(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025047375
(43)【公開日】2025-04-03
(54)【発明の名称】樹脂組成物、コーティング剤、セパレーター及びセパレーターの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 75/04 20060101AFI20250326BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20250326BHJP
C08G 18/69 20060101ALI20250326BHJP
C08G 18/62 20060101ALI20250326BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20250326BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20250326BHJP
C08J 7/043 20200101ALI20250326BHJP
【FI】
C08L75/04
C08K3/00
C08G18/69
C08G18/62 004
C09D175/04
C09D7/61
C08J7/043 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023155834
(22)【出願日】2023-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【弁理士】
【氏名又は名称】財部 俊正
(72)【発明者】
【氏名】白木 慶彦
【テーマコード(参考)】
4F006
4J002
4J034
4J038
【Fターム(参考)】
4F006AA12
4F006AB37
4F006BA01
4F006CA08
4J002CK051
4J002DE106
4J002DE136
4J002DE146
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4J002DJ016
4J002DJ036
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4J038DG191
4J038HA216
4J038KA08
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4J038NA12
4J038PB09
(57)【要約】
【課題】ポリオレフィン基材に対して優れた接着性を示すコーティング層を形成するコーティング剤及び該コーティング剤に用いられる樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】ウレタン樹脂と、セラミック粒子と、を含有し、ウレタン樹脂が、ポリオール単位として水添ポリオレフィンポリオールを含み、ウレタン樹脂のウレタン基濃度が0.80~1.10mol/kgであり、ウレタン樹脂の重量平均分子量が12300~42000である、樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン樹脂と、セラミック粒子と、を含有し、
前記ウレタン樹脂が、ポリオール単位として水添ポリオレフィンポリオールを含み、
前記ウレタン樹脂のウレタン基濃度が0.80~1.10mol/kgであり、
前記ウレタン樹脂の重量平均分子量が12300~42000である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記水添ポリオレフィンポリオールが、水添ポリブタジエンポリオールを含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記水添ポリオレフィンポリオールが、水添ポリブタジエンポリオールを含み、
前記水添ポリブタジエンポリオール中、1,2-付加体と1,4-付加体とのモル比が、20:80~90:10である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記水添ポリオレフィンポリオールのヨウ素価が、50g/100g以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記水添ポリオレフィンポリオールの水酸基含量が、0.50~2.00mol/kgである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
ポリオール単位の含量が、前記ポリウレタンの全質量を基準として、75.0~99.9質量%である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記ウレタン樹脂の分子量分布指数が2.5~6.0である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記ウレタン樹脂の表面エネルギーが23mJ/m2以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記ウレタン樹脂の含量が、前記セラミック粒子100質量部に対して、0.50~15質量部である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記セラミック粒子が酸化アルミニウムを含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、コーティング剤。
【請求項12】
リチウムイオン電池用セパレーターの製造に用いられる、請求項11に記載のコーティング剤。
【請求項13】
ポリオレフィン基材と、該ポリオレフィン基材の表面上に設けられたコーティング層と、を備え、
前記コーティング層が、ウレタン樹脂と、セラミック粒子と、を含有し、
前記ウレタン樹脂が、ポリオール単位として水添ポリオレフィンポリオールを含み、
前記ウレタン樹脂のウレタン基濃度が0.80~1.10mol/kgであり、
前記ウレタン樹脂の重量平均分子量が12300~42000である、リチウムイオン電池用セパレーター。
【請求項14】
ポリオレフィン基材上に、請求項11に記載のコーティング剤を塗布し、加熱することによりコーティング層を形成することを含む、リチウムイオン電池用セパレーターの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物、コーティング剤、セパレーター及びセパレーターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セパレーターは、リチウムイオン電池を構成する主要部材である。セパレーターの主な目的は、電極間でのイオンの移動を阻害することなく電極の接触による短絡を防止することにある。セパレーターとしては、ポリオレフィン系樹脂で形成されたポリオレフィンセパレーターが一般的に用いられている。
【0003】
ポリオレフィンセパレーターには、機械的強度、耐熱性等の向上を目的として、コーティング剤による処理が施されることがある。例えば、特許文献1には、フッ化ビニリデンポリマー水性分散液を、基材の少なくとも一部に少なくとも部分的に塗布し、電気化学セル用のセパレーターを作製する方法が開示されている。
【0004】
上記特許文献1には、セパレーターの熱安定性を改善する目的で無機充填材料を用いてよいことが開示されており、無機充填材の例として、セラミック粒子が挙げられている。このようなセラミック粒子を含有するコーティング剤によって処理されたセパレーターは、セラミックコーティングセパレーター(CCS)等と呼ばれ、その熱安定性の高さから、特にリチウムイオン電池用のセパレーターとして注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Owens,D.K. J.Appl.Polym.Sci.1969,13,1741-1747.
