(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006366
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】舌保持装置
(51)【国際特許分類】
A61F 5/56 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
A61F5/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107115
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】管 仕成
(72)【発明者】
【氏名】松浦 康之
(72)【発明者】
【氏名】市川 哲也
(72)【発明者】
【氏名】田中 久美子
(72)【発明者】
【氏名】島原 留美子
(72)【発明者】
【氏名】宮良 晶子
(72)【発明者】
【氏名】丸山 真理子
【テーマコード(参考)】
4C098
【Fターム(参考)】
4C098AA02
4C098BB15
4C098BC01
4C098BD11
(57)【要約】
【課題】低位にある舌を本来あるべき位置へ戻すことにより、口呼吸の改善ならびに、唾液の分泌量を増加させる。
【解決手段】舌100を上顎裏101の所望の位置に保持するための舌保持装置1は、舌100の前後方向中央部よりも前側部分を囲むように形成された伸縮部材からなり、当該舌100に装着される舌装着部2と、舌装着部2に基端側が接続された糸状部材3、4と、糸状部材3、4の先端側に取り付けられ、上の前歯102に固定される固定部5とを備えている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
舌を上顎裏の所望の位置に保持するための舌保持装置であって、
舌の前後方向中央部よりも前側部分を囲むように形成された伸縮部材からなり、当該舌に装着される舌装着部と、
前記舌装着部に基端側が接続された糸状部材と、
前記糸状部材の先端側に取り付けられ、上の前歯に固定される固定部とを備えている舌保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載の舌保持装置において、
前記糸状部材は、前記舌装着部の互いに異なる部位に接続された第1糸状部材及び第2糸状部材を含み、
前記固定部は、前記第1糸状部材の先端側及び前記第2糸状部材の先端側に取り付けられている舌保持装置。
【請求項3】
請求項2に記載の舌保持装置において、
前記第1糸状部材の基端側は、前記舌装着部の上側に接続され、
前記第2糸状部材の基端側は、前記舌装着部の下側に接続されている舌保持装置。
【請求項4】
請求項2に記載の舌保持装置において、
前記固定部は、上の左の前歯と右の前歯に被せられる被せ部と、前記第1糸状部材の先端側が固定される第1固定部と、前記第2糸状部材の先端側が固定される第2固定部とを含んでいる舌保持装置。
【請求項5】
舌を上顎裏の所望の位置に保持するための舌保持装置であって、
舌の前後方向中央部よりも前側部分を囲むように形成された伸縮部材からなり、当該舌に装着される舌装着部と、
前記舌装着部に基端側が接続された糸状部材と、
前記糸状部材の先端側に取り付けられた第1永久磁石と、
上顎裏または上の前歯の裏に設けられ、前記第1永久磁石が吸着する第2永久磁石とを備えている舌保持装置。
【請求項6】
舌を上顎裏の所望の位置に保持するための舌保持装置であって、
舌の先端側が収容された状態で保持されるポケットと、
上の歯の裏側に固定され、上の歯列に沿って延びるとともに前記ポケットを上の歯列に沿う方向に案内するガイド部材と、
前記ポケットを左右方向中央部に向けて付勢する付勢部材とを備えている舌保持装置。
【請求項7】
請求項6に記載の舌保持装置において、
前記ガイド部材は、上の歯列に沿って延びる空間を形成するパイプ部材を有し、
前記付勢部材は、前記パイプ部材の前記空間に収容されるコイル状のバネで構成されている舌保持装置。
【請求項8】
請求項7に記載の舌保持装置において、
前記付勢部材は、前記ポケットの左側に位置する左側付勢部材と、前記ポケットの右側に位置する右側付勢部材とを含んでいる舌保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、舌を上顎裏の所望の位置に保持するための舌保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、睡眠時無呼吸症候群が問題となっている。睡眠時無呼吸症候群は、例えば、就寝時に舌根が落ち込む等することにより、口や鼻から肺に繋がる気道が狭くなったり、一時的に閉塞したりすることにより、無呼吸状態となってしまう疾患である。
