(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025041039
(43)【公開日】2025-03-26
(54)【発明の名称】炭素捕捉方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20250318BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20250318BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20250318BHJP
C22B 21/00 20060101ALI20250318BHJP
C01B 32/205 20170101ALI20250318BHJP
【FI】
C01B32/05
C22B7/00 A
C22B1/02
C22B21/00
C01B32/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023148089
(22)【出願日】2023-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000241485
【氏名又は名称】豊田通商株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519016181
【氏名又は名称】豊通スメルティングテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(72)【発明者】
【氏名】八百川 盾
(72)【発明者】
【氏名】日比 加瑞馬
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 琢真
(72)【発明者】
【氏名】仁木 大輝
(72)【発明者】
【氏名】筒井 亮作
【テーマコード(参考)】
4G146
4K001
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA02
4G146AB01
4G146AC17B
4G146AC27B
4G146BA11
4G146BA13
4G146BB06
4G146BC33B
4G146BC41
4G146CA16
4K001AA02
4K001BA22
4K001CA16
4K001KA00
(57)【要約】
【課題】Al基スクラップに含まれる炭素を捕捉する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、Al基スクラップにある有機物を熱分解する熱処理工程と、熱処理工程により得られた熱分解残渣を含むAl基スクラップを溶融塩に接触させて、熱分解残渣に含まれる炭素含有物の少なくとも一部を溶融塩に取り込む採取工程とを備える炭素捕捉方法である。採取工程後の溶融塩または溶融塩の凝固塩から炭素を含む抽出物を得る回収工程をさらに備えてもよい。Al基スクラップは、例えば、樹脂ラミネート層を有するアルミニウム箔の廃材である。炭素含有物は、例えば、グラファイトである。溶融塩をAlの融点以上にして、Al基スクラップから再生Al基材を得る再生工程が併せてなされてもよい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al基スクラップにある有機物を熱分解する熱処理工程と、
該熱処理工程により得られた熱分解残渣を溶融塩に接触させて、該熱分解残渣に含まれる炭素含有物の少なくとも一部を該溶融塩に取り込む採取工程と、
を備える炭素捕捉方法。
【請求項2】
前記採取工程後の溶融塩または該溶融塩の凝固塩から、炭素を含む抽出物を得る回収工程をさらに備える請求項1に記載の炭素捕捉方法。
【請求項3】
前記抽出物は、少なくともグラファイトを含む請求項2に記載の炭素捕捉方法。
【請求項4】
前記有機物には、樹脂が含まれる請求項1に記載の炭素捕捉方法。
【請求項5】
前記溶融塩は、塩化物を溶解して調製される請求項1に記載の炭素捕捉方法。
【請求項6】
前記採取工程の溶融塩は、Alの融点以上にされる請求項1に記載の炭素捕捉方法。
【請求項7】
前記熱処理工程は、乾留してなされる請求項1に記載の炭素捕捉方法。
【請求項8】
前記Al基スクラップから再生Al基材を得る再生工程を含む請求項1または6に記載の炭素捕捉方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al基スクラップから炭素を捕捉する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
