(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025055837
(43)【公開日】2025-04-08
(54)【発明の名称】粘性の測定装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 11/14 20060101AFI20250401BHJP
【FI】
G01N11/14 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023165220
(22)【出願日】2023-09-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、「遠隔電磁駆動(EMS)方式によるベンチトップを超えた粘弾性計測の展開」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100116207
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100096426
【弁理士】
【氏名又は名称】川合 誠
(72)【発明者】
【氏名】酒井 啓司
(57)【要約】
【課題】測定対象試料を収容する試料容器の構成が簡素で低コストなものとすることを可能とし、かつ、低粘度から高粘度までの広い領域に亘る測定対象試料の粘性を、簡易にかつ高い精度によって測定することができるようにする。
【解決手段】回転対称な形状を有する回転子と、回転子の回転対称軸上の最上部で回転子に一端が接続され、回転子を吊り下げて保持する線材と、線材が鉛直方向に延在する直線状となるように、線材の他端を回転子の上方で保持する保持部材と、を有し、回転子が、回転対称軸が鉛直方向に延在するように吊り下げられた状態となるように、線材を介して、保持部材によって保持される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部又は全部が導電性の部材から成り、回転対称な形状を有する回転子と、
該回転子の回転対称軸上の最上部で前記回転子に一端が接続され、該回転子を吊り下げて保持する線材と、
該線材が鉛直方向に延在する直線状となるように、前記線材の他端を前記回転子の上方で保持する保持部材と、
該保持部材を、該保持部材と前記線材との接触点を中心に鉛直軸回りに回転、又は、平行移動させる保持部材回転・移動駆動機構と、
前記回転子の一部又は全部が測定対象試料と接触した状態で、前記回転子と測定対象試料とを収容する試料容器と、
前記回転子に対して磁場を印加する磁石と、
該磁石を駆動して前記回転子に印加される磁場の大きさ及び向きに時間的な変動を与え、前記回転子内に誘導電流を誘起し、該誘導電流と回転子に印加される磁場とのローレンツ相互作用によって、前記回転子に回転トルクを与えて回転運動させる回転磁場制御部と、
前記回転子の回転運動状態によって、前記回転子に接触する前記測定対象試料の粘性を検出する粘性検出部とを有し、
前記回転子が、前記回転対称軸が鉛直方向に延在するように吊り下げられた状態となるように、前記線材を介して、前記保持部材によって保持されることを特徴とする粘性の測定装置。
【請求項2】
前記線材のねじれ角が、以下の式(A)を満たすように、前記保持部材回転・移動駆動機構によって保たれる請求項1に記載の粘性の測定装置。
【数A】
θ:線材のねじれ角
α:要求される粘性の測定精度
L:線材の長さ
G:線材のずり弾性率
R
W :線材の半径
Tvis :回転子に加わる粘性抵抗トルク
【請求項3】
前記保持部材の回転角と前記回転子の回転角とから、前記線材のねじれ角を検出するねじれ角検出機構を更に有し、
前記保持部材回転・移動駆動機構により前記線材の上端を回転させることによって、前記線材のねじれ角を前記式(A)を満たす範囲に保つ請求項2に記載の粘性の測定装置。
【請求項4】
前記回転トルクは、大きさが一定で、方向が時計回り方向と反時計回り方向とを一定周期で繰り返すように変化する請求項1に記載の粘性の測定装置。
【請求項5】
前記回転トルクは一定の時間のみ印加され、前記回転子の運動は、前記回転トルクの印加が停止された後の減衰振動運動である請求項1に記載の粘性の測定装置。
【請求項6】
粘性が既知である複数の測定対象試料と接触した前記回転子に与えられる回転トルクと前記回転子の回転速度との関係をあらかじめ測定した標準データを記憶する標準データ記憶部を更に有し、
前記粘性検出部は、粘性が未知である測定対象試料と接触した状態の回転子に与えられる回転トルクと前記回転子の回転速度との関係を前記標準データと比較することによって、前記粘性が未知である測定対象試料の粘性を検出する請求項1に記載の粘性の測定装置。
【請求項7】
前記回転子に付加されたマークの回転を検出することによって、前記回転子の回転速度を検出する回転検出部を更に有する請求項1~6のいずれか1項に記載の粘性の測定装置。
【請求項8】
一部又は全部が導電性の部材から成り、回転対称な形状を有する回転子を、その一部又は全部が測定対象試料と接触した状態で、該測定対象試料とともに試料容器に収容する工程と、
前記回転子の回転対称軸上の最上部に一端が接続され、他端が保持部材であって、保持部材回転・移動駆動機構によって鉛直軸回りに回転、又は、平行移動させられる保持部材に保持された線材によって、該線材が鉛直方向に延在する直線状となるように、前記回転子を吊り下げる工程と、
前記回転子に時間的に変動する磁場を印加し、前記回転子内に誘導電流を誘起し、該誘導電流と前記回転子に印加される磁場とのローレンツ相互作用によって、前記回転子に回転トルクを与えて回転運動させる工程と、
前記回転子の回転運動状態によって、前記回転子に接触する測定対象試料の粘性を検出する工程と、を有し、
前記回転子が、前記回転対称軸が鉛直方向に延在するように吊り下げられた状態となるように、前記線材を介して、前記保持部材によって保持されることを特徴とする粘性の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、粘性の測定装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、対象とする物質の力学物性を検出するため、粘性(以下の記載において、粘度と示すこともある。)の測定が行われている。粘性の測定は、医薬品、食品、塗料、インク、化粧品、化学製品、紙、粘着剤、繊維、プラスチック、ビール、洗剤、コンクリート混和剤、シリコン等の製造過程で、品質管理、性能評価、原料管理、研究開発等に必要不可欠な測定技術である。
【0003】
従来の粘性の測定装置や測定方法としては、測定対象試料に接した回転プローブ(回転子)に対し、駆動するためのトルクを非接触に印加し、その回転プローブの回転速度から対象試料の粘性を非接触に測定する装置や方法が存在する(例えば、特許文献1~6参照。)。
【0004】
特許文献1に記載されている装置においては、回転子として導電性の小球を使用し、該小球を試料内に沈め、小球に所定のトルクを非接触で印加し、小球の回転速度から、試料の粘性を非接触で測定している。
【0005】
特許文献2に記載されている装置においては、浮力若しくは表面張力のいずれか、又は、双方を用いて、円板状の回転子を試料表面に浮かべ、回転子に所定のトルクを非接触で印加し、回転子の回転速度から、試料の粘性を非接触で測定している。
【0006】
特許文献3に記載されている装置においては、円板状の回転子の下部から突出する回転中心の先端が凸形状に形成されており、その先端が試料を収容する容器の内側の底部と接触するとともに、回転子の上部に回転軸が設けられており、回転軸が保持機構の貫通孔に挿入されて回転可能、かつ、横方向に移動不能に保持されている。そして、回転子に所定のトルクを非接触で印加し、回転子の回転速度から、試料の粘性を非接触で測定している。
【0007】
特許文献4に記載されている装置においては、回転子の下部から突出する回転中心の先端が凸形状に形成されており、その先端が試料を収容する容器の内側の底部と接触し、かつ、回転子の重心位置と浮心位置とが調整されることによって、回転子が垂直に自立して回転するようになっている。
【0008】
特許文献5に記載されている装置においては、回転子の上部かつ中心に突起を設け、これを支点として回転子が回転することによって、支点が試料中に没することなく、すなわち、試料からの析出物等の影響を受けることなく十分に小さな摩擦トルクのもとで粘性測定を行っている。
【0009】
特許文献6に記載されている装置においては、回転子を反磁性の物質で構成し、磁力によりこれを空中で保持させることによって機械摩擦の影響を完全に排除した粘性測定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009-264982号公報
【特許文献2】特開2012-242137号公報
【特許文献3】特開2016-031352号公報
