(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005997
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】試料中の同位体原子比の決定方法及び試料中の同位体分子比の決定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20250109BHJP
H01J 49/42 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01N27/62 D
H01J49/42 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106495
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金島 奎太
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 勇斗
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041FA22
2G041FA24
2G041FA25
2G041GA03
2G041JA20
(57)【要約】
【課題】二重収束型質量分析計又は多重周回飛行型質量分析計のような高分解能質量分析計を使用しなくても同位体原子比又は同位体分子比を決定することができる、試料中の同位体原子比の決定方法及び試料中の同位体分子比の決定方法を提供する。
【解決手段】試料中の同位体分子間の同位体原子の組換えを無作為に行う反応工程S11、反応工程S11により同位体原子の組換えを行った試料の各同位体ピークを、質量電荷比ごとにシグナルを得ることができる分析装置を用いて取得する測定工程S12、及び測定工程S12で得られたシグナルを用いて前記試料中の同位体原子比を理論的に決定する原子比計算工程S13を含む、試料中の同位体原子比の決定方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の同位体分子間の同位体原子の組換えを無作為に行う反応工程、
前記反応工程により同位体原子の組換えを行った試料の各同位体ピークを、質量電荷比ごとにシグナルを得ることができる分析装置を用いて取得する測定工程、及び
前記測定工程で得られたシグナルを用いて前記試料中の同位体原子比を理論的に決定する原子比計算工程
を含む、試料中の同位体原子比の決定方法。
【請求項2】
同位体分子間の同位体原子の組換えを行う前の試料の各同位体ピークを、質量電荷比ごとにシグナルを得ることができる分析装置を用いて取得する反応前測定工程、
前記試料中の同位体分子間の同位体原子の組換えを無作為に行う反応工程、
前記反応工程により同位体原子の組換えを行った試料の各同位体ピークを、質量電荷比ごとにシグナルを得ることができる分析装置を用いて取得する反応後測定工程、及び
前記反応前測定工程及び前記反応後測定工程で得られるシグナルを用いて、前記同位体分子間の同位体原子の組換えを行う前の試料中の同位体分子比を理論的に決定する分子比計算工程
を含む、試料中の同位体分子比の決定方法。
【請求項3】
前記分析装置が質量分析計である、請求項1に記載の試料中の同位体原子比の決定方法。
【請求項4】
前記分析装置が質量分析計である、請求項2に記載の試料中の同位体分子比の決定方法。
【請求項5】
前記質量分析計が四重極型質量分析計である、請求項3に記載の試料中の同位体原子比の決定方法。
【請求項6】
前記質量分析計が四重極型質量分析計である、請求項4に記載の試料中の同位体分子比の決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の同位体原子比の決定方法及び試料中の同位体分子比の決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
同位体は、自然科学、半導体製造プロセスや医療分野でのトレーサ等として産業用途に利用されている。
産業利用の際は同位体の効果を最大化するために同位体成分を濃縮することが求められ、主に医療分野に利用される炭素安定同位体(13C)を例に挙げると濃縮方法の一つとして、蒸留カスケードプロセスにより濃縮する方法が知られている(特許文献1)。また、99atom%以上の高濃度に濃縮するために、蒸留カスケードプロセスに加えて原子組み換え反応を組み合わせた技術が用いられている(非特許文献1)。ここで、原子組み換え反応とは、化合物を構成する原子をランダムに組み替える同位体交換反応である。
この技術では、まず、蒸留カスケードプロセスで濃縮された12C18Oガスの一部を、原子組み換え反応によって13C18Oに変換(13C16O+12C18O→12C16O+13C18O)することで、13C18Oを含むガスを得る。続いて、本ガスを蒸留塔に返送し、蒸留カスケードプロセスで13C16O及び13C18Oを濃縮し、13C濃度を99%以上とする。