【0003】
例えば特許文献1には、睡眠時無呼吸症候群の症状を改善するためのマウスピースが開示されている。特許文献1では、下顎歯列に被せる下顎用ピースの前面に、上顎歯列の先端部まで達するとともに、上顎歯列に沿って左右に延びる前壁部が一体的に形成されている。特許文献1のマウスピースを口腔内に装着したときに、前壁部の前面を唇内側に当接させ、前壁部の背面を上顎歯列に当接させることにより、下顎を上顎に対して前方移動させて固定可能にしている。
【0004】
また、特許文献2には、歯列矯正等のために口腔内に装着されるマウスピースが開示されている。このマウスピースは、歯列が嵌まる部分と、当該歯列が嵌まる部分から口腔内側へ突出するタンエクササイザとを備えている。口腔内への装着時には、タンエクササイザにより舌の動きを鍛えることが可能になっている。
【0005】
また、特許文献3には、舌の先端部分に被せられるカプセルと、カプセル内の空気を吸引するシリンジまたは球ポンプからなる吸引器とを備えた舌位置保持装置が開示されている。この舌位置保持装置によれば、舌をカプセルに吸着させて保持することで、就寝時に舌根の落ち込みを抑制することが可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-168579号公報
【特許文献2】意匠登録第1621611号公報
【特許文献3】特開2023-20502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1のマウスピースは、上顎歯列に沿って左右に延びる前壁部を有しており、この前壁部により、通常は上顎に対して後方に位置している下顎を上顎に対して前方移動させて固定するようにしている。しかしながら、このようなマウスピースは口腔内で異物感を感じやすく、異物感の解消が課題となる。また、特許文献2のマウスピースは口腔内側へ突出するタンエクササイザを備えており、やはり口腔内で異物感を感じやすく、異物感の解消が課題となる。
【0008】
さらに、特許文献1、2のようなマウスピースは形状が大きく、特許文献1では前壁部、特許文献2ではタンエクササイザを備えているので、人によっては口腔に合わず、使用感が悪いという問題もある。
【0009】
そこで、特許文献3のように舌をカプセルに吸着させて保持するようにすれば、マウスピースが不要になるので、マウスピースに比べて異物感が低減されるとともに、使用感が良好になると考えられる。
【0010】
ところが、特許文献3の場合、シリンジまたは球ポンプからなる吸引器が必要になるので、装置が大がかりなものになってしまう。
【0011】
また、例えば日本人のおよそ7割は鼻呼吸ではなく、口呼吸をしているといわれている。舌が本来あるべき位置よりも低位の位置にないと口呼吸をしにくいため、口呼吸している人の多くは低位舌となっている。低位舌の人は唾液の分泌量が低下して口腔が乾燥し易く、咀嚼や嚥下に問題をきたすことがわかっている。
【0012】
この点、特許文献1は、下顎を上顎に対して前方移動させて固定するためのマウスピースであることから、低位舌を解消できるものではない。また、特許文献2は、タンエクササイザで舌を鍛えるためのマウスピースであるが、低位舌を解消するためのものではない。さらに、特許文献3は、
図3、
図6及び
図10に示されているように、舌を低位で保持するものであり、低位舌を解消するためのものではない。
【0013】
本開示は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、低位にある舌を本来あるべき位置へ戻すことにより、口呼吸の改善ならびに、唾液の分泌量を増加させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本開示の一態様では、舌を上顎裏の所望の位置に保持するための舌保持装置を前提とすることができる。舌保持装置は、舌の前後方向中央部よりも前側部分を囲むように形成された伸縮部材からなり、当該舌に装着される舌装着部と、前記舌装着部に基端側が接続された糸状部材と、前記糸状部材の先端側に取り付けられ、上の前歯に固定される固定部とを備えている。
【0015】
この構成によれば、舌装着部が伸縮部材からなるものなので、舌を舌装着部に入れることで、舌装着部が伸縮力によって舌に装着された状態になる。この状態で固定部を上の前歯に固定すると、糸状部材を介して舌装着部が上に引っ張られることになる。これにより、舌が低位の位置から上へ移動して上顎裏の所望の位置に保持されるので、舌が本来あるべき位置に戻る。
【0016】
