(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005807
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】電極フィルム原反、電極、電極積層体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20250109BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20250109BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20250109BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250109BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20250109BHJP
H01G 11/28 20130101ALI20250109BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0562
H01M10/0565
H01M10/052
H01M10/0585
H01G11/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106185
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】ZACROS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【弁理士】
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】米田 拓生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 龍一
(72)【発明者】
【氏名】東倉 充
(72)【発明者】
【氏名】安藤 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】平田 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】林 勉
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AB06
5E078BA05
5E078BA12
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029AM12
5H029AM16
5H029BJ12
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050DA02
5H050FA02
5H050GA07
5H050HA00
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】電極の材料として用いられる新規な電極フィルム原反を提供する。また、このような電極フィルム原反を材料として用いる電極及び電極積層体を提供する。
【解決手段】接着層と、接着層と積層し、正極活物質を含む正極活物質層と、を有し、接着層は、粒子状の導電材と、バインダーとを含み、バインダーは、粘度平均分子量が100万以上である第1ポリイソブチレンと、粘度平均分子量は1万以上10万以下である第2ポリイソブチレンと、含み、導電材は、炭素材料であり、接着層は、導電材とバインダーの合計100質量%に対し、導電材を15質量%以上25質量%以下、第1ポリイソブチレンを25質量%以上50質量%以下、第2ポリイソブチレンを30質量%以上60質量%以下含む電極フィルム原反。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着層と、
前記接着層と積層し、正極活物質を含む正極活物質層と、を有し、
前記接着層は、粒子状の導電材と、バインダーとを含み、
前記バインダーは、粘度平均分子量が100万以上である第1ポリイソブチレンと、粘度平均分子量は1万以上10万以下である第2ポリイソブチレンと、含み、
前記導電材は、炭素材料であり、
前記接着層は、前記導電材と前記バインダーの合計100質量%に対し、前記導電材を15質量%以上25質量%以下、前記第1ポリイソブチレンを25質量%以上50質量%以下、前記第2ポリイソブチレンを30質量%以上60質量%以下含む電極フィルム原反。
【請求項2】
下記測定方法で求めた破断強度が0.4MPa以上であり、前記破断強度を示すときの伸び率が3%以上7%以下である請求項1に記載の電極フィルム原反。
(測定方法)
前記電極フィルム原反を幅15mm、長さ50mmのサイズに切削して得た試験片を、チャック間距離を30mm、引張速度を100mm/minとした条件で測定したときの、最大応力の75%の強度を破断強度とする。
【請求項3】
前記接着層は、下記測定方法で求めた破断強度が0.3MPa以上であり、前記破断強度を示すときの伸び率が30%以上である請求項1又は2に記載の電極フィルム原反。
(測定方法)
前記電極フィルム原反を幅15mm、長さ50mmのサイズに切削して得た試験片を、チャック間距離を30mm、引張速度を100mm/minとした条件で測定したときの、最大応力の75%の強度を破断強度とする。
【請求項4】
前記接着層は、下記測定方法で行う90°剥離試験における接着強度が0.05N/cm以上である請求項1又は2に記載の電極フィルム原反。
(測定方法)
前記電極フィルム原反から切り出した幅15mm、長さ50mmの試験片の前記接着層側の面を、幅15mm、長さ60mmのAl箔の中央に貼合する。前記試験片の前記接着層側とは反対側に前記試験片よりも長い紙テープを貼合した後、前記試験片から突出した前記紙テープを把持して前記紙テープごと前記試験片を20mm/minの速度で90°剥離したときの強度を測定する。同じ測定を3回行い、測定値の算術平均値を接着強度とする。
(貼合条件)
圧力8.6kg/cm、速度1m/min、25℃環境下でロール貼合。
【請求項5】
前記接着層に剥離フィルムが積層された請求項1又は2に記載の電極フィルム原反。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の電極フィルム原反を材料とする電極。
【請求項7】
請求項6に記載の電極と、
集電箔、セパレータ及び固体電解質膜からなる群から選ばれるいずれか1つと、が積層する電極積層体。
【請求項8】
請求項6に記載の電極と、
前記電極の第1の面に積層する第1部材と、
前記電極の第2の面に積層する第2部材と、を有し、
前記第1部材及び前記第2部材はそれぞれ、集電箔、セパレータ及び固体電解質膜からなる群から選ばれるいずれか1つである電極積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極フィルム原反、電極及び電極積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電源として用いられる二次電池の重要度が増している。二次電池は、携帯型電子機器の電源のような小型のものから、電気自動車や家庭用蓄電池のような中型、大型のものまで活発に研究開発が成されている。
【0003】
二次電池は、活物質を含む一対の電極と、電極間に配置される電解質とを有する。一対の電極には、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極とを含む。これらの電極として、正極活物質または負極活物質を含む活物質層と、導電性に優れた集電体とが積層した構成が知られている。
