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特開2025-5171耐硫酸性セメント組成物及びこれを含む耐硫酸性コンクリート組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005171
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】耐硫酸性セメント組成物及びこれを含む耐硫酸性コンクリート組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20250108BHJP
   C04B 14/28 20060101ALI20250108BHJP
   C04B 14/10 20060101ALI20250108BHJP
   C04B 18/10 20060101ALI20250108BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20250108BHJP
   C04B 20/00 20060101ALI20250108BHJP
   C04B 24/02 20060101ALI20250108BHJP
   C04B 24/22 20060101ALI20250108BHJP
   C04B 24/24 20060101ALI20250108BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20250108BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
C04B28/02 ZAB
C04B14/28
C04B14/10 B
C04B18/10 Z
C04B18/14 Z
C04B20/00 B
C04B24/02
C04B24/22
C04B24/24
C04B24/26 D
C04B24/38 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105235
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】宮原 茂禎
(72)【発明者】
【氏名】大脇 英司
(72)【発明者】
【氏名】荻野 正貴
(72)【発明者】
【氏名】新藤 竹文
(72)【発明者】
【氏名】藤野 由隆
(72)【発明者】
【氏名】玉滝 浩司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆紘
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA06
4G112PA10
4G112PA26
4G112PA28
4G112PB15
4G112PB25
4G112PB26
4G112PB31
4G112PB40
4G112PC13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】下水汚泥焼却灰を含み、ブリーディングが抑制された耐硫酸性セメント組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、(a)セメントを含む結合材、石灰石微粉末、及び下水汚泥焼却灰を含む無機質粉体組成物と、(b)前記結合材、前記石灰石微粉末、および前記下水汚泥焼却灰の合計100質量部に対して0.5~5質量部のナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と、(c)所定の水溶性増粘剤と、(d)所定の無機増粘剤と、を含み、前記結合材と前記石灰石微粉末との質量比率が、20:80~80:20であり、前記石灰石微粉末及び前記下水汚泥焼却灰の合計含有量が、前記結合材100質量部に対して、100質量部以下である、耐硫酸性セメント組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)セメントを含む結合材、石灰石微粉末、及び下水汚泥焼却灰を含む無機質粉体組成物と、
(b)前記結合材、前記石灰石微粉末、および前記下水汚泥焼却灰の合計100質量部に対して0.5~5質量部のナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と、
(c)アクリル系水溶性高分子、バイオポリマー、グリコール系水溶性高分子及びセルロース系水溶性高分子からなる群より選ばれる1種以上を含む水溶性増粘剤と、
(d)アタパルジャイト、セピオライト、ベントナイト、タルク、およびシリカヒュームからなる群より選ばれる1種以上を含む無機増粘剤と、
を含み、
前記結合材と前記石灰石微粉末との質量比率が、20:80~80:20であり、
前記石灰石微粉末及び前記下水汚泥焼却灰の合計含有量が、前記結合材100質量部に対して、100質量部以下である、耐硫酸性セメント組成物。
【請求項2】
前記水溶性増粘剤と前記無機増粘剤との合計含有量が、前記石灰石微粉末及び前記下水汚泥焼却灰の含有量の合計100質量部に対して、1.0質量部以上である、請求項1に記載の耐硫酸性セメント組成物。
【請求項3】
前記下水汚泥焼却灰の含有量が、前記結合材と前記下水汚泥焼却灰との合計100質量部に対して、1.0質量部以上である、請求項1または2に記載の耐硫酸性セメント組成物。
【請求項4】
前記下水汚泥焼却灰の粒度が、250メッシュパス90質量%以上である、請求項1または2に記載の耐硫酸性セメント組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の耐硫酸性セメント組成物、骨材、および水を含む、耐硫酸性コンクリート組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の耐硫酸性コンクリート組成物の硬化物。
