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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005881
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20250109BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20250109BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20250109BHJP
   C08K 5/55 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L9/00
C08K3/36
C08K5/55
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106296
(22)【出願日】2023-06-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 試験研究タイプ「高シリカ配合天然ゴム組成物の製造を指向する新規シランカップリング剤の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】進藤 涼平
(72)【発明者】
【氏名】中島 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】永縄 友規
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC011
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC071
4J002AC081
4J002DJ016
4J002EY017
4J002FD016
(57)【要約】
【課題】硬化物となったときに良好な破断物性が得られる、ホウ素含有シランカップリング剤を含有するゴム組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】ジエン系ゴムと、シリカと、式(I)で表される構造を有するホウ素含有シランカップリング剤とを含有し、上記シリカの含有量が上記ジエン系ゴム100質量部に対して5~200質量部であり、上記ホウ素含有シランカップリング剤の含有量が上記シリカの含有量に対して0.2~20質量%である、ゴム組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムと、シリカと、下記式(I)で表される構造を有するホウ素含有シランカップリング剤とを含有し、
前記シリカの含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、5~200質量部であり、
前記ホウ素含有シランカップリング剤の含有量が、前記シリカの含有量に対して、0.2~20質量%である、ゴム組成物。
【化1】
式(I)において、Aは、それぞれ独立に、ヘテロ原子を有していてもよい、2価の、飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基又はこれらの組合せを表し、Bはホウ素を表し、Xは水素又は置換基を表し、Hは水素を表し、mは1又は2であり、nは0又は1であり、m+nは2又は3であり、R、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を表す。ただし、R、R及びRのうち少なくとも1つはアルコキシ基である。
【請求項2】
前記ホウ素含有シランカップリング剤が、下記式(II)で表される化合物を含む、請求項1に記載のゴム組成物。
【化2】
式(II)において、Aは、それぞれ独立に、ヘテロ原子を有していてもよい、2価の、飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基又はこれらの組合せを表し、Bはホウ素を表し、Hは水素を表し、R、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を表す。ただし、各-SiRで表される基において、R、R及びRのうち少なくとも1つはアルコキシ基である。
【請求項3】
前記Aが、それぞれ独立に、シクロヘキサン環を有する、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記ジエン系ゴムが天然ゴムを含有し、
前記ジエン系ゴム中の前記天然ゴムの含有量が、20質量%以上である、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ジエン系ゴムとカーボンブラック及び/又は白色充填剤とホウ素含有シランカップリング剤とを含有するゴム組成物が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6459201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、ジエン系ゴムと白色充填剤(特にシリカ)とを含有するゴム組成物に適用できる新規なホウ素含有シランカップリング剤が求められている。
また、ジエン系ゴムとシリカとホウ素含有シランカップリング剤とを含有するゴム組成物から得られるゴム(硬化物)について、例えば破断物性が良好であることが求められている。
