(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025060182
(43)【公開日】2025-04-10
(54)【発明の名称】エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体、エタノールアミンリン酸の定量用組成物、定量用キット、定量用電極、定量用センサーチップ、定量用センサー及びエタノールアミンリン酸の定量方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/53 20060101AFI20250403BHJP
C12N 9/06 20060101ALI20250403BHJP
C12Q 1/26 20060101ALI20250403BHJP
C12Q 1/42 20060101ALI20250403BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20250403BHJP
C12N 9/16 20060101ALI20250403BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20250403BHJP
G01N 27/327 20060101ALI20250403BHJP
G01N 31/00 20060101ALI20250403BHJP
【FI】
C12N15/53
C12N9/06 Z ZNA
C12Q1/26
C12Q1/42
C12M1/34 E
C12N9/16 B
G01N27/416 336G
G01N27/327 353J
G01N27/327 353R
G01N31/00 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023170745
(22)【出願日】2023-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】石川(藤田) 友紀
(72)【発明者】
【氏名】一柳 敦
【テーマコード(参考)】
2G042
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BD13
2G042DA07
4B029AA07
4B029BB20
4B029FA15
4B029GB10
4B063QA01
4B063QQ22
4B063QQ33
4B063QQ61
4B063QQ89
4B063QR02
4B063QR13
4B063QR41
4B063QR50
4B063QS36
4B063QX01
4B063QX04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高活性化したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体、それを含むエタノールアミンリン酸の定量用組成物、それを含むエタノールアミンリン酸の定量用キット、それを含むエタノールアミンリン酸の定量用電極、それを含むエタノールアミンリン酸の定量用センサーチップ、それを含むエタノールアミンリン酸の定量用センサー、又はそれを用いるエタノールアミンリン酸の定量方法を提供する。
【解決手段】銅イオンを含み、特定のアミノ酸配列の338位のアミノ酸がアラニン、グルタミン酸、又はリジンに置換された、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体が提供される。さらに、前記改変体と、前記改変体を添加することにより還元されるメディエータと、還元された前記メディエータと反応する試薬と、を含むエタノールアミンリン酸の定量用組成物が提供される。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅イオンを含み、
配列番号1のアミノ酸配列の338位のアミノ酸がアラニン、グルタミン酸又はリジンに置換された、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体。
【請求項2】
前記配列番号1のアミノ酸配列の331位のアミノ酸がアラニン、グルタミン酸又はリジンに置換された、請求項1に記載のエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体。
【請求項3】
トパキノンを更に含む、請求項1又は2に記載のエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体。
【請求項4】
請求項1に記載の前記エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体と、
前記エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を添加することにより還元されるメディエータと、
還元された前記メディエータと反応する試薬と、を含むエタノールアミンリン酸の定量用組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の前記エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体と、
前記エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を添加することにより生成した過酸化水素と反応する試薬と、を含む、エタノールアミンリン酸の定量用組成物。
【請求項6】
ホスファターゼを更に含む、請求項4又は5に記載のエタノールアミンリン酸の定量用組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の前記エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体と、
前記エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を添加することにより還元されるメディエータと、
還元された前記メディエータと反応する試薬と、を含む、エタノールアミンリン酸の定量用キット。
【請求項8】
請求項1に記載の前記エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体と、
前記エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を添加することにより生成した過酸化水素と反応する試薬と、を含む、エタノールアミンリン酸の定量用キット。
【請求項9】
ホスファターゼを更に含む、請求項7又は8に記載のエタノールアミンリン酸の定量用キット。
【請求項10】
請求項1に記載の前記エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を含む、電極。
【請求項11】
作用極、対極及び参照極と、
前記作用極、前記対極及び前記参照極の上に配置された反応層と、を備え、
前記作用極として、請求項10に記載の電極を有する、又は
前記反応層が、請求項1に記載の前記エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を含む、センサーチップ。
【請求項12】
請求項11に記載のセンサーチップを備えたセンサー。
【請求項13】
試料にホスファターゼを作用させて、前記試料に含まれるエタノールアミンリン酸をエタノールアミンに変換し、
エタノールアミンに、請求項1に記載の前記エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を作用させることを含む、エタノールアミンリン酸の定量方法。
【請求項14】
前記エタノールアミンに、前記エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を作用させることによりメディエータを還元し、
還元された前記メディエータと試薬とを反応させ、前記エタノールアミンリン酸の濃度を決定することを更に含む、請求項13に記載のエタノールアミンリン酸の定量方法。
【請求項15】
前記エタノールアミンに前記エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を作用させ、
生成した過酸化水素、又は消費された酸素を定量することにより、前記エタノールアミンリン酸の濃度を決定することを更に含む、請求項13に記載のエタノールアミンリン酸の定量方法。
【請求項16】
前記試料は、前記エタノールアミンリン酸以外の少なくとも1種のアミンを含み、
前記試料に前記ホスファターゼを作用させる前に、前記少なくとも1種のアミンに、アミンオキシドレダクターゼを作用させることを更に含む、請求項13に記載のエタノールアミンリン酸の定量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、高活性化したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体に関する。または、本発明の一実施形態は、エタノールアミンリン酸の定量用組成物に関する。または、本発明の一実施形態は、エタノールアミンリン酸の定量用電極に関する。または、本発明の一実施形態は、エタノールアミンリン酸の定量用センサーチップに関する。または、本発明の一実施形態は、エタノールアミンリン酸の定量用キットに関する。または、本発明の一実施形態は、エタノールアミンリン酸の定量用センサーに関する。または、本発明の一実施形態は、エタノールアミンリン酸の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人の血液中には、エタノールアミンリン酸(EAP)が含まれている。特許文献1には、EAPは、うつ病を診断するためのバイオマーカーであることが記載されている。非特許文献1には、EAP濃度1.5μM以下を基準値として、うつ病を診断することが可能であることが記載されている。また、特許文献2には、EAPホスホリアーゼとアセトアルデヒドデヒドロゲナーゼとを利用したEAP濃度の測定方法が記載されている。
【0003】
本発明者らは、EAPに作用するオキシドレダクターゼを特許文献3において開示した。また、EAPに作用するオキシドレダクターゼを用いて、微量のEAPを測定可能な方法を特許文献4において開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/019072号
【特許文献2】国際公開第2013/069645号
【特許文献3】国際公開第2020/122231号
【特許文献4】国際公開第2021/256503号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kawamura N, “Plasma metabolome analysis of patients with major depressive disorder.” Psychiatry Clin Neurosci. 2018 May;72(5):349-361
【非特許文献2】Hirano Y et al., “Syncephalastrum racemosum amine oxidase with high catalytic efficiency toward ethanolamine and its application in ethanolamine determination”Appl Microbiol Biotechnol (2016) 100:3999-4013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一実施形態は、高活性化したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を提供する。または、本発明の一実施形態は、高活性化したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を含むエタノールアミンリン酸の定量用組成物を提供する。または、本発明の一実施形態は、高活性化したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を含むエタノールアミンリン酸の定量用キットを提供する。または、本発明の一実施形態は、高活性化したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を含むエタノールアミンリン酸の定量用電極を提供する。または、本発明の一実施形態は、高活性化したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を含むエタノールアミンリン酸の定量用センサーチップを提供する。または、本発明の一実施形態は、高活性化したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を含むエタノールアミンリン酸の定量用センサーを提供する。または、本発明の一実施形態は、高活性化したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を用いるエタノールアミンリン酸の定量方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態によると、銅イオンを含み、配列番号1のアミノ酸配列の338位のアミノ酸がアラニン、グルタミン酸又はリジンに置換された、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体が提供される。
【0008】
エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体は、配列番号1のアミノ酸配列の331位のアミノ酸がアラニン、グルタミン酸又はリジンに置換されていてもよい。
【0009】
トパキノンを更に含んでもよい。
【0010】
