(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003751
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】オートインデューサー-2阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/49 20060101AFI20241226BHJP
A61K 8/67 20060101ALI20241226BHJP
A61K 8/365 20060101ALI20241226BHJP
A61K 8/21 20060101ALI20241226BHJP
A61K 8/20 20060101ALI20241226BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20241226BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20241226BHJP
A61K 33/16 20060101ALI20241226BHJP
A61K 33/34 20060101ALI20241226BHJP
A61K 31/555 20060101ALI20241226BHJP
A61K 31/19 20060101ALI20241226BHJP
A61K 31/525 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
A61K8/49
A61K8/67
A61K8/365
A61K8/21
A61K8/20
A61Q11/00
A61P1/02
A61K33/16
A61K33/34
A61K31/555
A61K31/19
A61K31/525
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024190881
(22)【出願日】2024-10-30
(62)【分割の表示】P 2020090083の分割
【原出願日】2020-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】濱田 昌子
(72)【発明者】
【氏名】五味 満裕
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、オートインデューサー-2に対して阻害活性を有するAI-2阻害剤を提供することである。
【解決手段】銅クロロフィリンアルカリ金属塩、ビタミンB2、フッ化スズ、塩化亜鉛、及び乳酸アルミニウムは、抗菌活性を発揮させない濃度範囲(即ち、細菌の増殖及び/又は生育を抑制しない濃度範囲)で使用すると、AI-2に対して優れた阻害活性を示し、AI-2阻害剤の有効成分として利用できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅クロロフィリンアルカリ金属塩、ビタミンB2、フッ化スズ、塩化亜鉛、及び乳酸アルミニウムよりなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする、オートインデューサー-2阻害剤。
【請求項2】
前記有効成分が銅クロロフィリンアルカリ金属塩であり、
オートインデューサー-2の阻害が求められる部位で銅クロロフィリンアルカリ金属塩の濃度が10~2500μMとなるように使用される、請求項1に記載のオートインデューサー-2阻害剤。
【請求項3】
前記有効成分がビタミンB2であり、
オートインデューサー-2の阻害が求められる部位でビタミンB2の濃度が20~800μMとなるように使用される、請求項1に記載のオートインデューサー-2阻害剤。
【請求項4】
前記有効成分がフッ化スズであり、
オートインデューサー-2の阻害が求められる部位でフッ化スズの濃度が10~4500μMとなるように使用される、請求項1に記載のオートインデューサー-2阻害剤。
【請求項5】
前記有効成分が塩化亜鉛であり、
オートインデューサー-2の阻害が求められる部位で塩化亜鉛の濃度が20~2000μMとなるように使用される、請求項1に記載のオートインデューサー-2阻害剤。
【請求項6】
前記有効成分が乳酸アルミニウムであり、
オートインデューサー-2の阻害が求められる部位で乳酸アルミニウムの濃度が100~3500μMとなるように使用される、請求項1に記載のオートインデューサー-2阻害剤。
【請求項7】
