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特開2025-36276コンクリート組成物及びコンクリート硬化体並びにコンクリート補強材
<図1>
  • 特開-コンクリート組成物及びコンクリート硬化体並びにコンクリート補強材 図1
  • 特開-コンクリート組成物及びコンクリート硬化体並びにコンクリート補強材 図2
  • 特開-コンクリート組成物及びコンクリート硬化体並びにコンクリート補強材 図3
  • 特開-コンクリート組成物及びコンクリート硬化体並びにコンクリート補強材 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025036276
(43)【公開日】2025-03-14
(54)【発明の名称】コンクリート組成物及びコンクリート硬化体並びにコンクリート補強材
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20250306BHJP
   C04B 18/26 20060101ALI20250306BHJP
   C04B 16/06 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B18/26
C04B16/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024146141
(22)【出願日】2024-08-28
(31)【優先権主張番号】P 2023141894
(32)【優先日】2023-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】507234438
【氏名又は名称】広島県公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】519463709
【氏名又は名称】株式会社後藤商店
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100128277
【弁理士】
【氏名又は名称】專徳院 博
(72)【発明者】
【氏名】三苫 好治
(72)【発明者】
【氏名】後藤 茂行
(72)【発明者】
【氏名】榊原 圭太
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 靖子
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA24
4G112PA34
4G112PC12
(57)【要約】
【課題】短期間内に機械的強度を向上させることができるコンクリート組成物及びそのコンクリート硬化体、並びに安価に製造可能であり短期間内に機械的強度を向上させることができるコンクリート補強材を提供する。
【解決手段】脱脂された繊維状の木質解繊物を含むコンクリート組成物であり、木質解繊物には、有機溶剤で脱脂したおがくずを湿式解繊し、湿式解繊物をデカンテーションし得られる上澄み液に含まれるおがくずの解繊物を使用可能であり、木質解繊物を水に懸濁した懸濁液とし、混練水の一部として添加することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱脂された繊維状の木質解繊物を含むコンクリート組成物。
【請求項2】
前記木質解繊物が、有機溶剤で脱脂されたおがくずの解繊物である請求項1に記載のコンクリート組成物。
【請求項3】
前記木質解繊物が、有機溶剤で脱脂したおがくずを湿式解繊し、湿式解繊物をデカンテーションし得られる上澄み液に含まれるおがくずの解繊物である請求項1に記載のコンクリート組成物。
【請求項4】
前記木質解繊物が、水に懸濁した懸濁液の形態を有し、
前記懸濁液が、混練水の一部として添加されている請求項1又は2に記載のコンクリート組成物。
【請求項5】
前記コンクリート組成物が、即時脱型用コンクリート組成物である請求項1又は2に記載のコンクリート組成物。
【請求項6】
脱脂された繊維状の木質解繊物を含むコンクリート硬化体。
【請求項7】
脱脂された繊維状の木質解繊物からなるコンクリート補強材。
【請求項8】
前記木質解繊物が、有機溶剤で脱脂されたおがくずの解繊物である請求項7に記載のコンクリート補強材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート組成物及びコンクリート硬化体並びにコンクリート補強材に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの即時脱型方法は、極めて少量の水で混練したコンクリート(コンクリート組成物)を製品用型枠に投入し、振動締め固め後、直ちに脱型・養生し、コンクリート製品を製造する方法であり、インターロッキングブロックなど安価で大量生産される製品の製造に利用される。