【非特許文献2】Lee,H.,Alcoutlabi,M.,Watson,J.V.,Zhang,X.J.Appl.Polym.Sci.2013,129,1939-1951.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記セラミックコーティングの効果を維持するためには、基材からのコーティング層の剥離を抑制し、基材表面が露出しないようにすることが重要である。しかしながら、ポリオレフィン基材は、その表面が濡れ難く、一般に樹脂に対して難密着性を示すことから、ポリオレフィン基材を用いる従来のセラミックコーティングセパレーターには、コーティング層と基材と間の接着に課題がある。
【0008】
そこで、本開示のいくつかの側面は、ポリオレフィン基材に対して優れた接着性を示すコーティング層を形成するコーティング剤及び該コーティング剤に用いられる樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本開示の他のいくつかの側面は、上記コーティング剤で形成されたコーティング層を備えるセパレーター及び該セパレーターの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のいくつかの側面は、以下に示す[1]~[14]を提供する。
【0010】
[1]
ウレタン樹脂と、セラミック粒子と、を含有し、
前記ウレタン樹脂が、ポリオール単位として水添ポリオレフィンポリオールを含み、
前記ウレタン樹脂のウレタン基濃度が0.80~1.10mol/kgであり、
前記ウレタン樹脂の重量平均分子量が12300~42000である、樹脂組成物。
【0011】
[2]
前記水添ポリオレフィンポリオールが、水添ポリブタジエンポリオールを含む、[1]に記載の樹脂組成物。
【0012】
[3]
前記水添ポリオレフィンポリオールが、水添ポリブタジエンポリオールを含み、
前記水添ポリブタジエンポリオール中、1,2-付加体と1,4-付加体とのモル比が、20:80~90:10である、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
【0013】
[4]
前記水添ポリオレフィンポリオールのヨウ素価が、50g/100g以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0014】
[5]
前記水添ポリオレフィンポリオールの水酸基含量が、0.50~2.00mol/kgである、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0015】
[6]
ポリオール単位の含量が、前記ポリウレタンの全質量を基準として、75.0~99.9質量%である、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0016】
[7]
前記ウレタン樹脂の分子量分布指数が2.5~6.0である、[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0017】
[8]
前記ウレタン樹脂の表面エネルギーが23mJ/m2以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0018】
[9]
前記ウレタン樹脂の含量が、前記セラミック粒子100質量部に対して、0.50~15質量部である、[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0019】
[10]
前記セラミック粒子が酸化アルミニウムを含む、[1]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0020】
[11]
[1]~[10]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む、コーティング剤。
【0021】
[12]
リチウムイオン電池用セパレーターの製造に用いられる、[11]に記載のコーティング剤。
【0022】
[13]
ポリオレフィン基材と、該ポリオレフィン基材の表面上に設けられたコーティング層と、を備え、
前記コーティング層が、ウレタン樹脂と、セラミック粒子と、を含有し、
前記ウレタン樹脂が、ポリオール単位として水添ポリオレフィンポリオールを含み、
前記ウレタン樹脂のウレタン基濃度が0.80~1.10mol/kgであり、
前記ウレタン樹脂の重量平均分子量が12300~42000である、リチウムイオン電池用セパレーター。
【0023】
[14]
ポリオレフィン基材上に、[11]に記載のコーティング剤を塗布し、加熱することによりコーティング層を形成することを含む、リチウムイオン電池用セパレーターの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本開示のいくつかの側面によれば、ポリオレフィン基材に対して優れた接着性を示すコーティング層を形成するコーティング剤及び該コーティング剤に用いられる樹脂組成物を提供することができる。また、本開示の他のいくつかの側面によれば、上記コーティング剤で形成されたコーティング層を備えるセパレーター及び該セパレーターの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施例1で観察されたセラミックコーティングセパレーターの剥離面のSEM画像である。
【
図2】実施例2で観察されたセラミックコーティングセパレーターの剥離面のSEM画像である。
【
図3】実施例3で観察されたセラミックコーティングセパレーターの剥離面のSEM画像である。
【
図4】実施例4で観察されたセラミックコーティングセパレーターの剥離面のSEM画像である。
【
図5】実施例5で観察されたセラミックコーティングセパレーターの剥離面のSEM画像である。
【
図6】比較例1で観察されたセラミックコーティングセパレーターの剥離面のSEM画像である。
【
図7】比較例2で観察されたセラミックコーティングセパレーターの剥離面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示の好適な実施形態について説明する。ただし、本開示は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0027】
本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。また、具体的に明示する場合を除き、「~」の前後に記載される数値の単位は同じである。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。また、以下で例示する材料は、特に断らない限り、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。組成物中の各成分の含量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0028】
<樹脂組成物及びコーティング剤>
一実施形態の樹脂組成物は、ウレタン樹脂と、セラミック粒子と、を含有する。ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを含むウレタン樹脂形成性原料の反応生成物(例えばポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを触媒存在下で反応させて得られる反応生成物)であるポリウレタンからなる樹脂であり、ポリオール単位とポリイソシアネート単位とを少なくとも含む。ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との反応(重合)により形成される二種の構成単位のうち、ポリオール化合物由来の構成単位がポリオール単位であり、ポリイソシアネート化合物由来の構成単位がポリイソシアネート単位である。
【0029】
