(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025035912
(43)【公開日】2025-03-14
(54)【発明の名称】バイオメディカル用途向け量子ドット分散液、その製造方法及び複合量子ドット
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20250307BHJP
C01B 25/08 20060101ALI20250307BHJP
C09K 11/88 20060101ALI20250307BHJP
【FI】
C09K11/08 G
C01B25/08 A
C09K11/88
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023143253
(22)【出願日】2023-09-04
(71)【出願人】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中對 一博
(72)【発明者】
【氏名】坂上 知
(72)【発明者】
【氏名】續石 大気
(72)【発明者】
【氏名】太田 誠一
(72)【発明者】
【氏名】中村 乃理子
(72)【発明者】
【氏名】佐野 友南
【テーマコード(参考)】
4H001
【Fターム(参考)】
4H001CC13
4H001XA15
4H001XA16
4H001XA30
4H001XA34
4H001XA49
(57)【要約】
【課題】優れた安定性を有し、量子収率に優れ、かつ毒性の低い、水溶性量子ドットが水に分散しているバイオメディカル用途向け量子ドット分散液、及びバイオメディカル用途向け複合量子ドットを提供すること。
【解決手段】水溶性量子ドット、下記式(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)で表されるホスフィン化合物及び水からなるバイオメディカル用途向け量子ドット分散液である。
【化1】
(式中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~8のヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、アミノアルキル基、メルカプトアルキル基又はシアノアルキル基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性量子ドット、下記式(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)で表されるホスフィン化合物及び水からなるバイオメディカル用途向け量子ドット分散液。
【化1】
(式中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~8のヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、メルカプトアルキル基又はシアノアルキル基を表す。)
【請求項2】
Rが炭素数1~5のヒドロキシアルキル基である請求項1に記載のバイオメディカル用途向け量子ドット分散液。
【請求項3】
前記ホスフィン化合物が水溶性量子ドットに近接して配置されている請求項1に記載のバイオメディカル用途向け量子ドット分散液。
【請求項4】
前記水溶性量子ドットが、チオール類、アミン含有チオール類、アミン類、アルコール類、チオール含有アルコール類、ホスホン酸類、カルボン酸類及びチオール含有カルボン酸類から選択される親水性の配位子が量子ドットの表面に配位したものである請求項1に記載のバイオメディカル用途向け量子ドット分散液。
【請求項5】
疎水性量子ドット分散液に親水性の配位子を加え、量子ドットの表面に結合している配位子を親水性の配位子に交換して、水溶性量子ドットを得る配位子交換工程、及び、
前記水溶性量子ドットを水に分散して、水溶性量子ドットの分散液を得る分散工程を有し、
前記水溶性量子ドットの分散液に、前記式(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)で表されるホスフィン化合物を添加する請求項1~4のいずれか一項に記載のバイオメディカル用途向け量子ドット分散液の製造方法。
【請求項6】
水溶性量子ドット及び下記式(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)で表されるホスフィン化合物を含むバイオメディカル用途向け複合量子ドット。
【化2】
(式中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~8のヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、メルカプトアルキル基又はシアノアルキル基を表す。)
【請求項7】
Rが炭素数1~5のヒドロキシアルキル基である請求項6に記載のバイオメディカル用途向け複合量子ドット。
【請求項8】
前記水溶性量子ドットが、チオール類、アミン含有チオール類、アミン類、アルコール類、チオール含有アルコール類、ホスホン酸類、カルボン酸類及びチオール含有カルボン酸類から選択される配位子が量子ドットの表面に配位したものである請求項6に記載のバイオメディカル用途向け複合量子ドット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオメディカル用途向けの量子ドット分散液、その製造方法及び水溶性量子ドットと添加剤とからなる複合量子ドットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光材料として量子ドット(quantum dots)の開発が進んでいる。代表的な量子ドットとして、優れた発光特性などからCdSe、CdTe、CdS等のカドミウム系量子ドットの開発が進められている。また、カドミウムは毒性及び環境負荷が高いことからInP、CuInS2、ZnTeSe等の、カドミウムフリーの量子ドットの開発が期待されている。
【0003】
この量子ドットは、ナノ粒子という特有のサイズであることから、優れた発光特性を維持するためには、粒子の凝集や粒子表面の欠損を抑制して安定化させる必要がある。量子ドットの安定化には、粒子表面に存在する配位子が大きな役割を果たしており、様々な手法が検討されている。例えば特許文献1には、不活性溶媒と、カチオン性前駆体と、アニオン性前駆体と、表面安定化リガンドを含む反応混合物を特定範囲の温度で撹拌することにより半導体ナノ結晶(量子ドット)が得られることが記載されており、表面安定化リガンドとして、第一のリガンドと第二のリガンドを用いることにより、ナノ結晶を安定化することが記載されている。
【0004】
その他にも、特許文献2及び3ではホスフィン系配位子、特許文献4ではホスフィン系配位子をオリゴマー化した多座配位子により量子ドットの安定化を図っている。さらに特許文献5では、蛍光性半導体ナノ粒子(量子ドット)をホスフィン系化合物からなる安定化添加剤と組み合わせることで、キャリア流体中での分散性を向上させることや、ナノ粒子の光分解又は熱分解を防止できることが記載されている。
【0005】
量子ドットの製造においては、反応の制御や量子ドットの作製のし易さ、得られる量子ドットの安定性や量子収率の高さなどから、一般的にはトルエンやオクタンなどの非水系の有機溶媒が使用されている。特許文献1~5に記載の技術は、非水系有機溶媒中での安定化を求めたものであるが、用途によっては、水性溶媒に分散した量子ドットが必要となる。
【0006】
水性溶媒に分散のできる量子ドット、すなわち水溶性量子ドットの開発に関しては、量子ドットの優れた発光特性を活かして、分子認識物質と結合した分子認識体により、たんぱく質、ウイルス、核酸等の生体含有物質を測定する方法が検討されている。生体内で量子ドットをマーカー物質として用いるためには、量子ドット表面を水溶性の配位子で被覆して、量子ドットを水溶化する必要があるが、このような処理をすると安定性や量子収率の低下が問題となっていた。また、生体内で用いるため、毒性が低いことも合わせて必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2010/083431号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007/095061号パンフレット
【特許文献3】特開2010-9995号公報
【特許文献4】国際公開第2004/042784号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2017/048608号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
量子ドットの水溶化には、量子ドット表面に存在する配位子を、親水性官能基を有するものにする必要があるが、水中では親水性官能基に変化が生じやすいため、量子ドットの安定性や量子収率に悪影響を及ぼしているものと考えられている。すなわち、親水性官能基の水中での挙動を安定化させることができれば、水溶化した量子ドットであっても、優れた安定性や量子収率を達成することが可能となり、より水溶性量子ドットの開発が進むものとなる。
【0009】
また、生体内で量子ドットを用いる際に、毒性が強いと細胞が死滅してしまうため、毒性を無くす又は弱めるための方法が必要であった。しかしながら、優れた発光機能を有しつつ低毒性の水溶性量子ドットは未だ開発途上である。
【0010】
