(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004559
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】排ガス処理設備排水の処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20250107BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20250107BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20250107BHJP
C02F 1/56 20230101ALI20250107BHJP
C02F 1/58 20230101ALI20250107BHJP
【FI】
C02F1/44 E
B01D61/02 500
B01D61/58
C02F1/56 J
C02F1/58 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104318
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】後藤 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】亀田 英邦
(72)【発明者】
【氏名】岩見 貴子
【テーマコード(参考)】
4D006
4D015
4D038
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006JA58A
4D006KA01
4D006KA16
4D006KA52
4D006KA54
4D006KA56
4D006KA63
4D006KA72
4D006KB13
4D006KB21
4D006KE15Q
4D006PA01
4D006PB08
4D006PB28
4D015BA25
4D015BB09
4D015CA17
4D015DA22
4D015DB01
4D015EA13
4D015EA32
4D038AA08
4D038AB40
4D038BA02
4D038BA04
4D038BB09
4D038BB18
(57)【要約】
【課題】ブライン回収用RO装置の閉塞を抑制し、排ガス処理設備排水の回収率を安定して高くすることができる排ガス処理設備排水の処理装置を提供する。
【解決手段】フッ素を含有する排ガス処理設備排水を逆浸透処理して第1透過水と第1濃縮水とに分離する第1RO装置4と、該第1濃縮水にカルシウム系化合物および凝集剤を添加してフッ化カルシウムを析出分離させる凝集沈殿装置14と、該凝集沈殿装置14からの分離水を逆浸透処理して第2透過水と第2濃縮水とに分離する第2RO装置15と、該第2透過水を第1逆浸透膜装置14の前段に返送する返送配管16とを有する排ガス処理設備排水の処理装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素を含有する排ガス処理設備排水を逆浸透処理して第1透過水と第1濃縮水とに分離する第1逆浸透膜装置と、
該第1濃縮水にカルシウム系化合物および凝集剤を添加してフッ化カルシウムを析出分離させる凝集沈殿装置と、
該凝集沈殿装置からの分離水を逆浸透処理して第2透過水と第2濃縮水とに分離する第2逆浸透膜装置と、
該第2透過水を第1逆浸透膜装置の前段に返送する返送路と
を有する排ガス処理設備排水の処理装置。
【請求項2】
前記凝集沈殿装置は、反応槽、凝集槽、沈殿槽、および該沈殿槽で分離したフッ化カルシウムを含む汚泥を、汚泥改質槽を経由して該反応槽に返送する汚泥返送路と、該汚泥改質槽にカルシウム系化合物を添加するカルシウム系化合物添加手段とを有するものである請求項1の排ガス処理設備排水の処理装置。
【請求項3】
前記第1逆浸透膜装置からの第1透過水は前記排ガス処理設備の水スクラバー用水として回収されるものである請求項1又は2の排ガス処理設備排水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PFCs等を含んだガスを除害燃焼等により処理するための排ガス処理設備(除害装置)からの排水を処理する装置に関する。
【0002】
なお、PFCs(Perfluorocompounds)とは、CF4、C2F6、C4F8、SF6、WF6などのペルフルオロ化合物のことであるが、本明細書ではこれらペルフルオロ化合物のほか、CH2F2、Cl2、BCl3、F2、HF、SiH4、NH3、PH3、TEOS(テトラエトキシシラン)、TRIS(トリエトキシシラン)、TiCl4など、デポジション、エッチング、クリーニング等の各工程で用いられる、すべての有害、可燃、地球温暖化ガスを表わす。
【背景技術】
【0003】
半導体、液晶、LED、太陽電池等の製造プロセスでは、ペルフルオロ化合物などの上記PFCsが多量に使用されている。ペルフルオロ化合物ガスを用いる工場では、これを無害化する除害装置と称される排ガス処理設備を設置している。除害装置では、燃焼、電気加熱、プラズマなどを用いて、ペルフルオロ化合物を燃焼(酸化)又は熱分解反応により、フッ素(F2)を脱離させた後、当該装置に組み込まれた水スクラバーで排ガスを洗浄し、ガス中のF2を吸収除去する。
【0004】
スクラバー排水は、HFのほかに、ペルフルオロ化合物分子の有機骨格に由来する有機性炭化水素化合物(TOC成分)を含有する。そこで、スクラバー排水は、生物処理装置などの有機物分解手段に導かれて処理される(特許文献1)。