【0003】
コンクリートの即時脱型方法は、混錬水量が極めて少ないため流動性が低下し、これにともない充填性が悪くなる。このため緻密で高強度のコンクリート製品を得難く、さらに表面が粗面となりやすい。これらの課題を解決するために二酸化珪素を主成分とし酸化ジルコニウムを含む微粒子からなる粉体と、硫酸カルシウムの粉体とをセメントに対して特定の割合で添加する方法(例えば特許文献1参照)、フライアッシュの粗粒分を特定の割合で添加する方法などが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-42518号公報
【特許文献2】特開2002-53361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
即時脱型方法によるコンクリート製品の製造においては、製造プロセスの特性上、短期間内に強度を向上させることが好ましい。これまでコンクリート製品の強度向上について多くの取り組みがなされているが、短期間内に強度を向上させることについての取り組みは少ない。
【0006】
本発明の目的は、短期間内に機械的強度を向上させることができるコンクリート組成物及びそのコンクリート硬化体、並びに安価に製造可能であり短期間内に機械的強度を向上させることができるコンクリート補強材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、脱脂された繊維状の木質解繊物を含むコンクリート組成物である。
【0008】
本発明に係るコンクリート組成物において、前記木質解繊物が、有機溶剤で脱脂されたおがくずの解繊物である。
【0009】
本発明に係るコンクリート組成物において、前記木質解繊物が、有機溶剤で脱脂したおがくずを湿式解繊し、湿式解繊物をデカンテーションし得られる上澄み液に含まれるおがくずの解繊物である。
【0010】
本発明に係るコンクリート組成物において、前記木質解繊物が、水に懸濁した懸濁液の形態を有し、前記懸濁液が、混練水の一部として添加されている。
【0011】
本発明に係るコンクリート組成物が、即時脱型用コンクリート組成物である。
【0012】
本発明は、脱脂された繊維状の木質解繊物を含むコンクリート硬化体である。
【0013】
本発明は、脱脂された繊維状の木質解繊物からなるコンクリート補強材である。
【0014】
本発明に係るコンクリート補強材において、前記木質解繊物が、有機溶剤で脱脂されたおがくずの解繊物である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、短期間内に機械的強度を向上させることができるコンクリート組成物及びそのコンクリート硬化体、並びに安価に製造可能であり短期間内に機械的強度を向上させることができるコンクリート補強材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のコンクリート硬化体のSEM写真及びEDSによる炭素検出を示す写真である。
図2】本発明のコンクリート硬化体のSEM写真及びEDSによる炭素検出を示す写真である。
図3】本発明のコンクリート硬化体のSEM写真及びEDSによる炭素検出を示す写真である。
図4】本発明のコンクリート硬化体のSEM写真及びEDSによる炭素検出を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るコンクリート組成物は、脱脂された繊維状の木質解繊物が添加、混錬されたコンクリート組成物である。本発明に係るコンクリート組成物におけるベースとなるコンクリート組成物は特に限定されるものではないが、代表的にはセメント、細骨材、粗骨材、混和剤、水を含んでなるコンクリート組成物である。ここで使用されるセメント、細骨材、粗骨材、混和剤も特に限定されるものではない。
【0018】
以下、脱脂された繊維状の木質解繊物及び本発明に係るコンクリート組成物の製造要領を説明する。
【0019】
本発明に係るコンクリート組成物で使用する脱脂された繊維状の木質解繊物は、代表的には、有機溶剤で脱脂され湿式解繊されたおがくずの解繊物(以下、おがくず解繊物)である。おがくずの樹種は、特に限定されるものではない。一種類のおがくずからなるものであってもよく、2種類以上のものが混合されたものであってもよい。製材所等から発生するおがくずを使用すれば廃棄物の有効利用が図れる。
【0020】
おがくずは、樹脂を含有している。このためおがくずをそのまま使用すると水とのエマルジョン化により、二次凝集物を局所的に作り、結果、コンクリートの緻密化が低下し強度向上につながらない可能性がある。そこで本発明では、おがくずを脱脂して使用する。具体的には、おがくずに有機溶剤、例えばトルエンを加え、おがくずに含まれる油分を抽出する。以下、具体的な要領を示す。
