(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025062833
(43)【公開日】2025-04-15
(54)【発明の名称】アンテナの配置を決定する方法、装置、及びプログラム、並びに物体検出システム
(51)【国際特許分類】
H04W 24/02 20090101AFI20250408BHJP
G01S 7/03 20060101ALI20250408BHJP
H04W 64/00 20090101ALI20250408BHJP
【FI】
H04W24/02
G01S7/03 240
H04W64/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023172130
(22)【出願日】2023-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大槻 信也
(72)【発明者】
【氏名】村上 友規
(72)【発明者】
【氏名】牟田 修
【テーマコード(参考)】
5J070
5K067
【Fターム(参考)】
5J070AB15
5J070AC01
5J070AD03
5J070AH19
5J070AK22
5J070BD02
5K067AA21
5K067EE02
5K067EE10
5K067EE16
(57)【要約】
【課題】高い精度での物体検出を可能とするアンテナ配置を少ない負荷で決定できるようにする。
【解決手段】本開示のアンテナ配置決定方法によれば、複数のアンテナを有するAPとSTAとを用いて物体の検出を行う対象領域が複数の小領域に仮想的に分割される。次に、STAの位置とアンテナの位置候補との間の直接波の経路上にある小領域の数が多いほど大きくなる第一種のスコア(第一スコアS1、第二スコアS2a)と、反射波の経路上にある小領域の数が多いほど大きくなる第二種のスコア(第三スコアS2b)とが計算される。そして、第一種のスコアが大きいほど大きく、第二種のスコアが大きいほど小さくなる評価指標値Sがアンテナの位置候補の組み合わせ毎に計算される。最後に、評価指標値Sが小さい順に選ばれた上位所定数の位置候補の組み合わせの中からアンテナを配置する位置の組み合わせが決定される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナを有する第一の無線装置と、前記第一の無線装置と無線通信を行う第二の無線装置とを用いて物体を検出するシステムにおける前記複数のアンテナの配置を決定するアンテナ配置決定方法であって、
前記物体の検出を行う対象領域を複数の小領域に仮想的に分割することと、
前記複数のアンテナを配置可能な位置の中から前記複数のアンテナの位置候補の組み合わせを選択することと、
前記第二の無線装置の位置と前記複数のアンテナの位置候補との間の直接波の経路上にある小領域の数が多いほど大きくなる第一種のスコアを前記複数のアンテナの位置候補の組み合わせ毎に計算することと、
前記第二の無線装置の位置と前記複数のアンテナの位置候補との間の反射波の経路上にある小領域の数が多いほど大きくなる第二種のスコアを前記複数のアンテナの位置候補の組み合わせ毎に計算することと、
前記第一種のスコアと前記第二種のスコアとを用いて、前記第一種のスコアが大きいほど大きく、前記第二種のスコアが大きいほど小さくなる評価指標値を前記複数のアンテナの位置候補の組み合わせ毎に計算することと、
前記複数のアンテナの位置候補の組み合わせの中から前記評価指標値が小さい順に上位所定数の組み合わせを選び、選ばれた前記上位所定数の組み合わせの中で前記複数のアンテナを配置する位置の組み合わせを決定することと、を含む
ことを特徴とするアンテナ配置決定方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアンテナ配置決定方法において、
前記第一種のスコアを計算することは、前記第二の無線装置の位置と前記複数のアンテナの位置候補との間の直接波の経路毎にカウントされた経路上の小領域の数の合計を計算することを含む
ことを特徴とするアンテナ配置決定方法。
【請求項3】
請求項1に記載のアンテナ配置決定方法において、
前記第二種のスコアを計算することは、前記第二の無線装置の位置と前記複数のアンテナの位置候補との間の反射波の経路毎にカウントされた経路上の小領域の数の合計を計算することを含む
ことを特徴とするアンテナ配置決定方法。
【請求項4】
請求項1に記載のアンテナ配置決定方法において、
前記第一種のスコアを計算することは、
前記第二の無線装置の位置と前記複数のアンテナの位置候補との間の直接波の経路上にある小領域の数を第一スコアとして計算することと、
前記第二の無線装置の位置と前記複数のアンテナの位置候補との間の直接波の経路毎にカウントされた経路上の小領域の数の合計を第二スコアとして計算することと、を含み、
前記第二種のスコアを計算することは、前記第二の無線装置の位置と前記複数のアンテナの位置候補との間の反射波の経路毎にカウントされた経路上の小領域の数の合計を第三スコアとして計算することを含み、
前記評価指標値を計算することは、前記第二スコアと前記第三スコアとの差分に前記第一スコアを乗じて得られる数値を計算することを含む
ことを特徴とするアンテナ配置決定方法。
【請求項5】
複数のアンテナを有する第一の無線装置と、前記第一の無線装置と無線通信を行う第二の無線装置とを用いて物体を検出するシステムにおける前記複数のアンテナの配置を決定するアンテナ配置決定装置であって、
