(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003684
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】PCR反応容器
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20241226BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241226BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20241226BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20241226BHJP
【FI】
C12M1/34 Z
C12M1/00 A ZNA
C12M1/00 A
C12Q1/686 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024189282
(22)【出願日】2024-10-28
(62)【分割の表示】P 2020539601の分割
【原出願日】2019-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2018161316
(32)【優先日】2018-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】512132147
【氏名又は名称】杏林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 秀典
(72)【発明者】
【氏名】古谷 俊介
(72)【発明者】
【氏名】久保 秀泰
(57)【要約】
【課題】試料の残留液滴の問題のないPCR反応容器を提供する。
【解決手段】基板と、
前記基板に形成された流路と、
前記流路の両端に設けられた一対のフィルタと、
前記フィルタを通じて前記流路と連通する一対の空気連通口と、
前記流路における前記一対のフィルタの間に形成されたサーマルサイクル領域と、
前記流路に上から試料を注入することができる試料注入口を備え、
前記試料注入口の前記基板の表面部面積は0.7~1.8mm
2
であることを特徴とする
PCR反応容器。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に形成された流路と、
前記流路の両端に設けられた一対のフィルタと、
前記フィルタを通じて前記流路と連通する一対の空気連通口と、
前記流路における前記一対のフィルタの間に形成されたサーマルサイクル領域と、
前記流路に上から試料を注入することができる試料注入口を備え、
前記試料注入口の前記基板の表面部面積は0.7~1.8mm2であることを特徴とする
PCR反応容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR:Polymerase Chain Reaction)に使用されるPCR反応容器、該PCR反応容器を用いたPCR装置およびPCR方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汎用のPCRやリアルタイムPCR用サーマルサイクラーは、巨大な熱容量のため温度変化に時間がかかり、PCR反応に1~2時間を要するが、本発明者らは既にマイクロ流路チップを用いて複数の温度帯上へ繰り返し送液することでサーマルサイクルを高速化する手法を開発した(特許文献1)。さらに、本発明者らは、試料導入部分として、PCR反応容器を構成する平面に沿った分岐流路を組み合わせた構造により、計量が不要でかつ液漏れを防ぐ機構を提案した(特許文献2)。
【0003】
特許文献2で提案された手法では、試料導入時に一部の残留試料液滴が分岐流路部分に残留し、それ以降の往復送液によるサーマルサイクルにおいて、偶発的に当該残留液滴が、主流路へ入り込み送液を妨害する現象が生じる可能性があった。
【0004】
特許文献3は、分注領域の温度をヒータにより室温より高めた後に試料をサーマルサイクル領域に移動させ、その後、分注領域の温度を低下させて空気を冷却収縮させ、分注領域の残留液滴を主流路から引き戻す手法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6226284号