【特許文献4】特開2018-146312号公報
【特許文献5】特開2021-189078号公報
【特許文献6】特開2015-045621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載されているような装置では、非ニュートン性の液体については、小球の周囲の試料の流動速度が既知でなく、粘性を与えるずり速度を一意に決定することができず、また、純水などの低い粘性の液体については、十分に高い測定精度を得ることが困難である。
【0012】
また、特許文献2に記載されているような装置では、粘性を測定する際に、回転子と容器の底部との距離(浮上高さ)を正確に測定する必要があるが、浮上高さは、容器に収容される試料の量によって変化するので、測定毎に正確に測定するために、精度の高い測定器が必要となる。また、浮上高さは、試料の蒸発、温度の変化に伴う試料の比重の変化、又は、回転子と試料とのぬれ性の変化によって変動する。そのため、周囲環境によって、試料の粘性の測定精度が変化してしまう場合がある。
【0013】
さらに、特許文献3に記載されているような装置では、回転軸の保持機構の貫通孔と回転軸との機械摩擦を無視することができないため、試料の粘性の測定精度を向上させることが困難な場合がある。
【0014】
さらに、特許文献4に記載されているような装置では、試料中に没した回転子に加わる重力、浮力の大きさ、及び、重心と浮心との位置を適切に調整した回転子によって、安定に垂直に自立する回転子を実現することができるが、試料液体の比重に応じてその構造を調整する必要がある。
【0015】
さらに、特許文献5に記載されている装置においては、微小であるとはいえ回転子の保持部分での摩擦トルクを排除することができず、このため、極めて低いずり速度で極めて小さい粘性を測定することが困難である。
【0016】
さらに、特許文献6に記載されている装置においては、磁力によって反磁性の回転子を浮上させて機械摩擦を排除しているが、このため、回転子が高価なものとなり、また、浮上に用いる磁石の存在が空間的な制約となって、実際の粘性の測定装置として設計するためには多くの問題を解決しなければならない。
【0017】
本開示は、前記従来の問題点を解決して、測定対象試料を収容する試料容器の構成が簡素で低コストなものとすることを可能とし、かつ、低粘度から高粘度までの広い領域に亘る測定対象試料の粘性を、簡易にかつ高い精度によって測定することができる粘性の測定装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
そのために、粘性の測定装置においては、一部又は全部が導電性の部材から成り、回転対称な形状を有する回転子と、該回転子の回転対称軸上の最上部で前記回転子に一端が接続され、該回転子を吊り下げて保持する線材と、該線材が鉛直方向に延在する直線状となるように、前記線材の他端を前記回転子の上方で保持する保持部材と、該保持部材を、該保持部材と前記線材との接触点を中心に鉛直軸回りに回転、又は、平行移動させる保持部材回転・移動駆動機構と、前記回転子の一部又は全部が測定対象試料と接触した状態で、前記回転子と測定対象試料とを収容する試料容器と、前記回転子に対して磁場を印加する磁石と、該磁石を駆動して前記回転子に印加される磁場の大きさ及び向きに時間的な変動を与え、前記回転子内に誘導電流を誘起し、該誘導電流と回転子に印加される磁場とのローレンツ相互作用によって、前記回転子に回転トルクを与えて回転運動させる回転磁場制御部と、前記回転子の回転運動状態によって、前記回転子に接触する前記測定対象試料の粘性を検出する粘性検出部とを有し、前記回転子が、前記回転対称軸が鉛直方向に延在するように吊り下げられた状態となるように、前記線材を介して、前記保持部材によって保持される。
【0019】
他の粘性の測定装置においては、さらに、前記線材のねじれ角が、以下の式(A)を満たすように、前記保持部材回転・移動駆動機構によって保たれる。
【数A】
θ:線材のねじれ角
α:要求される粘性の測定精度
L:線材の長さ
G:線材のずり弾性率
R
W :線材の半径
Tvis :回転子に加わる粘性抵抗トルク
【0020】
更に他の粘性の測定装置においては、さらに、前記保持部材の回転角と前記回転子の回転角とから、前記線材のねじれ角を検出するねじれ角検出機構を更に有し、前記保持部材回転・移動駆動機構により前記線材の上端を回転させることによって、前記線材のねじれ角を前記式(A)を満たす範囲に保つ。
【0021】
更に他の粘性の測定装置においては、さらに、前記回転トルクは、大きさが一定で、方向が時計回り方向と反時計回り方向とを一定周期で繰り返すように変化する。
【0022】
更に他の粘性の測定装置においては、さらに、前記回転トルクは一定の時間のみ印加され、前記回転子の運動は、前記回転トルクの印加が停止された後の減衰振動運動である。
【0023】
更に他の粘性の測定装置においては、さらに、粘性が既知である複数の測定対象試料と接触した前記回転子に与えられる回転トルクと前記回転子の回転速度との関係をあらかじめ測定した標準データを記憶する標準データ記憶部を更に有し、前記粘性検出部は、粘性が未知である測定対象試料と接触した状態の回転子に与えられる回転トルクと前記回転子の回転速度との関係を前記標準データと比較することによって、前記粘性が未知である測定対象試料の粘性を検出する。
【0024】
更に他の粘性の測定装置においては、さらに、前記回転子に付加されたマークの回転を検出することによって、前記回転子の回転速度を検出する回転検出部を更に有する。
【0025】
粘性の測定方法においては、一部又は全部が導電性の部材から成り、回転対称な形状を有する回転子を、その一部又は全部が測定対象試料と接触した状態で、該測定対象試料とともに試料容器に収容する工程と、前記回転子の回転対称軸上の最上部に一端が接続され、他端が保持部材であって、保持部材回転・移動駆動機構によって鉛直軸回りに回転、又は、平行移動させられる保持部材に保持された線材によって、該線材が鉛直方向に延在する直線状となるように、前記回転子を吊り下げる工程と、前記回転子に時間的に変動する磁場を印加し、前記回転子内に誘導電流を誘起し、該誘導電流と前記回転子に印加される磁場とのローレンツ相互作用によって、前記回転子に回転トルクを与えて回転運動させる工程と、前記回転子の回転運動状態によって、前記回転子に接触する測定対象試料の粘性を検出する工程と、を有し、前記回転子が、前記回転対称軸が鉛直方向に延在するように吊り下げられた状態となるように、前記線材を介して、前記保持部材によって保持される。
【発明の効果】
【0026】
本開示によれば、測定対象物質を収容する試料容器の構成を簡素で低コストなものとすることが可能となり、かつ、低粘度から高粘度までの広い領域に亘る測定対象物質の粘性を、簡易にかつ高い精度によって測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】第1の実施の形態における測定装置の全体構成を示す概略構成図である。
【
図2】第1の実施の形態における測定装置の測定対象ユニットを示す側断面図である。
【
図3】第1の実施の形態における測定装置の測定対象ユニットの変形例を示す側断面図である。
【
図4】第1の実施の形態における磁石が回転して生成される回転磁場によって回転子に回転トルクを与える方法を説明する概念図である。
【
図5】第1の実施の形態における回転子の回転角の時間変化を表すグラフである。
【
図6】
図5のグラフの傾き、すなわち、回転子の回転速度の時間変化を表すグラフである。
【
図7】第1の実施の形態における、試料の粘性が異なる場合の回転子の回転速度と、回転子と磁石の回転速度から得られる印加トルクとの関係を表すグラフである。
【
図8】第2の実施の形態における回転子の回転角の時間依存性を表すグラフである。
【
図9】第3の実施の形態における回転子の回転角の時間依存性を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
図1は第1の実施の形態における測定装置の全体構成を示す概略構成図、
図2は第1の実施の形態における測定装置の測定対象ユニットを示す側断面図、
図3は第1の実施の形態における測定装置の測定対象ユニットの変形例を示す側断面図、
図4は第1の実施の形態における磁石が回転して生成される回転磁場によって回転子に回転トルクを与える方法を説明する概念図、
図5は第1の実施の形態における回転子の回転角の時間変化を表すグラフ、
図6は
図5のグラフの傾き、すなわち、回転子の回転速度の時間変化を表すグラフ、
図7は第1の実施の形態における、試料の粘性が異なる場合の回転子の回転速度と、回転子と磁石の回転速度から得られる印加トルクとの関係を表すグラフである。
【0030】
図1に示されるように、本実施の形態における粘性の測定装置は、測定対象ユニット30と、駆動ユニット50と、測定ユニット80とを備えている。
