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特開2025-6572フェノール化合物、ポリフェニレンエーテル、硬化性組成物、硬化物、電子部品および化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006572
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】フェノール化合物、ポリフェニレンエーテル、硬化性組成物、硬化物、電子部品および化合物
(51)【国際特許分類】
   C07C 39/21 20060101AFI20250109BHJP
   C08G 65/44 20060101ALI20250109BHJP
   C07F 5/02 20060101ALI20250109BHJP
   C07D 309/12 20060101ALI20250109BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
C07C39/21 CSP
C08G65/44
C07F5/02 C
C07D309/12
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107452
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100132137
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】関口 翔也
(72)【発明者】
【氏名】三島 翔子
(72)【発明者】
【氏名】杉田 侑生
(72)【発明者】
【氏名】石川 信広
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
4H048
4J005
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB46
4H006AB78
4H006FC52
4H006FC74
4H006FE13
4H039CA19
4H039CA60
4H039CA61
4H039CD10
4H039CD20
4H039CD90
4H039CF10
4H039CG50
4H048AA01
4H048AB84
4H048VA77
4J005AA26
4J005BA00
4J005BB01
4J005BB02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】新規なポリフェニレンエーテルおよび当該ポリフェニレンエーテルの合成に用いられる新規なモノマーに関する技術を提供する。
【解決手段】本発明の一態様はフェノール化合物である。当該フェノール化合物は、下記化学式(1)で示される。

化学式(1)において、R~Rは、それぞれ独立に、水素又は炭素数1~10の炭化水素基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で示される、フェノール化合物。
【化1】
化学式(1)において、R~Rは、それぞれ独立に、水素又は炭素数1~10の炭化水素基である。
【請求項2】
下記化学式(2)で示される末端構造を有する、ポリフェニレンエーテル。
【化2】
化学式(2)において、R~Rは、それぞれ独立に、水素又は炭素数1~10の炭化水素基であり、「*」は連結部位を示す。
【請求項3】
分岐構造を有する、請求項2記載のポリフェニレンエーテル。
【請求項4】
請求項2または3に記載のポリフェニレンエーテルを含む硬化性組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の硬化性組成物の硬化物。
【請求項6】
請求項5に記載の硬化物を備える電子部品。
【請求項7】
請求項1に記載のフェノール化合物の前駆体であり、下記化学式(3)で示される、化合物。
【化3】
化学式(3)において、R~Rは、それぞれ独立に、水素又は炭素数1~10の炭化水素基である。
【請求項8】
請求項7に記載の化合物の前駆体であり、下記化学式(4)で示される、化合物。
【化4】
化学式(4)において、R、Rは、それぞれ独立に、水素又は炭素数1~10の炭化水素基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール化合物、ポリフェニレンエーテル、硬化性組成物、硬化物、電子部品および化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
第5世代通信システム(5G)に代表される大容量高速通信や自動車のADAS(先進運転システム)向けミリ波レーダー等などの普及により、通信機器の信号の高周波化が進んできた。
【0003】
しかし、配線板材料としてエポキシ樹脂などを使用した場合、比誘電率(Dk)や誘電正接(Df)が十分に低くないために、周波数が高くなるほど誘電損失に由来する伝送損失の増大が起こり、信号の減衰や発熱などの問題が生じていた。そのため、低誘電特性にすぐれたポリフェニレンエーテルが使用されてきた。
【0004】