【0004】
上記活物質層は、粉末状の活物質と、バインダーとを溶剤に分散させてスラリー状の合剤を調製し、得られた合剤を集電体上に塗工し、プレス加工することにより形成する。活物質層と集電体との積層体は、所望の電池形状に切削され、電極として用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、電極を作製するためには、合剤の調整、合剤の塗工、乾燥、プレス加工等の多段階の加工を要する。二次電池の製造工程を簡略化し、製造コストを低減するために、材料面からの工夫の余地がある。
【0007】
同様の課題は、二次電池に限らず、キャパシタのような他の電気化学素子においても生じ得る。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、電極の材料として用いられる新規な電極フィルム原反を提供することを目的とする。また、このような電極フィルム原反を材料として用いる電極及び電極積層体を提供することを併せて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、十分な機械強度を有することで、集電体を用いることなく電極として使用可能な特性を有する材料を実現できれば、より効率的な電気化学デバイスの設計や、集電体への合剤の塗工等の工程を省略できると考えた。また、当該材料がフィルム形状とすることにより、フィルム(電極フィルム原反)を切削し、電池要素に貼り付けることで、電気化学デバイスを容易に製造可能と考えられる。
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、以下の態様を包含する。
【0011】
[1]接着層と、前記接着層と積層し、正極活物質を含む正極活物質層と、を有し、前記接着層は、粒子状の導電材と、バインダーとを含み、前記バインダーは、粘度平均分子量が100万以上である第1ポリイソブチレンと、粘度平均分子量は1万以上10万以下である第2ポリイソブチレンと、含み、前記導電材は、炭素材料であり、前記接着層は、前記導電材と前記バインダーの合計100質量%に対し、前記導電材を15質量%以上25質量%以下、前記第1ポリイソブチレンを25質量%以上50質量%以下、前記第2ポリイソブチレンを30質量%以上60質量%以下含む電極フィルム原反。
【0012】
[2]下記測定方法で求めた破断強度が0.4MPa以上であり、前記破断強度を示すときの伸び率が3%以上7%以下である[1]に記載の電極フィルム原反。
(測定方法)
前記電極フィルム原反を幅15mm、長さ50mmのサイズに切削して得た試験片を、チャック間距離を30mm、引張速度を100mm/minとした条件で測定したときの、最大応力の75%の強度を破断強度とする。
【0013】
[3]前記接着層は、下記測定方法で求めた破断強度が0.3MPa以上であり、前記破断強度を示すときの伸び率が30%以上である[1]又は[2]に記載の電極フィルム原反。
(測定方法)
前記電極フィルム原反を幅15mm、長さ50mmのサイズに切削して得た試験片を、チャック間距離を30mm、引張速度を100mm/minとした条件で測定したときの、最大応力の75%の強度を破断強度とする。
【0014】
[4]前記接着層は、下記測定方法で行う90°剥離試験における接着強度が0.05N/cm以上である[1]から[3]のいずれか1項に記載の電極フィルム原反。
(測定方法)
前記電極フィルム原反から切り出した幅15mm、長さ50mmの試験片の前記接着層側の面を、幅15mm、長さ60mmのAl箔の中央に貼合する。前記試験片の前記接着層側とは反対側に前記試験片よりも長い紙テープを貼合した後、前記試験片から突出した前記紙テープを把持して前記紙テープごと前記試験片を20mm/minの速度で90°剥離したときの強度を測定する。同じ測定を3回行い、測定値の算術平均値を接着強度とする。
(貼合条件)
圧力8.6kg/cm、速度1m/min、25℃環境下でロール貼合。
【0015】
[5]前記接着層に剥離フィルムが積層された[1]から[4]のいずれか1項に記載の電極フィルム原反。
【0016】
[6][1]から[5]のいずれか1項に記載の電極フィルム原反を材料とする電極。
【0017】
[7][6]に記載の電極と、集電箔、セパレータ及び固体電解質膜からなる群から選ばれるいずれか1つと、が積層する電極積層体。
【0018】
[8][6]に記載の電極と、前記電極の第1の面に積層する第1部材と、前記電極の第2の面に積層する第2部材と、を有し、前記第1部材及び前記第2部材はそれぞれ、集電箔、セパレータ及び固体電解質膜からなる群から選ばれるいずれか1つである電極積層体。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電極の材料として用いられる新規な電極フィルム原反を提供することができる。また、このような電極フィルム原反を材料として用いる電極及び電極積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本実施形態の電極フィルム原反1を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の電極フィルム原反2を示す模式図である。
【
図3】
図3は、電極積層体100を示す模式図である。
【
図4】
図4は、電極積層体150と、電極積層体150を有するセル500と、を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
《電極フィルム原反、電極》
図1は、本実施形態の電極フィルム原反1を示す模式図(断面図)である。本実施形態の電極は、電極フィルム原反1を材料とする。
【0022】
用語「電極フィルム原反」とは、電極に加工する前のフィルム状の成形体を指す。典型的には、電極フィルム原反は、帯状に形成された長尺の成形体、又はこのような帯状成形体を枚葉加工して得られるシート状の成形体である。
【0023】
図1に示す電極フィルム原反1は、両面から剥離フィルム10で挟持されている。剥離フィルム10としては、離型処理がなされたPETフィルムなど、公知の材料を採用可能である。
【0024】
なお、
図1の電極フィルム原反1は、両面に剥離フィルム10を有するが、接着層11のみに剥離フィルム10を有する構成とすることもできる。
【0025】
電極フィルム原反1は、接着層11と正極活物質層12との積層体である。電極フィルム原反1は、集電体を有さない。
【0026】
電極フィルム原反1は、(a)接着性を有する、(b)自立する、(c)電極として使用可能である、という特徴的な機能を有する。
【0027】
(a)接着性を有する
「接着性」とは、接着剤や粘着剤を別途用いることなく、自身の表面の性質により、他の部材に貼り合わせ可能である性質を意味する。電極フィルム原反1は、所望の形状に切削し電極に加工した後、例えば固体電解質の板材に貼り合わせることで、固体電池の電極として機能する。
【0028】
(b)自立する
電極フィルム原反1は、所望の形状に切削することで、電極に加工することができる。電極フィルム原反1を、そのまま電極としてもよい。得られる電極は、基材等の付属物を有することなく切削した形状を保つことができる。このような性質を有することを、本明細書では「自立する」「自立型」と称することがある。言い換えると、電極フィルム原反1は、支持無く存在可能な剛性を有する。
