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特開2025-5541連結車両の走行シミュレーション方法及び走行シミュレーションシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005541
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】連結車両の走行シミュレーション方法及び走行シミュレーションシステム
(51)【国際特許分類】
   B62D 12/02 20060101AFI20250109BHJP
   G05D 1/43 20240101ALI20250109BHJP
【FI】
B62D12/02
G05D1/02 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105746
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129654
【弁理士】
【氏名又は名称】大池 達也
(72)【発明者】
【氏名】安藤 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】番場 達也
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301BB05
5H301CC03
5H301CC06
5H301HH18
(57)【要約】
【課題】連結車両を構成する牽引車や台車の軌跡を効率良く予測するための走行シミュレーションシステムを提供すること。
【解決手段】牽引車21を先頭にして2台の台車22A・Bが連なる連結車両2の走行をシミュレーションする走行シミュレーションシステム1Sにおいて、シミュレーション装置1は、経路10中の複数の箇所100において牽引車21の前軸中心FCが通過する候補点10Pを3つずつ設定する処理部と、複数の箇所100から1つずつ選択された複数の候補点10Pを前軸中心FCが通過するための軌跡を求める処理部と、前軸中心FCの軌跡に基づき台車22A・Bの軌跡を求める処理部と、前軸中心FCの軌跡及び台車22A・Bの軌跡に基づき連結車両2が経路10を移動する際の走行コストを求める処理部と、を含んで構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵輪である前輪と固定舵の後輪とを備える牽引車を先頭にして1台または2台以上の複数の台車が直列で連なる連結車両の走行をシミュレーションする方法であって、
通路により構成された経路中の複数の箇所に、前記牽引車の前輪の軸の中点である前軸中心FCの通過点になり得る候補点を2つ以上ずつ設定する処理と、
前記複数の箇所から1つずつ選択された複数の候補点を、前記前軸中心FCが通過するための前記前軸中心FCの軌跡を求める処理と、
前記前軸中心FCの軌跡に基づき、前記1台または2台以上の複数の台車の軌跡を求める処理と、
前記前軸中心FCの軌跡、及び前記1台または2台以上の複数の台車の軌跡に基づき、前記連結車両が前記経路を移動する場合の難易度を表す量である走行コストを求める処理と、を含み、
前記複数の箇所から1つずつ選択された複数の候補点の組合せ毎に前記走行コストを求める、連結車両の走行シミュレーション方法。
【請求項2】
請求項1において、前記牽引車の後輪の軸の中点である後軸中心RCの軌跡となる走行計画線を、前記経路に対して設定する処理を含み、
前記前軸中心FCの軌跡を求める処理は、前記後軸中心RCが前記走行計画線を通過すると共に、前記複数の箇所から1つずつ選択された複数の候補点を前記前軸中心FCが通過する、ための前記前軸中心FCの軌跡を求める連結車両の走行シミュレーション方法。
【請求項3】
請求項1において、前記牽引車の後輪の軸の中点である後軸中心RCの軌跡と比較するための走行計画線を、前記経路に対して設定する処理を含み、
前記走行コストは、少なくとも、前記走行計画線と、前記後軸中心RCの軌跡と、の位置的なずれの大きさを反映する量である、連結車両の走行シミュレーション方法。
【請求項4】
請求項2または3において、前記走行計画線は、直線の軌跡、円弧の軌跡、及びレーンチェンジの軌跡によって構成される軌跡であり、
前記レーンチェンジの軌跡は、当該レーンチェンジの前後で進路の方向を変更することなく幅方向における進路の位置を変更する軌跡である、連結車両の走行シミュレーション方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項において、前記走行コストは、前記前輪の操舵角及び操舵角速度のうちの少なくともいずれかを反映する量である、連結車両の走行シミュレーション方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項において、前記走行コストは、前記連結車両のうちの進行方向前側の前記牽引車あるいは台車の方位と、当該牽引車あるいは台車により直接、牽引される台車の方位と、の角度的な偏差である折れ角を反映する量である、連結車両の走行シミュレーション方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項において、前記牽引車及び前記1台または2台以上の複数の台車が通過する領域である通過領域を求める処理を含み、
前記通路では、前記連結車両の通過が推奨されない非推奨領域が設定されており、前記走行コストは、前記通過領域が前記非推奨領域にはみ出した回数及びはみ出した量のうちの少なくともいずれか一方を反映する量である、連結車両の走行シミュレーション方法。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項において、前記牽引車及び前記1台または2台以上の複数の台車が通過する領域である通過領域を求める処理を含み、
前記走行コストは、前記通路における前記通過領域の幅方向の余地の大きさを反映する量である、連結車両の走行シミュレーション方法。
【請求項9】
操舵輪である前輪と固定舵である後輪とを備える牽引車を先頭にして1台または2台以上の複数の台車が直列で連なる連結車両の走行をシミュレーションするシステムであって、
通路により構成された経路中の複数の箇所に、前記牽引車の前輪の軸の中点である前軸中心FCの通過点になり得る候補点を2つ以上ずつ設定する処理部と、
前記複数の箇所から1つずつ選択された複数の候補点を、前記前軸中心FCが通過するための前記前軸中心FCの軌跡を求める処理部と、
前記前軸中心FCの軌跡に基づき、前記1台または2台以上の複数の台車の軌跡を求める処理部と、
前記前軸中心FCの軌跡、及び前記1台または2台以上の複数の台車の軌跡に基づき、前記連結車両が前記経路を移動する場合の難易度を表す量である走行コストを求める処理部と、を含み、