COに限らず、蒸留法により製造された同位体製品では、その製品仕様を明らかにするために同位体原子組成を定量する必要がある。また一方で、濃縮プロセスの正確な評価のため同位体分子(アイソトポローグ)組成も把握することが望ましい。
上記の内容はCO同位体比分析に限らず、同一質量数に複数の成分が存在する別の化合物についても同様である。例として、一酸化窒素が挙げられる。一酸化窒素の蒸留により窒素同位体と同時に酸素同位体を濃縮できることが知られており、非特許文献2に一酸化窒素蒸留法により95atom%以上の酸素と窒素同位体を併産する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】McInteer, B. B.、“Isotope Separation by Distillation: Design of a Carbon-13 Plant”、Separation Science and Technology、1980年、第15巻、第3号、p.491-508
【非特許文献2】磯村昌平,外2名、「一酸化窒素低温蒸留法による窒素および酸素同位体の分離」、RADIOISOTOPES、1987年、第36巻、第2号、p.57-63
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
同位体原子組成又は同位体分子組成の定量方法として一般に用いられる方法が質量分析法である。ここで、COを例に挙げると、CO同位体分子にはほぼ同一の質量数に複数の分子種が存在する。具体的には、質量数29の12C17Oと13C16O、質量数30の12C18Oと13C17Oがあり、これらの質量差はミリマスレベルであるため、一般的に普及している四重極型質量分析計等では分解能が不足し分離測定することはできない。したがって、同位体原子組成又は同位体分子組成を直接定量するためには高分解能の質量分析計を用いた分離分析が必要であり、これが可能な分析計として二重収束型質量分析計や多重周回飛行型質量分析計がある。しかし、これらは高価で複雑な分析計であり、測定に高度な調整技術も必要となるため、専門知識を有する技術者と専用設備が必要であった。そのため、現場分析によるタイムリーな製品仕様の把握や濃縮プロセスの評価を行うことが困難であった。
【0006】
本発明は、二重収束型質量分析計又は多重周回飛行型質量分析計のような高分解能質量分析計を使用しなくても同位体原子比又は同位体分子比を決定することができる、試料中の同位体原子比の決定方法及び試料中の同位体分子比の決定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様は以下である。
[1] 試料中の同位体分子間の同位体原子の組換えを無作為に行う反応工程、
前記反応工程により同位体原子の組換えを行った試料の各同位体ピークを、質量電荷比ごとにシグナルを得ることができる分析装置を用いて取得する測定工程、及び
前記測定工程で得られたシグナルを用いて前記試料中の同位体原子比を理論的に決定する原子比計算工程
を含む、試料中の同位体原子比の決定方法。
[2] 同位体分子間の同位体原子の組換えを行う前の試料の各同位体ピークを、質量電荷比ごとにシグナルを得ることができる分析装置を用いて取得する反応前測定工程、
前記試料中の同位体分子間の同位体原子の組換えを無作為に行う反応工程、
前記反応工程により同位体原子の組換えを行った試料の各同位体ピークを、質量電荷比ごとにシグナルを得ることができる分析装置を用いて取得する反応後測定工程、及び
前記反応前測定工程及び前記反応後測定工程で得られるシグナルを用いて、前記同位体分子間の同位体原子の組換えを行う前の試料中の同位体分子比を理論的に決定する分子比計算工程
を含む、試料中の同位体分子比の決定方法。
[3] 前記分析装置が質量分析計である、[1]に記載の試料中の同位体原子比の決定方法。
[4] 前記分析装置が質量分析計である、[2]に記載の試料中の同位体分子比の決定方法。
[5] 前記質量分析計が四重極型質量分析計である、[3]に記載の試料中の同位体原子比の決定方法。
[6] 前記質量分析計が四重極型質量分析計である、[4]に記載の試料中の同位体分子比の決定方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、二重収束型質量分析計又は多重周回飛行型質量分析計のような高分解能質量分析計を使用しなくても同位体原子比又は同位体分子比を決定することができる、試料中の同位体原子比の決定方法及び試料中の同位体分子比の決定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る試料中の同位体原子比の決定方法を説明するフローチャートである。
【
図2】本発明の他の一実施形態に係る試料中の同位体分子比の決定方法を説明するフローチャートである。
【
