(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025044035
(43)【公開日】2025-04-01
(54)【発明の名称】二酸化炭素固定検知用セメント硬化体、二酸化炭素固定範囲の検知方法
(51)【国際特許分類】
G01N 31/22 20060101AFI20250325BHJP
G01N 33/38 20060101ALN20250325BHJP
【FI】
G01N31/22 121A
G01N33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023151711
(22)【出願日】2023-09-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 亮介
(72)【発明者】
【氏名】辻埜 真人
(72)【発明者】
【氏名】依田 侑也
(72)【発明者】
【氏名】矢野 慧一
(72)【発明者】
【氏名】西田 朗
(72)【発明者】
【氏名】北垣 亮馬
(72)【発明者】
【氏名】エラクネス ヨガラジャ
(72)【発明者】
【氏名】仙北 久典
(72)【発明者】
【氏名】坂入 正敏
(72)【発明者】
【氏名】伏見 公志
【テーマコード(参考)】
2G042
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042AA03
2G042BA02
2G042BB03
2G042BB05
2G042CA04
2G042DA08
2G042FA12
2G042FB05
(57)【要約】
【課題】pHが8~11の範囲においてもCO2の固定化の進行状況を検知することができる二酸化炭素固定検知用セメント硬化体、およびそれを用いた二酸化炭素固定範囲の検知方法を提供する。
【解決手段】セメント硬化体と、前記セメント硬化体に担持したpH7~13の範囲において呈色反応示す二酸化炭素固定範囲指示液と、を含む、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント硬化体と、前記セメント硬化体に担持したpH7~13の範囲において呈色反応示す二酸化炭素固定範囲指示液と、を含む、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体。
【請求項2】
前記二酸化炭素固定範囲指示液の含有量が、前記セメント硬化体100質量部に対して、0.01質量部以上5質量部以下である、請求項1に記載の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体。
【請求項3】
前記セメント硬化体に担持した二酸化炭素吸収剤を含む、請求項1に記載の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体。
【請求項4】
前記二酸化炭素吸収剤の含有量が、前記セメント硬化体100質量部に対して、0質量部以上20質量部以下である、請求項3に記載の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体。
【請求項5】
前記セメント硬化体がコンクリートである、請求項1に記載の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体を板状または柱状に成形する工程と、
前記二酸化炭素固定検知用セメント硬化体における対向する2つの端面以外の面を封止する工程と、
前記2つの端面の一方を、対象となるコンクリート躯体の二酸化炭素の吸収面と同一面上となるように、前記二酸化炭素固定検知用セメント硬化体を配置する工程と、を有し、
前記二酸化炭素固定検知用セメント硬化体が板状の場合、前記2つの端面は、前記二酸化炭素固定検知用セメント硬化体の短手方向または長手方向に沿う端面であり、
前記二酸化炭素固定検知用セメント硬化体が柱状の場合、前記2つの端面は、前記二酸化炭素固定検知用セメント硬化体の上面および底面である、二酸化炭素固定範囲の検知方法。
【請求項7】
前記二酸化炭素固定検知用セメント硬化体を構成するセメント硬化体は、前記コンクリート躯体と組成が同一である、請求項6に記載の二酸化炭素固定範囲の検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体、およびそれを用いた二酸化炭素固定範囲の検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止のために、二酸化炭素(以下、「CO2」とも言う。)排出量の削減が世界的に求められている。建設材料分野では、セメント量を低減することで、コンクリート製造時に発生するCO2量を削減する方法や、CO2を固定(吸収)できるコンクリートに関する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
コンクリートによるCO2の固定化の進行状況を把握する必要があるものの、CO2を固定してもコンクリートの外観が変化しないため、目視によりCO2の固定化の進行状況を把握することができない。