また、非特許文献1には、ポリフェニレンエーテルの分子内にアリル基を導入させて、熱硬化性樹脂とすることで、耐熱性を向上させたポリフェニレンエーテルが提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Nunoshige, H. Akahoshi, Y. Shibasaki, M. Ueda, J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem. 2008, 46, 5278-5282.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリフェニレンエーテルには、低誘電特性の他にも種々の特性が求められており、これらの特性を満たすことができる新規なポリフェニレンエーテルおよび当該ポリフェニレンエーテルの合成に用いられる新規なモノマーの開発が求められている。
【0007】
そこで本発明は、新規なポリフェニレンエーテルおよび当該ポリフェニレンエーテルの合成に用いられる新規なモノマーの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、フェノール化合物である。当該フェノール化合物は、下記化学式(1)で示される。
化学式(1)において、R~Rは、それぞれ独立に、水素又は炭素数1~10の炭化水素基である。
【0009】
本発明の他の態様はポリフェニレンエーテルである。当該ポリフェニレンエーテルは、下記化学式(2)で示される末端構造を有する。
化学式(2)において、R~Rは、それぞれ独立に、水素又は炭素数1~10の炭化水素基であり、「*」は連結部位を示す。
上記態様のポリフェニレンエーテルは、分岐構造を有してもよい。
【0010】
本発明のさらに他の態様は化合物である。当該化合物は、上期態様のフェノール化合物の前駆体であり、下記化学式(3)で示される。
化学式(3)において、R~Rは、それぞれ独立に、水素又は炭素数1~10の炭化水素基である。
本発明のさらに他の態様は、上述した態様の化合物の前駆体である。当該前駆体は、下記化学式(4)で示される。
化学式(4)において、R、Rは、それぞれ独立に、水素又は炭素数1~10の炭化水素基である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、新規なポリフェニレンエーテルおよび当該ポリフェニレンエーテルの合成に用いられる新規なモノマーに関する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は化学式IIで表される化合物のH-NMR(CDCl、室温)スペクトルである。
図2図2は化学式IIIで表される化合物のH-NMR(CDCl、室温)スペクトルである。
図3図3は化学式IVで表されるフェノール化合物のH-NMR(CDCl、室温)スペクトルである。
図4図4は実施例1に係るポリフェニレンエーテルのH-NMR(CDCl、室温)スペクトルである。
図5図5は参考例1に係るポリフェニレンエーテルのH-NMR(CDCl、室温)スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下であることを表す。
【0014】
以下に説明する化合物に異性体が存在する場合、特に断らない限り、存在し得る全ての異性体が本発明において使用可能である。
【0015】
本明細書において、ポリフェニレンエーテル(PPE)の原料として用いられ、ポリフェニレンエーテルの構成単位になり得るフェノール類を総称して、「原料フェノール類」とする。
【0016】
本明細書において、原料フェノール類の説明を行う際に「オルト位」や「パラ位」等と表現した場合、特に断りがない限り、フェノール性水酸基の位置を基準(イプソ位)とする。
【0017】
本明細書において、単に「オルト位」等と表現した場合、「オルト位の少なくとも一方」等を示す。従って、特に矛盾が生じない限り、単に「オルト位」とした場合、オルト位のどちらか一方を示すと解釈してもよいし、オルト位の両方を示すと解釈してもよい。
【0018】
本明細書において、ポリフェニレンエーテルの数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求めたものである。GPCにおいては、Shodex K-805Lをカラムとして使用し、カラム温度を40℃、流量を1mL/min、溶離液をクロロホルム、標準物質をポリスチレンとする。
【0019】
本明細書において、数値範囲の上限値と下限値とが別々に記載されている場合、矛盾しない範囲で、各下限値と各上限値との全ての組み合わせが実質的に記載されているものとする。
【0020】
(フェノール化合物)
実施形態に係るフェノール化合物は、下記化学式(1)で示される。
【化5】
上記化学式(1)において、R~Rは、それぞれ独立に、水素又は炭素数1~10の炭化水素基である。
【0021】
炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、シクロアルキル基等が挙げられる。R~Rが炭化水素基である場合には、直鎖状または分岐状のアルキル基であることが好ましい。
【0022】
実施形態に係るフェノール化合物は、下記反応式(A)~(C)に従って合成することができる。
【化6】