したがって本発明の目的は、優れた安定性を有し、量子収率に優れ、かつ毒性の低い、水溶性量子ドットが水に分散しているバイオメディカル用途向け量子ドット分散液、及びバイオメディカル用途向け複合量子ドットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、親水性の官能基の近傍に還元性の化合物を存在させることにより官能基の酸化を抑制できること、及び特定の還元性化合物が量子ドット表面に配位することにより、量子ドット自体の安定性が増すため、量子ドットの水中での安定性に繋がり、量子収率の低下が抑えられることを見出した。また、特定の還元性化合物の使用により細胞毒性も少ない水溶性量子ドット分散液が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、水溶性量子ドット、下記式(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)で表されるホスフィン化合物及び水からなるバイオメディカル用途向け量子ドット分散液を提供するものである。
【0013】
【化1】
(式中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~8のヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、メルカプトアルキル基又はシアノアルキル基を表す。)
【0014】
また本発明は、疎水性量子ドット分散液に親水性の配位子を加え、量子ドットの表面に結合している配位子を親水性の配位子に交換して、水溶性量子ドットを得る配位子交換工程、及び、前記水溶性量子ドットを水に分散して、水溶性量子ドットの分散液を得る分散工程を有し、前記水溶性量子ドットの分散液に、前記ホスフィン化合物を添加するバイオメディカル用途向け量子ドット分散液の製造方法を提供するものである。
【0015】
また本発明は、水溶性量子ドット及び前記ホスフィン化合物を含むバイオメディカル用途向け複合量子ドットを提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れた安定性を有し、量子収率に優れ、かつ毒性の低いバイオメディカル用途向け量子ドット分散液、及びバイオメディカル用途向け複合量子ドットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例3で得られたバイオメディカル用途向け量子ドット分散液の光照射耐性試験における蛍光強度の経時変化を測定した図である。
【
図2】比較例3で得られたバイオメディカル用途向け量子ドット分散液の光照射耐性試験における蛍光強度の経時変化を測定した図である。
【
図3】実施例4及び比較例6における毒性試験の結果である。
【
図4】実施例5、実施例6及び比較例7における共焦点レーザー顕微鏡観察図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のバイオメディカル用途向け量子ドット分散液は、バイオイメージング、体外診断薬、フローサイトメトリー、コンパニオン診断薬、光線力学療法などのバイオメディカル用途に使用するものであり、水溶性量子ドット、下記一般式(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)で表されるホスフィン化合物及び水からなるものである。
【化2】
(式中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~8のヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、メルカプトアルキル基又はシアノアルキル基を表す。)
【0019】
一般式(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)中のRで表される炭素数1~8のヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、メルカプトアルキル基又はシアノアルキル基のアルキルとしては、親水性の配位子の近傍に本発明の添加剤を安定的に存在させることのできる観点から、直鎖状又は分岐鎖状のアルキルが好ましく挙げられ、具体的にはメチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、2-メチルプロピル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチルが挙げられる。
【0020】
炭素数1~8の直鎖状又は分岐鎖状のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基、3-ヒドロキシプロピル基、4-ヒドロキシブチル基、5-ヒドロキシペンチル基、6-ヒドロキシヘキシル基、7-ヒドロキシヘプチル基、8-ヒドロキシオクチル基、3-ヒドロキシ-2-メチルプロピル基が挙げられる。炭素数1~8の直鎖状又は分岐鎖状のアミノアルキル基としては、アミノメチル基、2-アミノエチル基、3-アミノプロピル基、4-アミノブチル基、5-アミノペンチル基、6-アミノヘキシル基、7-アミノヘプチル基、8-アミノオクチル基、3-アミノ-2-メチルプロピル基が挙げられる。炭素数1~8の直鎖状又は分岐鎖状のメルカプトアルキル基としては、メルカプトメチル基、2-メルカプトエチル基、3-メルカプトプロピル基、4-メルカプトブチル基、5-メルカプトペンチル基、6-メルカプトヘキシル基、7-メルカプトヘプチル基、8-メルカプトオクチル基、3-メルカプト-2-メチルプロピル基が挙げられる。炭素数1~8の直鎖状又は分岐鎖状のシアノアルキル基としては、シアノメチル基、2-シアノエチル基、3-シアノプロピル基、4-シアノブチル基、5-シアノペンチル基、6-シアノヘキシル基、7-シアノヘプチル基、8-シアノオクチル基、3-シアノ-2-メチルプロピル基が挙げられる。これらの中、親水性の配位子の近傍に本発明の添加剤を安定的に存在させることのできる観点から、炭素数1~8、好ましくは炭素数1~5の直鎖状のヒドロキシアルキル基であることが好ましい。
【0021】
前記一般式(1)における複数のRは同一であっても異なっていてもよい。前記一般式(1)で表されるホスフィン化合物としては、Rが炭素数1~8、好ましくは炭素数1~5のヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、メルカプトアルキル基又はシアノアルキル基である。これらの中、親水性の配位子の近傍に存在して水溶性量子ドットの安定化により寄与できる観点から、Rは、同一であり、炭素数1~5のヒドロキシアルキル基であることが好ましい。このようなホスフィン化合物としては、トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィン、トリス(2-ヒドロキシエチル)ホスフィン、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン、トリス(4-ヒドロキシブチル)ホスフィン、トリス(5-ヒドロキシペンチル)ホスフィン等が挙げられる。
【0022】
前記一般式(1)で表されるホスフィン化合物は、公知の方法で製造することができる。例えば、ホスフィンにアルケンを付加することで得ることができる。また、前記一般式(1)で表されるホスフィン化合物は、市販品であってもよい。例えば、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン等は、日本化学工業株式会社から入手可能である。
【0023】
前記一般式(2)で表されるホスフィン化合物としては、Rが炭素数1~8、好ましくは炭素数2~6のヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、アミノアルキル基、メルカプトアルキル基又はシアノアルキル基である。これらの中、親水性の配位子の近傍に存在して水溶性量子ドットの安定化により寄与できる観点から、Rは、炭素数2~6のヒドロキシアルキル基であることが好ましい。このようなホスフィン化合物としては、1-(ヒドロキシメチル)ホスホラン、1-(2-ヒドロキシエチル)ホスホラン、1-(3-ヒドロキシプロピル)ホスホラン、1-(4-ヒドロキシブチル)ホスホラン、1-(5-ヒドロキシペンチル)ホスホラン等が挙げられる。
【0024】
前記一般式(2)で表されるホスフィン化合物は、公知の方法で製造することができる。例えば、ホスホランとアルケンを付加反応することで得ることができる。また、前記一般式(2)で表されるホスフィン化合物は、市販品であってもよい。
【0025】
前記一般式(3)で表されるホスフィン化合物としては、Rが炭素数1~8、好ましくは炭素数2~6のヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、アミノアルキル基、メルカプトアルキル基又はシアノアルキル基である。これらの中、親水性の配位子の近傍に存在して水溶性量子ドットの安定化により寄与できる観点から、Rは、炭素数2~6のヒドロキシアルキル基であることが好ましい。このようなホスフィン化合物としては、9-(ヒドロキシメチル)ホスファビシクロ[4.2.1]ノナン、9-(2-ヒドロキシエチル)ホスファビシクロ[4.2.1]ノナン、9-(3-ヒドロキシプロピル)ホスファビシクロ[4.2.1]ノナン、9-(4-ヒドロキシブチル)ホスファビシクロ[4.2.1]ノナン、9-(5-ヒドロキシペンチル)ホスファビシクロ[4.2.1]ノナン等が挙げられる。
【0026】
前記一般式(3)で表されるホスフィン化合物は、公知の方法で製造することができる。例えば、ホスファビシクロ[4.2.1]ノナンとアルケンを付加反応することで得ることができる。また、前記一般式(3)で表されるホスフィン化合物は、市販品であってもよい。
【0027】
