IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東ソー株式会社の特許一覧

特開2025-56577エマルジョン充填用マイクロ流路チップ
<>
  • 特開-エマルジョン充填用マイクロ流路チップ 図1
  • 特開-エマルジョン充填用マイクロ流路チップ 図2
  • 特開-エマルジョン充填用マイクロ流路チップ 図3
  • 特開-エマルジョン充填用マイクロ流路チップ 図4
  • 特開-エマルジョン充填用マイクロ流路チップ 図5
  • 特開-エマルジョン充填用マイクロ流路チップ 図6
  • 特開-エマルジョン充填用マイクロ流路チップ 図7
  • 特開-エマルジョン充填用マイクロ流路チップ 図8
  • 特開-エマルジョン充填用マイクロ流路チップ 図9
  • 特開-エマルジョン充填用マイクロ流路チップ 図10
  • 特開-エマルジョン充填用マイクロ流路チップ 図11
  • 特開-エマルジョン充填用マイクロ流路チップ 図12
  • 特開-エマルジョン充填用マイクロ流路チップ 図13
  • 特開-エマルジョン充填用マイクロ流路チップ 図14
  • 特開-エマルジョン充填用マイクロ流路チップ 図15
  • 特開-エマルジョン充填用マイクロ流路チップ 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025056577
(43)【公開日】2025-04-08
(54)【発明の名称】エマルジョン充填用マイクロ流路チップ
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/08 20060101AFI20250401BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
G01N35/08 B
G01N37/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023166143
(22)【出願日】2023-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】服部 篤紀
(72)【発明者】
【氏名】秀野 智大
【テーマコード(参考)】
2G058
【Fターム(参考)】
2G058AA05
2G058DA02
2G058DA07
2G058DA09
(57)【要約】
【課題】本発明は、エマルジョン保持流路において、エマルジョン中に存在する気泡を除去できるエマルジョン充填用マイクロ流路チップを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のエマルジョン充填用マイクロ流路チップは、エマルジョンがエマルジョン保持流路140内の気体を置換しつつ、エマルジョン供給流路130からエマルジョン保持流路に流入する際に、少なくとも一部のエマルジョンが、エマルジョン貯留部142に流入すること、及び/又はエマルジョン誘導部144に誘導されることによって、一時的に、エマルジョンとエマルジョン保持流路内の気体との気液界面をエマルジョン流入口の近傍に維持するようにされている。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散相液保持部、
前記分散相液保持部に接続している分散相液流路、
連続相液保持部、
前記連続相液保持部に接続している連続相液流路、
前記分散相液流路及び前記連続相液流路に接続しているエマルジョン形成部、
前記エマルジョン形成部に接続しているエマルジョン供給流路、並びに
前記エマルジョン供給流路に接続しているエマルジョン保持流路
を有している、エマルジョン充填用マイクロ流路チップであって、
前記分散相液保持部に分散相液を供給し、前記連続相液保持部に連続相液を供給し、かつ前記マイクロ流路チップに外部送液駆動力を適用したときに、前記エマルジョン形成部において、前記分散相液から構成される液滴及び前記連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンが生成され、かつ前記エマルジョンが前記エマルジョン供給流路及び単一のエマルジョン流入口を介して前記エマルジョン保持流路に進入するようになっており、
(i)前記エマルジョン保持流路が、前記エマルジョンが前記エマルジョン供給流路から前記エマルジョン流入口を介して前記エマルジョン保持流路に流入する方向に対する拡張角度が60°以上の領域、及び/又は前記エマルジョン流入口よりも上流側の領域に、エマルジョン貯留部を有し、
それによって前記エマルジョンが前記エマルジョン保持流路内の気体を置換しつつ、前記エマルジョン供給流路から前記エマルジョン保持流路に流入する際に、少なくとも一部の前記エマルジョンが、前記エマルジョン貯留部に流入することによって、一時的に、前記エマルジョンと前記エマルジョン保持流路内の気体との気液界面を、前記エマルジョン流入口の近傍に維持するようにされており、かつ/又は、
(ii)前記エマルジョン流入口の近傍において、前記エマルジョン保持流路が、エマルジョン誘導部を有し、
それによって前記エマルジョンが前記エマルジョン保持流路内の気体を置換しつつ、前記エマルジョン供給流路から前記エマルジョン保持流路に流入する際に、少なくとも一部の前記エマルジョンが、前記エマルジョン誘導部に誘導されることによって、一時的に、前記エマルジョンと前記エマルジョン保持流路内の気体との気液界面を、前記エマルジョン流入口の近傍に維持するようにされている、
エマルジョン充填用マイクロ流路チップ。
【請求項2】
前記(i)を満たす、請求項1に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項3】
前記エマルジョン保持流路が、前記拡張角度が60°以上の領域に、前記エマルジョン貯留部を有している、請求項2に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項4】
前記エマルジョン保持流路が、前記エマルジョン供給流路における前記エマルジョンの流れ方向に対して右側及び左側に前記エマルジョン貯留部を有している、請求項3に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項5】
前記エマルジョン保持流路が、前記エマルジョン流入口よりも上流側の領域に、前記エマルジョン貯留部を有する、請求項2に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項6】
前記エマルジョンが前記エマルジョン供給流路から前記エマルジョン流入口を介して前記エマルジョン保持流路に流入する方向と、前記エマルジョン流入口の近傍における前記エマルジョン保持流路の流路方向との間の角度が、30°以上である、請求項5に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項7】
前記(ii)を満たす、請求項1に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項8】
前記エマルジョン誘導部が、段差構造により形成されている、請求項7に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項9】
前記(i)及び(ii)の両方を満たす、請求項1に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項10】
前記エマルジョン誘導部が、少なくとも一部の前記エマルジョンを前記エマルジョン貯留部に向けて誘導する、請求項9に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項11】
前記エマルジョン保持流路の幅が、エマルジョンの流入口の幅の4倍以上である、請求項1に記載のマイクロ流路チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルジョンを生成し、そして生成したエマルジョンを測定のために保持するためのエマルジョン充填用マイクロ流路チップに関する。特には、本発明は、液滴アレイ測定をより効率的かつ簡便・迅速に行うことができるエマルジョン充填用マイクロ流路チップに関する。
【背景技術】
【0002】
反応液を微小区画に分画し独立して反応を行なう技術として、微小液滴中に反応液を分画する微小液滴法が知られている。この手法は、例えばマイクロ・ナノ粒子の作製などに応用が期待されており、特に、マイクロ流体装置を用いて、標的分子を1分子単位で微小区画化し、微小液滴内で反応を行なうことで、標的分子の有無をシグナルの有無で計測し、標的分子の数の絶対定量を行なうデジタル計測に利用されている。
【0003】
微小液滴法では、一般に、オイルなどの連続相と、この連続相に分散した水溶液の液滴とから構成されるエマルジョンが使用される。
【0004】
非特許文献1は、遠心ステップ液滴生成法を開示している。当該文献は、装置の注入口にオイルを充填し、このオイルを遠心によって液滴回収室に送った後で、同じ注入口から、サンプル溶液を導入し、遠心によって液滴生成を行うことを記載している。
【0005】
このような液滴生成法に対して、反応液などの分散相液とオイルなどの連続相液とを、別個の供給部を介してマイクロ流路チップに供給し、チップ内で合流させてエマルジョン生成を行う方法が知られている。
【0006】
特許文献1は、液滴アッセイに適している液滴を生成するためのそのようなシステム及び方法を開示している。当該文献は、生成された液滴を、ピペットチップ又は液滴ウェルからなる出口領域に輸送することを記載している。また、当該文献は、気泡トラップ(エアトラップ)を記載しており、この気泡トラップによって、サンプルとオイルとが、(陰圧又は陽圧などの)流体駆動力の適用までの間、実質的に離されることを記載している。
【0007】
また、微小液滴法に関して、近年、装置の簡便化・迅速化の観点から、検出領域に液滴を単層に整列させて簡便にシグナルを測定する液滴アレイ測定が注目されている。
【0008】
特許文献2及び3は、液滴を形成するための流路及び液滴を保持するための液滴保持部を有するマイクロ流路チップを開示している。特許文献2は、2以上の反応液同士を合流させた後、反応液とは混和しない非混和性液体を接触させることで液滴を形成させることを記載している。
【0009】
非特許文献2は、チップ上で液滴を生成する方法及びそのための装置について記載している。当該文献に記載の方法は、送液前に、液滴アレイ部をオイルで充填する操作(充填操作)を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許第2550528号明細書
【特許文献2】特開2019-170363号公報
【特許文献3】特開2020-169911号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Centrifugal step emulsification applied for absolute quantification of nucleic acids by digital droplet RPA, Lab Chip, 2015, 15, 2759-2766
【非特許文献2】1-Million droplet array with wide-field fluorescence imaging for digital PCR、Lab on a Chip、2011、11、3838-3845
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の液滴アレイ法では、マイクロ流路チップに遺伝子検出のための反応液等を供給する前の準備処理として、マイクロ流路チップの流路に連続相液を予め充填する操作を必要としていた。具体的には、従来の液滴アレイ法では、送液ラインへの連続相液の充填、チップへの連続相液の充填、過剰な連続相液の除去の工程を必要としていた(連続相液充填方式)。このような測定前の準備操作は、工程が多く煩雑であり、また、装置の自動化を困難にする要因となっていた。
