(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025039759
(43)【公開日】2025-03-21
(54)【発明の名称】触媒層付きイオン交換膜、イオン交換膜および電解水素化装置
(51)【国際特許分類】
C25B 13/08 20060101AFI20250313BHJP
C25B 3/03 20210101ALI20250313BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20250313BHJP
【FI】
C25B13/08 302
C25B3/03
C25B9/00 G
C25B13/08 303
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025003391
(22)【出願日】2025-01-09
(62)【分割の表示】P 2021575848の分割
【原出願日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2020018828
(32)【優先日】2020-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】角倉 康介
(72)【発明者】
【氏名】早部 慎太朗
(72)【発明者】
【氏名】西尾 拓久央
(57)【要約】
【課題】芳香族化合物の電解水素化の際に、電解電圧を低くでき、かつ、電流効率を高くできる触媒層付きイオン交換膜、イオン交換膜、および、電解水素化装置の提供。
【解決手段】本発明の触媒層付きイオン交換膜は、無機物粒子およびバインダーを含む無機物粒子層と、スルホン酸型官能基を有する第1含フッ素ポリマーを含む層(Sa)と、スルホン酸型官能基を有する第2含フッ素ポリマーを含む層(Sb)と、触媒層と、をこの順に有し、上記第1含フッ素ポリマーのイオン交換容量が、上記第2含フッ素ポリマーのイオン交換容量よりも低い。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機物粒子およびバインダーを含む無機物粒子層と、
スルホン酸型官能基を有する第1含フッ素ポリマーを含む層(Sa)と、
スルホン酸型官能基を有する第2含フッ素ポリマーを含む層(Sb)と、
触媒層と、をこの順に有し、
前記第1含フッ素ポリマーのイオン交換容量が、前記第2含フッ素ポリマーのイオン交換容量よりも低い、触媒層付きイオン交換膜。
【請求項2】
前記層(Sa)における前記無機物粒子層側の界面に凹凸構造を有する、請求項1に記載の触媒層付きイオン交換膜。
【請求項3】
さらに、補強糸を含む補強材を有する、請求項1または2に記載の触媒層付きイオン交換膜。
【請求項4】
前記第1含フッ素ポリマーのイオン交換容量が、0.5~1.1ミリ当量/グラム乾燥樹脂である、請求項1~3のいずれか1項に記載の触媒層付きイオン交換膜。
【請求項5】
前記第2含フッ素ポリマーのイオン交換容量が、0.7~2.0ミリ当量/グラム乾燥樹脂である、請求項1~4のいずれか1項に記載の触媒層付きイオン交換膜。
【請求項6】
前記スルホン酸型官能基を有する第1含フッ素ポリマーが、含フッ素オレフィンに基づく単位、ならびに、スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有する単位を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の触媒層付きイオン交換膜。
【請求項7】
前記含フッ素オレフィンがテトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニルまたはヘキサフルオロプロピレンである、請求項6に記載の触媒層付きイオン交換膜。
【請求項8】
前記スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有する単位が、式(1)で表される単位である、請求項6または7に記載の触媒層付きイオン交換膜。
式(1) -[CF2-CF(-L-(SO3M)n)]-
式中Lは、エーテル性酸素原子を含んでいてもよいn+1価のペルフルオロ炭化水素基であり、Mは、水素原子、アルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンであり、nは、1または2である。
【請求項9】
無機物粒子およびバインダーを含む無機物粒子層と、
スルホン酸型官能基を有する第1含フッ素ポリマーを含む層(Sa)と、
スルホン酸型官能基を有する第2含フッ素ポリマーを含む層(Sb)と、をこの順に有し、
前記第1含フッ素ポリマーのイオン交換容量が、前記第2含フッ素ポリマーのイオン交換容量よりも低い、イオン交換膜。
【請求項10】
前記層(Sa)における前記無機物粒子層側の界面に凹凸構造を有する、請求項9に記載のイオン交換膜。
【請求項11】
さらに、補強糸を含む補強材を有する、請求項9または10に記載のイオン交換膜。
【請求項12】
前記第1含フッ素ポリマーのイオン交換容量が、0.5~1.1ミリ当量/グラム乾燥樹脂である、請求項9~11のいずれか1項に記載のイオン交換膜。
【請求項13】
前記第2含フッ素ポリマーのイオン交換容量が、0.7~2.0ミリ当量/グラム乾燥樹脂である、請求項9~12のいずれか1項に記載のイオン交換膜。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか1項に記載の触媒層付きイオン交換膜の製造方法であって、
請求項9に記載のイオン交換膜を得て、前記層(Sb)上に触媒層を設ける、触媒層付きイオン交換膜の製造方法。
【請求項15】
陽極と、陰極と、を備える電解槽と、
請求項1~8のいずれか1項に記載の触媒層付きイオン交換膜と、を有し、
前記触媒層付きイオン交換膜が、前記陽極と前記陰極とを区切るように前記電解槽内に配置されており、
前記触媒層付きイオン交換膜の前記無機物粒子層が前記陽極側に配置され、かつ、前記触媒層付きイオン交換膜の前記触媒層が前記陰極側に配置されている、電解水素化装置。
【請求項16】
前記陽極が配置された陽極室に電解質水溶液が供給され、前記陰極が配置された陰極室に芳香族化合物が供給される、請求項15に記載の電解水素化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒層付きイオン交換膜、イオン交換膜および電解水素化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素付加有機物(例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンおよびデカヒドロナフタレン等)の製造方法としては、水素化反応器で芳香族化合物(例えば、ベンゼン、トルエン、ナフタレン等)に水素を付加する方法が知られている。
近年、水素付加有機物の製造が簡便化できる等の点から、上記方法の代わりに、芳香族化合物の電解水素化方法が検討されている。芳香族化合物の電解水素化は、例えば、イオン交換膜によって陰極と陽極とが区切られた構造を有する電解水素化装置を用いて実施される。
特許文献1には、電解水素化装置におけるイオン交換膜として、電解質膜(製品名「NRE-212CS」、DuPont社製、スルホン酸基を有する含フッ素ポリマーから構成された膜)と、電解質膜のアノード(陽極)側の表面に設けられた酸化ジルコニウム層と、電解質膜のカソード(陰極)側の表面に設けられた触媒層と、を有するカソード触媒層-電解質膜接合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電解水素化装置を用いた芳香族化合物の電解水素化において、水素付加有機物の生産効率をより向上させる点から、電解電圧のさらなる低減および電流効率のさらなる向上が求められている。
本発明者らは、特許文献1を参照にして、無機物粒子層と、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層と、触媒層と、をこの順に有する触媒層付きイオン交換膜を電解水素化装置に適用したところ、芳香族化合物の電解水素化の際における電解電圧および電流効率の少なくとも一方の点で、改善の余地があることを知見した。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされ、芳香族化合物の電解水素化の際に、電解電圧を低くでき、かつ、電流効率を高くできる触媒層付きイオン交換膜、イオン交換膜、および、電解水素化装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、無機物粒子層と、第1含フッ素ポリマーを含む層(Sa)と、第2含フッ素ポリマーを含む層(Sb)と、触媒層と、をこの順に有する触媒層付きイオン交換膜であって、第1含フッ素ポリマーのイオン交換容量が第2含フッ素ポリマーのイオン交換容量よりも低い場合、触媒層付きイオン交換膜の無機物粒子層を陽極側に配置し、かつ、触媒層付きイオン交換膜の触媒層を陰極側に配置した電解水素化装置を用いれば、所望の効果が得られることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
[1] 無機物粒子およびバインダーを含む無機物粒子層と、
スルホン酸型官能基を有する第1含フッ素ポリマーを含む層(Sa)と、
スルホン酸型官能基を有する第2含フッ素ポリマーを含む層(Sb)と、
触媒層と、をこの順に有し、
上記第1含フッ素ポリマーのイオン交換容量が、上記第2含フッ素ポリマーのイオン交換容量よりも低い、触媒層付きイオン交換膜。
[2] 上記層(Sa)における上記無機物粒子層側の界面に凹凸構造を有する、[1]に記載の触媒層付きイオン交換膜。
