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特開2025-4711静水圧による脱細胞化組織又は臓器の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004711
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】静水圧による脱細胞化組織又は臓器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/36 20060101AFI20250107BHJP
   A61L 27/60 20060101ALI20250107BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
A61L27/36 420
A61L27/60
A61L27/38 100
A61L27/36 410
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104580
(22)【出願日】2023-06-26
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和5年度国立研究開発法人日本医療研究開発機構、補助事業「橋渡し研究プログラム」、研究課題名「静水圧による迅速な臓器の脱細胞化技術の開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井(古川) 克子
(72)【発明者】
【氏名】牛田 多加志
(72)【発明者】
【氏名】王 東▲テツ▼
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB11
4C081AB19
4C081BA13
4C081BA17
4C081CD34
4C081DA01
4C081DA11
4C081DA13
4C081EA02
4C081EA13
(57)【要約】
【課題】短期間に組織又は臓器の脱細胞化が完了でき、かつ得られた脱細胞化組織又は臓器の構造維持に優れた脱細胞化組織又は臓器の製造方法を提供する。
【解決手段】動物由来の組織又は臓器にDNA分解酵素を取り込ませる工程、および
前記DNA分解酵素を取り込ませた動物由来の組織又は臓器に、前記DNA分解酵素を含有する媒体中で、100~500MPaの静水圧を印加する工程を含む脱細胞化組織又は臓器の製造方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物由来の組織又は臓器にDNA分解酵素を取り込ませる工程、および
前記DNA分解酵素を取り込ませた動物由来の組織又は臓器に、前記DNA分解酵素を含有する媒体中で、100~500MPaの静水圧を印加する工程を含む脱細胞化組織又は臓器の製造方法。
【請求項2】
前記動物由来の組織又は臓器にDNA分解酵素を取り込ませる工程は、動物由来の組織又は臓器をDNA分解酵素を含有する媒体中に浸漬することを含む請求項1に記載の脱細胞化組織又は臓器の製造方法。
【請求項3】
前記媒体が界面活性剤を含まない請求項1に記載の脱細胞化組織又は臓器の製造方法。
【請求項4】
前記DNA分解酵素を取り込ませた動物由来の組織又は臓器を、印加する工程が、6時間以内に終了する請求項1に記載の脱細胞化組織又は臓器の製造方法。
【請求項5】
前記印加する工程の後に得られた脱細胞化組織又は臓器中のDNA量が、脱細胞化処理をしない天然の組織又は臓器中のDNA量と比較して、50%以下である請求項1に記載の脱細胞化組織又は臓器の製造方法。
【請求項6】
細胞外マトリックスを有する脱細胞化組織であって、
脱細胞化組織中のDNA量が、脱細胞化処理をしない天然の組織又は臓器中のDNA量と比較して、10%以下であり、かつ
下記の(i)~(vii)のうちの少なくとも一つを満たす、脱細胞化組織。
(i)脱細胞化組織中のヒドロキシプロリンの量の、脱細胞化処理をしない天然組織中のヒドロキシプロリンに対する変化率が、±30%以内である
(ii)脱細胞化組織中のエラスチンの量の、脱細胞化処理をしない天然組織中のエラスチンの量に対する変化率が、±30%以内である
(iii)脱細胞化組織中のエクソソームが、蛍光色素で染色後に、蛍光顕微鏡下で観察可能な量で存在する
(iv)脱細胞化組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する貯蔵弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する貯蔵弾性率に対する変化率が、±30%以内である
(v)脱細胞化組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する貯蔵弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する貯蔵弾性率に対する変化率が、±30%以内である
(vi)脱細胞化組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する損失弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する損失弾性率に対する変化率が、±30%以内である
(vii)脱細胞化組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する損失弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する損失弾性率に対する変化率が、±30%以内である
【請求項7】
前記脱細胞化組織は、DNA分解酵素を100ng/ml以上の濃度で含有する請求項6に記載の脱細胞化組織。
【請求項8】
生物活性物質が前記細胞外マトリックスに組み込まれている、請求項6に記載の脱細胞化組織。
【請求項9】
請求項6に記載の脱細胞化組織を粉末化してなる粉末組織。
【請求項10】
請求項6に記載の脱細胞化組織の破砕物を液体媒体に懸濁してなる組成物。
【請求項11】
請求項6に記載の脱細胞化組織を備えた固形臓器。
【請求項12】
請求項6に記載の脱細胞化組織、請求項9に記載の粉末組織、請求項10に記載の組成物、又は請求項11に記載の固形臓器の、細胞増殖のサポート、細胞再生の促進、血管新生の促進、組織置換術のための移植物としての、組織の修復又は再生のための移植物としての、又は皮膚移植及び/又は皮膚再生手術用の移植物としての、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱細胞化組織又は臓器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臓器移植では、臓器提供者(ドナー)の生体組織を臓器移植を受ける者(レシピエント)に移植する場合に拒絶反応や異物反応が起こるが、脱細胞化臓器には細胞が含まれていないため、臓器移植に代わるモデルとして脱細胞化臓器モデルが注目されている。
【0003】
以前の研究において、発明者らは、組織全体に均一に負荷することのできる状態量として静水圧という物理的負荷を用いて、ラットから摘出した子宮を脱細胞化し、子宮の欠損部位に移植したところ、静水圧を使用して作製した脱細胞化組織が良好な組織再生能をもつことを見出した(非特許文献1)。この文献では、伝達流体を入れたチャンバの伝達流体にラット子宮サンプルを収容し塩溶液で満たしたポリエチレンバッグを浸漬し、980MPaの静水圧で10分間保持して脱細胞化を行っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】PLoS One 2014 July 24;9(7):e103201, doi: 10.1371/journal.pone.0103201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1において、組織内の細胞を死滅させるには30分以内の静水圧負荷で十分であったが、細胞核に内存するDNAは簡単には除去できない問題があった。また、脱細胞化を、静水圧(HP)、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、及びTriton X-100をそれぞれ用いた3つの方法で行っているが、いずれにおいても、脱細胞化後に、7 日間のDNA分解酵素を含有する洗浄バッファによる洗浄が必要であった。
【0006】
脱細胞化後の長期の組織洗浄は、脱細胞化組織そのもののマトリックス変性などのリスクを上げる可能性がある。脱細胞化組織製造のコストや生産性においても大きなデメリットがあるまた、SDSやTriton X-100などの界面活性剤を用いた化学的な脱細胞化方法では組織に対する毒性が強い。
【0007】
静水圧という物理的な手段を用いながらも、脱細胞化組織の洗浄工程の時間を大幅に短縮でき、組織又は臓器の構造維持に優れた脱細胞化組織又は臓器の製造方法が望まれる。
【0008】
本発明が解決すべき課題は、短期間に組織又は臓器の脱細胞化が完了でき、かつ得られた脱細胞化組織又は臓器の構造維持に優れた脱細胞化組織又は臓器の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下に記載の実施形態を包含する。
項1.
動物由来の組織又は臓器にDNA分解酵素を取り込ませる工程、および
前記DNA分解酵素を取り込ませた動物由来の組織又は臓器に、前記DNA分解酵素を含有する媒体中で、100~500MPaの静水圧を印加する工程を含む脱細胞化組織又は臓器の製造方法。
項2.
前記動物由来の組織又は臓器にDNA分解酵素を取り込ませる工程は、動物由来の組織又は臓器をDNA分解酵素を含有する媒体中に浸漬することを含む項1に記載の脱細胞化組織又は臓器の製造方法。
項3.
前記媒体が界面活性剤を含まない項1に記載の脱細胞化組織又は臓器の製造方法。
項4.
前記印加する工程が、6時間以内に終了する項1に記載の脱細胞化組織又は臓器の製造方法。
項5.