【0031】
前記測定装置は、測定対象ユニット30の試料容器31内に収容された測定対象試料としての試料32の粘性を測定するためのものであり、前記試料32は、例えば、液体、スラリー、又は、ソフトマテリアルである。ここで、ソフトマテリアルとは、高分子、液晶、コロイド、生体分子等の一連の分子性物質群である。なお、コロイドとは、例えば、乳液、乳剤、ゾル等のエマルジョンである。また、生体分子とは、例えば、生体膜、タンパク質、DNA等である。そして、本実施の形態における測定装置は、典型的には、医薬品、食品、塗料、インク、化粧品、化学製品、紙、粘着剤、繊維、プラスチック、ビール、洗剤、コンクリート混和剤、シリコン等の製造過程で、品質管理、性能評価、原料管理、研究開発等において使用されるが、いかなる分野でいかなる目的のために使用されてもよい。
【0032】
なお、本実施の形態において、測定装置の各部の構成及び動作を説明するために使用される上、下、左、右、前、後等の方向を示す表現は、絶対的なものでなく相対的なものであり、前記測定装置の各部が図に示される姿勢である場合に適切であるが、その姿勢が変化した場合には姿勢の変化に応じて変更して解釈されるべきものである。
【0033】
前記駆動ユニット50は、図に示されるように、駆動磁石53と、該駆動磁石53を下から支える駆動磁石保持台52と、該駆動磁石保持台52を回転させる回転駆動源としてのモータ51とを備える。該モータ51は、回転軸であるモータ回転軸51aを回転させる。なお、前記駆動磁石保持台52は、前記モータ回転軸51aに接続され、該モータ回転軸51aを中心に回転する。
【0034】
図に示される例において、駆動磁石保持台52は、平面視において略正方形の平板であり、その中心に前記モータ回転軸51aの軸端が接続されている。また、前記駆動磁石53は、回転子20に対して磁場を印加する磁石であって、第1駆動磁石53a及び第2駆動磁石53bから成る一対の磁石である。前記第1駆動磁石53aと第2駆動磁石53bとは、互いに、同一の大きさで、かつ、同一の磁力を備え、平面視において、前記モータ回転軸51aを対称軸として点対称となるように駆動磁石保持台52上に載置されて固定されている。なお、第1駆動磁石53aと第2駆動磁石53bとは、上下方向に関する磁極の向きが互いに反対となるように配設されている。
【0035】
すなわち、図に示される例において、第1駆動磁石53aは、上側がN極で下側がS極となるように配設され、第2駆動磁石53bは、上側がS極で下側がN極となるように配設されている。
【0036】
図に示される例において、駆動磁石53は、第1駆動磁石53a及び第2駆動磁石53bの一対の磁石から構成されているが、回転する磁場を発生させることができるのであれば、駆動磁石53を構成する磁石の数は、いくつであってもよい。例えば、N個(N=2n、nはn≧1の整数)の小型の磁石を駆動磁石保持台52の回転方向に沿って、磁石の上面の磁極が交互にN極とS極とになるように配置してもよい。前記駆動磁石保持台52は、第1駆動磁石53a及び第2駆動磁石53bの上面が垂直面となるように、試料容器31内に収容された試料32の液面と平行に磁場が生成される構成にしてもよい。
【0037】
図1及び2に示されるように、本実施の形態において、測定対象ユニット30は、試料容器31、該試料容器31内に収容された測定対象物質としての試料32、該試料32に接するように、より具体的には、少なくとも一部が試料32に没して接触するように配設された回転子20、該回転子20を懸垂して保持する線材38、該線材38の上端部分を保持することによって前記回転子20を保持する保持部材としての線材保持部材42、及び、前記試料容器31を下方から支持する試料台36を有する。
【0038】
前記回転子20は、平面視において円形の形状を有し、回転子20の回転対称軸である回転軸26が中心を通過する平坦な円板状の回転板21と、該回転板21の中心から上方に向けて延在する円柱軸22とを有している。そして、該円柱軸22の上端部分、すなわち、回転子20の回転対称軸上の最上部には、前記線材38の一端、すなわち、下端部分が接続されている。これにより、前記円柱軸22及び線材38は前記回転軸26上を通り、前記回転子20は前記線材38を介して、該線材38の他端、すなわち、上端部分が接続された線材保持部材42によって保持される。
【0039】
本実施の形態において、線材38は、例えば、金属製の細線であってもよいし、有機繊維やカーボン繊維を撚って形成された糸であってもよいし、あるいは、プラスチックの糸であってもよい。なお、前記線材38は、後述するように、ねじれに対して生じる復元トルクの大きさが既知のものであるか、あるいは、材料の物性値を用いて計算で求められるものであることが望ましい。このため、以降の説明においては、前記線材38が、金属材料メーカー(例えば、株式会社ニラコ)が提供する金(Au)の線材であって、組成(金の純度)が99.99〔%〕以上であり、かつ、断面形状が円形であり、その直径が長さ方向について一様である線材、より具体的には、直径が30〔μm〕又は50〔μm〕の線材であるものとして説明する。
【0040】
なお、前記回転子20は、回転板21と円柱軸22とが一体的に形成された部材であってもよいし、それぞれ個別に形成された回転板21と円柱軸22とを相互に接続することによって構成された部材であってもよい。さらに、前記円柱軸22を省略して、前記線材38の下端部分を回転板21の中心に直接接続してもよい。
【0041】
また、前記回転子20は、少なくとも一部が導体(例えば、金属材料)によって形成されている。例えば、前記回転子20は、一部分のみがアルミニウム等の導電性材料によって形成され、その他の部分がプラスチック、ビニール等の誘電体で形成されたものであってもよい。また、例えば、前記回転板21を、プラスチック製の円板の上面に市販のアルミ箔などを貼着させることによって作製することもできる。これにより、市販のプラスチック製の円板と市販のアルミ箔とから、容易に、かつ、低コストで、回転板21を形成することができる。なお、本実施の形態において、前記回転板21は、アルミニウムの円板で形成されているものとする。
【0042】
前記回転板21は、回転子20の回転軸26が中心を通過する平坦な円板形状を有し、前記円柱軸22は回転板21の中心軸と一致するように配置される。さらに、円柱軸22の上端部分は線材38に接続され、該線材38は回転子20に働く重力によって鉛直方向に直線状に張られている。
【0043】
前記回転板21又は円柱軸22のいずれか一方の表面には、回転子20の回転を検出するために測定ユニット80が有する回転検出センサ87によって検出可能な大きさのマーク21aが設けられている。なお、図に示される例においては、回転板21の外側面にマーク21aが設けられている。
【0044】
前記試料容器31は、平坦な円板状の底板31aと、該底板31aの周縁に接続された円筒状の側壁31bとを有する。また、該側壁31bの上端には、円筒状の容器蓋35が取り付けられている。そして、前記試料容器31は、力学的物性としての粘性(すなわち、粘性係数)ηを測定する対象物としての試料32を収容する。前記試料容器31及び容器蓋35の各々は、例えば、ガラス、プラスチック等の透明な材料で形成されている。前記試料容器31は、例えば、小型のシャーレなどのような有底円筒状の容器である。前記試料容器31の内径は、回転子20の回転板21の直径よりわずかに大きければよい。
【0045】
また、前記試料容器31は、その上面を覆う上部カバー33を含んでいる。該上部カバー33は、回転子20の回転板21と平行になるように配置され、この結果、回転板21の上面と上部カバー33との間に挟まれた領域、及び、回転板21の下面と試料容器31の底板31aとの間に挟まれた領域が、それぞれ、平行平板型の回転粘度計を構成するようになっている。なお、上部カバー33の中央には円形の穴33aが設けられ、回転子20の円柱軸22が前記穴33aを通過する構成となっている。そして、上部カバー33と回転板21の上面との距離、及び、試料容器31の底板31aと回転板21の下面との距離が等しければ、同じ試料厚みを持つ2つの平行平板型の粘度計と実質的に同じ構成となり、従来型の平行平板型の粘度計による計測データと比較することができる。
【0046】
前記容器蓋35は、試料容器31に収容された試料32の蒸発や、試料32への異物の混入などを防止するため、外部環境(外気など)から完全に試料32を遮断するために用いるものであり、不要であれば省略することができる。
【0047】
前記試料容器31及び容器蓋35としては、ガラス又はプラスチックを材料とするディスポーザルな市販のシャーレ等を使用することができる。このため、前記試料容器31及び容器蓋35を安価に準備することができ、また、測定を行う度に、試料容器31及び容器蓋35を廃棄しても、測定のコストが上昇することがない。さらに、生体材料などのようにその廃棄に特段の注意を要する物質を試料32とするときであっても、回転子20、試料容器31及び容器蓋35を容易に廃棄することができ、焼却、減菌等の後処理の問題と同様に、他の医療器具の廃棄と同様に容易に廃棄することができる。