口腔ケア製品である、請求項1~6のいずれかに記載のオートインデューサー-2阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートインデューサー-2に対する阻害活性があり、細菌のクオラムセンシングを阻害できるオートインデューサー-2阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
クオラムセンシングとは、同種菌の生産するシグナル物質であるオートインデューサーの菌体外濃度を感知することで、同種菌の菌密度を感知し、それに合わせて特定の遺伝子発現や表現型をコントロールする微生物間情報伝達機構の一つである。クオラムセンシングは、細菌感染、病原性発現、バイオフィルム形成、毒素産生等に関与していることが知られている。
【0003】
例えば、齲蝕の原因菌であるストレプトコッカス・ミュータンス、歯周病の原因菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス、胃潰瘍及び胃癌の一因になるヘリコバクター・ピロリ、食中毒や出血性腸炎等の一因になるクロストリジウム・パーフリンジェンス等の多くの病原性細菌では、オートインデューサー-2(以下、AI-2)をシグナル物質としてクオラムセンシングを制御している。そのため、AI-2に対して阻害活性がある成分を使用することにより、これらの病原性細菌のクオラムセンシングを阻害することができ、その結果、これらの病原性細菌によって引き起こされる各種感染症の予防又は治療が期待できる。
【0004】
従来、AI-2に対して阻害活性がある成分について種々検討されている。例えば、特許文献1には、5-アミノ-n-吉草酸、ブタン-1,4-ジアミン、グアニン、アセト酢酸、γ-ヒドロキシ酪酸、ピペリジン、グルコン酸、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタル酸、N8-アセチルスペルミジン及びウロカニン酸、並びにこれらの塩をAI-2阻害剤として使用できることが開示されている。また、特許文献2には、4,5-ジヒドロキシ-2-シクロペンテン-1-オンをAI-2阻害剤として使用できることが開示されている。
【0005】
しかしながら、AI-2の阻害活性の更なる向上、AI-2の阻害活性を有する製品の多様化への追従等のために、AI-2に対して阻害活性がある新たな成分の開発が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-97036号公報
【特許文献2】国際公開第2003/77844号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、AI-2に対して阻害活性を有するAI-2阻害剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、銅クロロフィリンアルカリ金属塩、ビタミンB2、フッ化スズ、塩化亜鉛、及び乳酸アルミニウムは、抗菌活性を発揮しない濃度範囲(即ち、細菌の増殖及び/又は生育を抑制しない濃度範囲)で使用すると、AI-2に対して優れた阻害活性を示し、AI-2阻害剤の有効成分として利用できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 銅クロロフィリンアルカリ金属塩、ビタミンB2、フッ化スズ、塩化亜鉛、及び乳酸アルミニウムよりなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする、AI-2阻害剤。
項2. 前記有効成分が銅クロロフィリンアルカリ金属塩であり、
AI-2の阻害が求められる部位で銅クロロフィリンアルカリ金属塩の濃度が10~2500μMとなるように使用される、項1に記載のAI-2阻害剤。
項3. 前記有効成分がビタミンB2であり、
AI-2の阻害が求められる部位でビタミンB2の濃度が20~800μMとなるように使用される、項1に記載のAI-2阻害剤。
項4. 前記有効成分がフッ化スズであり、
AI-2の阻害が求められる部位でフッ化スズの濃度が10~4500μMとなるように使用される、項1に記載のAI-2阻害剤。
項5. 前記有効成分が塩化亜鉛であり、
AI-2の阻害が求められる部位で塩化亜鉛の濃度が20~2000μMとなるように使用される、項1に記載のAI-2阻害剤。
項6. 前記有効成分が乳酸アルミニウムであり、
AI-2の阻害が求められる部位で乳酸アルミニウムの濃度が100~3500μMとなるように使用される、項1に記載のAI-2阻害剤。
