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特開2025-5869油脂価格設定装置、油脂価格設定システム、油脂価格設定方法、および油脂価格設定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005869
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】油脂価格設定装置、油脂価格設定システム、油脂価格設定方法、および油脂価格設定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/10 20120101AFI20250109BHJP
【FI】
G06Q50/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】28
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106277
(22)【出願日】2023-06-28
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BDF
(71)【出願人】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】境野 眞善
(72)【発明者】
【氏名】岡本 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】江田 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】谷 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 貴稔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 基孝
(72)【発明者】
【氏名】竹田 健祐
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC12
5L050CC12
(57)【要約】
【課題】再資源化される廃油に対して適正な価格を設定することが可能な油脂価格設定装置、油脂価格設定システム、油脂価格設定方法、および油脂価格設定プログラムを提供する。
【解決手段】揚げ油Pの価格を設定する油脂価格設定装置としてのクラウドサーバ4,4Aであって、揚げ油Pの劣化指標と揚げ油Pからバイオマス資源への変換効率との相関を記憶する記憶部42と、劣化指標の測定値を取得するデータ取得部41と、データ取得部41にて取得された測定値と、記憶部42に記憶されている相関と、に基づいて、廃油として回収される際の揚げ油Pの回収価格を算出する回収価格算出部43と、回収価格算出部43にて算出された回収価格に基づいた揚げ油Pの価格を設定し出力する価格設定出力部44,44Aと、を含む。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂の価格を設定する油脂価格設定装置であって、
前記油脂の劣化度合いを示す指標である劣化指標と前記油脂をバイオマス資源として再資源化する場合における前記油脂から前記バイオマス資源への変換効率との相関を記憶する記憶部と、
前記劣化指標の測定値を取得するデータ取得部と、
前記データ取得部にて取得された前記測定値と、前記記憶部に記憶されている前記相関と、に基づいて、廃油として回収される際の前記油脂の回収価格を算出する回収価格算出部と、
前記回収価格算出部にて算出された前記回収価格に基づいた前記油脂の価格を設定し出力する価格設定出力部と、
を含む
ことを特徴とする油脂価格設定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の油脂価格設定装置であって、
前記回収価格算出部は、
前記相関に示された前記測定値に対応する前記劣化指標の大きさに基づいて、前記回収価格を算出し、
前記回収価格は、
前記劣化度合いが大きいほど安くなる
ことを特徴とする油脂価格設定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の油脂価格設定装置であって、
前記回収価格算出部は、
前記相関に示された前記測定値に対応する前記変換効率の高さに基づいて、前記回収価格を算出し、
前記回収価格は、
前記変換効率が低いほど安くなる
ことを特徴とする油脂価格設定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の油脂価格設定装置であって、
前記相関は、
前記劣化指標と前記変換効率との比例式で表され、前記劣化度合いが大きいほど前記変換効率が低下する関係である
ことを特徴とする油脂価格設定装置。
【請求項5】
請求項1に記載の油脂価格設定装置であって、
前記劣化指標は、
前記油脂の酸価、前記油脂の色、または前記油脂に含まれる極性化合物量である
ことを特徴とする油脂価格設定装置。
【請求項6】
請求項1に記載の油脂価格設定装置であって、
前記相関は、
前記変換効率を前記劣化指標の多項式で表した相関式である
ことを特徴とする油脂価格設定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の油脂価格設定装置であって、
前記劣化指標には、
前記油脂の酸価と、前記油脂の色と、前記油脂に含まれる極性化合物量と、前記油脂に含まれる金属量と、が含まれ、
前記相関式は、
前記変換効率をCEとし、
前記酸価をAVとし、
前記色をCOLORとし、
前記極性化合物量をPCとし、
前記金属量としてのリンをPとし、
前記金属量としてのナトリウムをNaとすると、
下記の数式で表される
ことを特徴とする油脂価格設定装置。
CE=α×(AV)+β×(COLOR)+γ×(PC)+δ×(P)+ε×(Na)+ζ
α:AVの係数
β:COLORの係数
γ:PCの係数
δ:Pの係数
ε:Naの係数
ζ:定数
【請求項8】
請求項1に記載の油脂価格設定装置であって、
前記回収価格算出部にて算出された前記回収価格に基づいて、新油として提供される際の前記油脂の提供価格を算出する提供価格算出部をさらに含み、
前記価格設定出力部は、
前記回収価格算出部にて算出された前記回収価格に代えて前記提供価格算出部にて算出された前記提供価格を、あるいは、前記回収価格算出部にて算出された前記回収価格と共に前記提供価格算出部にて算出された前記提供価格を、前記油脂の価格として設定し出力する
ことを特徴とする油脂価格設定装置。
【請求項9】
油脂の価格を設定する油脂価格設定システムであって、
前記油脂の劣化度合いを示す指標である劣化指標を測定する測定装置と、
前記測定装置で測定された測定値に基づいて前記油脂の価格を設定する油脂価格設定装置と、
前記油脂価格設定装置で設定された前記油脂の価格を報知する報知装置と、を備え、
前記油脂価格設定装置は、
前記油脂の前記劣化指標と前記油脂をバイオマス資源として再資源化する場合における前記油脂から前記バイオマス資源への変換効率との相関を記憶しており、
前記測定装置で測定された前記測定値を取得し、
取得した前記測定値と、記憶している前記相関と、に基づいて、廃油として回収される際の前記油脂の回収価格を算出し、
算出した前記回収価格に基づいた前記油脂の価格を設定し前記報知装置に対して出力する
ことを特徴とする油脂価格設定システム。
【請求項10】
請求項9に記載の油脂価格設定システムであって、
前記油脂価格設定装置は、
記憶している前記相関に示された前記測定値に対応する前記劣化指標の大きさに基づいて、前記回収価格を算出し、
前記回収価格は、
前記劣化度合いが大きいほど安くなる
ことを特徴とする油脂価格設定システム。
【請求項11】
請求項9に記載の油脂価格設定システムであって、
前記油脂価格設定装置は、
記憶している前記相関に示された前記測定値に対応する前記変換効率の高さに基づいて、前記回収価格を算出し、
前記回収価格は、
前記変換効率が低いほど安くなる
ことを特徴とする油脂価格設定システム。
【請求項12】
請求項9に記載の油脂価格設定システムであって、
前記相関は、
前記劣化指標と前記変換効率との比例式で表され、前記劣化度合いが大きいほど前記変換効率が低下する関係である
ことを特徴とする油脂価格設定システム。
【請求項13】
請求項9に記載の油脂価格設定システムであって、
前記劣化指標は、
前記油脂の酸価、前記油脂の色、または前記油脂に含まれる極性化合物量である
ことを特徴とする油脂価格設定システム。
【請求項14】
請求項9に記載の油脂価格設定システムであって、
前記相関は、
前記変換効率を前記劣化指標の多項式で表した相関式である
ことを特徴とする油脂価格設定システム。
【請求項15】
請求項14に記載の油脂価格設定システムであって、
前記劣化指標には、
前記油脂の酸価と、前記油脂の色と、前記油脂に含まれる極性化合物量と、前記油脂に含まれる金属量と、が含まれ、
前記相関式は、
前記変換効率をCEとし、
前記酸価をAVとし、
前記色をCOLORとし、
前記極性化合物量をPCとし、
前記金属量としてのリンをPとし、
前記金属量としてのナトリウムをNaとすると、
下記の数式で表される
ことを特徴とする油脂価格設定システム。
CE=α×(AV)+β×(COLOR)+γ×(PC)+δ×(P)+ε×(Na)+ζ
α:AVの係数
β:COLORの係数
γ:PCの係数
δ:Pの係数
ε:Naの係数
ζ:定数
【請求項16】
請求項9に記載の油脂価格設定システムであって、
