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特開2025-58494ブタンジイソシアネート誘導体、ポリイソシアネート組成物、ポリウレタン樹脂形成性組成物、塗料組成物及び塗膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025058494
(43)【公開日】2025-04-09
(54)【発明の名称】ブタンジイソシアネート誘導体、ポリイソシアネート組成物、ポリウレタン樹脂形成性組成物、塗料組成物及び塗膜
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/73 20060101AFI20250401BHJP
   C08G 18/79 20060101ALI20250401BHJP
   C08G 18/02 20060101ALI20250401BHJP
   C08G 18/09 20060101ALI20250401BHJP
   C09D 175/00 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
C08G18/73
C08G18/79
C08G18/02
C08G18/09
C09D175/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023168467
(22)【出願日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2023166499
(32)【優先日】2023-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】和田 侑也
(72)【発明者】
【氏名】中島 雄次
【テーマコード(参考)】
4J034
4J038
【Fターム(参考)】
4J034AA01
4J034AA03
4J034AA04
4J034BA03
4J034DA01
4J034DB04
4J034DB05
4J034DB07
4J034DC02
4J034DC43
4J034DC50
4J034DF01
4J034DF02
4J034DF16
4J034DF20
4J034DF22
4J034DG03
4J034DG04
4J034DG05
4J034DG14
4J034DG23
4J034DM01
4J034DP12
4J034DP15
4J034DP18
4J034EA12
4J034HA01
4J034HA07
4J034HA11
4J034HB05
4J034HB07
4J034HB08
4J034HB09
4J034HC03
4J034HC34
4J034HC35
4J034HD01
4J034HD03
4J034HD05
4J034HD06
4J034HD07
4J034HD08
4J034HD12
4J034JA01
4J034JA32
4J034JA33
4J034KA01
4J034KB02
4J034KB03
4J034KC08
4J034KC13
4J034KC17
4J034KD02
4J034KD12
4J034KD15
4J034KD17
4J034KD22
4J034KD24
4J034KD25
4J034KE01
4J034KE02
4J034LB06
4J034QA03
4J034QA05
4J034QB13
4J034QB14
4J034RA07
4J038DG001
4J038DG101
4J038DG191
4J038DG272
4J038JC39
4J038KA04
4J038KA06
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】速乾性に優れるとともに、塗膜の焼き付け温度を低下し得るブタンジイソシアネート誘導体を提供すること。
【解決手段】イソシアヌレート基、ウレトジオン基、イミノオキサジアジオン基、ウレタン基、アロファネート基、ウレア基、及びビウレット基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有するブタンジイソシアネート誘導体であって、
式(G):
G/(A+B+C+D+E+F+G)×100 ・・・式(G)
[式中、A、B、C、D、E、F、及びGは、前記イソシアヌレート基、前記ウレトジオン基、前記イミノオキサジアジオン基、前記ウレタン基、前記アロファネート基、前記ウレア基、及び前記ビウレット基のモル比率をそれぞれ表す。]
で表される、前記ブタンジイソシアネート誘導体中の前記ビウレット基のモル比率の割合(R)が、20~100モル%である、ブタンジイソシアネート誘導体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアヌレート基、ウレトジオン基、イミノオキサジアジオン基、ウレタン基、アロファネート基、ウレア基、及びビウレット基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有するブタンジイソシアネート誘導体であって、
式(G):
G/(A+B+C+D+E+F+G)×100 ・・・式(G)
[式中、A、B、C、D、E、F、及びGは、前記イソシアヌレート基、前記ウレトジオン基、前記イミノオキサジアジオン基、前記ウレタン基、前記アロファネート基、前記ウレア基、及び前記ビウレット基のモル比率をそれぞれ表す。]
で表される、前記ブタンジイソシアネート誘導体中の前記ビウレット基のモル比率の割合(R)が、20~100モル%である、ブタンジイソシアネート誘導体。
【請求項2】
前記ビウレット基のモル比率の割合(R)が、20~90モル%であり、
式(B):
B/(A+B+C+D+E+F+G)×100 ・・・式(B)
[式中、A、B、C、D、E、F、及びGは、前記イソシアヌレート基、前記ウレトジオン基、前記イミノオキサジアジオン基、前記ウレタン基、前記アロファネート基、前記ウレア基、及び前記ビウレット基のモル比率をそれぞれ表す。]
で表される、前記ブタンジイソシアネート誘導体中の前記ウレトジオン基のモル比率の割合(R)が、10~70モル%である、請求項1に記載のブタンジイソシアネート誘導体。
【請求項3】
前記ウレトジオン基のモル比率の割合(R)が、10~60モル%である、請求項2に記載のブタンジイソシアネート誘導体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のブタンジイソシアネート誘導体を含む、ポリイソシアネート組成物。
【請求項5】
請求項4に記載のポリイソシアネート組成物と、ポリオールと、を含む、ポリウレタン樹脂形成性組成物。
【請求項6】
請求項4に記載のポリイソシアネート組成物と、イソシアネート反応性基を2以上有する化合物と、を含む、塗料組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の塗料組成物の硬化物を含む、塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ブタンジイソシアネート誘導体、ポリイソシアネート組成物、ポリウレタン樹脂形成性組成物、塗料組成物及び塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
環境負荷低減の観点から、乾燥性・低温硬化性を追求したポリイソシアネート組成物に関する開発が盛んに行われている。ポリイソシアネート組成物が乾燥性に優れることで、硬化反応に要する熱エネルギーを削減することができる。
【0003】
ここで、特許文献1は、脂肪族ジイソシアネート、及び脂環式ジイソシアネートからなる群から選択される少なくとも1種のジイソシアネートから得られ、アロファネート基とイソシアヌレート基からなるポリイソシアネート化合物が、所定の含有量以上であるポリイソシアネート組成物を開示している。特許文献1によれば、このポリイソシアネート組成物を含有する塗料組成物を用いることにより、硬化性や塗膜外観に優れた塗膜を提供できる。
【0004】
