(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025044076
(43)【公開日】2025-04-01
(54)【発明の名称】ハニカム型メタネーション反応用触媒およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/755 20060101AFI20250325BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20250325BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20250325BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20250325BHJP
B01J 27/224 20060101ALI20250325BHJP
【FI】
B01J23/755 M
B01J37/16
B01J37/02 101D
B01J37/08
B01J27/224 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023151773
(22)【出願日】2023-09-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】曽我 航
(72)【発明者】
【氏名】高橋 心
(72)【発明者】
【氏名】栗田 ふみ
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA01B
4G169BA13A
4G169BA13B
4G169BB01B
4G169BB02A
4G169BC68B
4G169BD04B
4G169BD05B
4G169CC22
4G169DA06
4G169EA18
4G169EA25
4G169EB12Y
4G169EB15Y
4G169EB18X
4G169EC05X
4G169EC05Y
4G169FB13
4G169FB19
4G169FB30
4G169FB44
4G169FB57
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】高ガス流量においても触媒が高温になりにくく、従って、冷媒による外部冷却の調整が容易であり、メタン転換率を向上したハニカム型メタネーション反応用触媒を提供する。
【解決手段】 多孔質の隔壁によって複数の流通孔が区画形成されたハニカム型セラミック基材と、触媒活性を有する活性金属と前記隔壁に前記活性金属を担持する触媒担体からなる触媒成分を含み、体積当りのBET比表面積が8700m
2/L以上であることを特徴とする、ハニカム型メタネーション反応用触媒である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の隔壁によって複数の流通孔が区画形成されたハニカム型セラミック基材と、
触媒活性を有する活性金属と、前記活性金属を前記隔壁に担持する触媒担体からなる触媒成分
を含み、体積当りのBET比表面積が8700m2/L以上であること
を特徴とする、ハニカム型メタネーション反応用触媒。
【請求項2】
前記ハニカム型メタネーション反応用触媒の体積に対する前記触媒担体の担持量割合が55g/L以上であり、
前記触媒成分層の質量に占める前記活性金属の割合が18質量%以上35質量%以下であること
を特徴とする、請求項1に記載のハニカム型メタネーション反応用触媒。
【請求項3】
多孔質の隔壁によって複数の流通孔が区画形成されたハニカム型セラミック基材に、粒径が300nm未満の触媒担体からなるコロイド状水溶液を吸収させた後に前記コロイド状水溶液を乾燥して、前記ハニカム型セラミック基材の内面に触媒担体を担持させることで触媒担体担持ハニカム基材を作製する第一の工程と、
前記触媒担体に、活性金属塩水溶液を吸収させた後に前記活性金属塩水溶液を乾燥して、前記触媒担体に活性金属塩を担持させることで触媒前駆体担持ハニカム基材を作製する第二の工程と、
前記触媒前駆体担持ハニカム基材を焼成した後に還元ガス雰囲気下で還元して、ハニカム型メタネーション反応用触媒を得る第三の工程と、