樹脂組成物に含まれるウレタン樹脂(以下、「ウレタン樹脂(A)」という。)は、ポリオール単位として水添ポリオレフィンポリオールを含む。より詳細には、ウレタン樹脂(A)は、ポリオール単位として水添ポリオレフィンポリオールを含むポリウレタン(以下、「ポリウレタン(A)」という。)からなる。
【0030】
ウレタン樹脂(A)のウレタン基濃度は0.80~1.10mol/kgであり、ウレタン樹脂(A)の重量平均分子量は12300~42000である。ここで、ウレタン樹脂のウレタン基濃度とは、ウレタン樹脂1kgあたりに含まれるウレタン基(-NHCOO-)のモル数を意味する。ポリウレタンのウレタン基濃度についても同様であり、ポリウレタン1kgあたりに含まれるウレタン基(-NHCOO-)のモル数を意味する。また、ウレタン樹脂(A)のウレタン基濃度及び重量平均分子量は、ウレタン樹脂(A)全体のウレタン基濃度及び重量平均分子量を意味する。すなわち、ウレタン樹脂(A)のウレタン基濃度及び重量平均分子量は、ウレタン樹脂(A)が単一のポリウレタン(A)からなる場合には、該ポリウレタン(A)のウレタン基濃度及び重量平均分子量を意味し、ウレタン樹脂(A)が二種以上のポリウレタン(A)の混合物である場合には、該混合物のウレタン基濃度及び重量平均分子量を意味する。混合物のウレタン基濃度及び重量平均分子量は、混合物に含まれる各ポリウレタンのウレタン基濃度及び重量平均分子量についての、配合割合に基づく加重平均値であってよい。
【0031】
上記樹脂組成物は、接着剤等に使用することもできるが、コーティング剤に好適に用いられる。上記樹脂組成物を含むコーティング剤によれば、ポリオレフィン基材に対して優れた接着性を示すコーティング層を形成することができる。そのため、上記樹脂組成物(コーティング剤)は、ポリオレフィン基材のコーティング用途に好適であり、例えば、リチウムイオン電池用セパレーターの製造に好適に用いられる。具体的には、上記樹脂組成物を含むコーティング剤を用いてポリオレフィン基材の表面をコーティングすることにより、耐久性に優れたコーティング層を有するセラミックコーティングセパレーターを得ることができる。なお、ここでいうポリオレフィン基材は、少なくともポリオレフィン系樹脂を含有し、ポリオレフィン系樹脂で構成される塗工面を有する基材である。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム等が挙げられるが、上記コーティング層は、ポリエチレン及びポリプロピレンに対して特に強固な接着性を示す。
【0032】
上記効果が得られる理由は明らかではないが、本発明者らは以下のように推察している。
【0033】
まず、上記ウレタン樹脂(A)は、重量平均分子量が12300~42000であることから、加熱によって流動しやすい性質を有する。また、ウレタン樹脂(A)は、ポリオール単位として水添ポリオレフィンポリオールを含むことから、低極性部位(水添ポリオレフィンポリオール由来のポリオレフィン部)と、高極性部位(ウレタン結合)とを有しており、ウレタン基濃度が0.80~1.10mol/kgであることから、上記低極性部位と高極性部位の濃度のバランスがよく、加熱によって流動(例えば溶融)させた際にポリオレフィン基材中(特に非結晶部)に侵入しやすい性質を有すると考えられる。そのため、上記樹脂組成物(コーティング剤)をポリオレフィン基材上に塗布し、加熱することにより、ポリオレフィン基材の表面(ポリオレフィン基材とコーティング層との界面)において、ポリオレフィン基材中のポリオレフィン系樹脂とウレタン樹脂(A)とが混ざりあった接合領域が形成され、ポリオレフィン基材とコーティング層とが強固に接着されると推察される。
【0034】
ところで、ポリオレフィン基材は、一般的に耐熱性が低く、高温(例えば140℃以上)の熱処理によって劣化等の不具合を生じやすい。一方、上記のとおり、ウレタン樹脂(A)は加熱によって流動しやすい性質を有しており、低温(例えば130℃以下)であっても十分な流動性を有する傾向がある。そのため、上記樹脂組成物(コーティング剤)によれば、高温での熱処理を行わずとも、ポリオレフィン基材に対して優れた接着性を示すコーティング層を形成することができる。かかる観点でも、上記樹脂組成物(コーティング剤)は、ポリオレフィン基材のコーティング用途に好適であるといえる。
【0035】
以下、樹脂組成物に含まれ得る各成分について説明する。なお、以下の説明において「樹脂組成物」は「コーティング剤」と読み替えてもよい。
【0036】
(ウレタン樹脂(A))
ポリオール単位として水添ポリオレフィンポリオールを含む。ポリオレフィンポリオールはポリオレフィンの主鎖又は側鎖に複数の水酸基を有する化合物であり、水添ポリオレフィンポリオールは、該ポリオレフィンポリオールの水素添加により得られる水素化物である。ウレタン樹脂(A)にポリオール単位として含まれる水添ポリオレフィンポリオールは、一種であっても複数種であってもよい。同様に、ポリウレタン(A)中にポリオール単位として含まれる水添ポリオレフィンポリオールは、一種であっても複数種であってもよい。
【0037】
水添ポリオレフィンポリオールは、ポリオレフィンポリオール中の二重結合がすべて水素化されたものであってもよいし、ポリオレフィンポリオール中の二重結合が部分的に水素化されたものであってもよい。すなわち、ポリオレフィンポリオールは分子構造中に二重結合を有していてもよい。水添ポリオレフィンポリオール中の二重結合含量は、ヨウ素価を指標として確認することができる。
【0038】
水添ポリオレフィンポリオールのヨウ素価は、コーティング層及びコーティング剤中のセラミック粒子の基材(特にポリオレフィン基材)に対する接着性がより向上する観点では、50g/100g以下であることが好ましく、25g/100g以下であることがより好ましく、15g/100g以下であることがさらに好ましい。水添ポリオレフィンポリオールのヨウ素価は、10g/100g以下であってもよい。水添ポリオレフィンポリオールのヨウ素価の下限値は0g/100gである。水添ポリオレフィンポリオールのヨウ素価は5g/100g以上であってもよい。上記ヨウ素価は、JIS規格(JIS K0070)に準拠して測定することができる。
【0039】
水添ポリオレフィンポリオールは、ポリイソシアネートとの重合性の観点では、分子末端(例えば主鎖の末端)に水酸基を有することが好ましい。水添ポリオレフィンポリオール中の水酸基含量は、コーティング層の基材(特にポリオレフィン基材)に対する接着性がより向上する観点では、0.50mol/kg以上であることが好ましく、0.83mol/kg以上であることがより好ましく、1.10mol/kg以上であることがさらに好ましい。水添ポリオレフィンポリオール中の水酸基含量は、コーティング層の基材(特にポリオレフィン基材)に対する接着性がより向上する観点では、2.00mol/kg以下であることが好ましく、1.50mol/kg以下であることがより好ましく、1.30mol/kg以下であることがさらに好ましい。これらの観点から、水添ポリオレフィンポリオール中の水酸基含量は、例えば、0.50~2.00mol/kg、0.83~1.50mol/kg又は1.10~1.30mol/kgであってよい。水添ポリオレフィンポリオール中の水酸基含量は、JIS K-1557-1に準拠して測定することができる。
【0040】
水添ポリオレフィンポリオールの数平均分子量は、コーティング層の基材(特にポリオレフィン基材)に対する接着性がより向上する観点では、1000以上であることが好ましく、1300以上であることがより好ましく、1500以上であることがさらに好ましい。水添ポリオレフィンポリオールの数平均分子量は、コーティング層の基材(特にポリオレフィン基材)に対する接着性がより向上する観点では、4000以下であることが好ましく、2400以下であることがより好ましく、1800以下であることがさらに好ましい。これらの観点から、水添ポリオレフィンポリオールの数平均分子量は、例えば、1000~4000、1300~2400又は1500~1800であってよい。上記水添ポリオレフィンポリオールの数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される、ポリスチレン換算値である。