図3】実験例で使用した分析装置の概略構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書及び特許請求の範囲において、「~」を用いて数値範囲を表す場合、その数値範囲は「~」の両側の数値を含むものとする。
【0011】
以下では本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明は後述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変形が可能である。
【0012】
[試料中の同位体原子比の決定方法]
本発明の一実施形態である試料中の同位体原子比の決定方法は、
図1に示すとおり、反応工程S11、測定工程S12、及び原子比計算工程S13を含む。
【0013】
<反応工程S11>
反応工程S11は、測定対象試料中の同位体分子間の同位体原子の組換えを無作為に行う工程である。
【0014】
組換えの方法は、各同位体原子の存在確率に基づいて無作為に組み換える方法であれば特に限定されないが、例えば加熱反応、又は放電反応等の方法、さらには他の可逆反応を利用した方法が挙げられる。ただし、組換えの方法としては、同位体原子を組み換える際に生成物中の同位体組成に偏りが生じる効果(同位体効果)があるような方法は好ましくない。
【0015】
<測定工程S12>
測定工程S12は、反応工程S11により同位体原子の組換えを行った測定対象試料の各同位体ピークを分離分析しシグナルを得ることができる分析装置を用いて取得する工程である。
【0016】
質量が異なることが同位体の最大の特徴であり、各同位体ごとにシグナルを容易に得ることができる分析装置としては、質量分析計が好ましい。
【0017】
前記分析装置として質量分析計を用いる場合、シグナル値としてはピーク高さ又はピーク面積値を用いることが好ましい。
【0018】
前記質量分析計としては、測定の簡便性及び経済性の観点から、四重極型質量分析計がより好ましい。
【0019】
前記四重極型質量分析計は、4本の電極ロッド(四重極)に直流電圧と交流電圧を与え、ある特定の質量電荷比(m/z値)のイオンだけが通過できる電場を形成することで、当該ある特定のm/z値をもつイオンのみが電極内を通過して検出器に到達することができる質量分析計である。直流電圧と交流電圧の比を一定に保ちつつ、交流電圧を直線的に変化させることで、全イオンを通過させることができる。
【0020】
本実施形態の試料中の同位体原子比の決定方法は、二重収束型質量分析計又は多重周回飛行型質量分析計のような高分解能質量分析計を使用することが必須ではない方法であり、前記分析装置として、質量分析計以外の分析装置や、四重極型質量分析計以外の、例えば二重収束型質量分析計又は多重周回飛行型質量分析計のような高分解能質量分析計の使用を妨げるものではない。
【0021】
試料のイオン化の方法は、特に限定されないが、例えば電子イオン化(electron ionization,EI)、エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization,ESI)、高速原子衝撃(fast atom bombardment,FAB)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(matrix assisted laser desorption/ionization,MALDI)、大気圧化学イオン化(atmospheric pressure chemical ionization,APCI)、大気圧光イオン化(atmospheric pressure photo ionization,APPI)、化学イオン化(chemical ionization,CI)、又は電界イオン化(field ionization,FI)等の従来公知のイオン化方法を用いることができる。
【0022】
<原子比計算工程S13>
原子比計算工程S13は、測定工程S12で得られたシグナルを用いて測定対象試料中の同位体原子比を理論的に決定する工程である。
【0023】
原子比計算工程S13では、測定工程S12で得られる同位体原子フラグメント成分と同位体分子成分のシグナル値から各同位体原子の存在確率に基づいて、同位体原子比を算出する。
具体的には以下の方法で求めることができる。
【0024】
(COの場合)
測定工程S12で表1に示すシグナルが得られたとする。
【0025】
【0026】
表1の括弧内の記号Iは各成分のシグナル値を示す。反応後のシグナル値には添え字のscをつけてIscと表記している。
【0027】
測定工程S12で得られた表1に示すシグナルをもとに同位体原子比を算出する。質量分析計によるCO同位体組成の分析ではN2が干渉成分となるため、反応工程S11は、反応中のCOに大気由来の窒素が混合しないようリークタイトに設計された反応場で行う。一般的な質量分析計では大気成分の検出をゼロとすることは難しいため、天然存在比で99%以上を占める窒素中の14N2については考慮が必要である。一方で、14N15N及び15N2の成分は微小量であるため無視することができる。例えば、数百ppmの大気の混入を想定すると、14N2は数百ppmオーダーでCO測定に干渉するが、14N15N及び15N2は数ppm程度であるため、十分小さい。
