(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025054896
(43)【公開日】2025-04-08
(54)【発明の名称】再生ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20250401BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20250401BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20250401BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
C08L81/02
C08K7/02
C08L21/00
B29C45/00 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023164110
(22)【出願日】2023-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井上 博貴
【テーマコード(参考)】
4F206
4J002
【Fターム(参考)】
4F206AA34
4F206AA50
4F206AB07
4F206AB11
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4J002FD016
4J002FD165
4J002FD204
4J002FD205
4J002FD207
(57)【要約】
【課題】 ポリアリーレンスルフィド樹脂が本来有する耐熱性、耐薬品性、流動性などを損なうことなく、リサイクル非強化ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を含有する再生繊維状充填材強化ポリアリーレンンスルフィド樹脂組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 溶融粘度が100~3000ポイズのポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100重量部に対し、リサイクル非強化ポリアリーレンスルフィド樹脂(B)10~250重量部からなる合計量100重量部に対し、繊維状充填材(C)10~70重量部を含む再生繊維状充填材強化ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度が100~3000ポイズのポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100重量部に対し、リサイクル非強化ポリアリーレンスルフィド樹脂(B)10~250重量部からなる合計量100重量部に対し、繊維状充填材(C)10~70重量部を含むことを特徴とする再生繊維状充填材強化ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
リサイクル非強化ポリアリーレンスルフィド樹脂(B)が、ポストコンシューマーリサイクルポリアリーレンスルフィド樹脂及び/又はポストインダストリアルリサイクルポリアリーレンスルフィド樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の再生繊維状充填材強化ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
リサイクル非強化ポリアリーレンスルフィド樹脂(B)が、ポリアリーレンスルフィド樹脂製繊維、ポリアリーレンスルフィド樹脂製シート、ポリアリーレンスルフィド樹脂製フィルムのリサイクル品であることを特徴とする請求項1に記載の再生繊維状充填材強化ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
繊維状充填材(C)が、平均繊維径が6~14μm及び/又は繊維断面アスペクト比が2~4である繊維状充填材であることを特徴とする請求項1に記載の再生繊維状充填材強化ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、熱可塑性エラストマー(D)、相溶化剤(E)及び/又は離型剤(F)を含むことを特徴とする請求項1に記載の再生繊維状充填材強化ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の再生繊維状充填材強化ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物製であって、直径0.5~2.5mm、長さ1.5~4mmの円柱形状または直径1~3mmの球状を有することを特徴とするペレット。
【請求項7】
スクリュ長さ(L1)とスクリュ直径(D1)の比(L1/D1)が30以上のスクリュ及びニーディングゾーン2か所以上有する二軸押出機にて、ニーディングゾーンのシリンダー温度280~330℃、スクリュの周速度50~400mm/秒、滞留時間30~100秒の混練条件にて、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、リサイクル非強化ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(B)及び繊維状充填材(C)を溶融混練し、押し出すことを特徴とする再生繊維状充填材強化ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクル非強化ポリアリーレンスルフィド樹脂を含む再生繊維状充填材強化ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関するものであり、市場流通後に焼却、埋め立て等により廃棄される使用済製品等より回収される非強化ポリアリーレンスルフィド樹脂、また、ポリアリーレンスルフィド樹脂製製品を製造する際に発生する不要品等のポリアリーレンスルフィド樹脂を収集し再生して得られる非強化ポリアリーレンスルフィド樹脂を含有するにも関わらず、ポリアリーレンスルフィド樹脂が本来有する機械特性、流動性などの優れた特性を維持した再生繊維状充填材強化ポリアリーレンンスルフィド樹脂組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPSと略記することもある。)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略記することもある。)は、耐熱性、耐薬品性、流動性などに優れた特性を示す樹脂であり、その優れた特性を生かし、電気・電子機器部材、自動車部材およびOA機器部材等に幅広く使用されている。
