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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025038259
(43)【公開日】2025-03-19
(54)【発明の名称】積層体及び前駆体積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20250312BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20250312BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20250312BHJP
【FI】
B32B27/30 D
B32B7/027
B32B27/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017181
(22)【出願日】2022-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】邦本 旭史
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA20A
4F100AA20B
4F100AA37A
4F100AA37B
4F100AK07B
4F100AK18A
4F100AK18B
4F100AK19A
4F100AK71A
4F100AL01A
4F100AL01B
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA02A
4F100CA02B
4F100CA23A
4F100CA23B
4F100EJ05A
4F100EJ05B
4F100GB41
4F100JA05A
4F100JA05B
4F100JA06
4F100JB01
4F100JB13A
4F100JB13B
4F100JG04
4F100JK02
4F100JK06
4F100JK08
4F100JK12
4F100JL04
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】高温環境下で使用した後の寸法安定性に優れた積層体、及び、これの未架橋物である前駆体積層体の提供。
【解決手段】本発明の積層体は、第1架橋層と第2架橋層とを有する積層体であって、第1架橋層が、含フッ素共重合体A1の架橋物を含み、任意で非フッ素重合体A2の架橋物を含み、第2架橋層が、含フッ素共重合体B1の架橋物を含み、任意で非フッ素重合体B2の架橋物を含み、含フッ素共重合体A1を構成する単量体に基づく単位の組み合わせと、含フッ素共重合体B1を構成する単量体に基づく単位の組み合わせとが互いに異なり、含フッ素共重合体A1の架橋物と非フッ素重合体A2の架橋物との合計に対する、含フッ素共重合体A1の架橋物の含有量MCAが85質量%以上であり、含フッ素共重合体B1の架橋物と非フッ素重合体B2の架橋物との合計に対する、含フッ素共重合体B1の架橋物の含有量MCBが、85質量%以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1架橋層と、前記第1架橋層上に配置された第2架橋層と、を有する積層体であって、
前記第1架橋層が、含フッ素共重合体A1の架橋物を含み、任意で非フッ素重合体A2の架橋物を含み、
前記第2架橋層が、含フッ素共重合体B1の架橋物を含み、任意で非フッ素重合体B2の架橋物を含み、
前記含フッ素共重合体A1を構成する単量体に基づく単位の組み合わせと、前記含フッ素共重合体B1を構成する単量体に基づく単位の組み合わせとが、互いに異なり、
前記含フッ素共重合体A1の架橋物と前記非フッ素重合体A2の架橋物との合計に対する、前記含フッ素共重合体A1の架橋物の含有量MCAが、85質量%以上であり、
前記含フッ素共重合体B1の架橋物と前記非フッ素重合体B2の架橋物との合計に対する、前記含フッ素共重合体B1の架橋物の含有量MCBが、85質量%以上であることを特徴とする、積層体。
【請求項2】
前記MCAと前記MCBとの差の絶対値が、15質量%以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記含フッ素共重合体A1が、フッ化ビニリデンに基づく単位を含み、
前記含フッ素共重合体B1が、テトラフルオロエチレンに基づく単位と、プロピレンに基づく単位と、を含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記含フッ素共重合体A1及び前記含フッ素共重合体B1の少なくとも一方が、ヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記含フッ素共重合体A1及び前記含フッ素共重合体B1のガラス転移温度がいずれも、15℃以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記第1架橋層及び前記第2架橋層の少なくとも一方が、珪藻土の焼結体と、シリカと、を更に含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
前記第1架橋層が、前記非フッ素重合体A2の架橋物を含まず、
前記第2架橋層が、前記非フッ素重合体B2の架橋物を含まない、請求項1~6のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
第1組成物層と、前記第1組成物層上に配置された第2組成物層と、を有する前駆体積層体であって、
前記第1組成物層が、含フッ素共重合体A1と、架橋剤とを含み、任意で非フッ素重合体A2を含み、
前記第2組成物層が、含フッ素共重合体B1と、架橋剤とを含み、任意で非フッ素重合体B2を含み、
前記含フッ素共重合体A1を構成する単量体に基づく単位の組み合わせと、前記含フッ素共重合体B1を構成する単量体に基づく単位の組み合わせとが、互いに異なり、
前記含フッ素共重合体A1と前記非フッ素重合体A2との合計に対する、前記含フッ素共重合体A1の含有量MPAが、85質量%以上であり、
前記含フッ素共重合体B1と前記非フッ素重合体B2との合計に対する、前記含フッ素共重合体B1の含有量MPBが、85質量%以上であることを特徴とする、前駆体積層体。
【請求項9】
前記MPAと前記MPBとの差の絶対値が、15質量%以下である、請求項8に記載の前駆体積層体。
【請求項10】
前記含フッ素共重合体A1が、フッ化ビニリデンに基づく単位を含み、
前記含フッ素共重合体B1が、テトラフルオロエチレンに基づく単位と、プロピレンに基づく単位と、を含む、請求項8又は9に記載の前駆体積層体。
【請求項11】
前記含フッ素共重合体A1及び前記含フッ素共重合体B1の少なくとも一方が、ヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を有する、請求項8~10のいずれか1項に記載の前駆体積層体。
【請求項12】
前記含フッ素共重合体A1及び前記含フッ素共重合体B1のガラス転移温度がいずれも、15℃以下である、請求項8~11のいずれか1項に記載の前駆体積層体。
【請求項13】
前記第1組成物層及び前記第2組成物層の少なくとも一方が、珪藻土の焼結体と、シリカと、を更に含む、請求項8~12のいずれか1項に記載の前駆体積層体。
【請求項14】
前記第1組成物層が、前記非フッ素重合体A2を含まず、
前記第2組成物層が、前記非フッ素重合体B2を含まない、請求項8~13のいずれか1項に記載の前駆体積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及び前駆体積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素共重合体は、耐熱性、耐薬品性、耐油性、耐候性及び電気絶縁性等に優れる点から、多様な分野で用いられている。含フッ素共重合体は、様々な重合体と積層して用いられることがある。含フッ素共重合体を用いた積層体として、特許文献1には、フッ素ゴム及びアクリルゴムを含むゴム層(1)と、フッ素ゴムを含むゴム層(2)と、を有する積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第98/036901号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
含フッ素共重合体を用いた積層体は低温環境下だけでなく、高温環境下でも使用されることがあるため、耐熱性が求められる。本発明者らが特許文献1に記載されているような積層体を評価したところ、耐熱性の一つと考えられる高温環境下で使用した後の寸法安定性について改善の余地があることを見出した。具体的には、特許文献1に記載されているような積層体を高温環境下で使用すると、積層体を構成する層が縮むことがあった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされ、高温環境下で使用した後の寸法安定性に優れた積層体、及び、これの未架橋物である前駆体積層体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、含フッ素共重合体Aと任意で非フッ素重合体とを含む第1架橋層と、含フッ素共重合体Bと任意で非フッ素重合体とを含む第2架橋層と、を有する積層体において、含フッ素共重合体Aの架橋物の含有量MCA及び含フッ素共重合体Bの架橋物の含有量MCBがいずれも特定値以上であれば、高温環境下で使用した後の寸法安定性に優れることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
[1] 第1架橋層と、前記第1架橋層上に配置された第2架橋層と、を有する積層体であって、
前記第1架橋層が、含フッ素共重合体A1の架橋物を含み、任意で非フッ素重合体A2の架橋物を含み、
前記第2架橋層が、含フッ素共重合体B1の架橋物を含み、任意で非フッ素重合体B2の架橋物を含み、
前記含フッ素共重合体A1を構成する単量体に基づく単位の組み合わせと、前記含フッ素共重合体B1を構成する単量体に基づく単位の組み合わせとが、互いに異なり、
前記含フッ素共重合体A1の架橋物と前記非フッ素重合体A2の架橋物との合計に対する、前記含フッ素共重合体A1の架橋物の含有量MCAが、85質量%以上であり、
前記含フッ素共重合体B1の架橋物と前記非フッ素重合体B2の架橋物との合計に対する、前記含フッ素共重合体B1の架橋物の含有量MCBが、85質量%以上であることを特徴とする、積層体。
[2] 前記MCAと前記MCBとの差の絶対値が、15質量%以下である、[1]に記載の積層体。
[3] 前記含フッ素共重合体A1が、フッ化ビニリデンに基づく単位を含み、
前記含フッ素共重合体B1が、テトラフルオロエチレンに基づく単位と、プロピレンに基づく単位と、を含む、[1]又は[2]に記載の積層体。
[4] 前記含フッ素共重合体A1及び前記含フッ素共重合体B1の少なくとも一方が、ヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