【0005】
そこで、本発明は、硬化物となったときに良好な破断物性が得られる、ホウ素含有シランカップリング剤を含有するゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ジエン系ゴムとシリカとを含有するゴム組成物が特定の構造を有するホウ素含有シランカップリング剤を更に含有することによって上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者らは、以下の構成によって上記課題を解決できることを見出した。
【0007】
[1]
ジエン系ゴムと、シリカと、下記式(I)で表される構造を有するホウ素含有シランカップリング剤とを含有し、
上記シリカの含有量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、5~200質量部であり、
上記ホウ素含有シランカップリング剤の含有量が、上記シリカの含有量に対して、0.2~20質量%である、ゴム組成物。
【化1】
式(I)において、Aは、それぞれ独立に、ヘテロ原子を有していてもよい、2価の、飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基又はこれらの組合せを表し、Bはホウ素を表し、Xは水素又は置換基を表し、Hは水素を表し、mは1又は2であり、nは0又は1であり、m+nは2又は3であり、R、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を表す。ただし、R、R及びRのうち少なくとも1つはアルコキシ基である。
[2]
上記ホウ素含有シランカップリング剤が、下記式(II)で表される化合物を含む、[1]に記載のゴム組成物。
【化2】
式(II)において、Aは、それぞれ独立に、ヘテロ原子を有していてもよい、2価の、飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基又はこれらの組合せを表し、Bはホウ素を表し、Hは水素を表し、R、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を表す。ただし、各-SiRで表される基において、R、R及びRのうち少なくとも1つはアルコキシ基である。
[3]
上記Aが、それぞれ独立に、シクロヘキサン環を有する、[1]又は[2]に記載のゴム組成物。
[4]
上記ジエン系ゴムが天然ゴムを含有し、
上記ジエン系ゴム中の上記天然ゴムの含有量が、20質量%以上である、[1]~[3]のいずれか1つに記載のゴム組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、硬化物となったときに良好な破断物性が得られる、ホウ素含有シランカップリング剤を含有するゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明について以下詳細に説明する。
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を含む範囲を意味する。
また、各成分は、1種を単独でも用いても、2種以上を併用してもよい。ここで、各成分について2種以上を併用する場合、その成分について含有量とは、特段の断りが無い限り、合計の含有量を指す。
本明細書において、得られる硬化物の破断物性がより優れることを、本発明の効果がより優れると言うことがある。
本明細書において、式(*)で表される化合物を「化合物(*)」と言うことがある。
【0010】
[ゴム組成物]
本発明のゴム組成物(以下、これを「本発明の組成物」とも言う)は、
ジエン系ゴムと、シリカと、後述する式(I)で表される構造を有するホウ素含有シランカップリング剤(以下、これを「特定シランカップリング剤」とも言う)とを含有し、
上記シリカの含有量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、5~200質量部であり、
上記ホウ素含有シランカップリング剤の含有量が、上記シリカの含有量に対して、0.2~20質量%である、ゴム組成物である。
【0011】
本発明の組成物はこのような構成をとるため、上述した効果が得られるものと考えられる。その理由は明らかではないが、本発明の組成物に含有される特定シランカップリング剤は、特定シランカップリング剤が有するホウ素のジエン系ゴムに対する反応性が極めて高く、その結果として、本発明の組成物は、得られる硬化物の破断物性が良好になると推測される。
【0012】
以下、本発明の組成物に含有される各成分について説明する。
【0013】
[1]ジエン系ゴム
本発明の組成物に含有されるジエン系ゴムは特に限定されない。
本発明の組成物は1種のジエン系ゴムを含有するのでも2種以上のジエン系ゴムを含有するのでもよい。
【0014】
[具体例]
上記ジエン系ゴムの具体例としては、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、芳香族ビニル-共役ジエン共重合体ゴム、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br-IIR、Cl-IIR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。上記芳香族ビニル-共役ジエン共重合体ゴムとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレン共重合ゴムなどが挙げられる。