項7. 口腔ケア製品である、項1~6のいずれかに記載のAI-2阻害剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、抗菌活性を発揮させることなくAI-2を阻害できるので、常在菌に悪影響を及ぼすことなく、病原性細菌のクオラムセンシングを阻害でき、感染症を予防又は治療することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】試験例1において、各種濃度の銅クロロフィリンナトリウムの存在下でビブリオ・ハーベイMM32株を培養し、AI-2阻害活性及び生菌数を測定した結果である。
【
図2】試験例2において、各種濃度のビタミンB
2の存在下でビブリオ・ハーベイMM32株を培養し、AI-2阻害活性及び生菌数を測定した結果である。
【
図3】試験例3において、各種濃度のフッ化スズの存在下でビブリオ・ハーベイMM32株を培養し、AI-2阻害活性及び生菌数を測定した結果である。
【
図4】試験例4において、各種濃度の塩化亜鉛の存在下でビブリオ・ハーベイMM32株を培養し、AI-2阻害活性及び生菌数を測定した結果である。
【
図5】試験例5において、各種濃度の乳酸アルミニウムの存在下でビブリオ・ハーベイMM32株を培養し、AI-2阻害活性及び生菌数を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のAI-2阻害剤は、銅クロロフィリンアルカリ金属塩、ビタミンB2、フッ化スズ、塩化亜鉛、及び乳酸アルミニウムよりなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とすることを特徴とする。以下、本発明のAI-2阻害剤について詳述する。
【0013】
[有効成分]
本発明のAI-2阻害剤では、有効成分として、銅クロロフィリンアルカリ金属塩、ビタミンB2、フッ化スズ、塩化亜鉛、及び/又は乳酸アルミニウムを使用する。AI-2をシグナル物質としてクオラムセンシングを制御している細菌に対して、これらの有効成分の抗菌活性を発揮しない濃度(即ち、当該細菌が生存している条件下)で共存させると、当該細菌のAI-2を阻害することができる。
【0014】
前記有効成分の内、銅クロロフィリンアルカリ金属塩としては、具体的には、銅クロロフィリンナトリウム、銅クロロフィリンカリウムが挙げられる。銅クロロフィリンアルカリ金属塩として、好ましくは銅クロロフィリンナトリウムが挙げられる。
【0015】
前記有効成分の内、フッ化スズとしては、フッ化スズ(II)又はフッ化スズ(IV)のいずれであってもよいが、好ましくはフッ化スズ(II)が挙げられる。
【0016】
また、前記有効成分の内、ビタミンB2としては、具体的には、リボフラビン、酪酸リボフラビン、リン酸リボフラビン、リン酸リボフラビンの塩等が挙げられる。ン酸リボフラビンの塩としては、具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。ビタミンB2として、好ましくはリン酸リボフラビン及びその塩、より好ましくはリン酸リボフラビンナトリウムが挙げられる。
【0017】
本発明のAI-2阻害剤において、有効成分として、銅クロロフィリンアルカリ金属塩、ビタミンB2、フッ化スズ、塩化亜鉛、及び乳酸アルミニウムの中から1種を選択して単独で使用してもよく、またこれらの中から2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
[使用濃度]
本発明のAI-2阻害剤では、前記有効成分の抗菌活性が発揮されない濃度(即ち、細菌が生存している条件下)で使用する。このように抗菌活性が発揮されない濃度で前記有効成分を使用することにより、AI-2をシグナル物質としてクオラムセンシングを制御している細菌による感染症を予防又は治療しつつ、前記有効成分によって常在菌が悪影響を受けるのを回避することができる。
【0019】
本発明のAI-2阻害剤において、使用時の有効成分の濃度については、前記有効成分の抗菌活性が発揮されず、且つAI-2に対する阻害活性を発揮できる範囲であればよく、使用する有効成分の種類に応じて適宜設定すればよい。有効成分毎の使用時の濃度としては、具体的には、以下の範囲が挙げられる。
銅クロロフィリンアルカリ金属塩の場合:10~2500μM、好ましくは50~2500μM、より好ましくは100~2500μM、更に好ましくは500~2000μM。ビタミンB
2
の場合:20~800μM、好ましくは50~800μM、更に好ましくは100~200μM。
フッ化スズの場合:10~4500μM、好ましくは50~4500μM、より好ましくは100~4500μM。
塩化亜鉛の場合:20~2000μM、好ましくは50~2000μM。
