(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006935
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】溶接検査装置および溶接検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/24 20060101AFI20250109BHJP
G01N 29/07 20060101ALI20250109BHJP
G01N 29/11 20060101ALI20250109BHJP
G01N 29/48 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/07
G01N29/11
G01N29/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107987
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新田 誠也
(72)【発明者】
【氏名】門田 圭二
(72)【発明者】
【氏名】浅井 知
(72)【発明者】
【氏名】野村 和史
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA06
2G047AB07
2G047BC02
2G047BC03
2G047BC09
2G047CA04
2G047EA10
2G047GD01
2G047GG20
2G047GG28
2G047GG30
2G047GG33
(57)【要約】
【課題】溶接部の内部欠陥の有無を精度よく判定する。
【解決手段】溶接検査装置は、送信用レーザ光を溶接部上の送信点に照射する送信用レーザ光照射装置と、送信用レーザ光によって発生されて母材上の受信点に到達する超音波を検出する検出装置(受信用レーザ源および受信用レーザ光プローブ)と、溶接部の内部欠陥の有無を判定する制御装置とを備える。制御装置は、検出装置による検出結果のうちから母材の下面で反射して受信点に到達した反射波の検出結果を抽出し、抽出された反射波の検出結果を用いて反射波が送信点から受信点に到達するまでの時間である反射波到達時間を算出し、算出された反射波到達時間が基準時間に対して遅れているか否かに基づいて溶接部の内部欠陥の有無を判定する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材に含まれる溶接部を検査する溶接検査装置であって、
送信用レーザ光を前記溶接部上の送信点に照射する第1照射装置と、
前記送信用レーザ光によって発生されて前記母材上の受信点に到達する超音波を検出する検出装置と、
前記溶接部の内部欠陥の有無を判定する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記検出装置による検出結果のうちから前記母材の下面で反射して前記受信点に到達した反射波の検出結果を抽出し、
抽出された前記反射波の検出結果を用いて前記反射波が前記送信点から前記受信点に到達するまでの時間である反射波到達時間を算出し、
算出された前記反射波到達時間が基準時間に対して遅れているか否かに基づいて前記溶接部の前記内部欠陥の有無を判定する、溶接検査装置。
【請求項2】
前記基準時間は、前記溶接部に前記内部欠陥が無い場合の前記反射波到達時間に相当する時間である、請求項1に記載の溶接検査装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
算出された前記反射波到達時間の前記基準時間に対する遅れ度合いを示す指標値を算出し、
算出された前記指標値がしきい値よりも大きい場合に前記内部欠陥が有ると判定する、請求項1に記載の溶接検査装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記基準時間および前記しきい値を予め記憶している、請求項3に記載の溶接検査装置。
【請求項5】
前記制御装置は、実験あるいは解析によって求められた前記基準時間および前記しきい値を外部から取得する、請求項3に記載の溶接検査装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記反射波到達時間が前記基準時間に対して遅れているか否かに加えて、抽出された前記反射波の減衰度に基づいて、前記内部欠陥の有無を判定する、請求項1~5のいずれかに記載の溶接検査装置。