【0015】
[分子量]
上記ジエン系ゴムの重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、本発明の効果がより優れる理由から、100,000~5,000,000であることが好ましく、200,000~3,000,000であることがより好ましく、300,000~2,000,000であることがさらに好ましい。
【0016】
なお、本明細書において重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により得られる標準ポリスチレン換算値である。
【0017】
[好適な態様]
上記ジエン系ゴムは天然ゴムを含有するのが好ましい。
上記ジエン系ゴムが天然ゴムを含有する場合、上記ジエン系ゴム中の天然ゴムの含有量は、本発明の効果がより優れる理由から、20質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0018】
上記ジエン系ゴム中の天然ゴム以外のジエン系ゴムの含有量は特に限定されないが、本発明の効果がより優れる理由から、0~30質量%であることが好ましく、0~20質量%であることがより好ましく、0~10質量%であることがさらに好ましい。
【0019】
[2]シリカ
本発明の組成物に含有されるシリカは特に制限されず、タイヤ等のゴム組成物に配合されている従来公知の任意のシリカを用いることができる。
【0020】
[具体例]
上記シリカの具体例としては、湿式シリカ、乾式シリカ、ヒュームドシリカ、珪藻土などが挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、湿式シリカが好ましい。上記シリカは、1種のシリカを単独で用いても、2種以上のシリカを併用してもよい。
シリカのCTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロマイド)吸着比表面積は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、100~300m/gであることが好ましく、150~200m/gであることがより好ましい。なお、本明細書において、CTAB吸着比表面積は、シリカ表面へのCTAB吸着量をJIS K6217-3:2001「第3部:比表面積の求め方-CTAB吸着法」にしたがって測定した値である。
【0021】
[含有量]
本発明の組成物において、上記シリカの含有量は、上述したジエン系ゴム100質量部に対して、5~200質量部である。なかでも、上記シリカの含有量は、本発明の効果がより優れる理由から、上述したジエン系ゴム100質量部に対して、10~150質量部であることが好ましく、20~100質量部であることがより好ましく、30~70質量部であることがさらに好ましい。
【0022】
[3]式(I)で表される構造を有するホウ素含有シランカップリング剤
本発明の組成物に含有されるホウ素含有シランカップリング剤は、式(I)で表される構造を有するホウ素含有シランカップリング剤(特定シランカップリング剤)であれば特に制限されない。
【化3】
【0023】
式(I)において、Aは、それぞれ独立に、ヘテロ原子を有していてもよい、2価の、飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基又はこれらの組合せを表し、Bはホウ素を表し、Xは水素又は置換基を表し、Hは水素を表し、mは1又は2であり、nは0又は1であり、m+nは2又は3であり、R、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を表す。ただし、R、R及びRのうち少なくとも1つはアルコキシ基である。
【0024】
〔A〕
上述のとおり、式(I)において、Aは、それぞれ独立に、ヘテロ原子を有していてもよい、2価の、飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基又はこれらの組合せを表す。上記飽和脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状、これらの組合せのいずれであってもよい。
上記飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基又はこれらの組合せの炭素数は、1以上とでき、2以上であることが好ましい。上記炭素数の上限は、例えば30以下とできる。
【0025】
上記Aは、本発明の効果等がより優れる理由から、単結合、シクロアルキレン基、-CHCH-Z-で表される基であることが好ましい。ここで、Zは、単結合、又は、ヘテロ原子を有していてもよい、炭素数1~28の、2価の、飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基若しくはこれらの組合せを表す。上記飽和脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。
上記Zは、本発明の効果等がより優れる理由から、単結合、シクロアルキレン基、炭素数1~5のアルキレン基、又はフェニレン基であることが好ましく、シクロアルキレン基、又は、炭素数1~5のアルキレン基がより好ましく、炭素数1~5のアルキレン基が更に好ましい。