【0029】
(c)電極として使用可能である
電極フィルム原反1は、所望の形状に切削することで、二次電池やキャパシタと言った電気化学デバイスの電極として用いることができる。本明細書において、電極フィルム原反1が電極として使用可能であることは、SOC(State of Charge)-OCV(Open Circuit Voltage)値により判断する。
【0030】
(a)(c)の機能を有する電極フィルム原反1を切削して得られた電極は、電気化学デバイスの部材に貼り合わせる作業を簡略化することができ、二次電池、キャパシタ等の電気化学デバイスの部材に貼り合わせるだけで、これらの電気化学デバイスの電極として用いることができる。また、(b)の機能を有することで、自立し(自立型電極であり)容易に加工することができる。
【0031】
以下、電極フィルム原反1の各構成について順に説明する。
【0032】
[電極フィルム原反の構成]
電極フィルム原反1は、接着層11と正極活物質層12との積層構造を有する。詳しくは後述するが、一例として、電極フィルム原反1は、接着層11に対応するフィルムと、正極活物質層12に対応するフィルムとを積層することで製造できる。
【0033】
(接着層)
接着層11は、粒子状の導電材と、バインダーと、を有する。接着層11は、さらに正極活物質を有していてもよい。
【0034】
接着層11は、正極活物質層12と比べ、相対的に高い接着力を有する。また、接着層11は、積層体である電極フィルム原反1の機械的強度を担保するために、正極活物質層12よりも相対的に高強度である。
【0035】
このような物性を実現するため、接着層11を構成するバインダーは、粘度平均分子量が100万以上である第1ポリイソブチレンと、粘度平均分子量は1万以上10万以下である第2ポリイソブチレンと、を含む。詳細には、接着層は、導電材とバインダーの合計100質量%に対し、導電材を15質量%以上25質量%以下、第1ポリイソブチレンを25質量%以上50質量%以下、第2ポリイソブチレンを30質量%以上60質量%以下含む。
【0036】
接着層11において、導電材は15質量%以上30質量%以下が好ましい。
【0037】
接着層11において、第1ポリイソブチレンは28質量%以上48質量%以下が好ましく、30質量%以上45質量%以下がより好ましい。
【0038】
接着層11において、第2ポリイソブチレンは33質量%以上58質量%以下が好ましく、35質量%以上55質量%以下がより好ましい。
【0039】
第1ポリイソブチレンの粘度平均分子量は、100万以上1000万以下であると好ましく、100万以上500万以下であるとより好ましい。このようなポリイソブチレンとしては、市販のポリイソブチレン(例えば、BASF社製、型番N150、粘度平均分子量2600000(メーカ公称値))を採用することができる。
【0040】
第2ポリイソブチレンの粘度平均分子量は、1万以上10万以下であると好ましく、1万以上5万以下であるとより好ましい。このようなポリイソブチレンとしては、市販のポリイソブチレン(例えば、ENEOS社製、型番6T、粘度平均分子量30000(メーカ公称値))を採用することができる。
【0041】
バインダーとして、第1ポリイソブチレンと第2ポリイソブチレンとの混合物と同等の分子量を有する第3のポリイソブチレンを用いた場合を想定する。このような第3のポリイソブチレンは、第1ポリイソブチレンよりも粘度平均分子量が小さく、且つ第2ポリイソブチレンよりも粘度平均分子量が大きいものであるが、発明者らの検討により、第3のポリイソブチレン(バインダー)と導電材とを混練した場合、導電材が分散しにくく導電材が凝集してしまうことを確認した。
【0042】
対して、バインダーが粘度平均分子量の異なる第1ポリイソブチレンと第2ポリイソブチレンとの混合物であることにより、バインダーと導電材とを混練した場合、導電材の分散を促進することができる。
【0043】
導電材は、粒子状を呈し、接着層内に分散して存在している。接着層が有する導電材は、炭素材料である。
【0044】
炭素材料としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、炭素繊維、活性炭、カーボンナノチューブ(CNT)等の公知の材料を挙げることができる。
【0045】
炭素材料としては、市販のアセチレンブラック(例えば、Alfa Aesar社製、型番45527)や、市販のケッチェンブラック(例えば、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製、型番EC600JD)を採用することができる。
【0046】
導電材としては、体積平均粒子径0.1~100μmのものが用いられる。
【0047】
接着層11には、発明の効果を損なわない範囲において、他のバインダーを含むこととしてもよい。他のバインダーとしては、後述する正極活物質層を構成するバインダーを挙げることができる。
【0048】
(正極活物質層)
正極活物質層12は、正極活物質と、バインダーとを含む。
【0049】
(活物質)
活物質としては、二次電池の正極活物質、キャパシタの正極活物質として知られた粉末状の物質を用いることができる。
【0050】
二次電池としてリチウムイオン二次電池を採用する場合、リチウムイオン二次電池の正極活物質としては、リチウムとコバルト、マンガン、ニッケル等の遷移金属との複合酸化物、Li貯蔵能を持つポリマーなどから選択される少なくとも1種が挙げられる。リチウムイオン二次電池の正極活物質としては、リチウムイオンを可逆的にドープ・脱ドープできる化合物であればよい。
【0051】
例えば、正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO4)、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、Ni-Mn-Co三元系(NMC系)活物質(LiNixMnyCozO2)、Ni-Co-Al三元系(NCA系)活物質(LiNixCoyAlzO2)等を挙げることができる。
【0052】
リチウムイオン二次電池用の活物質としては、体積平均粒子径0.1~100μmのものが用いられる。
【0053】
キャパシタとしてリチウムイオンキャパシタを採用する場合、リチウムイオンキャパシタの正極活物質としては、活性炭等の炭素系材料、Li貯蔵能を持つポリマーが挙げられる。リチウムイオンキャパシタの正極活物質としては、リチウムイオンを可逆的にドープ・脱ドープできるものであればよい。
【0054】
リチウムイオンキャパシタの活物質としては、体積平均粒子径0.1~100μmのものが用いられる。
【0055】
(バインダー)
正極活物質層12は、正極活物質層12のみで自立しない公知の正極活物質層であってもよい。この場合、正極活物質層12のバインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を採用することができる。
【0056】
また、正極活物質層12は、以下のバインダーを有することで自立可能な層であってもよい。
【0057】
バインダーは、活物質等の粒子の結着に用いられる材料であって、例えば樹脂が用いられる。バインダーとしては、電極材料として上記目的に用いられる公知の熱可塑性樹脂を採用することができる。
【0058】