また、特許文献2は、ポリイソシアネートの全体量に対して、所定の含有量の脂肪族ジイソシアネートモノマー単位と、所定の含有量のポリオール単位と、所定の含有量のモノアルコール単位と、を有し、所定の含有量のジイソシアネートモノマーを含有し、所定の粘度を有するポリイソシアネートを開示している。特許文献2によれば、このポリイソシアネートは活性水素化合物との反応による硬化性に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-024930号公報
【特許文献2】特開2015-203104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特に近年、市場からのポリウレタン塗膜に対する要求性能は極めて高くなってきており、速乾性に優れ、低温硬化が可能なポリイソシアネート組成物の開発が強く求められていた。
【0007】
そこで、本開示の一側面は、速乾性に優れるとともに、塗膜の焼き付け温度を低下し得るポリイソシアネート組成物を提供することに向けられている。本開示の他の側面は、該ポリイソシアネート組成物の作製に資するブタンジイソシアネート誘導体を提供することに向けられている。本開示のさらに他のいくつかの側面は、該ポリイソシアネート組成物を用いたポリウレタン樹脂形成性組成物、塗料組成物及び塗膜を提供することに向けられている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、いくつかの側面において、下記[1]~[7]を提供する。
【0009】
[1]
イソシアヌレート基、ウレトジオン基、イミノオキサジアジオン基、ウレタン基、アロファネート基、ウレア基、及びビウレット基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有するブタンジイソシアネート誘導体であって、
式(G):
G/(A+B+C+D+E+F+G)×100 ・・・式(G)
[式中、A、B、C、D、E、F、及びGは、前記イソシアヌレート基、前記ウレトジオン基、前記イミノオキサジアジオン基、前記ウレタン基、前記アロファネート基、前記ウレア基、及び前記ビウレット基のモル比率をそれぞれ表す。]
で表される、前記ブタンジイソシアネート誘導体中の前記ビウレット基のモル比率の割合(R)が、20~100モル%である、ブタンジイソシアネート誘導体。
[2]
前記ビウレット基のモル比率の割合(R)が、20~90モル%であり、
式(B):
B/(A+B+C+D+E+F+G)×100 ・・・式(B)
[式中、A、B、C、D、E、F、及びGは、前記イソシアヌレート基、前記ウレトジオン基、前記イミノオキサジアジオン基、前記ウレタン基、前記アロファネート基、前記ウレア基、及び前記ビウレット基のモル比率をそれぞれ表す。]
で表される、前記ブタンジイソシアネート誘導体中の前記ウレトジオン基のモル比率の割合(R)が、10~70モル%である、[1]に記載のブタンジイソシアネート誘導体。
[3]
前記ウレトジオン基のモル比率の割合(R)が、10~60モル%である、[2]に記載のブタンジイソシアネート誘導体。
[4]
[1]~[3]のいずれか一項に記載のブタンジイソシアネート誘導体を含む、ポリイソシアネート組成物。
[5]
[4]に記載のポリイソシアネート組成物と、ポリオールと、を含む、ポリウレタン樹脂形成性組成物。
[6]
[4]に記載のポリイソシアネート組成物と、イソシアネート反応性基を2以上有する化合物と、を含む、塗料組成物。
[7]
[6]に記載の塗料組成物の硬化物を含む、塗膜。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一側面によれば、速乾性に優れるとともに、塗膜の焼き付け温度を低下し得るポリイソシアネート組成物を提供することが可能となる。本開示の他の側面によれば、該ポリイソシアネート組成物の作製に資するブタンジイソシアネート誘導体を提供することが可能となる。本開示のさらに他のいくつかの側面によれば、該ポリイソシアネート組成物を用いたポリウレタン樹脂形成性組成物、塗料組成物及び塗膜を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0012】
以下、本開示の各態様の好適な実施形態について説明する。ただし、本開示の各態様は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0013】
<ブタンジイソシアネート誘導体及びポリイソシアネート組成物>
本開示の一態様に係るブタンジイソシアネート誘導体は、イソシアヌレート基、ウレトジオン基、イミノオキサジアジオン基、ウレタン基、アロファネート基、ウレア基、及びビウレット基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有し、
式(G):
G/(A+B+C+D+E+F+G)×100 ・・・式(G)
[式中、A、B、C、D、E、F、及びGは、前記イソシアヌレート基、前記ウレトジオン基、前記イミノオキサジアジオン基、前記ウレタン基、前記アロファネート基、前記ウレア基、及び前記ビウレット基のモル比率をそれぞれ表す。]
で表される、前記ブタンジイソシアネート誘導体中の前記ビウレット基のモル比率の割合(R)が、20~100モル%である。
以下の説明では、ブタンジイソシアネートを「BDI」と略する場合がある。
【0014】
上記BDI誘導体によれば、速乾性に優れるとともに、塗膜の焼き付け温度を低下し得るポリイソシアネート組成物を調製可能である。なお、ポリイシアネート組成物が速乾性に優れるとは、例えば、剛体振り子試験から塗膜硬化の速度定数を求めることで確認することができる。また、ポリイシアネート組成物を用いて得られる塗膜が低温で焼き付けできることは、例えば、該ポリイソシアネート組成物を用いて調製した塗料組成物からなる塗膜の硬化開始温度によって確認することができる。
【0015】
本開示の他の一態様に係るポリイソシアネート組成物は、BDI誘導体を含み、
前記BDI誘導体は、イソシアヌレート基、ウレトジオン基、イミノオキサジアジオン基、ウレタン基、アロファネート基、ウレア基、及びビウレット基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有し、
式(G):
G/(A+B+C+D+E+F+G)×100 ・・・式(G)
[式中、A、B、C、D、E、F、及びGは、前記イソシアヌレート基、前記ウレトジオン基、前記イミノオキサジアジオン基、前記ウレタン基、前記アロファネート基、前記ウレア基、及び前記ビウレット基のモル比率をそれぞれ表す。]
で表される、前記ブタンジイソシアネート誘導体中の前記ビウレット基のモル比率の割合(R)が、20~100モル%である。すなわち、BDI誘導体は、好ましくは上述したBDI誘導体である。
【0016】
上記ポリイソシアネート組成物は、速乾性に優れる傾向がある。さらに、上記ポリイソシアネート組成物によれば、塗膜の焼き付け温度を低下させやすい。
【0017】
BDI誘導体は、BDIモノマーから誘導される複数種の化合物の混合物である。BDI誘導体は、例えば、BDIのイソシアヌレート体、BDIのウレトジオン体、BDIのイミノオキサジアジンジオン体、BDIのウレタン体、BDIのアロファネート体、BDIのウレア体、及びBDIのビウレット体からなる群より選ばれる1種以上の化合物を含む。好ましくは、BDIのビウレット体を含む。BDIのビウレット体は、BDIモノマーから誘導される化合物のうち、ビウレット基を有する化合物であり、式(1)で表される基を有する。
【0018】
【化1】
【0019】
BDIのビウレット体の原料であるBDIモノマーとしては、例えば、1,2-ブタンジイソシアネート、1,3-ブタンジイソシアネート、1,4-ブタンジイソシアネート、2,3-ブタンジイソシアネート、及び、これらの混合物などが挙げられる。BDIのビウレット体の原料は、第一級炭素に結合したイソシアネート基の反応性が高いことから、1,4-ブタンジイソシアネートを含むことが好ましい。BDIのビウレット体の原料に占める1,4-ブタンジイソシアネートの割合は、90質量%以上であってよく、95質量%以上又は100質量%であってもよい。以下では、BDIモノマーとして1,4-ブタンジイソシアネートを用いる態様を例に挙げて説明することがあるが、特に言及がない限り、これに何ら限定されるものではない。
