(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025052818
(43)【公開日】2025-04-07
(54)【発明の名称】シート及びシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20250328BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20250328BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20250328BHJP
【FI】
B32B27/30 D
B32B27/34
C09K3/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023161734
(22)【出願日】2023-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 悠希
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 徹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正登志
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AH02B
4F100AH03B
4F100AH06B
4F100AK17B
4F100AK18C
4F100AK46A
4F100AK48A
4F100AL01A
4F100BA03
4F100BA07
4F100CB00B
4F100DD07A
4F100DD07B
4F100EH20
4F100EJ42
4F100EJ50
4F100JA04A
4F100JA04B
4F100JA04C
4F100JB16C
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】ガスバリア性に優れるフッ素樹脂系のシート、及びこのシートの製造方法を提供する。
【解決手段】シートは、ポリアミド系樹脂を含有する第一の層と、テトラフルオロエチレンに基づく単位を含み、溶融成形可能であるパーフルオロ重合体を含有する第二の層と、接着性官能基を有するフッ素樹脂を含有する中間層と、を有し、前記第一の層と前記中間層との界面の平均粗さが5μm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系樹脂を含有する第一の層と、
テトラフルオロエチレンに基づく単位を含み、溶融成形可能であるパーフルオロ重合体を含有する第二の層と、
接着性官能基を有するフッ素樹脂を含有する中間層と、を有し、
前記第一の層と前記中間層との界面の平均粗さが5μm以下である、シート。
【請求項2】
前記第一の層の外側表面の算術平均粗さRaが、5μm以下である、請求項1に記載のシート。
【請求項3】
平均総厚が、1μm~3mmである、請求項1又は請求項2に記載のシート。
【請求項4】
前記接着性官能基が、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基、イソシアネート基、グリシジル基、シアノ基、シリル基、及びシラネート基からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は請求項2に記載のシート。
【請求項5】
前記ポリアミド系樹脂が、ポリアミド6、ポリアミド12、及びポリアミド6/ポリアミド12共重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は請求項2に記載のシート。
【請求項6】
前記パーフルオロ重合体は、主鎖炭素数1×106個に対して接着性官能基が50個以下である、請求項1又は請求項2に記載のシート。
【請求項7】
シートの平均総厚に対する前記第一の層の平均厚さの比が、0.30~0.80である、請求項1又は請求項2に記載のシート。
【請求項8】
前記第一の層を構成する溶融物と、前記中間層を構成する溶融物と、前記第二の層を構成する溶融物とをダイから共押出する、請求項1又は請求項2に記載のシートの製造方法。
【請求項9】
前記ダイの温度を、前記パーフルオロ重合体の融点、前記ポリアミド系樹脂の融点、及び接着性官能基を有するフッ素樹脂の融点のうち、最も高い融点以上、かつ前記最も高い融点との差が50℃以内の温度に設定する、請求項8に記載のシートの製造方法。
【請求項10】
冷却速度が、5~35℃/秒である、請求項8に記載のシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シート及びシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、電気特性、撥水撥油性、耐薬品性、耐熱性等の物性に優れており、様々な分野で利用されている。特に、テトラフルオロエチレン系ポリマーは、離型性、電気絶縁性、撥水撥油性、耐薬品性、耐候性、耐熱性等の物性に優れており、種々の成形物に加工されて利用されている。