乳酸アルミニウム:100~3500μM、好ましくは1500~3500μM、より好ましくは2000~3500μM、更に好ましくは2500~3500μM。
【0020】
ここで、「使用時の有効成分の濃度」とは、AI-2の阻害が求められる部位で前記有効成分が作用する際の濃度、即ちAI-2をシグナル物質としてクオラムセンシングを制御している細菌と共存させる際の有効成分の濃度である。例えば、本発明のAI-2阻害剤を口腔ケア製品として使用する場合には、口腔内で唾液等によって希釈された有効成分が前記濃度範囲を満たせばよい。
【0021】
[用途]
本発明のAI-2阻害剤は、AI-2をシグナル物質としてクオラムセンシングを制御している細菌において、AI-2を阻害するために使用される。当該細菌のAI-2阻害によって、そのクオラムセンシングを阻害でき、その結果、病原性発現、バイオフィルム形成、毒素産生等を抑制でき、当該細菌による感染症の予防又は治療効果が奏されるので、本発明のAI-2阻害剤は、AI-2をシグナル物質としてクオラムセンシングを制御している細菌による感染症の予防又は治療剤として使用することができる。
【0022】
AI-2をシグナル物質としてクオラムセンシングを制御している細菌としては、例えば、ストレプトコッカス・ミュータンス、ストレプトコッカス・ニューモニエ、ストレプトコッカス・ゴードニー、ストレプトコッカス・オラリス、ストレプトコッカス・ソブリナス、ストレプトコッカス・アンギノーサス等のストレプトコッカス属細菌;ポルフィロモナス・ジンジバリス等のポルフィロモナス属細菌;クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ディフィシル等のクロストリジウム属細菌;ヘリコバクター・ピロリ等のヘリコバクター属細菌;ビブリオ・ハーベイ、ビブリオ・コレラ、ビブリオ・フィッシェリ等のビブリオ属細菌;エンテロバクター・クロアカ等のエンテロバクター属細菌;黄色ブドウ球菌(スタフィロコッカス・アウレウス)等のスタフィロコッカス属細菌;緑膿菌(シュードモナス・エルギノーザ)等のシュードモナス属細菌;サルモネラ・エンテリカ、サルモネラ・ティピムリウム等のサルモネラ属細菌;カンピロバクター・ジェジュニ、カンピロバクター・コリ等のカンピロバクター属細菌;エシェリキア・コリ等のエシェリキア属細菌等;アクチノマイセス・ネスランディ等のアクチノマイセス属細菌;フゾバクテリウム・ヌクレアタム等のフゾバクテリウム属細菌;アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス等のアグリゲイティバクター属細菌;プレボテラ・インターメディア等のプレボテラ属細菌等が挙げられる。
【0023】
例えば、ストレプトコッカス・ミュータンスのAI-2を阻害することによって、そのクオラムセンシングを阻害でき、その結果、齲蝕の原因となるバイオフィルムの形成や当該細菌の耐酸性の獲得を抑制できるので、本発明のAI-2阻害剤は、齲蝕の予防又は治療剤として使用することができる。
【0024】
ポルフィロモナス・ジンジバリス、ストレプトコッカス・ゴードニー、フゾバクテリウム・ヌクレアタム、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス、又はプレボテラ・インターメディのAI-2を阻害することによって、そのクオラムセンシングを阻害でき、その結果、歯周病の原因となるバイオフィルムの形成や当該細菌による毒素産生等を抑制できるので、本発明のAI-2阻害剤は、歯周病の予防又は治療剤として使用することができる。
【0025】
アクチノマイセス・ネスランディのAI-2を阻害することによって、そのクオラムセンシングを阻害でき、その結果、う蝕又は歯周病等の原因となるバイオフィルム形成抑制できるので、本発明のAI-2阻害剤は、う蝕又は歯周病の予防剤として使用することができる。
【0026】
サルモネラ・エンテリカ、サルモネラ・ティピムリウム、カンピロバクター・ジェジュニ、カンピロバクター・コリ、エシェリキア・コリ等の食中毒菌のAI-2を阻害することによって、そのクオラムセンシングを阻害でき、その結果、食中毒の原因となる毒素産生を抑制できるので、本発明のAI-2阻害剤は、食中毒の予防又は治療剤として使用することができる。
【0027】
クロストリジウム・パーフリンジェンスのAI-2を阻害することによって、腸内でのエンテロトキシンの産生を抑制できるので、本発明のAI-2阻害剤は、食中毒、出血性腸炎又はガス壊疽の予防又は治療剤として使用することができる。
【0028】