バインダーの機能としては、上述の「活物質等の粒子の結着」の他、(i)電極フィルム原反に高強度を付与する、(ii)電極フィルム原反から作製した電極を他の部材に接着しやすくする、(iii)その他の物性調整、が挙げられる。(ii)は、「自立型電極」に求められる上記(a)(c)の機能を有するために必須ではないが、上記(b)の機能の実現のためには重要である。それぞれ、(i)の機能を特に強く有するバインダーを「高強度バインダー」、(ii)の機能を特に強く有するバインダーを「接着性バインダー」、(iii)を「その他バインダー」として説明する。
【0059】
なお、本実施形態の電極フィルム原反1においては、接着層11が上記(ii)の機能を担っている。ここでは、正極活物質層12を構成するバインダーが上記接着性バインダーを含むことで、正極活物質層側の面で他の部材に接着しやすくなることを説明する。
【0060】
((i)高強度バインダー)
高強度バインダーとして、エラストマーを用いることができる。エラストマーとしての性質を有するバインダーは、電極に柔軟性及び強度を付与することができ、電極使用時の活物質の体積変化に起因した破損を抑制することができる。
【0061】
高強度バインダーとしては、5MPa以上の破断強度を有することが望ましい。また、高強度バインダーは、電気化学素子(電池、キャパシタ)の内部において、電解液に対して安定であることが求められ、且つ電気化学的に安定であることが求められる。
【0062】
例えば、電気化学素子としてリチウムイオン電池を採用し、電極フィルム原反1を切削して得られた電極を用いる場合、高強度バインダーは、上記電極から、電池内に充填する電解液に溶出しないことが求められる。また、上記電極を正極に用いる場合、高強度バインダーは、3~5V(vs.Li/Li+)において酸化分解しないことが求められる。
【0063】
高強度バインダーの引張強度は、後述する破断強度の測定方法により測定した値を採用する。
【0064】
上記バインダーとして、スチレンと共役ジエンとを含む共重合体を用いることができる。このような共重合体としては、
・スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)
・スチレン-イソプレン共重合体
・スチレン-ブタジエン-メチルメタクリレート共重合体(MBS)
・アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体(ABS)
・アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン-メチルメタクリレート共重合体(MABS)
・カルボキシ変性スチレンブタジエンゴム
・スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)
・スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)
・スチレン-イソプレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SIBS)
が挙げられる。
【0065】
上記共重合体は、共重合可能な他のビニル系モノマーが共重合していてもよい。
【0066】
ビニル系モノマーとしては、
・アルキルアクリレート等のアクリレート系モノマー
・アルキルメタクリレート等のメタクリレート系モノマー
・アルコキシアクリルアミド等のアクリルアミド系モノマー
・アルコキシメタクリルアミド等のメタクリルアミド系モノマー
・アクリル酸等のカルボン酸系モノマー
・アクリロニトリル等のニトリル系モノマー
・酢酸ビニル等のビニルエステル系モノマー
・塩化ビニル等のハロゲン化ビニル系モノマー
・アリルアクリレート等の多官能系モノマー
が挙げられる。
これらのビニル系モノマーは、上記共重合体に1種が共重合していてもよく、2種以上が共重合していてもよい。
【0067】
((ii)接着性バインダー)
接着性バインダーとして、反応性官能基やアンカー効果を有する樹脂材料を用いることができる。反応性官能基としては、水酸基(-OH)、カルボキシ基(-COOH)を挙げることができる。電極フィルム原反がこのようなバインダーを含むと、電極フィルム原反から得られる電極を他の部材に貼合する際、反応性官能基が貼合面で反応し、接着強度を高めることが期待できる。
【0068】
また、電極フィルム原反が接着性バインダーを含むことにより、電極フィルム原反から製造する自立型電極が、上記(ii)の機能を発現しやすくなる。
【0069】
接着性バインダーは、電気化学的に安定であり、その他の部材、特に電解液にさらされても接着性を有することが望ましい。
【0070】
例えば、電気化学素子としてリチウムイオン電池を採用し、電極フィルム原反1を切削して得られた電極を用いる場合、接着性バインダーは、上記電極から、電池内に充填する電解液に溶出しないこと、及び、電解液に曝されても反応性官能基が失活しにくいことが求められる。
【0071】
上記電極を正極に用いる場合、接着性バインダーは、3~5V(vs.Li/Li+)において還元分解しないことが求められる。
【0072】
このようなバインダーとしては、カルボキシメチルセルロース(CMC)系バインダー、ポリアクリル酸(PAA)系バインダー、ビニルアルコール系バインダー、エポキシ系バインダーから選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0073】
また、接着性バインダーとして、ポリイソブチレン(PIB)を用いることもできる。
【0074】
((iii)その他バインダー)
さらに併用可能なバインダーとして、アクリレート系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、ポリイミド系バインダーを例示することができる。これらのバインダーにより電極として不足する機能を補うことが出来る。例えば、(i)高強度バインダーは電気化学的に不活性であると考えられ、活物質を(i)高強度バインダーで完全に覆ってしまうと、活物質の電気化学反応が生じず、且つ電極の抵抗が増大すると考えられる。対して、上述のような(iii)その他バインダーを併用することにより、不活性バインダーで活物質を覆うことによる抵抗の増大を抑制することが考えられる。
【0075】
上記(i)~(iii)のバインダーの配合は、目的とする物性に応じ、次の指針に基づいて調整する。
【0076】
(i)高強度バインダーは、主として電極(電極フィルム原反)において活物質をつなぎとめる役割を担う。そのため、(i)高強度バインダーの量は、用いる活物質の量に応じて正の相関を持って調整する。
【0077】
また、(i)高強度バインダーは、活物質に対する使用量が増えると電極に柔軟性及び強度を付与することができる。さらに、(i)高強度バインダーは、接着性を示すものもある。
【0078】
(ii)接着性バインダーは、電極フィルム原反に接着性を付与する。電極の接着性は、単位面積(単位体積)あたりに存在する、接着性を示すバインダーの量によって定まるため、(ii)接着性バインダーの使用量が増えると、電極の接着性が向上する。
【0079】
(iii)その他バインダーは、必要に応じて電極として不足する機能を補うために添加する。
【0080】
さらに、正極活物質層12は、上述の活物質およびバインダーのほか、物性調整のため必要に応じて、導電材等の添加物を含有してもよい。導電材としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、炭素繊維、活性炭、金属粉、導電性ポリマー等から選択される少なくとも1種が挙げられる。導電材は、活物質のような活性を有する必要はなく、電極の内部における導電性を向上させる材料であればよい。