前記物体の検出を行う対象領域を複数の小領域に仮想的に分割する処理と、
前記複数のアンテナを配置可能な位置の中から前記複数のアンテナの位置候補の組み合わせを選択する処理と、
前記第二の無線装置の位置と前記複数のアンテナの位置候補との間の直接波の経路上にある小領域の数が多いほど大きくなる第一種のスコアを前記複数のアンテナの位置候補の組み合わせ毎に計算する処理と、
前記第二の無線装置の位置と前記複数のアンテナの位置候補との間の反射波の経路上にある小領域の数が多いほど大きくなる第二種のスコアを前記複数のアンテナの位置候補の組み合わせ毎に計算する処理と、
前記第一種のスコアと前記第二種のスコアとを用いて、前記第一種のスコアが大きいほど大きく、前記第二種のスコアが大きいほど小さくなる評価指標値を前記複数のアンテナの位置候補の組み合わせ毎に計算する処理と、
前記複数のアンテナの位置候補の組み合わせの中から前記評価指標値が小さい順に上位所定数の組み合わせを選び、選ばれた前記上位所定数の組み合わせの中で前記複数のアンテナを配置する位置の組み合わせを決定する処理と、を実行するように構成されている
ことを特徴とするアンテナ配置決定装置。
【請求項6】
複数のアンテナを有する第一の無線装置と、前記第一の無線装置と無線通信を行う第二の無線装置とを用いて物体を検出するシステムにおける前記複数のアンテナの配置を決定するためのプログラムであって、
前記物体の検出を行う対象領域を複数の小領域に仮想的に分割する処理と、
前記複数のアンテナを配置可能な位置の中から前記複数のアンテナの位置候補の組み合わせを選択する処理と、
前記第二の無線装置の位置と前記複数のアンテナの位置候補との間の直接波の経路上にある小領域の数が多いほど大きくなる第一種のスコアを前記複数のアンテナの位置候補の組み合わせ毎に計算する処理と、
前記第二の無線装置の位置と前記複数のアンテナの位置候補との間の反射波の経路上にある小領域の数が多いほど大きくなる第二種のスコアを前記複数のアンテナの位置候補の組み合わせ毎に計算する処理と、
前記第一種のスコアと前記第二種のスコアとを用いて、前記第一種のスコアが大きいほど大きく、前記第二種のスコアが大きいほど小さくなる評価指標値を前記複数のアンテナの位置候補の組み合わせ毎に計算する処理と、
前記複数のアンテナの位置候補の組み合わせの中から前記評価指標値が小さい順に上位所定数の組み合わせを選び、選ばれた前記上位所定数の組み合わせの中で前記複数のアンテナを配置する位置の組み合わせを決定する処理と、をコンピュータに実行させるように構成されている
ことを特徴とするアンテナ配置決定プログラム。
【請求項7】
対象領域内の物体を検出する物体検出システムであって、
複数のアンテナを有する第一の無線装置と、
前記第一の無線装置と無線通信を行う第二の無線装置と
請求項5に記載のアンテナ配置決定装置と、を備え、
前記複数のアンテナは前記第二の無線装置の位置に対して前記アンテナ配置決定装置で決定された位置に配置されている、
ことを特徴とする物体検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電波を利用して物体を検出するシステムにおけるアンテナの配置を決定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
Wi-Fi等の電波を利用して物体の位置を推定する方法として、検出領域内の物体により変化するマルチパス波の状態(CSI:Chanel State Information)に基づき物体の検出を行う方法が知られている。例えば、特許文献1には、物体の位置をラベルにして対応するCSIとともに教師データを作成し、その教師データを用いた機械学習により学習モデルを生成し、その学習モデルにCSIを入力して対象領域内の物体を検出する方法が提案されている。
【0003】
図11は特許文献1に開示されている物体検出方法の一つの実施例を示す。この例では、物体の検出を行う対象領域は縦に八分割、横に四分割されて合計三十二の小領域に分割されている。そして、前述の従来方法にて1番から32番までのどの小領域に物体が存在するかが推定される。無線方式としてはIEEE802.11ac以降(ac/ax/be等)の規格の無線LANが利用され、一つのアクセスポイント(AP)と一つの端末(STA)との間のCSIに基づき物体検出が行われる。APは四つのアンテナを備えている。STAが具備するアンテナ数は一つである。
【0004】
図11に示す例では、アンテナを配置する位置として、対象領域の周囲に丸数字で示す1番から12番までの十二の位置候補が設定されている。これら十二の位置後方の中から選択された四つの位置にアンテナが配置される。物体の検出精度は四つのアンテナの位置の組み合わせによって変化するので、四つのアンテナの位置の組み合わせ全495通りについて、計算機を用いたシミュレーションにより検出精度が計算される。しかし、膨大な数のアンテナの配置パターンの全てについて、レイトレース等のシミュレーションや実物での実験を行うとなると、それに要する負荷は非常に大きなものとなってしまう。
【0005】
そこで、本出願に係る発明者らは、シミュレーションや実験を行うことなく、或いは、多くの配置パターンでのシミュレーションや実験を必要とすることなくアンテナ配置を決定することのできる新しい方法について研究を進めてきた。その新しい方法において考慮されたことの一つは、非特許文献1で報告された実験の結果である。非特許文献1には、高周波帯においては、直接波の影響が大きいエリアや反射波の影響が小さいエリアでは物体の検知率が劣化するという実験結果が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】村上他、“5GHzと28GHzのCSIを用いた無線センシングの実験評価,”2021年電子情報通信学会ソサエティ大会、B-1-82