【0048】
なお、前記マーク21aは、図に示される例においては、回転板21の上面における回転検出センサ87によって検出可能な位置に配置されているが、必ずしもこの例に限定される必要はなく、例えば、円柱軸22上に配置されていてもよい。前記マーク21aの位置の変化を前記回転検出センサ87や図示されない撮像装置等によって光学的に読み取って回転子20の回転速度を算出することができる。
【0049】
回転子20を保持する細線である線材38は、その下端部分が回転子20の円柱軸22の最上部において回転子20に接続され、その上端部分が上方において線材保持部材42によって保持されている。そして、該線材保持部材42は、図に示されるように、その上方に位置する保持部材回転・移動駆動機構としての保持部材位置・回転制御機構41によって保持されている。
【0050】
該保持部材位置・回転制御機構41は、前記線材保持部材42を、該線材保持部材42と線材38との接触点を中心に鉛直軸回りに回転、又は、平行移動させるものであって、前記線材保持部材42の上下方向位置及び水平方向位置を制御するとともに、前記線材保持部材42を回転軸26の周りに回転させる保持部材制御機構を含んでおり、これにより、線材38を介して、回転子20の上下方向位置及び水平方向位置を制御することができ、また、線材38の上端部分を回転させることができる。前記保持部材制御機構の動作は、手動によって行われるものであってもよいし、また、自動並進ステージや自動回転ステージによって遠隔に行われるものであってもよいし、さらに、その両者を備えたものでもよい。
【0051】
また、線材保持部材42の位置及び回転の制御は、回転検出センサ87の検出電気信号や、ビデオカメラや撮像装置によって撮影された画像に基づき、回転検出部81によって算出される回転子20の回転角と、その時点での保持部材位置・回転制御機構41の回転角から、線材保持部材42のねじれ角を読み取り、該ねじれ角が後述するねじれの最大角度内に収まるように行われる。
【0052】
前記試料台36は、試料32が充填された試料容器31を固定する平坦な板部材であり、上面が駆動磁石保持台52の上面と平行となるように配置されている。これにより、試料容器31内の試料32中における回転子20の回転板21と、回転した際の第1駆動磁石53a及び第2駆動磁石53bの上面が形成する平面とが平行となる。
【0053】
前記駆動磁石保持台52を回転させるモータ51は、モータ回転軸51aが駆動磁石保持台52の上面に対して垂直となるように固定されている。
【0054】
また、回転子20の回転板21が試料容器31の側壁31bの内面に接触せず、かつ、試料32に接して回転するように、平面視における回転子20の回転軸26の位置関係、及び、モータ51のモータ回転軸51aの位置関係が決定されている。すなわち、平面視において、回転子20の中心と、試料容器31の底板31aの中心と、モータ回転軸51aの軸方向とが重なるように、試料容器31とモータ51とが配置されている。
【0055】
このような測定対象ユニット30の各部と駆動ユニット50の各部との配置によって、回転子20に対して時間的に変動する磁場を発生させることができる。
【0056】
前述のように、駆動磁石保持台52の回転によって駆動磁石53が回転すると、回転する磁場が発生する。すると、回転する磁場によって、回転子20の導電性を有する部分、すなわち、導体によって形成されている部分の内部に誘導電流が発生し、該誘導電流と磁場とのローレンツ相互作用により、前記回転子20の導体によって形成されている部分に、磁場の回転に追随する方向の回転トルクTM が生じる。該回転トルクTM の大きさは、駆動磁石53の回転速度と回転子20の回転速度との差に比例する。すなわち、磁石の回転によって回転子に与えられるトルクは磁石の回転数ΩMと回転子の回転数ΩDとの回転数差ΩMD(ここで、回転数差ΩMD=回転数ΩM-回転数ΩDである。)に比例する。
【0057】
また、試料32のずり変形速度は回転子20の回転速度、すなわち、回転数ΩDに比例する。このため、回転子20の回転速度と、駆動磁石53の回転数ΩM、すなわち、モータ51の回転数とを測定すれば、試料32の粘性を測定することができる。
【0058】
本実施の形態においては、測定ユニット80が試料32の粘性を算出する。前記測定ユニット80は、
図1に示されるように、回転検出部81、粘性検出部82、回転磁場制御部83、標準データ記憶部84、装置制御部85、線材保持部材回転駆動制御部86、及び、回転検出センサ87を有している。
【0059】
該回転検出センサ87は、試料容器31内の試料32中の回転子20の検出可能な位置に設けられたマーク21aを検出することができる位置として、試料容器31の上方の位置(具体的には、容器蓋35の上方)に配置され、前記マーク21a(図に示される例においては、回転板21の外側面に配置されたマーク21a)の回転における位置を光学的に検出する。例えば、回転検出センサ87は、図示されない光照射部からレーザ光を出射し、前記マーク21aからの反射光が図示されない受光部に入射され、入射光の強度に対応した検出電気信号を出力することができる。
【0060】
また、前記回転検出センサ87の代わりに、レンズとCCD等の撮像素子とを顕微鏡に付加した撮像装置を採用し、回転子20の回転における前記マーク21aの移動状態を拡大して撮像した撮像画像を出力させ、画像処理によって回転子20の回転速度(回転数)ΩD(マーク21aの周回数)を検出するようにしてもよい。また、回転子20の回転板21の上面に前記マーク21aを配置して、該マーク21aの移動状態を撮像装置によって撮像し、回転子20の回転数ΩDを検出するようにしてもよい。
【0061】
さらに、回転子20の回転板21の上面、又は、円柱軸22の外側面に対してレーザを照射し、回転による反射及び干渉パターンの変化を光学的に測定し、回転子20の回転速度(回転数)ΩDを検出するようにすることもできる。
【0062】
さらに、回転子20の回転板21又は円柱軸22の一部を誘電体で形成してマーク21aとし、一対の電極同士の間に回転板21又は円柱軸22が挟まれるような電極対を配置し、コンデンサを構成するようにしてもよい。この場合、回転検出センサ87は、回転を検出するためのマーク21aとしての誘電体が、前記一対の電極同士の間を通過する際、検出電気信号を出力する。すなわち、回転検出部81は、マーク21aとしての誘電体が電極間を通過する際、電極対で構成されたコンデンサの容量変化を検出し、所定の期間(例えば、1秒)における前記容量変化の回数を検出し、回転子20の回転速度(回転数)ΩDを検出するように構成されてもよい。
【0063】
さらに、回転子20の回転板21又は円柱軸22の一部を永久磁石で形成してマーク21aとするとともに、磁場検出素子を配置し、回転子20の回転に伴う磁場強度の変化から回転子20の回転速度(回転数)ΩDを読み取るようにしてもよい。
【0064】
そして、回転検出部81は、回転検出センサ87から供給される検出電気信号によって、回転子20の回転検出を行い、単位時間(例えば、1秒)当たりの検出回数を、単位時間当たりの回転速度(rps:revolutions per second)として、回転数ΩDを求めて出力する。また、回転検出部81は、回転子20の回転速度ΩDの検出において、回転検出センサ87の検出電気信号を用いるのではなく、前述のように、撮像装置の撮像画像を用いることもできる。この場合、撮像装置が撮像して出力する撮像画像から、回転子20に付加したマーク21aを画像処理によって検出し、単位時間当たりの回転速度ΩDを求めるようにしてもよい。また、回転検出部81は、前述のようにコンデンサを用いることもできる。この場合、回転検出部81は、コンデンサからの検出電気信号によって電極対で構成されたコンデンサの容量変化を検出し、所定の期間(例えば、1秒)における前記容量変化の回数を検出し、回転子20の回転数ΩDを検出するようにしてもよい。さらに、回転検出部81は、前述のように磁場検出素子を用いることもできる。この場合、回転検出部81は、ホール素子等の磁場検出素子の出力電圧を検出し、所定の期間(例えば、1秒)における前記電圧変化の回数を検出し、回転子20の回転速度ΩDを検出するようにしてもよい。
【0065】
粘性検出部82は、試料32における傾きΩMD/ΩD(ここで、ΩMD=ΩM-ΩDである。)を求める。このとき、粘性検出部82は、回転磁場制御部83に対して、異なる複数の回転数ΩMでモータ51を回転させる制御を行い、回転数を変更する毎に制御信号を回転検出部81へ出力する。該回転検出部81は、粘性検出部82から制御信号が供給される毎に、回転数ΩMにおいて試料容器31に収容された試料32中の回転子20の回転速度(回転数)ΩDを回転検出センサ87から入力する。そして、回転検出部81は、検出した回転数ΩDを、制御信号に対応して粘性検出部82へ出力する。