当該走行コストを求める処理部は、前記複数の箇所から1つずつ選択された複数の候補点の組合せ毎に前記走行コストを求めるように構成されている、連結車両の走行シミュレーションシステム。
【請求項10】
請求項9において、前記複数の候補点の組合せのうち、前記走行コストが最も低コストである組合せを選択し、当該組合せに対応する前記前軸中心FCの軌跡を出力するように構成された連結車両の走行シミュレーションシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連結車両の走行軌跡のシミュレーションに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、製品や部品の搬送効率を向上するため、牽引車が台車を牽引する連結車両が利用されている(例えば、特許文献1参照。)。連結車両によれば、1台の車両だけでは運びきれない大量の製品や部品を同時に搬送できる。連結車両の運用に当たっては、牽引車に連結された各台車が通路からはみ出さないよう、牽引車の軌跡を設定する必要がある。
【0003】
下記の特許文献1には、スタート地点からゴール地点に至る経路が複数、存在している場合に、最も効率良く車両が走行するための経路を探索するためのシステムが記載されている。このシステムは、複数の経路のコスト比較により、最適な経路を探索しようとしている。
【0004】
特許文献1のシステムでは、経路を構成する区間毎に、牽引車の単独走行の軌跡および牽引走行の軌跡が予め決定されている。そして、各区間における単独走行の軌跡および牽引走行の軌跡には、それぞれ、コストが設定されている。このシステムでは、経路を構成する各区間につき、単独走行であるか牽引走行であるかに応じたコストが選択されて積算され、これにより、経路毎のコストが経路コストとして求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-114188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の連結車両では、次のような課題がある。すなわち、牽引車の単独軌跡の決定は比較的容易である一方、牽引車に台車が連結された連結車両の場合、牽引車と台車とで走行軌跡が異なる等の特有の事情が生じるため、各区間における牽引走行の軌跡をどのように決定するか、いかにして効率良く牽引走行の軌跡を決定するか、に技術的な課題がある。
【0007】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、連結車両を構成する牽引車や台車の軌跡を効率良く予測するためのシミュレーション方法及びシステムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、操舵輪である前輪と固定舵の後輪とを備える牽引車を先頭にして1台または2台以上の複数の台車が直列で連なる連結車両の走行をシミュレーションする方法であって、
通路により構成された経路中の複数の箇所に、前記牽引車の前輪の軸の中点である前軸中心FCの通過点となり得る候補点を2つ以上ずつ設定する処理と、
前記複数の箇所から1つずつ選択された複数の候補点を、前記前軸中心FCが通過するための前記前軸中心FCの軌跡を求める処理と、
前記前軸中心FCの軌跡に基づき、前記1台または2台以上の複数の台車の軌跡を求める処理と、
前記前軸中心FCの軌跡、及び前記1台または2台以上の複数の台車の軌跡に基づき、前記連結車両が前記経路を移動する場合の難易度を表す量である走行コストを求める処理と、を含み、
前記複数の箇所から1つずつ選択された複数の候補点の組合せ毎に前記走行コストを求める、連結車両の走行シミュレーション方法にある。
【0009】
本発明の一態様は、操舵輪である前輪と固定舵である後輪とを備える牽引車を先頭にして1台または2台以上の複数の台車が直列で連なる連結車両の走行をシミュレーションするシステムであって、
通路により構成された経路中の複数の箇所に、前記牽引車の前輪の軸の中点である前軸中心FCの通過点になり得る候補点を2つ以上ずつ設定する処理部と、
前記複数の箇所から1つずつ選択された複数の候補点を、前記前軸中心FCが通過するための前記前軸中心FCの軌跡を求める処理部と、
前記前軸中心FCの軌跡に基づき、前記1台または2台以上の複数の台車の軌跡を求める処理部と、
前記前軸中心FCの軌跡、及び前記1台または2台以上の複数の台車の軌跡に基づき、前記連結車両が前記経路を移動する場合の難易度を表す量である走行コストを求める処理部と、を含み、
当該走行コストを求める処理部は、前記複数の箇所から1つずつ選択された複数の候補点の組合せ毎に前記走行コストを求めるように構成されている、連結車両の走行シミュレーションシステムにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明の走行シミュレーション方法及び走行シミュレーションシステムでは、連結車両の走行をシミュレーションするに当たって、経路中の複数の箇所に、前軸中心FCの通過点となり得る候補点が2つ以上ずつ設定される。そして、前記複数の箇所から1つずつ選択された複数の候補点を、前軸中心FCが通過するための前軸中心FCの軌跡が求められ、さらに1台または2台以上の台車の軌跡が求められる。
【0011】
本発明では、前軸中心FCの軌跡、及び複数の台車の軌跡に基づき、連結車両が経路を移動する場合の難易度を表す量である走行コストが求められる。この走行コストは、複数の箇所から1つずつ選択された複数の候補点の組合せ毎に求められる。走行コストは、複数の候補点の組合せの優劣を判断するために有用である。
【0012】
このように本発明の連結車両の走行シミュレーション方法及び走行シミュレーションシステムによれば、経路中の複数の箇所において前軸中心FCの通過点の候補を設定することで、複数の候補点の組合せ毎に、連結車両を構成する各車両の軌跡を求めることができる。そして、連結車両が経路を移動する際の走行コストを、複数の候補点の組合せ毎に求めることができる。複数の候補点の組合せ毎の走行コストは、最適な候補点の組合せを選択する際に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】走行シミュレーションシステムの概要を示す説明図。
図2】連結車両の説明図。
図3】連結車両の構成を示すシステム図。
図4】経路に対して設定される走行計画線及び候補点の説明図。
図5】車両仕様の説明図。
図6】走行計画線の入力画面の正面図。
図7】経路に設定された走行計画線(走行計画線座標)を例示する説明図。
図8】候補点の入力画面の説明図。
図9】候補点の説明図。
図10】走行シミュレーションの流れを示す説明図。
図11】後軸中心RCが走行計画線に沿うように走行する連結車両を例示する説明図。
図12】前軸中心FCの軌跡を例示する説明図。
図13】連結車両の通過領域を例示する説明図。