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図12及び
図13は本出願に係る発明者らが行った実験の結果を示す図である。この実験では、
図11の実施例と同じく、物体の検出を行う対象領域を合計三十二の小領域に分割し、対象領域の周囲に十二のアンテナの位置候補を設定した。ただし、対象領域の周囲は壁で囲まれている。
【0009】
図12に結果を示す実験では、5番、6番、7番、及び8番の各位置にアンテナを設置し、対象領域の周囲で16番と17番の小領域の間に配置されたSTAとの間で無線通信を行った。また、
図13に結果を示す実験では、1番、2番、11番、及び12番の各位置にアンテナを設置し、対象領域の周囲で16番と17番の小領域の間に配置されたSTAとの間で無線通信を行った。STAと各アンテナとを結ぶ直線は、STAと各アンテナとの間の直接波の経路を示している。
【0010】
それぞれの実験では、隣接する二つの小領域においてサブキャリア毎にCSIを計測し、その小領域間でCSIの計測結果を比較することが行われた。具体的には、
図12に示す実験では、2番と3番の小領域間での比較と、16番と17番の小領域間での比較とが行われた。また、
図13に示す実験では、9番と10番の小領域間での比較と、2番と3番の小領域間での比較と、16番と17番の小領域間での比較とが行われた。
【0011】
図12に示す実験結果からは、直接波を遮る方向にある16番と17番の小領域ではCSIはサブキャリアによって大きく変動し、且つ、16番と17番とではサブキャリアに対するCSIの変化が大きく異なっていることが分かる。これに対して、直接波に沿った方向にある2番と3番の小領域ではCSIのサブキャリアによる変動は小さく、且つ、2番と3番とではサブキャリアに対するCSIの変化の違いも小さいことが分かる。
【0012】
図13に示す実験においても16番と17番の小領域は直接波を遮る方向にあり、2番と3番の小領域は直接波に沿った方向にある。16番と17番の小領域ではCSIはサブキャリアによって大きく変動し、且つ、サブキャリアに対するCSIの変化は小領域間で大きく異なっている。また、2番と3番の小領域ではCSIのサブキャリアによる変動は小さく、且つ、小領域間でのサブキャリアに対するCSIの変化の違いも小さい。以上の実験結果を総合すれば、直接波による物体検出では直接波の経路との関係次第で位置推定の精度が大きく劣化する可能性があると考えてよい。
【0013】
一方、
図13における9番と10番の小領域には直接波は存在せず、また、これらの小領域は直接波の経路から遠く離れている。しかし、対象領域内には直接波だけでなく周囲の壁で反射した電波、すなわち、反射波も存在する。9番と10番の小領域ではCSIはサブキャリアによって大きく変動し、且つ、サブキャリアに対するCSIの変化は小領域間で大きく異なっている。これは9番と10番の小領域に存在する反射波の影響によるものと考えられる。この実験結果より、反射波の存在が位置推定の精度を向上させることが確認された。
【0014】
非特許文献1で報告された実験結果から得られる知見に加え、上記の実験結果から得られる知見をアンテナの配置の決定に反映させることで、高い精度での物体検出が可能になることが期待される。本開示は、高い精度での物体検出を可能とするアンテナ配置を少ない負荷で決定することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示は上記目的を達成するためのアンテナ配置決定方法を提供する。本開示のアンテナ配置決定方法は複数のアンテナを有する第一の無線装置と、第一の無線装置と無線通信を行う第二の無線装置とを用いて物体を検出するシステムにおけるアンテナの配置を決定する方法である。本開示のアンテナ配置決定方法は以下の第一乃至第六のステップを含む。第一のステップは、物体の検出を行う対象領域を複数の小領域に仮想的に分割するステップである。第二のステップは、アンテナを配置可能な位置の中からアンテナの位置候補の組み合わせを選択するステップである。第三のステップは、第二の無線装置の位置と複数のアンテナの位置候補との間の直接波の経路上にある小領域の数が多いほど大きくなる第一種のスコアを複数のアンテナの位置候補の組み合わせ毎に計算するステップである。第四のステップは、第二の無線装置の位置と複数のアンテナの位置候補との間の反射波の経路上にある小領域の数が多いほど大きくなる第二種のスコアを複数のアンテナの位置候補の組み合わせ毎に計算するステップである。第五のステップは、第一種のスコアと第二種のスコアとを用いて、第一種のスコアが大きいほど大きく、第二種のスコアが大きいほど小さくなる評価指標値を複数のアンテナの位置候補の組み合わせ毎に計算するステップである。そして、第六のステップは、複数のアンテナの位置候補の組み合わせの中から評価指標値が小さい順に上位所定数の組み合わせを選び、選ばれた上位所定数の組み合わせの中で複数のアンテナを配置する位置の組み合わせを決定するステップである。
【0016】