前記一般式(4)で表されるホスフィン化合物としては、Rが炭素数1~8、好ましくは炭素数2~6のヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、メルカプトアルキル基又はシアノアルキル基である化合物が挙げられる。これらの中でも、親水性の配位子の近傍に存在して水溶性量子ドットの安定化により寄与できる観点から、Rは、炭素数2~6のヒドロキシアルキル基であることが好ましい。このようなホスフィン化合物としては、9-(ヒドロキシメチル)ホスファビシクロ[3.3.1]ノナン、9-(2-ヒドロキシエチル)ホスファビシクロ[3.3.1]ノナン、9-(3-ヒドロキシプロピル)ホスファビシクロ[3.3.1]ノナン、9-(4-ヒドロキシブチル)ホスファビシクロ[3.3.1]ノナン、9-(5-ヒドロキシペンチル)ホスファビシクロ[3.3.1]ノナン等が挙げられる。
【0028】
前記一般式(4)で表されるホスフィン化合物は、公知の方法で製造することができる。例えば、ホスファビシクロ[3.3.1]ノナンとアルケンを付加反応することで得ることができる。また、前記一般式(4)で表されるホスフィン化合物は、市販品であってもよい。
【0029】
前記一般式(5)で表されるホスフィン化合物は、ヘキサメチレンテトラミンの窒素原子の一つをリン原子で置き換えたものであり、具体的には1,3,5-トリアザ-7-ホスファアダマンタンである。前記一般式(5)で表されるホスフィン化合物は、公知の方法で製造することができる。例えば、トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィンとヘキサメチレンテトラミンを反応することで得ることができる。また、前記一般式(5)で表されるホスフィン化合物は、市販品であってもよく、例えばシグマアルドリッチ株式会社から入手可能である。
【0030】
本発明のバイオメディカル用途向け量子ドット分散液は、前記一般式(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)で表されるホスフィン化合物を含むものであるが、該ホスフィン化合物を水溶性量子ドットの分散液に添加すると、水溶性量子ドットの水中での安定性が優れたものとなる。この理由の一つとして、水溶性量子ドット表面に配位している親水性の官能基の近傍に前記ホスフィン化合物が存在することにより、親水性官能基への還元作用により酸化が抑えられるため、水中での量子ドットの挙動が安定したものになるのではないかと本発明者らは考えている。また、別の理由として、前記ホスフィン化合物が、直接、量子ドット表面に配位することにより、量子ドット自体の安定性が増すため、水中での量子ドットの挙動の安定性に繋がっているものと本発明者らは考えている。さらに、バイオメディカル用途向けであるため、細胞毒性が強いと使用することができないが、前記ホスフィン化合物は、水中での量子ドットの挙動が安定したものになるだけでなく、細胞毒性も低いため、バイオメディカル用途向けに使用することが可能である。
【0031】
本発明のバイオメディカル用途向け量子ドット分散液は、生体内での使用可能性に鑑みて、溶媒が水であることが特に好ましいが、使用上問題のない範囲で、メタノール、エタノール、2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、アセトン、アセトニトリル、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド及びテトラヒドロフラン等の水性溶媒を併用することもできる。
【0032】
前記バイオメディカル用途向け量子ドット分散液は、水溶性量子ドットの分散液に、前記一般式(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)で表されるホスフィン化合物を添加することで製造できる。
【0033】
水溶性量子ドットの分散液は、疎水性量子ドット分散液に親水性の配位子を加え、量子ドットの表面に結合している配位子を親水性の配位子に交換して、水溶性量子ドットを得る配位子交換工程、及び、前記水溶性量子ドットを水に分散して、水溶性量子ドットの分散液を得る分散工程により製造できる。
【0034】
前記一般式(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)で表されるホスフィン化合物は、水溶性量子ドットの表面に結合している親水性の配位子の近傍に存在することで、配位子の親水性官能基の酸化を抑制すること、及び量子ドット表面に直接配位することで、量子ドットの水中での安定性を向上させると考えられる。そのため、前記のようにして得られた水溶性量子ドットの分散液に添加することで、安定で量子収率に優れたバイオメディカル用途向け水溶性量子ドット分散液が得られる。
以下、バイオメディカル用途向け水溶性量子ドット分散液を製造する各工程について説明する。
【0035】
<疎水性量子ドット分散液>
前記疎水性量子ドット分散液は、溶媒中に疎水性量子ドットが分散してなるものであり、該疎水性量子ドットとは、表面に疎水性の配位子を有する量子ドットである。前記疎水性量子ドット分散液は、疎水性量子ドットを構成する元素からなる原料化合物を溶媒中で反応させて得られたものであってもよく、市販の疎水性量子ドットを溶媒中に分散したものであってもよい。
【0036】
前記分散液の溶媒は、非極性有機溶媒であることが好ましく、脂肪族炭化水素からなる溶媒がより好ましい。脂肪族炭化水素としては、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ドデカン、n-ヘキサデカン、n-オクタデカン等の飽和炭化水素;1-ウンデセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン等の不飽和脂肪族炭化水素が挙げられる。溶媒として用いる脂肪族炭化水素は1種でもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
前記疎水性量子ドットを構成する量子ドットとしては、CdSe、CdTe、CdS等のカドミウム系量子ドットや、InP、CuInS、ZnTeSe等のカドミウムフリー量子ドット等が挙げられる。本発明においては、コアの表面にシェルが形成されたコアシェル構造の量子ドットであることが好ましく、コアに少なくともリン源とインジウム源との反応により得られたInP系量子ドットを有し、シェルにInP系以外の被覆化合物を有するコアシェル構造の量子ドットであることが特に好ましい。
【0038】
前記疎水性量子ドットを構成する疎水性の配位子としては、カルボン酸誘導体、ホスフィン誘導体、アミン誘導体、ホスホン酸等が挙げられる。
【0039】
前記カルボン酸誘導体としては、分子中のアルキル基が炭素原子数2以上24以下の直鎖状のものが好ましく挙げられる。アルキル基が炭素原子数2以上24以下の直鎖状であるカルボン酸としては、具体的には、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、エライジン酸、オレイン酸、リノレン酸、エルカ酸が挙げられる。中でも、得られる疎水性量子ドットの品質向上の点で、分子中のアルキル基の炭素原子数が12以上20以下のものが特に好ましく、オレイン酸が最も好ましい。
【0040】
前記ホスフィン誘導体としては、1級以上3級以下のアルキルホスフィンであることが好ましく、分子中のアルキル基が炭素原子数2以上18以下の直鎖状のものが好ましく挙げられる。分子中のアルキル基は同一であっても異なっていてもよい。アルキル基が炭素原子数2以上18以下の直鎖状であるアルキルホスフィンとしては、具体的には、モノエチルホスフィン、モノブチルホスフィン、モノデシルホスフィン、モノヘキシルホスフィン、モノオクチルホスフィン、モノドデシルホスフィン、モノヘキサデシルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジブチルホスフィン、ジデシルホスフィン、ジヘキシルホスフィン、ジオクチルホスフィン、ジドデシルホスフィン、ジヘキサデシルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリデシルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリドデシルホスフィン、トリヘキサデシルホスフィンが挙げられる。中でも、得られる疎水性量子ドットの品質向上の点で、分子中のアルキル基の炭素原子数が4以上12以下のものが特に好ましく、トリアルキルホスフィンであるものが好ましく、トリオクチルホスフィンが最も好ましい。
【0041】
前記アミン誘導体としては、1級以上3級以下のアルキルアミンであることが好ましく、分子中のアルキル基が炭素原子数2以上18以下の直鎖状アルキルアミン、及び炭素原子数6以上12以下の芳香族アルキルアミンが好ましく挙げられる。分子中のアルキル基は同一であっても異なっていてもよい。アルキル基が炭素原子数2以上18以下の直鎖状であるアルキルアミンとしては、具体的には、モノエチルアミン、モノブチルアミン、モノデシルアミン、モノヘキシルアミン、モノオクチルアミン、モノドデシルアミン、モノヘキサデシルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジデシルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジドデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリデシルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリドデシルアミン、トリヘキサデシルアミンが挙げられる。アルキル基が炭素原子数6以上12以下の芳香族アルキルアミンとしては、具体的には、アニリン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、モノベンジルアミン、ジベンジルアミン、トリベンジルアミン、ナフチルアミン、ジナフチルアミン、トリナフチルアミンが挙げられる。