[5] 前記含フッ素共重合体A1及び前記含フッ素共重合体B1のガラス転移温度がいずれも、15℃以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の積層体。
[6] 前記第1架橋層及び前記第2架橋層の少なくとも一方が、珪藻土の焼結体と、シリカと、を更に含む、[1]~[5]のいずれかに記載の積層体。
[7] 前記第1架橋層が、前記非フッ素重合体A2の架橋物を含まず、
前記第2架橋層が、前記非フッ素重合体B2の架橋物を含まない、[1]~[7]のいずれか1項に記載の積層体。
[8] 第1組成物層と、前記第1組成物層上に配置された第2組成物層と、を有する前駆体積層体であって、
前記第1組成物層が、含フッ素共重合体A1と、架橋剤とを含み、任意で非フッ素重合体A2を含み、
前記第2組成物層が、含フッ素共重合体B1と、架橋剤とを含み、任意で非フッ素重合体B2を含み、
前記含フッ素共重合体A1を構成する単量体に基づく単位の組み合わせと、前記含フッ素共重合体B1を構成する単量体に基づく単位の組み合わせとが、互いに異なり、
前記含フッ素共重合体A1と前記非フッ素重合体A2との合計に対する、前記含フッ素共重合体A1の含有量MPAが、85質量%以上であり、
前記含フッ素共重合体B1と前記非フッ素重合体B2との合計に対する、前記含フッ素共重合体B1の含有量MPBが、85質量%以上であることを特徴とする、前駆体積層体。
[9] 前記MPAと前記MPBとの差の絶対値が、15質量%以下である、[8]に記載の前駆体積層体。
[10] 前記含フッ素共重合体A1が、フッ化ビニリデンに基づく単位を含み、
前記含フッ素共重合体B1が、テトラフルオロエチレンに基づく単位と、プロピレンに基づく単位と、を含む、[8]又は[9]に記載の前駆体積層体。
[11] 前記含フッ素共重合体A1及び前記含フッ素共重合体B1の少なくとも一方が、ヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を有する、[8]~[10]のいずれかに記載の前駆体積層体。
[12] 前記含フッ素共重合体A1及び前記含フッ素共重合体B1のガラス転移温度がいずれも、15℃以下である、[8]~[11]のいずれかに記載の前駆体積層体。
[13] 前記第1組成物層及び前記第2組成物層の少なくとも一方が、珪藻土の焼結体と、シリカと、を更に含む、[8]~[12]のいずれかに記載の前駆体積層体。
[14] 前記第1組成物層が、前記非フッ素重合体A2を含まず、
前記第2組成物層が、前記非フッ素重合体B2を含まない、[8]~[13]のいずれかに記載の前駆体積層体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温環境下で使用した後の寸法安定性に優れた積層体、及び、これの未架橋物である前駆体積層体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における用語の意味は以下の通りである。
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において、各成分は、各成分に該当する物質を1種単独でも用いても、2種以上を併用してもよい。ここで、各成分について2種以上の物質を併用する場合、その成分についての含有量とは、特段の断りが無い限り、併用した物質の合計の含有量を指す。
本明細書において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
「単位」とは、単量体が重合して直接形成された、上記単量体1分子に由来する原子団と、上記原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。「単量体に基づく単位」は、以下、単に「単位」ともいう。
「ゴム」とは、JIS K 6200:2008により定義される性質を示すゴムを意味し、「樹脂」とは区別される。
「ガラス転移温度」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定される中間点ガラス転移温度である。「ガラス転移温度」は、「Tg」ともいう。
【0010】
[積層体]
本発明の積層体(以下、「本積層体」ともいう。)は、第1架橋層と、上記第1架橋層上に配置された第2架橋層と、を有する積層体であって、上記第1架橋層が、含フッ素共重合体A1の架橋物を含み、任意で非フッ素重合体A2の架橋物を含み、上記第2架橋層が、含フッ素共重合体B1の架橋物を含み、任意で非フッ素重合体B2の架橋物を含む。
また、本積層体において、上記含フッ素共重合体A1を構成する単量体に基づく単位の組み合わせと、上記含フッ素共重合体B1を構成する単量体に基づく単位の組み合わせとが、互いに異なる。
また、本積層体において、上記含フッ素共重合体A1の架橋物と上記非フッ素重合体A2の架橋物との合計に対する、上記含フッ素共重合体A1の架橋物の含有量MCAが85質量%以上であり、上記含フッ素共重合体B1の架橋物と上記非フッ素重合体B2の架橋物との合計に対する、上記含フッ素共重合体B1の架橋物の含有量MCBが85質量%以上である。
【0011】
本積層体は、高温環境下で使用した後の寸法安定性に優れる。
含フッ素共重合体の架橋物は耐熱性に優れるので、MCA及びMCBがいずれも85質量%以上であることで、第1架橋層及び第2架橋層の熱収縮が十分に小さくなる結果、本積層体を高温環境下で保存後の寸法変化が小さくなったと推測される。
【0012】
〔第1架橋層〕
第1架橋層は、含フッ素共重合体A1の架橋物を含み、任意で非フッ素重合体A2の架橋物を含む。
【0013】
<含フッ素共重合体A1>
含フッ素共重合体A1は、フッ素原子を有し、2種以上の単量体に基づく単位を含むコポリマーであり、架橋によってゴムの性質を示す。すなわち、含フッ素共重合体A1の架橋物は、ゴムの性質を示す。
【0014】
含フッ素共重合体A1は、燃料透過耐性に優れる点及び低温環境下でのゴム特性に優れる点から、フッ化ビニリデン(以下、「VdF」ともいう。)単位を有することが好ましく、VdF単位と、ヘキサフルオロプロピレン(以下、「HFP」ともいう。)単位とを有することがより好ましく、VdF単位と、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」ともいう。)単位と、HFP単位とを有することが更に好ましい。
【0015】
含フッ素共重合体A1は、上記以外の単量体(以下、「他の単量体」ともいう。)に基づく単位を有していてもよい。他の単量体の具体例としては、重合性不飽和結合を2個以上有する単量体(以下、「単量体a」ともいう。)、クロロトリフルオロエチレン(以下、「CTFE」ともいう。)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、(Z)-1-クロロー2,3,3,3,-トラフルオロプロペン(HCFO-1224yd(Z))、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、「PAVE」ともいう。)、下式(5)で表される単量体、エチレン、プロピレンが挙げられる。また、上記以外の単量体であって、ハロゲン原子を有する単量体(以下、「他のハロゲン原子を有する単量体」ともいう。)も挙げられる。
【0016】
重合性不飽和結合の具体例としては、炭素原子-炭素原子の二重結合(C=C)、炭素原子-炭素原子の三重結合(C≡C)が挙げられる。
単量体aにおける重合性不飽和結合の数は、重合反応性がより優れる点から、2~6個が好ましく、2又は3個がより好ましく、2個が特に好ましい。
単量体aは、さらにフッ素原子を有するのが好ましい。
【0017】
単量体aは、式(1)で表される単量体であることが好ましい。
(CR1112=CR13a114 (1)
式(1)中、R11、R12及びR13はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基を示し、a1は2~6の整数を示し、R14は、a1価の炭素数1~10のパーフルオロ炭化水素基、又は該パーフルオロ炭化水素基の末端もしくは炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子を有する基を示す。複数のR11、複数のR12及び複数のR13はそれぞれ、互いに同一であっても異なっていてもよく、互いに同一であるのが特に好ましい。
a1は2又は3が好ましく、2が特に好ましい。
【0018】
単量体aの重合反応性がより優れる点から、R11、R12、R13がフッ素原子又は水素原子であるのが好ましく、R11、R12、R13の全てがフッ素原子であるか水素原子であるのがより好ましく、硬化物の耐熱性及び耐薬品性の点から、R11、R12、R13の全てがフッ素原子であるのが特に好ましい。
14は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよく、直鎖状又は分岐鎖状が好ましく、直鎖状が特に好ましい。R14の炭素数は、2~10が好ましく、3~8がより好ましく、3~6がさらに好ましく、3~5が特に好ましい。
14は、エーテル性酸素原子を有していても、有していなくてもよいが、架橋反応性やゴム物性がより優れる点から、エーテル性酸素原子を有しているのが好ましい。
14におけるエーテル性酸素原子の数は1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1又は2が特に好ましい。R14におけるエーテル性酸素原子は、R14の末端に存在していることが好ましい。
【0019】
式(1)で表される単量体のうち、好適な単量体の具体例としては、式(2)で表される単量体、式(3)で表される単量体が挙げられる。
【0020】
(CF=CF)21 (2)
式(2)中、R21は、2価の炭素数2~10のパーフルオロアルキレン基、又は該パーフルオロアルキレン基の末端もしくは炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子を有する基を示す。
【0021】
式(2)で表される単量体の具体例としては、CF=CFO(CFOCF=CF、CF=CFO(CFOCF=CF、CF=CFO(CFOCF=CF、CF=CFO(CFOCF=CF2、CF=CFO(CFOCF=CF、CF=CFO(CFOCF(CF)CFOCF=CF、CF=CFO(CFO(CF(CF)CFO)CF=CF、CF=CFOCFO(CFCFO)CF=CF、CF=CFO(CFO)O(CF(CF)CFO)CF=CF、CF=CFOCFCF(CF)O(CFOCF(CF)CFOCF=CF、CF=CFOCFCFO(CFO)CFCFOCF=CFが挙げられる。
式(2)で表される単量体のうち、より好適な単量体の具体例としては、CF=CFO(CFOCF=CF(以下、「C3DVE」ともいう。)、CF=CFO(CFOCF=CF(以下、「C4DVE」又は「PBDVE」ともいう。)が挙げられる。
【0022】
(CH=CH)31 (3)
式(3)中、R31は、2価の炭素数2~10のパーフルオロアルキレン基、又は該パーフルオロアルキレン基の末端もしくは炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子を有する基を示す。
【0023】