本発明の一実施形態によると、上記のエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体と、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を添加することにより還元されるメディエータと、還元されたメディエータと反応する試薬と、を含むエタノールアミンリン酸の定量用組成物が提供される。
【0011】
本発明の一実施形態によると、上記のエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体と、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を添加することにより生成した過酸化水素と反応する試薬と、を含む、エタノールアミンリン酸の定量用組成物が提供される。
【0012】
上記のエタノールアミンリン酸の定量用組成物は、ホスファターゼを更に含んでもよい。
【0013】
本発明の一実施形態によると、上記のエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体と、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を添加することにより還元されるメディエータと、還元されたメディエータと反応する試薬と、を含む、エタノールアミンリン酸の定量用キットが提供される。
【0014】
本発明の一実施形態によると、上記のエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体と、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を添加することにより生成した過酸化水素と反応する試薬と、を含む、エタノールアミンリン酸の定量用キットが提供される。
【0015】
上記のエタノールアミンリン酸の定量用キットは、ホスファターゼを更に含んでもよい。
【0016】
本発明の一実施形態によると、上記のエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を含む、電極が提供される。
【0017】
本発明の一実施形態によると、作用極、対極及び参照極と、作用極、対極及び参照極の上に配置された反応層と、を備え、作用極として、上記の電極を有する、又は反応層が、上記のエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を含む、センサーチップが提供される。
【0018】
本発明の一実施形態によると、上記のセンサーチップを備えたセンサーが提供される。
【0019】
本発明の一実施形態によると、試料にホスファターゼを作用させて、試料に含まれるエタノールアミンリン酸をエタノールアミンに変換し、エタノールアミンに、上記のエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を作用させることを含む、エタノールアミンリン酸の定量方法が提供される。
【0020】
上記のエタノールアミンリン酸の定量方法は、エタノールアミンに、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を作用させることによりメディエータを還元し、還元されたメディエータと試薬とを反応させ、エタノールアミンリン酸の濃度を決定することを更に含んでもよい。
【0021】
上記のエタノールアミンリン酸の定量方法は、エタノールアミンにエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を作用させ、生成した過酸化水素、又は消費された酸素を定量することにより、エタノールアミンリン酸の濃度を決定することを更に含んでもよい。
【0022】
上記のエタノールアミンリン酸の定量方法は、試料が、エタノールアミンリン酸以外の少なくとも1種のアミンを含み、試料にホスファターゼを作用させる前に、少なくとも1種のアミンに、アミンオキシドレダクターゼを作用させることを更に含んでもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一実施形態によると、高活性化したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体が提供される。または、本発明の一実施形態によると、高活性化したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を含むエタノールアミンリン酸の定量用組成物が提供される。または、本発明の一実施形態によると、高活性化したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を含むエタノールアミンリン酸の定量用キットが提供される。または、本発明の一実施形態によると、高活性化したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を含むエタノールアミンリン酸の定量用電極が提供される。または、本発明の一実施形態によると、高活性化したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を含むエタノールアミンリン酸の定量用センサーチップが提供される。または、本発明の一実施形態によると、高活性化したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を含むエタノールアミンリン酸の定量用センサーが提供される。または、本発明の一実施形態によると、高活性化したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を用いるエタノールアミンリン酸の定量方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A】本発明の一実施形態に関する電極1の上面図である。
【
図1B】
図1Aの線分AA’における電極1の断面端図である。
【
図2A】本発明の一実施形態に係るセンサーチップ10の上面図である。
【
図2B】センサーチップ10を構成する部材を示す模式図である。
【
図2C】センサーチップ10を構成する部材を示す模式図である。
【
図2D】センサーチップ10を構成する部材を示す模式図である。
【
図3A】本発明の一実施形態に関するセンサー100の模式図である。
【
図3B】本発明の一実施形態に関するセンサー100のブロック構成図である。
【
図4】エタノールアミンオキシダーゼの16時間、40時間及び64時間のin vitroホロ化後のLrEAOXの、ホロ化処理時間の長さと比活性の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に関する高活性化したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体、エタノールアミンリン酸の定量用組成物、定量用キット、定量用電極、定量用センサーチップ、定量用センサー及びエタノールアミンリン酸の定量方法について説明する。ただし、本発明の高活性化したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体、エタノールアミンリン酸の定量用組成物、定量用キット、定量用電極、定量用センサーチップ、定量用センサー及びエタノールアミンリン酸の定量方法は、以下に示す実施形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0026】
[ホロ酵素]
アミンオキシダーゼは、酵素中の特定のチロシン側鎖が酸化されて生じる補因子を含む補因子2,4,5-トリヒドロキシフェニルアラニルキノン(トパキノン、TPQ)を含むホロ酵素であることが知られている(非特許文献2)。また、アミンオキシダーゼは、金属イオンとして、例えば銅(II)イオンを含み、補因子が生じるアミノ酸残基の酸化反応に銅(II)イオンが関与するホロ酵素である。
【0027】
[エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体]
本発明に係るエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体は、銅(II)イオンを含むホロ酵素である。一実施形態において、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体は、配列番号1の398位のチロシン側鎖が酸化されたTPQを含むホロ酵素である。本実施形態において、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体は、配列番号1のアミノ酸配列の338位のアミノ酸がアラニン(配列番号3)、グルタミン酸(配列番号4)又はリジン(配列番号5)に置換されたホロ酵素である。換言すると、本実施形態において、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体は、配列番号1のアミノ酸配列の338位に、アラニン残基、グルタミン酸残基又はリジン残基を有する。
【0028】
本実施形態に係るエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体は、配列番号1のアミノ酸配列の338位のアミノ酸がアラニン、グルタミン酸又はリジンに置換されたことにより、配列番号1の398位にTPQを有する野生株のエタノールアミンオキシドレダクターゼに比して、エタノールアミンに対する高い酸化活性又は脱水素活性を有する。
【0029】
一実施形態において、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体は、配列番号1のアミノ酸配列の338位のアミノ酸の上記の置換に加えて、331位のアミノ酸がアラニン、グルタミン酸又はリジンに置換された二重変異体(配列番号6~14)であってもよい。換言すると、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体は、銅(II)イオンを含み、配列番号1の398位にTPQを有し、331位にアラニン残基、グルタミン酸残基又はリジン残基を有し、338位にアラニン残基、グルタミン酸残基又はリジン残基を有する。
【0030】
一実施形態において、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体は、配列番号1のアミノ酸配列の331位のアミノ酸がアラニンであり、且つ338位のアミノ酸がアラニンであるホロ酵素(配列番号6)であってもよい。または、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体は、配列番号1のアミノ酸配列の331位のアミノ酸がアラニンであり、且つ338位のアミノ酸がリジンであるホロ酵素(配列番号8)であってもよい。または、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体は、配列番号1のアミノ酸配列の331位のアミノ酸がリジンであり、且つ338位のアミノ酸がアラニンであるホロ酵素(配列番号12)であってもよい。
【0031】
本実施形態に係るエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体は、配列番号1のアミノ酸配列の331位にアラニン残基を有し、338位にアラニン残基を有する。または、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体は、配列番号1のアミノ酸配列の331位にアラニン残基を有し、338位にリジン残基を有する。または、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体は、配列番号1のアミノ酸配列の331位にリジン残基を有し、338位にアラニン残基を有する。これらのホロ酵素は、銅(II)イオンを含み、398位にTPQを有する。
【0032】
本実施形態に係るエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体は、配列番号1のアミノ酸配列の338位のアミノ酸に加えて、331位のアミノ酸がアラニン、グルタミン酸又はリジンに置換されたことにより、野生株のホロ酵素であるエタノールアミンオキシドレダクターゼに比して、エタノールアミンに対する高い酸化活性又は脱水素活性を有する。
【0033】
[エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体遺伝子]
一実施形態において、上記のエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体をコードする遺伝子が提供される。本実施形態に係るエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体遺伝子は、配列番号2のLichtheimia ramosa由来のエタノールアミンオキシドレダクターゼ遺伝子において、配列番号1のアミノ酸配列の338位のアミノ酸がアラニン(配列番号3)に置換された遺伝子、グルタミン酸(配列番号4)に置換された遺伝子又はリジン(配列番号5)に置換された遺伝子である。
【0034】
一実施形態において、本実施形態に係るエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体遺伝子は、配列番号1のアミノ酸配列の338位のアミノ酸がアラニン、グルタミン酸又はリジンに置換され、且つ331位のアミノ酸がアラニン、グルタミン酸又はリジンに置換された二重変異体(配列番号6~14)の遺伝子である。
【0035】
