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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025066392
(43)【公開日】2025-04-23
(54)【発明の名称】光線路特性解析装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 11/00 20060101AFI20250416BHJP
   H04B 10/071 20130101ALI20250416BHJP
   H04B 10/272 20130101ALN20250416BHJP
【FI】
G01M11/00 Q
H04B10/071
H04B10/272
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023175939
(22)【出願日】2023-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】高橋 央
(72)【発明者】
【氏名】古敷谷 優介
(72)【発明者】
【氏名】水野 洋輔
【テーマコード(参考)】
2G086
5K102
【Fターム(参考)】
2G086BB01
5K102AA41
5K102AL08
5K102LA06
5K102LA13
5K102LA22
5K102LA53
5K102PH49
5K102PH50
5K102RB02
(57)【要約】
【課題】本開示は、光線路の損失分布を測定するための光線路特性解析装置において、BFSにばらつきがある被測定光線路においても空間分解能の向上を可能にすることを目的とする。
【解決手段】本開示は、被測定光線路の特定地点が含まれる第1の領域及び前記第1の領域のうちの前記特定地点を除く第2の領域を測定した複数のブリルアン散乱の測定結果を取得し、前記複数のブリルアン散乱の測定結果を用いて、前記特定地点での損失分布を算出する、線路特性解析装置である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定光線路の特定地点が含まれる第1の領域及び前記第1の領域のうちの前記特定地点を除く第2の領域を測定した複数のブリルアン散乱の測定結果を取得し、
前記複数のブリルアン散乱の測定結果を用いて、前記特定地点での損失分布を算出する、
光線路特性解析装置。
【請求項2】
前記複数のブリルアン散乱の測定結果は、前記第1の領域及び前記第2の領域でのブリルアン利得であり、
前記第1の領域及び前記第2の領域でのブリルアン利得の差分を算出することで、前記特定地点での損失分布を算出する、
請求項1に記載の光線路特性解析装置。
【請求項3】
前記被測定光線路のブリルアン周波数シフトの距離方向の周波数変化量より広い帯域幅のポンプ光を生成可能な第1の光周波数変調部と、
前記ポンプ光をパルス化することで、ポンプ光パルスを生成する第1の光パルス化部と、
前記ポンプ光と周波数が異なるプローブ光を生成する第2の光周波数変調部と、
前記プローブ光をパルス化することで、プローブ光パルスを生成する第2の光パルス化部と、
前記第1及び第2の光パルス化部に対し、前記ポンプ光パルス及び前記プローブ光パルスを発生させるタイミングを制御することで、前記ポンプ光パルス及び前記プローブ光パルスが発生される時間差を制御するタイミング調整部と、
前記ポンプ光パルス及びプローブ光パルスを合波する光合波器と、
前記合波した光パルスが前記被測定光線路において反射された戻り光を受光して電気信号へ変換する光受信部と、
前記光受信部で得られた信号に基づいて前記被測定光線路のブリルアン利得を取得するブリルアン散乱信号解析部と、
パルス幅の異なる前記ポンプ光パルスで取得した前記第1の領域及び前記第2の領域でのブリルアン利得に基づいて、前記特定地点での損失分布を算出する差動パルス解析部と、
を備える請求項1に記載の光線路特性解析装置。
【請求項4】
前記第1の光パルス化部は、第1のパルス幅及び第2のパルス幅のポンプ光パルスを発生させ、
前記第1のパルス幅は前記第2のパルス幅よりも広く、
前記光受信部は、前記第1のパルス幅のポンプ光パルスが前記被測定光線路において反射された第1の戻り光、及び前記第2のパルス幅のポンプ光パルスが前記被測定光線路において反射された第2の戻り光を受光し、
前記ブリルアン散乱信号解析部は、前記第1の戻り光から得られた信号に基づいて前記第1の領域のブリルアン利得を取得し、前記第2の戻り光から得られた信号に基づいて前記第2の領域のブリルアン利得を取得する、
請求項3に記載の光線路特性解析装置。
【請求項5】
前記タイミング調整部は、
ブリルアン周波数シフトの生じる時間が前記第1のパルス幅のパルス持続時間のうちの後方に配置されるように、前記ポンプ光パルス及び前記プローブ光パルスの周波数差とブリルアン周波数シフトとが一致する時間を調整し、
前記第2のパルス幅のポンプ光パルス及びプローブ光の周波数差を、前記第1のパルス幅のパルス持続時間における前方の周波数差に一致させる、
請求項4に記載の光線路特性解析装置。
【請求項6】
前記被測定光線路は、前記光線路特性解析装置に接続されている基幹光ファイバ、前記基幹光ファイバに接続されている光スプリッタ、前記光スプリッタを用いて分岐された複数の分岐光ファイバ、を含み、
前記タイミング調整部は、前記分岐光ファイバの遠端で反射されたプローブ光パルスが当該分岐光ファイバ中でポンプ光パルスと衝突するように、前記ポンプ光パルス及び前記プローブ光パルスが発生する時間差を制御する、
請求項4に記載の光線路特性解析装置。
【請求項7】
光線路特性解析装置が実行する光線路特性解析方法であって、