【請求項7】
請求項1または2に記載の耐硫酸性セメント組成物、骨材、および水を含む、耐硫酸性モルタル組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐硫酸性セメント組成物及びこれを含む耐硫酸性コンクリート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道、温泉地等の硫酸または硫酸塩にさらされる箇所においては、従来から、硫酸によるセメント硬化体の腐食が問題となっている。さらに近年、酸性雨による腐食は、下水道、温泉地等の限定された箇所での問題に留まらず、セメントを使用した構築物全体の問題となっている。
【0003】
セメント硬化物(モルタルやコンクリート)は硫酸に長期間接触し続けると、難溶性の石膏を形成すると共に、シリカゲルやアルミナゲルを生成する。コンクリートに対する硫酸のこの作用は、当然、酸の濃度に依存する。pHが2以上(硫酸濃度0.1%以下)の場合には、炭酸ガスや低濃度の酸による腐食,又は硫酸塩などの腐食性を示す塩類などによる腐食の場合と同様に、コンクリートを緻密化させることが腐食物質の内部への浸透を抑制する点から効果があり、高性能AE減水剤等の使用により作業性を確保しながら水セメント比を低下させることにより耐食性を向上させることができる。しかし、硫酸の濃度が高くなるとコンクリートの緻密化のみでは対応が難しく、例えばpHが2より低くなると、セメント素材自体に硫酸に対する抵抗性を期待することは困難である。
【0004】
pHが2より低い場合における硫酸によるセメント硬化物の劣化の防止法として、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩を添加する方法が知られている。特許文献1には、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩を含み、自己充てん性に優れる耐硫酸性セメント組成物及び耐硫酸性コンクリートが開示されている。
【0005】
一方、近年、下水汚泥焼却灰等の産業廃棄物が著しく増加し、環境保護の観点から、下水汚泥焼却灰をコンクリート製品に有効利用することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-234893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩を含む耐硫酸性セメント組成物に、下水汚泥焼却灰を添加して耐硫酸性コンクリートを製造すると、コンクリートにブリーディングが発生してしまうという問題があることを本発明者らは見出した。ブリーディングとは、コンクリート組成物を容器に流し込んで硬化させた後に、コンクリート表面に水が染み出す現象のことをいう。ブリーディングが発生すると、コンクリートの容積が減少したり、コンクリートの強度が低下したりするという問題がおこってしまう。そこで、本発明は、ブリーディングの発生が抑制されたコンクリートを形成できる耐硫酸性セメント組成物およびこれを含む耐硫酸性コンクリート組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の好ましい態様は下記のとおりである。
【0009】
1. (a)セメントを含む結合材、石灰石微粉末、及び下水汚泥焼却灰を含む無機質粉体組成物と、
(b)前記結合材、前記石灰石微粉末、および前記下水汚泥焼却灰の合計100質量部に対して0.5~5質量部のナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と、
(c)アクリル系水溶性高分子、バイオポリマー、グリコール系水溶性高分子及びセルロース系水溶性高分子からなる群より選ばれる1種以上を含む水溶性増粘剤と、
(d)アタパルジャイト、セピオライト、ベントナイト、タルク、およびシリカヒュームからなる群より選ばれる1種以上を含む無機増粘剤と、
を含み、
前記結合材と前記石灰石微粉末との質量比率が、20:80~80:20であり、
前記石灰石微粉末及び前記下水汚泥焼却灰の合計含有量が、前記結合材100質量部に対して、100質量部以下である、耐硫酸性セメント組成物。
【0010】
2. 前記水溶性増粘剤と前記無機増粘剤との合計含有量が、前記石灰石微粉末及び前記下水汚泥焼却灰の含有量の合計100質量部に対して、1.0質量部以上である、上記1に記載の耐硫酸性セメント組成物。
【0011】
3. 前記下水汚泥焼却灰の含有量が、前記結合材と前記下水汚泥焼却灰との合計100質量部に対して、1.0質量部以上である、上記1または2に記載の耐硫酸性セメント組成物。
【0012】
4. 前記下水汚泥焼却灰の粒度が、250メッシュパス90質量%以上である、上記1~3のいずれかに記載の耐硫酸性セメント組成物。
【0013】
5. 上記1~4のいずれかに記載の耐硫酸性セメント組成物、骨材、および水を含む、耐硫酸性コンクリート組成物。
【0014】
6. 上記5に記載の耐硫酸性コンクリート組成物の硬化物。
【0015】
7. 上記1~4のいずれかに記載の耐硫酸性セメント組成物、骨材、および水を含む、耐硫酸性モルタル組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、下水汚泥焼却灰を含む耐硫酸性セメント組成物であって、ブリーディングの発生が抑制され、強度が改善され、かつフレッシュ性状が良好な耐硫酸性セメント組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<耐硫酸性セメント組成物>
本発明の耐硫酸性セメント組成物(単に「セメント組成物」とも記載する)の一実施形態は、
(a)セメントを含む結合材、石灰石微粉末、及び下水汚泥焼却灰を含む無機質粉体組成物と、