また、前記ホスホン酸としては、分子中のアルキル基が炭素原子数2以上18以下の直鎖状のアルキル基を有するモノアルキルホスホン酸が好ましい。
【0042】
本発明で用いる疎水性量子ドットがコアシェル構造を有するものである場合、シェルとして好適な被覆化合物としては、Al2O3、Ga2O3、SiO2、CdS、CdSe、CdSeS、CdTe、CdSeTe、CdTeS、ZnS、ZnSe、ZnSeS、ZnTe、ZnSeTe、ZnTeS、ZnO、ZnOS、ZnSeO及びZnTeO等が挙げられる。本発明においては、被覆化合物が少なくとも亜鉛源との反応により得られるものであることが好ましい。
【0043】
本発明で用いる疎水性量子ドット分散液は、公知の方法、例えば、特開2023-033157号公報に記載されている方法で製造することができる。
【0044】
<配位子交換工程>
前記配位子交換反応は、疎水性量子ドット分散液に親水性の配位子を加え、量子ドットの表面に結合している配位子を親水性の配位子に交換して、水溶性量子ドットを得る工程である。
【0045】
親水性の配位子としては、チオール類、アミン含有チオール類、アミン類、アルコール類、チオール含有アルコール類、セレノール類、ホスファイト類、ホスフィン酸類、ホスホン酸類、リン酸類、ホスフィンオキサイド類、ホスフィンスルフィド類、ホスフィンセレナイド類、カルボン酸類、チオール含有カルボン酸類、チオカルボン酸類、チオノカルボン酸類、ジチオカルボン酸類、スルフェン酸類、スルフィン酸類及びスルホン酸類等が挙げられる。これらの中でも、水溶性量子ドットの安定性、量子収率向上の観点から、チオール類、アミン含有チオール類、アミン類、アルコール類、チオール含有アルコール類、ホスホン酸類、カルボン酸類及びチオール含有カルボン酸類が好ましく、特にチオール含有カルボン酸類が好ましい。
【0046】
前記チオール含有カルボン酸としては、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオりんご酸、システイン、アセチルシステイン、ホモシステイン、ペニシラミン等が挙げられる。これらの中でも、量子ドットの水分散性、量子収率向上の観点から、チオグリコール酸、3-メルカプトプロピオン酸、システイン及びアセチルシステインが好ましく、3-メルカプトプロピオン酸がより好ましい。
【0047】
疎水性量子ドット分散液に親水性の配位子を加えるときの温度は、配位子の交換を首尾よく進める観点から、好ましくは0℃以上350℃以下、さらに好ましくは20℃以上300℃以下であり、処理時間は、好ましくは1分以上600分以下、さらに好ましくは5分以上240分以下である。また、配位子の添加量は、配位子の種類にもよるが、量子ドットを含む反応液に対して、0.01g/L以上100000g/L以下が好ましく、0.1g/L以上2000g/L以下がより好ましい。
【0048】
疎水性量子ドット分散液に親水性の配位子を加えるときの雰囲気は、不活性ガス雰囲気下、減圧下、又は真空下といった非酸化性雰囲気であることが、量子ドットの変性や酸化物の副生を防止できる観点から好ましい。前記非酸化性雰囲気としては、作業容易性の観点から、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
以上の工程により、水溶性量子ドットを含む分散液が得られる。
【0049】
次に、前記水溶性量子ドットを含む分散液から、水溶性量子ドットを分離する。分離方法としては、遠心分離、デカンテーション及び吸引ろ過等の一般的な方法が挙げられる。このとき、不要な疎水性の配位子を取り除くため、該配位子を溶解可能な溶媒を添加し、遠心分離等で水溶性量子ドットを分離する操作を複数回繰り返すことが好ましい。
以上の工程により、水溶性量子ドットが得られる。
【0050】
<分散工程>
前記分散工程は、前記水溶性量子ドットを水に分散して、水溶性量子ドットの分散液を得る工程である。
前記水溶性量子ドットは、そのまま水に分散することもできるが、例えば、親水性の配位子がチオールを含有するカルボン酸である場合、均一な分散液を得る観点から、これらを水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水又はテトラエチルアンモニウムヒドロキシド等と反応させ、カルボキシ基を塩の形態に変換してから水に分散することが好ましく、アンモニウム塩の形態に変換してから水に分散することが好ましい。
【0051】
また、分散工程を行う前の水溶性量子ドットは、副生成物や未反応の不純物を含んでいることもあるため、精製処理を施してもよい。この精製処理は、水溶性量子ドットを含む溶液に、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等の有機溶媒を添加して水溶性量子ドットを沈降させ、不純物を含んだ溶液と水溶性量子ドットとに分離し、分離した水溶性量子ドットを水に分散することで行うことができる。不純物を含んだ溶液と水溶性量子ドットとの分離は、遠心分離、デカンテーション、吸引ろ過等の操作により行うことができる。
以上の工程により、水溶性量子ドットの分散液が得られる。
【0052】
<バイオメディカル用途向け量子ドット分散液>
本発明のバイオメディカル用途向け量子ドット分散液は、得られた水溶性量子ドットの分散液に前記一般式(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)で表されるホスフィン化合物を添加することで製造できる。前記ホスフィン化合物を水溶性量子ドットの分散液に添加することで、前記ホスフィン化合物を容易に水溶性量子ドットに近接して配置することができるため、水溶性量子ドットの量子収率、安定性の向上効果を発揮し易くなる。前記ホスフィン化合物の添加量は、その種類にもよるが、前記分散液中の水溶性量子ドット1粒子に対して、10分子以上1,000,000分子以下が好ましく、100分子以上100,000分子以下がより好ましい。
【0053】
量子ドット粒子数は、例えば次の方法により求めることができる。透過電子顕微鏡測定によりコア及びコア/シェルそれぞれの平均粒子径rを求め、その形状を球形として4/3πr3よりコアの体積を求める。シェルはその半径4/3πr3から求めた体積から、その内部にあるコア、シェルの体積を差し引いて求める。求めたコア及びシェルの体積にその構成物質の密度を乗じて質量に換算し、これらを合わせることでコア/シェル量子ドット1粒子の質量mを求める。また、ICP測定によりコア/シェル量子ドットを構成する各元素の濃度を定量し、溶液1ml中に含まれる量子ドットの総質量Mを求める。量子ドット濃度(粒子数/ml)は、1ml当たりの総質量Mを1粒子当たり質量mで割ることにより求め、粒子数は量子ドット濃度と量子ドット溶液の液量から計算する。
【0054】
前記ホスフィン化合物の添加方法は特に制限されず、例えば、水溶性量子ドットの分散液に直接添加する方法、水に溶解又は分散した状態で添加する方法等が挙げられる。
以上の工程により、バイオメディカル用途向け量子ドット分散液が得られる。
【0055】
前記バイオメディカル用途向け量子ドット分散液においては、前記式(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)で表されるホスフィン化合物が水溶性量子ドットに近接又は配位して配置されている。すなわち、前記バイオメディカル用途向け量子ドット分散液は、水溶性量子ドット及び前記式(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)で表されるホスフィン化合物を含む複合量子ドットを水に分散したものである。
【0056】
前記複合量子ドットは、細胞毒性が低く、かつ水中での安定性、すなわち経時的な保存安定性及び耐光性が向上している。これにより該複合量子ドットは、生体内で量子ドットをマーカー物質として用いる際に、長期間に渡って安定的に優れた発光機能を活かすことを可能にする。
【実施例0057】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、例中の特性は以下の方法により測定した。
(1)発光スペクトル、極大蛍光波長、半値全幅(FWHM)及び量子収率(PLQY)
絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス(株)製、Quantaurus-QY)にて励起波長400nm、測定波長200~950nmの測定条件で、得られた量子ドットの水分散液を測定した。
【0058】
[合成例1] 橙色InP/ZnSe/ZnS量子ドットの合成
ミリスチン酸インジウム1.43gを、1-オクタデセン14.25gに加えて、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して1.5時間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して40℃まで冷却し、ミリスチン酸インジウムの1-オクタデセン溶液を得た。
得られたミリスチン酸インジウムの1-オクタデセン溶液を窒素雰囲気下、40℃とした状態で、10質量%のトリス(トリメチルシリル)ホスフィンを含有したトリオクチルホスフィン溶液2.51gを加え、10分間保持した後、20℃まで自然冷却した。これにより、InP量子ドット前駆体を含む黄色の液を得た。
【0059】
続いて、InP量子ドット前駆体溶液を280℃まで加熱することによりInP量子ドットの反応溶液を得た。