前記印加する工程の後に得られた脱細胞化組織又は臓器中のDNA量が、脱細胞化処理をしない天然の組織又は臓器中のDNA量と比較して、50%以下である項1に記載の脱細胞化組織又は臓器の製造方法。
項6.
細胞外マトリックスを有する脱細胞化組織であって、
脱細胞化組織中のDNA量が、脱細胞化処理をしない天然の組織又は臓器中のDNA量と比較して、10%以下であり、かつ
下記の(i)~(viii)のうちの少なくとも一つを満たす、脱細胞化組織。
【0010】
(i) 脱細胞化組織中のヒドロキシプロリンの量の、脱細胞化処理をしない天然組織中のヒドロキシプロリンに対する変化率が、±30%以内である
(iii) 脱細胞化組織中のエラスチンの量の、脱細胞化処理をしない天然組織中のエラスチンの量に対する変化率が、±30%以内である
(iv)脱細胞化組織中のエクソソームが、蛍光色素で染色後に、蛍光顕微鏡下で観察可能な量で存在する
(v)脱細胞化組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する貯蔵弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する貯蔵弾性率に対する変化率が、±30%以内である
(vi)脱細胞化組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する貯蔵弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する貯蔵弾性率に対する変化率が、±30%以内である
(vii)脱細胞化組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する損失弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する損失弾性率に対する変化率が、±30%以内である
(viii)脱細胞化組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する損失弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する損失弾性率に対する変化率が、±30%以内である
項7.
前記脱細胞化組織は、DNA分解酵素を100ng/ml以上の濃度で含有する項6に記載の脱細胞化組織。
項8.
生物活性物質が前記細胞外マトリックスに組み込まれている、項6に記載の脱細胞化組織。
項9.
項6に記載の脱細胞化組織を粉末化してなる粉末組織。
項10.
項6に記載の脱細胞化組織の破砕物を液体媒体に溶解又は懸濁してなる組成物。
項11.
項6に記載の脱細胞化組織を備えた固形臓器。
項12.
項6に記載の脱細胞化組織、項9に記載の粉末組織、項10に記載の組成物、又は項11に記載の固形臓器の、細胞増殖のサポート、細胞再生の促進、血管新生の促進、組織置換術のための移植物としての、組織の修復又は再生のための移植物としての、又は皮膚移植及び/又は皮膚再生手術用の移植物としての、使用。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】左から右へ、Nativeの小腸組織、低圧(LP)、高圧(HP)、SDSサンプルのそれぞれのDISの顕微鏡観察。バーは1cmを示す。
図2】DNA残留量と静水圧の関係を示すグラフ。平均±標準誤差で表す。(各群n=4)。
図3】Nativeの小腸組織、LP、HP、SDSサンプルのそれぞれのDISのヘマトキシリンエオジン(HE)染色。スケールバーは400μmを示す。
図4】Native組織と比較したLP、HP、SDSのそれぞれのDISのDNAの定量化。平均±標準誤差で表す。(各群n=4)。*p < 0.05, **p < 0.005。
図5】各組織サンプル中のコラーゲン量。Nativeの小腸組織及びLP、HP、SDSサンプルのそれぞれのDISのMasson‘s trichrome染色、スケールバーは400μmを示す。
図6】Native組織と比較したLP、HP、SDSサンプルのそれぞれのDISのコラーゲンの量。平均±標準偏差で表す(各群n=4)、 *p < 0.05, **p < 0.005。
図7】各組織サンプル中のエラスチン量。Nativeの小腸組織及びLP、HP、SDSサンプルのそれぞれのDISのMasson‘s trichrome染色、スケールバーは400μmを示す。
図8】Native組織と比較したLP、HP、SDSサンプルのそれぞれのDISのエラスチンの量。平均±標準偏差で表す(各群n=4)。
図9】各サンプルにおけるエクソソームの発現。
図10】Native組織(左上)、LP(右上)、HP(左下)、SDS (右下)のそれぞれの小腸腺窩構造の走査型電子顕微鏡の像。
図11】天然組織と比較したLP、HP、SDSサンプルのそれぞれの、歪みに対するDISの貯蔵弾性率。平均±標準偏差で表す。 (各群n=3~7)
図12】天然組織と比較したLP、HP、SDSサンプルのそれぞれの、周波数に対するDISの貯蔵弾性率。平均±標準偏差で表す。 (各群n=3~7)
図13】天然組織と比較したLP、HP、SDSサンプルのそれぞれの、歪みに対するDISの損失弾性率。平均±標準偏差で表す。 (各群n=3~5)
図14】天然組織と比較したLP、HP、SDSサンプルのそれぞれの、周波数に対するDISの損失弾性率。平均±標準偏差で表す。 (各群n=3~5)
図15】Sham、LP、HP、SDSのラットの脱細胞化組織サンプルを移植した腸組織の写真。
図16】各腸組織の免疫組織学的染色。SMA: SMA染色、Enlarged SMA: SMA染色の拡大像、Vim: Vim染色、Enlarged Vim: Vim染色の拡大像、KRT18: KRT18染色、Enlarged KRT18: KRT18染色の拡大像、CD31: CD31染色の拡大像。黒色三角は縫合した部位を示す。赤色の丸は移植した組織片の真ん中の拡大部位である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「含有する(comprise)」は、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」も包含する概念である。
【0013】
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。また、本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値又は実施例から一義的に導き出せる値に置き換えてもよい。更に、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。
【0014】
本発明の第一態様によれば、動物由来の組織又は臓器にDNA分解酵素を取り込ませる工程、および前記DNA分解酵素を取り込ませた動物由来の組織又は臓器に、前記DNA分解酵素を含有する媒体中で、100~500MPaの静水圧を印加する工程を含む脱細胞化組織又は臓器の製造方法が提供される。
【0015】
このような脱細胞化組織又は臓器の製造方法によれば、動物由来の組織又は臓器にDNA分解酵素が含まれ、動物由来の組織又は臓器内のDNAが分解された状態で該組織又は臓器細胞に静水圧が印加されるため、動物由来の組織又は臓器からの細胞の除去が促進され、DNA分解酵素を含有しない媒体中で静水圧を印加する従来の方法と比較して、短期間で動物由来の組織又は臓器から細胞を除去することができる。
【0016】
動物由来組織(生体組織ともいう。)は、脊椎動物由来の細胞を有する生体組織であれば特に限定されないが、拒絶反応が少ないことから、哺乳類又は鳥類由来の生体組織が好ましく、哺乳類がより好ましい。哺乳類としては、ラット、マウス、モルモット、ハムスター、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ラクダ、イヌ、ネコ、ウサギ、サル、及びヒト等が挙げられる。動物由来組織が、ラット、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、サル、又はヒト由来組織であることが好ましい。
【0017】
体液には組織液、血液、リンパ液が含まれる。体液には好ましくは組織液が含まれる。
【0018】
動物由来組織としては、心臓、腎臓、尿管、尿道、肝臓、脾臓、膵臓、肺、脳、骨、子宮、卵管、卵巣、胎盤、軟骨、腱、胃、小腸、大腸、気管支、食道、骨髄、歯、血管、神経、又は皮膚などの組織が挙げられる。
【0019】
動物由来の臓器は、特に限定されないが、心臓、腎臓、尿管、尿道、肝臓、脾臓、膵臓、肺、脳、骨、子宮、卵管、卵巣、胎盤、軟骨、腱、胃、小腸、大腸、気管支、食道、骨髄、歯などの臓器が挙げられる。
【0020】
いずれの動物由来の組織又は臓器も該組織又は臓器の外部からDNA分解酵素を取り込ませ、その後に静水圧を静水圧負荷による脱細胞化し得るため、本発明の第一態様の脱細胞化組織又は臓器の製造方法を適用することができる。
【0021】