【0003】
一方、近年、プラスチックスの排出量削減などを目的とし、欧米を中心に電気・電子機器部材にリサイクル樹脂を使用する要求が高まっており、その傾向は自動車部材などにも波及しつつある。
【0004】
一般的にリサイクル材はポストコンシューマリサイクル材(以下、PCRと略記することもある。)とポストインダストリアルリサイクル材(以下、PIRと略記することもある。)に大別されており、PCRとは、消費者によって製品が使用され、廃棄された後に収集または再生利用された材料を意味し、PIRとは、消費者に製品が渡る前の製造工程で発生した廃棄物が収集または再生利用された材料を意味する。市場流通後に廃棄される成形体等を再生して得られるリサイクルポリアリーレンスルフィド樹脂はPCR、スプルー、ランナー又は該成形体の不要品等の産業廃棄物を再生して得られるリサイクルポリアリーレンスルフィド樹脂はPIRに該当する。
【0005】
そして、リサイクル材を含有する樹脂組成物としては、例えば熱溶融積層方式の3Dプリンタ用フィラメント材に用いる再生樹脂組成物であって、プラスチック包装材から再生され、主成分であるポリオレフィン樹脂と、最大径200μm以上の粒子の割合が15数%以下である未溶融物とを含有する再生樹脂(A)と、温度230℃、荷重2.16kgにて測定されるメルトフローレイトが5g/10分以上である樹脂(B)と、を含む、再生樹脂組成物(例えば、特許文献1参照。)、(A)リサイクル芳香族ポリカーボネート樹脂40~80質量%、及び(B)芳香族ポリカーボネート樹脂20~60質量%の合計100質量部に対して、(C)ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂から選ばれる樹脂で被覆され、ニッケルコートされていないカーボン繊維10~60質量部、(D)リン酸エステル化合物10~20質量部、(E)フッ素化合物0.01~1質量部、(F)ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体0.5~10質量部を含有し、ニッケルコート炭素繊維を含まない、ポリカーボネート樹脂組成物(例えば、特許文献2参照。)等が提案されている。
【0006】
また、リサイクル材を含有する成形体の製造方法として、例えば繊維状充填材強化架橋型ポリフェニレンスルフィド組成物再生ペレット20~80重量%及び繊維状充填材強化架橋型ポリフェニレンスルフィド組成物非再生ペレット80~20重量%を射出成形機に供し、射出成形を行う成形体の製造方法(例えば、特許文献3参照。)、PPS樹脂及びガラス繊維を配合した成形品破砕物と重量平均分子量が20000~60000のPPS樹脂40~90重量%及びガラス繊維10~60重量%とを配合するガラス繊維強化再生PPS樹脂組成物の製造方法(例えば、特許文献4参照)、等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-115795公報
【特許文献2】特許第6825890号
【特許文献3】特許第5386853号
【特許文献4】特許第7235177号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2に提案された樹脂組成物においては、その取扱い性、利用に難易度の高いポリアリーレンスルフィド樹脂は無論、スーパーエンジニアリングプラスチックの範疇に属するものに関してはなんら検討・提案のなされていないものである。また、特許文献3に提案された成形体の製造方法においては、不要品等から再生したリサイクル繊維状充填材強化架橋型ポリフェニレンスルフィド再生ペレットと繊維状充填材強化架橋型ポリフェニレンスルフィド組成物非再生ペレットとを射出成型機に供する成形体の製造方法のみの提案であり、リサイクル樹脂の活用方法としては限定的なものである。更に、特許文献4に提案のガラス繊維強化再生PPS樹脂組成物は、成形品破砕物とする際、更には再利用の際のガラス繊維等の破損、樹脂の劣化等による機械的特性の低下という課題を有するものであった。
【0009】
そこで、本発明は、PAS樹脂が本来有する機械特性、流動性などを損なうこともなく、リサイクルPAS樹脂を含有する再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0010】
また、リサイクルポリアリーレンスルフィド樹脂の再利用またその効率を高めることは包摂的で持続可能な産業化の推進に寄与するものであり、近年叫ばれているSDGs等の持続可能な社会に貢献する技術の1つである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、リサイクルPAS樹脂としてリサイクル非強化PAS樹脂を用い、リサイクル非強化PAS樹脂を含有する特定の再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物が、機械特性、流動性に優れるものとなりうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明は、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度が100~3000ポイズのポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100重量部に対し、リサイクル非強化ポリアリーレンスルフィド樹脂(B)10~250重量部からなる合計量100重量部に対し、繊維状充填材(C)10~70重量部を含むことを特徴とする再生繊維状充填材強化ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関するものである。