【0026】
〔B、H〕
式(I)において、Bはホウ素を表し、Hは水素を表す。
【0027】
〔R、R及びR
上述のとおり、式(I)において、R、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を表す。ただし、R、R及びRのうち少なくとも1つはアルコキシ基である。
【0028】
上記アルコキシ基の炭素数は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、1~5であることが好ましい。
【0029】
上記置換基がアルコキシ基以外である場合の具体例としては、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、若しくはこれらを組み合わせた基、又は、フェノキシ基、カルボキシル基、アルケニルオキシ基のような、アルコキシ基以外の加水分解性基などが挙げられる。
上記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。上記脂肪族炭化水素基の具体例としては、直鎖状または分岐状のアルキル基(特に、炭素数1~30)、直鎖状または分岐状のアルケニル基(特に、炭素数2~30)、直鎖状または分岐状のアルキニル基(特に、炭素数2~30)などが挙げられる。
上記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などの炭素数6~18の芳香族炭化水素基などが挙げられる。
上記置換基がアルコキシ基以外である場合、本発明の効果等がより優れる理由から、アルコキシ基以外の置換基は、脂肪族炭化水素基であることが好ましく、アルキル基(特に炭素数1~5)であることがより好ましい。
【0030】
化合物(I)が-SiRで表される基を複数有する場合、各-SiRで表される基において、R、R及びRのうち少なくとも1つがアルコキシ基であればよい。上記アルコキシ基が有する炭素数は、1~30とすることができる。以下、式(I)における-SiRで表される基を「シリル基」と称する場合がある。
化合物(I)中のシリル基において、1つのケイ素に結合するR、R及びRの全てがアルコキシ基であることが好ましい態様の1つとして挙げられる。上記アルコキシ基が有する炭素数は、1~30とすることができる。
化合物(I)において、R、R及びRは、本発明の効果等がより優れる理由から、全てがアルコキシ基であることが好ましい。上記アルコキシ基が有する炭素数は、1~30とすることができる。
【0031】
〔m、n〕
式(I)において、mは1又は2であり、nは0又は1であり、m+nは2又は3である。
本発明の効果等がより優れる理由から、mは2であることが好ましい。
【0032】
〔X〕
式(I)において、Xは水素又は置換基を表す。
式(I)において、mが1であり、nが1であり、m+nが2である場合、Xは水素又は置換基を表すことができる。
式(I)において、mが2であり、nが0であり、m+nが2である場合、Xは、水素又は置換基を表すことができる。
式(I)において、mが2であり、nが1であり、m+nが3である場合、Xは、置換基を表すことができる。なお、式(I)において、mが2であり、nが1であり、m+nが3であり、Xが置換基を表す場合の特定シランカップリング剤として、例えば、後述する、式(II)で表される化合物が挙げられる。
式(I)において、Xとしての置換基は、式(I)におけるシリル基以外の基が挙げられる。
Xとしての置換基は、上記(I)で表される構造と同様の構造を有する化合物であることが好まし態様の1つとして挙げられる。Xとしての置換基が上記(I)で表される構造と同様の構造を有する化合物である場合、このような特定シランカップリング剤は、式(I)で表される構造を複数有する特定シランカップリング剤を少なくとも含むことができる。式(I)で表される構造を複数有する特定シランカップリング剤については後述する。
特定シランカップリング剤は、上記式(I)で表される構造を少なくとも1つ有する化合物を含めばよい。
【0033】
(式(I)で表される構造を複数有する特定シランカップリング剤)
特定シランカップリング剤は、上記式(I)で表される構造を複数有する特定シランカップリング剤を少なくとも含むことができる。
特定シランカップリング剤が式(I)で表される構造を複数有する特定シランカップリング剤を含む場合)、上記の複数の式(I)で表される構造において、各式(I)中の-B-H-が結合して、「*-(B-H)n-**」を形成することができる。上記「*-(B-H)n-**」において、両端の「*」と「**」とが結合して環状構造を形成し、nは2以上である。上記「*-(B-H)n-**」におけるnは、本発明の効果等がより優れる理由から、2であることが好ましい。
【0034】
特定シランカップリング剤としては、例えば、下記構造の化合物が挙げられる。
・ホウ素が1個、シリル基が1個であるシランカップリング剤(S1)
ホウ素が1個、シリル基が1個であるシランカップリング剤(S1)として、例えば、下記式(I-1)~式(I-3)で表される化合物が挙げられる。
【化4】
(I-3)
【0035】
・ホウ素が1個、シリル基が2個であるシランカップリング剤(S2)
ホウ素が1個、シリル基が2個であるシランカップリング剤(S2)として、例えば、下記式(S2-1)~式(S2-2)で表される化合物が挙げられる。