(b)前記結合材、前記石灰石微粉末、および前記下水汚泥焼却灰の合計100質量部に対して0.5~5質量部のナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と、
(c)アクリル系水溶性高分子、バイオポリマー、グリコール系水溶性高分子及びセルロース系水溶性高分子からなる群より選ばれる1種以上を含む水溶性増粘剤と、
(d)アタパルジャイト、セピオライト、ベントナイト、タルク、およびシリカヒュームからなる群より選ばれる1種以上を含む無機増粘剤と、を含み、
前記結合材と前記石灰石微粉末との質量比率が、20:80~80:20であり、
前記石灰石微粉末及び前記下水汚泥焼却灰の合計含有量が、前記結合材100質量部に対して、100質量部以下である。
【0018】
本発明の発明者らは、下水汚泥焼却灰を含む耐硫酸性セメント組成物の上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、結合材100質量部に対する、石灰石微粉末及び下水汚泥焼却灰の合計含有量を100質量部以下に調整することにより、下水汚泥焼却灰を含んでも、ブリーディングの発生が抑制され、フレッシュ性状が良好で、かつ強度に優れる耐硫酸性コンクリートを形成できることを見出した。
【0019】
以下、本発明の組成物を構成する各成分について説明する。なお、本明細書において、「単位量(kg/m)」とは、1mのコンクリートを製造するときに用いる各原料の使用量を意味する。また「単位水量」は、1mのコンクリートを製造するときに用いる水の使用量をそれぞれ意味する。
【0020】
上記のとおり、本発明の耐硫酸性セメント組成物は、(a)セメントを含む結合材、石灰石微粉末、及び下水汚泥焼却灰を含む無機質粉体組成物と、(b)ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と、(c)水溶性増粘剤と、(d)無機増粘剤とを含む。本明細書においては、それぞれ、成分(a)、(b)、(c)、(d)とも記載する。
【0021】
<(a)無機質粉体組成物>
無機質粉体組成物は、セメントを含む結合材、石灰石微粉末、及び下水汚泥焼却灰を含む。
【0022】
(結合材)
結合材はセメントを含み、セメントに加えて膨張材を含んでもよい。
【0023】
セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント、アルミナセメント等を挙げることができる。
【0024】
コンクリート中のセメントの配合量は、特に限定はされないが、単位量で、好ましくは250kg/m以上、より好ましくは270kg/m以上であり、また、好ましくは450kg/m以下、より好ましくは400kg/m以下である。また、結合材中のセメント含有量は、特に限定はされないが、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0025】
一実施形態において、結合材は、セメントに加えて膨張材を含むのが好ましく、セメントと膨張材からなるのがより好ましい。膨張材としては、遊離生石灰を主成分とする石灰系膨張材、カルシウムサルホアルミネート系膨張材などが挙げられ、石灰系膨張材を使用することが好ましい。膨張材を含むことにより、コンクリートの収縮を低減したり、ひび割れ発生を抑制したりすることができる。
【0026】
膨張材の配合量は、特に限定はされないが、コンクリート中の単位量で、0kg/mであってもよいが、好ましくは5kg/m以上であり、より好ましくは10kg/m以上であり、また、好ましくは40kg/m以下であり、より好ましくは35kg/m以下である。膨張材の含有量が少なすぎるとコンクリートの膨張性の発現が不十分となってしまう場合があり、含有量が多すぎるとコンクリートが過膨脹を起こしてしまう場合がある。
【0027】
本発明において、コンクリート中の結合材の配合量は、特に限定はされないが、単位量で、好ましくは250kg/m以上であり、より好ましくは270kg/m以上であり、また、好ましくは450kg/m以下であり、より好ましくは400kg/m以下である。
【0028】
(石灰石微粉末)
石灰石微粉末のブレーン比表面積(JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠して測定)は、好ましくは2000cm/g以上、より好ましくは3000cm/g以上、さらに好ましくは4000cm/g以上であり、また、好ましくは8000cm/g以下である。セメント組成物が石灰石微粉末を含むことにより、耐硫酸性が向上する。石灰石微粉末の耐硫酸性の発現機序は明確にされていないが、バリアとなる石膏が生成しやすいこと、石膏生成時の膨張が少ないこと等が関係していると考えられる。
【0029】
無機質粉体組成物中、結合材と石灰石微粉末との質量比率は、好ましくは20:80~80:20、より好ましくは30:70~70:30、更に好ましくは40:60~60:40の範囲である。結合材と石灰石微粉末との質量比率が該範囲内であると、コンクリートを硫酸水溶液に浸漬したときの侵食に対する抵抗性の低下を十分防止することができる。なお、コンクリートを硫酸水溶液に浸漬したときの侵食に対する抵抗性を高めるには、無機質粉体組成物における石灰石微粉末の質量部比率を40~60にするのが望ましい。
【0030】
(下水汚泥焼却灰)
下水汚泥焼却灰は、下水汚泥を減量化や安定化のために焼却した際に発生する灰であり、下水汚泥処理時に使用される凝集剤等に由来する酸化カルシウムのほか、二酸化ケイ素、マグネシウム、リン等を含み、多孔質の粒子を含む粒子複合体として構成される。耐硫酸性セメント組成物が下水汚泥焼却灰を含むことによりブリーディングが生じやすくなるが、その原因として、下水汚泥焼却灰は、例えば炭酸カルシウムといった粉体と比べて、水の吸着分が多く、吸着した水をコンクリートの硬化後に放出することによると考えられる。しかしながら、本発明の発明者らは、耐硫酸性セメント組成物中、結合材100質量部に対する、石灰石微粉末及び下水汚泥焼却灰の合計含有量を調整することにより、下水汚泥焼却灰を含有しても、コンクリートのフレッシュ性状および耐硫酸性を良好に維持しつつ、ブリーディングを抑制することができることを見出した。また、本発明の耐硫酸性セメント組成物は、下水汚泥焼却灰を含むことにより、コンクリートの強度が向上することを、本発明の発明者らは見出した。