前記糸状部材は、前記舌装着部の互いに異なる部位に接続された第1糸状部材及び第2糸状部材を含んでいてもよい。この場合、前記固定部は、前記第1糸状部材の先端側及び前記第2糸状部材の先端側に取り付けられている。これにより、舌装着部の複数箇所を上の前歯に固定できるので、舌を安定させることができる。また、前記第1糸状部材の基端側は、前記舌装着部の上側に接続することができ、また、前記第2糸状部材の基端側は、前記舌装着部の下側に接続することができる。
【0017】
前記固定部は、上の左の前歯と右の前歯に被せられる被せ部と、前記第1糸状部材の先端側が固定される第1固定部と、前記第2糸状部材の先端側が固定される第2固定部とを含んでいてもよい。被せ部を上の左の前歯と右の前歯に被せることで、固定部が安定した状態で歯に固定される。
【0018】
本開示の別の態様に係る舌保持装置は、舌の前後方向中央部よりも前側部分を囲むように形成された伸縮部材からなり、当該舌に装着される舌装着部と、前記舌装着部に基端側が接続された糸状部材と、前記糸状部材の先端側に取り付けられた第1永久磁石と、上顎裏または上の前歯の裏に設けられ、前記第1永久磁石が吸着する第2永久磁石とを備えている。これにより、舌装着部が伸縮力によって舌に装着された状態で第1永久磁石と第2永久磁石とを吸着させると、第2永久磁石が上顎裏または上の前歯の裏に設けられているので、糸状部材を介して舌装着部が上に引っ張られることになる。これにより、舌が低位の位置から上へ移動して上顎裏の所望の位置に保持されるので、舌が本来あるべき位置に戻る。
【0019】
本開示の更に別の態様に係る舌保持装置は、舌の先端側が収容された状態で保持されるポケットと、上の歯の裏側に固定され、上の歯列に沿って延びるとともに前記ポケットを上の歯列に沿う方向に案内するガイド部材と、前記ポケットを左右方向中央部に向けて付勢する付勢部材とを備えている。すなわち、舌の先端側をポケットに収容すると、当該ポケットが上の歯列の左右方向中央部に付勢されているので、舌の先端側が上の歯列の左右方向中央部に位置付けられる。これにより、舌が低位の位置から上へ移動して上顎裏の所望の位置に保持されるので、舌が本来あるべき位置に戻る。
【0020】
前記ガイド部材は、上の歯列に沿って延びる空間を形成するパイプ部材で構成されていてもよい。この場合、前記付勢部材は、前記ガイド部材の前記空間に収容されるコイル状のバネで構成することができる。これにより、簡単な構成でポケットを上の歯列の左右方向中央部に向けて付勢できる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本開示によれば、低位にある舌を本来あるべき位置へ戻すことができるので、口呼吸の改善ならびに、唾液の分泌量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態1に係る舌保持装置の斜視図である。
【
図2】舌装着部を舌に装着した状態を示す斜視図である。
【
図4】実施形態1に係る舌保持装置の使用状態を説明する図である。
【
図5】固定部が上の前歯に固定された状態を示す正面図である。
【
図7】
図6のVII-VII線に相当する断面図であり、第1固定部が左にスライドした状態を示す。
【
図9】本発明の実施形態2に係る舌保持装置の使用状態を説明する図である。
【
図10】本発明の実施形態3に係る舌保持装置の平面図である。
【
図13】実施形態3に係る舌保持装置の背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0024】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る舌保持装置1の斜視図であり、
図2は、舌装着部2を舌100に装着した状態を示す斜視図であり、
図3は、舌装着部2の正面図である。
図4に示すように、舌保持装置1は、人間の舌100を上顎裏101の所望の位置に保持するための装置であり、舌装着部2と、糸状部材(第1糸状部材3、第2糸状部材4)と、固定部5とを備えている。舌100を上顎裏101の所望の位置に保持することで、睡眠時無呼吸症候群の症状を改善することができるので、舌保持装置1は、睡眠時無呼吸症候群の症状を改善するための装置と呼ぶこともできる。
【0025】
本明細書では、「前」とは舌保持装置1が装着される人間の前に対応しており、また「後」とは舌保持装置1が装着される人間の後に対応しており、また「左」とは舌保持装置1が装着される人間の左に対応しており、また「右」とは舌保持装置1が装着される人間の右に対応している。さらに、「上」とは舌保持装置1が装着される人間の上に対応しており、「下」とは舌保持装置1が装着される人間の下に対応している。
【0026】