本開示は上記目的を達成するためのアンテナ配置決定装置を提供する。本開示のアンテナ配置決定装置は複数のアンテナを有する第一の無線装置と、第一の無線装置と無線通信を行う第二の無線装置とを用いて物体を検出するシステムにおけるアンテナの配置を決定する装置である。本開示のアンテナ配置決定装置は以下の第一乃至第六の処理を実行するように構成されている。第一の処理は、物体の検出を行う対象領域を複数の小領域に仮想的に分割する処理である。第二の処理は、アンテナを配置可能な位置の中からアンテナの位置候補の組み合わせを選択する処理である。第三の処理は、第二の無線装置の位置と複数のアンテナの位置候補との間の直接波の経路上にある小領域の数が多いほど大きくなる第一種のスコアを複数のアンテナの位置候補の組み合わせ毎に計算する処理である。第四の処理は、第二の無線装置の位置と複数のアンテナの位置候補との間の反射波の経路上にある小領域の数が多いほど大きくなる第二種のスコアを複数のアンテナの位置候補の組み合わせ毎に計算する処理である。第五の処理は、第一種のスコアと第二種のスコアとを用いて、第一種のスコアが大きいほど大きく、第二種のスコアが大きいほど小さくなる評価指標値を複数のアンテナの位置候補の組み合わせ毎に計算する処理である。そして、第六の処理は、複数のアンテナの位置候補の組み合わせの中から評価指標値が小さい順に上位所定数の組み合わせを選び、選ばれた上位所定数の組み合わせの中で複数のアンテナを配置する位置の組み合わせを決定する処理である。
【0017】
また、本開示は上記目的を達成するためのアンテナ配置決定プログラムを提供する。本開示のアンテナ配置決定プログラムは複数のアンテナを有する第一の無線装置と、第一の無線装置と無線通信を行う第二の無線装置とを用いて物体を検出するシステムにおけるアンテナの配置を決定するためのプログラムである。本開示のアンテナ配置決定プログラムは上記の第一乃至第六の処理をコンピュータに実行させるように構成されている。
【0018】
さらに、本開示は上記のアンテナ配置決定装置を用いた物体検出システムを提供する。本開示の物体検出システムは対象領域内の物体を検出するシステムである。本開示の物体検出システムは複数のアンテナを有する第一の無線装置と、第一の無線装置と無線通信を行う第二の無線装置と、上記のアンテナ配置決定装置とを備える。本開示の物体検出システムでは、アンテナは第二の無線装置の位置に対して上記のアンテナ配置決定装置で決定された位置に配置されている。
【発明の効果】
【0019】
本開示の技術では、複数のアンテナの位置候補の組み合わせの中から評価指標値が小さい順に上位所定数の組み合わせが選ばれ、その中から複数のアンテナを配置する位置の組み合わせが決定される。評価指標値の計算には第一種のスコアと第二種のスコアとが用いられる。第一種のスコアは、第二の無線装置の位置と各アンテナの位置候補との間の直接波の経路上にある小領域の数が多いほど大きくなるスコアである。一方、第二種のスコアは、第二の無線装置の位置と各アンテナの位置候補との間の反射波の経路上にある小領域の数が多いほど大きくなるスコアである。評価指標値は、第一種のスコアが大きいほど大きく、第二種のスコアが大きいほど小さくなるように計算される。このような方法によれば、直接波の影響を小さくして反射波の影響を大きくすることにより高い精度での物体検出を可能とするアンテナ配置を少ない負荷で決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】アンテナ配置決定装置の構成の一例を示す図である。
【
図2】アンテナ配置の決定の手順の一例を示すフロー図である。
【
図3】第一のスコアの計算について説明する図である。
【
図4】第一のスコアの計算の手順を示すフロー図である。
【
図5】第二のスコアの計算について説明する図である。
【
図6】第二のスコアの計算の手順を示すフロー図である。
【
図7】第三のスコアの計算について説明する図である。
【
図8】第三のスコアの計算の手順を示すフロー図である。
【
図9】評価指標値の計算用のテーブルを示す図である。
【
図10】評価指標値と平均誤差距離との関係の一例を示す図である。
【
図11】従来の物体検出方法の一つの実施例について説明する図である。
【
図12】直接波と位置推定の精度との関係についての実験結果を示す図である。
【
図13】反射波と位置推定の精度との関係についての実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.アンテナ配置決定装置
まず、本開示の実施形態に係るアンテナ配置決定装置の構成の一例について
図1を用いて説明する。アンテナ配置決定装置10は、第一の無線装置としてのアクセスポイント(AP)2と、AP2と無線通信を行う第二の無線装置としての端末(STA)6とともに物体検出システムを構成する。物体検出は、例えば、物体の検出を行う対象領域TA内の電波の状態を表すCSIに基づいて行われる。AP2が有する複数のアンテナ4は、STA6の位置に対してアンテナ配置決定装置10で決定された位置に配置される。
【0022】
アンテナ配置決定装置10は、入出力インタフェース11、プロセッサ12、プログラムメモリ13、及び情報メモリ15を備えるコンピュータである。プロセッサ12、プログラムメモリ13、及び情報メモリ15の各個数はそれぞれ複数でもよい。
【0023】
プロセッサ12は、CPU、RISC、DSP、FPGA、ASIC、PLD、又は別の処理ユニットであってもよいし、それらの二つ以上の組合せであってもよいし、アンテナ配置決定装置10のための専用プロセッサであってもよい。また、プロセッサ12はプログラムメモリ13及び情報メモリ15と通信可能に結合されてもよいし、プログラムメモリ13及び情報メモリ15を内蔵してもよい。