【0031】
一実施形態において、下水汚泥焼却灰として、分級・粉砕して製造した粒度調整灰を用いるのが好ましい。本実施形態で用いられる下水汚泥焼却灰は、特に限定はされないが、その平均粒子径が、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上であり、また、好ましくは100μm以下、より好ましくは70μm以下である。平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定される体積に基づく粒度分布のメジアン径とすることができる。下水汚泥焼却灰の平均粒子径が該範囲内にあることにより、物理特性に優れる。一実施形態において、下水汚泥焼却灰は、JIS Z8801-1に規定された試験用ふるいで、250メッシュパス(63μm未満)が90質量%以上であるのが好ましい。
【0032】
下水汚泥焼却灰の配合量は、特に限定はされないが、コンクリート中の単位量で、例えば、好ましくは、3kg/m以上、5kg/m以上、10kg/m以上であってよく、また、好ましくは60kg/m以下であり、より好ましくは50kg/m以下であり、さらに好ましくは45kg/m以下である。本発明の耐硫酸性セメント組成物は、下水汚泥焼却灰の含有量が多くてもコンクリートのブリーディングを抑制することができる。また、下水汚泥焼却灰の配合量が上記範囲内であると、コンクリートの強度を十分に向上させることができる。
【0033】
本発明の耐硫酸性セメント組成物においては、結合材100質量部に対する、石灰石微粉末及び下水汚泥焼却灰の合計含有量が、100質量部以下であるのが好ましく、95質量部以下であるのがより好ましく、91質量部以下であるのがさらに好ましく、87質量部以下であるのがさらに好ましく、85質量部以下であるのがよりさらに好ましく、また、50質量部以上であるのが好ましく、55質量部以上であるのがより好ましく、60質量部以上であるのがさらに好ましい。本発明の発明者らは、結合材100質量部に対する、石灰石微粉末及び下水汚泥焼却灰の合計含有量が該範囲内にあると、コンクリートが、良好なフレッシュ性状および耐硫酸性を有し、かつ、ブリーディングの発生を顕著に抑制できることを見出した。
【0034】
一実施形態において、下水汚泥焼却灰の含有量は、結合材と下水汚泥焼却灰との合計100質量部に対して、限定はされないが、好ましくは1.0質量部以上、より好ましくは2.0質量部以上であり、さらに好ましくは3.0質量部以上であり、よりさらに好ましくは4.0質量部以上であり、また、好ましくは13質量部以下、より好ましくは12質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。
【0035】
一実施形態において、結合材100質量部に対する下水汚泥焼却灰の含有量は、限定はされないが、好ましくは1.0質量部以上、より好ましくは3.0質量部以上であり、さらに好ましくは4.5質量部以上であり、また、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。
【0036】
一実施形態において、結合材と石灰石微粉末との合計100質量部に対する下水汚泥焼却灰の含有量は、限定はされないが、好ましくは1.0質量部以上、より好ましくは2.0質量部以上であり、また、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0037】
一実施形態において、結合材と石灰石微粉末と下水汚泥焼却灰との合計100質量部に対する下水汚泥焼却灰の含有量は、限定はされないが、好ましくは0.8質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上であり、さらに好ましくは2.4質量部以上であり、また、好ましくは12質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0038】
一実施形態において、耐硫酸性コンクリート組成物(水および骨材を含む)の全質量(ただし、増粘剤を除く)100質量部に対する下水汚泥焼却灰の含有量は、限定はされないが、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、また、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。
【0039】
<(b)ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩>
ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩は、ナフタレン環における水素原子の一部あるいは全部が、例えばアルキル基により置換されていてもよいし、置換されていなくてもよい。このアルキル基としては特に限定はないが、炭素数1~3のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基)であることが好ましい。
【0040】
成分(b)における塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩、またはアンモニウム塩が好ましい。
【0041】
一実施形態において、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩として下記式で表される化合物を用いるのが好ましい。
