(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025037688
(43)【公開日】2025-03-18
(54)【発明の名称】腸管壁保持装置
(51)【国際特許分類】
A61F 2/844 20130101AFI20250311BHJP
【FI】
A61F2/844
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023144775
(22)【出願日】2023-09-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度 国立研究開発法人科学技術振興機構、ムーンショット型研究開発事業、「生体内サイバネティック・アバターによる健康・医療の実現」委託研究、ムーンショット型研究開発事業(基金)「分散遠隔操作による生体内CAのセンシング技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山中 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】新井 史人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大知
(72)【発明者】
【氏名】藤城 光弘
(72)【発明者】
【氏名】辻 陽介
(72)【発明者】
【氏名】新津 葵一
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA43
4C267AA53
4C267BB02
4C267BB03
4C267BB04
4C267BB06
4C267BB11
4C267BB12
4C267BB19
4C267BB20
4C267BB26
4C267BB37
4C267BB39
4C267BB40
4C267BB62
4C267CC23
4C267CC24
4C267HH01
4C267HH08
(57)【要約】
【課題】被験者に過度な負担を与えることなく、検査や治療を行う腸管の対象部位を一定の速さで移動させたり一定の時間に亘って留めたりすることのできる腸管壁保持装置を提供する。
【解決手段】腸管壁保持装置は、経口投入される装置であって、形状記憶素材の索条で形成された保持基材を備え、保持基材は、経口投入時においては収縮した第1状態であり、刺激入力を受けた後には腸管壁の内壁面を索条の外周面で押圧すると共に腸管内の流通を確保する中空部を生じさせる第2状態に展開する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
経口投入される腸管壁保持装置であって、
形状記憶素材の索条で形成された保持基材を備え、
前記保持基材は、
経口投入時においては収縮した第1状態であり、
刺激入力を受けた後には腸管壁の内壁面を前記索条の外周面で押圧すると共に腸管内の流通を確保する中空部を生じさせる第2状態に展開する腸管壁保持装置。
【請求項2】
前記索条は、前記第1状態において螺旋状であり、前記第2状態において螺旋状または円環状である請求項1に記載の腸管壁保持装置。
【請求項3】
前記第2状態は、螺旋または円環の中心軸に直交する平面へ投影したときの最大直径よりも前記中心軸に沿う方向の長さの方が短い請求項2に記載の腸管壁保持装置。
【請求項4】
前記第1状態は、螺旋の中心軸に直交する平面へ投影したときの最大直径よりも前記中心軸に沿う方向の長さの方が長い請求項3に記載の腸管壁保持装置。
【請求項5】
前記保持基材の端部の少なくとも一方に、バッテリおよびデバイスの少なくともいずれかを備える請求項1に記載の腸管壁保持装置。
【請求項6】
前記保持基材は、前記第2状態に展開されたときの前記外周面のうち前記腸管壁と接する第1面と接しない第2面の一方にデバイスを備える請求項1に記載の腸管壁保持装置。
【請求項7】
前記第2状態に展開された前記保持基材を腸管内で変位させるための駆動機構を備える請求項1に記載の腸管壁保持装置。
【請求項8】
前記保持基材は、磁性ナノ粒子を含んで形成されている請求項7に記載の腸管壁保持装置。
【請求項9】
前記保持基材は、伸延方向に沿って複数の磁石片が離散的に配置されている請求項7に記載の腸管壁保持装置。
【請求項10】
前記保持基材は、前記第2状態に展開されたときの前記外周面のうち少なくとも前記腸管壁と接する第1面に凹部を有する請求項7に記載の腸管壁保持装置。
【請求項11】
前記保持基材は、伸延方向に沿って複数設けられた縮径部を有する請求項1に記載の腸管壁保持装置。
【請求項12】