被測定光線路の特定地点が含まれる第1の領域及び前記第1の領域のうちの前記特定地点を除く第2の領域を測定した複数のブリルアン散乱の測定結果を取得し、
前記複数のブリルアン散乱の測定結果を用いて、前記特定地点での損失分布を算出する、
光線路特性解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光線路の損失分布を測定するための光線路特性解析装置とその解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FTTH(Fiber To The Home)の主流は、通信ビルからユーザ宅の間に光スプリッタが接続されているPON(Passive Optical Network)である。PONの構築時や保守時において、光線路の正常/異常の確認や光線路の故障を検出し、または故障位置を特定する技術が重要である。光スプリッタで分岐された分岐光ファイバの損失分布を個別に取得する方法として、遠端反射ブリルアン利得解析法(ERA-BOTDR:End reflection assisted Brillouin Optical Time Domain Reflectometry)が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
分岐光ファイバの測定においては、8分岐スプリッタ(以下、8SPと略記する場合がある。)などの大きな損失の先を測定できること、フィールドでのブリルアン周波数シフト(以下、BFSと略記する場合がある。)のばらつきを考慮せず測定できること、の両方が重要である。これを両立する方法として、Frequency Swept Pump Pulseを用いたERA-BOTDRが提案されている(例えば、非特許文献2参照。)。非特許文献2では、周波数掃引によるBFSの補償と、音響波のプリポンプ効果を利用する。
【0004】
しかし、Frequency Swept Pump Pulseでは8SPなどの大きな損失イベントの先にデッドゾーンが存在し、分岐光ファイバの損失イベントを正しく測定できない場合があった。空間分解能を向上させる手法として、差動ダブルパルスを用いた方法(非特許文献3)が提案されているが、BFSにばらつきがある被測定光線路ではポンプ光とプローブ光との周波数差を変更しながら測定しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6461746号公報(NTT)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H. Takahashi, F. Ito, C. Kito, and K. Toge, “Individual loss distribution measurement in 32-branched PON using pulsed pump-probe Brillouin analysis,” Optics Express, vol. 21, no. 6, pp. 6739-6748 (2013).
【非特許文献2】H. Takahashi, K. Toge, C. Kito and T. Manabe, “Brillouin-based PON monitoring with efficient compensation of gain profile variation using frequency-swept pump pulse,” Journal of Lightwave Technology, vol. 35, no. 12, pp. 2358-2365 (2017).
【非特許文献3】W. Li, X. Bao, Y. Li, and L. Chen, “Differential pulse-width pair BOTDA for high spatial resolution sensing,” Optics Express,vol. 16, no. 26, pp. 21616-21625 (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、光線路の損失分布を測定するための光線路特性解析装置において、BFSにばらつきがある被測定光線路においても空間分解能の向上を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の光線路特性解析装置は、本開示の光線路特性解析方法を実行する。
本開示の光線路特性解析方法では、本開示の光線路特性解析装置が、
被測定光線路の特定地点が含まれる第1の領域及び前記第1の領域のうちの前記特定地点を除く第2の領域を測定した複数のブリルアン散乱の測定結果を取得し、
前記複数のブリルアン散乱の測定結果を用いて、前記特定地点での損失分布を算出する。
【0009】
前記複数のブリルアン散乱の測定結果は、前記第1の領域及び前記第2の領域でのブリルアン利得であってもよい。この場合、光線路特性解析装置は、前記第1の領域及び前記第2の領域でのブリルアン利得の差分を算出することで、前記特定地点での損失分布を算出する。これにより、本開示は、クロストークの影響を除去した損失分布を得ることができる。
【0010】
本開示の光線路特性解析装置は、
前記被測定光線路のブリルアン周波数シフトの距離方向の周波数変化量より広い帯域幅のポンプ光を生成可能な第1の光周波数変調部と、
前記ポンプ光をパルス化することで、ポンプ光パルスを生成する第1の光パルス化部と、
前記ポンプ光と周波数が異なるプローブ光を生成する第2の光周波数変調部と、
前記プローブ光をパルス化することで、プローブ光パルスを生成する第2の光パルス化部と、