式(3)で表される単量体の具体例としては、CH=CH(CFCH=CH、CH=CH(CFCH=CH、CH=CH(CFCH=CHが挙げられる。
式(3)で表される単量体のうち、より好適な単量体の具体例としては、CH=CH(CFCH=CH(以下、「C6DV」ともいう。)が挙げられる。
【0024】
単量体aを共重合させると、重合中に単量体aの末端にある重合性二重結合が反応して、分岐鎖を有する含フッ素共重合体A1が得られる。
【0025】
PAVE単位は、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位である。
PAVEは、重合反応性及びゴム物性に優れる点から、式(4)で表される単量体が好ましい。
CF=CF-O-Rf4 (4)
式(4)中、Rf4は、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基を示す。Rf4の炭素数は、重合反応性がより優れる点から、1~8が好ましく、1~6がより好ましく、1~5がさらに好ましく、1~3が特に好ましい。
パーフルオロアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0026】
PAVEの具体例としては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(以下、「PMVE」ともいう。)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(以下、「PEVE」ともいう。)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(以下、「PPVE」ともいう。)が挙げられ、これらの中でも、PMVE、PPVEが好ましい。
【0027】
式(5)は下記の通りである。
CF=CF-O-Rf5 (5)
式(5)中、Rf5は、炭素数1~8のエーテル性酸素原子を1~5個含むパーフルオロアルキル基を示す。Rf5の炭素数は、1~6が好ましく、1~5が特に好ましい。
【0028】
式(5)で表される単量体の具体例としては、パーフルオロ(3,6-ジオキサ-1-ヘプテン)、パーフルオロ(3,6-ジオキサ-1-オクテン)、パーフルオロ(5-メチル-3,6-ジオキサ-1-ノネン)が挙げられる。
【0029】
他のハロゲン原子を有する単量体としては、ヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を有する単量体が好ましい。このような単量体の具体例としては、CF=CFBr、CH=CHCFCFBr、CF=CF-O-CFCF-I、CF=CF-O-CFCF-Br、CF=CF-O-CFCFCH-I、CF=CF-O-CFCFCH-Br、CF=CF-O-CFCF(CF)-O-CFCFCH-I、CF=CF-O-CFCF(CF)-O-CFCFCH-Brが挙げられる。
【0030】
含フッ素共重合体A1がVdF単位を含む場合の含有量は、含フッ素共重合体A1の全単位に対して、45~70モル%が好ましく、50~60モル%がより好ましい。
含フッ素共重合体A1がTFE単位を含む場合の含有量は、含フッ素共重合体A1の全単位に対して、10~25モル%が好ましく、20~22モル%がより好ましい。
含フッ素共重合体A1がHFP単位を含む場合の含有量は、含フッ素共重合体A1の全単位に対して、15~30モル%が好ましく、20~28モル%がより好ましい。
含フッ素共重合体A1が他の単量体単位を含む場合の含有量は、含フッ素共重合体A1の全単位に対して、0.1~5モル%が好ましく、0.1~3モル%がより好ましい。
【0031】
含フッ素共重合体A1に含まれる各単位の好適な組み合わせを以下に示す。
組み合わせ1-1:VdF単位と、TFE単位と、HFP単位と、の組み合わせ
組み合わせ1-2:VdF単位と、HFP単位と、の組み合わせ
【0032】
組み合わせ1-1、1-2における共重合組成は、下記のモル比であるのが好ましい。下記のモル比であると、共重合体の架橋反応性が優れ、さらに架橋物の燃料透過耐性、低温環境下でのゴム特性等がより優れる。
組み合わせ1-1:VdF単位/TFE単位/HFP単位=45~70/10~25/15~30(モル比)
組み合わせ1-2:VdF単位/HFP単位=70~80/20~30(モル比)
【0033】
含フッ素共重合体A1は、ヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を有することが好ましい。ヨウ素原子及び臭素原子は、後述する有機過酸化物と反応し、含フッ素共重合体A1を架橋する際の架橋部位となる。ヨウ素原子及び臭素原子は、反応性がよいので、架橋速度が速い。ヨウ素原子及び臭素原子を有する含フッ素共重合体A1を有機過酸化物で架橋すると、得られる架橋物は耐薬品性に優れる。また、第1架橋層と第2架橋層との接着性を向上できる。
含フッ素共重合体A1が有し得るヨウ素原子又は臭素原子としては、後述のヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を有する連鎖移動剤に由来するヨウ素原子又は臭素原子、上述のヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を有する単量体に基づく単位中のヨウ素原子又は臭素原子が挙げられる。中でも、後述のヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を有する連鎖移動剤に由来するヨウ素原子又は臭素原子であるのが好ましい。
連鎖移動剤を用いた場合、含フッ素共重合体(高分子鎖)の末端にヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を導入できる。
ヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を有する単量体を用いた場合、含フッ素共重合体の側鎖にヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を導入できる。
【0034】
含フッ素共重合体A1は、ヨウ素原子及び臭素原子のうち、含フッ素共重合体A1の架橋反応性の点から、ヨウ素原子を有するのが好ましい。
【0035】
含フッ素共重合体A1がヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を有する場合、ヨウ素原子及び臭素原子の含有量の合計は、含フッ素共重合体A1の全質量に対して、0.01~5.0質量%が好ましく、0.05~2.0質量%がより好ましく、0.1~1.0質量%が特に好ましい。含有量の合計が上記範囲にあると、含フッ素共重合体A1の架橋反応性が向上して、架橋物の機械特性が優れる。
なお、ヨウ素原子及び臭素原子の含有量の合計とは、一方の原子のみを含む場合には一方の原子の含有量を意味し、両方の原子を含む場合には各原子の含有量の合計を意味する。
【0036】
含フッ素共重合体A1の架橋物は、例えば、後述の架橋剤等の存在下において、上述の含フッ素共重合体A1を加熱することによって得られる。
【0037】
含フッ素共重合体A1の架橋物と後述する非フッ素重合体A2の架橋物との合計に対する、含フッ素共重合体A1の架橋物の含有量MCAは、85質量%以上であり、本積層体を高温環境下で使用した後の寸法安定性がより優れる点から、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
ここで、含フッ素共重合体A1の架橋物と非フッ素重合体A2の架橋物との合計とは、第1架橋層が非フッ素重合体A2の架橋物を含まない場合には、含フッ素共重合体A1の架橋物の含有量を意味する。
CAは、100質量%であることが好ましい。すなわち、第1架橋層は、非フッ素重合体A2の架橋物を含まないことが好ましい。これにより、本積層体を高温環境下で使用した後の寸法安定性がより優れる。
【0038】
第1架橋層中における、含フッ素共重合体A1の架橋物の含有量、及び、非フッ素重合体A2の含有量の測定方法は、後述の実施例欄に記載の通りである。
【0039】
含フッ素共重合体A1の架橋物の含有量は、本積層体を高温環境下で使用した後の寸法安定性がより優れる点から、第1架橋層の全質量に対して、60~90質量%が好ましく、64~90質量%がより好ましく、68~83質量%が更に好ましい。
【0040】
(含フッ素共重合体A1の物性)
含フッ素共重合体A1のTgは、含フッ素共重合体A1の架橋物のゴムとしての性質が十分に発現する点から、15℃以下が好ましく、-30~15℃が好ましく、-20~-5℃がより好ましい。
【0041】
(含フッ素共重合体A1の製造方法)
含フッ素共重合体A1の製造方法の一例としては、連鎖移動剤及びラジカル重合開始剤の存在下、上記単量体を重合する方法が挙げられる。
【0042】
連鎖移動剤としては、ヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を有する連鎖移動剤、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の鎖状又は環状のアルカン、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、tert-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、n-オクタデシルメルカプタン等のメルカプタン類が挙げられる。中でも、含フッ素共重合体A1の架橋反応性の点から、ヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を有する連鎖移動剤が好ましい。
連鎖移動剤は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0043】
ヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を有する連鎖移動剤の具体例としては、I-Rf6-I(式中、Rf6は、炭素原子数1~8のパーフルオロアルキレン基又は炭素原子数2~8のパーフルオロオキシアルキレン基を表す。)で表される化合物、I-Rf7-Br(式中、Rf7は、炭素原子数1~8のパーフルオロアルキレン基又は炭素原子数2~8のパーフルオロオキシアルキレン基を表す。)で表される化合物、I-R-I(式中、Rは、炭素原子数1~8のアルキレン基又は炭素原子数2~8のオキシアルキレン基を表す。)で表される化合物が挙げられる。
I-Rf6-Iの具体例としては、ジヨードジフルオロメタン、1,2-ジヨードパーフルオロエタン、1,3-ジヨードパーフルオロプロパン、1,4-ジヨードパーフルオロブタン、1,5-ジヨードパーフルオロペンタン、1,6-ジヨードパーフルオロヘキサン、1,7-ジヨードパーフルオロヘプタン、1,8-ジヨードパーフルオロオクタンが挙げられる。中でも、1,4-ジヨードパーフルオロブタン、1,6-ジヨードパーフルオロヘキサンが好ましく、1,4-ジヨードパーフルオロブタンが特に好ましい。
