(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025041831
(43)【公開日】2025-03-26
(54)【発明の名称】平坦化膜付きステンレス鋼箔
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20250318BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20250318BHJP
C22C 38/34 20060101ALI20250318BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20250318BHJP
C23C 20/06 20060101ALI20250318BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C22C38/34
C22C38/00 302A
C21D9/46 Q
C21D9/46 R
C23C20/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024227562
(22)【出願日】2024-12-24
(62)【分割の表示】P 2023522661の分割
【原出願日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2021083414
(32)【優先日】2021-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【氏名又は名称】小林 良博
(72)【発明者】
【氏名】河合 翔平
(72)【発明者】
【氏名】海野 裕人
(72)【発明者】
【氏名】中塚 淳
(57)【要約】
【課題】ステンレス鋼箔表面に存在する凹みの数を低減して、平坦化膜に生じるクラックの無い平坦化膜付きステンレス鋼箔を提供する。
【解決手段】ステンレス鋼成分を含み、残部がFe及び不純物からなる組成を有し、粒径2.00μm以上の介在物の合計質量に対して、Al2O3:30質量%以下、MgO:10質量%以下であり、前記粒径2.00μm以上の介在物のうち、表面に存在する粒径5.00μm超の介在物が20個/cm2以下であり、板厚が5.0μm以上100.0μm以下のステンレス鋼箔、および前記ステンレス鋼箔の少なくとも片面に、膜厚が0.3μm以上5.0μm以下の平坦化膜を有する、平坦化膜付きステンレス鋼箔。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼成分を含み、残部がFe及び不純物からなる組成を有し、
粒径2.00μm以上の介在物の合計質量に対して、Al2O3:30質量%以下、MgO:10質量%以下であり、
前記粒径2.00μm以上の介在物のうち、表面に存在する粒径5.00μm超の介在物が20個/cm2以下であり、
板厚が5.0μm以上100.0μm以下のステンレス鋼箔、および
前記ステンレス鋼箔の少なくとも片面に、膜厚が0.3μm以上5.0μm以下の平坦化膜を有する、平坦化膜付きステンレス鋼箔。
【請求項2】
前記ステンレス鋼箔が、質量%にて、
C:0.150%以下、
Si:0.050~2.000%、
Mn:0.100~10.000%、
P:0.045%以下、
S:0.007%以下、
Ni:2.000~15.000%、
Cr:15.000~20.000%、
N:0.200%以下、
Al:0.030%以下、
Mg:0.0005%以下、
Ca:0.0005%以下を含み、残部がFe及び不純物からなる組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼箔である請求項1に記載の平坦化膜付きステンレス鋼箔。
【請求項3】
前記ステンレス鋼箔が、質量%にて、
C:0.120%以下、
Si:0.050~2.000%、
Mn:0.100~1.250%、
P:0.040%以下、
S:0.030%以下、
Cr:15.000~20.000%、
N:0.025%以下、
Al:0.030%以下、
Mg:0.0005%以下、
Ca:0.0005%以下を含み、残部がFe及び不純物からなる組成を有するフェライト系ステンレス鋼箔である請求項1に記載の平坦化膜付きステンレス鋼箔。
【請求項4】
前記平坦化膜がシリカ系の有機無機ハイブリッド膜であり、前記有機無機ハイブリッド膜を構成するSi核が、T核およびQ核のみを含む請求項1~3のいずれか1項に記載の平坦化膜付きステンレス鋼箔。
【請求項5】
前記平坦化膜がシリカ系の有機無機ハイブリッド膜であり、前記有機無機ハイブリッド膜を構成するSi核に対するQ核の割合が70%以下である請求項4に記載の平坦化膜付きステンレス鋼箔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイス用フレキシブル基板に適用可能な平坦化膜付きステンレス鋼箔に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル電子デバイスに代表される薄膜電子デバイスの基板用材料には、平坦性、絶縁信頼性、耐熱性、ガスバリア性や高靭性が求められる。この基板用材料の候補として、樹脂フィルムや極薄ガラスが挙げられるが、樹脂フィルムは、耐熱性、ガスバリア性に課題があり、極薄ガラスは靭性が低く信頼性に課題がある。一方、ステンレス鋼箔は、耐熱性、ガスバリア性、靭性に優れるが、平坦性や絶縁性に課題がある。そこで、前記課題解決のため、ステンレス鋼箔の少なくとも片面に平坦化膜を成膜し、平坦性や絶縁性を付与した平坦膜付きステンレス鋼箔が注目されている。中でも、耐熱性に優れるシリカ系の無機有機ハイブリッド材料で被覆した平坦化膜付きステンレス鋼箔は有望な材料となっている。
【0003】
シリカ系無機有機ハイブリッド材料を成膜したステンレス鋼箔としては、特許文献1、2などに記載がある。
特許文献1には、耐熱性、加工性、平坦性、可撓性、絶縁性に優れた無機有機ハイブリッド膜で被覆したステンレス鋼箔が記載されている。このステンレス鋼箔は、ゾルゲル法を用いて作製された適量の有機基を含有する無機有機ハイブリッド膜をステンレス鋼箔の片面又は両面に被覆することで、耐熱性、加工性、平坦性、絶縁性等に優れたステンレス鋼箔が得られている。
【0004】
特許文献2には、Roll to Rollプロセスで金属箔コイルの表面をガラス基板並みに平坦化することができる短時間硬化型の平坦化膜形成塗布液、耐熱性と耐湿性も併せ持つ平坦化皮膜およびそれによって平坦化された金属箔コイルが記載されている。この金属箔コイルは、有機溶媒中フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して、酢酸0.1モル以上1モル以下、有機スズ0.005モル以上0.05モル以下を触媒として加え、2モル以上4モル以下の水で加水分解後、160℃以上210℃以下の温度で有機溶剤を減圧留去して得られたレジンを芳香族炭化水素系溶剤に溶解した短時間硬化可能な平坦化膜形成塗布液を塗布することによって得られている。
【0005】
一方、上記のような平坦化膜を設けても、ステンレス鋼箔表面の凹みに起因し、平坦化膜にクラックが生じ、平坦性、絶縁性が低下するという課題がある。ステンレス鋼箔表面の凹みは、ステンレス鋼中の介在物が圧延時にステンレス鋼箔表面から脱落することによって生じる。
【0006】
