(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025058135
(43)【公開日】2025-04-09
(54)【発明の名称】光ファイバ特性解析装置
(51)【国際特許分類】
G01D 5/353 20060101AFI20250402BHJP
G01K 11/322 20210101ALN20250402BHJP
G01L 1/24 20060101ALN20250402BHJP
【FI】
G01D5/353 B
G01K11/322
G01L1/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023168035
(22)【出願日】2023-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】高橋 央
(72)【発明者】
【氏名】古敷谷 優介
(72)【発明者】
【氏名】水野 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】大坪 謙太
(72)【発明者】
【氏名】清住 空樹
【テーマコード(参考)】
2F056
2F103
【Fターム(参考)】
2F056VF02
2F056VF11
2F103BA33
2F103CA07
2F103EB01
2F103EB11
2F103EB19
2F103EC09
2F103FA02
(57)【要約】
【課題】本開示は、ブリルアン光相関領域反射計において、可変遅延線を用いることなく、ブリルアン散乱を測定可能な位置を変更可能にすることを目的とする。
【解決手段】本開示は、ブリルアン光相関領域反射計を用いて被測定光ファイバのブリルアン散乱を解析する光ファイバ特性解析装置において、前記被測定光ファイバに入射する信号光を、周期性を有するノイズ波で周波数変調する、光ファイバ特性解析装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブリルアン光相関領域反射計を用いて被測定光ファイバのブリルアン散乱を解析する光ファイバ特性解析装置において、
周期性を有するノイズ波で周波数変調した信号光を、前記被測定光ファイバに入射する、
光ファイバ特性解析装置。
【請求項2】
前記ノイズ波の繰り返し周波数を変化させることで、前記被測定光ファイバの長手方向の測定位置を掃引する、
請求項1に記載の光ファイバ特性解析装置。
【請求項3】
前記信号光を2分岐する第1の光分岐手段を備え、
前記ノイズ波の繰り返し周波数は、前記第1の光分岐手段で2分岐された前記信号光の一方によって前記被測定光ファイバで生じたブリルアン散乱光と前記第1の光分岐手段で2分岐された前記信号光の他方との相関ピークの間隔が前記被測定光ファイバのファイバ長よりも長くなるような値に設定されている、
請求項1に記載の光ファイバ特性解析装置。
【請求項4】
連続光を出力する光源と、
周期性を有するノイズ波で前記連続光を周波数変調する光周波数変調手段と、
前記連続光が周波数変調されることで生成された前記信号光を2分岐する第1の光分岐手段と、
前記2分岐された前記信号光の一方を前記被測定光ファイバの一端に入射し、前記被測定光ファイバの前記一端から出射されたブリルアン散乱光を光検波手段に出力する第2の光分岐手段と、
前記2分岐された前記信号光の他方と前記第2の光分岐手段から出力された前記ブリルアン散乱光との干渉光を検出する光検波手段と、
前記光検波手段で検出した前記干渉光を解析する信号解析手段と、
を備える請求項1に記載の光ファイバ特性解析装置。
【請求項5】
ブリルアン光相関領域反射計を用いて被測定光ファイバのブリルアン散乱を解析する光ファイバ特性解析装置が実行する光ファイバ特性解析方法であって、
周期性を有するノイズ波で周波数変調した信号光を、前記被測定光ファイバに入射する、
光ファイバ特性解析方法。
【請求項6】
前記信号光を2分岐し、
前記2分岐された前記信号光の一方を前記被測定光ファイバの一端に入射し、
前記2分岐された前記信号光の他方を前記被測定光ファイバの前記一端から出射されたブリルアン散乱光に合波し、
合波後の干渉光を検出する、
請求項5に記載の光ファイバ特性解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバをセンサとして用いる光ファイバセンシング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバセンシングの位置分解を実現する主流の方式はOTDR(Optical Time Domain Reflectometry)である。この方式では、光パルスを入射し、後方散乱光の戻り時間を解析することで、どの位置で戻ってきた散乱光かを解析可能である。また、戻ってきた散乱光のうち、ブリルアン散乱を解析することにより、光ファイバの温度及び歪みが測定できる(例えば、非特許文献1,2参照。)。