【0042】
【化1】
【0043】
本発明の耐硫酸性セメント組成物は、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩を含むことにより耐硫酸性が向上する。ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩により耐硫酸性が向上する要因は明らかではないが、硫酸溶液に浸せきした硬化物のSEM観察において、表面に通常見られない石膏の緻密な層が認められる。このことから、この石膏層がバリアとなって硫酸の浸透を抑制しているものと考えることができる。セメント組成物は、硫酸溶液中で溶解し石膏を析出するが、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩によって石膏の析出機序が変化して、上記のような緻密な石膏層が形成されたものと推察される。
【0044】
ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩のコンクリート中の配合量は、結合材、石灰石微粉末、および下水汚泥焼却灰の合計100質量部に対して、固形分換算で好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.8質量部以上、さらに好ましくは1.0質量部以上であり、また、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下で、さらに好ましくは2.5質量部以下である。ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩の該添加量が0.5質量部以上であると、減水性を発現し、耐硫酸性も十分発揮する。また、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩の添加量の増加とともに耐硫酸性は向上するが、添加量が多すぎると耐硫酸性の更なる改善効果はあまり見られなくなる場合がある。
【0045】
ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩の添加量は、単位量で、好ましくは3kg/m以上であり、より好ましくは5kg/m以上であり、さらに好ましくは7kg/m以上であり、また、好ましくは20kg/m以下であり、より好ましくは15kg/m以下であり、さらに好ましくは12kg/m以下である。
【0046】
<(c)水溶性増粘剤>
水溶性増粘剤としては、アクリル系水溶性高分子、バイオポリマー、グリコール系水溶性高分子、およびセルロース系水溶性高分子等から選ばれる1種、又はこれらのうちの2種以上の混合物が挙げられる。ここで、アクリル系水溶性高分子としては、例えば、アクリルアミドとアクリル酸の共重合体、ポリアクリル酸等を例示することができる。また、バイオポリマーとしては、β-1,3グルカン、水溶性ポリサッカライド等を例示することができる。グリコール系水溶性高分子としては、ポリアルキレングリコール、ジステアリン酸グリコール、繊維素グリコール酸等を例示することができる。セルロース系水溶性高分子としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース等を例示することができる。
【0047】
水溶性増粘剤は、結合材、石灰石微粉末、および下水汚泥焼却灰の合計100質量部に対して、限定はされないが、有機質成分量基準で好ましくは0.01~0.5質量部、より好ましくは0.02~0.2質量部の範囲の量にて使用するとよい。なお、有機質成分量基準とは、示差熱重量分析(TG-DTA)を行なった場合の約210~510℃の重量減少量をいう。水溶性増粘剤の含有量が低すぎると、材料分離が発生し、充分な作業性が得られない場合がある。また、水溶性増粘剤の含有量が多すぎると、粘性が高くなるため作業性が悪くなり、凝結も遅延する場合がある。
【0048】
水溶性増粘剤は、有機質成分(例えば、上記水溶性化合物)と無機質成分(例えば、セメント、炭酸カルシウム等)との混合物であってもよい。その場合、水溶性増粘剤の添加量は、限定はされないが、増粘剤を除くコンクリート組成物1mあたり、好ましくは0.1kg以上、より好ましくは0.5kg以上、さらに好ましくは1.0kg以上であってよく、また、好ましくは5kg以下、より好ましくは4kg以下、さらに好ましくは3kg以下である。水溶性増粘剤中の有機質成分の含有量は、限定はされないが、例えば、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、また、好ましくは25質量%以下、より好ましくは15質量%以下であってもよい。
【0049】
<(d)無機増粘剤>
無機増粘剤としては、例えば、アタパルジャイト、セピオライト、ベントナイト、タルク、シリカヒューム等から選ばれる1種、又はこれらのうちの2種以上の混合物が挙げられ、アタパルジャイト、セピオライト、ベントナイト、タルク、およびシリカヒュームからなる群から選ばれる1種以上を含むのが好ましく、アタパルジャイト、セピオライト、およびベントナイトからなる群より選ばれる1種以上であるのがより好ましい。なお、これらの無機増粘剤は、高流動コンクリート製造あるいは左官用モルタルの作業性の改善に使用されている。
【0050】
無機増粘剤は、結合材、石灰石微粉末、および下水汚泥焼却灰の合計100質量部に対して、限定はされないが、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.3~2質量部の範囲の量で使用してもよい。無機増粘剤が少なすぎると、材料分離が発生し、充分な作業性が得られない場合がある。無機増粘剤が、多すぎると、粘性が高くなるとともに、スランプフローが小さくなり、自己充てん性が損なわれる場合がある。