【特許文献2】WO2017/094674
【特許文献3】特開2018-19606
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、試料の残留液滴がある場合であっても、サーマルサイクル中の主流路での送液に問題が生じることのないPCR反応容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のPCR反応容器を提供するものである。
〔1〕
基板と、
前記基板に形成された流路と、
前記流路の両端に設けられた一対のフィルタと、
前記フィルタを通じて前記流路と連通する一対の空気連通口と、
前記流路における前記一対のフィルタの間に形成されたサーマルサイクル領域と、
前記流路に上から試料を注入することができる試料注入口を備え、
前記試料注入口の前記基板の表面部面積は0.7~1.8mm2であることを特徴とする
PCR反応容器。
〔2〕
前記試料注入口が円形又は楕円形又は多角形である〔1〕記載の反応容器。
〔3〕
前記流路の幅が300~1000μmである〔1〕又は〔2〕に記載の反応容器。
〔4〕
別途試料注入に使用する円形もしくは多角形の管状の形状を有する試料注入部材の先端が流路の内部まで到達することを特徴とする〔1〕~〔3〕のいずれ1項に記載の反応容器。
〔5〕
さらに前記試料注入口の容積(前記基板表面から前記流路間の空間)が7.5μL以下である〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の反応容器。
〔6〕
試料注入後において前記試料注入口の上部開口部がシールまたは前記試料注入部材等により密閉されることを特徴とする〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の反応容器。
[7]
厚みが3~5mmである〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の反応容器。
【発明の効果】
【0008】
本発明では先行技術にあるような分岐流路を介さず試料注入口を流路上に設けている。分岐流路を介して試料を注入した場合、分岐流路内に試料が残存し、残存試料がサーマルサイクル中に主流路に入り込むことが問題であったが、試料注入口を流路上に設けた場合、流路の上の試料注入口の空間に残存する試料は、サーマルサイクル中にも前記空間内に保持されるので、文献3に記載されるようなヒータを使用する必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(a)および(b)は、本発明の第1実施形態に係るPCR反応容器を説明するための図である。
【
図2】
図1(a)に示すPCR反応容器のA-A断面図である。
【
図4】E. coliのuidAを用いた高速PCRの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係るPCR反応容器およびPCR装置について説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。本発明のPCR反応容器は、核酸増幅用チップとして用いることができる。
【0011】
図1(a)および
図1(b)は、本発明の第1実施形態に係るPCR反応容器10を説明するための図である。
図1(a)は、PCR反応容器10の平面図であり、
図1(b)は、PCR反応容器10の正面図である。
図2は
図1(a)に示すPCR反応容器のA-A断面図である。
図3は、試料注入口にピペットの使い捨てチップを挿入した状態を示す図である。
【0012】
PCR反応容器10は、下面14aに溝状の流路12が形成された樹脂製の基板14と、基板14の下面14a上に貼られた、流路12を封止するための流路封止フィルム16と、基板14の上面14b上に貼られた3枚の封止フィルム(第1封止フィルム18、第2封止フィルム20および第3封止フィルム22)とから成る。
【0013】
基板14は、熱伝導性がよく、温度変化に対しても安定で、使用される試料溶液に対して侵されにくい材質から形成されることが好ましい。さらに、基板14は、成形性がよく、透明性やバリア性が良好で、且つ、低い自己蛍光性を有する材質から形成されることが好ましい。このような材質としては、ガラス、シリコン等の無機材料をはじめ、アクリル、ポリエステル、シリコーンなどの樹脂、中でもシクロオレフィンが好適である。基板14の寸法の一例は、長辺70mm、短辺42mm、厚み3mmである。基板14の下面14aに形成される流路12の寸法の一例は、幅0.5mm、深さ0.5mmである。