【0024】
プログラムメモリ13には、プロセッサ12で実行可能な複数のインストラクション14が記憶されている。それら複数のインストラクション14で構成されるプログラムはコンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体に記憶してもよいし、ネットワークを介して提供されてもよい。アンテナ配置決定プログラムを構成するインストラクション14がプロセッサ12で実行されることによって、アンテナ配置決定装置10によってアンテナ配置決定方法が実施される。情報メモリ15にはアンテナ配置決定方法の実施に必要な各種情報が記憶される。
【0025】
入出力インタフェース11には、アンテナ配置の決定のための条件が入力される。入力される条件には、対象領域TAの形状と小領域への分割数、AP2のアンテナ4の数、アンテナ4を配置可能な位置、STA6の配置位置が含まれる。
図1に示す例では、対象領域TAは1番から32番までの三十二個の小領域に仮想的に分割されている。AP2のアンテナ4の数は四つであり、アンテナ4の位置候補としては丸数字で示す1番から12番までの十二の位置候補が設定されている。STA6は対象領域TAの周囲で16番と17番の小領域の間に配置されている。
【0026】
インストラクション14は、入出力インタフェース11に入力された条件に基づいて、アンテナ配置を決定するための処理をプロセッサ12に実行させる。以下、アンテナ配置決定装置10により実施されるアンテナ配置決定方法について具体的に説明する。
【0027】
2.アンテナ配置決定方法
2-1.アンテナ配置の決定の手順
図2はアンテナ配置の決定の手順の一例を示すフロー図である。アンテナ配置決定装置10は、
図2に示す手順にてアンテナ配置決定方法を実施する。本実施形態に係るアンテナ配置決定方法の一つの特徴は、アンテナ4の位置候補の組み合わせ(アンテナ4の配置パターンともいう)毎に二種類のスコアを計算し、その二種類のスコアに基づいて当該配置パターンを評価するための評価指標値Sを計算する点にある。評価指標値Sの計算はアンテナ4の位置候補の組み合わせ毎に行われる。
【0028】
二種類のスコアとは第一種のスコアと第二種のスコアである。。第一種のスコアはSTA6と各アンテナ4との間の直接波の影響が反映されたスコアである。より具体的には、第一種のスコアは、直接波の経路上にある小領域の数が多いほど大きくなるスコアである。第一種のスコアには第一スコアS1と第二スコアS2aとが含まれる。本実施形態に係るアンテナ配置決定方法では、STA6と各アンテナ4との間の直接波の経路上にある少領域の数が第一スコアS1として計算される(ステップS101)。また、STA6と各アンテナ4との間の直接波の経路毎にカウントされた経路上の小領域の数の合計が第二スコアS2aとして計算される(ステップS102)。第一スコアS1及び第二スコアS2aの詳細とその計算の手順については後述する。
【0029】
一方、第二種のスコアはSTA6と各アンテナ4との間の反射波の影響が反映されたスコアである。より具体的には、第二種のスコアは、反射波の経路上にある小領域の数が多いほど大きくなるスコアである。第二種のスコアには第三スコアS2bが含まれる。本実施形態に係るアンテナ配置決定方法では、STA6と各アンテナ4との間の反射波の経路毎にカウントされた経路上の小領域の数の合計が第三スコアS2bとして計算される(ステップS103)。第三スコアS2bの詳細とその計算の手順については後述する。なお、第一スコアS1、第二スコアS2a、第三スコアS2b間の計算の順序はフロー図に示す順序には限定されない。それらはフロー図とは異なる順序で計算されてもよいし、並列して計算されてもよい。
【0030】
第一スコアS1、第二スコアS2a、及び第三スコアS2bの計算後、それらを用いて評価指標値Sが計算される。フロー図によれば、まず、第二スコアS2aと第三スコアS2bとの間のスコア差S2が計算される(ステップS104)。そして、第一スコアS1にスコア差S2を乗じて得られる数値が評価指標値Sとして計算される(ステップS105)。このような計算によれば、第二スコアS2aが大きいほど評価指標値Sは大きくなり、第三スコアS2bが大きいほど評価指標値Sは小さくなる。また、第一スコアS1が大きいときには第二スコアS2aも大きいためにスコア差S2は正値になりやすい。スコア差S2が正値の場合、第一スコアS1が大きいほど評価指標値Sは大きくなる。このように、本実施形態に係るアンテナ配置決定方法では、評価指標値Sは、第一種のスコアが大きいほど大きく、第二種のスコアが大きいほど小さくなるように計算される。
【0031】
アンテナ4の全ての配置パターンについて評価指標値Sが計算された場合、アンテナ4の全ての配置パターンの中から評価指標値Sが小さい順に上位所定数(ここではM個とする)の配置パターンが選択される(ステップS106)。そして、選択された上位M個の配置パターンの中から物体の検出精度が最も高い配置パターンが実際にアンテナ4を配置するパターンとして採用される(ステップS107)。上位M個が1個である場合、選択された配置パターンがそのまま最適な配置パターンとして採用される。上位M個が1よりも多い個数である場合、例えば、選択したM個の配置パターンのそれぞれについてレイトレース等のシミュレーション或いは実験が実施され、その結果に基づいて最適な配置パターンを決定することが行われる。
【0032】