上記反応式(A)~(C)において表される、R~Rは、それぞれ独立に、水素又は炭素数1~10の炭化水素基である。
【0023】
反応式(A)で示される反応は、原料が有するフェノール性水酸基の3,4-ジヒドロ-2H-ピランが有する二重結合に対する付加反応、より具体的には水酸基のテトラヒドロピラン保護反応である。反応条件はフェノール性水酸基の二重結合に対する付加反応として公知の条件を適宜選択することができる。具体的には、反応溶媒として、たとえば、ジクロロメタンが挙げられる。また、反応触媒として、たとえば、p-トルエンスルホン酸ピリジニウムが挙げられる。反応式(A)で示される反応は室温で進行しうる。
【0024】
反応式(B)で示される反応は、化学式(4)で表される化合物とクロロメチルスチレン誘導体とのクロスカップリング反応である。反応条件はクロスカップリング反応として公知の条件を適宜選択することができる。具体的には、たとえば、窒素雰囲気下、100℃の条件で進行しうる。反応溶媒として、たとえば、2,4-ジオキサン、メタノール、エタノール、トルエン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、水などが挙げられる。また、塩基として炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。反応触媒としてはパラジウム系触媒を用いることができ、たとえば、パラジウム-テトラキス(トリフェニルホスフィン)が挙げられる。
【0025】
反応式(C)で示される反応は、式(3)で表される化合物のフェノール性水酸基を脱保護する反応である。反応条件はフェノール性水酸基の脱保護反応として公知の条件を適宜選択することができる。具体的には、たとえば、反応溶媒として、メタノールが挙げられる。また、反応触媒としてはp-トルエンスルホン酸一水和物等が挙げられる。反応式(C)で示される反応は室温で進行しうる。
【0026】
<フェノール化合物の用途>
実施形態に係るフェノール化合物は、種々の用途に用いることができる新規化合物である。実施形態に係るフェノール化合物の用途の1つとして、新規なポリフェニレンエーテルの末端構造(末端反応基または末端官能基)を構成するためのモノマーとしての用途が挙げられる。
実施形態に係るフェノール化合物を由来とする構造を、ポリフェニレンエーテルの末端構造とすることにより、当該ポリフェニレンエーテルに優れた架橋反応性を付与することができる。
【0027】
(フェノール化合物の第1の前駆体)
実施形態に係るフェノール化合物の第1の前駆体(以下、単に「第1の前駆体」と呼ぶ)は、上述したフェノール化合物の前駆体である。第1の前駆体は、下記式(3)で示される、新規化合物である。
【化7】
上記化学式(3)において、R~Rは、それぞれ独立に、水素又は炭素数1~10の炭化水素基である。
【0028】
第1の前駆体を、上述した反応式(C)の反応における出発原料として用いることにより、上述した化学式(1)で表され、対応したR~Rを有するフェノール化合物を合成することができる。
【0029】
(フェノール化合物の第2の前駆体)
実施形態に係るフェノール化合物の第2の前駆体(以下、単に「第2の前駆体」と呼ぶ)は、上述したフェノール化合物の前駆体であるとともに、上述した第1の前駆体を合成するための前駆体である。
第2の前駆体は、下記式(4)で示される、新規化合物である。
【化8】
上記化学式(4)において、R、Rは、それぞれ独立に、水素又は炭素数1~10の炭化水素基である。
【0030】
第2の前駆体を、上述した反応式(B)の反応における出発原料として用いることにより、上述した化学式(3)で表される第1の前駆体を合成することができ、ひいては、上述した反応式(C)を経ることで、上述した化学式(1)で表され、対応したR、Rを有するフェノール化合物を合成することができる。
【0031】
(ポリフェニレンエーテル)
実施形態に係るポリフェニレンエーテルは、下記化学式(2)で示される末端構造を有する。
【化9】
化学式(2)において、R~Rは、それぞれ独立に、水素又は炭素数1~10の炭化水素基であり、「*」は連結部位を示す。
【0032】
実施形態に係るポリフェニレンエーテルは、化学式(2)で示される末端構造を有し、すなわち、分子鎖末端にスチリル基を有する。スチリル基はアリル基等と比較して架橋反応性が高い。そのため、分子鎖末端にスチリル基を有するポリフェニレンエーテルは優れた架橋反応性を有するため、硬化物とした場合の機械強度が向上し得る。
【0033】
上述したポリフェニレンエーテルは、直鎖構造のみを有しても、分岐構造を有してもよい。
【0034】
<ポリフェニレンエーテルの原料フェノール類>
本実施形態に係るポリフェニレンエーテルの原料フェノール類(以下、単に原料フェノール類とも言う)は、上述した化学式(1)で表されるフェノール化合物(以下、フェノール化合物Aと呼ぶ場合がある)を少なくとも含む。また、原料フェノール類は少なくとも下記条件1を満たすフェノール類をさらに含むことが好ましい。
【0035】
(条件1)
オルト位およびパラ位に水素原子を有する
【0036】
また、原料フェノール類は、その他のフェノール類を含んでいてもよい。
【0037】
以下、それぞれのフェノール類について説明する。