【0014】
基板14の下面14aには溝状の流路12が形成されており、この流路12は、流路封止フィルム16により封止されている(
図2参照)。基板14における流路12の一端12aの位置には、第1空気連通口24が形成されている。基板14における流路12の他端12bの位置には、第2空気連通口26が形成されている。一対の第1空気連通口24および第2空気連通口26は、基板14の上面14bに露出するように形成されている。このような基板は射出成形やNC加工機などによる切削加工によって作製することができる。前記流路の幅は、好ましくは300~1000μmである。また、前記流路の深さは、好ましくは300~1000μmである。
【0015】
基板14中における第1空気連通口24と流路12の一端12aとの間には、第1フィルタ28が設けられている(
図2参照)。基板14中における第2空気連通口26と流路12の他端12bとの間には、第2フィルタ30が設けられている。流路12の両端に設けられた一対の第1フィルタ28および第2フィルタ30は、低不純物特性が良好であるほか、空気のみを通し、PCRによって増幅されたDNAの品質が劣化しないようにコンタミネーションを防止する。フィルタ材料としては、ポリエチレンやPTFEなどが好適であり、多孔質または疎水性を備えていてもよい。第1フィルタ28および第2フィルタ30の寸法は、基板14に形成されたフィルタ設置スペースに隙間なく収まるような寸法に形成される。
【0016】
基板14には、第1フィルタ28とサーマルサイクル領域12eの間、或いは、第2フィルタ30とサーマルサイクル領域12eの間に試料注入口133が設けられている。試料注入口133は、基板14の上面14bに露出するように形成されている。
【0017】
流路12における第1フィルタ28と第2フィルタ30との間の部分は、試料にサーマルサイクルを与えるために、高温領域と中温領域が予定されているサーマルサイクル領域12eを形成する。流路12のサーマルサイクル領域12eは、蛇行流路を含んでいる。これは、PCR工程でPCR装置から与えられる熱量を効率的に試料に与えるためと、PCRに供することのできる試料の体積を一定量以上(例えば、25μL以上)にするためである。PCR反応容器10はPCR装置に設置し、試料にサーマルサイクルを与え、かつ、試料から発せられる蛍光等の光学物性値を計測することを予定しているので、後述の温度調節部や蛍光検出用プローブの配置なども考慮に入れて、流路や分岐点をはじめとした各要素の配置を任意に選択すればよい。
【0018】
本第1実施形態に係るPCR反応容器10において、流路12の大部分は基板14の下面14aに露出した溝状に形成されている。金型等を用いた射出成形により容易に成形できるようにするためである。この溝を流路として活用するために、基板14の下面14a上に流路封止フィルム16が貼られる。流路封止フィルム16は、一方の主面が粘着性を備えていてもよいし、押圧により粘着性や接着性を発揮する機能層が一方の主面に形成されていてもよく、容易に基板14の下面14aと密着して一体化できる機能を備える。流路封止フィルム16は、粘着剤も含めて低い自己蛍光性を有する材質から形成されることが望ましい。この点でシクロオレフィンポリマー、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはアクリルなどの樹脂からなる透明フィルムが適しているが、これらに限定されない。また、流路封止フィルム16は、板状のガラスや樹脂から形成されてもよい。この場合はリジッド性が期待できることから、PCR反応容器10の反りや変形防止に役立つ。
【0019】
また、本第1実施形態に係るPCR反応容器10において、第1空気連通口24、第2空気連通口26、第1フィルタ28、第2フィルタ30および試料注入口133は、基板14の上面14bに露出している。そこで、第1空気連通口24および第1フィルタ28を封止するために第1封止フィルム18を基板14の上面14bに貼り付ける。また、第2空気連通口26および第2フィルタ30を封止するために第2封止フィルム20を基板14の上面14bに貼り付ける。また、試料注入口133を封止するために第3封止フィルム22を基板14の上面14bに貼り付ける。