【0013】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物を構成するPAS樹脂(A)としては、一般にPAS樹脂と称される範疇に属するものであればよく、該PAS樹脂としては、例えばp-フェニレンスルフィド単位、m-フェニレンスルフィド単位、o-フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルフォン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ビフェニレンスルフィド単位からなる単独重合体又は共重合体を挙げることができ、該PAS樹脂の具体的例示としては、PPS、ポリフェニレンスルフィドスルフォン、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドエーテル等が挙げられ、その中でも、特に耐熱性、強度特性に優れる再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物となることから、PPSであることが好ましい。
【0015】
そして、該PAS樹脂(A)は、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度において、100~3000ポイズのものである。ここで、100ポイズ未満のものである場合、得られる組成物は耐衝撃性に劣るものとなる。一方、3000ポイズを越えるものである場合、得られる組成物は流動性に劣るものとなる。
【0016】
該PAS樹脂(A)の製造方法としては、PAS樹脂の製造方法として知られている方法により製造することが可能であり、例えば極性溶媒中で硫化アルカリ金属塩、ポリハロゲン芳香族化合物を重合することにより得る事が可能である。その際の極性有機溶媒としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等を挙げる事ができ、硫化アルカリ金属塩としては、例えば硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化リチウムの無水物又は水和物を挙げる事ができる。また、硫化アルカリ金属塩としては、水硫化アルカリ金属塩とアルカリ金属水酸化物を反応させたものであってもよい。ポリハロゲン芳香族化合物としては、例えばp-ジクロロベンゼン、p-ジブロモベンゼン、p-ジヨードベンゼン、m-ジクロロベンゼン、m-ジブロモベンゼン、m-ジヨードベンゼン、4,4’-ジクロロジフェニルスルホン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、4,4’-ジクロロジフェニルエーテル、4,4’-ジクロロジビフェニル等を挙げる事ができる。
【0017】
また、PAS樹脂(A)としては、直鎖状のものであっても、重合時にトリハロゲン以上のポリハロゲン化合物を少量添加して若干の架橋又は分岐構造を導入したものであっても、PAS樹脂の分子鎖の一部及び/又は末端を例えばカルボキシル基、カルボキシ金属塩、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基等の官能基により変性されたものであっても、窒素などの非酸化性の不活性ガス中で加熱処理を施したものであってもかまわないし、さらにこれらの構造の混合物であってもかまわない。また、該PAS樹脂(A)は、加熱硬化前又は後に脱イオン処理(酸洗浄や熱水洗浄など)、あるいはアセトン、メチルアルコールなどの有機溶媒による洗浄処理を行うことによってナトリウム原子、PAS樹脂のオリゴマー、食塩、4-(N-メチル-クロロフェニルアミノ)ブタノエートのナトリウム塩などの不純物を低減させたものであってもよい。さらに、重合反応終了後に不活性ガス又は酸化性ガス中で加熱処理を行い、硬化を行ったものであってもよい。
【0018】
本発明の再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物を構成するリサイクル非強化PAS樹脂(B)は、市場流通後に廃棄される製品等、また、成形時に発生する不要品等の産業廃棄物から再生したPAS樹脂であればよい。そして、市場流通後に廃棄される製品から再生されたリサイクル非強化PAS樹脂(B)はPCRに該当し、資源の消費量削減等の観点からサステナビリティーに優れ、その利用が期待されている。成形時の不要品から再生されたリサイクル非強化PAS樹脂(B)はPIRに該当し、同一構造、同一グレード、更に場合によっては同一ロットのPAS樹脂がリサクルできるため、品質のバラツキの小さいリサイクル非強化PAS樹脂となることから、品質のバラツキの小さい再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物を得ることが可能となる。その際のリサイクルPAS樹脂としては、非強化PAS樹脂である。ここで、繊維状充填材等を含む強化PAS樹脂組成物である場合、再生時による充填材等の破損が生じるばかりか、充填材等配合の発熱による樹脂劣化による機械的特性の低下を生じやすいものとなる。そして、リサイクル非強化PAS樹脂(B)としては、市販のPAS樹脂製繊維、PAS樹脂製シート、PAS樹脂製フィルム、更にはそれらを用いた製品をリサイクルに供したものを挙げることができる。
【0019】
該リサイクル非強化PAS樹脂(B)の配合量としては、リサイクル材の使用割合を多くしても耐衝撃性等の機械的特性の低下が少ないことからPAS樹脂(A)100重量部に対して、10~250重量部である。ここで、リサイクル非強化PAS樹脂(B)が10重量部未満である場合、リサイクル材の使用割合が低く再利用の意味合いが低くなる。一方、250重量部を超える場合、得られる組成物は耐衝撃性、流動性に劣るものとなる。
【0020】
本発明の再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物を構成する繊維状充填材(C)としては、繊維状充填材の範疇に属するものであればよく、例えばガラス繊維;PAN系炭素繊維やピッチ系炭素繊維等の炭素繊維;グラファイト化繊維;窒化珪素ウイスカー、塩基性硫酸マグネシウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、チタン酸カリウムウイスカー、炭化珪素ウイスカー、ボロンウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー等のウイスカー;ステンレス繊維等の金属繊維;ロックウール、ジルコニア、アルミナシリカ、チタン酸バリウム、炭化珪素、アルミナ、シリカ、高炉スラグ等の無機系繊維;全芳香族ポリアミド繊維、フェノール樹脂繊維、全芳香族ポリエステル繊維等の有機系繊維;ワラステナイト、マグネシウムオキシサルフェート等の鉱物系繊維等が挙げられ、特に機械的強度、耐衝撃性に優れた再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物となることから、ガラス繊維であることが好ましい。