【0041】
水添ポリオレフィンポリオールの具体例としては、水添ポリブタジエンポリオール、水添ポリファルネセンポリオール、水添ポリイソプレンポリオール等が挙げられる。ウレタン樹脂(A)が溶剤と相溶しやすくなる観点では、水添ポリオレフィンポリオールが水添ポリブタジエンポリオールを含むことが好ましい。
【0042】
水添ポリブタジエンポリオールは、1,2-付加体及び1,4-付加体のいずれか一方のみを含んでいてよく、これらの両方を含んでいてもよい。ここで、1、2-付加体とは、ブタジエン由来の構成単位(二重結合が水素化されたものも含む)のうち、ブタジエンの1,2-付加によって得られる構成単位(1位と2位が他の構成単位と結合しているもの)をいい、1、4-付加体とは、ブタジエン由来の構成単位(二重結合が水素化されたものも含む)のうち、ブタジエンの1,4-付加によって得られる構成単位(1位と4位が他の構成単位と結合しているもの)をいう。
【0043】
水添ポリオレフィンポリオール中の1,2-付加体と1,4-付加体とのモル比(1,2-付加体のモル数:1,4-付加体のモル数)は、ウレタン樹脂(A)がポリオレフィン基材と相溶しやすくなる観点では、20:80~90:10が好ましく、65:35~90:10がより好ましく、80:20~90:10がさらに好ましく、80:20~85:15が特に好ましい。
【0044】
ポリウレタン(A)は、水添ポリオレフィンポリオール以外のポリオール化合物に由来する構成単位(ポリオール単位)を含んでいてもよい。例えば、ポリウレタン(A)が、一般に鎖延長剤として知られるポリオール化合物をポリオール単位として含んでいてもよい。
【0045】
水添ポリオレフィンポリオール以外のポリオール化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール類、ポリプロピレングリコール類、ポリブチレングリコール類等のポリエーテルポリオール類;カプリル酸モノグリセライド、カプリン酸モノグリセライド、ラウリン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライド、ベヘン酸モノグリセライド等のモノグリセライド類;2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール等の側鎖を持ったグリコール類;などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0046】
水添ポリオレフィンポリオール以外のポリオール化合物に由来する構成単位の含量は、例えば、ウレタン樹脂(A)に含まれる全ポリオール単位の合計質量を基準として、0~20質量%であってよい。すなわち、ウレタン樹脂(A)に含まれる全ポリオール単位中の水添ポリオレフィンポリオールに由来するポリオール単位の含量は、80~100質量%であってよい。この場合、全ポリオール単位中の水添ポリオレフィンポリオールに由来するポリオール単位の含量が80質量%以上であると、ウレタン樹脂(A)がよりポリオレフィン基材中に侵入しやすくなり、コーティング層の基材(特にポリオレフィン基材)に対する接着性がより向上する傾向がある。同様の効果が得られやすくなる観点から、全ポリオール単位中の水添ポリオレフィンポリオールに由来するポリオール単位の含量は、90質量%以上又は95質量%以上であってもよい。
【0047】
ウレタン樹脂(A)中のポリオール単位の含量は、コーティング層の基材(特にポリオレフィン基材)に対する接着性がより向上する観点では、ウレタン樹脂(A)の全質量(すなわち、ポリウレタン(A)の全質量)を基準として、75.0質量%以上であることが好ましく、80.0質量%以上であることがより好ましく、85.0質量%以上であることがさらに好ましい。ウレタン樹脂(A)中のポリオール単位の含量は、コーティング層の基材(特にポリオレフィン基材)に対する接着性がより向上する観点では、ウレタン樹脂(A)の全質量(すなわち、ポリウレタン(A)の全質量)を基準として、99.9質量%以下であることが好ましく、95.0質量%以下であることがより好ましく、90.0質量%以下であることがさらに好ましい。これらの観点から、ウレタン樹脂(A)中のポリオール単位の含量は、ウレタン樹脂(A)の全質量(すなわち、ポリウレタン(A)の全質量)を基準として、例えば、75.0~99.9質量%、80.0~95.0質量%又は85.0~91.0質量%であってよい。
【0048】
ウレタン樹脂(A)にポリイソシアネート単位として含まれるポリイソシアネート化合物(すなわち、ポリウレタン(A)にポリイソシアネート単位として含まれるポリイソシアネート化合物)は、芳香族ポリイソシアネートであっても非芳香族ポリイソシアネートであってもよく、これらの変性体(例えばアロファネート変性体、ビウレット変性体等)であってもよい。ウレタン樹脂(A)にポリイソシアネート単位として含まれるポリイソシアネート化合物は、一種であっても複数種であってもよい。同様に、ポリウレタン(A)にポリイソシアネート単位として含まれるポリイソシアネート化合物は、一種であっても複数種であってもよい。
【0049】
芳香族ポリイソシアネートは、芳香族骨格を有するポリイソシアネートである。芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,4-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0050】
非芳香族ポリイソシアネートは、芳香族骨格を有しないポリイソシアネート(例えば脂肪族骨格を有するポリイソシアネート)である。非芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、水添ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等が挙げられる。
【0051】
ポリイソシアネート化合物は、機械強度に優れるコーティング層が得られ易くなる観点では、芳香族ポリイソシアネートを含むことが好ましく、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート及び2,6-トルエンジイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことがより好ましい。全ポリイソシアネート化合物中の芳香族ポリイソシアネートの量(すなわち、ウレタン樹脂(A)に含まれる全ポリイソシアネート単位中の芳香族ポリイソシアネートに由来するポリイソシアネートオール単位の含量)は、機械強度に優れるコーティング層がより得られ易くなる観点から、80~100質量%であってよく、90~100質量%又は95~100質量%であってもよい。同様の観点で、全ポリイソシアネート化合物中のジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート及び2,6-トルエンジイソシアネートの合計量が80~100質量%、90~100質量%又は95~100質量%であってもよく、全ポリイソシアネート化合物中のジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネートの量が80~100質量%、90~100質量%又は95~100質量%であってもよい。
【0052】
ポリイソシアネート化合物は、耐薬品性に優れるコーティング層が得られ易くなる観点では、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート及び水添ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0053】
ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基含量は、コーティング層の基材(特にポリオレフィン基材)に対する接着性がより向上する観点では、1.7mol/kg以上であることが好ましく、2.4mol/kg以上であることがより好ましく、4.0mol/kg以上であることがさらに好ましい。ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基含量は、コーティング層の基材(特にポリオレフィン基材)に対する接着性がより向上する観点では、12.0mol/kg以下であることが好ましく、11.0mol/kg以下であることがより好ましく、8.0mol/kg以下であることがさらに好ましい。これらの観点から、ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基含量は、例えば、1.7~12.0mol/kg、2.4~11.0mol/kg又は4.0~8.0mol/kgであってよい。ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基含量は、JIS K1603-1に準拠して測定することができる。
【0054】
ウレタン樹脂(A)は、本発明の目的を損なわない範囲内で、ポリオール単位及びイソシアネート単位以外の構成単位をさらに含んでいてもよい。
【0055】
ウレタン樹脂(A)のウレタン基濃度は、0.80mol/kg以上であり、コーティング層の基材(特にポリオレフィン基材)に対する接着性がより向上する観点では、0.85mol/kg以上であることが好ましく、0.90mol/kg以上であることがより好ましい。ウレタン樹脂(A)のウレタン基濃度は、1.10mol/kg以下であり、コーティング層の基材(特にポリオレフィン基材)に対する接着性がより向上する観点では、1.06mol/kg以下であることが好ましく、0.95mol/kg以下であることがより好ましい。これらの観点から、ウレタン樹脂(A)のウレタン基濃度は、例えば、0.80~1.06mol/kg又は0.80~0.95mol/kgであってよく、0.85~1.10mol/kg又は0.90~1.10mol/kgであってもよい。ウレタン樹脂(A)のウレタン基濃度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0056】
ウレタン樹脂(A)は水酸基を有していてもよい。ウレタン樹脂(A)の水酸基濃度(水酸基含量)は、例えば、0.0010~0.32mol/kgであってよく、0.0060~0.30mol/kg又は0.010~0.29mol/kgであってもよい。
【0057】
ウレタン樹脂(A)はイソシアネート基を有していてもよいが、ウレタン樹脂(A)のイソシアネート基濃度(イソシアネート基含量)は、貯蔵安定性の観点から、0~0.20mol/kgであることが好ましく、0~0.10mol/kgであることがより好ましく、0~0.050mol/kgであることがさらに好ましい。ウレタン樹脂(A)のイソシアネート基濃度は、0mol/kgであってもよい。
【0058】
ウレタン樹脂(A)の重量平均分子量は、42000以下であり、37000以下であることが好ましく、25000以下であることがより好ましい。ウレタン樹脂(A)の重量平均分子量が小さいほど、より低い熱処理温度で、ポリオレフィン基材に対して強固に接着するコーティング層を形成することができる。ウレタン樹脂(A)の重量平均分子量は、12300以上であり、12500以上又は13000以上であってもよい。ウレタン樹脂(A)の重量平均分子量が適度に大きいことで、コーティング層の変形が抑制され、コーティング層の基材からの剥離が起こり難くなる。これらの観点から、ウレタン樹脂(A)の重量平均分子量は、例えば、12300~42000、12500~37000又は13000~25000であってよい。ウレタン樹脂(A)の重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0059】
ウレタン樹脂(A)の分子量分布指数(重量平均分子量/数平均分子量)は、コーティング層の基材(特にポリオレフィン基材)に対する接着性がより向上する観点では、2.5以上であることが好ましく、2.8以上であることがより好ましく、3.0以上であることがさらに好ましい。ウレタン樹脂(A)の分子量分布指数は、コーティング層の基材(特にポリオレフィン基材)に対する接着性がより向上する観点では、6.0以下であることが好ましく、5.5以下であることがより好ましく、5.0以下であることがさらに好ましい。これらの観点から、ウレタン樹脂(A)の分子量分布指数は、例えば、2.5~6.0であってよい。ウレタン樹脂(A)の重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定されるポリスチレン換算値であり、実施例に記載の方法により測定されてよい。
【0060】
ウレタン樹脂(A)の表面エネルギーは、23mJ/m2以下(例えば、15~23mJ/m2)であることが好ましい。このような表面エネルギーを有するウレタン樹脂(A)は基材上に濡れ広がりやすい性質を有するため、例えばポリオレフィン基材上にコーティング層を形成する場合に、基材中のポリオレフィンとウレタン樹脂(A)とが混ざりあった接合領域が形成されやすくなり、ポリオレフィン基材とコーティング層とがより強固に接着されやすくなる。このような効果がより得られやすくなる観点から、ウレタン樹脂(A)の表面エネルギーは、22mJ/m2以下であってもよい。ここで、ウレタン樹脂(A)の表面エネルギーは、ウレタン樹脂(A)からなる膜を形成し、該膜の表面エネルギーを、実施例に記載の方法で測定することにより求められる。上記膜は、具体的には、ウレタン樹脂(A)の濃度10質量%のシクロヘキサノン溶液を調製し、該溶液をアプリケーター法でポリエチレン基材に乾燥膜厚がおよそ20μmとなるように塗布した後、減圧乾燥機で減圧下、80℃で4時間加熱(乾燥による塗膜中の溶剤留去と熱エージングによる膜表面の平滑化)を行うことにより形成する。膜の表面の物理的構造が表面エネルギーに影響することがあるが、上記方法によれば平滑な表面の膜を形成できるため、膜の表面の物理的構造の影響を最小限に抑えてウレタン樹脂(A)そのものの表面エネルギーを求めることができる。ウレタン樹脂(A)の表面エネルギーは、ウレタン樹脂(A)のウレタン基濃度を0.80~1.10mol/kgとし、ウレタン樹脂(A)の重量平均分子量を12300~42000とすることの他、水添ポリオレフィンポリオールの種類等によって調整することができる。例えば、ウレタン基濃度が比較的高い場合、表面エネルギーが高くなりやすい。
【0061】
ウレタン樹脂(A)のガラス転移温度は、良好なタック性が得られ易い観点では、-10℃以下であってよく、-20℃以下又は-28℃以下であってもよい。ウレタン樹脂(A)のガラス転移温度は、例えば、-10~-80℃であってよく、-20~-70℃又は-28~-65℃であってもよい。ウレタン樹脂(A)のガラス転移温度は、JIS K6240に準拠して測定することができる。
【0062】
ウレタン樹脂(A)は、少なくとも水添ポリオレフィンポリオールとポリイソシアネート化合物とを含むウレタン樹脂形成性原料を反応させることにより得ることができる。具体的には、例えば、水添ポリオレフィンポリオールを含むポリオール化合物と、ポリイソシアネート化合物と、を触媒(ウレタン化触媒)及び溶媒(反応溶媒)の存在下で混合しながら加熱することにより、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との反応生成物であるポリウレタン(A)からなるウレタン樹脂(A)を得ることができる。ここで、ウレタン樹脂形成性原料は、反応生成物であるポリウレタン(ウレタン樹脂)の構成単位に含まれる化合物の集合体である。したがって、触媒及び溶媒はウレタン樹脂形成性原料に含まれない。
【0063】