ステンレス鋼箔を製造する母材となるステンレス鋼中の介在物を低減させる方法は種々検討されている。例えば、特許文献3には、HDD(ハードディスクドライブ)の部材や、薄膜シリコン太陽電池基板をはじめとする半導体層形成基板などの、精密機器部材に適したステンレス鋼板が開示されている。ステンレス鋼板の表面に分布している微小なピットの存在が、当該ステンレス鋼板の洗浄性に大きく影響しており、前記微小なピットは、介在物や炭化粒子等の圧延工程での脱落痕に起因することが、開示されている。特許文献3には、Mn(O,S)-SiO2を主成分とする非金属介在物を生成させると共に、MgO、Al2O3、Cr2O3を所定の濃度以下に調整することによって、非金属介在物を無害化することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-247078号公報
【特許文献2】国際公開第2016/076399号
【特許文献3】特開2011-202253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、平坦化膜にクラックが生じる原因となるステンレス鋼箔表面に存在する凹みの数を低減して、平坦性や絶縁信頼性に優れた平坦化膜付きステンレス鋼箔を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、ステンレス鋼箔の表面に膜厚2.0μm以上4.0μm以下のフェニルシロキサンポリマーから成る平坦化膜を成膜して、試験片を作製した。前記膜上の導電率0.1S/m以上100S/m以下の液体を浸した断面積が4mm2以上9mm2以下の電極を上部電極とし、前記ステンレス鋼箔を下部電極とし、前記試験片の表面を前記上部電極で走査して、前記上部電極と前記下部電極との間に10V印加したときのリーク電流が、1μA/mm2以上である箇所の数を計測した。その結果、測定面積100cm2に対して、1μA/mm2以上の電流値を示す箇所が複数個所見つかった。その断面を観察したところ、ステンレス鋼箔の表面に圧延方向と垂直な方向の幅が5μm以上の凹みが存在し、これらの凹みがクラック発生の要因となっていることを見出した。また、これらステンレス鋼箔表面にある凹みは、ステンレス鋼箔の箔圧延の工程において、ステンレス鋼中にある粒径5μm以上の粗大な介在物が脱落することによって生じることを見出した。
【0010】
さらに研究の結果、脱落した介在物を追跡することはできないが、ステンレス鋼箔表面に残存する脱落していない粗大な介在物数が多いほど、介在物の脱落による凹みの数が多く、ステンレス鋼箔表面に成膜した平坦化膜に生じるクラックの数が多くなることを見出した。
【0011】
したがって、箔圧延後のステンレス鋼箔に残存する粗大介在物を抑制することで、平坦化膜付きステンレス鋼箔の絶縁性や平坦性が大幅に改善することを見出した。
【0012】
発明者らは、介在物の基本的な成分としてAl2O3、MgO、SiO2、CaO、Mn(O、S)、CrSに着目した。このうちSiO2、CaO、Mn(O、S)、CrSの少なくとも1種からなる介在物の場合、それらの介在物はクラスター化し難く、また、低融点で軟質であるため、熱延工程や冷延工程で展伸、あるいは破砕することにより、粗大介在物を低減できることを見出した。(SiO2、CaO、Mn(O、S)、CrSを軟質系介在物と呼ぶ場合がある。)
【0013】
一方、アルミナ(Al2O3)やマグネシウム-アルミニウムスピネル(MgO・Al2O3。以下、スピネルという場合がある。)などの介在物は界面エネルギーが高く、凝固過程において、偏析し凝集し易いので、凝集後のサイズが大きくなり易い。さらに、アルミナやスピネルの介在物は硬質であるため、熱間圧延や冷間圧延において、介在物が破砕されにくく、結果として、サイズが大きな介在物粒子として残存してしまう。(アルミナやマグネシウム-アルミニウムスピネルを硬質系介在物と呼ぶ場合がある。)
【0014】
そこで、介在物に含有されるアルミナやスピネルの比率を低減し、ステンレス鋼箔の製造条件、特に圧延条件を見直して、粗大なアルミナやスピネル介在物の個数を減らし、軟質な介在物を細かく分散させることで、粗大介在物を低減したステンレス鋼箔を得ることができることを見出した。
本発明により以下が提供される。
(1)ステンレス鋼成分を含み、残部がFe及び不純物からなる組成を有し、
粒径2.00μm以上の介在物の合計質量に対して、Al2O3:30質量%以下、MgO:10質量%以下であり、
前記粒径2.00μm以上の介在物のうち、表面に存在する粒径5.00μm超の介在物が20個/cm2以下であり、
板厚が5.0μm以上100.0μm以下のステンレス鋼箔、および
前記ステンレス鋼箔の少なくとも片面に、膜厚が0.3μm以上5.0μm以下の平坦化膜を有する、平坦化膜付きステンレス鋼箔。
(2)前記ステンレス鋼箔が、質量%にて、
C:0.150%以下、
Si:0.100~2.000%、
Mn:0.100~10.000%以下、
P:0.045%以下、
S:0.007%以下、
Ni:2.000~15.000%、
Cr:15.000~20.000%以下、
N:0.200%以下、
Al:0.030%以下、
Mg:0.0005%以下、
Ca:0.0005%以下を含み、残部がFe及び不純物からなる組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼箔である前記(1)に記載の平坦化膜付きステンレス鋼箔。
(3)前記ステンレス鋼箔が、質量%にて、
C:0.120%以下、
Si:2.000%以下、
Mn:0.100~1.250%以下、
P:0.040%以下、
S:0.030%以下、
Cr:16.000~20.000%以下、
N:0.025%以下、
Al:0.030%以下、
Mg:0.0005%以下、
Ca:0.0005%以下を含み、残部がFe及び不純物からなる組成を有するフェライト系ステンレス鋼箔である前記(1)に記載の平坦化膜付きステンレス鋼箔。
(4)前記平坦化膜がシリカ系の有機無機ハイブリッド膜であり、前記有機無機ハイブリッド膜を構成するSi核が、T核およびQ核のみを含む前記(1)~(3)のいずれかに記載の平坦化膜付きステンレス鋼箔。
(5)前記平坦化膜がシリカ系の有機無機ハイブリッド膜であり、前記有機無機ハイブリッド膜を構成するSi核に対するQ核の割合が70%以下である前記(4)に記載の平坦化膜付きステンレス鋼箔。
【発明の効果】
【0015】
粗大な介在物が少ないステンレス鋼箔に平坦化膜を形成して、平坦性および絶縁信頼性を向上した平坦化膜付きステンレス鋼箔を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の平坦化膜付きステンレス鋼箔について説明する。特に断りのない限り、成分に関する「%」は鋼中の質量%を示す。特に下限を規定していない場合は、含有しない場合(0%)を含んでよい。
【0017】
本発明に係るステンレス鋼箔は、特に制限されない。例えば、SUS304などのオースナイト系であってもよいし、SUS430などのフェライト系であってもよい。
【0018】
[ステンレス鋼箔の組成]
本発明に係るステンレス鋼箔が、オーステナイト系ステンレス鋼箔である場合は、ステンレス鋼箔は、質量%にて、C:0.150%以下、Si:0.050~2.000%、Mn:0.100~10.000%、P:0.045%以下、S:0.007%以下、Ni:2.000~15.000%、Cr:15.000~20.000%、N:0.200%以下、Al:0.030%以下、Mg:0.0005%以下、Ca:0.0005%以下を含み、残部がFe及び不純物からなる組成を有する。
