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特開2025-58931二次元材料を含むトランジスタとその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025058931
(43)【公開日】2025-04-09
(54)【発明の名称】二次元材料を含むトランジスタとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10D 30/67 20250101AFI20250402BHJP
   H10D 30/01 20250101ALI20250402BHJP
【FI】
H01L29/78 617T
H01L29/78 618B
H01L29/78 617U
H01L29/78 617V
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024148285
(22)【出願日】2024-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2023168038
(32)【優先日】2023-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】沖川 侑揮
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴壽
(72)【発明者】
【氏名】岡田 光博
(72)【発明者】
【氏名】伊田 進太郎
(72)【発明者】
【氏名】畠山 一翔
(72)【発明者】
【氏名】粟屋 恵介
【テーマコード(参考)】
5F110
【Fターム(参考)】
5F110CC01
5F110CC07
5F110DD01
5F110DD02
5F110DD03
5F110DD04
5F110DD05
5F110DD11
5F110EE02
5F110EE04
5F110EE06
5F110EE09
5F110EE43
5F110EE44
5F110EE45
5F110FF01
5F110FF02
5F110FF03
5F110FF05
5F110FF09
5F110FF27
5F110FF28
5F110FF29
5F110GG01
5F110HK01
5F110HK02
5F110HK04
5F110HK06
5F110HK32
5F110HK33
5F110HK34
5F110HL01
5F110HL02
5F110HL04
5F110HL06
5F110HL22
5F110HL23
5F110HL24
5F110NN02
5F110NN34
5F110NN35
5F110QQ01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】二次元材料を活性層に含む高信頼性トランジスタ及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】トランジスタ100は、基板102上に直接又はアンダーコートを介して設けられ、ゲート電極104、ゲート絶縁層106、ゲート電極と重なる第1の導電型制御層108、第1の導電型制御層に接し、グラフェン又は遷移金属ダイカルコゲナイドを含む活性層110及び活性層と電気的に接続される一対の端子112、114を備える。第1の導電型制御層は、ゲート電極と活性層に挟まれ、金属酸化物の二次元層状ナノシートを含む。二次元層状ナノシートは単結晶でもよい。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート電極、
前記ゲート電極と重なる第1の導電型制御層、
前記ゲート電極と前記第1の導電型制御層に挟まれ、前記ゲート電極と前記第1の導電型制御層と接するゲート絶縁層、
前記第1の導電型制御層に接し、グラフェンまたは遷移金属ダイカルコゲナイドを含む活性層、および
前記活性層と直接接する一対の端子を備え、
前記ゲート絶縁層と前記第1の導電型制御層は、前記ゲート電極と前記活性層に挟まれ、
前記第1の導電型制御層は、金属酸化物の二次元層状ナノシートを含む、トランジスタ。
【請求項2】
前記活性層は、前記第1の導電型制御層の上に位置する、請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項3】
前記第1の導電型制御層は、絶縁性を有する、請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項4】
前記活性層と接する第2の導電型制御層をさらに備え、
前記活性層は、前記第1の導電型制御層と前記第2の導電型制御層に挟まれる、請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項5】
前記ゲート電極は基板上に位置し、
前記ゲート電極は、前記基板と前記活性層に挟まれる、請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項6】
前記二次元層状ナノシートは単結晶である、請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項7】
前記金属酸化物は、チタン、ルテニウム、モリブデン、コバルト、タンタル、マンガン、ニオブ、ビスマス、ランタン、カルシウム、ストロンチウムから選択される一つまたは複数を含む、請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項8】
前記遷移金属ダイカルコゲナイドは、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、レニウム、パラジウム、白金およびハフニウムの硫化物、セレン化物、テルル化物から選択される、請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項9】
基板上にゲート電極を形成すること、
前記基板上にゲート絶縁層を形成すること、
前記ゲート絶縁層上に第1の導電型制御層を形成すること、
グラフェンまたは遷移金属ダイカルコゲナイドを含み、前記第1の導電型制御層と接する活性層を、前記第1の導電型制御層上に形成すること、および
前記活性層と直接接する一対の端子を形成することを含み、
前記第1の導電型制御層は、金属酸化物の二次元層状ナノシートを含む、トランジスタの製造方法。
【請求項10】
グラフェンまたは遷移金属ダイカルコゲナイドを含む活性層を基板上に形成すること、
前記活性層と接する第1の導電型制御層を前記活性層上に形成すること、
前記活性層上にゲート絶縁層を形成すること、
前記ゲート絶縁層上にゲート電極を形成すること、および
前記活性層と直接接する一対の端子を形成することを含み、
前記第1の導電型制御層は、金属酸化物の二次元層状ナノシートを含む、トランジスタの製造方法。
【請求項11】
前記第1の導電型制御層は、絶縁性を有する、請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項12】
第2の導電型制御層を形成することをさらに含み、
前記活性層は、前記第1の導電型制御層と前記第2の導電型制御層に挟まれる、請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項13】
前記第1の導電型制御層に対して紫外線を照射することをさらに含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項14】
前記第1の導電型制御層は、ラングミュア・ブロジェット法またはスピンコート法によって形成される、請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項15】