動物由来の組織又は臓器は、動物から採取又は摘出した後、生理食塩水又は各種緩衝液等で洗浄しておくことが好ましい。
【0022】
静水圧を印加する工程の前に、動物由来の組織又は臓器に、該組織又は臓器の外部からDNA分解酵素を取り込ませることにより、静水圧を印加する工程の前に、動物由来の組織又は臓器内のDNA分解酵素濃度を高め、動物由来の組織又は臓器内のDNAを分解しておくことができる。
【0023】
いくつかの実施形態において、動物由来の組織又は臓器にDNA分解酵素を取り込ませる工程は、動物由来の組織又は臓器を、DNA分解酵素を含有する媒体中に浸漬することを含む。浸漬する間、動物由来の組織又は臓器はDNA分解酵素を含有する媒体中に静置してもよいし、DNA分解酵素を含有する媒体を振盪してもよい。
【0024】
DNA分解酵素の取り込みに使用されるDNA分解酵素を含有する媒体は、好ましくは、水、水以外の水性媒体、又はそれらの混合物を含み、水以外の水性媒体としては、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。媒体は、酸、塩基、及び塩のうちの少なくとも一つを含む水溶液又は緩衝液であってもよく、そのような水溶液又は緩衝液としては、生理食塩水、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液、HEPES緩衝液、MES緩衝液等が挙げられる。あるいは、媒体は、糖類を含む水溶液であってもよい。
【0025】
DNA分解酵素を含有する媒体は、界面活性剤を含んでもよいが、組織に対する毒性を排除又は低減する点で、界面活性剤を含まないことが好ましい。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0026】
DNA分解酵素を含有する媒体中の界面活性剤の量は、媒体全体に対して0.01質量%以下であることが好ましく、0.001質量%以下であることがより好ましく、0質量%であることがさらに好ましい。
【0027】
動物由来の組織又は臓器にDNA分解酵素を取り込ませる工程は、100MPaよりも低い圧力下で、特には大気圧下で行うことが好ましい。
【0028】
動物由来の組織又は臓器にDNA分解酵素を取り込ませる時間、又は動物由来の組織又は臓器をDNA分解酵素を含有する媒体中に浸漬する時間は、動物由来の組織又は臓器の部位や大きさに応じて選択することができ、特に限定されないが、好ましくは3分~1時間、より好ましくは3分~30分間である。
【0029】
DNA分解酵素を取り込ませた動物由来の組織又は臓器に静水圧を印加する工程には、(i)DNA分解酵素を取り込ませた動物由来の組織又は臓器の周囲の圧力(通常、大気圧)を、より高い圧力(通常、次の静水圧の工程で印加する圧力)へ昇圧する工程、(ii)昇圧する工程の後、該動物由来の組織又は臓器にDNA分解酵素を含有する媒体中で一定の範囲(つまり100~500MPa)内の静水圧を印加する工程、及び(iii)静水圧を印加する工程の後、動物由来の組織又は臓器の周囲の圧力(通常、静水圧の工程で印加する圧力)を、より低い圧力(通常、大気圧)へ降圧する工程という一連の工程が含まれる。
【0030】
上記一連の工程に使用されるDNA分解酵素を含有する媒体は、好ましくは、水、水以外の水性媒体、又はそれらの混合物を含み、水以外の水性媒体としては、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。媒体は、酸、塩基、及び塩のうちの少なくとも一つを含む水溶液又は緩衝液であってもよく、そのような水溶液又は緩衝液としては、生理食塩水、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液、HEPES緩衝液、MES緩衝液等が挙げられる。あるいは、媒体は、糖類を含む水溶液であってもよい。
【0031】
動物由来の組織又は臓器にDNA分解酵素を取り込ませる工程に使用されるDNA分解酵素を含有する媒体と、静水圧を印加する工程に使用されるDNA分解酵素を含有する媒体とは、同一組成の媒体であってもよいし、異なる組成の媒体であってもよい。また、DNA分解酵素を取り込ませる工程に使用されるDNA分解酵素を含有する媒体をそのまま連続して静水圧を印加する工程に使用してもよいが、DNA分解酵素を取り込ませる工程に使用されるDNA分解酵素を含有する媒体を、静水圧を印加する工程に使用されるDNA分解酵素を含有する媒体と交換することが好ましい。
【0032】
本発明において、DNA分解酵素を取り込ませた動物由来の組織又は臓器は、DNA分解酵素を含有する媒体中で、100~500MPaの静水圧を印加される。
【0033】
印加する静水圧が100MPaよりも低いと、動物由来組織又は臓器中の細胞の破壊が不十分となる。印加する静水圧が500MPaを超えると、動物由来組織又は臓器の構造維持が困難となる。また、印加に耐えられる圧力容器や装置が必要であり、設備が大掛かりとなる。印加する静水圧は100~400MPaが好ましく、200~400MPaがより好ましく、200~300MPaがさらに好ましい。
【0034】
昇圧する工程、100~500MPaの静水圧を印加する工程、及び降圧する工程の温度は、脱細胞処理が円滑に行われ組織への影響が少ない点から、0~45℃が好ましく、4~37℃ が更に好ましく、15~35℃ が最も好ましい。
【0035】
昇圧する工程の時間は特に限定されないが、30秒~30分であることが好ましく、1分~10分であることがより好ましい。100~500MPaの静水圧を印加する時間は、組織又は臓器の構造維持と印加の迅速化の点で、6時間以内がより好ましく、1時間以内がより好ましく、30分以内がより好ましい。印加時間の下限値は特に限定されないが、5分以上であることが好ましく、例えば10分以上である。降圧する工程の時間は特に限定されないが、5分以下であることが好ましく、1分以下であることがより好ましい。(i)~(iii)の3つの工程の合計時間が、6時間以内がより好ましく、1時間以内がより好ましく、30分以内がより好ましい。
【0036】
上記脱細胞化組織又は臓器の製造方法では、静水圧を印加する工程の後、DNA分解酵素による脱細胞化組織又は臓器内のDNAの分解の処理は行わないことが好ましいが、任意選択で、脱細胞化組織又は臓器内のDNAの分解をさらに促進するために、脱細胞化組織又は臓器を、DNA分解酵素を含有する媒体に30分~6時間程度、暴露又はインキュベートしてもよい。このときに使用するDNA分解酵素を含有する媒体は、DNA分解酵素を取り込ませる工程に使用されるDNA分解酵素を含有する媒体又は静水圧を印加する工程に使用されるDNA分解酵素を含有する媒体と同一組成の媒体であってもよいし、異なる組成の媒体であってもよい。
【0037】
上記脱細胞化組織又は臓器の製造方法は、静水圧を印加する工程の後に、DNA分解酵素を含有しない洗浄液で脱細胞化組織又は臓器を洗浄する工程をさらに含んでもよい。洗浄液は、好ましくは酸、塩基、及び塩のうちの少なくとも一つを含む水溶液又は緩衝液であってもよく、そのような水溶液又は緩衝液としては、生理食塩水、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液、HEPES緩衝液、MES緩衝液などが挙げられる。界面活性剤を含んでもよいが、組織に対する毒性を排除又は低減する点で、界面活性剤を含まないことが好ましい。界面活性剤を含んでもよいが、組織に対する毒性を排除又は低減する点で、界面活性剤を含まないことが好ましい。洗浄時間は特に限定されないが、好ましくは30分~6時間、より好ましくは30分~1時間でよい。
【0038】
本発明の態様の脱細胞化組織又は臓器によれば、従来の技術よりも、静水圧を印加する工程後の脱細胞化組織又は臓器の洗浄時間を大幅に短縮することができる。また、動物由来の組織又は臓器にDNA分解酵素を取り込ませる時間を短くすることにより、動物からの組織又は臓器の採取から100~500MPaの静水圧を印加する工程までにかかる時間を大幅に短縮することができる。
【0039】
上記脱細胞化組織又は臓器の製造方法は、静水圧を印加する工程の後か、静水圧を印加する工程の後に洗浄する工程を含む場合は洗浄する工程の後に、脱細胞化組織又は臓器の細胞外マトリックスに生物活性物質を結合させる工程をさらに含んでもよい。
【0040】
生物活性物質としては、増殖因子(または成長因子)、抗菌剤、鎮痛剤、止血剤、血管新生促進剤、血管新生抑制剤、若しくはそれらの組み合わせ、またはエクソソームなどが挙げられる。生物活性物質がエクソソームである場合、エクソソームは、動物由来の組織又は臓器のドナーである動物から得られたエクソソームであってもよいし、別のエクソソームであってもよく、公知の又は市販のエクソソームを利用することもできる。
【0041】
生物活性物質は、例えば、粒子、微小粒子またはコロイドとして封入された懸濁液として、脱細胞化組織又は臓器の細胞外マトリックスに組み込まれてもよいし、該生物活性物質を化学的処理又は接着分子の使用などの公知の手段により脱細胞化組織又は臓器の細胞外マトリックスに結合させてもよい。