【0038】
以下に示す原料フェノール類としては主に1価のフェノール類を開示しているが、本開示の効果を阻害しない範囲で、原料フェノール類として多価のフェノール類を使用してもよい。
【0039】
<少なくとも条件1を満たすフェノール類>
少なくとも条件1を満たすフェノール類は、オルト位およびパラ位に水素原子を有する。
【0040】
また、少なくとも条件1を満たすフェノール類は、下記条件2を満たすものを含んでいてもよい。
【0041】
(条件2)
パラ位に水素原子を有し、不飽和炭素結合を含む官能基を有する
【0042】
なお、不飽和炭素結合は、特に断らない限り、エチレン性またはアセチレン性の炭素間
多重結合(二重結合または三重結合)を示す。不飽和炭素結合を含む官能基としては特に限定されないが、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基)、アルキニル基(例えば、エチニル基)、又は、(メタ)アクリルロイル基等が挙げられ、不飽和炭素結合を含む炭化水素基であることが好ましい。
【0043】
即ち、少なくとも条件1を満たすフェノール類は、(1)条件1のみを満たし条件2を満たさないフェノール類、(2)条件1及び条件2の両方を満たすフェノール類のいずれであってもよく、また、原料フェノール類がこれらのフェノール類を共に含んでいてもよい。
【0044】
条件1を満たすフェノール類は、オルト位にも水素原子を有するため、フェノール類と酸化重合される際に、イプソ位及びパラ位のみならず、オルト位においてもエーテル結合が形成され得るため、かかるフェノール類を原料フェノール類として用いて得られるポリフェニレンエーテルは分岐鎖状の構造を形成することが可能となる。
より具体的には、条件1を満たすフェノール類から得られるポリフェニレンエーテルは、その構造の一部が、少なくともイプソ位、オルト位、パラ位の3か所においてエーテル結合されたベンゼン環により分岐することとなる。
このように、骨格内に分岐構造を有するポリフェニレンエーテルを分岐構造ポリフェニレンエーテルと称する場合がある。分岐構造ポリフェニレンエーテルによれば、有機溶剤への優れた溶解性が得られる。
【0045】
また、条件2を満たすフェノール類は、不飽和炭素結合を含む官能基を有するため、かかるフェノール類を原料フェノール類として用いて得られるポリフェニレンエーテルはエチレン性またはアセチレン性の炭素間多重結合を含む官能基を有する。
より具体的には、条件2を満たすフェノール類から得られるポリフェニレンエーテルは、その構造の一部が、少なくともベンゼン環のメタ位又は2カ所のオルト位のいずれかに不飽和炭素結合を含む官能基を有することとなる。
【0046】
条件1のみを満たし条件2を満たさないフェノール類としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、o-エチルフェノール、m-エチルフェノール、2,3-キシレノール、2,5-キシレノール、3,5-キシレノール、o-tert-ブチルフェノール、m-tert-ブチルフェノール、o-フェニルフェノール、m-フェニルフェノール、2-ドデシルフェノール、等を挙げることができる。条件1を満たすフェノール類としては、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0047】
条件1及び条件2の両方を満たすフェノール類としては、o-ビニルフェノール、m-ビニルフェノール、o-アリルフェノール、m-アリルフェノール、3-ビニル-6-メチルフェノール、3-ビニル-6-エチルフェノール、3-ビニル-5-メチルフェノール、3-ビニル-5-エチルフェノール、3-アリル-6-メチルフェノール、3-アリル-6-エチルフェノール、3-アリル-5-メチルフェノール、3-アリル-5-エチルフェノール等を挙げることができる。条件1及び条件2を満たすフェノール類としては、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0048】
ポリフェニレンエーテルの合成において、原料フェノール類全量に対する、少なくとも条件1を満たすフェノール類の含有率は、1mol%以上、2mol%以上、3mol%以上、又は、5mol%以上であることが好ましく、また、50mol%以下、40mol%以下、30mol%以下、20mol%以下、又は、15mol%以下であることが好ましい。
【0049】
ポリフェニレンエーテルの合成において、原料フェノール類全量に対する、フェノール化合物Aの含有率は、1mol%以上、2mol%以上、3mol%以上、又は、5mol%以上であることが好ましく、また、50mol%以下、40mol%以下、30mol%以下、20mol%以下、又は、15mol%以下であることが好ましい。
【0050】
原料フェノール類全量を基準とした、条件1を満たすフェノール類の含有率(mol%)に対するフェノール化合物Aの含有率(mol%)の比率(フェノール化合物A/条件1を満たすフェノール類)は、0.1~10.0、0.2~5.0、又は、0.5~2.0であることが好ましい。
【0051】