【0066】
そして、該粘性検出部82は、標準データ記憶部84に記憶されている粘性検出テーブルから、試料32の傾きΩMD/ΩDに対応する粘性η〔mPa・s〕を読み出し、これを試料32の粘性η〔mPa・s〕として出力する。ここで、標準データ記憶部84に実験式が記憶されている場合、粘性検出部82は、標準データ記憶部84から前記実験式を読み出し、この実験式に対して傾きΩMD/ΩDを代入し、試料32の粘性η〔mPa・s〕を算出して求めるようにしてもよい。
【0067】
回転磁場制御部83は、設定された回転数でモータ回転軸51aが回転するように、モータ51に対する回転制御を行う。これにより、モータ回転軸51aを介して駆動磁石保持台52が回転することになり、第1駆動磁石53a及び第2駆動磁石53bによって発生する磁場が回転し、回転子20を試料32中において等速回転させる回転磁場を発生させる。
【0068】
標準データ記憶部84には、
図7に示されるグラフの傾きΩMD/ΩDと、各試料32の粘性との対応を示す粘性検出テーブルが記憶されている。
【0069】
該粘性検出テーブルは、以下のように作成されている。本実施の形態における粘性の測定装置において、粘度があらかじめ分かっている標準試料を試料容器31に入れ(充填し)、標準試料中に回転子20を入れ、あらかじめ設定した複数の回転数ΩMによってモータ51を回転させた場合に、該モータ51の各回転数ΩMに対応した回転子20の回転数ΩDを、回転検出部81によって測定する。この標準試料に対する回転数ΩDの測定を、複数の異なる粘性ηを有する標準試料(あらかじめ粘性ηの分かっている試料)に対して行う。また、粘性検出テーブルではなく、粘性η〔mPa・s〕と、傾きΩMD/ΩDとの対応を示す実験式が記憶されていてもよい。
【0070】
装置制御部85は、測定ユニット80内の各部の動作の制御を行う。
【0071】
なお、本実施の形態においては、ここまで、回転子20が平坦な円板状の回転板21と該回転板21の中心から上方に向けて延在する円柱軸22とを有している場合について説明してきたが、回転子20の形状は回転軸26に対して回転対称な形状を有していればよく、例えば、
図3に示される変形例のように、円柱、又は、内部が空洞である円筒であってもよい。この場合、回転粘度計としての分類は、二重円筒型と呼ばれるものと同一である。
図3に示される例においては、試料容器31も、回転子20の形状に適合するように、円筒状のものになっていて、上部カバー33は省略されている。また、円柱軸22も省略され、線材38の下端部分は、回転子20の上端部分、すなわち、上面の中心に直接接続されている。なお、回転子20の上面は、試料32の液面よりも下方に位置する。
【0072】
次に、回転する磁場によって、回転子20に回転トルクTM を生じさせる、すなわち、回転子20に回転トルクTM を付与する方法について、より詳細に説明する。
【0073】
最初に、回転子20の導電性を有する部分が、回転軸26方向に厚み(寸法)を有する場合について説明する。具体的には、回転子20の形状が円柱であったり、円筒であったり、円錐であったり、又は、球である場合等である。本実施の形態においては、
図3に示される変形例のように、円柱又は円筒状の回転子20の場合である。
【0074】
ここでは、回転子20の全体が導電性材料であるアルミニウム製であるものとする。この場合、回転する磁場による渦電流が生じるのは、回転可能な円筒状の回転子20の側面であり、該側面において、磁場は、ほぼ水平方向を向き、かつ、その向きを一定の角速度ΩMで回転させている。説明を簡単にするために、ここでは、磁場の水平方向成分のみを考えるが、磁場に垂直成分があっても、この後の説明に支障はない。
【0075】
回転子20の底面を含む平面をx-y平面とし、鉛直方向に延在する軸をz軸とする直交座標を考えると、回転子20の側面における磁場を表すベクトルは、次の式(1)で表される。
【0076】
【0077】
一例として、時刻がt=2πn/ΩM(nは整数)であるとき、磁場の向きは+x方向であり、その後回転して順次、+y方向、-x方向、-y方向を向く。したがって、この時刻においては、磁場の+y方向成分が増加し、+x方向成分には増減はない。
【0078】
よって、回転子20を-y方向から+y方向に向かってみたとき、レンツの法則によって、回転子20の側面には、反時計回り方向の渦電流が生じる。
【0079】
該渦電流と磁場とによってローレンツ力Fが生じる。該ローレンツ力Fは、電流ベクトルをi、磁場ベクトルをBとするとき、その外積で与えられ、F=i×Bである。外積であるため、この力は磁場と電流とが直交する箇所で最も大きく、その向きが電流及び磁場の向きにそれぞれ直交する磁場の回転となる。これにより、回転子20の側面には、磁場の回転に追随して回転しようとする方向にトルクTM が働く。このため、回転子20は、試料32に接しながら、かつ、試料32による粘性抵抗トルクTvis を受けながら、回転する。
【0080】
このように、回転する磁場によって回転子20に回転トルクTM が働くことが分かる。
【0081】
測定対象ユニット30においては、回転子20に対して働く回転トルクTM によって、回転子20が試料32中を回転するため、前記式(1)における磁場の回転数ΩMは、磁場の回転数ΩMと回転子20の回転数ΩDとの差である回転数差ΩM-ΩDで置き換えられる。また、磁場によって印加される回転トルクTM の大きさは、磁場の強度の二乗に比例する。
【0082】
この結果、回転子20の導電体に発生する渦電流が回転トルクTM (トルクTM )を受けることによって、回転子20に対して回転トルクTM が印加されることになる。そして、回転子20に対して回転トルクTM が印加された結果、回転子20は、試料32中において回転トルクTM の印加される方向に回転することになる。
【0083】
また、回転子20の回転に伴い、試料32の粘性ηに対応したずり流動による粘性抵抗トルクTvis が、回転子20に対して印加される。この粘性抵抗トルクTvis のため、回転子20の回転数ΩDは、粘性抵抗トルクTvis に比例した分、磁場の回転数ΩMには達しない。
【0084】
したがって、回転子20に付与される回転トルクTM の大きさは、回転する磁場の回転数ΩM(モータ51の回転数ΩMと同様)と、回転子20の回転数ΩDとの差に比例することになる。
【0085】
次に、回転子20の導電性を有する部分が、回転軸26方向に厚み(寸法)を有していない場合、すなわち、回転軸26に沿った方向の広がりが十分に大きくない場合について説明する。具体的には、
図1及び2に示される例のように、導電部分が回転板21のような薄い円板である場合である。
【0086】
ここでは、
図4を参照しつつ、回転子20に対して回転トルクを与える方法について説明する。
図4は、第1駆動磁石53a及び第2駆動磁石53bが回転することで生成される回転磁場によって、回転子20に対して、回転トルクを与える方法を説明する概念図である。
【0087】
図4においては、第1駆動磁石53aのN極と第2駆動磁石53bのS極とにより、ある基準面(ここでは、回転板21を含む平面)に対して垂直な磁場が発生する。
【0088】
この基準面を、x軸及びy軸から成る基準2次元平面とし、この基準2次元平面において回転する回転子20の回転軸をz軸とする。
【0089】
以降、基準2次元平面あるいはその近傍の点(x、y、z)における磁場のz軸成分をBz(x、y)として示す。
【0090】
既に述べたように、磁場は、基準2次元平面に対して垂直であるためz軸に依存しない、と仮定しているが、z軸に依存しても以下の説明に支障はない。また、基準2次元平面に対して垂直な磁場の成分があれば、他に基準2次元平面に対して垂直でない磁場の成分が存在しても、回転子20に対して回転トルクを与えることに支障とならない。
【0091】
図4は、z軸の軸成分が+の方向から第1駆動磁石53a及び第2駆動磁石53bの回転を観察している。駆動磁石保持台52が反時計回りに、モータ51によって回転させられると、磁場Bz(x、y)も反時計回りに回転することになり、反時計回りの回転磁場が生成される。
【0092】
例えば、半空間x>0においてBz(x、y)>0であり、半空間x<0においてBz(x、y)<0となった時点の磁場を考える。
【0093】
このとき、半空間y>0において、磁場の時間変化∂Bz/∂tは正(∂Bz/∂t>0)であり、一方、半空間y<0において、磁場の時間変化∂Bz/∂tは負(∂Bz/∂t<0)である。
【0094】
ここで、z軸を回転軸として、基準2次元平面に配置された回転子を考える。
【0095】