I-Rf7-Brの具体例としては、1-ヨード-4-ブロモパーフルオロブタン、1-ヨード-6-ブロモパーフルオロヘキサン、1-ヨード-8-ブロモパーフルオロオクタンが挙げられる。中でも、1-ヨード-4-ブロモパーフルオロブタン、1-ヨード-6-ブロモパーフルオロヘキサンが好ましく、1-ヨード-4-ブロモパーフルオロブタンが特に好ましい。
I-R-Iの具体例としては、1,2-ジヨードエタン、1,3-ジヨードプロパン、1,4-ジヨードブタン、1,5-ジヨードペンタン、1,6-ジヨードヘキサン、1,8-ジヨードオクタンが挙げられる。
これらのヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を有する連鎖移動剤の存在下に上記単量体を重合させると、含フッ素共重合体にヨウ素原子及び/又は臭素原子を導入できる。
【0044】
ヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を有する連鎖移動剤を使用する場合の仕込み量は、含フッ素共重合体A1の重合に使用する単量体の全仕込み量100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、0.5~17質量部がより好ましく、2~15質量部が特に好ましい。0.1質量部以上であれば、重合時間を短縮できる。また、20質量部以下であれば、含フッ素共重合体A1の架橋物のゴム物性が良好となる。
【0045】
重合温度は、単量体の組成、ラジカル重合開始剤の分解温度等により適宜選択される。重合温度は、0~60℃が好ましく、10~50℃がより好ましく、20~40℃が特に好ましい。
【0046】
含フッ素共重合体A1の製造時に使用する上記以外の成分、製造方法の詳細については、例えば特許第4089923号の実施例、特許第3860114号、特許第5744902号に記載の方法を参照できる。
【0047】
<非フッ素重合体A2>
非フッ素重合体A2は、フッ素原子を含まないポリマーであり、架橋によってゴムの性質を示すことが好ましい。すなわち、非フッ素重合体A2の架橋物は、ゴムの性質を示すことが好ましい。
非フッ素重合体A2の具体例としては、(メタ)アクリル酸エステル重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、シリコーン系重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、クロロプレン重合体、イソブチレン-イソプレン共重合体、イソプレン重合体、ブタジエン重合体、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴムが挙げられる。中でも、耐熱性、入手性、経済性の点から、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体が好ましい。
【0048】
非フッ素重合体A2の架橋物は、例えば、後述の架橋剤等の存在下において、上述の比フッ素重合体A2を加熱することによって得られる。
ここで、非フッ素重合体A2の架橋物は任意成分であるので、第1架橋層は、非フッ素重合体A2の架橋物を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。加工しやすくしたい場合や、低温耐性をよくしたい場合に、非フッ素重合体A2の架橋物を第1架橋層に加えてもよい。非フッ素重合体A2の架橋物を含む第1架橋層を有する積層体は、150℃未満の環境下で使用されることが好ましい。また、非フッ素重合体A2の架橋物を含む第1架橋層を有する積層体は、該第1架橋層が薬液に触れないように使用することが好ましい。
非フッ素重合体A2の架橋物の含有量は、本積層体を高温環境下で使用した後の寸法安定性がより優れる点から、第1架橋層の全質量に対して、11質量%以下が好ましく、7質量%以下がより好ましく、0質量%(すなわち、第1架橋層が非フッ素重合体A2の架橋物を含まないこと)が更に好ましい。
【0049】
非フッ素重合体A2のTgは、非フッ素重合体A2の架橋物のゴムとしての性質が十分に発現する点から、15℃以下が好ましく、-50~15℃が好ましく、-30~10℃がより好ましい。
【0050】
<他の成分>
第1架橋層は、含フッ素共重合体A1の架橋物及び非フッ素重合体A2の架橋物以外の他の成分を含んでいてもよい。このような成分の具体例としては、含フッ素共重合体A1の未架橋物(すなわち、上述の含フッ素共重合体A1)、非フッ素重合体A2の未架橋物(すなわち、上述の非フッ素重合体A2)、未反応の架橋剤、珪藻土の焼結体、シリカが挙げられる。
また、上記以外の他の成分の具体例としては、未反応の架橋助剤(例えば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート)、未反応の受酸剤(例えば、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、2価金属の酸化物(酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化鉛等))、充填剤(例えば、カーボンブラック、硫酸バリウム、メタケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、二酸化珪素、クレー、タルク)、スコーチ遅延剤(例えば、o-フェニルフェノール、ビスフェノールA等のフェノール性水酸基含有化合物類、ハイドロキノン等のキノン類、2,4-ジ(3-イソプロピルフェニル)-4-メチル-1-ペンテン等のα-メチルスチレンダイマー類)、クラウンエーテル(例えば、18-クラウン-6)、可塑剤(例えば、アジピン酸エーテルエステル化合物)、加工助剤(例えば、オレイン酸グリセリド)が挙げられる。
【0051】
第1架橋層が他の成分を含む場合、他の成分の含有量は、第1架橋層の全質量に対して、20~32質量%が好ましく、20~31質量%がより好ましく、20~30質量%が更に好ましい。
【0052】
(架橋剤)
架橋剤の具体例としては、有機過酸化物、アミン系架橋剤が挙げられ、得られる架橋物が耐薬品性に優れることから、有機過酸化物が好ましい。
有機過酸化物の具体例としては、ジアルキルパーオキシド類、α,α’-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-m-ジイソプロピルベンゼン、ベンゾイルパーオキシド、tert-ブチルパーオキシベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ビス2,4―ジクロロベンゾイルパーオキサイドが挙げられる。ジアルキルパーオキシド類の具体例としては、1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロキシパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、tert-ブチルパーオキシマレイン酸、tert-ブチルパーオキシソプロピルカーボネートが挙げられる。
アミン系架橋剤の具体例としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンテトラミン等の脂肪族ポリアミン類、p-フェニレンジアミン、クメンジアミン、N,N’-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサンジアミン等の芳香族ポリアミン類、エチレンジアミンカーバメート、ヘキサメチレンジアミンカーバメート等のアミンカルバミン酸塩類が挙げられる。
【0053】
(珪藻土の焼結体)
第1架橋層は、第1架橋層と第2架橋層との接着性をより向上できる点から、珪藻土の焼結体を含むことが好ましい。
【0054】
珪藻土の焼結体は、珪藻土を焼成することによって得られる。珪藻土は、主に珪藻の殻からなる軟質の岩石又は土壌であり、シリカを主成分として含み、さらにアルミナ及び酸化鉄等を含む。
珪藻土の焼結体は、炭酸ナトリウム等の炭酸塩の存在下で珪藻土を焼成して得られた焼結体であるセライト(Celite(登録商標))が好ましい。
珪藻土の焼結体の具体例としては、Celite 350、Celite 505、Celite 512、Celite577、Standard Super-Cel(いずれもCelite Corporation社製)が挙げられる。
【0055】
第1架橋層が珪藻土の焼結体を含む場合、珪藻土の焼結体の含有量は、第1架橋層と第2架橋層との接着性がより優れる点から、含フッ素共重合体A1の架橋物の100質量部に対して、1~10質量部が好ましく、2~10質量部がより好ましく、5~10質量部が更に好ましい。
第1架橋層が珪藻土の焼結体を含む場合、珪藻土の焼結体の含有量は、第1架橋層の全質量に対して、1~10質量%が好ましく、2~9質量%がより好ましく、3~8質量%が更に好ましい。
【0056】
(シリカ)
第1架橋層は、第1架橋層と第2架橋層との接着性をより向上できる点から、シリカを含むことが好ましい。
シリカとしては、疎水性シリカ及び親水性シリカのいずれを用いてもよいが、第1架橋層と第2架橋層との接着性をより向上できる点、及び、含フッ素共重合体の架橋物のゴム物性の低下を抑制できる点から、親水性シリカであることが好ましい。
ここで、疎水性シリカとは、ヘキサメチルジシラザン、シリコーンオイル等を用いて疎水化処理されたシリカを意味する。
また、親水性シリカとは、上記疎水化処理がされていないシリカであり、具体的には、その表面にシラノール基等の親水性基を有するシリカを意味する。
【0057】
シリカ(特に親水性シリカ)のBET法による比表面積は、第1架橋層と第2架橋層との接着性をより向上できる点から、20m/g以上が好ましく、30~1000m/gがより好ましく、70~500m/gが更に好ましく、100~450m/gが特に好ましく、さらには、150~400m/g以下が好ましく、175~350m/gがより好ましい。
【0058】
シリカ(特に親水性シリカ)の見かけ比重は、第1架橋層と第2架橋層との接着性をより向上できる点から、20~300g/Lが好ましく、30~250g/Lがより好ましく、40~200g/Lがさらに好ましい。見かけ比重が上記範囲内であると、含フッ素共重合体の架橋物の伸びの低下を抑制し、良好な硬度が得られる。
【0059】
シリカの平均一次粒子径は、第1架橋層と第2架橋層との接着性をより向上できる点から、5~50nmが好ましく、6~45nmがより好ましく、7~40nmが更に好ましい。シリカの平均一次粒子径が上記範囲内にあれば、第2架橋層中におけるシリカの均一分散性に優れる。
シリカは、市販品として入手可能であり、例えばAEROSIL 50、200、300(以上、全て日本アエロジル社製)等の親水性シリカが挙げられる。
シリカは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0060】
第1架橋層がシリカを含む場合、シリカの含有量は、第1架橋層と第2架橋層との接着性をより向上できる点から、含フッ素共重合体A1の架橋物の100質量部に対して、1~10質量部が好ましく、2~10質量部がより好ましく、5~10質量部が更に好ましい。
第1架橋層がシリカを含む場合、シリカの含有量は、第1架橋層と第2架橋層との接着性をより向上できる点から、第1架橋層の全質量に対して、1~10質量%が好ましく、2~9質量%がより好ましく、3~8質量%が更に好ましい。