前記油脂価格設定装置は、
算出した前記回収価格に基づいて、新油として提供される際の前記油脂の提供価格を算出し、
算出した前記回収価格に代えて算出した前記提供価格を、あるいは、算出した前記回収価格と共に算出した前記提供価格を、前記油脂の価格として設定し前記報知装置に対して出力する
ことを特徴とする油脂価格設定システム。
【請求項17】
油脂の価格を設定する油脂価格設定方法であって、
前記油脂の劣化度合いを示す指標である劣化指標を測定する測定装置と、
前記測定装置で測定された測定値に基づいて前記油脂の価格を設定する油脂価格設定装置と、を用い、
前記測定装置が、前記油脂の前記劣化指標を測定する測定ステップと、
前記油脂価格設定装置が、前記測定ステップにて測定された前記測定値を取得するデータ取得ステップと、
前記油脂価格設定装置が、前記データ取得ステップにて取得された前記測定値と、前記油脂の前記劣化指標と前記油脂をバイオマス資源として再資源化する場合における前記油脂から前記バイオマス資源への変換効率との相関と、に基づいて、廃油として回収される際の前記油脂の回収価格を算出する回収価格算出ステップと、
前記油脂価格設定装置が、前記回収価格算出ステップにて算出された前記回収価格に基づいた前記油脂の価格を設定し出力する価格設定出力ステップと、を含む
ことを特徴とする油脂価格設定方法。
【請求項18】
請求項17に記載の油脂価格設定方法であって、
前記回収価格算出ステップでは、
前記油脂価格設定装置は、前記相関に示された前記測定値に対応する前記劣化指標の大きさに基づいて、前記回収価格を算出し、
前記回収価格は、
前記劣化度合いが大きいほど安くなる
ことを特徴とする油脂価格設定方法。
【請求項19】
請求項17に記載の油脂価格設定方法であって、
前記回収価格算出ステップでは、
前記油脂価格設定装置は、前記相関に示された前記測定値に対応する前記変換効率の高さに基づいて、前記回収価格を算出し、
前記回収価格は、
前記変換効率が低いほど安くなる
ことを特徴とする油脂価格設定方法。
【請求項20】
請求項17に記載の油脂価格設定方法であって、
前記相関は、
前記劣化指標と前記変換効率との比例式で表され、前記劣化度合いが大きいほど前記変換効率が低下する関係である
ことを特徴とする油脂価格設定方法。
【請求項21】
請求項17に記載の油脂価格設定方法であって、
前記劣化指標は、
前記油脂の酸価、前記油脂の色、または前記油脂に含まれる極性化合物量である
ことを特徴とする油脂価格設定方法。
【請求項22】
請求項17に記載の油脂価格設定方法であって、
前記相関は、
前記変換効率を前記劣化指標の多項式で表した相関式である
ことを特徴とする油脂価格設定方法。
【請求項23】
請求項22に記載の油脂価格設定方法であって、
前記劣化指標には、
前記油脂の酸価と、前記油脂の色と、前記油脂に含まれる極性化合物量と、前記油脂に含まれる金属量と、が含まれ、
前記相関式は、
前記変換効率をCEとし、
前記酸価をAVとし、
前記色をCOLORとし、
前記極性化合物量をPCとし、
前記金属量としてのリンをPとし、
前記金属量としてのナトリウムをNaとすると、
下記の数式で表される
ことを特徴とする油脂価格設定方法。
CE=α×(AV)+β×(COLOR)+γ×(PC)+δ×(P)+ε×(Na)+ζ
α:AVの係数
β:COLORの係数
γ:PCの係数
δ:Pの係数
ε:Naの係数
ζ:定数
【請求項24】
請求項17に記載の油脂価格設定方法であって、
前記油脂価格設定装置が、前記回収価格算出ステップにて算出された前記回収価格に基づいて、新油として提供される際の前記油脂の提供価格を算出する提供価格算出ステップをさらに含み、
前記価格設定出力ステップでは、
前記油脂価格設定装置は、前記回収価格算出ステップにて算出された前記回収価格に代えて前記提供価格算出ステップにて算出された前記提供価格を、あるいは、前記回収価格算出ステップにて算出された前記回収価格と共に前記提供価格算出ステップにて算出された前記提供価格を、前記油脂の価格として設定し出力する
ことを特徴とする油脂価格設定方法。
【請求項25】
油脂の価格を設定するための油脂価格設定プログラムであって、
前記油脂の劣化度合いを示す指標である劣化指標の測定値を取得するデータ取得処理と、
前記データ取得処理により取得した前記測定値と、前記油脂の前記劣化指標と前記油脂をバイオマス資源として再資源化する場合における前記油脂から前記バイオマス資源への変換効率との相関と、に基づいて、廃油として回収される際の前記油脂の回収価格を算出する回収価格算出処理と、
前記回収価格算出処理により算出した前記回収価格に基づいた前記油脂の価格を設定し出力する価格設定出力処理と、
をコンピュータに実行させる
ことを特徴とする油脂価格設定プログラム。
【請求項26】
請求項25に記載の油脂価格設定プログラムであって、
前記相関は、
前記劣化指標と前記変換効率との比例式で表され、前記劣化度合いが大きいほど前記変換効率が低下する関係である
ことを特徴とする油脂価格設定プログラム。
【請求項27】
請求項25に記載の油脂価格設定プログラムであって、
前記相関は、
前記変換効率を前記劣化指標の多項式で表した相関式である
ことを特徴とする油脂価格設定プログラム。
【請求項28】
請求項27に記載の油脂価格設定プログラムであって、
前記劣化指標には、
前記油脂の酸価と、前記油脂の色と、前記油脂に含まれる極性化合物量と、前記油脂に含まれる金属量と、が含まれ、
前記相関式は、
前記変換効率をCEとし、
前記酸価をAVとし、
前記色をCOLORとし、
前記極性化合物量をPCとし、
前記金属量としてのリンをPとし、
前記金属量としてのナトリウムをNaとすると、
下記の数式で表される
ことを特徴とする油脂価格設定プログラム。
CE=α×(AV)+β×(COLOR)+γ×(PC)+δ×(P)+ε×(Na)+ζ
α:AVの係数
β:COLORの係数
γ:PCの係数
δ:Pの係数
ε:Naの係数
ζ:定数
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂の価格を設定する油脂価格設定装置、油脂価格設定システム、油脂価格設定方法、および油脂価格設定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals、持続可能な開発のための2030アジェンダ、平成27(2015)年9月25日国連サミット採択、以下「SDGs」という)の推進に向けた取り組みが行われている。それに伴い、持続可能な生産消費形態の確保などのため、廃棄物の発生防止、廃棄物の削減、ならびに製品の再生利用および再利用によって廃棄物の発生を大幅に削減することなどを目指す技術が知られている。
【0003】
例えば、飲食店や工場などで大量に発生する事業用の廃油は、専門の廃油回収業者によって回収され、その後、バイオマス燃料やバイオマスナフサ、バイオプラスチックなどのバイオマス資源に生まれ変わって再利用される。良質なバイオマス資源を得るには、廃油中に含まれる不純物が少ない方が好ましい。
【0004】
特許文献1には、廃棄物提供者が液体廃棄物として廃油を投入受槽に入れると、電気抵抗計が廃油の電気抵抗を測定し、測定された電気抵抗測定値が対象廃棄物に応じて決められた範囲内にあり廃油が対象廃棄物であると判定され、重量計により測定された廃油の重量が収集コストの見合う程度の重量となる場合に、提供された廃油を回収する液体廃棄物回収システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-217104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の液体廃棄物回収システムでは、提供された廃油が再資源化の対象となり得るか否かを判定するにあたって、電気抵抗値から求められる廃油中の水分量の多少を判定基準としており、時間経過に伴って進行する廃油の総合的な劣化度合いが考慮されていないため、判定精度が低下する。そして、提供された廃油の回収料金は、回収業者が廃油の劣化度合いとは無関係に廃油の重量のみに基づいて設定しているため、適正な価格で取り引きされていない可能性が高い。
【0007】
そこで、本発明の目的は、再資源化される廃油に対して適正な価格を設定することが可能な油脂価格設定装置、油脂価格設定システム、油脂価格設定方法、および油脂価格設定プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]本発明は、油脂の価格を設定する油脂価格設定装置であって、前記油脂の劣化度合いを示す指標である劣化指標と前記油脂をバイオマス資源として再資源化する場合における前記油脂から前記バイオマス資源への変換効率との相関を記憶する記憶部と、前記劣化指標の測定値を取得するデータ取得部と、前記データ取得部にて取得された前記測定値と、前記記憶部に記憶されている前記相関と、に基づいて、廃油として回収される際の前記油脂の回収価格を算出する回収価格算出部と、前記回収価格算出部にて算出された前記回収価格に基づいた前記油脂の価格を設定し出力する価格設定出力部と、を含むことを特徴とする。
【0009】
[2]好ましくは、前記[1]に記載の油脂価格設定装置であって、前記回収価格算出部は、前記相関に示された前記測定値に対応する前記劣化指標の大きさに基づいて、前記回収価格を算出し、前記回収価格は、前記劣化度合いが大きいほど安くなることを特徴とする。
【0010】