気候変動要因とされる二酸化炭素の排出削減が求められている。また、環境負荷低減や循環型社会構築等を図るため、各資源のリサイクルも重要となっている。
【0003】
例えば、アルミニウム(Al)の製錬には、膨大なエネルギー消費と二酸化炭素(CO2)発生を伴う。このため、Al基スクラップ(廃材)からAlを再生することが推進されている。このようなリサイクルに関する提案は多くなされており、例えば、下記の特許文献に関連する記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60-230942
【特許文献2】特開2012-21200
【特許文献3】特開2014-94328
【特許文献4】特開2007-54815
【特許文献5】特開2017-20062
【特許文献6】特開2016-121383
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、アルミニウムラミネートを乾留してアルミニウム箔を回収している。しかし、単なる乾留だけでは、炭化物とアルミニウム箔の分離は難しい。
【0006】
特許文献2は、アルミ箔積層包装材とアルミ蒸着包装材を異なる乾留温度で処理して金属アルミを回収している。しかし、金属アルミ以外の副生物については何ら言及されていない。
【0007】
特許文献3は、アルミニウム層と樹脂層を積層した包装材を過熱水蒸気中で加熱してアルミニウムを回収している。しかし、その樹脂層の分解成分(CO/CO2等)は、大気中へ放出されている。特許文献4は、過熱水蒸気により固形分と油煙分を分離するリサイクル装置を単に提案しているに過ぎない。
【0008】
特許文献5は、使用済の飲料缶(UBC)から得たアルミニウム材の焙焼物を溶融塩層へ投入し、溶解したメタル分を回収している。酸素が十分に供給される雰囲気中で加熱する焙焼の場合、UBCに付着していたインク等は分解され、CO2等が排気(大気放出)される。また、そのような焙焼では、Alの酸化ロスが増える。ちなみに、特許文献5では、酸化が進行したアルミニウム材を十分に溶解させるため、10質量%以上の氷晶石(Na3AlF6)を添加した溶融塩を用いている。
【0009】
特許文献6は、リチウムイオン二次電池からアルミ・銅合金を回収する際に、溶融塩でリチウムを捕捉することを提案しているに過ぎない。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、これまで提案されてこなかった炭素捕捉方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、有機物を含むAl基スクラップの熱処理物を溶融塩へ加えて炭素含有物を捕捉することを着想し、具現化した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0012】
《炭素捕捉方法》
(1)本発明は、Al基スクラップにある有機物を熱分解する熱処理工程と、該熱処理工程により得られた熱分解残渣を溶融塩に接触させて、該熱分解残渣に含まれる炭素含有物の少なくとも一部を該溶融塩に取り込む採取工程と、を備える炭素捕捉方法である。
【0013】
(2)本発明によれば、Al基スクラップに付着等していた有機物の熱分解残渣に含まれる炭素含有物を、溶融塩中に捕捉することができる。これにより、Al基スクラップにあった有機物に起因するCO2の大気放出等の低減が図られる。
【0014】
《炭素含有物等》
本発明では、Al基スクラップにあった有機物の構成元素(C)の少なくとも一部が捕捉できればよく、その過程で生じた炭素含有物の捕集、収集、回収等は必須ではない。
【0015】
勿論、そのような炭素含有物自体や、その製造方法または回収方法等として本発明が把握されてもよい。例えば、本発明は、採取工程後の溶融塩または溶融塩の凝固塩から、炭素を含む抽出物を得る回収工程を備えてもよい。
【0016】
なお、熱処理前後、抽出前後または回収前後で、炭素含有物(有機物を含む)の成分や構造等の異同(つまり変質等の有無)は問わない。例えば、HやO等を含む有機物なら、通常、熱分解して、別な炭素含有物となる。また熱分解残渣(例えば乾留物)に含まれていた炭素含有物の少なくとも一部は、通常、そのまま抽出または回収され得る。このような炭素含有物として、例えば、炭素化合物(炭化物)、黒鉛(グラファイト)等がある。
【0017】
《再生Al基材等》