図2にも示すように、舌装着部2は、舌100の前後方向中央部よりも前側部分に装着される部材で構成されている。具体的には、舌装着部2は、舌100の前後方向中央部よりも前側部分を囲むように形成された伸縮部材からなり、輪状、環状をなしている。舌装着部2の材料としては、例えばゴムや熱可塑性エラストマー等の弾性材を挙げることができ、例えばシリコンゴム等が適している。舌装着部2の周長は、舌100における舌装着部2が装着される部位の周長よりも短く設定されている。例えば舌100を舌装着部2に差し込む際には、舌装着部2が伸びることにより周長が長くなり、舌100を所望の位置まで差し込むことが可能になる。舌装着部2は、舌100の前後方向中央部よりも前側部分に装着されればよく、その装着位置は舌100の先端部(前端部)であってもよいし、先端部よりも後寄りの部分であってもよく、特に限定されるものではない。
【0027】
舌装着部2を構成している部材の厚みは特に限定されるものではないが、例えば0.5mm以上3.0mm以下の範囲で設定することができる。舌装着部2の幅(前後方向の寸法)は特に限定されるものではないが、例えば5mm以上30mm以下の範囲で設定することができる。
【0028】
舌装着部2の内面には、例えば突起等で構成された滑り止め部が設けられている。
図3に示すように、舌装着部2の内面において装着時に上側となる部分には、下方へ突出する上側突起2aが形成されている。上側突起2aの数は1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。上側突起2aを2つ以上形成する場合には、舌装着部2の周方向に互いに間隔をあけて形成する。尚、2つ以上の上側突起2aを舌装着部2の幅方向に互いに間隔をあけて形成してもよい。
【0029】
さらに、舌装着部2の内面には、装着時に下側となる部分に上方へ突出する下側突起2bが形成されている。下側突起2bの数は1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。下側突起2bを2つ以上形成する場合には、舌装着部2の周方向に互いに間隔をあけて形成する。尚、2つ以上の下側突起2bを舌装着部2の幅方向に互いに間隔をあけて形成してもよい。上側突起2aの数と、下側突起2bの数とは同じであってもよいし、異なっていてもよい。上側突起2aと下側突起2bの一方または両方を省略してもよい。
【0030】
舌装着部2の内面に上側突起2a及び下側突起2bが形成されているので、舌100を舌装着部2に差し込んだ時に、上側突起2aが舌100の上面に食い込むように配置され、下側突起2bが舌100の下面に食い込むように配置される。これにより、舌装着部2に一旦差し込んだ舌100が舌装着部2から抜け難くなる。尚、図示しないが、舌装着部2の内面の突起は、装着時に左側となる部分や、装着時に右側となる部分に形成されていてもよい。
【0031】
糸状部材は、舌装着部2の互いに異なる部位に接続された第1糸状部材3及び第2糸状部材4を含んでいる。第1糸状部材3の基端側は、舌装着部2の上側(舌100への装着時に上側となる部分)に接続されている。また、第2糸状部材4の基端側は、舌装着部2の下側(舌100への装着時に下側となる部分)に接続されている。第1糸状部材3及び第2糸状部材4を舌装着部2に接続する際には、例えば縛り付けてもよいし、接着剤等によって固着してもよいし、緊結してもよい。
【0032】
第1糸状部材3及び第2糸状部材4は、同じ部材で構成されている。第1糸状部材3及び第2糸状部材4は、例えば糸、ワイヤー、紐等からなる部材で構成されており、引っ張り力を加えなければ容易に弛む性質を持っている。このように第1糸状部材3及び第2糸状部材4が容易に弛むことで、口腔内での違和感が軽減される。第1糸状部材3及び第2糸状部材4の長さは、その先端側を口から口腔外へ出すことができるように十分な長さに設定されている。糸状部材の数は2本に限られるものではなく、1本であってもよいし、3本以上であってもよい。
【0033】
固定部5は、第1糸状部材3及び第2糸状部材4の先端側に取り付けられる部材であり、上の前歯102に固定される。この実施形態では、第1糸状部材3及び第2糸状部材4を有しているので、固定部5は、第1糸状部材3の先端側及び第2糸状部材4の先端側に取り付けられることになる。尚、
図4中、符号103は下の前歯を示しており、符号104は上唇を示しており、符号105は下唇を示している。また、符号106は口腔を示している。
【0034】
図5に示すように、人間の上の歯列を正面から見ると、最も前において左に位置する前歯102aと、最も前において右に位置する前歯102bと、前歯102aの左に隣接する前歯102cと、前歯102bの右に隣接する前歯102dとがある。固定部5は、左の前歯102aと右の前歯102bに被せられる被せ部50と、第1糸状部材3の先端側が固定される第1固定部51と、第2糸状部材4の先端側が固定される第2固定部52とを含んでいる。