前記第2の導電型制御層は、ラングミュア・ブロジェット法またはスピンコート法によって形成される、請求項12に記載の製造方法。
【請求項16】
前記活性層は、転写法によって形成される、請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項17】
前記二次元層状ナノシートは単結晶である、請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項18】
前記金属酸化物は、チタン、ルテニウム、モリブデン、コバルト、タンタル、マンガン、ニオブ、ビスマス、ランタン、カルシウム、ストロンチウムから選択される一つまたは複数を含む、請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項19】
前記遷移金属ダイカルコゲナイドは、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、およびハフニウムの硫化物、セレン化物、テルル化物から選択される、請求項9または10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、二次元材料を活性層に含むトランジスタとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンや遷移金属ダイカルコゲナイドをはじめとする二次元材料は、その特異的な構造に起因する特徴的な電気的特性が故に大きな注目を集めている。例えば、グラフェンやその積層膜は、透明導電膜や配線を形成するための素材としてだけでなく、高周波デバイスやセンサー、トランジスタなどの電子デバイスのキーマテリアルとして期待されている(特許文献1、2参照)。また、遷移金属ダイカルコゲナイドは、比較的大きなバンドギャップに起因して発光可能な半導体としても機能することから、トランジスタのみならず、発光デバイスへの応用も期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2014/0158988号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2021/0234015号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、二次元材料を含む、新規構造を有するトランジスタとその製造方法を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、二次元材料を活性層に含む高信頼性トランジスタとその製造方法を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、二次元材料を含む薄膜の導電型、および二次元材料を活性層に含むトランジスタの導電型を制御する方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、トランジスタである。このトランジスタは、ゲート電極、ゲート電極と重なる第1の導電型制御層、ゲート電極と第1の導電型制御層に挟まれ、ゲート電極と第1の導電型制御層と接するゲート絶縁層、第1の導電型制御層に接し、グラフェンまたは遷移金属ダイカルコゲナイドを含む活性層、および活性層と直接接する一対の端子を備える。ゲート絶縁層と第1の導電型制御層は、ゲート電極と活性層に挟まれる。第1の導電型制御層は、金属酸化物の二次元層状ナノシートを含む。
【0006】
本発明の実施形態の一つは、トランジスタの製造方法である。この製造方法は、基板上にゲート電極を形成すること、基板上にゲート絶縁層を形成すること、ゲート絶縁層上に第1の導電型制御層を形成すること、グラフェンまたは遷移金属ダイカルコゲナイドを含み、第1の導電型制御層と接する活性層を第1の導電型制御層上に形成すること、および活性層と直接接する一対の端子を形成することを含む。第1の導電型制御層は、金属酸化物の二次元層状ナノシートを含む。
【0007】
本発明の実施形態の一つは、トランジスタの製造方法である。この製造方法は、グラフェンまたは遷移金属ダイカルコゲナイドを含む活性層を基板上に形成すること、活性層と接する第1の導電型制御層を活性層上に形成すること、活性層上にゲート絶縁層を形成すること、ゲート絶縁層上にゲート電極を形成すること、および活性層と直接接する一対の端子を形成することを含む。第1の導電型制御層は、金属酸化物の二次元層状ナノシートを含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】本発明の実施形態の一つに係るトランジスタの模式的端面図。
図1B】本発明の実施形態の一つに係るトランジスタの模式的端面図。
図1C】本発明の実施形態の一つに係るトランジスタの模式的端面図。
図2A】本発明の実施形態の一つに係るトランジスタの模式的端面図。
図2B】本発明の実施形態の一つに係るトランジスタの模式的端面図。
図3A】本発明の実施形態の一つに係るトランジスタの模式的端面図。
図3B】本発明の実施形態の一つに係るトランジスタの模式的端面図。
図3C】本発明の実施形態の一つに係るトランジスタの模式的端面図。
図4A】本発明の実施形態の一つに係るトランジスタの作製方法を示す模式的端面図。
図4B】本発明の実施形態の一つに係るトランジスタの作製方法を示す模式的端面図。
図5A】本発明の実施形態の一つに係るトランジスタの作製方法を示す模式的端面図。
図5B】本発明の実施形態の一つに係るトランジスタの作製方法を示す模式的端面図。
図5C】本発明の実施形態の一つに係るトランジスタの作製方法を示す模式的端面図。
図6】本発明の実施形態の一つに係るトランジスタの作製方法を示す模式的端面図。
図7A】実施例1と比較例1の積層体のラマンスペクトル。
図7B】実施例1と比較例1の積層体のX線光電子分光(XPS)スペクトル。
図8A】実施例2のトランジスタの作製方法を示す模式的端面図。
図8B】実施例2のトランジスタの作製方法を示す模式的端面図。
図8C】比較例2のトランジスタの模式的端面図。
図9A】実施例2のトランジスタのVgs-シート抵抗プロット。
図9B】比較例2のトランジスタのVgs-シート抵抗プロット。
図10】実施例3と比較例3の積層体のラマンスペクトル。
図11A】実施例1において表面電位測定に用いた試料の模式的上面図。
図11B】実施例1において表面電位測定に用いた試料の模式的端面図。
図12A】実施例1において表面電位測定に用いた試料の原子間顕微鏡(AFM)像。
図12B】実施例1において表面電位測定に用いた試料のAFM測定によって得られた表面のプロファイル。
図12C】実施例1における表面電位の測定結果。
図13】実施例4と比較例4のトランジスタのVgs-シート抵抗プロット。
図14A】実施例5と比較例5の試料のラマンスペクトル。
図14B】ラマンシフトから見積もられた、実施例5の積層体のキャリア密度の変化を示すグラフ。
図15A】実施例6のトランジスタの模式的端面図。
図15B】比較例6のトランジスタの模式的端面図。
図16】実施例6と比較例6のトランジスタのVgs-Idsプロット。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本出願で開示される発明の実施形態について説明する。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。以下の実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。
【0010】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。
【0011】