[3]好ましくは、前記[1]に記載の油脂価格設定装置であって、前記回収価格算出部は、前記相関に示された前記測定値に対応する前記変換効率の高さに基づいて、前記回収価格を算出し、前記回収価格は、前記変換効率が低いほど安くなることを特徴とする。
【0011】
[4]好ましくは、前記[1]に記載の油脂価格設定装置であって、前記相関は、前記劣化指標と前記変換効率との比例式で表され、前記劣化度合いが大きいほど前記変換効率が低下する関係であることを特徴とする。
【0012】
[5]好ましくは、前記[1]に記載の油脂価格設定装置であって、前記劣化指標は、前記油脂の酸価、前記油脂の色、または前記油脂に含まれる極性化合物量であることを特徴とする。
【0013】
[6]好ましくは、前記[1]に記載の油脂価格設定装置であって、前記相関は、前記変換効率を前記劣化指標の多項式で表した相関式であることを特徴とする。
【0014】
[7]好ましくは、前記[6]に記載の油脂価格設定装置であって、前記劣化指標には、前記油脂の酸価と、前記油脂の色と、前記油脂に含まれる極性化合物量と、前記油脂に含まれる金属量と、が含まれ、前記相関式は、前記変換効率をCEとし、前記酸価をAVとし、前記色をCOLORとし、前記極性化合物量をPCとし、前記金属量としてのリンをPとし、前記金属量としてのナトリウムをNaとすると、下記の数式で表されることを特徴とする。
CE=α×(AV)+β×(COLOR)+γ×(PC)+δ×(P)+ε×(Na)+ζ
α:AVの係数
β:COLORの係数
γ:PCの係数
δ:Pの係数
ε:Naの係数
ζ:定数
【0015】
[8]好ましくは、前記[1]に記載の油脂価格設定装置であって、前記回収価格算出部にて算出された前記回収価格に基づいて、新油として提供される際の前記油脂の提供価格を算出する提供価格算出部をさらに含み、前記価格設定出力部は、前記回収価格算出部にて算出された前記回収価格に代えて前記提供価格算出部にて算出された前記提供価格を、あるいは、前記回収価格算出部にて算出された前記回収価格と共に前記提供価格算出部にて算出された前記提供価格を、前記油脂の価格として設定し出力することを特徴とする。
【0016】
[9]また、本発明は、油脂の価格を設定する油脂価格設定システムであって、前記油脂の劣化度合いを示す指標である劣化指標を測定する測定装置と、前記測定装置で測定された測定値に基づいて前記油脂の価格を設定する油脂価格設定装置と、前記油脂価格設定装置で設定された前記油脂の価格を報知する報知装置と、を備え、前記油脂価格設定装置は、前記油脂の前記劣化指標と前記油脂をバイオマス資源として再資源化する場合における前記油脂から前記バイオマス資源への変換効率との相関を記憶しており、前記測定装置で測定された前記測定値を取得し、取得した前記測定値と、記憶している前記相関と、に基づいて、廃油として回収される際の前記油脂の回収価格を算出し、算出した前記回収価格に基づいた前記油脂の価格を設定し前記報知装置に対して出力することを特徴とする。
【0017】
[10]好ましくは、前記[9]に記載の油脂価格設定システムであって、前記油脂価格設定装置は、記憶している前記相関に示された前記測定値に対応する前記劣化指標の大きさに基づいて、前記回収価格を算出し、前記回収価格は、前記劣化度合いが大きいほど安くなることを特徴とする。
【0018】
[11]好ましくは、前記[9]に記載の油脂価格設定システムであって、前記油脂価格設定装置は、記憶している前記相関に示された前記測定値に対応する前記変換効率の高さに基づいて、前記回収価格を算出し、前記回収価格は、前記変換効率が低いほど安くなることを特徴とする。
【0019】
[12]好ましくは、前記[9]に記載の油脂価格設定システムであって、前記相関は、前記劣化指標と前記変換効率との比例式で表され、前記劣化度合いが大きいほど前記変換効率が低下する関係であることを特徴とする。
【0020】
[13]好ましくは、前記[9]に記載の油脂価格設定システムであって、前記劣化指標は、前記油脂の酸価、前記油脂の色、または前記油脂に含まれる極性化合物量であることを特徴とする。
【0021】
[14]好ましくは、前記[9]に記載の油脂価格設定システムであって、前記相関は、前記変換効率を前記劣化指標の多項式で表した相関式であることを特徴とする。
【0022】
[15]好ましくは、前記[14]に記載の油脂価格設定システムであって、前記劣化指標には、前記油脂の酸価と、前記油脂の色と、前記油脂に含まれる極性化合物量と、前記油脂に含まれる金属量と、が含まれ、前記相関式は、前記変換効率をCEとし、前記酸価をAVとし、前記色をCOLORとし、前記極性化合物量をPCとし、前記金属量としてのリンをPとし、前記金属量としてのナトリウムをNaとすると、下記の数式で表されることを特徴とする。
CE=α×(AV)+β×(COLOR)+γ×(PC)+δ×(P)+ε×(Na)+ζ
α:AVの係数
β:COLORの係数
γ:PCの係数
δ:Pの係数
ε:Naの係数
ζ:定数
【0023】
[16]好ましくは、前記[9]に記載の油脂価格設定システムであって、前記油脂価格設定装置は、算出した前記回収価格に基づいて、新油として提供される際の前記油脂の提供価格を算出し、算出した前記回収価格に代えて算出した前記提供価格を、あるいは、算出した前記回収価格と共に算出した前記提供価格を、前記油脂の価格として設定し前記報知装置に対して出力することを特徴とする。
【0024】
[17]また、本発明は、油脂の価格を設定する油脂価格設定方法であって、前記油脂の劣化度合いを示す指標である劣化指標を測定する測定装置と、前記測定装置で測定された測定値に基づいて前記油脂の価格を設定する油脂価格設定装置と、を用い、前記測定装置が、前記油脂の前記劣化指標を測定する測定ステップと、前記油脂価格設定装置が、前記測定ステップにて測定された前記測定値を取得するデータ取得ステップと、前記油脂価格設定装置が、前記データ取得ステップにて取得された前記測定値と、前記油脂の前記劣化指標と前記油脂をバイオマス資源として再資源化する場合における前記油脂から前記バイオマス資源への変換効率との相関と、に基づいて、廃油として回収される際の前記油脂の回収価格を算出する回収価格算出ステップと、前記油脂価格設定装置が、前記回収価格算出ステップにて算出された前記回収価格に基づいた前記油脂の価格を設定し出力する価格設定出力ステップと、を含むことを特徴とする。
【0025】
[18]好ましくは、前記[17]に記載の油脂価格設定方法であって、前記回収価格算出ステップでは、前記油脂価格設定装置は、前記相関に示された前記測定値に対応する前記劣化指標の大きさに基づいて、前記回収価格を算出し、前記回収価格は、前記劣化度合いが大きいほど安くなることを特徴とする。
【0026】
[19]好ましくは、前記[17]に記載の油脂価格設定方法であって、前記回収価格算出ステップでは、前記油脂価格設定装置は、前記相関に示された前記測定値に対応する前記変換効率の高さに基づいて、前記回収価格を算出し、前記回収価格は、前記変換効率が低いほど安くなることを特徴とする。
【0027】
[20]好ましくは、前記[17]に記載の油脂価格設定方法であって、前記相関は、前記劣化指標と前記変換効率との比例式で表され、前記劣化度合いが大きいほど前記変換効率が低下する関係であることを特徴とする。
【0028】
[21]好ましくは、前記[17]に記載の油脂価格設定方法であって、前記劣化指標は、前記油脂の酸価、前記油脂の色、または前記油脂に含まれる極性化合物量であることを特徴とする。
【0029】
[22]好ましくは、前記[17]に記載の油脂価格設定方法であって、前記相関は、前記変換効率を前記劣化指標の多項式で表した相関式であることを特徴とする。
【0030】
[23]好ましくは、前記[22]に記載の油脂価格設定方法であって、前記劣化指標には、前記油脂の酸価と、前記油脂の色と、前記油脂に含まれる極性化合物量と、前記油脂に含まれる金属量と、が含まれ、前記相関式は、前記変換効率をCEとし、前記酸価をAVとし、前記色をCOLORとし、前記極性化合物量をPCとし、前記金属量としてのリンをPとし、前記金属量としてのナトリウムをNaとすると、下記の数式で表されることを特徴とする。
CE=α×(AV)+β×(COLOR)+γ×(PC)+δ×(P)+ε×(Na)+ζ
α:AVの係数
β:COLORの係数
γ:PCの係数
δ:Pの係数
ε:Naの係数
ζ:定数
【0031】
[24]好ましくは、前記[17]に記載の油脂価格設定方法であって、前記油脂価格設定装置が、前記回収価格算出ステップにて算出された前記回収価格に基づいて、新油として提供される際の前記油脂の提供価格を算出する提供価格算出ステップをさらに含み、前記価格設定出力ステップでは、前記油脂価格設定装置は、前記回収価格算出ステップにて算出された前記回収価格に代えて前記提供価格算出ステップにて算出された前記提供価格を、あるいは、前記回収価格算出ステップにて算出された前記回収価格と共に前記提供価格算出ステップにて算出された前記提供価格を、前記油脂の価格として設定し出力することを特徴とする。
【0032】
[25]また、本発明は、油脂の価格を設定するための油脂価格設定プログラムであって、前記油脂の劣化度合いを示す指標である劣化指標の測定値を取得するデータ取得処理と、前記データ取得処理により取得した前記測定値と、前記油脂の前記劣化指標と前記油脂をバイオマス資源として再資源化する場合における前記油脂から前記バイオマス資源への変換効率との相関と、に基づいて、廃油として回収される際の前記油脂の回収価格を算出する回収価格算出処理と、前記回収価格算出処理により算出した前記回収価格に基づいた前記油脂の価格を設定し出力する価格設定出力処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0033】