【0051】
無機増粘剤の添加量は、限定はされないが、増粘剤を除くコンクリート組成物1mあたり、好ましくは0.5kg以上、より好ましくは1.0kg以上、さらに好ましくは1.5kg以上であってよく、また、好ましくは6kg以下、より好ましくは5kg以下、さらに好ましくは4kg以下である。
【0052】
(c)水溶性増粘剤と(d)無機増粘剤とを用いることにより、良好なフレッシュ性状のコンクリートが得られる。これは水溶性増粘剤が水の粘度を上げ、無機増粘剤が粒子としてコンクリートの粘性を上げることにより、両者の性状がバランス良く発揮されるからであると考えられる。
【0053】
一実施形態において、(c)水溶性増粘剤と(d)無機増粘剤の合計含有量(「増粘剤合計含有量」とも記載する)が、無機質粉体組成物(a)中の石灰石微粉末及び下水汚泥焼却灰の含有量100質量部に対し、好ましくは0.9質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上、さらに好ましくは1.1質量部以上であり、また、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。また、(c)水溶性増粘剤中の有機質成分と(d)無機増粘剤との合計含有量が、無機質粉体組成物(a)中の石灰石微粉末及び下水汚泥焼却灰の含有量100質量部に対し、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.6質量部以上であり、また、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。
【0054】
一実施形態において、増粘剤合計含有量が、限定はされないが、増粘剤を除いたコンクリート組成物1mあたり、1.0kg以上であるのが好ましく、2.0kg以上であるのがより好ましく、2.5kg以上であるのがさらに好ましく、また、10kg以下であるのが好ましく、8kg以下であるのがより好ましい。また、一実施形態において、水溶性増粘剤の有機質成分と、無機増粘剤との合計含有量が、増粘剤を除いたコンクリート組成物1mあたり、限定はされないが、0.8kg以上であるのが好ましく、1.3kg以上であるのがより好ましく、1.5kg以上であるのがより好ましく、また、6.0kg以下であるのが好ましく、5.0kg以下であるのがより好ましい。増粘剤の含有量が多すぎると粘性増加による作業性および流動性の低下が生じてしまう場合があり、増粘剤の含有量が少なすぎると材料分離が生じてしまう場合がある。
【0055】
<その他の成分>
セメント組成物は、通常のセメント、モルタル及びコンクリートで使用される高炉スラグ微粉末、フライアッシュ等の無機粉末を含んでもよい。また、モルタル用あるいはコンクリート用の化学混和剤を含んでもよい。
【0056】
本発明の耐硫酸性セメント組成物の全量中、成分(a)、(b)、(c)および(d)の合計含有量が80質量%以上であるのが好ましく、90質量%以上であるのがより好ましく、100質量%であってもよい。
【0057】
<耐硫酸性コンクリート組成物>
耐硫酸性コンクリート組成物(単に「コンクリート組成物」とも記載)は、上記耐硫酸性セメント組成物に加えて、骨材および水を含むのが好ましい。耐硫酸性コンクリート組成物を用いてコンクリートまたはモルタル等の耐硫酸性硬化物を作製することができる。この場合、骨材として石灰石骨材を使用すると耐硫酸性は更に向上する。これは、石灰石微粉末の添加による効果と同じ要因と思われ、骨材として石灰石を用いると、石灰石量をさらに増やすことができるので好ましい。
【0058】
耐硫酸性コンクリート組成物中の耐硫酸性セメント組成物の含有量は、限定はされないが、例えば、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。
【0059】
(骨材)
骨材は、特に制限されるものではなく、通常のコンクリートの製造に使用される細骨材および粗骨材を何れも使用することができる。細骨材および粗骨材の粒径はJISに規定されたとおりであり、細骨材は、粒径が5mm未満であり、粗骨材は粒径が5mm以上25mm以下である。なお、本明細書において、石灰石微粉末に該当するものは、骨材には該当しないものとする。細骨材としては、例えば、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、硅砂、および軽量細骨材等から選ばれる1種以上が挙げられる。粗骨材としては、安山岩、流紋岩、硬質砂岩、石灰石などを破砕した砕石、川砂利、山砂利、陸砂利、高炉スラグ粗骨材、再生粗骨材等から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0060】
コンクリート組成物において、細骨材の単位量は、特に限定はされないが、好ましくは500~1100kg/m、より好ましくは600~1000kg/mである。コンクリート組成物において、粗骨材の単位量は、特に限定されないが、好ましくは500~1100kg/m、より好ましくは600~1000kg/mである。
【0061】
(水)
コンクリート組成物に用いる水は特に限定されず、上水道水、下水処理水、および生コンの上澄み水等の、コンクリートの強度発現性や流動性等に影響を与えないものであれば用いることができる。水の単位量は、限定はされないが、好ましくは100~200kg/m、より好ましくは120~190kg/mである。
【0062】
一実施形態において、耐硫酸性コンクリート硬化物を形成させる際、耐硫酸性コンクリート組成物中の結合材成分に対する添加水量を水/結合材比(質量比)で好ましくは40~60%、より好ましくは45~55%として混練するとよい。水/結合材比が小さすぎると耐硫酸性が低下する傾向にあり、水/結合材比が大きすぎると、凝結が遅延するとともに水密性が低下する傾向にある。また、混練の際の単位水量は例えば120~180kg/mとするのが好ましい。水量が少なすぎると、コンクリート成形物の製造の作業性が低下しやすくなり、一方、水量が多すぎるとコンクリート中の骨材量は少なくなるため、コンクリートとしての特性が低下する傾向にある。