【0020】
第1封止フィルム18は第1空気連通口24と第1フィルタ28とを、第2封止フィルム20は第2空気連通口26と第2フィルタ30とを同時に封止可能なサイズのものが用いられる。第1空気連通口24、第2空気連通口26への加圧式ポンプ(後述する)の接続は、ポンプ先端に備わった中空のニードル(先端がとがった注射針)で第1空気連通口24、第2空気連通口26に穿孔することにより行う。そのため、第1封止フィルム18、第2封止フィルム20は、ニードルによる穿孔が容易な材質や厚みから成るフィルムが好ましい。本第1実施形態では該当する空気連通口とフィルタとを同時に封止するサイズの封止フィルムについて記載したが、これらを別個に封止する態様でもよい。また、第1空気連通口24、第1フィルタ28、第2空気連通口26及び第2フィルタ30を一括(一枚)で封止することのできる封止フィルムであってもよい。
【0021】
第3封止フィルム22は、試料注入口133を封止可能なサイズのものが用いられる。試料注入口133を通じての試料の流路12内への注入は、第3封止フィルム22を一旦、基板14から剥がして行い、所定量の試料の注入後には第3封止フィルム22を再び基板14の上面14bに戻し貼り付ける。そのため、第3封止フィルム22としては、数サイクルの貼り付け/剥がしに耐久するような粘着性を備えるフィルムが望ましい。また第3封止フィルム22は、試料注入後には新しいフィルムを貼り付ける態様であってもよく、この場合は貼り付け/剥がしに関する特性の重要性は緩和されうる。
【0022】
また試料注入時には、第1封止フィルム18又は第2封止フィルム20のいずれかを第3封止フィルム22と同様に一旦剥がす必要がある。空気の出口を作ってやらないと試料が流路内に入って行かないからである。そのため第1封止フィルム18と第2封止フィルム20は、同じく数サイクルの貼り付け/剥がしに耐久するような粘着性を備えるフィルムが望ましい。また、試料注入後には新しいフィルムを貼りつける態様であってもよい。
なお、空気連通口24、26とは別に空気の出口を設け、第4封止フィルムの貼り付け/剥がしにより流路内への試料注入を行なうことも可能である。
【0023】
第1封止フィルム18、第2封止フィルム20及び第3封止フィルム22は、流路封止フィルム16と同様に、一方の主面に粘着剤層が形成され、または押圧により粘着性や接着性を発揮する機能層が形成されていてもよい。第1封止フィルム18、第2封止フィルム20及び第3封止フィルム22は、粘着剤も含めて低い自己蛍光性を有する材質から形成されることが望ましい。この点でシクロオレフィン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン又はアクリルなどの樹脂からなる透明フィルムが適しているが、これらに限定されない。また上述したように複数回の貼り付け/剥離によっても、その粘着性等の特性が使用に影響をきたす程度に劣化しないことが望ましいが、剥離して試料等の注入後に、新たなフィルムを貼り付ける態様である場合は、この貼り付け/剥がしに関する特性の重要性は緩和されうる。
【0024】
次に、以上のように構成されたPCR反応容器10の使用方法について説明する。まず、サーマルサイクルにより増幅すべき試料を準備する。試料としては、二以上の種類のDNAを含む混合物に、PCR試薬として複数種類のプライマー、耐熱性酵素及び4種類のデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)を添加したものがあげられる。次に、第1封止フィルム18と第3封止フィルム22を基板14から剥がし、第1空気連通口24と試料注入口133を開放する。第1封止フィルム18が第1空気連通口24と第1フィルタ28を同時に封止できるサイズのものであった場合、第1封止フィルム18を完全に基板14から剥がして、第1空気連通口24と第1フィルタ28を大気中に開放してもよいが、第1封止フィルム18を完全に基板14から剥がさずに、第1空気連通口24のみを開放することによって、第1フィルタ28が大気中に晒されることがなく、コンタミネーション防止には効果がある。また第1空気連通口24と第1フィルタ28を別個に封止できる封止フィルムを用いた場合にも同様に第1フィルタ28が大気中に晒されることがなく、コンタミネーション防止には効果がある。
【0025】