前記保持基材は、伸延方向に沿って複数の小片に分割されていると共に、隣り合う小片間が遅溶性素材のジョイントによって接続されている請求項1に記載の腸管壁保持装置。
【請求項13】
前記第1状態の前記保持基材を収容する腸溶性カプセルを備える請求項1に記載の腸管壁保持装置。
【請求項14】
前記刺激入力を発動させるスイッチを備える請求項1に記載の腸管壁保持装置。
【請求項15】
外部環境のpHを検出するpHセンサを備え、
前記スイッチは、前記pHセンサの出力に基づいて前記刺激入力を発動させる請求項14に記載の腸管壁保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口投入されて腸管壁で留まることができる腸管壁保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
患者等の被検者に飲み込ませて体腔管路内を通過させ、検査、治療等が可能なカプセル型の医療装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のカプセル型医療装置は、経口投与されてから排泄されるまでの過程において被検者の検査や治療が行われる。しかし、従来のカプセル型医療装置は、体腔管路内の進行が受動的であり、例えば重力の影響を受けてその位置が不規則に変化することから、一定間隔に設定された対象部位を連続して検査したり、特定の対象部位に留まって治療を行ったりすることが困難であった。また、対象部位が十二指腸、小腸、大腸といった腸管である場合には、医療装置が消化物や体腔ガスの流通を妨げることもあり、被検者の体調に影響を与える場合がある。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、被験者に過度な負担を与えることなく、検査や治療を行う腸管の対象部位を一定の速さで移動させたり一定の時間に亘って留めたりすることのできる腸管壁保持装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様における腸管壁保持装置は、経口投入される腸管壁保持装置であって、形状記憶素材の索条で形成された保持基材を備え、保持基材は、経口投入時においては収縮した第1状態であり、刺激入力を受けた後には腸管壁の内壁面を索条の外周面で押圧すると共に腸管内の流通を確保する中空部を生じさせる第2状態に展開する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、被験者に過度な負担を与えることなく、検査や治療を行う腸管の対象部位を一定の速さで移動させたり一定の時間に亘って留めたりすることのできる腸管壁保持装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る腸管壁保持装置が、被検者の体内に取り込まれて対象部位に留まる様子を示す概念図である。
【
図2】大腸内で展開された腸管壁保持装置の様子を示す模式図である。
【
図3】本実施形態における腸管壁保持装置の第1状態と第2状態のそれぞれの外形形状を説明する模式図である。
【
図4】第1変形例における腸管壁保持装置の第1状態と第2状態のそれぞれの外形形状を説明する模式図である。
【
図5】第2変形例および第3変形例における腸管壁保持装置のデバイス配置を説明する模式図である。
【
図6】第4変形例における腸管壁保持装置の大腸内での変位動作を説明する模式図である。
【
図7】第4変形例における腸管壁保持装置が備える外周溝を説明する模式図である。
【
図8】第5変形例および第6変形例における腸管壁保持装置の破断促進構造を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。また、各図において、同一又は同様の構成を有する構造物が複数存在する場合には、煩雑となることを回避するため、一部に符号を付し、他に同一符号を付すことを省く場合がある。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。
【0010】
図1は、本実施形態に係る腸管壁保持装置100が、被検者の体内に取り込まれて対象部位において測定する様子を示す概念図である。本実施形態における腸管壁保持装置100は、被検者の口部から飲み込まれることにより体内に取り込まれる経口投入型の装置である。具体的には後述するが、腸管壁保持装置100は、収縮状態である第1状態で刺激入力を受けると展開状態である第2状態へ変化する。経口投入時においては、腸管壁保持装置100は収縮状態の第1状態に調製されており、被験者は腸管壁保持装置100を容易に飲み込むことができる。なお、被検者がより飲みやすいように、第1状態の腸管壁保持装置100を収容する腸溶性カプセルに収容するようにしてもよい。この場合、腸溶性カプセルが溶けた後に刺激入力を受け、第2状態へ変化することが望ましいが、腸溶性カプセルがある程度溶けた段階で刺激入力を受け、残存する腸溶性カプセルを突き破るように第2状態へ変化するようにしてもよい。