【0019】
Niは耐食性改善や加工性改善効果を有し、さらにステンレス鋼の熱膨張係数を調整するための主要成分である。耐食性改善の観点からは、Ni含有量は2.000%以上である。しかしながら、Niは高価な元素であり、含有量が高すぎれば、熱間圧延後又は熱間鍛造後において、鋼中にベイナイト組織が生成しやすくなる。従って、Ni含有量は15.000%以下とする。
【0020】
Crは、耐食性の改善に必要な合金成分であり、しかし、過剰量のCrが含まれると鋼材が硬質化し、加工性が劣化することから、Cr含有量は20.000%以下である。Cr含有量の下限は特に限定しないが15.000%以上の含有量でCr添加の効果が顕著になることから、15.000%以上である。
【0021】
C(炭素)は、特に含有しなくてもよい。Cが過剰に含有されれば、熱膨張係数が大きくなるとともに、結晶粒界に析出するCr系の介在物が増加し、大きな介在物粒子を発生させる原因となる。従って、Cの含有量は、0.150%以下であり、好ましくは0.100%以下、さらに好ましくは0.050%以下である。
【0022】
Caは、硫化物に固溶して、硫化物を微細分散させ、硫化物の形状を球状化する。一方、Caを多量に含有すると、硫化物に固溶しなかったCaが粗大な酸化物を形成し、エッチング不良を生じるおそれがある。従って、特に含有しなくてもよいが、含有するのであればCa量は0.0005%以下であり、好ましくは0.0001%以下である。
【0023】
Mnは、スピネルの生成を避けるため、Mg及びAlの代わりに脱酸剤として積極的に用いられる。しかし、Mn含有量が高すぎれば、粒界に偏析して粒界破壊を助長して、耐水素脆化性がかえって低くなる。したがって、Mn含有量は10.000%以下であり、好ましくは5.000%以下、2.000%以下、1.500%以下、1.200%以下、1.000%以下であり、さらに好ましくは0.800%以下、0.600%以下、0.500%以下である。Mnの下限は特に限定しない。しかし、Mn含有量が少な過ぎると介在物をMn(O,S)-SiO2系の組成に調節することが困難になる。そのためMnは、0.100%以上である。ここで、Mn(O,S)とは、MnO単体、MnS単体、及びMnOとMnSが複合した介在物のことを指し、OとSの比率は一定のものではなく、酸化物と硫化物が複合した介在物のことを意味する。
【0024】
スピネルの生成を避けるために、Mg、Alによる脱酸の代わりにMn、Siによる脱酸が積極的に行われる。しかし、Siはステンレス鋼の熱膨張係数を増加させる。また、脱酸生成物のMnO-SiO2はガラス化した軟質の介在物であり、熱間圧延中に延伸及び分断されて微細化される。そのため、耐水素脆化特性が高まる。一方、Si含有量が2.000%を超えれば、強度が高くなり過ぎ硬質化し、冷間加工で薄板を製造する際に所定板厚まで圧延するために多くのパス回数を必要とし、生産性が大きく低下する。そのため、Siは2.000%以下であり、好ましくは1.000%以下、0.500%以下であり、さらに好ましくは0.300%以下である。Siの下限は特に限定はしないが、少な過ぎると脱酸不足となり、介在物中のCr2O3濃度が増加して、加工割れを誘発させる介在物が生成し易くなる。そこで、Siの下限は、0.050%であり、好ましくは0.100%である。
【0025】
Mgは鋼の脱酸に用いる。しかし、Mg含有量が0.0005%を超えれば、粗大な介在物が生成するおそれがある。また、スピネルの生成を避けるためにMgの含有量は低い方が好ましい。従って、Mg含有量は0.0005%以下であり、好ましくは0.0003%以下、0.0002%以下であり、さらに好ましくは0.0001%以下である。
【0026】
Alも鋼の脱酸に用いる。しかし、Al含有量が0.030%を超えれば、粗大な介在物が生成してエッチング不良を生じるおそれがある。また、スピネルの生成を避けるためにAlの含有量は低い方が好ましい。従って、Al含有量は0.030%以下であり、好ましくは0.020%以下、0.010%以下であり、さらに好ましくは0.005%以下である。
【0027】
P、Sは、鉄系合金中でMn等の合金元素と結合して介在物を生成する元素であるので、含有量は少ない方が好ましい。従って、P含有量は0.045%以下であり、好ましくは0.010%以下、0.007%以下であり、さらに好ましくは0.005%以下である。S含有量は0.007%以下であり、さらに好ましくは0.005%以下である。
【0028】
Nは、Cと同様に、固溶強化元素でもある。多量に含まれると0.2%耐力が上昇し、鋼材を硬質化する。その反面、多量に含まれると製造性が著しく悪化するため、N含有量の上限は0.200%である。
【0029】
上記鋼成分の残部はFe及び不可避的不純物である。ここで不可避的不純物とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石やスクラップ等のような原料をはじめとして、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0030】
本発明に係るステンレス鋼箔が、フェライト系ステンレス鋼箔である場合は、ステンレス鋼箔が、質量%にて、C:0.120%以下、Si:0.050~2.000%、Mn:0.100~1.250%、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:15.000~20.000%、N:0.025%以下、Al:0.030%以下、Mg:0.0005%以下、Ca:0.0005%以下を含み、残部がFe及び不純物からなる組成を有する。
【0031】
Crは、耐食性の改善に必要な合金成分である。しかし、過剰量のCrが含まれると鋼材が硬質化し、加工性が劣化することから、Cr含有量は20.000%以下である。Cr含有量の下限は特に限定しないが、15.000%以上の含有量でCr添加の効果が顕著になることから、15.000%以上である。
【0032】
C(炭素)は、特に含有しなくてもよい。Cが過剰に含有されれば、熱膨張係数が大きくなるとともに、結晶粒界に析出するCr系の介在物が増加し、大きな介在物粒子を発生させる原因となる。従って、Cの含有量は、0.120%以下であり、好ましくは0.100%以下、さらに好ましくは0.050%以下である。
【0033】
Caは、硫化物に固溶して、硫化物を微細分散させ、硫化物の形状を球状化する。一方、Caを多量に含有すると、硫化物に固溶しなかったCaが粗大な酸化物を形成し、エッチング不良を生じるおそれがある。従って、特に含有しなくてもよいが、含有するのであればCa量は0.0005%以下であり、好ましくは0.0001%以下である。
【0034】
Mnは、スピネルの生成を避けるため、Mg及びAlの代わりに脱酸剤として積極的に用いられる。しかし、Mn含有量が高すぎれば、粒界に偏析して粒界破壊を助長して、耐水素脆化性がかえって低くなる。したがって、Mn含有量は1.250%以下である。好ましくは0.800%以下、0.600%以下であり、さらに好ましくは0.500%以下である。しかし、Mn含有量が少な過ぎると介在物をMn(O,S)-SiO2系の組成に調節することが困難になる。そのためMnは、0.100%以上である。ここで、Mn(O,S)とは、MnO単体、MnS単体、及びMnOとMnSが複合した介在物のことを指し、OとSの比率は一定のものではなく、酸化物と硫化物が複合した介在物のことを意味する。