このとき、回転磁場が回転子20における導電体に印加されている場合、レンツの法則を考えると、回転子20の導電体部分の内部には、半空間y>0においては時計回りの渦電流が流れ、半空間y<0においては反時計回りの渦電流が流れる。
【0096】
上述したように、渦電流が基準2次元平面に平行に生成される場合、第1駆動磁石53a及び第2駆動磁石53bによって生成される磁場が基準2次元平面に対して垂直であるため、渦電流と磁場とによって、回転子20の導電体に対してかかるローレンツ力は、基準2次元平面に対して平行に発生する。
【0097】
したがって、基準2次元平面において、x>0かつy>0の領域における任意の点Pにおいて生じるローレンツ力をFL1(Fx 、Fy 、0)とすると、Fx >0及びFy >0である。
【0098】
この場合、基準2次元平面において、x<0かつy<0の領域における回転子20のz軸(回転子20の回転軸26)に対して対称の位置の点Qには、ローレンツ力FL2(-Fx 、-Fy 、0)が生じる。
【0099】
すなわち、ローレンツ力FL1(Fx 、Fy 、0)とローレンツ力FL2(-Fx 、-Fy 、0)とによって、点P及び点Qに働く力は偶力となっている。
【0100】
この結果、回転子20の導電体には回転トルクが印加され、回転子20はz軸を回転軸として反時計回りに回転することになる。
【0101】
さらに、回転磁場の回転に伴い、基準2次元平面において、x<0かつy>0の領域における任意の点に対しては、ローレンツ力FL3(Fx 、-Fy 、0)が印加される。
【0102】
また、基準2次元平面において、x<0かつy>0の領域における任意の点に対し、x>0かつy<0におけるz軸に対称な点には、ローレンツ力FL4(-Fx 、Fy 、0)が印加される。
【0103】
したがって、このローレンツ力FL3及びローレンツ力FL4によって回転子20に対して反時計回りの回転トルクが発生する。
【0104】
上述したように、基準2次元平面に対して垂直な磁場が渦電流を生成し、この磁場が反時計回りに回転して生成される回転磁場と、生成される渦電流とによって、z軸を対象にした2つの点に対して反時計回りのローレンツ力が発生する。
【0105】
この結果、回転子20の導電体に発生する渦電流は、全体として反時計回りの回転トルクを受けることによって、導電体を介して回転子20に対して回転トルクが印加されることになる。
【0106】
なお、回転磁場が時計回りに回転すれば、渦電流における電流の流れる方向が、上述した回転磁場が反時計回りに回転する場合と逆となり、回転子20も時計回りに回転することになる。
【0107】
この回転子20に印加される回転トルクの大きさは、回転磁場の回転数ΩM(モータ51の回転数と同様)と、回転子20の回転数ΩDとの差に比例することになる。
【0108】
したがって、試料容器31に入れられた試料32中に配置された回転子20に対して、回転トルクが印加されることになる。この回転トルクが印加された結果、回転子20は、試料32中において、回転トルクの印加される方向に回転することになる。
【0109】
以上のように、回転子20は、回転対称な形状であればよく、その形状が円筒状であっても、あるいは、薄い円板状であっても、粘性の計測に必要な大きさのトルクを印加することが可能である。
【0110】
ところで、回転子20はその上端部分に線材38の下端部分が接続され、該線材38の上端部分は、回転子20の上方において、線材保持部材42によって保持・固定されている。前記線材38は、例えば、金属や石英やグラスファイバや炭素繊維や有機繊維等でできており、その直径が一様であるものを用いることが望ましい。
【0111】
前記線材38は剛性を有しており、ねじれに対して復元力を示す。回転子20は前記線材38によって吊された状態であり、前記線材38の下端部分の接続点は回転子20の回転対称軸上にあるため、回転子20は重力によってその回転対称軸(すなわち、回転軸26)を鉛直方向下方に向け、吊り下がった状態にある。
【0112】
このため、回転子20が試料32中に一部又は全部が没していても、試料32に対して適切に大きな重量を有していれば、線材38は張力を持った状態で一直線となって回転子20を保持することになる。この回転子20の姿勢は、上述した回転トルクが駆動磁石53の運動によって印加されたとしても、安定に保持され、さらに、回転軸26を安定に保持したまま回転する。
【0113】
さらに、線材38の上端部分を保持する線材保持部材42の上下位置を調整することによって、前記線材38に接続された回転子20の上下位置を容易に、かつ、精度よく調整することができる。これにより、試料容器31の底板31aの上面と回転子20の下面(回転板21の下面)との距離、又は、上部カバー33の下面と回転子20の上面(回転板21の上面)との距離、すなわち、粘性測定における試料厚みを正確に制御することができる。
【0114】
また、線材保持部材42の水平方向位置を調整することによって、回転子20の回転軸26の水平位置を容易に、かつ、精度よく調整することができる。これにより、回転子20の回転軸26を、回転する駆動磁石53の回転軸上になるように、容易に調整することができる。また、試料32の対流などによる影響を排除して、回転子20の水平位置を安定に保つことができる。
【0115】
一方で、前記線材38はねじれに対して剛性を示すので、長い時間に亘って連続的に一方向にトルクを印加すると、回転子20の回転角が増大してねじれに対する剛性による復元トルクが生じる。これにより、回転子20には時間変動する磁場から与えられるトルクと、線材38のねじれ剛性による復元力とが働く。そして、この復元力が十分小さい場合には、この影響を無視することによって粘性による抵抗トルクを見積もることができ、また、復元トルクの回転角に対する依存性が既知であれば、その影響を計算によって差し引いて、やはり粘性による抵抗トルクを見積もることができる。
【0116】
次に、本実施の形態における粘性の測定方法について詳細に説明する。
【0117】
本実施の形態における粘性の測定においては、上述したように、線材38の剛性の寄与を無視することができる条件を考慮して、粘性測定を行う必要がある。以下では、この条件について詳述する。
【0118】
回転子20を駆動磁石53によるトルクを印加しない状態で十分な時間放置すれば、線材38はねじれのない平衡状態となる。この際の角度を、ここでは、平衡角と呼ぶことにする。
【0119】
粘性測定を行うためには駆動磁石53を駆動して回転子20に回転トルクを印加するが、これにより、回転子20が回転して平衡角から回転すると、線材38はその回転角に比例したねじれトルクを回転子20に及ぼし、該回転子20の角度を平衡角にまで戻そうとする。
【0120】
このとき、線材38が回転子20に及ぼす復元力トルクTGは、次の式(2)で表される。
【0121】
【0122】
ここで、Gは線材38のずり弾性率、RW は線材38の半径、Lは線材38の長さ(すなわち、回転子20の上端部分と線材保持部材42が線材38を固定する点との距離)、θは平衡角からの回転子20の回転角である。
【0123】
このとき、線材38による復元力のトルクが、測定する試料32の粘性によるトルクより十分小さければ、線材38の復元力のトルクは粘性測定にほぼ影響を与えない。
【0124】
回転子20が、
図1及び2に示される回転板21のように、厚みが一定の円板であり、試料32の厚みも一定である平行平板型の粘度計の構成をとるとき、粘性による粘性抵抗トルクTvis は、次の式(3)で表される。
【0125】
【0126】
ここで、RD は回転子20の半径、hは試料32の厚み、ηは測定対象である試料32の粘性、ωは回転子20の回転角速度である。
【0127】
ここで、要求される粘性の測定精度をαとするならば、線材38のねじれによるねじりトルクが粘性によるトルクより十分に小さいという条件は、TG<αTvis 、すなわち、次の式(4)である。
【0128】
【0129】
ここで、要求される精度が、例えば、1〔%〕であるとき、α=1/100である。
【0130】
よって、前記式(4)で表される条件を満たす最大角度をθMAXとして、-θMAX<θ<θMAXを満たす範囲内でのみ回転子20の回転状態の観察を行えば、線材38のねじれの影響を排して粘性を正確に測定することができる。
【0131】
ここで、ずり速度はωRD /hであるから、測定を行いたいずり速度をγとすれば、前記式(4)は、次の式(5)で表される。
【0132】
【0133】
ここで、平衡角からの回転子20の回転角θの具体的な値を算出してみる。線材38として直径30〔μm〕、長さ20〔cm〕の金線を用い、試料32として代表的な低粘性試料である純水を用い、回転子20の半径を4〔cm〕とし、試料32の厚みを1〔mm〕とし、測定するずり速度を1〔s-1〕とすれば、G=27〔GPa〕であり、このとき、θ<0.19〔rad〕、すなわち、10度以下、となる。これは、実際に十分に回転の観察が可能な角度範囲である。このとき、この回転角θの2倍を回転するのに必要な時間は、15〔s〕程度であり、これは、後述する定常状態の条件を満たす。