【0020】
ビウレット基のモル比率の割合(R)は、20~100モル%であり、30モル%以上、40モル%以上又は50モル%以上であってもよく、90モル%以下、85モル%以下又は75モル%以下であってもよい。ビウレット基のモル比率の割合が50モル%以上であると速乾性がさらに良好な傾向があり、ビウレット基のモル比率の割合が75モル%以下であると、粘度をさらに低減できる傾向がある。ビウレット基のモル比率の割合は、例えば、核磁気共鳴装置(NMR)を使用した13C-NMR法により測定することができる。より具体的には、後述する実施例に準拠して測定することができる。
【0021】
BDI誘導体は、ビウレット体に加えて、ウレトジオン体を含有することが好ましい。BDIのウレトジオン体は、BDIモノマーから誘導される化合物のうち、ウレトジオン基を有する化合物であり、式(2)で表される基を有する。
【0022】
【化2】
【0023】
BDI誘導体において、
式(B):
B/(A+B+C+D+E+F+G)×100 ・・・式(B)
[式中、A、B、C、D、E、F、及びGは、前記イソシアヌレート基、前記ウレトジオン基、前記イミノオキサジアジオン基、前記ウレタン基、前記アロファネート基、前記ウレア基、及び前記ビウレット基のモル比率をそれぞれ表す。]
で表される、前記ブタンジイソシアネート誘導体中の前記ウレトジオン基のモル比率の割合(R)は、10~70モル%が好ましく、15モル%以上、20モル%以上又は30モル%以上であってもよく、65モル%以下、60モル%以下又は50モル%以下であってもよい。ウレトジオン基のモル比率の割合が30モル%以上であると低粘度化をさらに促進できる傾向があり、ウレトジオン基のモル比率の割合が50モル%以下であると、より高硬度の塗膜が得られる傾向がある。ウレトジオン基のモル比率の割合は、例えば、核磁気共鳴装置(NMR)を使用した13C-NMR法により測定することができる。より具体的には、後述する実施例に準拠して測定することができる。
【0024】
BDI誘導体は、ビウレット体及びウレトジオン体に加えて、イソシアヌレート体、イミノオキサジアジンジオン体、ウレタン体、アロファネート体、及びウレア体からなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有してもよい。BDIのイソシアヌレート体は、BDIモノマーから誘導される化合物のうち、イソシアヌレート基を有する化合物であり、式(3)で表される基を有する。BDIのイミノオキサジアジンジオン体は、BDIモノマーから誘導される化合物のうち、イミノオキサジアジンジオン基を有する化合物であり、式(4)で表される基を有する。BDIのウレタン体は、BDIモノマーから誘導される化合物のうち、ウレタン基を有する化合物であり、式(5)で表される基を有する。BDIのアロファネート体は、BDIモノマーから誘導される化合物のうち、アロファネート基を有する化合物であり、式(6)で表される基を有する。BDIのウレア体は、BDIモノマーから誘導される化合物のうち、ウレア基を有する化合物であり、式(7)で表される基を有する。
【0025】
【化3】
【0026】
BDI誘導体は、BDIモノマーから誘導される化合物のうち、イソシアヌレート基、ウレトジオン基、イミノオキサジアジオン基、ウレタン基、アロファネート基、ウレア基、及びビウレット基から選ばれる1種の官能基を有し、また、これらのうち、異なる2種類以上の基を一分子中に有する化合物を含んでもよい。例えば、ビウレット基を有し、かつ、ウレトジオン基を有する化合物(ビウレット体であり、かつ、ウレトジオン体でもある化合物)を含んでいてもよい。このような化合物は、BDIのビウレット体及びBDIのウレトジオン体の両方に該当するものとする。
【0027】
BDI誘導体のNCO含有量は、ポリウレタン樹脂の架橋に使用されるNCO基が多くなる観点から、ポリイソシアネート組成物中の固形分の全質量を基準として、10質量%以上であってよく、20質量%以上又は25質量%以上であってもよい。BDI誘導体のNCO含有量は、臭気を抑制するためBDIモノマー等の低分子量成分含有量を低減する観点から、ポリイソシアネート組成物中の固形分の全質量を基準として35質量%以下であってよく、32質量%以下又は30質量%以下であってもよい。これらの観点から、BDI誘導体のNCO含有量は、例えば、ポリイソシアネート組成物中の固形分の全質量を基準として、10~35質量%であってよい。
【0028】
BDI誘導体は、ポットライフの延長、塗料組成物の一液化を目的として、公知のブロック剤を用いてブロック化されていてもよい。すなわち、BDIモノマーから誘導される化合物のNCO基の一部又は全部がブロック剤でブロック化されていてもよい。ブロック化されたポリイソシアネートは、常温時は不活性であるが、加熱することでブロック剤が解離し、再びイソシアネート基が活性化することで、活性水素基と反応する。ブロック剤は、活性水素を分子内に1個有する化合物であり、例えば、アルコール系、アルキルフェノール系、フェノール系、活性メチレン、メルカプタン系、酸アミド系、酸イミド系、イミダゾール系、尿素系、オキシム系、アミン系、イミド系、ピラゾール系等の公知のブロック剤を用いることができる。
【0029】
ポリイソシアネート組成物は、BDI誘導体以外の他の成分を含んでいてもよく、BDI誘導体のみからなっていてもよい。他の成分としては、例えば、1,6-ヘキサンジイソシアネート(以下、「HDI」と略する場合がある。)及びその誘導体等が挙げられる。
【0030】
ポリイソシアネート組成物は、他の成分としてBDI誘導体以外のイソシアネート化合物(例えばBDIモノマー、HDIモノマー、HDI誘導体等のポリイソシアネート)を含んでいてもよいが、ポリイソシアネート組成物中のBDIモノマーの含有量は、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下である(実質的にBDIモノマーを含まない)ことがより好ましい。また、ポリイソシアネート組成物中のBDI誘導体以外のイソシアネート化合物の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、1質量%以下である(実質的にBDI誘導体以外のイソシアネート化合物を含まない)ことがより好ましい。上記含有量は、ポリイソシアネート組成物中の固形分の全質量を基準とする含有量である。
【0031】
ポリイソシアネート組成物は、他の成分として、後述する有機溶媒を含んでいてもよいが、ポリイソシアネート組成物中の有機溶媒の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下である(実質的に有機溶媒を含まない)ことがより好ましい。上記含有量は、ポリイソシアネート組成物中の固形分の全質量を基準とする含有量である。
【0032】
ポリイソシアネート組成物の25℃における粘度は、好ましくは8000mPa・s以下であり、より好ましくは5000mPa・s以下であり、さらに好ましくは4000mPa・s以下であり、さらにより好ましくは1000mPa・s以下であり、特に好ましくは500mPa・s以下である。上記粘度が5000mPa・s以下であると、ポリイソシアネート組成物が、多量の溶剤によって希釈せずとも良好な作業性を有することとなり、塗料組成物の固形分濃度をより高めることができる。ポリイソシアネート組成物の25℃における粘度は、例えば、100mPa・s以上であってもよく、200mPa・s以上であってもよく、300mPa・s以上であってもよい。粘度が100mPa・s以上であると、得られる塗膜がより高い硬度を有する傾向がある。上記粘度のポリイソシアネート組成物が得られやすい点で、BDI誘導体の25℃における粘度の好ましい範囲は上記範囲と同じである。