ヘリコバクター・ピロリのAI-2を阻害することによって、ウレアーゼの産生を阻害して当該細菌の胃への定着を抑制できるので、本発明のAI-2阻害剤は、胃炎、胃潰瘍又は胃癌の予防又は治療剤として使用することができる。
【0029】
エンテロバクター属細菌のAI-2を阻害することによって、腸管出血性大腸菌の志賀毒素の産生を抑制できるので、本発明のAI-2阻害剤は、腸管出血性大腸感染症の予防又は治療剤として使用することができる。
【0030】
黄色ブドウ球菌のAI-2を阻害することによって、黄色ブドウ球菌の毒素産生を抑制できるので、本発明のAI-2阻害剤は、アトピー性皮膚炎の予防又は治療剤として使用することができる。
【0031】
緑膿菌のAI-2を阻害することによって、緑膿菌の毒素産生を抑制できるので、本発明のAI-2阻害剤は、緑膿菌感染症の予防又は治療剤として使用することができる。
【0032】
[AI-2阻害剤が配合される製品]
本発明のAI-2阻害剤が配合される製品の剤型については、特に限定されず、固体状、半固体状、又は液体状のいずれであってもよい。
【0033】
本発明のAI-2阻害剤が配合される製品として、具体的には、口腔ケア製品、医薬品、飲食品等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは口腔ケア製品が挙げられる。
【0034】
本発明のAI-2阻害剤を口腔ケア製品に配合にする場合(即ち、AI-2阻害用の口腔ケア製品として提供する場合)、前記有効成分を、そのまま又は他の添加成分と組み合わせて所望の形態に調製すればよい。口腔ケア製品としては、口腔内に適用されて口腔内で一定時間滞留し得るものであればよいが、具体的には、液状歯磨剤、練歯磨剤、含嗽剤、口中清涼剤(マウススプレー等)、口腔用パスタ剤、歯肉マッサージクリーム等の口腔衛生剤が挙げられる。
【0035】
本発明のAI-2阻害剤を口腔ケア製品に配合にする場合、口腔ケア製品における前記有効成分の含有量については、口腔内に適用された際に口腔内での前記有効成分が前述する使用時の濃度範囲になるように、口腔ケア製品の種類、有効成分の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、有効成分毎の口腔ケア製品における含有量として、以下の範囲が挙げられる。
銅クロロフィリンアルカリ金属塩の場合:0.0007~0.18重量%、好ましくは0.036~0.18重量%、より好ましくは0.036~0.15重量%。
ビタミンB
2
の場合:0.0009~0.038重量%、好ましくは0.0047~0.038重量%、より好ましくは0.0047~0.01重量%。
フッ化スズの場合:0.0002~0.4重量%、好ましくは0.0016~0.4重量%、より好ましくは0.0016~0.07重量%。
塩化亜鉛の場合:0.0003~0.1重量%、好ましくは0.0007~0.1重量%、より好ましくは0.0007~0.03重量%。
乳酸アルミニウム:0.002~1.0重量%、好ましくは0.07~1.0重量%、より好ましくは0.07~0.1重量%。
【0036】
本発明のAI-2阻害剤を医薬品(医薬部外品を含む)に配合にする場合(即ち、AI-2阻害用の医薬品として提供する場合)、前記有効成分を、そのまま又は他の添加剤等と組み合わせて所望の形態に調製すればよい。医薬品としては、具体的には、錠剤、丸剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤(ハードカプセル及びソフトカプセルを含む)、トローチ剤、チュアブル剤、エキス剤(軟エキス剤、乾燥エキス剤等を含む)、ゼリー剤、シロップ剤、酒精剤、エリキシル剤、リポソーム製剤等の内服用医薬品;軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、噴霧剤、貼付剤、乳液剤、懸濁液剤、パップ剤、リニメント剤、エアゾール剤、軟膏剤、パック剤、吸入剤、坐剤等の外用医薬品;注射剤等が挙げられる。
【0037】
本発明のAI-2阻害剤を医薬品に配合にする場合、医薬品における前記有効成分の含有量については、投与後の患部での前記有効成分が前述する使用時の濃度範囲になるように、医薬品の種類、有効成分の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、有効成分毎の医薬品における含有量として、以下の範囲が挙げられる。
銅クロロフィリンアルカリ金属塩の場合:0.0007~0.18重量%、好ましくは0.036~0.18重量%、より好ましくは0.036~0.15重量%。
ビタミンB
2
の場合:0.0009~0.038重量%、好ましくは0.0047~0.