【0021】
ソックスレー抽出器を用いたおがくずの脱脂方法を説明する。溶媒にトルエンとエタノールの混合溶媒(トルエン:エタノール=9:1(容積比))を用い、円筒ろ紙におがくずを入れ、混合溶媒を加熱する。これによりおがくずはエタノールで脱水され、その後トルエンにより油分が抽出される。脱脂の完了は、ソックスレー抽出器の残渣液を採取し、TLCプレートに滴下の後、UV照射にてスポットの有無を確認することで行うことができる。
【0022】
撹拌機を用いたおがくずの脱脂方法を説明する。おがくずにメタノールを加え、これを撹拌混合し、おがくずを脱水する。脱水したおがくずにトルエンを加え、これを撹拌混合し、おがくず中の油分を抽出する。脱水操作及び抽出操作は、室温下で行うことができる。脱脂の完了は、トルエンとおがくずとの混合物をろ過し、ろ液を採取し、TLCプレートに滴下の後、UV照射にてスポットの有無を確認することで行うことができる。スポットが消失するまでトルエンによる抽出操作を継続する。
【0023】
脱脂されたおがくずにはトルエンが含まれているため、解繊処理に先立ちエタノールを加え、脱脂されたおがくずに含まれるトルエンを除去するのがよい。トルエンを除去することでおがくずと水とが接触しやすくなる。脱脂されたおがくずに含まれるトルエンの除去方法は、他の方法であってもよい。上記ソックスレー抽出器を用いたおがくずの脱脂方法及び撹拌機を用いたおがくずの脱脂方法において、おがくずが乾燥している場合には、メタノールによる脱水操作は省略してもよい。また脱水操作にはエタノールを用いてもよい。
【0024】
以上、おがくずの脱脂方法を2つ説明したが、おがくずの脱脂方法はこれに限定されるものではない。おがくずの脱脂方法は、おがくずに含まれる油分を除去できればよく、安価な脱脂方法が好ましい。
【0025】
脱脂されたおがくずは、乾燥した後、水を加え、これを湿式ボールミルで解繊処理しおがくず解繊物とする。おがくずを解繊処理する装置は、湿式ボールミル以外の装置であってもよい。また脱脂されたおがくずの乾燥操作は、必須ではなくトルエン除去に使用したエタノールで湿ったおがくずを解繊処理してもよい。湿式ボールミルの処理物であるおがくず解繊物を含む水は、デカンテーションし上澄み液と沈殿物とに分離する。この上澄み液には、脱脂された繊維状のおがくず解繊物が含まれ、この懸濁液(上澄み液)をコンクリート組成物の混練水の一部として使用する。
【0026】
デカンテーションにより分離した脱脂されたおがくずの沈殿物は、水を加え、これを湿式ボールミルでさらに解繊処理することでおがくず解繊物とすることができる。これについてもデカンテーションにより、脱脂された繊維状のおがくず解繊物が含まれる懸濁液を得ることでコンクリート組成物の混練水の一部として使用することができる。
【0027】
上記要領で得られる懸濁液に含まれる繊維状の木質解繊物は、平均径がミクロンサイズのものが好ましい。後述の実施例に記載のとおり上記要領で得られる懸濁液に含まれる繊維状の木質解繊物の大きさは凡そ、長さが数十μm~3mm、径が0.1μm~1mmであり、顕微鏡観察の結果、太い繊維に小さい繊維が無数に付着し、また太い繊維が多数に枝分かれし、途中でちぎれた繊維、また数ミクロンから数十ミクロンの繊維が絡み合っている様子が見られた。この絡みは、面ファスナのフックのような機能を有することが期待できる。
【0028】
木質解繊物をナノサイズまで微細化させると歩留まりも低下し、製造コストも高くなる。コンクリート組成物は、アルカリ成分を多く含有しており、pHが12~13程度と非常に強いアルカリ性を示す。セルロースは、本来、アルカリ性への耐性を有するが、セルロースのサイズが小さい場合や強アルカリ状態に晒されると分解する可能性がある。このため本発明に係るコンクリート組成物で使用する繊維状の木質解繊物は、コンクリート中の水酸化カルシウムによる加水分解への耐性を考慮し、ナノサイズよりも大きいミクロンサイズのものを使用する。
【0029】
コンクリート組成物の製造において、ミクロンサイズの繊維物を均一に分散させることは容易ではない。極めて少量の水で混練する即時脱型のコンクリート組成物の場合は、均一分散がより難しくなる。これに対して本発明に係るコンクリート組成物の製造では、脱脂された繊維状の木質解繊物は、水に分散した懸濁液として与えることができる。脱脂された繊維状の木質解繊物を水に分散した懸濁液とし、これをコンクリート組成物の混練水の一部として加えれば、繊維状の木質解繊物をコンクリート組成物に均一分散させることができる。
【0030】
後述の実施例のように脱脂された繊維状の木質解繊物の濃度が1.65g/Lである懸濁液を、混練水として60重量%加えたコンクリート組成物の硬化体Aは、脱脂された繊維状の木質解繊物を加えなかったコンクリート組成物の硬化体Bに比較して、材齢7日における圧縮強度が約1.15倍向上した。