本明細書および特許請求の範囲において、ある構造体の上に他の構造体を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある構造体に接するように、直上に他の構造体を配置する場合と、ある構造体の上方に、さらに別の構造体を介して他の構造体を配置する場合との両方を含むものとする。
【0012】
1.トランジスタの構造
本発明の実施形態の一つに係る、二次元材料を活性層に含むトランジスタ100の模式的端面図を図1Aに示す。図1Aに示すように、トランジスタ100は基板102上に直接、または図示しないアンダーコートを介して設けられ、ゲート電極104、ゲート絶縁層106、導電型制御層108、活性層110、および一対の端子112、114を含む。ゲート絶縁層106と導電型制御層108は、ゲート電極104と活性層110に挟まれる。基板102に含まれる材料に制約はなく、例えばガラス、石英、単結晶ケイ素、単結晶ゲルマニウム、サファイアなどを含む基板102を適宜用いればよい。図示しないが、トランジスタ100上には、トランジスタ100を保護するための絶縁膜などを設けてもよい。
【0013】
(1)ゲート電極
ゲート電極104は、ゲート絶縁層106を介して活性層110中の電子またはホールの密度を制御する電極であり、例えばモリブデン、タンタル、タングステン、チタン、銅、ニッケル、クロム、金などの金属、またはこれらの金属から選択される金属を含む合金を含む。あるいは、ゲート電極104はケイ素を含んでもよい。この場合、ホウ素やアルミニウムなどのドーパントが比較的高濃度でドープされた低抵抗シリコンをゲート電極104として用いることができる。ゲート電極104の厚さに制約はなく、例えば5nm以上1000nm以下の範囲から適宜選択すればよい。ゲート電極104は、例えばスパッタリング法、有機金属気相成長法(MOCVD)法を含む化学気相堆積(CVD)法、蒸着法(真空蒸着法、電子ビーム蒸着法)などを適用して形成すればよい。
【0014】
(2)ゲート絶縁層
ゲート絶縁層106は、ゲート電極104上に、ゲート電極104と接するように設けられる。ゲート絶縁層106は、ゲート電極104を覆うように設けられる。ゲート絶縁層106は、例えば酸化ケイ素や窒化ケイ素などのケイ素含有無機化合物を含む一つまたは複数の層によって構成することができる。ゲート絶縁層106は、ケイ素含有無機化合物からなり、金属酸化物を含まなくてもよい。あるいは、ケイ酸ハフニウム、ケイ酸ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウムなどの、所謂高誘電率材料を用いてゲート絶縁層106を形成してもよい。ゲート絶縁層106は、例えば5nm以上30nm以上の厚さで、スパッタリング法やCVD法を利用して形成すればよい。
【0015】
(3)導電型制御層
導電型制御層108は、ゲート電極104と重なり、ゲート絶縁層106と接するよう、ゲート絶縁層106上に設けられる。導電型制御層108は、その上に設けられる二次元材料を含む活性層110の導電型(n型またはp型)を制御する。具体的には、導電型制御層108に含まれる材料を適宜選択することにより、導電型制御層108と活性層110の間で電荷移動が生じ、その結果、活性層110にp型またはn型の導電型が付与される。実施例で示すように、例えば導電型制御層108に酸化チタンや酸化ニオブ(Nb)、チタンニオブ酸化物(TiNbO)などを用いることによって活性層110に電子ドープを行うことができ、二次元材料にn型の導電型を付与する、あるいはn型の導電性を増大させることができる。なお、以下の説明では、無機化合物の組成は、必ずしも金属の価数を整数として扱うことで算出される化学量論と一致する必要はない。すなわち、無機化合物の元素の組成比は、化学式中の整数と厳密に一致する必要はない。したがって、例えば酸化チタンの場合、TiOと表記した場合でも、TiとOの原子比は厳密に1:2ではなくてもよく、1:2から逸脱した組成を有する酸化チタンもTiOと記載される化合物の範疇に含まれる。
【0016】
導電型制御層108は、金属酸化物の二次元層状ナノシートを含む。金属酸化物に含まれる金属としては、チタン、ルテニウム、モリブデン、コバルト、タンタル、マンガン、ニオブ、ビスマス、ランタン、カルシウム、ストロンチウムなどが挙げられる。具体的な金属酸化物としては、酸化チタン、酸化ルテニウム、酸化モリブデン、酸化コバルト、酸化ニオブ、酸化タンタルなどが挙げられる。あるいは、複数の金属を含む金属酸化物を用いてもよい。例えばTiNbOなどのチタンとニオブを含む金属酸化物、チタンとビスマスを含む金属酸化物、ランタンとニオブを含む金属酸化物、カルシウムとニオブを含む金属酸化物、ストロンチウムとタンタルを含む金属酸化物、ビスマス、ストロンチウム、およびタンタルを含む金属酸化物などを用いてもよい。
【0017】
金属酸化物の二次元層状ナノシートとは、層状化合物を構成する最小基本単位、すなわち、金属酸化物の単一の層であり、厚さは1nm前後と極めて小さいものの、横方向には数100nmから数10μmオーダーを有する異方性の高い二次元単結晶である。このため、アモルファス構造を有する金属酸化物とは大きく異なる性質を示す。導電型制御層108は、金属酸化物の二次元層状ナノシートの単一、または複数の層によって構成される。導電型制御層108の厚さに制約はなく、例えば1nm以上100nm以下の範囲から適宜選択される。導電型制御層108は、例えば、スピンコート法やラングミュア・ブロジェット法(LB法)を利用して形成することができる。具体的には、まず、金属酸化物を含む層状化合物(前駆体)を塩酸や硝酸などの酸を用いて処理することによって前駆体の層間に含まれる金属イオン(例えば、ナトリウムやセシウム、カリウムなどのアルカリ金属イオン、あるいはカルシウムなどのアルカリ土類イオン)をプロトンへ置換する。その後、プロトンを有機イオンによってイオン交換することで、金属酸化物の二次元層状ナノシートがコロイド状に分散した溶液または分散液が得られる。その後、気液界面に形成した金属酸化物の二次元層状ナノシートをLB法でゲート絶縁層106上に一層または複数層形成すればよい。
【0018】
(4)活性層
活性層110は二次元材料を含み、導電型制御層108と接するよう、導電型制御層108上に設けられる。活性層110がゲート電極104と重なる領域にトランジスタ100のチャネルが形成される。後述するように、活性層110は転写法を利用して導電型制御層108に上に形成される。
【0019】
二次元材料としては、グラフェンと遷移金属ダイカルコゲナイドが挙げられる。グラフェンとは、sp炭素原子が二次元のハニカム格子内に配置され、一原子層の厚さ(約0.3nm)を有するシート状物質を指す。グラフェンは、グラファイトの層状構造を構成する層の一つであり、単層グラフェンとも呼ばれる。遷移金属ダイカルコゲナイドとは、一層の遷移金属層がカルコゲン原子である硫黄、セレン、またはテルルの原子層で挟まれた構造を有した単層物質またはその積層体であり、その厚さは約0.6nmから3nm程度である。特に、単層構造を有する遷移金属ダイカルコゲナイドが好ましい。遷移金属は、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、白金およびハフニウムから選択することができ、代表的な遷移金属ダイカルコゲナイドとしては、二硫化モリブデン(MoS)や二硫化タングステン(WS)、二セレン化モリブデン(MoSe)、二セレン化タングステン(WSe)などが挙げられる。
【0020】
(5)端子