【請求項7】
前記検出装置は、
超音波を検出するための受信用レーザ光を前記受信点に照射する第2照射装置と、
前記受信用レーザ光の反射光を干渉計測するレーザ干渉計とを含む、請求項1~5のいずれかに記載の溶接検査装置。
【請求項8】
母材に含まれる溶接部を検査する溶接検査方法であって、
送信用レーザ光を前記溶接部上の送信点に照射するステップと、
前記送信用レーザ光によって発生されて前記母材上の受信点に到達する超音波を検出するステップと、
前記超音波を検出するステップによる検出結果のうちから前記母材の下面で反射して前記受信点に到達した反射波の検出結果を抽出するステップと、
抽出された前記反射波の検出結果を用いて前記反射波が前記送信点から前記受信点に到達するまでの時間である反射波到達時間を算出するステップと、
算出された前記反射波到達時間が基準時間に対して遅れているか否かに基づいて前記溶接部の内部欠陥の有無を判定するステップとを含む、溶接検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、母材に含まれる溶接部を検査する溶接検査装置および溶接検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2023-20336号公報には、母材に含まれる溶接部を検査する溶接検査装置が開示されている。この溶接検査装置は、超音波を励起するための送信用レーザ光を溶接部上に照射する送信用レーザ照射装置と、送信用レーザ光によって励起されて母材上の受信点に到達する超音波を検出する検出装置と、溶接部の内部欠陥の有無を判定する制御装置とを備える。制御装置は、送信用レーザ光によって励起された超音波のうち、母材の下面(送信用レーザ光の照射面とは反対側の面)で反射して受信される下面反射波が溶接部の内部欠陥によって経路を遮られて強度が下がる現象を利用して、下面反射波強度の減衰度を算出し、算出された下面反射波強度の減衰度に基づいて溶接部の内部欠陥の有無を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
下面反射波強度の減衰度は検出装置によって検出される超音波信号の強度に依存するところ、超音波信号の強度は、内部欠陥以外の様々な要素(例えば、送信用レーザ光の照射面の性状、超音波信号を演算処理する際の電気的ノイズなど)の影響を受けて変動することが考えられる。そのため、上述の特開2023-20336号公報に開示された溶接検査装置のように下面反射波強度の減衰度に基づいて内部欠陥の有無を判定する場合には、内部欠陥の有無を誤判定してしまうおそれがある。
【0005】
それゆえに、本開示の目的は、溶接部の内部欠陥の有無を精度よく判定することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(第1項) 本開示による溶接検査装置は、母材に含まれる溶接部を検査する溶接検査装置であって、送信用レーザ光を溶接部上の送信点に照射する第1照射装置と、送信用レーザ光によって発生されて母材上の受信点に到達する超音波を検出する検出装置と、溶接部の内部欠陥の有無を判定する制御装置とを備える。制御装置は、検出装置による検出結果のうちから母材の下面で反射して受信点に到達した反射波の検出結果を抽出し、抽出された反射波の検出結果を用いて反射波が送信点から受信点に到達するまでの時間である反射波到達時間を算出し、算出された反射波到達時間が基準時間に対して遅れているか否かに基づいて溶接部の内部欠陥の有無を判定する。
【0007】
(第2項) 第1項に記載の溶接検査装置において、基準時間は、溶接部に内部欠陥が無い場合の反射波到達時間に相当する時間である。
【0008】
(第3項) 第1項に記載の溶接検査装置において、制御装置は、算出された反射波到達時間の基準時間に対する遅れ度合いを示す指標値を算出し、算出された指標値がしきい値よりも大きい場合に内部欠陥が有ると判定する。
【0009】
(第4項) 第3項に記載の溶接検査装置において、制御装置は、基準時間およびしきい値を予め記憶している。