【0035】
図6及び
図7に示すように、被せ部50は、上方に開放する溝50aを有している。被せ部50は、例えば弾性材等で構成されている。溝50aは、左右両方向にも開放されている。溝50aの左側部分には、左の前歯102aが差し込まれるようになっており、溝50aの右側部分には、右の前歯102bが差し込まれるようになっている。溝50aの幅(前後方向の寸法)及び深さ(上下方向の寸法)は、前歯102a、102bが差し込まれた状態でがたつかないように設定されており、例えば溝50aの幅寸法は前歯102a、102bの厚み寸法よりも若干短く設定されている。これにより、前歯102a、102bに被せ部50を被せた状態で、被せ部50が前歯102a、102bから離脱し難くなり、前歯102a、102bに固定された状態になる。
【0036】
図8に示すように、第1固定部51及び第2固定部52は、被せ部50の前側部分に対して左右方向にスライド可能に取り付けられている。すなわち、被せ部50の前面の右側部分には、第1固定部51を左右方向に案内する右側ガイド溝50bが左右方向に延びるように形成されている。第1固定部51は上下方向及び左右方向に延びる板状をなしている。第1固定部51の上縁部及び下縁部が右側ガイド溝50bに対してスライド可能に係合した状態となっている。また、被せ部50の前面の左側部分には、第2固定部52を左右方向に案内する左側ガイド溝50cが左右方向に延びるように形成されている。第2固定部52も第1固定部51と同様に上下方向及び左右方向に延びる板状をなしている。第2固定部52の上縁部及び下縁部が左側ガイド溝50cに対してスライド可能に係合した状態となっている。
【0037】
第1固定部51には、第1糸状部材3の先端側が挿通される第1挿通孔51aが形成されている。また、第2固定部52には、第2糸状部材4の先端側が挿通される第2挿通孔52aが形成されている。
【0038】
図4は、実施形態1に係る舌保持装置1の使用状態を示している。実施形態1に係る舌保持装置1を使用する際には、舌装着部2に舌100を差し込んで舌装着部2を舌100に装着する。その後、固定部5の被せ部50に前歯102a、102bを差し込んで被せ部50を前歯102a、102bに固定する。このとき、第1固定部51は右側へスライドさせておき、第2固定部52は左側へスライドさせておく。
図5のFIG.5Aに示すように、被せ部50を前歯102a、102bに固定した後、FIG.5Bに示すように、第1糸状部材3の先端側を前歯102bと前歯102dとの間に通して第1固定部51の第1挿通孔51aに挿通させる。その後、FIG.5Cに示すように、第1固定部51を左側へスライドさせると、第1糸状部材3の先端側が第1固定部51と被せ部50の前面とで挟まれて保持される。また、第2糸状部材4の先端側を前歯102aと前歯102cとの間に通して第2固定部52の第2挿通孔52aに挿通させる。その後、第2固定部52を右側へスライドさせると、第2糸状部材4の先端側が第2固定部52と被せ部50の前面とで挟まれて保持される。
【0039】
第1糸状部材3及び第2糸状部材4を固定部5に固定する際には、舌100が上へ引っ張られるように、第1糸状部材3及び第2糸状部材4の舌装着部2から固定部5までの長さを設定する。これにより、舌100が低位の位置から上へ移動して上顎裏101の所望の位置に保持されるので、舌100が本来あるべき位置に戻り、口呼吸の改善ならびに、唾液の分泌量を増加させることができる。
【0040】
(実施形態2)
図9は、本発明の実施形態2に係る舌保持装置1の使用状態を説明する図である。実施形態2では磁力を利用して舌100を保持するようにしている点で実施形態1のものとは異なっている。以下、実施形態1と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分について詳細に説明する。
【0041】
実施形態2の舌保持装置1は、舌装着部2と、第1糸状部材3及び第2糸状部材4と、
第1糸状部材3及び第2糸状部材4の先端側に取り付けられた第1永久磁石7と、上顎裏101または上の前歯102の裏に設けられ、第1永久磁石7が吸着する第2永久磁石8とを備えている。図示した例では、第2永久磁石8が上の前歯102の裏に対して接着剤等によって固定されている場合を示しているが、第2永久磁石8は上顎裏101を切開して当該上顎裏101に埋め込んでもよい。第2永久磁石8は上顎裏101または上の前歯102の裏に予め設けておく。
【0042】
舌装着部2を舌100に装着した後に、第1永久磁石7を第2永久磁石8に吸着させることで、舌100が低位の位置から上へ移動して上顎裏101の所望の位置に保持される。第1糸状部材3及び第2糸状部材4の長さは、第1永久磁石7を第2永久磁石8に吸着させた状態で舌100を上顎裏101の所望の位置に保持できるように設定されている。