前記第1及び第2の光パルス化部に対し、前記ポンプ光パルス及び前記プローブ光パルスを発生させるタイミングを制御することで、前記ポンプ光パルス及び前記プローブ光パルスが発生される時間差を制御するタイミング調整部と、
前記ポンプ光パルス及びプローブ光パルスを合波する光合波器と、
前記合波した光パルスが前記被測定光線路において反射された戻り光を受光して電気信号へ変換する光受信部と、
前記光受信部で得られた信号に基づいて前記被測定光線路のブリルアン利得を取得するブリルアン散乱信号解析部と、
パルス幅の異なる前記ポンプ光パルスで取得した前記第1の領域及び前記第2の領域でのブリルアン利得に基づいて、前記特定地点での損失分布を算出する差動パルス解析部と、
を備えていてもよい。
【0011】
前記第1の光パルス化部は、第1のパルス幅及び第2のパルス幅のポンプ光パルスを発生させてもよい。前記第1のパルス幅は前記第2のパルス幅よりも広い。この場合、前記光受信部は、前記第1のパルス幅のポンプ光パルスが前記被測定光線路において反射された第1の戻り光、及び前記第2のパルス幅のポンプ光パルスが前記被測定光線路において反射された第2の戻り光を受光する。そして、前記ブリルアン散乱信号解析部は、前記第1の戻り光から得られた信号に基づいて前記第1の領域のブリルアン利得を取得し、前記第2の戻り光から得られた信号に基づいて前記第2の領域のブリルアン利得を取得する。
【0012】
前記タイミング調整部は、ブリルアン周波数シフトの生じる時間が前記第1のパルス幅のパルス持続時間のうちの後方に配置されるように、前記ポンプ光パルス及び前記プローブ光パルスの周波数差とブリルアン周波数シフトとが一致する時間を調整し、前記第2のパルス幅のポンプ光パルス及びプローブ光の周波数差を、前記第1のパルス幅のパルス持続時間における前方の周波数差に一致させてもよい。
【0013】
前記被測定光線路は、前記光線路特性解析装置に接続されている基幹光ファイバ、前記基幹光ファイバに接続されている光スプリッタ、前記光スプリッタを用いて分岐された複数の分岐光ファイバ、を含んでいてもよい。前記タイミング調整部は、前記分岐光ファイバの遠端で反射されたプローブ光パルスを当該分岐光ファイバ中でポンプ光パルスと衝突するように、前記ポンプ光パルス及び前記プローブ光パルスが発生する時間差を制御する。
【0014】
なお、上記各開示は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、光線路の損失分布を測定するための光線路特性解析装置において、BFSにばらつきがある被測定光線路においても空間分解能の向上を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態の光線路特性解析装置の構成を示すブロック図である。
図2】本開示のポンプ光パルス及びプローブ光パルスの一例を示す説明図である。
図3】ポンプ光パルス及びプローブ光パルスの周波数特性の一例を示す。
図4】被測定光線路の構成例を示す。
図5】光受信部で受信される信号強度の一例を示す。
図6】第1の測定の測定で得られるブリルアン音響波の強度の一例を示す。
図7】第2の測定の測定で得られるブリルアン音響波の強度の一例を示す。
図8】パルス幅の広い第1の測定の測定時におけるポンプ光パルス及びプローブ光パルスの周波数特性の一例を示す。
図9】パルス幅の狭い第2の測定の測定時におけるポンプ光パルス及びプローブ光パルスの周波数特性の一例を示す。
図10】本開示の光線路特性解析方法の一例を示す。
図11】大きな損失が存在するときの損失分布の一例を示す。
図12】ブリルアン散乱に生じるクロストークの説明図である。
図13】損失発生前後における測定可能な範囲の一例を示す。
図14】分岐光ファイバ23#2を測定する際に用いたポンプ光パルスの説明図であり、(a)は比較例を示し、(b)は本開示の実施例を示す。
図15】本開示の比較例に係る損失測定結果である。
図16】本開示の実施例に係る損失測定結果である。
図17】光線路特性解析装置が行う被測定光線路の損失測定の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0018】
[構成]
図1は、本実施形態の光線路特性解析装置の構成を示すブロック図である。光線路特性解析装置91は、被測定光線路92における特定地点での損失分布を測定する光線路特性解析装置である。本実施形態では、光線路特性解析装置91が、光周波数変調部11-1及び11-2、光源12-1及び12-2、タイミング調整部13、パルス発生器14-1及び14-2、光パルス化部15-1及び15-2、光合波器16、光分岐部17、光受信部18、演算処理部19を備える例を示す。
【0019】
光周波数変調部11-1は、第1の光周波数変調部として機能し、光源12-1からの連続光を線形周波数変調する。光パルス化部15-1は、第1の光パルス化部として機能し、光周波数変調部11-1からの連続光を、パルス発生器14-1からのパルスに合わせてパルス化する。これにより、ポンプ光パルスが生成される。
【0020】
光周波数変調部11-2は、第2の光周波数変調部として機能し、光源12-2からの連続光をポンプ光と異なる周波数で線形周波数変調する。光パルス化部15-2は、第2の光パルス化部として機能し、光周波数変調部11-2からの連続光をパルス化する。これにより、プローブ光パルスが生成される。
【0021】
光合波器16は、ポンプ光パルスとプローブ光パルスを合波する。光分岐部17は、光合波器16からの合波光を被測定光線路92に入射させる。被測定光線路92での後方散乱光は、光分岐部17から光受信部18に出力される。これにより、被測定光線路92での後方散乱光が光受信部18で受信される。