【0010】
(第5項) 第3項に記載の溶接検査装置において、制御装置は、実験あるいは解析によって求められた基準時間およびしきい値を外部から取得する。
【0011】
(第6項) 第1~5項のいずれかに記載の溶接検査装置において、制御装置は、反射波到達時間が基準時間に対して遅れているか否かに加えて、抽出された反射波の減衰度に基づいて、内部欠陥の有無を判定する。
【0012】
(第7項) 第1~5項のいずれかに記載の溶接検査装置において、検出装置は、超音波を検出するための受信用レーザ光を受信点に照射する第2照射装置と、受信用レーザ光の反射光を干渉計測するレーザ干渉計とを含む。
【0013】
(第8項) 本開示による溶接検査方法は、母材に含まれる溶接部を検査する溶接検査方法であって、送信用レーザ光を溶接部上の送信点に照射するステップと、送信用レーザ光によって発生されて母材上の受信点に到達する超音波を検出するステップと、超音波を検出するステップによる検出結果のうちから母材の下面で反射して受信点に到達した反射波の検出結果を抽出するステップと、抽出された反射波の検出結果を用いて反射波が送信点から受信点に到達するまでの時間である反射波到達時間を算出するステップと、算出された反射波到達時間が基準時間に対して遅れているか否かに基づいて溶接部の内部欠陥の有無を判定するステップとを含む。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、溶接部の内部欠陥の有無を精度よく判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】溶接部に内部欠陥が無いときの状態を示す図である。
【
図3】溶接部に内部欠陥が無いときの超音波の送信位置と超音波到達時間との関係を示した図である。
【
図4】溶接部に内部欠陥が有るときの状態を示す図である。
【
図5】溶接部に内部欠陥が有るときの超音波の送信位置と超音波到達時間との関係を示した図である。
【
図6】制御装置の処理手順の一例を示すフローチャート(その1)である。
【
図7】超音波の送信位置と下面反射波の強度との関係を示した図である。
【
図8】制御装置の処理手順の一例を示すフローチャート(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0017】
図1は、本実施の形態による溶接検査装置1の構成を示す図である。
図1を参照して、溶接検査装置1は、送信用レーザ源10と、送信用レーザ光照射装置(第1照射装置)12と、受信用レーザ源16と、受信用レーザ光プローブ(第2照射装置)18と、制御装置22と、表示装置24とを備える。
【0018】
この溶接検査装置1は、例えば薄板状の母材2,4の重ね隅肉溶接における溶接部(溶接ビード)6の検査に用いられる。母材2,4は、例えば、板厚が1~2mm程度の亜鉛メッキ鋼板である。なお、図中、Y方向は、溶接進行方向(溶接ビードの延在方向)を示し、Z方向は母材2,4の法線方向を示し、X方向はY方向およびZ方向に直交する方向を示す。
【0019】
送信用レーザ源10は、送信用レーザ光照射装置12において送信用レーザ光14を生成するための励起光を生成し、送信用レーザ光照射装置12へ出力する。送信用レーザ源10は、例えばLD電源によって構成される。
【0020】
送信用レーザ光照射装置12は、送信用レーザ源10から励起光を受けてパルスレーザ光である送信用レーザ光14を発生し、検査対象の溶接部6に照射する。送信用レーザ光照射装置12は、例えばYAGパルスレーザ光を発生するマイクロチップレーザと、送信用レーザ光14の照射位置をX方向に走査可能な走査機構とを含んで構成される。走査機構は、例えば、角度を調整可能なガルバノミラーと、ガルバノミラーを駆動する駆動機構とを含んで構成される。
【0021】
受信用レーザ源16は、レーザ干渉計を含んで構成される。受信用レーザ源16は、下板の母材4へ照射する受信用レーザ光20(参照光)を発生し、受信用レーザ光プローブ18へ出力する。また、受信用レーザ源16は、母材4へ照射された受信用レーザ光20の母材4からの反射光を受信用レーザ光プローブ18から受け、参照光と反射光とを含む干渉光を検出して制御装置22へ出力する。
【0022】