【0013】
これに対して、エマルジョン充填法、すなわち気体が充填されたマイクロ流路チップの流路に連続液相及び分散液相を供給し、エマルジョン形成部でエマルジョンを形成し、そして形成されたエマルジョンが、気体を置換しつつ、エマルジョン保持部流路に充填される方法によれば、上記の準備操作を必要としない。
【0014】
しかしながら、エマルジョン充填法では、気体が充填されたマイクロ流路チップの流路に連続液相及び分散液相を供給してエマルジョンを形成し、そしてそのようにして形成されたエマルジョンをエマルジョン保持部流路に充填するという特性上、エマルジョン保持部流路に流入するエマルジョンは、特にその先端付近において、気泡を取り込んでいることがあった。具体的には例えば、このような気泡の形成は、分散相液及び連続相液が合流してエマルジョンを形成するエマルジョン形成部、連続相液流路においてゴミをトラップするためのピラー構造等において生じうる。
【0015】
このような気泡は、エマルジョン保持流路に滞留しやすく、また、連続相液の揮発性に起因して肥大化しうるため、良好な解析を阻害する要因となりうる。
【0016】
これに対して、本発明は、エマルジョン保持流路において、エマルジョン中に存在する気泡を除去することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
〈態様1〉
分散相液保持部、
前記分散相液保持部に接続している分散相液流路、
連続相液保持部、
前記連続相液保持部に接続している連続相液流路、
前記分散相液流路及び前記連続相液流路に接続しているエマルジョン形成部、
前記エマルジョン形成部に接続しているエマルジョン供給流路、並びに
前記エマルジョン供給流路に接続しているエマルジョン保持流路
を有している、エマルジョン充填用マイクロ流路チップであって、
前記分散相液保持部に分散相液を供給し、前記連続相液保持部に連続相液を供給し、かつ前記マイクロ流路チップに外部送液駆動力を適用したときに、前記エマルジョン形成部において、前記分散相液から構成される液滴及び前記連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンが生成され、かつ前記エマルジョンが前記エマルジョン供給流路及び単一のエマルジョン流入口を介して前記エマルジョン保持流路に進入するようになっており、
(i)前記エマルジョン保持流路が、前記エマルジョンが前記エマルジョン供給流路から前記エマルジョン流入口を介して前記エマルジョン保持流路に流入する方向に対する拡張角度が60°以上の領域、及び/又は前記エマルジョン流入口よりも上流側の領域に、エマルジョン貯留部を有し、
それによって前記エマルジョンが前記エマルジョン保持流路内の気体を置換しつつ、前記エマルジョン供給流路から前記エマルジョン保持流路に流入する際に、少なくとも一部の前記エマルジョンが、前記エマルジョン貯留部に流入することによって、一時的に、前記エマルジョンと前記エマルジョン保持流路内の気体との気液界面を、前記エマルジョン流入口の近傍に維持するようにされており、かつ/又は、
(ii)前記エマルジョン流入口の近傍において、前記エマルジョン保持流路が、エマルジョン誘導部を有し、
それによって前記エマルジョンが前記エマルジョン保持流路内の気体を置換しつつ、前記エマルジョン供給流路から前記エマルジョン保持流路に流入する際に、少なくとも一部の前記エマルジョンが、前記エマルジョン誘導部に誘導されることによって、一時的に、前記エマルジョンと前記エマルジョン保持流路内の気体との気液界面を、前記エマルジョン流入口の近傍に維持するようにされている、
エマルジョン充填用マイクロ流路チップ。
〈態様2〉
前記(i)を満たす、態様1に記載のマイクロ流路チップ。
〈態様3〉
前記エマルジョン保持流路が、前記拡張角度が60°以上の領域に、前記エマルジョン貯留部を有している、態様2に記載のマイクロ流路チップ。
〈態様4〉
前記エマルジョン保持流路が、前記エマルジョン供給流路における前記エマルジョンの流れ方向に対して右側及び左側に前記エマルジョン貯留部を有している、態様3に記載のマイクロ流路チップ。
〈態様5〉
前記エマルジョン保持流路が、前記エマルジョン流入口よりも上流側の領域に、前記エマルジョン貯留部を有する、態様2に記載のマイクロ流路チップ。
〈態様6〉
前記エマルジョンが前記エマルジョン供給流路から前記エマルジョン流入口を介して前記エマルジョン保持流路に流入する方向と、前記エマルジョン流入口の近傍における前記エマルジョン保持流路の流路方向との間の角度が、30°以上である、態様5に記載のマイクロ流路チップ。
〈態様7〉
前記(ii)を満たす、態様1に記載のマイクロ流路チップ。
〈態様8〉
前記エマルジョン誘導部が、段差構造により形成されている、態様7に記載のマイクロ流路チップ。
〈態様9〉
前記(i)及び(ii)の両方を満たす、態様1に記載のマイクロ流路チップ。
〈態様10〉
前記エマルジョン誘導部が、少なくとも一部の前記エマルジョンを前記エマルジョン貯留部に向けて誘導する、態様9に記載のマイクロ流路チップ。
〈態様11〉
前記エマルジョン保持流路の幅が、エマルジョンの流入口の幅の4倍以上である、態様1に記載のマイクロ流路チップ。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エマルジョン保持流路において、エマルジョン中に存在し得る気泡を除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の第1の態様の第1の構成例に係るマイクロ流路チップのエマルジョン保持流路を示す上面(図面中央上)、正面断面(図面中央下)、及び側面断面(図面右)の概略図である。
図2図2は、本発明の第1の態様の第1の構成例に係るマイクロ流路チップのエマルジョン保持流路にエマルジョンが流入する過程を示す上面概念図である。
図3図3は、本発明の第1の態様の第2の構成例に係るマイクロ流路チップのエマルジョン保持流路を示す上面(図面中央上)、正面断面(図面中央下)、及び側面断面(図面右)の概略図である。
図4図4は、本発明の第1の態様の第2の構成例に係るマイクロ流路チップのエマルジョン保持流路にエマルジョンが流入する過程を示す上面概念図である。
図5図5は、本発明の第1の態様の第2の構成例に係るマイクロ流路チップのエマルジョン保持流路を示す上面(図面中央上)、正面断面(図面中央下)、及び側面断面(図面右)の概略図である。
図6図6は、本発明の第1の態様の第2の構成例に係るマイクロ流路チップのエマルジョン保持流路にエマルジョンが流入する過程を示す上面概念図である。
図7図7は、本発明の第1の態様の第3の構成例に係るマイクロ流路チップのエマルジョン保持流路を示す上面(図面中央上)、正面断面(図面中央下)、及び側面断面(図面右)の概略図である。
図8図8は、本発明の第1の態様の第3の構成例に係るマイクロ流路チップのエマルジョン保持流路にエマルジョンが流入する過程を示す上面概念図である。
図9図9は、本発明の第2の態様に係るマイクロ流路チップのエマルジョン保持流路を示す上面(図面中央上)、正面断面(図面中央下)、及び側面断面(図面右)の概略図である。
図10図10は、本発明の第2の態様に係るマイクロ流路チップのエマルジョン保持流路にエマルジョンが流入する過程を示す上面概念図である。
図11図11は、本発明の第3の態様に係るマイクロ流路チップのエマルジョン保持流路を示す上面(図面中央上)、正面断面(図面中央下)、及び側面断面(図面右)の概略図である。
図12図12は、本発明の第3の態様に係るマイクロ流路チップのエマルジョン保持流路にエマルジョンが流入する過程を示す上面概念図である。
図13図13は、本発明の第3の態様に係るマイクロ流路チップのエマルジョン保持流路にエマルジョンが流入する過程を示す上面連続写真である。
図14図14は、従来の1つの態様に係るマイクロ流路チップの上面概略図である。
図15図15は、従来の1つの態様に係るマイクロ流路チップのエマルジョン保持流路を示す上面(図面中央上)、正面断面(図面中央下)、及び側面断面(図面右)の概略図である。
図16図16は、従来の1つの態様に係るマイクロ流路チップのエマルジョン保持流路にエマルジョンが流入する過程を示す上面概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係るエマルジョン充填用マイクロ流路チップは、
分散相液保持部、
分散相液保持部に接続している分散相液流路、
連続相液保持部、
連続相液保持部に接続している連続相液流路、
分散相液流路及び連続相液流路に接続しているエマルジョン形成部、
エマルジョン形成部に接続しているエマルジョン供給流路、並びに
エマルジョン供給流路に接続しているエマルジョン保持流路
を有している。
【0021】
この本発明に係るエマルジョン充填用マイクロ流路チップでは、分散相液保持部に分散相液を供給し、連続相液保持部に連続相液を供給し、かつマイクロ流路チップに外部送液駆動力を適用したときに、エマルジョン形成部において、分散相液から構成される液滴及び連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンが生成され、かつエマルジョンがエマルジョン供給流路及び単一のエマルジョン流入口を介してエマルジョン保持流路に進入するようになっている。
【0022】
本発明によれば、エマルジョン供給流路とエマルジョン保持流路とが下記の第1~第3の態様で示すような構造を有することによって、エマルジョンとエマルジョン保持流路内の気体との気液界面が、エマルジョン保持流路のエマルジョン流入口の近傍に維持されることにより、エマルジョン中に存在する気泡を、この気液界面に衝突させて除去することができる。なお、本発明に関して、「エマルジョン流入口」は、エマルジョン保持流路にエマルジョン供給流路が接続されている箇所を意味しており、エマルジョン保持流路の幅が送液方向に拡張している場合には、その拡張が開始される個所を意味している。
【0023】
なお、この本発明に係るエマルジョン充填用マイクロ流路チップでは、エマルジョン保持流路の幅は、エマルジョンの流入口の幅に対して相対的に大きさを決定することができ、例えばエマルジョン保持流路の幅が、エマルジョンの流入口の幅の4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、又は10倍以上であってよく、また50倍以下、40倍以下、30倍以下、20倍以下、又は10倍以下であってよい。具体的には1つの態様では、エマルジョン保持流路の幅が2.0mmであり、かつエマルジョンの流入口の幅が0.1mmであってよい。
【0024】
なお、エマルジョン保持流路の幅は、エマルジョンの流入口から離れた位置においてエマルジョン保持流路の幅が略一定になっている場合には、その幅、すなわちエマルジョン保持流路の両側面の間の距離として定義することができる。あるいは、エマルジョンの流入口から離れた位置においてエマルジョン保持流路の幅が略一定になっていない場合には、エマルジョン保持流路の幅の平均値、すなわちエマルジョン保持流路の両側面の間の距離の平均値として定義することができる。
【0025】
この本発明に係るエマルジョン充填用マイクロ流路チップでは、エマルジョン保持流路の高さは、エマルジョンの流入口の高さに対して相対的に大きさを決定することができ、例えばエマルジョン保持流路の高さが、エマルジョンの流入口の幅の1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.4倍以上、1.5倍以上、又は2.0倍以上であってよく、また5.0倍以下、4.0倍以下、3.0倍以下、又は2.0倍以下であってよい。具体的には1つの態様では、エマルジョン保持流路の高さが0.2mmであり、かつエマルジョンの流入口の高さが0.1mmであってよい。