【0031】
おがくずの性状、湿式解繊処理要領によっては、湿式解繊処理後デカンテーションにより分離した脱脂したおがくずの沈殿物も、本発明に係る木質解繊物となり得る。これについては実施例の即時脱型コンクリートの調整(その2)に実験結果を示した。
【0032】
以上のとおり、本発明に係るコンクリート組成物を硬化させてなる硬化体は、脱脂した繊維状の木質解繊物を含まないコンクリート硬化体に比較して短期間内に機械的強度が向上する。換言すれば脱脂した繊維状の木質解繊物は、早期に機械的強度を向上させるコンクリート補強材といえる。本発明に係るコンクリート組成物を硬化させてなる硬化体は、早期に機械的強度が上昇するので即時脱型コンクリートに適している。
【0033】
本発明に係るコンクリート組成物の硬化体が、早期に機械的強度が上昇する理由は明確ではないが、脱脂された繊維状の木質解繊物が親水性を有することでセメント材料との馴染みが向上し、繊維材の添加効果がより効果的に発揮されたものと考えられる。
【0034】
本発明に係るコンクリート組成物の硬化体は、強度が高まるので同一強度のコンクリートであればセメント使用量を低減させることが可能でありコストダウンにつながる。また本発明に係るコンクリート組成物で使用する脱脂した繊維状の木質解繊物は、おがくずを原料とすることができるためおがくずの有効利用、廃棄物の削減にもつながる。またおがくずを脱脂した繊維状の木質解繊物の原料とすることで、脱脂した繊維状の木質解繊物を安価に製造することができる。なお、脱脂した繊維状の木質解繊物の原料は、おがくず以外のものであってもよい。
【0035】
当業者であれば、本明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更及び修正を容易に想定するであろう。従って、そのような変更及び修正は、特許請求の範囲から定まる発明の範囲内のものと解釈される。また本発明は、後述の実施例に限定されるものではない。
【実施例0036】
<脱脂した繊維状の木質解繊物の調製>
メタノールで脱水したおがくずに50mLのトルエンを加え、マグネチックスターラを用い1時間撹拌し脱脂した。その後、ろ紙を用いてろ過を行い、脱脂したおがくずを得た。脱脂したおがくずに50mLのエタノールを加え、マグネチックスターラで撹拌混合し、脱脂したおがくずに含まれるトルエンを除去した。その後、おがくずを含むエタノール溶液をろ過し、ろ液をキャピラリーにより抽出し、TLCプレートに滴下した。風乾後、UV照射によりスポットの確認を行い、スポットが消失するまで脱脂操作を継続して実施した。
【0037】
脱脂したおがくずは、約3時間真空乾燥させた後に水を加え、ボールミルにセラミック製のボールを10個入れ、正転、逆転を繰り返しながら24時間湿式解繊を行った。湿式解繊物は、静置後、デカンテーションにより上澄み液(懸濁液)を回収した。一方、スラリー状の沈殿物は、更なる解繊を目指し水を加え、再度24時間湿式解繊した。得られた湿式解繊物は、静置後、デカンテーションにより上澄み液(懸濁液)を回収した。
【0038】
13種類の懸濁液について、各々PTFEメンブレンフィルターを用いてろ過し、乾燥させた後に固形分濃度を求めたところ0.3~1.65g/Lであった。また懸濁液中の固形分について、透過・反射兼用金属顕微鏡に顕微鏡モニターカメラを設置し、解繊物の画像を撮影し大きさを測定した。測定の結果、解繊物の長さは凡そ数十μm~3mm、径は凡そ0.1μm~1mmであった。また顕微鏡観察の結果、太い繊維に小さい繊維が無数に付着し、また太い繊維が多数に枝分かれし、途中でちぎれた繊維、また数ミクロンから数十ミクロンの繊維が絡み合っている様子が見られた。この絡みは、面ファスナのフックのような機能を有することが期待できる。
【0039】
<即時脱型コンクリートの調製(その1)>
配合設計に使用する原材料を表1に示した。原材料には、表1に示すように普通セメント、細骨材(砕砂)、粗骨材(7号)、混和剤(マイティ)を用いた。
【0040】
【表1】
【0041】
懸濁液には、上記要領で製造した、脱脂した繊維状の木質解繊物を1.65g/L含むものを使用し、懸濁液の添加量を水比60%とした。懸濁液の液体は水であるから懸濁液は懸濁水と換言できる。ここで水比は、混錬に使用する水と懸濁水との合算値に対する懸濁水の重量割合であり、水比60%は、混錬に使用する水の割合が40wt%、懸濁水の割合が60wt%である。
【0042】
セメント432.0g,7号砕石(粗骨材)1662.1g,砕砂(細骨材)411.5g,混和材4.3g,水58.3g,懸濁液87.5gを準備し、まずセメントと細骨材とを撹拌混合した。これに粗骨材を加え十分に撹拌混合した後に、混和材、懸濁液、水を順次加え、十分に混練し、即時脱型用のコンクリート組成物を得た。
【0043】