一対の端子112、114は、いずれも活性層110と接し、活性層110と直接、かつ、電気的に接続されるように設けられる。一対の端子112、114の一方はソース電極として機能し、他方はドレイン電極として機能する。一対の端子112、114は、ゲート電極で使用可能な金属または合金を含み、スパッタリング法やCVD法、蒸着法などを適宜利用して形成すればよい。一対の端子112、114は、図1Aに示すように、活性層110から露出する導電型制御層108と接してもよい。あるいは、図示しないが、一対の端子112、114と重なる領域にも活性層110を設け、一対の端子112、114が導電型制御層108と接しないようにトランジスタ100を構成してもよい。
【0021】
2.変形例
トランジスタ100の構成は、上述した構成に限られない。例えば、図1Bに示すように、導電型制御層108が十分な絶縁性を有する場合、ゲート絶縁層106を設けず、導電型制御層108を単独でゲート絶縁層として機能させてもよい。この場合に、導電型制御層108はゲート電極104と活性層110と接することになる。この構成では、ケイ素含有無機化合物などを含むゲート絶縁層106が不要となるので、より低コストでトランジスタ100を作製することができる。なお、図1Bには、導電型制御層108や活性層110が一部エッチングされる構成が例示されているが、導電型制御層108および/または活性層110がエッチングされず、基板102の全体または一部を覆ってもよい。この場合には、図1Cに示すように、導電型制御層108および/または活性層110が端子112、114から露出する。
【0022】
図1Aから図1Cに示すトランジスタ100は所謂ボトムゲートトランジスタであるが、トランジスタ100の構造はこれに限られず、トランジスタ100は所謂トップゲートトランジスタでもよい。具体的には、図2Aに示すように、基板102側から活性層110、活性層110上の導電型制御層108、導電型制御層108上のゲート絶縁層106、ゲート絶縁層106上のゲート電極104を設けてもよい。トランジスタ100がトップゲート構造を有する場合には、基板102からの不純物の侵入を防ぐためのアンダーコート116を設けることが好ましい。また、ゲート電極104上には、ゲート電極104やゲート絶縁層106を覆う層間絶縁膜118が設けられ、一対の端子112、114は、層間絶縁膜118、ゲート絶縁層106、および導電型制御層108に設けられる開口を介して活性層110と電気的に接続される。アンダーコート116と層間絶縁膜118は、ケイ素含有無機化合物を含む一つまたは複数の層によって構成すればよい。アンダーコート116と層間絶縁膜118もスパッタリング法やCVD法を適宜適用して形成すればよい。図示しないが、層間絶縁膜118上にさらに第2のゲート電極を設けてもよい。この場合、第2のゲート電極をゲート電極104と電気的に接続してもよい。
【0023】
トランジスタ100がトップゲートトランジスタの場合においても、導電型制御層108を単独でゲート絶縁層として機能させてもよい。この場合には、図2Bに示すように、導電型制御層108はゲート電極104と活性層110と接する。
【0024】
さらに、トランジスタ100は、活性層110を挟むように複数の導電型制御層108を有してもよい。具体的には、図3Aに示すように、トランジスタ100は、活性層110と接し、活性層110を挟む第1の導電型制御層108-1と第2の導電型制御層108-2を備えてもよい。この場合には、活性層110の上に設けられる導電型制御層(ここでは、第2の導電型制御層108-2)に活性層110を露出する開口が設けられ、この開口を介して一対の端子112、114が活性層110と電気的に接続される。図3Bに示すように、複数の導電型制御層108を有する場合においても、一方の導電型制御層(ここでは、第1の導電型制御層108-1)と接するゲート絶縁層106をゲート電極104と第1の導電型制御層108-1の間に設けてもよい。
【0025】
この複数の導電型制御層108と活性層110の積層構造は、トップゲート型のトランジスタ100にも採用することができる。例えば図3Cに示すように、基板102上に直接、またはアンダーコート116を介し、第1の導電型制御層108-1/活性層110/第2の導電型制御層108-2を設け、活性層110上の第2の導電型制御層108-2に設けられる開口を介して端子112、114を活性層110と電気的に接続させてもよい。図示しないが、この場合においても、ゲート絶縁層106を設けず、第2の導電型制御層108-2を単独でゲート絶縁層として機能させてもよい。
【0026】
3.トランジスタの製造方法
以下、図1Aに示すボトムゲート型のトランジスタ100の製造方法について説明する。
【0027】
まず、基板102上にゲート電極104とゲート絶縁層106を形成する(図4A)。
ここまでの段階は広く知られているため、詳細な説明は割愛する。
【0028】
その後、ゲート絶縁層106上に導電型制御層108を形成する(図4B)。具体的には、まず、酸化物の二次元層状ナノシートの前駆体を調製する。酸化物が酸化チタンの場合には、例えば炭酸セシウムと酸化チタン(IV)の混合物を800℃程度の高温で焼成することで、CsTiの組成を有する前駆体を得ることができる。炭酸セシウムと酸化チタン(IV)の混合比や焼成条件に依存するが、通常、xは0.6以上0.7以下、yは1.80以上1.85以下となる。この前駆体では、酸化チタンの単一層とセシウムイオンからなる層が交互に積層される。その後、前駆体を塩酸や硝酸などで処理することで、セシウムイオンをプロトンに置換する。さらに、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどの水溶性の有機カチオンを含む溶液と処理する。有機カチオンは、4級アンモニウムカチオンなどの大きなカチオンであることが好ましい。有機カチオンによる処理により、酸化チタンの層間距離が増大する。この状態で振とうする、超音波照射を行うなどの機械的刺激を加えることにより、酸化チタンの単一層がばらばらに剥離し、酸化チタンの単一層がコロイド状に分散した溶液または分散液を得ることができる。この溶液または分散液を用いるスピンコート法により、ゲート電極104とゲート絶縁層106が形成された基板102上に酸化チタンの二次元層状ナノシートを積層させればよい。積層数にも制約はなく、例えば、1以上100以下、または10以上50以下の範囲から適宜選択すればよい。酸化物が酸化チタンの場合には、導電型制御層108の組成Tiにおけるzは、0.87から0.91となる。
【0029】
なお、導電型制御層108の作製方法はスピンコート法に限られず、LB法、ディップコート法、電気泳動、レイヤーバイレイヤー(LBL)法、交互吸着放などの各種湿式成膜法を適用してもよい。金属酸化物の二次元層状ナノシート分散した溶液または分散液の濃度の他、スピンコート法における滴下量や回転速度、ディップコート法における引き上げ速度、電気泳動における印加電圧や泳動時間などの種々のパラメータを適宜調整することで、導電型制御層108の厚さを制御することができる。
【0030】
引き続き、導電型制御層108上に活性層110を形成するが、任意の構成として、活性層110の形成前に導電型制御層108に対して紫外線照射を行ってもよい。紫外線の波長は、例えば280nm以上400nmの範囲から選択すればよい。紫外線照射により導電型制御層108の表面の親水性を向上することができるため、活性層110との接合力を増大させることができる。
【0031】
二次元材料を含む活性層110の形成においては合成基板上に合成された二次元材料の転写法を利用することができる。二次元材料がグラフェンの場合、まず、チャンバー内に銅などの合成基板120を配置し、熱CVD法を適用して合成基板120上にグラフェンを成長させて活性層110を形成する(図5A)。熱CVD法における反応ガスとしては、メタンやエタン、アセチレン、エタノール、ベンゼンなどの原料ガスと水素などの還元性ガスが用いられる。グラフェンを成長させる温度は、例えば600℃以上1200℃以下であり、この条件によって一原子層のグラフェンを有する活性層110が得られる。