[3] さらに、補強糸を含む補強材を有する、[1]または[2]に記載の触媒層付きイオン交換膜。
[4] 上記第1含フッ素ポリマーのイオン交換容量が、0.5~1.1ミリ当量/グラム乾燥樹脂である、[1]~[3]のいずれかに記載の触媒層付きイオン交換膜。
[5] 上記第2含フッ素ポリマーのイオン交換容量が、0.7~2.0ミリ当量/グラム乾燥樹脂である、[1]~[4]のいずれかに記載の触媒層付きイオン交換膜。
[6] 前記スルホン酸型官能基を有する第1含フッ素ポリマーが、含フッ素オレフィンに基づく単位、ならびに、スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有する単位を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の触媒層付きイオン交換膜。
[7] 前記含フッ素オレフィンがテトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニルまたはヘキサフルオロプロピレンである、[6]に記載の触媒層付きイオン交換膜。
[8] 前記スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有する単位が、式(1)で表される単位である[6]または[7]に記載の触媒層付きイオン交換膜。
式(1) -[CF2-CF(-L-(SO3M)n)]-
式中Lは、エーテル性酸素原子を含んでいてもよいn+1価のペルフルオロ炭化水素基であり、Mは、水素原子、アルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンであり、nは、1または2である。
[9] 無機物粒子およびバインダーを含む無機物粒子層と、
スルホン酸型官能基を有する第1含フッ素ポリマーを含む層(Sa)と、
スルホン酸型官能基を有する第2含フッ素ポリマーを含む層(Sb)と、をこの順に有し、
上記第1含フッ素ポリマーのイオン交換容量が、上記第2含フッ素ポリマーのイオン交換容量よりも低い、イオン交換膜。
[10] 上記層(Sa)における上記無機物粒子層側の界面に凹凸構造を有する、[9]に記載のイオン交換膜。
[11] さらに、補強糸を含む補強材を有する、[9]または[10]に記載のイオン交換膜。
[12] 上記第1含フッ素ポリマーのイオン交換容量が、0.5~1.1ミリ当量/グラム乾燥樹脂である、[9]~[11]のいずれかに記載のイオン交換膜。
[13] 上記第2含フッ素ポリマーのイオン交換容量が、0.7~2.0ミリ当量/グラム乾燥樹脂である、[9]~[12]のいずれかに記載のイオン交換膜。
[14] [1]~[8]のいずれかに記載の触媒層付きイオン交換膜の製造方法であって、
[9]に記載のイオン交換膜を得て、上記層(Sb)上に触媒層を設ける、触媒層付きイオン交換膜の製造方法。
[15] 陽極と、陰極と、を備える電解槽と、
[1]~[8]のいずれかに記載の触媒層付きイオン交換膜と、を有し、
上記触媒層付きイオン交換膜が、上記陽極と上記陰極とを区切るように上記電解槽内に配置されており、
上記触媒層付きイオン交換膜の上記無機物粒子層が上記陽極側に配置され、かつ、上記触媒層付きイオン交換膜の上記触媒層が上記陰極側に配置されている、電解水素化装置。
[16] 上記陽極が配置された陽極室に電解質水溶液が供給され、上記陰極が配置された陰極室に芳香族化合物が供給される、[15]に記載の電解水素化装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、芳香族化合物の電解水素化の際に、電解電圧を低くでき、かつ、電流効率を高くできる触媒層付きイオン交換膜、イオン交換膜、および、電解水素化装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の触媒層付きイオン交換膜の一例を示す模式断面図である。
【
図2】本発明の触媒層付きイオン交換膜の一例を示す模式断面図の部分拡大図である。
【
図3】本発明のイオン交換膜の一例を示す模式断面図である。
【
図4】本発明の電解水素化装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
【0011】
「イオン交換膜」とは、イオン交換基を有するポリマーを含む膜である。
「イオン交換基」とは、この基に含まれるイオンの少なくとも一部を、他のイオンに交換しうる基であり、下記のカルボン酸型官能基、スルホン酸型官能基等が挙げられる。
「カルボン酸型官能基」とは、カルボン酸基(-COOH)、またはカルボン酸塩基(-COOM1。ただし、M1はアルカリ金属または第4級アンモニウム塩基である。)を意味する。
「スルホン酸型官能基」とは、スルホン酸基(-SO3H)、またはスルホン酸塩基(-SO3M2。ただし、M2はアルカリ金属または第4級アンモニウム塩基である。)を意味する。
「前駆体層」とは、イオン交換基に変換できる基を有するポリマーを含む層(膜)である。
「イオン交換基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の公知の処理によって、イオン交換基に変換できる基を意味する。
「スルホン酸型官能基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の公知の処理によって、スルホン酸型官能基に変換できる基を意味する。
【0012】
「含フッ素ポリマー」とは、分子中にフッ素原子を有する高分子化合物を意味する。
「パーフルオロカーボンポリマー」とは、ポリマー中の炭素原子に結合している水素原子の全部がフッ素原子に置換されたポリマーを意味する。パーフルオロカーボンポリマー中のフッ素原子の一部は、塩素原子および臭素原子の一方または両方で置換されていてもよい。
「モノマー」とは、重合反応性の炭素-炭素不飽和二重結合を有する化合物を意味する。
「含フッ素モノマー」とは、分子中にフッ素原子を有するモノマーを意味する。
「構成単位」とは、ポリマー中に存在してポリマーを構成する、モノマーに由来する部分を意味する。例えば、構成単位が炭素-炭素不飽和二重結合を有するモノマーの付加重合により生じる場合、このモノマーに由来する構成単位は、この不飽和二重結合が開裂して生じた2価の構成単位である。また、構成単位は、ある構成単位の構造を有するポリマーを形成した後に、この構成単位を化学的に変換、たとえば加水分解処理して得られた構成単位であってもよい。なお、以下において、場合により、個々のモノマーに由来する構成単位を、そのモノマー名に「単位」を付した名称で記載することがある。
【0013】
「補強材」とは、イオン交換膜の強度を向上させるために用いられる材料を意味する。補強材は、補強布に由来する材料である。
「補強布」とは、イオン交換膜の強度を向上させるための補強材の原料として用いられる布を意味する。
「補強糸」とは、補強布を構成する糸であり、補強布をアルカリ性水溶液(例えば、濃度が32質量%の水酸化ナトリウム水溶液)に浸漬しても溶出することのない材料からなる糸である。
「犠牲糸」とは、補強布を構成する糸であり、アルカリ性水溶液、および/または、プロセス液(例えば、芳香族化合物の電解水素化に用いる電解質溶液または芳香族化合物)によって、溶出する材料を含む糸である。
「溶出孔」とは、犠牲糸がアルカリ性水溶液に溶出した結果、生成する孔を意味する。
「強化前駆体膜」とは、前駆体層中に補強布が配置された膜を意味する。
【0014】
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
触媒層付きイオン交換膜の乾燥時における各層の厚さは、触媒層付きイオン交換膜を90℃で2時間乾燥させた後、触媒層付きイオン交換膜の断面を光学顕微鏡にて観察し、画像ソフトを用いて求める。なお、層の表面に凹凸が存在する場合、層における10点の凹部分の厚さと、層における10点の凸部分の厚さと、を測定し、合計20点の厚さの算術平均値を層の厚さとする。
「TQ値」とは、ポリマーの分子量に関係する値であって、容量流速:100mm3/秒を示す温度を表す。容量流速は、ポリマーを3MPaの加圧下に一定温度のオリフィス(径:1mm、長さ:1mm)から溶融、流出させたときの流出するポリマーの量をmm3/秒の単位で示した値である。TQ値が高いほど、高分子量である。
「イオン交換容量」は、次のようにして算出される値である。まず、乾燥窒素を流したグローブボックス中に含フッ素ポリマーを24時間おき、含フッ素ポリマーの乾燥質量を測定する。その後、含フッ素ポリマーを2モル/Lの塩化ナトリウム水溶液に60℃で1時間浸漬する。含フッ素ポリマーを超純水で洗浄した後、取り出し、含フッ素ポリマーを浸漬していた液を0.1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液で滴定することによって、含フッ素ポリマーのイオン交換容量を求める。
【0016】
[触媒層付きイオン交換膜]
本発明の触媒層付きイオン交換膜は、無機物粒子およびバインダーを含む無機物粒子層と、スルホン酸型官能基を有する第1含フッ素ポリマー(以下、「含フッ素ポリマー(S1)」ともいう。)を含む層(Sa)と、スルホン酸型官能基を有する第2含フッ素ポリマー(以下、「含フッ素ポリマー(S2)」ともいう。)を含む層(Sb)と、触媒層と、をこの順に有する。
また、上記含フッ素ポリマー(S1)のイオン交換容量が、上記含フッ素ポリマー(S2)のイオン交換容量よりも低い。
本発明の触媒層付きイオン交換膜は、芳香族化合物の電解水素化に用いることが好ましい。本発明の触媒層付きイオン交換膜を電解水素化装置に適用する際に、無機物粒子層を陽極側に配置し、かつ、触媒層を陰極側に配置すれば、芳香族化合物の電解水素化の際に、電解電圧を低くでき、かつ、電流効率を高くできる。