【0026】
なお、エマルジョン保持流路の高さは、エマルジョンの流入口から離れた位置においてエマルジョン保持流路の高さが略一定になっている場合には、その高さ、すなわちエマルジョン保持流路の上面及び底面の間の距離として定義することができる。あるいは、エマルジョンの流入口から離れた位置においてエマルジョン保持流路の高さが略一定になっていない場合には、エマルジョン保持流路の高さの平均値、すなわちエマルジョン保持流路の上面及び底面の間の距離の平均値として定義することができる。
【0027】
《第1の態様》
第1の態様では、エマルジョン供給流路とエマルジョン保持流路とが下記の構造を有する:
(i)エマルジョン保持流路が、エマルジョンがエマルジョン供給流路からエマルジョン流入口を介してエマルジョン保持流路に流入する方向に対する拡張角度が60°以上の領域、及び/又はエマルジョン流入口よりも上流側の領域に、エマルジョン貯留部を有し、
それによってエマルジョンがエマルジョン保持流路内の気体を置換しつつ、エマルジョン供給流路からエマルジョン保持流路に流入する際に、少なくとも一部のエマルジョンが、エマルジョン貯留部に流入することによって、一時的に、エマルジョンとエマルジョン保持流路内の気体との気液界面を、エマルジョン流入口の近傍に維持するようにされている。
【0028】
すなわち、エマルジョン貯留部は、エマルジョン貯留部がない場合と比較して、一時的に、エマルジョンとエマルジョン保持流路内の気体との気液界面を、エマルジョン流入口の近傍に維持することを可能にする。
【0029】
なお、本発明に関して、「エマルジョン貯留部」は、エマルジョンがエマルジョン保持流路内の気体を置換しつつ、エマルジョン供給流路からエマルジョン流入口を介してエマルジョン保持流路に流入する際に、少なくとも一部のエマルジョンが、そこに流入することによって、一時的に、エマルジョンとエマルジョン保持流路内の気体との気液界面を、エマルジョン流入口の近傍に維持する部分を意味している。
【0030】
エマルジョン貯留部は、任意の大きさを有することができる。具体的には、エマルジョン貯留部の大きさは、意図する気泡除去効果や、エマルジョン保持流路で均一、高密度、かつ単層に液滴を保持する効果に応じて、任意に決定できる。
【0031】
エマルジョン流入口からエマルジョン貯留部までの送液方向成分の距離は、比較的小さいことが好ましく、例えば、エマルジョン流入口からエマルジョン貯留部までの送液方向成分の距離は、エマルジョンの流入口の幅の5倍以下、4倍以下、3倍以下、2倍以下、又は0.5倍以下であってよい。特に好ましくは、エマルジョン流入口とエマルジョン貯留部とは隣接している。
【0032】
(第1の構成例)
第1の態様の第1の構成例では、エマルジョン保持流路が、エマルジョンがエマルジョン流入口を介してエマルジョン供給流路からエマルジョン保持流路に流入する方向に対する拡張角度が60°以上の領域に、エマルジョン貯留部を有する。
【0033】
なお、本発明に関して、「拡張角度が60°以上の領域」は、エマルジョン供給流路のいずれの側に存在していてもよく、したがって例えば、「拡張角度が60°以上の領域」は、エマルジョン供給流路の右側、左側、上側、及び下側のうちのいずれか1又は複数個所、特にエマルジョン供給流路の右側及び左側のうちの一方又は両方に存在していてよい。すなわち、本発明に関して、「拡張角度」は、エマルジョン供給流路の右側、左側、上側、及び下側、特にエマルジョン供給流路の右側及び左側で異なっていても同じであってもよい。なお、本発明に関して、エマルジョン供給流路の上側及び下側は、エマルジョン充填用マイクロ流路チップの使用時におけるそれぞれ上側及び下側を意味している。また、本発明に関して、エマルジョン供給流路の右側及び左側は、エマルジョン充填用マイクロ流路チップの使用時の状態での、エマルジョン供給流路におけるエマルジョンの流れ方向に対してそれぞれ右側及び左側を意味する。
【0034】
なお、上側への拡張角度が60°以上の領域にエマルジョンが充填される場合、重力が上側から下側に働くため、上側の方が極端にエマルジョン及び/又は連続相液に対する親和性が下側よりも高くない限り、下側に優先的にエマルジョンが充填される。つまり、前記の上側への拡張角度が60°以上の領域にエマルジョンが充填される際には、流入部近傍から気液界面が離れやすくなるため、上側への拡張角度が60°以上の領域は貯留部として比較的働きにくい。したがって、エマルジョン供給流路の右側、左側、及び下側、特にエマルジョン供給流路の右側及び左側で、エマルジョン保持流路が拡張しており、それによってエマルジョン貯留部が形成されていることが好ましい。
【0035】
具体的には、第1の態様の第1の構成例では、エマルジョン供給流路とエマルジョン保持流路とは、図1及び2に示すような構造、図3及び4に示すような構造、又は図5及び6に示すような構造を有することができる。
【0036】
これらの図で示す態様では、エマルジョン保持流路140は、エマルジョンがエマルジョン供給流路130からエマルジョン保持流路140に流入する方向(白矢印)に対する拡張角度(α1、α2)が60°以上の領域に、エマルジョン貯留部142を有することができる。
【0037】
なお、上記のとおり、本発明に関して、「拡張角度が60°以上の領域」は、エマルジョン供給流路のいずれの側に存在していてもよい。したがって図1~6に示す態様では、エマルジョン保持流路140は、エマルジョン供給流路の右側及び左側で対称な形状を有しているが、エマルジョン保持流路140は、エマルジョン供給流路の右側及び左側で非対称な形状を有していてもよい。したがって、エマルジョン保持流路140は、エマルジョン供給流路の右側及び左側の一方のみについて、拡張角度(α1、α2)が60°以上の領域に、エマルジョン貯留部を有していても、エマルジョン供給流路の右側及び左側の両方について、拡張角度(α1、α2)が60°以上の領域に、エマルジョン貯留部を有していてよい。
【0038】
エマルジョン貯留部を有するこの領域は、拡張角度(α1、α2)が65°以上、70°以上、80°以上、85°以上、90°以上、95以上、100°以上、105°以上、110°以上、115°以上、又は120°以上の領域であってよく、また拡張角度(α)が180°以下、170°以下、160°以下、150°以下、140°以下、130°以下、120°以下、110°以下、100°以下、90°以下、80°以下、又は70°以下の領域であってよい。
【0039】
この場合、エマルジョン210がエマルジョン保持流路140内の気体を置換しつつ、エマルジョン供給流路130からエマルジョン保持流路140に流入する際に、少なくとも一部のエマルジョン210が、エマルジョン貯留部142に流入することによって、一時的に、エマルジョン210とエマルジョン保持流路140内の気体との気液界面が、エマルジョン流入口の近傍に維持される。
【0040】
なお、従来のエマルジョン保持流路では、上記の拡張角度は比較的小さく、例えばエマルジョン供給流路の右側及び左側の拡張角度はそれぞれ45°以下(すなわちエマルジョン供給流路の右側及び左側の拡張角度の合計が90°以下)であることが一般的であり、したがって本発明で言うエマルジョン貯留部は形成されていなかった。
【0041】
参考までに図1及び2に示す態様について具体的に説明すると、この態様では、エマルジョン保持流路140が、エマルジョン供給流路130の右側及び左側の両方で、エマルジョンの流入方向に対してそれぞれ拡張角度90°で広がっており、したがって拡張角度60°~拡張角度90°の範囲が、エマルジョン貯留部142として機能する。
【0042】
また、図3及び4に示す態様について具体的に説明すると、この態様では、エマルジョン保持流路140が、エマルジョン供給流路130の右側及び左側の両方で、エマルジョンの流入方向に対してそれぞれ拡張角度110°で広がっており、したがって拡張角度60°~拡張角度110°の範囲が、エマルジョン貯留部142として機能する。なお、この態様では、エマルジョン貯留部142のうちの拡張角度90°以上の範囲は、エマルジョン流入口よりも上流側の領域に存在するということでもできる。
【0043】
また、図5及び6に示す態様について具体的に説明すると、この態様では、エマルジョン保持流路140が、エマルジョン供給流路130の右側及び左側の両方に沿って伸びる隔壁140aを有しており、したがって拡張角度が60°よりも大きい範囲が、エマルジョン貯留部142として機能する。なお、この態様では、エマルジョン貯留部142のうちの拡張角度90°以上の範囲は、エマルジョン流入口よりも上流側の領域に存在するということでもできる。
【0044】
(第2の構成例)
第1の態様の第2の構成例では、エマルジョン保持流路が、エマルジョン流入口よりも上流側の領域に、エマルジョン貯留部を有する。
【0045】
具体的には、第1の態様の第2の構成例では、エマルジョン供給流路とエマルジョン保持流路とは、図7及び8に示すような構造を有することができる。
【0046】
これらの図で示す態様では、エマルジョン保持流路140は、エマルジョン流入口(すなわち、エマルジョンがエマルジョン供給流路130からエマルジョン保持流路140に流入する箇所)よりも上流側の領域に、エマルジョン貯留部142を有することができる。
【0047】
この場合、エマルジョン210がエマルジョン保持流路140内の気体を置換しつつ、エマルジョン供給流路130からエマルジョン保持流路140に流入する際に、少なくとも一部のエマルジョン210が、エマルジョン貯留部142に流入することによって、一時的に、エマルジョン210とエマルジョン保持流路140内の気体との気液界面が、エマルジョン流入口の近傍に維持される。
【0048】
エマルジョン保持流路がエマルジョン流入口よりも上流側の領域にエマルジョン貯留部を有するようにするために、エマルジョン210がエマルジョン供給流路130からエマルジョン流入口を介してエマルジョン保持流路140に流入する方向と、エマルジョン流入口の近傍におけるエマルジョン保持流路140の送液方向とを異ならせることができる。具体的には、エマルジョン210がエマルジョン供給流路130からエマルジョン保持流路140に流入する方向と、エマルジョン流入口の近傍におけるエマルジョン保持流路140の流路方向との間の角度βは、30°以上であることが好ましい。これらの角度βは、30°以上、40°以上、50°以上、60°以上、70°以上、80°以上、90°以上、100°以上、120°以上であってよく、また170°以下、160°以下、150°以下、140°以下、130°以下、120°以下、100°以下、90°以下、80°以下、70°以下、60°以下、50°以下、又は40°以下であってよい。なお、エマルジョン供給流路130からエマルジョン貯留部142へのエマルジョン210の流入を促進するためは、この角度βは、90°以下、80°以下、70°以下、60°以下、50°以下、又は40°以下であってよい。
【0049】
《第2の態様》
第2の態様では、エマルジョン供給流路とエマルジョン保持流路とが下記の構造を有する:
(ii)エマルジョン流入口の近傍において、エマルジョン保持流路が、エマルジョン誘導部を有し、
それによってエマルジョンがエマルジョン保持流路内の気体を置換しつつ、エマルジョン供給流路からエマルジョン保持流路に流入する際に、少なくとも一部のエマルジョンが、エマルジョン誘導部に誘導されることによって、一時的に、エマルジョンとエマルジョン保持流路内の気体との気液界面を、前記エマルジョン流入口の近傍に維持するようにされている。すなわち、エマルジョン誘導部は、エマルジョン誘導部がない場合と比較して、一時的に、エマルジョンとエマルジョン保持流路内の気体との気液界面を、エマルジョン流入口の近傍に維持することを可能にする。