【0011】
腸管壁保持装置100は、体腔内管路の所定位置で刺激入力を感知すると第1状態から第2状態へ展開される。展開された腸管壁保持装置100は、装置に与えられた機能に応じて対象部位における測定や処置といった動作を実行する。対象部位は各種の腸管壁保持装置の用途ごとに定められ、例えば、十二指腸、小腸、大腸といった腸管が対象部位となり得る。本実施形態における腸管壁保持装置100は、その一例として大腸を対象部位として測定、処置し得るものである。他の種類の腸管壁保持装置は、それぞれの要素や構成が、対象部位の性質等に応じて適宜変更され得る。
【0012】
腸管壁保持装置100は、主にデバイス格納部110と保持基材170によって構成されている。デバイス格納部110は、保持基材の端部の少なくとも一方に設けられている。デバイス格納部110は、腸管壁保持装置100の用途によって決定される例えば温度測定ユニットなどであるデバイスを格納するモジュールである。デバイス格納部110は、デバイスや後述する発熱線へ電力を供給するバッテリを格納してもよい。保持基材170は、形状記憶素材の索条で形成されている。具体的には、例えば、温度応答性形状記憶ポリマー(SMP:Shape Memory Polymer)を素材としてワイヤ形状に調製し、それを螺旋状に巻回することにより形成される。
【0013】
温度応答性形状記憶ポリマーは、調整されたガラス転移温度(例えば35℃)より小さな温度ではプラスチック状に硬質であり,ガラス転移温度以上に温められるとゴム状に軟化しつつ、記憶されている形状に変化する。そして再びガラス転移温度より小さな温度に戻ると記憶されている形状を維持しつつプラスチック状に硬質となる。すなわち、本実施形態における保持基材170は、入力刺激として一時的にガラス転移温度よりも高い温度となる昇温刺激を受けると、第1状態から第2状態へ展開する。
【0014】
保持基材170は、ガラス転移温度以上に温められると螺旋の外形が拡張するように記憶されており、図示するように大腸910内で拡張して展開された第2状態では、大腸910の内壁面911を押圧する程度の大きさになる。具体的には、保持基材170は、内壁面911を索条の外周面で押圧する程度に拡張し、このように拡張された螺旋形状は、点線の矢印で示すように腸管内の流通を十分に確保する中空部を生じさせる。
【0015】
すなわち、索条の外周面が内壁面911を押圧する程度に拡張するので、腸管壁保持装置100は、その部位において半固定あるいは留置固定される。半固定は、索条の外周面が内壁面911を押圧する程度が軽度に抑えられるように設定された場合の固定であり、腸管壁保持装置100は、螺旋状に展開された第2状態で蠕動運動の作用を受け、下流方向(肛門へ向かう方向)へゆっくりと移動する。すなわち、例えば内視鏡カプセルのように重力の影響を受けて高速で移動したり屈曲部に滞留したりすることなく、比較的ゆっくりとした一定の速度で移動することが期待できる。腸管壁保持装置100は、このように内壁面911に対して半固定にされてゆっくり移動すれば、腸管内で一定間隔に設定された対象部位を連続して検査することができる。
【0016】
一方、留置固定は、索条の外周面が内壁面911を押圧する程度が強めに設定された場合の固定であり、腸管壁保持装置100は、螺旋状に展開された第2状態で特定の対象部位に留まる。腸管壁保持装置100は、このように内壁面911に対して留置固定にされれば、その特定の対象部位における経時的に変化する様子を観察したり、組織の切除などの処置を施したりすることができる。
【0017】
また、半固定される場合も留置固定される場合も、保持基材170が、例えば膨張されたバルーンのように腸管内を上流と下流に分断することがなく、腸管内の流通を十分に確保する中空部を有するので、消化物や体腔ガスの流通を妨げることがなく、被検者の負担を軽減することが期待できる。換言すれば、腸管壁保持装置100は、被検者の負担が少ないので腸管内をゆっくりと移動させたり特定の対象部位に一定時間に亘って留まらせたりすることができる。
【0018】