【0035】
Siは、スピネルの生成を避けるために、Mg、Alによる脱酸の代わりにMn、Siによる脱酸が積極的に行われる。しかし、Siはステンレス鋼の熱膨張係数を増加させる。また、脱酸生成物のMnO-SiO2はガラス化した軟質の介在物であり、熱間圧延中に延伸及び分断されて微細化される。そのため、耐水素脆化特性が高まる。一方、Si含有量が2.000%を超えれば、強度が高くなり過ぎ硬質化し、冷間加工で薄板を製造する際に所定板厚まで圧延するために多くのパス回数を必要とし、生産性が大きく低下する。そのため、Siは2.000%以下であり、さらに好ましくは1.000%以下、0.500%以下であり、さらに好ましくは0.300%以下である。Siの下限は特に限定はしないが、少な過ぎると脱酸不足となり、介在物中のCr2O3濃度が増加して、加工割れを誘発させる介在物が生成し易くなる。そこで、Siの下限は、0.050%であり、好ましくは0.100%である。
【0036】
Mgは鋼の脱酸に用いる。しかし、Mg含有量が0.0005%を超えれば、粗大な介在物が生成するおそれがある。また、スピネルの生成を避けるためにMgの含有量は低い方が好ましい。従って、Mg含有量は0.0005%以下であり、好ましくは0.0003%以下、0.0002%以下、さらに好ましくは0.0001%以下である。
【0037】
Alも鋼の脱酸に用いる。しかし、Al含有量が0.030%を超えれば、粗大な介在物が生成してエッチング不良を生じるおそれがある。また、スピネルの生成を避けるためにAlの含有量は低い方が好ましい。従って、Al含有量は0.030%以下であり、好ましくは0.020%以下、0.010%以下であり、さらに好ましくは0.005%以下である。
【0038】
P、Sは、鉄系合金中でMn等の合金元素と結合して介在物を生成する元素であるので、含有量は少ない方が好ましい。従って、P含有量は0.040%以下であり、好ましくは0.010%以下、0.007%以下であり、さらに好ましくは0.005%以下である。S含有量は0.030%以下であり、好ましくは0.010%以下、0.007%以下、さらに好ましくは0.005%以下である。
【0039】
Nは、Cと同様に、固溶強化元素でもある。多量に含まれると0.2%耐力が上昇し、鋼材を硬質化する。その反面、多量に含まれると製造性が著しく悪化するため、N含有量の上限は0.025%である。
【0040】
上記鋼成分の残部はFeおよび不純物である。ここで不純物とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石やスクラップ等のような原料をはじめとして、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0041】
[介在物]
介在物は少ない方がよく、全く存在しないことが理想であるが、製造過程で混入したり、鋼成分から生成したりするため、皆無にすることは容易ではない。前述したように、圧延中に表面にある粗大介在物が脱落し、凹みの原因となりやすいことが分かった。従って、粒径の大きな円相当径で5μm以上の介在物を極力低減させることが重要である。
【0042】
本発明者らは、介在物の基本的な成分としてAl2O3、MgO、SiO2、CaO、Mn(O、S)、CrSに着目した。これらのうちSiO2、CaO、Mn(O、S)、CrSの軟質系介在物の場合、それらの介在物はクラスター化し難く低融点で軟質であるため、圧延により展伸、あるいは破砕され、粗大化が抑制されることが分かった。一方、アルミナやマグネシウム-アルミニウムスピネルなどの硬質系介在物は界面エネルギーが高く、凝固過程において偏析し凝集し易いので、凝集後のサイズが大きくなり易い。さらに、アルミナやスピネルの介在物は硬質であるため、圧延において展伸や破砕されにくく、結果として、サイズが大きな介在物粒子として残存してしまうことも分かった。
【0043】
これらの知見から、軟質系介在物自体の生成自体を抑制しつつも、生成した軟質系介在物は圧延条件(例えば圧下率)を調整することにより微細化するようにし、一方、硬質系介在物は圧延による微細化も難しいため、硬質系介在物自体を生成させず、また混入もさせず、生成や混入したとしても凝集させない(粗大化させない)ことが重要であると考えた。
【0044】
まず軟質系、硬質系とも介在物を生成させずにステンレス鋼箔としての機械的強度などを担保するため、前記したような鋼成分にするとよい。
介在物を混入させないためにはプロセスの見直しが重要になる。例えば、溶湯処理する際の耐火物を見直し、AlやMgなどが少ない耐火物を使用するとよい。
さらに、介在物の凝集は、例えば溶湯から凝固する際の偏析し凝集することが原因の一つである。凝固の際に偏析することは避けることは容易ではないが、できるだけ凝集しないよう溶湯を攪拌させるなどの方法が考えられる。さらに、溶湯からの凝固プロセスを使用しないプロセス、例えばHIP(熱間静水圧プレス)などによりインゴットを製造するとよい。製造プロセスについては後で説明する。
【0045】
本発明のステンレス鋼箔に含まれる介在物は、測定上の理由から粒径(円相当径)2.00μm以上の介在物(以下、特に断りのない限り単に「介在物」という場合がある。)を対象とする。粒径5.00μm超の粗大介在物が有害であり極力低減した方がよいので、粒径2.00~5.00μmの介在物は、低減した方が好ましいが、直接的に有害になるものではない。
【0046】
また、アルミナやスピネルのような硬質介在物は粗大になり易いため、極力低減させるとよい。そのため、粒径2.00μm以上の介在物の合計質量に対して、Al2O3は30質量%以下、MgOは10質量%以下である。これらの硬質介在物は少ない方が好ましいので、Al2O3の比率は、好ましくは25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下である。MgOの比率は、好ましくは8質量%以下、6質量%以下、5質量%以下であり、さらに好ましくは4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下である。
【0047】
さらに、本発明に係るステンレス鋼箔は、ステンレス鋼箔表面に存在する円相当粒径5.00μm超の介在物の数が20個/cm2以下であることを特徴とする。
【0048】
本発明によれば、平坦化膜が塗布されるステンレス鋼箔に含有される介在物の粒径が5.00μm超の介在物の個数割合を、ステンレス鋼箔表面で、20個/cm2以下に制限することが必要である。ステンレス鋼箔表面の凹みが、平坦化膜の生じるクラックの要因である。板厚が一定程度まで薄くなり、介在物がある程度微細化された後の圧延時に、ステンレス鋼箔表面に存在する粒径5.00μm以上の介在物が、ステンレス鋼箔表面から脱落することにより、この凹みが発生するからである。
【0049】
介在物の粒径を、以下のように測定した。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてステンレス鋼箔表面の介在物を観察する。SEMとしては、例えば日本電子製のJSM-IT500HRを用いてもよい。SEMの設定の一例を示す。
・検出器:反射電子検出器BED-C
・観察倍率:80倍
・加速電圧:20.0kV
・ワーキングディスタンス(WD):10.0mm