を含むことを特徴とする、ハニカム型メタネーション反応用触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素ガスまたは一酸化炭素ガスと水素ガスを含む混合ガスからメタンガスを製造するためのハニカム型メタネーション反応用触媒と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素(CO2)または一酸化炭素(CO)と水素(H2)からメタン(CH4)を合成するメタンネーション技術が、温室効果ガスを低減する技術の一つとして注目されている。メタネーション反応は触媒反応であり、このような触媒活性を有するものとして、アルミナやセリア、ジルコニアといった多孔質酸化物を担体としたNi系触媒やRu系触媒が知られている。メタネーション反応用触媒は各種の形状で用いられるが、一般的には粒状の触媒を反応管に詰めて利用する。
【0003】
ところで、メタネーション反応は大きな発熱を伴うが、反応温度が高くなるほど化学平衡上、メタン転換率が低くなるため、触媒温度を適切な温度域に保つ熱マネジメントが重要である。しかしながら、前述した粒状触媒を利用した反応管では、極端に温度が高いホットスポットが生じやすく、ホットスポットが発生した場合には触媒劣化や熱暴走によってメタン転換率が低下するという問題があった。このような問題を解決するために、特許文献1に示されるような、セラミックスでできたハニカム構造の基材に、触媒粉末をコーティングした形態のハニカム型触媒の研究が進められている。
【0004】
特許文献1には、金属製またはセラミックス製ハニカム基材に、金属と金属酸化物からなる触媒層を形成することを特徴とする一酸化炭素メタネーション用のハニカム触媒の製造方法が開示されている。特許文献1に記載のハニカム触媒を用いれば、水素含有ガス中の一酸化炭素を有用なメタンに転換するに当り、高い空塔速度においても、大きな差圧等が生じることがなく、また暴走反応により反応温度が急激に上昇し、これに伴い触媒の劣化等が生じることなく、システム上の温度調整が容易である。このため安定的に高効率で水素含有ガス中の一酸化炭素を除去する、という理想的な機構を実現できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示すような従来から知られるハニカム構造の形態を有するメタネーション反応用触媒は、従来から知られる粒状の形態を有するメタネーション反応用触媒よりは熱マネジメントの点で改善したものの、高ガス流量下においては生じる反応熱が大きくなり、熱暴走により触媒劣化やメタン転換率低下などの問題が発生するおそれがあるため、触媒反応管の外部から冷媒により冷却する等温型反応管として使用して温度調整することが一般的であった。
【0007】
そこで本発明は、上述の問題を解決するために、高ガス流量においても触媒が高温になりにくく、従って、冷媒による外部冷却の調整が容易であり、メタン転換率を向上したハニカム型メタネーション反応用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の形態は、多孔質の隔壁によって複数の流通孔が区画形成されたハニカム型セラミック基材と、触媒活性を有する活性金属と前記隔壁に前記活性金属を担持する触媒担体からなる触媒成分を含み、前記触媒成分の体積当りのBET比表面積が8700m2/L以上であることを特徴とする、ハニカム型メタネーション反応用触媒である。
【0009】
このとき、前記触媒担体の担持量が55g/L以上であり、前記触媒成分の質量に占める活性金属の割合が18質量%以上35質量%以下であることが好ましい。
【0010】