【0005】
除害プロセス排水の処理に、生物処理装置などの有機物除去装置を設置するのは、除害装置での省エネルギーを考慮し、低温分解で有害性、可燃性、地球温暖化効果に起因するC-F結合などを切り離すことなどを目的としており、炭化水素骨格の完全燃焼を行っていないため、スクラバー排水に有機性炭化水素化合物(TOC)が含まれるためである。
【0006】
半導体製造プロセスからの排水の中でも特に除害排水は、プロセスで使用する超純水量を上回る程の水量である。したがって、半導体製造プロセスを有する施設において効率的に排水を回収・再利用するためには、除害排水を高い回収率で処理し再利用することが必要となる。
【0007】
図2は従来の除害排水処理装置の一例を示すフロー図である。除害装置の水スクラバーからの除害排水は、pH調整槽(図示略)に導入され、pH調整剤が添加されて中性pHに調整される。pH調整槽からの水は、生物処理槽及び凝集槽等を有する前処理装置1に導入され、処理される。
【0008】
前処理装置1からの処理水は、中継槽2を経て保安フィルタ3で濾過された後、第1RO(逆浸透)装置4に供給される。第1RO装置4のRO膜を透過した透過水(第1透過水)は、除害装置の水スクラバーに供給される。
【0009】
第1RO装置4からの濃縮水(第1濃縮水)は、ブライン回収用の第2RO装置15に供給される。第2RO装置15の透過水(第2透過水)は返送路としての返送配管16によって中継槽2に返送され、濃縮水(第2濃縮水)は排水処理設備(図示略)に送水される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
除害排水の回収率をさらに高くするために、第1RO装置4からのブライン(第1濃縮水)を更に第2RO装置15で処理する場合、第2RO装置15が析出物で閉塞して流量が低下し易い。また、膜の洗浄頻度や交換頻度が多くなる。
【0012】
本発明は、ブライン回収用RO装置の閉塞を抑制し、排ガス処理設備排水の回収率を安定して高くすることができる排ガス処理設備排水の処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の排ガス処理設備排水の処理装置は、フッ素を含有する排ガス処理設備排水を逆浸透処理して第1透過水と第1濃縮水とに分離する第1逆浸透膜装置と、該第1濃縮水にカルシウム系化合物および凝集剤を添加してフッ化カルシウムを析出分離させる凝集沈殿装置と、該凝集沈殿装置からの分離水を逆浸透処理して第2透過水と第2濃縮水とに分離する第2逆浸透膜装置と、該第2透過水を第1逆浸透膜装置の前段に返送する返送路とを有する。
【0014】
本発明の一態様では、前記凝集沈殿装置は、反応槽、凝集槽、沈殿槽、および該沈殿槽で分離したフッ化カルシウムを含む汚泥を、汚泥改質槽を経由して該反応槽に返送する汚泥返送路と、該汚泥改質槽にカルシウム系化合物を添加するカルシウム系化合物添加手段とを有するものである。
【0015】
本発明の一態様では、前記第1逆浸透膜装置からの第1透過水は前記排ガス処理設備の水スクラバー用水として回収されるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の排ガス処理設備排水の処理装置では、第1RO装置からの第1濃縮水をフッ素除去処理してから第2RO装置に供給することにより、第2RO装置の閉塞が抑制され、排ガス処理設備排水の処理装置の水回収率を安定して高くすることができる。
【0017】
本発明によると、第2RO装置において、フッ素とAlやMg等との反応生成物の析出が抑制されるので、該第2RO装置のフラックス(基準圧力・温度条件での処理水量)を従来設備よりも高く維持することが可能となり、工場全体の水回収率を向上させ、排水放流量を規制値以下に管理することが可能となる。また、RO膜の本数を低減でき、回収設備の建設及び膜交換や薬品洗浄等の運転管理を含めた総コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の形態に係る排ガス処理設備排水の処理装置の構成図である。
【
図2】従来の排ガス処理設備排水の処理装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
図1は本発明の排ガス処理設備排水の処理装置の一例を示す構成図である。なお、
図2と共通する部材については同一符号を付してある。
【0020】
除害装置の水スクラバーからの除害排水は、pH調整槽(図示略)に導入され、pH調整剤が添加されてpH5~8特に6~7に調整される。なお、pH調整槽は省略されることもある。pH調整剤としては、NaOHなどが用いられる。
【0021】
pH調整槽からの水は、生物処理槽等を有する前処理装置1に導入され、生物処理されて有機物が分解処理される。生物処理槽としては曝気手段を用いた好気性生物処理槽又は生物活性炭塔が好適である。なお、有機物が少ない場合には、生物処理槽は省略されることもある。
【0022】
前処理装置1では、必要に応じ、生物処理水を凝集処理し、凝集処理水を濾過処理し、SS(懸濁物質)や菌体を分離する。濾過装置としては、MF膜装置、UF膜装置などが用いられる。前処理装置1からの前処理水は、中継槽2及び保安フィルタ3を介して第1RO装置4に供給される。なお、保安フィルタ3としては、MF膜装置等が用いられる。
【0023】
第1RO装置4の透過水は、除害装置へ送水され、スクラバー用水等として使用される。第1RO装置4からの濃縮水は、受水槽5を経て、凝集沈殿装置14にて凝集沈殿によるフッ素除去処理が行われる。