【0050】
エマルジョン供給流路とエマルジョン保持流路とがこの第2の態様で示すような構造を有する場合、具体的には、例えばエマルジョン供給流路とエマルジョン保持流路とが図9及び10に示すような構造を有する場合、エマルジョン210がエマルジョン保持流路140内の気体を置換しつつ、エマルジョン供給流路130からエマルジョン保持流路140に流入する際に、少なくとも一部のエマルジョン210が、エマルジョン誘導部144に誘導されることによって、一時的に、エマルジョン210とエマルジョン保持流路140内の気体との気液界面が、エマルジョン流入口の近傍に維持される。
【0051】
ここで、エマルジョン保持流路140のエマルジョン誘導部144は、段差構造により形成されていてよい。すなわち、エマルジョン誘導部144は、エマルジョン保持流路140の他の部分よりも高さが低い部分として形成されており、特にエマルジョン誘導部144からエマルジョン保持流路140の他の部分への移行箇所において急激に高さ増加するようにして形成されており、それによってエマルジョンの表面張力の作用で、エマルジョン210がエマルジョン誘導部144に誘導されるようにできる。
【0052】
また、エマルジョン保持流路140のエマルジョン誘導部144は、エマルジョンに対する濡れ性の差により形成されていてよい。すなわち、エマルジョン誘導部144は、エマルジョン保持流路140の他の部分よりもエマルジョンに対する濡れ性が高い部分として形成されており、それによってエマルジョン210がエマルジョン誘導部144に誘導されるようにできる。
【0053】
エマルジョン誘導部の幅と高さ方向の面積は、意図する気泡除去効果に応じて任意の大きさで設定すればよい。具体的には、エマルジョン誘導部の幅と高さ方向の面積は、意図する気泡除去効果や、エマルジョン保持流路で均一、高密度、かつ単層に液滴を保持する効果に応じて、任意に決定できる。
【0054】
エマルジョン保持流路において、誘導部とそれ以外部分の境界部(例えば、図9及び10における段差構造)がエマルジョン供給流路の開口部の近傍に存在すると、境界部付近に保持された気液界面に対して流入してきた気泡が接触しやすくなるため好ましい。境界部とエマルジョン供給流路の開口部の最短距離は、エマルジョン保持流路及び/又はエマルジョン供給流路の高さの3倍以下、2倍以下、1.5倍以下、1倍以下、1/2倍以下、1/3倍以下、1/4倍以下、1/5倍以下、1/7倍以下、1/10倍以下、1/15倍以下、1/20倍以下、1/30倍以下であってよく、1/100倍以上、1/70倍以上、1/50倍以上。1/30倍以上、1/20倍以上、1/15倍以上、1/10倍以上、1/7倍以上、1/5倍以上であってよい。
【0055】
エマルジョン誘導部に誘導されたエマルジョンは、境界部から大きく流出しないように維持することで、エマルジョン供給流路の開口部付近の気液界面を長く維持できるため好ましい。特に、エマルジョン保持流路の側方壁面近傍までエマルジョン誘導部が存在すると、実質的な境界部が小さくなり、気液界面を境界部から大きく流出しないように安定して保持できるため好ましい。
【0056】
《第3の態様》
第3の態様では、エマルジョン供給流路とエマルジョン保持流路とが第1の態様と第2の態様との両方の特徴を有する。
【0057】
エマルジョン供給流路とエマルジョン保持流路とがこの第3の態様で示すような構造を有する場合、具体的には、例えばエマルジョン供給流路とエマルジョン保持流路とが図11及び12に示すような構造を有する場合、エマルジョン210がエマルジョン保持流路140内の気体を置換しつつ、エマルジョン供給流路130からエマルジョン保持流路140に流入する際に、少なくとも一部のエマルジョン210が、エマルジョン誘導部144に誘導され、かつエマルジョン貯留部に流入することによって、一時的に、エマルジョン210とエマルジョン保持流路140内の気体との気液界面が、エマルジョン保持流路140のエマルジョン流入口の近傍に維持される。すなわち、エマルジョン誘導部及びエマルジョン貯留部は、エマルジョン誘導部及び/又はエマルジョン貯留部がない場合と比較して、一時的に、エマルジョンとエマルジョン保持流路内の気体との気液界面を、エマルジョン流入口の近傍に維持することを可能にする。
【0058】
エマルジョン誘導部の境界部は、気液界面をエマルジョン供給流路の開口部の近傍に維持しつつ、エマルジョンをエマルジョン供給流路の開口部付近のエマルジョン誘導部からエマルジョン貯留部に効率的に誘導するため、エマルジョン誘導部とエマルジョン貯留部は接続されているのが好ましく、特にエマルジョン保持流路の側方壁面に沿って接続されているのが好ましい。
【0059】
《第1~第3の態様についてのまとめ》
これら第1~第3の態様では、エマルジョン供給流路130からエマルジョン保持流路140に入るエマルジョン210が気泡220を保持していても、この気泡220を、エマルジョン保持流路のエマルジョン流入口の近傍に維持される気液界面に衝突させて除去すること、すなわちエマルジョン保持流路140内の気体と合一させることができる。
【0060】
《第1~第3の態様で示すような構造がない場合》
これに対して、第1~第3の態様で示すような構造がない場合、エマルジョン中に存在する気泡を除去することができず、したがってエマルジョン保持流路内に気泡が残留して測定を阻害してしまうことがある。
【0061】
具体的には、例えばエマルジョン供給流路とエマルジョン保持流路とが図15及び16に示すような構造を有する場合、すなわちエマルジョン保持流路140がエマルジョン貯留部142もエマルジョン誘導部144も有さない場合、エマルジョン供給流路130からエマルジョン保持流路140に入るエマルジョン210が気泡220を保持していると、エマルジョン供給流路130にあった気泡はそのまま、エマルジョン保持流路140に入り、エマルジョン210中に維持されてしまう。
【0062】
《エマルジョン、マイクロ流路チップの構成、マイクロ流路チップを用いた検出処理等》
以下では、本発明のマイクロ流路チップと組み合わせて使用されるエマルジョン、エマルジョン貯留部及びエマルジョン誘導部以外のマイクロ流路チップの構成、マイクロ流路チップを用いた検出処理等について、説明する。
【0063】
<エマルジョン>
エマルジョンは、分散性溶液であり、分散相液から構成される液滴、及び連続相液から構成される連続相を含む。エマルジョン中で、分散相液から構成される液滴が、連続相液から構成される連続相に分散している。
【0064】
(分散相液)
分散相液は、エマルジョンに含有される液滴を構成する液体である。
【0065】
分散相液は、例えば、水溶液である。分散相液は、随意に、界面活性剤、有機溶剤、増粘剤、血清、酵素などを含有することができる。分散相液は、反応液であってよく、例えば、後述する検出処理において検出対象となる試料を含有する液体、検出用の試薬を含有する液体、又はこれらの混合液であってよい。
【0066】
(連続相液)
連続相液は、エマルジョンに含有される連続相を構成する液体である。
【0067】
連続相液は、分散相液と混和しない非混和性液体であることが好ましい。例えば、分散相液が水溶液である場合、連続相液はオイルであってよく、この場合、ウォーターインオイル(W/O)型エマルジョンが形成される。
【0068】
連続相液がオイルである場合、オイルとしては、シリコーンオイル、鉱油、フッ素系分散媒、植物油、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0069】
フッ素系分散媒としては、フルオロカーボン、特には、ペルフルオロヘキサン、ヘキサフルオロベンゼン、ペルフルオロメチルシクロヘキサン、ペルフルオロオクタン、及びペルフルオロトリペンチルアミンが挙げられる。
【0070】
市販されているフルオロカーボンとしては、FC-3283(フロリナート(商品名)3M社製)、FC-40(フロリナート(商品名)3M社製)、及びHFE-7500(3MTMNovecTM高機能性液体、3M社製)が挙げられる。
【0071】
連続相液としてフッ素系分散媒、特に上記のフルオロカーボンを使用した場合には、特に安定かつ迅速な液滴生成が可能となる。また、極性溶媒や無極性溶媒に対して極めて相溶性が低い特徴を有するため、エマルジョン内の液滴の成分が連続相液を介して他の液滴に移動してしまう問題(クロストーク、コンタミ)を抑制することができる。また、炭化水素系分散媒やシリコーンオイルで表面張力や粘性の低い液体を選択する場合、一般的に可燃性等の危険物としてのリスクが増大するが、フッ素系分散媒は消火剤や冷却媒として利用されるほど安全性が高いのが特徴である。
【0072】
連続相液がオイル(特にはフッ素系分散媒)を含有する場合、オイル(特にはフッ素系分散媒)は、連続相液に対して、50.0~99.9質量%であってよく、又はさらには80~99.0質量%であってよい。
【0073】
なお、液滴の熱安定性の目的などのために、界面活性剤などの添加剤を連続相液に添加することもできる。これらの添加剤は、液滴における検出反応を阻害しないものであることが好ましい。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤である、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのブロックコポリマーであるPLURONIC(登録商標)およびTETRONIC(登録商標)やTween(登録商標)、Span(登録商標)、Zonyl(登録商標)など挙げられる。連続相液としてフッ素系分散媒を使用する場合、フッ素系界面活性剤、特にはフッ化炭素系界面活性剤を使用するのが好ましく、例えばパーフルオロポリエーテルとポリエチレングリコールのブロックコポリマー等が挙げられる。
【0074】
連続相液が界面活性剤を含む場合、界面活性剤は、連続相液に対して、1~20質量%であってよく、又はさらには2~10質量%であってよい。
【0075】
(液滴)
エマルジョンに含有される液滴は、分散相液から構成される。液滴は、例えば、分散相液が連続相液との接触を介してカプセル封入されることによって形成される。
【0076】
液滴は、例えば、検出対象となる試料を含有する。液滴中で、試料中に含有される標的物質と試薬とを反応させ、その反応の有無及び/又は反応の程度を示す検出可能なシグナル(例えば、蛍光シグナル)を介して、試料の分析を行うことができる。この反応は、例えば、化学反応、結合反応、表現型の変化、又はこれらの組み合わせであってよい。
【0077】
液滴の体積は、標的物質(標的分子)をおおむね1つ(例えば1分子)保持できるだけの体積を有することが好ましい。具体的には、平均体積が、0.00001nL以上、0.0001nL以上、0.001nL以上、0.01nL以上、0.1nL以上、0.5nL以上、若しくは1nL以上、かつ/又は、100nL以下、50nL以下、若しくは10nL以下であることが好ましい。なお、液滴内における標的物質の反応を均一に行なう観点から、形成する液滴の体積は単分散性が高いと好ましい。ここでいう単分散性とは、具体的には、液滴体積の変動係数(CV)が20%以下、10%以下、5%以下、2%以下、又は1%以下のことをいう。なお、下記では説明をわかりやすくするため、液滴を球状として取り扱うが、流路構造や周囲の流れによって液滴が非球状になっていても同様に考えてよい。
【0078】
液滴は、少なくとも標的物質の反応温度条件下で液滴の形状を維持できるだけの熱安定性を有していることが好ましい。具体例として、検出処理において、TRC法による核酸増幅を行う場合は、40℃~48℃の温度条件下で、PCR法による核酸増幅を行う場合は、50℃~100℃の温度条件下で、それぞれ、形状を維持できるだけの熱安定性を液滴が有していることが好ましい。