・照射電流:80%
また、SEMで取得した画像は介在物自動解析ソフトにて介在物を検出し、エネルギー分散型X線分光装置(以下、EDS装置)にて介在物の組成分析を実施した。介在物自動解析のソフトウェアに関しては、例えばOxford社製のAZtecの粒子解析モードを使用してもよい。EDS装置は、例えばOxford社製のULTIM MAX 65を用いてもよい。
介在物自動解析ソフトによる介在物の識別工程において、初めに介在物自動解析ソフトで使用するSEM像を取得する。次にSEMで取得した画像から介在物自動解析ソフトにて円相当直径で2.00μm以上であり、かつEDSでAl、Mg、Si、Ca、Mn、Sの元素のうち一種以上が検出された場合に介在物として識別する。EDS分析まで終わった画像についてはソフト上で結合し、1つの画像として出力する。その際、介在物自動解析ソフトにより識別された介在物の円相当直径、元素組成も取得する。以上の介在物識別の手順を繰り返し実施することで設定した面積まで測定を行う。例えば、画像の測定面積は10cm2を測定の単位である1視野とし、10視野測定を実施し、合計100cm2を評価面積とするとよい。なお、測定した介在物の面積と同じ面積を持つ円の直径を円相当径(円相当直径)とし、これを「粒径」とする。
上記のように、ステンレス鋼箔表面を観察して、介在物の粒径を求めたが、ステンレス鋼箔表面に存在している介在物の粒径も、ステンレス鋼箔中に存在している介在物の粒径も特に変わらないことは明らかである。
【0050】
介在物の組成は、介在物自動解析ソフトで識別された各介在物について、以下のように計算される。まず、EDS分析により得られた元素Al、Mg、Si、Ca、Mn、Cr、Sの質量%をそれぞれ原子量で割り、元素のみかけの物質量を求める。次に、上記7種の元素について、介在物の基本成分である酸化物あるいは硫化物の状態にする。介在物中において、Al、Mg、Si、Caは主として酸化物として存在する。
Mn、Crは主として硫化物で存在し、Mnは酸化物MnOとしても存在することもある。Sは前述の硫化物MnS以外に、クロムの硫化物CrSとして存在することもある。Mnのみかけの物質量よりSのみかけの物質量が多い場合、Mnのみかけの物質量と同量のMnSが存在し、このとき、Sのみかけの物質量からMnのみかけの物質量を減算した物質量のCrSが存在する。Mnのみかけの物質量よりSのみかけの物質量が少ない場合、Sのみかけの物質量と同量のMnSが存在し、このときMnのみかけの物質量からSのみかけの物質量を減算した物質量のMnOが存在する。Mnのみかけの物質量とSのみかけの物質量が全く同量存在する場合、MnおよびSの物質量と同量のMnSが存在する。
介在物の基本成分である酸化物あるいは硫化物の状態にするため、元素のみかけの物質量に対応する元素O(酸素)又はSの物質量を、それぞれAl:O=2:3、Mg:O=1:1、Si:O=1:2、Ca:O=1:1、Mn:O=1:1、Mn:S=1:1、S:Cr=1:1の両論比に基づき付与した後、それぞれの分子量をかけて酸化物等換算質量を導出する。求めた酸化物等換算質量のそれぞれを、7つの酸化物等換算質量の合計で割ることで、Al2O3、MgO、SiO2、CaO、MnO、MnS、CrS(以下、「酸化物等」と言う場合がある。)の酸化物等換算質量%を求める。介在物自動解析ソフトで求めた介在物の面積に対し、7つの酸化物等換算質量%をそれぞれ積算し、Al2O3、MgO、SiO2、CaO、MnO、MnS、CrSの介在物面積(μm2)を求める。
次に、介在物自動解析ソフトで識別された全介在物について介在物面積をそれぞれ求め、上記7つの酸化物あるいは硫化物毎に介在物面積を合計して、Al2O3の面積合計、MgOの面積合計、SiO2の面積合計、CaOの面積合計、MnOの面積合計、MnSの面積合計、CrSの面積合計を得る。この7つの面積合計の総和を全介在物の面積合計とする。各酸化物等の面積合計を全介在物の面積合計で割ることで、介在物の組成比率(質量%)を算出する。
【0051】
粒径が5.00μm超の介在物の個数密度を20個/cm2以下にする。このため、平坦化膜のクラックの要因となるステンレス鋼箔表面の凹みを生じさせるサイズの介在物が低減されている。粒径が5.00μm超の介在物は少ない方がよく、好ましくは15個/cm2以下、12個/cm2以下、10個/cm2以下であり、さらに好ましくは8個/cm2以下、6個/cm2以下、5個/cm2以下である。
【0052】
[板厚]
本発明で用いられるステンレス鋼箔は、板厚が5.0μm以上100.0μm以下である。板厚が100.0μmより厚くなると、箔としてのフレキシブル性が望めなくなるとともに、箔の大きな特徴である軽量化のメリットを失うこととなる。板厚が5.0μmより薄いステンレス鋼箔は、ハンドリングに際していわゆる折れやシワが非常に入り易くなり、工業的なプロセスになじみにくいと共に、基板としての強度が低下して使用に際しての信頼性に問題が生じる。更に、これほど薄いステンレス鋼箔は、工業的な観点からはそもそも高価なものとならざるを得ない。なお、本発明で用いられるステンレス鋼箔の板厚は、接触式のいわゆるマイクロメーターを用いて測定することが出来る。本発明に用いるステンレス鋼箔の板厚は、10.0μm以上80.0μm以下であることが、平坦化膜のクラックの発生防止の目的上、さらに好ましい。
【0053】
本発明の平坦化膜付きステンレス鋼箔の製造方法について説明する。
本発明に係るステンレス鋼箔は、例えば、次のように製造することができるが、以下に示す方法は例示であって、この方法に限定されることを意図しない。
【0054】
例えば、10-1(Torr)以下の真空雰囲気中で、所定の組成に調整した原料を真空溶解し、目的とする合金組成の溶湯を得る。この時、溶湯を脱酸するため、除滓後の溶湯のMn及びSiの含有量がそれぞれ所定の含有量になるように、Mn及びSiを添加する。
【0055】
次に、Ar又はN2ガス等の不活性ガスを使用して、ガスアトマイズによりアトマイズ(粉体化)を行う。ガスアトマイズ時の溶湯温度は、溶湯の粘性を下げるために、融点+50℃~200℃の範囲とするのが好ましい。また、ガスアトマイズ時のガス流量(m3/分)/溶湯流量(kg/分)の比が0.3(m3/kg)以上にするとよい。ガス流量(m3/分)/溶湯流量(kg/分)の比が0.3(m3/kg)未満では、溶滴の冷却速度が遅くなるため、鋳塊表面に衝突した際の液滴の液相率が高過ぎて、介在物が粗大化する。
そのため、ガス流量と溶湯流量の比は0.3(m3/kg)以上とし、好ましくは、0.5以上、0.7以上、0.9以上、1.0以上、1.5以上、さらに好ましくは、2.0以上とする。ガス流量(m3/分)/溶湯流量(kg/分)の比の上限は、特に限定されないが、5.0(m3/kg)以上では、冷却能力が飽和するので、上限は、5.0(m3/kg)にするとよい。
【0056】
前記アトマイズ工程によって得られた合金粉末を、ホットプレス法やHIP法により焼結してインゴットを製造する。焼結方法は特に限定しない。常法のホットプレス法などに従い、適宜条件設定すればよい。
【0057】
合金粉末は、その粒径が小さくなるほど焼結が進みやすくなるが、粒径の大きい合金粉末に比べて生産性が低くなる。その一方、合金粉末の粒径が大きくなるほど、炉材からの不純物が混入しやすくなるおそれがある。そのため、合金粉末は、粒径300μm以下、好ましくは、250μm以下、200μm以下、150μm以下、さらに好ましくは100μm以下とする。