【0032】
合成基板120は、少なくとも表面にグラフェンを成長させるための触媒能を備える金属を有する。したがって、合成基板120は、触媒能を備える金や銀、銅、ニッケル、モリブデン、クロム、イリジウム、白金などの金属、またはステンレスやニッケルクロムなどの合金を含む金属板、金属箔でもよい。あるいは、上記金属または合金を含む金属層が形成された絶縁基板または半導体基板でもよい。絶縁基板としては、ガラス基板や石英基板、サファイア基板などが例示され、半導体基板としては、単結晶シリコン基板が例示される。典型的には、ガラス基板、石英基板、サファイア基板、またはシリコン基板、およびその上に設けられる銅の薄膜、銅箔、または銅板が合成基板120として設けられる。
【0033】
二次元材料として遷移金属ダイカルコゲナイドを用いる場合でも、転写法を利用することができる。例えば遷移金属ダイカルコゲナイドとして二硫化モリブデン(MoS)を用いる場合、まず、熱CVD法を適用して、合成基板120上にMoSを成長させて活性層110を形成する。具体的には、チャンバー内に合成基板120を配置する。合成基板120としては、雲母(マイカ)基板、シリコン基板、ゲルマニウム基板、ガリウムヒ素基板、窒化ガリウム基板、サファイア基板、石英基板、黒鉛基板、六方晶窒化ホウ素基板、ガラス基板、金基板、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)単結晶基板などが用いられる。雲母基板は天然雲母基板でもよく、あるいはフッ素金雲母基板などの人造雲母基板でもよい。シリコンやゲルマニウム、化合物半導体などの半導体を含む基板を用いる場合には、その表面に酸化物が形成されていてもよい。
【0034】
その後、合成基板120が配置されたチャンバー内に原料、キャリアガス、および必要に応じて成長促進剤を導入して加熱することで原料を反応させ、合成基板120上にMoSを成長させる。原料としては、モリブデン酸化物(MoOやMoO)と固体硫黄(S)などが例示される。キャリアガスとしては、アルゴンやヘリウムなどの希ガスまたは窒素を用いることができる。また、キャリアガスに水素を添加してもよい。成長促進剤としては、アルカリ金属の塩が例示される。アルカリ金属としては、リチウム、カリウム、ナトリウム、セシウムから選択される。塩を構成するアニオンに制約はない。例えば、塩としてはハロゲン化物、酸化物、水酸化物、硫化物、炭酸塩、炭酸水素塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、クエン酸や酢酸、エチレンジアミン四酢酸などのカルボン酸塩などから選択することができる。好ましくは、熱CVDにおける加熱温度よりも高い融点を有する塩であり、典型的には塩化ナトリウムや塩化カリウムを用いることができる。アルカリ金属の塩は、粉体として石英などの容器に充填してチャンバー内に配置すればよい。MoSを成長させる温度は、例えば500℃以上1100℃以下であり、この条件によって一層のMoSを有する活性層110が得られる。
【0035】
引き続き、活性層110上に樹脂層122を形成する(図5A)。樹脂層122としては、例えばポリメタクリル酸メチルなどのアクリル樹脂、ポリ(メチルグルタルイミド)などの脂肪族ポリイミド、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子などの樹脂層が例示されるが、これらに限られない。後述する有機溶媒または水に可溶性を示す材料を樹脂層122として使用することができる。樹脂層122の形成法として、例えばスピンコート法、インクジェット法、ディップコート法、印刷法などが例示される。樹脂層の代わりに、熱剥離テープや紫外線剥離テープを用いることもできる。
【0036】
次に、合成基板120を除去する。例えば、グラフェンを成長させる触媒として機能する金属を溶解するエッチャントを用いることで合成基板120が除去される。例えば、銅を合成基板として用いる場合はエッチャントとしては、例えば塩化第二鉄の水溶液、過硫酸アンモニウムの水溶液、硝酸などの無機酸の水溶液などが用いられる。あるいは、合成基板120の表面を溶解するエッチャントを用いてもよい。また、エッチャントを用いず、合成基板120から活性層110を機械的に引き剥がしてもよい。
【0037】
また、例えば、酸化ケイ素付き単結晶シリコン基板を合成基板として用いてMoSを合成した場合には、水酸化カリウムなどの無機アルカリ性水溶液などが用いられる。これら以外にも、純水を用いてもよい。また、エッチャントを用いず、合成基板120から活性層110を機械的に引き剥がしてもよい。
【0038】
この後、樹脂層122と基板102を接合する(図5B図5C)。接合は、活性層110と導電型制御層108が樹脂層122と基板102に挟まれるように行われる。この時、ゲート電極104などに起因して導電型制御層108の上面に凹凸が存在することがあるが、可撓性を有する樹脂層122を用いることにより、活性層110を導電型制御層108の上面の形状に適合するように配置することができる。この後、樹脂層122を除去することで、導電型制御層108上に活性層110を積層することができる。樹脂層122の除去は、樹脂層122を溶解する溶媒中で樹脂層122が形成された基板102を浸漬することで行えばよい。溶媒としては、水に加え、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン類、トルエンやキシレン、アニソールなどの芳香族系溶媒、塩化メチレンやクロロホルムなどのハロゲン系溶媒、テトラヒドロフランやジオキサンなどのエーテル系溶媒でもよい。あるいは、溶媒を用いず、機械的に樹脂層122を引き剥がしてもよい。なお、任意の工程として、樹脂層122の除去の後、微量に残存する樹脂層122を熱処理によって除去してもよい。例えば、アルゴンや窒素などの不活性ガスと水素ガスとの混合ガス、または真空雰囲気下において、300℃以上500℃以下の温度で熱処理を行って残存する樹脂層122を除去してもよい。樹脂層122の代わりに熱剥離シートや紫外線剥離シートを用いる場合は、加熱や紫外線照射で熱剥離シートや紫外線剥離シートを除去することができる。
【0039】
図示しないが、活性層110の下に設けられる導電型制御層108の形成方法と同様の方法を用い、活性層110上にさらに導電型制御層108を設けてもよい。この場合には、活性層110上の導電型制御層108をさらにエッチングし、端子112、114の接続のための開口を形成すればよい。
【0040】
なお、活性層110に対して適宜エッチングを行い、導電型制御層108の一部を活性層110から露出してもよい(図6)。エッチングは、例えば電子線照射、水分子のクラスターイオンビームの照射、酸素プラズマ照射、水素プラズマ照射、ハロゲン化合物プラズマ照射、ヘリウムイオン照射などによって行えばよい。あるいは次亜塩素酸や亜塩素酸、塩素酸などの塩素系オキソ酸やその塩、過マンガン酸カリウムなどの過マンガン酸金属塩、クロム酸カリウムや二クロム酸カリウムなどのクロム酸金属塩、オゾン、過酸化水素、塩素やヨウ素、臭素などのハロゲンなどをエッチャントとして用いてエッチングを行ってもよい。
【0041】
その後、一対の端子112、114を形成する。一対の端子112、114は、上述した金属または合金を含む膜をスパッタリング法や真空蒸着法、エレクトロンビーム蒸着法などを利用して基板102のほぼ全面に形成し、その後、リソグラフィーによるパターニングによって形成することができる。これにより、トランジスタ100を製造することができる。
【0042】