このようなフッ素樹脂特有の性質を活かしつつ、ガスバリア性を有するシートが望まれている。なお、ガスバリア性に優れる材料としては、ポリアミド樹脂が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の一実施形態における課題は、ガスバリア性に優れるフッ素樹脂系のシート、及びこのシートの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示には、以下の態様が含まれる。
<1> ポリアミド系樹脂を含有する第一の層と、
テトラフルオロエチレンに基づく単位を含み、溶融成形可能であるパーフルオロ重合体を含有する第二の層と、
接着性官能基を有するフッ素樹脂を含有する中間層と、を有し、
前記第一の層と前記中間層との界面の平均粗さが5μm以下である、シート。
<2> 前記第一の層の外側表面の算術平均粗さRaが、5μm以下である、<1>に記載のシート。
<3> 平均総厚が、1μm~3mmである、<1>又は<2>に記載のシート。
<4> 前記接着性官能基が、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基、イソシアネート基、グリシジル基、シアノ基、シリル基、及びシラネート基からなる群より選択される少なくとも1種である、<1>~<3>のいずれか1つに記載のシート。
<5> 前記ポリアミド系樹脂が、ポリアミド6、ポリアミド12、及びポリアミド6/ポリアミド12共重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載のシート。
<6> 前記パーフルオロ重合体は、主鎖炭素数1×106個に対して接着性官能基が50個以下である、<1>~<5>のいずれか1つに記載のシート。
<7> シートの平均総厚に対する前記第一の層の平均厚さの比が、0.30~0.80である、<1>~<6>のいずれか1つに記載のシート。
<8> 前記第一の層を構成する溶融物と、前記中間層を構成する溶融物と、前記第二の層を構成する溶融物とをダイから共押出する、<1>~<7>のいずれか1つに記載のシートの製造方法。
<9> 前記ダイの温度を、前記パーフルオロ重合体の融点、前記ポリアミド系樹脂の融点、及び接着性官能基を有するフッ素樹脂の融点のうち、最も高い融点以上、かつ前記最も高い融点との差が50℃以内の温度に設定する、<8>に記載のシートの製造方法。
<10> 冷却速度が、5~35℃/秒である、<8>又は<9>に記載のシートの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一実施形態によれば、ガスバリア性に優れるフッ素樹脂系のシート、及びこのシートの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において、「フッ素樹脂」とは、分子中にフッ素原子を有する樹脂を意味する。
本開示において、「単位」とは、重合体中に存在して重合体を構成する、単量体に由来する部分を意味する。また、ある単位の構造を重合体形成後に化学的に変換したものも単位という。なお、場合によっては、個々の単量体に由来する単位をその単量体名に「単位」を付した名称で呼ぶ。
各層の平均厚さは、室温(25℃)の厚みを示し、マイクロメータを用いて測定し、得られる任意5箇所の測定値の平均値である。
【0008】
<シート>
本開示のシートは、ポリアミド系樹脂を含有する第一の層と、テトラフルオロエチレンに基づく単位を含み、溶融成形可能であるパーフルオロ重合体を含有する第二の層と、接着性官能基を有するフッ素樹脂を含有する中間層と、を有し、前記第一の層と前記中間層との界面の平均粗さが5μm以下である。
上記構成を有するシートによれば、ガスバリア性に優れる。その理由は以下のように推察される。
【0009】
フッ素樹脂特有の性質を奏するテトラフルオロエチレンに基づく単位を含むパーフルオロ重合体を含有する第二の層に、ガスバリア性に優れるポリアミド系樹脂を含有する第一の層を積層することで、ガスバリア性が向上する。そして、接着性官能基を有するフッ素樹脂を含有する中間層を介してこれらの層を積層することで、第二の層の特性を損なわずに積層できる。ここで、第一の層と中間層との界面が荒れていると、ガスバリア性に優れる第一の層の厚みが不均一となり、厚みの薄い箇所でのガスバリア性が低下することが明らかとなった。この傾向は、第一の層の厚みが薄くなるほど、シート全体の厚みが薄くなるほど、顕著である。本開示のシートでは、第一の層と中間層との界面の平均粗さが5μm以下であることから、このような不具合の発生が抑制されるものと考えられる。