【0003】
一方、OTDRで高空間分解能にするためには、光パルス幅を狭くする必要があり、一般的に測定に利用できるエネルギーが少なくなる。この問題を解決するために、低コヒーレンスブリルアン光相関領域反射計(Low-Coherence Brillouin Optical Correlation-Domain Reflectometry)が提案されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0004】
この方式では、連続光にノイズ変調を加え、一方を参照光、もう一方を信号光とすることで、被測定光ファイバ内のブリルアン散乱を測定する。この時、ノイズパターンが一致するのは、参照光と被測定光ファイバから戻ってきた散乱光の等光路点のみである。つまり、干渉強度は等光路点での散乱光に対応するため、位置分解ができる。また、参照光路内に可変遅延機構を具備することで、等光路点を変化させることができ、分布測定が可能である。しかし、可変遅延線は一般的に1~10m程度しか変化させられないため、ブリルアン散乱を測定可能な位置の範囲が可変遅延線の範囲で制限される問題があった。長尺の可変遅延線を用いることも考えられるが、装置構成が大きくなると共に、可変範囲の拡大に伴い高価になるため、実用的ではなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】K.Hotate, et. al.,” Measurement of Brillouin Gain Spectrum Distribution along an Optical Fiber Using a Correlation-Based Technique-Proposal, Experiment and Simulation-”, IEICE Trans. Electron. E83-C, p.405-412 (2000).
【非特許文献2】Y. Mizuno, et. al.,“Proposal of Brillouin optical correlation-domain reflectometry (BOCDR)”, Opt. Express 16, p.12148-12153 (2008)
【非特許文献3】大坪 他,「低コヒーレンスブリルアン光相関領域反射計の提案」,第69回応用物理学会 春季学術講演会、22p-D215-4、2022.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、ブリルアン光相関領域反射計において、可変遅延線を用いることなく、ブリルアン散乱を測定可能な位置を変更可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、ブリルアン光相関領域反射計を用いて被測定光ファイバのブリルアン散乱を解析する光ファイバ特性解析装置において、周期性を有するノイズ波で周波数変調した信号光を、前記被測定光ファイバに入射する。
【0008】
前記光ファイバ特性解析装置は光ファイバ特性解析方法を実行する。具体的には、前記光ファイバ特性解析装置は、前記信号光を2分岐し、前記2分岐された信号光の一方を前記被測定光ファイバの一端に入射し、前記2分岐された信号光の他方を前記被測定光ファイバの前記一端から出射されたブリルアン散乱光に合波し、合波後の干渉光を検出する。
【0009】
本開示は、信号光を周波数変調するノイズ波の周期を変化させることで、相関ピークの位置を変化させることができる。このため、本開示は、ブリルアン光相関領域反射計において、可変遅延線を用いることなく、ブリルアン散乱を測定可能な位置を変更可能にすることができる。
【0010】
前記光ファイバ特性解析装置は、
連続光を出力する光源と、
周期性を有するノイズ波で前記連続光を周波数変調する光周波数変調手段と、
前記連続光が周波数変調されることで生成された前記信号光を2分岐する第1の光分岐手段と、
前記2分岐された前記信号光の一方を前記被測定光ファイバの一端に入射し、前記被測定光ファイバの前記一端から出射されたブリルアン散乱光を光検波手段に出力する第2の光分岐手段と、
前記2分岐された前記信号光の他方と前記第2の光分岐手段から出力された前記ブリルアン散乱光との干渉光を検出する光検波手段と、
前記光検波手段で検出した前記干渉光を解析する信号解析手段と、
を備える。
【0011】