【0079】
<マイクロ流路チップ>
本発明のエマルジョン充填用マイクロ流路チップは、
分散相液保持部、
分散相液保持部に接続している分散相液流路、
連続相液保持部、
連続相液保持部に接続している連続相液流路、
分散相液流路及び連続相液流路に接続しているエマルジョン形成部、
エマルジョン形成部に接続しているエマルジョン供給流路、並びに
エマルジョン供給流路に接続しているエマルジョン保持流路
を有しており、これらは、互いに流体的に接続され、全体として1つの流路構造を形成している。
【0080】
本発明のマイクロ流路チップは、エマルジョン充填法において用いるエマルジョン充填用マイクロ流路チップである。
【0081】
「エマルジョン充填法」では、エマルジョン形成部で生成されるエマルジョン(液滴+連続相)が、気体で充填されているエマルジョン保持流路に輸送される。エマルジョン充填法では、エマルジョン形成部で生成されたエマルジョンが、気体で充填されているエマルジョン保持流路の中を排出口の方向に向かって移動し、エマルジョン保持流路を充填する。すなわち、エマルジョン保持流路を充填している気体とエマルジョンとによって形成される「気液界面」が、エマルジョン保持流路の下流(又は排出口)に向かって移動する。
【0082】
図14に示す従来のマイクロ流路チップを参照して、具体的に説明する。
【0083】
図14のマイクロ流路チップ10は、平面型の構成を有しており、すなわち、エマルジョンの生成、輸送及び保持が、実質的に1つの平面内で行われるようになっている。図14のマイクロ流路チップ10は、第一分散相液保持部102、第二分散相液保持部103、(第一分散相液流路114、第二分散相液流路115、及び分散相液合流部116からなる)分散相液流路、連続相液保持部101、連続相液流路111、エマルジョン形成部120、エマルジョン供給流路130、エマルジョン保持流路140、及び排出口を150有している。分散相液保持部102、103が、それぞれ、第一分散相液流路114及び第二分散相液流路115を介して、エマルジョン形成部120に接続しており、連続相液保持部101が、連続相液流路111を介して、120に接続している。図14に係る態様では、連続相液流路111が、第一連続相液流路112及び第二連続相液流路113からなる。エマルジョン形成部120が、エマルジョン供給流路130を介して、エマルジョン保持流路140に接続しており、エマルジョン保持流路140が、排出口150に接続している。
【0084】
エマルジョン充填法では、検出対象となる物質を含有する水溶性反応液などの分散相液を、分散相液保持部102、103に供給し、オイルなどの連続相液を、連続相液保持部101に供給する。この時点で、マイクロ流路チップ10の各流路には気体(特には空気)が充填されている(すなわち、「空」のマイクロ流路チップを用いる)。
【0085】
なお、空のマイクロ流路チップとは、流路内が気体(特には空気)で充填された状態のことを指し、流路全体に液体(例えば、分散相液、連続相液など)がない状態、すなわち流路全体が気体で充填されている状態が好ましい。なお、マイクロ流路チップの流路内に表面処理や空気中の水の凝結等によって液体が残留・発生していてもこの限りではないが、少なくとも流路の一部が液体によって閉塞していないことが好ましく、特に、分散相液流路、連続相液流路、エマルジョン形成部が閉塞していないことが好ましい。
【0086】
本発明のマイクロ流路チップの使用においては、外部送液駆動力(特には陰圧)の適用の前に、エマルジョン保持流路が(少なくとも部分的に)気体で充填されている。この方法は、マイクロ流路チップの流路全体を連続相液であらかじめ充填する従来の方法とは異なっており、従来必要とされていた、連続相液の充填及び過剰な連続相液の除去といった準備工程を省略することができる。
【0087】
本発明のマイクロ流路チップの1つの態様では、分散相液保持部及び連続相液保持部に供給された液体(分散相液及び連続相液)を、毛細管力及び/又は液面差圧によってエマルジョン形成部にまで移動させることができるように構成されている。この場合には、追加的な装置を必要とすることなく、容易に、予備充填液並びに分散相液及び連続相液の移動を制御することができる。
【0088】
例えばマイクロ流路チップの流路構造(流路表面の特性、流路の圧力損失など)を適宜設定することによって、所望の毛細管力を得ることができる。また、例えば各相液保持部に供給される液量(特には液面高さ)を調節することによって、所望の液面差圧を得ることができる。
【0089】
毛細管力は、キャピラリー力とも呼ばれる力であり、大きく開けた保持部内の気液界面とより小さい断面を有する流路内の気液界面の表面張力差によって発生する流路に侵入する方向に働く力である。よって、毛細管力は各流路の特性だけでなく保持部の構造も影響し、特にエマルジョン充填法ではエマルジョンの気液界面の移動を制御するため、送液(液滴生成)中及び送液停止後の液滴保持中においても毛細管力が大きく影響する。
【0090】
また、液面差圧は、静水圧とも呼ばれる力であり、一般に静止状態の液体中に重力によって発生する圧力、すなわち各保持部への各相液の供給量(重量)に依存した圧力を指す。
【0091】
例えば、排出口に外部送液駆動力(陰圧)を適用することによって、エマルジョン形成部において、分散相液から構成される液滴及び連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンを生成し、このようにして生成されたエマルジョンを、エマルジョン供給流路を介して、気体で充填された状態のエマルジョン保持流路に輸送することができる。
【0092】
本発明に係るマイクロ流路チップは、例えば、基材、及び基材の上に配置されている上部構造体を有している。好ましくは、上部構造体は、流路構造、すなわち分散相液保持部、分散相液流路、連続相液保持部、連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン供給流路、及びエマルジョン保持流路を有している。基材は、ガラスからできていてよい。上部構造体は、樹脂からできていてよい。マイクロ流路チップは、例えば、樹脂製の上部構造体と、マイクロ流路チップの底部を構成するガラス基材とを貼り合わせて作製することができる。
【0093】
マイクロ流路チップを構成する流路の大きさ(幅及び深さなど)は、目的とする液滴の体積などを考慮して適宜決定することができ、特には、標的物質の反応形態を考慮して適宜決定することができる。例えば、後述する微小液滴法において、標的物質がDNAやRNAなどの核酸であり、標的物質の反応が当該核酸のデジタル増幅反応(1分子単位での増幅反応)である場合は、pLオーダー又はnLオーダーの液滴を作製することが必要なため、エマルジョン形成部の周辺の流路の幅及び深さが、それぞれ、0.1μm~1000μm、特には1μm~300μmの範囲であることが好ましい。
【0094】
マイクロ流路チップは、流路構造を正確かつ容易に作製可能なモールディング若しくはエンボッシングなどの鋳型を用いた技術、又は、フォトリソグラフィー、ソフトフォトリソグラフィー、ウェットエッチング、ドライエッチング、ナノインプリンティング、レーザー加工、電子線直接描画、積層造形法(Additive Manufacturing、AM)、機械加工など、当業者が通常用いる技術を組み合わせて作製することができる。
【0095】
マイクロ流路チップの作製に用いる材料として、PDMS(ポリジメチルシロキサン)及びアクリルなどのポリマー材料、ステンレスなどの金属材料、ガラス、シリコーン、セラミックスなどがあげられる。これらの中でも、ポリマー材料は、流路自体を安価に作製でき、ディスポーザブルな態様としやすい。したがって、ポリマー材料を少なくとも部分的に用いることが好ましい。
【0096】
なお、マイクロ流路チップを構成する流路は、液体(特には後述する分散相液)に対して親和性の低い流路壁面にすると好ましい。液体(特には後述する分散相液)に対して親和性の低い材料を用いてマイクロ流路チップを作製してもよく、液体(特には後述する分散相液)に対して親和性の低い材料で流路壁面に相当する部分を表面処理してもよい。例えば、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、アクリル、シクロオレフィンポリマー、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのポリマー材料を用いてマイクロ流路チップを作製してもよく、炭化水素系シラン化剤、フッ化炭素系シラン化剤等によって流路壁面の表面処理を行なってもよい。
【0097】
(分散相液保持部)
分散相液保持部は、エマルジョンを生成するための材料となる分散相液を保持する部分である。分散相液保持部は、導入口であってよく、分散相液保持部を介して、液体をマイクロ流路チップに導入することができる。分散相液保持部は、例えば、マイクロ流路チップの使用状態において鉛直方向に延在する穴部及び/又はウェルであってよく、この穴部及び/又はウェル内に、分散相液を供給しかつ保持することができるようになっている。分散相液保持部は、例えば、直径0.1mm~20mmの穴部及び/又はウェルから構成されていてよい。分散相液保持部が穴部及びウェルから構成される場合、鉛直方向に延在するウェルが、鉛直方向に延在する穴部を介して、分散相液流路に接続することができる。
【0098】
(分散相液の供給)
分散相液保持部に、分散相液を供給することができる。1つの実施態様では、分散相液は、予備充填液が分散相液保持部まで移動した後で、供給される。
【0099】
分散相液保持部に分散相液を供給するために、分散相液を保持するために別個に用意される別容器(相液保持容器)を用いることもできる。このような容器は、保管中及び操作中における液の流出を防止する観点から、分散相液を保持した状態で完全に又は可変的に密閉されていることが好ましい。
【0100】
また、分散相液の供給(及び/又は連続相液の供給)は、分注手段によって行うことができる。分注手段の使用は、分散相液の残量を抑制し、測定時間及び/又は試薬(分散相液)間のコンタミを抑制できる点で好ましい。
【0101】
例えば、分注手段を用いて各保持部に各相液を滴下し、又は、各保持部の壁面に沿って各相液を導入することができる。これは、送液を陰圧で行う場合に、特に有利である。従来の供給方法、特に、各保持部にチューブ又はマニフォールドを流体接続(密閉接続)させて各保持部への液導入及び送液圧力を同時に行う方法では、接続時の不意の圧力変動及び圧力の安定化までに要する時間に起因して、送液を開始する前に早期に液滴が生成してしまうことがあった。これに対して、分注手段を用い、かつ送液を陰圧で行う場合には、各保持部に相液供給用装置及び圧力源を接続する際の圧力の変動がなくなるので、送液を開始する前の早期の液滴生成を抑制することができる。
【0102】
分注手段は、保持部における圧力変動を生じないものであることが好ましい。分注手段は、例えばピペットであってよい。好ましくは、分注手段(特に、分注手段を構成する液吐出口)が、各保持部に対して流体接続(密閉接続)されておらず、空間的に離されている。
【0103】