図14】走行コストが最も低い前軸中心FCの軌跡を表示する表示画面の正面図。
図15】磁気センサモジュールの通過領域を例示する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態につき、以下の実施例を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
本例は、前輪操舵の牽引車21が台車22A・Bを牽引する連結車両2の走行シミュレーション方法、及び走行シミュレーションシステム1Sに関する例である。この内容について、図1図15を用いて説明する。
【0015】
連結車両2の走行環境は、例えば、工場や物流倉庫などの屋内環境や、工場などの敷地内の屋外環境、等である。走行環境では、図1のごとく、連結車両2が走行可能な通路12によって経路10が構成されている。なお、本例の説明において、通路12は、車両が走行可能な領域を意味している。一方、経路10は、連結車両2が移動する道筋であって幅や面積などを持たない概念である。
【0016】
経路10(図1)は、左右を逆転した略C字状の通路12により形成された道筋である。通路12は、幅4mの一定幅の領域である。通路12は、車両の進入・はみ出しが禁止されている禁止領域13により囲まれて形成されている。横長の長方形の4辺のうちの左辺(縦方向の短辺)を除く3辺よりなる略C字状の通路12のうち、横方向の上辺に相当する通路12A及び下辺に相当する通路12Cの長さが20mで、縦方向の右辺に相当する通路12Bの長さが10mとなっている。
【0017】
経路10は、上辺の通路12Aに設けられたスタート地点STから出発し、右辺の通路12Bを通過して下辺の通路12Cに設けられたゴール地点GLに至る道筋である。スタート地点ST及びゴール地点GLは、スタート時あるいはゴール時における牽引車21の位置を示している。連結車両2の全長のため、スタート地点STとゴール地点GLとの間には、通路12A・Cの長手方向における位置的なずれが生じている。上辺の通路12Aの途中にスタート地点STが位置しているのに対して、ゴール地点GLは下辺の通路12Cの端部近くに位置している。
【0018】
なお、本例の構成では、連結車両2の通過が好ましくない非推奨領域128が通路12に設けられている。本例では、通路12の端に寄り過ぎることは好ましくないことから、図1のごとく、通路12の左右両側の端に非推奨領域128が設定されている。なお、非推奨領域128は、例えば、通路12に面して機械が設置されている箇所や、人が歩く通路に沿っている箇所、等に選択的に設定すると良い。また例えば、禁止領域13に代えて非推奨領域128によって取り囲まれた領域を、通路に設定しても良い。
【0019】
実際の経路10には、連結車両2の走行をガイドするための個片状の磁気マーカ(図示略)が間隔を空けて配設される。連結車両2の走行軌跡のシミュレーション結果は、経路10上の磁気マーカの配設位置を計画する際の有用な情報となる。牽引車21に取り付けられる後述の磁気センサモジュールが真上を通過するよう、磁気マーカを配置する必要があるからである。
【0020】
連結車両2は、図2のごとく、駆動輪を備える先頭の牽引車21と、2台の台車22(台車22A・B)と、により構成されている。連結車両2では、2台の台車22A・Bが牽引車21に対して直列に接続されている。牽引車21は、長さ2m、幅1mであり、台車22A・Bは、長さ1.8m、幅1mである。連結車両2の全長は、およそ6mである。
【0021】
牽引車21は、操舵輪である左右一対の前輪211と、駆動輪である後輪212と、を有している。前輪211の最大操舵角は60度である。後輪212は、回転軸の軸方向が固定された固定舵の車輪である。牽引車21の後部には、連結フック219が後方に向けて延設されている。また、牽引車21の最後尾には、磁気マーカを検出するための磁気センサモジュール3が取り付けられている。台車22を牽引する牽引車21は、例えば角を回る際に大回りを要する傾向がある。牽引車21の最後尾は、牽引車21の大回りの影響が少ないため、磁気センサモジュール3の取付位置として好適である。
【0022】
磁気センサモジュール3は、磁気センサ(図示略)が間隔を空けて複数、組み込まれている棒状のセンサユニットである。磁気センサモジュール3は、その長手方向が車幅方向に沿うよう、牽引車21に取り付けられている。棒状の磁気センサモジュール3の長さは、牽引車21の車幅に近い長さである。車幅方向に沿って延設された棒状の磁気センサモジュール3であれば、磁気マーカに対する牽引車21の車幅方向の位置的なずれに依らず、磁気マーカを確実性高く検出できる。
【0023】
台車22(22A・B)は、自在輪である前輪221と、固定舵の後輪222と、を備える四輪の車両である。台車22は、牽引車21あるいは先行する台車22に連結するための連結バー220を有すると共に、後続する台車22を連結するための連結フック229を備えている。連結バー220及び連結フック229は、車両の前後方向に沿うように延設されている。連結フック229は、牽引車21の連結フック219と同じ仕様のものである。
【0024】
連結バー220は、連結フック219、229を係止するための孔(図示略)を備えている。牽引車21の連結フック219と、前側の台車22Aの連結バー220と、の組合せにより連結部28Aが形成されている。また、前側の台車22Aの連結フック229と、後ろ側の台車22Bの連結バー220と、の組合せにより連結部28Bが形成されている。
【0025】
連結部28A・Bでは、鉛直方向の仮想軸である牽引軸280が形成されている。牽引軸280は、前側の車両の方位(向き)に相対して後ろ側の車両の方位が回動する際の中心をなす軸である。前側の車両の方位と、後ろ側の車両の方位と、の角度偏差である折れ角(牽引折れ角)の最大値は45度である。牽引軸280は、前側の車両と後ろ側の車両との間隙に位置している。牽引軸280と、被牽引車両である台車22A・Bの後輪の軸(後軸222A)との距離(牽引軸間距離)は1.3mである。
【0026】
ここで参考のため、牽引車21のシステム構成を説明する。牽引車21は、図3の通り、磁気センサモジュール3、連結車両2の走行を制御する制御ユニット40、慣性航法を実現するためのIMU(Inertial Measurement Unit)42、後輪212を回転駆動するモータユニット44、操舵輪である前輪211を操舵する操舵ユニット46、等を含んで構成されている。
【0027】
制御ユニット40は、牽引車21の走行を制御するユニットである。制御ユニット40は、操舵ユニット46やモータユニット44を介して前輪211の舵角や後輪212の回転角速度を制御する。制御ユニット40は、各種の演算を実行するCPU(Central Processing Unit)のほか、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などのメモリ素子等を含めて構成された電子回路(図示略)を備えている。
