本実施形態に係る組成物について説明する。組成物は、上記実施形態に係る多孔体材料を含有する。本実施形態に係る組成物は、バインダーを更に含有していてよい。バインダーとしては、例えば、樹脂が挙げられる。
【0050】
樹脂としては、例えば、ポリエステル、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂及び硅素樹脂が挙げられる。
【0051】
組成物の形状は、例えば、板状、ペレット状、円柱状、円錐状、多角柱状、多角錘状又は球状であってよい。
【0052】
[成形体]
以下、本実施形態に係る成形体について説明する。成形体は、上記実施形態に係る組成物を成形して構成されたものである。組成物が樹脂を含む場合には、成形体は、樹脂を硬化させて成形したものであってよい。成形体は、力学特性に優れることから、上記実施形態に係る多孔体材料と同様の用途に好適に用いることができる。
【0053】
[構造材料]
以下、本実施形態に係る構造材料について説明する。構造材料は、上記実施形態に係る多孔体材料を複数組み合わせて構成される。構造材料は、例えば、複数の多孔体材料の表面同士を接着剤等により接着させたものであってよい。構造材料は、上記実施形態に係る多孔体材料と同様の用途に用いることができる。
【0054】
[断熱材料]
以下、本実施形態に係る断熱材料について説明する。断熱材料は、上記実施形態に係る多孔体材料を含む。そのため、断熱材料は、透明性、断熱性及び力学特性に優れる。断熱材料は、上記実施形態に係る多孔体材料と同様の用途に用いることができる。断熱材料は、透明性及び断熱性に優れることから、住宅の窓等の開口部用の断熱材料として特に好適に用いることができる。
【0055】
[吸音材料]
以下、本実施形態に係る吸音材料について説明する。吸音材料は、上記実施形態に係る多孔体材料を含む。吸音材料は、多孔体材料が多孔質構造であるため吸音性に優れる。吸音材料は、上記実施形態に係る多孔体材料と同様の用途に用いることができる。
【0056】
[合わせガラス中間膜]
以下、本実施形態に係る合わせガラス中間膜について説明する。合わせガラス中間膜は、上記実施形態に係る多孔体材料を含む。合わせガラス中間膜は、当該合わせガラス中間膜と、その両面に位置するガラス板と、を備える合わせガラスに用いられる。このような合わせガラスは、透明性、断熱性及び力学特性に優れる。
【実施例0057】
以下、本開示について実施例に基づいてより具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
[エアロゲルの製造]
(実施例1)
0.15gのキトサン100(商品名、富士フイルム和光純薬株式会社製)を15mLの酢酸水溶液(酢酸1.5mL及び水13.5mL)に溶解させ混合溶液を得た。メタノール60mLを混合溶液に加えて攪拌したのち、-12℃に冷却した。無水酢酸0.9mLを混合溶液に添加して攪拌した。混合溶液を容器に流し込んだ。混合溶液を25℃で放置することでゲル化を進行させて透明な湿潤ゲルを得た。このときキチン系化合物のN-アセチル化度は、98.5%であった。
【0059】
得られた湿潤ゲルをメタノールで洗浄して酢酸を除去した。洗浄後の湿潤ゲルのメタノールをエタノールに置換した。次いで、超臨界二酸化炭素により湿潤ゲルを乾燥した。これにより板状(縦:3cm、横:3cm、厚さ:1cm)のエアロゲルを得た。
【0060】
(実施例2)
0.15gのキトサン100に代えて0.30gのキトサン100を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてエアロゲルを得た。
【0061】
(実施例3)
0.15gのキトサン100に代えて0.45gのキトサン100を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてエアロゲルを得た。
【0062】
(実施例4)
0.15gのキトサン100に代えて0.75gのキトサン100を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてエアロゲルを得た。
【0063】
[全光線透過率の測定]
得られたエアロゲルの全光線透過率を測定した。全光線透過率は、入射光量及び全透過光量を測定し、全光線透過率=(全透過光量)/(入射光量)×100として算出した。測定には、紫外可視近赤外分光光度計V-670(装置名、日本分光株式会社製)を用いた。測定条件は、温度23℃、相対湿度50%とした。エアロゲルの厚さを1mmに換算したときの波長600nmにおける全光線透過率を表1に示した。実施例4の測定結果を図1(a)に示した。また、各実施例に係るエアロゲルは、可視光領域(400~800nm)に局所的な吸収ピークを有しないことが確認された。
【0064】
[ヘイズ値の測定]
得られたエアロゲルのヘイズ値を測定した。測定には、紫外可視近赤外分光光度計V-670(装置名、日本分光株式会社製)を用いた。測定条件は、温度23℃、相対湿度50%とした。エアロゲルの厚さを1mmに換算したときの波長600nmにおけるヘイズ値を表1に示した。実施例4の測定結果を図1(b)に示した。また、各実施例に係るエアロゲルは、可視光領域(400~800nm)におけるヘイズ値の最大値が90%以下であることが確認された。
【0065】
[細孔径の測定]
得られたエアロゲルの細孔径を測定した。具体的には、比表面積・細孔分布測定装置(Quantachrome株式会社、商品名:「NOVA4200e」)により細孔径を測定した細孔径の平均値と標準偏差を算出した。結果を表1に示した。実施例4のエアロゲルについて、差分細孔容積を縦軸とし細孔径を横軸としたグラフを図1(c)に示した。
【0066】
[熱伝導率の測定]
得られたエアロゲルの熱伝導率を測定した。具体的には、熱拡散率測定装置(株式会社アイフェイズ、商品名:「ai-Phase Mobile 1u」)により熱伝導率を測定した。測定条件は、温度23℃、相対湿度50%とした。結果を表1に示した。
【0067】
[圧縮弾性率及びエネルギー吸収量の測定]
得られたエアロゲルの圧縮弾性率と、得られたエアロゲルの70%ひずみにおける単位体積当たりのエネルギー吸収量とを測定した。具体的には、温度23℃、相対湿度50%において力学試験機(株式会社島津製作所製、商品名:「EZ-TEST」)を用い、エアロゲルに対して圧縮試験を行うことで圧縮弾性率及びエネルギー吸収量を測定した。結果を表1に示した。
【0068】
表1には、文献(Yuri, Kobayashi. Aerogels with 3D Ordered Nanofiber Skeletons of Liquid-Crystalline Nanocellulose Derivatives as Tough and Transparent Insulators, Angewandte Chemie, 2014年, Vol.53, Issue 39, pages 10394-10397.)に開示されている4つのナノセルロースエアロゲルのかさ密度、空隙率、比表面積、熱伝導率、圧縮弾性率及びエネルギー吸収量をデータ1~4として併記した。
【0069】
【表1】
図1