さらに本発明は、Al基スクラップから得られた再生Al基材またはその製造方法等として把握されてもよい。例えば、本発明は、Al基スクラップから再生Al基材を得る再生工程を備えてもよい。
【0018】
再生Al基材は、例えば、有機物や炭素含有物の少なくとも一部が除かれた純AlまたはAl合金からなる。再生Al基材は、液相(溶湯)でも固相(鋳塊(地金)、部材等)でもよい。なお、溶融塩は、再生Al基材の酸化や窒化等を抑制するため、良質なAlの効率的な回収を可能にする。
【0019】
《その他》
特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】熱処理後のAl基スクラップ(一例)を示す写真である。
【
図2】そのAl基スクラップから熱分解残渣を取り込んだ溶融塩の凝固物(凝固塩)を示す写真である。
【
図3】その凝固物から回収した炭素含有物を示す写真である。
【
図4】その炭素含有物を分析したX線回折パターンと成分組成表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、方法的な構成要素であっても物(例えばAl基材、炭化物等)に関する構成要素ともなり得る。
【0022】
《Al基スクラップ》
原料となるAl基スクラップは、有機物を有するAl基材からなる。
【0023】
有機物は、Cを含むものであればよく、形態、分子数、分子構造等を問わない。有機物は、例えば、樹脂類、紙類、油類等である。具体例として、塗料、インク、フィルム、潤滑油や加工油等がある。
【0024】
Al基材は、Alを含むものであればよく、その成分組成、形態等を問わない。Al基材は、例えば、純Al、Al合金、それらの混合物等からなる。Al基材は、膜状、箔状、フィン状、薄板状、粒状、ブロック状等のいずれでもよい。
【0025】
Al基スクラップは、有機物がAl基材の表面に付着、塗布、貼着等されたものでも、Al基材に内包、Al基材間に介装・挟持等されたものでもよい。具体例として、樹脂でラミネートされたAl基箔、樹脂でコーティングされたAl基板(フィン)、印刷または塗装されたAl基部材(包装体、容体、筐体等)などがある。
【0026】
Al基スクラップは、適宜、裁断、破断、解砕、細断等により、所望形態(例えば、粒状、箔片、フィン片)にされる。Al基スクラップは、前処理(脱脂等)がなされた後に、本発明の処理(熱処理、溶融塩との接触、回収等)に供されてもよい。
【0027】
《溶融塩》
溶融塩は、例えば、安定な金属ハロゲン化物(特に塩化物および/または臭化物)を溶解して調製される。ハロゲン化物を構成する金属元素は、例えば、Ca、Na、Li、Sr、K、Mg、Cs、Ba等の一種以上である。Naおよび/またはKのハロゲン化物(特に塩化物)は、安価で安定しており溶融塩に好適である。
【0028】
溶融塩は、複数種の金属ハロゲン化物が混在した混合塩(例えばNaClとKCl)でもよい。溶融塩の配合(成分調整)により、溶融温度、密度等が調整されてもよい。溶融塩をAl基材(主にAl)よりも低密度(比重)にして、再生Al基材を沈降させて回収してもよい。なお、溶融塩は単層でも複層でもよい。
【0029】
溶融塩は、Al基スクラップの熱処理後に得られた有機物の熱分解残渣に含まれる炭素含有物を、Al基材から分離して採取できればよい。溶融塩がAl基材(特にAl)の融点以上にされると、炭素含有物がAl基材と分離し易くなる。またAl基材も、溶解、凝集、一体化等されて回収され易くなる。
【0030】
溶融塩量は、熱処理後のAl基スクラップの処理量により調整されるとよい。溶融塩は、熱処理後のAl基スクラップと接触して炭素含有物を取り込めれば足るが、さらにそのAl基スクラップを浸漬できる深さ(層厚)があるとよい。
【0031】
《処理方法》
(1)熱処理工程
熱処理工程は、Al基材スクラップ(単に「スクラップ」ともいう。)にあった有機物が燃焼しない雰囲気(例えば、低酸素雰囲気や過熱水蒸気雰囲気など)中で加熱してなされる。有機物を燃焼させずに加熱できる限り、加熱方法(手段)は問わず、その処理する雰囲気も真空雰囲気や不活性ガス雰囲気でなくてもよい。熱処理工程の具体例として、酸素や空気の流入を遮断した炉内のスクラップを直接的または間接的に加熱してなされる乾留や、スクラップを過熱水蒸気に曝して加熱する処理がある。
【0032】
熱処理(乾留等)された有機物は、通常、熱分解されて、不揮発性物質と揮発性物質になる。Al基材に残存した不揮発性物質が本発明でいう熱分解残渣となり、その熱分解残渣から炭素含有物が得られる。なお、熱処理後の揮発性物質(水蒸気等)は、適宜、分離、除去、排出(排気)等される。