【0058】
上記のアトマイズ(粉体化)法により、AlやMgの含有を抑制することができ、さらに固相で処理される焼結法であれば、凝固法(鋳造法)のように耐火物からのAlやMgの混入もないので、粗大(例えば5μm以上)介在物の生成が抑制される。これらのことから、最終的にAl2O3やスピネル系の介在物自体が低減され、特に5μm以上の粗大介在物の生成を著しく抑制することができる。
【0059】
次に、製造された合金インゴットを熱間鍛造又は切削、あるいは研削加工により鋼片を製造し、前記鋼片を3.0mm~200mm厚になるまで圧延する。前記圧延は、熱間圧延であっても冷間圧延であってもよい。3.0mm~200mm厚の前記圧延板は、圧延工程を繰り返し行うことによって、板厚100.0μm以下のステンレス鋼箔に形成される。板厚の下限は、本発明の効果を得るには5.0μmである。
【0060】
前記インゴットを熱間圧延、熱間鍛造或いは冷間圧延をする前後において焼鈍工程を行ってもよい。また、前記焼鈍工程、熱間鍛造工程及び熱間圧延工程における温度は、介在物の凝集を防ぐために、本発明の鉄系合金の融点未満の温度であり、好ましくは、本発明の鉄系合金の融点温度-500℃以上、本発明の鉄系合金の融点温度-200℃以下の範囲とする。
【0061】
熱間圧延又は熱間鍛造後は、冷間圧延を行うとよい。冷間圧延の途中で中間焼鈍を行ってもよい。圧延により、介在物、特に軟質系介在物を伸展、破砕し、介在物を微細化することができる。介在物の微細化は、熱間圧延に比べて冷間圧延の方が、効果があり、さらに板厚が薄いほど効果があるため、熱間圧延後の板厚(冷間圧延直前の板厚)を基準として、冷間圧延の総圧下率を96.0%以上にするとよい。好ましくは97.0%以上、98.0%以上、99.0%以上、99.5%以上にするとよい。さらに、圧下率が高い方が介在物の微細化効果が期待できるため、狙いの板厚に造り込むパスや、形状矯正を行うパスを除き、各パスにおける圧下率を20.0%以上にするとよい。このような圧下率で冷間圧延することによって、軟質な介在物をより伸展、破砕により微細化するとともに、分散することができる。
【0062】
一方、板厚が一定程度まで薄くなり、介在物がある程度微細化された後の圧延(仕上圧延)においては、介在物の微細化と同時に、介在物の脱落による表面凹凸の生成や、ステンレス鋼箔を貫通するピンホールの生成が起こることが分かった。そのため、最終板厚より10~80μm厚い板厚から最終板厚までの仕上圧延(多段圧延)においては、各パスの単位圧延荷重(kN/mm)を適正域にコントロールしたマイルドな圧延にするとよい。単位圧延荷重とは、圧延ロールから被加工材にかかる荷重を、被加工材の板幅で除したものである。例えば、単位圧延荷重は0.4~1.3kN/mmにし、累積圧下率を50.0%以上にするとよい。単位圧延荷重が0.4kN/mm未満であると、圧延に伴う加工発熱が少なく、被加工材である合金箔の柔軟性が低下するため、介在物と合金箔の界面にクラックが生じ、介在物の脱落が多くなる。また、1.3kN/mmを超えると加工発熱が多くなるが、合金箔の塑性変形量自体が大きくなるため、介在物との界面にクラックが生じ、介在物の脱落が多くなる。また、仕上圧延の累積圧下率が50.0%未満であると、合金箔の強度が発現しない場合がある。仕上圧延の累積圧下率の上限は、特に限定しないが、通常の箔圧延機の能力から98.0%以下にするとよい。
【0063】
さらに、介在物の脱落による表面凹凸の生成を抑えるため、最終板厚にするための最終圧延の圧下率は0.2~3.0%にするとよい。ここで、圧下率とは、圧延前の板厚をt1、圧延後の板厚をt2とした時に、以下の式で示される。
圧下率=(t1-t2)/t1
例えば仕上圧延の累積圧下率は、多段であっても、仕上圧延前の板厚をt1、仕上圧延後の板厚をt2とすればよい。各パスの圧下率は、各圧延パス前の板厚をt1、当該圧延パス後の板厚をt2とすればよい。
【0064】
さらに、仕上圧延(最終圧延)後に歪み取りのために焼鈍してもよい。
【0065】
[平坦化膜の組成]
本発明の平坦化膜付きステンレス鋼箔の製造に用いる平坦化膜は、シリカ系無機有機ハイブリッド膜である。
[シリカ系無機有機ハイブリッド膜]
シリカ系無機有機ハイブリッド膜は、一般に、シリコーンの基本単位として、R2Si(OR’)2、RSi(OR’)3,又はSi(OR’)4を含む構造を有しており、溶媒中で加水分解、縮合させた塗布液を塗工し、熱処理することによって得られる。ここで、Rは任意の有機基、R’はアルキル基である。R2Si(OR’)2、RSi(OR’)3、Si(OR’)4はそれぞれSiのD核(二官能性)、T核(三官能性)、Q核(四官能性)に相当する。
【0066】
平坦化膜を構成するシリカ系無機有機ハイブリッド膜が、構成要素として、SiのD核を含んでいる場合、膜に柔軟性を付与することができるが、デバイス作製時の高温プロセス中に、D核で3員環を形成して脱離するため、デバイスの特性に悪影響を及ぼす。このため、平坦化膜を構成するSi核が、T核およびQ核のみから構成されるシリカ系無機有機ハイブリッド膜であることが求められる。全Si核に対するQ核の割合が70%超の場合は、膜を構成するSi-O結合の密度が高くなりすぎるこの場合、膜にクラックが入りやすくなるので不適である。T核はSiに直接結合している有機基が1つあるため、膜に柔軟性を付与することができる。Q核の割合は70%以下であることがよい。
【0067】
本発明に係るシリカ系無機有機ハイブリッド膜を構成するSiに直接結合する有機基Rは、特に制限されない。例えば、耐熱性の観点からメチル基、フェニル基が好ましい。メチル基とフェニル基はそれぞれ単独で含まれていても、両方を同時に含まれていてもよい。平坦化膜中のSi核については、29Si-NMR測定により種類と量を特定できる。Siに直接結合している有機基は、FTIRあるいは13C-NMRと1H-NMRの組み合わせなどにより調べることができる。
【0068】
[シリカ系無機有機ハイブリッド膜形成用塗布液]
シリカ系無機有機ハイブリッド膜は、種々の方法で作製可能である。シリカ系無機有機ハイブリッド膜が、フェニル基修飾シリカ膜である場合は、たとえば以下に示す塗布液から作製される。以下に示す方法は例示であって、この方法に限定されることを意図しない。
【0069】
この塗布液は、有機溶媒中フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して、酢酸0.1モル以上1モル以下、有機スズ0.005モル以上0.050モル以下を触媒として加え、2.0モル以上4.0モル以下の水で加水分解後、160℃以上210℃以下の温度でフェニルトリアルコキシシランの加水分解時に用いた有機溶剤、反応副生成物としての水およびアルコールを減圧留去して得られたレジンを、芳香族炭化水素系溶剤に溶解した塗布液である。
【0070】
ここで用いるフェニルトリアルコキシシランとしては、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシランなどが挙げられる。
【0071】
フェニルトリアルコキシシランを加水分解するときに用いる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。
【0072】
減圧留去時に留去する有機溶剤は、フェニルトリアルコキシシランを加水分解するときに用いた有機溶剤に加えてフェニルトリアルコキシシランの加水分解によって生成したアルコールも含まれる。また加水分解されたフェニルトリアルコキシシランの縮合反応に伴って生成する水が含まれることもある。