コンクリートがCO2を固定する現象は「中性化」と呼ばれている。この中性化の深さを把握する方法は、JIS A 1152:2018「コンクリートの中性化深さの測定方法」(以下、「フェノールフタレイン法」と言う。)に規定されている。この方法は、コンクリートを割裂し、割裂面に対して、JIS K 8001のJA.5に規定されるフェノールフタレイン溶液を噴霧し、抵触しない部分を中性化部位として把握する方法である。フェノールフタレイン法では、フェノールフタレインの呈色反応を利用しており、CO2の吸収によってコンクリート中の細孔溶液のpH8が程度まで低下した部位を中性化範囲と判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンクリートがCO2を吸収固定する過程においてした状態では、コンクリート中の細孔溶液のpHは徐々に低下する。最終的に到達するpHの値は、一般的にはpH8程度であるが、コンクリートの組成によって変動する。すなわち、あらゆるコンクリートに対して、フェノールフタレイン法で判定される中性化範囲とCO2の吸収固定範囲は必ずしも一致せず、そのため、フェノールフタレイン法では、CO2の固定範囲を判定できない。また、フェノールフタレイン法は、コンクリート躯体から採取したコアや、削孔したドリル紛をサンプルとするため、コンクリート躯体の微破壊を伴う試験方法である。従って、フェノールフタレイン法では、検査のためにコンクリート躯体を損傷し、検査を終了した後、コンクリート躯体の補修を要する。
【0006】
また、セメント硬化体を粉砕したサンプルに対して熱分析(TG-DTA)を実施することで、サンプル中の炭酸カルシウムの存在を判定し、その結果に基づいて、CO2の固定量を判定することも可能である。しかしながら、この方法においても、コンクリート躯体からサンプルを取得する必要があるため、コンクリート躯体の微破壊を伴う。加えて、分析装置を現場で使用することができず、現場での早期判定は難しい。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、pHが8~11の範囲においてもCO2の固定化の進行状況を検知することができる二酸化炭素固定検知用セメント硬化体、およびそれを用いた二酸化炭素固定範囲の検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を有する。
[1]セメント硬化体と、前記セメント硬化体に担持したpH7~13の範囲において呈色反応示す二酸化炭素固定範囲指示液と、を含む、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体。
[2]前記二酸化炭素固定範囲指示液の含有量が、前記セメント硬化体100質量部に対して、0.01質量部以上5質量部以下である、[1]に記載の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体。
[3]前記セメント硬化体に担持した二酸化炭素吸収剤を含む、[1]または[2]に記載の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体。
[4]前記二酸化炭素吸収剤の含有量が、前記セメント硬化体100質量部に対して、0質量部以上20質量部以下である、[3]に記載の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体。
[5]前記セメント硬化体がコンクリートである、[1]~[4]のいずれかに記載の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体を板状または柱状に成形する工程と、
前記二酸化炭素固定検知用セメント硬化体における対向する2つの端面以外の面を封止する工程と、
前記2つの端面の一方を、対象となるコンクリート躯体の二酸化炭素の吸収面と同一面上となるように、前記二酸化炭素固定検知用セメント硬化体を配置する工程と、を有し、
前記二酸化炭素固定検知用セメント硬化体が板状の場合、前記2つの端面は、前記二酸化炭素固定検知用セメント硬化体の短手方向または長手方向に沿う端面であり、
前記二酸化炭素固定検知用セメント硬化体が柱状の場合、前記2つの端面は、前記二酸化炭素固定検知用セメント硬化体の上面および底面である、二酸化炭素固定範囲の検知方法。
[7]前記二酸化炭素固定検知用セメント硬化体を構成するセメント硬化体は、前記コンクリート躯体と組成が同一である、[6]に記載の二酸化炭素固定範囲の検知方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、pHが8~11の範囲においてもCO2の固定化の進行状況を検知することができる二酸化炭素固定検知用セメント硬化体、およびそれを用いた二酸化炭素固定範囲の検知方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る二酸化炭素固定範囲の検知方法を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る二酸化炭素固定範囲の検知方法を示す斜視図である。
【
図3】実施例および比較例において、セメント硬化体の発色の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[二酸化炭素固定検知用セメント硬化体]