本発明の第二の形態は、多孔質の隔壁によって複数の流通孔が区画形成されたハニカム型セラミック基材に、コロイド状水溶液を吸収させた後に前記コロイド状水溶液を乾燥して、前記ハニカム型セラミック基材の内面に触媒担体を担持させることで触媒担体担持ハニカム基材を作製する第一の工程と、前記触媒担体に、触媒活性を有する活性金属塩水溶液を吸収させた後に前記活性金属塩水溶液を乾燥して、前記触媒担体に前記活性金属の金属塩を担持させることで触媒前駆体担持ハニカム基材を作製する第二の工程と、前記触媒前駆体担持ハニカム基材を焼成した後に還元ガス雰囲気下で還元して、ハニカム型メタネーション反応用触媒を得る第三の工程と、を含むことを特徴とする、ハニカム型メタネーション反応用触媒の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高ガス流量においても触媒が高温になりにくく、従って、冷媒による外部冷却の調整が容易であり、メタン転換率を向上したハニカム型メタネーション反応用触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(a)本発明に係るハニカム型メタネーション反応用触媒における、長手方向に垂直な断面を示す概略図である。(b)本発明に係るハニカム型メタネーション反応用触媒における、長手方向に平行な断面を示す概略図である。(c)本発明に係るハニカム型メタネーション反応用触媒における、流通孔および隔壁の拡大図である。(d)本発明に係るハニカム型メタネーション反応用触媒における、隔壁の構造を示す概略図である。(e)本発明に係るハニカム型メタネーション反応用触媒における、隔壁状に担持された触媒の様子を示す概略図である。
【
図2】本発明に係るハニカム型メタネーション反応用触媒の製造方法の一例を示すフロー図である。
【
図3】本発明に係るハニカム型メタネーション反応用触媒の触媒体積当りのBET比表面積とメタン転換率の関係を示す図である。
【
図4】本発明に係るハニカム型メタネーション反応用触媒の触媒体積当りのBET比表面積と触媒温度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、従来のハニカム構造体の形態を有するメタネーション反応用触媒におけるメタン転換率の向上と、発熱反応による熱暴走を防止する手段について鋭意検討を行い、体積当りのBET比表面積を大きくしたハニカム型メタネーション反応用触媒を知見し、本発明に想到した。
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。まず、
図1を参照してハニカム型メタネーション反応用触媒について説明した後、ハニカム型メタネーション反応用触媒を得るための製造方法について説明する。ただし、本発明はここで取り挙げた実施形態に限定されるものではなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜組合せや改良が可能である。
【0015】
<ハニカム型メタネーション反応用触媒>
本発明のハニカム型メタネーション反応用触媒(以下、単にハニカム触媒とも呼ぶ)は、隔壁によって複数の流通孔が区画形成されたハニカム型セラミック基材と、触媒活性を有する活性金属と前記隔壁に前記活性金属を担持する触媒担体からなる触媒成分を含み、体積当りのBET比表面積が8700m2/L以上であることを特徴とする。
【0016】
図1にハニカム型メタネーション反応用触媒の構成の一例を示す。ハニカム触媒100は、ハニカム型セラミック基材(以下、ハニカム基材と呼ぶ)110に触媒成分120が担持されて構成されている。
【0017】
ハニカム基材110は、隔壁111と、隔壁111によって区画形成される複数の流通孔112とを有する。隔壁111を隔てて互いに隣接する複数の流通孔112は、互いに平行にハニカム型基材の片側端面からもう一方の端面までを貫通しており、二酸化炭素または一酸化炭素を含むガスと水素とを混合した原料ガスを流通させることができる。また、隔壁111の表面上には、触媒成分120が担持されており、原料ガスと触媒成分120が接触することでメタネーション反応が生じる。さらに、隔壁111は多孔質体であり、細孔113が隔壁111を連通する。これにより、原料ガスが隔壁111に担持された触媒成分120と接触する機会が増加するので、メタン転換率が向上する。
【0018】
ハニカム基材110の材質としては、隔壁111が多孔質体となるような材質であれば特に限定されない。このことから、例えばコーディエライト、炭化ケイ素、またはこれらの複合物などの焼結体を好適に用いることができる。