図2は、大腸内で展開された腸管壁保持装置100の様子を示す模式図である。保持基材170は、芯材として発熱線120を内蔵し、不図示のバッテリから発熱線120に電力が供給されるとSMPがガラス転移温度以上に昇温し、大腸910内で展開される。また、腸管壁保持装置100は、バッテリから発熱線120へ電力の供給を開始させる不図示の発動スイッチを備える。発動スイッチがオフからオンへ切り替わると発熱線120が発熱し、保持基材170がガラス転移温度以上となって第1状態から第2状態へ展開する。そして、設定された時間が経過すると発動スイッチがオンからオフへ切り替わり、発熱線120の発熱が停止し、保持基材170はガラス転移温度未満に戻って第2状態の形状が維持される。
【0019】
発動スイッチは、保持基材170の端部近傍に設けられた、外部環境の水素イオン濃度(pH)を検出するpHセンサ112が、予め設定されたpH範囲であることを検出した場合にオフからオンへ切り替わる。体腔管路におけるpHは、胃から腸へ向かって上昇することが知られており、大腸で発動スイッチをオンにしたい場合には、設定するpH範囲を大腸で検出されるpH範囲に合致させればよい。特に、胃から小腸へ進むと急激にpHが上昇するので、小腸を対象とする腸管壁保持装置の場合には、pHの変化量に着目して発動条件を設定してもよい。
【0020】
発動スイッチは、pHセンサ112の検出結果に基づいて発動する場合に限らず、様々な構成が考え得る。例えば、経口投入時に開始されたタイマーが所定時間に到達した場合に発動するように構成してもよい。この場合、腸管壁保持装置100を第1状態から第2状態へ展開させたい対象部位と被検者の腸内状態等の特性等を考慮して、タイマーの所定時間を設定すればよい。このように構成すれば、複雑な構成を備えることなく、所望の対象部位で腸管壁保持装置100を第1状態から第2状態へ展開することができる。
【0021】
あるいは、腸管壁保持装置100を運用する操作者が、手元の端末を操作することによって発信される励起信号を発動スイッチが検知してオフからオンへ切り替わるように構成してもよい。この場合、発動スイッチは、当該端末から発信される励起信号を検知する無線通信ユニットを含む。このように構成すれば、操作者は任意の対象部位で腸管壁保持装置100を第1状態から第2状態へ展開することができる。もちろん、発動スイッチはこれらの複数の構成を備えるようにしてもよい。
【0022】
大腸910は、図において模式的に示すように、所定の間隔ごとに半月ひだ912を有する。腸管壁保持装置100が2つの半月ひだ912の間に収まると、腸管壁保持装置100は、より安定的に内面壁911に第2状態へ展開される。なお、図の例においては、第2状態へ展開された保持基材170の螺旋構造は約2周(2巻き)分であるが、第2状態における巻き数は、腸管壁保持装置100の目的、用途等に応じて適宜変更し得る。なお、第2状態における巻き数を減らせば、第1状態における大きさも小型化することができるので、被検者は経口投入時に飲み込みやすくなる。
【0023】
上述のように、腸管壁保持装置100の端部にはデバイス格納部110が設けられており、デバイス格納部110には、例えば対象部位の温度を計測するための温度測定ユニット111が格納されている。温度測定ユニット111は、例えば温度センサ、センサ回路、メモリ等を含む。デバイス格納部110が温度測定ユニット111を収容する場合には、温度測定ユニット111が対象部位の温度を精度よく計測できるように、熱伝導性の高い素材でカバーするとともに、その表面を親水性コーティングで保護するとよい。
【0024】
格納部110に格納するデバイスは、温度測定ユニット111に限らず、対象部位を計測したり処置したりするデバイスであれば構わない。計測するデバイスとしては、カメラユニット、pHセンサ、ガスセンサ、特定の化学物質を検出するバイオセンサ等であってもよく、処置するデバイスとしては、薬剤を投与する機構や、病変部位を切除する電気メスや把持するクリップ等と、これらを病変部位へ接近させるアクチュエータであってもよい。例えば、カメラユニットは、撮像センサ、レンズ群、画像処理回路、メモリ、照明用LED等を含む。デバイス格納部110がカメラユニットを収容する場合には、カメラユニットが対象部位を鮮明に捉えられるように、透明樹脂の半球でカバーするとともに、その表面を親水性コーティングで保護するとよい。また、腸管壁保持装置100を被検者の腸管内のpHを計測する装置として利用する場合には、上述のpHセンサ112を発動スイッチとして用いると共に対象部位のpHを計測する計測センサとして用いてもよい。この場合、pHセンサ112は、上述のように保持基材170の端部近傍に設けてもよいし、格納部110に収容してもよい。また、デバイスは、センサやアクチュエータを制御する制御チップ、観察結果を記憶する記憶部や外部へ送信する無線ユニット等を含ませることができる。また、上述のバッテリ、発動スイッチ、タイマーも格納部110に格納され得る。