【0028】
制御ユニット40には、磁気センサモジュール3、操舵ユニット46、モータユニット44、に加えて、地図データベース48を構成するメモリ装置や後輪212の回転に応じてパルスを出力する車輪速ユニット442が接続されている。制御ユニット40は、車輪速ユニット442が出力するパルスを利用して車速を特定する。
【0029】
地図データベース48は、通路12や経路10の形状を表す走行用マップデータを記憶するデータベースである。走行用マップデータが表す地図上では、経路10上に配設された磁気マーカがひも付けられている。走行用マップデータを参照すれば、磁気マーカの位置を特定可能である。走行用マップデータには、連結車両2が走行する際の目標の軌跡を割り付け可能である。走行用マップデータを参照することで、目標の軌跡を読み出し可能である。
【0030】
目標の軌跡は、例えば、牽引車21の前輪211の軸の中心である前軸中心FCの軌跡である。連結車両2が経路10を移動する際、磁気センサモジュール3が磁気マーカを検出し、さらに、検出された磁気マーカに対する横偏差(牽引車21の横ずれ量)が特定される。磁気マーカに対する横偏差は、牽引車21の方位を利用して目標の軌跡に対する前軸中心FCの横偏差に変換される。目標の軌跡に対する前軸中心FCの横偏差は、牽引車21の操舵制御の対象となり得る。例えば前軸中心FCの横偏差を抑制する操舵制御を含む走行制御が牽引車21に適用され、これにより連結車両2が経路10を移動できる。
【0031】
次に、本例の走行シミュレーションシステム1Sを構成するコンピュータ装置であって、本例の走行シミュレーション方法を実行するシミュレーション装置1(図1)について説明する。シミュレーション装置1は、演算処理機能を有する本体153、液晶ディスプレイ151やプリンタなどの出力デバイス、キーボード155やマウスなどの入力デバイス、を含む装置である。本体153には、CPUを利用する電子回路が形成された電子基板や、ソリッドステートドライブやハードディスクドライブ等の記憶装置、等が収容されている。
【0032】
シミュレーション装置1には、走行計画線10Lや候補点10Pを入力するためのアプリケーションプログラムがインストールされている。走行計画線10L(図4)は、スタート地点STからゴール地点GLに至る経路10を連結車両2が移動する際、牽引車21の後軸の中心である後軸中心RCを通過させる軌跡をなす線である。候補点10P(図4)は、前軸中心FCの通過点になり得る点である。なお、候補点10Pは、走行計画線10L上の基準点10Sに対応して設けられる箇所100に配置される。本例は、走行計画線10Lにおける直線から円弧への変曲点、円弧から直線への変曲点を、基準点10Sとした例である。走行計画線10L上の各点は、いずれも基準点10Sになり得る。オペレータが走行計画線10L上の任意の点を、基準点10Sとして設定できるように構成しても良い。
【0033】
このアプリケーションプログラムは、液晶ディスプレイ151等の表示画面上で走行計画線10Lや候補点10Pを入力するためのユーザーインタフェースを提供する。オペレータは、表示画面上の操作によって走行計画線10Lや候補点10Pを入力可能である。なお、走行計画線10Lの入力操作の内容については図6を参照して後述する。候補点10Pの入力操作については図8を参照して後述する。
【0034】
本体153は、LAN(Local Area Network)等の通信ポートやUSBポート等を備えており、これらのポートを介して各種データの入出力が可能である。本体153が外部から取得するデータには、例えばマップデータや車両仕様などがある。マップデータは、図1に例示する経路10、通路12、非推奨領域128の2次元的な座標を表すデータである。シミュレーション装置1が取得するマップデータは、地図データベース48(図3参照。)が記憶する上記の走行用マップデータと共用しても良く、異なる仕様のデータであっても良い。
【0035】
本体153が外部に出力するデータは、連結車両2が経路10を移動する際の最適な軌跡を表すデータや、様々な軌跡に関する移動の難易度の比較結果(走行コストの一覧)、などである。比較結果の出力態様は、例えば液晶ディスプレイ151の表示画面上での表示であっても良く、図示しないプリンタ等による印字出力であっても良い。
【0036】
シミュレーション装置1は、ソフトウェアプログラムをCPUが実行することで、以下の各部としての機能を実現可能である。
(1)走行計画線設定部:アプリケーションプログラムを利用して例えばオペレータが入力した走行計画線10Lの座標(走行計画線座標)を、経路10に設定する処理部。走行計画線設定部は、走行計画線座標をマップデータ上に対応付けることにより、走行計画線10Lを経路10に設定する。
(2)候補点設定部:経路10中の複数の箇所100(図4参照。)において、牽引車21の前軸中心FCの通過点になり得る候補点10P(図4参照。)を2つ以上ずつ(本例では3つずつ。)設定する処理部。候補点設定部は、アプリケーションプログラムを利用して入力された候補点10Pの座標をマップデータ上に対応付けることで、候補点10Pを設定する。
(3)牽引車軌跡推定部:複数の箇所100から1つずつ選択された複数の候補点10Pを、前軸中心FCが通過するための前軸中心FCの軌跡10F(図11を参照して後述する。)を求める処理部。牽引車軌跡推定部は、前軸中心FCの軌跡10Fに加えて、この軌跡10Fに沿って前軸中心FCが移動する際の牽引車21の方位(姿勢)を求める。
(4)台車方位推定部:台車22A・Bの方位を推定する処理部。台車方位推定部は、連結車両2のうちの進行方向前側の牽引車21あるいは台車22の方位を基準として、牽引車21あるいは台車22により直接、牽引される台車22の方位を求める。
(5)台車軌跡推定部:前軸中心FCの軌跡10Fに基づき、連結車両2を構成する台車22A・Bの軌跡を求める処理部。
(6)走行コスト算出部:前軸中心FCの軌跡10F、及び台車22A・Bの軌跡に基づき、連結車両2が経路10を移動する場合の難易度を表す量である走行コストを求める処理部。走行コストの内容については、後で詳しく説明する。
(7)最適軌跡選択部:複数種類の前軸中心FCの軌跡の中から最適な軌跡を選択して出力する処理部。前軸中心FCの軌跡は、経路10中の複数の箇所100から1つずつ選択された複数の候補点10Pの組合せ毎に求められる。
【0037】
次に、以上の通り構成された走行シミュレーションシステム1Sが実行する本例の走行シミュレーション方法を説明する。本例の走行シミュレーション方法を実施する際、牽引車21の仕様データ、被牽引車両である台車22の仕様データ、走行計画線10Lのデータ、候補点10Pのデータ、および通路12の座標データ、禁止領域13の座標データ、等が入力データとなる。