例えば、分注手段は、ポンプ、アクチュエーター、ピペットを含む機構であってよく、別容器に保持された各相液をポンプによって吸い上げ、アクチュエーターによって各保持部までピペット先端を移動した後、ポンプによって各保持部に各相液を押し出す動作を行うことが好ましい。加えて、各相液が接触したピペット等の一部は、取り外し可能で使用毎に取り換えることができると、コンタミが抑制できるので好ましい。さらに、分注手段のポンプを送液手段として併用すると、装置構成が簡便化できるため好ましい。また、繰り返し使用が意図される場合、使い捨てのピペットを含む分注手段によって相液を添加しても良いし、共通のラインを使用して相液保持容器からマイクロ流路チップへ添加を行っても良い。後者の場合、連続相液への分散相液のコンタミ抑制のため、マイクロ流路チップへの接続部までの共用のラインを洗浄する工程を含んでいることが好ましい。また、ピペットを含まない分注手段として、外力によって、相液を保持した容器から直接保持部に各液体を添加(滴下)する方法も好ましい(例えば、容器の熱圧着した部位を圧力によって破断させ容器内の液体を押し出す手段など)。また、例えばTRC反応やPCR反応を行う場合、水溶液サンプルの精製手段や調製手段として分注手段を併用してもよい。
【0104】
(分散相液流路)
分散相液流路は、分散相液保持部とエマルジョン形成部とを接続している。分散相液流路は、分散相液がその中を通るように構成されている。
【0105】
分散相液流路の寸法は、使用する分散相液の種類及び特性などに応じて適宜設定することができる。分散相液流路は、例えば、10~500μm、又は50~200μmの幅を有することができ、1mm~500mm、又は10~200mmの長さを有することができる。また、分散相液流路は、1~200μm、又は10~100μmの流路高さを有することができる。分散相液流路は、1つ以上の場所で屈曲してもよく、蛇行形状を有してもよい。
【0106】
(連続相液保持部)
連続相液保持部は、エマルジョンを生成/保持するための連続相液を保持する部分である。連続相液保持部は、導入口であってよく、連続相液保持部を介して、液体をマイクロ流路チップに導入することができる。連続相液保持部の構造は、連続相液を保持することができれば特に限定されない。連続相液保持部は、穴部又はウェルであってよく、例えば垂直方向に延在する穴部又はウェルであってよく、この穴部又はウェル内に連続相液を供給し、かつ保持することができるようになっている。連続相液保持部は、例えば、直径0.1mm~20mmの穴部又はウェルであってよい。
【0107】
なお、連続相液は、一般に表面張力及び粘性が小さい液体を使用するため、連続相液保持部における界面形状の変化に伴う表面張力の変化量は小さい。したがって、連続相液保持部の形状は、送液に大きな影響を与えない。加えて、本発明において例えばエマルジョンを保持し検出反応などを行う場合、連続相液保持部の連続相液が枯渇しないように十分な量の連続相液を供給するため、送液中に保持部の連続相液の残量が少なくなり界面形状が変化しやすい状況になることもない。したがって、やはり、連続相液保持部の形状は、送液に大きな影響は与えにくい。
【0108】
(連続相液流路)
連続相液流路は、連続相液保持部とエマルジョン形成部とを接続している。連続相液流路は、連続相液がその中を通るように構成されている。
【0109】
連続相液流路の寸法は、使用する連続相液の種類及び特性などに応じて適宜設定することができる。連続相液流路は、例えば、10~500μm、又は50~200μmの幅を有することができ、1mm~500mm、又は10~200mmの長さを有することができる。また、連続相液流路は、1~200μm、又は10~100μmの流路高さを有することができる。連続相液流路は、1つ以上の場所で屈曲してもよく、少なくとも部分的に蛇行形状を有してもよい。
【0110】
マイクロ流路チップは、2つ以上の連続相液流路を有することができる。特には、本発明に係るマイクロ流路チップが、第一連続相液流路及び第二連続相液流路を有しており、これらの流路が、それぞれ、連続相液保持部とエマルジョン形成部とを接続している。
【0111】
図14の例示的な実施態様を参照すると、連続相液流路111が2つの流路(第一連続相液流路112及び第二連続相液流路113)から構成されている。これら2つの流路112、113は、エマルジョン形成部120において互いに対向するようになっており、かつ、エマルジョン形成部120に接続している分散相液流路114及び115が合流する分散相液合流部に対して実質的に直交するようになっている。図14の実施態様では、第一連続相液流路112と第二連続相液流路113とが、実質的に同一の構造及び流路長を有しており、それにより、それぞれの流路を移動する連続相液の速度が、実質的に同一となるようになっている。また、上述のようにエマルジョン生成前における分散相液同士の混合を抑制したい場合、分散相液合流部の下流部とエマルジョン形成部120とを連結する流路の長さは比較的短い方が好ましく(例えば、3mm以下、より好ましくは0.5mm以下)、流路内で分散相液が別々に層流状態を保っているのが好ましい。
【0112】
(エマルジョン形成部)
エマルジョン形成部(「エマルジョン形成部」ともいう)は、液滴を生成するように構成されている。エマルジョン形成部は、分散相液流路及び連続相液流路を介して、それぞれ分散相液及び連続相液の供給を受ける。また、エマルジョン形成部は、エマルジョン供給流路に接続されており、エマルジョン形成部で生成されたエマルジョンが、エマルジョン供給流路に送られる。
【0113】
エマルジョン形成部は、分散相液流路へと開く1又は複数の開口部、及び、連続相液流路へと開く1又は複数の開口部を有することができる。また、エマルジョン形成部は、エマルジョン供給流路へと開く1又は複数の開口部を有することができる。
【0114】
図14の例示的な実施態様を参照して、エマルジョン形成部について説明する。図14のエマルジョン形成部120では、2つの流路112、113から構成される連続相液流路111と、2つの分散相液流路114及び115が合流する分散相液合流部とが、実質的に直交している。陰圧の適用の間に、連続相液が、2つの互いに実質的に対向する方向からエマルジョン形成部120へと流入し、かつ、分散相液が、連続相液の流入方向に対して実質的に直交する方向でエマルジョン形成部120に流入する。その結果、エマルジョン形成部120において、連続相に分散した液滴(すなわちエマルジョン)が生成される。このようにして生成されたエマルジョンが、エマルジョン供給流路130を通って、気体で充填されているエマルジョン保持流路140に進入する。
【0115】
エマルジョン形成部は、T-janction、Flow-Focus、co-flow、step-emulsificationなどの一般的な液滴生成法を利用した流路を適宜用いることができる。迅速にエマルジョンを生成するために、複数のエマルジョン形成部を並列して配置してもよい。また、エマルジョン中の液滴を攪拌させるための蛇行流路などを備えていてもよい。
【0116】
(エマルジョン供給流路)
エマルジョン供給流路は、生成されたエマルジョン(液滴及び連続相)が輸送される流路である。本発明に係る1つの態様では、エマルジョン供給流路は、エマルジョン形成部とエマルジョン保持流路とを接続する。エマルジョン供給流路のうちエマルジョン形成部に隣接する部位は、好ましくは、分散相液流路(特には分散相液合流部)に対向するように配置される。図14は、そのような態様のエマルジョン供給流路を示している。また、図14では、エマルジョン供給流路のうちエマルジョン形成部に隣接する部位が、連続相液流路のエマルジョン形成部への流入部に対して、実質的に直交している。図14の場合、エマルジョンが生成される際に、分散相液流路からエマルジョン形成部に流入してくる分散相液が液滴となり、そのまま流れの角度を変えずに、エマルジョン供給流路に進入する。
【0117】
エマルジョン供給流路は、エマルジョン形成部に隣接する部位の下流側(排出口の方向)で、拡張した幅及び/又は高さを有する流路を有することができ、かつ/又は蛇行していることができる。このような態様によれば、液滴中での攪拌を促進することができるので、好ましい。
【0118】
(エマルジョン保持流路)
本発明に係る1つの実施態様では、マイクロ流路チップが、エマルジョン保持流路(「エマルジョン保持流路」ともいう)を有する。エマルジョン保持流路は、エマルジョン供給流路を介してエマルジョン形成部に接続しており、エマルジョン形成部で生成されたエマルジョンを保持する機能を有している。また、エマルジョン保持流路は、随意に排出口連通流路を介して、排出口に接続されている。
【0119】
エマルジョン保持流路の幅及び長さは、保持する液滴の体積・数等に合わせて適宜設定することができ、例えば、幅と長さとがほぼ同等の幅広い単純な流路にしてもよく、連続した単一の長い流路を蛇行状又は渦巻き状に配列させてもよく、分岐させた直線流路を並行させてもよい。
【0120】
本発明において、エマルジョン保持流路の流路断面は、液滴の中心が流路の中心に沿って流れやすいため、円状、半円状、楕円状、凸型、凹型、長方形、台形が好ましい。
【0121】
エマルジョン充填法では、一般に、エマルジョン保持流路内の気液界面の移動を制御することでエマルジョン生成と保持を同時に行うため、送液中の気液界面の形状が維持される(移動しながらもその形状に変化が小さい)ように、流路断面形状が一定で屈曲の無い直線流路であることが望ましい。しかし、検出液滴数を増加させるために流路高さに対して流路幅を極端に大きくすると、意図した流路構造を有するチップを安定して製造するのが難しく、かつ/又は、流路の底面及び/若しくは上面が変形して流路側面から遠い流路領域の高さが送液圧やチップへの固定圧などによって変化して測定に悪影響を及ぼす可能性がある(ルーフコラップス)。対策として、例えば、流路高さに対する流路幅の比は、100以下、より好ましくは50以下、25以下、特に好ましくは10以下であるのが好ましい(下記のピラーが無い場合)。あるいは、流路中央に柱(ピラー)を設けることで、流路高さに対する、柱同士の間隔及び/又は柱と流路側面の間隔の比が、例えば、100以下、より好ましくは50以下、25以下、特に好ましくは10以下であるのが好ましい。一方で、イメージセンサなどによる一括検出処理を行う場合、エマルジョン保持流路が水平面で(例えば正方形や円形に近い形で)密にパッケージされていると、検出液滴数を増加させられるため好ましい。よって、同じ流路断面形状の連続した単一の長い流路を蛇行状又は渦巻き状に配列させてもよく、分岐させた直線流路を並行させてもよい。この場合、屈曲部が存在するため送液中に界面形状が変化しやすいが、屈曲部における断面形状を調整することでその影響を低減することが可能である。
【0122】
1つの実施態様では、保持されているエマルジョンに対して検出処理を行うことが意図されている。すなわち、エマルジョン保持流路に保持されたエマルジョンに対して、随意に、後述する検出処理を行うことができる。
【0123】
好ましくは、エマルジョン保持流路は、保持されているエマルジョンの大部分又は全部がマイクロ流路チップの外部雰囲気(特には外部大気)に触れないように、構成されている。好ましくは、エマルジョン保持流路に保持されている液滴のうち、検出処理の対象となっている液滴が、外部雰囲気(特には外部大気)に触れないようになっている。このために、例えば、エマルジョン保持流路の流路長を比較的長く設定し、エマルジョン保持流路の下流側末端部にのみでエマルジョンが外部雰囲気(特には外部大気)と接触しうるようにすることができる。
【0124】
好ましくは、エマルジョン保持流路に保持されるエマルジョンが、外部雰囲気(特には外部大気)に対して密封されるようになっている。
【0125】
好ましくは、エマルジョン保持流路は、エマルジョン保持流路に保持されているエマルジョンに対して検出処理を行うことに適している。
【0126】
好ましくは、エマルジョン保持流路は、外部大気に開放されていないエマルジョンに対して検出処理を行うことができるように構成されている。より具体的には、例えば、保持されているエマルジョンと検出手段との間に、エマルジョンを外部大気から隔離する構造が存在する。この構造は、例えば、光を透過する材料でできている。なお、この場合、エマルジョン保持流路に保持されているエマルジョンのうち、検出処理の対象とならないエマルジョン、例えばエマルジョン保持流路の排出側末端部に位置するエマルジョンが、外部大気に開放されていてもよい。