一実施形態において、本実施形態に係るエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体遺伝子は、配列番号1のアミノ酸配列の331位のアミノ酸がアラニンであり、且つ338位のアミノ酸がアラニンである二重変異体(配列番号6)の遺伝子であってもよい。または、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体遺伝子は、配列番号1のアミノ酸配列の331位のアミノ酸がアラニンであり、且つ338位のアミノ酸がリジンである二重変異体(配列番号8)の遺伝子であってもよい。または、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体遺伝子は、配列番号1のアミノ酸配列の331位のアミノ酸がリジンであり、且つ338位のアミノ酸がアラニンである二重変異体(配列番号12)の遺伝子であってもよい。
【0036】
なお、上述した本実施形態に係るエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体遺伝子は何れも、配列番号1の398位がチロシンであるアポ酵素の遺伝子である。
【0037】
[エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体DNAコンストラクト]
一実施形態において、上記のエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体遺伝子を含むDNAコンストラクトが提供される。本明細書において、DNAコンストラクトとは、上述したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体遺伝子を含むDNA断片を含む組換えベクターを総称する。このようなベクターとしては、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体遺伝子を含むDNA断片を含むプラスミド、バクテリオファージ、及びコスミド等であってもよい。
【0038】
[エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体遺伝子の製造方法]
本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体遺伝子は、常法により、製造することができる。
【0039】
(発現用プラスミドの構築)
一実施形態において、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体遺伝子発現用プラスミドは、通常用いられている方法により得られる。例えば、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体(配列番号1)を生産するLichtheimia ramosaからDNAを抽出し、DNAライブラリを作製する。作製したDNAライブラリから、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体をコードするDNA断片を同定及び単離する。単離したDNA断片を鋳型とする相補的なプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により当該DNA断片を増幅し、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体をコードする遺伝子(配列番号2)をクローニングする。増幅したDNA断片をベクターに連結し、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体をコードするDNA断片を有するプラスミドを得る。
【0040】
得られたプラスミドにおいて、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体をコードする遺伝子(配列番号2)について、配列番号1のアミノ酸配列の338位のアミノ酸をアラニン(配列番号3)に置換する、グルタミン酸(配列番号4)に置換する、又はリジン(配列番号5)に置換することにより、本実施形態に係るエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体遺伝子発現用プラスミドを得ることができる。なお、配列番号1のアミノ酸配列の338位のアミノ酸を、これらのアミノ酸をコードする塩基配列に置換した変異体は、公知の方法により作成することができるため、詳細な説明は省略する。
【0041】
あるいは、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体をコードする遺伝子の塩基配列(配列番号2)を、配列番号1のアミノ酸配列の338位にアラニン(配列番号3)をコードする、グルタミン酸(配列番号4)をコードする、又はリジン(配列番号5)をコードする塩基配列に置換したDNA断片を化学合成し、ベクターに当該DNA断片を連結し、本実施形態に係るエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体をコードするDNAを有するプラスミドを得る。
【0042】
得られたプラスミドにより大腸菌等の菌株を形質転換し、本実施形態に係るエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体をコードするDNAを有する大腸菌等の菌株を得る。
【0043】
また、例えば、得られたプラスミドにより酵母等の菌株を形質転換し、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体をコードするDNAを有する酵母等の菌株を得てもよい。酵母への形質転換方法としては、公知の方法、例えば、酢酸リチウムを用いる方法やエレクトロポレーション等を好適に用いることができるが、これに限定されず、スフェロプラスト法やガラスビーズ法等を含む各種任意の手法を用いて形質転換を行えばよい。酵母に分類される微生物としては、例えば、チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、ピキア(Pichia)属、カンジダ(Candida)属などに属する酵母が挙げられる。エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体をコードするDNAを有するプラスミドには、形質転換された細胞を選択することを可能にするためのマーカー遺伝子が含まれていてもよい。マーカー遺伝子としては、例えば、URA3、TRP1のような、宿主の栄養要求性を相補する遺伝子等が挙げられる。また、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体をコードするDNAを有するプラスミドは、宿主細胞中で本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体遺伝子を発現することのできるプロモーター又はその他の制御配列(例えば、分泌シグナル配列、エンハンサー配列、ターミネーター配列又はポリアデニル化配列等)を含むことが望ましい。プロモーターとしては、具体的には、例えば、GAL1プロモーター、ADH1プロモーター等が挙げられる。
【0044】
また、例えば、宿主細胞の他の例としては、アスペルギルス(Aspergillus)属やトリコデルマ(Tricoderma)属のような糸状菌が挙げられる。糸状菌の形質転換体の作製方法は特に限定されず、例えば、常法に従って、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体をコードするDNAが発現する態様で宿主糸状菌に挿入する方法が挙げられる。具体的には、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体をコードする遺伝子を発現誘導プロモーター及びターミネーターの間に挿入したDNAコンストラクトを作製し、次いでエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体をコードする遺伝子を含むDNAコンストラクトで宿主糸状菌を形質転換することにより、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体をコードする遺伝子を過剰発現する形質転換体が得られる。
【0045】
エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体をコードする遺伝子が発現する態様で宿主糸状菌に挿入する方法は特に限定されないが、例えば、相同組換えを利用することにより宿主生物の染色体上に直接的に挿入する手法、又はプラスミドベクター上に連結することにより宿主糸状菌内に導入する手法などが挙げられる。
【0046】
相同組換えを利用する方法では、染色体上の組換え部位の上流領域及び下流領域と相同な配列の間に、DNAコンストラクトを連結し、宿主糸状菌のゲノム中に挿入することができる。宿主糸状菌自身の高発現プロモーター制御下で、宿主糸状菌内で過剰発現することにより、セルフクローニングによる形質転換体を得ることができる。高発現プロモーターは特に限定されないが、例えば、翻訳伸長因子であるTEF1遺伝子(tef1)のプロモーター領域、α-アミラーゼ遺伝子(amy)のプロモーター領域、アルカリプロテアーゼ遺伝子(alp)プロモーター領域などが挙げられる。
【0047】
ベクターを利用する方法では、DNAコンストラクトを、常法により、糸状菌の形質転換に用いられるプラスミドベクターに組み込み、対応する宿主糸状菌を常法により形質転換することができる。
【0048】
そのような、好適なベクター-宿主系としては、宿主糸状菌中でアポ酵素を生産させ得る系であれば特に限定されず、例えば、pUC19及び糸状菌の系、pSTA14(Unkles et al., Mol. Gen. Genet. (1989) 218, 99-104)及び糸状菌の系などが挙げられる。
【0049】
DNAコンストラクトは宿主糸状菌の染色体に導入して用いることが好ましいが、この他の方法として、自律複製型のベクター(Ozeki et al. Biosci. Biotechnol. Biochem. (1995) 59, 1133-1134)にDNAコンストラクトを組み込むことにより、染色体に導入しない形で用いることもできる。
【0050】
DNAコンストラクトには、形質転換された細胞を選択することを可能にするためのマーカー遺伝子が含まれていてもよい。マーカー遺伝子は特に限定されず、例えば、pyrG、niaD、adeAのような、宿主の栄養要求性を相補する遺伝子;ピリチアミン、ハイグロマイシンB、オリゴマイシンなどの薬剤に対する薬剤耐性遺伝子などが挙げられる。また、DNAコンストラクトは、宿主細胞中でエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体をコードする遺伝子を過剰発現することを可能にするプロモーター、ターミネーターその他の制御配列(例えば、エンハンサー、ポリアデニル化配列など)を含むことが好ましい。プロモーターは特に限定されないが、適当な発現誘導プロモーターや構成的プロモーターが挙げられ、例えば、tef1プロモーター、alpプロモーター、amyプロモーターなどが挙げられる。ターミネーターもまた特に限定されないが、例えば、alpターミネーター、amyターミネーター、tef1ターミネーターなどが挙げられる。
【0051】
DNAコンストラクトにおいて、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体をコードする遺伝子の発現制御配列は、挿入するエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体をコードする遺伝子を含むDNA断片が、発現制御機能を有している配列を含む場合は必ずしも必要ではない。また、共形質転換法により形質転換を行う場合には、DNAコンストラクトはマーカー遺伝子を有しなくてもよい場合がある。
【0052】
DNAコンストラクトの一実施態様は、例えば、pUC19のマルチクローニングサイトにあるIn-Fusion Cloning Siteに、tef1遺伝子プロモーター、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体をコードする遺伝子、alp遺伝子ターミネーター及びpyrGマーカー遺伝子を連結させたDNAコンストラクトである。
【0053】
糸状菌への形質転換方法としては、当業者に知られる方法を適宜選択することができ、例えば、宿主糸状菌のプロトプラストを調製した後に、ポリエチレングリコール及び塩化カルシウムを用いるプロトプラストPEG法(例えば、Unkles et al., Mol. Gen. Genet. 218, 99-104, 1989、特開2007-222055号公報などを参照)を用いることができる。形質転換糸状菌を再生させるための培地は、用いる宿主糸状菌と形質転換マーカー遺伝子とに応じて適切なものを用いる。例えば、宿主糸状菌としてアスペルギルス・ソーヤを用い、形質転換マーカー遺伝子としてpyrG遺伝子を用いた場合は、形質転換糸状菌の再生は、例えば、0.5%寒天及び1.2Mソルビトールを含むCzapek-Dox最少培地(ディフコ社製)で行うことができる。
【0054】
(エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体アポ酵素の組換え発現)
本実施形態に係るエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体をコードするDNAを有する大腸菌等の菌株を、培地で培養する。微生物宿主細胞を培養する際は、10℃~42℃の培養温度、好ましくは25℃前後の培養温度で数時間~数日間、更に好ましくは25℃前後の培養温度で好ましくは1日~7日間、通気攪拌深部培養、振盪培養、静置培養等により実施すればよい。上記微生物宿主細胞を培養する培地としては、例えば、酵母エキス、トリプトン、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー又は大豆若しくは小麦ふすまの浸出液等の1種以上の窒素源に、塩化ナトリウム、リン酸第1カリウム、リン酸第2カリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化第2鉄、硫酸第2鉄又は硫酸マンガン等の無機塩類の1種以上を添加し、更に必要により糖質原料、ビタミン等を適宜添加したものが用いられる。培養して得られた培養液から、遠心分離により菌体を分離する。分離して得られた菌体を超音波粉砕、磨砕等するか、又はリゾチームやヤタラーゼ等の溶菌酵素による処理により懸濁液とし、当該懸濁液を遠心分離して得られた画分から粗酵素液を得る。