【0038】
牽引車21の仕様データは、例えば表1の通りである。表1中に例示する値は、図5中の各寸法の値等である。
【表1】
【0039】
例えば表1中のL0は、牽引車21の前軸211Aと後軸212Aとの間の距離、すなわちホイールベースである。例えば寸法W0は、牽引車21の幅である。例えば寸法H0は、後軸212Aから後方の牽引軸280までの距離である。α_maxは、寸法ではなく、操舵輪である前輪211の最大操舵角度である。α_rate_maxは、寸法ではなく、最大操舵角速度である。
【0040】
台車22の仕様データは、例えば表2の通りである。表2中に例示する値は、図5中の各寸法の値等である。
【表2】
【0041】
例えば表2中のnumは、寸法ではなく、牽引車21に牽引される台車22の台数である。例えばL1は、前側の牽引軸280から後軸222Aまでの距離(牽引軸間距離)である。例えばH1は、後軸222Aから後ろ側の牽引軸280までの距離である。例えばβ_maxは、連結部28の最大折れ角である。折れ角(牽引折れ角)とは、牽引車21の方位(向き)と台車22Aの方位との角度的な偏差、あるいは前側の台車22Aの方位と後ろ側の台車22Bの方位との角度的な偏差である。
【0042】
本例の走行シミュレーション方法は、オペレータが入力する走行計画線10Lおよび候補点10P(図4参照。)に基づいて実行される。候補点10Pは、前軸中心FCの通過点になり得る点である。本例では、走行計画線10L上の基準点10Sに対応して、それぞれ、候補点10Pを入力する箇所100が設定される。候補点10Pは、複数の箇所100において、それぞれ、2つ以上ずつ(本例では3つずつ。)設定される。本例では、走行計画線10L上の直線から円弧への変曲点、及び円弧から直線への変曲点、に基準点10Sが設定される。
【0043】
本例の走行シミュレーション方法では、複数の箇所100から1つずつ選択された複数の候補点10Pを、前軸中心FCの通過点とするための牽引車21および台車22A・Bの軌跡及び方位が算出される。そして、複数の箇所100から1つずつ選択された複数の候補点10Pの組合せ毎に、連結車両2が経路10を移動する場合の難易度を表す量である走行コストが求められる。複数の候補点10Pの組合せ毎の走行コストは、連結車両2の好ましい移動軌跡や、最適に近い移動軌跡、などの判断のために有用である。本例の走行シミュレーション方法は、後出の図10を参照して説明する通り、走行計画線設定処理P1、候補点設定処理P2、牽引車軌跡推定処理P3、台車軌跡推定処理P4、走行コスト判定処理P5、を含んでいる。
【0044】
以下、オペレータによる走行計画線10Lの入力方法および候補点10Pの入力方法の説明に続いて、走行計画線設定処理P1、候補点設定処理P2、牽引車軌跡推定処理P3、台車軌跡推定処理P4、走行コスト判定処理P5、の内容を順番に説明する。
【0045】
(走行計画線の入力方法)
上記のごとく、シミュレーション装置1は、走行計画線10Lや候補点10P(図4参照。)を入力するためのアプリケーションプログラムを実行可能である。このアプリケーションプログラムでは、液晶ディスプレイ151等の表示画面上で走行計画線10Lや候補点10Pの入力が可能である。アプリケーションプログラムの実行に応じて、図6に例示する入力画面が表示される。この入力画面は、タブ付きのメインウィンドウ15Wを含む画面である。タブには、少なくとも、走行計画線入力タブと、候補点入力タブと、がある。タブの選択により、メインウィンドウ15Wの機能を切替可能である。
【0046】
図6は、走行計画線入力タブが選択され、走行計画線10Lを入力するためのメインウィンドウ15Wが表示された入力画面の例である。同図のメインウィンドウ15W(図6)では、外部から取得する上記のマップデータに基づいて経路10や通路12等が表示される。ツールボックス15Tには、拡大ボタンや縮小ボタンなどの表示態様を切り替える操作ボタンや、直線ボタン、円弧ボタン、レーンチェンジボタンなど入力モードを切り替える操作ボタン、等が配置されている。
【0047】
直線ボタンは、走行計画線10Lとして直線の軌跡を入力するモードに切り替えるためのボタンである。円弧ボタンは、走行計画線10Lとして円弧の軌跡を入力するモードに切り替えるためのボタンである。レーンチェンジボタンは、走行計画線10Lとしてレーンチェンジの軌跡を入力するモードに切り替えるためのボタンである。ここで、レーンチェンジの軌跡は、当該レーンチェンジの前後で進路の方向を変更することなく幅方向における進路の位置を変更する軌跡である。
【0048】
例えば直線の軌跡を入力するモードに切り替えた状態では、マウス等の操作により直線の軌跡を走行計画線10Lとして入力できる。マウス等により始点と終点とを設定すれば、始点から終点に至る直線の軌跡を走行計画線10Lとして入力できる。図6は、スタート地点STを始点として設定した後、終点として点P1を設定したことにより、スタート地点STから点P1に至る直線の軌跡を入力した状態である。
【0049】
例えば、図6のごとく円弧の軌跡を入力するモードに切り替えた後、始点として点P1を設定し、終点として点P2を設定すれば、点P1と点P2とを結ぶ円弧の軌跡を入力できる。例えばマウス等の入力デバイスを用いてカーソルCを移動させ、画面上の位置を選択することで、始点や終点を設定できる。このようにして、アプリケーションプログラム上において、直線の軌跡、円弧の軌跡、レーンチェンジの軌跡を適宜、組み合わせてスタート地点STとゴール地点GLとの間を切れ目なく結ぶことで走行計画線10Lを入力できる。
【0050】
本例のシミュレーション装置1が実行するアプリケーションプログラムを利用すれば、直線の軌跡、円弧の軌跡、レーンチェンジの軌跡を適宜、組み合わせるだけで走行計画線10Lを入力できる(図7参照。)。アプリケーションプログラムを利用すれば、特別な知識や技術がなくても連結車両2の走行計画が可能である。
【0051】
(候補点の入力方法)
【0052】
図6の走行計画線10Lの入力画面中のメインウィンドウ15Wには、機能切替のためのタブが設けられている。候補点入力タブを選択すれば、候補点10Pを入力するためのメインウィンドウ15W(図8)を切替表示できる。
【0053】
ここで、候補点10P(図9)は、前軸中心FCの通過点となり得る経路10中の点である。本例の構成では、経路10中の複数の箇所100において、それぞれ、3つの候補点10Pが設定される。候補点10Pを設定できる箇所100は、走行計画線10L上の基準点10S毎に設定される。本例の基準点10Sは、上記のごとく、走行計画線10L上の直線から円弧に切り替わる点、及び円弧から直線に切り替わる点、等に設定される。
【0054】
箇所100毎の3つの候補点10Pは、基準点10Sにおける走行計画線10Lの接線10Tの方向に対して直交する配置線10Aに沿って等間隔で配置される。接線10Tを基準として、3つの候補点10Pを対称に配置するか、進行方向に向かって左寄りに配置するか、同様の右寄りに配置するか、についてはオペレータの操作に応じて選択的である。