前記ノイズ波の繰り返し周波数は、前記第1の光分岐手段で2分岐された前記信号光の一方によって前記被測定光ファイバで生じたブリルアン散乱光と前記第1の光分岐手段で2分岐された前記信号光の他方との相関ピークの間隔が前記被測定光ファイバのファイバ長よりも長くなるような値に設定されている。
【0012】
前記光ファイバ特性解析装置は、前記ノイズ波の繰り返し周波数を変化させることで、前記被測定光ファイバの長手方向の測定位置を掃引してもよい。
【0013】
なお、上記各開示は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、ブリルアン光相関領域反射計において、可変遅延線を用いることなく、ブリルアン散乱を測定可能な位置を変更可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の光ファイバ特性解析装置の構成例を示す。
【
図4】繰り返し周波数f
mのノイズ波によって生じる相関ピークの間隔d
mの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0017】
図1に、本開示の光ファイバ特性解析装置の構成例を示す。光ファイバ特性解析装置91は、ブリルアン光相関領域反射計を用いて被測定光ファイバ92のブリルアン散乱を解析する装置であり、例えば、光源11、第1の光分岐手段12、第2の光分岐手段13、光検出手段14、信号解析手段15、光周波数変調手段16を備える。第2の光分岐手段13は光サーキュレータを用いることができる。
【0018】
光源11が連続光を生成し、光周波数変調手段16が連続光を周波数変調する。これにより、周波数変調された光が光源11から出力される。光源11から出力された光は2分岐される。2分岐された一方は、信号光として第2の光分岐手段13から被測定光ファイバ92に入射される。これによって、信号光が被測定光ファイバ92において散乱及び反射される。この散乱及び反射された後方散乱光のなかにブリルアン散乱光が含まれる。
【0019】
被測定光ファイバ92における後方散乱光は、第2の光分岐手段13から光検波手段14に入射される。一方、2分岐された他方は、参照光として光検波手段14に入射される。光検波手段14は、後方散乱光と参照光の干渉光を検出する。信号解析手段15は、光検波手段14で検出された干渉光を用いて、被測定光ファイバ92におけるブリルアン散乱を解析する。
【0020】
ブリルアン散乱は音響フォノンによって入射光が周波数シフトを起こして散乱される現象である。周波数f0の信号光にブリルアン散乱が生じると、ブリルアン散乱光の周波数はf0-fBにシフトする。ブリルアン周波数シフトfBは、被測定光ファイバ92の屈折率n、音速νA、被測定光ファイバ92を伝搬する信号光の波長λ0を用いて、次式で表される。
(数1)
fB=2nνA/λ0 (1)
【0021】
信号解析手段15は、ブリルアン散乱光の周波数f
0-f
Bと参照光の周波数f
0に基づいて、ブリルアン周波数シフトf
Bを算出する。例えば、信号解析手段15は、
図2に示すように、ブリルアン散乱光と参照光とが干渉する測定点P
E(等光路点)を検出し、測定点P
Eでのブリルアン周波数シフトf
Bを算出する。被測定光ファイバ92の長手方向における各地点でのブリルアン周波数シフトf
Bを観測することで、被測定光ファイバ92の長手方向における温度変化ΔTや歪みεの分布計測を行うことができる。
【0022】
非特許文献3では、光源11で生成された連続光を、連続的なノイズ波で周波数変調することで、信号光を生成していた。ノイズ波への変調は、疑似ノイズを発生可能な任意の方法を採用することができ、例えば、1GHz以上の光帯域になるように、光周波数変調手段16を用いて連続光を変調することで行うことができる。ノイズ波で周波数変調された信号光を用いると、光検波手段14で検出される光のスペクトルのサイドローブが少なくなるため、信号解析手段15において高精度なブリルアンスペクトル解析ができる。しかし、非特許文献3では、
図2に示すように、測定点P
Eは参照光の光路長で定められる1点のみであった。
【0023】
測定点P
Eは、光相関領域法を用いて検出することができる。光相関領域法を用いて得られる相関ピークの位置は参照光と散乱光とが最も干渉する位置を、相関ピークの振幅は干渉強度を表している。発明者らは、光相関領域法を用いて干渉光を検出しようとしたとき、ノイズ波に周期性を持たせることで、信号光と参照光の相関ピークが等しい間隔d
mで発生することを発見した。例えば、光周波数変調手段16において周波数変調するノイズ波が、
図3に示すような周期性を有するノイズ波であるとき、