【0081】
また、電極フィルム原反を構成する混合物は、カーボンナノチューブ(CNT)を含んでいてもよい。CNTを添加した電極フィルム原反では、破断強度の向上と、導電性の向上とが期待できる。
【0082】
(電極フィルム原反)
電極フィルム原反1の厚さは、1μm以上1000μm以下であると好ましい。
【0083】
接着層11は、電極フィルム原反1の10体積%以上20体積%以下であるとよい。また、正極活物質層12は、電極フィルム原反1の80体積%以上90体積%以下であるとよい。
【0084】
上述のような構成の接着層11は、正極活物質12よりも相対的に変形しやすく伸びやすい。そのため、電極フィルム原反1に応力を加えた場合、正極活物質層12であれば破断するほどの応力を加えた場合であっても、接着層11が破断することなく、電極フィルム原反1の全体の形状を保つ(自立する)ことができる。
【0085】
上記電極フィルム原反1は、上記(a)接着性を有する、(c)電極として使用可能である、という機能を発現するために、以下の要件(1)、(3)を満たすとよい。さらに、電極フィルム原反は、上記(b)自立する、という機能を発現するために、以下の要件(2)を満たすとよい。
【0086】
(要件(1))
電極フィルム原反1の接着層11は、90°剥離試験における接着強度が0.05N/cm以上である。要件(1)を満たす電極フィルム原反1は、上述の「(a)接着性を有する」との特徴を有する。
【0087】
(接着強度の測定方法)
電極フィルム原反から切り出した幅15mm、長さ50mmの試験片の接着層側を、幅15mm、長さ60mmのAl箔の中央に貼合する。貼合は、下記条件で行う。
(貼合条件)
圧力8.6kg/cm、速度1m/min、25℃環境下でロール貼合。
【0088】
詳細には、電極フィルム原反を幅50mm、長さ150mmに切削し、幅60mm、長さ200mmのAl箔に上記貼合条件で貼合する。得られた積層体の短手方向の寸法を維持したまま、長手方向に複数に切削し、幅15mm、長さ60mm(元のAl箔の幅)のAl箔に、幅15mm、長さ50mm(元の電極フィルムの幅)が積層された積層体を得る。積層体について、試験片の接着層側とは反対側に試験片よりも長い紙テープを貼合する。紙テープは、試験時の牽引により接着層が伸びることを抑制し、適切に接着強度を測定するために用いる。用いる紙テープは、目的に応じて適切な剛性のものを選択するとよい。
【0089】
得られた積層体をAl箔側から直径11cmのリングコアに貼り付け、試験片から突出した紙テープを把持して紙テープごと電極フィルム部分を20mm/minの速度で引っ張ることで、90°剥離試験を行う。接着強度は、金属箔から電極フィルムの剥離を進行させたときの剥離力(N)の大きさを、電極フィルムの幅(cm)で除した値(N/cm)として求めることができる。
【0090】
剥離試験を3回行い、3回の測定値の算術平均値を接着強度として採用する。
【0091】
以上のように、剥離試験にて接着強度を求め、要件(1)を満たすか否かを判断することができる。
【0092】
接着層がこのような接着強度を有することにより、電極フィルム原反から得られる電極を他部材に貼り合わせ易く、自重で剥離することが抑制される。そのため、後の組み立て工程が容易となる。また、貼り合わせた電極が剥離し難く、得られる電気化学デバイスの信頼性が向上する。
【0093】
混合物全体に対するバインダーの割合は、形成する電極フィルム原反に求められる物性に応じて調整するとよい。電極フィルム原反から製造する電極について、セパレータ等の他の部材に対する接着力を重視する場合には、上記範囲内でバインダーの含有率を高めるとよい。また、電極の電気特性を重視する場合には、上記範囲内でバインダーの含有率を下げるとよい。
【0094】
(要件(2))
上述したように、電極フィルム原反1は、「(2)自立する」という特徴を有すると好ましい。このような剛性を有する電極フィルム原反1は、下記測定方法で求めた破断強度が0.4MPa以上であり、且つ破断強度を示すときの伸び率が3%以上7%以下である。
【0095】
(破断強度、伸び率の測定方法)
電極フィルム原反を幅15mm、長さ50mmのサイズに切削して得た試験片を、チャック間距離を30mm、引張速度を100mm/minとした条件で測定したときの、最大応力の75%の強度を破断強度とする。
【0096】
また、伸び率は、破断強度を示すときの試験片のチャック間距離から、下記式(1)より求める。
伸び率(%)=(L1-L0)/L0×100 …(1)
L0:チャック間距離の初期値(30mm)
L1:破断強度を示すときのチャック間距離
【0097】
試験片が破断したときの引張力(N)の大きさを最大応力とし、最大応力の75%の応力を求める。75%の応力(N)を、引張方向と直交する仮想面における試験片の断面積(mm2)で除した値(N/mm2=MPa)を破断強度として求める。
【0098】
測定を3回行い、3回の算術平均値を破断強度として採用する。
【0099】
電極フィルム原反がこのような破断強度を有することにより、電極フィルム原反から切削される電極を自立させることができる。電極を自立させることにより、後の組み立て工程において、電極の取扱いが容易になる。
【0100】
破断強度は、0.6MPa以上が好ましく、0.7MPa以上がより好ましい。また、破断強度は高いほど破損し難いため好ましいと言えるが、10MPa以下であればよく、5MPa以下であってもよい。
【0101】
また、電極フィルム原反1は、充放電時の体積変化に対抗し、正極としての形状、性能を維持するという特徴を有する。電極フィルム原反1が破断強度を示すときの伸び率が3%以上であることにより、充放電時の正極活物質の体積変化による劣化を生じにくく、電極フィルム原反から切削される正極の性能を維持しやすい。
【0102】
測定を3回行い、3回の算術平均値を伸び率として採用する。
【0103】
伸び率は、4%以上が好ましく、5%以上がより好ましい。
【0104】
さらに、接着層は、上記(破断強度、伸び率の測定方法)に記載の方法でもとめた破断強度が0.3MPa以上であり、且つ破断強度を示すときの伸び率が30%以上であると好ましい。
【0105】
接着層の破断強度は、0.6MPa以上が好ましく、0.7MPa以上がより好ましい。また、破断強度は高いほど破損し難いため好ましいと言えるが、10MPa以下であればよく、5MPa以下であってもよい。
【0106】
接着層の伸び率は、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましい。また、接着層の伸び率は、600%以下であればよく、500%以下であってもよい。
【0107】
接着層が正極活物質を含むことにより、接着層にも正極活物質層としての機能を一部担わせることができる。一方で、接着層の伸び率は、接着層が正極活物質を含むことにより低下する傾向がある。そのため、接着層に正極活物質が含まれる場合、正極活物質を含有させることの技術的な意味を持たせるためには、伸び率が150%以下となる程度にまで正極活物質を含有させることが好ましい。
【0108】
(要件(3))
上述したように電極フィルム原反1は、「(c)電極として使用可能である」という特徴を有する。上述したように、電極フィルム原反1が電極として使用可能であることは、SOC-OCV値により判断する。
【0109】
(測定用コインセルの作製)