この理由の詳細は明らかになっていないが、以下の理由によるものと推測される。
【0017】
電解水素化装置において、触媒層付きイオン交換膜は、陽極が配置された陽極室と、陰極が配置された陰極室と、を区切るように電解槽内に配置されており、陽極室に電解質水溶液が供給され、陰極室に芳香族化合物が供給されている。このような電解水素化装置を駆動させた場合、陽極室における水の電気分解によって生じたプロトン(H+)が触媒層付きイオン交換膜を介して陰極側に移動して、触媒層の表面の付近においてプロトン付加による芳香族化合物の水素化が起こると考えられている。
ここで、陰極側での芳香族化合物の水素化反応は、触媒層上で起こる。具体的には、触媒層に含まれる触媒上で活性化された水素と、芳香族化合物と、が接触し、そこに電子が流れ込み、芳香族化合物の水素化が起こると考えられている。
しかしながら、触媒周辺に水分が存在すると、芳香族化合物が触媒周辺の反応場に接近しづらくなる。その結果、活性化した水素と電子とが反応し、陰極室で水素が発生するので、電流効率が低下するという問題が生じる。
一方で、イオン交換容量の低い電解質膜は、イオン交換容量の高い電解質膜よりも水分を通しにくく、電流効率を高くできるが、電解電圧を向上させる。
また、イオン交換容量の高い電解質膜は、イオン交換容量の低い電解質膜よりも、水分を通しやすく、電流効率を低くさせるが、電解電圧を低減できる。
本発明者らは、上記事項を考慮した結果、電解質膜を複層構造にして、イオン交換容量の低い含フッ素ポリマー(S1)を含む層(Sa)を陽極側に配置し、イオン交換容量の高い含フッ素ポリマー(S2)を含む層(Sb)を陰極側に配置した場合、陽極室から陰極室への水分の移動が抑制される結果、電流効率を向上できることを見出した。また、このような電解質膜を用いることで、低電圧での電解が可能になることも見出した。
【0018】
ここで、電解水素化装置を用いた芳香族化合物の電解水素化では、陽極室に電解質水溶液が供給され、陰極室に芳香族化合物が供給される。この場合、単層の電解質膜を有する触媒層付きイオン交換膜を用いた場合、電解質膜の陽極室側の面が電解質水溶液と接触し、電解質膜の陰極室側の面が芳香族化合物と接触する。そうすると、触媒層付きイオン交換膜の対向する表面間での膨潤度合いの差によって、触媒層付きイオン交換膜にシワが入る場合がある。その結果、電解電圧の上昇や、電流効率の低下が起こる場合がある。
この問題に対して、本発明者らは、含フッ素ポリマー(S1)を含む層(Sa)を陽極側に配置し、含フッ素ポリマー(S2)を含む層(Sb)を陰極側に配置すれば、触媒層付きイオン交換膜のシワの発生を抑制できることを見出した。これは、以下の理由によるものと推測される。
含フッ素ポリマー(S1)は、含フッ素ポリマー(S2)と比べてイオン交換容量が低いため、水分によって膨潤しにくい。一方で、含フッ素ポリマー(S2)は、含フッ素ポリマー(S1)と比べてイオン交換容量が高いため、有機溶媒(芳香族化合物)によって膨潤しにくい。そのため、含フッ素ポリマー(S1)の水分による膨潤度合いと、含フッ素ポリマー(S2)の芳香族化合物による膨潤度合いと、が釣り合って、触媒層付きイオン交換膜の表面におけるシワの発生を抑制できたと考えられる。
【0019】
以下、本発明の触媒層付きイオン交換膜を
図1に基づいて説明するが、本発明は
図1の内容に限定されるものではない。
図1は、本発明の触媒層付きイオン交換膜の一例を示す模式断面図である。
図1に示すように、触媒層付きイオン交換膜1は、層(Sa)である層12Aおよび層(Sb)である層12Bからなる電解質12と、層12Aの表面に配置された無機物粒子層14と、層12Bの表面に配置された触媒層16と、を有し、電解質膜12の中に補強材20が配置されている。
【0020】
<層(Sa)>
層(Sa)である層12Aは、含フッ素ポリマー(S1)を含む層であればよいが、含フッ素ポリマー(S1)以外の材料を含まない含フッ素ポリマー(S1)のみからなる層が好ましい。つまり、層(Sa)は、含フッ素ポリマー(S1)からなる層であることが好ましい。
後述する電解水素化装置に触媒層付きイオン交換膜1を適用する場合には、層12Aは、層12Bよりも陽極側に配置される。
【0021】
乾燥時の層12Aの厚さは、5~60μmが好ましく、10~40μmがより好ましく、10~30μmが特に好ましい。乾燥時の層12Aの厚さが上記下限値以上であれば、触媒層付きイオン交換膜1の機械的強度が向上し、また、電流効率がより優れる。乾燥時の層12Aの厚さが上記上限値以下であれば、触媒層付きイオン交換膜1の電気抵抗を低く抑えられる。
【0022】
図1に示すように、層12Aは、無機物粒子層14側の界面に凹凸構造を有することが好ましい。無機物粒子層14側の界面に凹凸構造を有する場合、陽極と、触媒層付きイオン交換膜1の陽極側(すなわち、層12Aの無機物粒子層14側)との間に電解質水溶液が供給されやすくなり、また、電解質水溶液が抜けやすくなる。これにより、有効電解面積の低下を抑制できるので、電解電圧の上昇を抑制できる。
【0023】
本発明において、層(Sa)における無機物粒子層側の界面に有する凹凸構造とは、層(Sb)から無機物粒子層に向かって隆起した構造(以下、「凸部」ともいう。)を面内方向に複数有し、かつ、凸部の頂点から凸部の最も低い位置までの最短距離(以下、「凸部の高さ」ともいう。)が2μm以上である構造を意味する。
図2は、本発明の触媒層付きイオン交換膜の断面の部分拡大図である。
図2の例では、層12Aは、無機物粒子層14側の界面に連続的に形成された凸部Bを複数有している。凸部Bの高さは、凸部B(凸部B2)の頂点に対応する位置P1から凸部B(凸部B2)の最も低い位置P2までの最短距離D1に相当する。
【0024】
凸部の高さは、次のようにして測定される。
まず、触媒層付きイオン交換膜を厚み方向に沿って切断して、光学顕微鏡(製品名「BX-51」、オリンパス社製)による触媒層付きイオン交換膜の断面の拡大画像(例えば、100倍)を撮影する。次に、撮影した拡大画像から、層12Aにおける無機物粒子層14側の界面における凸部の高さ(
図2の最短距離D1)を測定する。
【0025】
凸部の高さは、2μm以上であり、電流効率がより優れる点から、2~80μmが好ましく、10~50μmが特に好ましい。
【0026】
凸部は、層(Sa)の面内方向に連続的に形成されていることが好ましく、周期的なピッチで形成されていることが好ましい。
【0027】
層(Sa)の無機物粒子層側の表面が凹凸構造を有する場合、凸部の頂点間の平均距離は、電流効率がより向上する点から、20~500μmが好ましく、50~400μmがより好ましく、100~300μmが特に好ましい。
本発明において、凸部の頂点間の平均距離とは、隣接する凸部の頂点間の最短距離であって、異なる10点の頂点間における算術平均値を意味する。
図2の例では、隣接する凸部の頂点間の最短距離は、凸部B1の頂点に対応する位置T1から、凸部B1に隣接する凸部B2の頂点に対応する位置T2までの最短距離D2に相当する。
隣接する凸部の頂点間の最短距離は、上述の凸部の高さの測定で説明した拡大画像を用いて測定する。
【0028】
層(Sa)の無機物粒子層側の界面に凹凸構造を形成する方法の具体例としては、層(Sa)をブラスト処理する方法、層(Sa)と凹凸構造を持つフィルムまたは金属型を加熱プレスする方法、層(Sa)と固体粒子を加熱プレスした後、粒子を除去する方法、層(Sa)を形成する際に凹凸構造を持つフィルムや金属型を用いる方法、凹凸構造を持つフィルム上に層(Sa)を形成する方法、が挙げられる。
また、層(Sa)、補強材および層(Sb)をこの順に積層し、真空吸引を行う方法も用いることができる。これにより、補強材の表面形状に応じた凹凸構造が層(Sa)の表面に形成できる。
層(Sa)を形成する際に凹凸構造を持つフィルムを使用する方法は、比較的簡便であり、処理による不純物混入が少ないため安定した性能の膜が得られるため好ましい。
凹凸構造を持つフィルムは、成形加工性および耐薬品性の観点から、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましい。
【0029】
なお、
図1の例では、層12Aが無機物粒子層14側の界面に凹凸構造を有する場合を示したが、これに限定されず、層12Aにおける無機物粒子層14側の界面は、凹凸構造を有していなくてもよい。
【0030】
(含フッ素ポリマー(S1))
層(Sa)は、含フッ素ポリマー(S1)を1種単独で含んでいてもよく、含フッ素ポリマー(S1)を2種以上含んでいてもよい。
層(Sa)は、含フッ素ポリマー(S1)以外のポリマー(以下、他のポリマーともいう)を含んでいてもよいが、実質的に含フッ素ポリマー(S1)からなるのが好ましい。実質的に含フッ素ポリマー(S1)からなるとは、層(Sa)中のポリマーの合計質量に対して、含フッ素ポリマー(S1)の含有量が90質量%以上であることを意味する。含フッ素ポリマー(S1)の含有量の上限は、層(Sa)中のポリマーの合計質量に対して、100質量%である。
【0031】
他のポリマーの具体例としては、環内に窒素原子を1個以上含む複素環化合物の重合体、並びに、環内に窒素原子を1個以上と酸素原子および/または硫黄原子とを含む複素環化合物の重合体からなる群から選択される1種以上のポリアゾール化合物が挙げられる。
ポリアゾール化合物の具体例としては、ポリイミダゾール化合物、ポリベンズイミダゾール化合物、ポリベンゾビスイミダゾール化合物、ポリベンゾオキサゾール化合物、ポリオキサゾール化合物、ポリチアゾール化合物、ポリベンゾチアゾール化合物が挙げられる。