038重量%、より好ましくは0.0047~0.01重量%。
フッ化スズの場合:0.0002~0.4重量%、好ましくは0.0016~0.4重量%、より好ましくは0.0016~0.07重量%。
塩化亜鉛の場合:0.0003~0.1重量%、好ましくは0.0007~0.1重量%、より好ましくは0.0007~0.03重量%。
乳酸アルミニウム:0.002~1.0重量%、好ましくは0.07~1.0重量%、より好ましくは0.07~0.1重量%。
【0038】
本発明のAI-2阻害剤を飲食品に配合する場合(即ち、AI-2阻害用の飲食品として提供する場合)、前記有効成分を、そのまま又は他の食品素材や添加成分と組み合わせて所望の形態に調製すればよい。飲食品としては、一般の飲食品の他、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品を含む)、病者用食品等の食品等が挙げられる。これらの飲食品の形態として、特に限定されないが、具体的には、茶飲料、栄養ドリンク、果汁飲料、炭酸飲料、乳酸飲料等の飲料;カプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤)、錠剤、顆粒剤、粉剤、ゼリー剤、リポソーム製剤等のサプリメント;グミ、キャンディー、ゼリー等の嗜好品等が挙げられる。これらの飲食品の中でも、好ましくはサプリメントが挙げられる。
【0039】
本発明のAI-2阻害剤を飲食品に配合にする場合、飲食品における前記有効成分の含有量については、摂取後にAI-2阻害が求められる身体部位での前記有効成分の濃度が前述する使用時の濃度範囲になるように、飲食品の種類、有効成分の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、有効成分毎の飲食品における含有量として、以下の範囲が挙げられる。
銅クロロフィリンアルカリ金属塩の場合:0.0007~0.18重量%、好ましくは0.036~0.18重量%、より好ましくは0.036~0.15重量%。
ビタミンB
2
の場合:0.0009~0.038重量%、好ましくは0.0047~0.
038重量%、より好ましくは0.0047~0.01重量%。
フッ化スズの場合:0.0002~0.4重量%、好ましくは0.0016~0.4重量%、より好ましくは0.0016~0.07重量%。
塩化亜鉛の場合:0.0003~0.1重量%、好ましくは0.0007~0.1重量%、より好ましくは0.0007~0.03重量%。
乳酸アルミニウム:0.002~1.0重量%、好ましくは0.07~1.0重量%、より好ましくは0.07~0.1重量%。
【実施例0040】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
試験例1:銅クロロフィリンナトリウムのAI-2阻害活性の検証
1.試験方法
AI-2を認識することにより発光するレポーター細菌を使用して、AI-2阻害活性を測定した。使用した試験材料及び測定条件は以下の通りである。
【0042】
(1)試験材料
・レポーター細菌
レポーター細菌として、ビブリオ・ハーベイMM32株(ATCC BAA-1121)を使用した。
【0043】
・Km-LB培地
塩化ナトリウム10g/L、バクトトリプトン10g/L、及び酵母エキス5g/Lを含むLB培地を高圧蒸気滅菌(121℃、15分間)し、その後、カナマイシン硫酸塩を50mg/Lとなるように無菌的に添加することにより、Km-LB培地を調製した。
【0044】
・AB培地
先ず、0.3Mの塩化ナトリウム、0.05Mの硫酸マグネシウム、及び2g/Lのカザミノ酸(ビタミンフリー、Difco社製)を含む水溶液を水酸化カリウムでpH7.5に調整し、高圧蒸気滅菌(121℃、15分間)を行った。この水溶液100mLに、1Mリン酸カリウムバッファー(1Mリン酸二水素カリウム水溶液と1Mリン酸水素二カリウム水溶液を混合してpH7.0に調整したバッファー)1mL、0.1MのL-アルギニンを含む水溶液1mL、50重量%のグリセロールを含む水溶液2mL、0.1mg/mLのリボフラビンを含む水溶液0.01mL、及び10mg/mLのチアミン塩酸塩を含む水溶液0.01mLを添加し、孔径0.22μmのフィルーターで濾過滅菌を行うことにより、AB培地を得た。