以上のような方法によれば、直接波の影響を小さくして反射波の影響を大きくすることにより、高い精度での物体検出を可能とするアンテナ4の配置パターンを少ない負荷で決定することができる。
【0033】
2-2.第一スコアの計算
図3は、アンテナ配置の決定の手順のステップS101で行われる第一スコアS1の計算について説明する図である。
図3に示す例では、アンテナ4は5番から8番の位置候補に配置されている。
【0034】
第一スコアS1の計算では、アンテナ4とSTA6との間の電波の直接波が通過した小領域の数がカウントされる。具体的には、各アンテナ4とSTA6とが直線で結ばれ、その直線が通っている小領域の数がカウントされる。
図3に示す例では、数字が「0」となっている小領域は直接波が通過しない領域であり、数字が「1」となっている小領域は直接波が通過する領域である。対象領域を構成する全小領域の数値の合計値は、対応するアンテナ4の配置パターンの第一スコアS1として算出される。
図3に示す例では、5番、6番、7番、及び8番の配置パターンの第一スコアS1は22点である。このような計算が495通りの全ての配置パターンについて行われる。
【0035】
図4は第一スコアS1の計算の手順を示すフロー図である。アンテナ配置決定装置10はこのフロー図に従って計算を実行する。なお、フロー図においてNareaは小領域の数を示し、Npはアンテナ4の配置パターンの数を示している。
図3に示す例の場合、Narea=32、Np=495である。
【0036】
ステップS201は、ステップS202からステップS203までの処理を含む繰り返し処理である。1番からNp番までのアンテナ4の配置パターン毎にステップS202からステップS203までの処理が繰り返し実行される。
【0037】
ステップS202では、全てのアンテナ4とSTA6が直線で結ばれる。
【0038】
ステップS203は、ステップS204からステップS205までの処理を含む繰り返し処理である。1番からNarea番までの小領域毎にステップS204からステップS205までの処理が繰り返し実行される、
【0039】
ステップS204では、ステップS203で着目されている小領域上に直線が通っているかどうか判定される。当該小領域上に直線が通っていないのであれば、ステップS205の処理はスキップされ、当該小領域上に直線が通っていれば、ステップS205の処理は実行される。
【0040】
ステップS205では、第一スコアS1(i)に1の数値が加算される。第一スコアS1(i)は1番からNp番までのうちのi番目の配置パターンの第一スコアを意味する。第一スコアS1(i)の初期値はゼロである。1番からNant番までの全てのアンテナ4について、且つ、1番からNarea番までの全ての小領域についてステップS204の判定が行われ、肯定的な判定結果の積算値がi番目の配置パターンの第一スコアS1(i)として出力される。
【0041】
全ての配置パターンについて第一スコアS1が計算されることでステップS201の条件は成立し、アンテナ配置の決定の手順のステップS101は完了する。
【0042】
2-3.第二スコアの計算
図5は、アンテナ配置の決定の手順のステップS102で行われる第二スコアS2aの計算について説明する図である。
図5に示す例では、アンテナ4は5番から8番の位置候補に配置されている。
【0043】
第二スコアS2aの計算では、アンテナ4とSTA6との間の直接波の経路毎にカウントされた経路上の小領域の数の合計が計算される。具体的には、各アンテナ4とSTA6とが直線で結ばれ、その直線が通っている小領域の数の総和が計算される。
図5に示す例では、数字が「0」となっている小領域は直接波が通過しない領域である。そして、数字が「1」となっている小領域は一本の直接波が通過する領域であり、数字が「2」となっている小領域は二本の直接波が通過する領域である。対象領域を構成する全小領域の数値の合計値は、対応するアンテナ4の位置候補の組み合わせ、すなわち、アンテナ4の配置パターンの第二スコアS2aとして算出される。
図5に示す例では、5番、6番、7番、及び8番の配置パターンの第二スコアS2aは34点である。このような計算が495通りの全ての配置パターンについて行われる。
【0044】
図6は第二スコアS2aの計算の手順を示すフロー図である。アンテナ配置決定装置10はこのフロー図に従って計算を実行する。なお、フロー図においてNareaは小領域の数を示し、Npはアンテナ4の配置パターンの数を示し、Nantはアンテナ4の数を示している。
図5に示す例の場合、Narea=32、Np=495、Nant=4である。
【0045】
ステップS301は、ステップS302の処理を繰り返す繰り返し処理である。1番からNp番までのアンテナ4の配置パターン毎にステップS302の処理が繰り返し実行される。
【0046】
ステップS302は、ステップS303からステップS304までの処理を含む繰り返し処理である。1番からNant番までのアンテナ4毎にステップS303からステップS304までの処理が繰り返し実行される。
【0047】
ステップS303では、1番からNant番までのうちのj番目のアンテナ4とSTA6が直線で結ばれる。
【0048】
ステップS304は、ステップS305からステップS306までの処理を含む繰り返し処理である。1番からNarea番までの小領域毎にステップS305からステップS306までの処理が繰り返し実行される。
【0049】
ステップS305では、ステップS304で着目されている小領域上を通過する直線の本数がカウントされる。