該ガラス繊維としては、一般にガラス繊維と称すものであれば如何なるものを用いてもよい。該ガラス繊維の具体的例示としては、平均繊維径が6~14μmのチョップドストランド、繊維断面のアスペクト比が2~4の扁平ガラス繊維からなるチョップドストランド、ミルドファイバー、ロービング等のガラス繊維;シラン繊維;アルミノ珪酸塩ガラス繊維;中空ガラス繊維;ノンホーローガラス繊維等が挙げられ、その中でもとりわけ機械強度、耐衝撃性、流動性に優れる再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物となることから、平均繊維径が6~14μmのチョップドストランド、ないしは、繊維断面のアスペクト比が2~4である扁平ガラス繊維からなるチョップドストランドであることが好ましい。これらの繊維状充填材は2種以上を併用することも可能であり、必要によりエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物又はポリマーで、予め表面処理したものを用いてもよい。該繊維状充填材(C)の配合量としては、靭性と機械強度、流動性とのバランスに優れた再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物となることから、PAS樹脂(A)およびリサイクル非強化PAS樹脂(B)の合計量100重量部に対し、繊維状充填材(C)が10~70重量部である。ここで、繊維状充填材が10重量部未満である場合、得られる組成物は耐衝撃性に劣るものとなる。一方、70重量部を超える場合、流動性に劣るものとなる。
【0021】
本発明の再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物は、特に靭性に優れるものとなることから、熱可塑性エラストマー(D)を含有することが好ましい。熱可塑性エラストマー(D)としては、一般に熱可塑性エラストマーと称するものであれば如何なるものを用いてもよく、反応性官能基を有する熱可塑性エラストマーであっても、反応性官能基を有しない熱可塑性エラストマーであってもよく、また該反応性官能基を有する熱可塑性エラストマーと該反応性官能基を有しない熱可塑性エラストマーの混合物であっても構わない。該反応性官能基として例えば、エポキシ基、無水マレイン酸基、カルボン酸基、アミノ基、イソシアネート基等が挙げられ、該反応性基を有する熱可塑性エラストマーとして例えば、エチレン-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル-無水マレイン酸共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-酢酸ビニル共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-α-オレフィン共重合体等の変性エチレン系共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物を無水マレイン酸またはその誘導体で変性したもの、スチレン-ブタジエンブロック共重合体の水素添加物を無水マレイン酸またはその誘導体で変性したもの、スチレン-イソプレンブロック共重合体の水素添加物を無水マレイン酸またはその誘導体で変性したもの、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の水素添加物を無水マレイン酸またはその誘導体で変性したもの等のビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の水素添加物等が挙げられ、また、PAS樹脂との反応性しうる官能基を有するものであれば、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、アクリロニトリル-ブタジエンゴム系熱可塑性エラストマー、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体等をも用いることができる。この中で、特に靭性に優れた再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物となることから、変性エチレン系共重合体が好ましい。
【0022】
一方、反応性官能基を有しない熱可塑性エラストマーとしては、上記した熱可塑性エラストマーにおいて官能基を有さないものを挙げることができ、中でも、特に流動性と靭性のバランスに優れた再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物が得られることから、オレフィン-アクリル酸エステル2元共重合体であることが好ましい。そして、その際のオレフィンとしては、エチレンあるいは炭素数が3以上のα-オレフィン、アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸イソブチル等が挙げられる。
【0023】
該熱可塑性エラストマー(D)の配合量としては、靭性、流動性のバランスに優れた再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物となることから、PAS樹脂(A)およびリサイクル非強化PAS樹脂(B)の合計量100重量部に対して1~20重量部であることが好ましい。
【0024】
本発明の再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物は、特に機械的強度、耐衝撃性に優れるものとなることから、さらに、相溶化剤(E)を含有することが好ましい。その際の相溶化剤として例えばイソシアヌレート、エポキシ樹脂、シランカップリング剤、これらの混合物を挙げることができる。
【0025】