【0022】
タイミング調整部13は、パルス発生器14-1及び14-2におけるパルスの発生タイミング及びパルス幅を調整する。これにより、タイミング調整部13は、ポンプ光パルス及びプローブ光パルスの発生タイミング及びパルス幅を調整する。本実施形態では、パルス幅がτp1及びτp2のポンプ光パルスを用いる。パルス幅τp1はパルス幅τp2よりも広い。すなわちパルス幅τp1は本開示の「第1のパルス幅」であり、パルス幅τp2は本開示の「第2のパルス幅」である。本実施形態ではパルス幅τp1を広いパルス幅τp1、パルス幅τp2を狭いパルス幅τp2と呼ぶことがある。
【0023】
本開示の光線路特性解析装置91は、以下の2種の測定を行う。
(i)第1の測定:パルス発生器14-1でパルス幅τp1のパルスを発生させ、パルス発生器14-2でパルス幅τのパルスを発生させる。これにより、図2(a)に示すように、パルス幅τp1のポンプ光パルスPp、及びパルス幅τのプローブ光パルスPr、が順に生成される。
(ii)第2の測定:パルス発生器14-1でパルス幅τp2のパルスを発生させ、パルス発生器14-2でパルス幅τのパルスを発生させる。これにより、図2(b)に示すように、パルス幅τp2のポンプ光パルスPp、及びパルス幅τのプローブ光パルスPr、が順に生成される。
【0024】
図3に、ポンプ光パルス及びプローブ光パルスの周波数特性の一例を示す。光周波数変調部11-1は、ポンプ光パルスの周波数を線形に掃引する。一方、プローブ光パルスについては、光周波数変調部11-2を用いた周波数掃引も可能であるが、本実施形態では発明の理解が容易になるよう、光周波数変調部11-2における周波数が一定であり、プローブ光パルスが単一周波数である例について説明する。
【0025】
図4に、本実施形態の被測定光線路92の構成例を示す。光線路特性解析装置91に接続されている基幹光ファイバ21が光スプリッタ22で複数の分岐光ファイバ23#1及び23#2に分岐されている。各分岐光ファイバ23#1及び23#2の遠端には反射型光フィルタ24#1及び24#2が設置されている。反射型光フィルタ24#1は光線路特性解析装置91から距離Lの位置に設置され、反射型光フィルタ24#2は光線路特性解析装置91から距離Lの位置に設置されている。
【0026】
タイミング調整部13は、分岐光ファイバ23#1及び23#2の遠端で反射されたプローブ光パルスが当該分岐光ファイバ中でポンプ光パルスと衝突するように、ポンプ光パルス及びプローブ光パルスが発生する時間差を制御する。このとき、被測定光線路92に光合波器16からの合波光が入射されると、反射型光フィルタ24#1で反射したプローブ光パルスが分岐光ファイバ23#1においてポンプ光パルスと衝突することでブリルアン散乱が発生する。分岐光ファイバ23#2などの他の分岐光ファイバ23においても同様に、ブリルアン散乱が発生する。これにより、図5に示すように、分岐光ファイバ23#1からの戻り光パルスS#1と、分岐光ファイバ23#2からの戻り光パルスS#2と、が光受信部18で受信される。戻り光パルスは、ブリルアン音響波の時間積分に依存して信号強度が決まる。
【0027】
本実施形態では、第1の測定によって被測定光線路92の第1の領域を測定し、第2の測定によって被測定光線路92の第2の領域を測定する。例えば、光受信部18は、第1の測定によって被測定光線路92において反射された第1の戻り光を受光する。また光受信部18は、第2の測定によって被測定光線路92において反射された第2の戻り光を受光する。ブリルアン散乱信号解析部19Aは、第1の戻り光から得られた信号に基づいて第1の領域のブリルアン利得を取得し、第2の戻り光から得られた信号に基づいて第2の領域のブリルアン利得を取得する。
【0028】
図6及び図7に、分岐光ファイバ23#2における第1の領域及び第2の領域を測定した複数のブリルアン散乱の測定結果の一例を示す。図6は時間t=0で示される相互作用の強い特定地点が含まれる第1の領域でのブリルアン散乱の測定結果の一例である。図6に示す第1の領域は、400nsの広いパルス幅τp1を、図8に示すように線形に周波数掃引したときのブリルアン音響波を示す。図7は、第1の領域のうちの前記特定地点を除く第2の領域でのブリルアン散乱の測定結果の一例である。図7に示す第2の領域は、200nsの狭いパルス幅τp2を、図9に示すように線形に周波数掃引したときのブリルアン音響波を示す。
【0029】
演算処理部19は、本開示の光線路特性解析方法を実行する。
具体的には、図10に示すように、
ブリルアン散乱信号解析部19Aが広いパルス幅τp1のポンプ光パルスで測定された図6に示すブリルアン利得B1を算出し(S11)、
ブリルアン散乱信号解析部19Aが狭いパルス幅τp2のポンプ光パルスで測定された図7に示すブリルアン利得B2を算出し(S12)、
差動パルス解析部19Bがブリルアン利得B1及びB2の差分を算出する(S13)。差動パルス解析部19Bは、この差分を用いて、時間t=0の特定地点を含む領域での損失分布を算出する。
【0030】
本実施形態では、第2の領域は第1の領域のうちの一部の領域Aである。手順S13において、第1の領域のブリルアン散乱の測定結果から第2の領域Aのブリルアン散乱の測定結果を減算することで、第1の領域A及びAのうちの第2の領域Aとは異なる領域Aでのブリルアン利得を導出する。これにより、相互作用の強い時間t=0付近のブリルアン散乱特性を取得することができる。
【0031】