また、触媒層付きイオン交換膜の耐酸化性の点から、他のポリマーとしては、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂も挙げられる。
【0032】
含フッ素ポリマー(S1)は、含フッ素オレフィンに基づく単位、ならびに、スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有する単位を含むのが好ましい。
含フッ素オレフィンとしては、例えば、分子中に1個以上のフッ素原子を有する炭素数が2~3のフルオロオレフィンが挙げられる。フルオロオレフィンの具体例としては、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」ともいう。)、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレンが挙げられる。なかでも、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマー(S1)の特性に優れる点から、TFEが好ましい。
含フッ素オレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有する単位としては、式(1)で表される単位が好ましい。
式(1) -[CF2-CF(-L-(SO3M)n)]-
【0034】
式(1)中、Lは、エーテル性酸素原子を含んでいてもよいn+1価のペルフルオロ炭化水素基である。
エーテル性酸素原子は、ペルフルオロ炭化水素基中の末端に位置していても、炭素原子-炭素原子間に位置していてもよい。
n+1価のペルフルオロ炭化水素基中の炭素数は、1以上が好ましく、2以上が特に好ましく、20以下が好ましく、10以下が特に好ましい。
【0035】
Lとしては、エーテル性酸素原子を含んでいてもよいn+1価のペルフルオロ脂肪族炭化水素基であり、n=1の態様である、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい2価のペルフルオロアルキレン基、または、n=2の態様である、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい3価のペルフルオロ脂肪族炭化水素基が特に好ましい。
上記2価のペルフルオロアルキレン基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよい。
【0036】
Mは、水素原子、アルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンである。
nは、1または2である。
【0037】
式(1)で表される単位としては、式(1-1)で表される単位、式(1-2)で表される単位、式(1-3)で表される単位または式(1-4)で表される単位が好ましい。
式(1-1) -[CF2-CF(-O-Rf1-SO3M)]-
式(1-2) -[CF2-CF(-Rf1-SO3M)]-
【0038】
【0039】
【0040】
Rf1は、炭素原子-炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよいペルフルオロアルキレン基である。上記ペルフルオロアルキレン基中の炭素数は、1以上が好ましく、2以上が特に好ましく、20以下が好ましく、10以下が特に好ましい。
【0041】
Rf2は、単結合または炭素原子-炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよいペルフルオロアルキレン基である。上記ペルフルオロアルキレン基中の炭素数は、1以上が好ましく、2以上が特に好ましく、20以下が好ましく、10以下が特に好ましい。
【0042】
Rf3は、単結合または炭素原子-炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよいペルフルオロアルキレン基である。上記ペルフルオロアルキレン基中の炭素数は、1以上が好ましく、2以上が特に好ましく、20以下が好ましく、10以下が特に好ましい。
【0043】
rは0または1である。
mは0または1である。
Mは水素原子、アルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンである。
【0044】
式(1-1)で表される単位および式(1-2)で表される単位としては、式(1-5)で表される単位がより好ましい。
式(1-5) -[CF2-CF(-(CF2)x-(OCF2CFY)y-O-(CF2)z-SO3M)]-
xは0または1であり、yは0~2の整数であり、zは1~4の整数であり、YはFまたはCF3である。Mは、上述した通りである。
【0045】
式(1-1)で表される単位の具体例としては、以下の単位が挙げられる。式中のwは1~8の整数であり、xは1~5の整数である。式中のMの定義は、上述した通りである。
-[CF2-CF(-O-(CF2)w-SO3M)]-
-[CF2-CF(-O-CF2CF(CF3)-O-(CF2)w-SO3M)]- -[CF2-CF(-(O-CF2CF(CF3))x-SO3M)]-
【0046】
式(1-2)で表される単位の具体例としては、以下の単位が挙げられる。式中のwは1~8の整数である。式中のMの定義は、上述した通りである。
-[CF2-CF(-(CF2)w-SO3M)]-
-[CF2-CF(-CF2-O-(CF2)w-SO3M)]-
【0047】
式(1-3)で表される単位としては、式(1-3-1)で表される単位が好ましい。式中のMの定義は、上述した通りである。
【0048】
【0049】
Rf4は炭素数1~6の直鎖状のペルフルオロアルキレン基であり、Rf5は単結合または炭素原子-炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~6の直鎖状のペルフルオロアルキレン基である。rおよびMの定義は、上述した通りである。
【0050】
式(1-3-1)で表される単位の具体例としては、以下が挙げられる。
【0051】
【0052】
式(1-4)で表される単位としては、式(1-4-1)で表される単位が好ましい。式中のRf1、Rf2およびMの定義は、上述した通りである。
【0053】
【0054】
式(1-4-1)で表される単位の具体例としては、以下が挙げられる。
【0055】
【0056】
スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有する単位は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
含フッ素ポリマー(S1)は、含フッ素オレフィンに基づく単位、並びに、スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有する単位以外のモノマー(以下、他のモノマーともいう)に基づく単位を含んでいてもよい。
他のモノマーの具体例としては、CF2=CFRf6(ただし、Rf6は炭素数2~10のペルフルオロアルキル基である。)、CF2=CF-ORf7(ただし、Rf7は炭素数1~10のペルフルオロアルキル基である。)、CF2=CFO(CF2)vCF=CF2(ただし、vは1~3の整数である。)が挙げられる。
他のモノマーに基づく単位の含有量は、イオン交換性能の維持の点から、含フッ素ポリマー(S1)中の全単位に対して、30質量%以下が好ましい。
【0058】
含フッ素ポリマー(S1)のイオン交換容量は、0.5~1.1ミリ当量/グラム乾燥樹脂が好ましく、0.6~1.1ミリ当量/グラム乾燥樹脂がより好ましく、0.6~1.0当量/グラム乾燥樹脂が特に好ましい。
含フッ素ポリマー(S1)のイオン交換容量が上記下限値以上であれば、触媒層付きイオン交換膜1の電気抵抗が低くなり、電解電圧をより低くできる。また、含フッ素ポリマー(S1)のイオン交換容量が上記上限値以下であれば、電流効率がより優れる。
【0059】
<層(Sb)>
層(Sb)である層12Bは、含フッ素ポリマー(S2)を含む層であればよいが、含フッ素ポリマー(S2)以外の材料を含まない含フッ素ポリマー(S2)のみからなる層が好ましい。つまり、層(Sb)は、含フッ素ポリマー(S2)からなる層であることが好ましい。
後述する電解水素化装置に触媒層付きイオン交換膜1を適用する場合には、層12Bは、層12Aよりも陰極側に配置される。
図1では、層12Bは単層として示されているが、複数の層から形成される層であってもよい。層12Bが複数の層から形成される場合、各層において、含フッ素ポリマー(S2)を構成する構成単位の種類やスルホン酸型官能基を有する構成単位の割合を異なる構成としてもよい。
なお、層12Bが複数の層から形成されている場合は、各層に含まれる含フッ素ポリマー(S2)のイオン交換容量が、層12Aに含まれる含フッ素ポリマー(S1)のイオン交換容量よりも高い。
また、層12Bが複数の層から形成されている場合、無機物粒子層14から触媒層16に向かって、イオン交換容量が高くなるように層12Bの各層が配置されていることが好ましい。これにより、層12Bを構成する各層の層間剥離を抑制できる。
【0060】
乾燥時の層12Bの厚さ(層12Bが複数の層から形成されている場合はその合計)は、50~500μmが好ましく、50~200μmがより好ましく、50~150μmが特に好ましい。乾燥時の層12Bの厚さが上記下限値以上であれば、触媒層付きイオン交換膜1の機械的強度が向上し、また、電流効率がより優れる。乾燥時の層(Sb)12Bの厚さが上記上限値以下であれば、触媒層付きイオン交換膜1の電気抵抗を低く抑えられる。
【0061】
(含フッ素ポリマー(S2))
層(Sb)は、含フッ素ポリマー(S2)を1種単独で含んでいてもよく、含フッ素ポリマー(S2)を2種以上含んでいてもよい。
