(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005389
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】潅水用ノズルカバー及び潅水方法
(51)【国際特許分類】
A01G 25/00 20060101AFI20250108BHJP
【FI】
A01G25/00 601E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024088831
(22)【出願日】2024-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2023104915
(32)【優先日】2023-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.令和6年3月20日発行、令和6年3月22日配布された要旨集 1.令和6年3月24日開催の2024年度春季大会(第60回通常総会・第59回講演会)での講演会資料
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】松尾 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】落合 将暉
(57)【要約】
【課題】薬剤散布用ノズルに取り付けて用いることができ、霧状での噴霧時のような蒸発を防ぎ、播種後や定植後の作物に十分な潅水を行うことができる潅水用ノズルカバー及び潅水方法を提供すること。
【解決手段】本発明の潅水用ノズルカバー10は、薬剤散布用ノズル20に取り付ける潅水用ノズルカバー10であり、多孔質材からなるカバー材12によって前記薬剤散布用ノズル20の噴霧口に空間14を形成し、前記薬剤散布用ノズル20から霧状に噴霧される水を前記空間14内に溜め、前記空間14内に溜まった前記水を前記カバー材12から滴下することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤散布用ノズルに取り付ける潅水用ノズルカバーであり、
多孔質材からなるカバー材によって前記薬剤散布用ノズルの噴霧口に空間を形成し、
前記薬剤散布用ノズルから霧状に噴霧される水を前記空間内に溜め、
前記空間内に溜まった前記水を前記カバー材から滴下する
ことを特徴とする潅水用ノズルカバー。
【請求項2】
前記カバー材の滴下面を球面とした
ことを特徴とする請求項1に記載の潅水用ノズルカバー。
【請求項3】
前記カバー材の側面を円筒面とし、前記円筒面の下部に凸形状の滴下面を形成した
ことを特徴とする請求項1に記載の潅水用ノズルカバー。
【請求項4】
前記カバー材を、スチロール樹脂又はポリビニルアルコール系多孔質体で形成した
ことを特徴とする請求項1に記載の潅水用ノズルカバー。
【請求項5】
前記滴下面を地面に向けて用いる
ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の潅水用ノズルカバー。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の潅水用ノズルカバーを用いた潅水方法であって、
一対の前記薬剤散布用ノズルのそれぞれに前記潅水用ノズルカバーを取り付けることで、種子の両脇に沿って潅水する
ことを特徴とする潅水方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤散布用ノズルに取り付けて用いることができる潅水用ノズルカバー及び潅水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
露地野菜の直播栽培において、播種直後から降雨がなく出芽しない場合がある。灌漑設備がない圃場では、農薬を散布するためのブームスプレーヤによって潅水を行うが、霧状で圃場全体に潅水するので、作物周辺の潅水量は少なく、すぐに蒸発してしまうため、十分な潅水効果を得ることができない。
ところで、特許文献1は、播種後、定植後及び移植後の作物の部位に多量の潅水を行う必要があるのに対し、既存のブームスプレーヤや乗用管理機を極低速度で潅水用に使用して、吐水量を確保しようとしても、そのままでは、一つ一つの散布ノズルから霧状で吐出される水の量が極めて少ないので、潅水すべき箇所に散布される吐水量が必要水量に対して大幅に不足することを課題としている。
特許文献1では、この課題に対して、散布ノズルと潅水ノズルとの2つのノズルを備え、それぞれのノズルを切り替えて用いることを提案している。
なお、ノズルを切り替えて噴霧状態を切り替えることは、特許文献2から特許文献7にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-20490号公報
【特許文献2】実用新案登録第2530038号公報
【特許文献3】特開平10-174906号公報
【特許文献4】実公平4-50930号公報
【特許文献5】実公平4-913号公報
【特許文献6】特開2007-167831号公報
【特許文献7】特開平9-99257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1から特許文献7は、いずれもノズルを切り替えるものであり、薬剤散布用ノズルに潅水用ノズルカバーを取り付けることで潅水を行うものではない。
【0005】