【0055】
(エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体アポ酵素の精製)
エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体アポ酵素の精製方法は、粗酵素液から酵素を精製することができる方法であれば、いかなる方法でもよい。例えば、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー等、通常用いられる方法により、粗酵素液からアポ酵素を精製することができる。
【0056】
(エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体ホロ酵素の製造)
調製したアポ酵素の398位のチロシン残基を酸化反応により酸化させてTPQに変換することにより、本発明に係るエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体ホロ酵素を製造することができる。ホロ酵素を製造するための酸化反応は、例えば、例えば銅(II)イオンを添加して、アポ酵素の398位のチロシン残基を酸化反応により酸化させてTPQに変換することにより、本発明に係るホロ酵素を製造することができる。
【0057】
エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体ホロ酵素は、適切な溶液中でアポ酵素を酸化することにより製造することができる。溶液に配合するアポ酵素量は、例えば、0.01mg/mL~50mg/mL、好ましくは0.05mg/mL~10mg/mLとなるように添加すればよい。溶液に配合する銅(II)イオン量は、例えば、0.001mM~100mM、好ましくは0.01mM~10mMとなるように添加すればよい。溶液のpHは、ホロ酵素が失活しないpHとなるようにバッファーを用いて調整することが好ましい。例えば、溶液のpHは、pH3~11、好ましくはpH4~10、より好ましくはpH5~9である。溶液のpHを調整するために使用するバッファーとしては、例えば、N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン、硼酸塩、クエン酸塩、ジメチルグルタミン酸塩、トリシン、HEPES、MES、Bis-Tris、ADA、PIPES、ACES、MOPSO、BES、MOPS、TES、DIPSO、TAPSO、POPSO、HEPPSO、EPPS、Tricine、Bicine、TAPS、フタル酸、酒石酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
[トパキノンの同定]
エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体ホロ酵素に形成されたトパキノンは、例えば、以下の方法により同定することできる。エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体ホロ酵素に形成されたトパキノンを、例えば、p-ニトロフェニルヒドラジン(pNPH)により誘導化した後に、プロテアーゼ処理によりポリペプチド鎖から遊離させて精製する。NMR、紫外可視分光法、およびエレクトロスプレータンデム質量分析(ESI-MS/MS)により分析することで、遊離したトパキノンを同定することができる(例えば、Steinebach V. et al., Analytical Biochemistry (1995) 230 (1), 159-166)。
【0059】
[エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体の活性測定]
エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体(ホロ酵素)の活性測定の方法は、酸化還元反応を触媒することにより還元型生成物が生成され、当該還元型生成物が電極へ電子を渡すことにより生じる電流値を計測することにより、酵素活性を測定することができる。好適には、ホロ酵素が触媒する酸化還元反応による還元型生成物と、当該還元型生成物と反応する吸光物質を含む試薬(以下、「吸光試薬」)とを反応させ吸光度測定を行うことにより、酵素活性を測定することができる。
【0060】
また、一実施形態において、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体(ホロ酵素)の活性測定の方法は、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体が触媒する酸化反応による生成物と当該生成物と反応する試薬(以下、「生成物反応試薬」)とを反応させ、当該反応により生成される吸光物質を測定するのであれば、吸光度測定を行うことにより、酵素活性を測定することができる。
【0061】
[EAPの定量用組成物及びEAPの定量用キット]
本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体(ホロ酵素)を利用したEAPの定量方法は、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体(ホロ酵素)を含む組成物を提供することにより行ってもよいし、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体(ホロ酵素)と、市販の生成物反応試薬とを組み合わせることにより行ってもよい。一実施形態において、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体(ホロ酵素)と、エタノールアミンオキシドレダクターゼを添加することにより還元されるメディエータと、還元されたメディエータと反応する試薬と、を含むEAPの定量用組成物を提供することができる。
【0062】
または、一実施形態において、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体(ホロ酵素)と、エタノールアミンオキシダーゼを添加することにより生成した過酸化水素と反応する試薬と、を含む、EAPの定量用組成物を提供することができる。
【0063】
また、一実施形態において、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体(ホロ酵素)とホスファターゼを含む組成物を提供することができる。一実施形態において、ホスファターゼと、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体(ホロ酵素)と、エタノールアミンオキシドレダクターゼを添加することにより還元されるメディエータと、還元されたメディエータと反応する試薬と、を含むEAPの定量用組成物を提供することができる。
【0064】
または、一実施形態において、ホスファターゼと、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体(ホロ酵素)と、エタノールアミンオキシダーゼを添加することにより生成した過酸化水素と反応する試薬と、を含む、EAPの定量用組成物を提供することができる。
【0065】
一実施形態において、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体(ホロ酵素)と、エタノールアミンオキシドレダクターゼを添加することにより還元されるメディエータと、還元されたメディエータと反応する試薬と、を含む、EAPの定量用キットを提供することができる。例えば、EAPの定量用キットが、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体(ホロ酵素)を含む第1の試薬と、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体(ホロ酵素)を添加することにより還元されるメディエータを含む第2の試薬と、を含んでもよい。また、EAP以外の少なくとも1種のアミンに作用するアミンオキシドレダクターゼ又はアミンオキシダーゼを含む第3の試薬を更に含み、第1の試薬及び第2の試薬を添加する前に、第3の試薬を試料に添加するように構成されてもよい。
【0066】
本実施形態の定量方法又は定量用キットに用いるメディエータ(人工電子メディエータ、人工電子アクセプタ又は電子メディエータともいう)は、オキシドレダクターゼから電子を受け取ることができるものであれば特に限定されない。メディエータとしてはキノン類、フェナジン類、ビオロゲン類、シトクロム類、フェノキサジン類、フェノチアジン類、フェリシアン化物、例えばフェリシアン化カリウム、フェレドキシン類、フェロセン、オスミウム錯体及びその誘導体等などが挙げられ、フェナジン化合物としては例えば5-Methylphenazinium methosulfate(PMS)、メトキシPMSが挙げられるがこれに限定されない。
【0067】
または、一実施形態において、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体(ホロ酵素)と、エタノールアミンオキシダーゼを添加することにより生成した過酸化水素と反応する試薬と、を含む、EAPの定量用キットを提供することができる。例えば、EAPの定量用キットが、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体(ホロ酵素)を含む第1の試薬と、エタノールアミンオキシダーゼ改変体を添加することにより生成した過酸化水素と反応する第2の試薬と、を含んでもよい。
【0068】
または、EAP以外の少なくとも1種のアミンに作用するアミンオキシドレダクターゼ又はアミンオキシダーゼを含む第3の試薬を更に含み、第1の試薬及び第2の試薬を添加する前に、第3の試薬を試料に添加するように構成されてもよい。一般に、臨床検体においては、EA、β-アラニン、タウリン等のアミンを夾雑物として含み得る。本発明に係るEAPの定量用キットにおいては、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を用いるため、これらのアミンが試料に含まれる場合、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体がこれらのアミンにも作用して、本来測定すべきEAPに由来するEAを正確に定量することが困難となる。このため、EAPを定量する前に、試料に含まれるEAP以外のアミンを分解又は消去することが好ましい。
【0069】
本実施形態の定量方法又は定量用キットに用いるエタノールアミンオキシダーゼを添加することにより生成した過酸化水素と反応する試薬は、発色基質であってもよい。発色基質としては、4-アミノアンチピリンの他に、例えば、ADOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-m-アニシジン)、ALOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)アニリン)、TOOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-m-トルイジンナトリウム)、DA-67(10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)-フェノシアジン)、DA-64(N-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-4,4’-ビス(ジメチルアミノ)-ジフェニルアミン)等が挙げられる。ADOS、ALOS、TOOSは4-アミノアンチピリンと縮合した際に発色する。DA-64、DA-67は4-アミノアンチピリンを必要とせず、単独で処方するだけで発色する。何れの場合も、発色反応はパーオキシダーゼにより触媒される。また、測定する消費物としては、溶存酸素が挙げられ、溶存酸素計等を用いて反応液中の溶存酸素量を測定することができる。例えば、上記測定試薬の発色の程度(吸光度変化量)を分光光度計又は生化学自動分析装置等により測定し、標準試料の吸光度と比較して、試料中に含まれるEAPを測定することができる。
【0070】
[電極、センサーチップ及び電極]
図1Aは本発明の一実施形態に関する電極1の上面図であり、
図1Bは、
図1Aの線分AA’における電極1の断面端図である。電極1は、配線1aと、配線1a上に配置された上部電極1bとを備える。上部電極1bは、上述したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を含む。なお、
図1A及び
図1Bにおいては、基材11上に配置した電極1を示す。一実施形態において、上部電極1bは、配線1aの一方の端部に配置されてもよいが、これに限定されるものではない。
【0071】
一実施形態において、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を配線1aに塗布、吸着、又は固定化することにより、上部電極1bを構成してもよい。また、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体は、架橋、透析膜による被覆、高分子マトリックスへの封入、光架橋性ポリマーの使用、電気伝導性ポリマーの使用、酸化/還元ポリマーの使用等により配線1aに固定することにより、上部電極1bを構成してもよい。別の実施形態では、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体とともにホスファターゼも配線1aに塗布、吸着、又は固定化してもよい。また、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体及びホスファターゼをメディエータとともにポリマー中に固定又は配線1a上に吸着固定してもよく、これらの手法を組み合わせてもよい。