ウレタン樹脂形成性原料中のポリオール化合物とポリイソシアネート化合物の含量(すなわち、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物の配合量)は、例えば、ポリオール化合物中の水酸基の全モル数(MOH)と、ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基の全モル数(MNCO)との比(MNCO/MOH)が0.74~0.98となる量であってよい。上記比(MNCO/MOH)が0.74以上であると、ウレタン樹脂(A)の分子量が小さくなり過ぎず、該ウレタン樹脂(A)を用いて形成されるコーティング層の機械強度が向上する傾向がある。上記比(MNCO/MOH)が0.98以下であると、ウレタン樹脂(A)の分子量が大きくなり過ぎず、該ウレタン樹脂(A)がよりポリオレフィン基材へ侵入しやすくなる傾向がある。これらの観点から、上記比(MNCO/MOH)は、0.75以上又は0.78以上であってもよく、0.97以下又は0.95以下であってもよい。
【0064】
ウレタン樹脂形成性原料中の水添ポリオレフィンポリオールとポリイソシアネート化合物の含量(すなわち、水添ポリオレフィンポリオールとポリイソシアネート化合物の配合量)は、水添ポリオレフィンポリオール中の水酸基の全モル数(MOH’)と、ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基の全モル数(MNCO)との比(MNCO/MOH’)との比が、0.74~0.98となる量であってよい。上記(MNCO/MOH’)が0.74以上であると、ウレタン樹脂(A)の分子量が小さくなり過ぎず、該ウレタン樹脂(A)を用いて形成されるコーティング層の機械強度が向上する傾向がある。上記比(MNCO/MOH’)が0.98以下であると、ウレタン樹脂(A)の分子量が大きくなり過ぎず、該ウレタン樹脂(A)がよりポリオレフィン基材へ侵入しやすくなる傾向がある。これらの観点から、上記比(MNCO/MOH’)は、0.75以上又は0.78以上であってもよく、0.97以下又は0.95以下であってもよい。
【0065】
触媒としては、例えば、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート等の有機金属化合物;トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の有機アミン及びその塩;などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0066】
触媒の配合量は、用いるポリイソシアネート化合物の反応性によって選択してよい。触媒の配合量は、例えば、ウレタン樹脂形成性原料1質量部に対して0.00010質量部以上25質量部以下であることが好ましく、0.0010質量部以上6.0質量部以下であることがより好ましく、0.010質量部以上1.0質量部以下であることがさらに好ましい。触媒の配合量がウレタン樹脂形成性原料1質量部に対して0.00010質量部以上であると、十分な触媒効果がさらに得られやすい。触媒の配合量がウレタン樹脂形成性原料1質量部に対して25質量部以下であると、経済性においてより好ましい。
【0067】
溶媒としては、例えば、トルエン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系溶剤;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルジグリコール、エチルジグリコール、ブチルジグリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶剤;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;水;などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0068】
溶媒の配合量は、特に限定されず、例えば、ウレタン樹脂形成性原料100質量部に対して、1.0質量部以上10000質量部以下であってよい。
【0069】
ウレタン樹脂(A)は、一種のポリウレタン(A)からなっていてよく、構成単位(ポリオール単位、ポリイソシアネート単位等)の種類、ウレタン基濃度、重量平均分子量などの異なる二種以上のポリウレタン(A)の混合物であってもよい。
【0070】
樹脂組成物中のウレタン樹脂(A)の含量は、コーティング層のポリオレフィン基材に対する接着性がより向上する観点では、セラミック粒子100質量部に対して、0.50質量部以上であることが好ましく、1.0質量部以上又は3.0質量部以上であってもよい。樹脂組成物中のウレタン樹脂(A)の含量は、リチウムイオン電池中での電子の移動がより阻害され難くなる観点では、セラミック粒子100質量部に対して、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下又は5.0質量部以下であってもよい。これらの観点から、樹脂組成物中のウレタン樹脂(A)の含量は、セラミック粒子100質量部に対して、0.50~15質量部であることが好ましい。
【0071】
(セラミック粒子)
セラミック粒子はセラミックスを含む粒子である。セラミックスとしては、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)、べーマイト(AlOOH)、酸化チタン(TiO2)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化亜鉛(ZnO2)等の金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、ケイ酸、カオリン、タルク、ミネラル、ガラス等が挙げられる。セラミック粒子は、これらの材料の一種のみで構成されていてよく、二種以上を含んでいてもよい。
【0072】
セラミック粒子としては、セラミックコーティングセパレーターの製造に使用される公知のセラミック粒子を広く使用可能であり、その種類は、用途及び目的によって選択され得る。セラミック粒子は、耐熱性の観点では、酸化アルミニウムを含むことが好ましい。
【0073】
セラミック粒子には、その機能を阻害しない範囲でセラミックス以外の材料(金属材料又は有機材料)が含まれていてもよいが、セラミックスの含量は、好ましくは95質量%以上であり、より好ましくは99質量%以上である。
【0074】
セラミック粒子の平均粒径は、例えば、0.010~5.0μmであってよく、0.10~3.0μm又は0.40~1.0μmであってもよい。平均粒径は、JISZ8825に準拠したレーザ回折・散乱法による粒子径解析によって測定される。
【0075】
樹脂組成物中のセラミック粒子の含量は、コーティングの効果(セパレーターの耐熱性、機械的強度等の性能を向上させる効果)をより高める観点では、樹脂組成物の固形分全量を基準として、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上又は95質量%以上であってもよい。樹脂組成物中のセラミック粒子の含量は、樹脂組成物の固形分全量を基準として、99.5質量%以下であることが好ましく、99質量%以下又は97質量%以下であってもよい。なお、本明細書中で固形分とは、溶剤(溶媒)以外の成分を意味する。
【0076】
(他の成分)
樹脂組成物は、ウレタン樹脂(A)及びセラミック粒子以外の成分を更に含有してもよい。
【0077】
樹脂組成物は、例えば、粘度調整等を目的として、溶剤を含んでいてよい。溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン、上述したウレタン樹脂(A)の合成のための反応溶媒として例示した化合物が挙げられる。
【0078】
溶剤の含量は、コーティング方法、所望するコーティング層の膜厚等を考慮して選択してよい。樹脂組成物中の溶剤の含量は、例えば、樹脂組成物の固形分100質量部に対して、1.0~10000質量部であることが好ましく、40~3200質量部であることがより好ましく、150~2000質量部であることがさらに好ましい。溶剤の含量を、樹脂組成物中の固形分100質量部に対して1.0質量部以上とすると、樹脂組成物の粘度が低減され、コーティング性が向上する。溶剤の含量を、樹脂組成物中の固形分100質量部に対して10000質量部以下とすると、形成されるコーティング層の膜厚が薄くなり過ぎず、十分な膜厚が得られ易い。
【0079】
他の成分としては、例えば、触媒等を用いることもできる。
【0080】