【0055】
図8のメインウィンドウ15Wでは、図6の入力画面上で入力された走行計画線10Lが表示される。同図中の走行計画線10L上では基準点10Sが表示されている。同図の走行計画線10Lの場合、4つの基準点10Sが表示されている。スタート地点STからゴール地点GLに向かって、第1~第4の基準点10Sという。図8に例示する入力画面では、マウス操作(カーソルC)等により例えば第1の基準点10Sが選択され、これにより、候補点10Pの入力ウィンドウ15Uがポップアップ表示されている。
【0056】
図8中でポップアップ表示された入力ウィンドウ15Uには、基準点序列の表示欄、進行方向オフセット値の入力欄、横方向オフセット値の入力欄、候補点10Pの配置パターン選択ボタン158、が配置されている。基準点序列の表示欄は、スタート地点STから数えて、何番目の基準点10Sであるかの序列を示す表示欄である。第1の基準点10Sが選択された図8の例では、基準点序列の表示欄に1(番目)が表示される。
【0057】
進行方向オフセット値は、図9のごとく、基準点10Sから3つの候補点10Pの配置線10Aまでの距離である。横方向のオフセット値は、3つの候補点10Pの間隔である。配置パターン選択ボタン158には、中央ボタン、左ボタン、右ボタンの3つがある。中央ボタンは、図9中の第1の基準点10Sに対応する箇所100の通り、接線10Tを基準として3つの候補点10Pを対称に配置するためのボタンである。左ボタンは、図9中の第2の基準点10Sに対応する箇所100の通り、接線10Tを基準として、進行方向に向かって左寄りに候補点10Pを配置するためのボタンである。右ボタンは、接線10Tを基準として、進行方向に向かって右寄りに候補点10Pを配置(図示略)するためのボタンである。
【0058】
シミュレーション装置1では、以上のような操作により、各基準点10Sに対応する箇所100について、それぞれ、候補点10Pを3つずつ入力できる。一般的には、図9中の第1の基準点10Sや第3の基準点10Sなど、直線から円弧への変曲点である基準点10Sについては、接線10Tを基準として対称に3つの候補点10Pを配置するのが良い。一方、図9中の第2の基準点10Sや第4の基準点10Sなど、円弧から直線への変曲点である基準点10Sについては、円弧の内周側ではなく、円弧の外周側に寄せて3つの候補点10Pを配置するのが良い。
【0059】
また、図9中の第1の基準点10Sや第3の基準点10Sなど、直線から円弧への変曲点である基準点10Sについては、牽引車21のホイールベースの分だけ、進行方向にオフセットした位置に候補点10Pを配置すると良い。一方、図9中の第2の基準点10Sや第4の基準点10Sなど、円弧から直線への変曲点である基準点10Sについては、円弧から直線への変化に速やかに追従できるよう、基準点10Sに対する候補点10Pの進行方向のオフセットをゼロに設定すると良い。
【0060】
(走行計画線設定処理P1)
走行計画線設定処理P1(図10)は、入力された走行計画線10Lを経路10に設定する処理である。この走行計画線設定処理P1では、走行計画線10Lの座標である走行計画線座標をマップデータに対応付けることにより、走行計画線10Lが経路10に設定される。走行計画線設定処理P1では、走行計画線10Lという線で定義された走行計画が、離散的な座標である走行計画線座標に変換される。走行計画線設定処理P1を実施した後のマップデータは、経路10及び通路12に対する走行計画線10L(走行計画線座標)の位置関係が特定されたものとなる。
【0061】
(候補点設定処理P2)
候補点設定処理P2(図10)は、図8の入力画面上で入力された値に基づき図9のごとく設定された候補点10Pを経路10に設定する処理である。候補点10Pは、前軸中心FCの通過点となり得る点である。本例では、基準点10Sに対応する箇所100毎に、候補点10Pが3つずつ設定される。
【0062】
候補点設定処理P2では、各候補点10Pの座標である候補点座標をマップデータに対応付けることにより、候補点10Pが経路10に設定される。候補点設定処理P2を実施した後のマップデータは、経路10及び通路12に対する候補点10Pの位置関係が特定されたものとなる。
【0063】
(牽引車軌跡推定処理P3)
牽引車軌跡推定処理P3(図10)は、牽引車21の前軸中心FCの軌跡10F及び牽引車21の方位を推定するための処理である。この牽引車軌跡推定処理P3では、まず、各基準点10Sに対応する箇所100から1つずつ選択された候補点10Pの組合せ毎に、前軸中心FCの軌跡が算出される。
【0064】
前軸中心FCの軌跡は、図11に例示するように、離散的な走行計画線座標を後軸中心RCが通過すると共に、選択された候補点10Pを前軸中心FCが通過するための軌跡である。このような前軸中心FCの軌跡は、牽引車21の方位と共に推定される。前軸中心FCの軌跡10F及び牽引車21の方位(姿勢)は、ホイールベースや操舵角範囲等の牽引車21の仕様、走行計画線座標、及び候補点座標に基づいて求められる。候補点座標は、各基準点10Sに対応する箇所100毎に1つずつ選択された候補点10Pの座標である。牽引車軌跡推定処理P3では、前軸中心FCの軌跡10F及び方位(姿勢)に加えて、操舵角(前輪)が経路10上の各位置で算出される。
【0065】
なお、走行計画線10Lにおける直線と円弧の接続部などにおいて、操舵角の変化が滑らかになるように前軸中心FCの軌跡10Fを調整することがある。上記の接続部においては、牽引車21の内輪差のため、走行計画線10Lをなす円弧よりも外周側の曲線を前軸中心FCが通過するようになる。走行計画線10Lをなす直線に沿って移動する前軸中心FCが、走行計画線10Lをなす円弧の外周側の曲線に乗り移ったり、この外周側の曲線から走行計画線10Lをなす直線に乗り移ったり、する場合、前軸中心FCの軌跡を調整すると良い。上記のような前軸中心FCの乗り移りの際、例えば、いわゆるレーンチェンジの軌跡となるように前軸中心FCの軌跡を調整すれば操舵角の変化を滑らかにできる。
【0066】
前軸中心FCの軌跡10Fは、図12のごとく、複数の箇所100から1つずつ選択された候補点10Pの組合せ毎に求められる。本例の構成では、第1の基準点10S~第4の基準点10Sに対応する各箇所100において、候補点10Pが3つずつ設定されている。それ故、上記の候補点10Pの組合せの数は、3の4乗=81通りとなる。それ故、図12には、前軸中心FCの軌跡10Fとして、81本の軌跡が示されている。
【0067】
例えば、スタート地点STは直線区間に属しているため、スタート地点STを出発した後、第1の基準点10Sの手前までは、81本の前軸中心FCの軌跡10Fが同じになり、図12中で1本に重なっている。第1の基準点10Sに対応して3つの候補点10Pが設定されており、それ故、候補点10Pに近付くにつれて、81本の前軸中心FCの軌跡10Fのうちの少なくとも一部にずれが生じている。