以下、積層体を各層ごとに説明する。
【0010】
〔第一の層〕
第一の層は、ポリアミド系樹脂を含有する。ポリアミド系樹脂としては、脂肪族ポリアミド系樹脂及び芳香族ポリアミド系樹脂が挙げられる。ポリアミド系樹脂は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0011】
ポリアミド系樹脂としては、具体的には、ポリアミド12、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド11、ポリアミドMXD6(半芳香族系ポリアミド)、ポリアミド26、ポリアミド69、ポリアミド610、ポリアミド611、ポリアミド612、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド912、ポリアミド1012、ポリアミド1212、ポリアミドPACM12等からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、ポリアミド6、ポリアミド12、及びポリアミド6/ポリアミド12共重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
また、ポリアミド系樹脂としてポリアミド6/ポリアミド12共重合体を用いる場合には、ガスバリア性の点で、ポリアミド6の含有率が比較的高い共重合体が好ましく、例えば、ポリアミド6とポリアミド12とのモル比(重合比)が7:3~9:1の範囲内のものがより好ましい。
【0012】
ポリアミド系樹脂の融点は、耐熱性の観点からは、180℃以上が好ましく、190℃以上がより好ましい。ポリアミド系樹脂の融点は、加工容易性の観点からは、320℃以下が好ましく、310℃以下がより好ましい。
【0013】
第一の層は、本開示の効果を損なわない範囲でポリアミド系樹脂以外の他の成分を含んでもよい。
他の成分としては、フッ素樹脂などの熱可塑性樹脂、添加剤が挙げられる。
添加剤としては、可塑剤、耐熱材、発泡剤、耐候剤、結晶核剤、結晶化促進剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、顔料、染料等の機能性付与剤等が挙げられる。
【0014】
第一の層の平均厚さは、10~2000μmが好ましく、20~1000μmがより好ましく、50~600μmがさらに好ましく、50~400μmが特に好ましく、60~160μmが極めて好ましい。第一の層の平均厚さが前記範囲の下限値以上であれば、ガスバリア性により優れる。第一の層の平均厚さが前記範囲の上限値以下であれば、シートの可とう性に優れる。
【0015】
シートの平均総厚に対する第一の層の平均厚さの比は、ガスバリア性をより向上させる観点からは、0.30~0.80が好ましく、0.35~0.75がより好ましく、0.40~0.70がさらに好ましく、0.40~0.60がさらに好ましい。
い。
【0016】
第一の層の外側表面の算術平均粗さRaは、ガスバリア性により優れる観点から、5μm以下が好ましく、4μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましく、2μm以下が特に好ましい。
算術平均粗さRaは、JIS B 0601:2013に準じて測定される。
【0017】
〔第二の層〕
第二の層は、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)に基づく単位(以下、「TFE単位」とも記す。)を含み、溶融成形可能であるパーフルオロ重合体を含有する。
パーフルオロ重合体は1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0018】
パーフルオロ重合体中のTFE単位の含有率は、TFE単位による特性を好適に発現する観点から、パーフルオロ重合体中の全単位に対して、50モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上が更に好ましい。上記含有率は、99モル%以下でもよく、98モル%以下でもよい。
【0019】
パーフルオロ重合体は溶融成形可能である。パーフルオロ重合体の融点は、耐熱性の観点からは、200℃以上が好ましく、260℃以上がより好ましい。パーフルオロ重合体の融点は、加工容易性の観点からは、325℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましい。
本開示において「融点」とは、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した融解ピークの最大値に対応する温度を意味する。
【0020】