層(Sb)は、含フッ素ポリマー(S2)以外のポリマーを含んでいてもよいが、実質的に含フッ素ポリマー(S2)からなるのが好ましい。実質的に含フッ素ポリマー(S2)からなるとは、層(Sb)中のポリマーの合計質量に対して、含フッ素ポリマー(S2)の含有量が90質量%以上であることを意味する。含フッ素ポリマー(S2)の含有量の上限は、層(Sb)中のポリマーの合計質量に対して、100質量%である。
含フッ素ポリマー(S2)以外のポリマーの具体例は、上述の含フッ素ポリマー(S1)以外のポリマー(他のポリマー)と同様である。
【0062】
含フッ素ポリマー(S2)は、含フッ素ポリマー(S1)とイオン交換容量が異なる以外は同様のポリマーを用いることが好ましい。
含フッ素ポリマー(S1)および含フッ素ポリマー(S2)のイオン交換容量はいずれも、含フッ素ポリマー(S1)または含フッ素ポリマー(S2)中のイオン交換基の含有量を変化させることで調節できる。
【0063】
含フッ素ポリマー(S2)のイオン交換容量は、0.7~2.0ミリ当量/グラム乾燥樹脂が好ましく、0.7~1.5ミリ当量/グラム乾燥樹脂がより好ましく、0.7~1.4ミリ当量/グラム乾燥樹脂が更により好ましく、0.8~1.4ミリ当量/グラム乾燥樹脂が特に好ましい。
含フッ素ポリマー(S2)のイオン交換容量が上記下限値以上であれば、触媒層付きイオン交換膜の電気抵抗が低くなり、電解電圧をより低くできる。また、含フッ素ポリマー(S2)のイオン交換容量が上記上限値以下であれば、電流効率がより優れる。
【0064】
層(Sb)が単層である場合、含フッ素ポリマー(S1)のイオン交換容量と、含フッ素ポリマー(S2)のイオン交換容量との差の絶対値は、本発明の効果がより発揮される点から、0.1~1.4ミリ当量/グラム乾燥樹脂が好ましく、0.1~0.65ミリ当量/グラム乾燥樹脂がより好ましく、0.1~0.6ミリ当量/グラム乾燥樹脂が更に好ましく、0.1~0.5ミリ当量/グラム乾燥樹脂が特に好ましい。
層(Sb)が複数の層から形成されている場合、含フッ素ポリマー(S1)のイオン交換容量と、層(Sb)を構成する層のうち最も層(Sa)側に配置されている層に含まれる含フッ素ポリマー(S2)のイオン交換容量と、の差の絶対値は、本発明の効果がより発揮される点から、0.1~1.4ミリ当量/グラム乾燥樹脂が好ましく、0.1~0.65ミリ当量/グラム乾燥樹脂がより好ましく、0.1~0.5ミリ当量/グラム乾燥樹脂が特に好ましい。
層(Sb)が複数の層から形成されている場合、層(Sb)を構成する各層に含まれる含フッ素ポリマー(S2)のイオン交換容量の差の絶対値は、本発明の効果がより発揮される点から、0.1~0.65ミリ当量/グラム乾燥樹脂が好ましく、0.1~0.5ミリ当量/グラム乾燥樹脂がより好ましく、0.1~0.3ミリ当量/グラム乾燥樹脂が特に好ましい。
【0065】
<無機物粒子層>
無機物粒子層14は、無機物粒子と、バインダーとを含む層であり、層12Aにおける層12Bの配置面とは反対側の表面に配置されている。
電解質水溶液の電気分解により生じる酸素ガスが層(Sa)の表面に付着すると、芳香族化合物の電解水素化の際に電解電圧が高くなる。無機物粒子層は、電解質水溶液の電気分解により生じる酸素ガスの層(Sa)の表面への付着を抑制し、電解電圧の上昇を抑制するために設けられる。
【0066】
無機物粒子層14の厚さは、電解電圧をより低減できる点から、1~50μmが好ましく、1~30μmがより好ましく、1~20μmが特に好ましい。
【0067】
無機物粒子としては、親水性を有するものが好ましい。具体的には、第4族元素または第14族元素の酸化物、窒化物および炭化物からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、SiO2、SiC、ZrO2、ZrCがより好ましく、ZrO2が特に好ましい。
【0068】
無機物粒子の平均粒子径は、0.01~10μmが好ましく、0.01~5μmがより好ましく、0.5~3μmがさらに好ましい。無機物粒子の平均粒子径が上記下限値以上であれば、高いガス付着抑制効果が得られる。無機物粒子の平均粒子径が上記上限値以下であれば、無機物粒子の脱落耐性に優れる。
無機物粒子の平均粒子径は、無機物粒子を溶媒に分散させた分散液を、レーザー回折・散乱法を測定原理とした公知の粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置またはこれに準じた装置)によって測定したときの粒度分布より体積平均を算出して求められる50%径の値(D50)である。
【0069】
バインダーとしては、親水性を有するものが好ましく、カルボン酸基またはスルホン酸基を有する含フッ素ポリマーが好ましく、スルホン酸基を有する含フッ素ポリマーがより好ましい。含フッ素ポリマーは、カルボン酸基またはスルホン酸基を有するモノマーのホモポリマーであってもよく、カルボン酸基またはスルホン酸基を有するモノマーと、このモノマーと共重合可能なモノマーとのコポリマーであってもよい。
【0070】
無機物粒子層における無機物粒子およびバインダーの合計質量に対する、バインダーの質量比(以下、「バインダー比」ともいう。)は、0.1~0.5が好ましい。無機物粒子層におけるバインダー比が上記下限値以上であれば、無機物粒子の脱落耐性に優れる。無機物粒子層におけるバインダー比が上記上限値以下であれば、高いガス付着抑制効果が得られる。
【0071】
層(Sa)における無機物粒子層側の表面が凹凸構造を有する場合、無機物粒子層は、層(Sa)の凹凸構造に追従した凹凸構造の表面形状を有することが好ましい(
図1参照)。
【0072】
<触媒層>
触媒層16は、触媒を含む層であり、層12Bにおける層12Aの配置面とは反対側の表面に配置されている。
触媒の具体例としては、カーボン担体に、白金、白金合金またはコアシェル構造を有する白金を含む触媒を担持した担持触媒、酸化イリジウム触媒、酸化イリジウムを含有する合金、コアシェル構造を有する酸化イリジウムを含有する触媒が挙げられる。カーボン担体としては、カーボンブラック粉末が挙げられる。
【0073】
触媒層16は、触媒の脱落を抑制する点から、イオン交換基を有するポリマーをさらに含んでいてもよい。イオン交換基を有するポリマーとしては、イオン交換基を有する含フッ素ポリマーが挙げられる。
【0074】
図1の例では、触媒層16が層12Bの表面に形成された、いわゆるゼロギャップ構造である場合を示したが、これに限定されず、触媒層16は、他の層を介して層12Bの上に形成されていてもよい。つまり、触媒層16と層12Bとの間に、他の層が形成されていてもよい。
例えば、層(Sb)の表面に、陰極およびガス拡散層として機能するカーボンフェルトが設けられており、カーボンフェルトの表面に触媒層が形成されていてもよい。
【0075】
<補強材>
補強材20は、電解質12中に配置されている。
補強材20は、電解質膜12を補強する材料であり、補強布に由来する。補強布は、経糸と緯糸とからなり、経糸と緯糸が直交していることが好ましい。
図1に示すように、補強布は、補強糸22と犠牲糸24とを有していてもよいが、犠牲糸24を有していなくてもよい。
【0076】
補強糸22としては、パーフルオロカーボンポリマーを含む糸が好ましく、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」ともいう。)を含む糸がより好ましく、PTFEのみからなるPTFE糸がさらに好ましい。
【0077】
犠牲糸24は、前処理(例えば、強化前駆体膜をアルカリ性水溶液に浸漬する処理)、または、プロセス液(すなわち、芳香族化合物の電解水素化に用いる電解質溶液または芳香族化合物)によって、その少なくとも一部が溶出する糸である。
中でも、犠牲糸24は、プロセス液によって溶出する糸であることが好ましい。これにより、触媒層付きイオン交換膜1の製造後から芳香族化合物の電解水素化のコンディショニング運転の前までの触媒層付きイオン交換膜1の取り扱い性に優れ、また、電解水素化装置の運転中に犠牲糸1が溶解することで、電解電圧をより低減できる。
1本の犠牲糸24は、1本のフィラメントからなるモノフィラメントであっても、2本以上のフィラメントからなるマルチフィラメントであってもよい。
犠牲糸24としては、PETのみからなるPET糸、PETおよびポリブチレンテレフタレート(以下、「PBT」ともいう。)の混合物からなるPET/PBT糸、PBTのみからなるPBT糸、またはポリトリメチレンテレフタレート(以下、「PTT」ともいう。)のみからなるPTT糸が好ましく、PET糸がより好ましい。
【0078】
図1の例では、犠牲糸24の一部が残存し、犠牲糸24のフィラメント26の溶解残りの周りに溶出孔28が形成されている。これにより、触媒層付きイオン交換膜1の製造後から芳香族化合物の電解水素化のコンディショニング運転の前までの触媒層付きイオン交換膜1の取り扱いや、コンディショニング運転の際の電解槽への触媒層付きイオン交換膜1の設置時において、触媒層付きイオン交換膜1にクラック等の破損が発生しにくくなる。
【0079】
図1の例では、補強材20を有する態様を示したが、これに限定されず、本発明の触媒層付きイオン交換膜は、補強材を有していなくてもよい。
また、
図1の例では、補強材20が層12Aと層12Bとの間に配置されているが、補強材の位置はこれに限定されず、例えば、層12Aの中に配置されていてもよいし、層12Bの中に配置されていてもよい。
【0080】
<触媒層付きイオン交換膜の製造方法>
本発明の触媒層付きイオン交換膜の製造方法の一例を以下に示す。本発明の触媒層付きイオン交換膜の製造方法は、以下の工程(i)~工程(iv)を含むことが好ましい。これにより、上述した本発明の触媒層付きイオン交換膜が得られる。