【0068】
(台車軌跡推定処理P4)
台車軌跡推定処理P4は、牽引車21により牽引される台車22A・Bの軌跡及び方位を推定するための処理である。台車軌跡推定処理P4では、牽引車軌跡推定処理P3で算出された前軸中心FCの軌跡10F及び操舵角を連結車両モデルに適用することで、後続する2台の台車22の軌跡及び姿勢(方位)が先頭から順に算出される。台車軌跡推定処理P4は、いわば、仮想空間であるシミュレーション空間において台車22A・Bを走行させる処理である。
【0069】
連結車両モデルは、牽引軸280を介して被牽引車両である台車22が牽引されるモデルである。本例の連結車両モデルは、各車両の軌跡を算出する多重連結の2輪モデルである。この連結車両モデルでは、牽引車21の前輪舵角(操舵角)→牽引車21のヨー角(方位、姿勢)→連結部28Aの折れ角→台車22Aのヨー角(方位、姿勢)→連結部22Bの折れ角→台車22Bのヨー角(方位、姿勢)、という順番で角度が求められ、各車両の軌跡が算出される。この連結車両モデルでは、遠心力の影響が少ない低速時の多重連結車両の運動を表す関係が定式化されている。連結車両モデルの定式化に際しては、牽引軸280と後軸222Aとの牽引軸間距離や牽引軸280周りの折れ角範囲等、被牽引車両の仕様(表2参照。)が反映される。
【0070】
台車軌跡推定処理P4は、牽引車21と前側の台車22A、及び前側の台車22Aと後ろ側の台車22B、の組合せについて、順番に実行される。牽引車21と前側の台車22Aとの組合せでは、牽引車21の前軸中心FCの軌跡10Fの座標が連結車両モデルに適用され、牽引軸280の軌跡および被牽引車両である台車22Aの方位が求められる。
【0071】
前側の台車22Aと後ろ側の台車22Bの組合せでは、台車22Aの前側の連結部28Aの牽引軸280の軌跡の座標が連結車両モデルに適用され、被牽引車両である台車22Bの前側の連結部28Bの軌跡及び台車22Bの方位が求められる。さらに、台車軌跡推定処理P4では、牽引軸280周りの連結部28A・Bの折れ角(牽引折れ角)が、経路10上の各位置で求められる。
【0072】
(走行コスト判定処理P5)
走行コスト判定処理P5は、複数の箇所100から1つずつ選択された複数の候補点10Pの組合せ毎に連結車両2の走行コストを求める処理である。本例の構成では、複数の候補点10Pの組合せ毎に、前軸中心FCの軌跡10Fなどの連結車両2の軌跡が求められ、走行コスト判定処理P5により各軌跡の走行コストが求められる。走行コスト判定処理P5では、牽引車21の軌跡及び方位(姿勢)、台車22A・Bの軌跡及び方位(姿勢)、に基づいて各軌跡の走行コストが求められる。
【0073】
走行コスト判定処理P5では、まず、牽引車21の軌跡及び姿勢(方位)、2台の台車22A・Bの軌跡及び姿勢(方位)、に基づき、連結車両2の通過領域10R(図13)が求められる。具体的には、連結車両2を構成する各車両(牽引車21及び2台の台車22)の通過領域を重ね合わせることで、図13のごとく、幅方向において最も外側の左右の点が特定される。経路10上の各位置における、これら左右外側の点は、連結車両2の通過領域10Rの幅方向の外縁10Jをなしている。連結車両2の通過領域10Rは、一対の外縁10Jにより挟まれて区画される領域である。
【0074】
走行コスト判定処理P5では、走行コストを算出するための複数種類のコスト指標値が、上記の81本の前軸中心FCの軌跡10Fについてそれぞれ求められる。コスト指標値は、操舵角が操舵角の許容範囲(表1参照。)を超えた回数、操舵角速度が操舵角速度の許容範囲(表1参照。)を超えた回数、非推奨領域128(図1参照。)にはみ出した回数、牽引折れ角(折れ角)が許容範囲を超えた回数、走行計画線10Lと後軸中心RCの軌跡との距離の積分値、牽引折れ角の積分値、操舵角の積分値、等である。ここで、牽引折れ角は、牽引車21の方位と台車22Bの方位との角度的な偏差(折れ角)、及び台車22Aの方位と台車22Bの方位との角度的な偏差(折れ角)、のうちの少なくともいずれか一方である。
【0075】
走行コスト判定処理P5は、上記のコスト指標値の全部あるいは一部に基づいて、走行コストを求める。具体的には、各コスト指標値に係数を乗じて足し合わせることで走行コストが求められる。係数は、各コスト指標値の影響度合いに応じて個別に設定される。コスト指標値のうち、値が小さい方が滑らかな走行になったり、走行上の問題が少なかったり、するコスト指標値については、正の係数を設定すると良い。一方、値が大きい方が滑らかな走行になったり、走行上の問題が少なかったり、するコスト指標値については、負の係数を設定すると良い。
【0076】
このような方針で正負が設定された各係数を、対応するコスト指標値に乗じれば、各コスト指標値について、影響度合いを示すコスト値を求めることができる。走行コストは、各コスト指標値のコスト値の総和である。走行コストは、値が小さいほど良好な走行となり、値が大きいほど好ましくない走行を示す指標となる。
【0077】
走行コスト判定処理P5では、上記の81本の前軸中心FCの軌跡10Fについて、ぞれぞれ、走行コストが求められる。そして、81本の前軸中心FCの軌跡10Fのうち、走行コストが最も小さくなる軌跡が選択される。このように選択された軌跡は、前軸中心FCの制御目標の軌跡として、例えば図14のごとく、液晶ディスプレイ151の表示画面に表示される。
【0078】
なお、上記の81本の前軸中心FCの軌跡10Fのうちの一部を、走行コストを求める対象から予め除外することも良い。例えば、許容範囲(表1及び2参照。)を超える操舵角、操舵角速度、牽引折れ角が生じた軌跡や、禁止領域13へのはみ出しが発生する軌跡、等である。このような軌跡は、そもそも、連結車両2が走行不可能な軌跡であるから、走行コストを求める対象から除外できる。
【0079】
以上のように、本例の走行シミュレーション方法及び走行シミュレーションシステム1Sでは、連結車両2の走行をシミュレーションするに当たって、経路10中の複数の箇所100において、前軸中心FCの通過点となり得る候補点10Pが2つ以上ずつ設定される。そして、複数の箇所100から1つずつ選択された複数の候補点10Pを、前軸中心FCが通過するための前軸中心FCの軌跡10Fが求められ、さらに台車22A・Bの軌跡が求められる。
【0080】
本例では、前軸中心FCの軌跡10F、及び複数の台車22A・Bの軌跡に基づき、経路10に沿って連結車両2を走行させる場合の難易度を表す量である走行コストが求められる。この走行コストは、複数の箇所100から1つずつ選択された複数の候補点10Pの組合せ毎に求められる。走行コストは、複数の候補点10Pの組合せの優劣、この組合せに基づく前軸中心FCの軌跡10Fの優劣、等を判断するために有用である。図12に例示する81本の前軸中心FCの軌跡10Fの走行コストを一覧表示することも良い。この場合、走行コストの低い良好なものから順番に81本の軌跡を並べて一覧表示することも良い。