本発明の実施形態の一つに係るトランジスタ100では、二次元材料であるグラフェンまたは遷移金属ダイカルコゲナイドを含む活性層110と接するように、金属酸化物の二次元層状ナノシートを含む導電型制御層108が設けられる。このため、活性層110と導電型制御層108の間で電荷の授受が生じ、導電型制御層108に含まれる金属酸化物の種類を適宜選択することにより、活性層110の導電型をn型またはp型に任意に制御することができる。例えば酸化チタンや酸化ニオブ、TiNbOなどの二次元層状ナノシートを導電型制御層108において使用することで、n型の活性層110を形成することができ、その結果、n型トランジスタを提供することが可能となる。
【0043】
また、トランジスタ100では、導電型制御層108に含まれる金属酸化物の二次元層状ナノシートは、異方性の高い二次元単結晶である。このため、アモルファス構造の金属酸化物と異なり、高い熱安定性を有する。したがって、比較的高温が要求される半導体プロセスの条件下においても構造変化は生じず、構造変化に起因するトランジスタ100の劣化や特性変化を防止することができる。このことは、二次元材料を含有する活性層110を導電型制御層108と接するように設けることで、信頼性の高いトランジスタやそれを含む各種電子デバイスの提供に寄与することを意味する。
【実施例0044】
1.実施例1:酸化チタンの二次元層状ナノシート上のグラフェン層の特性
トランジスタ100では、金属酸化物の二次元層状ナノシートを含む導電型制御層108上に二次元材料を含む活性層110が形成される。そこで、本実施例では、金属酸化物と二次元材料としてそれぞれ酸化チタンとグラフェンを用い、その二次元層状ナノシート上のグラフェン層の特性を評価した結果について述べる。
【0045】
(1)試料の調製
まず、炭酸セシウムと酸化チタン(IV)をセシウムとチタンのモル比(Cs/Ti)が0.8/1.8となるように混合し、この混合物を乳鉢で磨り潰した。得られた粉体をアルミナ坩堝に投入し、大気下、800℃で20時間加熱することで、前駆体Cs0.6Ti1.8を得た。この前駆体を室温で3日間1M塩酸で処理した。具体的には、前駆体と塩酸の混合物を振とうし、約24時間ごとに遠心分離(4000rpm、10分)して上澄みを除去する操作を繰り返した。その後、水を加えて混合物を水中に分散し、遠心分離(4000rpm、10分)による上澄みの除去を含む洗浄操作を6回行った。これにより、セシウムがプロトンで置換されたH型層状酸化チタンH0.6Ti1.8・nHOを得た。
【0046】
その後、H型層状酸化チタンに0.025Mのテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAOH)水溶液を、プロトン/TBAOHのモル比が1:8になるように加え、超音波照射(240W)を9時間行い、酸化チタンの二次元層状ナノシートの水溶液を得た。
【0047】
スピンコート法を用い、上記水溶液中の酸化チタンの二次元層状ナノシートを、表面に酸化ケイ素の熱酸化膜が形成された単結晶シリコン基板(1.6cm×1.6cm、厚さ0.5mm)の上に積層した。積層作業ごとに単結晶シリコン基板を80℃に設定したホットプレート上で乾燥した。積層作業は20回行い、その後、単結晶シリコン基板を200℃のオーブン内で1時間処理した。以上の操作により、Si/SiO/TiOの積層体を得た。TiOの厚さは約20nmであった。
【0048】
引き続き、上記積層体上にグラフェン層を形成した。具体的には、熱CVD法により銅箔上に形成された単層グラフェン膜(Graphenea社製)を用い、単層グラフェン膜上に2重量%のポリメタクリル酸メチル(PMMA)のアニソール溶液を塗布することで、樹脂層を形成した。得られた銅箔/グラフェン層/PMMAの積層体を塩化第二鉄水溶液(20%)で30分処理して銅箔を溶解し、グラフェン層/PMMAの積層体を得た。その後、グラフェン層/PMMAの積層体とSi/SiO/TiOの積層体を接合し、引き続いてトルエンとアセトンを用いてPMMAを含む樹脂層を除去することでグラフェン層を転写し、Si/SiO/TiO/グラフェン層の積層体を得た。
【0049】
なお、比較例1として、酸化チタンの二次元層状ナノシートが形成されていない酸化ケイ素付き単結晶シリコン基板(Si/SiO)とグラフェン層/PMMAの積層体の接合と引き続くPMMAの除去を行い、Si/SiO/グラフェン層の積層体を得た。
【0050】
(2)特性評価
レニショー製ラマン分光装置(型番in Via、以下同じ。)を用い、得られた実施例1と比較例1の試料のラマンスペクトル(励起波長488nm、スポット径1μm)を測定した。図7Aに示されるように、実施例1のSi/SiO/TiO/グラフェン層の積層体のGバンドピークは、比較例1のSi/SiO/グラフェン層の積層体のそれと比較し、高波数シフトしていることが分かる。このことから、実施例1のグラフェン層のキャリア密度が比較例1のグラフェン層のキャリア密度よりも高いことが示唆される。
【0051】
PHI社製X線光電子分光装置用い、AlKα線の光源を用いて実施例1と比較例1の試料のXPSスペクトルを取得した。測定範囲は400μmであった。結果を図7Bに示す。実施例1と比較例1の試料中のグラフェン層のC1s束縛エネルギーは、それぞれ284.55eV、284.40eVであり、前者が後者と比較して0.15eV高エネルギー側にシフトしていることが分かる。このことから、実施例1の試料中のグラフェン層の仕事関数が比較例1のそれと比較して小さいと言える。この結果は、実施例1の試料中のグラフェン層の電子密度が比較例1のそれよりも高いことを示しており、酸化チタンの二次元層状ナノシートからグラフェン層への電子移動が生じることでグラフェン層がn型の導電型を帯びることを示唆している。
【0052】
さらに、KFMを用いてグラフェン層の表面電位の測定を行った。具体的には、基板一部をテープでマスクしたSi/SiO基板上にTiOを堆積後、マスク除去することで基板表面の一部にTiOが堆積していないSiO露出部分を形成した。さらに、この一部分にTiOが堆積していない領域を含む全面に上述した転写法を利用してグラフェン層を形成した。これにより、図11A図11Bに示すように、一部が基板102に含まれるSiOと接し、他の一部が導電型制御層108を構成するTと接する活性層110(すなわち、グラフェン層)を形成した。TiOの端部108aを中心とした観察領域のAFM像を図12Aに、図12Aに示された点線上でのAFMを用いて取得された表面プロファイルを図12Bに示す。図12Aに示すように、濃淡が異なる二つの区域がこの観察領域で観察される。AFMを用いてこの二つの区域の境界と交差する点線上で表面の高さを測定した結果、図12Bに示すように、観察領域の左側端部から約45000nmの距離までは高さはほぼ一定であるが、距離が45000nmを超えると高さが徐々に増大することがわかる。このことから、この境界にTiOの端部108aが存在し、これを境界として左側の区域ではグラフェン層がSiOと接し、右側の区域ではTiO上にグラフェン層が存在していることが分かる。
【0053】
同様の観察領域において表面電位測定を行った結果を図12Cに示す。図12Cの結果から、観察領域の左端からの距離が約45000nmを超えた辺り、すなわち、TiOの端部108a付近から表面電位が増大していることが分かる。TiOの端部108aから左側と右側の領域では、表面電位の平均はそれぞれ59.2mV、69.1mVであった。このことから、TiO上のグラフェン層の仕事関数は、SiOと接するグラフェン層と比較して仕事関数が小さいことを意味している。これらの結果も、TiOによってグラフェン層が電子ドープされてn型に変化していることを示している。
【0054】
2.実施例2:酸化チタンの導電型制御層とグラフェン層の積層体を含むトランジスタ