【0061】
第1架橋層は、珪藻土の焼結体とシリカとの両方を含むことが好ましい。これにより、第1架橋層と第2架橋層との接着性が特に優れる。この理由の詳細は明らかになっていないが、珪藻土の焼結体及びシリカに含まれる水酸基と、含フッ素重合体及び非フッ素重合体中の水素原子による水素結合やその他の分子間相互作用が関与していると推測される。
第1架橋層が珪藻土の焼結体及びシリカを含む場合、珪藻土の焼結体及びシリカの含有量の比(珪藻土の焼結体/シリカ)は、第1架橋層と第2架橋層との接着性がより優れる点から、1~10/1~10が好ましく、2~10/2~10がより好ましく、5~10/5~10がさらに好ましい。
【0062】
〔第2架橋層〕
第2架橋層は、第1架橋層上に配置されており、第1架橋層と接するように配置されていることが好ましい。
第2架橋層は、含フッ素共重合体B1の架橋物を含み、任意で非フッ素重合体B2の架橋物を含む。
【0063】
<含フッ素共重合体B1>
含フッ素共重合体B1は、フッ素原子を有し、2種以上の単量体に基づく単位を含むコポリマーであり、架橋によってゴムの性質を示す。すなわち、含フッ素共重合体B1の架橋物は、ゴムの性質を示す。
含フッ素共重合体B1を構成する単量体に基づく単位の組み合わせは、含フッ素共重合体A1を構成する単量体に基づく単位の組み合わせとは異なる。
【0064】
含フッ素共重合体B1は、後述の塩基性化合物に対する耐性に優れる点から、TFE単位と、プロピレン単位と、を有することが好ましい。
【0065】
含フッ素共重合体B1は、上記以外の単量体(以下、「他の単量体」ともいう。)に基づく単位を有していてもよい。他の単量体の具体例としては、単量体a、VdF、HFP、CTFE、PAVE、上記式(5)で表される単量体、エチレンが挙げられる。また、上記以外の単量体であって、他のハロゲン原子を有する単量体も挙げられる。これらの他の単量体の具体例は、第1架橋層の項で説明した各単量体と同様であり、好適な態様も同様である。
【0066】
含フッ素共重合体B1は、VdF単位を有していてもよいが、第2架橋層が耐薬品性(特に、耐アミン性)に優れる点から、VdF単位を実質的に有しないことが好ましい。
ここで、「VdF単位を実質的に有しない」とは、VdF単位の含有量が、含フッ素共重合体B1の全単位に対して、0.1モル%以下であることを示し、0モル%が好ましい。
【0067】
含フッ素共重合体B1がTFE単位を含む場合の含有量は、含フッ素共重合体B1の全単位に対して、30~70モル%が好ましく、40~60モル%がより好ましい。
含フッ素共重合体B1がプロピレン単位を含む場合の含有量は、含フッ素共重合体B1の全単位に対して、30~70モル%が好ましく、40~60モル%がより好ましい。
含フッ素共重合体B1が他の単量体単位を含む場合の含有量は、含フッ素共重合体B1の全単位に対して、0.01~10モル%が好ましく、0.05~5モル%がより好ましい。
【0068】
含フッ素共重合体B1に含まれる各単位の好適な組み合わせを以下に示す。
組み合わせ2-1:TFE単位と、プロピレン単位との組み合わせ
【0069】
組み合わせ2-1における共重合組成は、下記のモル比であるのが好ましい。下記のモル比であると、共重合体の架橋反応性がより一層優れ、さらに硬化物の機械特性、耐熱性、耐薬品性、耐油性、及び耐候性等が優れる。
組み合わせ1:TFE単位/プロピレン単位=40~60/40~60(モル比)
【0070】
含フッ素共重合体B1は、ヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を有していてもよい。ヨウ素原子及び臭素原子は、含フッ素共重合体B1を架橋する際の架橋部位となる。
含フッ素共重合体B1が有し得るヨウ素原子又は臭素原子の具体例は、第1架橋層の項で説明したヨウ素原子及び臭素原子と同様であり、好適な態様も同様である。
【0071】
含フッ素共重合体B1がヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を有する場合、ヨウ素原子及び臭素原子の含有量の合計は、含フッ素共重合体B1の全質量に対して、0.01~5.0質量%が好ましく、0.05~2.0質量%がより好ましく、0.1~1.0質量%が特に好ましい。含有量の合計が上記範囲にあると、含フッ素共重合体B1の架橋反応性が向上して、架橋物の機械特性が優れる。
なお、ヨウ素原子及び臭素原子の含有量の合計とは、一方の原子のみを含む場合には一方の原子の含有量を意味し、両方の原子を含む場合には各原子の含有量の合計を意味する。
【0072】
第1架橋層と第2架橋層との接着性がより優れる点から、含フッ素共重合体A1及び含フッ素共重合体B1の少なくとも一方がヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を有することが好ましく、含フッ素共重合体A1及び含フッ素共重合体B1の両方がヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を有することがより好ましい。
【0073】
含フッ素共重合体B1の架橋物は、例えば、後述の架橋剤等の存在下において、上述の含フッ素共重合体B1を加熱することによって得られる。
【0074】
含フッ素共重合体B1の架橋物と後述する非フッ素重合体B2の架橋物との合計に対する、含フッ素共重合体B1の架橋物の含有量MCBは、85質量%以上であり、本積層体を高温環境下で使用した後の寸法安定性がより優れる点から、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
ここで、含フッ素共重合体B1の架橋物と非フッ素重合体B2の架橋物との合計とは、第2架橋層が非フッ素重合体B2の架橋物を含まない場合には、含フッ素共重合体B1の架橋物の含有量を意味する。
CBは、100質量%であることが好ましい。すなわち、第2架橋層は、非フッ素重合体B2の架橋物を含まないことが好ましい。これにより、本積層体を高温環境下で使用した後の寸法安定性がより優れる。
【0075】
第2架橋層中における、含フッ素共重合体B1の架橋物の含有量、及び、非フッ素重合体B2の含有量の測定方法は、後述の実施例欄に記載の通りである。
【0076】
上記MCAと上記MCBとの差の絶対値は、本積層体を高温環境下で保存した後の反りの発生を抑制できる点から、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましい。
【0077】
含フッ素共重合体B1の架橋物の含有量は、本積層体を高温環境下で使用した後の寸法安定性がより優れる点から、第2架橋層の全質量に対して、60~90質量%が好ましく、65~90質量%がより好ましく、70~83質量%が更に好ましい。
【0078】
(含フッ素共重合体B1の物性)
含フッ素共重合体B1のTgは、含フッ素共重合体B1の架橋物のゴムとしての性質が十分に発現する点から、15℃以下が好ましく、-30~15℃以下が好ましく、-20~10℃以下がより好ましい。
【0079】
(含フッ素共重合体B1の製造方法)
含フッ素共重合体B1の製造方法の一例としては、連鎖移動剤及びラジカル重合開始剤の存在下、上記単量体を重合する方法が挙げられる。
含フッ素共重合体B1の製造方法は、使用する単量体の組み合わせが含フッ素共重合体A1の製造方法で用いる単量体の組み合わせとは異なる以外は、上述の含フッ素共重合体A1の製造方法と同様であり、好適な態様も同様である。
【0080】
<非フッ素重合体B2>
非フッ素重合体B2は、フッ素原子を含まないポリマーであり、架橋によってゴムの性質を示すことが好ましい。すなわち、非フッ素重合体B2の架橋物は、ゴムの性質を示すことが好ましい。
非フッ素重合体B2の具体例は、非フッ素重合体A2の具体例と同様であり、好適な態様も同様である。
【0081】
非フッ素重合体B2の架橋物は、例えば、後述の架橋剤等の存在下において、上述の比フッ素重合体B2を加熱することによって得られる。
ここで、非フッ素重合体B2の架橋物は任意成分であるので、第2架橋層は、非フッ素重合体B2の架橋物を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
非フッ素重合体B2の架橋物の含有量は、本積層体を高温環境下で使用した後の寸法安定性がより優れる点から、第2架橋層の全質量に対して、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、0質量%(すなわち、第2架橋層が非フッ素重合体B2の架橋物を含まないこと)が更に好ましい。
【0082】
非フッ素重合体B2のTgは、非フッ素重合体B2の架橋物のゴムとしての性質が十分に発現する点から、15℃以下が好ましく、-50~15℃が好ましく、-30~10℃がより好ましい。
【0083】
<他の成分>
第2架橋層は、含フッ素共重合体B1の架橋物及び非フッ素重合体B2の架橋物以外の他の成分を含んでいてもよい。このような成分の具体例としては、含フッ素共重合体B1の未架橋物(すなわち、上述の含フッ素共重合体B1)、非フッ素重合体B2の未架橋物(すなわち、上述の非フッ素重合体B2)、未反応の架橋剤、珪藻土の焼結体、シリカが挙げられる。架橋剤、珪藻土の焼結体及びシリカの具体例は、第1架橋層の項で説明した架橋剤、珪藻土の焼結体及びシリカと同様であり、好適な態様も同様である。
また、上記以外の他の成分の具体例についても、第1架橋層の項で説明した成分と同様であるので、その説明を省略する。
【0084】
第2架橋層が他の成分を含む場合、他の成分の含有量は、第2架橋層の全質量に対して、15~40質量%が好ましく、18~30質量%がより好ましく、19~29質量%が更に好ましい。
【0085】
第2架橋層が珪藻土の焼結体を含む場合、珪藻土の焼結体の含有量は、第1架橋層と第2架橋層との接着性がより優れる点から、含フッ素共重合体B1の架橋物の100質量部に対して、1~15質量部が好ましく、3~15質量部がより好ましく、5~15質量部が更に好ましい。
第2架橋層が珪藻土の焼結体を含む場合、珪藻土の焼結体の含有量は、第2架橋層の全質量に対して、1~13質量%が好ましく、2~12質量%がより好ましく、4~11質量%が更に好ましい。
【0086】
第2架橋層がシリカを含む場合、シリカの含有量は、第1架橋層と第2架橋層との接着性をより向上できる点から、含フッ素共重合体B1の架橋物の100質量部に対して、1~15質量部が好ましく、3~15質量部がより好ましく、5~15質量部が更に好ましい。
第2架橋層がシリカを含む場合、シリカの含有量は、第1架橋層と第2架橋層との接着性をより向上できる点から、第2架橋層の全質量に対して、1~10質量%が好ましく、3~10質量%がより好ましく、5~9質量%が更に好ましい。
【0087】
第2架橋層は、珪藻土の焼結体とシリカとの両方を含むこと好ましい。これにより、第1架橋層が珪藻土の焼結体とシリカとを含む場合と同様の理由から、第1架橋層と第2架橋層との接着性が特に優れる。