【0019】
図1に示したハニカム基材110は円柱形状だが、この形状に限定されず、例えば略多角柱状とすることもできる。ハニカム基材110の大きさについても特に限定はされず、ハニカム触媒100を設置する反応管などの大きさに応じて適宜決定することができる。
【0020】
図1に示した流通孔112の、貫通方向に直交する断面形状は四角形だが、これも形状は限定されず、例えば略多角形状や略円形状とすることもできる。また、ハニカム基材110における流通孔112の密度は特に限定されない。
【0021】
触媒成分120は、活性金属121と、活性金属121を隔壁111上に担持するための触媒担体122からなる。活性金属121は二酸化炭素や一酸化炭素のメタン化に対して高活性を有することが望ましく、Ni、Fe、Co、Cu、Ruのうちの少なくとも一種を含むことが好ましい。また、触媒担体122は隔壁111上に膜状に担持されており、触媒担体122が形成する膜は活性金属121を担持するための細孔を有する。このような触媒担体122はセラミックスであることが好ましく、より好ましくはアルミナ(Al2O3)、セリア(CeO2)、ジルコニア(ZrO2)のうち少なくとも一種を含む。
【0022】
また、触媒成分120は、高比表面積であるほど活性化温度が低温になり、メタネーション反応が開始する電気炉温度を下げることができる。その結果、反応時の触媒温度を下げることができる。従って、熱暴走を回避するためには、メタネーション反応時の触媒温度400℃以下となるように十分な比表面積を有することが望ましい。したがって、ハニカム触媒100の体積当たりのBET比表面積の下限は8700m
2/Lとする。また、ハニカム触媒100の体積当たりのBET比表面積の上限は特に限定しないが、
図3、4に示す通り、ハニカム触媒100の体積当りのBET比表面積が大きくなるほど、メタン転換率および触媒温度への効果は減衰し、隔壁111に担持した触媒成分120が有効に活用されにくくなるため、ハニカム触媒100の体積当たりのBET比表面積は150000m
2/L以下とすることが好ましい。より好ましくは30000m
2/L以下であり、さらに好ましくは25000m
2/L未満である。尚、ハニカム触媒100の体積は、隔壁111、流通孔112および触媒成分120からなり、例えば円筒形状のハニカム触媒100であれば、外径Rと高さHを用いてπR
2H/4と表すことができる。このような比表面積とすることで、メタン転換率(CH4量[mol]/CO2量[mol])80%超を確保すると共に、高ガス流量においてもメタネーション反応時のハニカム触媒100の温度を400℃以下にできるため、熱暴走の発生を防ぐことができる。また、ハニカム触媒100が高温になりにくいことで、活性金属121のメタン化活性が失活する温度未満に維持し続けるための冷却制御が容易となる。このような比表面積の測定方法については後述する。
【0023】
また、このようなハニカム触媒100の比表面積を確保するために、ハニカム触媒100の体積に対する触媒担体122の担持量割合が55g/L以上且つ、触媒成分120の質量に占める活性金属121の割合が18質量%以上35質量%以下であることが好ましい。触媒担体122の担持量および表面積が大きいほど、CO2の吸着性能が向上し、少なすぎると十分なメタン転換率が得られないため、触媒担体122の担持量割合は55g/L以上であることが好ましい。
また、触媒担体122に対する活性金属121の割合が小さすぎると、触媒担体122に吸着したCO2量に対して、CO2をCH4に転換するための活性金属121の量が不足するため、メタン転換率が低下してしまう。従って活性金属121の割合は18質量%以上であることが好ましい。一方で、活性金属121の割合が大きすぎると、触媒担体122に吸着したCO2量に対して、CO2をCH4に転換するための活性金属121の量が過剰となり、有効活用されない活性金属121が増える。従って、活性金属121の割合は35質量%以下であることが好ましい。
【0024】
<ハニカム型メタネーション反応用触媒の製造方法>