そして、該イソシアヌレートとしては、イソシアヌレートと称されるものであればよく、その中でもとりわけ、金型汚染性の低い再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物となることから脂肪族系イソシアヌレートであることが好ましい。該脂肪族系イソシアヌレートの具体的例示としては、1,3,5-トリス(6-イソシアナトヘキサ-1-イル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,3,5-トリス(6-イソシアナトテトラ-1-イル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,3,5-トリス(6-イソシアナトドデカ-1-イル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンなどが挙げられ、特に金型汚染性の低い再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物となる事から分子量500以上の脂肪族系イソシアヌレートが好ましい。該脂肪族系イソシアヌレートは2量体や3量体などの多量体、ないしは脂肪族系イソシアヌレート単量体に2量体や3量体などの多量体を含むイソシアヌレートであってもよく、PAS樹脂(A)、リサイクル非強化PAS樹脂(B)、場合によっては熱可塑性エラストマー(D)との反応性に優れ、耐衝撃性に優れた再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物となることから、イソシアネート基20%以上含む脂肪族系イソシアヌレートである事が好ましい。
【0026】
また、該脂肪族系イソシアヌレートは、脂肪族系イソシアネートの一部を1,3-ブタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタジオールなどのアルコールで変性したものであっても構わない。該脂肪族系イソシアヌレートの中でもとりわけ、耐冷熱性に優れその入手が容易であることから1,3,5-トリス(6-イソシアナトヘキサ-1-イル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンである事が好ましい。1,3,5-トリス(6-イソシアナトヘキサ-1-イル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンの具体的例示としては(商品名)コロネートHXR(東ソー(株)製)、(商品名)デュラネートTPA-100(旭化成(株)製)等が挙げられる。
【0027】
また、該エポキシ樹脂としては、エポキシ樹脂と称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良い。具体的例示としては、2,2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、ビス(2-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノールS)、4,4'-ジヒドロキシビフェニル、レゾルシン、サリゲニン、トリヒドロキシジフェニルジメチルメタン、テトラフェニロールエタン、これらのハロゲン置換体およびアルキル基置換体、ブタンジオール、エチレングリコール、エリスリット、ノボラック、グリセリン、ポリオキシアルキレン等のヒドロキシル基を分子内に2個以上含有する化合物とエピクロルヒドリン等から合成されるグリシジルエーテル系エポキシ樹脂;該ヒドロキシル基を分子内に2個以上含有する化合物とフタル酸グリシジルエステル等から合成されるグリシジルエステル系エポキシ樹脂;アニリン、ジアミノジフェニルメタン、メタキシレンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等の第一または第二アミンとエピクロロヒドリン等から合成されるグリシジルアミン系エポキシ樹脂等々のグリシジル基を含むエポキシ樹脂,エポキシ化大豆油,エポキシ化ポリオレフィン,ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ジシクロペンタジエンジオキサイド等々のグリシジル基を含まないエポキシ樹脂が挙げられる。中でも得られる再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物の耐衝撃性が特に優れたものとなることから、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSなどのビスフェノール類のグリシジルエーテル系エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。更に好ましいものとしては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂である。
【0028】
さらに、該シランカップリング剤としては、シランカップリング剤と称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、その中でも特に耐衝撃性、機械強度に優れた再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物となることからグリシジル基を有するトリアルコキシシランカップリング剤及び/又はアミノ基を有するトリアルコキシシランカップリング剤からなるシランカップリング剤であることが好ましい。その際のシランカプリリング剤としては、グリシジル基あるいはアミノ基を有するトリアルコキシシランカップリングであれば特に制限されるものではなく、この範疇に属するものの具体的な例として、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等があげられる。
【0029】
また、該相溶化剤(E)の配合量としては、耐衝撃性、機械強度に優れ、金型汚染性の低い再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物が得られることから、PAS樹脂(A)およびリサイクル非強化PAS樹脂(B)の合計量100重量部に対して0.1~15重量部であることが好ましい。
【0030】
さらに、本発明の再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物は、成形品とする際の金型離型性や外観を改良するために離型剤(F)を含有してもよい。該離型剤(F)としては、例えばポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、脂肪酸アマイド系ワックスが好適に用いられる。該ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスとしては、一般的な市販品を用いることができる。また、該脂肪酸アマイド系ワックスとは、高級脂肪族モノカルボン酸、多塩基酸及びジアミンからなる重縮合物でありこの範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能であり、例えばステアリン酸、セバシン酸、エチレンジアミンからなる重縮合物である、(商品名)ライトアマイドWH-255(共栄社化学(株)製)等を挙げることができる。