【化5】
(S2-1)
式(S2-1)中のRは、それぞれ独立に、メチル基又はエチル基である。
【化6】
(S2-2)
【0036】
・シランカップリング剤(S3)
特定シランカップリング剤としての、式(I)で表される構造を複数有する特定シランカップリング剤(S3)としては、例えば、下記式(S3-1)~式(S3-3)で表される化合物が挙げられる。
【化7】
(S3-1)
式(S3-1)中のRは、それぞれ独立に、メチル基又はエチル基である。
【化8】
(S3-2)
【化9】
(S3-3)
式(S3-3)中のRは、それぞれ独立に、メチル基又はエチル基である。
上記式(S2-1)で表される化合物の3量体として、上記式(3-3)で表される化合物を例示したが、上記式(S2-2)で表される化合物の3量体も式(S3-3)と同様に例示することができる。
【0037】
上記ホウ素含有シランカップリング剤(特定シランカップリング剤)は、本発明の効果等がより優れる理由から、下記式(II)で表される化合物を含むことが好ましい。
【化10】
式(II)において、Aは、それぞれ独立に、ヘテロ原子を有していてもよい、2価の、飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基又はこれらの組合せを表し、Bはホウ素を表し、Hは水素を表し、R、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を表す。ただし、各-SiRで表される基において、R、R及びRのうち少なくとも1つはアルコキシ基である。
式(II)におけるA、R、R及びRは、式(I)におけるA、R、R及びRとそれぞれ同様である。
式(II)で表される化合物としては、例えば、上述した式(S3-1)~式(S3-2)で表される化合物が挙げられる。
【0038】
特定シランカップリング剤は、上記式(I)で表される構造を有する化合物が単独であってもよく、又は、2種以上の混合物であってもよい。
【0039】
[特定シランカップリング剤の製造方法]
特定シランカップリング剤の製造方法は特に制限されないが、例えば、ビニル基含有シランカップリング剤とホウ素化合物とから特定シランカップリング剤を形成することができる。
特定シランカップリング剤の製造方法としては具体的には例えば、ビニル基含有シランカップリング剤と後述するホウ素化合物(IV)とを反応させることによって、特定シランカップリング剤を製造する方法が挙げられる。
【0040】
(ビニル基含有シランカップリング剤)
特定シランカップリング剤を製造する際に使用されうるビニル基含有シランカップリング剤は、ビニル基又はビニレン基及びシリル基(式(I)におけるシリル基と同様)を有する化合物であれば特に制限されない。
ビニル基含有シランカップリング剤において、ビニル基又はビニレン基と、シリル基との連結基は、飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基またはこれらの組合せであれば特に制限されない。
ビニル基含有シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルジアルコキシシラン、ビニルモノアルコキシシラン、トリアルコキシスチリルシラン、ジアルコキシスチリルシラン、モノアルコキシスチリルシラン、トリアルコキシシリルシクロヘキセン、ジアルコキシシリルシクロヘキセン、モノアルコキシシリルシクロヘキセンが挙げられる。
【0041】
(ホウ素化合物(IV))
特定シランカップリング剤を製造する際に使用されうるホウ素化合物(IV)は、式:HBYで表されるホウ素化合物である。
式:HBY中のYは、非共有電子対を有する原子(例えば、硫黄原子、窒素原子、リン原子、酸素原子)を有する配位子を表す。
上記Yとしては、例えば、ジメチルスルフィドのようなジアルキルモノスルフィド;トリアルキルアミン;テトラヒドロフラン(THF)、モルホリン類;含窒素複素環;トリフェニルホスフィンが挙げられる。モルホリン類としては、例えば、N-アルキルシリル-モルホリンが挙げられる。
ホウ素化合物(IV)としては、例えば、BHTHF、下記構造で表される化合物が挙げられる。
【化11】
【0042】
ビニル基含有シランカップリング剤とホウ素化合物との反応は、ビニル基含有シランカップリング剤とホウ素化合物とを、例えば、無溶媒で、冷却条件下で撹拌しながら反応させる方法が挙げられる。
ビニル基含有シランカップリング剤の使用量は、ホウ素化合物1モル当量に対して、例えば、1~10モル当量とすることができる。
【0043】
[含有量]
本発明の組成物において、式(I)で表されるホウ素含有シランカップリング剤(特定シランカップリング剤)の含有量は、上述したシリカの含有量に対して、0.2~20質量%である。なかでも、上記特定シランカップリング剤の含有量は、上述したシリカの含有量に対して、1.0~15.0質量%であることが好ましく、4.0~12.0質量%であることがより好ましい。
【0044】
また、上述したジエン系ゴムが天然ゴムを含有する場合、本発明の組成物において、特定シランカップリング剤の含有量は、本発明の効果がより優れる理由から、上記天然ゴム100質量部に対して、1.0~10.0質量部であることが好ましく、4.0~8.0質量部であることがより好ましい。
【0045】