【0127】
好ましくは、エマルジョン保持流路の流路体積が、エマルジョン形成部で生成される液滴の合計体積以上(特には、検出処理において検出の対象となる液滴の合計体積以上)であり、かつ/又は、エマルジョン保持流路の流路体積が、1μL以上、5μL以上、若しくは10μL以上である。このようなエマルジョン保持流路によれば、検出処理を効率的に行うことができる。なお、エマルジョン保持流路の流路体積の上限は、例えば、1000μL以下であってよい。
【0128】
好ましくは、エマルジョン保持流路が、平均体積0.1nL~10nL、特には0.3~3nLの液滴の液滴を、500個以上、1000個以上、2500個以上、5000個以上、若しくは10000個以上、かつ/又は100000個以下、80000個以下、60000個以下、若しくは40000個以下、保持することができる流路体積を有する。エマルジョン保持流路に保持されたこれらの液滴に対して、検出処理を行うことができる。
【0129】
なお、液滴の平均体積は、デジタルカメラなどの画像取得装置を用いて明視野画像を取得し、取得された画像においてN=10以上の液滴に関して下記に基づいて算出することができる。
【0130】
球状の液滴の体積、及びディスク状の液滴の体積(それぞれVdrop及びVdisk[nL])は、それぞれ、下記の式(1)と式(2)で表わされる。なお、下記式(1)及び式(2)におけるDdrop、Ddiskは、それぞれ、マイクロ流路チップの通常の使用状態において、エマルジョン保持流路に保持されている液滴を上方から観察した場合の、球状の液滴の直径、及びディスク状の液滴の直径である。また、式(2)中、hは、エマルジョン保持流路の流路高さである。
【0131】
【数1】
【0132】
【数2】
【0133】
好ましくは、検出処理で使用される(カメラなどの)検出手段に対して、検出対象となるエマルジョン中の液滴が互いに重ならないようになっており、特には、検出方向に直交する平面で単層を形成している。この場合には、検出精度をさらに向上させることができる。
【0134】
特に好ましくは、エマルジョン保持流路の「流路高さ」が調節されており、それにより、マイクロ流路チップの使用状態において、エマルジョン保持流路に保持される液滴が垂直方向で互いに重ならない(すなわち、単一の液滴層が形成される)ようになっている。このようなエマルジョン保持流路で検出処理を行う場合には、検出精度がさらに向上する。なお、「流路高さ」は、通常、マイクロ流路チップの使用状態において、垂直方向(鉛直方向)での流路の長さである。
【0135】
好ましくは、エマルジョン保持流路の流路高さが、検出処理において検出の対象となる液滴の直径に応じた寸法を有することが好ましく、例えば、液滴の直径の1/10倍~10倍、1/4倍~4倍、又は1/2倍~2倍の流路高さを有することが好ましい。また、エマルジョン保持流路の流路高さは、流路幅の1/4倍以下であってよい。なお、流路の幅は、通常、マイクロ流路チップの使用状態において流路の長さ方向に直交する水平方向での長さである。液滴の直径は、流路の幅方向で計測することができる。
【0136】
また、エマルジョン充填法では、エマルジョン形成における連続相液と分散相液の流量比に依存してエマルジョン保持流路にエマルジョンが充填されるため、例えば、エマルジョン形成を安定させるため、分散相液に対する連続相液の流量比を大きくした場合、液滴を水平方向に密にパッケージするため流路高さを通常よりも大きく設計した方が好ましい。例えば、分散相液に対する連続相液の流量比が8~12である場合、エマルジョン保持流路の高さを、液滴の直径の2~4倍にすることができる。
【0137】
(送液の停止)
エマルジョン保持流路内にエマルジョンを保持するためには、例えば、エマルジョン保持流路内に所望の量のエマルジョンが充填された時点で、送液を停止し、かつ随意に排出口を閉じる。排出口を外部大気に(少なくとも部分的に)開放することによって、陰圧の適用を停止することもできる。送液の停止は、エマルジョン保持流路を充填していた気体がエマルジョンで完全に置換されてから行うこともできるが、好ましくは、エマルジョン保持流路を充填していた気体がエマルジョンで完全に置換されない間に送液の停止を行う。換言すると、流路内又は排出口内に気体―エマルジョン界面が存在する状態で、送液を停止させる。
【0138】
(排出口)
排出口は、エマルジョン供給流路、又は、随意の構成要素であるエマルジョン保持流路に接続する。また、排出口は、マイクロ流路チップに陰圧を適用するための陰圧源接続部としても機能しうる。
【0139】
好ましくは、排出口が、陰圧源と接続することに適しているように構成されている。この場合、排出口が、印加される圧力に対する耐性を有することがより好ましい。
【0140】
通常、排出口は、エマルジョン供給流路の下流側に位置し、又は、随意の構成要素であるエマルジョン保持流路の下流側に位置する。排出口がエマルジョン保持流路の下流側に位置する場合、この排出口に陰圧を適用することによって、エマルジョン保持流路の全長又は大部分を、生成されたエマルジョンで充填することができる。
【0141】
(送液)
本発明に係る1つの実施態様では、排出口への陰圧の適用によって、エマルジョン形成部において、分散相液から構成される液滴及び連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンを生成し、このようにして生成されたエマルジョンを、エマルジョン供給流路に輸送する。エマルジョン保持流路を有する態様では、このようにして生成されたエマルジョンを、エマルジョン供給流路を介して、随意の構成要素であるエマルジョン保持流路に輸送する。
【0142】
排出口に陰圧を適用して送液を行っている間に、分散相液保持部及び連続相液保持部は、外部雰囲気(特には外部大気)に開放されていることができる。
【0143】
なお、排出口に陰圧を適用して送液を行っている間に、各保持部を常圧にしている方が、装置の簡便性の観点からは好ましいが、陰圧の送液を安定化させるため、かつ/又はエマルジョンの保持のための密閉操作を兼ねるために、非常圧状態に圧力制御してもよい。
【0144】
陰圧の適用に関して、例えば、圧力タンク又はシリンジポンプを用いて、排出口を介して流体(気体又は連続相液)を吸引することができる。
【0145】
陰圧源として圧力タンクを用いる場合、圧力タンクの体積は、排出口から圧力タンクまでの流路の体積及びマイクロ流路チップの流路の体積の合計よりも大きいことが好ましい。圧力タンクは、外部雰囲気(外部大気)に開放しうるような設計とすることもできる。また、圧力タンクは例えば、ポンプで圧力タンク内の圧力を制御すると好ましい。また、圧力タンク内の圧力値をモニタリングできるように圧力センサを設けても良い。
【0146】
適用された陰圧の圧力値をモニタリングするための監視手段を用いて、送液状態の確認、例えばエマルジョンが問題なく生成しているかどうかを確認することができる。
【0147】
本発明に係る1つの実施態様では、排出口に陰圧制御手段が流体接続されており、陰圧制御手段が、陰圧源、接続部及び弁から構成されており、陰圧源が、一定の陰圧に制御されており、かつ、この弁が、陰圧源と接続部との間に配置されている。接続部を介して、陰圧制御手段を、排出口に接続することができる。この態様によれば、弁を開放することによって瞬時に陰圧を適用することができるので、陰圧の適用のタイミングをより正確に制御することが可能となる。
【0148】
弁の具体的態様については特に制限はない。送液停止時の逆流を防止するという観点からは、弁の開閉時の流路における圧力変動を抑制できるもの、例えば開閉動作が比較的遅いものが好ましい。弁は、例えば三方弁であってよく、マイクロ流路チップを陰圧源(例えば圧力タンク)及び外部雰囲気(特には外部大気)のいずれかに接続することができるようになっていてもよい。
【0149】
(マイクロ流路チップの設置)
マイクロ流路チップは、鉛直方向(天地方向)に水平に設置するのが一般的であるが、エマルジョンの保持等の観点から、一定方向に意図的に傾斜を設けて設置しても良い。例えば、連続相液が分散相液よりも比重が大きい場合(例:フッ素系分散剤を連続相液、水溶液を分散相液として使用)、液滴は比重差によって浮力を有するため、エマルジョン保持流路から液滴が流出しにくいように、意図的に傾斜を設けてマイクロ流路チップを設置しても良い。
【0150】
<検出処理>
マイクロ流路チップ中の液体、特にはエマルジョン中の液滴に対して、検出処理を行うことができる。検出処理は、例えば、液体(特には液滴)中での標的物質の反応、及び当該反応の検出(例えば反応生成物の検出)を含む。エマルジョン保持流路を有する態様では、検出処理は、通常、エマルジョン保持流路に保持されたエマルジョン中の液滴に対して行われる。
【0151】
標的物質(特には標的分子)としては、核酸、タンパク質、ペプチド、酵素、細胞、細菌、胞子、ウイルス、オルガネラ、高分子アセンブリ、薬物候補、脂質、炭水化物、代謝物、又はこれらの任意の組合せが挙げられる。
【0152】
標的物質の反応は、特に限定されない。標的物質の反応としては、酵素反応が挙げられ、より具体的には、キナーゼ、ヌクレアーゼ、ヌクレオチドシクラーゼ、ヌクレオチドリガーゼ、ヌクレオチドホスホジエステラーゼ、(DNA又はRNA)ポリメラーゼ、プレニルトランスフェラーゼ、ピロホスパターゼ、レポーター酵素、逆転写酵素、トポイソメラーゼ等を用いた酵素反応が例示できる。標的分子がDNAやRNAなどの核酸であり、標的分子の反応が当該核酸の増幅反応である場合、LAMP法、NASBA法、TMA法、TRC法といった核酸を等温増幅可能な反応が挙げられる。また、ワンステップRT-PCRの場合、逆転写反応に適した温度で液滴を作製することは、逆転写反応の反応効率、反応時間において好ましい。また、逆転写反応による生成物であるcDNAをサイクリングプローブ法により検出することも可能である。
【0153】
反応を行う場合、2種以上の反応液をエマルジョン形成部の上流(例えば分散相液合流部)で混合し、この混合物を用いて液滴を生成することが好ましい。なお、本発明において、反応液とは、標的物質及び標的物質を反応させるのに必要な成分のうち、少なくとも一部を含んだ溶液のことをいう。全ての反応液が混合することで標的物質の反応に必要な成分全てが揃えばよく、標的物質はいずれかの反応液に含まれていればよい。反応液は3種以上であっても問題はない。
【0154】
例えば、標的物質が特定配列を含む核酸(DNA、RNA)であり、標的物質の反応がこの特定配列を増幅させる反応である場合、反応液に含まれる成分としては、特定配列の一部と相同的な配列を含むプライマー、特定配列の一部と相補的な配列を含むプライマー、特定配列の一部と相同的又は相補的な配列を含む検出用プローブ、ポリメラーゼ、ヌクレオチド、塩類、及び緩衝液成分があげられる。なお、反応液内で、標的分子、反応基質、酵素などが分解、変質、非特異反応が生じないように組成が工夫されていることが好ましく、装置内での挙動を考慮して、グリセロール、界面活性剤などをさらに添加してもよい。
【0155】
(検出手段)
反応の検出のために、例えば、反応による生成物を検出可能な検出手段を用いることができる。
【0156】
検出方法は、反応生成物に応じて適宜適切な方法を選択することができ、例えば、光学的、X線、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)、FCS(蛍光相関分光法)、FP(蛍光偏光)/FCS、蛍光法、比色分析、化学ルミネセンス、生物発光、散乱、表面プラズモン共鳴、電気化学法、電気泳動、レーザー、質量分光測定、ラマン分光法、FLIPR(MolecularDevices社)など公知の方法を用いて検出することができる。なお、透過光を用いて検出する場合は、光を透過する材料でマイクロ流路チップを作製すると、マイクロ流路チップを光学検出器に載置するのみで、チップ内の液滴を移動させることなく反応生成物を検出できる点で好ましい。