なお、原料フェノール類として、少なくとも条件1を満たすフェノール類を用いることで、分岐構造を有するポリフェニレンエーテルを合成することができる。一方、少なくとも条件1を満たすフェノール類を用いないことで、直鎖構造であるポリフェニレンエーテルを合成することができる。
【0052】
<その他のフェノール類>
その他のフェノール類は、条件1を満たさず、且つ、フェノール化合物Aに該当しないフェノール類である。
【0053】
その他のフェノール類としては、例えば、(1)条件1を満たさず、条件2を満たし、且つ、フェノール化合物Aに該当しないフェノール類、(2)条件1及び条件2のいずれも満たさず、且つ、フェノール化合物Aに該当しないフェノール類が挙げられる。
【0054】
条件1を満たさず、条件2を満たし、且つ、フェノール化合物Aに該当しないフェノール類は、例えば、パラ位に水素原子を有し、いずれのオルト位にも炭化水素基を有し、炭化水素基の少なくも一方が不飽和炭素結合を含む官能基を有するフェノール類である。このようなフェノール類としては、2-アリル-6-メチルフェノール、2-アリル-6-エチルフェノール、2-アリル-6-フェニルフェノール、2-アリル-6-スチリルフェノール、2,6-ジビニルフェノール、2,6-ジアリルフェノール、2,6-ジイソプロペニルフェノール、2,6-ジブテニルフェノール、2,6-ジイソブテニルフェノール、2,6-ジイソペンテニルフェノール、2-メチル-6-スチリルフェノール、2-ビニル-6-メチルフェノール、2-ビニル-6-エチルフェノール等を挙げることができる。
【0055】
条件1及び条件2のいずれも満たさず、且つ、フェノール化合物Aに該当しないフェノール類は、例えば、パラ位に水素原子を有し、いずれのオルト位にも不飽和炭素結合を含まない炭化水素基を有するフェノール類である。このようなフェノール類としては、2,6-ジメチルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、2-メチル-6-エチルフェノール、2-エチル-6-n-プロピルフェノール、2-メチル-6-n-ブチルフェノール、2-メチル-6-フェニルフェノール、2,6-ジフェニルフェノール、2,6-ジトリルフェノール等が挙げられる。
【0056】
このように、パラ位に水素原子を有するフェノール類をその他のフェノール類として用いた場合、ベンゼン環のイプソ位及びパラ位においてエーテル結合が形成され直鎖状に重合することから分岐構造の割合の調整に有用であり、また、ポリフェニレンエーテルの分子量を調整しやすくなる。
【0057】
また、条件1及び条件2のいずれも満たさず、且つ、フェノール化合物Aに該当しないフェノール類としては、パラ位とオルト位に水素原子を有さず、不飽和炭素結合を含む官能基を有しないフェノール類も挙げられる。
このように、パラ位とオルト位のいずれにも水素原子を有しないフェノール類をその他のフェノール類として用いた場合、ポリフェニレンエーテルの重合反応が抑制され、ポリフェニレンエーテルの分子量を調整しやすくなる。
【0058】
その他のフェノール類は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0059】
ポリフェニレンエーテルの合成において、原料フェノール類全量に対するその他のフェノール類の含有率は、例えば、10mol%以上、20mol%以上、30mol%以上、40mol%以上、50mol%以上である。
【0060】
<ポリフェニレンエーテルの製造方法>
本実施形態のポリフェニレンエーテルは、使用する原料フェノール類や原料フェノール類の比率を前述したものとする以外は、公知のポリフェニレンエーテルの合成方法で製造することができる。例えば、国際公開WO2020/017570公報にて開示された合成方法にて製造することができる。
【0061】
<ポリフェニレンエーテルの物性/性質>
ポリフェニレンエーテルの重量平均分子量は、5,000~80,000であることが好ましく、8,000~60,000であることがより好ましく、10,000~40,000以下であることがより好ましい。
ポリフェニレンエーテルの数平均分子量は、5,000~20,000であることが好ましく、8,000~18,000であることがより好ましい。
【0062】
ポリフェニレンエーテルの分子量は、使用する原料フェノール類の種類にもよるが、合成時の反応温度や反応時間等を変更することで調整することが可能である。
本実施形態のポリフェニレンエーテルは、誘電特性に優れる。また、前述の通り本実施形態のポリフェニレンエーテルは、フェノール化合物Aを由来とするスチリル基を末端構造として有することにより、優れた架橋反応性を有するため、機械的強度にも優れる。
【0063】
(硬化性組成物)
硬化性組成物は、本実施形態に係るポリフェニレンエーテルを含む。
また、硬化性組成物は、その他の成分を含んでいてもよい。
【0064】
硬化性組成物におけるポリフェニレンエーテルの含有量は、硬化性組成物中の揮発成分と無機充填剤を除いた全量基準で、好ましくは50~90質量%であり、より好ましくは60~80質量%である。
【0065】