オレイン酸亜鉛7.54g、塩化亜鉛4.09g、トリオクチルホスフィンセレニド5.40g、トリオクチルホスフィン8.90g、オレイルアミン16.26g、ジオクチルアミン16.26gを200mL反応容器で混合し、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して30分間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して窒素雰囲気下で180℃まで昇温し、前記で得られたInP量子ドットの反応溶液18.19gを加え、230℃まで昇温して30分間保持した後、更に300℃に昇温して60分間保持することにより、コアにInP、シェルにZnSeを有するInP/ZnSe量子ドットのオレイルアミン/ジオクチルアミン分散液を得た。得られた分散液を240℃に冷却後、オレイン酸亜鉛7.54g、トリオクチルホスフィン7.54g、トリオクチルホスフィンスルフィド4.35gを注入し、90分間保持することにより、コアにInPを有し、シェルにZnSe及びZnSが積層されたマルチシェル型量子ドットのオレイルアミン/ジオクチルアミン分散液を得た。
【0060】
得られた分散液を室温まで冷却後、アセトン50gを加えて撹拌し、遠心分離によりInP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInP/ZnSe/ZnS量子ドットを、トルエン8.67gに懸濁してInP/ZnSe/ZnS量子ドットのトルエン分散液を得た。この分散液に更にアセトン50gを加えて撹拌し、遠心分離によりInP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInP/ZnSe/ZnS量子ドットをオクタン7.03gに懸濁して、精製InP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液を得た。得られた分散液の発光波長は586nmで橙色を呈していた。
【0061】
[合成例2] 赤色InP/ZnSe/ZnS量子ドットの合成
ミリスチン酸インジウム1.59gを、1-オクタデセン14.25gに加えて、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して1.5時間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して40℃まで冷却し、ミリスチン酸インジウムの1-オクタデセン溶液を得た。
得られたミリスチン酸インジウムの1-オクタデセン溶液を窒素雰囲気下、40℃とした状態で、10質量%のトリス(トリメチルシリル)ホスフィンを含有したトリオクチルホスフィン溶液2.51gを加え、10分間保持した後、20℃まで自然冷却した。これにより、InP量子ドット前駆体を含む黄色の液を得た。
【0062】
続いて、InP量子ドット前駆体溶液を280℃まで加熱することによりベースとなるInP量子ドットの反応溶液を得た。
別の反応容器にミリスチン酸インジウム2.39gを、1-オクタデセン21.37gに加えて、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して1.5時間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して40℃まで冷却し、ミリスチン酸インジウムの1-オクタデセン溶液を得た。
【0063】
得られたミリスチン酸インジウムの1-オクタデセン溶液を窒素雰囲気下、40℃とした状態で、10質量%のトリス(トリメチルシリル)ホスフィンを含有したトリオクチルホスフィン溶液3.76gを加え、10分間保持した後、20℃まで自然冷却した。これにより、InP量子ドット前駆体を含む黄色の液を得た。
先に調整したベースとなるInP量子ドットの反応溶液を260℃に再加熱し、新たに調整したInP量子ドット前駆体溶液を60分かけて添加することによりInP量子ドットの反応溶液を得た。
【0064】
オレイン酸亜鉛7.54g、塩化亜鉛4.09g、トリオクチルホスフィンセレニド5.40g、トリオクチルホスフィン8.90g、オレイルアミン16.26g、ジオクチルアミン16.26gを200mL反応容器で混合し、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して30分間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して窒素雰囲気下で180℃まで昇温し、前記で得られたInP量子ドットの反応溶液15.79gを加え、230℃まで昇温して30分間保持した後、更に300℃に昇温して60分間保持することにより、コアにInP、シェルにZnSeを有するInP/ZnSe量子ドットのオレイルアミン/ジオクチルアミン分散液を得た。得られた分散液を240℃に冷却後、オレイン酸亜鉛7.54g、トリオクチルホスフィン7.54g、トリオクチルホスフィンスルフィド4.35gを注入し、90分間保持することにより、コアにInPを有し、シェルにZnSe及びZnSが積層されたマルチシェル型量子ドットのオレイルアミン/ジオクチルアミン分散液を得た。
【0065】
得られた分散液を室温まで冷却後、アセトン50gを加えて撹拌し、遠心分離によりInP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInP/ZnSe/ZnS量子ドットを、トルエン8.67gに懸濁してInP/ZnSe/ZnS量子ドットのトルエン分散液を得た。この分散液に更にアセトン50gを加えて撹拌し、遠心分離によりInP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInP/ZnSe/ZnS量子ドットをオクタン7.03gに懸濁して、精製InP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液を得た。得られた分散液の発光波長は619nmで赤色を呈していた。
【0066】
[合成例3] 黄色InP/ZnSe/ZnS量子ドットの合成
ミリスチン酸インジウム1.20gを、1-オクタデセン3.56gに加えて、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して1.5時間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して40℃まで冷却し、ミリスチン酸インジウムの1-オクタデセン溶液を得た。
得られたミリスチン酸インジウムの1-オクタデセン溶液を窒素雰囲気下、40℃とした状態で、10質量%のトリス(トリメチルシリル)ホスフィンを含有したトリオクチルホスフィン溶液2.51gを加え、10分間保持した後、20℃まで自然冷却した。これにより、InP量子ドット前駆体を含む黄色の液を得た。
【0067】
続いて、InP量子ドット前駆体溶液を250℃まで加熱することにより、InP量子ドットの反応溶液を得た。
【0068】
オレイン酸亜鉛7.54g、塩化亜鉛4.09g、トリオクチルホスフィンセレニド5.40g、トリオクチルホスフィン8.90g、オレイルアミン16.26g、ジオクチルアミン16.26gを200mL反応容器で混合し、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して30分間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して窒素雰囲気下で180℃まで昇温し、前記で得られたInP量子ドットの反応溶液7.27gを加え、230℃まで昇温して30分間保持した後、更に300℃に昇温して60分間保持することにより、コアにInP、シェルにZnSeを有するInP/ZnSe量子ドットのオレイルアミン/ジオクチルアミン分散液を得た。得られた分散液を240℃に冷却後、オレイン酸亜鉛7.54g、トリオクチルホスフィン7.54g、トリオクチルホスフィンスルフィド4.35gを注入し、90分間保持することにより、コアにInPを有し、シェルにZnSe及びZnSが積層されたマルチシェル型量子ドットのオレイルアミン/ジオクチルアミン分散液を得た。
【0069】
得られた分散液を室温まで冷却後、アセトン50gを加えて撹拌し、遠心分離によりInP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInP/ZnSe/ZnS量子ドットを、トルエン8.67gに懸濁してInP/ZnSe/ZnS量子ドットのトルエン分散液を得た。この分散液に更にアセトン50gを加えて撹拌し、遠心分離によりInP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInP/ZnSe/ZnS量子ドットをオクタン7.03gに懸濁して、精製InP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液を得た。得られた分散液の発光波長は551nmで黄色を呈していた。
【0070】
[合成例4] 緑色InP/ZnSe/ZnS量子ドットの合成
ミリスチン酸インジウム1.20g、ミリスチン酸亜鉛0.16g、酢酸亜鉛0.06gを、1-オクタデセン14.25gに加えて、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して1.5時間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して40℃まで冷却し、ミリスチン酸インジウム亜鉛の1-オクタデセン溶液を得た。
得られたミリスチン酸インジウム亜鉛の1-オクタデセン溶液を窒素雰囲気下、40℃とした状態で、10質量%のトリス(トリメチルシリル)ホスフィンを含有したトリオクチルホスフィン溶液2.51gを加え、10分間保持した後、20℃まで自然冷却した。これにより、InP量子ドット前駆体を含む黄色の液を得た。