本実施例では、酸化チタンの二次元層状ナノシートを含む導電型制御層、および二次元材料の層であるグラフェン層の積層体を含むトランジスタを作製し、トランジスタの特性を評価した結果について説明する。
【0055】
本実施例2のトランジスタの作製方法を示す模式的端面図を図8A図8Bに示す。まず、実施例1と同様に、スピンコート法を用い、酸化ケイ素の熱酸化膜132が形成されたp型シリコン基板(1.6cm×1.6cm、厚さ0.5mm)130上に、酸化チタンの二次元層状ナノシートを導電型制御層108として形成した。ここで、p型シリコン基板130と熱酸化膜132は、それぞれトランジスタのゲート電極とゲート絶縁層として機能する。その後、実施例1と同様に、転写法を用いてグラフェンを含む活性層110を導電型制御層108上に形成した(図8A)。この後、電子ビーム蒸着法を用い、チタン(10nm)と金(90nm)の積層として端子112、113、114、115を形成することで、実施例2の4端子を有するボトムゲート型トランジスタを4試料(素子1から素子4)作製した(図8B)。作製したトランジスタのチャネル長は50μm、チャネル幅は10μmもしくは40μmであった。比較のため、導電型制御層108を持たないトランジスタを比較例2として作製した(図8C)。
【0056】
実施例2と比較例2のトランジスタについて、一つの端子112または114とp型シリコン基板130の間に-20Vから+20Vのソース-ドレイン電圧(Vgs)を印加し、端子113と115の2端子間に生じる電位差を用いて活性層110のシート抵抗を測定した。実施例2と比較例2のトランジスタの活性層110のシート抵抗のVgs依存性をそれぞれ図9A図9Bに示す。図9Aに示すように、試料間にばらつきが見られるものの、実施例2の4試料は、いずれもVgsが負の時にシート抵抗が最大となることが確認された。すなわち、ディラック点が負のVgsの時に観察される。このことから、活性層110はn型の導電型を有しており、実施例2のトランジスタはいずれもn型のトランジスタであることが分かる。一方、導電型制御層108を持たない比較例2のトランジスタでは、ディラック点はVgsが正の時に観測された(図9B)。このことから、酸化ケイ素と接するように設けられる活性層110はp型の導電型を有し、比較例2のトランジスタはp型トランジスタであることが確認された。
【0057】
以上の結果は、ゲート絶縁層106と活性層110の間に導電型制御層108を設けることにより、活性層110やそれを含むトランジスタ100の導電型を制御できることを表している。このことから、金属酸化物を含む二次元層状ナノシートを用いることで、グラフェンを含む活性層の導電型が制御可能であることが示唆される。
【0058】
3.実施例3:TiNbOの二次元層状ナノシート上のグラフェン層の特性
本実施例では、金属酸化物と二次元材料としてそれぞれTiNbOとグラフェンを用い、TiNbOの二次元層状ナノシート上のグラフェン層の特性を評価した結果について述べる。
【0059】
(1)試料の調製
まず、炭酸カリウム、酸化チタン(IV)、酸化ニオブ(V)をカリウム、チタン、ニオブのモル比(K/Ti/Nb)が1.35/1/1となるように混合し、この混合物を乳鉢で磨り潰した。得られた粉体を炭化タングステン坩堝に投入し、大気下、1100℃で24時間加熱することで、前駆体KTiNbOを得た。この前駆体を室温で5日間2M硝酸で処理した。具体的には、前駆体と硝酸の混合物を振とうし、約24時間ごとに遠心分離(4000rpm、10分)して上澄みを除去する操作を繰り返した。その後、水を加えて混合物を水中に分散し、遠心分離(4000rpm、10分)による上澄みの除去を含む洗浄操作を6回行った。これにより、カリウムがプロトンで置換されたH型層状酸化チタンニオブHTiNbO・nHOを得た。
【0060】
その後、H型層状酸化チタンニオブに0.025Mのテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAOH)水溶液を、プロトン/TBAOHのモル比が1:8になるように加え、超音波照射(240W)を9時間行い、酸化チタンニオブの二次元層状ナノシートの水溶液を得た。
【0061】
LB法を用い、上記水溶液の気液界面に吸着したTiNbOの二次元層状ナノシートを、表面に酸化ケイ素の熱酸化膜が形成された単結晶シリコン基板(1.6cm×1.6cm、厚さ0.5mm)の上に積層した。積層作業ごとに単結晶シリコン基板を80℃に設定したホットプレート上で乾燥した。積層作業は20回行い、その後、単結晶シリコン基板を200℃のオーブン内で1時間処理した。以上の操作により、Si/SiO/TiNbOの積層体を得た。TiNbOの厚さは約20nmであった。
【0062】
引き続き、実施例1と同様の方法を適用し、Si/SiO/TiNbO/グラフェン層の積層体を実施例3の試料として得た。また、比較例1と同様に、TiNbOの二次元層状ナノシートが形成されていない積層体、すなわち、Si/SiO/グラフェン層の積層体を比較例3の試料として得た。
【0063】
(2)特性評価
レニショー製ラマン分光装置を用い、ラマンスペクトル(励起波長488nm、スポット径1μm)を測定した。図10に示されるように、実施例3のSi/SiO/TiNbO/グラフェン層の積層体のGバンドピークは、比較例3のSi/SiO/グラフェン層の積層体のそれと比較し、高波数シフトしていることが分かる。このことから、実施例3のグラフェン層のキャリア密度が比較例3のグラフェン層のキャリア密度よりも高いことが示唆される。
【0064】
4.実施例4:TiNbOの導電型制御層とグラフェン層の積層体を含むトランジスタ
本実施例では、TiNbOの二次元層状ナノシートを含む導電型制御層、および二次元材料の層であるグラフェン層の積層体を含むトランジスタを作製し、その特性を評価した結果について説明する。トランジスタの作製方法は実施例2と同様であり、酸化チタンの二次元層状ナノシートの替わりに実施例3で述べたTiNbOの二次元層状ナノシートを用いることでトランジスタを作製した。実施例4のトランジスタとして二つの試料(実施例4-1、4-2)を作製した。また、比較のため、導電型制御層108を持たないトランジスタを比較例4として作製した。
【0065】
実施例4と比較例4のトランジスタについて、実施例2と同様に活性層110のシート抵抗を測定し、その結果を図13に示す。図13に示すように、比較例4のトランジスタは、シート抵抗が最大となるVgsが正であり、Vgsが0V付近ではVgsの増大とともにシート抵抗が増加する。このことから比較例4のトランジスタはp型のトランジスタであることが分かる。これに対し、実施例4のトランジスタでは、印加したVgsの範囲ではシート抵抗の最大値は観察されなかったものの、Vgsが0V付近ではVgsの増大とともにシート抵抗が低下することが図13から理解される。また、比較例4と比較し、シート抵抗が大幅に低下している。このことから、比較例4と比較して実施例4のトランジスタの活性層110では、電子キャリア密度が大幅に増大していると言える。
【0066】
以上の結果からも、導電型制御層と接するように二次元材料の層を形成することで、二次元材料の層の導電性をn型に変化できることが確認された。
【0067】
5.実施例5:種々の導電型制御層上の硫化モリブデン層の特性
本実施例では、実施例1と3で示した酸化チタンとTiNbOのほか、酸化ニオブ(Nb)の二次元層状ナノシートを含む導電型制御層上に形成された遷移金属ダイカルコゲナイドの特性を評価した結果について述べる。遷移金属ダイカルコゲナイドとしては、二硫化モリブデン(MoS)を用いた。酸化チタンとTiNbOの導電型制御層の作製方法は実施例1、3に記載した通りである。
【0068】
(1)Nbの導電型制御層の作製