【0072】
配線1aには、炭素電極、白金、金、銀、ニッケル及びパラジウムなどの金属電極などを用いることができる。炭素電極の場合、材料としてパイロリティック・グラファイトカーボン(PG)、グラッシーカーボン(GC)、カーボンペースト及びプラスチックフォームドカーボン(PFC)などが挙げられる。
【0073】
図2Aは本発明の一実施形態に係るセンサーチップ10の上面図であり、
図2B~
図2Dはセンサーチップ10を構成する部材を示す模式図である。センサーチップ10は、基材11上に配置した2以上の電極を備える。基材11は絶縁材料で構成される。
図2A及び
図2Bにおいては、一例として、作用極2、対極3及び参照極5が基材11上に配置される。各電極は配線部7にそれぞれ電気的に接続し、配線部7は各電極とは配線方向の逆側に位置する端子9に電気的に接続する。作用極2、対極3及び参照極5は互いに離間して配置される。また、作用極2、対極3及び参照極5は、配線部7及び端子9と一体で構成されることが好ましい。また、対極3及び参照極5を一体型としてもよい。
【0074】
図2A及び
図2Cに示すように、配線部7に平行な基材11の端部には、スペーサ13が配置され、作用極2、対極3、参照極5及びスペーサ13を覆うカバー15が配置される。スペーサ13及びカバー15は絶縁材料で構成される。スペーサ13は作用極2、対極3及び参照極5と概略等しい厚みを有し、作用極2、対極3及び参照極5に密着することが好ましい。また、スペーサ13とカバー15は一体で構成されてもよい。カバー15は、配線部7が外気に曝されて劣化したり、測定試料の滲み込みによる短絡を防止したりする保護層である。
【0075】
一実施形態において、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体は、作用極2に塗布、吸着、又は固定化される。別の実施形態では、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体とともにホスファターゼも作用極2に塗布、吸着、又は固定化してもよい。別の実施形態では、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体及びホスファターゼとともにメディエータも作用極2に塗布、吸着、又は固定化してもよい。作用極2は、上述した電極1で説明した構成を備えてもよい。
【0076】
エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体、又はエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体とホスファターゼ、又はエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体とホスファターゼとメディエータは、作用極2、対極3及び参照極5上に配置された反応層19に含まれてもよい。対極3及び参照極5としては炭素電極、白金、金、銀、ニッケル及びパラジウムなどの金属電極などを用いることができる。炭素電極の場合、材料としてパイロリティック・グラファイトカーボン(PG)、グラッシーカーボン(GC)、カーボンペースト及びプラスチックフォームドカーボン(PFC)などが挙げられる。測定システムは二電極系であっても三電極系であってもよく、例えば作用極2上にエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を固定することができる。参照極5としては、標準水素電極、可逆水素電極、銀-塩化銀電極(Ag/AgCl)、パラジウム・水素電極及び飽和カロメル電極等が挙げられ、安定性や再現性の観点から、Ag/AgClを用いることが好ましい。
【0077】
本実施形態に係る組成物、キット、電極又はセンサーチップに用いるメディエータ(人工電子メディエータ、人工電子アクセプタ又は電子メディエータともいう)は、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体から電子を受け取ることができるものであれば特に限定されない。メディエータとしてはキノン類、フェナジン類、ビオロゲン類、シトクロム類、フェノキサジン類、フェノチアジン類、フェリシアン化物、例えばフェリシアン化カリウム、フェレドキシン類、フェロセン、オスミウム錯体及びその誘導体等などが挙げられ、フェナジン化合物としては例えばPMS、メトキシPMSが挙げられるがこれに限定されない。
【0078】
本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体は、ポテンショスタットやガルバノスタットなどを用いることにより、種々の電気化学的な測定手法に適用することができる。電気化学的測定法としては、アンペロメトリー、ポテンショメトリー及びクーロメトリーなどの様々な手法が挙げられる。例えばアンペロメトリー法により、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体がEAPと反応した際に生成した過酸化水素を過酸化水素電極により、+600mV~+1000mV(vs. Ag/AgCl)を印加することで生じる電流値を測定することで、試料中のEAPの濃度を算出することができる。例えば、既知のEAP濃度(0μM、0.1μM、0.15μM、0.3μM、0.5μM、50μM、100μM、150μM、200μM)について電流値を測定し、EAP濃度に対してプロットすることにより検量線を作成することができる。未知のEAPの電流値を測定することにより検量線からEAP濃度を得ることができる。過酸化水素電極として、例えば炭素電極や白金電極を用いることができる。また、過酸化水素電極の変わりに、ペルオキシダーゼやカタラーゼなどのレダクターゼを固定化した電極を用いて、-400mV~+100mV(vs. Ag/AgCl)を印加することで生じる還元電流値を測定することで過酸化水素の量を定量し、EAPの値を測定することもできる。
【0079】
また、反応溶液中にメディエータを混合し、例えばアンペロメトリー法により、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体がEAPと反応した際に生成した電子を酸化型メディエータに受け渡し、還元型メディエータを生成させ、更に-1000mV~+500mV(vs. Ag/AgCl)を印加することで生じる電流値を測定することで、試料中のEAPの濃度を算出することができる。対極としては炭素電極や白金電極が好ましい。例えば、既知のEAP濃度(0μM、0.1μM、0.15μM、0.3μM、0.5μM、50μM、100μM、150μM、200μM)について電流値を測定し、EAP濃度に対してプロットすることにより検量線を作成することができる。未知のEAPの電流値を測定することにより検量線からEAP濃度を得ることができる。
【0080】
さらに、測定に必要な溶液量を低減するために、印刷電極(センサーチップ)を用いることもできる。この場合、電極は絶縁基板で構成された基材上に形成されることが好ましい。具体的には、フォトリソグラフィ技術や、スクリーン印刷、グラビア印刷及びフレキソ印刷などの印刷技術により、基材上に電極が形成されることが望ましい。また、絶縁基板の素材としては、シリコン、ガラス、セラミック、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリエステルなどが挙げられるが、各種の溶媒や薬品に対する耐性の強いものを用いるのがより好ましい。
【0081】
[EAP測定センサー]
一実施形態において、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を用いるEAP測定センサーを提供する。
図3Aは、本発明の一実施形態に関するセンサー100の模式図である。センサーは、本発明のオキシドレダクターゼを用いるEAP測定装置であり、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を含むセンサーチップ10と、測定部30を備える。測定部30は、例えば、入力部であるスイッチ31や、表示部であるディスプレイ33を備えてもよい。スイッチ31は、例えば、測定部30の電源のON/OFFの制御に用いてもよく、センサー100でのEAP測定の開始や中断の制御に用いてもよい。ディスプレイ33は、例えば、EAPの測定値を表示してもよく、測定部30を制御する入力部としてタッチパネルを備えてもよい。
【0082】
図3Bは本発明の一実施形態に関するセンサー100のブロック構成図である。センサー100は、例えば、制御部110、表示部120、入力部130、記憶部140、通信部150及び電源160を測定部30に備えてもよく、これらは配線190により相互に電気的に接続されてもよい。また、後述するセンサーチップ10の端子と測定部30の端子が電気的に接続され、センサーチップ10で生じた電流が制御部110により検出される。制御部110は、センサー100を制御する制御装置であり、例えば公知の中央処理装置(CPU)と、センサー100を制御するオペレーションプログラムで構成される。または、制御部110は、中央処理装置とオペレーティングシステム(OS)を備え、EAP測定を行うためのアプリケーションプログラム又はモジュールを備えてもよい。
【0083】
表示部120は、例えば、公知のディスプレイ33を備え、EAPの測定値や測定部30の状態や、測定者への操作要求を表示してもよい。入力部130は、測定者がセンサー100を操作するための入力装置であり、例えば、スイッチ31やディスプレイ33に配置されたタッチパネルであってもよい。測定部30には、複数のスイッチ31が配置されてもよい。
【0084】
記憶部140は、主記憶装置(メモリ)で構成され、補助記憶装置(ハードディスク)を外部に配置してもよい。主記憶装置(メモリ)は、リードオンリーメモリ(ROM)及び/又はランダムアクセスメモリ(RAM)で構成されてもよい。オペレーションプログラム、オペレーティングシステム、アプリケーションプログラム又はモジュールは、記憶部140に格納され、中央処理装置で実行されて制御部110を構成する。また、測定値や電流値を記憶部140に格納することができる。
【0085】
通信部150は、センサー100又は測定部30と、外部の装置(コンピュータ、プリンタ又はネットワーク)を接続する公知の通信装置である。通信部150と外部の装置とは、有線又は無線の通信により接続される。また、電源160は、センサー100又は測定部30に電源を供給する公知の電源装置である。
【0086】
[エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を用いたEAPの定量]
エタノールアミンリン酸を含む試料に、上述したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を作用させることにより、エタノールアミンリン酸を定量することができる。
【0087】
(エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体のレダクターゼ活性を用いたEAPの定量)
試料にホスファターゼを作用させて、試料に含まれるEAPをエタノールアミン(EA)に変換する(工程S101)。EAに、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を作用させる(工程S103)。この反応により生成した反応生成物を検出する(工程S105)。予め作成した検量線を用いて、反応生成物の検出値から、EAPを定量する(工程S107)。
【0088】
工程S101において、試料中のEAP濃度は特に問われないが、例えば、0.01μM~10000μMであり得る。試料のホスファターゼ処理条件を行う際のpHは、無調整でもよく、使用するホスファターゼの作用に好適なpHとなるように、適当なpH緩衝剤を用いて、pH2~13、好ましくはpH3~12に調整してもよい。使用可能な緩衝剤としては、例えば、N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン、硼酸塩、クエン酸塩、ジメチルグルタミン酸塩、トリシン、HEPES、MES、Bis-Tris、ADA、PIPES、ACES、MOPSO、BES、MOPS、TES、DIPSO、TAPSO、POPSO、HEPPSO、EPPS、Tricine、Bicine、TAPS、フタル酸、酒石酸等が挙げられる。処理温度は、例えば、20~50℃で行ってもよく、用いるホスファターゼによっては、より高温域の45~70℃で行ってもよい。この際の処理時間は、EAを遊離するのに充分な時間であればよく、5秒~180分間、好ましくは0.5分~60分間、より好ましくは1分~30分間、更に好ましくは1分~10分間で行うことができる。得られる処理液は、そのまま、あるいは必要により適宜、加熱、遠心分離、濃縮、希釈等をしてもよい。
【0089】
工程S103において、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体の作用時間は例えば5秒~180分間、好ましくは0.5分~60分間、より好ましくは1分~30分間、更に好ましくは1分~10分間とすることができる。作用温度は、用いるエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体の至適温度にもよるが、例えば、20℃~45℃であり、通常の酵素反応に用いられる温度を適宜選択できる。