第二の層に含まれるパーフルオロ重合体の融点と、第一の層に含まれるポリアミド系樹脂の融点の差は、150℃以内であることが好ましく、130℃以内であることがより好ましく、120℃以内であることがさらに好ましい。
【0021】
パーフルオロ重合体は、TFE単位とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)とを含むポリマー(PFA)、及びTFE単位とヘキサフルオロプロピレン(HFP)に基づく単位とを含むポリマー(FEP)が好ましく、接着性、加工性等の特性の観点からはPFAが特に好ましい。これらのポリマーは、さらに他のコモノマーに基づく単位を含んでいてもよい。
PAVEは、CF2=CFOCF3、CF2=CFOCF2CF3及びCF2=CFOCF2CF2CF3(以下、「PPVE」とも記す。)が好ましく、PPVEがより好ましい。
【0022】
パーフルオロ重合体にPAVE単位が含まれる場合、TFE単位及びPAVE単位の合計含有量に対するPAVE単位は、耐熱性の観点から、0.1~10.0モル%が好ましく、0.5~7.0モル%がより好ましく、1.0~5.0モル%がさらに好ましい。
パーフルオロ重合体にHFP単位が含まれる場合、TFE単位及びHFP単位の合計含有量に対するHFP単位は、耐熱性の観点から、1.0~15.0モル%が好ましく、1.0~13.0モル%がより好ましく、1.0~11.0モル%がさらに好ましい。
【0023】
パーフルオロ重合体は、接着性官能基の含有量が、主鎖炭素数1×106個に対して50個以下であることが好ましく、接着性官能基を有さなくてもよい。
【0024】
第二の層は、本開示の効果を損なわない範囲でパーフルオロ重合体以外の他の成分を含んでもよい。
他の成分としては、公知の樹脂用添加剤、ポリアミド、アミノ基含有ポリマー、含フッ素エラストマー(VDF単位を有するフッ素ゴム、プロピレン単位及びTFE単位を有するフッ素ゴム等)及びその架橋物、樹脂粒子(ポリテトラフルオロエチレンの粒子、ポリエーテルエーテルケトンの粒子、ポリフェニレンサルファイドの粒子等)等が挙げられる。
【0025】
第二の層におけるパーフルオロ重合体の含有率は、層を構成する材料(100質量%)のうち、5~100質量%が好ましく、20~100質量%がより好ましく、50~100質量%がさらに好ましく、70~100質量%が特に好ましい。
【0026】
第二の層の平均厚さは、1~1000μmが好ましく、5~700μmがより好ましく、10~500μmがさらに好ましく、10~200μmが特に好ましい。第二の層の平均厚さが前記範囲の下限値以上であれば、フッ素樹脂特有の特性が奏されやすい。第二の層の平均厚さが前記範囲の上限値以下であれば、シートの可とう性に優れる。
【0027】
第一の層の平均厚さに対する第二の層の平均厚さの比は、各特性のバランスの観点から、0.04~2.00が好ましく、0.05~1.50がより好ましく、0.07~1.25がさらに好ましく、0.17~1.25が特に好ましい。
【0028】
〔中間層〕
中間層は、接着性官能基を有するフッ素樹脂(以下、「フッ素樹脂(A)」とも記す。)を含有する。
本開示において「接着性官能基を有するフッ素樹脂」は、接着性官能基が重合開始剤や連鎖移動剤に由来して末端のみに存在する場合を除く。
【0029】
接着性官能基としては、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基、イソシアネート基、グリシジル基、シアノ基、シリル基、及びシラネート基からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
カルボニル基含有基としては、例えば、炭化水素基の炭素原子間にカルボニル基を有する基、カーボネート基、カルボキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシエステル基、及び酸無水物基が挙げられる。
接着性官能基は、接着性に優れる点から、カルボキシ基又は酸無水物基が好ましい。
【0030】
フッ素樹脂(A)が有する接着性官能基は、接着性官能基を有する単量体に由来してもよく、重合開始剤や連鎖移動剤に由来して末端基にさらに存在してもよい。
また、フッ素樹脂(A)が有する接着性官能基は、表面処理により導入されたものであってもよい。前記表面処理としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理(但し、コロナ放電処理を除く。)等の公知の方法が挙げられる。
フッ素樹脂(A)が有する接着性官能基の含有量は、フッ素樹脂(A)の主鎖炭素数1×106個に対して100~50000個が好ましく、500~10000個がより好ましい。
フッ素樹脂(A)中の全単位に対する接着性官能基を有する単量体に由来する単位の割合は、0.01~5モル%が好ましく、0.05~1モル%が特に好ましい。