次に、試料注入口133に試料をマイクロピペットの先端に取り付けた細長い円錐形状の使い捨てチップ(試料注入部材)から注入する。マイクロピペットにより使い捨てのチップから一定量の試料を流路12内に注入することができる。マイクロピペットは、プッシュボタンを第1ストップまで押し下げて一定量の試料を排出することができる。第1ストップで一度止めたプッシュボタンを第2ストップまでさらに強く押し下げることにより使い捨てチップに残った全ての試料を排出してもよい。使い捨てチップは細長いので試料注入口133の上部から流路12に向けて真下に差し込まれるが、チップのピペット取り付け側のいずれかの位置で試料注入口の最上部に当接することで固定され、そこから試料が注入される。試料注入口の最上部の径が大きすぎると使い捨てピペットの先端が流路に到達することになり、この状態で液体の試料を注入すると試料が流路に入ることなく試料が外に溢れるので好ましくない。また、試料注入口の最上部の径が小さすぎると、使い捨てチップの先端部がわずかに試料注入口内に差し込まれるだけであり、この状態では試料が注入口から溢れ出ることになる。したがって、試料注入口の大きさには最適な範囲が存在する。好ましい試料注入口の大きさには、注入口が円筒状の場合直径1~1.5mm程度である。
【0026】
適切な径の試料注入口からマイクロピペットの先端に取り付けた使い捨てピペットから試料を注入した場合、プッシュボタンの第2ストップまで強く押し下げると、使い捨てチップの試料を全て排出し流路に押し入れることができる。
【0027】
一方、マイクロピペットのプッシュボタンを第1ストップまでしか押し下げなかった場合は、流路12上の試料注入口133の空間内に液体試料が残存するおそれがある。試料注入口133の空間内の液体試料は、サーマルサイクルの過程で重力に従い流路12内に流れ込むことが考えられるが、実際には、サーマルサイクルの前後で試料注入口133の空間内の液体試料の液量は同じであり、この空間内の液体試料はPCRに悪影響を及ぼすことはない。
【0028】
したがって、本発明の反応容器であれば使用者の注入方法に関係なく、PCRを実行することが可能となる。このように悪影響を及ぼすことなくPCRを実行するためには、試料注入口133の面積(前記基板表面部における開口部面積)は、0.7~1.8mm2であることが好ましく、さらに好ましくは0.9~1.7mm2であり、特に好ましくは1.3~1.6mm2である。また、試料注入口133の面積の上限は、1.8mm2以下が好ましく、1.7mm2以下がより好ましく、1.6mm2以下がより好ましく、1.5mm2以下がより好ましく、1.4mm2以下がさらに好ましい。また、試料注入口133の面積の下限は、0.7mm2以上が好ましく、0.9mm2以上がより好ましく、1.0mm2以上がより好ましく、1.3mm2以上がさらに好ましい。
【0029】
また、試料注入口の容積(前記基板表面から前記流路間の空間)が7.5μL以下であることが好ましく、さらに好ましくは3~7.5μLである。
【0030】
試料注入口の形状は、特に限定されるものではないが、円形、楕円形、多角形などの管状の形状が好ましく、特に好ましくは円形である。
【0031】
次に、第1封止フィルム18と第3封止フィルム22を再び基板14に貼り戻し、第1空気連通口24と試料注入口133を封止する。上述したように、新たな第1封止フィルム18と第3封止フィルム22を貼ってもよい。以上でPCR反応容器10への試料70の注入は完了である。試料を注入後は、常法に従いPCRのサーマルサイクルを所定の回数行い、増幅したDNAを蛍光などにより検出することができる。
【実施例0032】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されることはない。
実施例1
1.使用するPCR装置には高速なサーマルサイクルが可能な様に、2カ所の温度帯の上へPCR試薬を交互に搬送するための1本の流路を有する往復送液型のPCR反応容器(厚み4mm)を利用した。
2.PCR反応容器の樹脂製の基板に形成された流路の中心軸と直行する様に、当該基板の上面から直径0.9 ~ 1.6 mmのドリルを用いて貫通孔を形成し、試薬注入口を作製した。余分なバリや汚れを除去した後、流路封止フィルムを含む全ての封止フィルムを接合し、以後のPCRの検証を行った。
3.以下のようにPCR試薬を調製した。
【0033】
【0034】