本発明のハニカム型メタネーション反応用触媒の製造方法は、多孔質の隔壁によって複数の流通孔が区画形成されたハニカム型セラミック基材に、コロイド状水溶液を吸収させた後に前記コロイド状水溶液を乾燥して、前記ハニカム型セラミック基材の内面に触媒担体を担持させることで触媒担体担持ハニカム基材を作製する第一の工程と、前記触媒担体に、触媒活性を有する活性金属塩水溶液を吸収させた後に前記活性金属の金属塩水溶液を乾燥して、前記触媒担体に前記活性金属の金属塩を担持させることで触媒前駆体担持ハニカム基材を作製する第二の工程と、前記触媒前駆体担持ハニカム基材を焼成した後に還元ガス雰囲気下で還元して、ハニカム型メタネーション反応用触媒を得る第三の工程と、を含むことを特徴とする。
【0025】
ハニカム触媒100の製造方法の一実施形態を示すフローを
図2に示す。ハニカム触媒100の製造方法は、触媒担体担持ハニカム基材を作製する第一の工程と、触媒前駆体担持ハニカム基材を作製する第二の工程と、ハニカム型メタネーション反応用触媒を得る第三の工程を有する。
【0026】
まず、触媒担体担持ハニカム基材を作製する第一の工程では、ハニカム基材110をコロイド状水溶液に浸漬した後、乾燥して触媒担体担持ハニカム基材を得る。
【0027】
コロイド水溶液に含まれる触媒担体122の原料の粒子径は、比表面積を上げる必要性から300nm未満、好ましくは100nm以下、更に好ましくは10nm以上100nm以下の触媒担体が含まれる水溶液を用いるとよい。この時、コロイド状水溶液の成分としては特に限定はされないが、コストや触媒担体122のメタン化活性を勘案してアルミナ、セリア、ジルコニアのうち少なくとも一種を含むことがより好ましい。また、コロイド状水溶液に浸漬したハニカム基材110を取り出した後、乾燥させる前に流通孔112内に溜まったコロイド状水溶液を除去することが好ましい。除去しない場合、触媒担体122が過剰に担持され、意図せず原料ガスの流入を妨げる恐れがある。
【0028】
次に、触媒前駆体担持ハニカム基材を作製する第二の工程では、触媒活性を有する活性金属塩水溶液を含浸させた後、乾燥して触媒前駆体担持ハニカム基材を得る。
【0029】
この時、活性金属塩はメタネーション反応に対する触媒活性を有することが望ましいため、Ni、Fe、Co、Cu、Ruのうち少なくとも一種を含むことが好ましい。また、触媒活性金属塩の種類は特に限定はされないが、例えば硝酸塩や酢酸塩などを用いることができる。
【0030】
最後に、ハニカム型メタネーション反応用触媒を得る第三の工程では、触媒前駆体担持ハニカム基材を焼成した後に還元ガス雰囲気下で還元して、ハニカム型メタネーション反応用触媒を得る。
【0031】
この時の熱処理雰囲気は、活性金属塩を還元できるものであれば、これを限定するものではないが、水素を含むガス雰囲気を用い、活性金属塩を水素との反応により還元し活性金属とすることが好ましい。また、熱処理温度は200℃~580℃とすることが好ましい。温度が200℃未満では還元反応が促進されない可能性があり、前の触媒前駆体作製工程の熱処理温度より低い温度で実施することが望ましいため580℃以下で実施することが望ましい。熱処理の保持時間は、0.5~5hとすることが好ましい。0.5h未満では、均一な温度となることや還元反応が完全に終わるためには加熱が不十分になる可能性があり、5h超では時間および加熱するための熱量(電力)を要しすぎるためである。
【実施例0032】
以下では、ハニカム触媒における触媒担体と活性金属の担持量を変化させて、ハニカム触媒の体積当りのBET比表面積とメタン転換率の関係を確認した実施例を示す。
【0033】
まず、本願発明のハニカム触媒の実施例である実施例1、2、3、4、5及び6並びに、その比較例となる比較例A、B、C及びDの作製に用いるコーディエライト製のハニカム基材をそれぞれ用意した。具体的な手法を以下に示す。セル密度260cpsi、隔壁厚さ305μmのコーディエライト製ハニカムに対して、内径φ20mmのホールソーを用いて外径20mm、高さ50mmのサイズに加工し、ハニカム基材を10個得た。また、実施例7の作製に用いるコーディエライト製のハニカム基材は、セル密度1200cpsi、隔壁厚さ102μmのコーディエライト製ハニカムを、同様に内径φ20mmのホールソーを用いて外径20mm、高さ50mmのサイズに加工した。また、実施例8,9の作製に用いる炭化ケイ素製のハニカム基材は、セル密度300cpsi、隔壁厚さ203μmの炭化ケイ素製ハニカムを、同様に内径φ=20mmのホールソーを用いて外径R=20mm、高さH=50mmのサイズに加工した。