【0031】
フッ素樹脂(A)としては、接着性に優れ、かつフィルム等への成形性に優れる点から、テトラフルオロエチレンに由来する単位とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に由来する単位と接着性官能基を有する単量体に由来する単位とを有する共重合体(以下、「接着性PFA」とも記す)を含むことが好ましい。
【0032】
接着性官能基を有する単量体としては、カルボキシ基、酸無水物基又はカルボン酸ハライド基を有する単量体が好ましく、不飽和ジカルボン酸無水物がより好ましい。不飽和ジ
カルボン酸無水物としては、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(無水ハイミック酸)、無水マレイン酸等が挙げられる。
接着性官能基を有する単量体は、接着性官能基を1種単独で有してもよく、2種以上を有してもよい。
【0033】
接着性PFAは、必要に応じて、TFE、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)及び接着性官能基を有する単量体以外の他の単量体に由来する単位を有していてもよい。他の単量体としては、フルオロオレフィン(ただし、テトラフルオロエチレンを除く。)等が挙げられる。
【0034】
接着性PFAの具体例としては、国際公開第2019/203243号に記載の「官能基iを有するPFA」等が挙げられる。
【0035】
フッ素樹脂(A)の融点は、200℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましく、280℃以上がさらに好ましい。
【0036】
フッ素樹脂(A)の融点は、350℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましい。また、中間層による接着性を高める観点からは、フッ素樹脂(A)の融点は、300℃以下が好ましく、280℃以下がより好ましく、250℃以下がより好ましい。フッ素樹脂(A)の融点が前記範囲の上限値以下であれば、比較的低い温度にて積層物であるシートを製造できる。よって、シートの製造時の加熱による変形が抑えられ、シートのシワや破損が抑えられる。
【0037】
中間層に含まれるフッ素樹脂(A)の融点と、第一の層に含まれるポリアミド系樹脂の融点の差は、中間層と第一の層との界面の平均粗さを低く抑える観点からは、130℃以内であることが好ましく、120℃以内であることがより好ましく、110℃以内であることがさらに好ましい。
【0038】
中間層は、本開示の効果を損なわない範囲でフッ素樹脂(A)以外の他の成分を含んでもよい。
他の成分としては、公知の樹脂用添加剤、接着性官能基を有しないフッ素樹脂(以下、「フッ素樹脂(B)」とも記す。)、ポリアミド、アミノ基含有ポリマー、含フッ素エラストマー(VDF単位を有するフッ素ゴム、プロピレン単位及びTFE単位を有するフッ素ゴム等)及びその架橋物、樹脂粒子(ポリテトラフルオロエチレンの粒子、ポリエーテルエーテルケトンの粒子、ポリフェニレンサルファイドの粒子等)等が挙げられる。
フッ素樹脂(B)としては、第二の層で説明したパーフルオロ重合体が挙げられる。
【0039】
中間層中のフッ素樹脂(A)の割合は、層を構成する材料(100質量%)のうち、5~100質量%が好ましく、20~100質量%がより好ましく、50~100質量%がさらに好ましく、70~100質量%が特に好ましい。中間層中のフッ素樹脂(A)の割合が前記範囲の下限値以上の場合、接着性及び耐熱性にさらに優れる。
【0040】
第一の層と中間層との界面の平均粗さは、5μm以下であり、4μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましく、2μm以下がさらに好ましい。
第一の層と中間層との界面の平均粗さは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてその断面の観察をすることにより測定した値であり、JIS B0633:2001に準じて算術平均粗さを測定する。
【0041】
中間層の平均厚さは、1~700μmが好ましく、5~500μmがより好ましく、10~100μmがさらに好ましい。中間層の平均厚さが前記範囲の下限値以上であれば、接着性に優れ、層間の剥離の発生が抑制される傾向にある。中間層の平均厚さが前記範囲の上限値以下であれば、シートの可とう性に優れる。
【0042】
第一の層の平均厚さに対する中間層の平均厚さは、0.04~2.00が好ましく、0.05~1.50がより好ましく、0.07~1.25がさらに好ましく、0.17~1.25が特に好ましい。
【0043】