その他の成分としては、例えば、シリカ等の無機充填材、過酸化物、架橋型硬化剤、本実施形態に係るポリフェニレンエーテル以外のポリフェニレンエーテル、重合開始剤、マレイミド樹脂、スチレン系エラストマー等の樹脂及びポリマー成分、増感剤、接着助剤、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、密着剤、着色剤、繊維、シランカップリング剤、難燃性剤、セルロースナノファイバー、分散剤、熱硬化触媒、増粘剤、消泡剤、酸化防止剤、防錆剤、密着性付与剤等の添加剤が挙げられる。
【0066】
その他の成分は、用途等に応じて適宜選択すればよい。一例として、硬化性組成物が過酸化物を含む場合、硬化性組成物の架橋反応が促進され、硬化物の各種物性が向上しやすい。また、硬化性組成物が架橋型硬化剤を含む場合には、硬化物の低誘電特性や耐熱性等が向上しやすい。
【0067】
過酸化物としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ブチルハイドロパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ブテン、アセチルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、m-トルイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチレンパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、等が挙げられる。過酸化物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0068】
硬化性組成物中の過酸化物の含有量は、硬化性組成物中のポリフェニレンエーテルの含有量を100質量部とした場合に、0.1~10質量部であることが好ましく、1~5質量部であることがより好ましい。
【0069】
架橋型硬化剤としては、ジビニルベンゼンやジビニルナフタレンやジビニルビフェニルなどの多官能ビニル化合物;フェノールとビニルベンジルクロライドの反応から合成されるビニルベンジルエーテル系化合物;ジアリルフタレートやジアリルイソフタレートなどのスチレンモノマー,フェノールとアリルクロライドの反応から合成されるアリルエーテル系化合物;さらにトリアリルイソシアヌレート(以下、TAIC(登録商標))やトリアリルシアヌレートなどのトリアルケニルイソシアヌレートなどが挙げられる。中でも、ポリフェニレンエーテルとの相溶性が特に良好なトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレートが好ましい。架橋型硬化剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0070】
硬化性組成物中の架橋型硬化剤の含有量は、硬化性組成物中のポリフェニレンエーテルの含有量を100質量部とした場合に、1~100質量部であることが好ましく、10~80質量部であることがより好ましい。
【0071】
また、硬化性組成物は、溶剤を含むワニスの形態であってもよい。
溶剤としては、上述したポリフェニレンエーテルを溶解できる溶剤が好ましく、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、トルエン等の従来使用可能な溶剤の他、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(CA)、メチルエチルケトン、酢酸エチル等が好ましく使用される。これらは、1種のみが使用されてもよいし、2種以上が使用されてもよい。
【0072】
(ドライフィルム、プリプレグ)
ドライフィルムは、キャリアフィルム(支持フィルム)上に本開示の硬化性組成物からなる樹脂層を有する。ドライフィルムは、樹脂層を、基材に接するようにラミネートして使用される。
【0073】
ドライフィルムは、キャリアフィルム上に硬化性組成物をブレードコーター、リップコーター、コンマコーター、フィルムコーター等の適宜の方法により均一に塗布し、乾燥して、前述した樹脂層を形成し、好ましくはその上にカバーフィルム(保護フィルム)を積層することにより、製造することができる。カバーフィルムとキャリアフィルムは同一のフィルム材料であっても、異なるフィルムを用いてもよい。
【0074】
キャリアフィルム及びカバーフィルムのフィルム材料は、ドライフィルムに用いられるものとして公知のものをいずれも使用することができる。
【0075】
キャリアフィルムとしては、例えば、2~150μmの厚さのポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム等の熱可塑性フィルムが用いられる。
【0076】
カバーフィルムとしては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等を使用することができるが、樹脂層との接着力が、キャリアフィルムよりも小さいものが良い。
【0077】
ドライフィルム上の樹脂層の膜厚は、100μm以下が好ましく、5~50μmの範囲がより好ましい。
【0078】
プリプレグは、例えば、ガラスクロス等の基材に硬化性組成物を含浸させ、乾燥させることにより得られる。
【0079】
(硬化物)
硬化性組成物、又は硬化性組成物からなる樹脂層を有するドライフィルムを用いて、硬化物を製造することができる。