【0031】
本発明の再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、各種添加剤を混合して使用することができ、例えば従来公知のポリアルキレンオキサイドオリゴマー系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン化合物などの可塑剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線防止剤;発泡剤;カーボンブラック等の顔料などの通常の添加剤を1種以上添加するものであってもよい。さらに、各種熱硬化性樹脂;シアン酸エステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、ポリエステル、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリアルキレンオキサイド等の熱可塑性樹脂の1種以上を混合して使用してなるものであってもよい。
【0032】
本発明の再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物の製造方法としては、従来使用されている加熱溶融混練方法を用いることができる。例えば単軸または二軸押出機、ニーダー、ミル、ブラベンダー等による加熱溶融混練方法が挙げられ、特に混練能力に優れた二軸押出機による溶融混練方法が好ましい。その際の二軸押出機に使用されるスクリュは、ニーディングゾーンを2か所以上有することが好ましい。さらに、PAS樹脂(A)とリサイクル非強化PAS樹脂(B)との混練を十分なものとし、その結果、耐衝撃性等の靭性に優れた再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物となることから、スクリュ長さ(L1)とスクリュ直径(D1)の比(L1/D1)が30以上、特に40以上のスクリュであることが好ましい。
【0033】
そして、PAS樹脂(A)とリサイクル非強化PAS樹脂(B)との混練を十分なものとし、且つリサイクル非強化PAS樹脂(B)の熱分解を抑制し易くなることから、押出機のニーディングゾーンのシリンダー温度を280~330℃に設定することが好ましく、特に290~320℃に設定することが好ましい。また、再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物のPAS樹脂相とリサイクル非強化PAS樹脂相との混練・均一性を良好なものとし、その結果、耐衝撃性等の靭性に優れた再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物となることから、スクリュの周速度は50~400mm/秒であることが好ましく、特に150~300mm/秒が好ましい。また、押出機内の溶融樹脂の滞留時間としては、PAS樹脂(A)とリサイクル非強化PAS樹脂(B)との溶融混練時間を十分なものとし、且つリサイクル非強化PAS樹脂(B)の熱分解を抑制し易くなることから、30~100秒が好ましく、特に30~80秒であることが好ましい。
【0034】
そして、溶融混練された再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物は、押し出した溶融混練物をホットカット、ミストカット等の方法又はストランドをコールドカット等の方法、等によりペレットとすることが可能であり、特に品質、色調に優れるペレットを安定的に効率よく得ることが可能となることから、溶融混練物を水冷、空冷等の方法により冷却し、ストランドとし、該ストランドをカットし、ペレットとするコールドカットまたはホットカットであることが好ましい。その際のペレットとしては、各種成形品を射出成形する際の加工性に優れるものとなることから、直径0.5~2.5mm、長さ1.5~4mmの円柱形状を有するペレットまたは直径1~3mmの球状のペレットであることが好ましく、特に製品外観に優れる成形体を得ることが可能となることから、薄茶色又は茶色の色調を有するペレットであることが好ましい。
【0035】
また、本発明の再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物は、射出成形機、押出成形機、トランスファー成形機、圧縮成形機、ブロー成形機等を用いて任意の形状を有する成形体とすることができる。
【0036】
本発明の再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物は、PAS樹脂が本来有する耐熱性、耐薬品性、流動性などを損なうことなく、リサイクル非強化PAS樹脂を含有するものであり、電気・電子部品、自動車部品などの用途、または配管・継手などの水廻りの用途などに好適に用いられる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、リサイクル非強化PAS樹脂を含有する再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物を提供することができ、該再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物は、耐衝撃性、流動性に優れ、特に電気・電子部品、自動車部品または水廻りの用途などに有用であり、その産業的価値は極めて高いものである。
【実施例0038】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
【0039】
実施例及び比較例において用いた、PAS樹脂(A)、リサイクル非強化PAS樹脂(B)、繊維状充填材(C)、熱可塑性エラストマー(D)、相溶化剤(E)、離型剤(F)を以下に示す。
【0040】
<PAS樹脂(A)>
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-1)と記す。);溶融粘度2500ポイズ。
アミノ基置換ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-2)と記す。);アミノ基含有量0.1モル%、溶融粘度1200ポイズ。