【0090】
本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体の好適な使用量は、例えば、終濃度が、0.001U/ml~500U/ml、好ましくは0.01U/ml~100U/mlとなるように添加すればよい。一般に、試料溶液中に含まれる基質の濃度が低いほど、添加するエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体の終濃度を高めればよい。作用させる際のpHは、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体の至適pHを考慮し、反応に適したpHとなるように緩衝剤を用いて調整することが好ましいが、作用可能なpHであればこれに限定されない。例えば、pH3~pH11、好ましくはpH5~pH9である。使用可能な緩衝剤としては、例えば、N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン、硼酸塩、クエン酸塩、ジメチルグルタミン酸塩、トリシン、HEPES、MES、Bis-Tris、ADA、PIPES、ACES、MOPSO、BES、MOPS、TES、DIPSO、TAPSO、POPSO、HEPPSO、EPPS、Tricine、Bicine、TAPS、フタル酸、酒石酸等が挙げられる。
【0091】
反応生成物を検出する工程S105においては、測定原理が異なる2つの検出方法から選択して、反応生成物を検出することができる。工程S105Aとして、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体によりメディエータを還元し、還元されたメディエータと発色又は退色試薬とを反応させる。本実施形態に用いられる発色又は退色基質としては、DCIP(2,6-Dichlorophenolindophenol)の他に、例えば、テトラゾリウム化合物(Tetrazolium blue、Nitro-tetrazolium blue、Water soluble tetrazolium(WST)-1、WST-3、WST-4、WST-5、WST-8、WST-9)等が挙げられる。
【0092】
また、別の測定原理を用いた工程S105Bとして、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体により過酸化水素を生じさせ、ペルオキシダーゼの触媒反応を利用して生じた過酸化水素と発色試薬とを反応させる。本発明に用いられる発色又は退色基質としては、発色剤としては、例えば、ADPS(N-エチル-N―スルホプロピル-3-メトキシアニリン)、ALPS(N-エチル-N-スルホプロピルアニリン)、TOPS(N-エチル-N-スルホプロピル-3-メチルアニリン)、ADOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-m-アニシジン)、DAOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン)、ALOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)アニリン)、HDAOS(N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)―3,5-ジメトキシアニリン)、MAOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン)、TOOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-m-トルイジンナトリウム)、DA-67(10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)-フェノシアジン)、DA-64(N-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-4,4’-ビス(ジメチルアミノ)-ジフェニルアミン)等が挙げられる。ADOS、ALOS、TOOSは4-アミノアンチピリンと縮合した際に発色する。DA-64、DA-67は4-アミノアンチピリンを必要とせず、単独で処方するだけで発色する。更に発色剤として、メチレンブルー、10-(アセチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン、10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン、10-(フェニルカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン、10-(3-(メチルカルボキシアミノ)-ヘキサメチル-アミノ)-フェノチアジン、10-(3-(メチルカルボキシアミノ)-4-メチル-フェニル)-アミノ)-フェノチアジン、10-((3-(メチルカルボキシアミノメチル)-フェニル)-メチルアミノ)-フェノチアジン、10-(1-ナフタレンアミノ)-フェノチアジン、10-(メチル)-フェノチアジン、10-(フェニルアミノ)-フェノチアジン、10-(メチルアミノ)-フェノチアジン、アズールA、アズールB、アズールC、トルイジンブルーO、1,9-ジメチル-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン塩、メチレングリーン若しくはその塩、又はそのロイコ体等が挙げられるがこれに限らない。発色剤は、反応溶液における終濃度が、0.001mM~10mM、例えば0.005mM~2mMとなるよう添加しうる。
【0093】
工程S107において、予め作成した検量線を用いて、反応生成物の検出値から、試料中のEAPの量を決定する。このようにして、試料中のEAPを定量することができる。
【0094】
本発明に係るEAPの定量方法に用いる試料は、EAPを含む可能性のあるあらゆる生物学的試料、例えば血液、血漿、間質液、尿、涙、汗、唾液等に由来する試料とすることができる。試料は適宜、加工処理されたものでありうる。例えば、遠心濃縮装置により濃縮されたものでもよい。
【0095】
なお、このような定量方法においては、EAPを含む試料中に、EAP以外の物質であって、EAPを定量するためのエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体が作用しうる物質が他にも夾雑する場合には、測定値がプラス方向に誤差を生じるおそれがある。特に、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体がそのような夾雑物質に対して作用する割合が高いほど、本来の定量目的物質であるEAPを正確に定量できなくなる。
【0096】
一実施形態において、試料は、EAP以外の少なくとも1種のアミンを含んでもよい。一般に、臨床検体においては、EA、β-アラニン、タウリン等のアミンを夾雑物として含み得る。本発明に係るEAPの定量方法においては、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を用いるため、これらのアミンが試料に含まれる場合、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体がこれらのアミンにも作用して、本来測定すべきEAPに由来するEAを正確に定量することが困難となる。このため、EAPを定量する前に、試料に含まれるEAP以外のアミンを分解又は消去することが好ましい。
【0097】
一実施形態において、試料にホスファターゼを作用させる前に、少なくともアミンに作用するオキシドレダクターゼを、試料に含まれるアミンに作用させることが好ましい。本実施形態において、少なくともアミンに作用するオキシドレダクターゼとして、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を用いることができる。まず、アミンに作用するオキシドレダクターゼとして、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を試料に添加し、試料に含まれるアミンを分解又は消去する(工程S201)。なお、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体は、EAPには作用せず、アミンのみに作用する。このため、工程S201においては、試料に含まれるEAPは、分解又は消去されない。試料にホスファターゼを添加し、EAPに作用させて、EAに変換する(工程S203)。工程S201で添加したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体が、変換されたEAに作用する。この反応により生成した反応生成物を検出する(工程S205)。予め作成した検量線を用いて、反応生成物の検出値から、EAPを定量する(工程S207)。
【0098】
工程S201において、少なくともアミンに作用するオキシドレダクターゼとしてエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を最初に試料へ添加することにより、試料に含まれるアミンがエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体により分解又は消去される。本実施形態に係るEAPの定量方法における測定値に及ぼす、試料中の誤差原因物質の影響の程度は、試料中に含まれる遊離のEAなどのアミンの量に依存する。試料中に含まれる遊離のEAなどのアミンの量が少ない試料を測定する場合には、予め遊離のEAなどのアミンを消去する工程S201は必要なく、試料に直接ホスファターゼを作用させることができる。その場合、試料中に生成するEAは全て試料中のEAPからホスファターゼの作用によって切り出されたものと推測できる。
【0099】
一方、試料中に遊離のEAなどのアミンが含まれている試料を測定する場合には、定量の目的物質であるEAPからホスファターゼの作用によって遊離したEAとの区別ができなくなり測定誤差を生じることになる。この測定誤差を回避する目的で、予め試料中の遊離のEAなどのアミンを消去しておくことが好ましい。
【0100】
なお、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体が、EAへの特異性が高く、EAPに対しては実質的に作用しない特性を有するものを選択する場合、工程S201において、定量の目的物質であるEAPまでも消去してしまうことは起こらないが、使用するエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体の性質として、工程S201において、定量の目的物質であるEAPまでも消去してしまう恐れがある場合には、EAPは消去されずEAなどのアミンのみが消去される条件濃度を設定して工程S201を行うことにより、EAPの誤消去を回避することができる。
【0101】
工程S203において、試料にホスファターゼを添加し、EAPに作用させて、EAに変換する。工程S203は、上述した工程S101と同様の工程であるため、詳細な説明は省略する。
【0102】
工程S205において、工程S201で添加したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体が、工程S203で変換されたEAに作用する。この反応により生成した反応生成物を検出することができる。工程S205は、すでに添加済みのエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体がEAに作用する点以外は工程S103と同様であり、酸化還元反応に生成した反応生成物を検出する点においては工程S105と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0103】
工程S207において、予め作成した検量線を用いて、反応生成物の検出値から、EAPを定量する。工程S207は、工程S107と同様の工程であるため、詳細な説明は省略する。
【0104】
上述した実施形態においては、アミンの消去工程で添加したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体の作用をそのまま利用した例を説明したが、本発明に係るEAPの定量方法はこれに限定されるものではない。例えば、アミンの消去工程の時に別途のオキシドレダクターゼを添加し、EAPの定量工程において本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を更に添加してもよい。
【0105】
まず、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体とは異なるオキシドレダクターゼを試料に添加し、試料に含まれるアミンを分解又は消去する(工程S301)。試料にホスファターゼを添加し、EAPに作用させて、EAに変換する(工程S303)。試料に本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を添加し、変換されたEAに作用させる(工程S305)。この反応により生成した反応生成物を検出する(工程S307)。予め作成した検量線を用いて、反応生成物の検出値から、EAPを定量する(工程S309)。
【0106】
工程S303は、上述した工程S101と同様の工程であってもよい。また、工程S305は、上述した工程S103と同様の工程であってもよい。工程S307は、上述した工程S105と同様の工程であってもよい。工程S309は、上述した工程S107と同様の工程であってもよく、詳細な説明は省略する。
【0107】
<ホスファターゼ>