ポンプ光及びプローブ光の周波数差とBFSとが一致する時間を調整することで、強く相互作用が起こる時間を調整することができる。ポンプ光及びプローブ光の周波数差とBFSとが一致する時間は、例えば、図3に示すΔtを調整することで調整することができる。Δtは、ポンプ光パルスのパルス持続時間の最終時点からプローブ光パルスのパルス持続時間の最終時点までの時間である。
【0032】
本実施形態では、広いパルス幅τp1のポンプ光パルスを生成するときに、図3に示すΔtを調整することで、図6に示すように、BFSの生じる時間t=0を400nsのパルス持続時間のうちの後方に配置し、-300nsから100nsのブリルアン利得の分布として測定する。そして、狭いパルス幅τp2のポンプ光パルスを用いて、図7に示すように、-300nsから-100nsのブリルアン利得の分布を測定する。これにより、手順S13において、相互作用の強い-100nsから100nsのブリルアン散乱特性を取得することができる。
【0033】
このように、本実施形態では、ブリルアン周波数シフトの生じる時間が広いパルス幅τp1のパルス持続時間のうちの後方に配置されるようにΔtを調整し、広いパルス幅τp1でのブリルアン利得を測定する。そして、狭いパルス幅τp2のポンプ光パルス及びプローブ光の周波数差を、広いパルス幅τp1のパルス持続時間における前方の周波数差に一致させる。
【0034】
ここで、200nsのパルス幅は、光ファイバ中では約20m区間の情報に相当する。そのため、狭いパルス幅τp2でのブリルアン利得を測定する際、ブリルアン利得の測定地点を、広いパルス幅τp1でのブリルアン利得の測定地点よりも10m手前に設定してもよい。
【0035】
なお、ポンプ光とプローブ光の入射時間差(図3に示すΔt)を変更して演算することで、分布測定も可能である。具体的な測定手順は特許文献1と同様である。さらに、手順S11及びS12はどちらを先に実行してもよい。
【0036】
ここで、デッドゾーンについて説明する。8分岐スプリッタなどの大きな損失(ここではX=10dB)では、図11に示す●のように、理想的には距離0で急峻に変化する。しかし、測定信号は○のように、-δzからδzでも変化するような空間分解能が低い信号が測定される。これは、光パルスが空間的な広がりを持っていること、及びブリルアン散乱がクロストークとなることが原因と考えられている。このクロストークは、図12(a)に示すような距離z=-δzでXdBの損失を受けた後のブリルアン散乱、図12(b)に示すような距離z=δzでXdBの損失を受ける前のブリルアン散乱、のいずれにおいても生じうる。
【0037】
(損失測定結果)
図13に、図4に示す分岐光ファイバ23#2を測定した結果の一例を示す。この際、距離1050nm付近に光スプリッタ22を接続し、分岐光ファイバ23#2の光スプリッタ22から3mのところに曲げを設けた。また光周波数変調部11-1における周波数掃引速度γを1.0[PH/s]とした。
【0038】
本開示では、比較のため、図14(a)に示すような、ポンプ光周波数の全周波数変調帯域幅400nmのうちの中間地点で強く相互作用が起こる領域を設定した。比較例では、図13に示す破線のように、距離0mから距離25mまでに損失イベントがあっても、その損失を測定できず、デッドゾーンとなる。そのため、図15に示すように、距離1030nmから1080nmまでのなだらかな損失分布となり、曲げの損失イベントが光スプリッタ22のデッドゾーンに埋もれていることが分かる。
【0039】
一方、本開示では、図14(b)に示すような、400nmのパルス幅τp1を用いてブリルアン利得B1を測定し、200nmのパルス幅τp2を用いてブリルアン利得B2を測定し、これらの差分を算出する処理を、被測定光線路92における地点ごとに行った。これにより、図16に示すように、1060m付近で曲げによる5dBの損失が測定できていることが分かる。
【0040】
[測定条件について]
プローブ光およびポンプ光は次の条件を満足する必要がある。
第1の条件:ポンプ光の変調周波数帯域幅は、被測定光線路に想定されるBFS変化量の距離方向の周波数変化量と同等、またはそれ以上であること。
第2の条件:プローブ光パルスのパルス幅τは、分岐光ファイバの終端の反射型光フィルタ24からの戻り光の時間差2nΔL/cより狭いこと。
第3の条件:光受信部18の帯域及びブリルアン散乱信号解析部19AにおけるA/D変換の帯域は、パルス幅τp1及びτp2を受光可能な帯域であること。
第4の条件:分岐光ファイバ23#1及び23#2から戻ったプローブ光パルスが光スプリッタで重ならないこと。
【0041】
(第1の条件)
第1の条件は、プローブ光パルスとポンプ光パルスとが誘導ブリルアン散乱を、被測定光線路中の全ての距離で起こすために必要となる条件である。つまり、光周波数変調部11-1は、設定ブリルアン周波数シフトfを線形に変動させる線形変動範囲が、前記被測定光線路において測定対象とするブリルアン周波数シフト分布幅に相当する測定対象周波数範囲以上であることを特徴とする。
【0042】
図17は、光線路特性解析装置91が行う被測定光線路92の損失測定の概念図である。図17(a)は、プローブ光の周波数を変調せず、ポンプ光のみ線形に周波数変調した場合のポンプ光とプローブ光との光周波数差について説明する図である。図17(b)は被測定光線路92の位置によってブリルアン散乱の光周波数が異なることを説明する図である。ポンプ光とプローブ光の周波数差は図17(b)の網掛けで示したように、被測定光線路92の長手方向で異なるBFSを取得することになる。このとき、得られたブリルアン利得は、常にブリルアン利得のピークを取得することになるため、無駄なくブリルアン利得を取得することが可能である。
【0043】