【0033】
以上説明したBDI誘導体及びポリイソシアネート組成物は、塗料組成物の硬化剤成分として好適に用いられる。すなわち、本開示の他の一実施形態は、上記BDI誘導体を含む塗料用硬化剤であり、本開示のさらに他の一実施形態は、上記ポリイソシアネート組成物からなる塗料用硬化剤である。なお、これらの塗料用硬化剤に対する主剤としては、後述するイソシアネート反応性化合物(ポリオール等)を用いることができる。
【0034】
<BDI誘導体の製造方法>
本実施形態のBDI誘導体の製造方法は、ビウレット基を形成するビウレット化反応とウレトジオン基を形成するウレトジオン化反応とを行うことにより、BDIのビウレット体及びBDIのウレトジオン体を得る多量化工程を含む。
【0035】
ビウレット化反応は、反応物(例えばBDIモノマー)とビウレット化剤とを反応させることで行う。ビウレット化剤としては、水、1価の第3級アルコール、ギ酸、硫化水素、第1級アミン系化合物などを挙げることができる。ビウレット化剤は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。反応性の観点から、水を用いることが好ましい。
【0036】
ビウレット化剤の使用量は、BDIの仕込み量100質量部に対して、0.01~10質量部であることが好ましく、0.1~4質量部であることがより好ましい。
【0037】
ビウレット化反応の反応温度は、80~200℃とすることが好ましく、100~180℃とすることがより好ましい。ビウレット化触媒を使用した際のビウレット化反応の反応温度が80℃以上であると、反応時間を短縮できるため、ポリイソシアネート組成物の着色をさらに抑制できる。また、ビウレット化反応の反応温度が80~200℃であると、ビウレット基とウレトジオン基のモル比率の割合を10~70モル%に調整することが容易である。
【0038】
ビウレット化反応は、目的とするイソシアネート基含有量、及びビウレット基含有率に到達したところで停止させてよい。ビウレット化反応の反応温度を80~200℃とする場合、ビウレット化反応の反応時間は、例えば、0.5~6時間である。
【0039】
ビウレット化反応は、例えば、一般的に知られるビウレット化触媒の存在下で行ってもよい。ビウレット化触媒としては、例えば、多置換カルボン酸またはその無水物、酸性リン酸エステル系化合物等が挙げられる。ビウレット化触媒は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
ビウレット化触媒は、着色防止と貯蔵安定性の観点から、リン酸ジブチル、リン酸ジエチル等の酸性リン酸エステル系化合物を用いることが好ましい。酸性リン酸エステル系化合物は、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル等のリン酸エステル系化合物の加水分解によって、反応系中に発生させることもできる。
【0041】
ビウレット化触媒の使用量は、BDIの仕込み量100質量部に対して、0.01~10質量部であることが好ましく、0.1~3質量部であることがより好ましい。
【0042】
ビウレット化触媒を使用した際のビウレット化反応の反応温度は、60~200℃とすることが好ましく、80~180℃とすることがより好ましい。ビウレット化触媒を使用した際のビウレット化反応の反応温度が60℃以上であると、反応時間を短縮できるため、ポリイソシアネート組成物の着色をさらに抑制できる。また、ビウレット化触媒を使用した際のビウレット化反応の反応温度が60~200℃であると、ビウレット基とウレトジオン基のモル比率の割合を10~70モル%に調整することが容易である。
【0043】
ビウレット化触媒を使用した際のビウレット化反応は、目的とするイソシアネート基含有量、及びビウレット基含有率に到達したところで停止させてよい。ビウレット化触媒を使用した際のビウレット化反応の反応温度を60~200℃とする場合、ビウレット化触媒を使用した際のビウレット化反応の反応時間は、例えば、0.5~5時間である。
【0044】
ウレトジオン化反応は、例えば、一般的に知られるウレトジオン化触媒の存在下で行ってよい。ウレトジオン化触媒としては、例えば、トリアルキルホスフィン、トリベンジルホスフィン等の第三級ホスフィン、三フッ化ホウ素、三塩化亜鉛等のルイス酸などが挙げられる。
【0045】
ウレトジオン化触媒を用いる場合、ビウレット基とウレトジオン基のモル比率の割合が所望の値となった時点で、リン酸、パラトルエンスルホン酸メチル等を添加することにウレトジオン化反応を停止してよい。
【0046】
ウレトジオン化反応は、前記のようなウレトジオン化触媒を使用することなく、反応物(例えばBDIモノマー)の加熱によって行うこともできる。副生物の生成を抑制する観点では、ウレトジオン化反応触媒を使用せず、加熱のみによりウレトジオン化反応を行うことが好ましい。加熱温度は、好ましくは80℃以上であり、より好ましくは100~170℃であり、さらに好ましくは110~160℃である。加熱温度が80~170℃であると、副生物の生成を抑制しつつ、ビウレット基とウレトジオン基のモル比率の割合を10~70モル%に調整することが容易である。
【0047】
ビウレット化反応及びウレトジオン化反応は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で実施してよい。具体的には、BDIを反応容器に導入し、該容器内に、窒素、アルゴン等の不活性ガスを導入することで反応雰囲気を不活性ガス雰囲気とした後、上述した方法でビウレット化反応及びウレトジオン化反応を行ってよい。
【0048】
ビウレット化反応及びウレトジオン化反応は、有機溶媒の非存在下で行ってよく、有機溶媒の存在下で行ってもよい。有機溶媒の存在下で反応を行う場合には、反応に影響を与える恐れがなく、反応温度以上の沸点を有する有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒としては、例えばオクタン等の脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素類、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル類、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、エチル-3-エトキシプロピオネート等のグリコールエーテルエステル類、ジオキサン等のエーテル類、ヨウ化メチレン、モノクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホニルアミド等の極性非プロトン溶媒などが挙げられる。高分子量体の生成を抑制する観点から、ビウレット化剤との親和性の高い極性溶媒を用いることが、特に好ましい。有機溶媒は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
ビウレット化反応及びウレトジオン化反応は、それぞれ逐次的に行うこともできるし、並行して行うこともできる。ビウレット化反応及びウレトジオン化反応を並行して行う場合、反応開始及び反応停止のタイミングは、同時であっても異なっていてもよい。例えば、BDIに対するウレトジオン化反応を開始してBDIのウレトジオン化を進行させてから、BDIのウレトジオン体を含む反応物に対してウレトジオン化反応とビウレット化反応とを行ってもよい。多量化工程では、好ましくは、ビウレット化反応とウレトジオン化反応を同時に行う。多量化工程では、より好ましくは、熱によるウレトジオン化反応後(反応開始後)に、ビウレット化反応を行う。ビウレット化反応後に、熱によるウレトジオン化反応を行うと、ビウレット体の多量化が促進され、増粘、イソシアネート基含有量の低下等が生じる場合があるため、ビウレット化反応後は、ウレトジオン化反応を行わないことが好ましい。
【0050】