第二の層の平均厚さに対する中間層の平均厚さは、0.2~5.0が好ましく、0.3~3.0がより好ましく、0.5~2.0がさらに好ましい。
【0044】
シートの平均総厚は、1μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましく、100μm以上がさらに好ましい。また、シートの平均総厚みは、3mm以下が好ましく、2mm以下がより好ましく、500μm以下がさらに好ましい。特に総厚が薄い場合には、第一の層と後述の中間層との界面の平均粗さを5μm以下としたときのガスバリア性の効果がより発揮される。
【0045】
〔ガスバリア性〕
シートの酸素透過係数は、2.0×105cm3・cm/(cm2・S・Pa)以下が好ましく、1.5×105cm3・cm/(cm2・S・Pa)以下がより好ましく、1.25×105cm3cm3・cm/(cm2・S・Pa)以下がさらに好ましい。
【0046】
シートの酸素透過係数は、JIS K7126-1:2006(差圧法)に準拠し、差圧法ガス透過率測定装置(例えば、MORESCO社製の差圧法ガス透過率測定装置)を用いて、試験温度40℃、酸素1atmの条件で測定する。
【0047】
〔シートの製造方法〕
本開示のシートは、上記の構成が得られれば、その製造方法は特に制限されず、例えば、押出成形法、押出ラミネート、熱ラミネート、ドライラミネート等が挙げられる。押出成形法では、押出機の下流側に配置される金型(ダイ)から樹脂を押し出してシート状に成形する。本開示のシートは多層の積層体であるため、各層を構成する複数の樹脂の溶融物をダイから共押出して、一括して積層物を得る共押出成形法を適用してもよい。
【0048】
共押出成形法では、ダイの温度を、第一の層に含まれるポリアミド系樹脂の融点、第二の層に含まれるパーフルオロ重合体の融点、及び中間層に含まれるフッ素樹脂(A)の融点のうち、最も高い融点(以下、最高融点ともいう)以上の温度に設定することが好ましい。パーフルオロ重合体、ポリアミド系樹脂、及びフッ素樹脂(A)のダイでの溶融を充分とする観点からは、ダイの温度は最高融点よりも10℃以上高い温度に設定するのが好ましく、20℃以上高い温度に設定するのがより好ましい。
【0049】
一般に、ポリアミド系樹脂の融点は、パーフルオロ重合体及びフッ素樹脂(A)の融点よりも低いため、ダイの温度は、パーフルオロ重合体の融点及びフッ素樹脂(A)の融点のうち高い方の融点を、最高融点と読み替えてもよい。
【0050】
一方で、ダイの温度と最高融点との差が高すぎると、各層の界面で重合体及び樹脂が混ざり合ってしまい、界面の平滑性が損なわれやすくなることから、ダイの温度と最高融点との差は60℃以下が好ましく、55℃以下がより好ましく、50℃以下がさらに好ましく、45℃以下が特に好ましい。
【0051】
ダイから押し出されて積層体が形成された直後から、第一の層及び第二の層のそれぞれの外側から冷却され固化し、内部に配置される中間層が最も冷却されにくい状態となっている。ポリアミド系樹脂の融点は、一般にパーフルオロ重合体の融点及びフッ素樹脂(A)の融点よりも低いため、ポリアミド系樹脂よりも先にパーフルオロ重合体及びフッ素樹脂(A)が固化し始める。つまり、第二の層の固化が最も早く、次いで中間層の固化が始まり、第一の層の固化が最も遅れる傾向にある。この固化のタイミングの違いによって、第一の層と中間層との界面が荒れやすくなる。
しかしながら、ダイの温度を上記範囲に設定すると、ポリアミド系樹脂と、パーフルオロ重合体及びフッ素樹脂(A)との固化速度の差が適度に抑えられるため、第一の層と中間層との界面の平均粗さが低く抑えられる傾向にある。
【0052】
ダイの温度は、具体的には、360℃以下が好ましく、350℃以下がより好ましく、345℃以下がさらに好ましい。
【0053】
冷却速度は、5℃/秒以上が好ましく、7.5℃/秒以上がより好ましく、10℃/秒以上がさらに好ましい。また、冷却速度は、35.0℃/秒以下が好ましく、34.5℃/秒以下がより好ましく、34.0℃/秒以下がさらに好ましい。
冷却速度が前記範囲の下限値以上であると、ダイの下流側に設けられるロールへの溶融物の付着が抑えられ、表面粗さが低く抑えられる傾向にある。冷却速度が前記範囲の上限値以下であると、第一の層と中間層との固化速度の差が適度に抑えられるため、第一の層と中間層との界面の平均粗さが低く抑えられる傾向にある。また、冷却速度が前記範囲の上限値以下であると、表面近傍での固化速度が内部の固化速度に対して速くなりすぎるのが抑えられるため、フィルムの反り等の変形が抑えられ、各層間の剥離が抑制される傾向にある。
【0054】
本開示において、冷却速度は、ダイ通過直後における溶融物の温度と、ダイの下流側に設けられるロール通過直後におけるシートの温度との差を、その通過時間で除して求める。
【0055】