【0073】
芳香族炭化水素系溶剤としては、トルエン、キシレンなどが挙げられる。芳香族炭化水素系溶剤に、特性に影響を与えない範囲で、他の有機溶剤を混合してもよい。
【0074】
有機スズはフェニルトリアルコキシシランおよびその加水分解縮合反応物や、フェニル基含有ラダーポリマーの重縮合反応を促進する触媒である。有機スズとしては、ジブチルスズジアセテート、ビス(アセトキシジブチルスズ)オキサイド、ジブチルスズビスアセチルアセトナート、ジブチルスズビスマレイン酸モノブチルエステル、ジオクチルスズビスマレイン酸モノブチルエステル、ビス(ラウロキシジブチルスズ)オキサイドなどが挙げられる。
【0075】
シリカ系無機有機ハイブリッド膜は、上述の塗布液を、ステンレス鋼箔の表面に塗布し、不活性ガス雰囲気中300℃以上450℃以下の熱処理温度で硬化させて、好ましくは、膜厚0.3μm以上5.0μm以下となるように形成される。
【0076】
シリカ系無機有機ハイブリッド膜が、メチル基修飾シリカ膜である場合は、たとえば以下に示す塗布液から作製される。
メチルトリエトキシシラン0.6モルとテトラメトキシシラン0.4モルを12.0モルのエタノール中で2.0モルの水と0.1モルの酢酸で加水分解、縮合反応させた塗布液を膜厚1.0μmで塗布後、窒素中450℃で10分熱処理を行った膜は、メチル基が結合したT核が60%、Q核が40%となる。Q核の原料としてテトラメトキシシランの他、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、コロイダルシリカなどを用いることができる。メチルトリエトキシシラン以外に、メチルトリメトキシシランを用いることもできる。これらの原料を複数組み合わせてもよい。
【0077】
シリカ系無機有機ハイブリッド膜は、塗布後の熱処理温度および熱処理中のガス雰囲気により、原料のオルガノアルコキシシランの有機基が熱分解し、SiがT核からQ核に変わる場合がある。したがって、T核である原料、たとえばメチルトリメトキシシラン1.0モルを8.0モルのメタノール中、3.0モルの水と0.01モルの硝酸を用いて加水分解、縮合させて得た塗布液を、膜厚0.4μmで塗布後、0.1%の酸素を含む窒素中で500℃1分の熱処理を行った場合、平坦化膜中、メチル基が結合したT核のSiが98%、メチル基が熱分解したQ核のSiが2%存在する。一方、前記塗布液を膜厚0.4μmでステンレス鋼箔に塗布後、窒素中で500℃1分の熱処理を行った場合、メチル基が結合したT核のSiが100%となる。
【0078】
ステンレス鋼箔上に形成されるシリカ系無機有機ハイブリッド膜の膜厚は、0.3μm以上5.0μm以下である。0.3μmよりも薄い場合は、ステンレス鋼箔表面の被覆が不十分になり、ステンレス鋼箔とデバイスが短絡したり、シリカ系無機有機ハイブリッド膜の表面が十分平坦にならずデバイスを構成する電極層や半導体層のデラミが発生するため不適である。5.0μmを超える場合は膜にクラックが入りやすくなる。製膜時のクラックが入りやすいだけでなく、平坦化膜で被覆されたステンレス鋼箔をフレキシブル基板として曲げたときにもクラックが入りやすくなる。膜厚は0.5μm以上3.5μm以下であることがステンレス鋼箔表面の被覆とクラック防止の観点からさらに好ましい。
【実施例0079】
次に、実施例により本発明を更に説明する。本発明がここに提示した実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0080】
試験材1、2については、真空誘導溶解炉により表1に示す成分に調整したステンレス合金組成の溶湯を調製し、N2ガスによるガスアトマイズにより粉末化した。ガスアトマイズ時の溶湯温度は、溶湯の粘性を下げるために、液相線温度+50℃~液相線温度+200℃の範囲とした。また、ガスアトマイズ時のガス流量(m3/分)/溶湯流量(kg/分)の比は1.0~3.0(m3/kg)になるよう調整した。
次に、得られた合金粉末を金属容器に封入し、公知のHIP処理方法により試験材1、2のインゴットを製造した。
【0081】
試験材3、4については、真空誘導溶解炉により表1に示す成分に調整したステンレス合金組成の溶湯を調製したが、その後溶湯を鋳型に移し、鋳型中で凝固させインゴットを製造した。この間、溶湯を入れたタンディッシュや鋳型内壁の耐火物は、通常操業で使用するものと同等の耐火物を使用した。
【0082】
試験材1、2の一部と試験材3、4の各インゴットを熱間鍛造して断面が80mm×80mmの鋼片を製造し、当該鋼片を3.0mm厚になるまで熱間圧延し、その後冷間圧延して板厚0.30mmの鋼鈑を得た。得られた鋼板を冷間圧延して、狙いの板厚に造り込むパスや、形状矯正を行うパスを除き、各パスにおける圧下率を20.0%以上にし、最終板厚より50μm厚い板厚の鋼箔を得た。試験材1、2から得られた鋼箔を仕上圧延して、板厚5.0μm、10.0μm、25.0μm、50.0μm、100.0μmのステンレス鋼箔を製造した。試験材3、4から得られた鋼箔を仕上圧延して、板厚50.0μmのステンレス鋼箔を製造した。この時、単位圧延荷重は0.4~1.3kN/mmにし、最終の仕上圧延の圧下率を0.2~3.0%にした。なお、冷間圧延による歪除去のため、テンションアニールを行った。
試験材1から製造したステンレス鋼箔は、板厚5.0μm、10.0μm、25.0μm、50.0μm、100.0μmの順に、試験材1-1、1-2、1-3、1-4、1-5とした。試験材2から製造したステンレス鋼箔は、同様に、試験材2-1、2-2、2-3、2-4、2-5とした。試験材3から製造したステンレス鋼箔は、試験材3-1とし、試験材4から製造したステンレス鋼箔は、試験材4-1とした。
【0083】
試験材1、2の一部の各インゴットを熱間鍛造して断面が80mm×80mmの鋼片を製造し、当該鋼片を3.0mm厚になるまで熱間圧延し、その後冷間圧延して板厚0.30mmの鋼鈑を得た。得られた鋼板を冷間圧延して、狙いの板厚に造り込むパスや、形状矯正を行うパスを除き、各パスにおける圧下率を20.0%未満にし、最終板厚より50.0μm厚い板厚の鋼箔を得た。得られた鋼箔を仕上圧延して、板厚50.0μmのステンレス鋼箔を製造した。この時、最終の仕上圧延の圧下率を5.0%にした。なお、冷間圧延による歪除去のため、テンションアニールを行った。試験材1から製造したこのステンレス鋼箔は、試験材1-6とし、試験材2から製造したこのステンレス鋼箔は、試験材2-6とした。
【0084】
【0085】
フェニル基含有シリカ系無機有機ハイブリッド膜を成膜するための塗布液を準備した。まず、1Lのフラスコを用いて、表2に示す配合比となるように配合し、総量が0.7Lになるように原料を調合した。調合後、原料をマグネティックスターラーで15分撹拌及び混合を行い、加水分解を促進するために80℃で3時間、窒素気流下で還流した。その後、ロータリーエバポレータを用い、オイルバスの設定温度を80℃にして、溶媒を減圧留去し、縮合反応物を得た。その後、トルエンを、縮合反応物の重量と等量で添加して、縮合反応物を溶解させた。この1Lフラスコをディーンスタークトラップ付き還流器に接続して、加熱還流を行った。加熱還流時のオイルバスの設定温度と還流時間は表2に示す。加熱還流後に、トルエンをさらに添加して、固形分濃度が30質量%になるよう希釈し、孔径5μmのフィルタをセットして減圧濾過を実施し、フェニル基含有シリカ系無機有機ハイブリッド膜形成用の塗布液とした。