コイン型電池R2032用の下蓋に、電極フィルム原反から作製した試験極を配置する。試験極の上にセパレータ(セルガード社製、セルガード2300)を配置した後、電解液(LiPF6の1mol/L溶液)を注入する。電解液の溶媒には、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを1:1:1(体積比)で混合した混合溶媒を用いる。
【0110】
セパレータの上に対極(金属リチウム)を配置し蓋をした後、12時間静置して電解液を全体に浸漬させることにより、リチウム二次電池(測定用コインセル)を作製する。
【0111】
(SOC-OCV値の測定方法)
電極フィルム原反から作製した試験極に含まれる活物質量を算出し、活物質の理論容量と、活物質量とから、試験極の理論容量(mAh/g)を求める。
次いで、測定用コインセルについて、0.1Cで30分充電と、5分間休止とを1回として、同じ操作を合計22回繰り返す。
電圧が0.05Vに達したときまでの充電回数を、SOC-OCV値とする。
【0112】
本明細書においては、上記方法で測定したSOC-OCV値が18回以上であるとき、電極として十分使用可能であると判断する。
【0113】
電極フィルム原反がこのようなSOC-OCV値を示すことにより、電極フィルム原反から得られる電極は電池として十分機能する。
【0114】
さらに電極フィルム原反1は、体積抵抗値が80mΩ以下であると好ましい。電極フィルム原反1の電気抵抗は、以下の方法で測定することができる。
【0115】
(体積抵抗値の測定方法)
まず、一対のCuブロックの主面同士を重ね合わせて2kgの加重をかけ、0点校正を行う。Cuブロックは、30×30mmの主面を有し、厚さ20mmのものを用いる。
【0116】
次いで、一対のCuブロックの主面間にAl箔で挟持した電極フィルム原反の試験片を挟み込み、2kgの加重をかける。試験片及びAl箔は、平面視においてCuブロックの主面と同じ30×30mmとする。
【0117】
次いで、2分後の抵抗を測定し、試験片の電気抵抗とする。電気抵抗は、例えば、バッテリハイテスタ(型番:BT3562。日置電機株式会社製)を用いて測定する。
【0118】
異なる電極フィルム原反同士の体積抵抗値を比較する際には、比較対象である試験片の厚さは同じとしておく。電極フィルム原反の厚さは、後述する製造方法において記載の方法で制御できる。
【0119】
正極活物質を含むスラリーを対象物(例えば集電体)の上に塗工し、塗膜を圧縮することで正極活物質層を形成する場合、正極活物質層と対象物との界面は十分に密着すると考えられ、界面抵抗は十分に低いと考えられる。一方、本願発明のように、自立した接着層を介して正極活物質層を対象物に貼合する場合、上述した塗膜と比べると接着層と対象物との界面の密着が不足し、界面抵抗が大きくなりやすい。また、正極活物質層と接着層との界面についても、界面抵抗の原因となることが考えられる。
【0120】
そのため、本願発明においては、上記方法により電気抵抗を測定し、体積抵抗値が80mΩ以下であることにより、十分に小さい界面抵抗を実現していると判断する。
【0121】
[電極フィルム原反の製造方法]
電極フィルム原反は、上述の混合物を溶媒に溶解または分散させたスラリー(塗料)を、支持体上に塗布し、溶媒を除去することにより接着層11に対応するフィルム、正極活物質層12に対応するフィルムをそれぞれ製造し、得られたフィルム同士を積層することで製造することができる。
【0122】
溶媒は、少なくともバインダーを溶解させる溶媒を用いる。溶媒としては、炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アミド系溶媒、ハロゲン系溶媒、硫黄系溶媒、無機系溶媒等が挙げられる。
【0123】
炭化水素系溶媒としては、ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0124】
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0125】
エーテル系溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。
【0126】
ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
【0127】
エステル系溶媒としては、酢酸エチル、乳酸エチル等が挙げられる。
【0128】
アミド系溶媒としては、ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。
【0129】
ハロゲン系溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン等が挙げられる。
【0130】
硫黄系溶媒としては、ジメチルスルホキシド、スルホラン等が挙げられる。
【0131】
無機系溶媒としては、水が挙げられる。
【0132】
上記溶媒は、1種のみ用いてもよく、2種以上を混合した混合溶媒を用いてもよい。
【0133】
塗料を調製する方法は特に限定されないが、活物質、バインダー、任意に添加される添加物等を、1種ずつ、又は2種以上を同時に溶媒と混合し、溶媒に溶解または分散させればよい。
【0134】
溶媒に対する固形分(活物質、バインダー、任意に添加される添加物)の添加順には制限はない。可溶成分を溶媒に溶解させた溶液に不溶成分を添加して、不溶成分を溶液に分散させてもよい。また、不溶成分を溶媒に分散させた分散液に可溶成分を添加して、可溶成分を分散液に溶解させてもよい。
【0135】
スラリー又は溶液を調製した後にさらに溶媒を添加して、塗料の粘度を調整してもよい。
【0136】
脱泡、ろ過等の処理により、塗料の状態を調整してもよい。消泡剤、粘度調整剤、増粘剤、希釈剤、界面活性剤、安定剤等の添加物を塗料に添加してもよい。
【0137】
塗料を塗布する方法は、特に限定されないが、ブレードコート、ディップコート、スプレーコート、バーコート、ダイコート等が挙げられる。
【0138】
塗料の塗布対象物(支持体)は、離形処理された樹脂フィルムが好ましい。支持体は、帯状の長尺のものであってもよく、長尺の支持体を枚葉加工して得られる小型のシートであってもよい。
【0139】
塗料を塗布して形成された塗膜から溶媒を除去することにより、接着層11に対応するフィルム、正極活物質層12に対応するフィルムを形成することができる。溶媒は、加熱、減圧、送風及びこれらの組み合わせにより除去することができる。
【0140】
乾燥後の塗膜を、プレス加工してもよい。例えば、乾燥後の塗膜をプレス機等で圧縮することにより、電極に含まれる活物質、導電材等の粒子の接触状態を改善することができる。
【0141】
得られたフィルム同士(接着層11に対応するフィルム、正極活物質層12に対応するフィルム)を積層することで、電極フィルム原反を製造することができる。積層時には、プレス加工を行うとよい。
【0142】
支持体として帯状の長尺のものを用いた場合、電極フィルム原反は、ロール状に巻き取って保管、輸送してもよく、さらに枚葉加工を施し、複数枚のシート状の電極フィルム原反としてもよい。
【0143】
このようにして、電極フィルム原反1が得られる。
【0144】
図2は、本実施形態の電極フィルム原反2を示す模式図である。
図2に示す電極フィルム原反2は、接着層21と、正極活物質層22と、機能層25とを有する。電極フィルム原反2も、両面から剥離フィルム10で挟持されている。接着層21及び正極活物質層22は、それぞれ上述の接着層11、正極活物質層12と同様の構成とすることができる。