本発明の一実施形態に係る二酸化炭素固定検知用セメント硬化体は、セメント硬化体と、セメント硬化体に担持したpH7~13の範囲において呈色反応示す二酸化炭素固定範囲指示液と、を含む。
本明細書において、「担持」とは、二酸化炭素固定範囲指示液が、セメント硬化体の内部および表面の双方またはいずれか一方に付着していることをいう。
本明細書において、セメント硬化体は、いわゆる担体として機能する。
【0012】
「セメント硬化体」
セメント硬化体は、セメントと水とを含有するセメント組成物の硬化物である。
本明細書において、「硬化物」とは、指で押しても変形しない程度に硬化した状態のものをいう。
セメント硬化体はコンクリートであることが好ましい。
【0013】
「セメント組成物」
セメント組成物は、セメントと、水とを含有する。
セメント組成物としては、例えば、コンクリート(生コンクリート)、モルタル(ペーストモルタル)、セメントミルク(セメントペースト)等が挙げられる。
本明細書において、コンクリートとは、セメントと細骨材(砂)と粗骨材(砂利(砕石))とを混合し、水で練ったものをいう。
本明細書において、モルタルとは、セメントと細骨材(砂)とを混合し、水で練ったものをいう。
本明細書において、セメントミルクとは、セメントを水だけで練ったものをいう。
本明細書において、セメントとは、石灰石、粘土、珪石、酸化鉄原料等を主原料とした、水による化学反応で硬化する粉体のことをいう。
本明細書において、細骨材とは、直径5mm以下の砂をいう。
本明細書において、粗骨材とは、直径5mm超の砂利(砕石)をいい、粗骨材の直径は、25mm以下が好ましい。
【0014】
コンクリートにおけるセメントと細骨材と粗骨材との混合割合は、コンクリートに求める強度に応じて適宜決定できる。セメントと細骨材と粗骨材との混合割合は、質量比で、例えば、セメント1に対して、細骨材2~3、粗骨材4~6が好ましい。
【0015】
モルタルにおけるセメントと細骨材との混合割合は、モルタルに求める強度に応じて適宜決定できる。セメントと細骨材との混合割合は、質量比で、例えば、セメント1に対して、細骨材2~4が好ましい。
【0016】
「二酸化炭素固定範囲指示液」
二酸化炭素固定範囲指示液は、pH7~13の範囲において呈色反応示す化合物である。二酸化炭素固定範囲指示液としては、例えば、クリスタルバイオレット、チモールフタレイン、アリザリンイエローR等の呈色指示薬を、セメント硬化体の性質によってCO2固定範囲に相当するpH範囲に対応して、単独もしくは視認できるように濃度調整された複数の指示薬からなる混合溶液等が挙げられる。
【0017】
二酸化炭素固定検知用セメント硬化体中の二酸化炭素固定範囲指示液の含有量は、担体となるセメント硬化体100質量部に対して、0.01質量部以上5質量部以下が好ましく、0.01質量部以上1質量部以下がより好ましく、0.01質量部以上0.1質量部以下がさらに好ましい。二酸化炭素固定検知用セメント硬化体の二酸化炭素固定範囲指示液の含有量が前記下限値以上であると、呈色時の発色が明確であり、判定が容易になる。二酸化炭素固定検知用セメント硬化体中の二酸化炭素固定範囲指示液の含有量が前記上限値以下であると、使用する試薬にかかるコストを抑制できる。
【0018】
「二酸化炭素吸収剤」
本実施形態の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体は、二酸化炭素吸収剤を含むことが好ましい。二酸化炭素吸収剤は、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体中に含まれ、大気中の二酸化炭素を吸収する。このため、大気中の二酸化炭素は、二酸化炭素吸収剤を含むセメント組成物が硬化してなる二酸化炭素固定検知用セメント硬化体に取り込まれ、大気中の二酸化炭素濃度が低減する。すなわち、大気中の二酸化炭素を二酸化炭素固定検知用セメント硬化体に固定化できる。二酸化炭素吸収剤は、常温・常圧で固体であってもよく、液体であってもよい。
本明細書において、「常温」とは、大気の標準的な温度をいい、例えば、15℃~25℃である。「常圧」とは、大気の標準的な圧力をいい、例えば、1気圧(1013hPa)である。
【0019】
二酸化炭素吸収剤としては、例えば、アルカリ性化合物が挙げられる。
ここで、「アルカリ性化合物」とは、水に溶解したときに、pHが7超になる化合物をいう。
アルカリ性化合物は、無機化合物であってもよく、有機化合物であってもよく、それらの混合物であってもよい。
無機のアルカリ性化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム、亜硝酸リチウム、亜硝酸カルシウム等が挙げられる。
有機のアルカリ性化合物としては、例えば、アルギニン、リジン、尿素、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、アミン系化合物等が挙げられる。
二酸化炭素吸収剤は、CO2との反応時にpHの低下が生じにくいものが好ましい。
二酸化炭素吸収剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