ブリルアン散乱の光周波数は光線路にかかる引っ張り歪みや温度変化等で異なるため、光周波数変調部11-1は、ポンプ光の周波数掃引幅を測定対象のBFS範囲をカバーできる範囲に設定する。また、異なるBFSの被測定光線路92が接続された場合においても、ポンプ光の周波数掃引幅を想定されるBFS範囲以上に設定することで、ブリルアン利得のピークを取得することが可能である。
【0044】
なお、本実施形態において、ポンプ光のみを周波数掃引した場合を示したが、本原理においては、ポンプ光とプローブ光の光周波数差が距離に対して変化していればよく、ポンプ光とプローブ光の一方、または両方を周波数掃引しても構わない。
【0045】
(第2の条件)
第2の条件は、分岐光ファイバ23毎の誘導ブリルアン散乱光が重ならないようにするための条件である。プローブ光パルスのパルス幅τが各分岐光ファイバ23の終端の反射型光フィルタ24からの戻り光の時間差の最小値より広いとき、分岐光ファイバ23毎の誘導ブリルアン散乱光が重なる。これにより、分岐光ファイバ23毎の誘導ブリルアン散乱光を時間的に切り分けることができなくなる。ただし、分岐がない場合(N=1)はこれに該当しない。また、分岐光ファイバ23が3以上ある場合、予め分岐光ファイバ23の長さの差のうち最小の差ΔLminを検出しておき、パルス発生器14-2は、プローブ光パルスのパルス幅τを2nΔLmin/cより狭く設定する。ΔLminは、被測定光ファイバに含まれる各分岐光ファイバの長さの差の最小値である。nは、光ファイバの屈折率である。cは、真空中の光速である。
【0046】
(第3の条件)
第3の条件は、パルス幅τp1及びτp2の光パルスを正確に測定するための条件である。すなわち、光受信部18の帯域、及びブリルアン散乱信号解析部19AにおけるA/D変換器の帯域は、1/τp1、1/τp2及び1/τより広い必要があることを意味する。
【0047】
(第4の条件)
第4の条件は、分岐光ファイバ23#1及び23#2から戻ったプローブ光パルスが光スプリッタで重ならないための条件である。プローブ光パルスが光受信部18に到達する時間をtdaとする。プローブ光パルスは、分岐光ファイバ23の終端の反射型光フィルタ24(#a)により反射され、光受信部18へ戻ってくる。そのため、到達時間tdaは、式(11)で表される。
(数11)
da=2nL/c (11)
ただし、Lは光線路特性解析装置91から反射型光フィルタ24(#a)までの距離である。
【0048】
ここで、他の分岐光ファイバ23(#b)(1≦b≦Nの整数、ここではN=2)から戻ってきたプローブ光パルスが光受信部18に到達する時間tdbは、式(12)で表される。
(数12)
db=2nL/c (12)
ただし、Lは光線路特性解析装置91から反射型光フィルタ24(#b)までの距離である。
【0049】
よって、光受信部18に戻る時間差は、式(13)で表される。
(数13)
|tda-tdb|=2n|L-L|/c (13)
【0050】
≠Lのとき、光受信部18に到達する時間が異なる。このため、プローブ光パルスのパルス幅をτとすると、次式が成立することが条件となる。
(数14)
τ≦|tda-tdb| (14)
【0051】
[測定方法]
続いて、上記の条件を満足する測定方法を説明する。本開示の測定方法は、ポンプ光パルスとプローブ光パルスとを伝搬させ、前記被測定光線路の特性を解析する光線路特性解析方法であって、
前記プローブ光パルスと前記ポンプ光パルスとの光周波数差である設定ブリルアン周波数シフトfを線形に変動する光周波数差掃引ステップと、
前記プローブ光パルスを発生し、前記プローブ光パルスを前記被測定光線路に入射するプローブ光パルス入射ステップと、
前記プローブ光パルス入射ステップ後に、前記ポンプ光パルスを発生し、前記プローブ光パルスが入射された所定時間後に前記ポンプ光パルスを前記被測定光線路に入射するポンプ光パルス入射ステップと、
前記ポンプ光パルス入射ステップの後、前記被測定光線路からの戻り光パルスを前記光スプリッタを介して受光し、電気信号に変換する戻り光受光ステップと、
前記戻り光受光ステップで変換した前記電気信号から前記所定時間におけるブリルアン利得を取得するブリルアン利得取得ステップと、
前記所定時間を変化させて取得したブリルアン利得から前記被測定光線路の距離に対する損失分布を取得する特性解析ステップと、
を行う。
【0052】
ここで、前記光周波数差掃引ステップでは、
設定ブリルアン周波数シフトfを線形に変動させる線形変動範囲が、前記被測定光線路において測定対象とするブリルアン周波数シフト分布幅に相当する測定対象周波数範囲以上であり、
前記線形変動範囲の最小光周波数と前記測定対象周波数範囲の最小光周波数との周波数差より前記線形変動範囲の最大光周波数と前記測定対象周波数範囲の最大光周波数との周波数差の方が小さくなるように、前記測定対象周波数範囲を前記線形変動範囲に配置すること、
を特徴とする。
【0053】
また、前記被測定光線路92が、1つの基幹光線路と複数の分岐光ファイバとを光スプリッタで接続する構造である場合に、
前記プローブ光パルス入射ステップの前に、前記分岐光ファイバの長さの差のうち最小の差ΔLminを検出する光路長差検出ステップを行い、
前記プローブ光パルス入射ステップで、前記プローブ光パルスのパルス幅を2nΔLmin/cより狭く設定することを特徴とする。
【0054】
まず、光線路特性解析装置91は、プローブ光パルスを被測定光線路92へ入射させる。そして、光線路特性解析装置91は、プローブ光パルスを入射してt秒後に、ポンプ光パルスを被測定光線路92へ入射する。
【0055】
被測定光線路92に入射されたプローブ光パルスとポンプ光パルスとは、光スプリッタ22によりN(例えば、N=8)個に分岐される。