【0145】
なお、
図2の電極フィルム原反2は、両面に剥離フィルム10を有するが、接着層21のみに剥離フィルム10を有する構成とすることもできる。
【0146】
電極フィルム原反2は、集電体を有さない。
【0147】
接着層21及び正極活物質層22を構成する混合物は、上述の電極フィルム原反1を構成する混合物と同じものを採用することができる。
【0148】
機能層25は、正極活物質層22の接着層21と反対側の面に接して設けられている。機能層25としては、電極の機能を改善する目的で付属される層であれば特に限定されない。機能層25としては、例えば、放熱層、平坦化層、応力緩和層、密着層等が挙げられる。
【0149】
電極フィルム原反2は、上述の電極フィルム原反1と同様の方法で、電極フィルム原反1に該当する接着層21及び正極活物質層22を作製した後、正極活物質層22の表面に機能層25を作製することで製造できる。機能層25は、公知の材料を用い、公知の方法により適宜製造することができる。
【0150】
以上のような構成の電極フィルム原反によれば、電極の材料として用いられる新規な電極フィルム原反を提供することができる。
【0151】
また、以上のような構成の電極は、十分な接着力を有し、電池組み立て時の取り扱いが容易なものとなる。
【0152】
[電極積層体]
図3は、電極積層体100を示す模式図(断面図)である。電極積層体100は、電極110と、集電箔、セパレータ及び固体電解質膜からなる群から選ばれるいずれか1つの層120と、が積層する積層体である。電極110は、上述の電極フィルム原反1から作製した電極と同じ構成を有し、接着層11と正極活物質層12との積層体である。電極110は、接着層11において層120に接着している。
【0153】
電極積層体100を電池又はキャパシタに組み込む場合、電極110は正極として機能する。以下、電極110を正極110と記載する。
【0154】
層120がセパレータである場合、正極110とセパレータとの電極積層体100は、主として電解液を用いる電気化学デバイスに用いられる。
【0155】
セパレータは、正極と負極との間を絶縁し、電極の機能に必要なイオン透過性を有する材料である。セパレータとしては、特に限定されず公知の樹脂フィルム、多孔質膜などを用いることができる。
【0156】
樹脂フィルムとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオレフィン、アラミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルスルホン等が挙げられる。イオン透過性を付与するため、樹脂フィルムを多孔性としてもよい。
【0157】
多孔質膜としては、織布、不織布、セルロース、セラミック等が挙げられる。
【0158】
層120が固体電解質膜である場合、正極110と固体電解質膜との電極積層体100は、電気化学デバイスの一種である全固体二次電池に用いられる。
【0159】
固体電解質膜は、通常知られた固体電解質を板状又は膜状に加工した部材である。固体電解質膜の材料としては、通常知られた無機系固体電解質、高分子系固体電解質のいずれも用いることができる。
【0160】
無機固体電解質としては、硫化物系無機固体電解質、酸化物系無機固体電解質、その他のリチウム系無機固体電解質のいずれも用いることができる。
【0161】
硫化物系無機固体電解質としては、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、Li2S-GeS2、Li2S-Al2S3、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-P2S5-GeS2、Li2S-Li2O-P2S5-SiS2、Li2S-GeS2-P2S5-SiS2、Li2S-SnS2-P2S5-SiS2等が挙げられる。
【0162】
酸化物系無機固体電解質としては、例えば、LiTi2(PO4)3、LiZr2(PO4)3、LiGe2(PO4)3等のNASICON型、(La0.5+xLi0.5-3x)TiO3等のペロブスカイト型等が挙げられる。
【0163】
その他のリチウム系無機固体電解質材料としては、例えば、LiPON、LiNbO3、LiTaO3、Li3PO4、LiPO4-xNx(xは0<x≦1)、LiN、LiI、LISICON等が挙げられる。
【0164】
高分子系固体電解質としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などのイオン伝導性を示す高分子材料が挙げられる。
【0165】
層120が集電箔である場合、正極110と集電箔との電極積層体100は、電気化学デバイスに広く用いられる。正極110と集電箔(層120)とを備える電極積層体100は、全体として電極(正極)の機能を有する。その場合、正極110は、正極活物質層12において層120に接着することとし、正極110の接着層11においてセパレータや固体電解質膜等に接着させてもよい。
【0166】
正極110は、正極活物質層12の表面に他の部材130を有してもよい。他の部材130としては、例えば電極表面を保護する保護膜が挙げられる。保護膜としては、電極の表面において活物質等の粒子の脱落や、電解質と電極との過剰な反応等から電極を保護することができる材料であれば特に限定されない。
【0167】
図4は、電極積層体150と、電極積層体150を有するセル500と、を示す模式図(断面図)である。電極積層体150は、上述の正極110と、正極110の第1の面110aに積層する第1部材120と、正極110の第2の面110bに積層する第2部材125と、を有する。
【0168】
第1部材120及び第2部材125は、それぞれ集電箔、セパレータ及び固体電解質膜からなる群から選ばれるいずれか1つであり、
図3の層120に対応する。ここでは、第1部材120は集電箔、第2部材は固体電解質膜であることとする。
【0169】
セル500は、2つの電極積層体150を有し、一方の電極積層体150Aの第2部材125と他方の電極積層体150Bの第1部材120との間に、負極111が挟持されている。また、電極積層体150Bの第2部材125には、負極111及び第1部材120(第1部材120B)がこの順に積層している。
【0170】
正極110及び負極111は、第1部材120、第2部材125と直接接していてもよく、間に他の部材を挟持していてもよい。他の部材としては、上述したものと同じものを採用できる。
【0171】
セル500は、第1部材120Aを正極側端子、第1部材120Bを負極側端子とするバイポーラ電池として機能する。
【0172】
このような構成のセル500において、正極110には、上述の電極フィルム原反から形成した電極(正極)を用いている。正極110は、(a)接着性を有する、(b)電極として使用可能である、という機能を有することから、電極フィルム原反から切り出して正極110を形成し、第1部材120又は第2部材125と重ねることで、容易に界面を接着させ、容易に積層させることができる。
【0173】
[電気化学デバイス]
電気化学デバイスは、上記電極積層体を有する。電気化学デバイスとしては、二次電池、キャパシタが挙げられる。
【0174】
二次電池としては、電池のセル、セルを複数接続して作製されたモジュール、モジュールを複数接続して作製されたパック等が挙げられる。電気化学デバイスの製品には、過充電、過放電等の異常を防止するためのセンサ、制御回路等を備えていてもよい。電池を電気的に外部と接続するため、電極にはリード(端子)が取り付けられてもよい。