【0034】
次に、得られたハニカム基材をコロイド状水溶液に浸漬した後、乾燥して触媒担体担持ハニカム基材を得た。具体的な手法を以下に示す。触媒担体としてアルミナ(Al2O3)を選定し、10~100nmオーダーの粒状アルミナナノ粒子を含むアルミナゾル原液に浸漬し、余剰分のアルミナゾルを圧縮エアーによって除去した後、マイクロ波乾燥機で乾燥した。この工程を、実施例1~9並びに比較例A~Bそれぞれについて、目標とする担体担持量に達するまで繰り返して、実施例1~9並びに比較例A~Bに対応する触媒担体担持ハニカム基材1~9並びにA~Bを得た。触媒担体の担持量については表1に示すとおりである。なお、比較例Cには、0.3~6.0μmオーダーの粒状アルミナ粒子を含むアルミナ溶液を用いた。比較例Dは、触媒担体の担持量0.0g/Lとするため、本工程は実施しなかった。
【0035】
続いて、触媒担体担持ハニカム基材に活性金属塩を担持して触媒前駆体担持物を得た。具体的な手法を以下に記す。活性金属としてニッケル(Ni)を選定し、触媒担体担持ハニカム基材1~9並びにA~Cと、比較例Dの作製に用いるハニカム基材それぞれについて、目標とするNi担持量となるように硝酸ニッケル(II)六水和物の質量を算出し、秤量した。秤量した硝酸ニッケル(II)六水和物に水を添加して、硝酸ニッケル水溶液を作製し、触媒担体担持ハニカム基材1~9並びにA~Cと、比較例Dの作製に用いるハニカム基材それぞれに、対応した硝酸ニッケル量を有する水溶液を全量含浸させた後、乾燥させて実施例1~9並びに比較例A~Dに対応する触媒前駆体担持物1~9並びにA~Dを得た。
【0036】
最後に、触媒前駆体担持物における活性金属塩を還元して、ハニカム触媒を得た。具体的な手法を以下に記す。内径φ20.5mmのSUS製反応管に触媒前駆体担持物1~9並びにA~Dをそれぞれ挿入し、反応管を電気炉内に設置した。モル比をH2:Ar=1:4とした混合ガスを1.5NL/minの流量で反応管内に導入しながら、500℃で2h熱処理することにより、実施例1~9並びに比較例A~Dを得た。その後、一旦冷却した。
【0037】
【0038】
<メタン転換率測定>
このようにして作製した実施例1~9並びに比較例A~Dについて、メタン転換率を測定した。具体的な手法を以下に示す。実施例1~9並びに比較例A~Dを還元熱処理により得た後、電気炉を一旦冷却した後、改めて、電気炉の温度を所定の温度まで昇温した。そして、反応管に反応ガスのモル比がCO2:H2:N2=1:4:5となるようCO2ガス、H2ガス、N2ガスを混合した原料ガスを空塔速度5000h-1で導入した。反応管出口側のガスの流量測定とガス組成分析を行うことで、CO2がCH4に転換された比率であるメタン転換率を算出した。このときの電気炉の設定温度は実施例1~9並びに比較例A~D各々に対して予め同様の手法で測定した、最もメタン転換率が高くなる温度とした。また、反応管内の実施例1~9並びに比較例A~Dの原料ガス流入側の端面と原料ガス流出側の端面との間の中央における温度(以下、触媒温度と呼ぶ)を、触媒サンプルの端面中央部から25mm内部に熱電対を挿入し、メタン化反応中の平均温度として実測した。
【0039】
表1に、実施例1~9並びに比較例A~Dについて、各種測定結果を示す。実施例1~9は触媒温度が400℃以下という条件下でメタン転換率はいずれも80%以上が得られ、メタネーション反応用触媒として良好な性能を示した。一方で、比較例A、C、Dについてはメタン転換率がいずれも80%に満たず、また、比較例A~Dのいずれも触媒温度が400℃を超える条件下で得られたものであった。
【0040】
<BET比表面積測定>
また、ハニカム触媒におけるメタン転換率とBET比表面積の関係を調べるために、実施例1~9および比較例A~Dにおけるハニカム触媒体積当りのBET比表面積を測定した。具体的な手法を以下に示す。