【0043】
(実施形態3)
図10~
図12は、本発明の実施形態3に係る舌保持装置1を示すものである。実施形態3に係る舌保持装置1は、舌の先端側が収容された状態で保持されるポケット30と、上の歯(
図10に仮想線で示す)の裏側に固定され、上の歯列に沿って延びるとともにポケット30を上の歯列に沿う方向に案内するガイド部材40と、ポケット30を左右方向中央部に向けて付勢する付勢部材60、61とを備えている。
【0044】
ポケット30は、例えば弾性材や樹脂材等で構成されており、後方に向けて開放されている。この開放部分からポケット30の内部へ舌を差し込むことで、当該舌がポケット30に差し込まれた状態で保持される。
【0045】
ガイド部材40は、複数の固定アタッチメント41と、ワイヤー42と、パイプ部材43とを有している。固定アタッチメント41は、上の歯の裏側に固定される部材である。固定アタッチメント41の数は、任意に設定することができ、上の歯と同じ数であってもよいし、異なる数であってもよい。固定アタッチメント41を上の歯の裏側に固定する際には、従来から行われている歯科矯正器具を歯に固定する場合と同様に接着剤等を用いればよい。
【0046】
ワイヤー42は、上の歯列に沿って延びており、上の歯の裏側に配置されるとともに、長手方向の複数箇所が固定アタッチメント41に固定されている。ワイヤー42の材料は特に限定されるものではないが、例えば金属、樹脂等を挙げることができる。
【0047】
パイプ部材43は、上の歯列に沿って延びる空間R(
図11及び
図12に示す)を形成するための部材である。すなわち、パイプ部材43は、上の歯列に沿って延びており、上の歯の裏側に配置されるとともに、ワイヤー42に固定されている。パイプ部材43における口腔内側に位置する部分には、上の歯列に沿って延びるスリット43aが形成されている。
【0048】
図12に示すように、ポケット30の前端部には、パイプ部材43のスリット43aに差し込まれる差込部30aが前方へ突出するように形成されている。差込部30aは、スリット43a内を当該スリット43aの延びる方向に沿って移動可能になっている。差込部30aの前端部には、当該差込部30aよりも上下方向の寸法が長く形成された拡大部30bが形成されている。拡大部30bがパイプ部材43の空間R内に配置されており、空間R内でパイプ部材43の延びる方向に沿って移動可能になっている。
【0049】
付勢部材は、ポケット30の拡大部30bの左側に位置する左側付勢部材60と、ポケット30の拡大部30bの右側に位置する右側付勢部材61とを含んでいる。左側付勢部材60及び右側付勢部材61はコイル状のバネで構成されている。左側付勢部材60は、パイプ部材43の空間R内において拡大部30bよりも左側部分に収容されており、その縮み方向はパイプ部材43の延びる方向に対応している。また、右側付勢部材61は、パイプ部材43の空間R内において拡大部30bよりも右側部分に収容されており、その縮み方向はパイプ部材43の延びる方向に対応している。
【0050】
左側付勢部材60はポケット30の拡大部30bを右方向へ常時付勢している。右側付勢部材61はポケット30の拡大部30bを左方向へ常時付勢している。左側付勢部材60及び右側付勢部材61の付勢力は、ポケット30の拡大部30bをパイプ部材43の長手方向中央部(最前部)に位置付けるように設定されている。これにより、ポケット30に外力を作用させない状態で、当該ポケット30がパイプ部材43の長手方向中央部に位置付けられる。尚、左側付勢部材60及び右側付勢部材61の付勢力は同じに設定することができる。
【0051】
この実施形態3によれば、舌保持装置1を上の歯の裏に取り付けて使用することができる。舌保持装置1を取り付けた後、ポケット30の内部へ舌の先端側を差し込むことで、当該舌がポケット30に差し込まれた状態で保持される。ポケット30は、上顎裏に位置しているので、舌が低位の位置から上へ移動して上顎裏の所望の位置に保持され、舌が本来あるべき位置に戻る。
【0052】
また、左側付勢部材60及び右側付勢部材61の付勢力に抗して舌を左右に何度も動かすことで舌のトレーニングを行うことができ、舌の筋力が向上する。
【0053】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上説明したように、本発明に係る舌保持装置は、低位舌の人が利用できる。
【符号の説明】
【0055】
1 舌保持装置
2 舌装着部
3 第1糸状部材
4 第2糸状部材
5 固定部
7 第1永久磁石
8 第2永久磁石
30 ポケット
43 パイプ部材
60 左側付勢部材
61 右側付勢部材