続いて、InP量子ドット前駆体溶液を250℃まで加熱することにより、InP量子ドットの反応溶液を得た。
【0071】
オレイン酸亜鉛7.54g、塩化亜鉛4.09g、トリオクチルホスフィンセレニド5.40g、トリオクチルホスフィン8.90g、オレイルアミン16.26g、ジオクチルアミン16.26gを200mL反応容器で混合し、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して30分間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して窒素雰囲気下で180℃まで昇温し、前記で得られたInP量子ドットの反応溶液18.18gを加え、230℃まで昇温して30分間保持した後、更に300℃に昇温して60分間保持することにより、コアにInP、シェルにZnSeを有するInP/ZnSe量子ドットのオレイルアミン/ジオクチルアミン分散液を得た。得られた分散液を240℃に冷却後、オレイン酸亜鉛7.54g、トリオクチルホスフィン7.54g、トリオクチルホスフィンスルフィド4.35gを注入し、90分間保持することにより、コアにInPを有し、シェルにZnSe及びZnSが積層されたマルチシェル型量子ドットのオレイルアミン/ジオクチルアミン分散液を得た。
【0072】
得られた分散液を室温まで冷却後、アセトン50gを加えて撹拌し、遠心分離によりInP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInP/ZnSe/ZnS量子ドットを、トルエン8.67gに懸濁してInP/ZnSe/ZnS量子ドットのトルエン分散液を得た。この分散液に更にアセトン50gを加えて撹拌し、遠心分離によりInP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInP/ZnSe/ZnS量子ドットをオクタン7.03gに懸濁して、精製InP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液を得た。得られた分散液の発光波長は539nmで緑色を呈していた。
【0073】
[実施例1]
(配位子交換工程)
合成例1で得られた橙色InP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液2ml、ヘキサデカン10mlを50ml二口ナスフラスコへ計量した。減圧下、撹拌しながら90℃に加熱して30分間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して窒素雰囲気下で220℃まで昇温し、3-メルカプトプロピオン酸4.0mlを加え、10分間保持することにより、配位子が3-メルカプトプロピオン酸に置換したInP/ZnSe/ZnS量子ドットを得た。160℃まで冷却後、オクタン40mlを加えて室温まで冷却した。上澄み液を除去し、ヘキサン30mlを加えて撹拌し、再び上澄み液を除去した。これを3回繰り返して固形物を得た。この固形物をエタノール5mlに懸濁させ、遠心分離によりInP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。
(分散工程)
回収したInP/ZnSe/ZnS量子ドットの沈殿物を、純水19ml、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド35%水溶液1mlに懸濁した後、遠心分離により不溶性不純物を取り除き、精製したInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液を得た。
このInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液に、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン40%水溶液0.1mlを添加した。得られた水分散液について、保存安定性及びpH耐性の各評価試験を行った。
【0074】
[実施例2]
合成例2で得られた赤色InP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液を使用すること以外は、実施例1と同じ操作を行い、精製した水溶性InP/ZnSe/ZnS量子ドットの水分散液を得た。
このInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液に、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン40%水溶液0.1mlを添加した。得られた水分散液について、保存安定性及びpH耐性の各評価試験を行った。
【0075】
[実施例3]
合成例4で得られた緑色InP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液を使用すること以外は、実施例1と同じ操作を行い、精製した水溶性InP/ZnSe/ZnS量子ドットの水分散液を得た。
このInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液に、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン40%水溶液0.1mlを添加した。得られた水分散液について、保存安定性、pH耐性及び光照射耐性の各評価試験を行った。
【0076】
[比較例1]
実施例1において、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン40%水溶液を加えなかったInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液について、保存安定性及びpH耐性の各評価試験を行った。
【0077】
[比較例2]
実施例2において、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン40%水溶液を加えなかったInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液について、保存安定性及びpH耐性の各評価試験を行った。
【0078】
[比較例3]
実施例3において、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン40%水溶液を加えなかったInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液について、保存安定性、pH耐性及び光照射耐性の各評価試験を行った。
【0079】
[比較例4]
実施例1において、InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液に、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン40%水溶液を添加する代わりに、リン酸トリメチル0.03mlを添加した。得られた水分散液について、保存安定性及びpH耐性の各評価試験を行った。
【0080】
[比較例5]
実施例1において、InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液に、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン40%水溶液を添加する代わりに、亜リン酸ジメチル0.02mlを添加した。得られた水分散液について、保存安定性及びpH耐性の各評価試験を行った。
【0081】
[評価1]
(1)保存安定性試験
実施例1~3及び比較例1~5について保存安定性試験を行った。
各実施例及び各比較例で得られた水溶性InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液0.006mlを2mlガラスバイアル瓶に入れ、純水1.2mlを混合して試験用溶液を得た。この試験用溶液を室温下の冷暗所に1週間静置し、その後の保存状態を目視にて確認した。また、UVライトの照射により発光強度の変化を目視にて確認した。その結果を表1に示す。
【0082】
(2)pH耐性試験
実施例1~3及び比較例1~5についてpH耐性試験を行った。
各実施例及び各比較例で得られた水溶性InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液0.05mlを1mlガラスバイアル瓶に入れ、表3に示す希釈液2mlを混合して試験用溶液を得た。これを室温下の冷暗所に1時間静置し、その後の保存状態を目視にて確認した。また、UVライトの照射により発光強度の変化を目視にて確認した。その結果を表2に示す。
【0083】
(3)光照射耐性試験
実施例3及び比較例3について光照射耐性試験を行った。
実施例3及び比較例3で得られた緑色水溶性InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液60μlを6mlガラスバイアル瓶に入れ、3.0mlの純水を混合して試験用溶液を得た。これらの試験用溶液に、100mW/cm
2の強度に調整した450nmの青色光を連続照射した。光源と同じ青色光は、検出器の手前でフィルターにてカットし、量子ドットに由来する蛍光強度の経時変化を測定した。その結果を
図1及び
図2に示す。
【0084】
【0085】
【0086】
表1の保存安定性試験の結果から、特定のホスフィン化合物を含む各実施例のInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液は、長期間、沈殿が形成せず、発光強度にも変化が無いことから保存安定性に優れていることが判る。また、表2のpH耐性試験の結果から、特定のホスフィン化合物を含む各実施例のInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液は、沈殿の形成が確認されず、発光強度も安定した強度を保てていることから、pHに関わらず安定した溶液の状態を保てていることが判る。