本発明は、薬剤散布用ノズルに取り付けて用いることができ、霧状での噴霧時のような蒸発を防ぎ、播種後や定植後の作物に十分な潅水を行うことができる潅水用ノズルカバー及び潅水方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明の潅水用ノズルカバー10は、薬剤散布用ノズル20に取り付ける潅水用ノズルカバー10であり、多孔質材からなるカバー材12によって前記薬剤散布用ノズル20の噴霧口に空間14を形成し、前記薬剤散布用ノズル20から霧状に噴霧される水を前記空間14内に溜め、前記空間14内に溜まった前記水を前記カバー材12から滴下することを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の潅水用ノズルカバー10において、前記カバー材12の滴下面12bを球面としたことを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1に記載の潅水用ノズルカバー10において、前記カバー材12の側面を円筒面12aとし、前記円筒面12aの下部に凸形状の滴下面12bを形成したことを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項1に記載の潅水用ノズルカバー10において、前記カバー材12を、スチロール樹脂又はポリビニルアルコール系多孔質体で形成したことを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項2又は請求項3に記載の潅水用ノズルカバー10において、前記滴下面12bを地面に向けて用いることを特徴とする。
請求項6記載の本発明の潅水方法は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の潅水用ノズルカバー10を用いた潅水方法であって、一対の前記薬剤散布用ノズル20のそれぞれに前記潅水用ノズルカバー10を取り付けることで、種子の両脇に沿って潅水することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の潅水用ノズルカバーによれば、薬剤散布用ノズルに取り付けて用いることができ、薬剤散布用ノズルから霧状に噴霧される水を空間内に溜め、空間内に溜まった水をカバー材から滴下することで、霧状での噴霧時のような蒸発を防ぎ、播種後や定植後の作物に十分な潅水を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施例による潅水用ノズルカバーの側面図及び側面断面図
【
図3】本実施例による潅水用ノズルカバーの使用状態を示す写真
【
図4】本発明による潅水用ノズルカバーを用いた局所潅水がタマネギの出芽率に与える影響を示す実験結果を示す図
【
図5】種子の両脇に潅水することができる散水装置を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の実施の形態による潅水用ノズルカバーは、多孔質材からなるカバー材によって薬剤散布用ノズルの噴霧口に空間を形成し、薬剤散布用ノズルから霧状に噴霧される水を空間内に溜め、空間内に溜まった水をカバー材から滴下するものである。本実施の形態によれば、薬剤散布用ノズルから霧状に噴霧される水を空間内に溜め、空間内に溜まった水をカバー材から滴下するため、霧状での噴霧時のような蒸発を防ぎ、播種後や定植後の作物に十分な潅水を行うことができる。
【0010】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による潅水用ノズルカバーにおいて、カバー材の滴下面を球面としたものである。本実施の形態によれば、空間内に溜まった水を鉛直下向きに滴下しやすい。
【0011】
本発明の第3の実施の形態は、第1の実施の形態による潅水用ノズルカバーにおいて、カバー材の側面を円筒面とし、円筒面の下部に凸形状の滴下面を形成したものである。本実施の形態によれば、空間内に溜まった水を鉛直下向きに滴下しやすい。
【0012】
本発明の第4の実施の形態は、第1の実施の形態による潅水用ノズルカバーにおいて、カバー材を、スチロール樹脂又はポリビニルアルコール系多孔質体で形成したものである。本実施の形態によれば、空間内に溜まった水をカバー材から染み出させることができる。
【0013】
本発明の第5の実施の形態は、第2又は第3の実施の形態による潅水用ノズルカバーにおいて、滴下面を地面に向けて用いるものである。本実施の形態によれば、空間内に溜まった水を鉛直下向きに滴下しやすく、播種後や定植後の作物に十分な潅水を行うことができる。
【0014】
本発明の第6の実施の形態による潅水方法は、第1から第4のいずれかの実施の形態による潅水用ノズルカバーを用いた潅水方法であって、一対の薬剤散布用ノズルのそれぞれに潅水用ノズルカバーを取り付けることで、種子の両脇に沿って潅水するものである。本実施の形態によれば、出芽率を更に高めることができる。
【実施例0015】
以下本発明の一実施例による潅水用ノズルカバーについて説明する。
図1は本実施例による潅水用ノズルカバーの側面図及び側面断面図であり、
図1(a)は潅水用ノズルカバーの側面図を示し、
図1(b)は潅水用ノズルカバーの側面断面図を示している。
本実施例による潅水用ノズルカバー10は、脱着部11とカバー材12とからなる。
リング状凸部13の一方に脱着部11が配置され、リング状凸部13の他方にカバー材12が配置される。