【0045】
・HMF含有液
4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノン(HMF)2.35mg、エタノール1mL、及び滅菌蒸留水9mLをガラス容器中で混合し、HMF含有液(2,000μMのHMF含有)を調製した。HMFは、AI-2活性を有していることが知られており、本試験では、HMFをAI-2代替物として使用した。
【0046】
・BMF含有液
4-ブロモ-5-(4-メトキシフェニル)-2(5H)-フラノン(BMF)2.15mg、エタノール4mL、及び滅菌蒸留水36mLを混合し、BMF含有液(200μMのBMF含有)を調製した。BMFは、AI-2を阻害する活性を有していることが知られており、本試験では、BMFをポジティブコントロールとして使用した。
【0047】
・試験液
10容量%のエタノールを含む水溶液に、銅クロロフィリンナトリウムを200μM、400μM、1000μM、1400μM、2000μM、3000μM、4000μM、10000μM、16000μM、20000μM、30000μM、40000μM、及び50000μMとなるように添加し、各種濃度の試験液を調製した。
【0048】
(2)測定条件
レポーター細菌をKm-LB培地で前培養し、前培養液の600nmの吸光度(OD600)を測定し、Km-LB培地を適量添加してOD600が0.50となるように調整し、レポーター細菌液を得た。このレポーター細菌液をAB培地で2,500倍に希釈し、レポーター細菌希釈液を得た。
【0049】
無菌ガラス試験管内で、レポーター細菌希釈液0.9mLと試験液0.05mLを混合し、遮光下、30℃、撹拌(180rpm)条件下で10分間インキュベートした。次いで、HMF含有液0.05mLを添加して、遮光下、30℃、撹拌(180rpm)条件下で4時間インキュベートした。この時点で試験液は20倍稀釈されているため、液中の銅クロロフィリンナトリウムの終濃度は、10μM、20μM、50μM、70μM、100μM、150μM、200μM、500μM、800μM、1000μM、1500μM、2000μM、及び2500μMである。インキュベート後の液0.1mLを発光測定用プレートに移し、マイクロプレートリーダー(装置:SpextraMax iD3、測定モード:LUM endpoint、MOLECULAR DEVICE社)で、578nmの発光強度(サンプルの発光強度)を測定した。また、インキュベート後の液中のレポーター細菌の生菌数をコロニーカウンティング法によって測定した。
【0050】
ブランクとして、試験液の代わりに10容量%のエタノールを含む水溶液を使用し、且つHMF含有液の代わりに10容量%のエタノールを含む水溶液を使用して、前記と同条件で発光強度(ブランクの発光強度)及び生菌数を測定した。
【0051】
ネガティブコントロールとして、試験液の代わりに10容量%のエタノールを含む水溶液を使用して、前記と同条件で発光強度(ネガティブコントロールの発光強度)及び生菌数を測定した。
【0052】
ポジティブコントロールとして、試験液の代わりにBMF含有液を使用して、前記と同条件で発光強度(ポジティブコントロールの発光強度)及び生菌数を測定した。
【0053】
測定された発光強度の値から下記算出式に従ってAI-2阻害率を算出した。
【数1】
【0054】
得られた結果を
図1に示す。この結果、銅クロロフィリンナトリウムは、10~2500μMの濃度範囲では、抗菌活性を示さず、且つAI-2を効果的に阻害する活性を有していることが明らかとなった。特に、銅クロロフィリンナトリウムが100~2500μMの濃度範囲では、格段に優れたAI-2阻害活性を示すことが確認された。
【0055】
試験例2:ビタミンB
2
のAI-2阻害活性の検証