以下の要領で強度試験用のコンクリート硬化体(試験体)を得た。テーブル型振動締固め機に試験体型枠を6個セットし、得られたコンクリート組成物を型枠に約1/2まで充填し、突き棒で十分に突いた後、約2分間振動を与えた。これを3回繰り返し、試験体を得た。一晩、自然養生を行った後、翌日に脱型を行い、その後所定期間自然養生を実施し、圧縮強度用の試験体(コンクリート硬化体)を3本得た。圧縮強度用の試験体は、50φ×100mm(試験体)の円柱形状である。試験体についてJIS A 1108に準拠した圧縮強度試験を行い、強度を測定した。
【0044】
同じ要領で懸濁液を使用しない即時脱型用のコンクリート組成物及びその硬化体を得た。懸濁液を使用しない即時脱型用のコンクリート組成物の場合、懸濁液の代わりに懸濁液と同じ重量の水を添加した。
【0045】
養生期間を変えて材齢の異なる試験体を得た。懸濁液を添加したコンクリート組成物及びその硬化体を実施例、懸濁液を添加していないコンクリート組成物及びその硬化体を比較例とした。材齢7日の試験体を実施例1及び比較例1,材齢9日の試験体を実施例2及び比較例2,材齢14日の試験体を実施例3及び比較例3,材齢15日の試験体を実施例4及び比較例4,材齢16日の試験体を実施例5及び比較例5とした。
【0046】
圧縮強度の測定結果を表2に示した。表2中の圧縮強度/試験体重量(N/mm/g)は、表2中の圧縮強度(N/mm)を試験体重量(g)で除し、その値を100倍したものである。
【表2】
【0047】
表2に示すように材齢7日の圧縮強度は、懸濁液を加えた実施例1が21.2N/mm、懸濁液を加えなかった比較例1が18.5N/mmであり、懸濁液を加えることで圧縮強度が約15%上昇した。材齢9日の圧縮強度は、懸濁液を加えた実施例2が22.7N/mm、懸濁液を加えなかった比較例2が21.9N/mmであり、懸濁液を加えることで圧縮強度が約4%上昇した。
【0048】
材齢14日の圧縮強度は、懸濁液を加えた実施例3が25.0N/mm、懸濁液を加えなかった比較例3が24.1N/mmであり、懸濁液を加えることで圧縮強度が約4%上昇した。材齢15日の圧縮強度は、懸濁液を加えた実施例4が26.3N/mm、懸濁液を加えなかった比較例4が27.2N/mmであり、懸濁液を加えることで圧縮強度が約3%減少した。材齢16日の圧縮強度は、懸濁液を加えた実施例5が25.7N/mm、懸濁液を加えなかった比較例5が24.1N/mmであり、懸濁液を加えることで圧縮強度が約7%上昇した。
【0049】
この結果から試験体の圧縮強度は、大略的には懸濁液の添加の有無によらず材齢に比例して上昇することが分かる。懸濁液を添加した試験体の圧縮強度Aと、懸濁液を添加していない試験体の圧縮強度Bとを比較すると、圧縮強度比A/Bは、材齢が小さいときに大きく、時間経過と共に圧縮強度比A/Bが概ね1.0に近づいていることが伺える。このことから脱脂した繊維状の木質解繊物は、早期にコンクリート硬化体の強度を上昇させるコンクリート強化材といえる。
【0050】
図1(A)及び図1(B)は、即時脱型コンクリートの調製(その1)と同じ要領で得たコンクリート硬化体のSEM写真及びEDS(エネルギー分散型X線分光法)による炭素検出を示す写真である。この写真のバーは20μmである。このコンクリート硬化体は、脱脂した繊維状の木質解繊物を含むコンクリート硬化体であり、図1よりミクロフィブリル端が膨潤した様子が分かる。
【0051】
<即時脱型コンクリートの調製(その2)>
脱脂した繊維状の木質解繊物に、即時脱型コンクリートの調製(その1)で使用した懸濁液を調製した際に発生した脱脂したおがくずの沈殿物を用い、即時脱型コンクリートの調製(その1)と同じ要領で、即時脱型用のコンクリート組成物、強度試験用のコンクリート硬化体(試験体)を製造し、強度を測定した。
【0052】
脱脂した繊維状の木質解繊物として上記沈殿物を添加したコンクリート硬化体(実施例)の材齢7日の圧縮強度は、脱脂した繊維状の木質解繊物を加えなかったコンクリート硬化体(比較例)の材齢7日の圧縮強度と比較して1.25倍であった。材齢7日の単位重量当たりの圧縮強度も実施例は比較例の1.23倍であった。
【0053】
図2(A)及び図2(B)、図3(A)及び図3(B)、図4(A)及び図4(B)は、即時脱型コンクリートの調製(その2)と同じ要領で得たコンクリート硬化体のSEM写真及びEDS(エネルギー分散型X線分光法)による炭素検出を示す写真である。図2(A)の中央の繊維状のものは、ミクロフィブリルの束とみられる。図2のバーは200μm(倍率200倍)である。また図3から木質解繊物がコンクリートに絡まっている様子が見られる。図3のバーは10μm(倍率2500倍)である。また図4から木質解繊物の表面が毛羽立っている様子が見られる。図4のバーは2μm(倍率10000倍)である。
図1
図2
図3
図4