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-3)と記す。);溶融粘度3220ポイズ。
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-4)と記す。);溶融粘度80ポイズ。
【0041】
<リサイクル非強化PAS樹脂(B)>
ポストコンシューマリサイクル非強化PPS樹脂(以下、PCRPPS樹脂(B-1)と記す。);Ningbo Topcentral New Material CO.,Ltd製、(商品名)rPPS-B103。
ポストインダストリアルリサイクル非強化PPS樹脂(以下、PIRPPS樹脂(B-2)と記す。);(商品名)サスティール B-060P(東ソー(株)製;非強化PPS樹脂)を射出成形した際のスプルー、ランナーの粉砕物。
【0042】
<繊維状充填材(C)>
ガラス繊維(C-1);セントラルグラスファイバー株式会社製、(商品名)ECS03-630;平均繊維径9μm、平均繊維長3mm。
ガラス繊維(C-2);日本電気硝子株式会社製、(商品名)T-760H;繊維径10μm、繊維長3mm。
ガラス繊維(C-3);日東紡績株式会社製、(商品名)CSG 3PL-830S;アスペクト比2。
ガラス繊維(C-4);日本電気硝子株式会社製、(商品名)ECS03T-747-FGF;アスペクト比4。
【0043】
<熱可塑性エラストマー(D)>
エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(D-1)(以下、単に熱可塑性エラストマー(D-1)と記す。);SK global chemical社製、(商品名)LOTADER AX8700、エチレン残基単位:α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル残基単位:α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル残基単位(重量比)=67:8:25。
【0044】
<相溶化剤(E)>
グリシジル基を有するトリアルコキシシランカップリング剤(E-1)(以下、相溶化剤(E-1)と記す。);信越化学工業株式会社製、(商品名)KBM-403;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン。
【0045】
<離型剤(F)>
離型剤(F-1);日興リカ(株)製、(商品名)精製カルナバ粉末1号。
離型剤(F-2);共栄社化学株式会社製、(商品名)ライトアマイドWH-255。
【0046】
合成例1
攪拌機を装備する15リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(Na2S・2.9H2O)1814g、粒状の苛性ソーダ(100%NaOH;和光純薬特級)8.7g及びN-メチル-2-ピロリドン3232gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、339gの水を留去した。190℃まで冷却した後、p-ジクロロベンゼン2129g、N-メチル-2-ピロリドン1783gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて1時間重合させた後、25分かけて250℃に昇温し、250℃にて2時間重合を行った。次いで、この系に250℃で蒸留水509gを圧入し、255℃まで昇温してさらに2時間重合反応を行った。重合終了後、室温まで冷却し、重合スラリーを遠心濾過器で固液分離した。ケーキを窒素気流下でN-メチル-2-ピロリドン、アセトンで順次3回繰り返し洗浄し、さらに、窒素気流下で0.2%塩酸、及び温水で順次洗浄した。得られたポリ(p-フェニレンスルフィド)を105℃で一昼夜乾燥することによって、溶融粘度が350ポイズのPPS(A-1)を得た。
【0047】
合成例2
攪拌機を装備する50リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(Na2S・2.9H2O)6214g及びN-メチル-2-ピロリドン17000gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に205℃まで昇温して、1355gの水を留去した。この系を140℃まで冷却した後、p-ジクロロベンゼン7278g、3,5-ジクロロアニリン11.7g、N-メチル-2-ピロリドン5000gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて2時間重合させた後、30分かけて250℃に昇温し、さらに250℃にて3時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却しポリマーを遠心分離機により単離した。該固形分を温水でポリマーを繰り返し洗浄し100℃で一昼夜乾燥することにより、溶融粘度が400ポイズのアミノ基置換ポリ(p-フェニレンスルフィド)を得た。次いで、乾燥したアミノ基置換ポリ(p-フェニレンスルフィド)を、バッチ式ロータリーキルン型焼成装置に充填し、空気雰囲気下240℃で2時間硬化処理を行うことによって、溶融粘度1200ポイズ、フェニル基に対するアミノ基の含有量0.1モル%のPPS(A-2)を得た。
【0048】
合成例3
攪拌機を装備する50リットルオートクレーブに、Na2S・2.9H2Oを6214g及びN-メチル-2-ピロリドンを17000g仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に205℃まで昇温して、1355gの水を留去した。この系を140℃まで冷却した後、p-ジクロロベンゼンを7180g、N-メチル-2-ピロリドンを5000g添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて2時間重合させた後、30分かけて250℃に昇温し、さらに250℃にて3時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却し、遠心分離器により固形分を単離した。該固形分を180℃の熱水で洗浄し100℃で一昼夜乾燥することにより、ポリ(p-フェニレンスルフィド)を得た。
【0049】
得られたポリ(p-フェニレンスルフィド)を、空気雰囲気下250℃で6時間硬化を行い、分岐型ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-3)と記す。)を得た。PPS(A-3)の溶融粘度は3220ポイズであった。