受信用レーザ光プローブ18は、下板の母材4上の予め定められた受信点36へ受信用レーザ光20を照射する。また、受信用レーザ光プローブ18は、母材4に照射した受信用レーザ光20の母材4からの反射光を受光し、受信用レーザ源16(レーザ干渉計)へ出力する。
【0023】
この溶接検査装置1では、レーザ超音波法を用いて溶接部6の内部欠陥の検出を行なう。すなわち、検査対象の溶接部6に送信用レーザ光14を溶接部6上の送信点32に照射して検査対象の内部に超音波を発生させ、受信用レーザ光20が照射される母材4上の受信点36における超音波の強度に応じた表面振動を、受信用レーザ光20の参照光と反射光との干渉光により検出する。そして、溶接部6に内部欠陥が存在しない場合と存在する場合との検出差に基づいて、溶接部6の内部欠陥の有無が判定される。
【0024】
制御装置22は、CPU(Central Processing Unit)と、メモリ(RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory))と、各種信号を入出力するための入出力ポートとを含んで構成される(いずれも図示せず)。CPUは、ROMに格納されているプログラムをRAMに展開して実行する。ROMに格納されているプログラムには、制御装置22により実行される各種処理が記述されている。
【0025】
制御装置22は、送信用レーザ光照射装置12において送信用レーザ光14を生成するための励起光を発生するように送信用レーザ源10を制御する。また、制御装置22は、送信用レーザ光14の照射位置をX方向に走査するように送信用レーザ光照射装置12を制御する。また、制御装置22は、送信用レーザ光照射装置12における送信用レーザ光14の発振タイミング(パルス照射のタイミング)を送信用レーザ光照射装置12から受ける。
【0026】
そして、制御装置22は、受信用レーザ源16のレーザ干渉計による受信用レーザ光20の干渉計測結果を受信用レーザ源16から受け、母材4上の受信点36における超音波の検出信号に基づいて、溶接部6の内部欠陥の有無を判定する。溶接部6の内部欠陥の有無の判定方法については、後ほど詳しく説明する。
【0027】
表示装置24は、制御装置22の各種処理結果を表示するためのディスプレイである。表示装置24には、例えば、溶接検査装置1による検査対象内の超音波の計測結果を示す、B-scopeと称される計測画面が表示される。B-scopeは、溶接部6上における送信用レーザ光14の照射位置である送信点32のX方向の位置を横軸とし、送信用レーザ光14の照射によって送信点32で発生された超音波が母材4上の受信点36に到達するまでの時間(以下「超音波到達時間」とも称する)を縦軸として、受信点36に到達した超音波の強度の分布を表示したものである。制御装置22及び表示装置24は、例えばPC(Personal Computer)によって構成される。
【0028】
<溶接部の内部欠陥の有無の判定方法>
以下、溶接検査装置1による溶接部6の内部欠陥の有無の判定方法について詳しく説明する。
【0029】
図2~
図5は、溶接検査装置1による溶接部6の内部欠陥の検出原理を説明するための図である。
【0030】
図2は、溶接部6に内部欠陥が無いときの状態を示す図である。この溶接検査装置1では、溶接部6を含む領域に上方(Z方向)から送信用レーザ光14(パルスレーザ光)が照射され、送信点32に超音波を発生させる。送信点32で発生した超音波は、溶接部6を通過し、下側の母材4の下面5で反射した後、母材4上の受信点36に到達する。下面5で反射して受信点36に到達する超音波(以下「下面反射波」とも称する)により母材4上の受信点36に生じた微細振動を、受信用レーザ光20を用いて計測することによって受信点36における下面反射波を検出する。
【0031】
×印で示される送信点32は、送信用レーザ光照射装置12(
図1)の走査機構を用いてX方向に走査される。ある送信点32における測定が終了した後、送信用レーザ光14の照射位置が次の位置へ走査され、次の送信点32における測定が行なわれる。
【0032】
○印で示される受信点36は、母材4のX方向において固定される。送信点32と受信点36と間のX方向距離が大きいほど、送信点32から受信点36までの超音波の伝播距離が長くなり、拡散減衰によって受信点36での超音波の強度(表面の微細振動)も減少する。