第一の層を構成する溶融物の押出機のスクリュー回転数、第二の層を構成する溶融物の押出機のスクリュー回転数、及び中間層を構成する溶融物の押出機のスクリュー回転数は、それぞれの目的の厚さに応じて適宜調整することが望ましい。
例えば、第一の層を構成する溶融物の押出機のスクリュー回転数は、2.50rpm以上が好ましく、3.75rpm以上がより好ましく、5.00rpm以上がさらに好ましい。
第一の層を構成する溶融物の押出機のスクリュー回転数は、300rpm以下が好ましく、200rpm以下がより好ましく、150rpm以下がさらに好ましい。
【0056】
第二の層を構成する溶融物の押出機のスクリュー回転数は、1.00rpm以上が好ましく、1.25rpm以上がより好ましく、1.50rpm以上がさらに好ましい。
第二の層を構成する溶融物の押出機のスクリュー回転数は、200rpm以下が好ましく、100rpm以下がより好ましく、50rpm以下がさらに好ましい。
【0057】
中間層を構成する溶融物の押出機のスクリュー回転数は、1.00rpm以上が好ましく、1.25rpm以上がより好ましく、1.50rpm以上がさらに好ましい。
中間層を構成する溶融物の押出機のスクリュー回転数は、200rpm以下が好ましく、100rpm以下がより好ましく、50rpm以下がさらに好ましい。
【0058】
シートの巻取り速度は、0.1m/分以上が好ましく、0.15m/分以上がより好ましく、0.2m/分以上がさらに好ましい。シートの巻取り速度は、2m/分以下が好ましく、1.5m/分以下がより好ましく、1m/分以下がさらに好ましい。
【実施例0059】
以下、実施例によって本開示を詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されない。
例1~12は実施例であり、例13~16は比較例である。
【0060】
[例1]
第一の層のポリアミド系樹脂として、ナイロン612(7034B、宇部興産株式会社製、融点:215℃、溶融流れ速度:10.1g/10分)を準備した。
第二の層のパーフルオロ重合体として、TFE/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(AGC製、Fluon(登録商標)、PFA P-63P、融点:305℃、溶融流れ速度13.0g/10分)を準備した。
また、接着性官能基を有するフッ素樹脂として、WO2015/182702の実施例5と同様にして、TFE/CF2=CF-O-(CF2)3F/無水ハイミック酸=97.9/2.0/0.1(モル%)の比率のPFA1を重合した。PFA1の融点は300℃であり、溶融流れ速度は、11.0g/10分であった。
【0061】
上記材料を用いて共押出により三層構成のフィルムを得た。押出機のスクリュー回転数、溶融温度、ダイの温度、ロールの温度、巻き取り速度、及び冷却速度は、表1に示す条件とした。
【0062】
各層の平均厚さ、第一の層と中間層との界面の平均粗さ、及び第一の層の外側表面の算術平均粗さRaを、上述の方法で測定した。第一の層の外側表面の算術平均粗さRaの測定には、Oxford Instruments社製のAFMを用い、測定条件は下記とした。
プローブ:AC160TS-C3(先端の曲率R:7nm未満、バネ定数:26N/m)
測定モード:AC-Air
Scan Rate:1Hz
また、第一の層と中間層との界面の平均粗さの測定には、測定装置として日本電子株式会社製のJSM-IT700HRを用い、測定条件はJIS B0633:2001に準じた。
【0063】
界面の平均粗さの評価基準は以下の通りである。結果を表1に示す。
A:平均粗さが3μm以下
B:平均粗さが3μm超5μm以下
F:平均粗さが5μm超
【0064】
算術平均粗さRaの評価基準は以下の通りである。結果を表1に示す。
A:Raが3μm以下
B:Raが3μm超5μm以下
F:Raが5μm超
【0065】
得られたシートの酸素透過係数を上述の方法で測定した。測定には、MORESCO社製のSuperDetectを用いた。
酸素バリア性の評価基準は以下の通りである。結果を表1に示す。
A:酸素透過係数が、1.5×105cm3・cm/(cm2・S・Pa)以下
B:酸素透過係数が、1.5×105cm3・cm/(cm2・S・Pa)超、2.0×105cm3・cm/(cm2・S・Pa)以下
F:酸素透過係数が、2.0×105cm3・cm/(cm2・S・Pa)超
【0066】
【0067】
ポリアミド系樹脂を含有する第一の層と、テトラフルオロエチレンに基づく単位を含み、溶融成形可能であるパーフルオロ重合体を含有する第二の層と、接着性官能基を有するフッ素樹脂を含有する中間層と、を有し、第一の層と中間層との界面の平均粗さが5μm以下である例1~12のシートは、ガスバリア性に優れていた。
第一の層と中間層との界面の平均粗さが5μmを超える例13~16は、ガスバリア性に劣っていた。