【0050】
合成例4
攪拌機を装備する15リットルオートクレーブに、Na2S・2.9H2Oを1814g、粒状の苛性ソーダ(100%NaOH;和光純薬特級)を8.7g及びN-メチル-2-ピロリドンを3232g仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、339gの水を留去した。この系を190℃まで冷却した後、p-ジクロロベンゼンを2085g、N-メチル-2-ピロリドンを1783g添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて1時間重合させた後、25分かけて250℃に昇温し、さらに250℃にて2時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却し、遠心分離器により固形分を単離した。該固形分を180℃の熱水で洗浄し105℃で一昼夜乾燥することにより、ポリ(p-フェニレンスルフィド)を得た。
【0051】
得られたポリ(p-フェニレンスルフィド)を、真空乾燥機による減圧条件下、240℃で6時間の乾燥を行い、リニア型ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-4)と記す。)を得た。PPS(A-4)の溶融粘度は80ポイズであった。
【0052】
得られたPAS樹脂組成物の評価・測定方法を以下に示す。
【0053】
~PAS樹脂の溶融粘度測定~
直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスター((株)島津製作所製、(商品名)CFT-500)にて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で溶融粘度の測定を行った。
【0054】
~シャルピー衝撃強度(ノッチ付き)の測定~
射出成形機(住友重機械工業株式会社製、(商品名)SE-75S)によって試験片を作製し、ISO 179-1に準拠し測定を行った。シャルピー衝撃強度8kJ/m2以上のものを、耐衝撃性に優れているとした。
【0055】
~流動性の測定~
射出成形機(住友重機械工業(株)製、(商品名)SE-75S)に、厚み1mm、幅10mmの溝がスパイラル状に掘られた金型を装着し、次いで、シリンダー温度を310℃、射出圧力を190MPa、射出速度を最大、射出時間を1.5秒、及び金型温度を135℃に設定した該射出成形機のホッパーにPAS樹脂組成物を投入し、射出した。そして金型内のスパイラル状の溝を溶融流動した長さを成形流動性として測定した。成形流動性として120mmを超えるものを流動性に優れると判断した。
【0056】
実施例1
合成例1で得られたPPS(A-1)100重量部に対し、PCRPPS樹脂(B-1)20重量部を予め均一に混合し、ニーディングゾーンを4か所有する二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、(商品名)TEX-25αIII、L1/D1=55)のホッパーに投入した。一方、PPS樹脂(A-1)100重量部に対してガラス繊維(C-1)を78重量部(PPS樹脂(A-1)とPCRPPS樹脂(B-1)の合計100重量部に対して65重量部に相当。)、離型剤(F-1)を3重量部となるように該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーから投入し、ニーディングゾーンのシリンダー温度を300℃に加熱した条件で原料供給速度25kg/hr、スクリュ回転数200rpm(周速度;258mm/秒)にて溶融混練し、滞留時間50秒にてダイより流出する再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物の溶融物を水冷却し、ストランドとした後、裁断して直径0.5~2.5mm、長さ1.5~4mmの円柱形状を有するペレットとし、再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物を得た。
【0057】
そして、得られた再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物をシリンダー温度300℃、金型温度140℃に加熱した射出成形機(住友重機械工業株式会社製、(商品名)SE75S)に投入して該再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物の成形流動長の測定を行った。さらに射出成形した試験片を用いてシャルピー衝撃強度の評価を行った。それぞれの測定および評価を行った結果を表1に示す。
【0058】
実施例2~9
PAS樹脂(A-1,-2)、PCRPPS樹脂(B-1),PIRPPS樹脂(B-2)、ガラス繊維(C-1~-4)、熱可塑性エラストマー(D-1)、相溶化剤(E-1)、および離型剤(F-1,-2)の配合割合を表1に示す条件とした以外は、実施例1と同様の方法によりペレット状の再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物を得た。そして、実施例1と同様の方法により評価した。評価結果を表1に示す。
【0059】
得られた全ての再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物は耐衝撃性、流動性に優れるものであった。
【0060】
【0061】
比較例1~6
PPS(A-1,-2,-3,-4)、PCRPPS樹脂(B-1)、ガラス繊維(C-1,-2)、熱可塑性エラストマー(D-1)、相溶化剤(E-1)、および離型剤(F-1,-2)の配合割合を表2に示す条件とした以外は、実施例1と同様の方法によりペレット状の樹脂組成物を得た。そして、実施例1と同様の方法により評価した。評価結果を表2に示した。
【0062】
比較例2、4、6より得られた樹脂組成物は耐衝撃性が劣るものであった。比較例1、3、5より得られた樹脂組成物は、流動性が劣るものであった。
【0063】
本発明の再生繊維状充填材強化PAS樹脂組成物は、PAS樹脂が本来有する機械特性、流動性などを損なうことなく、リサイクル非強化PAS樹脂を含有するものであり、電気・電子部品、自動車部品などの用途、または配管・継手などの水廻りの用途などの用途に特に有用である。