【0050】
ステップS306では、第二スコアS2a(i)にステップS305で得られたカウント数が加算される。第二スコアS2a(i)は1番からNp番までのうちのi番目の配置パターンの第二スコアを意味する。第二スコアS2a(i)の初期値はゼロである。1番からNant番までの全てのアンテナ4について、且つ、1番からNarea番までの全ての小領域についてステップS305のカウントが行われ、そのカウント数の積算値がi番目の配置パターンの第二スコアS2a(i)として出力される。
【0051】
全ての配置パターンについて第二スコアS2aが計算されることでステップS301の条件は成立し、アンテナ配置の決定の手順のステップS102は完了する。
【0052】
2-4.第三スコアの計算
図7は、アンテナ配置の決定の手順のステップS103で行われる第三スコアS2bの計算について説明する図である。ここでは最大反射2回までの場合を想定し、直接波(n=0)、1回反射波(n=1)、2回反射波(n=2)の各場合においてイメージング法により電波が通過するエリアを決定する方法を記載している。
図7に示す例では、アンテナ4は5番から8番の位置候補に配置されている。ただし、簡単のため、
図7に示す例では対象領域を1番から4番までの四個の小領域に仮想的に分割している。
【0053】
イメージング法では、直接波用の中央の対象領域の左右に1回反射波用の対象領域を記載する。その際に小領域の配置(小領域の番号の配置)を左右反転させる。また、直接波用の中央の対象領域の上下にも1回反射波用の対象領域を記載する。その際に小領域の配置を上下反転させる。次に、1回反射波用の対象領域の右もしくは左に2回反射波用の対象領域を記載する。この場合はさらに小領域の配置を左右反転させる。また、1回反射波用の対象領域の上もしくは下に2回反射波用の対象領域を記載する。この場合はさらに小領域の配置を上下反転させる。そして、各対象領域に対応するSTA6を記載し、中央の対象領域に設定されているアンテナ4の位置候補から各対象領域のSTA6までを直線で結合する。
【0054】
一例として、
図7では、6番の位置候補にあるアンテナ4と中央の対象領域から左に二つ隣の2回反射波用の対象領域のSTA6とを結ぶ直線(点線)が引かれている。この点線は6番の位置候補にあるアンテナ4からSTA6へ向かう2回反射波の一つ(直接波用の中央の対象領域に折れ線で示す2回反射波)を示している。
【0055】
第三スコアS2bの計算では、それぞれの直線が通る小領域の数がカウントされる。
図7に示す例では、点線で示す2回反射波は4番、4番、2番、1番、及び1番の合計五つの小領域を通過している。よって、
図7に示す例では、点線で示す2回反射波が通過する小領域の数は「5」とカウントされる。
【0056】
以上のような計算が6番の位置候補にあるアンテナ4と他の対象領域にあるSTA6とを結ぶ直線についても行われる。さらに、同様の計算がアンテナ4の他の三つの位置候補についても行われ、
図7に示すアンテナ4の配置パターンについての第三スコアS2bが算出される。そして、このような計算が495通りの全ての配置パターンについて行われる。
【0057】
第三スコアS2bの計算の変形例として、電波が通過する小領域の数をカウントする際、その反射回数に応じた係数A
nをカウント数に掛けてもよい。具体的には、反射回数がゼロのときは係数A
0を掛ける。係数A
0の値は1としてよい。そして、反射回数が1回のときは係数A
0よりも小さい係数A
1を掛け、反射回数が2回のときは係数A
1よりも小さい係数A
2を掛ける。
図7に示す例では、反射回数がゼロ回の電波が通過する小領域の数は1個、反射回数が1回の電波が通過する小領域の数は3個、反射回数が2回の電波が通過する小領域の数は1個である。よって、1×A
0+3×A
1+1×A
2で計算されるカウント数を
図7に示す2回反射波に対応するスコアとして計算してもよい。なお、係数A
nの値ついては、例えば壁の材質に応じて決定してもよい。また、上下左右で同じ値を用いてもよいし、上下左右で壁の材質が異なる場合は異なる値としてもよい。
【0058】
また、同一の反射波が同じ領域を複数回通過する場合、重複してカウントするのではなく1回とカウントしてもよい。その場合、
図7に点線で示す2回反射波が通過する小領域の数は「3」とカウントされる。なお、
図7に示す例では、1回反射波と2回反射波を考慮しているが、1回反射波のみを考慮することでもよいし、3回反射波を含むより多くの反射波を考慮してもよい。
【0059】
図8は第三スコアS2bの計算の手順を示すフロー図である。アンテナ配置決定装置10はこのフロー図に従って計算を実行する。なお、フロー図においてNareaは小領域の数を示し、Npはアンテナ4の配置パターンの数を示し、Nantはアンテナ4の数を示し、Nは考慮する最大の反射回数を示している。
【0060】
ステップS401は、ステップS402の処理を繰り返す繰り返し処理である。1番からNp番までのアンテナ4の配置パターン毎にステップS402の処理が繰り返し実行される。
【0061】
ステップS402は、ステップS403の処理を繰り返す繰り返し処理である。1番からNant番までのアンテナ4毎にステップS403の処理が繰り返し実行される。
【0062】
ステップS403は、ステップS404からステップS405までの処理を含む繰り返し処理である。ステップS404からステップS405までの処理がN回繰り返し実行される。
【0063】