アミン系化合物としては、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン等が挙げられる。
アミン系化合物としては、水に溶解しやすいことから、脂肪族アミンが好ましい。
脂肪族アミンとしては、例えば、アルキルアミン、アルカノールアミン等が挙げられる。
アルキルアミンとしては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。
アルカノールアミンとしては、例えば、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)、モノイソプロパノールアミン(MIPA)、ジイソプロパノールアミン(DIPA)、トリイソプロパノールアミン(TIPA)、N-メチルエタノールアミン(MMEA)、N-メチルジエタノールアミン(MDEA)等が挙げられる。
【0021】
アミン系化合物は、1級アミン、2級アミン、3級アミン、4級アンモニウム塩のいずれであってもよく、環状構造を有していてもよい。
アミン系化合物としては、上記のほか、例えば、ジシクロヘキシルアミン(DCHA)、ジメチルシクロヘキシルアミン(DMCHA)、ポリエーテルアミン(PEA)、ジグリコールアミン(DGA)、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP90)、n-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン等が挙げられる。
これらのアミン系化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
アミン系化合物は、炭素鋼等の鋼材の腐食を抑制する効果を有する。このため、セメント硬化体が鉄筋コンクリートの場合、アミン系化合物は、鉄筋コンクリート中の鉄筋の腐食を抑制できる。一般に、鉄筋コンクリートが二酸化炭素を吸収すると、中性化が進行し、pH低下により鉄筋が腐食するリスクがあることが知られている。セメント硬化体にアミン系化合物を担持させることで、前記リスクを軽減できる。以上の観点から、二酸化炭素吸収剤としては、アミン系化合物が好ましい。
【0023】
二酸化炭素固定検知用セメント硬化体中の二酸化炭素吸収剤の含有量は、担体となるセメント硬化体100質量部に対して、0質量部以上20質量部以下が好ましく、0.01質量部以上20質量部以下がより好ましく、0.1質量部以上20質量部以下がさらに好まく、1質量部以上20質量部以下が最も好ましい。二酸化炭素固定検知用セメント硬化体の二酸化炭素吸収剤の含有量が前記下限値以上であると、固定化できる二酸化炭素の量をより高められる。
二酸化炭素固定検知用セメント硬化体の二酸化炭素吸収剤の含有量は、セメント硬化体の種類、二酸化炭素吸収剤の種類、およびこれらの組合せによって調節できる。
【0024】
本実施形態の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体は、二酸化炭素吸収剤と、二酸化炭素またはセメント硬化体中のカルシウムイオンとの反応生成物である炭酸塩を含んでいてもよい。
炭酸塩としては、具体的には、炭酸カルシウム(CaCO3)が挙げられる。
【0025】
本実施形態の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体は、二酸化炭素固定範囲指示液の呈色状態をより判別しやすくするために、ホワイトセメントを含んでいてもよい。
【0026】
本実施形態の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体によれば、セメント硬化体と、セメント硬化体に担持したpH7~13の範囲において呈色反応示す二酸化炭素固定範囲指示液と、を含むため、CO2の固定範囲においてpHが低下することで発色が変化するため、発色が変化した範囲からCO2の固定範囲を検知できる。そのため、pHが8~11の範囲においてもCO2の固定化の進行状況を検知することができる。
【0027】
[二酸化炭素固定検知用セメント硬化体の製造方法]
本実施形態の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体の製造方法としては、例えば、下記の2つの製造方法が挙げられる。
【0028】
(第1の製造方法)
本実施形態の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体の製造方法は、セメント硬化体の表面に二酸化炭素固定範囲指示液を塗布して、セメント硬化体に二酸化炭素固定範囲指示液を含浸させる工程と、を有する。本実施形態の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体の製造方法は、セメント硬化体の表面に二酸化炭素吸収剤を含む二酸化炭素吸収液を塗布して、セメント硬化体に二酸化炭素吸収剤を含む二酸化炭素吸収液を含浸させる工程を有していてもよい。
【0029】
二酸化炭素吸収液は、二酸化炭素を吸収できる二酸化炭素吸収剤と、溶媒とを含む液体である。二酸化炭素吸収剤が液体の場合、二酸化炭素吸収液は、後述する溶媒を含まなくてもよい。
【0030】