なお、本発明の組成物において、特定シランカップリング剤は、上述したジエン系ゴムと反応していてもよい。その場合の特定シランカップリング剤の含有量とは配合時の特定シランカップリング剤の含有量を指す。
【0046】
[4]任意成分
本発明の組成物は、必要に応じて、その効果や目的を損なわない範囲でさらに他の成分(任意成分)を含有することができる。
上記任意成分としては、例えば、カーボンブラック、上述した特定シランカップリング剤以外のシランカップリング剤、テルペン樹脂(例えば、芳香族変性テルペン樹脂)、熱膨張性マイクロカプセル、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加工助剤、オイル、液状ポリマー、熱硬化性樹脂、加硫剤(例えば、硫黄)、加硫促進剤などのゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤などが挙げられる。
【0047】
[5]本発明の組成物の製造方法
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、その具体例としては、例えば、上述した各成分を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど)を用いて、混合する方法などが挙げられる。本発明の組成物が硫黄又は加硫促進剤を含有する場合は、硫黄及び加硫促進剤以外の成分を先に高温で混合し、冷却してから、硫黄又は加硫促進剤を混合するのが好ましい。
また、本発明の組成物は、従来公知の加硫または架橋条件で加硫または架橋することができる。本発明の組成物を加硫または架橋した後、本発明の組成物は硬化物(加硫ゴム又は架橋ゴム)となることができる。
【0048】
[6]用途
本発明の組成物はゴム材料として好適に用いられる。例えば、タイヤ(特に、空気入りタイヤ)、コンベアベルト、ホース、防振材、ゴムロール、鉄道車両の外幌等に好適に用いられる。なかでも、タイヤ(特にトレッド)に好適に用いられる。
【実施例0049】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし本発明はこれらに限定されない。
【0050】
〔特定シランカップリング剤1の調製〕
ビニルトリエトキシシラン(5mL、23.9mmol。TCI社製)とBHTHF(277.4mg、5equiv。Sugma-Aldrich社製。以下同様)とをTHF(5mL)中で、まず、-78℃の条件下で混合し、その後室温まで自然昇温しながら撹拌し、15時間反応させた。溶媒等を、減圧で留去することにより、オイル状化合物を5.3g得た。
上記オイル状化合物は、以下の各構造式で表される化合物2種を少なくとも含む混合物である。各構造式中のRはいずれもエチル基である。
【化12】
【化13】
上記のとおり得られたオイル状化合物を、特定シランカップリング剤1として使用した。特定シランカップリング剤1に含まれる上記2種の化合物のうち、後者の化合物(1分子中にホウ素を2個有する)を、「特定シランカップリング剤1中の2量体」とも称する。
【0051】
〔特定シランカップリング剤2の調製〕
・2-トリエトキシシリルシクロヘキセン(NKH253)の調製
[PdCl(η-C)](7.6mg,0.02mmol,富士フィルム和光社製)とPPh3(11.8mg,0.04mmol,Sigma-Aldrich社製)、1,3-シクロヘキサジエン(0.8mL,8.4mmol,Sigma-Aldrich社製)を窒素雰囲気下で混合し、氷浴で冷やしたのち、トリクロロヒドロシラン(1mL,9.9mmol,TCI社製)を滴下した。氷浴を外し、室温で3日間攪拌した。再び溶液を氷浴で冷やし、トリエチルアミン(8mL,57.4mmol,Sigma-Aldrich社製)およびエタノール(24mL,425mmol,富士フィルム和光社製)からなる混合溶液を滴下し、その後室温で2時間攪拌した。反応溶液を酢酸エチル(30mL,キシダ化学社製)および蒸留水(50mL)からなる溶液に加えた後、セライトろ過(富士フィルム和光社製)を行った。その後分液操作により得られた酢酸エチル溶液を分離し、水及び飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウム(富士フィルム和光社製)により乾燥し、ろ過、溶媒留去した。その後、シリカカラムにより精製する(展開溶媒 酢酸エチル/ヘキサン=1:5 vol/vol)ことで、2-トリエトキシシリルシクロヘキセン(1.4g,5.7mmol,70%)を得た。
2-トリエトキシシリルシクロヘキセンを調製する上記の一連の反応式は以下のとおりである。
【化14】
【0052】
・N-ボラン-N-トリメチルシリルモルホリン(NKH256)の調製
N-トリメチルシリルモルホリン(2mL,11.3mmol,TCI社製)およびボランジメチルスルフィド(1.1mL,11.6mL,TCI社製)をジエチルエーテル溶液(11mL)中で混合し、室温で2時間攪拌した。その後溶媒を減圧で留去し、N-ボラン-N-トリメチルシリルモルホリン(1.7g,9.8mmol。下記構造)を得た。
【化15】
【0053】
N-ボラン-N-トリメチルシリルモルホリンの1H NMRによる分析結果は以下のとおりである。
1H NMR(C6D6、RT)0.08(s,9H),2.16(m,2H),2.34(m,2H),3.23(m,2H),4.44(m,2H).