【0175】
セパレータを有する電極積層体は、電解液を有する二次電池に用いられる。リチウムイオン二次電池の電解質としては、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した溶液が挙げられる。リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C4F9SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)2NLi等が挙げられる。非水系溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のカーボネート(炭酸エステル)が挙げられる。
【0176】
電気化学デバイスは、上記電極積層体を、他の必要な部材、例えば、セパレータ、他の電極(対極)等と組み合わせることにより作製することができる。対極は、本実施形態の電極と異なってもよい。
【0177】
電極積層体を収容する容器は、ラミネートフィルムや金属等から形成することができる。電極積層体は、容器内で平坦に配置されてもよく、湾曲、屈曲、巻回等された状態で収容されてもよい。
【0178】
[機器]
セルを複数接続することで、モジュールを作製することができる。モジュールを複数接続することで、パックを作製することができる。セル、モジュール、パック等の電池を用いて作製された機器としては、特に限定されないが、例えば、スマートフォン、携帯電話、コンピュータ、ディスプレイ等の電子機器、電気自動車、ハイブリッド自動車等の輸送機器が挙げられる。
【0179】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例0180】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0181】
(実施例1~4、比較例1~4)
実施例及び比較例で用いた各材料は以下の通りである。
【0182】
(バインダー)
N150:ポリイソブチレン、BASF社製、型番N150、粘度平均分子量2600000
6T :ポリイソブチレン、ENEOS社製、型番6T、粘度平均分子量30000
PVdF:ポリフッ化ビニリデン、Solvay社製、型番5130
【0183】
上記N150は、本発明における第1ポリイソブチレンに該当し、上記6Tは、本発明における第2ポリイソブチレンに該当する。
【0184】
(活物質(正極活物質))
NCM:Xiamen Tungsten Co., Ltd.(XTC社)製、型番HEC400
【0185】
(導電材)
AB:アセチレンブラック、Alfa Aesar社製、型番45527
KB:ケッチェンブラック、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製、型番EC600JD
【0186】
(接着層に対応するフィルムの製造)
各バインダーを溶媒に溶解して下記濃度の溶液とした。
N150:6質量%トルエン溶液
6T :24質量%トルエン溶液
PVdF:6質量%NMP溶液
【0187】
得られたバインダー溶液と導電材とを、バインダー換算で表1に示す割合で混合し、スラリー状態とした。さらにトルエンを加えて粘度調整を行った。さらに、一部の溶液に対しては、バインダーと導電材との総量に対して、表1に記載の割合で活物質を混合した。
【0188】
スラリーを脱泡処理し、目開き100μmの篩を通過させて接着層形成用の各塗料S1~S9を得た。
【0189】
離型処理がされたPETフィルムに、得られた塗料S1~S8をそれぞれ塗布した。塗料は、比重に応じて体積一定で塗布した。詳しくは、活物質が含まれない塗料S5~S8は、10g/m2(固形分)で塗布した。一方、活物質が含まれる塗料S1~S4は、20g/m2(固形分)で塗布した。
【0190】
得られた塗膜を90℃で5分加熱することで乾燥させた後、10μmのスペーサと共にプレスして厚さ調整を行い、接着層に対応するフィルムA1~A8を得た。
【0191】
【0192】
(正極活物質層に対応するフィルムの製造)
上述のPVdF溶液に、バインダー換算でバインダーと等量の導電材(AB)を混合し、スラリー状態とした。さらにトルエンを加えて粘度調整を行った。
【0193】
スラリーを脱泡処理し、目開き100μmの篩を通過させて正極活物質層形成用の塗料を得た。
【0194】
離型処理がされたPETフィルムに、得られた塗料を3mAh/cm2となるように塗布した。具体的には、目標とする電極の容量と、用いる活物質の比容量(単位:mAh/g)とから、活物質の単位面積当たり質量(塗布質量。単位:g/cm2)を算出して塗布した。塗膜を120℃で12分加熱することで乾燥させた。乾燥させた後、ロールプレス機で圧縮して密度を3.2g/cm3とし、正極活物質層に対応するフィルムを得た。正極活物質の量(質量)は、バインダーと導電材との総量100に対して、2400であった。
【0195】
(電極フィルム原反の製造)
上述の正極活物質層に対応するフィルムと、接着層に対応するフィルムとを組み合わせて積層し、実施例及び比較例の電極フィルム原反を作製した。電極フィルム原反においては、電極フィルム原反全体の厚さに対し、正極活物質層の厚さが80~90%、接着層の厚さが10~20%(正極活物質層+接着層=100%)であった。
【0196】
作製した接着層及び電極フィルム原反について、それぞれ物性値を測定した。
【0197】
[接着強度の測定]
上述の(接着強度の測定方法)に記載の方法で測定した。
【0198】
[破断強度の測定]
電極フィルム原反の破断強度及び伸び率、接着層の電極フィルム原反の破断強度及び伸び率は、上述の(破断強度、伸び率の測定方法)に記載の方法で測定した。
【0199】
[抵抗値の測定]
電極フィルム原反の抵抗値は、上述の(抵抗値の測定方法)に記載の方法で測定した。
【0200】
[SOC-OCV値の測定]
上述の(SOC-OCV値の測定方法)に記載の方法でSOC-OCV値を測定した。
【0201】
評価結果を表2、3に示す。表2はフィルムA1~A8の評価結果、表3は、フィルムA1~A8と正極活物質層とを組み合わせて得られた電極フィルム原反についての評価結果である。
【0202】
【0203】
【0204】
実施例1~4の電極は、いずれも常温において接着層が0.05N/cmを超える接着強度を示し、他部材に対して貼り合わせが容易であることが示唆された。また、実施例1~4の電極は、SOC-OCV値が18回以上であり、電極として使用可能であることが確認できた。
【0205】
さらに、実施例1~4の電極は、自立可能であることが確認できた。
【0206】
対して、比較例2の電極は、破断強度が小さく、自立が困難であることが分かった。
また、比較例1の電極は、常温での接着性が不足していた。
さらに,比較例3,4の電極は、SOC-OCV値が不足していた。接着層の抵抗が大きいことが原因と考えられる。
すなわち、比較例1~4の電極は、接着性を有する自立型電極とは言えず、本発明の課題を解決できないことが確認できた。
【0207】
以上の結果より、本発明は有用であることが分かった。
1,2…電極フィルム原反、10…剥離フィルム、11,21…接着層、12,22…正極活物質層、100,150,150A,150B…電極積層体、110…電極、110a…第1の面、110b…第2の面、120,120A,120B…第1部材、125…第2部材