ステップS404では、1番からNant番までのうちのj番目のアンテナ4とSTA6が壁でn回反射した電波を示す直線で結ばれる。
【0064】
ステップS405は、ステップS406の処理を繰り返す繰り返し処理である。ステップS404で引かれたJ本の直線のそれぞれについてステップS406の処理が繰り返し実行される。
【0065】
ステップS406は、ステップS407からステップS408までの処理を含む繰り返し処理である。1番からNarea番までの小領域毎にステップS407からステップS408までの処理が繰り返し実行される、
【0066】
ステップS407では、ステップS406で着目されている小領域上を通過する直線の本数がカウントされる。
【0067】
ステップS408では、第三スコアS2b(i)にステップS407で得られたカウント数が加算される。第三スコアS2b(i)は1番からNp番までのうちのi番目の配置パターンの第三スコアを意味する。第三スコアS2b(i)の初期値はゼロである。1番からNant番までの全てのアンテナ4について、且つ、1番からNarea番までの全ての小領域について、且つ、1回反射からN回反射までの全ての反射回数の反射波についてステップS407のカウントが行われ、そのカウント数の積算値がi番目の配置パターンの第三スコアS2b(i)として出力される。
【0068】
全ての配置パターンについて第三スコアS2bが計算されることでステップS401の条件は成立し、アンテナ配置の決定の手順のステップS103は完了する。
【0069】
2-5.評価指標値の計算
図9は、アンテナ配置の決定の手順のステップS104及びS105で行われる評価指標値Sの計算について説明する図である。アンテナ配置決定装置10の情報メモリ15には、
図9に示すテーブルが作成されている。このテーブルには、アンテナ4の配置パターン毎に第一スコアS1、第二スコアS2a、第三スコアS2b、スコア差S2、及び評価指標値Sのセルが設けられている。
図9に示すテーブルでは、アンテナ4の配置パターンは全部で495通りとされている。
【0070】
テーブルの第一スコアS1、第二スコアS2a、及び第三スコアS2bのセルには、ステップS101、S102、及びS103の計算で得られた数値が入力される。第一スコアS1、第二スコアS2a、及び第三スコアS2bのセルが埋められた配置パターンについては、次に、スコア差S2と評価指標値Sの計算が行われる。まず、第二スコアS2aと第三スコアS2bとの差分がスコア差S2のセルに入力される。そして、第一スコアS1にスコア差S2を乗算して得られる数値が評価指標値Sのセルに入力される。このようにして495通りの全ての配置パターンについて評価指標値Sのセルが埋められていく。
【0071】
全ての配置パターンについて評価指標値Sのセルが埋められると、アンテナ配置決定装置10はテーブルを評価指標値Sについて昇順にソートする。ソート後のテーブルでは、アンテナ4の配置パターンは評価指標値Sが小さい順に並べられている。
【0072】
2-6.アンテナ配置の決定
図10は、アンテナ配置の決定の手順のステップS106及びS107で行われるアンテナ配置の決定について説明する図である。評価指標値Sと物体検出における平均誤差距離との間には、
図10にグラフで示すような関係がある。グラフの横軸は評価指標値Sについてソートした後のアンテナ配置パターンである。よって、グラフの右から左にかけて評価指標値Sは小さくなる。平均誤差距離は
図1に示す対象領域TAで行われた実際の実験結果である。
【0073】
図10に示すグラフからは、全体として評価指標値Sの値が小さいほど平均誤差距離が小さくなる傾向であることがわかる。つまり、評価指標値Sの値と平均誤差距離との間には
図10中に矢印線で示すような相関が存在する。そのような相関を根拠として評価指標値Sの小さい上位M個のアンテナ配置パターンが実際にアンテナ4を配置するパターンの候補として選択される。
【0074】
図10には、評価指標値Sの小さい上位10個のアンテナ配置パターンが別のグラフに取り出されている。そのグラフから分かるように、評価指標値Sの小さい上位10個のアンテナ配置パターンの間でも平均誤差距離には差がある。選定した上位M個のアンテナ配置パターンについてレイトレース等のシミュレーション或いは実験を実施する理由は、平均誤差距離が最も小さいアンテナ配置パターンを確実に選定することにある。
【0075】
以上のアンテナ配置決定方法によれば、全てのアンテナ配置パターンについてシミュレーションや実験を行う場合に比較して少ない負荷で、高い精度での物体検出を可能とするアンテナ配置を決定することができる。
【0076】
なお、上位M個を1個とする場合、評価指標値Sが最も小さいアンテナ配置パターンが実際にアンテナ4を配置するパターンとして採用される。評価指標値Sが小さいほど平均誤差距離は小さい傾向にあることから、そのようなアンテナ配置パターンを選択したとしてもそれにより物体の検出精度が低下する可能性は小さい。その一方で、シミュレーションや実験を行う必要は無くなるため、高い精度で物体を検出できるアンテナ配置を非常に少ない負荷で決定することが可能となる。
【0077】
3.その他の実施形態
評価指標値Sの計算において第一スコアS1は必ずしも必要ではない。第二スコアS2と第三スコアS2bとの差分であるスコア差S2を評価指標値Sとして用いてもよい。その場合、第二スコアS2のみが第一種のスコアとなる。
【符号の説明】
【0078】
2 AP(第一の無線装置)
4 アンテナ
6 STA(第二の無線装置)
10 アンテナ配置決定装置