カバー材12は、スチロール樹脂又はポリビニルアルコール系多孔質体で形成され、多孔質材からなるカバー材12によって薬剤散布用ノズル20(
図2参照)の噴霧口に空間14を形成し、薬剤散布用ノズル20から霧状に噴霧される水を空間14内に溜め、空間14内に溜まった水をカバー材12から滴下する。カバー材12は、スチロール樹脂又はポリビニルアルコール系多孔質体で形成することで、空間14内に溜まった水をカバー材12から染み出させることができる。
カバー材12の側面を円筒面12aとし、円筒面12aの下部に凸形状の滴下面12bを形成している。円筒面12aの下部に凸形状の滴下面12bを形成することで、空間14内に溜まった水を鉛直下向きに滴下しやすい。
また、カバー材12の滴下面12bを球面とすることで、空間14内に溜まった水を鉛直下向きに滴下しやすい。
【0016】
図2は、本実施例による潅水用ノズルカバーの使用状態を示す図であり、
図2(a)は潅水用ノズルカバーを取り付けていない状態での薬剤散布用ノズルを示し、
図2(b)は潅水用ノズルカバーを薬剤散布用ノズルに取り付けた状態を示している。
本実施例による潅水用ノズルカバー10は、薬剤散布用ノズル20に取り付けて用いられる。
薬剤散布用ノズル20は、圃場に薬剤を散布するブームスプレーヤのブームに取り付けられ、下方に吊り下げられて薬剤を霧状に噴霧する。
薬剤散布用ノズル20には、ホース21から薬剤が供給される。
図2では、ホース21から3つの分岐ホース22に分岐し、それぞれの分岐ホース22の先端に薬剤散布用ノズル20を設けている。
本実施例による潅水用ノズルカバー10は、
図2に示すように複数に分岐された薬剤散布用ノズル20に用いることで、播種後や定植後の作物に対して効果的な潅水を行うことができる。
図示のように、潅水用ノズルカバー10は、滴下面12bを地面に向けて用いる。このように、滴下面12bを地面に向けて用いることで、空間14内に溜まった水を鉛直下向きに滴下しやすく、播種後や定植後の作物に十分な潅水を行うことができる。
【0017】
図3は、本実施例による潅水用ノズルカバーの使用状態を示す写真、
図3(a)は潅水用ノズルカバーを取り付けた薬剤散布用ノズルと潅水用ノズルカバーを取り付けていない薬剤散布用ノズルを示し、
図3(b)は潅水用ノズルカバーを薬剤散布用ノズルに取り付けて散布を行っている状態を示す写真である。
図3(a)に示すように、薬剤散布用ノズル20からは水が霧状に噴霧されるが、薬剤散布用ノズル20に潅水用ノズルカバー10を取り付けることで、水はカバー材12から流水となって滴下している。
【0018】
図3(b)に示すように、潅水用ノズルカバー10を取り付けた吊り下げ散布バーを用いて種子列にのみ散布を行った実験結果について以下に説明する。
局所潅水がタマネギの出芽率に与える影響について実験を行った。
図3(b)に示すように種子列にのみ、播種列直上から幅2~3cm程度、降水量に換算して7mmの潅水を行い、出芽率を調査した。試験区は、1区の長さが1.6mの3反復である。薬剤散布用ノズル20には、(株)丸山製作所製、エコシャワーH10を用い、背負い式動力噴霧器((株)丸山製作所、MSO39D-15)を使い、吐出量を19.9ml/sに調整して行った。播種は、たまねぎ直播機((株)クボタ製)を用いて溝畝播種(幅150cm、高さ20cmの畝にある幅10cm、深さ5cm程度の溝の底に播種)を行った。実測で播種間隔が7.8cm、播種深さが1.7cmであった。品種は‘YOK571(早生)(住化農業資材(株))、プライミング処理済みのコート種子である。試験場所は、九州沖縄農業研究センター久留米拠点にある低地土の圃場である。
カバー材12には、PVA(ポリビニルアルコール)系多孔質体を用いた。
【0019】
図4は、本発明による潅水用ノズルカバーを用いた局所潅水がタマネギの出芽率に与える影響を示す実験結果である。なお、対象区は無散布としている。
出芽は、潅水方法に関わらず播種後10日目以降であった。出芽開始直後は、潅水区が無散布区よりも出芽率が高くなっており、本発明による潅水用ノズルカバー10を用いた局所潅水は、効果があることが確認できた。
なお、最終的な出芽率は、無散布区が高くなっている。これは、降雨量7mmを種子直上に短時間で潅水したために、クラスト(圃場の表面が固まる)が形成され、最終的な出芽率が低下したと考えられる。
そこで、種子直上に潅水することを防止するために、種子直上ではなく、種子の両脇に潅水することがより好ましい。
【0020】
図5は、種子の両脇に潅水することができる散水装置を示している。
図5に示すように、薬剤散布用ノズル20が二股に分かれており、それぞれの薬剤散布用ノズル20に潅水用ノズルカバー10を取り付けている。
このように、所定の距離を有する一対の薬剤散布用ノズル20に潅水用ノズルカバー10を取り付けることで、種子直上ではなく、種子の両脇に潅水することができる。また、二股に分かれた薬剤散布用ノズル20を用いることで、二股に分かれていない1つの薬剤散布用ノズル20を用いる場合と比較して、一つの薬剤散布用ノズル20からの滴下量を減少させることができるためクラストの形成を押さえることができる。
【0021】
以上のように、本実施例による潅水用ノズルカバー10によれば、薬剤散布用ノズル20から霧状に噴霧される水を空間14内に溜め、空間14内に溜まった水をカバー材12から滴下するため、霧状での噴霧時のような蒸発を防ぎ、播種後や定植後の作物に十分な潅水を行うことができる。