図4に示すように、相関ピークが等しい間隔d
mで発生する。
【0024】
そこで、光ファイバ特性解析装置91は、本開示の光ファイバ特性解析方法を実行する。具体的には、光ファイバ特性解析装置91は、周期性を有するノイズ波で周波数変調した信号光を、前記被測定光ファイバ92に入射する。本実施形態では、光周波数変調手段16が、光源11で生成された連続光を、
図3に示すような、繰り返し周波数f
mで繰り返すノイズ波で周波数変調する例を示す。そして、第1の光分岐手段12が信号光を2分岐し、前記2分岐された前記信号光の一方を前記被測定光ファイバ92の一端に入射し、前記2分岐された前記信号光の他方を前記被測定光ファイバ92の前記一端から出射されたブリルアン散乱光に合波し、合波後の干渉光を光検波手段14で検出する。
【0025】
本開示の光ファイバ特性解析装置91は、
連続光を出力する光源11と、
周期性を有するノイズ波で前記連続光を周波数変調する光周波数変調手段16と、
前記連続光が周波数変調されることで生成された前記信号光を2分岐する第1の光分岐手段12と、
前記2分岐された前記信号光の一方を前記被測定光ファイバ92の一端に入射し、前記被測定光ファイバ92の前記一端から出射されたブリルアン散乱光を光検波手段14に出力する第2の光分岐手段13と、
前記2分岐された前記信号光の他方と前記第2の光分岐手段13から出力された前記ブリルアン散乱光との干渉光を検出する光検波手段14と、
前記光検波手段14で検出した前記干渉光を解析する信号解析手段15と、
を備える。
【0026】
ここで、ノイズ波の繰り返し周波数fmに応じて間隔dmも変化する。相関ピークの間隔dmは次式で表される。
(数2)
dm=c/2nfm (2)
ただし、cは真空中の光速、nは被測定光ファイバ92の屈折率である。
【0027】
信号解析手段15は、式(2)を用いて、相関ピークの間隔dmが被測定光ファイバ92のファイバ長よりも長くなるような繰り返し周波数fmの可変範囲を求める。繰り返し周波数fmの可変範囲を求める。この可変範囲における任意の値を光周波数変調手段16に設定することで、fmで定められる間隔dmの測定点PEに制御することができる。
【0028】
本開示では、光周波数変調手段16は、ノイズ波の繰り返し周波数fmを変化させてもよい。例えば、光周波数変調手段16は、相関ピークが1つとなるような繰り返し周波数fmの可変範囲においてfmを掃引してもよい。これにより、間隔dmが掃引されるため、被測定光ファイバ92の長手方向の測定位置を掃引することができる。
【0029】
また、ノイズ波の電圧振幅を変化させることで、空間分解能を変化させることができる。そこで、信号解析手段15は、空間分解能に応じて、光周波数変調手段16のノイズ波の電圧振幅を制御してもよい。
【0030】
図5に、ブリルアン測定結果の一例を示す。横軸は被測定光ファイバ92の長手方向の位置を示し、縦軸はブリルアン周波数シフトf
Bを示す。光周波数変調手段16を用いてノイズ波の繰り返し周波数f
mを変化させることで間隔d
mを変化させ、信号解析手段15において、0mから15mまでの区間の歪み検出と、12mから15mまでの約3mの区間の歪み検出と、を行った。その結果、両方の区間において空間分解能での歪み検出に成功した。
【0031】
本開示の光ファイバ特性解析装置91は、BOCDRを用いることで、被測定光ファイバ92の特性の解析を高空間分解能で実現することができる。このため、本開示の光ファイバ特性解析装置91は、被測定光ファイバ92の長手方向における温度及び歪みを高空間分解能で測定することができる。
【0032】
ここで、本開示の光ファイバ特性解析装置91は、BOCDRにおいて、繰り返し周波数fmの周期性を有する疑似ノイズで周波数変調を施した光信号を2分岐し、一方を被測定光ファイバ92の一端に入射し、他方を被測定光ファイバ92の一端から出射したブリルアン散乱光に合波し、合波後の干渉光を検出し、繰り返し周波数fmを変化させることで、被測定光ファイバ92の長手方向の測定位置を掃引する。このため、本開示の光ファイバ特性解析装置91は、可変遅延線を用いることなく、測定位置を掃引することができ、高空間分解能な分布測定が可能となる。
【0033】
なお、本開示の光ファイバ特性解析装置91が備える信号解析手段15はコンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【符号の説明】
【0034】
11:光源
12:第1の光分岐手段
13:第2の光分岐手段
14:光検出手段
15:信号解析手段
16:光周波数変調手段
91:光ファイバ特性解析装置
92:被測定光ファイバ