【0086】
【0087】
製造した各ステンレス鋼箔の片面に、ダイコータを用いて膜厚0.3、3.0、5.0μmでフェニル基含有シリカ系無機有機ハイブリッド膜を形成した。乾燥炉は炉長3mで炉の温度は100℃にセットし、速度5mpmで搬送し、PAC3J-30Hの微粘着性保護フィルムを貼りつけながら巻き取った。次に保護フィルムを剥がしながら炉長6m、炉温400℃の窒素雰囲気の熱風乾燥炉に搬送速度1mpmで通し、PAC3J-30Hの微粘着性保護フィルムを貼りつけながら巻き取り、平坦化膜付きステンレス鋼箔ロールを得た。29Si-NMRによりSi核はすべてT核であることを確認した。FTIRにより有機基はフェニル基であることを確認した。
【0088】
メチル基含有シリカ系有機無機ハイブリッド膜を成膜するための塗布液を準備した。メチルトリエトキシシラン0.5モルとテトラメトキシシラン0.5モルを、6.0モルの2-エトキシエタノール中で、2.0モルの水と0.1モルの酢酸で加水分解、縮合反応させ、その後にMEKを6.0モル追加し混合することにより合成した。
【0089】
製造した各ステンレス鋼箔の片面に、ダイコータを用いて膜厚1.0μmでメチル基含有シリカ系無機有機ハイブリッド膜を形成した。乾燥炉は炉長3mで炉の温度は150℃にセットし、速度5mpmで搬送し、PAC3J-30Hの微粘着性保護フィルムを貼りつけながら巻き取った。次に保護フィルムを剥がしながら炉長6m、炉温420℃の窒素雰囲気の熱風乾燥炉に搬送速度1mpmで通し、PAC3J-30Hの微粘着性保護フィルムを貼りつけながら巻き取り、平坦化膜付きステンレス鋼箔ロールを得た。29Si-NMRによりSi核はT核とQ核が50%ずつであることを確認した。FTIRにより有機基はメチル基であることを確認した。
【0090】
上記のように製造した平坦化膜付きステンレス鋼箔の介在物評価、平坦性、絶縁信頼性について評価した結果を表3、4、5、6、7、8に示す。ここで、介在物の観察は、平坦化膜を成膜していないステンレス鋼箔の表面について行い、平坦性や絶縁信頼性は、平坦化膜を成膜した表面(介在物評価を行ったステンレス鋼箔表面の裏面側に相当する箇所)について評価を行った。
【0091】
SEM(日本電子製のJSM-IT500HR)を用いて平坦化膜を成膜していないステンレス鋼箔の表面の介在物を観察した。平坦化膜を成膜していないステンレス鋼箔の表面で観察した介在物の個数と、平坦化膜を成膜している面で測定したリーク電流の測定点数には相関が見られる。SEMの設定は以下の通りである。
・検出器:反射電子検出器BED-C
・観察倍率:80倍
・加速電圧:20.0kV
・ワーキングディスタンス(WD):10.0mm
・照射電流:80%
また、SEMで取得した画像は介在物自動解析ソフト(Oxford社製のAZtecの粒子解析モード)にて介在物を検出し、EDS装置(Oxford社製のULTIM MAX 65)にて介在物の組成分析を実施した。
【0092】
介在物自動解析ソフトによる介在物の識別工程において、初めに介在物自動解析ソフトで使用するSEM像を取得する。次にSEMで取得した画像は介在物自動解析ソフトにて円相当直径で2.00μm以上の介在物が検出され、かつEDSでAl、Mg、Si、Ca、Mn、Sの元素を少なくとも1種以上が検出された場合に、介在物として識別する。EDS分析まで終わった画像についてはソフト上で結合し、1つの画像として出力する。その際、介在物自動解析ソフトにより識別された介在物の粒径、元素組成も取得する。評価面積は100cm2とし、円相当直径を介在物の粒径とした。
介在物の組成は、前記介在物自動解析ソフトで識別された介在物についてAl2O3、MgO、の酸化物換算質量%を算出した。
【0093】
[100cm2あたりの1μA/mm2以上のリーク電流の測定点数]
ステンレス鋼箔の表面に平坦化膜を成膜して、試験片を作製した。前記膜上の導電率0.1S/m以上100S/m以下の液体を浸した断面積が1mm2以上25mm2以下の電極を上部電極とし、前記ステンレス鋼箔を下部電極とし、前記試験片の表面を前記上部電極で走査して、前記上部電極と前記下部電極との間に10V印加したときのリーク電流が、1μA/mm2以上である箇所の数を計測した。
【0094】
[平坦性]
前記試験片の、1μA/mm2以上のリーク電流が測定された箇所では、平坦化膜にクラックが発生しており、また、クラックにより生じる平坦化膜表面の段差により平坦性が低下する。
リーク電流が、1μA/mm2以上である点が、100cm2あたり10個未満の場合は平坦性を良好「〇」と判定し、10個以上の場合は平坦性を不適「×」と判定した。10個以上で著しくデバイスの欠陥が増加するため、10個未満を良好とした。
【0095】
[絶縁信頼性]
1μA/mm2以上のリーク電流が測定された箇所が、0~10点未満である場合は絶縁信頼性を良好「○」、10点以上である場合は絶縁信頼性を不適「×」と評価した。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
試験材1-1、1-2、1-3、1-4、1-5、2-1、2-2、2-3、2-4、2-5は、Al2O3が28.5質量%以下、MgOが9.7質量%以下と低く抑えられ、圧延により微細化されにくい介在物となるAl2O3とMgOが少ないことで、円相当径5μm超の介在物の個数が8.8個/cm2以下と低く抑えられる。そのため、100cm2あたりの1μA/mm2以上のリーク電流の測定点数が9.5個以下と少なく、クラックの発生が低減されていることがわかる。
また、板厚が薄くなるほど、介在物が微細化され、Al2O3の質量%、MgOの質量%、円相当径5μm超の介在物の個数が減少し、100cm2あたりの1μA/mm2以上のリーク電流の測定点数が少なることがわかる。
【0103】
試験材1-6、2-6のステンレス鋼箔は、各パスにおける圧下率が20%未満であり、介在物を微細化できていないため、Al2O3を43.1質量%以上、MgOを19.4質量%以上と多く含み、円相当径5μm超の介在物の個数が30.7個/cm2以上と多くなる。そのため、100cm2あたりの1μA/mm2以上のリーク電流の測定点数が32個以上と多く、そのためクラックの発生数が多いことがわかる。
また、試験材1-6、2-6と比較すると、圧延条件を変更して製造した試験材1-1、1-2、1-3、1-4、1-5、2-1、2-2、2-3、2-4、2-5は、各パスにおける圧下率が20%以上であり、介在物が微細化され、Al2O3の質量%、MgOの質量%、円相当径5μm超の介在物の個数が減少し、円相当径5μm超の介在物の個数が低減されていることがわかる。
【0104】
試験材3-1、4-1のステンレス鋼箔は、Al2O3が35.1質量%以上、MgOが11.3質量%以上と多く含んでいた。圧延により微細化されにくい介在物となるAl2O3とMgOが多いことで、円相当径5μm超の介在物の個数が23.4個/cm2以上と多くなっていた。そのため、100cm2あたりの1μA/mm2以上のリーク電流の測定点数が30.0個以上と多く、そのためクラックの発生数が多いことがわかる。
その結果、試験材1、2は、AlやMgの含有を抑制することができ、試験材3、4のように耐火物からのAlやMgの混入もないので、Al2O3やMgOが低減され、円相当径5μm超の介在物の個数が低減されていることがわかる。