【0042】
上記脱細胞化組織又は臓器の製造方法は、静水圧を印加する工程の後か、静水圧を印加する工程の後に洗浄する工程を含む場合は洗浄する工程の後に、脱細胞化組織又は臓器を粉末化する工程をさらに含んでもよい。
【0043】
脱細胞化組織又は臓器の粉末化は、例えば脱細胞化組織又は臓器を乾燥させ、乾燥した脱細胞化組織又は臓器を粉砕することにより行うことができる。脱細胞化組織又は臓器の乾燥法としては、凍結乾燥が挙げられるがこれに限定されない。脱細胞化組織又は臓器の粉砕は、ミルなどの公知の粉砕装置を使用して行うことができる。
【0044】
得られた脱細胞化組織又は臓器の粉末は、例えば、患者の患部に適用し、組織又は臓器の再生の促進に使用することができる。
【0045】
上記脱細胞化組織又は臓器の製造方法は、静水圧を印加する工程の後か、静水圧を印加する工程の後に洗浄する工程を含む場合は洗浄する工程の後に、脱細胞化組織組織又を臓器を破砕し、脱細胞化組織又は臓器の破砕物を液体媒体に溶解又は懸濁し、組成物を得る工程をさらに含んでもよい。
【0046】
脱細胞化組織又は臓器の破砕は、例えば脱細胞化組織又は臓器を乾燥させ、乾燥した脱細胞化組織又は臓器を破砕することにより行うことができる。脱細胞化組織又は臓器の乾燥法としては、凍結乾燥が挙げられるがこれに限定されない。ミルなどの公知の粉砕装置を使用して行うことができる。
【0047】
液体溶媒としては、タンパク質を含有する溶液などが挙げられる。例えば、脱細胞化組織又は臓器を細かく粉砕した粉末を、ペプシンを含有する溶液中で溶解し、この溶解液を適宜、pH調整、緩衝液で希釈し、液状の組成物を得ることができる。pH調整には水酸化ナトリウムなどの塩基を使用することができる。緩衝液にはリン酸緩衝液などの緩衝液を使用することができる。
【0048】
得られた組成物は、例えば、3Dプリンターのカートリッジに充填して、所望の3次元構造のプリント構築物を形成するために使用することができる。
【0049】
いくつかの実施形態では、静水圧を印加する工程の後に得られた脱細胞化組織又は臓器中のDNA量が、脱細胞化処理をしない天然の組織又は臓器中のDNA量と比較して、50%以下であり、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下である。
【0050】
特定の実施形態では、静水圧を印加する工程の後に得られた脱細胞化組織又は臓器中のDNA量は、静水圧を印加する工程の後に、DNA分解酵素を含有する液でさらに脱細胞化組織又は臓器を洗浄する工程を施さずに測定された値である。
【0051】
本明細書において、脱細胞化組織又は臓器中のDNA量は、DAPI法、ヘキスト法、picoGreen法、MTT法などを始めとする公知のDNAの定量法により測定すことができ、いずれの方法も標準DNAに基づいて測定するため、測定された量は一定とみなすことができる。特には、DNA量は、実施例で測定した方法により測定されることがこのましい。
【0052】
このような構成によれば、静水圧を印加する工程後に、脱細胞化組織又は臓器中の細胞を大幅に除去することができる。
【0053】
いくつかの実施形態では、上記脱細胞化組織又は臓器の製造方法により得られた脱細胞化組織、又は得られた臓器中の脱細胞化組織は、下記の(i)~(viii)のうちの少なくとも一つを満たす。
【0054】
(i) 脱細胞化組織中のヒドロキシプロリンの量の、脱細胞化処理をしない天然組織中のヒドロキシプロリンに対する変化率が、±30%以内である
(ii) 脱細胞化組織中のエラスチンの量の、脱細胞化処理をしない天然組織中のエラスチンの量に対する変化率が、±30%以内である
(iii)脱細胞化組織中のエクソソームが、蛍光色素で染色後に、蛍光顕微鏡下で観察可能な量で存在する
(iv)脱細胞化組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する貯蔵弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する貯蔵弾性率に対する変化率が、±30%以内である
(v)脱細胞化組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する貯蔵弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する貯蔵弾性率に対する変化率が、±30%以内である
(vi)脱細胞化組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する損失弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する損失弾性率に対する変化率が、±30%以内である
(vii)脱細胞化組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する損失弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する損失弾性率に対する変化率が、±30%以内である
本明細書において、脱細胞化組織中のヒドロキシプロリンの量及び脱細胞化組織中のエラスチンの量は、それぞれ公知の方法により又は市販のキットを用いて測定してもよく、特には実施例で測定した方法により測定される。ヒドロキシプロリンの量は、コラーゲンの量を反映している。
【0055】
脱細胞化組織中のヒドロキシプロリンの量の、脱細胞化処理をしない天然組織中のヒドロキシプロリンに対する変化率は、{(脱細胞化組織のヒドロキシプロリンの量)-(脱細胞化処理をしない天然組織のヒドロキシプロリンの量)}/(脱細胞化処理をしない天然組織のヒドロキシプロリンの量)*100 (%)により計算される。
【0056】
脱細胞化組織中のエラスチンの量の、脱細胞化処理をしない天然組織中のエラスチンに対する量は、(脱細胞化組織のエラスチンの量}/(脱細胞化処理をしない天然組織のエラスチンの量)*100 (%)により計算される。
【0057】
本明細書において、脱細胞化組織及び脱細胞化処理をしない天然組織の各々の、歪みに対する貯蔵弾性率、周波数に対する貯蔵弾性率、歪みに対する損失弾性率、及び周波数に対する損失弾性率は、市販のレオメーターを用いて測定することができ、特には実施例で測定した方法により測定される。
【0058】
脱細胞化組織の歪みに対する貯蔵弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の歪みに対する貯蔵弾性率に対する変化率は、{(脱細胞化組織の歪みに対する貯蔵弾性率)-(脱細胞化処理をしない天然組織の歪みに対する貯蔵弾性率)}/(脱細胞化処理をしない天然組織の歪みに対する貯蔵弾性率)*100 (%)により計算される。
【0059】
脱細胞化組織の周波数に対する貯蔵弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の周波数に対する貯蔵弾性率に対する変化率は、{(脱細胞化組織の周波数に対する貯蔵弾性率)-(脱細胞化処理をしない天然組織の周波数に対する貯蔵弾性率)}/(脱細胞化処理をしない天然組織の周波数に対する貯蔵弾性率)*100 (%)により計算される。
【0060】
脱細胞化組織の歪みに対する損失弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の歪みに対する損失弾性率に対する変化率は、{(脱細胞化組織の歪みに対する損失弾性率)-(脱細胞化処理をしない天然組織の歪みに対する損失弾性率)}/(脱細胞化処理をしない天然組織の歪みに対する損失弾性率)*100 (%)により計算される。
【0061】
脱細胞化組織の周波数に対する損失弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の周波数に対する損失弾性率に対する変化率は、{(脱細胞化組織の周波数に対する損失弾性率)-(脱細胞化処理をしない天然組織の周波数に対する損失弾性率)}/(脱細胞化処理をしない天然組織の周波数に対する損失弾性率)*100 (%)により計算される。
【0062】
本明細書において、脱細胞化組織中のエクソソームは、実施例で測定した方法により測定される。脱細胞化組織中のエクソソームは、エクソソームの染色に使用した蛍光色素の蛍光強度から算出される存在量を、脱細胞化処理をしない天然組織中のエクソソームと比較することもできる。
【0063】
脱細胞化組織中のエクソソームの量の、脱細胞化処理をしない天然組織中のエクソソームに対する変化率は、{(脱細胞化組織のエクソソームの量)-(脱細胞化処理をしない天然組織のエクソソームの量)}/(脱細胞化処理をしない天然組織のエクソソームの量)*100 (%)により計算される。
【0064】
脱細胞化組織中のヒドロキシプロリンの量は、脱細胞化処理をしない天然組織中のヒドロキシプロリンに対する量に対して、好ましくは70%以上である。
【0065】
脱細胞化組織中のエラスチンの量は、脱細胞化処理をしない天然組織中のエラスチンの量に対する量に対して、好ましくは70%以上である。