【0028】
反応工程S11での組換え反応後は、炭素原子と酸素原子が同位体選択性なく無作為に結合して一酸化炭素分子になるため各成分のシグナル値は式(1)~(6)で算出される。これらのシグナル値の比率から各同位体の比率を求めることができる。
【0029】
【0030】
式中のIscは反応後の各成分のシグナル値を示す。
【0031】
(NOの場合)
測定工程S12で表2に示すシグナルが得られたとする。
【0032】
【0033】
表2の括弧内の記号Iは各成分のシグナル値を示す。反応後のシグナル値には添え字のscをつけてIscと表記している。
【0034】
測定工程S12で得られた表2に示すシグナルをもとに同位体原子比を算出する。質量分析計によるNO同位体組成の分析ではO2が干渉成分となるため、反応工程S11は、反応中のNOに大気由来の酸素が混合しないようリークタイトに設計された反応場で行う。一般的な質量分析計では大気成分の検出をゼロとすることは難しいため、天然存在比で99%以上を占める酸素中の16O2については考慮が必要である。一方で、16O17O成分は微小量であるため無視することができる。例えば、数百ppmの大気の混入を想定すると、16O2は数百ppmオーダーでNO測定に干渉するが、16O17Oはサブppm程度であるため、十分小さい。
【0035】
反応工程S11での組換え反応後は、窒素原子と酸素原子が同位体選択性なく無作為に結合して一酸化窒素分子になっているため各成分のシグナル値は式(7)~(11)で算出される。これらのシグナル値の比率から各同位体の比率を求めることができる。
【0036】
【0037】
式中のIscは反応後の各成分のシグナル値を示す。
【0038】
[試料中の同位体分子比の決定方法]
本発明の別の一実施形態である試料中の同位体分子比の決定方法は、
図2に示すとおり、反応前測定工程S20、反応工程S21、反応後測定工程S22、及び分子比計算工程S23を含む。
【0039】
<反応前測定工程S20>
反応前測定工程S20は、後述する反応工程S21において同位体分子間の同位体原子の組換えを行う前の測定対象試料の各同位体ピークを、質量電荷比ごとにシグナルを得ることができる分析装置を用いて取得する工程である。
【0040】
反応前測定工程S20は、測定対象が後述する反応工程S21で同位体分子間の同位体原子の組換えを行う前の測定対象試料である点を除いて、上述した測定工程S12と同様である。
【0041】
<反応工程S21>
反応工程S21は、測定対象試料中の同位体分子間の同位体原子の組換えを無作為に行う工程である。
【0042】
反応工程S21は、上述した反応工程S11と同様である。
【0043】
<反応後測定工程S22>
反応後測定工程S22は、反応工程S21により同位体原子の組換えを行った測定対象試料の各同位体ピークを、質量電荷比ごとにシグナルを得ることができる分析装置を用いて取得する工程である。
【0044】
反応後測定工程S22は、測定対象が前述した反応工程S21で同位体分子間の同位体原子の組換えを行った後の測定対象試料である点を除いて、上述した測定工程S12と同様である。
【0045】
<分子比計算工程S23>
分子比計算工程S23は、反応前測定工程S20及び反応後測定工程S22で得られるシグナルを用いて、同位体分子間の同位体原子の組換えを行う前の測定対象試料中の同位体分子比を理論的に決定する工程である。
【0046】
分子比計算工程S23では、反応前測定工程S20及び反応後測定工程S22で得られる同位体原子フラグメント成分と同位体分子成分のシグナル値から各同位体原子の存在確率に基づいて、同位体分子比を算出することができる。
具体的には以下の方法で求めることができる。
【0047】
(COの場合)
反応前測定工程S20で得られるシグナル値をI、反応後測定工程S22で得られるシグナル値をIscとする。
各CO同位体分子由来成分(質量数28,29,30,31)のシグナル値の合計を組換え反応の前後で規格化する(式(12))。この時、同個体の質量分析計を使用するためリークレートは同一であるとみなす。したがって、反応前測定工程S20及び反応後測定工程S22で検出する窒素量は同一とみなすことができる。
【0048】
【0049】
規格化されたO含有成分の合計シグナル値は同一になるため、式(13)~(15)が成り立つ。
【0050】
【0051】
組換え反応後について、質量数ごとに式(16)~(18)が成り立つ。
【0052】
【0053】
反応後測定工程S22で得られた組換え反応後の各同位体分子のシグナル値を用いて式(12)~(18)の連立方程式を解くことで、組換え反応前の各成分のシグナル値を求めることができる。その比率から組換え反応前の各同位体分子比を求めることができる。
【0054】