[26]好ましくは、前記[25]に記載の油脂価格設定プログラムであって、前記相関は、前記劣化指標と前記変換効率との比例式で表され、前記劣化度合いが大きいほど前記変換効率が低下する関係であることを特徴とする。
【0034】
[27]好ましくは、前記[25]に記載の油脂価格設定プログラムであって、前記相関は、前記変換効率を前記劣化指標の多項式で表した相関式であることを特徴とする。
【0035】
[28]好ましくは、前記[27]に記載の油脂価格設定プログラムであって、前記劣化指標には、前記油脂の酸価と、前記油脂の色と、前記油脂に含まれる極性化合物量と、前記油脂に含まれる金属量と、が含まれ、前記相関式は、前記変換効率をCEとし、前記酸価をAVとし、前記色をCOLORとし、前記極性化合物量をPCとし、前記金属量としてのリンをPとし、前記金属量としてのナトリウムをNaとすると、下記の数式で表されることを特徴とする。
CE=α×(AV)+β×(COLOR)+γ×(PC)+δ×(P)+ε×(Na)+ζ
α:AVの係数
β:COLORの係数
γ:PCの係数
δ:Pの係数
ε:Naの係数
ζ:定数
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、再資源化される廃油に対して適正な価格を設定することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の第1実施形態に係る油脂価格設定システムの一構成例を示すシステム構成図である。
図2】揚げ油の酸価と揚げ油からバイオ燃料への変換効率との相関を示すグラフである。
図3】揚げ油の色と揚げ油からバイオ燃料への変換効率との相関を示すグラフである。
図4】揚げ油に含まれる極性化合物量と揚げ油からバイオ燃料への変換効率との相関を示すグラフである。
図5】揚げ油のリン含量と揚げ油からバイオ燃料への変換効率との相関を示すグラフである。
図6】揚げ油のナトリウム含量と揚げ油からバイオ燃料への変換効率との相関を示すグラフである。
図7】揚げ油の亜鉛含量と揚げ油からバイオ燃料への変換効率との相関を示すグラフである。
図8】揚げ油のマグネシウム含量と揚げ油からバイオ燃料への変換効率との相関を示すグラフである。
図9】揚げ油のカルシウム含量と揚げ油からバイオ燃料への変換効率との相関を示すグラフである。
図10】クラウドサーバのハードウェア構成の一例を示す図である。
図11】クラウドサーバが有する機能を示す機能ブロック図である。
図12】回収価格算出部における廃油の回収価格の算出方法について説明する図である。
図13】クラウドサーバで実行される処理の流れを示すフローチャートである。
図14】クラウドサーバを用いて実現可能なビジネスモデルの一例を示す図である。
図15】揚げ油の劣化指標と揚げ油からバイオ燃料への変換効率との相関の他の例について説明する図である。
図16】本発明の第2実施形態に係るクラウドサーバが有する機能を示す機能ブロック図である。
図17】第2実施形態に係るクラウドサーバで実行される処理の流れを示すフローチャートである。
図18】第2実施形態に係るクラウドサーバを用いて実現可能なビジネスモデルの一例を示す図である。
図19】第2実施形態に係るクラウドサーバを用いて実現可能なビジネスモデルの他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の各実施形態に係る油脂価格設定システムは、バイオマス燃料やバイオマスナフサ、バイオプラスチックなどのバイオマス資源として再資源化され得る油脂の価格を設定するシステムであり、以下では、バイオマス資源として再資源化され得る油脂のうち、例えば、コンビニエンスストアやスーパーマーケット、飲食店などにて揚げ物の調理に使用される食用油(以下、「揚げ油」とする)を例に挙げて説明する。
【0039】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る油脂価格設定システム1について、図1~15を参照して説明する。
【0040】
(油脂価格設定システム1の構成)
まず、第1実施形態に係る油脂価格設定システム1の構成について、図1を参照して説明する。
【0041】
図1は、本発明の第1実施形態に係る油脂価格設定システム1の一構成例を示すシステム構成図である。
【0042】
コンビニエンスストアやスーパーマーケット、飲食店など、揚げ油Pを大量に使用する店では、一般に、使用済みの劣化した揚げ油Pを事業用の廃油としてドラム缶Qなどに収容して保管しておき、定期的に廃油回収業者に回収してもらう。本実施形態に係る油脂価格設定システム1は、廃油回収業者によって廃油として回収される際の揚げ油Pの回収価格(買取価格)を設定する。
【0043】
油脂価格設定システム1は、ドラム缶Qに収容されている揚げ油Pの劣化度合いを示す劣化指標を測定する測定装置としての測定センサ2と、揚げ油Pに係る情報が表示される携帯端末3と、揚げ油Pの価格を設定するための油脂価格設定プログラムを実行するクラウドサーバ4と、を含んで構成されている。
【0044】
揚げ油Pの劣化指標としては、例えば、揚げ油Pの酸価(AV)、揚げ油Pに含まれる極性化合物量(PC)、揚げ油Pの色、揚げ油Pの金属(例えば、P、Na、Zn、Mg、Caなど)含量、揚げ油Pの粘度、揚げ油Pの粘度上昇率、揚げ油Pの泡立ち、揚げ油Pの過酸化物価、揚げ油Pのアニシジン価、揚げ油Pのカルボニル価、揚げ油Pの発煙点、揚げ油Pのトコフェロール含量、揚げ油Pのヨウ素価、揚げ油Pの屈折率、および揚げ油Pの揮発性成分量などが挙げられる。これらはいずれも、揚げ油Pの加熱時間の経過に伴って変化するパラメータである。
【0045】
これら揚げ油Pの劣化指標はそれぞれ、一般に、基準油脂分析試験法やISOなどに定められた方法に準じて、理化学分析や分析機器を用いた測定方法によって正確な数値を求めることができる。また、揚げ調理に用いられた揚げ油Pが廃油される現場(例えばコンビニエンスストアやスーパーマーケット、飲食店など)では、これらの測定方法に代えてカメラ、各種センサ、および試験紙などの測定装置を用いることによって、揚げ油Pの劣化指標を簡易的に測定することが可能である。
【0046】
例えば、揚げ油Pの酸価の測定には、揚げ油Pを滴下した部分の色の変化から酸価を測定する試験紙や、揚げ油Pに浸すことで揚げ油Pの酸価を直接的に測定することが可能なAVセンサなどが用いられる。また、例えば、揚げ油Pに含まれる極性化合物量の測定には、揚げ油Pに浸すことで揚げ油Pに含まれる極性化合物量を直接的に測定することが可能なPCセンサなどが用いられる。また、例えば、揚げ油Pの揮発性成分量の測定には、汎用のガスセンサ(例えば、半導体式ガスセンサや水晶振動子式ガスセンサ)などが用いられる。
【0047】
その他の揚げ油Pの劣化指標の測定方法としては、例えば、カメラで撮影した揚げ油Pの表面画像に画像認識技術を施すことにより揚げ油Pの劣化指標を測定する方法や、分光計や近赤外線分光計により測定した揚げ油Pのスペクトルに基づいて揚げ油Pの劣化指標を推測する方法、食用油の劣化指標を段階的に示した試料に照らして目視で揚げ油Pの劣化指標を評価する方法などがある。
【0048】
本実施形態では、図1に示すように、測定センサ2には、AVセンサやPCセンサといった揚げ油Pに浸すことで揚げ油Pの劣化指標を直接的に測定することが可能な測定機器が用いられている。なお、揚げ油Pの劣化指標を測定する際には、必ずしも測定センサ2を用いる必要はなく、上記に列挙した測定装置を含む既知の測定装置を用いてもよいし、上記に列挙した測定方法を含む既知の測定方法を利用してもよい。
【0049】
測定センサ2は、携帯端末3に対して通信可能に接続されており、測定した揚げ油Pの劣化指標に係るデータ(測定値)を携帯端末3に対して出力する。
【0050】
携帯端末3とクラウドサーバ4とは、例えばインターネット回線などの通信ネットワークを介して、直接的にまたは間接的に互いに情報通信可能に接続されている。
【0051】
携帯端末3は、測定センサ2から取得した揚げ油Pの劣化指標の測定値をクラウドサーバ4に対して出力する。すなわち、本実施形態では、測定センサ2で測定された揚げ油Pの劣化指標の測定値は、携帯端末3を介してクラウドサーバ4に対して出力される。
【0052】
なお、測定センサ2は、必ずしも携帯端末3に対して通信可能に接続されている必要はなく、例えば、クラウドサーバ4に対して通信可能に接続されていてもよい。この場合、測定センサ2で測定された揚げ油Pの劣化指標の測定値は、携帯端末3を介さずにクラウドサーバ4に対して直接出力されることになる。また、試験紙や試料など、揚げ油Pの劣化指標の測定値を直接的に測定することが可能な測定機器を用いる方法以外の方法により揚げ油Pの劣化指標が測定される場合には、揚げ油Pの劣化指標の測定値は、携帯端末3に直接入力されることとなる。
【0053】
クラウドサーバ4は、揚げ油Pの劣化指標と揚げ油Pをバイオマス資源として再資源化する場合における揚げ油Pからバイオマス資源への変換効率との相関を記憶しており、測定センサ2で測定された揚げ油Pの劣化指標の測定値と、記憶している相関と、に基づいて、揚げ油Pの価格を設定する油脂価格設定装置の一態様である。
【0054】