【0063】
耐硫酸性セメント組成物を構成するセメント、石灰石微粉末、下水汚泥焼却灰、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩、水溶性増粘剤、無機増粘剤などの材料は、セメント組成物あるいはセメント組成物ペーストにそれぞれ単独で、任意の順序で添加して使用することができる。また、その一部あるいは全部を予め混合して用いることもできる。予め混合して用いる場合には、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩は粉体状のものを用いることが好ましい。予め混合して用いる方法は、添加量の少ない増粘剤、コンクリートミキサで混合し難い微粉末を均一に混合するのに適している。
【0064】
本発明の耐硫酸性セメント組成物を用い、骨材及び水と混練したのち成形し、養生することにより得られる耐硫酸性コンクリートは、耐硫酸性に優れる。一実施形態において、耐硫酸性コンクリートは、例えば、5質量%硫酸水溶液(pH約0.3)に112日間浸せきしたときの硫酸浸透深さが3mm以下となり、特に、硫酸浸透深さ2mm以下を達成することができる。
【0065】
ここで、5質量%硫酸水溶液に浸せきした時の硫酸浸透深さの測定条件及び測定方法は、JIS A 7502-2「下水道構造物のコンクリート腐食対策技術」附属書Cモルタルライニング工法に準じて測定することができる。具体的には、φ100×200mmの円柱供試体を5%の硫酸へ112日まで浸せきしたのち、切断面にフェノールフタレイン溶液を噴霧してアルカリ性を保持している健全部の長さを測定し、これを浸せき前の寸法から差し引くことで硫酸浸透深さを求めた。得られた硫酸浸透深さは硫酸により欠損(溶解)した深さと、残存コンクリート表面のアルカリ性を失った深さの和となる。
【0066】
硫酸浸透深さは、次のように測定する。先ず、浸せき前のコンクリート供試体における曝露面中央部の直径(型枠における内寸法の一辺の長さ)を測定し,L(≒10cm)とする。そして、侵食されていない領域を染色するため、浸せき後に供試体中央部を切断し、その断面に、フェノールフタレイン溶液(JISK8001の4.4(指示薬)に規定するフェノールフタレイン溶液)を噴霧する。これにより、侵食されていない塩基性を示す領域は赤紫色に呈色される。赤紫色に呈色された領域における、曝露面の直径をノギスで測定し、その幅をL1(cm)とする。硫酸浸透深さは、(L-L1)/2(cm)により求めることができ、(L-L1)/2(cm)分の深さだけ、硫酸水溶液によって侵食されたことがわかる。なお、浸せき後の直径は5箇所(円周を5等分した位置)測定した結果の平均とする。
【0067】
質量減少率は、次のように測定する。先ず、浸せき前のコンクリート供試体における全質量を測定し,Wとする。そして,侵食されていない健全部の質量を測るために,全開に開放した水道水によって,浸せき面前面を洗浄し,生成された石膏の脆弱層などを除去してから質量を測定し,W1とする。質量減少率は,(W-W1)/W×100(%)により求めることができる。
【0068】
本発明の耐硫酸性セメント組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物は、優れた耐硫酸性が求められる下水道管、下水道処理場や管渠等の下水道関連施設、あるいは温泉施設の給排水設備や温泉地域における農業用および排水用の水路構造物等温泉地関連施設、化学工場等で使用される構造物や二次製品、補修材に有利に適用できる。下水道処理関連のコンクリート施設においては、例えば、ポンプ場、沈殿池、分配槽、反応タンク、汚泥貯留槽、連絡水路、汚泥消化槽等に、本発明の耐硫酸性セメント組成物および耐硫酸性コンクリート組成物を利用することができる。また、温泉地のコンクリート施設としては、温泉施設の浴槽、浴室内装材、内部設備類の他、温泉水や温泉蒸気に影響を受ける温泉地の建築物の基礎や壁、地中ばり、コンクリートを利用したトンネル、電柱、舗装コンクリート等が挙げられる。
【0069】
本発明の耐硫酸性コンクリート組成物は、自己充てん性に優れる。一般に、「自己充てん性」とは、コンクリートの施工性に関する性能であり、打込み時に振動締固め作業を行うことなく、自重のみで型枠等の隅々まで均等に充てんする性能を意味する。自己充てんコンクリートは、過密配筋部、充てん間隙の狭小部、施工の都合上で振動締め固めが困難な箇所等に用いられる。なお、一般的なコンクリートと同様に、収縮の補償、ケミカルプレストレスの付与及びひび割れの低減を目的に、膨張剤及び/又は収縮低減剤を添加することもできる。また、一般的なコンクリートと同様に、凝結時間を制御するための硬化促進剤や凝結遅延剤を添加することもできる。
【実施例0070】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0071】
<使用材料>
使用した材料とその略号を下記に示す。
(a)無機質粉体組成物
結合材Bとして下記CとEXPを用いた。
・セメント(C):普通ポルトランドセメント:ブレーン比表面積3270cm/g
・膨張材(EXP):石灰系膨張材(太平洋マテリアル社製、太平洋ハイパーエクスパンタイプM(水和熱抑制型))
【0072】
・石灰石微粉末(LP):ブレーン比表面積4500cm/g
・下水汚泥焼却灰(SA):(粒度:-63μm(250メッシュ)通過率90%以上)
【0073】
(b)ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩(NS)
下記式で表される化合物を用いた。