【0080】
硬化性組成物から硬化物を得るための方法は、特に限定されるものではなく、硬化性組成物の組成に応じて適宜変更可能である。
【0081】
例えば、以下のような方法により、硬化物を形成可能である。
前述したような基材上に硬化性組成物の塗工(例えば、アプリケーター等による塗工)した後、必要に応じて硬化性組成物を乾燥させる乾燥工程を実施し、基材上に樹脂層を形成する。或いは基材上にドライフィルムをラミネートして硬化性組成物からなる樹脂層を転写する。
次に、加熱(例えば、イナートガスオーブン、ホットプレート、真空オーブン、真空プレス機等による加熱)によりポリフェニレンエーテルを熱架橋させる熱硬化工程を実施して、樹脂層を硬化させる。
【0082】
各工程における実施の条件(例えば、塗工厚、乾燥温度および時間、加熱温度および時間等)は、硬化性組成物の組成や用途等に応じて適宜変更すればよい。
【0083】
(電子部品)
電子部品は、前述した本開示の硬化物を有するものであり、本開示の硬化物は、優れた誘電特性や耐熱性を有することから、電子部品を構成する材料として、種々の用途に使用可能である。
【0084】
その用途は特に限定されないが、好ましくは、第5世代通信システム(5G)に代表される大容量高速通信や自動車のADAS(先進運転システム)向けミリ波レーダー等の電子部品における絶縁材料が挙げられる。
【0085】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例0086】
以下、本発明を実施例および参考例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0087】
(フェノール化合物の合成)
100mL二口フラスコに、化学式Iで表される、2,6-ジメチルフェノール-4-ボロン酸ピナコールエステル(2.97g、0.0120mol)、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン(1.56g、0.0186mol)、p-トルエンスルホン酸ピリジニウム(0.301g、0.00120mol)、ジクロロメタン(40mL)を加えた。窒素置換し室温で21時間攪拌した。反応液を1%炭酸ナトリウム水溶液(100mL)で抽出し、シリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘプタン=1:4)で精製し、目的の無色透明のオイル(化学式IIで表される化合物)(2.55g、0.00767mol)を収率64%で得た。図1に化学式IIで表される化合物のH-NMR(CDCl、室温)スペクトルを示す。
【0088】
100mL二口フラスコに、化学式IIで表される化合物(2.020g、0.00627mol)、クロロメチルスチレン(1.388g、0.009093mol)、Pd(PPh(0.108g、0.0000936mol)、1,4-ジオキサン(40mL)、2M-炭酸ナトリウム水溶液(4.5mL)を加え窒素置換した。90℃で24時間、加熱攪拌し、TLCから反応の終了を確認した。得られた生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘプタン=1:6)で精製し、無色透明のオイルの3(0.947g、0.00294mol)を収率47%で得た。図2に化学式IIIで表される化合物のH-NMR(CDCl、室温)スペクトルを示す。
【0089】
100mLナスフラスコに、化学式IIIで表される化合物(1.471g、0.004560mol)とp-トルエンスルホン酸一水和物(0.088g、0.00047mol)、ジクロロメタン(40mL)を加え、室温で5時間攪拌した。反応の終了をTLCで確認した。水(100mL)で抽出し、乾燥後に有機溶剤を留去した。得られた褐色のオイル(0.652g)をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘプタン=1:3)で精製した。有機溶剤を留去することで、2,6-ジメチル-4-(4-ビニルベンジル)フェノール(0.975g、0.00409mol)を薄黄色のオイル状生成物(化学式IVで表されるフェノール化合物)として収率90%で得た。図3に化学式IVで表されるフェノール化合物のH-NMR(CDCl、室温)スペクトルを示す。
【化10】
【0090】
(ポリフェニレンエーテルの合成)
(実施例1)
原料フェノール類として、2,6-ジメチルフェノールと、2-アリルフェノールと、化学式IVで表されるフェノール化合物とを用いた。
反応容器として100mLの二口フラスコを使用し、2,6-ジメチルフェノール 3.61g(80mol%)と、2-アリルフェノール 0.507g(10mol%)と、化学式IVで表されるフェノール化合物 0.882g(10mol%)と、をトルエン28.92gに溶解させ原料溶液を調製した。さらに、ジ-μ-ヒドロキソ-ビス[(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]クロリド(Cu/TMEDA) 0.119g、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA) 0.131gとなるように調整し、反応液中に乾燥空気を17mL/minの流量で吹込みながら、攪拌速度350rpmにて攪拌、40℃で15時間反応させ、ポリフェニレンエーテルを含む反応液を得た。