本実施形態では、クラウドサーバ4は、測定センサ2で測定された揚げ油Pの劣化指標の測定値を取得する処理(データ取得処理)、取得した測定値と記憶している相関とに基づいて廃油として回収される際の揚げ油Pの回収価格を算出する処理(回収価格算出処理)、および、算出した揚げ油Pの回収価格を揚げ油Pの価格として設定し携帯端末3に対して出力する処理(価格設定出力処理)をそれぞれ実行する。
【0055】
携帯端末3は、クラウドサーバ4から出力された揚げ油Pの回収価格をディスプレイに表示する。すなわち、携帯端末3は、クラウドサーバ4で設定された揚げ油Pの価格を報知(文字による表示および音による通知を含む)する報知装置の一態様である。
【0056】
(揚げ油Pの劣化指標と変換効率との相関について)
次に、揚げ油Pの劣化指標と揚げ油Pをバイオマス資源として再資源化する場合における揚げ油Pからバイオマス資源への変換効率との相関について、図2~9を参照して説明する。
【0057】
なお、図2~9のそれぞれに示す変換効率[%]は、揚げ油Pから例えばバイオディーゼル燃料(BioDiesel Fuel;BDF)や持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel;SAF)などのバイオマス燃料(以下、「バイオ燃料」とする)への変換効率とする。
【0058】
この「揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率」とは、揚げ油Pに対して水素化処理(脱酸素化処理)を行ってバイオ燃料を生成するときの水素化効率(炭化水素収率)に相当する。水素化処理は、触媒の存在下で行うことが好ましい。触媒は、元素周期表第7族~第10族から選ばれる1種以上の金属を含むことが好ましく、より好ましくは、イリジウム、パラジウム、白金、レニウム、ロジウムルテニウムおよびニッケルからなる群より選択される1種または2種以上の金属を含む。図2~9では、揚げ油Pに対してIr-ReOx-SiO触媒を用いた水素化処理が行われ、揚げ油Pが新油もしくは新油に相当する状態の油である場合の変換効率が100%として換算されている。
【0059】
図2は、揚げ油Pの酸価[mg KOH/g]と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率[%]との相関を示すグラフである。なお、図2に示される揚げ油Pの酸価(AV)は、基準油脂分析試験法に準じて定法にて測定された値である。揚げ油Pの酸価と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との間には、図2に示すように、揚げ油Pの酸価が大きくなるほど、揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率は低くなる相関関係がある。
【0060】
図3は、揚げ油Pの色[Y+10R]と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率[%]との相関を示すグラフである。なお、図3に示される揚げ油Pの色は、AOCS(The American oil Chemists′ Society)に準じて、ロビボンド自動比色計(Lovibond(登録商標)PFXi-880、The Tintometer Ltd.製)を用いて測定され算出された値である。揚げ油Pの色と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との間には、図3に示すように、揚げ油Pの色が濃くなる(色値が大きくなる)ほど揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率は低くなる相関関係がある。
【0061】
図4は、揚げ油Pに含まれる極性化合物量[%TPM]と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率[%]との相関を示すグラフである。なお、図4に示される極性化合物量は、testo270(株式会社テスト―製)により測定された値である。揚げ油Pに含まれる極性化合物量(PC)と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との間には、図4に示すように、揚げ油Pに含まれる極性化合物量が多くなるほど揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率は低くなる相関関係がある。
【0062】
図5は、揚げ油Pのリン含量[ppm]と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率[%]との相関を示すグラフである。揚げ油Pのリン(P)含量と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との間には、図5に示すように、揚げ油Pのリン含量が多いほど揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率が低くなる傾向を示す相関関係がある。
【0063】
図6は、揚げ油Pのナトリウム含量[ppm]と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率[%]との相関を示すグラフである。揚げ油Pのナトリウム(Na)含量と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との間には、図6に示すように、揚げ油Pのナトリウム含量が多いほど揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率が低くなる傾向を示す相関関係がある。
【0064】
図7は、揚げ油Pの亜鉛含量[ppm]と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率[%]との相関を示すグラフである。揚げ油Pの亜鉛(Zn)含量と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との間には、図7に示すように、揚げ油Pの亜鉛含量が多いほど揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率が低くなる傾向を示す相関関係がある。
【0065】
図8は、揚げ油Pのマグネシウム含量[ppm]と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率[%]との相関を示すグラフである。揚げ油Pのマグネシウム(Mg)含量と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との間には、図8に示すように、揚げ油Pのマグネシウム含量が多いほど揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率が低くなる傾向を示す相関関係がある。
【0066】
図9は、揚げ油Pのカルシウム含量[ppm]と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率[%]との相関を示すグラフである。揚げ油Pのカルシウム(Ca)含量と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との間には、図9に示すように、揚げ油Pのカルシウム含量が多いほど揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率が低くなる傾向を示す相関関係がある。
【0067】
なお、図5に示される揚げ油Pのリン含量、図6に示される揚げ油Pのナトリウム含量、図7に示される揚げ油Pの亜鉛含量、図8に示される揚げ油Pのマグネシウム含量、および図9に示される揚げ油Pのカルシウム含量はいずれも、ICP発光分光分析機(日立ハイテクサイエンス社製)により測定された値であって、定量にあたっては、CONOSTAN(登録商標) Oil Analysis Standard(SCP SCIENCE社製)が使用されている。
【0068】
図2~9に示すように、揚げ油Pの劣化指標と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との間には、比例の相関関係がある。具体的には、揚げ油Pの劣化指標と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との相関は、揚げ油Pの劣化指標と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との比例式「(揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率)=(相関係数R)×(揚げ油Pの劣化指標)」で表され、揚げ油Pの劣化度合いが大きいほど揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率が低下する関係である。クラウドサーバ4は、測定センサ2で測定された揚げ油Pの劣化指標の測定値をこの相関に適用して揚げ油Pの回収価格を設定する。
【0069】
なお、図2~9ではいずれも、相関係数R(破線で示された相関グラフの傾き)が負の係数となっているが、これに限られず、揚げ油Pの劣化度合いが大きいほど値が小さくなる劣化指標と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との相関においては、相関係数Rが正の係数となる。