炭酸カリウムと酸化ニオブ(V)を、カリウムとニオブのモル比(K/Nb)が1.2/3となるように混合し、この混合物を乳鉢で擦り潰した。得られた粉体を炭化タングステン坩堝に投入し、大気下、900℃で10時間加熱することで、前駆体としてKNbを得た。この前駆体を室温で5日間2M硝酸で処理した。具体的には、前駆体と硝酸の混合物を振とうし、約24時間ごとに遠心分離(4000rpm、10分)して上澄みを除去する操作を繰り返した。その後、水を加えて混合物を水中に分散し、遠心分離(4000rpm、10分)による上澄みの除去を含む洗浄操作を6回行った。これにより、カリウムがプロトンで置換されたH型層状酸化チタンニオブHNb・nHOを得た。
【0069】
その後、H型層状酸化チタンニオブに0.025Mのテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAOH)水溶液を、プロトン/TBAOHのモル比が1:8になるように加え、超音波照射(240W)を9時間行い、酸化ニオブの二次元層状ナノシートの水溶液を得た。その後、15000rpmの遠心分離を30分間行い、上澄み液を除去した。得られたゲル状の沈殿にエタノールを加え、超音波照射(240W)により分散させた。このエタノール分散液を1滴を、表面に酸化ケイ素の熱酸化膜が形成された単結晶シリコン基板(1.6cm×1.6cm、厚さ0.5mm)上に滴下し、5000rpmでスピンコートし、その後単結晶シリコン基板を200℃で1時間熱処理した。以上の操作により、Si/SiO/Nbの積層体を得た。
【0070】
(2)試料の調製
二酸化モリブデン(MoO)と硫黄(S)を原料として、臭化カリウムを成長促進剤として用い、熱CVD法によって、合成基板として表面に酸化ケイ素が形成された単結晶シリコン基板(1.5cm×1.5cm、厚さ0.5mm)上に合成温度830℃でMoSを形成した。得られた試料(Si/SiO/MoS)に対し、11重量%のPMMAのアニソール溶液を塗布することで、樹脂層を形成した。得られたSi/SiO/MoS/PMMAの積層体を水酸化カリウム水溶液(2M)で数時間処理してMoS/PMMAの積層体をSi/SiOより剥離した。その後、MoS/PMMAの積層体とSi/SiO/Nbの積層体を接合し、引き続いてアセトンを用いてPMMAを含む樹脂層を除去することでMoS層を転写し、Si/SiO/Nb/MoSの積層体(実施例5-1)を得た。
【0071】
同様に、酸化チタンとTiNbOを導電型制御層として含む積層体(実施例5-2、実施例5-3)は、それぞれ実施例1と3で述べたSi/SiO/TiOの積層体とSi/SiO/TiNbOの積層体上にMoS層を転写することで作製した。比較例5として、Si/SiO/MoSの積層体を用いた。比較例5の試料は、導電型制御層が形成されていない単結晶シリコン基板(Si/SiO)とSi/SiO/MoSの積層体の接合と引き続くPMMAの除去によって作製した。
【0072】
(3)特性評価
レニショー製ラマン分光装置を用い、実施例5と比較例5の試料のラマンスペクトル(励起波長532nm、スポット径0.7μm)を測定した。図14Aに示されるように、実施例5の積層体のA´モードピークは、いずれも比較例5の積層体のそれと比較して低波数シフトしていることが分かる。また、ピーク位置は、用いた導電型制御層によって変化し、低い順に実施例5-1、5-3、5-2(すなわち、MoS/Nb、MoS2/TiNbO、MoS2/TiO)であった。また、以下の式を用いて計算された、比較例を基準としたキャリア密度の変化Δn(単位、cm-2)を図14Bに示す。以下の式において、ΔωE´とΔωA´1は、それぞれ、実施例5と比較例5の間のE´モードピークとA´モードピークのラマンシフトの差である。キャリア密度は高い基板の順にMoS/Nb、MoS2/TiNbO、MoS2/TiOであった。以上の結果から、導電型制御層と接するように配置することで、二次元材料であるMoOに電子がドーピングされていることが示唆される。
【0073】
【数1】
【0074】
5.実施例6:種々の導電型制御層と硫化モリブデン層の積層体を含むトランジスタ
本実施例では、実施例5で述べた、Nb、TiO、およびTiNbOを導電型制御層として含み、MoSを二次元材料の活性層として含むトランジスタ(それぞれ、実施例6-1、6-2、6-3)を作製し、その特性を評価した結果について述べる。比較例6としては、MoSを活性層として含むものの導電型制御層を含まないトランジスタを用いた。実施例6と比較例6のトランジスタの構造をそれぞれ図15A図15Bに示す。図15A図15Bに示すトランジスタは、実施例2と比較例2のトランジスタ(図8B図8C参照)と異なり、2端子を有するボトムゲート型トランジスタである。ただし、その作製方法は実施例2と比較例2のトランジスタと同様であるため、構造と作製方法についての説明は割愛する。
【0075】
実施例6と比較例6トランジスタについて、一つの端子113または115とp型シリコン基板130の間に-25Vから+5Vのゲート-ソース電圧(Vgs)を印加し、端子113と115の2端子間に0.5Vのソース-ドレイン電位を与えて活性層110に流れる電流を測定した(図15参照)。実施例6と比較例6のトランジスタの活性層110の電流値のVgs依存性を図16に示す。図16に示すように、実施例6と比較例6のトランジスタは、いずれもVgsの増大とともに電流値が増大している。このことから、活性層110はn型の導電型を有しており、実施例6と比較例6のトランジスタはいずれもn型のトランジスタであることが分かる。
【0076】
ここで、導電型制御層108を持たない比較例6のトランジスタでは、Vgsが負の領域において急激な電流の減少を示したが、導電型制御層108を持つ実施例6のトランジスタでは、いずれもVgsが負でも10-7A以上の電流が流れており、比較例6のトランジスタと比較して活性層110が高いキャリア密度を持つことが確認された。また、流れる電流量は、測定したVgsの範囲において高い順に実施例6-1(SiO/Nb/MoS)、実施例6-3(SiO/TiNbO/MoS)、実施例6-2(SiO/TiO/MoS)、比較例6(SiO/MoS)であった。よって、実施例5のラマン分光の結果と併せ、キャリア密度は高い順に実施例6-1(SiO/Nb/MoS)、実施例6-3(SiO/TiNbO/MoS)、実施例6-2(SiO/TiO/MoS)であることが確認された。以上の結果は、導電型制御層により、二次元材料である遷移金属ダイカルコゲナイドを含む活性層がより強くn型へシフトすることを示している。
【0077】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。また、各実施形態に対して当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったもの、または、工程の追加、省略もしくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0078】
上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0079】
100:トランジスタ、102:基板、104:ゲート電極、106:ゲート絶縁層、108:導電型制御層、108-1:第1の導電型制御層、108-2:第2の導電型制御層、108a:端部、110:活性層、112:端子、113:端子、114:端子、115:端子、116:アンダーコート、118:層間絶縁膜、120:合成基板、122:樹脂層、130:p型シリコン基板、132:熱酸化膜
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図13
図14A
図14B
図15A
図15B
図16