【0056】
(a)線形掃引ポンプ光によるブリルアン利得
プローブ光とポンプ光との周波数差がブリルアン周波数シフトfと一致する場合、プローブ光パルスとポンプ光パルスとがインタラクションすると、プローブ光パルスはブリルアン増幅される。線形掃引したポンプ光を用い、周波数帯域幅が想定されるBFS範囲より広い場合、プローブ光とポンプ光の周波数差がfとなる距離zが必ず存在する。つまり、平均化するすべての測定において、常にブリルアン利得ピークを得ることが可能になり、平均測定化後において大きなブリルアン利得を得ることが可能である。
【0057】
(b)線形掃引ポンプ光の周波数掃引速度γと損失分布測定の性能
(b-1)感度
線形掃引ポンプ光において、周波数掃引速度γが小さい場合、ブリルアン利得のピーク近傍を長い時間測定することになり、得られるブリルアン利得は大きくなる。周波数掃引速度γが大きい場合には、ブリルアン利得帯域幅を短い時間しか測定されないため、得られるブリルアン利得は小さくなる。つまり、周波数掃引速度γは小さいほど損失分布測定の感度は良くなる。
【0058】
(b-2)空間分解能
線形掃引ポンプを用いた場合、プローブ光とポンプ光の周波数差がf近傍でのみブリルアン利得を得るため、空間分解能はポンプ光のパルス幅ではなく、ポンプ光の周波数変調の周波数掃引速度γで決まる。そのため、ポンプ光パルス幅は空間分解能に相当する時間幅と同等かそれ以上でよい。空間分解能として、(1)BFSの異なる光ファイバが接続された点での空間分解能と(2)損失発生地点における空間分解能を評価する必要がある。
【0059】
(b-2-1)BFSの異なる光ファイバが接続された点での空間分解能
BFSの異なる光ファイバが接続された点において、ブリルアン利得を得る位置が異なる。このときの空間分解能Δzは、次式で表される。
(数1)
Δz=ν(|fB1-fB2|+ΔfB1+ΔfB2)/2γ (1)
ここで、νは光ファイバ中の光速、fB1,fB2は被測定光線路92のBFS、ΔfB1、ΔfB2は被測定光線路92のブリルアン利得帯域の半値半幅を示している。この場合、周波数掃引速度γを高くすることで空間分解能が向上する。
【0060】
(b-2-2)損失発生地点における空間分解能
ポンプパルス幅が広い場合には、損失を受けた後のブリルアン利得(所望のブリルアン利得)と接続損失を受ける前のブリルアン利得(クロストーク)の和が測定される。
【0061】
スプリッタなどの損失が大きい場合には、損失を受ける前のブリルアン利得(クロストーク)が所望のブリルアン利得に対して相対的に大きくなる。クロストークが大きい場合、空間分解能が劣化する。このクロストークは掃引速度に依存する。掃引速度が低い場合には、損失の上部側においてもブリルアン利得のピーク近傍を測定することになるため、クロストークが大きくなる。しかし、掃引速度を高く設定することで、損失の上部側においてブリルアン利得のピークから十分離れた利得を測定するため、クロストークを小さくすることができる。そのため、掃引速度を高く設定することで、空間分解能は向上する。
【0062】
(b-2-3)ポンプ光パルス内の周波数配置とクロストークの関係
クロストークの主成分となるブリルアン利得は、常に損失を受けた地点の手前側(光線路特性解析装置側)である。そのため、補償すべきBFS範囲を周波数掃引したポンプ光の時間的に後ろ側に配置する。これにより、損失下部側でのブリルアン利得を受ける範囲を、損失上部側でブリルアン利得を受ける範囲より広くすることができる。つまり、補償すべきBFS範囲をポンプ光の時間的に後ろ側に配置することで、クロストークを最小化することが可能である。
【0063】
以上より、感度と空間分解能はトレードオフであり、所望の分解能を満足する最小のγが最適であるといえる。
【0064】
(c)被測定光線路92の線路損失の測定
プローブ光とポンプ光との周波数差がfである場合、プローブ光パルスとポンプ光パルスとがインタラクションすると、プローブ光パルスは式(2)で表される増幅を受ける。
【数2】
ここで、gはブリルアン利得係数、z’は分岐光ファイバの入射端から、プローブ光パルスとポンプ光パルスとがインタラクションした位置までの距離である。α(z’)は、入射端からの位置z’のときの誘導ブリルアン利得である。gは、誘導ブリルアン散乱係数である。Ipump(z)は、分岐光ファイバの入射端から距離zだけ離れた位置におけるポンプ光パルスの強度である。νは光ファイバ中の光速、Δfは被測定光線路のブリルアン利得の半値半幅である。
【0065】
分岐光ファイバ(#i)の損失係数をα、分岐光ファイバ(#i)を往復する場合の全損失を2L、プローブ光パルスの入射パワーをIprobe(0)とすると、終端の反射型光フィルタ(#i)で反射された後、被測定光線路92の入射端から距離zの位置でポンプ光パルスと衝突したプローブ光パルスの、分岐光ファイバの入射端での強度Iprobe(2L,z)は、式(3)で表される。
【数3】
【0066】
式(3)より、分岐光ファイバの入射端でのプローブ光の強度Iprobe(2L,z)は、gとIpump(z)との関数となる。ここで、Ipump(z)は、ポンプ光パルスの入射パワーをIpump(0)とすると、式(4)で表される。
(数4)
pump(z)=Ipump(0)exp(-αz) (4)
【0067】
また、プローブ光のみを入射した場合に分岐光ファイバの入射端へ戻ってくる反射プローブ光強度Iref(2L)は、式(5)で表される。
(数5)
ref(2L)=Iprobe(0)・2L (5)
【0068】
よって、式(3)は、式(4)及び式(5)を用いると式(6)として表される。
【数6】
【0069】