【0081】
このように本例の連結車両2の走行シミュレーション方法及び走行シミュレーションシステム1Sによれば、経路10中の複数の箇所100において前軸中心FCの通過点の候補を設定することで、複数の候補点10Pの組合せ毎に連結車両2の軌跡を求めることができる。そして、連結車両2が経路10を移動する際の走行コストを、複数の候補点の組合せ毎に求めることができる。
【0082】
本例の走行シミュレーション方法により選択される前軸中心FCの軌跡10Fは、連結車両2の先頭車両である牽引車21を操舵制御する際の目標の軌跡となり得る。目標の軌跡に対する制御対象点を牽引車21の前部に配置すれば、走行計画線10Lに対する連結車両2の蛇行を抑えて制御安定性を高めることができる。
【0083】
本例では、走行計画線10L上の基準点10Sに対応する箇所100において、1次元的に候補点10Pを設定している。これに代えて、箇所100において、2次元的に候補点10Pを設定することも良い。本例では、進行方向のオフセット値や横方向のオフセット値を入力することで、候補点10Pを設定している。これに代えて、走行計画線10Lが表示された画面上の位置をマウス操作等により指定することにより、候補点10Pを設定することも良い。
【0084】
本例では、走行計画線10Lにおける変曲点に基準点10Sを設定している。変曲点ではない点に、基準点10Sを設定することも良い。基準点10Sに対する箇所100の位置関係は、本例の構成に限定されず、任意に設定可能である。
【0085】
走行コストは、牽引車21の前輪211の操舵角及び操舵角速度のうちの少なくともいずれかを反映する量であると良い。この場合には、過大な操舵角や急操舵が少ない軌跡を選択できる。このように選択された軌跡を制御目標に設定すれば、経路10を移動する際の連結車両2の走行をスムースなものにできる。
【0086】
走行コストは、連結車両2のうちの進行方向前側の牽引車21と、牽引車21により直接、牽引される台車22Aの方位と、の角度的な偏差である牽引折れ角(折れ角)、及び台車22Aの方位と、台車22Aにより直接、牽引される台車22Bの方位と、の角度的な偏差である牽引折れ角(折れ角)、のうちの少なくともいずれか一方を反映する量であると良い。この場合には、連結車両2が経路10を移動する際の牽引折れ角の少ない軌跡を選択できる。この軌跡を制御目標とすれば、経路10を移動する連結車両2の牽引折れ角を抑制でき、連結車両2の走行をスムースなものにできる。
【0087】
本例では、後軸中心RCを通過させる走行計画線10Lを例示している。これに代えて、後軸中心RCを通過させることは必須ではない走行計画線を設定しても良い。連結車両2の標準的な走行軌跡や、好ましい後軸中心RCの軌跡、等を、このような走行計画線として設定できる。このような走行計画線を設定する場合、走行コストは、少なくとも、走行計画線10Lと、後軸中心RCの軌跡と、の位置的なずれの大きさを反映する量であると良い。この場合には、走行計画線10Lと、後軸中心RCの軌跡と、の位置的なずれが少なくなる軌跡を選択できる。この軌跡を制御目標とすれば、後軸中心RCの軌跡を走行計画線10Lに近づけることができる。なお、走行計画線10Lと、後軸中心RCの軌跡と、の位置的なずれの大きさを反映する量は、走行計画線10Lと後軸中心RCの軌跡との距離の積分値であっても良い。
【0088】
本例の構成では、連結車両2の通過領域10Rを求めている。一方、通路12を構成する領域には、連結車両2の通過が好ましくない非推奨領域128が設定されている。走行コストは、連結車両2の通過領域10Rが非推奨領域128にはみ出した回数及びはみ出した量のうちの少なくともいずれか一方を反映する量であると良い。この場合には、非推奨領域128へはみだす回数あるいははみだす量が少ない軌跡を選択できる。この軌跡を制御目標とすれば、連結車両2が経路10を移動する際の非推奨領域128へのはみだしを抑制できる。
【0089】
走行コストは、通路12を構成する領域における連結車両2の通過領域10Rの幅方向の余地の大きさを反映する量であっても良い。この場合には、連結車両2が通路12の端に近づく度合いが少ない軌跡を選択できる。この軌跡を制御目標とすれば、通路12の中央寄りを連結車両2が走行するようになり、通路12の脇の設備等に連結車両2が干渉するおそれを低減できる。
【0090】
さらに、本例の走行シミュレーション方法における走行計画線10Lは、直線の軌跡と、円弧の軌跡と、レーンチェンジの軌跡と、を適宜、組み合わせたものである。本例のシミュレーション装置1が実行するアプリケーションプログラムを利用すれば、直線の軌跡、円弧の軌跡、レーンチェンジの軌跡を適宜、組み合わせるだけで走行計画線10Lを入力でき、特別な知識や技術がなくても連結車両2の走行計画が可能である。
【0091】
牽引車21の軌跡及び方位(姿勢)を求めれば、連結車両2が経路10を移動する際に磁気センサモジュール3が通過する磁気検知領域10D(図15)を特定できる。磁気検知領域10Dは、連結車両2の移動中に、磁気センサモジュール3により磁気が検出される領域である。磁気検知領域10Dの情報は、連結車両2の走行軌跡のシミュレーション結果として得られる情報のひとつである。磁気検知領域10Dは、経路10上の磁気マーカの配設位置を計画する際の有用な情報となる。磁気検知領域10Dに磁気マーカを配置すれば、経路10を移動する連結車両2が確実性高く磁気マーカを検知できる。
【0092】
以上、実施例のごとく本発明の具体例を詳細に説明したが、これらの具体例は、特許請求の範囲に包含される技術の一例を開示しているにすぎない。言うまでもなく、具体例の構成や数値等によって、特許請求の範囲が限定的に解釈されるべきではない。特許請求の範囲は、公知技術や当業者の知識等を利用して前記具体例を多様に変形、変更あるいは適宜組み合わせた技術を包含している。
【符号の説明】
【0093】
1 シミュレーション装置
1S 走行シミュレーションシステム
10 経路
10J (通過領域の)外縁
10L 走行計画線
10P 候補点
10R 通過領域
10S 基準点
100 箇所
12(12A~C) 通路
128 非推奨領域
2 連結車両
21 牽引車
211 前輪(操舵輪)
211A 前軸
212 後輪
212A 後軸
22(22A・B) 台車
221 前輪
222 後輪
222A 後軸
28(28A・B) 連結部
280 牽引軸
3 磁気センサモジュール
40 制御ユニット
48 地図データベース
FC 前軸中心
RC 後軸中心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15