工程(i):スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(S1’)を含む層(Sa’)と、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(S2’)を含む層(Sb’)と、がこの順に積層された前駆体膜を得る工程
工程(ii):層(Sa’)の表面に、無機物粒子層を形成する工程
工程(iii):前駆体膜中のスルホン酸型官能基に変換できる基を、スルホン酸型官能基に変換する工程
工程(iv):層(Sb’)の表面に、触媒層を形成する工程
ここで、工程(i)~(iv)の実施順序は特に限定されないが、工程(i)、工程(ii)、工程(iii)および工程(iv)の順に実施することが好ましい。また、工程(ii)、工程(i)、工程(iii)および工程(iv)の順に実施してもよい。
【0081】
以下、本発明の触媒層付きイオン交換膜の製造方法の一例について、工程毎に説明する。
【0082】
(工程(i))
前駆体膜の製造方法としては、含フッ素ポリマー(S1’)を含む層(Sa’)と、含フッ素ポリマー(S2’)を含む層(Sb’)と、をこの順に配置し、積層ロールまたは真空積層装置を用いてこれらを積層する方法が挙げられる。
【0083】
前駆体膜は、補強糸を含む補強材を有する強化前駆体膜であってもよい。この場合、例えば、層(Sa’)と、補強材と、層(Sb’)とをこの順に配置し、上記方法にしたがって強化前駆体膜を得る。
【0084】
層(Sa’)における層(Sb’)のは配置面の反対面は、上述したいずれかの方法を用いて、凹凸構造を有するための処理が施されてもよい。
【0085】
後述の工程(iii)によって、含フッ素ポリマー(S1’)を含む層(Sa’)は、含フッ素ポリマー(S1)を含む層(Sa)に変換され、含フッ素ポリマー(S2’)を含む層(Sb’)は、含フッ素ポリマー(S2)を含む層(Sb)に変換される。
【0086】
含フッ素ポリマー(S1’)は、含フッ素オレフィンと、スルホン酸型官能基に変換できる基およびフッ素原子を有するモノマー(以下、「含フッ素モノマー(S1’)ともいう。」)と、の共重合ポリマーであるのが好ましい。
含フッ素ポリマー(S1’)の共重合の方法は、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の公知の方法を採用できる。
含フッ素オレフィンとしては、先に例示したものが挙げられ、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマー(S1)の特性に優れる点から、TFEが好ましい。
含フッ素オレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
含フッ素モノマー(S1’)としては、分子中に1個以上のフッ素原子を有し、エチレン性の二重結合を有し、かつ、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する化合物が挙げられる。
含フッ素モノマー(S1’)としては、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマー(S1)の特性に優れる点から、式(2)で表される化合物が好ましい。
式(2) CF2=CF-L-(A)n
式(2)中のLおよびnの定義は、上述した通りである。
Aは、スルホン酸型官能基に変換できる基である。スルホン酸型官能基に変換できる基は、加水分解によってスルホン酸型官能基に変換し得る官能基が好ましい。スルホン酸型官能基に変換できる基の具体例としては、-SO2F、-SO2Cl、-SO2Brが挙げられる。式(2)中にAが2個存在する場合には、Aは互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0088】
式(2)で表される化合物としては、式(2-1)で表される化合物、式(2-2)で表される化合物、式(2-3)で表される化合物、式(2-4)で表される化合物および式(2-3)で表される化合物が好ましい。
式(2-1) CF2=CF-O-Rf1-A
式(2-2) CF2=CF-Rf1-A
【0089】
【0090】
式中のRf1、Rf2、rおよびAの定義は、上述した通りである。
【0091】
【0092】
式中のRf1、Rf2、Rf3、r、mおよびAの定義は、上述した通りである。
【0093】
式(2-5) CF2=CF-(CF2)x-(OCF2CFY)y-O-(CF2)z-SO3M
式中のM、x、y、zおよびYの定義は、上述した通りである。
【0094】
式(2-1)で表される化合物の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。式中のwは1~8の整数であり、xは1~5の整数である。
CF2=CF-O-(CF2)w-SO2F
CF2=CF-O-CF2CF(CF3)-O-(CF2)w-SO2F
CF2=CF-[O-CF2CF(CF3)]x-SO2F
【0095】
式(2-2)で表される化合物の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。式中のwは、1~8の整数である。
CF2=CF-(CF2)w-SO2F
CF2=CF-CF2-O-(CF2)w-SO2F
【0096】
式(2-3)で表される化合物としては、式(2-3-1)で表される化合物が好ましい。
【0097】
【0098】
式中のRf4、Rf5、rおよびAの定義は、上述した通りである。
【0099】
式(2-3-1)で表される化合物の具体例としては、以下が挙げられる。
【0100】
【0101】
式(2-4)で表される化合物としては、式(2-4-1)で表される化合物が好ましい。
【0102】
【0103】
式中のRf1、Rf2およびAの定義は、上述した通りである。
【0104】
式(2-4-1)で表される化合物の具体例としては、以下が挙げられる。
【0105】
【0106】
含フッ素モノマー(S1’)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
含フッ素ポリマー(S1’)の製造には、含フッ素オレフィンおよび含フッ素モノマー(S1’)に加えて、さらに他のモノマーを用いてもよい。他のモノマーとしては、先に例示したものが挙げられる。
【0107】
含フッ素ポリマー(S1’)のTQ値の範囲は、触媒層付きイオン交換膜としての機械的強度および製膜性の点から、150~350℃が好ましく、170~300℃がより好ましく、200~250℃がさらに好ましい。
【0108】
含フッ素ポリマー(S2’)は、含フッ素ポリマー(S2)に変換した際に、含フッ素ポリマー(S1)のイオン交換容量が異なるように製造される以外は、上記含フッ素ポリマー(S1’)と同様のポリマーを用いることが好ましい。
【0109】
(工程(ii))
無機物粒子層の形成方法は特に限定されないが、例えば、層(Sa’)の表面に、無機物粒子、バインダーおよび溶媒を含む無機物粒子分散液を塗布し、無機物粒子分散液の塗布層を乾燥させる方法が挙げられる。
塗布条件および乾燥条件は特に限定されず、公知の条件を採用できる。
無機物粒子分散液に含まれる無機物粒子およびバインダーは上述の通りである。無機物粒子分散液に含まれる溶媒は特に限定されず、水や有機溶媒を用いることができる。
【0110】
(工程(iii))
前駆体膜中のスルホン酸型官能基に変換できる基を、スルホン酸型官能基に変換する方法の具体例としては、前駆体膜に加水分解処理または酸型化処理等の処理を施す方法が挙げられる。
なかでも、前駆体膜とアルカリ性水溶液とを接触させる方法が好ましい。
【0111】
前駆体膜として上述した強化前駆体膜を用いた場合、強化前駆体膜中に含まれる犠牲糸の少なくとも一部は、アルカリ性水溶液の作用によって加水分解して溶出する。
【0112】
前駆体膜とアルカリ性水溶液とを接触させる方法の具体例としては、前駆体膜をアルカリ性水溶液中に浸漬する方法、前駆体膜の表面にアルカリ性水溶液をスプレー塗布する方法が挙げられる。
アルカリ性水溶液の温度は、30~100℃が好ましく、40~100℃が特に好ましい。前駆体膜とアルカリ性水溶液との接触時間は、3~150分が好ましく、5~50分が特に好ましい。
【0113】
アルカリ性水溶液は、アルカリ金属水酸化物、水溶性有機溶剤および水を含むのが好ましい。
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが挙げられる。
本明細書において、水溶性有機溶剤とは、水に容易に溶解する有機溶剤であり、具体的には、水1000ml(20℃)に対する溶解性が、0.1g以上の有機溶剤が好ましく、0.5g以上の有機溶剤が特に好ましい。水溶性有機溶剤は、非プロトン性有機溶剤、アルコール類およびアミノアルコール類からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むのが好ましく、非プロトン性有機溶剤を含むのが特に好ましい。
水溶性有機溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0114】
非プロトン性有機溶剤の具体例としては、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドンが挙げられ、ジメチルスルホキシドが好ましい。
アルコール類の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メトキシエトキシエタノール、ブトキシエタノール、ブチルカルビトール、ヘキシルオキシエタノール、オクタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、エチレングリコールが挙げられる。