【0066】
脱細胞化組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する貯蔵弾性率は、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する貯蔵弾性率に対して、好ましくは70%以上である。
【0067】
脱細胞化組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する貯蔵弾性率は、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対して、好ましくは70%以上である。
【0068】
脱細胞化組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する損失弾性率は、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する損失弾性率に対して、好ましくは70%以上である。
【0069】
脱細胞化組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する損失弾性率は、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する損失弾性率に対して、好ましくは70%以上である。
【0070】
脱細胞化組織中のヒドロキシプロリンの量の、脱細胞化処理をしない天然組織中のヒドロキシプロリンに対する変化率は、好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。
【0071】
脱細胞化組織中のエラスチンの量の、脱細胞化処理をしない天然組織中のエラスチンに対する変化率は、好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。
【0072】
脱細胞化組織中のエクソソームの量が、脱細胞化処理をしない天然組織のエクソソームの量と比較して、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上の量で存在する。
【0073】
脱細胞化組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する貯蔵弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する貯蔵弾性率に対する変化率は、好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。また、好ましくは0.1~10%以下の範囲の歪みの全範囲で上記変化率は、好ましくは±30%以内、より好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。
【0074】
脱細胞化組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する貯蔵弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する貯蔵弾性率に対する変化率は、好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。あるいは、好ましくは脱細胞化組織の0.1~3[1/s]以下の範囲、より好ましくは0.1~2[1/s]以下の範囲の周波数に対する貯蔵弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~3[1/s]以下の範囲、より好ましくは0.1~2[1/s]以下の範囲の周波数に対する貯蔵弾性率に対する変化率は、好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。また、好ましくは0.1~2[1/s]以下、より好ましくは0.1~3[1/s]以下、より好ましくは0.1~5以下の全範囲で、上記変化率は、好ましくは±30%以内、より好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。
【0075】
脱細胞化組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する損失弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する損失弾性率に対する変化率は、好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。また、好ましくは0.1~10%以下の範囲の歪みの全範囲で、上記変化率は、好ましくは±30%以内、より好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。
【0076】
脱細胞化組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する損失弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する損失弾性率に対する変化率は、好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。あるいは、好ましくは脱細胞化組織の0.1~3[1/s]以下の範囲、より好ましくは0.1~2[1/s]以下の範囲の周波数に対する損失弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~3周波数[1/s]以下の範囲、より好ましくは0.1~2[1/s]以下の範囲の周波数に対する損失弾性率に対する変化率は、好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。また、好ましくは0.1~2[1/s]以下、より好ましくは0.1~3[1/s]以下、より好ましくは0.1~5以下の全範囲で、上記変化率は、好ましくは±30%以内、より好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。
【0077】
いくつかの実施形態では、上記脱細胞化組織又は臓器の製造方法により得られた脱細胞化組織、又は得られた臓器中の脱細胞化組織は、上記(i)及び(ii)のうちの一つ又は二つを満たす。
【0078】
いくつかの実施形態では、上記脱細胞化組織又は臓器の製造方法により得られた脱細胞化組織、又は得られた臓器中の脱細胞化組織は、上記(iii)を満たす。
【0079】
いくつかの実施形態では、上記脱細胞化組織又は臓器の製造方法により得られた脱細胞化組織、又は得られた臓器中の脱細胞化組織は、上記(i)及び(ii)のうちの一つ又は二つと、上記(iii)とを満たす。
【0080】
いくつかの実施形態では、上記脱細胞化組織又は臓器の製造方法により得られた脱細胞化組織、又は得られた臓器中の脱細胞化組織は、上記(iv)及び(v)、(vi)及び(vii)、またはそれらの両方を満たす。
【0081】
いくつかの実施形態では、上記脱細胞化組織又は臓器の製造方法により得られた脱細胞化組織、又は得られた臓器中の脱細胞化組織は、上記(iii)と、上記(iv)及び(v)、(vi)及び(vii)、またはそれらの両方とを満たす。
【0082】
いくつかの実施形態では、上記脱細胞化組織又は臓器の製造方法により得られた脱細胞化組織、又は得られた臓器中の脱細胞化組織は、上記(i)及び(ii)のうちの一つ又は二つと、上記(iii)と、上記(iv)及び(v)、(vi)及び(vii)、またはそれらの両方とを満たす。
【0083】
いくつかの実施形態では、上記脱細胞化組織又は臓器の製造方法により得られた脱細胞化組織、又は得られた臓器中の脱細胞化組織は、上記(i)~(vii)をすべて満たす。
【0084】
上記脱細胞化組織又は臓器の製造方法により製造された脱細胞化組織又は臓器(特に固形臓器)も、本発明の範囲に含まれる。
【0085】
本発明の第二態様によれば、細胞外マトリックスを有する脱細胞化組織であって、
脱細胞化組織中のDNA量が、脱細胞化処理をしない天然の組織又は臓器中のDNA量と比較して、10%以下であり、かつ
(i) 脱細胞化組織中のヒドロキシプロリンの量の、脱細胞化処理をしない天然組織中のヒドロキシプロリンに対する変化率が、±30%以内である
(ii) 脱細胞化組織中のエラスチンの量の、脱細胞化処理をしない天然組織中のエラスチンの量に対する変化率が、±30%以内である
(iii)脱細胞化組織中のエクソソームが、蛍光色素で染色後に、蛍光顕微鏡下で観察可能な量で存在する
(iv)脱細胞化組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する貯蔵弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する貯蔵弾性率に対する変化率が、±30%以内である