第2架橋層が珪藻土の焼結体及びシリカを含む場合、珪藻土の焼結体及びシリカの含有量の比(珪藻土の焼結体/シリカ)は、第1架橋層と第2架橋層との接着性がより優れる点から、1~15/1~15が好ましく、3~15/3~15がより好ましく、5~15/5~15がさらに好ましい。
【0088】
第1架橋層と第2架橋層との接着性がより優れる点から、少なくとも第1架橋層が珪藻土の焼結体とシリカとの両方を含み、かつ、第2架橋層における含フッ素共重合体B1がヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を有することが好ましい。
【0089】
〔用途〕
本積層体は、例えば、ホース、シール材、弁、ロール、被覆材として用いることができる。本積層体は、例えば、筒状、シート、O-リング、V-リング等の形状で用いることができる。
【0090】
本積層体の用途は、特に限定されないが、塩基性化合物と接する部材として用いることが好ましい。
塩基性化合物としては、例えば、有機塩基、無機塩基が挙げられる。有機塩基としては、例えば、アミンが挙げられる。アミンとしては、例えば、アンモニア、エチレンジアミン、水酸化テトラアルキルアンモニウムが挙げられる。水酸化テトラアルキルアンモニウムとしては、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウムが挙げられる。無機塩基としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。
本積層体は、アンモニアと接する部材として用いることに特に好適である。「アンモニアと接する」とは、例えばアンモニア100%液体及びアンモニア水溶液と接することや、化合物の分解等の反応により生じるアンモニアと接することを含む。分解等の反応によりアンモニアを生じる化合物としては、尿素が挙げられる。
アンモニアは、燃料や、排気ガス中の窒素酸化物を処理するために使用されることがある。尿素は加水分解されることでアンモニアを発生することから、アンモニアの供給源として用いられることがある。
塩基性化合物と接する部材としては、塩基性化合物の貯蔵、輸送、反応または計量のための設備、塩基性化合物(特に、アンモニア、尿素)を原料とするエンジンや発電装置、窒素酸化物を含む排気ガスを処理する装置に使用される、ホース、シール材、弁等が挙げられる。
本積層体が塩基性化合物と接する部材に用いられる場合には、第2架橋層が塩基性化合物と接するように配置されるのが好ましい。特に、第2架橋層に含まれる含フッ素共重合体B1の架橋物が、TFE単位と、プロピレン単位と、を有する含フッ素共重合体の架橋物であれば、塩基性化合物に対する耐性により優れるので、塩基性化合物と接する部材として好適に用いられる。
【0091】
本積層体は、燃料と接する部材として用いることも好ましい。「燃料と接する」とは、液体の燃料、気体の燃料と接することを含む。液体の燃料には、霧状の燃料も含む。燃料(例えば、軽油、ガソリン、天然ガス等)と接する部材としては、燃料の貯蔵設備、燃料を用いる輸送機器に使用される、ホース、シート、Oリング、ガスケット等が挙げられる。燃料と接する部材の具体例としては、ターボチャージャー用ホース、オイルリターンホース、排気ガスホース、EGRホース、オイルホース、フューエルホースが例示される。
本積層体が燃料と接する部材に用いられる場合には、第2架橋層が燃料と接するように配置されるのが好ましい。
【0092】
〔積層体の製造方法〕
本積層体の製造方法は特に限定されないが、例えば、含フッ素共重合体A1と、架橋剤と、を含み、任意で非フッ素重合体A2を含む第1組成物層(後述)の上に、含フッ素共重合体B1と、架橋剤と、を含み、任意で非フッ素重合体B2を含む第2組成物層(後述)が配置された前駆体積層体(後述)を加熱する方法が挙げられる。これにより、第1組成物層中の含フッ素共重合体A1及び任意で含まれる非フッ素重合体A2が架橋して、上記第1架橋層が形成され、第2組成物層中の含フッ素共重合体B1及び任意で含まれる非フッ素重合体B2が架橋して、上記第2架橋層が形成されて、第1架橋層と、第1架橋層上に配置された第2架橋層とを有する本積層体が得られる。
【0093】
本積層体としては、第1架橋層と、第1架橋層上に配置された第2架橋層と、その他の層を有していてもよい。その他の層の主成分としては、例えば、含フッ素重合体、非フッ素重合体、金属、ガラス、カーボンが挙げられる。その他の層の主成分は、板、繊維、織物、不織布の形状であってもよい。
その他の層を有する本積層体としては、例えば、第1架橋層と、第1架橋層上に配置された第2架橋層と、第2架橋層上に配置されたその他の層とを有する積層体や、その他の層と、その他の層上に配置された第1架橋層と、第1架橋層上に配置された第2架橋層とを有する積層体が挙げられる。その他の層は複数有していてもよいが、第1架橋層は第2架橋層と接するように配置される。
【0094】
加熱による各重合体の架橋方法の具体例としては、加熱プレス架橋、スチーム架橋、熱風架橋オイルバス架橋、ソルトバス架橋が挙げられる。
加熱温度は、130~180℃が好ましく、140~170℃がより好ましい。加熱する際は、段階的に昇温したり、降温したりしてもよい。
加熱時間は、10分~3時間が好ましい。
加熱プレス架橋を行う場合、圧力は、5~30MPaが好ましい。
【0095】
本発明の積層体における第1架橋層および第2架橋層の厚さは、特に制限されない。
例えば、本発明の積層体をホースとして用いる場合、第1架橋層および第2架橋層の厚さはそれぞれ、0.1~200mmとすることができ、0.1~150mmがより好ましく、0.1~100mmが特に好ましい。
例えば、本発明の積層体をシール材として用いる場合、第1架橋層および第2架橋層の厚さはそれぞれ、10~300mmとすることができ、10~200mmがより好ましく、10~100mmが特に好ましい。
例えば、本発明の積層体をロールとして用いる場合、第1架橋層および第2架橋層の厚さはそれぞれ、10~5000mmとすることができ、10~3000mmがより好ましく、10~2000mmが特に好ましい。
【0096】
[前駆体積層体]
第1組成物層と、当該第1組成物層上に配置された第2組成物層と、を有する積層体を、前駆体積層体という。本発明の前駆体積層体(以下、「本前駆体積層体」ともいう。)に含まれる含フッ素共重合体を架橋することで、上述の本積層体が得られる。
本前駆体積層体は、第1組成物層と、上記第1組成物層上に配置された第2組成物層と、を有する前駆体積層体であって、上記第1組成物層が、含フッ素共重合体A1と、架橋剤とを含み、任意で非フッ素重合体A2を含み、上記第2組成物層が、含フッ素共重合体B1と、架橋剤とを含み、任意で非フッ素重合体B2を含む。
また、本前駆体積層体において、上記含フッ素共重合体A1を構成する単量体に基づく単位の組み合わせと、上記含フッ素共重合体B1を構成する単量体に基づく単位の組み合わせとが、互いに異なる。
また、本積層体において、上記含フッ素共重合体A1と上記非フッ素重合体A2との合計に対する、上記含フッ素共重合体A1の含有量MPAが85質量%以上であり、上記含フッ素共重合体B1と上記非フッ素重合体B2との合計に対する、上記含フッ素共重合体B1の含有量MPBが85質量%以上である。
【0097】
〔第1組成物層〕
第1組成物層が、含フッ素共重合体A1と、架橋剤とを含み、任意で非フッ素重合体A2を含む。含フッ素共重合体A1、架橋剤、非フッ素重合体A2の詳細は、第1架橋層の項で説明した通りであるので、その説明を省略する。
第1組成物層は、含フッ素共重合体A1、架橋剤及び非フッ素重合体A2以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分の詳細は、第1架橋層の項で説明した通りであるので、その説明を省略する。
【0098】
含フッ素共重合体A1と非フッ素重合体A2との合計に対する、含フッ素共重合体A1の含有量MPAは、85質量%以上であり、本積層体を高温環境下で使用した後の寸法安定性がより優れる点から、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
ここで、含フッ素共重合体A1と非フッ素重合体A2との合計とは、第1組成物層が非フッ素重合体A2を含まない場合には、含フッ素共重合体A1の架橋物の含有量を意味する。
PAは、100質量%であることが好ましい。すなわち、第1組成物層は、非フッ素重合体A2を含まないことが好ましい。これにより、本積層体を高温環境下で使用した後の寸法安定性がより優れる。
【0099】
含フッ素共重合体A1の含有量は、本積層体を高温環境下で使用した後の寸法安定性がより優れる点から、第1組成物層の全質量に対して、60~90質量%が好ましく、64~90質量%がより好ましく、68~83質量%が更に好ましい。
【0100】
架橋剤の含有量は、含フッ素共重合体A1を十分に架橋できる点から、含フッ素共重合体A1の100質量部に対して、0.1~5.0質量部が好ましく、0.5~4.0質量部がより好ましく、1.0~3.0質量部が更に好ましい。
架橋剤の含有量は、含フッ素共重合体A1を十分に架橋できる点から、第1組成物層の全質量に対して、0.1~1.5質量%が好ましく、0.3~1.2質量%がより好ましく、0.5~1.0質量%が更に好ましい。
【0101】
他の成分の含有量は、第1組成物層の全質量に対して、20~32質量%が好ましく、20~31質量%がより好ましく、20~30質量%が更に好ましい。
【0102】
第1組成物層は、他の成分の中でも、珪藻土の焼結体及びシリカの少なくとも一方を含むことが好ましく、両方を含むことが好ましい。これにより、第1架橋層と第2架橋層との接着性をより向上できる。
【0103】
珪藻土の焼結体の含有量は、第1架橋層と第2架橋層との接着性がより優れる点から、含フッ素共重合体A1の100質量部に対して、1~10質量部が好ましく、2~10質量部がより好ましく、5~10質量部が更に好ましい。
珪藻土の焼結体の含有量は、第1組成物層の全質量に対して、1~10質量%が好ましく、2~9質量%がより好ましく、3~8質量%が更に好ましい。
【0104】
シリカの含有量は、第1架橋層と第2架橋層との接着性がより優れる点から、含フッ素共重合体A1の100質量部に対して、1~10質量部が好ましく、2~10質量部がより好ましく、5~10質量部が更に好ましい。
シリカの含有量は、第1架橋層と第2架橋層との接着性がより優れる点から、第1組成物層の全質量に対して、1~10質量%が好ましく、2~9質量%がより好ましく、3~8質量%が更に好ましい。
【0105】
なお、第1組成物層中の各成分の含有量は、後述する第1組成物に含まれる各成分の仕込み量に基づいて算出される。
【0106】
〔第2組成物層〕
第2組成物層は、含フッ素共重合体B1と、架橋剤とを含み、任意で非フッ素重合体B2を含む。含フッ素共重合体B1、架橋剤、非フッ素重合体B2の詳細は、第2架橋層の項で説明した通りであるので、その説明を省略する。
第2組成物層は、含フッ素共重合体B1、架橋剤及び非フッ素重合体B2以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分の詳細は、第2架橋層の項で説明した通りであるので、その説明を省略する。
【0107】