本発明に係るEAPの定量方法に使用し得るホスファターゼとしては、臨床検査に使用が可能で、かつ処理に供する試料中のEAPからEAを有効に切り出し得るものであれば、いかなるホスファターゼを用いてもよい。そのようなホスファターゼの例としては、酸性ホスファターゼ、アルカリホスファターゼ、プロテインホスファターゼが挙げられる。上記ホスファターゼは、単独で用いても、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0108】
本発明においてホスファターゼを選択する際には、試料中のEAPからEAを効率よく切り出してくることと同時に、夾雑物質の生成をできる限り抑制するという観点からの酵素の選択を行うこともできる。すなわち、試料中に含まれる、測定対象物以外のリン酸が付加した各種化合物を夾雑物質として予測し、それらを生成しにくいタイプのホスファターゼを選択することにより、夾雑物質の生成を抑制できる。既知の各種ホスファターゼがどのような構造間の結合を切断しやすいかに関する知見などに基づいてホスファターゼを選択することができる。
【0109】
実際には、本発明に係るEAPの定量方法は、ホスファターゼによる切断に続くエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体による作用の工程において、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体の基質特異性を選択することによってもコントロールすることが可能であり、そのような選択を行うことにより、誤反応の影響を低減することが期待される。
【0110】
試料のホスファターゼ処理条件は、用いるホスファターゼがEAPに作用し、EAを短時間に効率よく遊離する条件であれば、いかなる条件でもよい。使用するホスファターゼの量は、試料中に含まれるEAPの含量あるいは処理条件等により適宜選択され、一例として、ホスファターゼを、終濃度が0.001U/ml~10000U/ml、好ましくは0.01U/ml~1000U/mlとなるように加えることができる。更に必要により他の酵素を適宜加えてもよい。
【0111】
本発明に使用可能なホスファターゼの活性は、分光光度計を用いて4-ニトロフェニルホスフェートの加水分解により生じる4-ニトロフェノール(極大吸収波長405nm)量を測定して算出する。一例として、アルカリホスファターゼ(ALP)を使用する場合、37℃、pH9.8(ジエタノールアミンバッファー)で1分間に1μモルの4-ニトロフェニルホスフェートを加水分解する酵素量を1Uと定義した。
【0112】
<オキシドレダクターゼ>
本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体とは異なるオキシドレダクターゼとしては、EAへの特異性が高く、EAPに対しては実質的に作用しない特性を有するオキシドレダクターゼが好ましい。例えば、EC番号1.4又はEC番号1.5に属するオキシドレダクターゼとして、一級アミンデヒドロゲナーゼ、モノアミンデヒドロゲナーゼ、ジアミンデヒドロゲナーゼ、ポリアミンデヒドロゲナーゼ、エタノールアミンデヒドロゲナーゼ、チラミンデヒドロゲナーゼ、フェニルエチルアミンデヒドロゲナーゼ、ベンジルアミンデヒドロゲナーゼ、ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、セロトニンデヒドロゲナーゼ、スペルミンデヒドロゲナーゼ、スペルミジンデヒドロゲナーゼ、β-アラニンデヒドロゲナーゼ、γ-アミノ酪酸(GABA)デヒドロゲナーゼ、タウリンデヒドロゲナーゼ、カダベリンデヒドロゲナーゼ、及びアグマチンデヒドロゲナーゼを例示することができる。
【0113】
一実施形態において、EC番号1.4.3又はEC番号1.5.3に属するオキシダーゼを用いることができ、例えば、一級アミンオキシダーゼ、モノアミンオキシダーゼ、ジアミンオキシダーゼ、ポリアミンオキシダーゼ、チラミンオキシダーゼ、フェニルエチルアミンオキシダーゼ、ベンジルアミンオキシダーゼ、ヒスタミンオキシダーゼ、セロトニンオキシダーゼ、スペルミンオキシダーゼ、スペルミジンオキシダーゼ、β-アラニンオキシダーゼ、γ-アミノ酪酸(GABA)オキシダーゼ、タウリンオキシダーゼ、カダベリンオキシダーゼ、アグマチンオキシダーゼがある。特に、フェニルエチルアミンオキシダーゼ(PEAOX)を好適に用いることができる。
【0114】
本実施形態に係るオキシドレダクターゼの反応条件としては、アミンに作用し、効率的に酸化反応を触媒する条件であれば、いかなる条件でもよい。もっとも、酵素には、一般に最も高い活性を示す至適温度、至適pHがある。そのため、反応条件は、至適温度、至適pH付近が好適である。例えば、オキシドレダクターゼの反応条件は、温度30℃、pH8.5を好適に用いることができるが、これに限定されるものではない。また、例えば、PEAOXの反応条件は、後述する温度37℃、pH8.5を好適に用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0115】
(エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体のオキシダーゼ活性を用いたEAPの定量)
一実施形態において、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体のオキシダーゼ活性を用いて試料中のEAPを測定することができる。より詳細には、EAにエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を作用させ、生成した過酸化水素、又は消費された酸素を定量することにより、EAPの濃度を決定することができる。
【0116】
まず、試料にホスファターゼを添加し、EAPに作用させて、EAに変換する(工程S101)。試料に本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を添加し、変換されたEAにエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を作用させる(工程S103)。この反応により生成した過酸化水素を検出する(工程S105)。予め作成した検量線を用いて、過酸化水素の検出値から、EAPを定量する(工程S107)。
【0117】
工程S101については、上述したため、詳細な説明は省略する。工程S103において、試料中のEAP濃度は特に問われないが、例えば、0.01μM~10000μMであり得る。作用時間は例えば5秒~180分間、好ましくは0.5分~60分間、より好ましくは1分~30分間、更に好ましくは1分~10分間とすることができる。作用温度は、用いる酵素の至適温度にもよるが、例えば、20℃~45℃であり、通常の酵素反応に用いられる温度を適宜選択できる。
【0118】
エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体の好適な使用量は、例えば、終濃度が、0.001U/ml~500U/ml、好ましくは0.01U/ml~100U/mlとなるように添加すればよい。一般に、試料溶液中に含まれる基質の濃度が低いほど、添加するエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体の終濃度を高めればよい。エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を作用させる際のpHは、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体の至適pHを考慮し、反応に適したpHとなるように緩衝剤を用いて調整することが好ましいが、作用可能なpHであればこれに限定されない。エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を作用させる際のpHは、例えば、pH3~pH11、好ましくはpH5~pH9である。使用可能な緩衝剤は、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体のレダクターゼ活性によりEAPを定量する場合と同様である。
【0119】
本実施形態においては、EAに作用するエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体のオキシダーゼ活性による生成物又は消費物を測定することによりEAPを測定する方法を提供するが、測定が容易な生成物であり、測定対象として好ましいものとして過酸化水素が挙げられる。エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体の作用により生成した過酸化水素は、発色基質等によって検出してもよく、本発明に用いられる発色基質としては、4-アミノアンチピリンの他に、例えば、ADOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-m-アニシジン)、ALOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)アニリン)、TOOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-m-トルイジンナトリウム)、DA-67(10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)-フェノシアジン)、DA-64(N-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-4,4’-ビス(ジメチルアミノ)-ジフェニルアミン)等が挙げられる。ADOS、ALOS、TOOSは4-アミノアンチピリンと縮合した際に発色する。DA-64、DA-67は4-アミノアンチピリンを必要とせず、単独で処方するだけで発色する。何れの場合も、発色反応はペルオキシダーゼにより触媒される。また、測定する消費物としては、溶存酸素が挙げられ、溶存酸素計等を用いて反応液中の溶存酸素量を測定することができる。例えば、上記測定試薬の発色の程度(吸光度変化量)を分光光度計又は生化学自動分析装置等により測定し、標準試料の吸光度と比較して、試料中に含まれるEAPを測定することができる。
【0120】
工程S107において、予め作成した検量線を用いて、反応生成物の検出値から、試料中のEAPの量を決定する。このようにして、試料中のEAPを定量することができる。
【0121】
本発明に係るEAPの定量方法に用いる試料としては、EAPを含む可能性のあるあらゆる生物学的試料、例えば血液、血漿等に由来する試料を例示することができる。試料は適宜、加工処理されたものでありうる。試料は、例えば、遠心濃縮装置により濃縮されたものでもよい。
【0122】
しかし、このような定量方法においては、EAPを含む試料中に、EAP以外の物質であって、EAPを定量するためのエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体が作用しうる物質が他にも夾雑する場合には、測定値がプラス方向に誤差を生じるおそれがある。特に、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体がそのような夾雑物質に対して作用する割合が高いほど、本来の定量目的物質であるEAPを正確に定量できなくなるという課題がある。
【0123】
一実施形態において、試料は、EAP以外の少なくとも1種のアミンを含んでもよい。一般に、臨床検体においては、EA、β-アラニン、タウリン等のアミンを夾雑物として含み得る。本発明に係るEAPの定量方法においては、EAに作用するエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を用いるため、これらのアミンが試料に含まれる場合、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体がこれらのアミンにも作用して、本来測定すべきEAPに由来するEAを正確に定量することが困難となる。このため、EAPを定量する前に、試料に含まれるEAP以外のアミンを分解又は消去することが好ましい。
【0124】
一実施形態において、試料にホスファターゼを作用させる前に、少なくともアミンに作用するオキシダーゼを、試料に含まれるアミンに作用させることが好ましい。本実施形態において、少なくともアミンに作用するオキシダーゼとして、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を用いることができる。まず、アミンに作用するオキシダーゼとして、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を試料に添加し、試料に含まれるアミンを分解又は消去する(工程S201)。なお、本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体は、EAPには作用せず、アミンのみに作用する。このため、工程S201においては、試料に含まれるEAPは、分解又は消去されない。試料にホスファターゼを添加し、EAPに作用させて、EAに変換する(工程S203)。工程S201で添加したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体が、変換されたEAに作用する。この反応により生成した過酸化水素を検出する(工程S205)。予め作成した検量線を用いて、過酸化水素の検出値から、EAPを定量する(工程S207)。
【0125】
工程S201において、少なくともアミンに作用するオキシダーゼとしてエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を試料へ最初に添加することにより、試料に含まれるアミンがエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体により分解又は消去される。本実施形態に係るEAPの定量方法における測定値に及ぼす、試料中の誤差原因物質の影響の程度は、試料中に含まれる遊離のEAの量に依存する。試料中に含まれる遊離のEAの量が少ない試料を測定する場合には、予め遊離のEAを消去する工程S201は必要なく、試料に直接ホスファターゼを作用させることができる。その場合、試料中に生成するEAは全て試料中のEAPからホスファターゼの作用によって切り出されたものと推測できる。