【0025】
次に、腸管壁保持装置100の第1状態と第2状態のそれぞれの外形形状について説明する。
図3は、本実施形態における腸管壁保持装置の第1状態と第2状態のそれぞれの外形形状を説明する模式図である。具体的には、第1状態については正面から観察した模式図を、第2状態については正面から観察した模式図と側方から観察した模式図を示す。
【0026】
図示するように腸管壁保持装置100は、第1状態において螺旋状である。螺旋の中心軸に沿う中心軸方向の長さをL1とし、中心軸に直交する幅の最大値(すなわち、螺旋の中心軸に直交する平面へ螺旋を投影したときの最大直径)をD1とすると、本実施形態における腸管壁保持装置100は、L1>D1の関係を満たす。このような関係を満たす場合に、第2状態に展開された場合に腸管壁の内壁面を押圧できる長さを確保しつつ、被検者が第1状態において腸管壁保持装置100を比較的容易に飲み込むことができることが検証された。一実施例としては、D1=11.0mmであり、L1=22.5mmである。
【0027】
図示するように、腸管壁保持装置100は、第2状態に展開された場合も螺旋状である。螺旋の中心軸に沿う中心軸方向の長さをL2とし、中心軸に直交する幅の最大値(すなわち、螺旋の中心軸に直交する平面へ螺旋を投影したときの最大直径)をD2とすると、本実施形態における腸管壁保持装置100は、L2>L1、D2>D1の関係を満たす。D2は、対象部位である大腸910の標準的な直径に応じて定められ、具体的には、半月ひだ912でない箇所における内面壁911を押圧する程度の直径に定められる。L2は、上述のように、2つの半月ひだ912の間に収まる長さに定められることが好ましい。一実施例としては、D2=40.0mmであり、L2=40.0mmである。なお、第1状態においても第2状態においても索条の直径であるφ1は変化することがなく、一実施例としては、φ1=3.0mmである。
【0028】
なお、本実施形態における腸管壁保持装置100の第2状態ではL2>D2であるが、L2=D2としてもよいし、D2>L2となるように構成してもよい。D2>L2となるように構成すれば、半月ひだ912に掛かる状態で展開される可能性を低減することができる。
【0029】
次に、腸管壁保持装置100が備える第1状態における経口投入時の飲み込みやすさ、第2状態における腸管内の流通確保といった利点を維持しつつ、新たな利点をもたらすいくつかの変形例について説明する。以下の各変形例については、上記の腸管壁保持装置100と同様の構成については同一の符番を付すことによりその説明を省略し、腸管壁保持装置100と相違する箇所について主に説明する。
【0030】
図4は、第1変形例における腸管壁保持装置101の第1状態と第2状態のそれぞれの外形形状を説明する模式図である。具体的には
図3と同様の図であり、第1状態については正面から観察した模式図を、第2状態については正面から観察した模式図と側方から観察した模式図を示す。
【0031】
図示するように腸管壁保持装置101は、第1状態において螺旋状である。螺旋の中心軸に沿う中心軸方向の長さをL3とし、中心軸に直交する幅の最大値(すなわち、螺旋の中心軸に直交する平面へ螺旋を投影したときの最大直径)をD3とすると、第1変形例における腸管壁保持装置101は、L3>D3の関係を満たす。このような関係は、腸管壁保持装置100の第1状態と同様であり、被検者が第1状態において腸管壁保持装置101を比較的容易に飲み込むことができる。一実施例としては、D3=11.0mmであり、L3=14.7mmである。
【0032】
図示するように、腸管壁保持装置101は、第2状態に展開されと円環状となる。この場合の円環状はC字状を含む。円環状に展開された第2状態では、円環の中心軸に沿う中心軸方向の長さは索条の直径であるφ2に等しい。なお、第2状態に展開される場合に、多少ねじれが生じても構わない。その場合、中心軸方向の長さはφ2よりもねじれの分だけ大きくなる。中心軸に直交する幅の最大値(すなわち、円環の中心軸に直交する平面へ円環を投影したときの最大直径)は、円環の直径に等しいD4である。D4は、対象部位である大腸910の標準的な直径に応じて定められ、具体的には、半月ひだ912でない箇所における内面壁911を押圧する程度の直径に定められる。一実施例としては、D4=40.0mmである。なお、第1状態においても第2状態においても索条の直径であるφ2は変化することがなく、一実施例としては、φ2=3.0mmである。
【0033】