【0033】
図3は、溶接部6に内部欠陥が無いときの、超音波の送信位置(送信点32のX方向の位置)と、超音波到達時間(送信点32で発生された超音波が受信点36に到達するまでの時間)との関係を示した図である。
図3において、横軸は超音波の送信位置を示し、値が大きいほど送信点32が受信点36から離れていることを示す。縦軸は超音波到達時間を示す。
【0034】
受信点36で検出される超音波には、上述の下面反射波以外にも、送信点32から溶接部6および母材4の表面層を通過して受信点36に到達する表面波が含まれる。下面反射波は表面波に比べて受信点36までの伝播経路が長いため、下面反射波の到達時間は表面波の到達時間よりも長くなる。この現象を利用することによって、受信点36で検出される超音波が、表面波であるのか、それとも下面反射波であるのかを区別することができる。
【0035】
なお、B-scopeは、
図3のグラフにおいて、線L1,L2について、超音波の送信位置毎に、受信点36における超音波の強度に応じて濃度を変化させて表示したものである。B-scopeでは、超音波の送信位置毎に、超音波到達時間と超音波強度とが1つの画面上に表示される。
【0036】
図4は、溶接部6にブローホール等の内部欠陥40が有るときの状態を示す図である。溶接部6にブローホール等の内部欠陥40が内在する場合、送信位置によっては、送信点32で発生した超音波が、内部欠陥40に経路を遮られて反射して受信点36に到達せずに散乱する散乱波成分41と、内部欠陥40を回折して進む回折波成分43とに分けられる。この場合、回折波成分43が母材4の下面5で反射して受信点36に到達することになるが、回折波成分43の伝播距離は、内部欠陥40が存在しない場合に比べて、回折する分だけ長くなる。その結果、内部欠陥40が存在しない場合の下面反射波の到達時間に相当する時間を「基準時間」とすると、回折波成分43の到達時間は基準時間に比べて遅れることになる。
【0037】
図5は、溶接部6にブローホール等の内部欠陥が有るときの、超音波の送信位置と超音波到達時間との関係を示した図である。溶接部6にブローホール等の内部欠陥が有る場合、送信位置に内部欠陥が存在する領域(上述の回折波成分43が受信点36に到達する領域)が含まれ、この領域では回折波成分43の到達時間が下面反射波の到達時間となるため、下面反射波の到達時間が基準時間よりも長くなってしまう。回折波成分43の到達時間の基準時間に対する遅れ時間は、
図5に示されるように、B-scope上では下面反射波の一部分だけ、基準時間よりも長時間側に移動した分布として確認される。
【0038】
このような現象に鑑み、本実施の形態による制御装置22は、受信点36での超音波の検出結果のうちから下面反射波の検出結果を抽出し、抽出された下面反射波の検出結果を用いて下面反射波の到達時間を算出し、算出された下面反射波の到達時間が基準時間に対して遅れているか否かを評価した結果に基づいて溶接部6の内部欠陥40の有無を判定する。
【0039】
図6は、本実施の形態による制御装置22の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0040】
制御装置22は、送信用レーザ光14を上述の送信点32に照射するように、送信用レーザ光照射装置12の走査機構を制御する(ステップS10)。1ライン分のX方向の走査における送信用レーザ光14の照射点数(送信点数)および照射位置(送信位置)は、予め決められている。送信用レーザ光を最初に照射する場合には、例えば、複数の送信点32のうちの、受信点36に最も近い位置に送信用レーザ光14を照射するように走査機構が制御される。
【0041】
次いで、制御装置22は、受信用レーザ光20が受信点36に照射されるように、受信用レーザ源16を制御する(ステップS15)。なお、受信点36のX方向の位置は、予め固定されている。受信用レーザ光20の照射は、送信用レーザ光14の照射前から照射されていてもよいし、送信用レーザ光14の照射開始と同時に開始されてもよい。
【0042】
そして、制御装置22は、受信用レーザ源16のレーザ干渉計を用いて、母材4へ照射された受信用レーザ光20の反射光と、母材4へ照射された受信用レーザ光20(参照光)との干渉を計測する(ステップS20)。