式(6)より、誘導ブリルアン散乱光の利得は、インタラクションした場所までの損失と誘導ブリルアン散乱係数との積をブリルアンインタラクションした距離の幅で積分した値となる。ここで、誘導ブリルアン利得係数g(f)は有限の周波数帯域をもち、周波数方向に積分した値は定数である。そのため、広帯域プローブ光及び広帯域ポンプ光において、第2の条件及び第3の条件を満たす場合、常に誘導ブリルアン利得係数の周波数方向の積分値を取得できる。つまり、上記式(6)は、次式のみの関数となる。
【数6A】
【0070】
そこで、以下の演算を行うことで、ある地点zからの損失分布を取得することができる。
【数7】
よって、誘導ブリルアン散乱光の特性を解析すれば、ある地点zを基準にした被測定光線路92の線路損失を測定することができる。
【0071】
(d)分岐光ファイバの距離に対するブリルアン散乱光分布の測定
被測定光線路92の入射端から分岐光ファイバ(#a)(1≦a≦Nの整数、ここではN=8)の終端までの長さをLとする。プローブ光パルスは、分岐光ファイバ(#a)の終端に設置された反射型光フィルタ(#a)により反射される。ここで、分岐光ファイバの終端からの距離をl、被測定光線路92の屈折率をn、真空中の光速をcとすると、反射されたプローブ光パルスはt/2秒後にl=c/n×t/2だけ進むので、被測定光線路の入射端からの距離をlx1とすると、その距離lx1は次式で表される。
【数8】
【0072】
また、プローブ光パルスが被測定光線路92に入射されてから光スプリッタにより分岐され、分岐光ファイバの終端の反射型光フィルタ(#a)で反射されて、被測定光線路の入射端からの距離lx1に到達する時間tは次式で表される。
【数9】
【0073】
ポンプ光を被測定光線路92に入射する時刻は、プローブ光を入射してからt秒後とする。ポンプ光がt秒後に到達する被測定光線路92の入射端からの距離をlx2とすると、その距離lx2は式(10)で表される。
【数10】
【0074】
式(8)、式(10)より、c・t/2nの位置でプローブ光パルスとポンプ光パルスとはインタラクションする。また、インタラクションする時間は、分岐光ファイバの終端の反射型光フィルタ(#a)で反射された時間からt/2秒後である。つまり、プローブ光パルスとポンプ光パルスとを被測定光線路92に入射する時間差tを変化させることにより、プローブ光とポンプ光がインタラクションする位置を制御できる。このため、距離に対する誘導ブリルアン散乱の特性分布を求めることができる。
【0075】
(e)分岐光ファイバ(#a)で反射されたプローブ光パルスが光受信部18に到達する時間の測定
第4の条件を満たすとき、分岐光ファイバ(#1)~(#8)から戻ったプローブ光パルスは光スプリッタで重ならない。そのため、光受信部18の到達時間を測定することで、分岐光ファイバ(#1)~(#8)のうちどの分岐光ファイバから出力されたプローブ光パルスであるかを時間的に切り分けることができる。
【0076】
上記(a)~(e)により、光線路特性解析装置91は、BFSばらつきを補償し、デッドゾーンを減らした高感度な分岐光ファイバ個別の損失分布を測定可能である。
【0077】
以上より、本開示の光線路特性解析装置91は、
被測定光線路92のブリルアン周波数シフトの距離方向の周波数変化量以上の範囲で周波数掃引されたポンプ光を生成する第1の光周波数変調部11-1と、
該ポンプ光をパルス化することでポンプ光パルスを生成する第1の光パルス化部15-1と、
ポンプ光と周波数が異なるプローブ光を生成する第2の光周波数変調部11-2と、
該プローブ光を特許文献1記載の「条件4」を満たすようにパルス化することでプローブ光パルスを生成する第2の光パルス化部15-2と、
第1及び第2の光パルス化部におけるポンプ光パルス及びプローブ光パルスの発生タイミングを制御するタイミング調整部13と、
ポンプ光パルスとプローブ光パルスを合波して被測定光線路の基幹光線路に入射する光合波部と、基幹光線路から出射された戻り光を受光して電気信号に変換する光受信部18と、
ポンプ光パルス及びプローブ光パルスを発生させる時間差を変化させながら分岐光ファイバ23毎のブリルアン利得を測定することで各分岐光ファイバ23の損失分布を取得するブリルアン散乱信号解析部19Aと、
パルス幅の異なる2種類のポンプ光パルスを用いて測定した損失分布に基づいてクロストークの影響を除去した損失分布を算出する差動パルス解析部19Bと、
を備える。
【0078】
本開示によれば、光スプリッタ近傍の損失イベントを正確に測定することができる。
また、本開示は、分岐光ファイバ23の損失特性を個別に測定することができる。
また、本開示は、分岐光ファイバ23の距離方向でブリルアン周波数シフトが異なる場合であっても、試験光パルスの光周波数差を変化させることなく精密な損失特性を測定することができる。
【0079】
本発明の光線路特性解析装置91が備えるブリルアン散乱信号解析部19Aおよび差動パルス解析部19Bはコンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【符号の説明】
【0080】
11-1、11-2:光周波数変調部
12-1、12-2:光源
13:タイミング調整部
14-1、14-2:パルス発生器
15-1、15-2:光パルス化部
16:光合波器
17:光分岐部
18:光受信部
19:演算処理部
19A:ブリルアン散乱信号解析部
19B:差動パルス解析部
22:光スプリッタ
23:分岐光ファイバ
24:反射型光フィルタ
91:光線路特性解析装置
92:被測定光線路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17