【0070】
また、図2~4の相関グラフと図5~9の相関グラフとを比較すると、図2~4における揚げ油Pの劣化指標の方が、図5~9における揚げ油Pの劣化指標よりも揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との相関が高い。すなわち、揚げ油Pの劣化指標のうち、酸価、色、および極性化合物量は、金属含量よりも揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との相関が高いといえる。
【0071】
したがって、クラウドサーバ4は、揚げ油Pの回収価格を設定するにあたって、揚げ油Pの酸価、揚げ油Pの色、および揚げ油Pに含まれる極性化合物量のうちのいずれかの劣化指標と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との相関を用いることが望ましく、再資源化される揚げ油P(廃油)に対してより適正な回収価格を設定することができる。
【0072】
(クラウドサーバ4の機能を実現するハードウェア構成)
次に、クラウドサーバ4の機能を実現するハードウェア構成について、図10を参照して説明する。
【0073】
図10は、クラウドサーバ4のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0074】
クラウドサーバ4の機能を実現するコンピュータ(例えば、クラウドシステムを提供する会社などが所有するコンピュータ)は、ハードウェア構成として、CPU(Central Processing Unit)40Aと、RAM(Random Access Memory)40Bと、ROM(Read Only Memory)40Cと、HDD(Hard Disk Drive)40Dと、I/F(Interface)40Eと、を備える。これらの各構成は、共通バス40Fを介してそれぞれ接続されている。
【0075】
CPU40Aは、演算手段であり、クラウドサーバ4の全体の動作を制御する。
【0076】
RAM40Bは、情報の高速な読み書きが可能な揮発性の記憶媒体であり、例えばCPU40Aが管理情報を処理する際の作業領域として用いられる。
【0077】
ROM40Cは、読み出し専用の不揮発性の記憶媒体であり、ファームウェアなどのプログラムが格納されている。
【0078】
HDD40Dは、情報の読み書きが可能であって記憶容量が大きい不揮発性の記憶媒体であり、OS(Operating System)や後述する各種の情報処理を実行するための制御プログラムおよびアプリケーションプログラムなどが格納される。
【0079】
なお、HDD40Dは、不揮発性の記憶媒体として情報の格納および管理の機能を実現するものであれば、デバイスの種類は問わず、例えばSSD(Solid State Drive)などで代用することも可能である。
【0080】
I/F40Eは、通信ネットワークとの接続インターフェースであって、携帯端末3が接続されている。
【0081】
このようなハードウェア構成を備えるクラウドサーバ4は、ROM40Cに格納された制御プログラムや、HDD40Dなどの記憶媒体からRAM40Bにロードされた制御プログラムおよびアプリケーションプログラムを、CPU40Aが備える演算機能によって処理機能を実現する情報処理装置である。
【0082】
これら情報処理の実行によって、クラウドサーバ4における種々の機能モジュールを含むソフトウェア制御部が構成される。このようにして構成されたソフトウェア制御部と、上記の構成を含むハードウェア資源との組み合わせによって、クラウドサーバ4の機能を実現する機能ブロックが構成される。
【0083】
なお、油脂価格設定装置は、必ずしもクラウドサーバ4で構成されている必要はなく、サーバ装置で構成されていてもよい。油脂価格設定装置がサーバ装置で構成されている場合には、サーバ装置が、上記のハードウェア構成を備えることとなる。
【0084】
(クラウドサーバ4の機能構成)
次に、クラウドサーバ4が有する機能構成について、図11および図12を参照して説明する。
【0085】
図11は、本発明の第1実施形態に係るクラウドサーバ4が有する機能を示す機能ブロック図である。
【0086】
クラウドサーバ4は、図11に示すように、データ取得部41と、記憶部42と、回収価格算出部43と、価格設定出力部44と、を含む。
【0087】
データ取得部41は、測定センサ2で測定された揚げ油Pの劣化指標の測定値を取得する。本実施形態では、データ取得部41は、携帯端末3を介して揚げ油Pの劣化指標の測定値を取得する。
【0088】
記憶部42には、揚げ油Pの劣化指標と揚げ油Pからバイオマス資源への変換効率との相関(以下、単に「相関」とする)が記憶されている。
【0089】
回収価格算出部43は、データ取得部41にて取得された揚げ油Pの劣化指標の測定値と、記憶部42に記憶されている相関と、に基づいて、廃油として回収される際の揚げ油Pの回収価格を算出する。
【0090】
図12は、回収価格算出部43における廃油の回収価格の算出方法について説明する図である。なお、以下では、揚げ油Pの酸価と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との相関に基づいた廃油の回収価格の算出方法を例に挙げて説明するが、その他の揚げ油Pの劣化指標と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との相関に基づいた廃油の回収価格の算出方法についても同様である。
【0091】
回収価格算出部43は、揚げ油Pの劣化指標の測定値に対応する相関の劣化指標の大きさに基づいて、揚げ油Pの回収価格を算出する。
【0092】
例えば、揚げ油Pの酸価が0.0である場合の揚げ油Pの回収価格をx円/mlとすると(図12に示す点X0)、揚げ油Pの酸価が0.4である場合の揚げ油Pの回収価格は(x/4)円/mlとなり(図12に示す点X1)、揚げ油Pの酸価が0.9である場合の揚げ油Pの回収価格は(x/9)円/mlとなり(図12に示す点X2)、揚げ油Pの酸価が1.6である場合の揚げ油Pの回収価格は(x/16)円/mlとなり(図12に示す点X3)、揚げ油Pの酸価が1.9である場合の揚げ油Pの回収価格は(x/19)円/mlとなり(図12に示す点X4)、揚げ油Pの酸価が2.0である場合の揚げ油Pの回収価格は(x/20)円/mlとなり(図12に示す点X5)、揚げ油Pの酸価が2.2である場合の揚げ油Pの回収価格は(x/22)円/mlとなり(図12に示す点X6)、揚げ油Pの酸価が2.6である場合の揚げ油Pの回収価格は(x/26)円/mlとなる。この算出方法では、揚げ油Pの回収価格は、揚げ油Pの劣化度合いが大きいほど安くなる。
【0093】
したがって、例えば、データ取得部41にて取得された揚げ油Pの酸価の測定値が1.9であった場合には、回収価格算出部43は、記憶部42に記憶されている相関における酸価1.9(図12に示す点X4に該当)に基づいて、揚げ油Pの回収価格を(x/19)円/mlと算出する。
【0094】
また、例えば、データ取得部41にて取得された揚げ油Pの酸価の測定値が2.2であった場合には、回収価格算出部43は、記憶部42に記憶されている相関における酸価2.2(図12に示す点X6に該当)に基づいて、揚げ油Pの回収価格を(x/22)円/mlと算出する。
【0095】
なお、揚げ油Pの酸価が0.0である場合の揚げ油Pの回収価格をx円/mlは、揚げ油Pの市場取引における相場に応じた変動価格であってもよいし、記憶部42に予め記憶された固定価格であってもよい。
【0096】
また、回収価格算出部43は、揚げ油Pの劣化指標の測定値に対応する相関の変換効率の高さに基づいて、揚げ油Pの回収価格を算出してもよい。
【0097】
例えば、揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率が100%である場合の揚げ油Pの回収価格をy円/mlとすると(図12に示す点X0)、変換効率が50%以上60%未満である場合の揚げ油Pの回収価格は(y/2)円/mlとなり(図12において一点鎖線で示す領域Y1)、変換効率が30%以上50%未満である場合の揚げ油Pの回収価格は(y/3)円/mlとなり(図12において一点鎖線で示す領域Y2)、変換効率が10%以上30%未満である場合の揚げ油Pの回収価格は(y/4)円/mlとなる(図12において一点鎖線で示す領域Y3)。この算出方法では、揚げ油Pの回収価格は、揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率が低いほど安くなる。
【0098】
したがって、例えば、データ取得部41にて取得された揚げ油Pの酸価の測定値が1.9であった場合は、記憶部42に記憶されている相関における変換効率45%(図12に示す点X4)に該当することから、回収価格算出部43は、変換効率30%以上50%未満(図12に示す領域Y2)に基づいて、揚げ油Pの回収価格を(y/3)円/mlと算出する。
【0099】
また、例えば、データ取得部41にて取得された揚げ油Pの酸価の測定値が2.2であった場合は、記憶部42に記憶されている相関における変換効率28%(図12に示す点X6)に該当することから、回収価格算出部43は、変換効率10%以上30%未満(図12に示す領域Y3)に基づいて、揚げ油Pの回収価格を(y/4)円/mlと算出する。