(v)脱細胞化組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する貯蔵弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する貯蔵弾性率に対する変化率が、±30%以内である
(vi)脱細胞化組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する損失弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する損失弾性率に対する変化率が、±30%以内である
(vii)脱細胞化組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する損失弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する損失弾性率に対する変化率が、±30%以内である
かかる脱細胞化組織は、第一態様の脱細胞化組織又は臓器の製造方法により製造することができる。
【0086】
脱細胞化組織中のヒドロキシプロリンの量は、脱細胞化処理をしない天然組織中のヒドロキシプロリンに対する量に対して、好ましくは70%以上である。
【0087】
脱細胞化組織中のエラスチンの量は、脱細胞化処理をしない天然組織中のエラスチンの量に対する量に対して、好ましくは70%以内である。
【0088】
脱細胞化組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する貯蔵弾性率は、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する貯蔵弾性率に対して、好ましくは70%以上である。
【0089】
脱細胞化組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する貯蔵弾性率は、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対して、好ましくは70%以上である。
【0090】
脱細胞化組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する損失弾性率は、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する損失弾性率に対して、好ましくは70%以上である。
【0091】
脱細胞化組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する損失弾性率は、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する損失弾性率に対して、好ましくは70%以上である。
【0092】
脱細胞化組織中のヒドロキシプロリンの量の、脱細胞化処理をしない天然組織中のヒドロキシプロリンに対する変化率は、好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。
【0093】
脱細胞化組織中のエラスチンの量の、脱細胞化処理をしない天然組織中のエラスチンに対する変化率は、好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。
【0094】
脱細胞化組織中のエクソソームが、脱細胞化処理をしない天然組織のエクソソームの量と比較して、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上の量で存在する。
【0095】
脱細胞化組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する貯蔵弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する貯蔵弾性率に対する変化率は、好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。また、好ましくは10%以下の範囲の歪みの全範囲でこのような変化率を満たす。
【0096】
脱細胞化組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する貯蔵弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する貯蔵弾性率に対する変化率は、好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。あるいは、好ましくは脱細胞化組織の0.1~3[1/s]以下の範囲、より好ましくは0.1~2[1/s]以下の範囲の周波数に対する貯蔵弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~3[1/s]以下の範囲、より好ましくは0.1~2[1/s]以下の範囲の周波数に対する貯蔵弾性率に対する変化率は、好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。また、好ましくは0.1~2[1/s]以下、より好ましくは0.1~3[1/s]以下、より好ましくは0.1~5以下の全範囲で、上記変化率は、好ましくは±30%以内、より好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。
【0097】
脱細胞化組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する損失弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~10%以下の範囲の歪みに対する損失弾性率に対する変化率は、好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。また、好ましくは0.1~10%以下の範囲の歪みの全範囲で、上記変化率は、好ましくは±30%以内、より好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。
【0098】
脱細胞化組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する損失弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~5[1/s]以下の範囲の周波数に対する損失弾性率に対する変化率は、好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。あるいは、好ましくは脱細胞化組織の0.1~3[1/s]以下の範囲、より好ましくは0.1~2[1/s]以下の範囲の周波数に対する損失弾性率の、脱細胞化処理をしない天然組織の0.1~3周波数[1/s]以下の範囲、より好ましくは0.1~2[1/s]以下の範囲の周波数に対する損失弾性率に対する変化率は、好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。また、好ましくは0.1~2[1/s]以下、より好ましくは0.1~3[1/s]以下、より好ましくは0.1~5以下の全範囲で、上記変化率は、好ましくは±30%以内、より好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内である。
【0099】
いくつかの実施形態では、上記脱細胞化組織又は臓器の製造方法により得られた脱細胞化組織、又は得られた臓器中の脱細胞化組織は、上記(i)及び(ii)のうちの一つ又は二つを満たす。
【0100】
いくつかの実施形態では、上記脱細胞化組織又は臓器の製造方法により得られた脱細胞化組織、又は得られた臓器中の脱細胞化組織は、上記(iii)を満たす。
【0101】
いくつかの実施形態では、上記脱細胞化組織又は臓器の製造方法により得られた脱細胞化組織、又は得られた臓器中の脱細胞化組織は、上記(i)及び(ii)のうちの一つ又は二つと、上記(iii)とを満たす。
【0102】
いくつかの実施形態では、上記脱細胞化組織又は臓器の製造方法により得られた脱細胞化組織、又は得られた臓器中の脱細胞化組織は、上記(iv)及び(v)、(vi)及び(vii)、またはそれらの両方を満たす。
【0103】
いくつかの実施形態では、上記脱細胞化組織又は臓器の製造方法により得られた脱細胞化組織、又は得られた臓器中の脱細胞化組織は、上記(iii)と、上記(iv)及び(v)、(vi)及び(vii)、またはそれらの両方とを満たす。
【0104】
いくつかの実施形態では、上記脱細胞化組織又は臓器の製造方法により得られた脱細胞化組織、又は得られた臓器中の脱細胞化組織は、上記(i)及び(ii)のうちの一つ又は二つと、上記(iii)と、上記(iv)及び(v)、(vi)及び(vii)、またはそれらの両方とを満たす。
【0105】
いくつかの実施形態では、上記脱細胞化組織又は臓器の製造方法により得られた脱細胞化組織、又は得られた臓器中の脱細胞化組織は、上記(i)~(vii)をすべて満たす。
【0106】