図1及び
図2の光照射耐性試験の結果から、
図2に示した比較例3の緑色水溶性InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液は、蛍光強度の低下が認められているのに対して、
図1に示した実施例3の緑色水溶性InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液は、励起光を連続照射した状態での蛍光強度の低下が抑えられていることから光照射耐性が向上していることが判る。
【0087】
[実施例4]
<InP/ZnSe/ZnS量子ドット及びトリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンを含有する培地の調製>
分散工程までは実施例2と同じ方法で行い、InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液を得た。このInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液150μlに、純水300μlを混合し、30kDaアミコンフィルターを用いて5,000×g、15分間の条件で遠心分離した。その後、アミコンフィルターを逆向きに装着して、再度、5,000×g、10分間の条件で遠心分離してInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液を回収した。回収したInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液13.89μl、純水66.11μlに、濃度5mg/mlのトリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン水溶液を混合し、アルミホイルで遮光して、4℃で24時間インキュベートし、InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液及びトリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン水溶液からなる試験溶液(InP/ZnSe/ZnS量子ドット濃度5μM、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン濃度1mg/ml)を得た。
次いで、37℃に設定された恒温槽で温めた培地(10 % FBS/ 1% Penicillin・Streptomycin/D-MEM(Low glucose))315μlに、
図3にプロットされている6種類のInP/ZnSe/ZnS量子ドット濃度とした前記試験溶液と純水の混合液35μlを添加し、InP/ZnSe/ZnS量子ドット及びトリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンを含有する培地を調製した。
<細胞への処理>
96穴プレートの各ウェルに培地(10 % FBS/ 1% Penicillin・Streptomycin/D-MEM(Low glucose))を50μl添加し、37℃、5%CO2環境下のインキュベーター内で30分間保管した後、前記プレートの各ウェルにNIH-3T3細胞(1×105cells/ml)を50μl播種した。37℃、5%CO
2の条件下で24時間インキュベートした後、上清を除き、新鮮培地及び前記InP/ZnSe/ZnS量子ドット及びトリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンを含有する培地(6種類)に交換し、さらに、37℃、5%CO
2の条件下で24時間インキュベートした。新鮮培地に交換したものをコントロールウェル、InP/ZnSe/ZnS量子ドット及びトリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンを含有する培地に交換したものをサンプルウェル1~6とした。
【0088】
[比較例6]
<InP/ZnSe/ZnS量子ドットを含有する培地の調製>
分散工程までは実施例2と同じ方法で行い、InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液を得た。このInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液150μlに、純水300μlを混合し、30kDaアミコンフィルターを用いて5,000×g、15分間の条件で遠心分離した。その後、アミコンフィルターを逆向きに装着して、再度、5,000×g、10分間の条件で遠心分離してInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液を回収した。回収したInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液13.89μlに純水86.11μlを混合し、アルミホイルで遮光して、4℃で24時間インキュベートし、InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液からなる試験溶液(InP/ZnSe/ZnS量子ドット濃度7.88μM)を得た。
次いで、37℃に設定された恒温槽で温めた培地(10 % FBS/ 1% Penicillin・Streptomycin/D-MEM(Low glucose))350μlに、
図3にプロットされている7種類のInP/ZnSe/ZnS量子ドット濃度とした前記試験溶液と純水の混合液35μlを添加し、InP/ZnSe/ZnS量子ドットを含有する培地を調製した。
<細胞への処理>
96穴プレートの各ウェルに培地(10 % FBS/ 1% Penicillin・Streptomycin/D-MEM(Low glucose))を50μl添加し、37℃、5%CO
2環境下のインキュベーター内で30分間保管した後、前記プレートの各ウェルにNIH-3T3細胞(1×10
5cells/ml)を50μl播種した。37℃、5%CO
2の条件下で24時間インキュベートした後、上清を除き、新鮮培地及び前記InP/ZnSe/ZnS量子ドットを含有する培地(7種類)に交換し、さらに、37℃、5%CO
2の条件下で24時間インキュベートした。新鮮培地に交換したものをコントロールウェル、InP/ZnSe/ZnS量子ドットを含有する培地に交換したものをサンプルウェル1~7とした。
【0089】
[評価2]
(1)毒性試験
実施例4及び比較例6について、細胞生存率を算出することにより毒性試験を行った。
バックグラウンド測定用に細胞が播種されていないウェルに新鮮培地100μlを添加した。前記コントロールウェル及びサンプルウェルの上清を取り除き、新鮮培地100μlを加えた。この手順を2回繰り返した後、上清を除去し新鮮培地100μlを添加した。その後、全ての測定ウェルに5-{2,4-bis[(sodiooxy)sulfonyl]phenyl}-2-(2-methoxy-4-nitrophenyl)-3-(4-nitrophenyl)-3H-1,2λ5,3,4-tetrazol-2-ylium溶液(CCK-8溶液、(株)同仁化学研究所、343-07623)を10μlずつ添加し、37℃、5%CO
2の条件下で2時間インキュベートした。マイクロプレートリーダー(Thermo Fisher社製、Varioskan VLBL00GD2)を用いて、各ウェルのホルマザンの吸収帯である450nmにおける吸光度を測定した。コントロールウェル及びサンプルウェルの吸光度と、バックグラウンドウェルの吸光度の差をとり、コントロールウェルに対するサンプルウェルの比を百分率に変換し、各ウェルの細胞生存率を算出した。なお、各条件3ウェルの結果から標準偏差を算出した。結果を
図3に示す。
【0090】
毒性試験の結果、
図3からも明らかなように、特定のホスフィン化合物を含む実施例4の方が比較例6と比べて細胞生存率が高く、細胞毒性が低いことが判る。
【0091】
[実施例5]
<InP/ZnSe/ZnS量子ドット及びトリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンからなる試験溶液の調製>
分散工程までは実施例2と同じ方法で行い、InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液を得た。このInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液150μlに、純水300μlを混合し、30kDaアミコンフィルターを用いて5,000×g、15分間の条件で遠心分離した。その後、アミコンフィルターを逆向きに装着して、再度、5,000×g、10分間の条件で遠心分離してInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液を回収した。回収したInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液13.89μl、純水66.11μlに、濃度5mg/mlのトリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン水溶液を混合し、アルミホイルで遮光して、4℃で24時間インキュベートし、InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液及びトリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン水溶液からなる混合溶液(InP/ZnSe/ZnS量子ドット濃度5μM、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン濃度1mg/ml)を得た。この混合溶液を、懸濁をしながら超音波処理を実施し、凝集した量子ドットを除去するために0.22μmのシリンジフィルターに通した後、混合溶液19.61μlに1mg/mlのトリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン水溶液30.39μlを添加し、InP/ZnSe/ZnS量子ドット及びトリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンからなる試験溶液(InP/ZnSe/ZnS量子ドット濃度1μM、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン濃度1mg/ml)を得た。