含フッ素共重合体B1と非フッ素重合体B2との合計に対する、含フッ素共重合体B1の含有量MPBは、85質量%以上であり、本積層体を高温環境下で使用した後の寸法安定性がより優れる点から、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
ここで、含フッ素共重合体B1と非フッ素重合体B2との合計とは、第2組成物層が非フッ素重合体B2を含まない場合には、含フッ素共重合体B1の架橋物の含有量を意味する。
PBは、100質量%であることが好ましい。すなわち、第2組成物層は、非フッ素重合体B2を含まないことが好ましい。これにより、本積層体を高温環境下で使用した後の寸法安定性がより優れる。
【0108】
含フッ素共重合体B1の含有量は、本積層体を高温環境下で使用した後の寸法安定性がより優れる点から、第2組成物層の全質量に対して、60~90質量%が好ましく、65~90質量%がより好ましく、70~83質量%が更に好ましい。
【0109】
架橋剤の含有量は、含フッ素共重合体B1を十分に架橋できる点から、含フッ素共重合体B1の100質量部に対して、0.1~5.0質量部が好ましく、0.5~4.0質量部がより好ましく、1.0~3.0質量部が更に好ましい。
架橋剤の含有量は、含フッ素共重合体B1を十分に架橋できる点から、第2組成物層の全質量に対して、0.1~1.5質量%が好ましく、0.3~1.3質量%がより好ましく、0.5~1.2質量%が更に好ましい。
【0110】
他の成分の含有量は、第2組成物層の全質量に対して、15~40質量%が好ましく、18~30質量%がより好ましく、19~29質量%が更に好ましい。
【0111】
第2組成物層は、他の成分の中でも、珪藻土の焼結体及びシリカの少なくとも一方を含むことが好ましく、両方を含むことが好ましい。これにより、第1架橋層と第2架橋層との接着性をより向上できる。
【0112】
珪藻土の焼結体の含有量は、第1架橋層と第2架橋層との接着性がより優れる点から、含フッ素共重合体B1の100質量部に対して、1~15質量部が好ましく、3~15質量部がより好ましく、5~15質量部が更に好ましい。
珪藻土の焼結体の含有量は、第2組成物層の全質量に対して、1~13質量%が好ましく、2~12質量%がより好ましく、4~11質量%が更に好ましい。
【0113】
シリカの含有量は、第1架橋層と第2架橋層との接着性がより優れる点から、含フッ素共重合体B1の100質量部に対して、1~15質量部が好ましく、3~15質量部がより好ましく、5~15質量部が更に好ましい。
シリカの含有量は、第1架橋層と第2架橋層との接着性がより優れる点から、第2組成物層の全質量に対して、1~10質量%が好ましく、3~10質量%がより好ましく、5~9質量%が更に好ましい。
【0114】
なお、第2組成物層中の各成分の含有量は、後述する第2組成物に含まれる各成分の仕込み量に基づいて算出される。
【0115】
上記MPAと上記MPBとの差の絶対値は、本積層体を高温環境下で保存した後の反りの発生を抑制できる点から、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、0質量%が更に好ましい。
【0116】
第1架橋層と第2架橋層との接着性がより優れる点から、少なくとも第1組成物層が珪藻土の焼結体とシリカとの両方を含み、かつ、第2組成物層における含フッ素共重合体B1がヨウ素原子及び臭素原子の少なくとも一方を有することが好ましい。
【0117】
〔前駆体積層体の製造方法〕
本前駆体積層体の製造方法は特に限定されないが、例えば、含フッ素共重合体A1と、架橋剤と、を含み、任意で非フッ素重合体A2を含む第1組成物と、含フッ素共重合体B1と、架橋剤と、を含み、任意で非フッ素重合体B2を含む第2組成物と、のそれぞれをシート状に成形し、第1組成物を用いて得られた第1組成物層上に、第2組成物を用いて得られた第2組成物層を積層させる方法が挙げられる。
また、本前駆体積層体の他の製造方法としては、例えば、上記第1組成物及び上記第2組成物を、同時押出成形又は逐次押出成形して、第1組成物を用いて得られた第1組成物層上に、第2組成物を用いて得られた第2組成物層を積層させる方法が挙げられる。
さらには、鉄心に第1組成物を巻き付けて第1組成物層とし、その上に第2組成物を巻き付けて第2組成物層とすることで積層させる方法も挙げられる。
【0118】
本前駆体積層体は、第1組成物層と、第1組成物層上に配置された第2組成物層と、その他の層を有していてもよい。その他の層の詳細は、積層体の製造方法で説明した通りであるので、その説明を省略する。
【0119】
本前駆体積層体の製造方法では、第1組成物及び第2組成物を加熱してもよい。この場合、各組成物に含まれる重合体が架橋しない程度の温度で加熱することが好ましい。
【0120】
第1組成物層の形成に用いる第1組成物は、含フッ素共重合体A1と、架橋剤と、を含み、任意で非フッ素重合体A2、その他の成分を含んでいてもよい。
第1組成物中に含まれる各成分の詳細については、第1組成物層に含まれる各成分と同様であるので、その説明を省略する。
第1組成物中の各成分の含有量については、第1組成物層中の各成分の含有量と同様であるので、その説明を省略する。
【0121】
第2組成物層の形成に用いる第2組成物は、含フッ素共重合体B1と、架橋剤と、を含み、任意で非フッ素重合体B2、その他の成分を含んでいてもよい。
第2組成物中に含まれる各成分の詳細については、第2組成物層に含まれる各成分と同様であるので、その説明を省略する。
第2組成物中の各成分の含有量については、第2組成物層中の各成分の含有量と同様であるので、その説明を省略する。
【実施例0122】
以下、例を挙げて本発明を詳細に説明する。例1~8、11は実施例であり、例9~10は比較例である。また、例12及び例13は、耐薬品性(塩基性化合物に対する耐性)に関する参考例である。ただし本発明はこれらの例に限定されない。なお、後述する表中における各成分の配合量は、質量基準を示す。
【0123】
<測定方法>
(含フッ素共重合体の重合組成)
含フッ素共重合体を構成する各単位の割合(モル%)は、19F-核磁気共鳴(NMR)分析、フッ素含有量分析、赤外吸収スペクトル分析により求めた。
【0124】
(含フッ素共重合体のヨウ素含有量)
含フッ素共重合体のヨウ素含有量は、自動試料燃焼装置イオンクロマトグラフ用前処理装置(三菱ケミカルアナリテック社製、AQF-100型)とイオンクロマトグラフを組み合わせた装置で定量した。
【0125】
(含フッ素共重合体の貯蔵せん断弾性率G’)
ゴム加工解析装置(アルファーテクノロジーズ社製、RPA-2000)を用いて、ASTM D5289及びD6204に従い、温度100℃、振幅0.5度、振動数50回/分で測定した。
【0126】
(含フッ素共重合体のムーニー粘度)
ムーニービスコメータ(島津製作所社製、SMV-201)を用いて、JIS K6300-1:2013に準じて、直径38.1mm、厚さ5.54mmのL型ローターを用い、100℃で予熱時間を1分間、ローター回転時間を4分間に設定して測定した。
【0127】
(架橋物の含有量)
各架橋層中における、含フッ素共重合体の架橋物の含有量、及び、非フッ素重合体の架橋物の含有量については、次のようにして決定した。まず、前駆体積層体の質量と、架橋後の積層体の質量を測定し、質量の損失がないことを確認した。含フッ素共重合体はすべて含フッ素共重合体の架橋物、非フッ素重合体はすべて非フッ素重合体の架橋物となったものとして、前駆体積層体中における、含フッ素共重合体及び非フッ素重合体の含有量を、各架橋層中における、含フッ素共重合体の架橋物の含有量及び非フッ素重合体の架橋物の含有量とした。
【0128】
<各成分>
含フッ素共重合体1:Tecnoflon P757、Solvay社製、VdF単位とTFE単位とHFP単位を有する含フッ素共重合体、共重合体におけるフッ素原子の割合は67質量%、121℃におけるムーニー粘度=45。含フッ素共重合体1はヨウ素原子を含む。
含フッ素共重合体2:TFE単位とプロピレン単位とを有する含フッ素共重合体、共重合体を構成する全単位の合計に対しTFE単位の割合が56モル%、プロピレン単位の割合が44モル%、G’=250kPa、ムーニー粘度=85、含フッ素共重合体2の全質量に対してヨウ素原子を0.4質量%含む。含フッ素共重合体2は国際公開第2009/119202号に開示されている方法によって製造した。
含フッ素共重合体3:AFLAS(登録商標)150P、AGC社製、TFE単位とプロピレン単位とを有し、ヨウ素原子及び臭素原子を含まない含フッ素共重合体。G’=220kPa、ムーニー粘度=95。
【0129】
非フッ素重合体1:VAMAC(登録商標)DP、ChemoursDupont社製、エチレン-アクリル酸エステル共重合体
非フッ素重合体2:エスプレン(登録商標)E 501A、住友化学社製、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体
【0130】
パーヘキサ(登録商標)25B:架橋剤、有機過酸化物、2,5-ジメチル-2,5-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、日油社製
パーカードックス(登録商標)14:架橋剤、有機過酸化物、α,α’-ビス-(tert-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、化薬アクゾ社製
【0131】
TAIC(登録商標):架橋助剤、トリアリルイソシアヌレート、1,3,5-トリアリルイソシアヌレート、三菱ケミカル社製
【0132】
ステアリン酸カルシウム:受酸剤、富士フィルム和光純薬社製
o-フェニルフェノール:スコーチ遅延剤、富士フィルム和光純薬社製
THENMAX(登録商標)N-990:補強材、カーボンブラック、MT、Canarb Limited社製
キョーワマグ(登録商標)MF-150:受酸剤、酸化マグネシウム、協和化学工業社製
酸化亜鉛:受酸剤、正同化学社製
【0133】
Celite(登録商標)350:珪藻土の焼結体、Celite Cоrpоratiоn製
AEROSIL(登録商標)300:親水性シリカ、日本エアロジル社製
【0134】
<第1組成物及び第2組成物の調製>
表1及び表2に示す質量比の配合で、2本ロールを用い、各配合剤を均一に混練して第1組成物a1~a5と、第2組成物b1~b5を各々調製した。
【0135】
【表1】
【0136】
表1中、「全重合体中の含フッ素共重合体の含有量」とは、組成物に含まれる含フッ素共重合体及び非フッ素重合体の合計に対する、含フッ素共重合体の含有量(質量%)を意味する。なお、「全重合体中の含フッ素共重合体の含有量」の値は、第1架橋層における、含フッ素共重合体の架橋物と非フッ素重合体の架橋物との合計に対する、含フッ素共重合体の架橋物の含有量(上述のMCA)と同じであり、第1組成物層における、含フッ素共重合体と非フッ素重合体との合計に対する、含フッ素共重合体の含有量(上述のMPA)と同じであった。
また、表1中、「組成物中の含フッ素共重合体の含有量」とは、組成物の全質量に対する含フッ素共重合体の含有量(質量%)を意味する。なお、「組成物中の含フッ素共重合体の含有量」の値は、第1架橋層中の含フッ素共重合体の架橋物の含有量(質量%)と同じであり、第1組成物層中の含フッ素共重合体の含有量(質量%)と同じであった。