【0074】
【化2】
【0075】
(増粘剤)
増粘剤(V)としては、アクリル系増粘剤(V1)と無機増粘剤(V2)をV1:V2=39:61の質量比となるように混合したものを用いた。アクリル系増粘剤(V1)と無機増粘剤(V2)としては下記化合物を用いた。
【0076】
(c)水溶性増粘剤
・アクリル系増粘剤(V1)
有機質成分として芳香族ポリアクリルアミドの誘導体、無機質成分としてポルトランドセメント及び炭酸カルシウム微粉末を含有する粉末状増粘剤である。有機質成分量は8質量%である。
【0077】
(d)無機増粘剤
・無機増粘剤(V2)(アタパルジャイト(AMI社製))
(針状結晶:平均長さ1.5×10-6mから2.0×10-6m、平均径30nm)
【0078】
<細骨材(S)>
・石灰石砕砂(S1)(表乾密度2.68g/cm
<粗骨材(G)>
・石灰石砕石2005(G1)(表乾密度2.67g/cm
・石灰石骨材1005(G2)(表乾密度2.70g/cm
【0079】
<練混ぜ水(W)>
上水道水
【0080】
<実施例1~7、比較例1~9>
(コンクリートの調製)
コンクリートの調製は、普通ポルトランドセメント(C)と膨張材(EXP)からなる結合材、石灰石微粉末(LP)、下水汚泥焼却灰(SA)、細骨材(S1)、粗骨材(G1またはG2)、アクリル系増粘剤(V1)、及び無機増粘剤(V2)を表1に示す割合で混合し、二軸強制練りミキサで30秒間撹拌した。その後、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物(NS)と上水道水(W)を表1に示す割合で混合した練混ぜ水をミキサ内に投入し、さらに150秒間撹拌することによりコンクリートを調製した。
【0081】
<評価試験方法>
(1)ブリーディングの発生についての観察、ブリーディング量の測定
比較例4,5,6については、JIS A 1123:2012「コンクリートのブリーディング試験方法」に準拠し、ブリーディング量を測定した。結果を表3に示す。表3中、「0」と記載しているものは、ブリーディングが観察されなかった。「発生した」と記載しているものは、ブリーディングの発生が観察されたことを意味する。
【0082】
(2)フレッシュ性状の評価
作製した硬化前の各コンクリート組成物のフレッシュ性状を、下記の試験方法に準拠して行った。「スランプフロー」は変形性の指標、「スランプフロー試験の50cmフロー到達時間」は粘性の指標、空気量は凍結融解抵抗性、耐凍害性の指標として測定した。
(2-1)スランプフロー、50cmフロー到達時間:JIS A 1150:2001「コンクリートのスランプフロー試験」に従った。スランプフローの目標値は70±5cm、50cmフロー到達時間の目標値は10±5秒とした。
(2-2)空気量:JIS A 1128「フレッシュコンクリートの空気量の圧力による試験方法‐空気室圧力方法)に準じて、コンクリートの空気量を測定した。空気量の目標値は4.5±1.5%とした。
【0083】
(3)コンクリートの圧縮強度:φ10×20cmの円柱型の型枠に充てんしたコンクリートについて、JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準拠して材齢28日において圧縮強度を測定した。
【0084】
【表1】
【0085】
表2は、表1に基づいて、成分の配合比等について算出した結果を示す。表3は、コンクリートの評価試験結果を示す。
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
表1、表2に示すように、比較例1,7,8,9は、下水汚泥焼却灰(SA)を含まないコンクリートであり、比較例2~6および実施例1~7は下水汚泥焼却灰を含むコンクリートである。表3に示すように、比較例2~6では、下水汚泥焼却灰を含むことにより、成形体においてブリーディングの発生が観察された。
【0089】
なお、比較例3,6では、コンクリートの粘度が増加して作業性が劣り、ホバートミキサー(ホバート社のミキサー)を用いて練ることができなかった。これは、下水汚泥焼却灰SAは、炭酸カルシウムLPと比べて、比表面積が大きく、摩擦によってコンクリートの粘度が大きく上昇したためと考えられる。
【0090】
これに対し、実施例1~7では、下水汚泥焼却灰を含むが、ブリーディングが発生せず、かつ、フレッシュ性状の目標値も達成できた。すなわち、結合材100質量部に対する、石灰石微粉末及び下水汚泥焼却灰の合計含有量{100×(SA+LP)/B}を調整することにより、下水汚泥焼却灰の含有量が多くてもブリーディングの発生を充分に抑制できることが示された。
【0091】
さらに、比較例8と実施例3~6とを比較すると、下水汚泥焼却灰の含有量が多くなるほど圧縮強度が向上することが示された。
【0092】
また、実施例1~7のコンクリートについて耐硫酸性試験を行い、耐硫酸性も良好であることを確認した。耐硫酸性試験は上述のJIS A 7502-2「下水道構造物のコンクリート腐食対策技術」附属書Cモルタルライニング工法に準じて測定した。以上のように、実施例1~7のコンクリートは、ブリーディングの発生が抑制され、強度が向上し、かつ、フレッシュ性状および耐硫酸性が良好であることが示された。
【0093】
本明細書には、本発明の好ましい実施態様を示してあるが、そのような実施態様が単に例示の目的で提供されていることは、当業者には明らかであり、当業者であれば、本発明から逸脱することなく、様々な変形、変更、置換を加えることが可能であろう。本明細書に記載されている発明の様々な代替的実施形態が、本発明を実施する際に使用されうることが理解されるべきである。また、本明細書中において参照している特許及び特許出願書類を含む、全ての刊行物に記載の内容は、その引用によって、本明細書中に明記された内容と同様に取り込まれていると解釈すべきである。