【0043】
次いで、制御装置22は、送信用レーザ光14の1ライン分の走査が完了したか否かを判定する(ステップS25)。具体的には、1ライン分のX方向の走査において予め定められた照射位置の全てにおいて計測が完了したか否かが判定される。
【0044】
1ライン分の走査が完了していない場合には(ステップS25においてNO)、制御装置22は、送信用レーザ光14の照射位置を次の位置に更新する(ステップS30)。その後、ステップS10へ処理が戻され、1ライン分の走査が完了するまでステップS10~S30の処理が繰り返される。
【0045】
1ライン分の走査が完了したと判定されると(ステップS25においてYES)、制御装置22は、B-scopeの作成及び波形処理を実行する(ステップS35)。具体的には、制御装置22は、ステップS10~S30の処理で得られた1ライン走査分の計測信号について、送信用レーザ光14のX方向の各照射位置(送信位置)と、受信用レーザ光20の照射位置(受信点)における超音波の到達時間及び強度との関係を示すB-scopeを作成する。
【0046】
次いで、制御装置22は、作成されたB-scopeから、下面反射波の信号を抽出する(ステップS40)。上述したように、B-scopeにおいて、下面反射波を表面波等と区別して容易に抽出可能である。この抽出作業は、制御装置22において自動で行なうことができる。
【0047】
次いで、制御装置22は、抽出された下面反射波の信号について、下面反射波の到達時間の基準時間に対する遅れ時間(以下、単に「下面反射波の遅れ時間」とも称する)を算出する(ステップS45)。基準時間は、上述したように、溶接部6に内部欠陥40が存在しない場合の下面反射波の到達時間に相当する時間である。
【0048】
本実施の形態において、基準時間は、事前の評価試験あるいは理論計算等によって送信位置毎に求められて制御装置22の内部メモリに予め記憶されている。制御装置22は、メモリに記憶されている基準時間を読み出し、下面反射波の到達時間と基準時間との差分を送信位置毎に算出し、下面反射波の到達時間と基準時間との差の最大値を下面反射波の遅れ時間として算出する。
【0049】
なお、基準時間は、必ずしも制御装置22の内部メモリに予め記憶されていることに限定されない。たとえば、制御装置22が、事前の試験あるいは解析によって送信位置毎に予め求められた基準時間を外部の機器から取得するようにしてもよい。
【0050】
次いで、制御装置22は、ステップS40で算出された下面反射波の遅れ時間がしきい時間よりも長いか否かを判定する(ステップS50)。しきい時間は、事前の評価試験あるいは理論計算等により、送信位置毎に内部欠陥の有無を区別可能な値に適宜設定される。しきい時間は、基準時間と同様、制御装置22の内部メモリに予め記憶されていてもよいし、外部の機器から取得されてもよい。そして、下面反射波の遅れ時間がしきい時間よりも長いと判定されると(ステップS50においてYES)、制御装置22は、溶接部6に内部欠陥が検出されたことを示す信号を表示装置24へ出力する(ステップS55)。
【0051】
以上のように、本実施の形態による制御装置22は、受信点36での超音波の検出結果のうちから下面反射波の検出信号を抽出し、抽出された下面反射波の検出信号を用いて下面反射波の到達時間を算出し、算出された下面反射波の到達時間が基準時間に対して遅れているか否かを評価した結果に基づいて溶接部6の内部欠陥40の有無を判定する。
【0052】
すなわち、本実施の形態による制御装置22は、下面反射波の強度の減衰度ではなく、下面反射波の遅れ時間に基づいて内部欠陥40の有無を判定する。そのため、下面反射波の強度が内部欠陥40の有無以外の要素(電気的ノイズなど)の影響を受けて変動したとしても、内部欠陥40の有無を精度よく判定することができる。
【0053】
<変形例1>
上述の実施の形態においては下面反射波の遅れ時間に基づいて内部欠陥40の有無を判定したが、内部欠陥40の有無の判定に用いられる物理量は、下面反射波の到達時間の基準時間に対する遅れ度合いを示す物理量であればよく、必ずしも「下面反射波の遅れ時間」に限定されるものではない。すなわち、制御装置22は、下面反射波の到達時間の基準時間に対する遅れ度合いを示す指標値を算出し、算出された指標値がしきい値よりも大きい場合に内部欠陥40が有ると判定するようにしてもよい。