【0024】
凝集沈殿装置14は、反応槽6、凝集槽7、沈殿槽8、汚泥改質槽12及びカルシウム系化合物添加手段13等を有する。
【0025】
受水槽5内の水は、必要に応じ、pH調整剤が添加されて酸性、例えばpH2.5~3.0程度に調整された後、凝集沈殿装置14の反応槽6に導入され、汚泥改質槽12から導入される改質汚泥と混合され、水中のフッ素とカルシウム化合物とが反応し、フッ化カルシウムが生成する。フッ化カルシウムの少なくとも一部は、汚泥粒子の表面に生成し、汚泥粒子が成長する。
【0026】
この反応液は、次いで凝集槽7に送給され、高分子凝集剤添加手段により高分子凝集剤が添加されて凝集処理された後、沈殿槽8で固液分離される。沈殿槽8の上澄水は第2RO装置15に供給される。第2RO装置15の透過水は返送配管16によって中継槽2に返送される。第2RO装置15の濃縮水は排水処理設備(図示略)に送水される。
【0027】
沈殿槽8で沈降分離された汚泥は、ポンプ9により引き抜かれる。引き抜かれた汚泥の一部は汚泥返送ライン11により汚泥改質槽12に返送され、残部は系外の汚泥や排水の処理設備へ排出される。
【0028】
汚泥改質槽12では、カルシウム系化合物添加手段としての消石灰添加手段13から供給される消石灰の溶解/分散液(消石灰の一部は溶解し、残部は分散している液)と返送汚泥とが混合される。この混合液(改質汚泥)は反応槽6に供給される。この反応槽6における反応は所定のpH範囲(例えば6~11、特に6~8)で行うのが好ましく、このようなpH範囲となるように、反応槽6に設けられたpH計6aの検出pHに基づいて汚泥改質槽12に供給される消石灰の量が調節される。
【0029】
この排ガス処理設備排水の処理装置では、第1RO装置4からの濃縮水を凝集沈殿装置14でフッ素除去処理してから第2RO装置15に供給する。そのため、第2RO装置15における氷晶石(Na3AlF6)やMg系の物質(NaMgF2)等の析出が抑制され、第2RO装置15を安定して運転し、水の回収率を高めることができる。
【0030】
本発明で設置しているフッ素除去設備としての凝集沈殿装置14は、フッ素を放流基準値まで除去する必要はなく、第2RO装置15の膜面に氷晶石等が析出しない程度にフッ素を除去すれば足りる。
【0031】
添加手段13からカルシウム系化合物が余剰に注入されて第2RO装置15においてCa系化合物(CaF2、CaCO3、Ca(OH)2等)の析出が起きないようにするために、凝集沈殿装置14の出口に硬度計を設置し、検出硬度値が基準値以下となるようにカルシウム系化合物(Ca(OH)2やCaCl2)の注入量を制御することが望ましい。
【0032】
このようにして、第2RO装置15における、フッ素とAlやMg等との化合物の析出を抑制することにより、第2RO装置15のフラックス(基準圧力・温度条件での処理水量)を従来設備よりも安定して高く維持することが可能となる。
【0033】
この結果工場全体の水回収率を向上させ、排水放流量を規制値以下に管理することが可能となると共に、RO膜の本数を低減でき、回収設備の建設及び膜交換や薬品洗浄等の運転管理を含めた総コストの低減が実現される。
【0034】
前述の通り、フッ素除去用の凝集沈殿装置14においては、フッ素を高除去率で処理する必要はない。Al系の化合物である氷晶石に関しては、原水中のフッ素濃度を3割低下させるだけで、第2RO装置15の濃縮水中のAl濃度が従来の10倍にまで高くなっても氷晶石の析出が十分に抑制される。これは溶解度積から説明される。
【0035】
即ち、氷晶石の分子式がNa3ALF6であることから、Alの許容溶解濃度はフッ素濃度の6乗に反比例する。
【0036】
例えば除害排水(原水)のフッ素濃度が200ppm程度であるとすると、第2RO装置15の濃縮水では、フッ素は4,000ppm程度まで濃縮されている。この場合、Al濃度が0.1ppm程度でも氷晶石が析出する。
【0037】
従来では、このような氷晶石の析出を防止する為には、前処理装置1においてAl濃度を0.01ppmのオーダーまで低下させる必要があったが、これは運転管理上極めて困難である。
【0038】
そこで、本発明では、第1RO装置4からの第1濃縮水中のフッ素を凝集沈殿装置14で除去して第2RO装置15に供給することにより、許容できるAl濃度がこれまでよりも緩和されるようにしている。
【0039】
これにより、原水中のAlの許容濃度が前処理装置1の運転管理上達成可能な値(0.1~0.5ppm程度)であっても、第2RO装置15における氷晶石等の析出を防止することが可能となる。
【0040】
なお、凝集沈殿装置14は、新たに追加する設備となるものの、これまでの一括型フッ素処理設備に対して分散型処理となるだけの違いであり、このため、Ca(OH)2等の薬品使用量やCaF2主体の汚泥が増えるということにはならない。
【0041】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記以外の構成とされてもよい。記実施の形態では、凝集沈殿装置14は、汚泥を改質して再循環させる高密度汚泥法によるものであるが、汚泥の改質・再循環を行わない凝集沈殿設備であってもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 前処理装置
2 中継槽
3 保安フィルタ
4 第1RO装置
6 反応槽
7 凝集槽
8 沈殿槽
12 汚泥改質槽
13 カルシウム系化合物添加手段
14 凝集沈殿装置
15 第2RO装置
16 返送配管