【0033】
加熱温度(炉内温度)は、例えば、Al基材が溶解せず、有機物が燃焼せずに分解する温度である。有機物の種類にも依るが、例えば、350~650℃、400~600℃の範囲で調整される。乾留雰囲気は、例えば、炉内の酸素濃度が0.1~10%、1~5%程度になればよい。
【0034】
(2)採取工程
熱処理後のAl基スクラップを溶融塩に接触させると、そこに含まれていた炭素含有物の少なくとも一部がAl基材から分離して溶融塩に取り込まれる。熱処理後のAl基スクラップの溶融塩(溜)への供給形態(添加、投入等)は問わず、そのAl基スクラップは溶融塩へ連続的に供給されても断続的に供給されてもよい。
【0035】
熱処理後のAl基スクラップを粒状にして用いると、溶融塩との反応が促進され、炭素含有物の採取やAl基材の回収が効率的になり得る。
【0036】
溶融塩の温度をAl基材の融点以上に保持すると、炭素含有物が離脱したAl基材は、溶融塩中で溶解し、通常、溶融塩との比重差により下方へ移動(例えば容体の底側へ沈降)する。こうしてスクラップから、溶融塩で覆われたAl基溶湯(再生Al基材)を得ることも可能となる(再生工程)。なお、そのAl基溶湯は、そのまま他工程へ供給されてもよいし、鋳塊(地金)にされてもよい。
【0037】
(3)回収工程
熱処理後のAl基スクラップから分離(遊離)した熱分解残渣に含まれる炭素含有物は、溶融塩に採取されたままでもよいし、さらに回収されてもよい。回収された炭素含有物は、そのまま利活用されてもよいし、処理(加熱、化学反応等)して再生されてもよい。炭素含有物の回収は、例えば、溶融塩をそのまま濾別してなされてもよいし、その溶融塩の冷却凝固物(凝固塩、固形塩)を水洗等して得た残渣を濾別してなされてもよい。
【実施例0038】
有機物を有するAl基スクラップから、炭素含有物を回収する具体例を挙げて、本発明をより詳しく説明する。
【0039】
《Al基スクラップ》
アルミニウム箔(Al基材)の両表面が樹脂層(有機物)で被覆されたラミネート箔の廃材を用意した。光学顕微鏡で測定したところ、アルミニウム箔の厚さ:約20μm、樹脂ラミネート層の各厚さ:約15μmであった。そのラミネート箔を短冊状(一片の面積:約1~15cm2)に裁断したものを原料(Al基スクラップ)とした。
【0040】
《熱分解残渣》
その原料をSUS304ステンレス鋼製容器に入れ、空気の流入を遮断した状態で、500℃×15分間加熱した(熱処理工程)。加熱中に生じたガス(水蒸気を含む)は排気した。こうして得られた熱処理物(乾留物)を
図1に示した。
図1から明らかなように、アルミニウム箔の表面には黒色物質(熱分解残渣)が付着していた。
【0041】
《溶融塩溜》
混合塩化物(KCl-44質量%NaCl):1000gを、黒鉛坩堝内で加熱して溶解させた。こうして溶融塩(800℃)を調製した。
【0042】
《処理》
(1)その溶融塩溜へ乾留物:780gを約1時間かけて添加して(供給工程)、約5分間静置した(採取工程)。これにより溶融塩は全体が黒く濁った。溶湯の大部分は溶融塩の下部に沈降し、一部は微細な粒状の形態で溶融塩中に分散した。
【0043】
その溶融塩を金型に流し入れて、大気中で放冷して凝固させた。こうして、
図2に示す黒色の凝固塩が得られた。
【0044】
(2)その凝固塩に純水を加えて塩化物を溶解させた水溶液を濾過した(回収工程)。得られた残渣(抽出物)を
図3に示した。
【0045】
《分析》
(1)その残渣をX線回折装置(株式会社リガク製 Ultima IV)で分析した。得られた回折パターンを
図4に示した。
【0046】
また、その残渣を蛍光X線分析装置(株式会社リガク製 ZSX Primus II)で分析した。得られた成分組成を
図4(表1)に併せて示した。
【0047】
(2)
図4から明らかなように、残渣には、グラファイト(炭素含有物)、金属アルミニウムおよび酸化アルミニウム(Al
2O
3)が主に含まれていた。
【0048】
(3)上述した処理後の溶融塩の下方(黒鉛坩堝の底側)には、金属溶湯(再生Al基材)があった。この金属溶湯を冷却凝固させた(再生工程)。付着していた塩化物を水洗除去して得られた金属塊(Al基地金)は約715gであった。乾留物全体に対するその質量割合(回収率)は約92%となった。
【0049】
以上から、本発明によれば、Al基スクラップに含まれる炭素を捕捉できることが確認された。