【0100】
なお、揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率が100%である場合の揚げ油Pの回収価格をy円/mlは、揚げ油Pの酸価が0.0である場合の揚げ油Pの回収価格をx円/mlと同様に、揚げ油Pの市場取引における相場に応じた変動価格であってもよいし、記憶部42に予め記憶された固定価格であってもよい。
【0101】
以上のように、回収価格算出部43は、記憶部42に記憶されている相関に示された測定値に対応する劣化指標の大きさに基づいて揚げ油Pの回収価格を算出してもよいし、記憶部42に記憶されている相関に示された測定値に対応する変換効率の高さに基づいて揚げ油Pの回収価格を算出してもよい。
【0102】
また、揚げ油Pの回収価格は、必ずしも連続的に変動するもの(劣化指標の大きさに基づいて算出した例)である必要はなく、段階的に変動するもの(変換効率の高さに基づいて算出した例)であってもよい。
【0103】
なお、回収価格算出部43における揚げ油Pの回収価格の算出方法の変更については、クラウドサーバ4の設定を変更することにより適宜行うことが可能である。
【0104】
価格設定出力部44は、回収価格算出部43にて算出された揚げ油Pの回収価格を揚げ油Pの価格として設定し携帯端末3に対して出力する。
【0105】
(クラウドサーバ4内で実行される処理)
次に、クラウドサーバ4内で実行される処理の流れについて、図13を参照して説明する。
【0106】
図13は、クラウドサーバ4で実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【0107】
クラウドサーバ4では、まず、データ取得部41が、測定ステップにて測定センサ2により測定された揚げ油Pの劣化指標の測定値を取得する(ステップS401;データ取得ステップ)。
【0108】
次に、回収価格算出部43は、ステップS401において取得された揚げ油Pの劣化指標の測定値と、記憶部42に記憶されている相関と、に基づいて、揚げ油Pの回収価格を算出する(ステップS402;回収価格算出ステップ)。
【0109】
そして、価格設定出力部44は、ステップS402において算出された揚げ油Pの回収価格を揚げ油Pの価格として設定し携帯端末3に対して出力し(ステップS403;価格設定出力ステップ)、クラウドサーバ4における処理が終了する。
【0110】
このように、クラウドサーバ4は、時間の経過に伴って進行する揚げ油Pの劣化度合いを示す指標である劣化指標と揚げ油Pからバイオマス資源への変換効率との相関を用いて揚げ油Pの回収価格を設定しているため、クラウドサーバ4により設定された揚げ油Pの回収価格は、揚げ油Pが有するバイオマス資源への再資源化価値の大きさが反映された適正な価格となる。
【0111】
(ビジネスモデルの一例)
次に、クラウドサーバ4を用いて実現可能なビジネスモデルの一例について、図14を参照して説明する。
【0112】
図14は、クラウドサーバ4を用いて実現可能なビジネスモデルの一例を示す図である。
【0113】
図14に示すα1社は、油脂販売会社であって、本実施形態では、新油の状態の揚げ油Pを販売する油脂メーカーである。図14に示すβ社は、油脂使用会社であって、本実施形態では、揚げ油Pを使用するコンビニエンスストアやスーパーマーケット、飲食店などの店である。α1社は、β社に対して新油を販売し(図14に示す実線の右向き矢印)、β社は、α1社から新油を購入する(図14に示す破線の左向き矢印)。
【0114】
また、図14に示すα2社は、廃油回収業者であって、本実施形態では、使用済みの劣化が進んだ揚げ油Pを買い取る業者である。図14に示すγ社は、バイオマス資源を製造する会社であって、本実施形態では、揚げ油Pからバイオ燃料(BDFやSAF)を精製する燃料メーカーである。
【0115】
β社は、使用して廃油となった揚げ油Pをα2社に提供し(図14に示す破線の左向き矢印)、α2社は、β社から提供された廃油をクラウドサーバ4により設定された回収価格にて買い取る(図14に示す一点鎖線の右向き矢印)。
【0116】
そして、α2社は、β社から買い取った廃油をγ社に対して販売し(図14に示す一点鎖線の下向き矢印)、γ社は、α2社から廃油を購入する(図14に示す二点鎖線の上向き矢印)。
【0117】
このようなビジネスモデルのうち、α2社とβ社との間の廃油の取り引きに油脂価格設定システム1を適用することにより、β社は、α2社との間において、α2社とγ社との間の廃油の取り引きに見合った適正な取り引きを行うことが可能となる。
【0118】
なお、図14では、α1社とα2社とは別個の会社として示しているが、これに限られず、α1社とα2社とが同一の会社であってもよい。この場合、油脂メーカーのα1社は、β社に対して新油を販売すると共に、廃油を買い取ることになる。
【0119】
(他の相関の例)
次に、揚げ油Pの劣化指標と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との相関の他の例について、図15を参照して説明する。
【0120】
図15は、揚げ油Pの劣化指標と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との相関の他の例について説明する図である。
【0121】
図2~9では、揚げ油Pの劣化指標と揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との相関は、変換効率を1種類の劣化指標の多項式で表した相関式(1種類の劣化指標と変換効率との比例式)で示されていたが、これに限られず、例えば、変換効率を複数種類の劣化指標の多項式で表した相関式で示されてもよい。
【0122】
図15に示すように、変換効率を揚げ油Pの酸価の多項式で表した相関式および変換効率を揚げ油Pに含まれる極性化合物量の多項式で表した相関式ではそれぞれ、相関係数Rの2乗に相当する決定係数Rが0.75となり、変換効率を揚げ油Pの色の多項式で表した相関式では、決定係数Rが0.81となり、変換効率を揚げ油Pのリン含量の多項式で表した相関式では、決定係数Rが0.02となり、変換効率を揚げ油Pのナトリウム含量で表した相関式では、決定係数Rが0.17となる。
【0123】
ここで、変換効率をCEとし、揚げ油Pの酸価をAVとし、揚げ油Pの色をCOLORとし、揚げ油Pに含まれる極性化合物量をPCとし、揚げ油Pのリン含量をPとし、揚げ油Pのナトリウム含量をNaとし、AVの係数をαとし、COLORの係数をβとし、PCの係数をγとし、Pの係数をδとし、Naの係数をεとし、定数をζとすると、変換効率を揚げ油Pの酸価の多項式で表した相関式は、次の数式(1)で示される。
CE=α×(AV)+ζ・・・(1)
【0124】
変換効率を揚げ油Pの色の多項式で表した相関式は、次の数式(2)で示される。
CE=β×(COLOR)+ζ・・・(2)
【0125】
変換効率を揚げ油Pの色の多項式で表した相関式は、次の数式(3)で示される。
CE=γ×(PC)+ζ・・・(3)
【0126】
変換効率を揚げ油Pのリン含量の多項式で表した相関式は、次の数式(4)で示される。
CE=δ×(P)+ζ・・・(4)
【0127】
変換効率を揚げ油Pのナトリウム含量の多項式で表した相関式は、次の数式(5)で示される。
CE=ε×(Na)+ζ・・・(5)
【0128】
これらの相関式に対して、変換効率を揚げ油Pの酸価および揚げ油Pに含まれる極性化合物量の多項式で表した相関式では、決定係数Rが0.77となり、変換効率を揚げ油Pの酸価および揚げ油Pの色の多項式で表した相関式では、決定係数Rが0.81となり、変換効率を揚げ油Pに含まれる極性化合物量および揚げ油Pの色の多項式で表した相関式では、決定係数Rが0.84となる。
【0129】
なお、変換効率を揚げ油Pの酸価および揚げ油Pに含まれる極性化合物量の多項式で表した相関式は、次の数式(6)で示される。
CE=α×(AV)+γ×(PC)+ζ・・・(6)
【0130】
変換効率を揚げ油Pの酸価および揚げ油Pの色の多項式で表した相関式は、次の数式(7)で示される。
CE=α×(AV)+β×(COLOR)+ζ・・・(7)
【0131】
変換効率を揚げ油Pに含まれる極性化合物量および揚げ油Pの色の多項式で表した相関式は、次の数式(8)で示される。
CE=β×(COLOR)+γ×(PC)+ζ・・・(8)
【0132】
このように、揚げ油Pの劣化指標のうち、揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との相関が高い酸価、極性化合物量、および色から2種類を組み合わせた多項式で表した相関式では、決定係数Rが、変換効率を1種類の劣化指標の多項式で表した相関式での決定係数Rよりも大きくなる(図15における「1種からの増分」を参照)。
【0133】
したがって、回収価格算出部43は、揚げ油Pの酸価、極性化合物量、および色から2種類を組み合わせた多項式で表した相関式を用いることにより、揚げ油Pの回収価格をより精度よく算出することが可能である。
【0134】
そして、変換効率を揚げ油Pの劣化指標のうち揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との相関が高い酸価、極性化合物量、および色の多項式で表した相関式では、決定係数Rが0.91となる。
【0135】
なお、変換効率を揚げ油Pの酸価、極性化合物量、および色の多項式で表した相関式は、次の数式(9)で示される。