【0134】
ここでは、説明を簡単にするために、平行平板型の粘度測定装置を想定して粘性抵抗トルクTvis の値を算出したが、これ以外にも、例えば、二重円筒型など、従来の回転粘度計のすべての構成について、粘性抵抗トルクTvis は計算可能であることから、その表式を用いて前記式(4)の条件を決定すればよい。
【0135】
このように、現在、最高精度の市販の回転粘度計を用いても、水の粘性測定が行える最低のずり速度が10~100〔s-1〕であることを考慮すれば、本実施の形態における粘性の測定装置は、その1/100の低ずり速度域において、1〔%〕という高い精度での測定を行うことができることが分かる。
【0136】
以上述べたように、回転子20の平衡角からの回転運動が、前記式(4)で表される最大角度内であることを条件に、上述のように粘性測定を行えば、機械摩擦の影響を排して粘性測定を行うことができる。
【0137】
なお、上述の例では、入手のし易さ等を考慮して、線材38の断面が円形であるものとしたが、線材38の断面形状は別の形であってもよく、例えば、正方形や長方形であってもよい。この場合、前記式(2)におけるRW は、線材38の断面の特徴的な長さ、例えば、正方形の断面であれば、正方形の一辺の長さの1/2、長方形であれば、短辺と長辺の長さの平均の1/2とすれば、前記式(2)は一般性を失うことがない。
【0138】
次に、本実施の形態における測定で留意すべき測定時間について記述する。
【0139】
本実施の形態における粘性の測定方法では、円板状の回転子20と上部カバー33、若しくは、試料容器31の底板31aとの間、又は、円筒状の回転子20の側面と試料容器31の側壁31bとの間に挟まれた液体の試料32が、定常的な層流となっていることを前提としている。
【0140】
この定常的な層流を実現するためには、以下の2つの時間が経過しなければならない。ひとつは、慣性モーメントを有する回転子20を駆動して定常的な回転速度に至るまでの時間τIであり、いまひとつは、層流が、厚み方向に対して均一なずり速度場であるクエット流になるまでの時間τQである。
【0141】
回転子20の慣性モーメントをIとすれば、τIは次の式(6)で与えられることが知られている。
【0142】
【0143】
ここで、Γは粘性の寄与であり、回転子20が回転角速度ωで回転するときの粘性抵抗トルクをTvis とするならば、Γ=Tvis /ωで表される。回転子20として半径RD 、厚みd、密度ρの一様な材質でできた円板を用いる場合、慣性モーメントIは、次の式(7)で与えられる。
【0144】
【0145】
また、τQは試料32の厚みを流体の運動に伴う運動量が拡散する時間で与えられ、この時間は、ナビエ・ストークス方程式から、次の式(8)で与えられる。
【0146】
【0147】
定常的な流れにおける粘性の測定においては、少なくともこれらの時間の長い方よりも更に長い時間に亘って、一定の大きさのトルクを印加し続ける必要がある。
【0148】
そして、回転子20の回転板21に印加される回転トルクTM (すなわち、回転子20全体に印加されるトルクTM )と、試料32中において回転する回転子20の回転数ΩDと、回転子20の半径(すなわち、回転板21の半径)RD と、回転板21の下面と試料容器31の底板31aの上面との間隔(すなわち、回転板21の下方の試料32の厚さ)とによって、試料32の粘性ηを求める。
【0149】
試料32の粘性ηの測定においては、回転子20の回転板21に印加される回転トルクTM を、あらかじめ粘性ηが分かっている標準試料を用いて、回転磁界の回転数ΩMと回転子20の回転数ΩDとの回転数差ΩMDの関数として求めておく。
【0150】
前述のように、本実施の形態によれば、回転磁界を発生する第1駆動磁石53a及び第2駆動磁石53bを、試料容器31を配設する試料台36の下方に配置することができ、粘性を測定する測定装置を従来と比較して小型化することが可能である。
【0151】
また、図に示される例において、駆動磁石53は、第1駆動磁石53a及び第2駆動磁石53bの一対の磁石から構成されている。この場合、平面視において、1個のN極と1個のS極とが対向して配設された1組の組み合わせによって回転磁場を発生している。これに対して、回転子20の本体部にトルクを与える磁石の組の数は1組以上の任意でよく、例えば、平面視において正方形の磁石4個を、S極とN極とが互い違いになるように配置してもよい。
【0152】
なお、駆動磁石53を保持する駆動磁石保持台52を回転させることによって回転する磁場を生成するのではなく、電磁石を用いて回転磁界を生成するようにしてもよい。
【0153】
このように、本実施の形態によれば、特段な機構を用いることなく回転子20と回転子20を保持する部分との接触部での機械的な摩擦の影響を完全に排除して、十分な精度での粘性測定が可能になる。
【0154】
次に、本実施の形態における測定装置の具体的な応用例について説明する。
【0155】
該応用例においては、試料容器31として、内直径が90〔mm〕、側壁31bの高さが20〔mm〕のガラス製のシャーレを用いた。そして、試料容器31に測定対象物質である試料32を深さ2〔mm〕まで入れた後、回転子20を挿入して吊り下げ、さらに、上部カバー33を設置し、その上で試料容器31を容器蓋35によって封止した。このとき、上部カバー33と回転板21の上面との距離、及び、試料容器31の底板31aと回転板21の下面との距離を、それぞれ、1〔mm〕となるように調整した。ここで、例えば、試料32の温度は25〔℃〕とした。
【0156】
あらかじめ粘性の分かっている標準試料としては、粘性が1.0〔mPa・s〕であるもの、1.8〔mPa・s〕であるものの2種類を用いた。
【0157】
そして、駆動磁石53を駆動してこれら標準試料内の回転子20に印加される磁場の大きさ及び向きに時間的な変動を与え、前記回転子20に回転トルクを与えて回転運動させた。具体的には、回転子20に、矩形波的な回転トルクを印加して、回転子20を回転させた。その周期は20〔s〕であり、時計回り、反時計回りのそれぞれの一定トルクの持続時間は10〔s〕である。
【0158】
ここで、回転板21は、直径80〔mm〕、厚さ1〔mm〕のアクリル製の円板であり、該円板の回転中心には直径2〔mm〕の円柱軸22が形成され、その最上部に吊り下げ用の金属細線から成る線材38が接続されている。また、回転板21の中心には、回転板21と同軸に直径20〔mm〕、厚さ0.3〔mm〕のアルミ円板が接着され、この内部に誘導電流が誘起される。
【0159】
前記線材38の金属細線は、直径が30〔μm〕、長さ20〔cm〕であり、上方において上端部分が線材保持部材42によって保持されている。
【0160】
そして、回転磁場制御部83は、モータ51を駆動して、第1駆動磁石53a及び第2駆動磁石53bを保持する駆動磁石保持台52を回転させる。すると、第1駆動磁石53a及び第2駆動磁石53bが生成する磁場が回転し、回転子20の回転板21に回転磁場が印加される。この回転磁場によって、回転板21に回転トルクが付与されるので、回転子20は、回転磁界の回転方向と同一方向に回転を行う。
【0161】
そして、回転検出部81は、例えば、撮像装置が撮像した回転子20に付加されたマーク21aの回転する動画像を撮像画像として自身内部の記憶部に記憶し、画像処理によってマーク21aの回転周期を求め、該回転周期から回転子20の回転数ΩDを求める。また、粘性検出部82は、回転磁場制御部83に指令して異なる複数の回転速度ΩMでモータ51を回転させる制御を行わせる。そして、モータ51の回転数ΩMが変わる毎に、回転検出部81は対応する回転子20の回転数ΩDを求め、粘性検出部82は、粘性の異なる標準試料毎に、回転子20の回転数ΩDと、モータ51の回転数ΩMと回転子20の回転数ΩDとの差分との対応関係を求める。
【0162】
図5はこのときの回転子20の角度の時間変化を表している。
図5から、矩形状のトルクの印加によって回転子20が時計回り、反時計回りの運動を繰り返すことが分かる。さらに平衡角周辺においては、角速度が一定、すなわち、定常的な回転を行っていることが分かる。この定常状態における角速度を前述の回転子20の回転速度(回転数)ΩDとする。
【0163】
さらに、
図6では、
図5の波形の時間微分、すなわち、回転子の角速度の時間依存性が表されている。この
図6から、トルクの方向の変換後、数秒程度の時間後に回転は定常状態に至っていることが分かる。これにより、前述した測定の理論的な根拠を確認することができる。
【0164】
さらに、
図7では、純水及び粘性が1.8〔mPa・s〕の粘度標準液(JS2.5)に対して測定された、回転子20の回転速度、すなわち、ずり速度と、ΩMD、すなわち、トルクに比例する量との関係が表されている。