二酸化炭素吸収液中の二酸化炭素吸収剤の含有量は、二酸化炭素吸収液の総質量に対して、例えば、0.01質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。二酸化炭素吸収剤の含有量が前記下限値以上であると、固定化できる二酸化炭素の量をより高められる。
【0031】
二酸化炭素吸収液に含まれる溶媒としては、水、あるいは、エタノール等の有機溶剤が挙げられる。
溶媒としては、常温で揮発しにくく、二酸化炭素吸収剤を溶解しやすいことから、水が好ましい。
これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
溶媒の含有量は、二酸化炭素吸収液の総質量に対して、例えば、25質量%以上99.99質量%以下が好ましく、50質量%以上99質量%以下がより好ましく、75質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。溶媒の含有量が前記下限値以上であると、セメント組成物に含浸する二酸化炭素吸収液の量をより高められる。溶媒の含有量が前記上限値以下であると、二酸化炭素吸収剤の含有量をより高められる。このため、固定化できる二酸化炭素の量をより高められる。
【0033】
25℃における二酸化炭素吸収液の粘度は、例えば、0.1~50mPa・sが好ましく、0.5~25mPa・sがより好ましく、0.5~10mPa・sがさらに好ましい。25℃における二酸化炭素吸収液の粘度が上記下限値以上であると、セメント硬化体に担持される二酸化炭素吸収剤の量をより高められる。25℃における二酸化炭素吸収液の粘度が上記上限値以下であると、セメント硬化体に含浸する二酸化炭素吸収液の量をより高められる。
25℃における二酸化炭素吸収液の粘度は、例えば、測定対象の温度を25℃とし、B型粘度計の2番ローターを用い、回転数60rpmで、ローターの回転開始から30秒後の値を読み取ることによって求められる。
【0034】
20℃における二酸化炭素吸収液のpHは、例えば、7.0以上が好ましく、8.5以上がより好ましく、10.0以上がさらに好ましい。20℃における二酸化炭素吸収液のpHが前記下限値以上であると、二酸化炭素を吸収する速度をより高められる。20℃における二酸化炭素吸収液のpHの上限値は、特に限定されないが、取り扱いやすさを考慮して、例えば、14.0とされる。
20℃における二酸化炭素吸収液のpHは、測定対象を20℃に調整し、pHメータ(例えば、株式会社堀場製作所製、コンパクトpHメータLAQUAtwin(登録商標) pH-22B)を用いて測定できる。
【0035】
(第2の製造方法)
本実施形態の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体の製造方法は、セメント組成物に、二酸化炭素固定範囲指示液を練り混ぜて、二酸化炭素固定化用セメント組成物を調整する練混工程と、二酸化炭素固定範囲指示液を含む二酸化炭素固定化用セメント組成物を硬化させる硬化工程と、を有する。
【0036】
「練混工程」
二酸化炭素固定化用セメント組成物は、セメント組成物に、二酸化炭素固定範囲指示液を練り混ぜることにより得られる。セメント組成物に、二酸化炭素固定範囲指示液を練り混ぜることで、二酸化炭素固定範囲指示液がセメント組成物全体にほぼ均一に分散して、二酸化炭素固定範囲指示液がセメント組成物に担持される。
セメント組成物と二酸化炭素固定範囲指示液とを練り混ぜる方法は、特に限定されないが、例えば、2軸強制練りミキサを使用して練り混ぜる方法が用いられる。
【0037】
練混工程では、セメント組成物に、二酸化炭素吸収剤と二酸化炭素固定範囲指示液とを練り混ぜてもよい。
セメント組成物に二酸化炭素吸収剤を練り混ぜるためには、上述の二酸化炭素吸収液を用いてもよい。二酸化炭素吸収液は、セメント組成物に練り込める粘度等の物性を有する。
【0038】
「硬化工程」
硬化工程では、二酸化炭素固定範囲指示液を含む二酸化炭素固定化用セメント組成物を硬化させることにより、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体を得る。これにより、二酸化炭素固定範囲指示液が、セメント硬化体の内部(細孔)に浸み込んで、セメント硬化体に担持される。セメント組成物が二酸化炭素吸収剤も含む場合、二酸化炭素吸収剤と、二酸化炭素またはセメント硬化体中のカルシウムイオンとの反応生成物である炭酸塩が、セメント硬化体の内部(細孔)に浸み込んで、炭酸塩がセメント硬化体に担持される。
【0039】
[二酸化炭素固定範囲の検知方法]
本発明の一実施形態に係る二酸化炭素固定範囲の検知方法は、上述の実施形態の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体を板状に成形する工程(以下、「第1の工程」と言う。)と、前記二酸化炭素固定検知用セメント硬化体における対向する2つの端面以外の面を封止する工程(以下、「第2の工程」と言う。)と、前記2つの端面の一方を、対象となるコンクリート躯体の二酸化炭素の吸収面と同一面上となるように、前記二酸化炭素固定検知用セメント硬化体を配置する工程(以下、「第3の工程」と言う。)と、を有する。
【0040】
以下、
図1および