いくつかの実施形態では、上記脱細胞化組織は、DNA分解酵素を、100ng/ml以上の濃度で含有する。ヒト血清中のDNA分解酵素の濃度は3.2±1.4ng/ml(Clin Exp Immunol.1998 Aug;113(2):289-96. doi: 10.1046/j.1365-2249.1998.00647.x. PMID:9717980; PMCID: PMC1905046)であるが、それよりも高い値である。DNA分解酵素の濃度は、好ましくは1μg/ml以上、より好ましくは10μg/ml以上である。
【0107】
いくつかの実施形態では、細胞外マトリックスに生物活性物質が組み込まれている。生物活性物質については第一態様の脱細胞化組織又は臓器の製造方法に関して上述した通りである。
【0108】
本発明の第三態様によれば、第二態様の脱細胞化組織を粉末化してなる粉末組織が提供される。粉末組織の製造方法については第一態様の脱細胞化組織又は臓器の製造方法に関して上述した通りである。
【0109】
本発明の第四態様によれば、第二態様の脱細胞化組織を液体媒体に懸濁してなる組成物が提供される。組成物の製造方法については第一態様の脱細胞化組織又は臓器の製造方法に関して上述した通りである。
【0110】
本発明の第五態様によれば、第二態様の脱細胞化組織を備えた固形臓器が提供される。固形臓器の製造方法については第一態様の脱細胞化組織又は臓器の製造方法に関して上述した通りである。
【0111】
本発明の第一態様の脱細胞化組織又は臓器の製造方法により製造された脱細胞化組織又は臓器、本発明の第二態様の脱細胞化組織、本発明の第三態様の粉末組織、本発明の第四態様の組成物、ならびに本発明の第五態様の固形臓器は、細胞増殖のサポート、細胞再生の促進、血管新生の促進、組織置換術のための移植物として、組織の修復又は再生のための移植物として、又は皮膚移植及び/又は皮膚再生手術用の移植物として、使用することができる。
【0112】
本願では、静水圧という物理量の負荷で、臓器や組織に含まれる細胞を除去できる技術を開発している。従来の技術では、静水圧負荷による脱細胞化においては、静水圧を負荷した後、細胞除去のための1~2週間程度の臓器又は組織の洗浄工程が必須であった。また、従来の静水圧負荷による脱細胞化では、大きな臓器からの脱細胞化が困難であることや、臓器の構造が維持できず臓器の力学特性の制御が困難であることなどの問題もあった。
【0113】
上記第一態様の脱細胞化組織又は臓器の製造方法は、臓器移植にかわる免疫拒絶反応が少ない脱細胞化組織又は臓器の製造方法であって、低い静水圧でありながらも短期間の操作で十分な脱細胞化が完了する新技術である。この新しい脱細胞化法は、DNA分解酵素の存在下で静水圧という物理量で細胞を死滅させるため、従来の技術に比べて、静水圧印加後の組織の洗浄工程を大幅に短縮できる。また、静水圧が低いため、市販の静水圧装置を使用することができ、980MPaを印加するときに必要な大がかりな装置を要しない。さらに、上記第一態様の脱細胞化組織又は臓器の製造方法は、厚みのある複雑な臓器からも脱細胞化が可能であり、脱細胞化できる対象臓器の選択肢が多い点で有利である。さらに、脱細胞化組織又は臓器の構造が良好に維持されているため、組織再生能にも優れている。
【0114】
このような脱細胞化組織又は臓器の製造方法を使用した脱細胞化臓器モデルの臨床応用が強く期待される。本発明の脱細胞化組織又は臓器の製造方法及びこれを用いて得られた脱細胞化組織又は臓器は、医療分野、美容業界、ペット業界、競走馬業界に広く適用することができる。
【0115】
例えば、医療分野では、臓器移植に代わる脱細胞化臓器/組織としての価値がある。脱細胞化した骨による整形外科領域のスクリュープレートも作製可能と考えられる。本発明の脱細胞化組織又は臓器から製造した粉末又は液体組織組成物は、iPSなどの基礎研究に用いられているフィブリンゲルの材料としても利用可能である。美容分野では、脱細胞化臓器/組織のマトリックスによる美容成形効果が期待される。顔面の成形および/または形成には、本発明の脱細胞化組織又は臓器の製造方法により開発したコラーゲン、エラスチン、プラセンタ(胎盤)成分を適用可能である。
【0116】
本明細書中に引用されているすべての特許出願および文献の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0117】
以下の実施例は、例示のみを意図したものであり、何ら本発明の技術的範囲を限定することを意図するものではない。特に断らない限り、試薬は、市販されているか、又は当技術分野で慣用の手法、公知文献の手順に従って入手又は調製する。
【実施例0118】
試験例1.脱細胞化組織の調製
(前処理)
工程1.ラット小腸は脂肪組織を取り除き、縦方向を沿って開く。
工程2.滅菌したリン酸緩衝液(PBS)とミリQ水 (optional)を準備し、サンプルが真っ白になるまで洗浄した(目安5回)。
工程3.前処理した小腸サンプルを、以下の(1)EHHP法又は(2)SDS法で処理した。
(1)EHHP法(LP,HP)
1.暗所、清潔操作で、小腸サンプルをビニール袋に入れたDNAse I 溶液 10ml に浸漬させた。
2.ビニール袋開口部を熱圧着させる。この際空気が入らないよう注意した。
3.静水圧を印加するまで、密閉した小腸サンプルを4℃冷蔵庫もしくはアイスボックス内で遮光して保管する。小腸サンプルをDNAse I 溶液に浸漬させる時間は約30分とした。
4.静水圧装置で、サンプルを昇圧し、30℃、40分加圧し、降圧させた。静水圧を150MPaとしたサンプルをLPとし、静水圧を960MPa、加圧時間を40分としたサンプルをHPとした。いずれの静水圧の場合も、昇圧と降圧の速度は65.3MPa/minとした。
5.optional:ミリQ水を使わない場合に、サンプルとDNAse I 溶液を含むビニール袋を4℃冷蔵庫にある振盪器上で一晩中インキュベートした。
6. サンプルを取り出し、PBSで2時間洗浄した。
(2)SDS法
1.1%SDS溶液を作成し、十分に溶かした後0.22μmフィルターを通ってろ過する。
2.1%SDS溶液と小腸を密閉容器に入れ、室温環境で振盪器を使って2時間洗浄する。
3.サンプルをPBS溶液で2時間洗浄したうえ、DNAse I bufferに移し、七日間洗浄する。毎日DNAse I bufferを交換する。
(3)Native
前処理の工程2の後のサンプルをNativeとした。
【0119】
試験例2.サンプルの準備
試験例1で得られた脱細胞化組織サンプルをPBSで短時間洗浄した後、サンプルを真空凍結乾燥機(Eyela, Japan)を用いて最低16時間凍結乾燥した。乾燥したサンプルを、446μg/mlのパパイン、5mMのシステイン-HCl、及び5mMのEDTA-2 Naを含む溶解バッファーに浸漬し、65℃で最低15時間インキュベートした。ホモジナイザーと超音波細胞破砕機を用いて、サンプルをさらに細かくした。
このサンプルを、以下の「試験例3.DNAアッセイ」、「試験例4.ヒドロキシプロリンアッセイ、及び「試験例5.エラスチンアッセイ」に使用した。
【0120】
試験例3.DNAアッセイ
試験例2で準備したサンプルを用いてDNA含量を測定した。DNA含量の定量には、市販のDNAアッセイキット(Quant-iT PicoGreen dsDNA assay kit; Invitrogen, USA)を用いた。各サンプルは標準プロトコールに従って処理し、蛍光分光光度計で波長λ = 522 nmで分析した。
【0121】
試験例4.ヒドロキシプロリンアッセイ
試験例2で準備した各サンプルのコラーゲンタンパク質含量を、標準的手順でヒドロキシプロリン含量に関して測定した。試料を4M NaOHと混合し、120℃で30分間加熱した。その後、規定度1.4Nのクエン酸とクロラミンT溶液を試料に添加した。20分経過後、アルデヒド-過塩素酸試薬を溶液に入れ、70℃で20分間インキュベートした。各サンプルを蛍光分光光度計で波長λ = 450 nmで分析した。
【0122】
試験例5.エラスチンアッセイ
エラスチン含量の評価には、市販のエラスチンアッセイキット(Fastin elastin assay kit; Biocolor, UK)を用いた。サンプルをエラスチン沈殿試薬と混合し、15分間インキュベートした。サンプルを10,000 gで10分間遠心し、沈殿物を回収した。試薬(TPPS:5、10、15、20-tetraphenyl-21、23-porphine sulphonate)を加え、90分間軽く混合した。色素が結合したエラスチンを12,000gで10分間遠心分離して回収し、 色素解離試薬で再希釈した。試験例1で調製した各サンプルを蛍光分光光度計で波長λ = 513 nmで分析した。
【0123】
試験例6.脱細胞化組織におけるエクソソームの同定
試験例1で調製した各小腸のサンプルを、エクソソームの標識であるTSG101抗体(Abcam、300倍希釈)で免疫染色し、蛍光顕微鏡にて観察した。
【0124】
試験例7.組織染色