このように、第1変形例における腸管壁保持装置101によれば、第2状態は円環状であるので、例えば第1状態から第2状態へ変化する過程において保持基材170が半月ひだ912と内面壁911の境界でガイドされ、腸管に対して立設するように展開させやすい。
【0034】
図5は、第2変形例における腸管壁保持装置102および第3変形例における腸管壁保持装置103のデバイス配置を説明する模式図である。具体的には、いずれの図も第2状態に展開されて内面壁911を押圧する保持基材172(第2変形例)、保持基材173(第3変形)の断面の様子を示す。
【0035】
上記の腸管壁保持装置100においては、デバイス格納部110は保持基材170の端部に設けられていた。しかし、対象部位を観察したり処置したりするデバイスの配置は、端部でない方が好ましい場合もある。そこで、第2状態に展開されたときの保持基材172の外周面のうち腸管壁である内壁面911と接する面を第1面、接しない面を第2面とすると、第2変形例における腸管壁保持装置102は、第2面の側にデバイス格納部130が設けられている。
【0036】
第2面の側に設けられたデバイス格納部130には、点線の矢印で示すように、腸管の内部空間側、あるいは対向する内壁面911を観察したり処置したりするデバイス131が格納されている。デバイス131は、例えば力覚センサを含み、腸内を通過する消化物の多寡を検出する。
【0037】
第2状態に展開されたときの保持基材173の外周面のうち腸管壁である内壁面911と接する面を第1面、接しない面を第2面とすると、第3変形例における腸管壁保持装置103は、第1面の側にデバイス格納部130が設けられている。
【0038】
第1面の側に設けられたデバイス格納部130には、点線の矢印で示すように、腸管の内壁面911を観察したり処置したりするデバイス132が格納されている。デバイス132は、例えば温度センサを含み、例えば所定の間隔ごとの内壁面911の表面温度の変化を検出する。あるいは、治療したい対象部位に直接的に薬剤を投与する薬剤投与デバイスであってもよい。
【0039】
なお、腸管壁保持装置102も腸管壁保持装置103も、それぞれのデバイス格納部130とは別に、腸管壁保持装置100と同様に端部にもデバイス格納部110を備えていてもよい。また、装備したいデバイスに応じて、保持基材の伸延方向に沿って複数のデバイス格納部を備えてもよく、このとき、第1面の側と第2面の側の両側にデバイス格納部を備える構成であってもよい。
【0040】
図6は、第4変形例における腸管壁保持装置104が大腸910内で変位する動作を説明する模式図である。図示するように、腸管壁保持装置104の保持基材174は、その伸延方向に沿って離散的に、例えばネオジウム磁石である磁石片140を複数備えている。
【0041】
図示するように大腸910内で第2状態に展開された腸管壁保持装置104は、駆動装置200で発生される磁気の作用により、大腸910内をその伸延方向に沿って進退するように変位する。具体的には、腸管壁保持装置104を運用する操作者は、手元の駆動装置200を被検者の大腸910近傍の体表面に近接させ、駆動装置200が内蔵する磁気発生ユニット210が駆動されるように操作する。磁気発生ユニット210は、操作者の操作を受け付けると、磁気を発生させつつ一方向に沿って駆動する。磁石片140は、このような磁気発生ユニット210が発生する磁気の作用により、保持基材174を、ひいては腸管壁保持装置104を腸管内で変位させる。このような磁石片140は、第2状態に展開された保持基材174を大腸910内で変位させるための駆動機構として作用する。
【0042】
なお、駆動機構の構成は保持基材174に離散的に配置された磁石片140に限らず、様々な構成を採用し得る。例えば、磁性ナノ粒子を含ませて保持基材174を形成してもよいし、外部の磁気発生ユニット210を利用しないのであれば、保持基材174自体に推進デバイスを設ける構成であってもよい。
【0043】
第2状態に展開されたときの保持基材174の外周面のうち内壁面911と接する第1面には、凹部としての外周溝150が設けられている。具体的には、外周溝150は、保持基材174の伸延方向と平行に2本設けられている。
【0044】
図7は、第4変形例における腸管壁保持装置104が備える外周溝150を説明する模式図である。具体的には、第2状態に展開されて内面壁911を押圧する保持基材174の断面の様子を示す。
【0045】