反応液の加温、および、乾燥空気の吹込みを停止した後、ジ-μ-ヒドロキソ-ビス[(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]クロリド(Cu/TMEDA)を濾過にて取り除き、メタノール1,200mL、濃塩酸4.0mL、HO27.0mLの混合液で再沈殿させて減圧濾過にて取り出し、メタノールで洗浄後、80℃で24時間乾燥させ、実施例1に係るポリフェニレンエーテルを得た。図4に実施例1に係るポリフェニレンエーテルのH-NMR(CDCl、室温)スペクトルを示す。
【0091】
【表1】
【0092】
(参考例1)
原料フェノール類として、2,6-ジメチルフェノールと、2-アリルフェノールとを用いて、表1に示す製造条件とした以外は実施例1と同様に、参考例1に係るポリフェニレンエーテルを得た。図5に参考例1に係るポリフェニレンエーテルのH-NMR(CDCl、室温)スペクトルを示す。
【0093】
<分子量>
実施例1および参考例1のポリフェニレンエーテルについて、重量平均分子量(M)及び数平均分子量(M)を測定した。MおよびMの測定結果を表1に示す。
<数平均分子量当たりの末端反応基数>
まず、各試料についてH-NMR測定の結果から各原料フェノール類の重合比を算出し、スチリル基由来の構造を1とした場合の各原料フェノール類由来の繰り返し構造の重合比Xから、以下の式によりスチリル基当量の理論値を計算する。
【数1】
ここではXは原料フェノール類iの重合比、Wは原料フェノール類i由来の繰り返し単位構造分子量をそれぞれ表す。上記式にて得られたスチリル基当量で、GPC測定により得られた数平均分子量を除することで、数平均分子量当たりの末端反応基数を算出した。数平均分子量当たりの末端反応基数を表1に示す。
表1に示されるように、実施例1によれば、末端部に多くの末端反応基を導入することが可能である。なお、参考例1については、スチリル基を有していないため、数平均分子用当たりの末端反応基数を算出しなかった。
【0094】
(評価)
合成条件(反応時間等)を調整することで、参考例1と同等のモノマー構成であり、重量平均分子量が54,400である、参考例2に係るポリフェニレンエーテルを得た。
実施例1に係るポリフェニレンエーテル、及び、参考例2に係るポリフェニレンエーテルについて、誘電率及び引張特性について評価を行った。
【0095】
<硬化膜の製造>
各ポリフェニレンエーテル100質量部と、架橋型硬化剤(製品名「TAIC」、三菱ケミカル社製)50質量部と、過酸化物(製品名「パーブチルP40」、日本油脂社製)5質量部と、シクロヘキサノン(溶剤)350質量部とを混合し、樹脂組成物を調製した。
厚さ18μm銅箔のシャイン面に、乾燥後の膜厚が約20μmになるように各樹脂組成物を塗布し、熱風式循環式乾燥炉で90℃30分乾燥した。次いで、イナートオーブンで200℃、1hの条件で硬化した後、銅箔をエッチングすることで硬化膜(測定サンプル)を得た。
【0096】
<誘電率>
(測定方法)
測定サンプルを長さ80mm、幅45mmに切断したものを試験片として、SPDR(Split Post Dielectric Resonator)共振器法により比誘電率Dkおよび誘電正接Dfを測定した。測定器には、キーサイトテクノロジー合同会社製のベクトル型ネットワークアナライザE5071C、SPDR共振器、計算プログラムはQWED社製のものを用いた。条件は、周波数10GHz、測定温度25℃とした。
【0097】
(測定結果)
実施例1のポリフェニレンエーテルを用いて得られる硬化物のDk、Dfは、それぞれ、2.7、0.0026であった。
参考例2のポリフェニレンエーテルを用いて得られる硬化物のDk、Dfは2.7、0.0025であった。
以上の結果より、分岐構造を有するポリフェニレンエーテルの原料フェノール類として、化学式IVで表されるフェノール化合物を用いても、低誘電性を維持可能なことが示された。
【0098】
<引張特性>
(測定方法)
測定サンプルを長さ8cm、幅0.5cmに切り出し、破断伸び(引張破断伸び)および引張強度(引張破断強度)を下記条件にて測定した。なお、弾性率は、得られた応力ひずみ線図の応力が5MPaから10MPaにおけるひずみの傾きにより求めた。
[測定条件]
試験機:引張試験機EZ-SX(株式会社島津製作所製)
チャック間距離:50mm
試験速度:1mm/min
伸び計算:(引張移動量/チャック間距離)×100
【0099】
(測定結果)
実施例1のポリフェニレンエーテルを用いて得られる硬化物の弾性率は2.8GPaであり、破断伸びが5.2%であり、引張強度が86MPaであった。
これに対して、参考例2のポリフェニレンエーテルを用いて得られる硬化物の弾性率は2.5GPaであり、破断伸びが3.5%であり、引張強度が81MPaであった。
以上の結果より、分岐構造を有するポリフェニレンエーテルの原料フェノール類として、化学式IVで表されるフェノール化合物)を用いることにより、機械強度、特に破断伸びを向上可能なことが示された。
図1
図2
図3
図4
図5