(NOの場合)
反応前測定工程S20で得られるシグナル値をI、反応後測定工程S22で得られるシグナル値をIscとする。
各NO同位体分子由来成分(質量数30,31,32,33)のシグナル値の合計を組換え反応前後で規格化する(式(19))。この時、前述のCOの場合と同様に、同個体の質量分析計を使用するため、反応前測定工程S20及び反応後測定工程S22で検出する酸素量は同一とみなすことができる。
【0055】
【0056】
O同位体成分ごとに合計シグナル値が同一になるため、式(20)~(22)が成り立つ。
【0057】
【0058】
組換え反応後について質量数ごとに合計シグナル値が同一となるため式(23)及び(24)が成り立つ。
【0059】
【0060】
反応後測定工程S22で得られた組換え反応後の各同位体分子のシグナル値を用いて式(19)~(24)の連立方程式を解くことで、組換え反応前の各成分のシグナル値を求めることができる。その比率から組換え反応前の各同位体分子比を求めることができる。
【実施例0061】
以下では実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は後述する実施例に限定されるものではない。
【0062】
[実験例1]
測定対象試料として、蒸留法によって製造されたCO同位体製品を用いた。
CO同位体比分析においては窒素が同一質量数の成分として干渉する。蒸留法によって製造されたCO同位体製品では一般的にN
2混入量は極めて小さいが、分析時に大気の混入によるN
2成分の干渉の可能性がある。そのため、
図3に構成概要を示す実験装置1を用いた。
【0063】
図3に概要を示す実験装置1は、測定対象試料を導入する配管系(試料導入ライン)に、質量分析装置11、放電装置12、真空ポンプ13、パージガス供給源14、測定対象試料供給源15が接続され、ライン上に開閉バルブV1,V2,V3,V4が配置されている。前記試料導入ラインは、金属配管・金属継手を使用してリークタイトな構造である。
質量分析装置11は、四重極型質量分析計である。
放電装置12は、放電により、測定対象試料供給源15から供給された測定対象試料の同位体分子間の同位体原子の組換えを行うことができる。すなわち、実験装置1は、放電装置12の放電をOFFにすることにより、組換え反応前の測定対象試料の質量分析を行うことができ、放電をONにすることにより、組換え反応後の測定対象試料の質量分析を行うことができる。
パージガス供給源14は、測定対象試料に干渉しない、Ar(
40Arが99.600%)やNe(
20Neが90.48%)等のパージガスの供給源である。
【0064】
実験装置1を用いて実験を行う際の事前準備として、試料導入ラインをパージガスで置換して大気成分を十分にパージした後、真空ポンプ13を動作させて試料導入ラインを略真空にした。
【0065】
(1)反応前測定工程S20
放電をOFFにした放電装置12に測定対象試料供給源15から測定対象試料を供給し、質量分析装置11で組換え反応を行う前の測定対象試料について、各同位体成分のシグナル値を得た。シグナル値としてはピーク高さを用いた
表3に、組換え反応前のシグナル値を示す。
【0066】
(2)反応工程S21
放電をONにした放電装置12に測定対象試料供給源15から測定対象試料を供給し、測定対象試料の組換え反応を行った。
【0067】
(3)反応後測定工程S22
質量分析装置11で組換え反応を行った後の測定対象試料について、各同位体成分のシグナル値を得た。シグナル値としてはピーク高さを用いた。
表3に、組換え反応後のシグナル値を示す。
【0068】
【0069】
(4)原子比計算工程S13
表3に示す組換え反応後のシグナル値を踏まえ、原子比計算工程S13により同位体原子比を算出した結果を表4に示す(「四重極型質量分析計」の欄)。表4には高分解能な質量分析計である二重収束型質量分析計での測定結果も併記した(「二重収束型質量分析計」の欄)。
【0070】
【0071】
算出した同位体原子組成を二重収束型測定結果と比較すると±0.1atom%以内の差に収まることが確認された。
【0072】
(5)分子比計算工程S23
表3に示す組換え反応前のシグナル値及び組換え反応後のシグナル値を踏まえ、分子比計算工程S23により分子比を算出した結果を表5に示す(「四重極型質量分析計」の欄)。表5には高分解能な質量分析計である二重収束型質量分析計での測定結果も併記した(「二重収束型質量分析計」の欄)。
【0073】
【0074】
算出した同位体分子組成を二重収束型測定結果と比較すると±0.2%以内の差に収まることが確認された。
【0075】
(6)まとめ
本発明の試料中の同位体原子比の決定方法及び試料中の同位体分子比の決定方法によれば、二重収束型質量分析計又は多重周回飛行型質量分析計のような高分解能質量分析計を使用しなくても、同一質量数をもつCO同位体の同位体分子組成及び同位体原子組成を定量することが可能となった。また、これはNO同位体にも適用可能である。