試験例1で調製した各組織はPBSで短時間リンスし、10%中性緩衝ホルマリン溶液で固定した。次に、サンプルを勾配エタノールで脱水し、パラフィンブロックに包埋し、7μmの厚さに切片化した。標準プロトコールに従って、ヘマトキシリン・エオジン(HE, 核と細胞質)、マッソントリクローム染料(MT, コラーゲン)、Verhoeff's Van Gieson(VVG, エラスチン)で染色した。サンプルはカメラ付き光学顕微鏡(Zeiss, Germany)で観察した。
インプラントは、粘膜下層はビメンチン(Abcam;1: 400倍希釈)、平滑筋層は平滑筋αアクチン(α-SMA)(Abcam;1: 400倍希釈)、粘膜はKRT18(Abcam;1: 100倍希釈)、内皮細胞はCD31(Santa Cruz;1: 50倍希釈)で染色した。タンパク質のブロッキングと内因性ペルオキシダーゼの不活性化の前に、熱によるエピトープ回収(10 mMクエン酸緩衝液、pH 6.0)を行った。一次抗体によるインキュベーションを4℃で一晩行った後、二次抗体(抗ウサギIgG; Dako)によるインキュベーションを室温で2時間行った。その後、サンプルを3,3′ジアミノベンジジン(DAB)で染色し、ヘマトキシリンで対比染色した。
【0125】
試験例8.走査型電子顕微鏡(SEM)測定
試験例1で調製した各試料はまず、50%カコジル酸、42%グルタルアルデヒド水溶液を用いて一晩固定した。段階エタノールで脱水後、CO2臨界点乾燥(日立、HCP 2)を行った。サンプルは走査型電気顕微鏡(JOEL)を用い、付属のマニュアルに従って観察した。
【0126】
試験例9.粘弾性試験
試験例1で調製した各組織に5mmサイズの生検パンチを用い、縦に開いた組織から丸い形状のサンプルを切り出した。試料の厚みは、まず微小材料試験機(島津製作所)を用いて測定した。粘弾性試験は、レオメーター(Physica MCR301)を用い、付属のマニュアルに従って実施した。試料を37℃の条件下で加湿し、直径8mmの回転平行板を用いて試験した。貯蔵弾性率と損失弾性率は、試験機により自動的に計算し、記録した。
【0127】
試験例10.脱細胞化組織の移植
SDラット(9週齢、雄)を脱細胞化組織移植の被験者とした。これらのラットを4群(n=3、偽(sham)、LP、HP、SDS)に分けた。手術前12時間から手術後48時間までの間、被験者用の固形食を5%グルコース溶液に置き換えた。偽手術とは、腸組織の半分を切開し、手を入れずにそのまま縫合したものである。実験群では、腸壁の半分を切除し、脱細胞化組織(15mm*10mm)に置き換えた。試験例1で調製した各脱細胞化組織は、四隅を含む少なくとも10ヵ所を非分解性のポリプロピレン糸で天然組織に縫合した。縫合後、癒着を防ぐために移植部分をセプラフィルム(KAKEN, Japan)で包んだ。ラットは1ヶ月間飼育した後、屠殺した。組織学的検査に先立ち、移植片を摘出し、結合組織と脂肪を除去した。
【0128】
結果
(1)脱細胞化組織の調製
試験例1の前処理後のサンプルは図1に示した通りである。
試験例1において、EHHP法のサンプル(LP, HP)では、組織をDNA分解酵素を含む液に浸漬する時間がSDS法に比べて短く、先行技術(PLoS One 2014 July 24;9(7):e103201)では7日以上を要する静水圧印加後の洗浄時間も不要であるか短時間で済むため、臓器を入手してから脱細胞化完了までの期間が数十分という短時間での脱細胞化法を行うことができた。
【0129】
(2)組織中のDNA残留量
DNAアッセイにおいて、図2に示されるように、EHHP法で静水圧を100MPa、150MPa、200MPaにして製造したサンプルはいずれもDNA残留量が少なかったが、中でも150MPaのLPサンプルが最も少なかった。
HE染色では細胞核が青色に、核以外の組織がピンク色に染まる。図3に示されるように、Nativeサンプルは細胞核及び核以外の組織が濃く観察されるのに対し、LP、HP、SDSサンプルでは青い点が減少或いは消滅したことから、細胞の除去を確認できた。
図4に示されるように、LPサンプルではNativeに比べて有意に組織内DNA含量が減少し、10%以下であった。また、LPサンプルのDNA含量はHPサンプルよりさらに低かった。
次に、図2の結果に基づいて、組織内のDNA残留量を5%まで減らせる圧力及び時間の最適条件として、静水圧150Pa、印加時間60分(昇圧と高圧の時間を含まない)を選択し、新たなLPサンプルとした。発明者らの先行研究で使用した静水圧980MPa、加圧時間10分(昇圧と高圧の時間を含まない)のサンプルをHPサンプルとした。いずれの場合も昇圧と降圧の速度は65.3MPa/minとした。SDSサンプルは、試験例1で作製したサンプルである。図4において、LPサンプル、HPサンプル、及びSDSサンプルとも、Nativeサンプルと比較してDNA残留量が有意に低下していた。HPサンプルのDNA残留量が高いのは、本実験ではおそらく加圧時間が短いためである。
【0130】
(3)組織中のコラーゲン量
マッソントリクローム染色はコラーゲン繊維を青色に、核を黒色に、アクチン細胞骨格を赤色に染色する。図5に示されるように、いずれのサンプルでも青色のコラーゲン繊維の保存を確認できると共に、黒色と赤色が観察されず、細胞の除去を確認することができた。
さらに、図6に示されるように、LPサンプルではHPサンプル及びSDSサンプルに比べて有意にヒドロキシプロリン量が高く、脱細胞化処理によってもコラーゲンの残存量が多く、組織の構造タンパク質がHPサンプル及びSDSサンプルと比べて維持されていることが示唆された。
【0131】
(4)組織中のエラスチン量
Verhoeff's Van Gieson染色はエラスチン繊維を黒色に、コラーゲン繊維を赤色又はオレンジ色に染色する。図7に示されるように、Native, LP, HPサンプルでは、黒い線の存在でエラスチンの保存を確認できた。
さらに、図8に示されるように、LPサンプルではNativeと有意差がない程度にエラスチン量が残っていた。脱細胞化処理によってもエラスチンの残存量が多く、静水圧を利用したサンプルでは、SDSサンプルと比べて維持されていることが示唆された。
【0132】
(5)脱細胞化組織におけるエクソソームの発現
図9に示されるように、小腸の免疫染色の結果、LPサンプルの色が一番濃く見えた。すなわち、LPの脱細胞化組織では、HPやSDSの脱細胞化組織と比較して、エクソソームの保留又は残留が一番良いと考えられた。
【0133】
(6)走査型電子顕微鏡(SEM)測定
図10に示されるように、小腸の内表面にある絨毛-陰窩構造を観察した。Nativeに存在する白い点である細胞が、LPでは細胞がなくなっているが、絨毛-陰窩構造は保存されていることが確認された。HPでは構造の崩れが若干見られた(像の右上)。SDSは穴も見えないほど完全に壊れていた。
【0134】
(7)粘弾性試験
レオメーターを使って組織片の粘弾性を測定した。図11は貯蔵弾性率(弾性を表す物理量)とサンプルに印加した歪みの関係図、図12は貯蔵弾性率(弾性を表す物理量)とサンプルに印加した周波数との関係図、図13は損失弾性率(粘性を表す物理量)とサンプルに印加した歪みの関係図、図14は損失弾性率(粘性を表す物理量)とサンプルに印加した歪みの関係図である。
いずれの図を見ても、同じ傾向が確認された。すなわち、LPサンプルは、LP、HP、SDSサンプルのうち、Nativeと一番近い粘性と弾性を表していた。一方HPとSDSは、Nativeとは異なる粘弾性を有していた。その原因は脱細胞処理による組織の損害に関連すると考えられる。すなわち、LPは組織の機械特性への損害が一番小さいと言える。
【0135】
(8)脱細胞化組織の移植
図15は試験例1で製造した各組織片をラット腸管に植入した後1ヶ月を経て取り出したサンプルの写真である。矢印を挿しているのは組織片の部位であり、いずれの組織片もNative組織と癒合したことが確認できた。
図16の黒色三角は縫合した部位を示す。赤色の丸は移植した組織片の真ん中の拡大部位である。
SMAは平滑筋のマーカーであり、腸管の一番外側と絨毛にある平滑筋を標識する。VimはVimentinの略称であり、小腸の粘膜下組織と結合組織を標識する。KRT18は粘膜のマーカーである。CD31は血管内皮細胞のマーカーである。これら4つのマーカーで組織片をブラウンに染めることにより、組織片の再生状況を確認できる。
SMAの拡大像を参照すると、ブラウンに染まった平滑筋がつながっていることが分かった。HPとSDSでは平滑筋が断続的に見える。すなわち、LPの平滑筋再生が一番良好であった。Vimの再生にはLP, HP, SDSで特に差がなかった。各組織片には多くの線維芽細胞が発見され、全体的に瘢痕組織のように見えた。KRT18の染色では、SDSに絨毛構造や粘膜の一部欠損が見えた(拡大像左上)。LPとHPサンプルでは一輪(リング状)の無傷の粘膜層が確認された。血管内皮細胞の染色について、LPとHPでは粘膜と粘膜下組織にある毛細血管の再生が確認された。SDSでは粘膜にある毛細血管が検出されなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16