11B{1H} NMR (C6D6、RT)-17.5 (q)
Bruker AVANCE 600 spectrometer equipped with CryoProbe
【0054】
・特定シランカップリング剤2(NK255)の調製
2-トリエトキシシリルシクロヘキセン(1.3g,5.3mmol)およびN-ボラン-N-トリメチルシリルモルホリン(455.7mg,2.6mmol)をジエチルエーテル溶液(10mL)中で混合し、窒素雰囲気下、室温で2日間攪拌した。溶媒を減圧下留去し、オイル状化合物(1.4g)を得た。
上記オイル状化合物は、以下の各構造式で表される化合物2種を少なくとも含む混合物である。
【化16】
【化17】
上記のとおり得られたオイル状化合物を、特定シランカップリング剤2として使用した。特定シランカップリング剤2に含まれる上記2種の化合物のうち、後者の化合物(1分子中にホウ素を2個有する)を、「特定シランカップリング剤2中の2量体」とも称する。
【0055】
〔ゴム組成物の調製〕
下記表1に示される成分を同表に示される割合(質量部)で配合した。具体的には、まず、下記表1に示される成分のうち硫黄及び加硫促進剤を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーを用いて140℃付近に温度を上げてから、5分間混合した後に放出し、室温まで冷却してマスターバッチを得た。さらに、上記バンバリーミキサーを用いて、得られたマスターバッチに硫黄及び加硫促進剤を混合し、各ゴム組成物を得た。
【0056】
比較例1で使用されたシランカップリング剤(TESPT)4質量部が有するトリエトキシシリル基のモル当量は0.0148モル当量であった。
本実施例1では、比較例1との比較のため、特定シランカップリング剤1が有するシリル基のモル当量を比較例1と同じ0.0148モル当量に設定した。なお、表1で示す、特定シランカップリング剤1の使用量2.9質量部は、特定シランカップリング剤1中の2量体(その分子量及びシリル基の数)を用いて算出した。
本実施例2では、特定シランカップリング剤1を、実施例1で使用された特定シランカップリング剤1の2倍量(5.8質量部)で使用した。
本実施例3では、比較例1との比較のため、特定シランカップリング剤2が有するシリル基のモル当量を比較例1と同じ0.0148モル当量に設定した。なお、表1で示す、特定シランカップリング剤2の使用量3.7質量部は、特定シランカップリング剤2中の2量体(その分子量及びシリル基の数)を用いて算出した。
【0057】
〔評価〕
得られた各ゴム組成物について以下の評価を行った。
【0058】
<破断物性>
得られた各ゴム組成物(未加硫)を、金型(15cm×15cm×0.2cm)中、150℃で30分間プレス加硫して、硬化物としての加硫ゴムシートを作製した。次いで、得られた加硫ゴムシートについて、JIS K6251:2010に準拠し、JIS3号ダンベル型試験片(厚さ2mm)を打ち抜き、温度20℃、引張り速度500mm/分の条件で、破断物性として、引張強さ(切断時強度)及び切断時伸びを評価した。
破断物性(引張強さ及び切断時伸び)の結果を表1に示す。上記結果は従来例を100とする指数でそれぞれ表した。
本発明において、引張強さ及び切断時伸びの指数がいずれも100超であった場合、得られた硬化物の破断物性が良好であると評価した。引張強さ及び/又は切断時伸びの指数が100より大きい程、得られた硬化物の破断物性がより良好であると評価した。
一方、引張強さ及び切断時伸びの指数のいずれかが100以下であった場合、得られた硬化物の破断物性が悪いと評価した。
【0059】
<バウンドラバー量>
得られた組成物(未加硫)0.3gを金網かごに入れ、室温で300mLのトルエン中に48時間浸漬した後取り出して乾燥し、サンプルの質量を測定して、バウンドラバー量を下記式から算出した。
バウンドラバー量=[(トルエン浸漬、乾燥後のサンプル質量)-(シリカの質量)]/(ゴム成分質量)
バウンドラバー量の結果を表1に示す。上記結果は従来例を100とする指数で表した。
本発明において、バウンドラバー量の指数が100超であることが好ましい。
バウンドラバー量の指数が大きいほど、バウンドラバー(特定シランカップリング剤を介してシリカと反応したゴム)が多く、ジエン系ゴムと特定シランカップリング剤との反応性が高いことを意味する。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示した各成分の詳細は以下のとおりである。
・NR:天然ゴム
・シリカ:ZEOSIL 1165MP(CTAB吸着比表面積:159m/g、ローディア社製)
・酸化亜鉛:酸化亜鉛 3種、正同化学工業製
・加硫促進剤:ノクセラーCZ-G、大内新興化学工業社製
・硫黄:金華印油入微粉硫黄、鶴見化学工業株式会社製
・シランカップリング剤(TESPT):ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド。分子量539。1分子当たりのトリエトキシシリル基の数は2個。
・特定シランカップリング剤1~2:上記のとおり調製した特定シランカップリング剤1~2
【0062】
第1表に示す結果から、特定シランカップリング剤を含有せず、代わりにTESPTを含有する比較例1は、破断物性が悪かった。
一方、本発明の組成物から得られた硬化物は、破断物性が良好であった。
また、従来例に比較して、本発明の組成物から得られたゴムはバウンドラバー量が多く、このことから、特定シランカップリング剤はジエン系ゴムとの反応性が良好であることが分かった。