図2を参照して、本実施形態の二酸化炭素固定範囲の検知方法を説明する。
【0041】
「第1の工程」
第1の工程では、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体を、例えば、
図1に示すような板状の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体1に成形する。
図1では、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体1の平面視の形状を長方形状とする。
二酸化炭素固定検知用セメント硬化体1としては、上述の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体の製造方法によって得られた二酸化炭素固定検知用セメント硬化体に削り出し等の加工を施して、所定の大きさと形状としたものを用いる。また、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体1としては、上述の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体の製造方法によって、所定の大きさの板状の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体を得て、その二酸化炭素固定検知用セメント硬化体を二酸化炭素固定検知用セメント硬化体1として用いてもよい。
【0042】
なお、第1の工程では、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体を、平面視の形状が正方形状の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体としてもよく、柱状の二酸化炭素固定検知用セメント硬化体としてもよい。
【0043】
また、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体を構成するセメント硬化体は、後述するコンクリート躯体と組成が同一であることが好ましい。
【0044】
「第2の工程」
第2の工程では、例えば、
図1に示すように、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体1における短手方向に沿って対向する2つの端面1a、1b以外の面1c、1d、1e、1fを、封止材10で封止する。これにより、
図1に示すように、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体1における短手方向に沿って対向する2つの端面1a、1bのみが露出した状態となる。これら2つの端面1a、1bは、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体1におけるCO
2吸収面となる。
【0045】
封止材10としては、透明で、ガスおよび水の透過を防ぐものであれば特に限定されないが、例えば、ガラス、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、フッ化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、PET樹脂等が挙げられる。
【0046】
「第3の工程」
第3の工程では、
図2に示すように、上記2つの端面1a、1bの一方(
図2では端面1a)を、対象となるコンクリート躯体100の表面(二酸化炭素の吸収面)100aと同一面上となるように、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体1を配置する。
図3では、コンクリート躯体100の側面100bに、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体1を貼付して、前記端面1aがコンクリート躯体100の二酸化炭素の吸収面100aと同一面上となるように、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体1を配置する。
【0047】
コンクリート躯体100は、CO2の固定状況を検知したいコンクリート構造物である。
【0048】
本実施形態の二酸化炭素固定範囲の検知方法によれば、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体1は、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体1の長手方向に沿って、上記端面1aから上記端面1bに向かってCO2を吸収するため、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体1における上記端面1a、1b以外の面1c、1d、1e、1fを観察することにより、CO2の固定範囲を検知することができる。詳細には、CO2の固定範囲において、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体1のpHが低下することで、二酸化炭素固定範囲指示液の発色が変化するため、変化した範囲からCO2の固定範囲を検知できる。
【0049】