【0157】
反応生成物の検出に用いる検出手段(検出器)として、標的物質の反応を記録・測定するためのイメージングセンサ及び随意にその構成部品を用いることができる。検出の一例として、検出対象となる個々のシグナルを空間的に分解するのに適切な照明及び解像度を有するカメラ又はイメージング装置があげられる。カメラ又はイメージング装置としては、公知のものを利用することができ、例えばカメラは、電荷結合素子(CCD)、電荷注入装置(CID)、フォトダイオードアレイ(PDA)又は相補型金属酸化物半導体(CMOS)を含む任意の一般的な半導体イメージセンサを使用することができる。また、検出の際、励起/放射された光の偏光を使用することによって改善することができる。例えば、蛍光シグナルを発する液滴を検出する場合、その検出領域を大きな視野を持つ光学ユニットによって一括で撮影することで、迅速かつハイスループットなシグナル検出を行なうことが可能になる。
【0158】
〈その他〉
(温調手段)
温調手段は、マイクロ流路チップ内の液体を標的物質の反応に適した温度に保つ役割を有する。温調手段はマイクロ流路チップと近接(好ましくは密着)可能な形状であればよく、必ずしも平板状である必要はない。
【0159】
温調手段のうち、少なくともマイクロ流路チップと近接(好ましくは密着)する部分は、熱伝導性の高い金属材料で作製することが好ましい。なお、基材と上部構造体とを貼り合わせてマイクロ流路チップが作製されている場合、温調手段に接する基材及び/又は上部構造体の厚さを薄くすると、マイクロ流路チップに設けた流路への熱伝導をより効率的に行なえるので、好ましい。温調手段は、少なくとも、標的物質の反応場であるエマルジョン保持流路を温調できればよいが、相液供給部及び流路も温調できると、標的分子の非特異的反応を抑制できる点で好ましい。具体例として、標的物質の反応が核酸増幅反応の場合、各保持部や流路における温度を、エマルジョン保持流路における標的物質の反応温度よりも高くなるよう、温調手段で温調することで、プライマー/プローブ同士の非特異的なアニールを低減することができる。また、マイクロ流路チップの底面を温調手段によって反応温度に加熱し、かつ光を透過する材料でマイクロ流路チップ上面基板を作製し上面から透過光検出を行う場合、各相液供給前の空のマイクロ流路チップの位置並びに/又は流路構造及び/若しくはチップ内外のゴミの評価、各相液を供給する際の流路内の挙動並びに/又は送液中のエマルジョン生成の挙動の評価、並びに反応中のエマルジョンのシグナル検出結果を利用したデジタル検出の定量上限の向上を装置上簡便に行えるため好ましい。
【実施例0160】
以下で、実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、これらの記載に限定されない。
【0161】
≪実施例1≫
<マイクロ流路チップの作製>
フォトリソグラフィー及びソフトリソグラフィー技術を用いて、マイクロ流路チップを作製した。具体的な手順を以下に示す。
【0162】
(1)4インチベアシリコンウェハ(フィルテック社)上へ、フォトレジストSU-8 3050(Microchem社)を滴下後、スピンコーター(MIKASA社)を用いてフォトレジスト薄膜を形成した。
【0163】
(2)マスクアライナー(ウシオ電機社)と、マイクロ流路チップの流路パターンを形成したクロムマスクとを用いて、流路パターンをフォトレジスト膜へ形成させた後、SU-8 Developer(Microchem社)を用いて流路パターンを現像することで、マイクロ流路チップを構成する流路の鋳型を作製した。
【0164】
(3)SU-8への吸着を抑えるために、Trichloro(1H,1H,2H,2H-perfluoro-octyl)silane(Thermo Fisher Scientific社)による蒸着表面処理を行なった。
【0165】
(4)上記(3)の処理を行なった鋳型へ、SYLGARD SILICONE ELASTOMER KIT(東レ・ダウコーニング社)を用いて調製した未硬化のシロキサンモノマーと重合開始剤との混合物(重量比10:1)を流し込み、80℃で2時間加熱することで、流路の形状が転写されたポリマー(PDMS)基板を作製した。
【0166】
(5)得られたポリマー基板を鋳型から慎重に剥がし、カッターで成形後、パンチャーを用いて、分散相液保持部及び連続相液保持部、並びに排出口を形成した。
【0167】
(6)保持部及び排出口を形成したポリマー基板並びにカバーガラス(松浪硝子社)を酸素プラズマ発生装置(メイワフォーシス社)で表面処理後、PDMS基板のパターン面とカバーガラスとを貼り合わせた。作製したチップは、デシケーター内に保存した。
【0168】
作製したマイクロ流路チップは、縦34mm×横75mmの大きさであり、分散相液保持部としてはφ4mmの穴を、連続相液保持部としてはφ8mmの穴を、排出口としてはφ1.5mmの穴を、それぞれ有していた。
【0169】
(流路構造)
実施例で使用したマイクロ流路チップは、2つの分散相液保持部、(第一分散相液流路、第二分散相液流路、及び分散相液合流部を有する)分散相液流路、連続相液保持部、2つの連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン供給流路、エマルジョン保持流路、及び排出口を有していた。2つの分散相液保持部が、第一又は第二分散相液流路を介して、エマルジョン形成部に接続しており、連続相液保持部が、2つの連続相液流路を介して、エマルジョン形成部に接続しており、エマルジョン形成部が、エマルジョン供給流路を介して、エマルジョン保持流路に接続しており、エマルジョン保持流路が、排出口に接続していた。
【0170】
したがって、実施例で使用したマイクロ流路チップは、エマルジョン供給流路及びエマルジョン保持流路が、図11及び12で示す構造を有している以外は、図14で示す流路構造を有していた。
【0171】
マイクロ流路チップの流路構造の詳細は、下記のようなものであった。
【0172】
第一分散相液流路及び第二分散相液流路は高さ80μm、幅100μm、長さ30mmの蛇行を含む流路であり、分散相液合流部で合流し、80μmの流路幅に狭窄され、エマルジョン形成部に合流する。
【0173】
2つの連続相液流路はそれぞれ屈曲部を二箇所有した高さ80μm、幅100μm、長さ30mmの直線流路であり、エマルジョン形成部において、分散相液合流部と2つの連続相液流路とが角度90度で十字に交差しており、反応液と非混和性液体(オイル)とが合流し、液滴を形成するようになっている。
【0174】
エマルジョン供給流路は、エマルジョン形成部に近接する部分で高さ80μm×幅80μm×長さ100μm、その下流部分で高さ80μm×幅200μm×長さ680μmの直線流路であり、さらにその下流部分では高さ80μmでR275μmの円弧曲線で構成された蛇行を含めた幅200μm×長さ11.5mmの撹拌用流路であり、エマルジョン保持流路に連結する。エマルジョン供給流路の送液方向とエマルジョン保持流路の送液方向の成す角度は90°を成している。
【0175】
エマルジョン保持流路は、流路高さ200μm、幅2mm、長さ350mmの蛇行流路であり、幅2mm、長さ10mmの排出口連通流路を介して、排出口に直接つながっている。エマルジョン保持流路の体積は、91μLであった。エマルジョン保持流路は、エマルジョン供給流路に対して、左右それぞれの方向についての拡張角度が90°を成している。
【0176】
エマルジョン貯留部は、流路高さ200μm又は80μm(エマルジョン誘導部)であり、幅及び高さ方向に1.0mm程度の面積を有する。エマルジョン貯留部の一部はエマルジョン誘導部の一部を形成しており、流路高さ80μmの領域(エマルジョン誘導部)の天井面と流路高さ200μmの領域の天井面とが略直角で段差構造を形成している。
【0177】
エマルジョン誘導部は、流路高さ80μmで、幅及び高さ方向に1.4mm程度の面積を有し、エマルジョン保持流路内の流路高さ200μmの領域の天井面と略直角で段差構造を形成している。エマルジョン供給流路の開口部付近に気液界面が維持されやすいように、エマルジョン供給流路開口部からエマルジョン供給流路の送液方向に30μm離れた位置に上述の段差構造を有し、この段差構造とエマルジョン保持流路の送液方向に対して逆方向の拡張流路側方壁面が形成する誘導領域が、流路高さ80μm、幅30μm、100μmの長さで、エマルジョン貯留部のエマルジョン誘導部に接続されている。
【0178】
(気泡除去に関する評価)
上記の実施例に係るマイクロ流路チップを用いて、気泡除去性を調べた。
【0179】
具体的には、マイクロ流路チップの流路が気体で充填されている状態において、連続相液保持部に連続相液を供給すると、連続相液流路の分岐構造に連続相液が充填される過程や、2つの連続相液流路がエマルジョン形成部で合流する過程において、高い確率で気泡が発生することによって、エマルジョン供給流路に供給されるエマルジョンの先端部分が気泡を含有する。そして外部駆動力無しでエマルジョン供給流路からエマルジョン保持流路にエマルジョンが供給される。その際にマイクロ流路チップの上面から観察した連続写真を、図13(A)~図13(E)に示す。
【0180】
具体的には、デジタルCMOSカメラ(ORCA-FLASH(商品名)、浜松フォトニクス社)を用いて、エマルジョン保持流路にエマルジョンが充填される様子を明視野画像として取得した。図13は、タイムラプス画像であり、図13(A)~図13(E)の順番で時間が経過している。
【0181】
図13(A)は、気体が充填された状態のエマルジョン供給流路130及びエマルジョン保持流路140を示している。ここで、このエマルジョン保持流路140は、エマルジョン流入口よりも上流側のエマルジョン貯留部142、及びエマルジョン流入口の近傍に存在するエマルジョン誘導部144を有している。
【0182】
図13(B)は、液滴211及び気泡220を有するエマルジョン210が、エマルジョン供給流路130からエマルジョン保持流路140に流入している様子を示している。ここでは、エマルジョン210がエマルジョン誘導部144に沿って、エマルジョン流入口よりも上流側のエマルジョン貯留部142に向かって流動していることが示されている。
【0183】
図13(C)は、エマルジョン中に存在していた気泡が、エマルジョン保持流路140のエマルジョン流入口付近で気液界面に衝突して除去された様子を示している。
【0184】
図13(D)及び(E)は、気泡を有さないエマルジョンがエマルジョン保持流路140を満たしていく様子を示している。
【0185】
以上のとおり、実施例では、エマルジョンの先端部分に存在していた気泡を、エマルジョン保持流路のエマルジョン流入口付近で気液界面に衝突させて除去することができた。
【符号の説明】
【0186】
10 マイクロ流路チップ
101 連続相液保持部
102 第一分散相液保持部
103 第二分散相液保持部
111 連続相液流路
112 第一連続相液流路
113 第二連続相液流路
114 第一分散相液流路
115 第二分散相液流路
120 エマルジョン形成部
130 エマルジョン供給流路
140 エマルジョン保持流路
142 エマルジョン貯留部
144 エマルジョン誘導部
150 排出口
210 エマルジョン
211 エマルジョン液滴
220 気泡
W マイクロ流路チップの幅方向
L マイクロ流路チップの長さ方向
エマルジョン保持流路の上流方向
エマルジョン保持流路の下流方向
エマルジョン保持流路の幅方向
エマルジョン保持流路の高さ方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16