他の成分は、ポリオール化合物、ポリイソシアネート化合物等のウレタン樹脂形成性原料であってよく、上記ウレタン化触媒、反応溶媒等のウレタン樹脂の合成に使用される成分であってもよい。
【0081】
樹脂組成物において、ウレタン樹脂(A)は、樹脂組成物中のセラミック粒子同士を結着する機能を有することから、バインダー樹脂ということができる。樹脂組成物は、ウレタン樹脂(A)以外のバインダー樹脂を含んでいてもよいが、樹脂組成物がウレタン樹脂(A)以外のバインダー樹脂を更に含有する場合、ウレタン樹脂(A)の含量は、ウレタン樹脂(A)による上述した効果が得られ易くなる観点から、樹脂組成物に含まれるバインダー樹脂の総質量を基準として、80質量%以上100質量%未満であることが好ましく、85質量%以上100質量%未満であることがより好ましく、90質量%以上100質量%未満であることがさらに好ましい。上記ウレタン樹脂(A)以外のバインダー樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂(A)以外のウレタン樹脂、すなわち、ポリオール単位として水添ポリオレフィンポリオールを含まないポリウレタンからなるウレタン樹脂が挙げられる。
【0082】
<セパレーター及びその製造方法>
一実施形態のセパレーターは、リチウムイオン電池用セパレーターであり、ポリオレフィン基材と、該ポリオレフィン基材の表面上に設けられたコーティング層と、を備える。コーティング層は、上記ウレタン樹脂(A)と、上記セラミック粒子と、を含有する。
【0083】
ポリオレフィン基材は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム等のポリオレフィン系樹脂を含む。ポリオレフィン基材は、例えば、多孔質又は微多孔質の膜(フィルム又はシート)であり、イオン伝導性を有している。
【0084】
ポリオレフィン基材としては、セラミックコーティングセパレーターの製造に使用される公知のポリオレフィン基材(例えば、ポリオレフィン多孔質膜等のポリオレフィンセパレーター)を使用可能であり、その種類は、用途及び目的によって選択され得る。ポリオレフィン基材は、コーティング層との接着性により優れる観点では、ポリエチレン及びポリプロピレンの少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0085】
コーティング層は、上記ウレタン樹脂(A)を含有することから、ポリオレフィン基材に対して強固に接着している。上記セパレーターにおいて、ポリオレフィン基材とコーティング層との界面には、基材中のポリオレフィン系樹脂とコーティング層中のウレタン樹脂(A)とが混ざりあった接合領域が形成されていてよい。
【0086】
コーティング層には、上記実施形態の樹脂組成物に含まれ得る他の成分が含まれていてもよい。ただし、コーティング層中の溶剤の含量は、コーティング層の全質量を基準として、1質量%以下であることが好ましい。
【0087】
コーティング層の厚さは、特に限定されないが、1~50μmであることが好ましく、2~30μm又は5~20μmであってもよい。コーティング層の厚さが1μm以上であると、コーティング層が接着性にさらに優れる傾向がある。コーティング層の厚さが50μm以下であると、コーティング層を形成するための乾燥に要する時間をさらに低減でき、さらに優れた生産性が得られる。
【0088】
上記セパレーターの製造方法は、例えば、ポリオレフィン基材上に、上記実施形態の樹脂組成物を含むコーティング剤を塗布し、加熱することによりコーティング層を形成することを含む。
【0089】
コーティング剤の塗布方法は、特に限定されず、例えば、アプリケーター法、バーコート法、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ノズルコート法、グラビアコート法、リバースロールコート法、ダイコート法、エアドクターコート法、ブレードコート法、ロッドコート法、カーテンコート法、ナイフコート法、トランスファロールコート法、スクイズコート法、含浸コート法、キスコート法、カレンダコート法、押出コート法等が挙げられる。
【0090】
加熱は、コーティング剤からなる膜の乾燥のための加熱であってよい。加熱温度(乾燥温度)は、特に限定されないが、ポリオレフィン基材へのダメージを低減する観点では、130℃以下であることが好ましい。加熱温度は、溶剤の残留量を低減する観点では、50℃以上であることが好ましく、70℃以上又は80℃以上であってもよい。加熱時間は、特に限定されないが、溶剤の残留量を低減しつつ工程に要する時間を低減する観点では、1秒~5時間が好ましい。
【実施例0091】
以下、本開示の内容を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0092】
<材料の準備>
以下に示す材料を準備した。
[水添ポリオレフィンポリオール]
・水添ポリブタジエンポリオール1:水酸基末端水添ポリブタジエン(商品名:GI-1000、日本曹達社製)、数平均分子量=1500、水酸基含量=1.22mol/kg、ヨウ素価=9.2g/100g、1,2-付加体:1,4-付加体=85:15(モル比)
・水添ポリブタジエンポリオール2:水酸基末端水添ポリブタジエン(商品名:GI-1000とGI-2000のブレンド品。いずれも日本曹達社製)、数平均分子量=1600、水酸基含量=1.15mol/kg、ヨウ素価=10.0g/100g、1,2-付加体:1,4-付加体=85:15(モル比)
・水添ポリブタジエンポリオール3:水酸基末端水添ポリブタジエン(商品名:GI-1000とGI-3000のブレンド品。いずれも日本曹達社製)、数平均分子量=1670、水酸基含量=1.15mol/kg、ヨウ素価=9.7g/100g、1,2-付加体:1,4-付加体=85:15(モル比)
・水添ポリブタジエンポリオール4:水酸基末端水添ポリブタジエン(商品名:GI-1000とGI-2000のブレンド品。いずれも日本曹達社製)、数平均分子量=1690、水酸基含量=1.08mol/kg、ヨウ素価=10.7g/100g、1,2-付加体:1,4-付加体=85:15(モル比)
・水添ポリブタジエンポリオール5:水酸基末端水添ポリブタジエン(商品名:GI-1000とGI-3000のブレンド品。いずれも日本曹達社製)、数平均分子量=1830、水酸基含量=1.08mol/kg、ヨウ素価=10.1g/100g、1,2-付加体:1,4-付加体=85:15(モル比)
[ポリイソシアネート]
・MDI:ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(商品名:ミリオネートMT、東ソー社製)、イソシアネート基含量=7.99mol/kg
[鎖延長剤]
・MPD:2-メチル-1,3-プロパンジオール、東京化成工業社製
[触媒]
・ジラウリン酸ジオクチルスズ:キシダ化学社製
[溶媒]
・シクロヘキサノン:富士フイルム和光純薬社製
・N-メチル-2-ピロリドン(NMP):富士フイルム和光純薬社製
[セラミック粒子]
・酸化アルミニウム粒子:(商品名:α-アルミナ,0.5μm。富士フイルム和光純薬社製、平均粒径=0.5μm)
[バインダー樹脂]
・ポリフッ化ビニリデン1:シグマアルドリッチ社製、重量平均分子量=275000
・ポリフッ化ビニリデン2:シグマアルドリッチ社製、重量平均分子量=530000
【0093】
<合成例1>
(ウレタン樹脂組成物の調製)
撹拌機、温度計、加熱装置、還流管を備えた容量2Lの四口セパラブルフラスコに、水添ポリブタジエンポリオール1を150.0gと、MDIを18.8gと、触媒(ジラウリン酸ジオクチルスズ)を0.137gと、溶媒(シクロヘキサノン)を1520gと、をそれぞれ室温下で仕込んだ。次いで、フラスコ内に窒素ガスを吹き込むことでフラスコ内を窒素置換した。フラスコ内の混合物を80℃の条件下で略均一に撹拌しながら6時間反応させることで、ポリウレタン(a1)からなるウレタン樹脂(ウレタン樹脂(a1))を含む組成物(ウレタン樹脂組成物)を得た。
【0094】
(ウレタン樹脂の分析)