CE=α×(AV)+β×(COLOR)+γ×(PC)+ζ・・・(9)
【0136】
このように、揚げ油Pの劣化指標のうち、揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との相関が高い酸価、極性化合物量、および色の3種類を組み合わせた多項式で表した相関式では、決定係数Rが、変換効率を2種類の劣化指標の多項式で表した相関式での決定係数Rよりもさらに大きくなる(図15における「1種からの増分」を参照)。
【0137】
したがって、回収価格算出部43は、揚げ油Pの酸価、極性化合物量、および色の3種類を組み合わせた多項式で表した相関式を用いることにより、揚げ油Pの酸価、極性化合物量、および色から2種類を組み合わせた多項式で表した相関式を用いた場合よりも、揚げ油Pの回収価格をより精度よく算出することが可能である。
【0138】
さらに、変換効率を揚げ油Pの酸価、極性化合物量、色、およびリン含量の多項式あるいは揚げ油Pの酸価、極性化合物量、色、およびナトリウム含量の多項式、ならびに、変換効率を揚げ油Pの酸価、極性化合物量、色、リン含量、およびナトリウム含量の多項式で表した相関式ではいずれも、決定係数Rが0.92となる。
【0139】
なお、変換効率を揚げ油Pの酸価、極性化合物量、色、およびリン含量の多項式で表した相関式は、次の数式(10)で示される。
CE=α×(AV)+β×(COLOR)+γ×(PC)+δ×(P)+ζ・・・(10)
【0140】
変換効率を揚げ油Pの酸価、極性化合物量、色、およびナトリウム含量の多項式で表した相関式は、次の数式(11)で示される。
CE=α×(AV)+β×(COLOR)+γ×(PC)+ε×(Na)+ζ・・・(11)
【0141】
変換効率を揚げ油Pの酸価、極性化合物量、色、リン含量、およびナトリウム含量の多項式で表した相関式は、次の数式(12)で示される。
CE=α×(AV)+β×(COLOR)+γ×(PC)+δ×(P)+ε×(Na)+ζ・・・(12)
【0142】
このように、揚げ油Pの劣化指標のうち、揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との相関が高い酸価、極性化合物量、および色の3種類に金属含量(リンあるいはナトリウム)を加えた4種類を組み合わせた多項式で表した相関式、ならびに、揚げ油Pの劣化指標のうち、揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との相関が高い酸価、極性化合物量、および色の3種類にリン含量およびナトリウム含量の2種類を加えた5種類を組み合わせた多項式で表した相関式ではいずれも、決定係数Rが、変換効率を3種類の劣化指標の多項式で表した相関式での決定係数Rよりも大きくなる(図15における「1種からの増分」を参照)。
【0143】
したがって、回収価格算出部43は、揚げ油Pからバイオ燃料への変換効率との相関が高い酸価、極性化合物量、および色の3種類に対してさらに金属含量を1種類あるいは2種類組み合わせた多項式で表した相関式を用いると、揚げ油Pの酸価、極性化合物量、および色の3種類を組み合わせた多項式で表した相関式を用いた場合よりも、揚げ油Pの回収価格をより精度よく算出することが可能となる。
【0144】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る油脂価格設定システム1について、図16~19を参照して説明する。なお、以下において、第1実施形態に係る油脂価格設定システム1について説明したものと共通する構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0145】
図16は、本発明の第2実施形態に係るクラウドサーバ4Aが有する機能を示す機能ブロック図である。
【0146】
本実施形態に係るクラウドサーバ4Aは、データ取得部41と、記憶部42と、回収価格算出部43と、価格設定出力部44Aと、に加えて、提供価格算出部45を含む。
【0147】
提供価格算出部45は、回収価格算出部43にて算出された揚げ油Pの回収価格に基づいて、新油として提供される際の揚げ油Pの提供価格を算出する。
【0148】
そして、本実施形態では、価格設定出力部44Aは、回収価格算出部43にて算出された揚げ油Pの回収価格に代えて提供価格算出部45にて算出された揚げ油Pの提供価格を揚げ油Pの価格として設定し携帯端末3に対して出力する。
【0149】
なお、価格設定出力部44Aは、回収価格算出部43にて算出された揚げ油Pの回収価格と共に、提供価格算出部45にて算出された揚げ油Pの提供価格を、揚げ油Pの価格として設定し携帯端末3に対して出力してもよい。
【0150】
したがって、本実施形態に係るクラウドサーバ4Aは、前述したデータ取得処理および回収価格算出処理の後、算出した揚げ油Pの回収価格に基づいて揚げ油Pの提供価格を算出する提供価格算出処理を実行する。また、クラウドサーバ4Aは、価格設定出力処理として、算出した揚げ油Pの提供価格を揚げ油Pの価格として設定し携帯端末3に対して出力する処理を実行する。
【0151】
図17は、第2実施形態に係るクラウドサーバ4Aで実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【0152】
本実施形態に係るクラウドサーバ4Aでは、ステップS401からステップS402に進むと、提供価格算出部45が、ステップS402において算出された揚げ油Pの回収価格に基づいて、揚げ油Pの提供価格を算出する(ステップS404;提供価格算出ステップ)。
【0153】
そして、価格設定出力部44Aは、ステップS404において算出された揚げ油Pの回収価格を揚げ油Pの価格として設定し携帯端末3に対して出力し(ステップS405)、クラウドサーバ4Aにおける処理が終了する。
【0154】
このように、本実施形態に係るクラウドサーバ4Aは、揚げ油Pの回収価格に基づいた提供価格を算出するため、クラウドサーバ4Aにより設定された揚げ油Pの提供価格は、回収価格と同様に、揚げ油Pが有するバイオマス資源への再資源化価値の大きさが反映された適正な価格となる。
【0155】
次に、クラウドサーバ4Aを用いて実現可能なビジネスモデルの例について、図18および図19を参照して説明する。
【0156】
図18は、第2実施形態に係るクラウドサーバ4Aを用いて実現可能なビジネスモデルの一例を示す図である。図19は、第2実施形態に係るクラウドサーバ4Aを用いて実現可能なビジネスモデルの他の例を示す図である。
【0157】
図18に示すα3社は、油脂販売会社であるが、β社に対して新油の販売を行うと共に(図18に示す実線の右向き矢印)、β社が使用して廃油となった揚げ油Pの回収も行う(図18に示す実線の右向き矢印)。したがって、β社は、α3社から新油を購入し(図18に示す破線の左向き矢印)、使用済みの廃油をα3社に戻す(図18に示す破線の左向き矢印)。
【0158】
そして、α3社は、β社から回収した廃油をγ社に対して販売し(図18に示す実線の下向き矢印)、γ社は、α3社から廃油を購入する(図18に示す二点鎖線の上向き矢印)。
【0159】
図18に示すビジネスモデルでは、α3社は、β社から提供された廃油を買い取る代わりに、次回の新油を正規販売価格から廃油の買取価格を差し引いた値引き価格で値引き販売する。この新油の値引き価格が揚げ油Pの提供価格に相当し、クラウドサーバ4Aにより設定される。
【0160】
また、図19に示すα4社は、油脂をリースする油脂リース会社であり、β社に対して新油の揚げ油Pを貸し出す(図19に示す実線の右向き矢印)。β社は、α4社から貸し出された新油を使用して廃油になると、廃油になった揚げ油Pをα4社に返却する(図19に示す実線の左向き矢印)。
【0161】
そして、α4社は、β社から回収した廃油をγ社に対して販売し(図19に示す実線の下向き矢印)、γ社は、α4社から廃油を購入する(図19に示す二点鎖線の上向き矢印)。
【0162】
図19に示すビジネスモデルでは、α4社は、油脂をリースする業務形態をとり、β社への揚げ油Pのリース料金が、クラウドサーバ4Aにより設定された揚げ油Pの提供価格に相当する。
【0163】
以上、本発明の各実施形態について説明した。なお、本発明は上記した各実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した各実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、各実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。またさらに、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0164】
例えば、上記の各実施形態では、油脂が揚げ油Pである場合を例に挙げて説明したが、本発明が適用される油脂は、必ずしも揚げ調理に使用される食用油である必要はなく、他の調理に使用される食用油や、その他の油脂(工業油など)であってもよい。
【符号の説明】
【0165】
1:油脂価格設定システム
2:測定センサ(測定装置)
4,4A:クラウドサーバ(油脂価格設定装置)
41:データ取得部
42:記憶部
43:回収価格算出部
44,44A:価格設定出力部
45:提供価格算出部
P:揚げ油(油脂)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19