【0137】
【表2】
【0138】
表2中、「全重合体中の含フッ素共重合体の含有量」とは、組成物に含まれる含フッ素共重合体及び非フッ素重合体の合計に対する、含フッ素共重合体の含有量(質量%)を意味する。なお、「全重合体中の含フッ素共重合体の含有量」の値は、第2架橋層における、含フッ素共重合体の架橋物と非フッ素重合体の架橋物との合計に対する、含フッ素共重合体の架橋物の含有量(上述のMCB)と同じであり、第2組成物層における、含フッ素共重合体と非フッ素重合体との合計に対する、含フッ素共重合体の含有量(上述のMPB)と同じであった。
また、表2中、「組成物中の含フッ素共重合体の含有量」とは、組成物の全質量に対する含フッ素共重合体の含有量(質量%)を意味する。なお、「組成物中の含フッ素共重合体の含有量」の値は、第2架橋層に含まれる含フッ素共重合体の架橋物の含有量(質量%)と同じであり、第2組成物中の含フッ素共重合体の含有量(質量%)と同じであった。
【0139】
[例1~11]
第1組成物と第2組成物とを表3に示した組み合わせで積層体を製造し、後述する試験によって、各評価を行った。
【0140】
<寸法安定性及び反りの評価>
(評価用の積層体(試験片)の作製)
寸法安定性の評価用の試験片は次の手順で作製した。
まず、第1組成物及び第2組成物をそれぞれ長さ120mm×幅105mm×厚み1.3mmに成形して、表3に示した組み合わせで積層した。これにより、第1組成物の成形体である第1組成物層と、第1組成物層上に配置され、第2組成物の成形体である第2組成物層と、を含む前駆体積層体を得た。
前駆体積層体を金型に設置し、170℃の熱プレスにて100kgf(=9.8MPa)の圧力で15分間保持し、架橋を行って、例1~11の各積層体を得た。得られた積層体の大きさはいずれも、長さ130mm×幅120mm×厚み2mmであった。
得られた積層体をJIS K6251:2004に従い3号ダンベルで打ち抜いた。端から1cm離れたところに直径5mmの穴をあけ、評価用の試験片を得た。
【0141】
(加熱後の寸法安定性及び反りの確認)
積層体が組み込まれた機器の性能を保つ点から、積層体の寸法の変化は一定の範囲に留められることが求められる。そこで、耐熱性の1つの指標として、加熱後の積層体の寸法安定性及び反りを確認した。
まず、加熱前の試験片の長さを測定した。なお、加熱前の試験片は曲がっておらず、平らな面に試験片を置いたときに、試験片はその面と平行であった。
試験片の穴を金属製のフックにかけ、フックに吊り下げられた試験片を240℃に加熱した温風式精密オーブン(ヤマト科学社製)に設置し、加熱した。264時間後にサンプルをオーブンから取り出した。素手で触れられる程度まで加熱後の試験片を空冷した。
加熱後の試験片の長さを測定し、加熱前の試験片の長さを100としたときの、加熱後の試験片の長さを寸法保持率とした。結果を表3に示す。なお、寸法保持率の値が100に近いほど、加熱後の寸法安定性に優れる。
また、加熱後の試験片を平らな面に置いたときに、平らな面と試験片の角度を測定した。結果を表3に示す。なお、平らな面に試験片を置いたときに、試験片がその面と平行であれば0°であり、垂直に曲がっていれば90°である。角度が0°に近いほど、加熱後の積層体の反りが小さい。
【0142】
<接着性の評価>
(評価用の積層体(試験片)の作製)
はく離試験で使用する試験片は次の手順で作製した。まず、第1組成物及び第2組成物をそれぞれ長さ120mm×幅105mm×厚み1.3mmに成形して、表3に示した組み合わせで積層した。これにより、第1組成物の成形体である第1組成物層と、第1組成物層上に配置され、第2組成物の成形体である第2組成物層と、を含む前駆体積層体を得た。なお、前駆体積層体を架橋して積層体を得た際に、積層体の長辺の端から幅方向に1/4が接着されていない把持部となるように、第1組成物層及び第2組成物層を積層する際に、第1組成物と第2組成物との間に離型フィルムを挟んだ。
離型フィルムを挟んだ前駆体積層体を金型に設置し、170℃の熱プレスにて100kgf(=9.8MPa)の圧力で15分間保持し、架橋を行って、例1~11の各積層体を得た。得られた積層体の大きさはいずれも、長さ130mm×幅120mm×厚み2mmであった。
得られた積層体を幅方向に切断し、長さ120mm×幅25mm×厚み2mmで、短辺の端から長さ方向に40mmが接着されていない把持部を有する試験片を得た。4枚の試験片について後述するはく離試験を行った。
【0143】
(はく離試験)
例1~11の積層体から作製した上記試験片について、T型はく離試験(JIS K6854-3:1999)を行った。
例1~11の試験片の把持部をT型はく離試験機にセットし、25℃及び150℃の温度下において、毎分50mmの速度で試験片の第1架橋層と第2架橋層とを引き剥がし、第1架橋層と第2架橋層との層間の最大はく離強度を測定した。結果を表3に示す。はく離強度が大きいほど、第1架橋層と第2架橋層との接着性に優れる。
【0144】
<低温耐性の評価>
(低温耐性試験)
低温弾性回復試験機、通称TRテスター(安田精機製作所製)を用いて、低温下での接着性(剥離の有無)を確認した。寸法安定性及び反りの評価用の試験片の作り方と同様に積層体を作製し、得られた積層体を切断し、長さ65mm×幅6mm×厚み2mmの試験片を得た。
試験片をTRテスター内のサンプルホルダーにセットし、セットした試験片を10%伸長させた。-40℃のエタノールの入った槽内に、10%伸長させた試験片をサンプルホルダーごと浸漬し、10分静置した。10分経過後、1℃/分の速度で昇温し、25℃に到達した時点で昇温を終了した。試験片を取り出し、目視による観察と手で軽く引っ張ることにより、はく離の有無を確認した。
【0145】
【表3】
【0146】
含フッ素共重合体と非フッ素重合体の合計に対して85質量%以上の含フッ素共重合体を含む第1組成物及び第2組成物を用いて得られた例1~8、11の積層体は、240℃で264時間保持した後も、寸法安定性が良好であることが確認できた。
含フッ素共重合体と非フッ素重合体の合計に対して85質量%未満の含フッ素共重合体を含む第1組成物及び第2組成物を用いて得られた例9、10の積層体は、240℃で264時間保持した後の寸法安定性が低かった。
非フッ素重合体を含まない第1組成物及び第2組成物を用いて得られた例1~6、11の積層体は、240℃で264時間保持した後も、反りが少ないことが確認できた。
含フッ素共重合体1と、シリカと、セライトとを有する第1組成物層と、ヨウ素原子を有する含フッ素共重合体を含む第2組成物層とを有する例5、6の積層体は、25℃及び150℃における層間接着性にも優れていた。
【0147】
[例12、13]
<耐薬品性の評価>
耐熱温度が180℃、耐圧が7.5MPa、内容積が300ccのTAF-SR型 PTFE内筒型密閉容器(耐圧硝子工業社製)を用いて、試験片を水酸化ナトリウム、アンモニア又はエチレンジアミン(以下、「薬液」ともいう)に浸漬し、耐薬品性(塩基性化合物に対する耐性)を調べた。
【0148】
(試験片の作製)
耐薬品性試験で使用する試験片は次の手順で作製した。表4に示した組成物を2mmに成形し、170℃の熱プレスにて100kgf(=9.8MPa)の圧力で15分間保持して架橋を行い、得られた架橋物をJIS K6251:2004に従い3号ダンベルで打ち抜いた4枚の試験片を、引張強度、引張伸び、硬度を測定するための試験片とした。
また、表4に示した組成物をJIS B 2401-1:2012のP26のOリングとなるように架橋して得られたOリングを、体積を測定するための試験片とした。
【0149】
薬液に浸漬する前の試験片について、引張強度、引張伸び、硬度、体積を測定した。
JIS K6251:2017に準拠して、上述の3号ダンベルの引張強度及び引張伸度を測定した。測定装置としては、データ処理付引張試験機(クイックリーダー TS-2530、上島製作所社製)を用いた。
JIS K6253-3:2012に準拠して、上述の3号ダンベルの硬度(Shore-A)を測定した。測定装置としては、ゴム用自動硬度計(デジテスト ショアーA、H・バーレイス試験機社製)を用いた。3枚の3号ダンベルを重ねて、合計で6mmの高さになるようにしたものを測定装置に設置し、硬度の測定を行った。
上述のOリングの試験片について、測定装置として比重計(DMA-220、新光電子社製)を用いて体積を測定した。
【0150】
引張強度、引張伸度、硬度を測定した試験片とは別の3号ダンベルの試験片3枚と、体積を測定した試験片を上述の密閉容器に投入し、次に50%水酸化ナトリウム水溶液、あるいは28%アンモニア水溶液、又は、エチレンジアミンを投入した。蓋をして、万力を使用し容器を完全に密閉した。70℃に設定したオーブンの中に密閉容器を投入し、720時間経過するまで静置した。
720時間経過したところでオーブンから取り出し、35℃以下に冷却して密閉容器の蓋を開けた。試験片を取り出し、試験片に付着した薬液を水洗した。吸水しやすい布の上に置き、素早く表面の水滴を取り除いた。
エチレンジアミンの試験のみ、25℃に設定したオーブンの中に密閉容器を投入し、144時間経過するまで静置した。144時間経過したところでオーブンから取り出し、試験片を取り出し、試験片に付着した薬液を水洗した。吸水しやすい布の上に置き、素早く表面の水滴を取り除いた。
【0151】
薬液に浸漬した後の3号ダンベルの試験片3枚について、引張強度、引張伸び、硬度を測定した。測定方法は、薬液に浸漬する前の試験片と同様である。3枚の試験片の測定値を算術平均した値を記録した。
薬液に浸漬した後のOリングの試験片について、体積を測定した。測定方法は、薬液に浸漬する前の試験片と同様である。
【0152】
100+[(薬液に浸漬した後の試験片の引張強度)-(薬液に浸漬する前の試験片の引張強度)]/(薬液に浸漬する前の試験片の引張強度)×100を引張強度保持率(%)、
100+[(薬液に浸漬した後の試験片の引張伸度-(薬液に浸漬する前の試験片の引張伸度))]/(薬液に浸漬する前の試験片の引張伸度)×100を引張伸度保持率(%)、
(薬液に浸漬する前の試験片の硬度)-(薬液に浸漬した後の試験片の硬度)を硬度変化度、
[(薬液に浸漬した後の試験片の体積)-薬液に浸漬する前の試験片の体積)]/(薬液に浸漬する前の試験片の体積)×100を体積変化率(%)とした。
結果を表4に示す。
【0153】
【表4】
【0154】
表4に示すように、組成物b4の架橋物は、塩基性薬液に浸漬した後も良好な物性を示した。したがって、本発明の積層体について、TFE単位及びプロピレン単位を有する含フッ素共重合体の架橋物を含む第2架橋層側が塩基性薬液に接触する形で使用すれば、耐薬品性(塩基性化合物に対する耐性)に優れることが予想される。
また、組成物a1の架橋物は、塩基性薬液に浸漬すると大きく変形、あるいは破壊した。したがって、本発明の積層体について、TFE単位及びプロピレン単位を有する含フッ素共重合体の架橋物を含む第2架橋層側が塩基性薬液に接触し、VDF単位を有する含フッ素共重合体の架橋物を含む第1架橋層側が塩基性薬液に接触しない形で使用すれば、耐薬品性(塩基性化合物に対する耐性)に優れることが予想される。