多量化工程は、より具体的には、BDI(BDIモノマー)を含む反応物を80℃以上に加熱する第一加熱工程と、第一加熱工程を経た前記反応物を、上記ビウレット化反応剤の存在下、80~200℃で加熱する第二加熱工程と、を含む工程であることが好ましい。この方法では、少なくとも第一加熱工程でBDIのウレトジオン化反応が進行し、第二加熱工程でBDIのウレトジオン体を含む反応物(例えば、未反応のBDIモノマーとBDIのウレトジオン体との混合物)のビウレット化反応が進行する。第一加熱工程の加熱条件は、上述したウレトジオン化反応の加熱温度の好適範囲と同じであり、第二加熱工程の加熱条件は、上述したビウレット化反応の反応温度の好適範囲と同じである。なお、第二加熱工程では、ビウレット化反応と同時にウレトジオン化反応を進行させてもよい。
【0051】
第一加熱工程は、ウレトジオン体の量を増やす観点から、80℃以上まで加熱した後、反応物を80℃以上の温度で保持する工程であってもよい。保持温度は、ウレトジオン化反応の加熱温度の好適範囲と同じである。保持時間は、好ましくは1~6時間であり、より好ましくは2~5時間である。
【0052】
反応終了後は、反応生成物を含む反応溶液から未反応のBDIモノマー(遊離のBDI)を除去してよい。すなわち、BDI誘導体の製造方法は、多量化工程後に、遊離のBDIを除去するBDI除去工程をさらに含んでいてよい。遊離のBDIを除去するためには、例えば、10~100Paの高真空下、90~130℃での薄膜蒸留による除去法、有機溶剤による抽出法等が用いられる。上記除去は、反応溶液中に存在している遊離のBDIの残留含有率が5質量%以下となるように行うことが好ましい。遊離のBDIの残留含有率が5質量%以下であると、臭気の発生をさらに抑制できるとともに、貯蔵安定性低下をさらに抑制できる。なお、上記反応で有機溶媒を使用する場合、該有機溶媒は、上記遊離のBDIの除去と同時に除去することができる。
【0053】
BDI誘導体の製造方法は、多量化工程後又はBDI除去工程後に、上述したブロック剤によりBDI誘導体をブロック化する工程をさらに含んでいてもよい。
【0054】
上記方法で得られるBDI誘導体(又はBDI誘導体を含む反応溶液)は、そのまま、又は、上述した他の成分と混合してから、ポリイソシアネート組成物として使用することができる。このようにして得られるポリイソシアネート組成物とポリオールとを配合することによって、本開示の一態様に係るポリウレタン樹脂形成性組成物を得ることができる。
【0055】
<ポリウレタン樹脂形成性組成物>
本開示の一態様に係るポリウレタン樹脂形成性組成物は、上記実施形態のポリイソシアネート組成物と、ポリオールと、を含む。該組成物は、ポリウレタン樹脂形成性を有しており、該組成物中のポリイソシアネート(例えばBDI誘導体)及びポリオールが反応することでポリイソシアネートとポリオールとの反応生成物としてポリウレタン樹脂が形成される。
【0056】
ポリオールは、イソシアネート基との反応基として活性水素基であるヒドロキシ基を2以上有する化合物である。ポリオールとしては、特に限定されるものではないが、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、アクリルポリオール、シリコーンポリオール、ヒマシ油系ポリオール、フッ素系ポリオール、2種以上のポリオールのエステル交換物、ポリイソシアネートとウレタン化反応した水酸基末端プレポリマー等が好適に用いられる。ポリオールは、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
(ポリエステルポリオール)
ポリエステルポリオールとしては、例えば、ジカルボン酸又はこれらの無水物等の1種以上と、分子量500以下の低分子ポリオール類の1種以上との縮重合反応から得られるものを挙げることができる。ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、酒石酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、グルタコン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキシルジカルボン酸、α-ハイドロムコン酸、β-ハイドロムコン酸、α-ブチル-α-エチルグルタル酸、α,β-ジエチルサクシン酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。分子量500以下の低分子ポリオール類としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3-ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ダイマージオール、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物、ビス(β-ヒドロキシエチル)ベンゼン、キシリレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。また、ε-カプロラクトン、アルキル置換ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、アルキル置換δ-バレロラクトン等の環状エステル(いわゆるラクトン)モノマーの開環重合から得られるラクトン系ポリエステルポリオールなどを使用することもできる。さらに、低分子ポリオールの一部を、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、モノエタノールアミン等の低分子ポリアミン又は低分子アミノアルコールに代えて得られるポリエステル-アミドポリオールを使用することもできる。
【0058】
(ポリエーテルポリオール)
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、低分子ポリオール類、低分子ポリアミン類等の活性水素基を2個以上、好ましくは2~3個有する化合物を開始剤として、アルキレンオキサイド類を付加重合させることによって得られるポリエーテルポリオールが挙げられる。低分子ポリオール類としては、上記分子量500以下の低分子ポリオール類として例示した化合物と同じものを例示できる。低分子ポリアミン類としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トルエンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、キシリレンジアミン等が挙げられる。アルキレンオキサイド類としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。また、メチルグリシジルエーテル等のアルキルグリシジルエーテル類、フェニルグリシジルエーテル等のアリールグリシジルエーテル類、テトラヒドロフラン等の環状エーテルモノマーを開環重合することで得られるポリエーテルポリオールなどを使用することもできる。
【0059】
(ポリカーボネートポリオール)
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、低分子ポリオールの1種以上と、ジアリールカーボネート類との脱アルコール反応又は脱フェノール反応から得られるものを挙げることができる。低分子ポリオールとしては、上記分子量500以下の低分子ポリオール類として例示した化合物と同じものを例示できる。ジアリールカーボネート類としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のアルキレンカーボネート類、ジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ジアントリルカーボネート、ジフェナントリルカーボネート、ジインダニルカーボネート、テトラヒドロナフチルカーボネート等が挙げられる。また、ポリカーボネートポリオールとしては、ポリカーボネートポリオールとポリエステルポリオールと低分子ポリオールとのエステル交換反応により得られたポリオールを用いることもできる。