【0165】
ここで、ずり速度γは、回転子20の半径をR、試料32の厚みをh、回転の角速度をΩDとすると、γ=RΩD/hで与えられる量であり、これは平行平板型の粘度計において通常用いられる関係式である。
【0166】
また、各標準試料についての回転数ΩDと、回転数差ΩM-ΩDとの関係は、直線となっている。このため、回転子20の回転数ΩDと、回転子20に印加される回転トルクとの関係のみから粘性を求めることが可能である。したがって、標準データを用いることによって粘性を正確に測定することができることが分かる。
【0167】
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0168】
図8は第2の実施の形態における回転子の回転角の時間依存性を表すグラフである。
【0169】
前述のように、回転子20の運動は回転磁石からのトルク、回転子20の慣性モーメント、試料32の粘性による粘性抵抗トルク、及び、回転子20を保持する線材38のねじれに対する復元トルクによって決定される。
【0170】
本実施の形態においても、駆動磁石53を駆動して回転子20に印加される磁場の大きさ及び向きに時間的な変動を与え、回転子20に回転トルクを与えて回転運動させる。具体的には、まず、駆動磁石53を回転させて回転子20の回転運動を誘導し、その後に駆動磁石53の回転を停止させる。その後の回転子20の運動は、回転角をθとして、次の式(9)で表される。
【0171】
【0172】
粘性によるトルクが十分に小さい場合には、式(9)の解は減衰振動を表す。
【0173】
慣性モーメントI、ねじれに対する復元トルクκθ、粘性トルクΓ(dθ/dt)は回転子20と線材38の材質及び形状から計算で求めることが可能であるため、実際に測定されたθの時間に対する振動減衰の様子から、Γを求めることができる。さらに、Γの表式は試料32の粘性を含むため、Γから試料32の粘性を決定することができる。
【0174】
次に、第2の実施の形態における具体的な応用例を説明する。
【0175】
図8において上側に位置する曲線は、前記第1の実施の形態における粘度測定で用いた測定装置と全く同じ構成によって、試料32として空気を用いて測定された回転子20の振動減衰を表す。これに対し、
図8において下側に位置する曲線は、温度は25〔℃〕の空気の粘性の値(18.5〔μPa・s〕)と、計算によって得られる回転子20の慣性モーメントと、線材38のねじれに対する復元トルクとを用いて計算された理論曲線である。
【0176】
実際の測定においては、必ずしも減衰振動曲線の理論値を実験値にフィッティングする必要はなく、この振動減衰の極大値及び極大値を示す時間を片対数プロットして、減衰時間であるI/Γを求め、そこから粘性を求めてもよい。
【0177】
なお、その他の点の構成及び動作については、前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0178】
次に、第3の実施の形態について説明する。なお、第1及び第2の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1及び第2の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0179】
図9は第3の実施の形態における回転子の回転角の時間依存性を表すグラフである。
【0180】
本実施の形態は、定常状態を長時間に亘って実現するためのものである。
【0181】
本実施の形態においては、線材保持部材42の回転角と回転子20の回転角とから、線材38のねじれ角を検出する図示されないねじれ角検出機構を更に有することが望ましい。そして、駆動磁石53を駆動して回転子20に印加された磁場の大きさ及び向きに時間的な変動を与え、回転子20に回転トルクを与えて回転運動させるとともに、回転子20の回転速度を読み取る回転検出部81からのデータを用い、回転子20を吊り下げる線材38を上部で保持する線材保持部材42を、保持部材位置・回転制御機構41を用いて、線材38を軸として回転させることによって、線材38のねじれ角を、次の式(10)が満たされる範囲内に保つようになっている。
【0182】
【0183】
ここで、θは線材38のねじれ角であり、αは要求される粘性の測定精度であり、Lは線材38の長さであり、Gは線材38のずり弾性率であり、RW は線材38の半径であり、Tvis は回転子20に加わる粘性抵抗トルクである。
【0184】
この操作により、通常の粘性測定で行われるように、回転子20に長時間に亘って一定方向にトルクが印加されても、線材38を保持する線材保持部材42を回転させることによって、線材38のねじれ角が前記式(10)を満たす範囲内に保たれる。このため、線材38のねじれに伴う復元トルクの影響を排して、粘性測定を行うことができる。
【0185】
次に、第3の実施の形態における具体的な応用例を説明する。
【0186】
図9は、保持部材位置・回転制御機構41を駆動して線材保持部材42を回転させ、検出した回転速度に基づいて、線材38のねじれ角が1度以下になるように保持し続けて測定された、回転角度の時間依存性を表す。
【0187】
図9より、回転子20の回転角が1800度、すなわち、5回転を超えても、一定の回転速度が保たれていることが分かる。これにより、長時間に亘って定常的なずり速度を維持しつつ、粘性の測定が可能であることを確認することができる。
【0188】
なお、その他の点の構成及び動作については、前記第1及び第2の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0189】
繰り返し述べるが、本発明にあっては、前記第1~第3の実施の形態における粘性の測定方法の違いによらず、回転対称な回転子20が、その回転対称軸である回転軸26が鉛直に保持された状態で、試料32と接していることが重要であり、回転対称な形状がいかなるものであっても構わない。
【0190】
例えば、回転子20をそろばんのコマ状にすることによって、中心軸からの距離によらず一定のずり速度を実現するコーンプレート型粘度計の構成としてもよいし、また、
図3に示される例のように、回転子20を円柱状又は円筒状にしてこれを中心軸を同じにする円筒状の試料容器31の内部に配置する二重円筒型の粘度計の構成としてもよい。さらには、回転子20を球の形状としてもよい。この場合、回転する球の周辺の粘性液体の流動場の解析解が知られており、例えば、希ガスを用いて粘性の標準試料とする場合には、有効な構成となる。
【0191】
また、本明細書の開示された測定装置の機能を実現するためのプログラムをコンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって試料の粘性を求める処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0192】
さらに、「コンピュータシステム」とは、ホームページ提供環境(又は表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。さらに、「コンピュータが読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに、「コンピュータが読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0193】
さらに、前記プログラムは、該プログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、又は、伝送媒体中の伝送波によって他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、前記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組み合わせで実現することができるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0194】
なお、本明細書の開示は、好適で例示的な実施の形態に関する特徴を述べたものである。ここに添付された特許請求の範囲内及びその趣旨内における種々の他の実施の形態、修正及び変形は、当業者であれば、本明細書の開示を総覧することにより、当然に考え付くことである。
【産業上の利用可能性】
【0195】
本開示は、粘性の測定装置及び方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0196】
20 回転子
21a マーク
26 回転軸
31 試料容器
32 試料
38 線材
41 保持部材位置・回転制御機構
42 線材保持部材
53 駆動磁石
53a 第1駆動磁石
53b 第2駆動磁石
81 回転検出部
82 粘性検出部
83 回転磁場制御部
84 標準データ記憶部