アミノアルコール類の具体例としては、エタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、1-アミノ-2-プロパノール、1-アミノ-3-プロパノール、2-アミノエトキシエタノール、2-アミノチオエトキシエタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールが挙げられる。
【0115】
アルカリ金属水酸化物の濃度は、アルカリ性水溶液中、1~60質量%が好ましく、3~55質量%が特に好ましい。
水溶性有機溶剤の含有量は、アルカリ性水溶液中、1~60質量%が好ましく、3~55質量%が特に好ましい。
水の濃度は、アルカリ性水溶液中、39~80質量%が好ましい。
【0116】
前駆体膜とアルカリ性水溶液との接触後に、アルカリ性水溶液を除去する処理を行ってもよい。アルカリ性水溶液を除去する方法としては、例えば、アルカリ性水溶液で接触させた前駆体膜を水洗する方法が挙げられる。
【0117】
前駆体膜とアルカリ性水溶液との接触後に、得られた膜を酸性水溶液と接触させて、イオン交換基を酸型に変換してもよい。
前駆体膜と酸性水溶液とを接触させる方法の具体例としては、前駆体膜を酸性水溶液中に浸漬する方法、前駆体膜の表面に酸性水溶液をスプレー塗布する方法が挙げられる。
酸性水溶液は、酸成分および水を含むのが好ましい。
酸成分の具体例としては、塩酸、硫酸が挙げられる。
【0118】
(工程(iv))
触媒層の形成方法は特に限定されないが、例えば、層(Sb’)の表面に、触媒、イオン交換基を有するポリマーおよび溶媒を含む触媒分散液を塗布し、触媒分散液の塗布層を乾燥させる方法が挙げられる。
塗布条件および乾燥条件は特に限定されず、公知の条件を採用できる。
触媒分散液に含まれる触媒およびイオン交換基を有するポリマーは上述の通りである。触媒分散液に含まれる溶媒は特に限定されず、水や有機溶媒を用いることができる。
【0119】
[イオン交換膜]
本発明のイオン交換膜は、無機物粒子およびバインダーを含む無機物粒子層と、スルホン酸型官能基を有する第1含フッ素ポリマーを含む層(Sa)と、スルホン酸型官能基を有する第2含フッ素ポリマーを含む層(Sb)と、をこの順に有する。
また、上記第1含フッ素ポリマーのイオン交換容量が、第2含フッ素ポリマーのイオン交換容量よりも低い。
【0120】
図3は、本発明のイオン交換膜の一例を示す断面図である。
図3に示すように、イオン交換膜10は、層(Sa)である層12Aおよび層(Sb)である層12Bからなる電解質12と、層12Aの表面に配置された無機物粒子層14と、を有し、電解質膜12の中に補強材20が配置されている。
図3に示すように、層12Aにおける無機物粒子層14側の表面は、凹凸構造を有する。
【0121】
本発明のイオン交換膜は、本発明の触媒層付きイオン交換膜が有する触媒層を有してない以外は、本発明の触媒層付きイオン交換膜と同様の構成であり、好適な態様も同様である。
本発明のイオン交換膜の各層の詳細については、本発明の触媒層付きイオン交換膜と同様であるので、その説明を省略する。
【0122】
本発明のイオン交換膜の製造方法は特に限定されないが、例えば、上述の本発明の触媒層付きイオン交換膜の製造方法の一例として示した工程(i)~工程(iv)のうち、工程(iv)以外の工程を実施することで得られる。
本発明のイオン交換膜は、本発明の触媒層付きイオン交換膜の製造に好適に用いられる。
【0123】
[電解水素化装置]
本発明の電解水素化装置は、陽極と、陰極と、を備える電解槽と、本発明の触媒層付きイオン交換膜と、を有し、上記触媒層付きイオン交換膜が、上記陽極と上記陰極とを区切るように上記電解槽内に配置されており、上記触媒層付きイオン交換膜の上記無機物粒子層が上記陽極側に配置され、かつ、上記触媒層付きイオン交換膜の上記触媒層が上記陰極側に配置されている。
本発明の電解水素化装置は、上述した触媒層付きイオン交換膜を有するので、芳香族化合物の電解水素化の際に、電解電圧を低くでき、かつ、電流効率を高くできる。
【0124】
本発明の電解水素化装置の一態様について、
図4を例にして説明する。
図4は、本発明の電解水素化装置の一例を示す模式図である。
図4に示すように、電解水素化装置100は、陰極112および陽極114を備える電解槽110と、電解槽110内を陰極112側の陰極室116と、陽極114側の陽極室118とに区切るように電解槽110内に装着される触媒層付きイオン交換膜1とを有する。
図4に示すように、触媒層付きイオン交換膜1は、無機物粒子層14が陽極114側、触媒層16が陰極112側となるように電解槽110内に装着されている。
【0125】
陰極112は、触媒層付きイオン交換膜1に接触させて配置してもよく、触媒層付きイオン交換膜1との間に間隔をあけて配置してもよい。
【0126】
陰極112および陰極室116を構成する材料としては、ステンレス、ニッケル等が好ましい。
陽極114および陽極室118を構成する材料としては、ステンレス、ニッケル等が挙げられる。
電極基材である陰極112および陽極114などの表面は、たとえば、酸化ルテニウム、酸化イリジウム等でコーティングされることが好ましい。
【0127】
電解水素化装置100によって芳香族化合物を電解水素化する場合、陽極114が配置された陽極室118には、電解水溶液が供給され、陰極112が配置された陰極室116には、芳香族化合物が供給される。
芳香族化合物の具体例としては、ベンゼン、トルエン、ナフタレンが挙げられる。
電解質水溶液は、電解質を水に溶解させた溶液である。電解質としては、硫酸、硝酸等が挙げられる。電解質の濃度は、特に限定されない。
【0128】
電解水素化装置100を駆動させた場合、陽極室118中の電解質水溶液の電気分解によって生じたプロトン(H+)が、触媒層付きイオン交換膜1を介して陰極室116側に移動する。そして、触媒層16の表面の付近において、プロトン付加による芳香族化合物の水素化が起こって、陰極室116内で水素付加有機物が得られる。
水素付加有機物の具体例としては、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンおよびデカヒドロナフタレン等が挙げられる。
【実施例0129】
以下、例を挙げて本発明を詳細に説明する。例1~例8は実施例であり、例9~例12は比較例である。ただし本発明はこれらの例に限定されない。
【0130】
[触媒層付きイオン交換膜の各層の膜厚、含フッ素ポリマーのイオン交換容量]
上述した方法にしたがって測定した。
【0131】
[電解電圧および電流効率の評価試験]
有効通電面積が1.5dm2(電解面サイズが縦150mm×横100mm)の試験用電解槽内に、触媒層が形成されてない面が陽極に面するように触媒層付きイオン交換膜-陽極接合体を配置した。なお、陽極としては、SUS304製パンチドメタル(短径5mm、長径10mm)にルテニウム入りラネーニッケルを電着した電極を用いた。また、陽極と触媒層付きイオン交換膜が直接接し、ギャップが生じないように設置した。
陰極室に供給するトルエンの流量が5mL/minとなり、陽極室に供給する1Mの硫酸水溶液の流量が10mL/minとなるように調節しながら、温度65℃、電流密度:400mA/cm2の条件で、トルエンの電解水素化を行い、運転開始から1日後の電解電圧(V)および電流効率(%)を測定し、下記基準により評価した。
(電解電圧)
◎:2.3V以下
○:2.3V超、2.4V以下
×:2.4V超
(電流効率)
◎:98%以上
○:96%以上98%未満
×:96%未満
【0132】
[含フッ素ポリマー(S1’)の製造]
CF2=CF2と下記式(X)で表されるモノマー(X)とを共重合して、含フッ素ポリマー(S1’)(イオン交換容量:0.65ミリ当量/グラム乾燥樹脂)を得た。
CF2=CF-O-CF2CF(CF3)-O-CF2CF2-SO2F ・・・(X)
【0133】
[含フッ素ポリマー(S2’)の製造]
CF2=CF2とモノマー(X)とを共重合して、含フッ素ポリマー(S2’)(イオン交換容量:0.80ミリ当量/グラム乾燥樹脂)を得た。
【0134】
[含フッ素ポリマー(S3’)の製造]
CF2=CF2とモノマー(X)とを共重合して、含フッ素ポリマー(S3’)(イオン交換容量:1.00ミリ当量/グラム乾燥樹脂)を得た。
【0135】
[含フッ素ポリマー(S4’)の製造]
CF2=CF2とモノマー(X)とを共重合して、含フッ素ポリマー(S4’)(イオン交換容量:1.10ミリ当量/グラム乾燥樹脂)を得た。
【0136】
[含フッ素ポリマー(S5’)の製造]
CF2=CF2とモノマー(X)とを共重合して、含フッ素ポリマー(S5’)(イオン交換容量:1.25ミリ当量/グラム乾燥樹脂)を得た。
【0137】
なお、上記[含フッ素ポリマー(S1’)の製造]~[含フッ素ポリマー(S5’)の製造]中に記載のイオン交換容量は、含フッ素ポリマー(S1’)~(S5’)を後述する手順で加水分解した際に得られる含フッ素ポリマーのイオン交換容量を表す。
【0138】
[フィルムAの製造]
含フッ素ポリマー(S1’)を溶融押し出し法により成形し、含フッ素ポリマー(S1’)からなるフィルムA(膜厚:20μm)を得た。
【0139】
[フィルムBの製造]
含フッ素ポリマー(S2’)を溶融押し出し法により成形し、含フッ素ポリマー(S2’)からなるフィルムB(膜厚:20μm)を得た。
【0140】
[フィルムCの製造]
含フッ素ポリマー(S3’)を溶融押し出し法により成形し、含フッ素ポリマー(S3’)からなるフィルムC(膜厚:20μm)を得た。