【0060】
(ポリオレフィンポリオール)
ポリオレフィンポリオールとしては、例えば水酸基を2個以上有するポリブタジエン、水素添加ポリブタジエン、ポリイソプレン、水素添加ポリイソプレン等を挙げることができる。
【0061】
(アクリルポリオール)
アクリルポリオールとしては、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステル(以下、(メタ)アクリル酸エステルという。)と、アクリル酸ヒドロキシ化合物及び/又はメタクリル酸ヒドロキシ化合物(以下、(メタ)アクリル酸ヒドロキシ化合物という。)と、重合開始剤とを、紫外線若しくは電子線等の光エネルギー又は熱エネルギーなどを使用し、該(メタ)アクリル酸エステル及び/又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシ化合物を重合又は共重合させたものを挙げることができる。
【0062】
[(メタ)アクリル酸エステル]
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば炭素数1~20のアルキルエステルを挙げることができる。このような(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の脂環属アルコールとのエステル;(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アリールエステルなどを挙げることができる。(メタ)アクリル酸エステルは、1種を単独で、又は、2種以上組み合わせて用いることができる。
【0063】
[(メタ)アクリル酸ヒドロキシ化合物]
(メタ)アクリル酸ヒドロキシ化合物は、ポリイソシアネートとの反応点となりうる水酸基を分子内に少なくとも1個有する。(メタ)アクリル酸ヒドロキシ化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロピルアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等のアクリル酸ヒドロキシ化合物などが挙げられる。また、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロピルメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート等のメタクリル酸ヒドロキシ化合物を使用することもできる。(メタ)アクリル酸ヒドロキシ化合物は、1種を単独で、又は、2種以上組み合わせて用いることができる。
【0064】
(シリコーンポリオール)
シリコーンポリオールとしては、例えばγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を重合したビニル基含有シリコーン化合物、及び分子中に少なくとも1個の末端水酸基を有する、α,ω-ジヒドロキシポリジメチルシロキサン、α,ω-ジヒドロキシポリジフェニルシロキサン等のポリシロキサンを挙げることができる。
【0065】
(ヒマシ油系ポリオール)
ヒマシ油系ポリオールとしては、例えばヒマシ油脂肪酸とポリオールとの反応により得られる線状又は分岐状ポリエステルポリオールが挙げられる。また、脱水ヒマシ油、一部分を脱水した部分脱水ヒマシ油、水素を付加させた水添ヒマシ油も使用することができる。
【0066】
(フッ素系ポリオール)
フッ素系ポリオールとしては、例えば必須成分として含フッ素モノマーとヒドロキシ基を有するモノマーとの共重合反応により得られる線状又は分岐状のポリオールを挙げることができる。ここで、含フッ素モノマーは、フルオロオレフィンであることが好ましい。含フッ素モノマーとしては、例えば、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、トリクロロフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、トリフルオロメチルトリフルオロエチレン等が挙げられる。また、ヒドロキシル基を有するモノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、シクロヘキサンジオールモノビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルアリルエーテル等のヒドロキシアルキルアリルエーテル、ヒドロキシアルキルクロトン酸ビニル等のヒドロキシル基含有カルボン酸ビニル、ヒドロキシ基含有アリルエステルなどが挙げられる。
【0067】
ポリオールの1分子中の活性水素基数(平均官能基数)は、1.9~6.0であることが好ましい。活性水素基数が上記範囲であれば、得られた塗膜がより優れた硬度を示す傾向がある。
【0068】
ポリオールの数平均分子量は、750~50000の範囲にあることが好ましい。ポリオールの数平均分子量が上記下限値以上であると、密着性がさらに向上する傾向がある。ポリオールの数平均分子量が上限値以下であると、低極性有機溶剤に対する溶解性がさらに向上し、密着性がさらに向上する傾向がある。
【0069】
ポリウレタン樹脂形成性組成物中、ポリイソシアネート組成物と、ポリオールとの含有量比は、特に限定するものではないが、ポリイソシアネート組成物中のイソシアネート基とポリオール中の水酸基のモル比R(イソシアネート基/水酸基)が、0.5~2.5となることが好ましい。モル比Rが上記下限値以上であると、水酸基が過剰になり過ぎないため、密着性がさらに向上する傾向があり、また、架橋密度の低下が抑制され、耐久性及び塗膜の機械的強度がさらに良好になりやすい。モル比Rが上記上限値以下であると、イソシアネート基が過剰になり過ぎず、空気中の水分と反応が抑制されるため、塗膜の膨れがより低減し、これに伴う密着性の低下がさらに抑制される傾向がある。
【0070】
ポリウレタン樹脂形成性組成物は、構成成分の全てが一液中に含まれる一液型の組成物であってよく、構成成分が複数の液中に分かれて存在する多液型の組成物であってもよい。多液型の組成物は、例えば、ポリオールを含む第一液(主剤)と、ポリイソシアネート組成物からなる第二液(硬化剤)と、を備えていてよい。
【0071】
ポリウレタン樹脂形成性組成物は、希釈溶剤を含有してよい。ポリウレタン樹脂形成性組成物が多液型である場合、希釈溶剤は、上記の第一液及び第二液の一方に含まれていてもよいし、両方に含まれていてもよい。希釈溶剤は、例えば有機溶剤である。希釈溶剤としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸セロソルブ等のエステル類、ブタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ミネラルスピリット、ナフサ等の炭化水素類などが挙げられる。希釈溶剤は、目的及び用途に応じて適宜選択して使用することができる。希釈溶剤は、1種を単独で、又は、2種以上組み合わせて用いることができる。
【0072】
ポリウレタン樹脂形成性組成物は、ウレタン化触媒を含有してよい。ウレタン化触媒としては、ポットライフ、硬化条件、及び作業条件等を考慮し、適宜公知のウレタン化触媒を用いることができる。具体的なウレタン化触媒としては、例えば、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート等の有機金属化合物、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の有機アミン又はその塩などが挙げられる。ウレタン化触媒は、1種を単独で、又は、2種以上組み合わせて用いることができる。
【0073】