4.使い捨てピペットチップ(Molecular BioProductsのART 100E (100 μL)を使用)を装着したマイクロピペットを用いて、調製済みのPCR試薬の20 μlを吸引し、ピペットチップの先端を試薬注入口へ差し込んだ状態で、PCR試薬の吸引した全量をPCR反応容器の流路内へ注入した。
5.マイクロピペットからPCR試薬を排出する際、通常は使い捨てピペットチップの先端位置において排出した溶液が切り取られる。そのため、試薬注入口の径との関係によりピペットチップの先端位置が、完全に流路内まで到達せず試薬注入口内に止まることが考えられる。この場合、流路中に注入されプラグ状になったPCR試薬の後端が試薬注入口内に留ることとなり、以後のPCRにおける送液時に、一部のPCR試薬が試薬注入口に残存することとなる。
6.一方、このPCR試薬の注入時に、マイクロピペットを過剰量押し込むことにより、吸引したPCR試薬の全量を排出した後、空気も引き続き流路内へ押し出すことで、PCR試薬のプラグの後端を含め完全に流路内部まで注入することが可能である。このように、マイクロピペットにより完全にPCR試薬全量を流路内まで押し込む条件を、試薬押し込み有りと表現し、一方、一般的なマイクロピペットの操作により流路内部までPCR試薬を押し込まない場合については、以後、試薬押し込み無しと表現する。
7.PCR試薬を注入し封止フィルムでシールしたPCR反応容器について、98℃および61℃の温度帯と、往復送液用のポンプと、流路内の増幅DNAを定量する蛍光検出器を内蔵した装置に装着し、リアルタイムPCRを行った。なお、PCRの条件は以下の通りとした。
【0035】
【0036】
結果と考察:
1.表2に、試料注入口にピペットチップを挿入した際のピペットチップ先端の到達位置をまとめた。
【0037】
【0038】
2.表3に、試薬を押し込まないパターンでのPCR前の試薬注入口におけるPCR試薬プラグの後端の液高さをまとめた。
【0039】
【0040】
3.直径0.9 mmについては試料注入口にピペットチップが挿入できなかったため、PCR試薬を注入できなかった。一方、直径1.6 mmの場合は、ピペットチップの先端より試料注入口の径が太くなったため、試料注入口の上部からPCR試薬が溢れて注入ができなかった。
4.このように、ピペットチップが試薬注入口に入らない、もしくはピペットチップ先端に比べ大きな穴径の場合は注入ができずにPCR試薬が溢れることがわかった。
5.試薬注入口の直径が1.5 mmの場合にはピペットチップの先端が流路内部まで到達していたが、試薬の押し込み無しの場合において、PCR試薬プラグの後端が試薬注入口に入り込んでいた。これは試薬注入後にピペットチップを引き抜く際に引き戻されたためと考えられる。
6.次に、リアルタイムPCRを行った結果の増幅曲線を
図4に示す。
7.Ct値で2サイクル程度の差異については測定装置由来の不確かさの範囲であり、有意な差は確認されなかった。
8.以上の結果から、試薬注入口の形成に用いたドリルのサイズ毎の試薬の注入とPCRが可能かの評価を表4にまとめた。
【0041】
【0042】
9.直径1.5 mmの試薬注入口において、ピペットでPCR 試薬を押し込んだ場合には、マイクロピペットの圧力により試料注入口の入口から漏洩し、正常に試料注入が行えなかった。
10.ただし、正常にPCR試薬を注入できた何れの条件においてもPCRの送液には影響せず
図4の通り正常にリアルタイムPCRが可能であった。
11.なお、PCR後に試料注入口に残留した液量を表5にまとめた。試薬注入口に残った試薬量はPCR前後でほぼ変化が見られなかった。
【0043】
【0044】
12.以上、分岐流路を通じて試料注入する場合ではなく、本実施例の様に分岐流路を設けず試料注入口を介して直接溶液を注入する場合には、流路上部に位置する試薬注入口内に一部溶液が残留した場合に送液の途中で重力により漏れ出し、流路を塞がれ正常な往復送液を阻害されることが予想されたが、一切試料注入口から漏れ出すこと無く正常にPCRの送液が可能であることが確認された。
本発明により達成されるPCR装置は迅速検査を実現し、高病原性インフルエンザなどパンデミックの初動対応用機器として有用である。また遺伝情報に基づくテーラーメード医療用の遺伝子検査技術に応用できるだけでなく、臨床現場においては定量PCRによる治療効果の判定を迅速に行うことができることから、特に医療現場での市場優位性は高い。