2本の外周溝150は、それぞれの開口のエッジ部分が内面壁911に掛かっており、保持基材174が点線の矢印で示す方向に進退すると、当該エッジ部分が内面壁911の細菌や細胞組織913を削り取って溝内部に収容する。すなわち、腸管壁保持装置104は、大腸910の表面に存在する細菌や細胞組織913などの物質をサンプリングするサンプリング装置として機能する。このようにサンプリングされた物質は、腸管壁保持装置104が体外へ排出された後に、検査等に供される。
【0046】
なお、第1面に設ける凹部の形状は、上記で説明した外周溝150に限らない。例えば、半球状の凹部が複数設けられていてもよい。また、細胞組織913を効率的に削り取ることができるように、例えばエッジ部分を波状に加工するなどしてもよい。また、保持基材174が備える駆動機構は、物質のサンプリングに利用するばかりでなく、腸管壁保持装置104を所望の位置へ移動させるために利用してもよい。所望の位置へ移動させるための駆動機構は、既に説明したそれぞれの腸管壁保持装置にも適用し得る。
【0047】
図8は、第5変形例における腸管壁保持装置105および第6変形例における腸管壁保持装置106の破断促進構造を説明する模式図である。これまで説明したそれぞれの腸管壁保持装置は、第2状態に展開された後に、例えば蠕動運動の作用を繰り返し受けることによって保持基材が破断し、破断により生じた小片は、内壁面911から剥がれ落ちることを想定している。これらの小片は発熱線120によって互いに接続されており、やがてまとめて体外へ排出される。第5変形例における腸管壁保持装置105および第6変形例における腸管壁保持装置106は、このような破断を短期間で生じさせる破断促進構造を有する。
【0048】
図8(a)は、第5変形例における腸管壁保持装置105が第2状態に展開された様子を示す。腸管壁保持装置105の保持基材175は、伸延方向に沿って複数設けられた縮径部161を有する。縮径部161は、他の部分よりも直径が小さく形成された部分である。縮径部161は、その幅に亘ってU字状やV字状に形成することができる。
【0049】
図8(b)は、第6変形例における腸管壁保持装置106が第2状態に展開された様子を示す。腸管壁保持装置106の保持基材176は、伸延方向に沿って複数の小片に分割されていると共に、隣り合う小片間が遅溶性素材のジョイント162によって接続されている。遅溶性素材としては、例えばニフェジピン(NFD)を利用することができる。遅溶性素材やジョイント162の大きさは、経口投与からの所望の分解目的時間に応じて決定される。
【0050】
第5変形例における腸管壁保持装置105や第6変形例における腸管壁保持装置106のように破断促進構造を有すると、第2状態に展開され、計測や処置が完了してから比較的早期に保持基材が破断し、速やかに体外へ排出されることが期待できる。
【0051】
なお、以上に説明したそれぞれの腸管壁保持装置は、第2状態へ展開した後に保持基材が破断し、やがて体外へ自然排泄されることを想定したが、体外への排出は、器具を用いて強制的に行ってもよい。例えば、肛門よりカテーテルを挿通して、当該カテーテルの先端部から突出する鉤部材を腸管壁保持装置に引っ掛け、体外へ引き抜くようにしてもよい。
【0052】
以上において説明したいずれの腸管壁保持装置も、形状記憶素材としてSMPを採用したが、形状記憶素材はSMPに限らず、例えば温度応答性形状記憶合金を採用してもよい。また、以上において説明したいずれの腸管壁保持装置も形状記憶素材を昇温させる素子として発熱線120を採用したが、形状記憶素材を昇温させる素子は発熱線120に限らず、例えば腸管内の酸に化学反応して発熱する素材を包含させるなどしてもよい。
【0053】
また、以上において説明したいずれの腸管壁保持装置も、被検者が第1状態の腸管壁保持装置を飲み込んで体内へ取り込む態様を想定したが、器具を用いて肛門から腸管内へ押し込み、目標位置へ到達させた後に入力刺激を与えて第1状態から第2状態へ展開するようにしてもよい。それぞれの腸管壁保持装置の第1状態は、多くの場合において、肛門から挿通させることについても支障がない。肛門側より腸管内へ到達させられれば、嚥下機能に問題を抱える被検者であっても、腸管壁保持装置を利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
100、101、102、103、104、105、106…腸管壁保持装置、110、130…デバイス格納部、111…温度測定ユニット、112…pHセンサ、120…発熱線、131、132…デバイス、140…磁石片、150…外周溝、161…縮径部、162…遅溶性ジョイント、170、172、173、174、175、176…保持基材、200…駆動装置、210…磁気発生ユニット、910…大腸、911…内壁面、912…半月ひだ、913…細胞組織