なお、CO2の固定範囲を検知したいコンクリート躯体100が新設の場合には、コンクリート躯体100の施工時に、別途、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体1を製造しておく。そして、上述のように、前記端面1aがコンクリート躯体100の二酸化炭素の吸収面100aと同一面上となるように、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体1を配置する。
【0050】
一方、CO2の固定範囲を検知したいコンクリート躯体100が既設の場合には、その既設のコンクリート躯体100の一部を切削してコンクリートコアを採取する。次いで、そのコンクリートコアに、二酸化炭素固定範囲指示液を含浸させることにより、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体1を得る。次いで、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体1における短手方向に沿って対向する2つの端面1a、1b以外の面1c、1d、1e、1fを、封止材10で封止する。次いで、コンクリート躯体100を切削した部分に、前記端面1aがコンクリート躯体100の二酸化炭素の吸収面100aと同一面上となるように、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体1を配置する。
【0051】
なお、本実施形態では、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体が板状である場合を例示したが、本実施形態はこれに限定されない。本実施形態では、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体が柱状の場合、2つの端面は、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体の上面および底面である。
【0052】
本実施形態の二酸化炭素固定範囲の検知方法によれば、二酸化炭素固定検知用セメント硬化体は、CO2の固定範囲においてpHが低下することで発色が変化するため、発色が変化した範囲からCO2の固定範囲を検知できる。そのため、pHが8~11の範囲においてもCO2の固定化の進行状況を検知することができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例0054】
以下に、実施例および比較例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
0.3gのクリスタルバイオレットを20mLのエタノールに溶解し、さらに、蒸留水を80mL添加して、100mLの溶液を調製した。
上記溶液を50mLはかり取り、その溶液と100gのホワイトセメントと二酸化炭素吸収剤としてN-メチルジエタノールアミン(MDEA)とを混練して、セメント組成物を調製した。N-メチルジエタノールアミンの含有量を、セメント組成物の全質量の5質量%とした。
ブリーディング水が停止した後、得られたセメント組成物を型枠に流し込んで硬化させて、セメント硬化体を得た。
このセメント硬化体を、CO
2濃度5%で、20℃で60%RHの環境に存置して促進的に炭酸化させ、呈色を確認した。
結果を
図3に示す。
図3において、右から2番目が実施例1のセメント硬化体を示す。
【0056】
[実施例2]
セメント組成物におけるN-メチルジエタノールアミンの含有量を10質量%としたこと以外は実施例1と同様にして、セメント硬化体を得た。
このセメント硬化体を実施例1と同様に、炭酸化させ、呈色を確認した。
結果を
図3に示す。
図3において、右から1番目が実施例2のセメント硬化体を示す。
【0057】
[比較例1]
N-メチルジエタノールアミンを含まないこと以外は実施例1と同様にして、セメント硬化体を得た。
このセメント硬化体を実施例1と同様に、炭酸化させ、呈色を確認した。
結果を
図3に示す。
図3において、右から3番目が比較例1のセメント硬化体を示す。
【0058】
[比較例2]
クリスタルバイオレット水溶液を含まないこと以外は実施例1と同様にして、セメント硬化体を得た。
このセメント硬化体を実施例1と同様に、炭酸化させ、呈色を確認した。
結果を
図3に示す。
図3において、右から5番目が比較例2のセメント硬化体を示す。
【0059】
[比較例3]
クリスタルバイオレット水溶液を含まないこと以外は実施例2と同様にして、セメント硬化体を得た。
このセメント硬化体を実施例1と同様に、炭酸化させ、呈色を確認した。
結果を
図3に示す。
図3において、右から4番目が比較例3のセメント硬化体を示す。
【0060】
[比較例4]
N-メチルジエタノールアミンおよびクリスタルバイオレット水溶液を含まないこと以外は実施例1と同様にして、セメント硬化体を得た。
このセメント硬化体を実施例1と同様に、炭酸化させ、呈色を確認した。
結果を
図3に示す。
図3において、右から6番目が比較例4のセメント硬化体を示す。
【0061】
図3に示す結果から、実施例1、2では、発色が変化した範囲からCO
2の固定範囲を検知できることが分かった。