ポリウレタン樹脂形成性組成物には、必要に応じて、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール等の酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、溶剤、難燃剤、加水分解抑制剤、潤滑剤、可塑剤、充填材、帯電防止剤、分散剤、触媒、貯蔵安定剤、界面活性剤、レベリング剤等の添加剤を適宜配合することができる。ポリウレタン樹脂形成性組成物が多液型である場合、これらの添加剤は、上記の第一液及び第二液の一方に含まれていてもよいし、両方に含まれていてもよい。
【0074】
ポリウレタン樹脂形成性組成物は、塗料組成物として好適に用いることができる。
【0075】
<塗料組成物及び塗膜>
本開示の一態様に係る塗料組成物は、上記実施形態のポリイソシアネート組成物と、イソシアネート反応性基を2以上有する化合物(以下、イソシアネート反応性化合物という。)を含む。また、本開示の一態様に係る塗膜は、上記した塗料組成物の硬化物を含む。
【0076】
イソシアネート反応性化合物は、ポリオールであってよい。すなわち、塗料組成物は、上記実施形態のポリウレタン樹脂形成性組成物を含んでいてもよい。イソシアネート反応性化合物は、イソシアネート反応性基(例えば活性水素基)を2以上有していればよく、ポリアミン、アミノアルコール等であってもよい。
【0077】
塗膜は、塗料組成物が上記実施形態のポリイソシアネート組成物を含むことから、高い硬度を有する。塗膜の23℃におけるマルテンス硬度は、好ましくは100N/mm以上、より好ましくは104N/mm以上、さらに好ましくは110N/mm以上である。マルテンス硬度は、JIS Z2255に準拠して測定することができる。
【0078】
塗膜は、上記塗料組成物を、スプレー、刷毛、浸漬、コーター等の公知の方法により被着体の表面上に塗布し、硬化させることで形成することができる。
【0079】
被着体としては、特に限定されるものではなく、ステンレス、リン酸処理鋼、亜鉛鋼、鉄、銅、アルミニウム、真鍮、ガラス、スレート、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート-ABS樹脂、6-ナイロン樹脂、6,6-ナイロン樹脂、MXD6ナイロン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリアセタール樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、NBR樹脂、クロロプレン樹脂、SBR樹脂、SEBS樹脂等の素材で成形された被着体、コロナ放電処理若しくはその他表面処理を施されたポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、又は前記被着体表面に中間形成となりうる塗膜層が形成された被着体などを用いることができる。
【0080】
塗料組成物の硬化条件としては、特に限定されるものではないが、硬化温度が-5~150℃、湿度が10~95%RH、養生時間が0.5~336時間であることが好ましい。
【0081】
被着体表層に形成される塗膜の膜厚は、リコート性及び耐久性に優れるため、被着体に少なくとも10マイクロメートルの膜厚を形成すればよい。膜厚が10マイクロメートル以上であると耐久性が向上し、衝撃により塗膜の破れ等が生じることをさらに抑制することができる。
【実施例0082】
以下、本開示の内容を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
<実施例1>
(ポリイソシアネート組成物の調製)
攪拌機、温度計、冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた容量1リットルの四つ口フラスコに、BDI(1,4-ブタンジイソシアネート、NCO含量:60.0質量%)を800g仕込み、これを80℃に加熱し、ビウレット化反応剤である水11.2g、溶媒であるテトラヒドロフラン90g、ビウレット化触媒であるリン酸ジブチル4.8gを添加し、4時間撹拌した。反応溶液を冷却後、薄膜蒸留(条件:110℃、0.04kPa)により過剰のBDIと溶媒を除去することにより、ポリイソシアネート組成物P-1を152g得た。得られたポリイソシアネート組成物P-1の特性を表1に示す。なお、本実施例において、ポリイソシアネート組成物の特性は以下の方法で測定した。
【0084】
(各官能基のモル比率の測定)
ポリイソシアネート組成物中に含まれるイソシアヌレート基、ウレトジオン基、イミノオキサジアジオン基、ウレタン基、アロファネート基、ウレア基、及びビウレット基それぞれのモル比率は日本電子社製ECX400M(商品名)を使用した13C-NMR法により求めた。
【0085】
具体的には、まず、ポリイソシアネート組成物をテトラメチルシランが0.2質量%含まれる重水素クロロホルムに溶解させて測定試料を調製した。試料濃度は0.2g/1mL質量%とした。化学シフト基準はクロロホルムの炭素シグナル77.16ppmとした。測定試料を13C-NMRにて測定し、イソシアヌレート基、ウレトジオン基、イミノオキサジアジオン基、ウレタン基、アロファネート基、ウレア基、及びビウレット基に対応する炭素原子のシグナル面積を求め、下記式で各官能基のモル比率を算出した。共鳴周波数は125MHzとし、積算回数は2048回とした。次いで、式(G)で表されるブタンジイソシアネート誘導体中ビウレット基のモル比率の割合(R)、式(B)ブタンジイソシアネート誘導体中のウレトジオン基のモル比率の割合(R)を算出した。
G/(A+B+C+D+E+F+G)×100 ・・・式(G)
[式中、A、B、C、D、E、F、及びGは、前記イソシアヌレート基、前記ウレトジオン基、前記イミノオキサジアジオン基、前記ウレタン基、前記アロファネート基、前記ウレア基、及び前記ビウレット基のモル比率をそれぞれ表す。]
B/(A+B+C+D+E+F+G)×100 ・・・式(B)
[式中、A、B、C、D、E、F、及びGは、前記イソシアヌレート基、前記ウレトジオン基、前記イミノオキサジアジオン基、前記ウレタン基、前記アロファネート基、前記ウレア基、及び前記ビウレット基のモル比率をそれぞれ表す。]
【0086】
イソシアヌレート基のモル比率:A=148.7ppm付近のシグナル面積/3
ウレトジオン基のモル比率:B=157.4ppm付近のシグナル面積/2
イミノオキサジアジンジオン基のモル比率:C=139.3ppm付近のシグナル面積/1
ウレタン基のモル比率:D=156.6ppm付近のシグナル面積/1
アロファネート基のモル比率:E=153.5ppm付近のシグナル面積/1
ウレア基のモル比率:F=157.5ppm付近のシグナル面積/1
ビウレット基のモル比率:G=156.1ppm付近のシグナル面積/2
【0087】
(粘度の測定)
得られたポリイソシアネート組成物(BDI誘導体)の粘度は、25℃環境下でレオメーター(HAAKE MARS60、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)にて測定した。
【0088】
(NCO含有量の測定)
得られたポリイソシアネート組成物(BDI誘導体)のNCO含有量は、該組成物を2級アミンと反応させた後、未反応の2級アミンを塩酸で逆滴定することで求めた。
【0089】
<実施例2>
攪拌機、温度計、冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた容量1リットルの四つ口フラスコに、BDIを800g、溶媒である1,4-ジオキサン90g、ビウレット化反応剤である水11.2gを仕込み、これを140℃に加熱し、3時間撹拌した。反応溶液を冷却後、薄膜蒸留(条件:110℃、0.04kPa)により過剰のBDIと溶媒を除去することにより、ポリイソシアネート組成物P-2を208g得た。得られたポリイソシアネート組成物P-2の特性を表1に示す。
【0090】
<実施例3>
攪拌機、温度計、冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた容量1リットルの四つ口フラスコに、BDIを800g仕込み、これを140℃に加熱し、3時間撹拌した。ビウレット化反応剤である水5.6gと、溶媒である1,4-ジオキサン90gを添加し、3時間撹拌した。反応溶液を冷却後、薄膜蒸留(条件:110℃、0.04kPa)により過剰のBDIと溶媒を除去することにより、ポリイソシアネート組成物P-3を176g得た。得られたポリイソシアネート組成物P-3の特性を表1に示す。