【0126】
一方、試料中に遊離のEAが含まれている試料を測定する場合には、定量の目的物質であるEAPからホスファターゼの作用によって遊離したEAとの区別ができなくなり測定誤差を生じることになる。この測定誤差を回避する目的で、予め試料中の遊離のEAを消去しておくことが好ましい。
【0127】
なお、エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体が、EAへの特異性が高く、EAPに対しては実質的に作用しない特性を有するものを選択する場合、工程S201において、定量の目的物質であるEAPまでも消去してしまうことは起こらないが、使用するエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体の性質として、工程S201において、定量の目的物質であるEAPまでも消去してしまう恐れがある場合には、EAPは消去せずEAのみが消去される条件濃度を設定して工程S201を行うことにより、EAPの誤消去を回避することができる。
【0128】
工程S203において、試料にホスファターゼを添加し、EAPに作用させて、EAに変換する。工程S203は、上述した工程S101と同様の工程であるため、詳細な説明は省略する。
【0129】
工程S205において、工程S201で添加したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体が、工程S203で変換されたEAに作用する。この反応により生成した反応生成物を検出することができる。工程S205は、すでに添加済みのエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体がEAに作用する点以外は工程S103と同様であり、酸化還元反応に生成した反応生成物を検出する点においては工程S105と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0130】
工程S207において、予め作成した検量線を用いて、反応生成物の検出値から、EAPを定量する。工程S207は、工程S107と同様の工程であるため、詳細な説明は省略する。
【0131】
上述した実施形態においては、アミンの消去工程で添加したエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体の作用をそのまま利用した例を説明したが、本発明に係るEAPの定量方法はこれに限定されるものではない。例えば、アミンの消去工程の時に別途のオキシダーゼを添加し、EAPの定量工程において更に本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を更に添加してもよい。
【0132】
まず、試料にエタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体とは異なるオキシダーゼを添加し、試料に含まれるアミンを分解又は消去する(工程S301)。試料にホスファターゼを添加し、EAPに作用させて、EAに変換する(工程S303)。試料に本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体を添加し、変換されたEAに作用させる(S305)。この反応により生成した過酸化水素を検出する(工程S307)。予め作成した検量線を用いて、過酸化水素の検出値から、EAPを定量する(工程S309)。
【0133】
工程S303は、上述した工程S101と同様の工程であってもよい。また、工程S305は、上述した工程S103と同様の工程であってもよい。工程S307は、上述した工程S105と同様の工程であってもよい。工程S309は、上述した工程S107と同様の工程であってもよく、詳細な説明は省略する。
【0134】
<オキシダーゼ>
本エタノールアミンオキシドレダクターゼ改変体とは異なるオキシダーゼは、としては、EAへの特異性が高く、EAPに対しては実質的に作用しない特性を有するオキシダーゼが好ましい。例えば、フェニルエチルアミンオキシダーゼ(PEAOX)、エタノールアミンオキシダーゼ、チラミンオキシダーゼ、ベンジルアミンオキシダーゼ、ヒスタミンオキシダーゼ、セロトニンオキシダーゼ、スペルミンオキシダーゼ、スペルミジンオキシダーゼ、β-アラニンオキシダーゼ、γ-アミノ酪酸(GABA)オキシダーゼ、タウリンオキシダーゼ、カダベリンオキシダーゼ、アグマチンオキシダーゼ等を好適に用いることができる。
【0135】
本実施形態に用いられるオキシダーゼの反応条件としては、アミンに作用し、効率的に酸化反応を触媒する条件であれば、いかなる条件でもよい。もっとも、酵素には、一般に最も高い活性を示す至適温度、至適pHがある。そのため、反応条件は、至適温度、至適pH付近が好適である。例えば、PEAOXの反応条件は、温度37℃、pH8.5を好適に用いることができるが、これに限定されるものではない。
【実施例0136】
(LrEAOX変異体の発現用プラスミドの構築)
Lichtheimia ramosa由来Ethanolamine oxidase(LrEAOX)(配列番号1)をコードする遺伝子(配列番号2)は、プラスミドベクターpKK223-3にクローニングされており、LrEAOX発現用プラスミドはpKK223-3-LrHPと名付けられている(特許文献4参照)。LrEAOX変異体の発現用プラスミドは、pKK223-3-LrHPを鋳型に使用し、2種類のプライマーを使用してPCR法により調製した。各変異体の作製に使用したプライマーの組み合わせを表1に示す。
【0137】
【0138】
PCRには、KOD One PCR Master Mix(東洋紡株式会社)を使用し、添付マニュアルの3ステップサイクルに従ってPCR条件を決定した。PCRのサイクル数は7とした。PCR後の溶液にDpnI(New England Biolab)を1.0μl添加して37℃で1時間処理した。DpnI処理した反応液1.0μlに対し、Ligation high Ver.2(東洋紡株式会社)2.5μl、T4 polynucleotide Kinase(5 U/μl)(東洋紡株式会社)0.5μl、超純水3.5μlを添加し、16℃で1時間処理した。得られたプラスミドでE.coli JM109株を形質転換し、アンピシリンを含むLB寒天培地に播種した。生育したコロニーを50μg/mlのアンピシリンを含むLB液体培地(LB-amp培地)に接種して振とう培養し、FastGeneプラスミドミニキット(日本ジェネティクス株式会社)を使用してプラスミドを単離した。単離したプラスミド中のLrEAOX変異体をコードする領域の塩基配列を、株式会社ファスマックに委託して解析し、目的とする変異体の発現用プラスミドが正しく構築できたことを確認した。
【0139】
(野生型LrEAOX及びLrEAOX変異体の組換え生産)
野生型LrEAOX又はLrEAOX変異体発現用プラスミドでE.coli BL21株を形質転換して作製したLrEAOX変異体組換え生産株を、LB-amp培地(アンピシリン濃度50μg/ml)2.5mlに接種し、試験管内で37℃、180rpmで一晩培養した。種培養液0.5mlを、坂口フラスコ内の0.02mM CuSO4及び0.1mM IPTGを含むLB-amp培地50mlに接種して25℃、130rpmで20時間培養した。
【0140】
(野生型LrEAOX及びLrEAOX変異体の粗酵素液調製)
50mlの培養液を6,500×gで10分間遠心して得たペレットを、4mlのTris-HCl緩衝液(pH7.5)に再懸濁した。菌体懸濁液を超音波破砕した後、20,400×gで15分間遠心して上清を回収し、粗酵素液とした。
【0141】
(野生型LrEAOX及びLrEAOX変異体の陰イオン交換クロマトグラフィー)
野生型LrEAOX又はLrEAOX変異体の粗酵素液を、20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)で平衡化したHiScreen(登録商標)Q-FF(Cytiva、樹脂量4.7ml)にアプライして陰イオン交換樹脂に結合させた。
【0142】
その後、47ml(10CV)の20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)で樹脂を洗浄し、20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)に含まれるNaCl濃度を0mMから130mMへと直線的に上昇させながら92mL(19.5CV)送液し、樹脂に結合したLrEAOX変異体を溶出させた。
【0143】
(野生型LrEAOX及びLrEAOX変異体のサイズ排除クロマトグラフィー)
溶出画分を、Amicon(登録商標)Ultra Ultracel-30Kにより濃縮し、HiLoad(登録商標)26/60 Superdex 200カラムにより精製した。樹脂の平衡化、溶出には150mM NaClを含む20mM Bis-Tris-HCl緩衝液(pH7.0)を用いた。
【0144】
溶出した各フラクションの純度をSDS-PAGEにより評価し、夾雑タンパク質を含んでいないフラクションを回収して野生型LrEAOX又はLrEAOX変異体の精製品とした。
【0145】
(in vitroでのEAOXのホロ化)
EAOXを含む銅アミンオキシダーゼは、in vitroにおいて銅イオンとともに温置することで、活性部位のチロシンがTPQに変化すること(ホロ化)で比活性が高くなることが知られている(Matsuzaki et al., Biochemistry (1995) 34,4524-4530)。LrEAOXを、CuSO4及び緩衝液を含む表2の組成となるよう混合し、ホロ化処理混合液を調製した。同混合液を20℃で0、16、40及び64時間温置した。そして、それぞれの時間で処理したLrEAOXを用いて、特許文献3の記載に準ずる下記の活性測定法に従って、比活性を算出した。
【0146】
【0147】
(LrEAOX変異体の活性評価)
以下の試薬を用いた。
試薬:4-アミノアンチピリン(4-AA)(富士フイルム和光純薬株式会社)、西洋わさびペルオキシダーゼ(POD)(東洋紡株式会社)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(TOOS)(株式会社同仁化学研究所)、エタノールアミン(EA)(東京化成工業株式会社)
【0148】
活性測定試薬(161mM Bicine-NaOH(pH8.07.5)、0.48mM 4-AA、4.8U/ml POD、0.54mM TOOS)616μlに、LrEAOX溶液を22μl加えて37℃で2分間温置した後、基質溶液(150mM エタノールアミン EA)22μlを添加して混合し、分光光度計(U-3900、株式会社日立ハイテクサイエンス)を用いて37℃における5分間あたりのA555変化量(ΔAS)を測定した。
【0149】
LrEAOXの比活性は、下記の式により算出した。
U/mg= (ΔAS×df×1.53)/LrEAOX濃度(mg/ml)
df;希釈率
LrEAOXの濃度は、A280を測定し、下記のように算出した。
mg/mL=A280×df /1.339
df:希釈率
1.339:280nm波長でのEAOX 1 g/lの吸光度
【0150】
(試験結果:LrEAOXのホロ化処理による、比活性向上効果の評価)
図4は、16時間、40時間及び64時間のin vitroホロ化後のLrEAOXの、ホロ化処理時間の長さと比活性の関係を示す。LrEAOXはホロ化処理を行うことで比活性が向上し、ホロ化を行わないものの比活性が0.35U/mgであったのに対し、比活性が16時間で1.5倍、40時間で1.9倍、64時間で2.1倍となった。これにより、ホロ化によってLrEAOXの非活性が向上すること、その向上度合いの変化はホロ化処理の時間については、比活性の向上度合いは経時的に緩やかになり、40時間を経過するとその後の向上程度はわずかであることが確認された。
【0151】
この結果を踏まえて、以後の各種LrEAOX変異体の性能評価においても、変異を導入していないLrEAOXの代わりに各種LrEAOX変異体を用いて調製したホロ化処理混合液を、20℃で40時間温置することによりホロ化を行い、その後、上述の活性測定法及び比活性算出法により、比活性を算出した。
【0152】
(試験結果:各種LrEAOX変異体の比活性向上効果の評価)
上述のホロ化処理条件、活性測定法及び比活性算出法により、表1に記載の各種LrEAOX変異体の比活性を算出した結果を表3に示す。
【0153】
【0154】
ホロ化を行う前の野生型のLrEAOXの比活性0.35に対し、20℃、40時間のホロ化処理を行うことにより、野生型のLrEAOXの比活性は0.66となり、比活性が1.9倍向上した。そして、このようなホロ化処理を同様に行うことに加えて、331位のアミノ酸をシステイン以外のアミノ酸へと置換した変異体では、何れも野生型に比べ比活性が顕著に向上した。338位のシステインを置換したものでは1.3~2.4倍に比活性がそれぞれ向上した。さらに、338位のシステインに加えて、331位のシステインに変異を導入した変異体では、さらなる比活性の向上効果が確認された。中でもCys331Ala/Cys338Ala、Cys331Lys/Cys338Ala及びCys331Ala/Cys338Lysでは効果が顕著であり、野生型に対して2.6倍、2.9倍及び4.2倍もの比活性向上効果が認められた。
1 電極、1a 配線、1b 上部電極、2 作用極、3 対極、5 参照極、7 配線部、9 端子、10 センサーチップ、11 基材、13 スペーサ、15 カバー、19 反応層、30 測定部、31 スイッチ、33 ディスプレイ、100 センサー、110 制御部、120 表示部、130 入力部、140 記憶部、150 通信部、160 電源、190 配線