10容量%のエタノールを含む水溶液に、ビタミンB2(リン酸リボフラビンナトリウム)を400μM、1000μM、2000μM、3000μM、4000μM、10000μM、及び16000μMとなるように添加し、各種濃度の試験液を調製した。得られた試験液を使用して、前記試験例1と同条件でAI-2阻害率及び生菌数の測定を行った。即ち、本試験において、AI-2阻害率及び生菌数の測定時のビタミンB2の終濃度は、20μM、50μM、100μM、150μM、200μM、500μM、及び800μMである。
【0056】
得られた結果を
図2に示す。この結果、ビタミンB
2は、20~800μMの濃度範囲では、抗菌活性を示さず、且つAI-2を効果的に阻害する活性を有していることが明らかとなった。特に、ビタミンB
2が100~800μMの濃度範囲では、格段に優れたAI-2阻害活性を示すことが確認された。
【0057】
試験例3:フッ化スズのAI-2阻害活性の検証
10容量%のエタノールを含む水溶液に、フッ化スズ(II)を200μM、1000μM、2000μM、4000μMとなるように添加し、各種濃度の試験液を調製した。また、別途、ベントナイト(ベントンDE、キレスト株式会社製)を滅菌蒸留水に分散させて調製したベントナイト分散液に、フッ化スズ(II)を10000μM、20000μM、40000μM、70000μM、80000μM、及び90000μMとなるように添加し、各種濃度の試験液を調製した。得られた試験液を使用して、前記試験例1と同条件でAI-2阻害率及び生菌数の測定を行った。即ち、本試験において、AI-2阻害率及び生菌数の測定時のフッ化スズの終濃度は、10μM、50μM、100μM、200μM、500μM、1000μM、2000μM、3500μM、4000μM、及び4500μMである。なお、本試験では、ブランク及びネガティブコントロールの測定では、10容量%のエタノールを含む水溶液又はベントナイト分散液を使用した。
【0058】
得られた結果を
図3に示す。この結果、フッ化スズは、10~4500μMの濃度範囲では、抗菌活性を示さず、且つAI-2を効果的に阻害する活性を有していることが明らかとなった。特に、フッ化スズが100~4500μMの濃度範囲では、格段に優れたAI-2阻害活性を示すことが確認された。
【0059】
試験例4:塩化亜鉛のAI-2阻害活性の検証
10容量%のエタノールを含む水溶液に、塩化亜鉛を400μM、1000μM、4000μM、10000μM、16000μM、20000μM、30000μM及び40000μMとなるように添加し、各種濃度の試験液を調製した。得られた試験液を使用して、前記試験例1と同条件でAI-2阻害率及び生菌数の測定を行った。即ち、本試験において、AI-2阻害率及び生菌数の測定時の塩化亜鉛の終濃度は、20μM、50μM、200μM、500μM、800μM、1000μM、1500μM及び2000μMである。
【0060】
得られた結果を
図4に示す。この結果、塩化亜鉛は、20~2000μMの濃度範囲では、抗菌活性を示さず、且つAI-2を効果的に阻害する活性を有していることが明らかとなった。特に、塩化亜鉛が50~2000μMの濃度範囲では、格段に優れたAI-2阻害活性を示すことが確認された。
【0061】
試験例5:乳酸アルミニウムのAI-2阻害活性の検証
10容量%のエタノールを含む水溶液に、乳酸アルミニウムを2000μM、3000μM、4000μM、6000μM、10000μM、20000μM、30000μM、40000μM、50000μM、60000μM、及び70000μMとなるように添加し、各種濃度の試験液を調製した。得られた試験液を使用して、前記試験例1と同条件でAI-2阻害率及び生菌数の測定を行った。即ち、本試験において、AI-2阻害率及び生菌数の測定時の乳酸アルミニウムの終濃度は、100μM、150μM、200μM、300μM、500μM、1000μM、1500μM、2000μM、2500μM、3000μM、及び3500μMである。
【0062】
得られた結果を
図5に示す。この結果、乳酸アルミニウムは、100~3500μMの濃度範囲では、抗菌活性を示さず、且つAI-2を効果的に阻害する活性を有していることが明らかとなった。特に、乳酸アルミニウムが2000~3500μMの濃度範囲では、格段に優れたAI-2阻害活性を示すことが確認された。