【0091】
<実施例4>
攪拌機、温度計、冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた容量1リットルの四つ口フラスコに、BDIを800g仕込み、これを140℃に加熱し、4時間撹拌した。ビウレット化反応剤である水4.0gと、溶媒である1,4-ジオキサン89gを添加し、3時間撹拌した。反応溶液を冷却後、薄膜蒸留(条件:110℃、0.04kPa)により過剰のBDIと溶媒を除去することにより、ポリイソシアネート組成物P-4を163g得た。得られたポリイソシアネート組成物P-4の特性を表1に示す。
【0092】
<実施例5>
攪拌機、温度計、冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた容量1リットルの四つ口フラスコに、BDIを800g仕込み、これを140℃に加熱し、5時間撹拌した。ビウレット化反応剤である水2.4gと、溶媒である1,4-ジオキサン89gを添加し、3時間撹拌した。反応溶液を冷却後、薄膜蒸留(条件:110℃、0.04kPa)により過剰のBDIと溶媒を除去することにより、ポリイソシアネート組成物P-5を136g得た。得られたポリイソシアネート組成物P-5の特性を表1に示す。
【0093】
<比較例1>
攪拌機、温度計、冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた容量1リットルの四つ口フラスコに、BDIを800g仕込み、これを140℃に加熱し、5時間撹拌した。ビウレット化反応剤である水0.8gと、溶媒である1,4-ジオキサン89gを添加し、3時間撹拌した。反応溶液を冷却後、薄膜蒸留(条件:110℃、0.04kPa)により過剰のBDIと溶媒を除去することにより、ポリイソシアネート組成物P-6を112g得た。得られたポリイソシアネート組成物P-6の特性を表1に示す。
【0094】
<比較例2>
比較例2では、HDI(1,6-ヘキサンジイソシアネート)から製造されたデスモジュールN 100(コベストロ社製)をそのままイソシアネート組成物P-7として使用した。それぞれの特性を表1に示す。
【0095】
<合成例1>
(塗膜評価用アクリルポリオールの調製)
攪拌機、温度計、冷却管、滴下ロートを備えた容量300ミリリットルの四つ口フラスコに、酢酸ブチルを70g仕込み、120℃に昇温した。滴下ロートにメタクリル酸メチル(三菱ガス化学社製)を60g、アクリル酸ブチル(日本触媒社製)を14g、2-ヒドロキシエチルアクリレート(東京化成工業社製)を21g、イソボニルアクリレート(共栄社化学社製)を5g、パーブチルO(日油社製、2-エチルペルオキシヘキサン-tert-ブチル)を2g加え、この混合液を反応溶液に4時間かけて滴下した。その後反応液を120℃で1時間保持し、滴下ロートに酢酸ブチルを30g、パーブチルOを1g加え、この混合液を反応溶液に1時間かけて滴下した。その後、120℃で3時間保持し室温に冷却後、アクリルポリオールA-1を得た。
A-1はJISK1557に準じた方法により測定したところ、樹脂固形分あたりの水酸基価が101mgKOH/gであった。また、外観は透明液体、固形分は50質量%、ガラス転移温度は52℃であった。
【0096】
<合成例2>
攪拌機、温度計、冷却管、滴下ロートを備えた容量300ミリリットルの四つ口フラスコに、酢酸ブチルを70g仕込み、120℃に昇温した。滴下ロートにメタクリル酸メチルを40g、アクリル酸ブチルを30g、2-ヒドロキシエチルアクリレートを25g、イソボニルアクリレートを5g、パーブチルOを2g加え、この混合液を反応溶液に4時間かけて滴下した。その後反応液を120℃で1時間保持し、滴下ロートに酢酸ブチルを30g、パーブチルOを1g加え、この混合液を反応溶液に1時間かけて滴下した。その後、120℃で3時間保持し室温に冷却後、アクリルポリオールA-2を得た。
A-2はJISK1557に準じた方法により測定したところ、樹脂固形分あたりの水酸基価が121mgKOH/gであった。また、外観は透明液体、固形分は50質量%、ガラス転移温度は15℃であった。
【0097】
<評価>
(硬化開始温度評価)
得られたポリイソシアネート組成物P-1~P-7とアクリルポリオールA-1からなる塗料組成物(二液塗料組成物)を調製し、得られた塗料組成物の硬化開始温度をRPT-3000W(商品名、エー・アンド・デイ社製)を用いた剛体振り子試験で測定することにより、ポリイソシアネート組成物P-1~P-7の硬化性を評価した。具体的には、まず、アクリルポリオールA-1とポリイソシアネート組成物P-1~P-7を水酸基とイソシアネート基当量比率が1:1になるように配合した後、酢酸ブチルで塗料固形分が50質量%となるように調整することで塗料組成物を得た。次いで、得られた塗料組成物を、塗膜の厚さが20μmになるように鋼板(JIS G3141、商品名:SPCC-SB、パルテック社製)に塗装した。次いで、鋼板を2.5℃/分の昇温速度で加熱し、振り子(フレーム:FRB-300、エッジ:RBE-160)の周期が減衰し始める温度を求め、温度を塗膜の硬化開始温度とした。
【0098】
(硬化速度評価)
得られたポリイソシアネート組成物P-1~P-7とアクリルポリオールA-1からなる塗料組成物(二液塗料組成物)を調製し、得られた塗料組成物の硬化速度をRPT-3000W(商品名、エー・アンド・デイ社製)を用いた剛体振り子試験で測定することにより、ポリイソシアネート組成物P-1~P-7の硬化性を評価した。具体的には、まず、アクリルポリオールA-1とポリイソシアネート組成物を水酸基とイソシアネート基当量比率が1:1になるように配合した後、酢酸ブチルで塗料固形分が50質量%となるように調整することで塗料組成物を得た。次いで、得られた塗料組成物を、塗膜の厚さが20μmになるように鋼板(JIS G3141、商品名:SPCC-SB、パルテック社製)に塗装した。次いで、鋼板を100℃で40分間加熱することで、振り子(フレーム:FRB-300、エッジ:RBE-160)の周期減衰を測定した。式(X)から相対貯蔵弾性率E’rを求め、加熱時間に対してプロットした後に、式(Y)でフィッティングすることで、硬化速度定数kを算出した。
【0099】
式(X):E’r=ω-α-ω
(式中、ωは振幅の減衰率、αは振り子振動の角速度、ωは試料がない時の振り子振動の角速度を表す。)
【0100】
式(Y):E’r(t)=E’r(∞)[1-exp{-k(t-t)}]
(式中、E’r(∞)はE’rの漸近値、kは硬化速度定数、tは時間、tは遅れ時間を表す。)
【0101】
(塗膜硬度評価)
得られたポリイソシアネート組成物P-1~P-7とアクリルポリオールA-2からなる塗料組成物(二液塗料組成物)を調製し、得られた塗料組成物を用いて塗膜(硬化膜)を形成し、形成された硬化膜のマルテンス硬度を測定した。具体的には、まず、アクリルポリオールA-2とポリイソシアネート組成物P-1~P-7を水酸基とイソシアネート基当量比率が1:1になるように配合した後、酢酸ブチルで塗料固形分が40質量%となるように調整することで塗料組成物を得た。次いで、得られた塗料組成物を、塗膜(未硬化膜)の厚さが20μmになるように鋼板(JIS G3141、商品名:SPCC-SB、処理方法:PF-1077、パルテック社製)に塗装した。その後、温度23℃、相対湿度50%の環境下で塗膜を1時間乾燥させた後、乾燥後の塗膜に対して80℃の乾燥機中で24時間加熱処理を行った。続いて、加熱処理後の塗膜を、温度23℃、相対湿度50%の環境下で7日間以上養生することで、塗料組成物の硬化物を含む塗膜(硬化膜)を得た。得られた塗膜(硬化膜)のマルテンス硬度を、HM2000(商品名、フィッシャーインストルメンツ社製)を用い、JIS Z2255に準拠して測定した。
【0102】
【表1】