【0041】
実施例1~9並びに比較例A~Dの触媒前駆体担持物を、ノコギリ刃を用いて、0.2~0.4g程度の破片に切断し、BET比表面積測定用サンプルを製作した。BET比表面積測定には、マウンテック社製Macsorb HM Model-1201を用いた。BET比表面積測定用サンプルをガラスセルに入れ、プレヒーターにて、窒素ガス雰囲気中において200℃で30分間、前処理を行った。次に77K(-196℃)で窒素を吸着させることで、BET比表面積を測定した。BET比表面積は単位重量当りの表面積[m2/g]として計測されるが、メタン転換率測定に供した触媒サンプルは、触媒担体担持量や活性成分担持量がそれぞれ異なるため、サンプル重量が異なっている。重量の違いを規格化するため、各サンプルの重量を各サンプルの体積(=πR2H/4)で割ったサンプルの比重[g/L]を積算し、体積当りの表面積[m2/L]として算出した。
【0042】
図3に各試料におけるハニカム触媒体積当りのBET比表面積とメタン転換率の関係を示す。以下、コーディエライト製ハニカム基材を用いた実施例1~7並びに比較例A~Dは丸でプロットし、SiC製ハニカム基材を用いた実施例8及び9は三角形でプロットした。
図3の通り、ハニカム触媒体積当りのBET比表面積が大きいほどメタン転換率が大きくなることがわかる。メタン転換率は当然高いほど高性能な触媒と言え、より少ない反応回数で高純度なメタンを得ることが可能である。また、80%以上のメタン転換率を得るためには、ハニカム触媒体積当りのBET比表面積は8700m
2/L以上とすることが望ましいと言える。実施例1と7を比較すると、ハニカム基材の目開きや隔壁厚さが変わっても、触媒担体および活性成分の担持量が同等であれば、ハニカム触媒体積当りのBET比表面積は殆ど変化しないことがわかる。これは、触媒担体と活性成分の比表面積に比べて、ハニカム基材の比表面積は無視できるほど小さいためである。触媒担体および活性成分を担持しないハニカム基材だけを測定に供した場合、BET比表面積は検出限界以下となる。したがって、BET比表面積測定によって得られるハニカム触媒体積当りのBET比表面積は、ハニカム基材に担持した、触媒担体および活性金属からなる触媒成分のみが寄与していると言える。
また、実施例1と8、実施例2と9を比較すると、ハニカム基材がコーディエライトから炭化ケイ素に変わると、触媒担体および活性成分の担持量が同等であり、且つ同等のBET比表面積であっても、メタン転換率が数%低下していることがわかる。これは、メタン化性能が、触媒担体および活性成分の性能だけで決まるのではなく、触媒担体および活性成分と基材の間で何らかの相互作用が働き、メタン化性能に影響することを示唆している。基材の材質は特に限定しないが、コーディエライトがより好ましいことがわかる。
【0043】
上記のように、ハニカム触媒体積当りのBET比表面積を大きくするほどメタン転換率が大きくなる理由を考察する。
図4に体積当りのBET比表面積と触媒温度の関係を示す。
図4に示す通り、ハニカム触媒体積当りのBET比表面積が大きくなるほど、触媒の活性化温度が低下し、結果として電気炉設定温度を下げてもメタネーション反応できることから反応時の触媒温度を低下できてメタン転換率が向上できる。以上のことから、高ガス流量においても触媒が高温になりにくく、従って、冷媒による外部冷却の調整が容易であり、メタン転換率を向上したハニカム型メタネーション反応用触媒には、ハニカム触媒体積当りのBET比表面積を大きくすることが効果的であるとわかった。また、実施例1と8、実施例2と9の触媒温度を比較すると、炭化ケイ素を基材とした実施例8、9は、触媒担体および活性成分の担持量が同等であり、且つ同等のBET比表面積であっても、触媒温度が数10℃低下していることがわかる。これは、炭化ケイ素の熱伝導率が、コーディエライトよりも数10~数100倍高いため、メタン化反応による反応熱を、より効率良く除熱するためと考えられる。しかしながら、前述したようにコーディエライト基材を用いた実施例1、2の方が数%高メタン転換率となっており、基材の材質としてはコーディエライトがより好ましいことがわかる。