【0054】
<変形例2>
上述の実施の形態においては下面反射波の遅れ時間に基づいて内部欠陥40の有無を判定したが、内部欠陥40の有無をより精度よく判定するために、下面反射波の遅れ時間に加えて、下面反射波の強度の減衰度に基づいて、内部欠陥40の有無を判定するようにしてもよい。
【0055】
図7は、超音波の送信位置と、下面反射波の強度との関係を示した図である。
図7において、横軸は超音波の送信位置(送信点32のX方向の位置)を示し、縦軸は受信点36における下面反射波の強度を示す。
【0056】
線L3は、溶接部6に内部欠陥が無い場合の下面反射波の強度を示す。下面反射波の強度は、超音波の送信位置の値が大きいほど((送信点32のX方向の位置が受信点36から離れるほど)、拡散減衰によって信号強度が減衰する。
【0057】
線L4は、溶接部6に内部欠陥(ブローホール等)が存在する場合の下面反射波の強度を示す。超音波の送信位置がX1よりも大きい位置では、溶接部6に内部欠陥が生じている。内部欠陥が生じている場合、上述の
図4で説明したように拡散減衰に加えて内部欠陥での散乱減衰も生じるため、受信点36における下面反射波の強度は、内部欠陥が無い場合(線L3)に比べて小さくなる。すなわち、内部欠陥が生じている場合の下面反射波の強度の減衰度は、内部欠陥が無い場合に比べて大きくなる。
【0058】
このような現象に鑑み、下面反射波の遅れ時間に加えて、下面反射波の強度の減衰度に基づいて、内部欠陥40の有無を判定するようにしてもよい。
【0059】
図8は、本変形例2による制御装置22の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図8のフローチャートは、上述の
図6のフローチャートのステップS45をステップS45Aに置き換え、さらにステップS52を追加したものである。
図8のフローチャートのその他のステップ(上述の
図6に示したステップと同じ番号を付しているステップ)については、既に説明したため詳細な説明はここでは繰り返さない。
【0060】
制御装置22は、抽出された下面反射波の信号について、上述の下面反射波の遅れ時間に加えて、下面反射波の強度の減衰度を算出する(ステップS45A)。具体的には、制御装置22は、送信位置に応じた超音波の強度の低下度合いを算出する。なお、制御装置22は、各送信位置において得られる計測信号に対して、信号強度のRMS(Root Mean Square)値を算出し、送信位置に応じた上記RMS値の低下度合いを算出しても良い。
【0061】
そして、制御装置22は、下面反射波の遅れ時間がしきい時間よりも長いと判定されると(ステップS50においてYES)、下面反射波の強度の減衰度がしきい値よりも大きいか否かを判定する(ステップS52)。このしきい値は、事前の評価試験等により、内部欠陥の有無を区別可能な値に適宜設定される。
【0062】
そして、制御装置22は、下面反射波の遅れ時間がしきい時間よりも長いと判定され(ステップS50においてYES)、かつ、下面反射波の強度の減衰度がしきい値よりも大きいと判定された場合(ステップS52においてYES)、制御装置22は、溶接部6に内部欠陥が検出されたことを示す信号を表示装置24へ出力する(ステップS55)。
【0063】
以上のように、このように下面反射波の遅れ時間と下面反射波の強度の減衰度との双方を用いて内部欠陥40の有無を判定することで、内部欠陥40の有無をより精度よく判定することができる。
【0064】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示により示される技術的範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0065】
1 溶接検査装置、2,4 母材、5 下面、6 溶接部、10 送信用レーザ源、12 送信用レーザ光照射装置、14 送信用レーザ光、16 受信用レーザ源、18 受信用レーザ光プローブ、20 受信用レーザ光、22 制御装置、24 表示装置、32 送信点、36 受信点、40 内部欠陥、41 散乱波成分、43 回折波成分。