上記で得られたウレタン樹脂組成物を減圧下で乾燥させて溶剤を留去することでウレタン樹脂(a1)を取り出し、以下に示す方法で、ウレタン樹脂(a1)のウレタン基濃度、分子量等を測定した。結果を表1に示す。なお、本方法で取り出したウレタン樹脂(a1)中には反応に使用した触媒が残留することがあるが、残留する触媒の量はごく微量であり測定方法の検出限界以下であるため、以下の測定は、触媒の残留はないものとして行った。
【0095】
[イソシアネート基含量及びウレタン基濃度の測定]
まず、合成反応後にウレタン樹脂(a1)中に残存するイソシアネート基含量(NCO含量)をJIS K1603-1に準拠して測定した。次に、元素分析によりウレタン樹脂(a1)中の窒素含量を測定した。測定で得られたイソシアネート残存量と元素分析の結果から、ウレタン樹脂(a1)中のウレタン基濃度を算出した。
【0096】
[水酸基含量の測定]
ウレタン樹脂(a1)中に残存する水酸基含量(OH含量)をJIS K1557-1に準拠して測定した。
【0097】
[分子量の測定]
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を測定し、分子量分布指数(Mw/Mn)を求めた。なお、重量平均分子量及び数平均分子量は、ポリスチレン換算分子量である。
-条件-
・装置:高速GPC装置(東ソー社製HLC-8320GPC)
・カラム:TSKgel guardcolumn α(6.0mmI.D.×4cm)1本と、+α-M(67.8mmI.D.×30cm)2本とをこの順に直列に接続したもの(いずれも東ソー社製)。
・移動相:シクロヘキサノン
・移動相速度:1.0mL/分
・カラム温度:40℃
・検出器:RI検出器(polarity(+))
・サンプル溶液:シクロヘキサノン溶液(濃度:1mg/mL)
・サンプル注入量:100μL
【0098】
[ガラス転移温度の測定]
ウレタン樹脂(a1)のガラス転移温度(Tg)を、示差走査熱量測定(DSC)を用いてJIS K6240に準拠して測定した。測定は窒素雰囲気下、-80℃から200℃の温度範囲で行い、昇温速度は10℃/minとした。ガス流量は50mL/minとした。試料はAlパンに密閉したものを用いた。
【0099】
(表面エネルギーの測定)
まず、上記で得られたウレタン樹脂組成物をポリエチレン基材(PE基材:日立化成製コウベポリシートEL-N-AN)にアプリケーターを用いて塗布し、室温条件下で5分間静置した後、減圧乾燥器を用いて減圧下、80℃で4時間乾燥させた。これにより、PE基材上にウレタン樹脂組成物の乾燥物(ウレタン樹脂(a1))からなる膜(膜厚20μm)を形成した。
【0100】
次いで、上記膜の表面における各種プローブ液体の接触角を、静滴法でJIS R3257に準拠して測定した。プローブ液体は2.0μL滴下し、接触角測定器(協和界面科学社製自動接触角計DMo―601)を用いて滴下1秒後の接触角を測定した。プローブ液体としては、純水(72.8mN/m、富士フイルム和光純薬社製)及びジヨードメタン(50.8mN/m、富士フイルム和光純薬社製)の2種類をそれぞれ用いた。接触角はプローブ液体毎に10回ずつ測定し、その平均値を測定値とした。
【0101】
上記で得られた純水及びジヨードメタンの接触角の値と、公知の計算方法であるOwensの理論(非特許文献1参照。)を用いて、上記膜の表面エネルギーを計算した。
【0102】
<合成例2~5>
各成分の配合量を表1に示すように変更したことを除き、合成例1と同様にして、合成例2~5のウレタン樹脂組成物を調製した。合成例2~5のウレタン樹脂組成物は、それぞれ、ポリウレタン(a2)~(a5)からなるウレタン樹脂(ウレタン樹脂(a2)~(a5)を含むウレタン組成物である。次いで、合成例1と同様にして、得られたウレタン樹脂組成物からウレタン樹脂(a2)~(a5)をそれぞれ取り出し、ウレタン樹脂(a2)~(a5)のウレタン基濃度、分子量等を測定した。また、合成例1と同様にして、ウレタン樹脂組成物の乾燥物(ウレタン樹脂(a2)~(a5))からなる膜(膜厚20μm)の表面エネルギーの測定を評価した。
【0103】
<実施例1>
容量200mLのビーカーに、酸化アルミニウム粒子を38.8gと、溶媒(シクロヘキサノン)を49.2gと、をそれぞれ室温下で仕込んだ。次いで、フラスコ内の混合物を室温下で超音波分散機を使用して10分間分散した。得られた混合物にバインダーとしてポリウレタン(a1)からなるウレタン樹脂(ウレタン樹脂(a1)、1.2g)を含むウレタン樹脂組成物を12g加えた後、撹拌羽を取り付けた撹拌機で300rpmの回転速度で10分間分散することでコーティング剤(ウレタン樹脂とセラミック粒子とを含有する樹脂組成物)を得た。
【0104】
ポリオレフィン基材としてポリエチレンセパレーター(PEセパレーター:Shenzhen Senior Technology Materials株式会社製SW811G)を用意し、上記で得られたコーティング剤を該ポリオレフィン基材にアプリケーターを用いて塗布した。得られた積層体を室温条件下で5分間静置した後、減圧乾燥器を用いて80℃で4時間乾燥させ、PEセパレーター上にコーティング剤の乾燥物を含むコーティング層(層厚20μm)を形成した。これにより、セラミックコーティングセパレーターを得た。
【0105】
<実施例2~5>
各成分の配合量を表1に示すように変更したことを除き、実施例1と同様にして、ウレタン樹脂組成物(ウレタン樹脂(a2)~(a5))を含むコーティング剤を調製した。次いで、各実施例で得られたコーティング剤を用いたことを除き、実施例1と同様にして、セラミックコーティングセパレーターを作製した。
【0106】
<比較例1~2>
各成分の配合量を表1に示すように変更したことを除き、実施例1と同様にして、ポリフッ化ビニリデン(ポリフッ化ビニリデン1又は2)を含むコーティング剤を調製した。次いで、各比較例で得られたコーティング剤を用いたことを除き、実施例1と同様にして、セラミックコーティングセパレーターを作製した。ポリフッ化ビニリデンは事前にN-メチル-2-ピロリドンに固形分が5wt%となるように溶解させて使用した。
【0107】
<接着性評価>
上記で得られた実施例1~5及び比較例1~2のセラミックコーティングセパレーターのコーティング層の上に粘着テープ(3M社製スコッチマスキングテープ2899)を貼付した後、23℃で20時間静置することでT形剥離試験用の試験片を得た。得られた試験片について、非特許文献2に記載されている公知のT形剥離試験方法に準じて、セラミックコーティングセパレーターから上記粘着テープを剥離する試験を行った。試験には、オートコム型試験機(ティー・エス・イー社製UTPS-Acs(S))を用いた。
【0108】
次いで、試験後に得られたセラミックコーティングセパレーターの剥離面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。実施例1~5及び比較例1~2で観察されたSEM画像を
図1~7に示す。試験後のセラミックコーティングセパレーターの表面においてセラミック粒子が存在しない箇所をコーティング層が剥離した箇所とみなし、剥離箇所の面積(剥離面積)のセパレーター表面全体に対する割合を求め、下記の基準によりコーティング層の接着性を評価した。結果を表1に示す。
A:剥離無し(剥離面積がセパレーター表面全体に対して0%)
B:剥離面積がセパレーター表面全体に対して0%超10%未満
C:剥離面積がセパレーター表面全体に対して10%以上
【0109】
【0110】
上記接着性評価の試験結果より、実施例1~5のセラミックコーティングセパレーターのコーティング層は、ポリオレフィン基材に対して優れた接着性を示すことが確認された。なお、上記試験では、実施例1~5においてコーティング層の凝集破壊が確認されたが、測定された剥離強度は、いずれの実施例も0.03N/20mm以上(実施例1:0.03N/20mm、実施例2:0.05N/20mm、実施例3:0.03N/20mm、実施例4:0.08N/20mm、実施例5:0.13N/20mm)であり、コーティング層が十分に高い凝集力を有することが確認された。