<抗体修飾>
得られた試験溶液5μlを1分間超音波処理し、ここに1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC、濃度0.1mg/ml)及びトリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン(濃度0.1mg/ml)の水溶液3.84μl、純水8.86μlを混合して、アルミホイルで遮光し、室温で15分間、撹拌した。得られた混合水溶液に、N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS、濃度0.1mg/ml)及びトリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン(濃度0.1mg/ml)の水溶液2.3μlを添加し、懸濁して、アルミホイルで遮光し、室温で15分間、撹拌した。事前に0.22μmのタンパク質低吸着性シリンジフィルターを通した抗EGFR抗体溶液を、InP/ZnSe/ZnS量子ドットに対して10当量となるように添加し、溶液の全量が50μlとなるようにリン酸緩衝溶液(10mM、pH7.6)を加え、アルミホイルで遮光し、室温で2時間、撹拌した。得られた試験溶液に、0.1mg/mlのトリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン水溶液400μlを加え、全量を450μlとした。得られた試験溶液を、30kDaアミコンフィルターを用いて5,000×g、15分間の条件で遠心分離して、EDCとNHSを除去した後、アミコンフィルターを逆向きに装着して5,000×g、10分間の条件で遠心分離して、抗EGFR抗体修飾溶液(InP/ZnSe/ZnS量子ドット濃度100nM、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン0.1mg/ml)を回収した。1分間超音波処理した後、アルミホイルで遮光し、4℃で保存した。
<細胞への処理>
マルチウェルガラスボトムディッシュ(松浪硝子工業株式会社製、D141400)に培地(10 % FBS/ 1% Penicillin・Streptomycinを含むD-MEM(Low glucose))を100μl添加し、これにA431細胞を懸濁した培地(6×105cells/ml)を100μl加えることで、細胞を播種した。また、培地の蒸発を抑制するために、600μlの1×PBS(-)をウェルの外側に添加した。播種後、37℃、5%CO2の条件下で24時間インキュベートした後、上清を除き、培地125μlに前記抗EGFR抗体修飾溶液25μlを添加した培地をウェルに添加した。その後、37℃、5%CO2の条件下で4時間インキュベートした後、上清を除き、新たに培地を加えて除去する手順を3回繰り返した後、培地200μlを添加し、観察用サンプルを得た。
【0092】
[実施例6]
<InP/ZnSe/ZnS量子ドットからなる試験溶液の調製>
分散工程までは実施例2と同じ方法で行い、InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液を得た。このInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液150μlに、純水300μlを混合し、30kDaアミコンフィルターを用いて5,000×g、15分間の条件で遠心分離した。その後、アミコンフィルターを逆向きに装着して、再度、5,000×g、10分間の条件で遠心分離してInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液を回収した。回収したInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液13.89μlに純水66.11μlを混合し、アルミホイルで遮光して、4℃で24時間インキュベートし、InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液からなる溶液(InP/ZnSe/ZnS量子ドット濃度5μM)を得た。この溶液を、懸濁をしながら超音波処理を実施し、凝集した量子ドットを除去するために0.22μmのシリンジフィルターに通した後、該溶液20.08μlに純水29.92μlを添加し、InP/ZnSe/ZnS量子ドットからなる試験溶液(InP/ZnSe/ZnS量子ドット濃度1μM)を得た。
<抗体修飾>
得られた試験溶液5μlを1分間超音波処理し、ここに1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC、濃度0.1mg/ml)水溶液3.84μl、純水8.86μlを混合して、アルミホイルで遮光し、室温で15分間、撹拌した。得られた試験溶液に、N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS、濃度0.1mg/ml)水溶液2.3μlを添加し、懸濁して、アルミホイルで遮光し、室温で15分間、撹拌した。事前に0.22μmのタンパク質低吸着性シリンジフィルターを通した抗EGFR抗体溶液を、InP/ZnSe/ZnS量子ドットに対して10当量となるように添加し、溶液の全量が50μlとなるようにリン酸緩衝溶液(10mM、pH7.6)を加え、アルミホイルで遮光し、室温で2時間、撹拌した。得られた試験溶液に、純水400μlを加え、全量を450μlとした。得られた試験溶液を、30kDaアミコンフィルターを用いて5,000×g、15分間の条件で遠心分離して、EDCとNHSを除去した後、アミコンフィルターを逆向きに装着して5,000×g、10分間の条件で遠心分離して、抗EGFR抗体修飾溶液(InP/ZnSe/ZnS量子ドット濃度100nM)を回収した。1分間超音波処理した後、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンを終濃度0.1mg/mlとなるように添加後、懸濁し、抗EGFR抗体修飾溶液(InP/ZnSe/ZnS量子ドット濃度100nM、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン0.1mg/ml)を得た。得られた抗EGFR抗体修飾溶液をアルミホイルで遮光し、4℃で保存した。
<細胞への処理>
マルチウェルガラスボトムディッシュ(松浪硝子工業株式会社製、D141400)に培地(10 % FBS/ 1% Penicillin・Streptomycinを含むD-MEM(Low glucose))を100μl添加し、A431細胞を懸濁した培地(6×105cells/ml)を100μl加えることで、細胞を播種した。また、培地の蒸発を抑制するために、600μlの1×PBS(-)をウェルの外側に添加した。播種後、37℃、5%CO2の条件下で24時間インキュベートした後、上清を除き、培地125μlに前記抗EGFR抗体修飾溶液25μlを添加した培地をウェルに添加した。その後、37℃、5%CO2の条件下で4時間インキュベートした後、上清を除き、新たに培地を加えて除去する手順を3回繰り返した後、培地200μlを添加し、観察用サンプルを得た。
【0093】
[比較例7]
実施例13の<抗体修飾>において、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンを添加しなかったこと以外は、実施例6と同じ操作を行い、観察用サンプルを得た。
【0094】
[評価3]
(1)共焦点レーザー顕微鏡での観察
実施例5、実施例6及び比較例7について、共焦点レーザー顕微鏡により、蛍光強度を観察した。
共焦点レーザー顕微鏡(カールツァイス社製、LSM800)により、405nmレーザーで抗EGFR抗体修飾InP/ZnSe/ZnS量子ドットを励起し、以下の観察条件に設定して20倍対物レンズで観察した。その結果を
図4に示す。
〔観察条件〕
Laser power 2%
Detector power 850V
Scan speed 5
Averaging 16
Threshold 50
(2)輝度の解析
実施例5、実施例6及び比較例7について、輝度の解析を行った。
画像解析ソフトImageJ(https://imagej.nih.gov/ij/)を使用し、細胞が存在する領域内の平均輝度を算出した結果を表3に示す。
【0095】
【0096】
表3に示した輝度の解析の結果から、特定のホスフィン化合物を含む実施例5及び実施例6は、添加剤の添加タイミングによらず、同程度の高い平均輝度を示した。一方で、比較例7の平均輝度は低いものとなっている。また、
図4に示すように、共焦点レーザー顕微鏡による観察像でも、実施例5及び実施例6で高い輝度を示していることが判る。