【0141】
[フィルムDの製造]
含フッ素ポリマー(S3’)を溶融押し出し法により成形し、含フッ素ポリマー(S3’)からなるフィルムD(膜厚:40μm)を得た。
【0142】
[フィルムEの製造]
含フッ素ポリマー(S3’)を溶融押し出し法により成形し、含フッ素ポリマー(S3’)からなるフィルムE(膜厚:80μm)を得た。
【0143】
[フィルムFの製造]
含フッ素ポリマー(S4’)を溶融押し出し法により成形し、含フッ素ポリマー(S4’)からなるフィルムF(膜厚:20μm)を得た。
【0144】
[フィルムGの製造]
含フッ素ポリマー(S4’)を溶融押し出し法により成形し、含フッ素ポリマー(S4’)からなるフィルムG(膜厚:80μm)を得た。
【0145】
[フィルムHの製造]
含フッ素ポリマー(S5’)を溶融押し出し法により成形し、含フッ素ポリマー(S5’)からなるフィルムH(膜厚:80μm)を得た。
【0146】
[フィルムIの製造]
含フッ素ポリマー(S5’)を溶融押し出し法により成形し、含フッ素ポリマー(S5’)からなるフィルムI(膜厚:100μm)を得た。
【0147】
[補強布の製造]
PTFEからなる50デニールの糸を経糸および緯糸に用い、PTFE糸の密度が80本/インチとなるように平織して織布1を得た。織布1の目付量は、38g/m2であった。なお、経糸および緯糸は、スリットヤーンで構成されていた。
【0148】
[無機物粒子ペーストの調製]
酸化ジルコニウム(平均粒子径:1μm)の29.0質量%、メチルセルロースの1.3質量%、シクロヘキサノールの4.6質量%、シクロヘキサンの1.5質量%および水の63.6質量%を混合し、無機物粒子ペースト(無機物粒子分散液)を得た。
【0149】
[例1]
フィルムA、補強布、フィルムI、離型用PETフィルム(厚さ:100μm)の順に重ね、離型用PETフィルムを下にして、220℃に設定した恒温槽にてフィルムAとフィルムIの間の空気を真空吸引しながら加熱して、各層を一体化させた後、剥離用PETフィルムを剥がして、強化前駆体膜1-1を得た。
次に、ロールプレスによって、電解質膜におけるフィルムAの表面に無機物粒子ペーストを転写して、フィルムAの表面に無機物粒子層が配置された強化前駆体膜1-2を得た。なお、酸化ジルコニウムの付着量は、20g/m2とした。
ジメチルスルホキシド/水酸化カリウム/水=30/5.5/64.5(質量比)の溶液に、強化前駆体膜1-2を95℃で30分間浸漬し、強化前駆体膜1-2中のスルホン酸型官能基に変換できる基を加水分解して、K型のスルホン酸型官能基に変換した後、水洗した。その後、得られた膜を1M硫酸に浸漬し、末端基をK型からH型に変換した後、乾燥して、イオン交換膜1を得た。
【0150】
TFEと上記モノマー(X)とを共重合し、加水分解および酸処理を経て酸型としたポリマー(イオン交換容量:1.10ミリ当量/グラム乾燥樹脂)を水/エタノール=40/60(質量%)の溶媒に固形分濃度25.8%で分散させた分散液(以下、「分散液X」ともいう。)を得た。
カーボン粉末に白金を46質量%担持した担持触媒(田中貴金属工業社製 “TEC10E50E”)(11g)に水(59.4g)、エタノール(39.6g)を加え、超音波ホモジナイザーを用いて混合粉砕し、触媒の分散液を得た。
触媒の分散液に、分散液X(20.1g)とエタノール(11g)とゼオローラ-H(日本ゼオン製)(6.3g)とをあらかじめ混合・混練した混合液(29.2g)とを加えた。さらに、得られた分散液に、水(3.66g)、エタノール(7.63g)を加えてペイントコンディショナーを用いて60分間混合し、固形分濃度を10.0質量%とし、カソード触媒インク(触媒分散液)を得た。
ETFEシート上にカソード触媒インクをダイコーターで塗布し、80℃で乾燥させ、さらに150℃で15分間熱処理を施し、白金量が0.4mg/cm2のカソード触媒層デカールを得た。
イオン交換膜1の無機物粒子層が形成されていない面と、カソード触媒層デカールの触媒層が存在する面とを対向させ、プレス温度150℃でプレス時間2分間、圧力3MPaの条件で加熱プレスして、イオン交換膜1とカソード触媒層とを接合し、温度を70℃まで下げたのち圧力を解放して取り出し、カソード触媒層デカールのETFEシートを剥離して、触媒層を有する例1の触媒層付きイオン交換膜を得た。得られたイオン交換膜の触媒層の表面に、陰極としてカーボンフェルトを接合し、触媒層付きイオン交換膜-陰極接合体を得た。
なお、触媒層付きイオン交換膜-陰極接合体の陰極面積は、25cm2であった。
【0151】
[例2]
フィルムFおよびフィルムHを加熱圧着して、多層フィルムFHを得た。
フィルムA、補強布、多層フィルムFH、離型用PETフィルム(厚さ:100μm)の順に重ね、離型用PETフィルムを下にして、220℃に設定した恒温槽にてフィルムAと多層フィルムFHの間の空気を真空吸引しながら加熱して、各層を一体化させた後、剥離用PETフィルムを剥がして、強化前駆体膜2-1を得た。
なお、多層フィルムFHのフィルムF側が補強布側になるように配置した。
強化前駆体膜1-1の代わりに、強化前駆体膜2-1を用いた以外は、例1と同様にして、例2の触媒層付きイオン交換膜-陰極接合体を得た。
【0152】
[例3]
フィルムCおよびフィルムHを加熱圧着して、多層フィルムCHを得た。
多層フィルムFHの代わりに多層フィルムCHを用いた以外は、例2と同様にして、例3の触媒層付きイオン交換膜-陰極接合体を得た。なお、多層フィルムCHのフィルムC側が補強布側になるように配置した。
【0153】
[例4]
フィルムCおよびフィルムGを加熱圧着して、多層フィルムCGを得た。
多層フィルムFHの代わりに多層フィルムCGを用いた以外は、例2と同様にして、例4の触媒層付きイオン交換膜-陰極接合体を得た。なお、多層フィルムCGのフィルムC側が補強布側になるように配置した。
【0154】
[例5]
フィルムBおよびフィルムEを加熱圧着して、多層フィルムBEを得た。
多層フィルムFHの代わりに多層フィルムBEを用いた以外は、例2と同様にして、例5の触媒層付きイオン交換膜-陰極接合体を得た。なお、多層フィルムBEのフィルムB側が補強布側になるように配置した。
【0155】
[例6]
フィルムCおよびフィルムHを加熱圧着して、多層フィルムCHを得た。
多層フィルムFHの代わりに多層フィルムCHを用い、フィルムAの代わりにフィルムBを用いた以外は、例2と同様にして、例6の触媒層付きイオン交換膜-陰極接合体を得た。なお、多層フィルムCHのフィルムC側が補強布側になるように配置した。
【0156】
[例7]
フィルムAの代わりにフィルムDを用い、フィルムIの代わりにフィルムHを用いた以外は、例1と同様にして、例7の触媒層付きイオン交換膜-陰極接合体を得た。
【0157】
[例8]
補強布を用いなかった以外は、例3と同様にして、例8の触媒層付きイオン交換膜-陰極接合体を得た。
【0158】
[例9]
フィルムAの表面に無機物粒子層を設けなかった以外は、例3と同様にして、例9の触媒層付きイオン交換膜-陰極接合体を得た。
【0159】
[例10]
イオン交換膜1の代わりに、フィルムJ(商品名「Nafion115」、Chemours社)を用いた以外は、例1と同様にして、例10の触媒層付きイオン交換膜-陰極接合体を得た。
【0160】
[例11]
フィルムJ(商品名「Nafion115」、Chemours社、スルホン酸基を有する含フッ素ポリマーから構成された膜)の一方の面に、例1と同様の方法で無機物粒子層を形成し、無機物粒子層付きフィルムJを得た。
無機物粒子層付きフィルムJを用いた以外は、例1と同様にして、例11の触媒層付きイオン交換膜-陰極接合体を得た。なお、触媒層は、フィルムJにおける無機物粒子層とは反対側の表面に形成した。
【0161】
[評価結果]
上記のようにして得られた触媒層付きイオン交換膜を各種評価試験に用いた。評価結果を表1に示す。
ここで、表1中、「IEC」は、含フッ素ポリマーのイオン交換容量を意味する。
表1中、「膜厚」は、触媒層付きイオン交換膜中の各層の膜厚を意味し、触媒層付きイオン交換膜の作製に用いた各フィルムの膜厚と同じであった。
表1中、「低IEC層」とは、触媒層付きイオン交換膜を構成する電解質膜中で、最もイオン交換容量が低い含フッ素ポリマーからなる層、すなわち層(Sa)を意味する。また、「高IEC層」とは、触媒層付きイオン交換膜を構成する電解質膜中で、「低IEC層」よりもイオン交換容量が高い含フッ素ポリマーを含む層、すなわち層(Sb)を意味する。ただし、電解質膜として、1種類のフィルムを用いた場合には、「低IEC層」の欄に使用したフィルムの種類を記載した。
【0162】
【0163】
表1に示す通り、電解質膜を複層構造にして、イオン交換容量の低い含フッ素ポリマーを含む層(低IEC層)を陽極側に配置し、無機物粒子層を低IEC層の表面に設けることで、芳香族化合物の電解水素化の際に、電解電圧を低くでき、かつ、電流効率を高くできることが示された(例1~8)。
【0164】
また、例1の触媒層付きイオン交換膜を用いて、無機物粒子層の表面に、陰極としてカーボンフェルトを接合し、例12の触媒層付きイオン交換膜-陰極接合体を得た。例12触媒層付きイオン交換膜-陰極接合体における無機物粒子層の形成面(すなわち、フィルムA側)を陰極側に配置し、触媒層の形成面(すなわち、フィルムI側)を陽極側に配置して、例1と同様の評価を実施したところ、電圧が急上昇して、電解水素化を実施できなかった。この理由としては、フィルムAとフィルムIとが剥離したためと考えられる。
なお、2020年2月6日に出願された日本特許出願2020-018828号の明細書、特許請求の範囲、図面および要約書の全内容をここに引用し、本発明の開示として取り入れるものである。